(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049717
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】洋上風力発電装置の基礎構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/32 20060101AFI20240403BHJP
E02D 27/52 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
E02D27/32 Z
E02D27/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156119
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】396002851
【氏名又は名称】中村物産有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓造
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046DA05
2D046DA61
(57)【要約】
【課題】
作業船と洋上風力発電装置とにおいて作業員および機材が安全かつ速やかに行き来することを可能とするとともに、無用に作業船の停泊期間が延びることを防止することが可能な洋上風力発電装置の基礎構造を提供する。
【解決手段】
タワー部220と風車部とを備える洋上風力発電装置200の基礎構造100は、タワー部220を直接または間接に支持する筒状本体10を備え、筒状本体10は、上端11が海面900またはその近傍に位置するとともに下端12が海底910に直接または間接に支持され、筒状本体10の上下方向2分の1の高さh1以上の位置において、筒状本体10の外周面を周方向に延在する拡径部20が設けられており、拡径部20は、筒状本体10の外周面から最も離れた先端部22から、筒状本体10の外周面側である基端側に向けて上下方向において測定される厚みが増大するよう構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タワー部と風車部とを備える洋上風力発電装置の基礎構造であって、
前記タワー部を直接または間接に支持する筒状本体を備え、
前記筒状本体は、上端が海面またはその近傍に位置するとともに下端が海底に直接または間接に支持され、
当該筒状本体の上下方向2分の1の高さ以上の位置において、当該筒状本体の外周面を周方向に延在する拡径部が設けられており、
前記拡径部は、前記筒状本体の外周面から最も離れた先端部から、前記筒状本体の外周面側である基端側に向けて上下方向において測定される厚みが増大していることを特徴とする洋上風力発電装置の基礎構造。
【請求項2】
前記拡径部の、前記筒状本体の外周面から最も離れた箇所を先端部とし、前記先端部から前記筒状本体に対し当該筒状本体の軸方向に直交する方向に伸長する線を基準線としたとき、
前記拡径部の外周面において、前記基準線より上側に位置する拡径部上面の面積は、前記基準線より下側に位置する拡径部下面の面積よりも小さい請求項1に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
【請求項3】
前記拡径部の、前記筒状本体の外周面から最も離れた箇所を先端部とし、前記先端部から前記筒状本体に対し当該筒状本体の軸方向に直交する方向に伸長する線を基準線としたとき、
前記拡径部の外周面において、前記基準線より上側に位置する拡径部上面および前記基準線より下側に位置する拡径部下面は、それぞれ外方向に凸の湾曲部分を有し、
前記拡径部上面における前記湾曲部分のR値が、前記拡径部下面における前記湾曲部分のR値よりも小さい請求項1に記載する洋上風力発電装置の基礎構造。
【請求項4】
前記筒状本体の上端と前記拡径部との間において、
前記筒状本体の外周面を周方向に延在する制水部が設けられており、
前記制水部は、当該制水部の取付位置における前記筒状本体の外径よりも大きい外径を有する所定高さのリングと、前記リングの内周面と当該内周面に対向する対向面との間を亘る区画壁を周方向に複数備え、
前記区画壁によって、前記リングの内周面と前記対向面との間のスペースが周方向に区画されてなる貫通路を複数備える請求項1に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
【請求項5】
前記リングは、前記リングの上端から前記リングの下端に向けて前記筒状本体側に下り傾斜している請求項4に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
【請求項6】
前記リングが、同心円状に複数設けられており、
内側の第一のリングと、前記第一のリングの外側において隣り合う第二のリングとを有し、
前記第一のリングの上端が前記第二のリングの上端よりも高く位置する請求項4に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
【請求項7】
上面視において、前記筒状本体の上端部を周回するフロート付きロープが海面に配置されている請求項1に記載の洋上風力発電の基礎構造。
【請求項8】
前記筒状本体の内部を前記タワー部を支持するモノパイルが貫通している請求項1~7のいずれか一項に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
【請求項9】
前記筒状本体の上端側に前記タワー部を結合するためのタワー結合部を備える請求項1~7のいずれか一項に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置の基礎構造に関し、詳しくは洋上において風力発電を行う洋上風力発電装置の海底設置式の基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化をはじめとする地球環境問題に関心が高まっている。これに対し、風力発電は、二酸化炭素などの環境汚染物質を排出せず、かつ無尽蔵な自然エネルギーを産生可能なため、開発および実施に対する期待が高まっている。
【0003】
従来、洋上風力発電装置は、洋上に浮かせアンカーで係留する浮体式、およびモノパイル基礎に代表される海底に設置して支持される海底設置式が主流である。
【0004】
浮体式の洋上風力発電装置の例としては、例えば特許文献1に示されるように浮体物の上部において風力発電装置のタワーが支持されるとともに、当該浮体物がアンカーで所定域に係留されるタイプが知られる。
