(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004971
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】水晶振動子用の水晶ウエハ
(51)【国際特許分類】
H03H 3/02 20060101AFI20240110BHJP
H03H 3/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H03H3/02 C
H03H3/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104904
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 肇
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 彩香
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB02
5J108CC04
5J108KK05
5J108MM11
5J108MM14
5J108NA02
5J108NB06
(57)【要約】
【課題】多数の水晶振動片10aと、これらを連結しているフレーム10bと、水晶振動片それぞれからフレームに個別に引き出されていて水晶振動片の特性検査のための測定用電極10cと、を備え、水晶振動片の厚みtがフレームの厚みTより薄い水晶ウエハ10において、水晶振動片の特性検査を所望の通り行える構造を提供する。
【解決手段】各水晶振動片は、フレームに片持ち支持されている。フレームの表裏面の少なくとも一方の面の、水晶振動片それぞれに近接する領域に、底面11daが水晶振動片の主面10aaと面一になっている凹部10dを備え、かつ、測定用電極10cは凹部を含む領域に設けてある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子用の多数の水晶振動片と、これら水晶振動片を連結していて前記水晶振動片の厚さより厚みが厚いフレームと、前記水晶振動片それぞれから前記フレームに個別に引き出されていて前記水晶振動片の特性検査のための測定用電極と、を備える水晶ウエハにおいて、
前記フレームの表裏面の少なくとも一方の面の、前記水晶振動片それぞれに近接する領域に、底面が前記水晶振動片の主面と面一になっている凹部を備え、かつ、前記測定用電極は前記凹部を含む領域に設けてあることを特徴とする水晶ウエハ。
【請求項2】
前記水晶ウエハの、前記水晶振動片と前記フレームとの境界領域に設けられ前記水晶振動片を水晶ウエハから折り取るためのスリットと、このスリットの両端に前記水晶振動片及び前記フレームを連結している連結部と、を備え、前記測定用電極は前記連結部上に配線してあることを特徴とする請求項1に記載の水晶ウエハ。
【請求項3】
前記凹部を前記フレームの一方の面に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の水晶ウエハ。
【請求項4】
前記凹部を前記フレームの双方の面に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の水晶ウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子用の水晶振動片を多数備えた水晶ウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子の小型化が進むに従い、水晶振動子用の水晶振動片は、フォトリソグラフィ技術によって、ウエハの状態で製造されることが増えている。すなわち、所定のカットの水晶ウエハ素板に、フォトリソグラフィ技術及び成膜技術を用いて、水晶振動子用の水晶振動片を、典型的にはマトリクス状に、多数形成することが増えている。
【0003】
水晶振動子用の水晶振動片をマトリクス状に多数備えた水晶ウエハの従来例は、例えば、特許文献1、特許文献2等に記載されている。以下、特許文献2に開示された水晶ウエハに着目し、かつ、
図6を参照して、従来の水晶ウエハの概要について説明する。ここで、
図6(A)は、水晶振動子用の水晶振動片80aがフレーム80bに連結された状態で多数形成された水晶ウエハ80の平面図である。
図6(B)は、
図6(A)中の1個の水晶振動片80aおよびその近傍のフレーム80bに着目した拡大平面図である。
