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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049740
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】電動推進ユニット
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/00 20060101AFI20240403BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B63H20/00 823
B63H21/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156155
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志塚 勇治
(57)【要約】
【課題】 容易な操作で電動移動体の前進と後進と切り替えることができる電動推進ユニットを提供し、延いてはエネルギの効率化に寄与することを目的とする。
【解決手段】 電動移動体2に推進力を発生させる電動推進ユニット1は、電動モータ8と、推進力発生部材12と、バッテリ9と、操作部30と、制御装置10と、を有する。
操作部は、正方向及び逆方向に変位可能に構成され、電動モータの出力トルクを変更するための変更操作を受け付ける。制御装置は、操作部の操作量θに基づいた目標出力トルクが達成されるように電動モータを制御する。制御装置は、電動モータが正回転中に操作部が正方向に操作された場合、目標出力トルクを正の値に設定し、電動モータが逆回転中に操作部が正方向に操作された場合、目標出力トルクを負の値に設定し、制御装置は、電動モータが正回転中に操作部が逆方向に操作された場合、目標出力トルクを負の値に設定する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動移動体に推進力を発生させる電動推進ユニットであって、
電動モータと、
前記電動モータによって駆動されて推進力を発生する推進力発生部材と、
前記電動モータに電力を供給するためのバッテリと、
前記電動モータの出力トルクを変更するための変更操作を受け付ける操作部と、
前記操作部の操作量に基づいて、前記電動モータに対する目標出力トルクを設定し、当該目標出力トルクが達成されるように前記電動モータを制御する制御装置と、を有し、
前記操作部は、中立位置から正方向及び逆方向に変位可能に構成され、
前記制御装置は、前記電動モータが正回転中に前記操作部が前記正方向に操作された場合、前記目標出力トルクを正の値に設定し、前記電動モータが逆回転中に前記操作部が前記正方向に操作された場合、前記目標出力トルクを負の値に設定し、
前記制御装置は、前記電動モータが正回転中に前記操作部が前記逆方向に操作された場合、前記目標出力トルクを負の値に設定する、電動推進ユニット。
【請求項2】
前記操作部は、前記中立位置に常時付勢されるように構成され、
前記制御装置は、前記電動モータが正回転中に前記操作部が前記中立位置に戻された場合、前記目標出力トルクを負の値に設定する、請求項1に記載の電動推進ユニット。
【請求項3】
前記制御装置は、正回転中の前記電動モータの回転速度が所定の第1閾値以下である場合、前記操作部が前記中立位置にあるときに設定する前記目標出力トルクを0に設定する、請求項2に記載の電動推進ユニット。
【請求項4】
前記制御装置は、前記電動モータが正回転しているときに前記操作部が前記中立位置に戻された場合、負の値に設定された前記目標出力トルクを達成するべく、前記電動モータを発電機として機能させ、前記バッテリに回生充電を行う回生充電制御を実行する請求項2又は3に記載の電動推進ユニット。
【請求項5】
前記制御装置は、前記電動モータが逆回転中に前記操作部が前記中立位置に戻された場合、前記目標出力トルクを正の値に設定する、請求項2に記載の電動推進ユニット。
【請求項6】
前記制御装置は、逆回転中の前記電動モータの回転速度の絶対値が所定の第2閾値以下である場合、前記操作部が前記中立位置にあるときに前記目標出力トルクを0に設定する、請求項5に記載の電動推進ユニット。
【請求項7】
前記制御装置は、前記電動モータが所定値よりも大きな絶対値の回転速度をもって逆回転しているときに前記操作部が前記逆方向に操作された場合、前記目標出力トルクを0に設定する、請求項5又は6に記載の電動推進ユニット。
【請求項8】
前記制御装置は、前記電動モータが逆回転しているときに前記操作部が前記中立位置に戻された場合、正の値に設定された前記目標出力トルクを達成するべく、前記電動モータを発電機として機能させ、前記バッテリに回生充電を行う回生充電制御を実行する請求項5又は6に記載の電動推進ユニット。
【請求項9】
前記操作部は、前記中立位置から前記逆方向の最大操作量が、前記正方向の前記最大操作量よりも小さくなるように構成される、請求項1に記載の電動推進ユニット。
【請求項10】
前記制御装置は、前記電動モータが正回転中に前記操作部が前記逆方向に操作された場合、前記目標出力トルクを、前記操作部の操作量に関わらず、前記電動モータの回転速度に応じて設定された負の値に設定する請求項9に記載の電動推進ユニット。
【請求項11】
前記電動モータが逆回転しており且つ前記操作部が前記逆方向に操作されているときに設定される負の値の前記目標出力トルクの絶対値の最大値は、前記電動モータが正回転しており且つ前記操作部が前記正方向に操作されているときに設定される正の値の前記目標出力トルクの絶対値の最大値よりも小さい、請求項1又は2に記載の電動推進ユニット。
【請求項12】
