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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049701
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】中空糸膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20240403BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D71/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156092
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】太田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 欽司
(72)【発明者】
【氏名】大高 将徳
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA32
4D006HA12
4D006JA02B
4D006JA30A
4D006JA30B
4D006JA30C
4D006JB03
4D006JB06
4D006MA01
4D006MA33
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC28
4D006MC65
(57)【要約】
【課題】
中空糸の潰れ、変形が抑制できるとともに、膜厚を薄くすることができる中空糸膜を提供することにある。
【解決手段】
複数本の中空糸を長手方向に沿って引き揃え、固定部を介して互いに固定する。固定部は中空糸の長手方向に垂直な断面視において、中空糸の一面側に固定剤が付着した第1固定部と、隣り合う中空糸の間に固定剤が充填された第2固定部とで構成される。中空糸の他面側には固定剤が接触していない固定剤非接触領域を形成しても良い。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の中空糸で構成された中空糸膜であって、
該複数本の中空糸は長手方向に沿って引き揃えられ、該複数本の中空糸は固定部を介して互いに固定されているとともに、
該固定部は該長手方向に垂直な断面視において、該中空糸の一面側に固定剤が付着した第1固定部と、隣り合う該中空糸の間に固定剤が充填された第2固定部とで構成されていることを特徴とする中空糸膜。
【請求項2】
該固定部は、該中空糸の他面側に該固定剤が付着した第3固定部も形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の中空糸膜。
【請求項3】
該中空糸の他面側に該固定剤が接触していない、固定剤非接触領域が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の中空糸膜。
【請求項4】
該固定剤非接触領域は、該長手方向に垂直な断面視において、該中空糸の外周長の15%以上、70%以下の長さに渡って該中空糸の他面側に形成されていることを特徴とする、請求項3に記載の中空糸膜。
【請求項5】
該長手方向に垂直な断面視において、該中空糸の他面側の頂点に対して、該第2固定部の頂点が突出する高さが0.2mm以下であることを特徴とする、請求項4に記載の中空糸膜。
【請求項6】
該第2固定部は弾性体で形成されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項7】
該第2固定部は、引張強さが0.8MPa以上かつ、切断時伸びが100%以上の固定剤で形成されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項8】
隣り合う該中空糸の間隔は、該中空糸の外径の2分の1以上、3倍以下の範囲であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項9】
該固定部は、該長手方向に沿って間隔を設けて複数形成されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項10】
該中空糸はシリコーンゴムで形成されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項11】
シリコーンゴムで形成された複数本の中空糸で構成された中空糸膜であって、