図6(C)は、
図6(B)中の破線P又は破線Qに沿う部分的な断面図である。
【0004】
水晶振動子を製造する場合、完成した水晶ウエハ80から各水晶振動片80aが、
図6(B)中の破線Rを境にして折り取られ、水晶振動子用の容器(図示せず)に実装されて、最終的な水晶振動子が製造される。ただし、水晶振動片80aの折り取りがされる前に、水晶ウエハ80の状態で、各水晶振動片80aの特性検査が行われることが多い。そのため、各水晶振動片80aからフレーム80bに、測定用電極80cを引き回してある。具体的には、水晶振動片80aの励振用電極80dから引出電極80eを経て測定用電極80cがフレーム80bに引き回してある。そして、測定用電極80cに、測定プローブ(図示せず)を当てて、目的の特性検査が行われる。
また、水晶ウエハ80から折り取られ個片化された水晶振動片80aは、引出電極80eの位置で水晶振動子用の容器(図示せず)に導電性接着剤等によって接続固定される。
【0005】
ところで、水晶振動片80aを多数備えた水晶ウエハの中には、厚み滑り振動で振動する水晶振動片を備えたものがある。厚み滑り振動する水晶振動片の場合、水晶振動片の周波数が高くなるに従い水晶振動片の振動領域の厚さは薄くなるので、振動領域の厚さが薄くなることによる水晶ウエハの破損等を軽減するために、フレームは水晶ウエハ素板のときの厚さT(
図6(C)参照)のままにし、水晶振動片80aの領域のみをフレーム80bの厚みより薄い、振動周波数に応じた厚さt(<T)にする構造が採られる場合がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-142909号公報
【特許文献2】特開2016-197778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水晶振動片の厚みがフレームの厚みより薄くされた構造を有した水晶ウエハ80の場合、以下に説明するような問題が生じることがある。
水晶振動子用の水晶振動片80aを多数備えた水晶ウエハ80では、ウエハ状態で特性検査ができるよう、上記したように、それぞれの水晶振動片80aから特性検査用の測定用電極80cを、フレーム80bに引き回す。しかし、フレーム80bと水晶振動片80aとの境界部分に、両者の厚みが違うことに起因する段差80f(
図6(C)参照)が生じる。しかも、この段差80fの稜線80faは、水晶の結晶性からナイフエッジ状になるため、測定用電極80dによるカバレージが難しく、段差80fの稜線80faの箇所で、測定用電極80cの断線が起きやすい。断線が起きると、フレーム80b上の測定用電極80cに測定用プローブを当てても目的の測定ができない。従って、水晶振動片80a自体は正常であっても不良と誤測定されてしまう。
この出願は上記の点に鑑みなされたものであり、従ってこの発明の目的は、水晶振動子用の水晶振動片を多数備えた水晶ウエハであって、水晶振動片の厚みがフレームの厚みより薄い水晶ウエハにおいて、ウエハ状態で水晶振動片の特性検査を所望の通り行える構造を有した水晶ウエハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的の達成を図るため、この発明によれば、水晶振動子用の多数の水晶振動片と、これら水晶振動片を連結していて水晶振動片の厚さより厚みが厚いフレームと、水晶振動片それぞれからフレームに個別に引き出されていて、水晶振動片の特性検査のための測定用電極と、を備える水晶ウエハにおいて、
フレームの表裏面の少なくとも一方の面の、水晶振動片それぞれに近接する領域に、底面が水晶振動片の主面と面一になっている凹部を備え、かつ、前記測定用電極は前記凹部を含む領域に設けてあることを特徴とする。
【0009】
この水晶ウエハの発明を実施するに当たり、水晶ウエハの、水晶振動片とフレームとの境界領域に設けられ水晶振動片を水晶ウエハから折り取るためのスリットと、このスリットの両端に水晶振動片及びフレームを連結している連結部と、を備え、前記測定用電極は前記連結部に配線してあることが好ましい。
この水晶ウエハの発明を実施するに当たり、前記凹部を前記フレームの一方の面に備えることが好ましい。