前記電動モータが正回転から逆回転に移行したことを通知する通知部を更に有する、請求項1又は2に記載の電動推進ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動推進ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。二次電池から電力供給を受ける電動船外機は、電動モータの駆動力をプロペラに与えることによって船体を前進又は後退させる。電動モータの回転方向は、船体を前進させるための正転方向と船体を後退させるための逆転方向とを有する。特許文献1に記載の電動船外機は、プロペラと、プロペラを回転させる電動モータと、電動モータを制御する電子制御ユニットと、船外機本体と共に船体に対して回動可能なティラーハンドルとを有する。ティラーハンドルは、ティラーハンドルに対して回転可能なアクセルグリップと、シフトスイッチとを有する。電子制御ユニットは、アクセルグリップの回転角度に対応するように電動モータの出力(電動モータに供給される電流の大きさ)を制御する。シフトスイッチは、電動モータの回転方向を正転方向又は逆転方向に切り替える際に操作される。これにより、制御装置が電動モータの回転方向を切り替え、船体の前進と後進とが切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-126954号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電動船外機において、船の前進と後進とを切り替える場合、使用者はシフトスイッチ及びアクセルグリップの2つを操作する必要がある。即ち、船の前進と後進とを切り替えるために、使用者は、アクセルグリップを初期位置に戻す操作と、アクセルグリップを初期位置に戻した状態でシフトスイッチを押す操作とを行う。従って、操作が煩雑であり、前進と後進との切替の操作に改善の余地がある。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、容易な操作で電動移動体の前進と後進と切り替えることができる電動推進ユニットを提供し、延いてはエネルギの効率化に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、電動移動体(2)に推進力を発生させる電動推進ユニット(1)であって、電動モータ(8)と、前記電動モータによって駆動されて推進力を発生する推進力発生部材(12)と、前記電動モータに電力を供給するためのバッテリ(9)と、前記電動モータの出力トルクを変更するための変更操作を受け付ける操作部(30)と、前記操作部の操作量(θ)に基づいて、前記電動モータに対する目標出力トルクを設定し、当該目標出力トルクが達成されるように前記電動モータを制御する制御装置(10)と、を有し、前記操作部は、中立位置から正方向及び逆方向に変位可能に構成され、前記制御装置は、前記電動モータが正回転中に前記操作部が前記正方向に操作された場合、前記目標出力トルクを正の値に設定し、前記電動モータが逆回転中に前記操作部が前記正方向に操作された場合、前記目標出力トルクを負の値に設定し、前記制御装置は、前記電動モータが正回転中に前記操作部が前記逆方向に操作された場合、前記目標出力トルクを負の値に設定する。
【0007】
この態様によれば、使用者は1つの操作部を操作することによって、電動モータの出力トルクの方向及び出力トルクの値を切り替えることができる。従って、容易な操作で電動モータの出力トルクの方向、即ち電動移動体の前進と後進とを切り替えることができる。
【0008】
上記の態様において、前記中立位置に常時付勢されるように構成され、前記制御装置は、前記電動モータが正回転中に前記操作部が前記中立位置に戻された場合、前記目標出力トルクを負の値に設定するとよい。
【0009】
この態様によれば、電動モータが負の出力トルク、即ち減速力を発生するため、電動移動体を速く停止させることができる。
【0010】
上記の態様において、前記制御装置は、正回転中の前記電動モータの回転速度(ω)が所定の第1閾値(ω1)以下である場合、前記操作部が前記中立位置にあるときに設定する前記目標出力トルクを0に設定するとよい。
【0011】
この態様によれば、電動モータが正回転中に操作部を中立位置に戻す1つの操作によって電動モータが減速力を発生する状態から出力を停止する状態に切り替わる。従って、前進中に電動移動体を停止させる操作が容易である。
【0012】
上記の態様において、前記制御装置は、前記電動モータが正回転しているときに前記操作部が前記中立位置に戻された場合、負の値に設定された前記目標出力トルクを達成するべく、前記電動モータを発電機として機能させ、前記バッテリに回生充電を行う回生充電制御を実行するとよい。
【0013】
この態様によれば、電動移動体の前進中に制御装置によって減速エネルギは回生エネルギに変換され、バッテリのエネルギ損失が抑制される。従って、エネルギの効率化に寄与することができる。
【0014】
上記の態様において、前記制御装置は、前記電動モータが逆回転中に前記操作部が前記中立位置に戻された場合、前記目標出力トルクを正の値に設定するとよい。
【0015】
この態様によれば、電動モータが正の出力トルク、即ち後進中の減速力(加速力)を発生するため、電動モータの逆回転中、典型的には電動移動体の後進中に、電動移動体を速く停止させることができる。
【0016】
上記の態様において、制御装置は、逆回転中の前記電動モータの回転速度の絶対値が所定の第2閾値(ω2)以下である場合、前記操作部が前記中立位置にあるときに前記目標出力トルクを0に設定するとよい。
【0017】
この態様によれば、電動モータが逆回転中の操作部中立位置に戻す1つの操作によって電動モータが後進中に減速力を発生させる状態から出力を停止する状態に切り替わる。従って、後進中に電動移動体を停止させる操作が容易である。
【0018】
上記の態様において、前記制御装置は、前記電動モータが所定値よりも大きな絶対値の回転速度をもって逆回転しているときに前記操作部が前記逆方向に操作された場合、前記目標出力トルクを0に設定するとよい。
【0019】
