(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049698
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】溶接方法および溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
B23K9/12 350B
B23K9/12 350D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156089
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】行實 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】眞田 拓郎
(57)【要約】
【課題】斜材同士を自動溶接できる溶接方法および溶接装置を提供する。
【解決手段】斜め方向に延びて深さ方向が水平方向になる開先4に、ワイヤ51(溶接材料)を溶融する溶接トーチ6を移動手段でウィービングさせながら、溶融したワイヤ51で斜め方向および鉛直方向に延びる金属層を形成して、金属層を深さ方向に積層する積層工程を有し、ウィービングは、金属層毎に、第1斜材2(第1部材)の端面に沿った上側に向かう方向に進む第1動作と、第1動作に続いて、第1斜材2の端面から第2斜材3(第2部材)の端面まで水平方向に進む第2動作と、第2動作に続いて、第2斜材3の端面に沿った上側に向かう方向に進む第3動作と、第3動作に続いて、第2斜材3の端面から第1斜材2の端面まで漸次下側に向かって進む第4動作と、をこの順に繰り返し行い、第1動作における溶接トーチ6の姿勢と、第3動作における溶接トーチの姿勢6と、を切り替える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに溶接される第1部材の端面と第2部材の端面との間に形成され、水平面に交差する斜め方向に延びて深さ方向が水平方向になる開先に、溶接材料を溶融する溶接トーチを移動手段でウィービングさせながら、溶融した前記溶接材料で前記斜め方向および鉛直方向に延びる金属層を形成して、前記金属層を前記深さ方向に積層する積層工程を有し、
前記ウィービングは、前記金属層毎に、
前記第1部材の端面に沿った上側に向かう方向に進む第1動作と、
前記第1動作に続いて、前記第1部材の端面から前記第2部材の端面まで水平方向に進む第2動作と、
前記第2動作に続いて、前記第2部材の端面に沿った上側に向かう方向に進む第3動作と、
前記第3動作に続いて、前記第2部材の端面から前記第1部材の端面まで漸次下側に向かって進む第4動作と、をこの順に繰り返し行い、
前記第1動作における前記溶接トーチの姿勢と、前記第3動作における前記溶接トーチの姿勢と、を切り替える溶接方法。
【請求項2】
形成する前記金属層毎の上下方向の幅寸法を算定する金属層上下幅算定工程と、
前記金属層上下幅算定工程において算定された前記金属層の上下方向の幅寸法に応じて前記ウィービングの経路を決定するウィービング経路決定工程と、を有し、
前記積層工程では、前記ウィービング経路決定工程で決定された前記ウィービングの経路に沿ったウィービングを行う請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
溶接材料を溶融する溶接トーチと、
前記溶接トーチを移動させる移動手段と、
前記移動手段を制御する移動制御部と、
前記溶接トーチの姿勢を制御する姿勢制御部と、を有し、
前記移動制御部は、
互いに溶接される第1部材の端面と第2部材の端面との間に形成され、水平面に交差する斜め方向に延びて深さ方向が水平方向になる開先に、前記溶接トーチをウィービングさせながら、溶融した前記溶接材料で前記斜め方向および鉛直方向に延びる金属層を形成して、前記金属層を前記深さ方向に積層するように制御し、
前記ウィービングは、前記金属層毎に、
前記第1部材の端面に沿った上側に向かう方向に進む第1動作と、
前記第1動作に続いて、前記第1部材の端面から前記第2部材の端面まで水平方向に進む第2動作と、
前記第2動作に続いて、前記第2部材の端面に沿った上側に向かう方向に進む第3動作と、
前記第3動作に続いて、前記第2部材の端面から前記第1部材の端面まで漸次下側に向かって進む第4動作と、がこの順に繰り返し行われ、
前記姿勢制御部は、
