(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049734
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】レーザースキャン装置、レーザースキャン方法およびレーザースキャン用プログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240403BHJP
G01S 17/42 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G01C15/00 103E
G01C15/00 103A
G01S17/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156148
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕晃
(72)【発明者】
【氏名】南口 修一
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AA10
5J084AD01
5J084AD02
5J084BA03
5J084BA31
5J084BA50
5J084BA57
5J084BB14
5J084BB20
5J084BB28
5J084CA03
(57)【要約】
【課題】レーザースキャンにおける適切なスキャン条件の設定を行う。
【解決手段】レーザースキャン光によるレーザースキャンを行うレーザースキャン装置200であって、レーザースキャン装置200から対象となる反射プリズム300と400までの距離を取得し、反射プリズム300と400に限定したレーザーキャンデータの取得を行うための条件を設定する。この際、反射プリズム300と400に限定したレーザーキャンデータはレーザースキャン装置200から見た特定の角度範囲のレーザースキャンデータであり、この特定の角度範囲は、前記距離が相対的に長い場合は相対的に狭く設定され、前記距離が相対的に短い場合は相対的に広く設定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザースキャン装置であって、
当該レーザースキャン装置から特定の対象までの距離を取得する距離取得部と、
前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータの取得を行うための条件を設定する条件設定部と
を備え、
前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータは当該レーザースキャン装置から見た特定の角度範囲のレーザースキャンデータであり、
前記特定の角度範囲は、
前記距離が相対的に長い場合は相対的に狭く設定され、
前記距離が相対的に短い場合は相対的に広く設定されるレーザースキャン装置。
【請求項2】
前記距離が相対的に長い場合に、単位角度範囲におけるレーザースキャン密度を相対的に大きくし、
前記距離が相対的に短い場合に、単位角度範囲におけるレーザースキャン密度を相対的に小さくする条件が設定される請求項1に記載のレーザースキャン装置。
【請求項3】
水平回転する水平回転部と、
前記水平回転部に配置され、水平方向を回転軸として鉛直回転し、レーザースキャン光を外部に照射する光学部を備えた鉛直回転部と
を備え、
前記特定の角度範囲には、水平方向の角度範囲が含まれ、
前記特定の対象の鉛直角方向の位置に基づき、前記水平方向の角度範囲の調整が行われ、
該調整では、前記特定の対象の鉛直角方向の位置が相対的に低鉛直角の位置の場合に比較して、前記特定の対象の鉛直角方向の位置が相対的に高鉛直角の位置の場合に、前記水平方向の角度範囲が拡大される請求項1に記載のレーザースキャン装置。
【請求項4】
当該レーザースキャン装置から出射されるレーザースキャン光の断面形状が長手形状を有し、
前記レーザースキャン光は、回転するミラーによって反射されることでレーザースキャンが行われ、
前記ミラーによって反射される方向によって前記レーザースキャン光の前記断面形状は回転し、
前記ミラーによる前記反射される方向に応じて、前記レーザーキャンデータの取得を行うための条件の設定が行われる請求項1に記載のレーザースキャン装置。
【請求項5】
レーザースキャン装置を用いたレーザースキャン方法であって、
当該レーザースキャン装置から特定の対象までの距離を取得し、
前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータの取得を行うための条件を設定し、
前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータは当該レーザースキャン装置から見た特定の角度範囲のレーザースキャンデータであり、
前記特定の角度範囲は、
前記距離が相対的に長い場合は相対的に狭く設定され、
前記距離が相対的に短い場合は相対的に広く設定されるレーザースキャン方法。
【請求項6】
コンピュータにレーザースキャン装置によるレーザースキャンの制御を行わせるプログラムであって、
コンピュータに
当該レーザースキャン装置から特定の対象までの距離を取得させ、
前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータの取得を行うための条件を設定させ、
前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータは当該レーザースキャン装置から見た特定の角度範囲のレーザースキャンデータであり、
前記特定の角度範囲は、
前記距離が相対的に長い場合は相対的に狭く設定され、