この態様によれば、電動モータの逆転中、典型的には電動移動体の後進中において、操作部が逆方向に操作された場合、電動モータが出力を停止することにより、電動移動体がゆっくりと停止する。
【0020】
上記の態様において、前記制御装置は、前記電動モータが逆回転しているときに前記操作部が前記中立位置に戻された場合、正の値に設定された前記目標出力トルクを達成するべく、前記電動モータを発電機として機能させ、前記バッテリに回生充電を行う回生充電制御を実行するとよい。
【0021】
この態様によれば、電動移動体の後進中にも、制御装置によって減速エネルギは回生エネルギに変換される。
【0022】
上記の態様において、前記操作部は、前記中立位置から前記逆方向の最大操作量が、前記正方向の前記最大操作量よりも小さくなるように構成されるとよい。
【0023】
この態様によれば、使用者は操作部を正方向に操作しているか、逆方向に操作しているかの判別ができる。
【0024】
上記の態様において、前記制御装置は、前記電動モータが正回転中に前記操作部が前記逆方向に操作された場合、前記目標出力トルクを、前記操作部の操作量に関わらず、前記電動モータの回転速度に応じて設定された負の値に設定するとよい。
【0025】
この態様によれば、使用者は操作部の逆方向の操作から正方向の操作への切替を電動移動体の速さを以て行うことができる。
【0026】
上記の態様において、前記電動モータが逆回転しており且つ前記操作部が前記逆方向に操作されているときに設定される負の値の前記目標出力トルクの絶対値の最大値は、前記電動モータが正回転しており且つ前記操作部が前記正方向に操作されているときに設定される正の値の前記目標出力トルクの絶対値の最大値よりも小さいとよい。
【0027】
この態様によれば、電動移動体が後進しているときに、過度な出力トルクが出力されて電動移動体が過度な減速力を受けることを抑制できる。即ち、電動モータの逆回転の過度な加速が抑制される。
【0028】
上記の態様において、当該電動推進ユニットは、前記電動モータが正回転から逆回転に移行したことを通知する通知部(36)を更に有するとよい。
【0029】
この態様によれば、使用者は電動移動体を前進から後進に切り替える際に、負の出力トルクの絶対値を大きくするために操作部を逆方向から正方向に操作するべきタイミングを認識することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上の構成によれば、容易な操作で電動移動体の前進と後進とを切り替えることができる電動推進ユニットを提供し、延いてはエネルギの効率化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る電動推進ユニットを適用した電動船外機の側面図
図2】アクセルグリップの中立位置を規定する手段を表す説明図
図3】電動船外機の電気的な構成を示すブロック図
図4】トルクマップを示す図
図5】操作に応じた目標出力トルク及び電動モータの作動の説明図
図6】操作に応じた目標出力トルク及び電動モータの作動の説明図
図7】操作に応じた目標出力トルク及び電動モータの作動の説明図
図8】操作に応じた目標出力トルク及び電動モータの作動の説明図
図9】操作に応じた目標出力トルク及び電動モータの作動の説明図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る電動推進ユニットについて説明する。本実施形態では、電動推進ユニットが電動船外機1に適用された船舶について説明する。船舶は、船体2と、船体2に推進力を発生させる電動船外機1とを含む。以下の実施形態では、電動船外機1が船体2に取り付けられた使用状態を基準にして、前後、上下等の方向を示す用語を用いる。
【0033】
電動船外機1は、船外機本体と、船外機本体を船体2に取り付けるための取付装置5とを備えている。船外機本体は、本体ケース6と、電動モータ8と、推進力発生部材と、バッテリ9と、制御装置10とを有する。本実施形態では、推進力発生部材としてプロペラ12が用いられている。また船外機本体は、ドライブシャフト14と、ギア装置15と、プロペラシャフト16と、ティラーハンドル18とを更に有する。以下、電動船外機1の構成要素について順番に説明する。
【0034】
本体ケース6は、金属材料又は硬質の樹脂材料によって所定の剛性を有するように構成されている。本体ケース6は、上部に配置されたケース上部20と、ケース上部20の下方に配置されたケース下部21とを含んでいる。ケース上部20及びケース下部21は、互いに同一の材料によって構成されてもよく、互いに異なる材料によって構成されてもよい。ケース上部20は、上下方向に扁平で前後方向に長い中空形状をなしている。ケース上部20は電動モータ8及び制御装置10を格納している。ケース下部21は、上下方向に長い中空形状をなしている。ケース下部21は、ギア装置15を格納している。本体ケース6には、ケース上部20からケース下部21に亘って延びるドライブシャフト14が配置されている。
【0035】
電動モータ8は、プロペラ12を回転させるための電動機と回生用の発電機とを兼ねたものである。電動モータ8は、二次電池であるバッテリ9を電源として、後述する制御装置10によってインバータ24を介してバッテリ9からの電力供給とバッテリ9に対する電力供給(充電)とを制御される。電動モータ8は、出力軸が鉛直下方向に延出するようにケース上部20の上部に配置される。バッテリ9は、本体ケース6の外部、即ち船体2に配置されてもよいし、本体ケース6の内部に配置されてもよい。
【0036】
ドライブシャフト14は、電動モータ8の下方で上下方向に延びている。ドライブシャフト14の上端部は、電動モータ8の出力軸に接続されている。ドライブシャフト14の下端部には、第1ベベルギアからなるドライブギア25が一体に設けられている。ドライブシャフト14は、上下一対のベアリングによって回転可能にケース下部21に支持されている。
【0037】