しかしながら、浮体式の洋上風力発電装置は、アンカーで所定域に洋上風力発電装置を係留することができるものの、完全に設置姿勢が固定されるものではなく、また安全な固定方法として検証が不十分である。したがって、浮体式の基礎構造で係留された洋上風力発電装置に強風や波等が当たると、浮体物が揺れて発電装置自体も設置姿勢が変動する。そのため、洋上風力発電装置に設けられたブレードは風を完全には受け止められない場合がある。その結果、浮体式の洋上風力発電装置は、風量に対する発電量が低下し発電効率が悪くなるという問題があった。
【0005】
これに対し、海底設置式の洋上風力発電装置の例としては、例えば特許文献2に示されるように海底に打設された杭の上端と風力発電装置のタワー部の下端とが連結されて支持されるタイプが知られる。また特許文献3に示されるように、海面付近に存在する上端側にタワー結合部を有するとともに下端側が海底またはその近傍に位置する筒状本体を備えた海底設置式の基礎構造が知られる。
かかる海底設置式の基礎構造は、上述する浮体式の基礎構造に比べ、洋上風力発電装置の設置姿勢を安定させることができ、その結果、風量に対し良好な発電効率が示され得る点で望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-216273号公報
【特許文献2】特開2017-115373号公報
【特許文献3】特開2020-020209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、洋上に設置された風力発電装置によって発電を行う場合、定期的に装置の点検を行い、また不具合が生じた場合には修理等を行う必要がある。このような点検や修理を行う場合には、作業員および機材(以下、作業員等という場合がある)を乗せた作業船を風力発電装置の近傍に停泊させ、当該作業員等を風力発電装置に移動させる必要がある。
【0008】
上述するとおり、浮体式の洋上風力発電装置は設置姿勢が変動しやすい。そのため、作業船と浮体式の洋上風力発電装置とにおける作業員等の移動の際には、危険が伴う場合があった。
【0009】
これに対し、設置式の洋上風力発電装置は装置の設置姿勢が安定するため、浮体式の装置に比べて作業員等の移動の安全性が高いと考えられるものの、洋上風力発電装置における作業の実施に関し以下の問題があった。
即ち、洋上風力発電装置の風下側などの相対的に波高が低い領域に作業船を停泊させ、かつ波高が所定高さ以下(たとえば1m以下)である場合に、作業員等が作業船と風力発電装置との間を移動することを認めるとするルールを設ける等して対応することが一般的である。そのようなルールを設けずに波高が高い状態で作業員等を移動させることは非常に危険である。
【0010】
しかしながら、沖合は日常的に波高が高いことが多く、その上、モノパイルなど基礎構造に海水が衝突することでさらに波高が高くなる傾向にある。しかも、風力発電装置の基礎構造に対する海水の衝突による波高の増大は、海水が衝突した側である上流側で生じるだけでなく、上流側で発生した高い波が下流側に流れるため、結果として基礎構造の下流側でも波高が高くなる傾向にあり、作業船の停泊の領域として風下側を選択したとしても、実際には、波高が所定高さ以下になるまで、長時間、待機しなければならないという問題があった。
また作業船と洋上風力発電装置とにおいて作業員等を移動させるために望ましい波高となるまで、当該作業船を洋上風力発電装置の近傍に待機させることで、実質的な作業期間よりも作業船の停泊期間が長くなってしまう場合がある。また波高が低くなる見通しが立たない場合には作業着手を見合わせて一端作業船を引き揚げざるを得ない場合もある。洋上風力発電装置の作業船の運航には非常にコストがかかるところ、このように予定どおりに作業が進まない場合、作業船にかかる費用が増大するという問題があった。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、作業船と洋上風力発電装置とを作業員が安全かつ速やかに行き来し、また基材を安全に移動させることを可能とするとともに、無用に作業船の停泊期間が延びることを防止することが可能な洋上風力発電装置の基礎構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の洋上風力発電装置の基礎構造は、タワー部と風車部とを備える洋上風力発電装置の基礎構造であって、上記タワー部を直接または間接に支持する筒状本体を備え、上記筒状本体は、上端が海面またはその近傍に位置するとともに下端が海底に直接または間接に支持され、当該筒状本体の上下方向2分の1の高さ以上の位置において、当該筒状本体の外周面を周方向に延在する拡径部が設けられており、上記拡径部は、上記筒状本体の外周面から最も離れた先端部から、上記筒状本体の外周面側である基端側に向けて上下方向において測定される厚みが増大していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の洋上風力発電装置の基礎構造は、海底に設置された筒状本体により直接または間接に風力発電装置のタワー部を支持する海底設置型の基礎構造である。そのため、浮体式の基礎構造を採用した場合と比較して、風力発電装置の設置姿勢を良好に安定させることができる。また上記筒状本体には波除機能を発揮する拡径部が設けられており、当該拡径部によって基礎構造に衝突する波の衝撃を分散させ、洋上風力発電装置の風下側における波高を低減させることが可能である。
このように本発明によれば、洋上風力発電装置自体の揺れを抑えるとともに、洋上風力発電装置の風下側の波高が高くなることを防止する。そのため、本発明の基礎構造により指示された洋上風力発電装置の風下側に停泊した船と当該装置とにおいて、作業員等を安全かつ速やかに移動させることが可能であり、また波高が小さくなるまで作業船を待機させる期間を低減させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第一実施形態にかかる洋上風力発電装置の基礎構造の側面図である。
【
図2】
図2A~
図2Dは、本発明の第一実施形態の基礎構造における拡径部の変形例を説明する側面図である。
【
図3】
図3Aは、本発明の第一実施形態の基礎構造における制水部の側面図であり、
図3Bは、
図3AのIII-III端面図である。
【
図5】本発明の第二実施形態にかかる洋上風力発電装置の基礎構造の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について適宜図面を用いて説明する。図示する本発明の実施形態は、理解容易のために、特定の部材を全体において比較的大きく図示する場合、または小さく図示する場合などがあるが、いずれも本発明の各構成の寸法比率を何ら限定するものではない。
本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、1つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