前記距離が相対的に短い場合は相対的に広く設定されるレーザースキャン用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザースキャン装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、レーザースキャンにおける適切なスキャン条件の設定を行う技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、レーザースキャン装置であって、当該レーザースキャン装置から特定の対象までの距離を取得する距離取得部と、前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータの取得を行うための条件を設定する条件設定部とを備え、前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータは当該レーザースキャン装置から見た特定の角度範囲のレーザースキャンデータであり、前記特定の角度範囲は、前記距離が相対的に長い場合は相対的に狭く設定され、前記距離が相対的に短い場合は相対的に広く設定されるレーザースキャン装置である。
【0006】
本発明において、前記距離が相対的に長い場合に、単位角度範囲におけるレーザースキャン密度を相対的に大きくし、前記距離が相対的に短い場合に、単位角度範囲におけるレーザースキャン密度を相対的に小さくする態様が挙げられる。
【0007】
本発明において、水平回転する水平回転部と、前記水平回転部に配置され、水平方向を回転軸として鉛直回転し、レーザースキャン光を外部に照射する光学部を備えた鉛直回転部とを備え、前記特定の角度範囲には、水平方向の角度範囲が含まれ、前記特定の対象の鉛直角方向の位置に基づき、前記水平方向の角度範囲の調整が行われ、該調整では、前記特定の対象の鉛直角方向の位置が相対的に低鉛直角の位置の場合に比較して、前記特定の対象の鉛直角方向の位置が相対的に高鉛直角の位置の場合に、前記水平方向の角度範囲が拡大される態様が挙げられる。
【0008】
本発明において、当該レーザースキャン装置から出射されるレーザースキャン光の断面形状が長手形状を有し、前記レーザースキャン光は、回転するミラーによって反射されることでレーザースキャンが行われ、前記ミラーによって反射される方向によって前記レーザースキャン光の前記断面形状は回転し、前記ミラーによる前記反射される方向に応じて、前記レーザーキャンデータの取得を行うための条件の設定が行われる態様が挙げられる。
【0009】
本発明は、レーザースキャン装置を用いたレーザースキャン方法であって、当該レーザースキャン装置から特定の対象までの距離を取得し、前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータの取得を行うための条件を設定し、前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータは当該レーザースキャン装置から見た特定の角度範囲のレーザースキャンデータであり、前記特定の角度範囲は、前記距離が相対的に長い場合は相対的に狭く設定され、前記距離が相対的に短い場合は相対的に広く設定されるレーザースキャン方法である。
【0010】
本発明は、コンピュータにレーザースキャン装置によるレーザースキャンの制御を行わせるプログラムであって、コンピュータに当該レーザースキャン装置から特定の対象までの距離を取得させ、前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータの取得を行うための条件を設定させ、前記特定の対象に限定したレーザーキャンデータは当該レーザースキャン装置から見た特定の角度範囲のレーザースキャンデータであり、前記特定の角度範囲は、前記距離が相対的に長い場合は相対的に狭く設定され、前記距離が相対的に短い場合は相対的に広く設定されるレーザースキャン用プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レーザースキャンにおける適切なスキャン条件の設定を行う技術が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】距離によるスキャン範囲の変化の原理を説明する原理図である。
【
図6】レーザースキャン光の扁平したビーム断面の回転の原理を説明する原理図である。
【
図7】レーザースキャン光の扁平したビーム断面の回転の原理を説明する原理図である。
【
図8】レーザースキャン光の扁平したビーム断面の回転の状態を示す概念図である。
【
図9】高鉛直角になるとスキャン範囲が減少する状態を示す概念図である。
【
図10】天頂付近のスキャン範囲を示す概念図である。
【
図11】距離による角度範囲とスキャン速度の関係を示すグラフである。
【
図12】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.第1の実施形態
(概要)
図1には、点群データの取得を行いたい現場にレーザースキャン装置200と、ターゲットとなる反射プリズム300と400が設置された状態が示されている。反射プリズム300と400は、絶対座標系における位置が既知の点に設置されている。絶対座標系は、地図やGNSSで用いられる座標系である。なお、座標系としてローカル座標系を用いることもできる。
【0014】
図1には、反射プリズム以外のスキャン対象は図示省略されているが、実際は反射プリズム以外にレーザースキャンの対象(例えば、地形や建物)が存在している。
【0015】
反射プリズム300と400は、入射光を180°向きを変えて反射する。反射プリズム300と400は、測量用に市販されているものを利用している。反射プリズム以外に再帰反射体等の他の反射体を用いることもできる。
【0016】
レーザースキャン装置200は、レーザースキャンに適した位置に設置されているが、絶対座標系におけるその位置と姿勢は未知である。この例では、レーザースキャン装置200は、1回目の広範囲なレーザースキャン(例えば,全周スキャン)と2回目の反射プリズムに絞ったレーザースキャンを行う。
【0017】
ここで、1回目のレーザースキャンにより広範囲の点群データを得るが、その段階における各点の絶対座標系上での位置は未知である。これは、絶対座標系におけるレーザースキャン装置200の位置と姿勢が未知であるからである。
【0018】