プロペラシャフト16は、ドライブシャフト14の下方で前後方向(水平方向)に延びている。即ち、プロペラシャフト16の軸方向は前後方向である。プロペラシャフト16は前後一対のベアリングによって回転可能にケース下部21に支持されている。プロペラシャフト16の前端部には、ドライブギア25に噛合する第2ベベルギアからなるドリブンギア26が一体に設けられている。プロペラシャフト16はケース下部21の支持穴を貫通し、ケース下部21から後方へ延出しており、本体ケース6の外部に露出している。
【0038】
ギア装置15は、ドライブシャフト14の下端に設けられたドライブギア25及びプロペラシャフト16の前端に設けられたドリブンギア26を含んで構成されている。ドライブシャフト14の回転は、ギア装置15を介してプロペラシャフト16に伝達される。
【0039】
プロペラ12は、電動モータ8によって駆動されて推進力を発生する。プロペラ12は、プロペラシャフト16の後部の外周に固定されている。プロペラ12は、ケース下部21の後端部よりも後方に位置しており、本体ケース6の外部に露出している。プロペラ12の外周面には、複数のフィン27が突出している。
【0040】
ティラーハンドル18は、船外機本体と共に船体2に対して回動可能に設けられている。即ちティラーハンドル18は、ケース上部20に左右方向の軸線周りに回動可能に設けられている。ティラーハンドル18は、回転可能に設けられたアクセルグリップ30を有する。アクセルグリップ30は、ティラーハンドル18の外周を覆うように設けられている。本実施形態では、アクセルグリップ30は、中立位置から正方向及び逆方向に変位可能に且つ中立位置に常時付勢されるように構成される。またアクセルグリップ30は、アクセルグリップ30の逆方向の最大回転操作量(最大開度θ)が、アクセルグリップ30の正方向の最大開度θよりも小さくなるように構成される。
【0041】
図2に示すように、ティラーハンドル18にはアクセルグリップ30の中立位置を規定する手段が設けられている。具体的には、ティラーハンドル18とアクセルグリップ30との間には、第1ばね31と第2ばね32とが設けられている。第1ばね31は、アクセルグリップ30が中立位置から正方向に回転されたとき、アクセルグリップ30を中立位置に戻すための付勢力を発生する。第2ばね32は、アクセルグリップ30が中立位置から逆方向に回転されたとき、アクセルグリップ30を中立位置に戻すための付勢力を発生する。より詳細な構造については、特許第5166192号記載のアクセルグリップ30を参照されたい。これにより、使用者はアクセルグリップ30を回転操作した後、アクセルグリップ30を把持した手を離したとき、第1ばね31又は第2ばね32の付勢力によって、アクセルグリップ30は中立位置に戻される。
【0042】
図3に示すように、制御装置10にはインバータ24が電気的に接続されている。制御装置10はインバータ24を介して電動モータ8に接続されている。また制御装置10は、アクセルグリップ30の回転操作量、即ちアクセルグリップ30の開度θを検出する開度センサ34と、電動モータ8の回転速度ωを検知する回転速度センサ35と、通知部36とを有する。バッテリ9は制御装置10接続され且つインバータ24を介して電動モータ8に接続されている。
【0043】
制御装置10は、CPU、MPU等の演算処理装置としてのプロセッサ11、記憶装置13(ROM、RAM等のメモリ)を備え、電動モータ8の制御に必要な各種処理を実行するように構成されたコンピュータからなる。制御装置10が各種処理を実行するように構成されているとは、制御装置10を構成するプロセッサ11(演算処理装置)が、開度センサ34からの実行指令に従って、記憶装置13(メモリ)から必要なデータ及びアプリケーションソフトウェアを読み取り、当該ソフトウェアに従って当該所定の演算処理を実行するようにプログラムされていることを意味する。制御装置10はプログラムに従って所定の演算処理をCPUで実行することで、駆動制御又は回生充電制御を実行する。制御装置10は1つのハードウェアとして構成されていてもよく、複数のハードウェアからなるユニットとして構成されていてもよい。
【0044】
アクセルグリップ30は、正方向及び逆方向への回転操作並びに中立位置への戻し操作を、電動モータ8の出力トルクを変更するための変更操作として受け付ける。開度センサ34は、アクセルグリップ30の開度θを検出し、検出した開度信号を制御装置10に出力する。
【0045】
本実施形態では、開度センサ34はアクセルグリップ30の正方向の回転操作は正の値として出力され、逆方向の操作量は負の値として出力され、中立位置の操作量は0として出力される。また、出力トルクは、船の前進方向を正の出力トルク、船の後進方向を負の出力トルクとして設定される。電動モータ8の回転方向において、船体2を前進させるための正転方向への回転速度ωを正、船体2を後進させるための逆転方向への前記回転速度ωを負として設定されてもよい。出力トルクは、トルクであってよく、トルクと電動モータ8の回転速度ωとの積であってもよい。
【0046】
制御装置10には、電動モータ8の制御のためのトルクマップ40が備わっている。トルクマップ40は、アクセルグリップ30の開度θに対応する、電動モータ8に対する目標出力トルクが設定されている。制御装置10は、トルクマップ40を参照して目標出力トルクを設定して、当該目標出力トルクが達成されるように電動モータ8を制御する。具体的には制御装置10は、駆動制御において、アクセルグリップ30の開度θに応じた電流をバッテリ9からインバータ24を介して電動モータ8に供給する。これにより電動モータ8は正方向又は逆方向に回転する。電動モータ8の回転力は、ドライブシャフト14、ギア装置15及びプロペラシャフト16を介してプロペラ12を回転させる。プロペラ12の回転によって発生した推進力により船体2が前進又は後進する。
【0047】