本発明または本願明細書において、上下方向とは、海底に本発明の基礎構造を設置した際の上下方向を指す。また、また海底に設置された本発明および本発明に支持された風力発電装置に関し、風下側とは、風力発電装置を主体として風を受けた側とは反対側を指す。また海上付近における海流に関し、風力発電装置を主体として海水が当該風力発電装置に衝突する側を上流側とし、上流側の反対側を下流側という場合がある。
また本発明に関し最高位の海面とは、1年を通じて変化する平均海水面の最高位の海面を指し、最低位の海面とは1年を通じて変化する平均海水面の最低位の海面を指す。
また本発明に関し、「揺れ」という場合には、本発明に関連して発生する振動、揺動、震動等を含み、揺れ動く状態、震え動く状態のいずれも包含する。
尚、以下の説明では、適宜、洋上風力発電装置のことを単に風力発電装置と称呼し、本発明の洋上風力発電装置の基礎構造を単に本発明の基礎構造と称呼する場合がある。
【0016】
<第一実施形態>
以下に本発明の第一実施形態にかかる洋上風力発電装置200の基礎構造100について
図1から
図4を用いて説明する。
図1は、本発明の第一実施形態にかかる洋上風力発電装置200の基礎構造100の側面図である。
図2A~
図2Dは、基礎構造100における拡径部20の変形例の側面図である。
図3Aは、基礎構造100における制水部30の側面図であり、
図3Bは、
図3AのIII-III端面図である。
図4は、
図1に示す基礎構造100のIV-IV断面図である。
【0017】
図1に示すとおり、基礎構造100は、タワー部220と図示省略する風車部とを備える洋上風力発電装置200を支持する基礎構造である。ここでいう洋上風力発電装置200は、海底に設置されることが可能な洋上風力発電装置であればいずれの態様であっても
よい。
基礎構造100は、タワー部220を直接または間接に支持する筒状本体10を備える。本実施形態では具体的には、タワー部220は後述するモノパイル300に接合されて支持されており、筒状本体10はタワー部20を間接的に支持している。
筒状本体10は、上端11が海面900またはその近傍に位置するとともに下端12が海底910に直接または間接に支持されている。上端11は最低位の海面900より上方にあることが好ましく、最高位の海面900のよりも上方にあることがより好ましい。本実施形態では、筒状本体10の下端12は、海底910に接しており、筒状本体10は海底910に直接に設置され支持されている。
上述する筒状本体10の上下方向2分の1の高さh1以上の位置には、当該筒状本体10の外周面を周方向に連続して延在する拡径部20が設けられている。拡径部20は、拡径部20が取り付けられた位置における筒状本体20の外周面よりも外方向(つまり筒状本体10から離れる方向)に膨出した部位である。側面視において、この拡径部20は、筒状本体10の外周面から最も離れた側を先端部22から、筒状本体10の外周面側である基端側に向けて、上下方向において測定される厚みが増大している。即ち、拡径部20は、
図1で示すように、先端部22寄りの厚みt1よりも、相対的に基端側(筒状本体10の外周面側)寄りの厚みt2が大きくなるよう構成されている。
【0018】
上述する構成を備える本発明の基礎構造100は、筒状部10の軸方向に対し交差方向に流れる海水が拡径部20に衝突することにより、海水の流れを分散させることができる。
拡径部20が設けられていない場合には、筒状部10の外周面に海水が衝突し上流側の波高が高くなるとともに、高くなった波が下流側に流れるため、下流側でも波高が高くなる虞がある。
これに対し基礎構造100に設けられた拡径部20では、海水は、まず拡径部20の先端部22または外周面に衝突し、拡径部20の外周面に沿ってスムーズに上下方向に分散される。そのため、基礎構造100に対する海水の衝撃力が低減され、上流側において波高の増大を抑制することができ、結果として下流側ではさらに低い波高を実現し得る。このように拡径部20により海水を分散させて下流側の波高を小さく抑える本発明の効果を、波除効果と称呼する場合がある。
上述する波除効果によって、基礎構造100により支持された風力発電装置200の下流側に作業船を停泊させた場合、当該作業船と洋上風力発電装置とにおいて作業員等を安全かつ速やかに行き来させることを可能とする。
また、基礎構造100は、海底設置型の基礎構造であるため、浮体式の洋上風力発電装置に比べて揺れが生じにくく安定性に優れる。
以下に本実施形態の詳細についてさらに説明する。
【0019】
(洋上風力発電装置)
洋上風力発電装置200は、タワー部220と図示省略する風車部を備える。タワー部220は、洋上風力発電装置200の支持軸である。タワー部200の下端はモノパイル300に直接または間接に接続されて支持されている。
洋上風力発電装置200の規模に応じ、筒状本体10のスケールを調整することができるため、基礎構造100は、洋上風力発電装置200の規模を問わず実施可能である。例えば、本発明は、海底の地質または地層によらず、また海底の深度が30m以上100m以下の場合にも充分に対応することができ、また小型、中型、大型のいずれの洋上風力発電装置200にも対応することが可能である。
【0020】
本実施形態では、洋上風力発電装置200に設けられたタワー部220は、直接的にはモノパイル300にて支持されており、さらに間接的に筒状本体10によって支持されている。ここで、タワー部220が間接的に筒状本体10によって支持されるとは、洋上風力発電装置200の荷重の少なくとも一部が任意の構成(たとえばモノパイル300)を介して筒状本体10に伝達されることを意味する。
【0021】
モノパイル300は、洋上風力発電装置200を支持する一般的な杭基礎であり、本実施形態では筒状本体10の内部を貫通している。モノパイル300は、洋上風力発電装置200を安定して支持することができるが、海面から海底までの2分の1の高さ以上の位置において、モノパイル300に直接に後述する拡径部2が取り付けられた場合、杭基礎の重心位置が高くなり過ぎ、洋上風力発電装置200の揺れが増長され基礎として安定性に欠ける虞がある。これに対し、本実施形態では、筒状本体10の内部にモノパイル300を貫通させ、筒状本体10の外周面に拡径部20を設けることで、モノパイル300の安定性を欠くことなく、良好な波除効果を発揮することができる。
【0022】
(筒状本体)
筒状本体10は、タワー部220を直接または間接に支持する構造物である。上述するとおり本実施形態における筒状本体10はタワー部220を間接に支持する。本実施形態では、筒状本体10の上端11は、海面900またはその近傍に位置しており、最低位の海面900より上方にあることが好ましく、最高位の海面900のよりも上方にあることがより好ましい。より具体的には、上端11は、最低位の海面900より5m以上20m以下の高さに位置することが好ましく、8m以上15m以下の高さに位置することがより好ましい。上端11の高さ位置は、本発明が実施される海域の年間の潮位の変動などを勘案し適宜設計することができる。下端12は、海底910に接しており、上端11から下端12までの上下方向2分の1の高さh1より上方において、当該筒状本体10の外周面を周方向に延在する拡径部20が設けられている。