前記第1動作における前記溶接トーチの姿勢および前記第3動作における前記溶接トーチの姿勢を制御する溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法および溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動溶接を行う溶接ロボットは、下向き溶接や横向き溶接を自動で行う装置であり、柱や梁の溶接が対象である(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-130557号公報
【特許文献2】特開2021-79444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
斜材同士を斜め方向に延びる開先を設けて溶接する際に横向き溶接とすると、重力の影響によってビードの形状が安定しないという問題がある。これにより、自動溶接を行う場合の、ビードの形状やビードを積層する方向の制御が困難である。このため、斜材同士の溶接に自動溶接を採用することが困難である。
【0005】
本発明は、斜材同士を自動溶接できる溶接方法および溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る溶接方法は、互いに溶接される第1部材の端面と第2部材の端面との間に形成され、水平面に交差する斜め方向に延びて深さ方向が水平方向になる開先に、溶接材料を溶融する溶接トーチを移動手段でウィービングさせながら、溶融した前記溶接材料で前記斜め方向および鉛直方向に延びる金属層を形成して、前記金属層を前記深さ方向に積層する積層工程を有し、前記ウィービングは、前記金属層毎に、前記第1部材の端面に沿った上側に向かう方向に進む第1動作と、前記第1動作に続いて、前記第1部材の端面から前記第2部材の端面まで水平方向に進む第2動作と、前記第2動作に続いて、前記第2部材の端面に沿った上側に向かう方向に進む第3動作と、前記第3動作に続いて、前記第2部材の端面から前記第1部材の端面まで漸次下側に向かって進む第4動作と、をこの順に繰り返し行い、前記第1動作における前記溶接トーチの姿勢と、前記第3動作における前記溶接トーチの姿勢と、を切り替える。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る溶接装置は、溶接材料を溶融する溶接トーチと、前記溶接トーチを移動させる移動手段と、前記移動手段を制御する移動制御部と、前記溶接トーチの姿勢を制御する姿勢制御部と、を有し、前記移動制御部は、互いに溶接される第1部材の端面と第2部材の端面との間に形成され、水平面に交差する斜め方向に延びて深さ方向が水平方向になる開先に、前記溶接トーチをウィービングさせながら、溶融した前記溶接材料で前記斜め方向および鉛直方向に延びる金属層を形成し、前記金属層を前記深さ方向に積層するように制御し、前記ウィービングは、前記金属層毎に、前記第1部材の端面に沿った上側に向かう方向に進む第1動作と、前記第1動作に続いて、前記第1部材の端面から前記第2部材の端面まで水平方向に進む第2動作と、前記第2動作に続いて、前記第2部材の端面に沿った上側に向かう方向に進む第3動作と、前記第3動作に続いて、前記第2部材の端面から前記第1部材の端面まで漸次下側に向かって進む第4動作と、がこの順に繰り返し行われ、前記姿勢制御部は、前記第1動作における前記溶接トーチの姿勢および前記第3動作における前記溶接トーチの姿勢を制御する。
【0008】
本発明では、溶接トーチの姿勢を切り替えつつ溶接トーチをウィービングさせながら金属層を形成することにより、開先が延びる方向に沿って高さのある鉛直方向に延びる金属層を安定した状態に形成できる。これにより、金属層(ビード)の形状が安定するため、金属層の形状や金属層を積層する方向の制御が可能となる。このため、開先が斜め方向に延びる斜材同士を自動溶接できる。
【0009】
また、本発明に係る溶接方法では、形成する前記金属層毎の上下方向の幅寸法を算定する金属層上下幅算定工程と、前記金属層上下幅算定工程において算定された前記金属層の上下方向の幅寸法に応じて前記ウィービングの経路を決定するウィービング経路決定工程と、を有し、前記積層工程では、前記ウィービング経路決定工程で決定された前記ウィービングの経路に沿ったウィービングを行うようにしてもよい。
【0010】
形成される金属層の上下方向の幅寸法に応じたウィービングの経路を決定できるため、金属層の形状をより安定させることができ、開先が斜め方向に延びる斜材同士を自動溶接できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、斜材同士を自動溶接できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】溶接された第1斜材および第2斜材を厚さ方向形見た図である。
