(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049720
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】回転電機の界磁子
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2783 20220101AFI20240403BHJP
【FI】
H02K1/2783
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156123
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八釼 学
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA00
5H622CA02
5H622CA10
5H622CB02
(57)【要約】
【課題】磁束漏洩の防止と磁石保持力の低下抑制とを両立できる界磁子を提供する。
【解決手段】回転電機(1)の界磁子(4)は、軸線2を中心として環状に所定の配列をもって配置された複数の磁石14と、磁石14の内周面14cに沿って設けられたヨーク13とを備える。ヨーク13は、磁石14の軸線方向の第1端面14aから軸線方向の第2端面14bに亘って軸線方向に延在する円筒状の本体部26と、本体部26から径方向に延出し、磁石14の第1端面に当接14aする当接面28を有する円環状のフランジ部27とを有する。当接面28は、径方向の基端縁28a及び先端縁28bから離間した中間位置に環状に形成された周方向溝36及び、周方向に所定の間隔Pをもって配置され、基端縁28aから先端縁28bに至る複数の径方向溝37の少なくとも一方を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の界磁子であって、
前記回転電機の軸線を中心として環状に所定の配列をもって配置された複数の磁石と、
前記磁石の内周面及び外周面の一方に沿って設けられたヨークと、を備え、
前記ヨークは、前記磁石の軸線方向の第1端面から前記軸線方向の第2端面に亘って前記軸線方向に延在する円筒状の本体部と、前記本体部から径方向に延出し、前記磁石の前記第1端面に当接する当接面を有する円環状のフランジ部とを有し、
前記当接面が、当該当接面の径方向の基端縁及び先端縁から離間した中間位置に形成された環状の周方向溝及び、当該当接面の周方向に所定の間隔をもって形成され、前記基端縁から前記先端縁に至る複数の径方向溝の少なくとも一方を有する、回転電機の界磁子。
【請求項2】
前記当接面が、前記周方向溝及び複数の前記径方向溝の両方を有する、請求項1に記載の回転電機の界磁子。
【請求項3】
前記所定の配列が、径方向内側に向く磁極方向を有する第1磁石と径方向外側に向く磁極方向を有する第2磁石との間に周方向成分を含む磁極方向を有する第3磁石が配置されたハルバッハ配列である、請求項2に記載の回転電機の界磁子。
【請求項4】
複数の前記径方向溝が前記周方向に一定の間隔をもって配置され、前記一定の間隔が前記第3磁石の周方向幅よりも小さい、請求項3に記載の回転電機の界磁子。
【請求項5】
前記周方向に互いに隣接する1対の前記径方向溝の間の当接部分の周方向寸法が前記径方向溝の幅よりも大きい、請求項4に記載の回転電機の界磁子。
【請求項6】
軸方向視において、前記第1磁石の面積と前記第2磁石の面積とは互いに同一であり、
前記軸方向視における、前記周方向溝と前記径方向溝との重複部分を含む前記径方向溝の面積に対する、前記重複部分を含む前記周方向溝の面積の比である溝面積比が、前記軸方向視における、前記第3磁石の面積に対する前記第1磁石又は前記第2磁石の面積の比である磁石面積比と同一である、請求項5に記載の回転電機の界磁子。
【請求項7】
前記溝面積比及び前記磁石面積比が共に2である、請求項6に記載の回転電機の界磁子。
【請求項8】