そこで、2回目のレーザースキャンにより、絶対座標系での既知点に設置された反射プリズム300と400の測位を行い、後方交会法により、レーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢を算出する。
【0019】
レーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢が判ることで、1回目のレーザースキャンによって得た点群データに絶対座標系における座標が与えられ、絶対座標系上での点群データが得られる。なお、反射プリズムの数は、3以上であってもよい。
【0020】
上記1回目のレーザースキャンでは、反射プリズム300と400からの反射光が強すぎ、レーザースキャン装置200の受光部202が飽和し、反射プリズム300と400の測距精度が低下する。すなわち、1回目のレーザースキャンでは、反射プリズム300と400の測位精度が低下する。
【0021】
そこで、反射プリズム300と400の正確な測位を行うための2回目のレーザースキャンを行う。この際、高い測位精度が得られるように、測距光の受光素子への入力レベルを、可変光アッテネータを用いて弱める。この可変光アッテネータの制御は、1回目のレーザースキャンで得られた反射プリズムの受光強度や距離情報に基づき行う。
【0022】
なお、受光部202における強入力による飽和は、主に受光素子で生じる。この飽和の程度が小さければ、受光素子の出力の歪み、また出力の頭打ちが生じるが、測距の精度は確保される。飽和の程度が大きくなると、受光素子の出力の波形の歪みが顕著になり、波形の位相差を利用した距離の計測に誤差が生じ、測距の精度が低下する。
【0023】
2回目のスキャンは、後者の測距の精度に悪影響が出ない状態(測距の精度が確保された状態)で行われる。具体的には、上述のように光路中に光アッテネータを挿入し、受光素子が飽和しないようにする。なお、光アッテネータは、発光光学系および受光光学系の一方または両方に配置される。通常は、いずれか一方の光学系に光アッテネータが配置される。また、発光素子の発光強度を弱める方法も可能である。
【0024】
1回目のレーザースキャンの結果から得たレーザースキャン装置200から反射プリズム300と400までの距離を取得する。この距離は誤差を含むが、この距離に基づき、反射プリズム300と400に限定したレーザーキャンデータの取得を行うための条件を設定する。この際、反射プリズム300と400に限定したレーザーキャンデータはレーザースキャン装置200から見た特定の角度範囲のレーザースキャンデータであり、この特定の角度範囲は、前記距離が相対的に長い場合は相対的に狭く設定され、前記距離が相対的に短い場合は相対的に広く設定される。
【0025】
(ハードウェアの構成)
図2には、レーザースキャン装置(レーザースキャナ)200の外観が示されている。レーザースキャン装置200は、三脚221、三脚221の上部に固定されたベース部222、ベース部222上で水平回転が可能な回転体である水平回転部223、水平回転部223に対して鉛直回転が可能な回転体である鉛直回転部224を備えている。レーザースキャン装置200は、無線接続された図示しない外部のコントローラ(操作端末)によって操作される。
【0026】
鉛直回転部224は、レーザースキャン光の放射と受光を行う光学部225を備えている。光学部225からレーザースキャン光(測距光)がパルス発光される。このパルス発光は、鉛直回転部224が回転しながら、その回転軸(水平方向に延長する軸)に直交する方向(鉛直面)に沿って行われる。この場合、光学部225から鉛直角の方向(仰角および俯角の角度方向)に沿ってレーザースキャン光がパルス発光される。なお、鉛直角は、水平方向を0°、鉛直方向を90°として計測される。
【0027】
光学系の構造には2種類ある。
図3(A)は第1の構造の概念図である。この例では、では、発光部201から発光されたレーザースキャン光は、光合成/分離部251を介して、斜めミラー252に照射される。斜めミラー252は円筒形の鉛直回転部材253の先端に斜め45°の角度で配置されている。鉛直回転部材253は、発光部201の光軸と一致する軸(水平方向に延長する軸)を回転軸として、鉛直回転部224と一体となって鉛直回転する。
【0028】
鉛直回転部材224を回転させながら、発光部201からレーザースキャン光をパルス発光させることで、鉛直面に沿った鉛直スキャンが行われる。対象から反射されたスキャン光は、逆の経路をたどり、斜めミラー面252から光合成/分離部251、可変光アッテネータ211を経て、受光部202で受光される。この構造では、発光部201と受光部202は、水平回転部223の内部に固定され、鉛直回転は行わない。
【0029】
光学系の第2の構造を
図3(B)に示す。この場合、発光部201、受光部202および光合成/分離部254が鉛直回転部224と一体となって鉛直回転する。
図3(A)と
図3(B)のいずれの構造を採用してもよい。
【0030】
水平回転部223を水平回転させ、且つ、鉛直回転部224を鉛直回転させながら、光学部225からレーザースキャン光をパルス発光させ、対象物からのその反射光を光学部225で受光することで、周囲に対するレーザースキャンが行われる。
【0031】
上記の鉛直角の方向に沿ったスキャン(縦スキャン)と同時に水平回転部223が水平回転することで、この鉛直角方向に沿ったスキャンライン(縦スキャンライン)が水平角方向(水平方向)に沿ってずれるようにして移動する。なお、鉛直回転時に水平回転も同時に行った場合、鉛直角方向に沿ったスキャン(縦スキャンライン)は完全に鉛直方向に沿っておらず、僅かであるが少し斜めの線となる。ここで、水平回転部223が回転しなければ、鉛直角方向に沿ったスキャン(縦スキャンライン)は鉛直方向に沿ったものとなる。
【0032】
水平回転部223と鉛直回転部224の回転は、モータにより行われる。水平回転部223の水平回転角と、鉛直回転部224の鉛直回転角は、エンコーダにより精密に計測さる。
【0033】
各レーザースキャン光は、1条のパルス測距光であり、一つのレーザースキャン光により、当該レーザースキャン光が当たった反射点であるスキャン点の測距が行われる。この測距値とレーザースキャン光の照射方向から、レーザースキャン装置200に対するスキャン点(レーザースキャン光の反射点)の位置が算出される。