【
図3】本実施形態による溶接方法の金属層の積層状態を示す図である。
【
図4】従来の溶接方法の金属層の積層状態を示す図である。
【
図5】第1動作を行う溶接トーチの姿勢を示す図である。
【
図6】第3動作を行う溶接トーチの姿勢を示す図である。
【
図9】溶接角度θの溶接トーチと第2端面との干渉の有無を検討する図である。
【
図10】溶接角度0°の溶接トーチを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による溶接方法および溶接装置について、
図1-
図10に基づいて説明する。
本実施形態による溶接方法は、
図1および
図2に示すようなブレースなどの2つの斜材2,3同士を自動溶接する方法である。2つの斜材2,3は、それぞれの端面21,31同士が溶接される。互いに溶接される2つの斜材2,3の端面21,31の間には、溝状の開先4が設けられ、溶接材料で形成された金属層5が積層される。開先4は、水平面に交差する斜め方向に延び、水平方向に開口している。開先4が延びる方向を第1斜め方向と表記する。第1斜め方向のうち、上に向かう側を上側、下に向かう側を下側と表記する。
【0014】
2つの斜材2,3は、それぞれ長尺の板状の部材である。2つの斜材2,3は、板面が鉛直面となり、第1斜め方向に直交する第2斜め方向に延びる向きに配置されている。2つの斜材2,3それぞれの板面が向く方向、すなわち2つの斜材2,3それぞれの厚さ方向は、開先4が開口する方向と同じ方向である。
2つの斜材2,3のうちの第1斜め方向の下側に配置される斜材を第1斜材2(第1部材)と表記し、上側に配置される斜材を第2斜材3(第2部材)と表記する。第1斜材2の第2斜材3と溶接される端面を第1端面21と表記する。第2斜材3の第1斜材2と溶接される端面を第2端面31と表記する。
【0015】
第1端面21は、第1斜材2の板面に直交する面である。第1端面21は、第1斜め方向に延びている。第2端面31は、第2斜材3の板面に対して斜めに交差する面である。第2端面31は、第2斜材3の厚さ方向の一方側の縁部よりも他方側の縁部が第2斜材3の第2斜め方向の中央側に配置される。第2端面は、第1斜め方向に延びている。
開先4は、第1斜材2および第2斜材3の厚さ方向の一方側から他方側に向かって高さ寸法(溝幅寸法)が広がっている。開先4は、第1斜材2および第2斜材3の厚さ方向の他方側に開口している。本実施形態では、開先4の厚さ方向の一方側には、開先4を厚さ方向一方側から覆う裏板41が設けられている。裏板41は、第1斜材2および第2斜材3に接合されている。
【0016】
図3に示すように、開先4には、厚さ方向の一方側から他方側、すなわち開先4の奥側から開口側に向かって溶接材料で形成された金属層5が積層される。金属層5は、その面が略厚さ方向を向き、略鉛直面となる層である。なお、従来の溶接方法では、
図4に示すように、厚さ方向の一方側から他方側に向かって漸次上側に向かう方向に金属層が積層されている。従来の溶接方法では、ビードの形状が不安定であり、重力の影響によって、層の厚さにバラつきが生じている。このため、従来の溶接方法では、自動溶接が困難である。
【0017】
図5および
図6に示すように、本実施形態による溶接方法で用いる溶接装置1は、溶接トーチ6と、溶接トーチ6を移動させる移動手段と、移動手段を制御する移動制御部と、溶接トーチ6の姿勢を制御する姿勢制御部と、を有する。溶接装置1は、自動溶接が可能である。
図5では、第1端面21に沿って溶接を行う溶接トーチ6を示している。
図6では、第2端面31に沿って溶接を行う溶接トーチ6を示している。
【0018】
溶接トーチ6は、先端でアーク放電を行い、供給されたワイヤ51を溶融する。ワイヤ51は、ノズル61の中央から軸線方向に直線状に吐出される。本実施形態の溶接トーチ6のノズル61の先端部分611の形状は、基端側から先端側に向かって先細りとなる円錐台状である。ノズル61の基端部分612の形状は、円柱状である。先端部分611と基端部分612との境界の角部をノズル角部613と表記する。
移動手段は、垂直多関節型ロボットなどである。移動手段は、溶接トーチ6の移動および姿勢の変更を可能である。移動手段は、溶接トーチ6をウィービングさせることが可能である。
【0019】