この水晶ウエハの発明を実施するに当たり、前記凹部を前記フレームの双方の面に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明の水晶ウエハによれば、フレームの所定領域に、底面が水晶振動片の主面と面一である凹部を備え、かつ、この凹部を含む領域に測定用電極を設けてあるので、測定用電極は水晶振動片からフレームの所定領域まで連続した平面に設けられたものになる。すなわち、測定用電極は水晶振動片から段差を経由することなくフレームに引き出される構造になる。従って、従来は水晶振動片とフレームとの境界の段差があったために生じるおそれがあった測定用電極の断線を、本発明では防止できる。さらに、測定用電極、引出電極及び励振用電極は面一の面に設けられる構造になるので、これら電極をパターニングする精度も向上する。
また、水晶ウエハの、水晶振動片とフレームとの境界領域に水晶振動片を水晶ウエハから折り取るためスリットを備え、かつ、このスリットの両端に水晶振動片とフレームとを連結している連結部を備える構成の場合、水晶振動片の水晶ウエハからの折り取りを良好に行えると共に、水晶振動片と凹部との境界領域の配線引き回しも良好に行えるので、好ましい。
また、凹部をフレームの表裏面の一方の面に設ける構成の場合、フレームの厚みが薄くなる箇所はフレームの一方の面の凹部を設けた部分のみで済むので、フレームの強度の低下を抑えることができるため、好ましい。
また、凹部をフレームの表裏面の双方の面に設ける構成の場合、測定用電極を形成する面が増えるので、測定用電極を形成する自由度が高まるので、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態の水晶ウエハ10の説明図である。
【
図2】第1の実施形態の水晶ウエハ10の、特に測定用電極の周辺部分の断面構造の説明図である。
【
図3】第1の実施形態の水晶ウエハ10から水晶振動片10aを個片化する工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明の水晶ウエハの実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0013】
1. 第1の実施形態の水晶ウエハ
図1及び
図2は、第1の実施形態の水晶ウエハ10の説明図である。特に、
図1(A)は、水晶ウエハ10の平面図である。
図1(B)は、
図1(A)中のM部分、すなわち2個の水晶振動片10aおよびその付近のフレーム10bの部分を拡大した平面図である。
図1(C)は、
図1(B)中のN部分、すなわち1個の水晶振動片10aとフレーム10bとの境界付近を拡大して示した斜視図である。また、
図2(A)は、
図1(C)中のP-P線に沿った断面図、
図2(B)は、
図1(C)中のQ-Q線に沿った断面図である。
【0014】
第1の実施形態の水晶ウエハ10は、平面形状が丸形のATカット水晶ウエハの例を示している。なお、
図1(A)に示した座標軸X,Y′、Z′は、それぞれATカットの水晶ウエハ10での水晶の結晶軸を示す。なお、ATカット水晶片自体の詳細は、例えば、文献:「水晶デバイスの解説と応用」。日本水晶デバイス工業会2002年3月第4版第7頁等に記載されているので、ここではその説明を省略する。
【0015】
第1の実施形態の水晶ウエハ10は、水晶振動子用の多数の水晶振動片10aと、これら水晶振動片10aを連結していて水晶振動片10aの厚さより厚みが厚いフレーム10bと、水晶振動片10aそれぞれからフレーム10bに個別に引き出されていて、水晶振動片10aの特性検査のための測定用電極10cと、を備えている。すなわち、各水晶振動片10aは、フレーム10bに、片持ち支持されており、かつ、各水晶振動片10aそれぞれからフレーム10bに測定用電極10cが引き出されている。
しかも、第1の実施形態の水晶ウエハ10は、フレーム10bの表裏面の一方の面の、水晶振動片10aそれぞれに近接する領域に、底面10daが水晶振動片10aの主面10aaと面一になる凹部10dを備えている(
図1(C)、
図2(A)、(B)参照)。そして、測定用電極10cは凹部10dを含む領域に設けてある。
なお、水晶振動片10aそれぞれは、表裏に設けた励振用電極10fと、それぞれの励振用電極10fから水晶振動片10aのフレーム10b側の端部に引き出した引出電極10gと、を備えている。そして、
図1(C)に示すように、水晶ウエハ10の裏面側の引出電極から、水晶ウエハ10の表面側の測定用電極への配線は、スリット10eaの内壁及びスリット10eaの両端の連結部10ebを介して、実施してある。
【0016】