【0034】
レーザースキャン装置200から出力される点群データ(レーザースキャン点群)の形態としては、各点(各スキャン点)に係る距離と方向のデータを出力する形態が挙げられる。レーザースキャン装置200の内部において、特定の座標系における各点の位置を計算し、各点の3次元座標位置を点群データとして出力する形態も可能である。また、点群データには、各スキャン点の輝度(反射光の強度)の情報も含まれている。
【0035】
図4は、レーザースキャン装置200のブロック図である。
図4に示す機能部の一部を別構成とし、レーザースキャン装置200に外付けする形としてもよい。例えば、
図3に示す機能部の一部をPC(パーソナル・コンピュータ)やサーバにより構成し、このPCやサーバにレーザースキャン装置200からデータを送信し、そこでデータ処理を行う形態が可能である。
【0036】
レーザースキャン装置200は、発光部201、受光部202、測距部203、方向取得部204、発光制御部205、駆動制御部206、反射プリズム検出部207、反射プリズムまでの距離取得部208、反射プリズムの方向取得部209、可変アッテネータ制御部210、可変光アッテネータ211、スキャン条件設定部212、点群データ作成部213、反射プリズムの中心算出部214、通信装置215、記憶部216、動作制御部217を備える。
【0037】
発光部201は、レーザースキャン光の発光を行う発光素子、発光に関係する光学系と周辺回路を有する。発光部201で発光されたレーザースキャン光は、光合成/分離部を介して
図2の光学部225から外部に出射される。光合成/分離部は、ハーフミラーやダイクロイック一ミラーを用いて出射光と入射光の光路の分離及び合成を行う光学系である。
【0038】
受光部202は、レーザースキャン光の受光を行う受光素子、受光に関係する光学系と周辺回路を有する。光学部225から取り込まれたレーザースキャン光の反射光は、光合成/分離部から可変光アッテネータ211に導かれ、更に受光部202に導かれる(
図3参照)。可変光アッテネータ211については後述する。
【0039】
測距部203は、受光部202の出力に基づき、レーザースキャン装置200からレーザースキャン光の反射点(スキャン点)までの距離を算出する。この例では、レーザースキャン装置200の内部に基準光路が設けられている。発光素子から出力されたレーザースキャン光は2分岐され、一方がレーザースキャン光として光学部225から対象に照射され、他方が参照光として上記基準光路に導かれる。
【0040】
対象から反射され、光学部225から取り込まれたレーザースキャン光と上記基準光路を伝搬した参照光とが合成され、受光部202に入力される。レーザースキャン光と参照光は、伝搬距離が異なり、最初に参照光が受光素子で検出され、次いでレーザースキャン光が受光素子で検出される。ここで、受光素子の出力波形を見ると、参照光の検出波形が最初に出力され、ついで時間差をおいてレーザースキャン光の検出波形が出力される。この2つの波形の位相差(時間差)からレーザースキャン装置200からレーザースキャン光の反射点までの距離が算出される。なお、レーザースキャン光の飛翔時間から距離を算出する形態も可能である。
【0041】
方向取得部204は、レーザースキャン光の光軸の方向を取得する。光軸の方向は、水平方向の光軸の角度(水平角)と鉛直方向の光軸の角度(鉛直角:仰角または俯角に相当)を計測することで得る。方向取得部204は、水平角検出部204aと鉛直角検出部204bを有する。
【0042】
水平角検出部204aは、水平回転部223の水平回転角を検出する。水平回転は、鉛直方向を回転軸とする回転である。角度の検出は、エンコーダにより行われる。鉛直角検出部204bは、鉛直回転部224の鉛直回転角(仰角または俯角)を検出する。鉛直回転は、水平方向を回転軸とする回転である。角度の検出は、エンコーダにより行われる。
【0043】
水平回転部223の水平回転角と鉛直回転部224の鉛直回転角を計測することで、レーザースキャン装置200から見たレーザースキャン光の光軸の方向、すなわちスキャン点の方向が判る。
【0044】
発光制御部205は、発光部201におけるレーザースキャン光の発光タイミングの制御を行う。駆動制御部206は、水平回転部223を水平回転させるための駆動制御を行う水平回転駆動制御部206aと、鉛直回転部224を鉛直回転させるための駆動制御を行う鉛直回転駆動制御部206bを備える。
【0045】
反射プリズム検出部207は、1回目のレーザースキャンにおいて、受光部202の受光素子の出力に基づき、反射プリズムからの反射光を識別し、検出する。反射プリズムで反射した測距光は、他の反射光に比較して桁違いに強い強度を持つ。この強度の差を利用して、受光した反射光の中から反射プリズムからの反射光を検出する。
【0046】
また、反射プリズムからの反射光の強度は強いので、反射プリズムからの反射光を受光した受光素子の出力波形は飽和した波形となる。具体的には、上端が潰れて平坦な波形となり、またこの波形が受光時間よりも長く尾を引いた状態で出力される。この特異な出力波形を識別することで、多数の反射光の中における反射プリズムからの反射光を検出することもできる。
【0047】
反射プリズムまでの距離取得部208は、反射プリズム検出部207が検出した反射プリズムまでのレーザースキャナ200からの距離を取得する。反射プリズム検出部207が検出した反射プリズムからの反射光は特定され、その距離は測距部203で計測される。1回目のレーザースキャンでは、反射プリズムからの反射光は特に強く、受光部202の受光素子は飽和し、測距の精度は低下する。よって、1回目のレーザースキャンにおける反射プリズムまでの距離取得部208が取得する距離情報は誤差を含んでいる。
【0048】
なお、2回目のレーザースキャンでは、可変光アッテネータ211を利用することで、受光素子に入力するレーザースキャン光の強度が調整されているので、正確な距離が計測できる。2回目のレーザースキャンにおいても、受光強度の差を利用して反射プリズムからの反射光であるか否か、の判定が行われる。