上記の溶接装置1を用いた本実施形態の溶接方法について説明する。
本実施形態の溶接方法では、溶接トーチ6をウィービングさせながら第1斜め方向の下側から上側に向かって移動させることによって金属層5を形成し、金属層5を開先4の深さ方向に積層する(積層工程)。ウィービングの経路7を
図7に示す。このように金属層5を形成することにより、鉛直方向および第1斜め方向に延びて面が略鉛直面となる金属層5を形成することができる。
【0020】
ウィービングは、以下の第1動作、第2動作、第3動作および第4動作を、この順に開先4の第1斜め方向の下側から上側に向かって繰り返して行う。ウィービングは、金属層5毎に行うため、開先4の深さ方向の移動は行わない。
図7では、第1動作の経路を符号「71」で示し、第2動作の経路を符号「72」で示し、第3動作の経路を符号「73」で示し、第4動作の経路を符号「74」で示す。
第1動作は、第1端面21に沿って、第1斜め方向の上側に向かって所定距離を進む動作である。第1動作で進む第1斜め方向に沿った距離を第1距離dx
1と表記する。第2動作は、第1端面21における第1動作の終了位置から第2端面31まで水平方向に進む動作である。第2動作は、第2端面31に達すると終了する。第3動作は、第2動作の終了位置から第2端面31に沿って、第1斜め方向の上側に向かって所定距離を進む動作である。第4動作は、第3動作の終了位置から第1端面まで漸次下側に向かう斜め方向に進む動作である。第4動作は、第1端面21に達すると終了する。第4動作の終了位置は、その前に行われた第1動作の最終位置よりも上側になる。第1動作の最終位置と第4動作の終了位置との第1斜め方向に沿った距離を第2距離dx
2と表記する。
第1動作、第2動作、第3動作および第4動作を繰り返し、1層の金属層5が形成されたら、その金属層5の厚さ方向の他方側に同様にして金属層5を形成する。
【0021】
上述しているように、開先4は、厚さ方向の一方側から他方側に向かって高さ寸法(溝幅寸法)が広がっている。このため、金属層5毎に、その高さ寸法が異なり、ウィービングの幅(高さ)も異なる。本実施形態の溶接方法では、形成する金属層5毎の上下方向の幅寸法を算定する金属層上下幅算定工程と、金属層上下幅算定工程によって金属層5の上下方向の幅寸法に応じてウィービングの経路7を決定するウィービング経路決定工程と、を行い、ウィービング経路決定工程で決定されたウィービングの経路7に沿ったウィービングを行う。
溶接装置1には、形成する金属層5毎の上下方向の幅寸法を算定する手段と、この手段によって算定された金属層5の上下方向の幅寸法に応じてウィービングの経路7を決定する手段と、が設けられている。
【0022】
金属層上下幅算定工程によって算定された金属層5の上下方向の幅寸法は、金属層5毎のウィービングの幅に相当する。金属層上下幅算定工程では、
図8を参照し、以下の式(1)よって金属層5のウィービングの幅を算定する。
【0023】
【0024】
gap:開先4の厚さ方向の一方側の端部の高さ寸法(mm)
angle:第2端面31を厚さ方向に直交する水平方向から見た際の傾斜角度(°)、開先角度
l0:第1斜材2および第2斜材3の厚さ寸法
ln:最後に積層された金属層5の厚さ方向の他方側の面から第1斜材2および第2斜材3の厚さ方向の他方側の端面までの距離(mm)、残り量
heightn:最後に積層された金属層5の第1端面21から第2端面31までの高さ寸法
ln、heightnの「n」は、既に積層されている金属層5の数、すなわち、パス数である。
【0025】
ウィービング経路決定工程では、上述した第1動作で進む第1斜め方向に沿った第1距離dx1および第1動作の最終位置と第4動作の終了位置との第1斜め方向に沿った第2距離dx2を算定することでウィービング経路を決定する。
ウィービング経路決定工程では、第1距離dx1および第2距離dx2を以下の式(2)から(5)を満たすように設定する。
【0026】
【0027】
ウィービング経路決定工程においては、
図7に示すように、第1動作の開始位置をP
1と示し、第2動作の開始位置(第1動作の終了位置)をP
2と示し、第3動作の開始位置(第2動作の終了位置)をP
3と示し、第4動作の開始位置(第3動作の終了位置)をP
4と示し、第4動作の終了位置(次の第1動作の開始位置)をP
5と示す。座標のx方向は、第1斜め方向であり、y方向は第2斜め方向である。第1距離dx
1は、P
1とP
2とを結ぶ距離、第2距離dx
2は、P
2とP
5とを結ぶ距離である。