当該界磁子は、前記ヨークが前記磁石の前記内周面に沿って設けられたインナロータ型回転電機のインナロータをなす、請求項1~7のいずれか1項に記載の回転電機の界磁子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の界磁子に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、ティース及びコイルを有する電気子と、磁石及びバックヨークを有する界磁子と備え、一方が回転軸線回りに回転する回転子をなし、他方が固定子をなす。ラジアルギャップ型の回転電機では、磁石及びティースが回転電機の径方向に対向するように配置される。この種の回転電機として、界磁子がアウタロータをなすアウタロータ型のラジアルギャップ型回転電機が公知である。この回転電機では、磁石の径方向外側の磁極面に沿ってバックヨークが配置される。
【0003】
特許文献1には、バックヨークが磁石の径方向外側の磁極面から磁石の軸方向の両端面に跨って設けられ、バックヨークの径方向の内側部分(磁石の両端面に沿う部分。以下、フランジ部という。)の端部が磁石から離れて設けられた回転電機が開示されている。これによれば、磁石の径方向内側の磁極面とバックヨークの端部(フランジ部の先端部)とは空隙を介しているので磁束漏洩が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の界磁子では、バックヨークのフランジ部の先端部が磁石から離れているため、磁石の移動を規制するために磁石の端面に当接するフランジ部の部分の面積が減少する。そのため、バックヨークの磁石保持力が低下する虞があった。そこで、磁束漏洩の防止と磁石保持力の低下抑制とを両立できる界磁子構造が求められていた。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、磁束漏洩の防止と磁石保持力の低下抑制とを両立できる界磁子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、回転電機(1、51)の界磁子(4)であって、前記回転電機の軸線(2)を中心として環状に所定の配列をもって配置された複数の磁石(14)と、前記磁石の内周面(14c)及び外周面(14d)の一方に沿って設けられたヨーク(13)と、を備え、前記ヨークは、前記磁石の軸線方向の第1端面(14a)から前記軸線方向の第2端面(14b)に亘って前記軸線方向に延在する円筒状の本体部(26)と、前記本体部から径方向に延出し、前記磁石の前記第1端面に当接する当接面(28)を有する円環状のフランジ部(27)とを有し、前記当接面が、当該当接面の径方向の基端縁(28a)及び先端縁(28b)から離間した中間位置に形成された環状の周方向溝(36)及び、当該当接面の周方向に所定の間隔(P)をもって形成され、前記基端縁から前記先端縁に至る複数の径方向溝(37)の少なくとも一方を有する。
【0008】
この態様によれば、フランジ部の先端部が磁石の第1端面に少なくとも部分的に当接することにより、フランジ部の先端部に環状の空隙が設けた従来構造に比べて、磁石の保持力が向上する。また、周方向溝及び複数の径方向溝の少なくとも一方が当接面に設けられることにより、磁束がフランジ部を通って外部に漏洩することが抑制される。よって、当該界磁子を用いた電動機の出力トルク或いは発電機の発電効率が向上する。
【0009】
上記の態様において、前記当接面が、前記周方向溝及び複数の前記径方向溝の両方を有するとよい。
【0010】
この態様によれば、周方向溝及び複数の径方向溝の両方が当接面に設けられることにより、磁束がフランジ部を通って外部に漏洩することが一層抑制される。
【0011】
上記の態様において、前記所定の配列が、径方向内側に向く磁極方向を有する第1磁石(31)と径方向外側に向く磁極方向を有する第2磁石(32)との間に周方向成分を含む磁極方向を有する第3磁石(33)が配置されたハルバッハ配列であるとよい。
【0012】
この態様によれば、周方向の磁極方向を含むハルバッハ配列の界磁子において、磁束漏洩の防止と磁石保持力の低下抑制とを両立することができる。
【0013】
上記の態様において、複数の前記径方向溝が前記周方向に一定の間隔をもって配置され、前記一定の間隔が前記第3磁石の周方向幅(C)よりも小さいとよい。
【0014】
この態様によれば、当接面の第3磁石に対応する部分に少なくとも1つの径方向溝が配置される。そのため、第3磁石の周方向の磁束がフランジ部を通って外部に漏洩することが径方向溝によって効果的に抑制される。
【0015】
上記の態様において、前記周方向に互いに隣接する1対の前記径方向溝の間の当接部分(38)の周方向寸法(D)が前記径方向溝の幅(W)よりも大きいとよい。
【0016】