該複数本の中空糸は長手方向に沿って引き揃えられ、該複数本の中空糸は該長手方向に沿って間隔を設けて複数形成された固定部を介して互いに固定されているとともに、
該固定部は該長手方向に垂直な断面視において、該中空糸の一面側に固定剤が付着した第1固定部と、隣り合う該中空糸の間に固定剤が充填された第2固定部とで構成されており、該第2固定部は弾性体で形成されていることを特徴とする中空糸膜。
【請求項12】
該中空糸の他面側に該固定剤が接触していない、固定剤非接触領域が形成されており、
該固定剤非接触領域は、該長手方向に垂直な断面視において、該中空糸の外周長の15%以上、70%以下の長さに渡って該中空糸の他面側に形成されていることを特徴とする、請求項11に記載の中空糸膜。
【請求項13】
隣り合う該中空糸の間隔は、該中空糸の外径の2分の1以上、3倍以下の範囲であることを特徴とする、請求項11または12に記載の中空糸膜。
【請求項14】
該第2固定部は、引張強さが0.8MPa以上かつ、切断時伸びが100%以上の固定剤で形成されていることを特徴とする、請求項11または12に記載の中空糸膜。
【請求項15】
隣り合う該中空糸の間隔は、該中空糸の外径の2分の1以上、3倍以下の範囲であることを特徴とする、請求項14に記載の中空糸膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱気モジュールなどに使用される、複数本の中空糸を一体化した中空糸膜に関するものである。
【0002】
半導体製造、食品工業、液体処理などの分野において、脱気、気液吸収、ろ過などの用途で、複数本の中空糸で構成された中空糸膜をケース内に収容した中空糸膜モジュールが使用されている。
【0003】
このような中空糸膜モジュールに使用される中空糸膜は複数本の中空糸を一体化したものが使用されることが多い。
【0004】
複数の中空糸膜を一体化した中空糸膜として、特許文献1、特許文献2に記載のものが存在する。特許文献1にはシリコーンゴム製の中空糸を緯糸、合成繊維糸を経糸として経編みした簾状の中空糸膜が開示されている。
【0005】
特許文献2には中空糸を横糸、少なくとも2本の糸を縦糸として、2本の糸を中空糸の間で交差させながら編み込んだ中空糸膜が開示されている。
【0006】
このような糸で編んだ態様の中空糸膜は、編み込む際の力による中空糸の変形、潰れや、糸が存在することによる膜厚の上昇といった課題が存在する。
【0007】
また、中空糸膜をケースへ充填する際も、中空糸の変形、潰れを起こさないよう慎重に取り扱う必要があり、取り扱い易さの面でも課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-10466号公報
【特許文献2】特開平9-103657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、中空糸の潰れ、変形が抑制できるとともに、膜厚を薄くすることができる中空糸膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、中空糸膜の構造を鋭意検討した結果、以下の構造を採用することで、中空糸の潰れ、変形が抑制できるとともに、膜厚を薄くすることができる中空糸膜を得るに至った。
【0011】
[1]複数本の中空糸で構成された中空糸膜であって、該複数本の中空糸は長手方向に沿って引き揃えられ、該複数本の中空糸は固定部を介して互いに固定されているとともに、該固定部は該長手方向に垂直な断面視において、該中空糸の一面側に固定剤が付着した第1固定部と、隣り合う該中空糸の間に固定剤が充填された第2固定部とで構成されていることを特徴とする中空糸膜。
【0012】
[2]該固定部は、該中空糸の他面側に該固定剤が付着した第3固定部も形成されていることを特徴とする、上記[1]に記載の中空糸膜。
【0013】
[3]該中空糸の他面側に該固定剤が接触していない、固定剤非接触領域が形成されていることを特徴とする、上記[1]に記載の中空糸膜。
【0014】
[4]該固定剤非接触領域は、該長手方向に垂直な断面視において、該中空糸の外周長の15%以上、70%以下の長さに渡って該中空糸の他面側に形成されていることを特徴とする、上記[3]に記載の中空糸膜。
【0015】
[5] 該長手方向に垂直な断面視において、該中空糸の他面側の頂点に対して、該第2固定部の頂点が突出する高さが0.2mm以下であることを特徴とする、上記[3]または[4]に記載の中空糸膜。
【0016】
[6]該第2固定部は弾性体で形成されていることを特徴とする、上記[1]~[5]のいずれかに記載の中空糸膜。