上記の式(3)、(4)におけるhは、最後に積層された金属層5の第1端面21から第2端面31までのy方向(第2斜め方向)の寸法である。
【0028】
姿勢制御部は、溶接トーチ6の姿勢を以下のように制御する。
姿勢制御部は、第1動作の第1端面に沿った溶接を行う際の溶接トーチ6の姿勢を、溶接されるワイヤ51の先端が、第1端面21に到達するとともに、溶接トーチ6のノズル61の先端部分の側面62が第2端面31と接触する姿勢になるように制御する。
姿勢制御部は、第3動作の第2端面31に沿った溶接を行う際の溶接トーチ6の姿勢を、溶接されるワイヤ51の先端が、第2端面31に到達するとともに、溶接トーチ6のノズル61の先端部分の側面62が第2端面31と接触する姿勢になるように制御する。
【0029】
本実施形態では、第3動作の第2端面31に沿った溶接を行う際の溶接トーチ6と第2端面31との干渉の有無について
図9および
図10を参照し、以下のように検討する。
【0030】
検討では、
図9に示すような溶接トーチ6の角度が0°の場合における、溶接トーチ6におけるワイヤ51の先端位置をP
00、ノズル61の先端位置をP
01、ノズル61のノズル角部613の位置をP
02と示す。P
00、P
01、P
02の座標は、以下の式(6)、(7)、(8)に表される。座標のx方向は、開先4の深さ方向であり、y方向は、高さ方向である。
ワイヤ51の先端位置P
00からノズル61の先端位置P
01までの距離をl
1、ノズル61の先端位置P
01からノズル61のノズル角部613の位置P
02までの距離をl
2と示す。ノズル61の先端位置P
01の径をd
1、ノズル61のノズル角部613の位置P
02の径をd
2と示す。
【0031】
【0032】
図10に示すような溶接トーチ6の角度がθの場合における、ノズル61の先端位置をP
1、ノズル61のノズル角部613の位置をP
2と示す。P
1、P
2の座標は、以下のように表わされる。
【0033】
【0034】
このP1、P2を結ぶ直線f1および第2端面31の面に沿った直線f2は、以下の式(9)、(10)のように表される。ここでは、第2端面31の傾斜角度をαとする。開先4の厚さ方向の一方側の端部の高さ寸法をgapとする。
【0035】
【0036】
直線f1と直線f2とが平行および交点が開先4の外の場合は、溶接トーチ6と開先4とが干渉しない。
【0037】
本実施形態による溶接方法および溶接装置1では、溶接トーチ6の姿勢を切り替えつつ溶接トーチ6をウィービングさせながら金属層5を形成することにより、開先4が延びる方向に沿って高さのある鉛直方向に延びる金属層5を安定した状態に形成できる。これにより、金属層5(ビード)の形状が安定するため、金属層5の形状や金属層5を積層する方向の制御が可能となる。このため、開先4が斜め方向に延びる斜材同士を自動溶接できる。
【0038】
また、本実施形態による溶接方法では、形成する金属層5毎の上下方向の幅寸法を算定する金属層上下幅算定工程と、金属層上下幅算定工程によって算定された金属層5の上下方向の幅寸法に応じてウィービングの経路7を決定するウィービング経路決定工程と、を有し、積層工程では、ウィービング経路決定工程で決定されたウィービングの経路に沿ったウィービングを行う。
これにより、形成される金属層5の上下方向の幅寸法に応じたウィービングの経路7を決定できるため、金属層5の形状をより安定させることができ、開先が斜め方向に延びる斜材同士を自動溶接できる。
【0039】
以上、本発明による溶接方法および溶接装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、姿勢制御部は、第1動作の第1端面21に沿った溶接を行う際の溶接トーチ6の姿勢と第3動作の第2端面31に沿った溶接を行う際の溶接トーチ6の姿勢を上記以外の姿勢に制御してもよい。
【0040】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable DevelopmentGoals:SDGs)」がある。
本実施形態に係る溶接方法および溶接装置は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「9.産業と技術革新の基板をつくろう」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0041】
1 溶接装置
2 第1斜材(第1部材)
3 第2斜材(第2部材)
4 開先
5 金属層
6 溶接トーチ
7 ウィービングの経路
21,31 端面
51 ワイヤ