【0023】
筒状本体10は、両端が開口するとともに内部が中空の構造物である。本実施形態における筒状本体10は、横断面が円形である円筒形状である。ただし本発明において筒状本体10はこれに限定されず、横断面がたとえば楕円形、四角形、若しくはこれら以外の定型の形状、または不定形の形状のいずれかまたは組合せであってよい。海水の抵抗を受け難いという観点からは筒状本体10の横断面は円形であることが好ましい。
【0024】
筒状本体10は、上下方向において長軸の構造物であり、上端11から下端12まで横断面が同径となるよう構成されている。ただし、本発明において筒状本体はこれに限定されず、本発明の所期の目的を逸脱しない範囲において、上端11から下端12までにおける横断面の径は均一でなくてもよい。たとえば、たとえば後述する第二実施形態に示されるように、筒状本体10は、下方向に広がる錐形であってもよい。
尚、本実施形態では、筒状本体10の内部にモノパイル300を貫通可能とするため、筒状本体10の内径はモノパイル300の外径以上となるよう設計されており、貫通作業を行い易くするという観点からは、筒状本体10の内径はモノパイル300の外径を超える寸法であることが好ましい。
【0025】
筒状本体10を構成する部材は特に限定されないが、適度な重量があり、かつ長時間、海中に設置されても不具合のない部材が好ましく、たとえば鉄や鋼などが好適である。
【0026】
本実施形態では、筒状本体10の下端12から筒状本体10の上下方向中間部まで、筒状本体10とモノパイル300との間を埋める充填材340が配置されている。これによってモノパイル300を介して風力発電装置200の荷重の一部を筒状本体10に伝達させるとともに、モノパイル300および筒状本体10の揺れを互いに吸収させあい基礎構造100全体の安定性を向上させている。
充填材340は、筒状本体10とモノパイル300との間の隙間に充填可能な部材であればよく、たとえば、土砂、土嚢、発泡体、コンクリート等が挙げられる。モノパイル300の揺れまたは筒状本体10の揺れの一部を充填材340に吸収させるという観点からは充填材340として、土砂、土嚢または発泡体などの非剛性部材が選択されることが好ましい。特に洋上風力発電装置200は、海上の強い風を受けるためタワー部220が大きく揺れる。その揺れが、モノパイル300を介して海底や海水に伝達すると、当該洋上風力発電装置200の近傍の漁場を荒らす虞がある。これに対し、タワー部220の揺れに起因するモノパイル300の揺れを充填材340に吸収させることで、結果として海水や海底に対する揺れの伝達を抑制することができ、近傍の漁場の環境を良好に維持することが可能である。
【0027】
充填材340の充填方法は特に限定されない。たとえば充填方法の例として、海底910において筒状本体10を設置するととともにその内部にモノパイル300が貫通した状態とし、その後に、筒状本体10の上端11の開口から、筒状本体10の内周面とモノパイル300の外周面との間に形成された空間に充填剤340を落とし入れる方法が挙げられる。
【0028】
(拡径部)
拡径部20は、当該拡径部20が設けられた位置における筒状本体10の外径よりも大きい径を有する構造部である。
図1から理解されるとおり、拡径部20は、筒状本体10の中間部において水平方向に膨出した形状をなすとともに、筒状本体10の外周面から最も離れた箇所であり先端部22から筒状本体10の外周面に向かって、厚みが拡大するよう構成されている。
【0029】
上述する構成である拡径部20は、基礎構造100において波除効果を奏するための部位となる。本実施形態における拡径部20は、
図1で示すように、先端部22寄りの厚みt1よりも、相対的に基端側(筒状本体10の外周面側)寄りの厚みt2が大きくなるよう構成されており、基端側に向かう厚みの増大は連続的である。このように先端部22から基端に向かって拡径部20の外周面(拡径部上面S1および拡径部下面S2)が上斜め方向および下斜め方向に傾斜している。そのため、当該外周面に衝突した海水はスムーズに外周面に沿って流れるとともに上下に分散される。この結果、上流側の波高の増大が抑制され、下流側の波高をさらに小さくすることができる。
本発明によれば、海流の方向を把握し筒状本体10の下流側に作業船を停泊させることで、当該作業船の揺れを抑え、作業者が作業船と風力発電装置200との間を安全かつ速やかに行き来しやすい環境を提供することができる。
【0030】
本実施形態の拡径部20は、拡径部20の、筒状本体10の外周面から最も離れた箇所を先端部22とし、先端部22から筒状本体10に対し当該筒状本体10の軸方向に直交する方向に伸長する線を基準線24としたとき、基準線24を中心線として上下線対称となるよう構成されている。
ただし本発明における拡径部20の形状は、本実施形態に限定されず、先端部22寄りである厚みt1よりも相対的に筒状本体10側である厚みt2の方が大きいという条件を満たす範囲において適宜変更することができる。以下に
図2を用いて、拡径部20のいくつかの変形例を説明する。尚、拡径部20に関し、適宜、基準線24より上側に位置する拡径部20の上側の外周面を拡径部上面S1と称呼し、基準線24より下側に位置する拡径部の下側の外周面を拡径部下面S2と称呼する。
【0031】
図2Aに示す拡径部20(拡径部20A)は、
図1に示す拡径部20と同様に基準線24を中心線として上下が線対称となる形状をなし、先端部22の近傍は丸みを帯びた形状となっている。拡径部20Aの拡径部上面S1および拡径部下面S2は、それぞれ先端部22から筒状本体10側に向けて滑らかに湾曲している。拡径部20の厚みは基準線24を基準として上下均等に増大しており、拡径部上面S1の面積と拡径部下面S2の面積とが等しい。
図2Bは、側面視において、先端部22から筒状本体10に向けて拡径部20(拡径部20B)の外縁のラインが略直線となるよう構成されている。側面視において確認される拡径部20Bの外縁のラインは、基準線24より上のラインよりも基準線24より下のラインの方が長く、拡径部上面S1の面積は拡径部下面S2の面積より小さい。
図2Cに示す拡径部20(拡径部20C)は、拡径部上面S1において先端部22近傍および筒状本体10近傍を除く中間部が略平坦となるよう構成されている。換言すると側面視において、各径部上面S1の外縁中間部は基準線24と平行している。一方、拡径部下面S2は、先端部22から筒状本体10に向けて大きく湾曲しており、上下方向の厚みが連続的に増加している。拡径部下面S2の湾曲部分のR値は、拡径部上面S1の先端部22寄りに形成された湾曲部分のR値よりも大きい。拡径部20Cは、基準線24より上の厚みに対し、基準線24より下の厚みが大きくなるよう構成されており、拡径部上面S1の面積は拡径部下面S2の面積より小さい。