【0017】
[7]該第2固定部は、引張強さが0.8MPa以上かつ、切断時伸びが100%以上の固定剤で形成されていることを特徴とする、上記[1]~[6]のいずれかに記載の中空糸膜。
【0018】
[8]隣り合う該中空糸の間隔は、該中空糸の外径の2分の1以上、3倍以下の範囲であることを特徴とする、上記[1]~[7]のいずれかに記載の中空糸膜。
【0019】
[9]該固定部は、該長手方向に沿って間隔を設けて形成されていることを特徴とする、上記[1]~[8]のいずれかに記載の中空糸膜。
【0020】
[10]該中空糸はシリコーンゴムで形成されていることを特徴とする、上記[1]~[9]の何れかに記載の中空糸膜。
【発明の効果】
【0021】
本発明の中空糸膜は、以下に述べる優れた効果を有する。
【0022】
[1]より、糸を使用しなくても中空糸を一体化できるため、中空糸の潰れ、変形を抑制できる。
【0023】
[2]より、中空糸を強固に一体化することができ、中空糸膜1の強度向上に寄与する。
【0024】
[3]より、固定剤の量を必要十分な範囲に設定でき、膜厚を薄くすることができるとともに、中空糸の脱気効率の維持に寄与する。
【0025】
[4]より、中空糸と第2固定部との間に空間が形成されることで、中空糸膜を容易に丸めることができる。その結果、中空糸膜を丸めた際の外径を小さくでき、中空糸膜が充填されるモジュールの小型化に寄与する。
【0026】
[5]より、固定剤の量を必要十分な範囲に設定でき、膜厚を薄くすることができる。
【0027】
[6]より、第2固定部にある程度変形できる余地が生まれ、中空糸膜を容易に丸めることができる。
【0028】
[7]より、中空糸膜を取り扱う際、幅方向に力が掛かっても元の状態に復元されるため、中空糸膜の変形、破壊を抑制できる。
【0029】
[8]より、中空糸の間に一定の間隔があることで、中空糸膜を容易に丸めることができる。その結果、中空糸膜を丸めた際の外径を小さくでき、中空糸膜が充填されるモジュールの小型化に寄与する。
【0030】
[9]より、固定部を複数形成することで中空糸膜の形状が安定し、取り扱いが容易になる。
【0031】
[10]より、シリコーンゴムで形成された中空糸を使用することで、中空糸膜の脱気性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】中空糸膜の外観図である。
図2】固定部の断面図である
図3】第3固定部を形成した固定部の断面図である。
図4図2の中空糸膜を丸めた際の断面図である。
図5】第2固定部の突出状態を示す断面図である。
図6】固定部を斜めに設けた変形例である。
図7】固定部を互い違いに設けた変形例である。
図8】実施例と比較例の外観比較である。
図9】実施例と比較例の固定部の比較である。
図10】実施例と比較例の固定部の断面比較である。
図11】実施例と比較例の固定部における中空糸の変形状態の比較である。
図12】実施例と比較例の固定部における中空糸委の断面変形状態の比較である。
図13】実施例と比較例の変形試験後の比較である。
図14】実施例と比較例の丸めた状態の比較である。
図15】実施例と比較例の丸めた状態の断面比較である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の中空糸膜について、図面を参照しながら説明する。
【0034】
本発明の中空糸膜1は図1に示したように、長手方向に沿って引き揃えられた複数本の中空糸10と、中空糸10を互いに固定する固定部20とを有する。
【0035】
図2は、固定部20を中空糸10の長手方向に対して垂直な方向に断面視したもの(図1のA-A断面)であり、固定部20は中空糸10の一面側に固定剤が付着した第1固定部21と、隣り合う中空糸10の間に固定剤が充填された第2固定部22とで構成される。
【0036】
本発明の中空糸膜1は、上記のように固定部20を設けることで、糸を使用せずに複数本の中空糸10を一体化することができるため、中空糸10の潰れ、変形を抑制できる。
【0037】
通常、糸を使用して中空糸を一体化する際は、中空糸の外径より細いか、同程度の太さを有する糸を用いて中空糸を編み込む、もしくは織ることで中空糸を一体化するための保持力を与えることになる。
【0038】
この時、確実に一体化するために保持力を高めると、糸で中空糸を縛り上げた状態となり、中空糸に負荷が掛かる。特に糸が細径の場合は、中空糸の表面に対して局所的に強い負荷が掛かることになる。
【0039】