【0049】
反射プリズムの方向取得部209は、反射プリズム検出部207が検出した反射プリズムのレーザースキャナ200からの方向を取得する。この方向は方向取得部204から得る。
【0050】
可変光アッテネータの制御部210は、後述する可変光アッテネータ211における減衰量の制御を行う。可変光アッテネータ211は、受光部202に入射する光を減衰させる。この減衰量(減衰率)は可変できる。減衰量を可変する制御は、受光部202での受光強度と、測距部203が算出した対象までの距離に基づいて可変光アッテネータの制御部210において行われる。この技術については、例えば特願2022―112957号および特願2022―112959号に記載されている。
【0051】
可変光アッテネータ211としては、周方向において透過率が漸次変化する状態に設定された半透過性の円板を回転させることで透過率を調整する形式、液晶の透過率を制御する形式等がある。光可変アッテネータのモジュールは市販されており、その中から適宜選択して利用できる。
【0052】
反射プリズムからの反射は強いので、1回目のレーザースキャンでは、受光素子が飽和し、反射プリズムの測距値には誤差が生じる。例えば、本発明者らの実験によれば、誤差数mmの精度の測距が可能なレーザースキャナにおいて、反射プリズムからの反射光の場合、cmレベルの誤差が生じることが判っている。この誤差の増大の程度は、受光素子の非線形動作の絡みもあり、一定しないが、通常の測定誤差の数倍~10倍程度となる。
【0053】
可変光アッテネータ207を受光部202の前に配置することで、受光部202に入る光の強度を弱め、上記の受光素子の飽和に起因する問題の発生を抑制する。なお、発光部201の前に可変光アッテネータを配置する形態も可能である。
【0054】
スキャン条件設定部212は、反射プリズムに絞った2回目のレーザースキャンのスキャン条件を設定する。無駄なレーザースキャンや無駄なレーザースキャンデータの取得を避けるために、反射プリズムの精密な測位のための2回目のレーザースキャンは、反射プリズムの方向に絞った限定的な範囲を対象に行う。この際のスキャン条件の設定がスキャン条件設定部212において行われる。スキャン条件には、スキャンデータを取得する角度範囲とスキャン密度が含まれる。この例の場合、スキャンデータを取得する角度範囲は、水平角の範囲と鉛直角の範囲により決められる。
【0055】
スキャン密度は、スキャン対象におけるスキャンの密度である。具体的には、反射点の密度である。反射点が細かく密集し、隣接する反射点の間隔が狭ければ、高スキャン密度となる。逆に、反射点の分布が粗く(疎であり)、隣接する反射点の間隔が大きければ、低スキャン密度となる。
【0056】
スキャン密度の調整は、スキャン速度および/またはパルス発光の発振周波数を可変することで行われる。発振周波数の可変は一般的でないので、通常はスキャン速度の調整によりスキャン密度の調整が行われる。
【0057】
具体的には、水平方向のスキャン密度を高めるのは、スキャン時における水平回転部223の回転速度を遅くする。レーザースキャン光の発振周波数が同じ場合、水平回転部223の回転速度を遅くすることで、水平方向の単位角度範囲におけるレーザースキャン光の数が多くなり、水平方向におけるスキャン点(レーザースキャン光の反射点)の密度が高くなる。
【0058】
同様の原理により、鉛直方向のスキャン密度を高めるには、スキャン時における鉛直回転部224の回転速度を遅くする。スキャン密度を下げる場合は、逆の傾向となる。
【0059】
上記のスキャン条件の設定は、(要素1)測位対象までの距離、(要素2)測位対象の鉛直角の2つの要素に基づいて決定される。
【0060】
(要素1について)
要素1に係るスキャン条件の設定では、スキャンデータを取得する鉛直角の範囲および水平角の範囲を距離Lに対応して調整する。以下詳細に説明する。
【0061】
なお、水平方向のスキャンは、定められた範囲を含む限定された角度範囲に対して行われ、その中から設定された水平角の範囲のスキャンデータを点群データとして取り込む(利用するデータとして取得する)。
【0062】
鉛直角方向の限定されたスキャン範囲については、特定の鉛直角の範囲だけスキャンを停止する操作は機械的に困難であるので、実際には全周(縦回転360°)の範囲のスキャンが行われ、点群データとしてのデータの取り込みを特定の角度範囲のみで行う。
【0063】
このようにすることで、ハードウェアへの負担を低減でき、また利用するデータ領域を削減できる。もちろん、特定の角度範囲だけスキャンを行う形態も排除されない。
【0064】
図5には、点Oにレーザースキャン装置が配置され、ある範囲の水平角範囲と鉛直角範囲に限定してスキャンデータを得る場合が示されている。
図5には、同じ水平角範囲および鉛直角範囲の条件において、レーザースキャン装置からの距離がL1の場合のスキャン範囲1と、距離がL2の場合のスキャン範囲2が示されている。スキャン範囲1とスキャン範囲2を比較すれば明らかなように、同じ水平角範囲および鉛直角範囲の条件であっても、距離が違うとスキャン範囲(スキャンが行われる面積)は異なる。具体的には、同じ水平角範囲および鉛直角範囲であっても、距離が遠い程スキャンの範囲は大きくなる。
【0065】
反射プリズムを対象とした狭い範囲のスキャン(2回目のスキャン)は、1回目のレーザースキャンで得た反射プリズムの位置(これは受光素子の飽和に起因する誤差を含んでいる)を中心とした10cm~1m程度四方の限定されたスキャン範囲の設定となる。
【0066】
例えば、反射プリズムがあると推定される場所において、水平方向で距離H、鉛直方向で距離Vの範囲をスキャンするとする。この場合、反射プリズムまでの距離をLとし、水平角のスキャン範囲をθH、鉛直角のスキャン範囲をθVとすると、角度範囲が十分に小さい場合、LθH=H、鉛直角のスキャンθVとすると、LθV=Vを満たすようにθHとθVを設定する。この計算式から明らかなように、VとHが固定の場合、Lが大きければθHとθVは小さくてよい。Lが小さい場合(距離が近い場合)は逆の傾向となる。