図2Dに示す拡径部20(拡径部20D)は、拡径部上面S1が拡径部20の外方向に凸の緩やかな湾曲面であるのに対し、拡径部下面S2が拡径部20の内方向に凸の湾曲面となっている。拡径部上面S1の湾曲面のR値(絶対値)は、拡径部下面S2の湾曲面のR値(絶対値)よりも小さく、拡径部上面S1の面積は拡径部下面S2の面積より小さい。
【0032】
上述するとおり拡径部20は種々の形状を採用し得るが、波除効果をより充分に発揮させるためには、たとえば
図2B~
図2Dに示される態様のように、拡径部20の外周面において、基準線24より上側に位置する拡径部上面S1の面積が、基準線24より下側に位置する拡径部下面S2の面積よりも小さいことが好ましい。かかる態様では、相対的に拡径部下面S2に接触した海水に対する抵抗を大きくすることによって、拡径部20に衝突した海水を上下方向に分離させるとともに、分離して上方側(つまり海水面側)を流れる海水の速度を、相対的に下面側において流れる海水の速度より早くすることができる。この結果、より海面900近くを流れる海水がスムーズに基礎構造100を流れ過ぎるため、基礎構造100の周辺の波高が増大することを効果的に抑制することができる。
【0033】
また別の観点からいえば、拡径部20の外周面において、拡径部上面S1および拡径部下面S2が、
図2Cに示すとおり、先端部22から筒状本体10に向けてそれぞれ外方向に凸の湾曲部分を有し、拡径部上面S1における湾曲部分のR値が、拡径部下面S2における湾曲部分のR値よりも小さくなるよう構成されることが好ましい。ここでいうR値とは、拡径部上面S1および拡径部下面S2それぞれで示される湾曲部分の弧の半径を指す。
かかる構成の拡径部20であれば、より良好な波除効果が期待される。
【0034】
拡径部20は、筒状本体10と一体成形されていてもよいし、筒状本体10の所定の箇所に、別途作製された拡径部20が溶接などで取り付けられてもよい。拡径部20を構成する部材は特に限定されないが、上述する筒状本体10と同様の部材から選択することができる。また拡径部20の寸法は特に限定されず、風力発電装置200の規模や、筒状本体10の外径などを考慮して適宜設計することができる。
【0035】
上述するととり拡径部20は、その外周面に衝突した海水を多方向に分散させるためのものであり、内部は中実であっても中空であってもよい。内部が中実である拡径部20は、筒状本体10との一体性に優れる点で好ましく、内部が中空である拡径部20は、拡径部20の荷重を支えること自体が筒状本体10の負担になることを回避することができる点で好ましい。
【0036】
拡径部20の設置により波除効果が有意に発揮されるよう、拡径部20は、筒状本体10の上下方向2分の1の高さh1以上の位置に取り付けられる。より望ましくは、拡径部20全体が最低位の海面900より下方に位置する。より具体的には、拡径部20の上端と最低位の海面900との距離が0mを超えて8m以下であることが好ましく、0mを超えて5m以下であることがより好ましく、0mを超えて3m以下であることがさらに好ましく、0mを超えて1m以下であることがさらに好ましい。拡径部20の上端の高さ位置は、本実施形態のように海面900と拡径部20との間に後述する制水部30が設けられる場合には、制水部30全体が最低位の海面900より下方に位置する範囲で調整される。尚、ここでいう拡径部20の上端とは、拡径部20の拡径部上面S1と筒状本体10の境界部分であって、筒状本体10の径よりも大きくなる始める位置を指している。
【0037】
(制水部)
次に制水部30について説明する。本実施形態では筒状本体10の周囲の波高をより効果的に低減させるために制水部30が設けられている。
制水部30は、
図1に示すとおり、筒状本体10の上端11と拡径部20との間において、筒状本体10の外周面を周方向に延在するよう設けられている。制水部30全体が最低位の海面900よりも下方に配置されていることが好ましい。本実施形態における制水部30は、筒状本体10の外周面を周方向に連続して設けられている。
図3において制水部30を拡大して示す。
【0038】
図3Aに示すとおり、制水部30は、当該制水部30の取付位置における筒状本体10の外径よりも大きい外径を有する所定高さのリング32を有している。リング32は1つであってもよいが、同心円状に複数設けることもできる。本実施形態では、リング32として、中心側に位置する第一のリング32Aおよびこの第一のリング32Aの外側において隣り合う第二のリング32Bとを有している。このように複数のリング32が設けられることで後述する制水効果がより顕著に発揮されうる。
【0039】
制水部30は、
図3Bに示すとおり、リング32の内周面34と当該内周面34に対向する対向面36との間において、これらを亘る複数の区画壁38が設けられている。2つのリング32を備える本実施形態では、第一のリング32Aの内周面34Aとこれに対向する対向面36A(筒状本体10の外周面)との間を亘る区画壁38Aが周方向に複数設けられているとともに、第二のリング32Bの内周面34Bとこれに対向する対向面36B(第一のリング32の外周面)との間を亘る区画壁38Bが周方向に複数設けられている。区画壁38は、リング32の高さ方向に沿って延在する所定の寸法に成形された板状体である。区画壁38の高さ寸法は、特に限定されないが、良好な制水効果を発揮するという観点からは区画壁38の高さ寸法は、リング32の高さの50%以上100%以下であることが好ましい。またリング32の高さ以下の高さ寸法である区画壁38は、側面視において、リング32の上端または下端から突出しないよう設置されることが好ましい。
【0040】
上述するとおり、筒状本体10にリング32が設けられるとともに、そのリング32の内周面34とこれに対向する対向面36との間のスペースを周方向に区画する区画壁38が設けられることによって、リング32の内周側において上下方向に貫通する複数の貫通路40が形成される。かかる貫通路40を備える制水部30付近に対し流れてきた海水の一部は、貫通路40に流れ込むとともに、貫通路40を区画する区画壁32、内周面34、対向面36によって流れる方向が制御される。このように海水の一部の流れ方向が所定方向に調整されることを、本発明では制水部30の制水効果と呼ぶ。筒状本体10の外周面に直接に衝突した海水は、波高の増大に影響を及ぼしうるところ、制水効果により筒状本体10への衝突が回避されるため、波高の増大が抑制される。
【0041】
上述する制水効果を発揮させ、波高の増大をより充分に抑制するという観点から、本実施形態のリング32は、リング32の上端からリングの下端に向けて筒状本体側に下り傾斜するよう構成されている。
より具体的には、同一円心状に設置された第一のリング32Aおよび第二のリング32Bは、それぞれ外周面および内周面が筒状本体側に下り傾斜するよう構成されている。また第一のリング32Aの外周面と第二のリング32Bの内周面は並行であり、傾斜角度が同一である。