中空糸の表面に対して局所的に強い負荷が掛かると、その部分で中空糸が潰れてしまう恐れがある。また、潰れるまでに至らなくても、負荷によって中空糸に曲げ癖がついて変形してしまい、中空糸膜の形状が乱れて取り扱いが難しくなってしまう場合も存在する。
【0040】
加えて、中空糸の潰れ、変形が発生した箇所では中空糸内を流れる液体の流量、水圧などの変動が起こりやすく、液体の円滑な流通を妨げ、ひいては中空糸膜の性能低下に繋がる恐れがある。
【0041】
一方、本発明における固定部20を利用して中空糸10を一体化する手法は、糸のように中空糸10に局所的な負荷を与えることなく中空糸10を一体化できるため、中空糸10の潰れ、変形を抑制でき、中空糸膜1の取り扱い性の維持、液体の円滑な流通の維持、および中空糸膜1の性能維持に寄与する。
【0042】
固定部20を設ける際は、中空糸10の他面側に固定剤が接触していない固定剤非接触領域30を形成する態様(図2参照)と、中空糸10の一面側と同様に中空糸10の他面側にも固定剤が付着した第3固定部23を形成する態様(図3参照)とを選択することができる。
【0043】
第3固定部23を形成する場合は、固定部20において中空糸10の全周が固定剤に覆われるため、中空糸10を強固に一体化することができ、中空糸膜1の強度向上に寄与する。
【0044】
固定剤非接触領域30を形成する場合は、固定剤の量を必要十分な範囲に設定でき、膜厚を薄くすることができる。加えて、中空糸10の表面が露出する面積が増えるため、中空糸膜1の脱気効率の維持に寄与する。
【0045】
固定剤非接触領域30を形成する場合、中空糸10の長手方向に垂直な断面視において、中空糸10の外周長の15%以上、70%以下の長さとなるよう中空糸10の他面側に形成するのが好ましい。
【0046】
固定剤非接触領域30が形成される長さを上記のようにすることで、中空糸10の他面側の頂点と第2固定部22の頂点との間に空間が形成される。複数本の中空糸が一体化された中空糸膜を脱気モジュールのケース内に充填する際、中空糸膜を丸める、折りたたむなどしてケース内に充填するが、中空糸10の他面側の頂点と第2固定部22の頂点との間の空間は、図4に示すように中空糸膜1の一面側が内側になるよう中空糸膜1を丸める際の山折り部となる。
【0047】
中空糸10の他面側の頂点と第2固定部22の頂点との間の空間が山折り部となることで、中空糸膜1を容易かつ小径に丸めることができるため、中空糸膜1が充填されるケースの小型化に寄与する。
【0048】
また、固定剤非接触領域30を形成する場合は、中空糸10の長手方向に垂直な断面視において、中空糸10の他面側の頂点に対して、第2固定部22の頂点が突出する高さ(図5のa寸法)を0.2mm以下とするのが好ましい。
【0049】
このように第2固定部22を形成することで、中空糸膜1の膜厚を薄くすることができる。
【0050】
第1固定部21については、中空糸膜1の膜厚を薄くする観点では、その肉厚が5~50μmの範囲となるように形成するのが好ましいが、中空糸膜1の用途などに応じて適宜変更可能である。
【0051】
中空糸10を固定する固定剤としては弾性体が好ましく、特に第2固定部22が弾性体で形成されるのが好ましい。
【0052】
第2固定部22を弾性体で形成することで、第2固定部22にある程度変形できる余地が生まれ、中空糸膜1を容易に丸めることができる。
【0053】
加えて、第2固定部22が弾性体であることで、中空糸膜1の取り扱いの際に幅方向に引張る力を加えてしまい、中空糸10の間隔が広がってしまったとしても、第2固定部22が有する弾性によって元の形状に復元されるため、中空糸膜1の変形を抑制することができる。
【0054】
中空糸膜1の変形を抑制する観点では、第2固定部22に使用する固定剤として、引張強さ0.8MPa以上かつ、切断時伸びが100%以上のものを使用するのが好ましい。より好ましくは引張強さを1MPa以上、切断時伸びは130%以上とする。
【0055】
引張強さ0.8MPa以上かつ、切断時伸びが100%以上の固定剤を使用することで、中空糸膜1の取り扱いの際に幅方向に引張る力を加えてしまっても、通常の取り扱い時に意図せず加えてしまう程度の力であれば固定部20が弾性変形する程度に留まり、力が解除されると元の状態に復元されるため、中空糸膜1の変形、破損の抑制に寄与する。
【0056】
隣り合う中空糸10の間隔については、中空糸10の外径の2分の1以上、3倍以下とするのが好ましい。
【0057】