この態様によれば、実際に磁石に当接するフランジ部の当接面積が大きくなる。これにより、磁力反発が大きい3種類の磁石の位置決めを確実に行うことができる。
【0017】
上記の態様において、軸方向視において、前記第1磁石の面積(A31)と前記第2磁石の面積(A32)とは互いに同一であり、前記軸方向視における、前記周方向溝と前記径方向溝との重複部分を含む前記径方向溝の面積(A37)に対する、前記重複部分を含む前記周方向溝の面積(A36)の比である溝面積比(A36/A37)が、前記軸方向視における、前記第3磁石の面積(A33)に対する前記第1磁石又は前記第2磁石の面積(A31)の比である磁石面積比(A31/A33)と同一であるとよい。
【0018】
この態様によれば、周方向溝及び径方向溝を通過する磁束の磁気抵抗が共に増し、磁束がフランジ部を通って外部に漏洩する磁束漏洩が抑制される。よって、回転電機の出力トルクが向上する。
【0019】
上記の態様において、前記溝面積比及び前記磁石面積比が共に2であるとよい。
【0020】
この態様によれば、ハルバッハ配列された磁石を有する界磁子において、ヨークのフランジ部における磁気抵抗の増加効果が大きい。よって、出力トルク或いは発電効率を大きく向上させることができる。
【0021】
上記の態様において、当該界磁子は、前記ヨークが前記磁石の前記内周面に沿って設けられたインナロータ型回転電機のインナロータをなすとよい。
【0022】
この態様によれば、ヨークの径方向外側に延出する外フランジに周方向溝及び複数の径方向溝の一方が形成されるため、内フランジに形成される場合に比べ、フランジ部の磁石に対する当接面積を確保しやすく、回転中の磁石のぐらつきを抑制できる。また、ヨークの加工が容易である。
【発明の効果】
【0023】
以上の態様によれば、磁束漏洩の防止と磁石保持力の低下抑制とを両立できる界磁子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図5】(A)従来例、(B)他の実施形態、(C)本実施形態に係る各モータの概略構成の比較図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明に係る界磁子が適用された実施形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は実施形態に係るモータ1の断面図である。
図1に示すように、モータ1は、軸線2を中心とする円筒形をなすケース3と、ケース3によって軸線2の回りに回転可能に支持されたロータ4と、ロータ4の外周側に配置され、ケース3に固定されたステータ5とを有している。すなわち、モータ1は、インナロータ型且つラジアルギャップ型モータとして構成されている。モータ1は、軸線2が水平に延在する
図1に示す姿勢で使用されているが、軸線2が鉛直に延在する姿勢で使用されてもよい。
【0027】
ケース3は、軸線方向に分割可能なケース本体6とケース蓋体7とを有し、ロータ4及びステータ5を収容する収容空間を内部に画定している。ケース本体6は円筒形の側壁8と、側壁8の下端を塞ぐ底壁9とを有している。ケース本体6の底壁9及びケース蓋体7には、軸線2を中心とする貫通孔10が形成されている。
【0028】
ロータ4は、軸線2に沿って延在し、モータ1の出力軸をなす回転軸11と、回転軸11の周りに配置されたロータハブ12と、ロータハブ12の外端に設けられた円筒状のヨーク13(ロータコア)と、複数の永久磁石(単に磁石14という)とを備えている。ロータハブ12は、回転軸11に一体に設けられていてもよく、遊星歯車機構等を介して回転軸11に相対回転可能に設けられていてもよい。いずれの構成においても、ロータハブ12の回転に伴って回転軸11が回転する。
【0029】
回転軸11は、ケース本体6及びケース蓋体7にベアリング15を介して回転可能に支持されている。回転軸11はケース本体6及びケース蓋体7の貫通孔10を貫通してケース3の両面から軸線方向に突出している。他の実施形態では、回転軸11は、ケース3の片方の面のみから突出していてもよい。ヨーク13は、軸線2を中心とした略円筒形状の回転子鉄心であり、ロータハブ12の外縁に一体に形成され、ロータハブ12と一体に回転する。モータ1は、永久磁石同期モータであり、ヨーク13の外周には、複数の磁石14が周方向に所定の配列をもって配置される。ロータ4はモータ1の界磁子をなす。
【0030】