ここで、フレーム10bの厚さは、Tとしてあり、水晶振動片10aの厚さは、t(<T)としてある。フレーム10b厚さTは、これに限らないが、例えば80~150μm程度である。水晶振動片10aの厚さtは、水晶振動片10aの周波数によって決まる厚さである。
また、凹部10dの平面形状は四角形状が好ましい。四角形状であると、特性検査時のプロービングが行い易いからである。また、凹部10dの面積は、測定プローブのプロービングに必要な面積としてある。例えば、
図1(C)に示したように、水晶のX軸に沿う方向の寸法をa、水晶のZ′軸に沿う寸法をbと表した場合、これに限られないが、寸法aは、例えば50~170μm、寸法bは、例えば100~500μmから選ばれた値が好ましい。
さらに、この実施形態の水晶ウエハ10は、水晶振動片10aとフレーム10bとの境界領域に、水晶振動片10aを水晶ウエハ10から折り取るためのスリット10eaを有し、かつ、スリット10eaの両側が水晶振動片10aとフレ―ム10bとを繋ぐ連結部10ebとなっている、折り取り部10eを備えている。従って、測定用電極10cは、厳密には、連結部10ebの箇所で、水晶振動片10a側の引出電極10gと面一の構造となっている。
【0017】
第1の実施形態の水晶ウエハ10の場合、ウエハ状態で特性検査をする際は、特性検査機のプローブ(図示せず)を、凹部10d内の測定用電極10cに当てて行う。測定用電極10cは、凹部10dの作用で、水晶振動片10aの主面10aaと面一の面上に存在するため、測定用電極10cでは、段差に起因する断線は生じることがないから、特性検査を正確に実施できる。
なお、この水晶ウエハ10から、水晶振動片10aを折り取る際は、
図3(A)、(B)に示したように、水晶振動片10aに所定の力を加えることで、スリット10eaを含む線Rに沿った領域で折り取ることで、目的の折り取りを容易に行える。
【0018】
2. 第2の実施形態
次に、第2の実施形態について説明する。
図4はその説明図であって、
図2(A)に対応する要部断面図である。
第1の実施形態第では、フレーム10bの表裏面のうち一方の面のみに凹部10dを設けていたのに対し、第2の実施形態の水晶ウエハ20の特徴は、フレーム10bの表裏面の双方に、凹部10dを設けた点である。ただし、
図4の例では、測定用電極10cは、フレーム10bの一方の凹部を含む領域にのみに設けある。なお、測定用電極10cは、フレーム10bの表裏の双方の凹部を含む領域に設けても良い。フレームの表裏に凹部を設けた場合、測定用電極を形成する面が増えるので、測定用電極を形成する自由度が高まるので、好ましい。
【0019】
3. 第3の実施形態
次に、第3の実施形態について説明する。
図5はその説明図であって、
図1(C)に対応する要部斜視図である。
第1の実施形態及び第2の実施形態では、1個の水晶振動片10aに対し、フレーム10bの一方の面に2個の凹部10dを設けていたのに対し、第3の実施形態の水晶ウエハ30では、フレーム10bの一方の面に1個の凹部10dを設け、この1個の凹部を含む領域に2つの測定用電極10cを設けたものである。
2つの測定用電極に対し、凹部10dを共通化したので、凹部を2個個別に設ける場合に比べ、凹部の平面積を拡張し易いので、好ましい。
【0020】
4. 他の実施形態
上述した実施形態では、測定用電極は凹部内に設けた例を示しているが、測定用電極は、凹部内から凹部周囲のフレーム上に及んで設けても良い。
また、水晶ウエハとしてATカット水晶ウエハを例示したが、水晶ウエハは、他のカットのもの、例えばZカットとか2回回転カットのものでも良い。また、水晶ウエハの平面形状は丸形に限られず四角形等、他の形状でも良い。
また、実施形態では、水晶振動片10aの引出電極10gを水晶の+X側とした例を示しているが、引出電極10gを-X側に引き出した場合でも良い。さらには、水晶振動片のZ′軸に沿う端部が支持部とされる水晶振動片を多数備える水晶ウエハに対しても、本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0021】
10:第1の実施形態の水晶ウエハ、 10a:水晶振動片、
10aa:水晶振動片の主面 10b:フレーム、
10c:測定用電極、 10d:凹部、
10da:凹部の底面 10e:折り取り部
10ea:スリット、 10eb:連結部、
10g:引出電極、 10f:励振用電極
20:第2の実施形態の水晶ウエハ、 30:第3の実施形態の水晶ウエハ