【0067】
要素(1)に基づくスキャンの設定は、1回目のレーザースキャンによって得た反射プリズムまでの距離データLに基づき、上記の原理により行われる。具体的には、上記のHとVが与えられ、Lに基づき、θHとθVが設定される。
【0068】
また、Lが大きく、θHとθVが小さい条件では、スキャン速度を落とす。具体的には、水平回転部223と鉛直回転部224の少なくとも一方のスキャン時における回転速度を小さくする。これにより、Lが大きい場所でのスキャン密度の低下を抑える。
【0069】
すなわち、Lが大きい(距離が遠い)対象では、Lが小さい場合に比較して、単位角度範囲におけるレーザースキャン光の数を相対的に多くすることで、距離Lの場所におけるスキャン点の密度の低下を抑える。
【0070】
(要素2について)
要素2に係るスキャン範囲の設定では、スキャンの水平角度範囲を鉛直角に比例させて大きくする必要がある。なお、天頂付近では水平角の範囲を全周とする必要がある。
【0071】
水平回転と鉛直回転を組み合わせた
図2に例示するレーザースキャン装置200では、水平方向のスキャン範囲を決める角度範囲が同じであっても、鉛直角の角度によって、ある特定の距離におけるスキャンされる面積が変化する。
【0072】
図9に原理図を示す。例えば、鉛直角0°(仰角0°:水平方向)の特定の距離において、水平方向の特定の距離範囲(円弧1)を設定するとする。円弧1に対応する水平角の角度範囲はΔθとなる。なお、鉛直角は、水平方向を0°とし、鉛直上方(天頂)を90°とする。
【0073】
図9(A)に示すように、水平回転と鉛直回転を組み合わせたスキャンでは、鉛直角が大きくなると、水平角の角度範囲Δθに対応する水平方向のスキャン範囲は、円弧1の範囲から円弧2の範囲へと減少する。
図9(A)から明らかなように、円弧1の距離>円弧2の距離となる。天頂(鉛直角90°)に近くづく程、円弧の距離は小さくなる。天頂(鉛直角90°)では、水平角の範囲に対応する円弧の距離は0となる。
【0074】
つまり、水平方向において円弧1の範囲の水平角スキャン範囲Δθを設定した場合、高鉛直角(高仰角)になる程、水平方向の距離で捉えたスキャン範囲は狭くなる。この結果、
図9(B)に示すように、同じ水平角の角度範囲の設定では、鉛直角によって、スキャン範囲がS1⇒S2のように変化(減少)する。
【0075】
図9(B)の場合、同じ水平角の範囲の設定でのスキャンにおいて、水平方向(鉛直角が0°に近い範囲)での面積で捉えたスキャン範囲がS1であるとすると、高鉛直角では、面積で捉えたスキャン範囲はS2に減少する。S1に比較すると、減少した水平方向の距離範囲(
図1の円弧1と円弧2の差)の分、S2は面積が小さくなる。つまり、スキャン範囲の面積が狭くなる。よって、鉛直角が大きい場所は、意図的に水平角の範囲を拡大し、S1とS2の面積の差を是正する必要がある。
【0076】
極値として天頂部分(延長角=90°)では、水平角の範囲を全周(360°)に拡張する必要がある。例えば、天頂付近に
図9のような丸いスキャン範囲がある場合、鉛直角2(例えば85°等)から天頂角(90°)の範囲で水平角度を360°回転させることで天頂付近のデータを取得可能になる。その場合、鉛直角=0°~鉛直角2の範囲のスキャンデータを間引くことで適切なスキャンデータを取得することが可能となる。
【0077】
(スキャン条件の最適化の一例)
上述した要素1と要素2を勘案したスキャン条件の最適化の一例を以下に説明する。
【0078】
以下、具体例を示す。なお対象は反射プリズムとする。まず、1回目のレーザースキャンの結果から、反射プリズムからの反射光に基づく点群データを抽出し、レーザースキャン装置200から反射プリズムまでの距離Lと鉛直角を取得する。この距離Lには、強反射光に起因する誤差が含まれるが、2回目のレーザースキャンの範囲の設定には問題なく利用できる。鉛直角は、レーザースキャン装置200から見た当該反射プリズムの鉛直方向の角度である。レーザースキャン装置200から見て、当該反射プリズムが水平方向に見える場合、鉛直角=0°である。
【0079】
要素1に係る調整は以下のようにして行う。ここでは、反射プリズムを探索するスキャン範囲を水平方向でHm、鉛直方向でVmとする。この範囲は、反射プリズムの寸法に基づいて予め設定される。例えば、反射プリズム反射面の見掛け寸法が正面から見て直径5cmの円形である場合、余裕を見てH=10cm、V=10cmの範囲がスキャン範囲として設定される。この際、1回目のレーザースキャンから得た反射プリズムの反射中心となる点がスキャン範囲の中心に位置するようにスキャン範囲を定める。
【0080】
ここで、水平角のスキャン範囲をθH(rad)、鉛直角のスキャン範囲をθV(rad)する。ここでは、LθH=H、LθV=Vを満たすようにθHとθVを求める。
【0081】
簡易的には、
図11に示す補正曲線を予め用意しておき、距離Lに応じて左の縦軸の角度範囲をθ
H(deg)およびθ
V(deg)として選択する方法がある。
図11は、凡そ縦横10cm四方の範囲をスキャン範囲として選択した場合の補正曲線である。
【0082】
図11の右の縦軸はスキャン速度である。
図11に示すスキャン速度の設定では、距離Lが大きくなる程、スキャン速度を遅くし、スキャン密度が低下しないようにしている。スキャン速度の調整は、水平回転部223と鉛直回転部124の回転速度を調整することで行う。
【0083】
具体的には、スキャン時における水平回転部223の水平回転の回転速度が遅くすると、水平方向におけるスキャン密度(スキャン点の密度)が高くなる。また、スキャン時における鉛直回転部214の鉛直回転の回転速度が遅くすると、鉛直方向におけるスキャン密度(スキャン点の密度)が高くなる。
【0084】
理想的には、水平回転部223と鉛直回転部224の両方において、スキャン密度の低下を抑制するためのスキャン速度の調整を行いうことが望ましい。
【0085】
次に上記要素1を勘案した結果に対して要素2の考慮した補正を行う。要素2に関しては、予め鉛直角に対応した