回生充電制御において制御装置10は電動モータ8を発電機として機能させ、インバータ24を介してバッテリ9に対する電力供給(回生充電)を制御する。プロペラ12の回転力はプロペラシャフト16、ギア装置15及び、ドライブシャフト14を介して電動モータ8を回転させる。即ち電動モータ8は、減速時には減速エネルギを電力に変換回生して回生制動力を発生する回生制動手段をなす。制御装置10は、回転速度センサ35から検出された電動モータ8の回転速度ωの向きと、開度センサ34から出力された目標出力トルクの向きとが一致しないとき、回生充電制御を実行する。
【0048】
制御装置10は、電動モータ8が正回転中にアクセルグリップ30が正方向に回転操作された場合、目標出力トルクを正の値に設定し、電動モータ8が逆回転中にアクセルグリップ30が正方向に回転操作された場合、目標出力トルクを負の値に設定する。更に制御装置10は、電動モータ8が正回転中にアクセルグリップ30が逆方向に回転操作された場合、目標出力トルクをアクセルグリップ30の逆方向の開度θに関わらず、電動モータ8の回転速度ωに応じて設定された負の値に設定する。
【0049】
図4は、電動モータ8の回転速度ω及びアクセルグリップ30の開度θに応じて目標出力トルクが設定されたトルクマップ40を示す図である。図4に示すようにトルクマップ40は、縦軸Vと、縦軸Vに直行する横軸Hとを有する。本実施形態では、縦軸Vがアクセルグリップ30の開度θを示し、横軸Hが電動モータ8の回転速度ωを示している。
【0050】
トルクマップ40には、縦軸Vに平行な複数の縦線と、横軸Hに平行な複数の横線とが交わることによって複数のマスが形成されている。各マスには、アクセルグリップ30の開度θと電動モータ8の回転速度ωとに対応する目標出力トルクが設定されている。白のマスは、目標出力トルクの値が0に設定されていることを表している。薄色にハッチングされたマスは、目標出力トルクの値が正の値に設定されていることを表している。濃色にハッチングされたマスは、目標出力トルクの値が負の値に設定されていることを表している。本実施形態では、マスの上下幅にはアクセルグリップ30の開度θが設定され、マスの横幅には電動モータ8の回転速度ωが設定されている。アクセルグリップ30の開度θが0の場合の目標出力トルクは、横1列のマスに設定されている。その上下幅は0のみ設定される。電動モータ8の回転速度ωが0の場合の目標出力トルクは、縦1列のマスに設定されている。その左右幅は0のみ設定される。アクセルグリップ30の開度θが0でない場合のマスは、アクセルグリップ30の開度θについて幅を持っている。即ち、所定のマスに設定されたアクセルグリップ30の開度θは、当該アクセルグリップ30の開度θの絶対値より小さい側の隣接するマスに設定されたアクセルグリップ30の開度θの絶対値より大きく且つ当該開度θの絶対値以下の幅を持つ。電動モータ8の回転速度ωが0でない場合のマスは、電動モータ8の回転速度ωについて幅を持っている。即ち、所定のマスに設定された電動モータ8の回転速度ωは、当該電動モータ8の回転速度ωの絶対値より小さい側の隣接するマスに設定された電動モータ8の回転速度ωの絶対値より大きく且つ当該電動モータ8の回転速度ωの絶対値以下の幅を持つ。
【0051】
制御装置10は、上記のトルクマップ40を参照して、アクセルグリップ30の開度θと電動モータ8の回転速度ωとに応じて目標出力トルクを設定し、設定した目標出力トルクを達成すべく、電動モータ8を制御する。本実施形態では、アクセルグリップ30の正方向の回転操作においては、その開度θに応じた目標出力トルク(開度θが大きいほど大きい絶対値の目標出力トルク)が設定されている。一方、アクセルグリップ30の逆方向の回転操作においては、その開度θに関わらず、一定の目標出力トルクが設定されている。
【0052】
トルクマップ40は、第1~第4の4つの領域を有している。第1領域41は、開度θが0以上(横軸Hの下側)且つ回転速度ωが0以上(縦軸Vの右側)の領域であり、アクセルグリップ30が正方向の回転位置又は中立位置にあり、且つ電動モータ8が正転中又は停止中であることを示す。第2領域42は、開度θが0未満(横軸Hの上側)且つ回転速度ωが0以上の領域であり、アクセルグリップ30が逆方向の回転位置にあり、且つ電動モータ8が停止中又は正回転中であることを示す。第3領域43は、開度θが0未満且つ回転速度ωが0未満(縦軸Vの左側)の領域であり、アクセルグリップ30が逆方向の回転位置にあり、且つ電動モータ8が逆回転中であることを示す。第4領域44は、開度θが0以上且つ回転速度ωが0未満の領域であり、アクセルグリップ30が正方向の回転位置又は中立位置にあり、且つ電動モータ8が逆回転中であることを示す。
【0053】
第1領域41において、アクセルグリップ30の開度θが0より大きい部分には、正の値の目標出力トルクが設定されている。アクセルグリップ30の開度θが0であるマスには、0又は負の値の目標出力トルクが設定されている。0の目標出力トルクと負の値の目標出力トルクとを切り替えるために、電動モータ8の回転速度ωには所定の第1閾値ω1が設定されている。アクセルグリップ30の開度θが0且つ電動モータ8の回転速度ωが第1閾値ω1以下のマスには、0の目標出力トルクが設定されている。アクセルグリップ30の開度θが0且つ電動モータ8の回転速度ωが第1閾値ω1よりも大きいマスには、負の値の目標出力トルクが設定されている。
【0054】
第2領域42において、アクセルグリップ30の開度θが0より小さい全領域に、負の目標出力トルクが設定される。負の値の目標出力トルクの絶対値は、アクセルグリップ30の正方向の最大開度θに対応する正の値の目標出力トルクの絶対値よりも小さく設定されるとよい。
【0055】
第3領域43のマスには、0又は負の値の目標出力トルクが設定されている。0の目標出力トルクと負の値の目標出力トルクとを切り替えるために、電動モータ8の回転速度ωには所定の第2閾値ω2が設定されている。アクセルグリップ30の開度θが0且つ回転速度ωの絶対値が第2閾値ω2の絶対値より大きいマスには、0の目標出力トルクが設定される。第2閾値ω2の絶対値は、第1閾値ω1の絶対値と等しい値に設定されてよく、異なる値に設定されてもよい。