ステータ5は、ロータ4の外面との間に径方向に所定のギャップを介してケース本体6の側壁8に沿って配置される。ステータ5は、複数のティース16と、ティース16の外側に配置されてティース16を保持するティース保持リング17(ステータヨーク)とを有するステータコア18と、ティース16に巻回された複数のコイル19とを備えている。ステータ5はモータ1の電機子をなす。ティース保持リング17は円筒状をしており、軸線2を中心として配置される。ティース16はティース保持リング17に沿って周方向に並べられ、ティース保持リング17の内面から径方向内側に突出する。
【0031】
ケース本体6には、ケース本体6と協働してステータ5を覆うステータカバー20が取り付けられる。
図1の拡大図に示すように、ステータカバー20は、円筒状の第1部分21と、第1部分21の軸線方向の一端から径方向外側に延出する円環板状の第2部分22と、第1部分21の軸線方向の他端から径方向内側に延出する円環板状の第3部分23とを含む。ステータカバー20は、透磁率が小さい非磁性体であり、例えば合成樹脂の射出成形品であってよい。第1部分21は、ステータ5とロータ4との間(すなわち、上記ギャップ)に配置される。第2部分22は、モータ1の軸線方向においてコイル19に対向し、外縁においてシール部材24を介してケース本体6の側壁8に密着する。第3部分23は、内縁においてシール部材24を介してケース本体6の底壁9に密着する。
【0032】
このように、ステータカバー20は、ケース本体6と協働して、ステータ5を覆うことにより、ステータ5を冷却するための冷却通路25を画定する。冷却通路25は円筒形状をしており、冷媒として供給されるオイルが冷却通路25を軸線方向に流通する。
【0033】
図2は、モータ1の要部の斜視図であり、モータ1の上部を示している。なお、ステータカバー20は図示省略されている。
図1の拡大図及び
図2に示すように、ヨーク13は、円筒状の本体部26と、本体部26の軸方向端部から径方向外側に延出する円環状のフランジ部27とを有する。磁石14は、軸線方向の端部に位置する第1端面14a及び第2端面14bと、内周面14cと、外周面14dとを有している。ヨーク13の本体部26は、磁石14の内周面14cに沿って設けられ、磁石14の第1端面14aから第2端面14bに亘って軸線方向に延在する。ヨーク13のフランジ部27は、磁石14の第1端面14aに沿って延在しており、磁石14に当接する当接面28を有する。
【0034】
磁石14は、径方向内側に向く磁極方向(磁化方向)を有する第1磁石31と、径方向外側に向く磁極方向を有する第2磁石32と、第1磁石31と第2磁石32との間に配置された第3磁石33とを含んでいる。第3磁石33は、周方向成分を含む磁極方向を有している。すなわち、磁石14はハルバッハ配列をもって環状に配置されている。なお、磁極方向は図中に矢印で示されている。第1磁石31及び第2磁石32は、主磁石であり、互いに同じ形状及び寸法を有している。第3磁石33は副磁石であり、主磁石よりも小さな周方向の寸法を有している。磁石14の周方向の寸法は軸線2を中心とする角度で表されるが、本明細書では、これを周方向幅Cと呼ぶ。第3磁石33の周方向幅Cは、第1磁石31及び第2磁石32の周方向幅Cの1/2とされている。
【0035】
図3は磁石14を透過して示すモータ1の要部の斜視図である。
図3に示すように、フランジ部27の当接面28には、径方向の基端縁28a及び先端縁28bから離間した中間位置に、周方向に延在する環状の周方向溝36が形成されている。また、当接面28には、基端縁28aから先端縁28bに至るように径方向に延在する複数の径方向溝37が形成されている。
【0036】
図4は磁石14を透過して示すモータ1の要部の正面図である。
図4に示すように、フランジ部27の高さ(径方向寸法)は、磁石14の高さ(径方向寸法)よりも小さい。フランジ部27の高さは、磁石14の高さの70%以下且つ30%以上あるとよく、50%以下且つ40%以上であるとなおよい。本実施形態では、フランジ部27の高さは、磁石14の高さの45%とされている。
【0037】
径方向溝37は、幅Wを有し、周方向に所定の間隔Pをもって配置されている。本明細書において、径方向溝37の周方向の間隔Pとは、軸線2(
図1)を中心とする溝中心間の角度間隔を意味する。本実施形態では、径方向溝37は、互いに同一な形状及び寸法を有し、周方向に一定の間隔Pをもって(等間隔に)配置されている。他の実施形態では、径方向溝37が磁石14の配列に応じて異なる間隔Pをもって配置されてもよい。