【0042】
またリング32を複数設ける場合、より効率よく貫通路40に海水が流れ込みやすくするために、本実施形態では、同心円状に設けられた複数のリング32の高さを後述するとおり調整している。即ち、内側の第一のリング32Aと、第一のリング32Aの外側において隣り合う第二のリング32Bとにおいて、第一のリング32Aの上端が第二のリング32Bの上端よりも高く位置するよう構成されている。これによって、第一のリング32Aの外周面上部に衝突した海水は、第一のリング32Aと第二のリング32Bとの間に設けられた貫通路40に流れ込みやすく、また筒状本体10の外周面に衝突した海水は、第一のリング32Aと筒状本体10との間に設けられた貫通路40に流れ込みやすい。このように筒状本体10に向かう海水が、なるべく多く、かつスムーズに貫通路40に流れ込むよう構成することによって、風力発電装置200の周囲の波高の増大を良好に抑制することができる。
【0043】
尚、本実施形態ではリング32が2つ設けられた例を具体的に示したが、ここでいう第一のリング32Aと第二のリング32Bとは、複数のリングにおいて隣り合う相対的な関係を説明するものであって、本実施形態の説明は、リング32が3以上設けられた態様においても適宜参照される。
【0044】
(フロート付きロープ)
本実施形態の基礎構造100は、さらに上面視において、筒状本体10の上端部を周回するフロート付きロープ50が海面900に配置されている。
フロート付きロープ50は、海水に対し浮力を有する浮き構造体であるフロート52が複数連続してロープ状に構成される。本実施形態におけるフロート付きロープ50は、複数のフロート52とこれらを連結する連結部54とから構成されている。フロート52は、内部が中空の構造体であってもよいし、あるいは発泡樹脂体のように海水に対す浮力を発揮する部材から構成された構造体であってもよい。また連結部54は、複数のフロート52を貫通する長尺部材であってもよいし、隣り合う2つのフロート52を連結する連結部材であってもよい。
またフロート付きロープ52は、たとえばプールのコースを示すための所謂コースロープで代用することもできる。フロート付きロープ50は、使用時にはリング状にして筒状本体10を囲むように配置されるが、適宜、任意の箇所で切断して開放し、再度繋げることができ、繰り返し着脱可能な切り離し部を有していることが好ましい。
【0045】
フロート付きロープ50が海面900に配置されることによって、フロート付きロープ50の内側の海面900において波消し効果が発揮される。具体的には、上面視において筒状本体10の上端部を内包するようフロート付きロープ50が配置された場合、当該ロープの外側から内側(筒状本体10側)に向けて押し寄せる波(入射波)は、フロート付きロープ50に衝突することによって、反射する波(反射波)と通過する波(透過波)とフロート付きロープ50に吸収される波(被吸収波)とに分散する。つまり透過波だけが、フロート付きロープ50の内側の海面900に影響を及ぼすことになる。したがって、フロート付きロープ50の内側では波高が低減される。
【0046】
筒状本体10の近傍に停泊した作業船の揺れを抑制する観点から、フロート付きロープ50は、作業船の停泊エリアを包含する程度に長いことが好ましい。フロート付きロープ50の長さ(リング状にしたときの径)は、基礎構造100の規模によって適宜調整することができる。
【0047】
(補助構造)
本発明の基礎構造は、深度が比較的浅い海域、あるいは支持する風力発電装置が小型~中型である場合には、筒状本体を海底に配置し、当該筒状本体の重量のみで安定に起立した状態を維持することが可能である。
一方、支持する風力発電装置が中型~大型である場合、あるいは装置が小型であっても海流の速度が速い等設置環境が厳しい場合には、基礎構造100は、より確実に洋上風力発電装置200を支持するために補助構造が設けられるとよい。
【0048】
本実施形態の基礎構造100は、
図1および
図4に示すとおり、補助構造として、海底910上に設置され筒状本体10を取り囲む海底支持部440と、海底支持部440から筒状本体10の上下方向中間部まで伸長する複数の支え部材420とが設けられている。また海底支持部440と筒状本体10との相対的な位置関係が固定されるよう、硬質の底部骨部材400により筒状本体10の下端部と海底支持部440とが接続されている。
【0049】
海底支持部440は、海底920に設置され、基礎構造100に対し筒状本体10の軸方向と交差する方向に力が負荷された場合に、海底920の反力によって基礎構造100の傾斜を防止する。たとえば、海底支持部440は、
図4に示されるようにリング状の構造物であってもよい。リング状の構造物である海底支持部440は、上面視において真円であってもよいし、隣り合う支え部材420の下端を繋ぐ長尺部材の連続からなる多角形などであってもよい。また上記リング状構造物に替えて円盤状物を海底支持部440とすることもできる。
【0050】
本実施形態では、支え部材420は、一端が海底支持部440に接合され、他端が筒状本体10に接合されている。支え部材420の上記他端は、筒状本体10の上下方向中間部に接合される。本実施形態では具体的には筒状本体10の上下方向2分の1の高さを超えた位置において、周方向に等間隔に配置された4本またはそれ以上の本数の支え部材420の他端が筒状本体10に接合されている。そして当該他端の接合箇所のさらに上方に拡径部20および制水部30が設けられている。このように筒状部材10の高い位置において筒状部材10を三方または四方以上から支えることによって、海面900寄りに拡径部20および制水部30が設けられた基礎構造100の接地安定性を良好に補うことができる。補助構造を構成する海底支持部440および支え部材420は、いずれも鋼や鉄などの硬質の部材で構成されることが好ましい。
【0051】
尚、本実施形態の変形例として、上述する支え部材420の一端を海底支持部440ではなく底部骨部材400の任意の箇所に接合させてもよい。
【0052】
底部骨部材400は、筒状本体10の下端部外周面に直接または間接に接合された長尺の金属部材である。複数の底部骨部材400は、筒状本体10を中心として放射状に延在している。底部骨部材400は少なくとも周方向において等間隔に3本以上備えることが好ましく、本実施形態では等間隔に8本の底部骨部材400が設けられた例を示している。底部骨部材400によって筒状本体10と海底支持部440を接続することによって、筒状本体10が傾斜する方向に力が働いた際、基礎構造100の転倒あるいは傾斜を良好に防止することができる。
【0053】
底部骨部材400は、金属で構成された長尺部材である。上記金属としては、鋼、鉄などが挙げられる。底部骨部材400の例としては、横断面が、四角形、円形、H字形状、L字形状、またはコの字形状などの所定形状の棒状体が挙げられる。たとえば断面H字形状であって鋼で製造されたH鋼は、強度および海底910に対する接地安定性などの観点から、底部骨部材400として好ましい。