【0056】
第4領域44において、アクセルグリップ30の正方向の開度θが0より大きいマスには、負の値の目標出力トルクが設定されている。アクセルグリップ30の開度θが0であるマスには、正の値又は0の目標出力トルクが設定されている。0の目標出力トルクと正の値の目標出力トルクとを切り替えるために、上記第2閾値ω2が設定されている。アクセルグリップ30の開度θが0且つ電動モータ8の回転速度ωの絶対値が第2閾値ω2の絶対値以下のマスには、0の目標出力トルクが設定される。アクセルグリップ30の開度θが0且つ電動モータ8の回転速度ωの絶対値が第2閾値ω2の絶対値よりも大きいマスには、正の目標出力トルクが設定される。
【0057】
なお他の実施形態では、第4領域44において、0の目標出力トルクと正の値の目標出力トルクとを切り替えるための第2閾値ω2が第3領域43に設定された第2閾値ω2と異なる値に設定されてもよい。この場合、第3領域43の第2閾値ω2の絶対値は、第4領域44の第2閾値ω2の絶対値よりも大きいとよい。また、第4領域44の第2閾値ω2の絶対値は第1閾値ω1の絶対値と等しく設定されてもよい。
【0058】
以下、図4~5を用いて、アクセルグリップ30の操作に応じて設定される目標出力トルク及び電動モータ8の作動について説明する。電動モータ8の状態(電動モータ8に対して制御装置10が設定する目標出力トルク)は、黒丸をマスに配置することによって示す。説明を簡略化するため、一例として電動モータ8は、停止状態45を起点として、定常状態46、減速状態、リバース状態48及び、リバース定常状態49に至るものとして説明する。各状態間の遷移中において、アクセルグリップ30の開度θは一定に維持されている。また、アクセルグリップ30の開度θは最大であるものとする。
【0059】
電動モータ8が停止状態45から定常状態46に至る経緯について説明する。この経緯は、第1領域41にて行われる。本実施形態では電動モータ8の停止状態45は、アクセルグリップ30が中立位置にあり、即ち開度θが0であり、且つ電動モータ8の回転速度ωが0である状態を指す。定常状態46は、アクセルグリップ30が正方向に最大の開度θをもって操作され、電動モータ8の正回転の回転速度ωが最大値である、即ち電動モータ8の回転速度ωが一定である状態を指す。図5に示すように、電動モータ8の停止状態45では、開度θが0であり且つ電動モータ8の回転速度ωが0であり、縦軸Vと横軸Hとの交点マスに設定された0が目標出力トルクに設定される。定常状態46では、アクセルグリップ30の開度θが正方向の最大値であり且つ電動モータ8の回転速度ωが正回転の最大値である、右下の定常状態マス51に設定された正の値が目標出力トルクに設定される。
【0060】
アクセルグリップ30が中立位置から正方向に回転操作されたとき、制御装置10は目標出力トルクを0から正の値の最大値に変更して駆動制御を実行する。即ち制御装置10は、アクセルグリップ30の正方向の最大開度θに対応する電流をバッテリ9からインバータ24を介して電動モータ8に供給する。この遷移は、制御装置10が設定する電動モータ8の目標出力トルクが停止状態45のマスから縦軸Vに平行且つ下端に配置された第1端マス52に至ることに対応する。
【0061】
電動モータ8は、バッテリ9から供給された電流によって最大の出力トルクをもって正回転を開始する。その後、電動モータ8の正回転の回転速度ωが増加して定常状態46、即ち回転速度ωが最大値に至る。この遷移は、電動モータ8の目標出力トルクが第1端マス52から定常状態マス51に至るように設定されることに対応する。
【0062】
電動モータ8の定常状態46から減速状態に至る経緯について説明する。本実施形態では、減速状態は、電動モータ8を停止状態45にするための停止用減速状態47Aと、電動モータ8を後述するリバース状態48にするためのリバース用減速状態47Bとを含む。
【0063】
電動モータ8が定常状態46から停止用減速状態47Aに至る経緯について説明する。この経緯は、第1領域41にて行われる。電動モータ8の定常状態46において、アクセルグリップ30が中立位置に戻されたとき、制御装置10は負の値の目標出力トルクを設定する。具体的には図6に示すように、電動モータ8の目標出力トルクは、定常状態マス51から縦軸Vに平行且つアクセルグリップ30の開度θが0の停止用減速状態マス53に至るように設定される。停止用減速状態マス53には負の目標出力トルクが設定されているため、制御装置10は負の目標出力トルクを達成すべく、電動モータ8の制御を実行する。
【0064】
このとき、目標出力トルクの符号と電動モータ8の出力トルクの符号とが一致しないため、制御装置10は駆動制御を停止して、回生充電制御を実行する。回生充電制御の実行によって電動モータ8の回転速度ωが減少していく。即ち、電動モータ8の目標出力トルクは、停止用反転状態マスから横軸Hに平行な左方に移動するように設定される。電動モータ8の回転速度ωが第1閾値ω1以下になったとき、制御装置10は目標出力トルクを0に設定し、電動モータ8を停止状態45にする。
【0065】
次に、電動モータ8が定常状態46からリバース用減速状態47Bに至る経緯について説明する。この経緯は、第1領域41及び第2領域42にて行われる。電動モータ8の定常状態46において、アクセルグリップ30が正方向の最大開度θから逆方向の最大開度θに操作されたとき、制御装置10は負の値の目標出力トルクを設定する。電動モータ8の目標出力トルクは、定常状態マス51から縦軸Vに平行且つアクセルグリップ30の逆方向の開度θが0より小さいリバース用減速状態マス54に至るように設定される。リバース用減速状態マス54には負の目標出力トルクが設定されているため、制御装置10は負の目標出力トルクを達成すべく、電動モータ8の制御を実行する。
【0066】
このときにおいても、目標出力トルクの符号と電動モータ8の出力トルクの符号とが一致しないため、制御装置10は駆動制御を停止して、回生充電制御を実行する。回生充電制御の実行によって電動モータ8の回転速度ωが減少していく。