図9の円弧1(鉛直角=0°)に対する補正係数k(1≦k)を求めておき、この補正係数kを用いて上記θ
Hを修正する。補正係数kは、鉛直角に比例して大きくなる。
【0086】
鉛直角が大きくなると、水平方向のスキャン範囲の修正値はkθ
Hとなる。例えば、k=1/cosθ(θ:鉛直角、ただしθ=90°は除く)により、kを求める例が挙げられる。なお、鉛直角90°の場合は、水平方向のスキャン範囲は全周(水平方向の周囲360°)となる(
図10参照)。
【0087】
点群データ作成部213は、レーザースキャンの結果に基づき点群データを作成する。点群データは、各点(各スキャン点)に係る距離と方向のデータおよび各スキャン点の輝度(反射光の強度)のデータである。
【0088】
この例では、水平方向における限定したスキャンは、水平回転部223を限定した角度範囲で水平回転させることで行う。実際には、ある程度の余裕を見て少し広い範囲で水平回転を行い、その際に得られたスキャンデータの中から予め定めた水平角度範囲のスキャンデータを点群データとして抽出する。この予め定めた水平角度範囲は、スキャン条件設定部212で設定される。
【0089】
同時に、鉛直方向のスキャンは、鉛直回転部224を全周鉛直回転させながら、スキャンを行う。そして、得られた全周スキャンデータの中から予め定めた鉛直角度範囲のスキャンデータを点群データとして抽出する。この予め定めた鉛直角度範囲は、スキャン条件設定部212で設定される。
【0090】
こうして、予め定めた水平角度範囲および鉛直角度範囲のスキャンデータが点群データとして抽出される。この処理が点群データ作成部213において行われる。不要なスキャン点をデータして扱わないことで、演算の負担を軽減し、またデータ容量の消費が抑えられる。
【0091】
反射プリズムの中心算出部214は、レーザースキャンにおいて取得した反射プリズムの点群データに基づき、反射プリズムの反射中心の位置の算出を行う。具合的には、反射プリズムからの反射光によって得られた複数の点群データから重心の位置を算出し、その位置を反射プリズムの反射中心として算出する。なお、基となる点群データの精度に起因して、第1のレーザースキャンの結果に基づく反射プリズムの測位位置の精度が相対的に低く、第2のレーザースキャンの結果に基づく反射プリズムの測位位置の精度が相対的に高くなる。
【0092】
通信装置215は、図示しない外部のコントローラ、その他の装置との間で通信を行う。通信は、有線、無線LAN、携帯電話回線等を用いて行われる。記憶部216は、半導体メモリやハードディスク装置により構成され、レーザースキャン装置200の動作に必要な動作プログラム、データ、動作の過程や動作の結果得られるデータを記憶する。動作制御部217は、レーザースキャン装置200の動作制御を行うコンピュータである。
【0093】
(スキャン光のビーム断面形状に関する説明)
以下、
図3(A)の鉛直スキャン(縦スキャン)の方式を採用した場合に生じるレーザースキャン光(測距光)のビーム断面形状の回転について説明する。このレーザースキャン光のビーム断面の回転を勘案して、スキャン条件やスキャンデータの処理の内容を決めても良い。
【0094】
図6は、反射ミラーの回転に伴い測距光のビーム断面形状が回転する原理を示す原理図である。
図6(A)には、X軸正の方向からY軸方向に長手方向を有する形状に扁平したビーム断面を有するレーザースキャン光が、ミラー601に入射した場合が示されている。この場合のミラー601の反射面の法線ベクトルの成分は(X,Y,Z)=(1,-1,0)である。この場合、ミラー601によりレーザースキャン光はY軸負の方向に反射される。この反射光の断面の長手方向はX軸方向となる。
【0095】
図6(A)の状態からミラー601がX軸を軸として90°回転(X軸負の方向から見て反時計周りに90°回転)した状態が
図6(B)に示されている。
【0096】
図6(B)の場合、ミラー601の反射面の法線ベクトルの成分は(X,Y,Z)=(1,1,0)である。この場合、ミラー601によりレーザースキャン光はZ軸正の方向に反射される。この反射光の断面の長手方向は入射光と同じY軸方向となる。
【0097】
ここで、ミラー601を
図6(A)の状態から
図6(B)の状態に徐々に回転させ、その際の反射光のビーム断面の長手方向の変化を考える。この場合が
図7に示されている。
図7に示すように、ミラーを回転させ、鉛直スキャンを行う場合、水平方向でX軸方向に長手方向を有していたビーム断面は、鉛直角が大きくなる(水平からの仰角が大きくなる)につれて回転し、延長角90°(鉛直方向)でY軸方向に長手方向を有した状態となる。
【0098】
図8に鉛直角とビーム断面の回転の関係の一例を示す。
図8には、楕円のビーム断面を有するレーザースキャン光が鉛直角の違いによって回転する模様が示されている。
図8には、低鉛直角で水平方向に長軸を有する楕円ビームが高鉛直角になるのに従って回転し、H方向のビーム寸法とV方向のビーム寸法が変化する様子が示されている。
【0099】
なお、ミラーに入射するビームの断面が円形の場合は、上述した回転の影響は生じない。また、ミラーに入射するビームの断面が正方形の場合は、厳密には上述した回転の影響が生じるが、特に問題とはならない。
【0100】
以下、
図6~
図8に例示するビーム断面の回転に関係する制御の一例を説明する。ここでは、2回目のレーザースキャンにおけるスキャン範囲の設定の場合を考える。
【0101】
図8に例示するように、断面が長手形状を有するレーザースキャン光の場合、鉛直角によって、V方向とH方向のビーム径(ビーム断面の寸法)が変化する。ここで、例えば、鉛直角0°(横長ビーム)でスキャン光の重なり具合が最適化されている場合、高鉛直角で水平方向の隙間が生じる可能性がある。
【0102】
この場合、ビーム中心の鉛直角位置に応じて、高鉛直角でH方向のスキャン密度を高める。またこの場合、高鉛直角でビームが縦長となりV方向の重なりが過剰になるので、V方向のスキャン密度を下げる。実際には、V方向でのスキャン速度の可変調整は、適切でないので、鉛直角に応じて点群データの取り込む密度を調整する(逆に言うと間引く密度を調整する)。これにより、V方向のスキャン密度の調整が行われる。