【0054】
尚、補助構造に関し接合とは、互いが固定され容易に離間しない状態を意味し、接合を実現する手段は特に限定されず、たとえば溶接であってもよいし、ボルトなどの留め具による固定でもよく、あるいは鉄骨継手などの継手部材を用いる連結であってもよい。
【0055】
<第二実施形態>
次に、
図5、
図6を用いて本発明の第二実施形態を説明する。
図5は、本発明の第二実施形態にかかる洋上風力発電装置200の基礎構造120の側面図である。
図6は、
図5のVI-VI断面図である。
【0056】
第二実施形態の基礎構造120は、モノパイル300を用いる基礎構造100と異なり、タワー部220を筒状本体10で直接に支持する点で第一実施形態と相違する。即ち、基礎構造120は、筒状本体10の上端側にタワー部220を結合するためのタワー結合部320を備え、このタワー結合部320においてタワー部220の下端部の任意の箇所を支持することで洋上風力発電装置200を支えている。
【0057】
本実施形態における筒状本体14は、中空に構成されており、海面900より下方において、筒状本体14の内外方向に連通する貫通孔122が筒状本体14の側面に設けられている。
図5では同一径の貫通孔122が複数設けられた態様を示しているが、異なる径または異なる形状の貫通孔122が複数設けられていてもよい。貫通孔122を備えることによって、中空の筒状本体14の内部空間130(
図6参照)には、海水が充満するとともに魚貝類などの海洋生物が侵入可能である。これによって、筒状本体14自体が漁礁となり得る。即ち、本発明の基礎構造100により洋上風力発電装置200を設置することで、効率の良い発電を可能とするだけでなく、新たな漁礁や漁場を提供することができる。
【0058】
筒状本体14は、下方に向けて径が大きくなる錐形状に形成されている。このように上端側より下端側の径を大きくすることによって筒状本体10の設置安定性が向上する。そのため、錐形所の筒状本体14は、直接にタワー部220を支持する態様において好ましい。本実施形態では具体的には筒状本体14は円錐形状である。本実施形態における筒状本体14の上端11は最高位の海面900のやや上方に位置している。筒状本体14の下端は、後述する錘収容部460に覆われており側面側から視認できないが、海底に直接または間接に支持されている。尚、筒状本体14の下端が海底910に直接に支持されているとは、当該下端が海底910に直接に接していることを意味し、筒状本体14の下端が海底910に間接に支持されているとは、海底910に直接接して設置された任意の構造に当該下端が連結されて支持されていることを意味する。
【0059】
基礎構造120は、筒状本体14の上下方向2分の1の高さ以上の位置において、当該筒状本体14の外周面を周方向に延在する拡径部20が設けられている。
本実施形態における拡径部20は、基準線24より上側に位置する拡径部上面S1の面積が基準線24より下側に位置する拡径部下面S2の面積が小さくなるよう構成されている。
【0060】
また基礎構造120は、筒状本体14より上方であって海面900よりも下方に制水部30が設けられている。制水部30の構成は、上述する第一実施形態と同様であるため、ここでは詳細な説明を割愛する。
【0061】
本実施形態の基礎構造120は、さらに上面視において、筒状本体10の上端部を周回するフロート付きロープ50が海面900に配置されている。フロート付きロープ50の構成は、上述する第一実施形態と同様であるため、ここでは詳細な説明は割愛する。
【0062】
本実施形態では補助構造として、筒状本体14の下端部に錘を収容可能な錘収容部460が設けられている。本実施形態における錘収容部46は、筒状本体14の下端部において周方向に設けられた底面部と壁部とを有する上面開口の容器である。上記壁部は、筒状本体14の下端部の外周面と対向しており、当該外周面と壁部と底面部とで囲まれた空間に、錘480が収容されている。錘部材480は、適度な重量があり、錘となり得る物体であればよく、たとえば、自然石、コンクリートなど人工物、鉄などの金属または砂利などが挙げられる。錘部材480は一種であってもよいし、複数の材料が混合されていてもよい。筒状本体14は、錘480を収容した錘収容部46によって海底910に対しより十分に安定して設置される。
【0063】
また複数の錘部材480が収容された錘収容部460は、錘部材480と錘部材480との間、および容器30と錘部材480との間に多数の隙間が形成され、格好の漁礁となる。即ち、錘収容部460を備える基礎構造120は、洋上風力発電装置200を支持するだけでなく、新たな漁礁を提供することができる。
【0064】
上述する錘収容部460の底面部は、直接に海底910に設置されてもよいが、本実施形態では、錘収容部460の下側に、底部骨部材400が設けられており、接続部材400の上に錘収容部460が配置されている。
本実施形態における底部骨部材400は、筒状本体14の軸中心から放射方向に延在する複数の長尺部材から構成されており、
図5、
図6では、底部骨部材400として筒状本体14から外方向に延在する4本の硬質の長尺部材からなる十字構造を例示している。長尺部材の本数は4本以上であって任意の数にすることができる。複数の長尺部材は周方向に等間隔に配置されることが好ましい。上面視において、底部骨部材400は、錘収容部460よりも筒状本体14から離れた位置まで延伸している。
【0065】
以上、本発明の基礎構造の第一実施形態および第二実施形態を説明したが、本発明は上述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜の設計変更を許容する。たとえば、第一実施形態における筒状本体10に対し、第二実施形態に示される補助構造が設けられてもよいし、第二実施形態における筒状本体14に、第一実施形態に示される補助構造が設けられてもよい。また第一実施形態および第二実施形態における拡径部20は、たとえば
図2A~
図2Dに示されるような種々の構成に変更可能である。
【0066】
また、第一実施形態および第二実施形態において説明した種々の構成は、それ単独で本発明とは異なる新たな技術思想を提示する。
【0067】
上記本発明とは異なる新たな技術思想の第一は、拡径部の設置を必須とするものではなく、制水部が筒状本体に設けられた基礎構造に関する。即ち、タワー部と風車部とを備える洋上風力発電装置の基礎構造であって、上記タワー部を直接または間接に支持する筒状本体を備え、上記筒状本体は、上端が最高位の海面より上方に位置するとともに下端が海底に直接または間接に支持され、上記筒状本体の上端近傍であって海面より下方に、上記筒状本体の外周面を周方向に延在する制水部が設けられており、上記制水部は、当該制水部の取付位置における上記筒状本体の外径よりも大きい外径を有する所定高さのリングと、上記リングの内周面と当該内周面に対向する対向面との間を亘る区画壁を複数備え、上記区画壁によって、上記リングの内周面と上記対向面との間のスペースが周方向に区画されてなる貫通路を複数備える。より具体的には、制水部の上端は、最低位の海面から0mを超えて4m以下の範囲に位置することが好ましく、0mを超えて2m以下の範囲に位置することがより好ましく、0mを超えて1m以下の範囲に位置することがさらに好ましい。