中空糸10の間にある程度の間隔を設けることで、中空糸膜1を容易に丸めることができる。また、必要以上に間隔を開けないことで、中空糸10の間隔が疎にならず、脱気モジュールのケースに充填した際の充填率を高めることができる。
【0058】
本発明の中空糸膜1における固定部20は、図1に示したように中空糸10の長手方向に沿って間隔を設けて複数形成することで、中空糸膜1の形状が安定し、取り扱いが容易になる。
【0059】
固定部20を設ける間隔は特に限定されず、中空糸膜1の用途などに応じて適宜設定すれば良い。通常は10mm前後に設定される。
【0060】
本発明に使用される中空糸10の材料は、ふっ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロプレン、シリコーンゴムなど、中空糸の材料として一般的に使用されている材料の中から中空糸膜1の用途などに応じて適宜選択して利用することができる。
【0061】
本発明においては、中空糸膜1の脱気性能を確保する観点、および固定部20との間の剥離強度を高める観点から、シリコーンゴムが特に好ましい材料として利用することができる。
【0062】
シリコーンゴムは中空糸に使用される材料の中で特に高いガス透過係数を有し、中空糸膜1を脱気用途に使用する場合に高い脱気性能を示すことができる。
【0063】
中空糸10は、本発明においては内径0.1~0.5mm程度、外径0.2~1mm程度のものが使用される。
【0064】
本発明の中空糸膜1は、複数本の中空糸10を引き揃え、中空糸10の幅方向に沿う形で所定の場所に液状の固定剤を塗布し、硬化させることで得られる。
【0065】
中空糸10を固定する固定剤としては、第1固定部21、第2固定部22とも同じ固定剤を使用すれば良く、中空糸10の一面側に塗布された固定剤が第1固定部21、中空糸10の間の隙間に入った固定剤が第2固定部22となる。
【0066】
第3固定部23も形成する場合は、第1固定部21、第2固定部22を形成した後、
他面側に同じ固定剤を塗布すれば良い。
【0067】
固定剤としては液状シリコーンゴムが好ましく利用できる。液状シリコーンゴムは流動性を有するため、中空糸10の一面側に塗布した際に一定量が中空糸10の間に流れ込むため、第1固定部21と第2固定部22を同時に形成することができるとともに、一定の粘性も有するため必要以上に流れ込まず、非接触領域30の形成も行うことができる。
【0068】
加えて、硬化後に弾性を示すとともに、中空糸10が同種の材料であるシリコーンゴム製である場合は中空糸10と強固に接合し、中空糸10と固定部20との剥離強度を高めることができる。
【0069】
通常、固定部20は図1に示したように、中空糸10の長手方向に対して直交するよう一直線状に形成すれば良いが、この態様に限定されず、図6のように中空糸10の長手方向に対して斜めに形成した態様や、図7のように分割して互い違いに形成した態様などにしても良い。
【0070】
固定部20の幅は中空糸膜1の用途などに応じて適宜設定すれば良いが、固定部20の強度と中空糸10の表面が露出する面積を確保する観点から、通常は1~5mm程度に設定される。
【0071】
また、固定部20の強度向上を目的として、必要に応じて固定部20に補強糸を添えてもよい。補強糸を添える際は、中空糸10に対する局所的な負荷が極力発生しないように添える。
【実施例0072】
以下、本発明の中空糸膜1について、実施例を挙げ、さらに具体的に説明するが、本発明の範囲について、これらに限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
中空糸10として、内径0.2mm、外径0.3mm、肉厚50μm、長さ120mmのシリコーンゴムチューブを使用する。
【0074】
固定剤として、液状シリコーンゴム接着剤を使用する。液状シリコーンゴム接着剤は引張強さが1.5MPa、切断時伸びが400%のものを使用した。
【0075】
整列治具を用い、上記のシリコーンチューブを幅が50mmになるよう、0.6mm間隔で互いに平行な状態に引き揃えて仮固定を行った。
【0076】
剥離シート上に液状シリコーンゴム接着剤を10mm間隔で一直線状に所定本数塗布し、塗布した接着剤に対しシリコーンチューブの長さ方向が直交するよう、剥離シート上に仮固定を行ったシリコーンチューブ群を貼り付けた。
【0077】
所定時間放置して液状シリコーンゴム接着剤の硬化を行い、固定部20の形成を完了させる。硬化完了後、剥離シートを剥がして実施例1の中空糸膜1が完成した。
【0078】
完成した中空糸膜1から固定部20を任意に選択して長手方向に垂直な断面を観察し、以下の状態であることを確認した。