【0103】
また、
図8の場合と逆に鉛直角0°において縦長のビーム断面である場合、高鉛直角になる程、横長のビーム断面となり、スキャン条件によっては、V方向のスキャンに隙間が生じる可能性が生じる。この場合、高鉛直角において、V方向のスキャン密度を高める。
【0104】
(処理の手順の一例)
図12は、処理の手順の一例を説明するフローチャートである。
図12の処理を実行するプログラムは、記憶部216や適当な記憶媒体に記憶され、動作制御部217を構成するコンピュータのCPUにより実行される。
【0105】
まず、
図1の状態で1回目のレーザースキャンを行う(ステップS101)。ここで、反射プリズム300と400の絶対座標系における位置は既知であり、レーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢は未知である。座標系としてローカル座標系を用いることもできる。1回目のレーザースキャンは、地形や建物等を対象に行うもので、反射プリズムからの強い反射を考慮した減光を行わない一般的な条件で全周に対して行われる。
【0106】
第1のレーザースキャンにより得たスキャンデータから反射プリズム300と400からの反射に係るスキャンデータを抽出する(ステップS102)。この処理は、検出したレーザースキャン光の受光強度やその検出波形に基づいて行われる。
【0107】
次に、ステップS102において得たスキャンデータの重心の位置を算出する(ステップS103)。これにより、反射プリズム300と400の反射中心の位置が求まる。次に、ステップS102において求めた重心位置までの距離(レーザースキャン装置200からの離間距離)を取得する(ステップS104)。これにより、レーザースキャン装置200から反射プリズム300までの距離L1、およびレーザースキャン装置200から反射プリズム400までの距離L2が得られる。また、レーザースキャン装置200から見た反射プリズム300の反射中心の方向、レーザースキャン装置200から見た反射プリズム400の反射中心の方向が得られる。
【0108】
次に、
図5に関連して説明した方法により、要素1を勘案した距離に応じたスキャン範囲の設定が行なわれる(ステップS105)。ここでは、距離L1に応じた反射プリズム300の精密なスキャンのためのスキャン範囲の設定と、距離L2に応じた反射プリズム300の精密なスキャンのためのスキャン範囲の設定が行なわれる。
【0109】
ステップS105では、反射プリズム300の方向を中心とし、更に反射プリズム300までの距離に応じたスキャン範囲の設定が行なわれる。また、ステップS105では、反射プリズム400の方向を中心とし、更に反射プリズム400までの距離に応じたスキャン範囲の設定が行なわれる。なお、ステップS105では、鉛直角0°としてスキャン範囲の設定が行なわれる。
【0110】
次に、ステップS105で得たスキャン範囲に対して、要素2を勘案したスキャン範囲の設定(修正)が行なわれる(ステップS106)。この処理では、
図9に関連して説明したように、高鉛直角となる程、スキャン範囲が狭くなるので、高鉛直角ではスキャン範囲を意図的に広げる。なお、特異値として鉛直角90°の場合は、水平角360°の範囲がスキャン範囲となる(ただし、縦スキャンデータの取得範囲は、限定される)。
【0111】
ステップS106の後、2回目のレーザースキャンが行われる(ステップS107)。2回目のレーザースキャンは、ステップS106の後の段階で得られている特定の範囲を絞ったスキャン範囲に対して行われる。
【0112】
2回目のレーザースキャンでは、受光部202の前に可変アッテネータ211を挿入し、受光部202に入力するレーザースキャン光の強度を落とす。これにより、受光素子の飽和を防ぎ、測距精度の低下を抑制する。減光の程度は、1回目のレーザースキャンにおいて得られた検出光の強度および対象となる反射プリズムまでの距離に基づいて調整される。
【0113】
例えば、仮にステップS106において得られたスキャン範囲が水平角の範囲で90°~91°、円直角の範囲が5°~6°であるとする。なお、水平角は鉛直上方から見て北の方向を0とし、時計回りに計測されるとする。鉛直角は、水平方向を0°として、鉛直上方を90°として計測されるとする。
【0114】
この場合、水平角のスキャン範囲は、余裕を見て、3°~8°とし、その範囲から得られたスキャンデータの中から5°~6°の範囲のスキャンデータを採用する。鉛直方向のスキャンは、全周(360°)に対して行い、得られたスキャンデータの中から0°~1°の範囲のスキャンデータを採用する。これにより、処理が効率化される。
【0115】
次に、第2のレーザースキャンによって得た反射プリズム300と400のスキャンデータの重心の位置を計算し(ステップS108)、この重心の位置から反射プリズム300と400の反射中心の位置を取得する(ステップS109)。ここで得た位置データは、受光素子の飽和の問題がないので、高い精度となる。
【0116】
反射プリズム300と400の位置を得たら、後方交会法により、レーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢を算出する(ステップS110)。レーザースキャン装置200の絶対座標系における位置と姿勢を算出したら、それを用いて第1のレーザースキャンにより得られた点群データ各点の絶対座標系における位置を算出する(ステップS111)。
【0117】
ステップS110とS111の処理は、レーザースキャン装置200ではなく、データ処理用のコンピュータを用いて行う。すなわち、ステップS109の段階のデータがデータ処理用のコンピュータに送られ、そこでステップS110とステップS111の処理が行われる。
【0118】
(優位性)
本実施形態によれば、レーザースキャンにおける適切なスキャン条件の設定が行なわれる。これにより、処理を効率化できる。
【符号の説明】
【0119】
200…レーザースキャン装置ト、221…三脚、223…水平回転部、224…鉛直回転部、225…光学部。