【0038】
径方向溝37の周方向の間隔Pは、第3磁石33の周方向幅Cよりも小さい。したがって、第3磁石33に対応する当接面28の部分には少なくとも1つの径方向溝37(詳細には、少なくとも1つ分の幅Wを有する1つ以上の径方向溝37)が配置される。また、径方向溝37の幅Wは、径方向溝37の周方向の間隔Pの1/2よりも小さい。言い換えれば、周方向に互いに隣接する径方向溝37の間の当接部分38の周方向寸法Dは、径方向溝37の幅Wよりも大きい。
【0039】
周方向に互いに隣接する径方向溝37の間且つ周方向溝36の両側に位置する当接部分38は実際に磁石14に当接する部分である。当接部分38が磁石14の第1端面14a(
図2参照)に当接することにより、磁石14の軸線方向の位置決めが行われる。上記のように径方向溝37の間の当接部分38の周方向寸法Dが径方向溝37の幅Wよりも大きいことにより、実際に磁石14に当接するフランジ部27の当接面積が大きくなる。これにより、磁力反発が大きい3種類の磁石14の位置決めを確実に行うことができる。
【0040】
その際、フランジ部27の先端部が磁石14の第1端面14a(
図2参照)に少なくとも部分的に当接する。これにより、フランジ部27の先端部に環状の空隙が設けられた従来構造(特許文献1)に比べて、磁石14の保持力が向上する。また、周方向溝36及び径方向溝37の少なくとも一方が当接面28に設けられることにより、磁束がフランジ部27を通って外部に漏洩することが抑制される。よって、当該界磁子を用いたモータ1の出力トルク或いは発電機の発電効率が向上する。以下に、
図7を参照してその効果を説明する。
【0041】
図7は、従来例に係るモータ101の作用説明図である。このモータ101では、ロータ104のヨーク113がフランジ部127を有する一方、フランジ部127の当接面128に溝が形成されていない。したがって、磁石114の外周面114dからステータ105のティース116に作用すべき磁束が第1端面114aからフランジ部127に漏洩する。これにより、ステータ105に作用する磁束が疎になり、モータ101の出力トルクが低下する。
【0042】
これに対し、本実施形態では、
図4に示すようにフランジ部27の当接面28が周方向溝36及び径方向溝37を有することにより、磁束がフランジ部27を通って外部に漏洩することが抑制される。なお、磁束漏洩には、磁束がフランジ部27を径方向に通る漏洩と、磁束がフランジ部27を周方向に通る漏洩とがある。そのため、周方向溝36及び径方向溝37の少なくとも一方が当接面28に形成されることにより、磁束がフランジ部27を通って外部に漏洩することが抑制される。本実施形態では、周方向溝36及び径方向溝37の両方が当接面28に設けられることにより、磁束がフランジ部27を通って外部に漏洩することが一層抑制される。磁束漏洩の抑制効果については後に詳細に説明する。
【0043】
本実施形態では、ロータ4がハルバッハ配列をもって配置された複数の磁石14を有している。したがって、ハルバッハ配列のロータ4において、磁束漏洩の防止と磁石保持力の低下抑制とが両立される。
【0044】
上記のように、径方向溝37は周方向に一定の間隔Pをもって配置され、この間隔Pが第3磁石33の周方向幅Cよりも小さく、当接面28の第3磁石33に対応する部分に少なくとも1つの径方向溝37が配置される。そのため、第3磁石33の周方向の磁束がフランジ部27を通って外部に漏洩することが径方向溝37によって効果的に抑制される。
【0045】
第1磁石31及び第2磁石32は互いに同じ形状及び寸法を有しているため、
図4に示す軸方向視において、第1磁石31の面積A
31と第2磁石32の面積A
32とは互いに同一である。ここで、軸方向視において、周方向溝36と径方向溝37との重複部分を含む径方向溝37の面積Aを径方向溝面積A
37とする。また、周方向溝36と径方向溝37との重複部分を含む周方向溝36の面積Aを周方向溝面積A
36とする。本実施形態では、径方向溝面積A
37に対する周方向溝面積A
36の比である溝面積比(=A
36/A
37)は、軸方向視における、第3磁石33の面積A
33に対する第1磁石31の面積A
31の比である磁石面積比(=A
31/A