【0067】
更に、電動モータ8のリバース用減速状態47Bからリバース状態48に至る経緯について説明する。この経緯は、第2領域42及び第3領域43にて行われる。本実施形態ではリバース状態48は、制御装置10の実行処理が回生充電制御から駆動制御に切り替わった後の状態である。即ちリバース状態48は、電動モータ8の逆回転の回転速度ωが第2閾値ω2を超えない程度の大きさの負の値の目標出力トルクにて電動モータ8が逆回転方向に駆動制御されている状態を指す。
【0068】
電動モータ8の回転速度ωが所定の閾値以下になったとき、制御装置10は回生充電制御を停止して、負の目標出力トルクを達成すべく駆動制御を実行する。具体的には図8に示すように、電動モータ8の目標出力トルクは、リバース用減速状態マス54から横軸Hに平行且つアクセルグリップ30の逆方向の開度θが0より小さく且つ電動モータ8の回転速度ωが0より小さい逆回転の回転速度ωを有するリバース状態マス55に至るように設定される。所定の閾値は0であってよく、第1閾値ω1と同じ値であってもよい。或いは所定の閾値は第1閾値ω1よりも小さく且つ0よりも大きい値に設定されてもよい。
【0069】
制御装置10は、電動モータ8の制御を回生充電制御から駆動制御に切り替えたとき、即ち電動モータ8が逆回転を開始したとき、そのことを通知部36を介して使用者に通知する。通知部36は、例えば音、光、文字、図形、及び振動などによって使用者に通知するとよい。
【0070】
これに続く電動モータ8がリバース状態48からリバース定常状態49に至る経緯について説明する。この経緯は、第3領域43及び第4領域44にて行われる。電動モータ8のリバース状態48において、アクセルグリップ30が正方向に回転操作されたとき、制御装置10は、電動モータ8をリバース定常状態49にするべく、電動モータ8を制御する。本実施形態ではリバース定常状態49は、アクセルグリップ30が正方向に最大開度θをもって操作され、電動モータ8の逆回転の回転速度ωが最大値である状態を指す。具体的には、アクセルグリップ30の正方向の最大開度θへの操作に応じ、制御装置10は負の値の最大目標出力トルクを達成すべく、電動モータ8に電流を供給する。この遷移は、図9に示すように、電動モータ8の目標出力トルクがリバース状態マス55から縦軸Vに平行且つ下方端の第2端マス56に至るように設定されることに対応する。その後、電動モータ8の逆回転の回転速度ωが増加してリバース定常状態49に至る。この遷移は、電動モータ8の目標出力トルクが第2端マス56から、アクセルグリップ30の正方向の最大開度θにおける、電動モータ8の逆回転の最大回転速度ωを有するリバース定常状態マス57に至るように設定されることに対応する。リバース定常状態49における最大目標出力トルクの絶対値は、定常状態46における最大目標出力トルクの絶対値よりも小さくてよく、等しくてもよい。
【0071】
電動モータ8のリバース定常状態49から停止状態45への遷移、即ち負の値の目標出力トルクから0又は正の値の目標出力トルクへの切替は、アクセルグリップ30を逆方向に操作すること又は中立位置に戻すことによって行われる。電動モータ8のリバース定常状態49において、アクセルグリップ30が中立位置に戻されたとき、制御装置10は正の値の目標出力トルクを達成すべく、電動モータ8を制御する。このとき、目標出力トルクの符号と電動モータ8の出力トルクの符号とが一致しないため、制御装置10は駆動制御を停止して、回生充電制御を実行する。回生充電制御の実行によって電動モータ8の回転速度ωが減少していく。電動モータ8の回転速度ωが第2閾値ω2以上なったとき、即ち回転速度ωの絶対値が第2閾値ω2の絶対値以下になったとき、制御装置10は目標出力トルクを0に設定し、電動モータ8を停止状態45にする。
【0072】
電動モータ8のリバース定常状態49において、アクセルグリップ30が逆方向に回転操作されたとき、制御装置10は目標出力トルクを0にする。この遷移は、電動モータ8の目標出力トルクがリバース定常状態マス57から、縦軸Vに平行且つ上端に配置される第3端マス58に至るように設定されることに対応する。
【0073】
制御装置10が負の出力トルクを出力させる回生充電制御を終了し電動モータ8が停止状態45になったとき、制御装置10はそのことを通知部36を介して使用者に通知するとよい。負の出力トルクを出力させる回生充電制御が終了して電動モータ8が停止状態45になったことを通知する方法は、前進減速時に回生充電制御から駆動制御への切替を通知する方法と異なるとよい。例えば、通知部36が音によって使用者に通知する場合、正の出力トルクを出力させる回生充電制御を終了して電動モータ8が停止したことを通知する音の種類は、回生充電制御から駆動制御への切替を通知する音の種類と異なるとよい。
【0074】
以上のように構成された電動推進ユニットにおいて、アクセルグリップ30は、中立位置から正方向及び逆方向に変位可能に構成されている。図4に示すように、制御装置10は、電動モータ8が正回転中にアクセルグリップ30が正方向に操作された場合、目標出力トルクを正の値に設定する。また制御装置10は、電動モータ8が逆回転中にアクセルグリップ30が正方向に操作された場合、目標出力トルクを負の値に設定する。更に制御装置10は、電動モータ8が正回転中にアクセルグリップ30が逆方向に操作された場合、目標出力トルクを負の値に設定する。これらによって、使用者はアクセルグリップ30を操作することによって、電動モータ8の出力トルクの方向及び出力トルクの値を切り替えることができる。従って、容易な操作で電動モータ8の出力トルクの方向、即ち電動移動体の前進と後進とを切り替えることができる。
【0075】