【0079】
・第1固定部21の厚さ:15~20μm
・固定材非接触領域30:中空糸10の外周長の30~50%の範囲内
・第2固定部頂点の突出量:固定材非接触領域30からの突出は無し
【0080】
[比較例]
比較例として、実施例1で使用したシリコーンゴムチューブを、特許文献2に記載の方法に倣って糸を用いて一体化した中空糸膜1’を作成した。
【0081】
糸として84dtxのポリエステル糸を使用して特許文献2に従い、2本のポリエステル糸をシリコーンゴムチューブの間で交差させながら編み込んで比較例の中空糸膜1’を作成した。
【0082】
比較例におけるシリコーンチューブの間隔、実施例1の固定部20に相当する糸編み部の間隔は、実施例1と略同じになるように設定した。
【0083】
以上のように作成した実施例、比較例の中空糸膜を以下の方法で比較した。
【0084】
[1.外観比較]
図8に作成した中空糸膜の外観写真を示す。実施例1の中空糸膜1は、中空糸10の平行状態、間隔が概ね一定に保たれているが、比較例では中空糸の間隔は不均一で、所々で中空糸が交差するなどして平行状態が保たれおらず、実施例1の方が良好な外観を有すると評価できる。
【0085】
[2.固定部外観比較]
図9に作成した中空糸膜の固定部の拡大写真を示す。実施例1の中空糸膜1は、固定部20に対して中空糸10が概ね直交している。比較例では固定部に対して傾いている中空糸が存在し、このような中空糸の傾きが中空糸膜全体の外観に影響を与えていると考えられる。
【0086】
[3.固定部断面比較]
図10に作成した中空糸膜の固定部の断面写真を示す。実施例1の中空糸膜1は、固定部20において中空糸10の底面、頂点が概ね一直線状の整った断面状態になっている。比較例では固定部において写真上側を向く中空糸と写真下側を向く中空糸が交互に現れ、実施例1と比べて乱れた断面状態となっている。
【0087】
[4.中空糸変形状態比較]
続いて、固定部における中空糸の変形状態を比較する。図11に固定部における中空糸の外観、図12に固定部における中空糸の断面を示す。図11、12において比較例の写真は糸を外した状態で観察した。
【0088】
実施例1では固定部20において中空糸10の明らかな変形は観察されず、断面視においても円形が保たれている。一方、比較例では糸が存在した部分で中空糸の外周面に凹みが発生し、固定部付近で長手方向が略S字状に変形している。加えて、断面視においても扁平状に変形しており、糸による潰れが発生している。
【0089】
[5.変形試験]
続いて、中空糸膜を幅方向に引張った際の変形の様子を比較する。作成した中空糸膜の一部を試験サンプルとして切り出し、幅方向の上下端を保持部材で固定して元の幅の150%の幅まで広がるよう幅方向に引張り、引張りを解除した後の写真を図13に示す。
【0090】
実施例1では部分的な中空糸10の間隔の乱れ、変形は起きたものの、中空糸膜1全体を見た場合では目立った変形はなく、概ね試験前の状態に回復した。一方、比較例では、試験によって発生した乱れ、変形は回復せず、外観は試験前よりも悪化した。
【0091】
[6.丸め試験] 接着剤塗布が外、無しが内
中空糸膜をモジュールのケースに収容する場合を想定し、中空糸膜を丸めた際の様子を比較する。実施例1の中空糸膜1を図14に示すように丸めた所、径方向に中空糸10が膨らむことなく概ね直線状に丸められ、端部の断面視は図15に示すようにリング状の整った断面となり、ケースへの充填作業が容易に行えると予想される。
【0092】
一方、比較例では、丸めた際に径方向に中空糸が膨らんで外径が増大し、端部では中空糸が放射状に広がり、端部の断面視も中空糸の配置に規則性が無い状態で、ケースへの充填作業に難があると予想される。
【0093】
以上の通り、本発明の中空糸膜1は中空糸10の変形が抑制され、外観、取り扱い性に優れた中空糸膜と評価できる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の中空糸膜は半導体製造、食品工業、液体処理などの分野において使用される、脱気モジュール、気液吸収装置、ろ過装置などに好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0095】
1 中空糸膜
10 中空糸
20 固定部
21 第1固定部
22 第2固定部
23 第3固定部
30 固定剤非接触領域
a 第2固定部の頂点突出高さ
図1
図2
図3
図4
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15