33)と同一とされている。これにより、周方向溝36及び径方向溝37を通過する磁束の磁気抵抗が共に増し、磁束がフランジ部27を通って外部に漏洩する磁束漏洩が抑制される。よって、モータ1の出力トルクが向上する。
【0046】
更に、本実施形態では、第3磁石33の周方向幅Cが第1磁石31及び第2磁石32の周方向幅Cの1/2であるため、溝面積比(A36/A37)及び磁石面積比(A31/A33)は共に2に設定されている。そのため、ハルバッハ配列された磁石14を有するモータ1において、フランジ部27における磁気抵抗の増加効果が大きい。これにより、モータ1の出力トルクが大きく向上する。
【0047】
上記のように、ロータ4は、ヨーク13が磁石14の内周面14cに沿って設けられたインナロータ型のモータ1のインナロータをなしている。つまり、ヨーク13の径方向外側に延出するフランジ部27(外フランジ)に周方向溝36及び複数の径方向溝37の一方が形成される。そのため、周方向溝36及び複数の径方向溝37の一方が内フランジに形成される場合に比べ、フランジ部27の磁石14に対する当接面積が確保しやすく、回転中の磁石14のぐらつきが抑制される。また、ヨーク13の加工が容易である。
【0048】
次に、
図5及び
図6を参照して、実施形態に係るモータ1、本発明の他の実施形態に係るモータ51の磁束漏洩の抑制効果について説明する。
図5は、(A)従来例、(B)他の実施形態、(C)本実施形態に係る各モータ101、51、1の概略構成の比較図である。
図5(A)は、
図7に示した従来例に係るモータ101を示す。
図5(B)は、本発明の他の実施形態に係るモータ51を示す。
図5(C)は、
図4に示した本実施形態に係るモータ1を示す。
【0049】
図5(A)の従来例に係るモータ101では、上記の通り、フランジ部127の当接面128に溝が形成されていない。
図5(B)の他の実施形態に係るモータ51では、フランジ部27の当接面28に径方向溝37が形成される一方、周方向溝36は形成されていない。
図5(C)に係る本実施形態に係るモータ1では、フランジ部27の当接面28に径方向溝37及び周方向溝36が形成されている。なお、
図5(B)の他の実施形態に係るモータ51では、溝面積が
図5(C)の溝面積と同一になるように径方向溝37の周方向の間隔P(
図4参照)が設定されている。これらのモータ1、51、101について、同じ条件で駆動したときの出力トルクを計測した。
【0050】
図6は、
図5に示す各モータ101、51、1のトルクを示すグラフである。
図6に示すように、他の実施形態に係るモータ51では、従来のモータ101に比べて出力トルクが0.08%向上した。また、本実施形態に係るモータ1では、従来のモータ101に比べて出力トルクが0.29%向上した。これらのモータ1、51、101における相違は上記の溝の有無だけであり、溝の存在によってモータ1、51の出力が従来のモータ101に比べて向上することが確認できた。
【0051】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、本発明に係る界磁子が、インナロータ型のモータ1のロータ4に適用されているが、アウタロータ型モータのアウタロータに適用されてよい。また、ブラシモータのように回転電機子を備えた回転電機のアウタステータ又はインナステータに界磁子が適用されてもよい。また、界磁子は、モータ1ではなくジェネレータに適用さてもよい。更に、本実施形態では、ロータ4がハルバッハ配列の磁石14を備えているが、磁石配列はこれに限定されない。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 :モータ(回転電機一例)
2 :軸線
4 :ロータ
5 :ステータ
13 :ヨーク(ロータコア)
14 :磁石
14a :第1端面
14b :第2端面
14c :内周面
14d :外周面
26 :本体部
27 :フランジ部
28 :当接面
28a :基端縁
28b :先端縁
31 :第1磁石
32 :第2磁石
33 :第3磁石
36 :周方向溝
37 :径方向溝
38 :当接部分
51 :モータ(回転電機の一例)
A :面積
A31 :第1磁石の面積
A32 :第2磁石の面積
A33 :第3磁石の面積
A31/A33:磁石面積比
A36 :周方向溝面積
A37 :径方向溝面積
A36/A37:溝面積比
C :第3磁石の周方向幅
D :当接部分の周方向寸法
P :間隔
W :径方向溝の幅