制御装置10は、電動モータ8が正回転中にアクセルグリップ30が中立位置に戻された場合、負の値の目標出力トルクを達成すべく電動モータ8を制御する。これにより、電動モータ8が正回転中に負の出力トルク、即ち減速力を発生するため、船舶が速く停止する。即ち、船舶の減速度が大きくなる。また制御装置10は、電動モータ8が逆回転中にアクセルグリップ30が中立位置に戻された場合、正の値の目標出力トルクを達成すべく電動モータ8を制御する。これにより、電動モータ8が逆回転中に正の出力トルク、即ち後進中の減速力(加速力)を発生する。そのため、電動モータ8の逆回転中、典型的には電動移動体の後進中に、電動移動体が速く停止する。
【0076】
制御装置10は、正回転中の電動モータ8の回転速度ωが所定の第1閾値ω1以下である場合、アクセルグリップ30が中立位置にあるときに、目標出力トルクを0に設定する。これにより、電動モータ8の正回転中に、アクセルグリップ30を中立位置に戻す1つの操作によって電動モータ8が減速力を発生する状態から出力を停止する状態に切り替わる。従って、前進中に船舶を停止させる操作が用意である。また、制御装置10は、逆回転中の電動モータ8の回転速度ωの絶対値が第2閾値ω2の絶対値以下である場合、アクセルグリップ30が中立位置にあるときに、目標出力トルクを0に設定する。これにより、電動モータ8の逆回転中に、アクセルグリップ30を中立位置に戻す1つの操作によって電動モータ8が後進中に減速力を発生させる状態から出力を停止する状態に切り替わる。従って、後進中に船舶を停止させる操作が容易である。
【0077】
制御装置10は、電動モータ8が正回転しているときにアクセルグリップ30が中立位置に戻された場合、負の値に設定された目標出力トルクを達成するべく、電動モータ8を発電機として機能させ、バッテリ9に回生充電を行う回生充電制御を実行する。これにより、船舶の前進中に制御装置10によって減速エネルギは回生エネルギに変換され、バッテリ9のエネルギ損失が抑制される。また制御装置10は、電動モータ8が逆回転しているときにアクセルグリップ30が中立位置に戻された場合、正の値に設定された目標出力トルクを達成するべく、回生充電制御を実行する。これにより、船舶の後進中にも減速エネルギは回生エネルギに変換され、バッテリ9のエネルギ損失が抑制される。従って、エネルギの効率化に寄与することができる。
【0078】
制御装置10は、電動モータ8の逆回転の回転速度ωの絶対値が第2閾値ω2の絶対値以上のときにアクセルグリップ30が逆方向に操作された場合、目標出力トルクを0に設定する。電動モータ8が出力を停止することにより、船舶がゆっくりと停止する。
【0079】
アクセルグリップ30は、アクセルグリップ30の逆方向の最大回転操作量(最大開度θ)が、アクセルグリップ30の正方向の最大開度θよりも小さくなるように構成される。これによって、使用者はアクセルグリップ30を把持する手の感覚を以て、アクセルグリップ30を正方向に回転させているか、逆方向に回転させているかの判別ができる。
【0080】
制御装置10は、電動モータ8が正回転中にアクセルグリップ30が逆方向に回転操作された場合、目標出力トルクをアクセルグリップ30の逆方向の開度θに関わらず、電動モータ8の回転速度ωに応じて設定された負の値に設定する。典型的には船体2は、目標出力トルクに対応する速さを以て推進する。従って使用者は、船体2の速さが一定になったことを以て、逆方向の開度θに対応する目標出力トルクが達成されたと判断できる。これにより使用者は、アクセルグリップ30の逆方向の回転操作から正方向の回転操作への切替をスムーズに行うことができる。
【0081】
リバース状態48で設定される負の値の目標出力トルクの絶対値は、定常状態46で設定される正の値の目標出力トルクの絶対値の最大値よりも小さい。これにより、船舶が後進しているときに、過度な出力トルクが出力されて船舶が過度な減速力を受けることが抑制される。
【0082】
通知部36は、制御装置10が回生充電制御から駆動制御へ制御を移行したこと、即ち電動モータ8が正回転から逆回転に移行したことを通知する。これにより、使用者は船舶を前進から後進に切り替える際に、負の出力トルクの絶対値を大きくするためにアクセルグリップ30を逆方向から正方向に操作するべきタイミングを認識することができる。
【0083】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、一例として電動船外機1に本発明が適用されているが、車両や電動作業機、電動スノーモービル等の電動移動体に本発明が適用されてもよい。この場合、推進力発生部材は、車輪や無限軌道等であってよい。なお、本発明が適用される電動移動体は、操作者が搭乗する乗用型である必要はない。また、上記実施形態では、操作部としてアクセルグリップ30が用いられているが、把持部を備えたレバーやタッチパネル上の操作ボタン等が操作部として用いられてもよい。上記実施形態では、アクセルグリップ30は、2つのばねからなる付勢部材によって中立位置に付勢されているが、1つのばねによって中立位置に付勢されてもよく中立位置に付勢されていなくてもよい。例えば、アクセルグリップ30がディテント機構によって所定の保持力をもって保持されることにより、アクセルグリップ30の中立位置が規定されてもよい。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、数値、具体的制御態様などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。また、上記実施形態に示した構成要素は、全てが必須ではなく、取捨選択することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 :電動船外機(電動推進ユニット)
2 :船体(電動移動体)
8 :電動モータ
9 :バッテリ
10 :制御装置
12 :プロペラ(推進力発生部材)
30 :アクセルグリップ(操作部)
36 :通知部
θ :開度(操作量)
ω :回転速度
ω2 :第2閾値
ω1 :第1閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9