かかる本発明とは異なる新たな技術思想の第一は、本発明と同様に筒状本体の周囲の波高が大きくなることを抑制する効果を発揮する。
【0068】
本発明とは異なる新たな技術思想の第二は、タワー部と風車部とを備える洋上風力発電装置の基礎構造であって、上記タワー部を直接または間接に支持する筒状本体を備え、上記筒状本体は、上端が最高位の海面より上方に位置するとともに下端が海底に直接または間接に支持されるとともに、筒状本体が海底面に設置された補助構造を備える。
ここで補助構造とは、第一実施形態に示されるとおり、海底上に設置され筒状本体を取り囲む海底支持部と、海底支持部から筒状本体の上下方向中間部まで伸長する複数の支え部材とが設けられた第一態様を包含する。第一態様では、さらに海底支持部と筒状本体との相対的な位置関係が固定されるよう、硬質の底部骨部材により筒状本体の下端部と海底支持部とが接続されてもよい。これらの詳細は第一実施形態における補助構造の説明が参照される。
また補助構造の第二態様として、上述する第二実施形態における補助構造が包含される。第二態様の補助構造は、筒状本体の下端部に錘を収容可能な錘収容部が設けられるとともに、その下側に、底部骨部材が設けられる。上記底部骨部材は、筒状本体の軸中心から放射方向に延在する複数の長尺部材から構成され、上面視において、錘収容部よりも筒状本体から離れた位置まで延伸する。かかる補助構造の第二態様の詳細は、第二実施形態における補助構造の説明が参照される。
本発明とは異なる新たな技術思想の第二は、洋上風力発電装置の基礎構造の本来の目的である洋上風力発電装置を安定して支持するという観点において優れた効果を発揮する。
【0069】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)タワー部と風車部とを備える洋上風力発電装置の基礎構造であって、
前記タワー部を直接または間接に支持する筒状本体を備え、
前記筒状本体は、上端が海面またはその近傍に位置するとともに下端が海底に直接または間接に支持され、
当該筒状本体の上下方向2分の1の高さ以上の位置において、当該筒状本体の外周面を周方向に延在する拡径部が設けられており、
前記拡径部は、前記筒状本体の外周面から最も離れた先端部から、前記筒状本体の外周面側である基端側に向けて上下方向において測定される厚みが増大していることを特徴とする洋上風力発電装置の基礎構造。
(2)前記拡径部の、前記筒状本体の外周面から最も離れた箇所を先端部とし、前記先端部から前記筒状本体に対し当該筒状本体の軸方向に直交する方向に伸長する線を基準線としたとき、
前記拡径部の外周面において、前記基準線より上側に位置する拡径部上面の面積は、前記基準線より下側に位置する拡径部下面の面積よりも小さい上記(1)に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
(3)前記拡径部の、前記筒状本体の外周面から最も離れた箇所を先端部とし、前記先端部から前記筒状本体に対し当該筒状本体の軸方向に直交する方向に伸長する線を基準線としたとき、
前記拡径部の外周面において、前記基準線より上側に位置する拡径部上面および前記基準線より下側に位置する拡径部下面は、それぞれ外方向に凸の湾曲部分を有し、
前記拡径部上面における前記湾曲部分のR値が、前記拡径部下面における前記湾曲部分のR値よりも小さい上記(1)に記載する洋上風力発電装置の基礎構造。
(4)前記筒状本体の上端と前記拡径部との間において、
前記筒状本体の外周面を周方向に延在する制水部が設けられており、
前記制水部は、当該制水部の取付位置における前記筒状本体の外径よりも大きい外径を有する所定高さのリングと、前記リングの内周面と当該内周面に対向する対向面との間を亘る区画壁を周方向に複数備え、
前記区画壁によって、前記リングの内周面と前記対向面との間のスペースが周方向に区画されてなる貫通路を複数備える上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
(5)前記リングは、前記リングの上端から前記リングの下端に向けて前記筒状本体側に下り傾斜している上記(4)に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
(6)前記リングが、同心円状に複数設けられており、
内側の第一のリングと、前記第一のリングの外側において隣り合う第二のリングとを有し、
前記第一のリングの上端が前記第二のリングの上端よりも高く位置する上記(4)または(5)に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
(7)上面視において、前記筒状本体の上端部を周回するフロート付きロープが海面に配置されている上記(1)から(6)のいずれか一項に記載の洋上風力発電の基礎構造。
(8)前記筒状本体の内部を前記タワー部を支持するモノパイルが貫通している上記(1)から(7)のいずれか一項に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
(9)前記筒状本体の上端側に前記タワー部を結合するためのタワー結合部を備える上記(1)から(7)のいずれか一項に記載の洋上風力発電装置の基礎構造。
【符号の説明】
【0070】
10、14・・・筒状本体
11・・・上端
12・・・下端
20、20A、20B、20C、20D・・・拡径部
22・・・先端部
24・・・基準線
26・・・空間
30・・・制水部
32・・・リング
32A・・・第一のリング
32B・・・第二のリング
34、34A、34B・・・内周面
36、36A、36B・・・対向面
38、38A、38B・・・区画壁
40・・・貫通路
42・・・上端
44・・・上端
52・・・フロート
50・・・フロート付きロープ
54・・・連結部
100、120・・・基礎構造
122・・・貫通孔
130・・・内部空間
200・・・洋上風力発電装置
220・・・タワー部
300・・・モノパイル
320・・・タワー結合部
340・・・充填材
400・・・底部骨部材
420・・・支え部材
440・・・海底支持部
460・・・錘収容部
480・・・錘部材
900・・・海面
910・・・海底
h1・・・高さ
S1・・・拡径部上面
S2・・・拡径部下面
R1、R2・・・外方向に凸の湾曲面
R3・・・内方向に凸の湾曲面
t1、t2・・・厚み
r1・・・筒状本体の径
r2・・・拡径部の径
r3・・・リングの径