(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049816
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】螺旋状線材製造装置、ピストンリング製造装置、螺旋状線材製造方法、ピストンリング製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 5/14 20060101AFI20240403BHJP
B21D 53/84 20060101ALI20240403BHJP
B21F 37/02 20060101ALI20240403BHJP
B21F 1/00 20060101ALI20240403BHJP
F16J 9/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B21D5/14 C
B21D53/84 Z
B21F37/02
B21F1/00 B
F16J9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156279
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】岡野 将卓
(72)【発明者】
【氏名】窪田 紘明
【テーマコード(参考)】
3J044
4E063
4E070
【Fターム(参考)】
3J044AA18
3J044BA03
3J044CB24
3J044EA03
4E063AA01
4E063AA08
4E063AA19
4E063BB04
4E063DA05
4E063FA05
4E063JA07
4E063LA02
4E063LA17
4E063MA18
4E070AA03
4E070AB10
4E070AD03
4E070BC15
4E070BC23
4E070BF02
4E070DA02
4E070DB05
(57)【要約】
【課題】螺旋状コイルを製造する際の巻径変動を抑制する。
【解決手段】螺旋状線材製造装置1において、線材供給装置10から供給される線材2を、曲げ加工装置20で曲げ加工して得られる螺旋状コイル90を支持用芯部70で支持する。曲げ加工装置20は、上流から下流に沿って、線材外周面2Aに接触する第一成形ローラ30と、線材内周面2Bと接触する第二成形ローラ40と、線材外周面2Aと接触する第三成形ローラ50と、線材内周面2Bと接触して径方向外側に線材2を引き出す引きガイド60と、線材外周面2Aと接触する押込みガイド65を有するようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状且つ金属製となる線材を供給する線材供給装置と、
前記線材供給装置の下流側に配置されて、前記線材を弧状に曲げ加工する曲げ加工装置と、
前記曲げ加工装置を経て螺旋状コイルとなる前記線材の内周面を支持する支持用芯部と、
を備え、
前記線材における前記螺旋状コイルの外周側の面を線材外周面、前記螺旋状コイルの内周側の面を線材内周面と定義し、かつ、前記線材供給装置における前記線材の供給位置を起点として前記線材が前記支持用芯部に接触する位置(以下、芯部接触位置)までの線材通過経路における前記線材の中心線に沿う仮想線を線材センターパスと定義する際に、
前記曲げ加工装置は、
前記線材供給装置から供給される前記線材の前記線材外周面に接触する第一成形ローラと、
前記第一成形ローラと前記線材外周面との接触領域(以下、第一接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において前記線材内周面と接触する第二成形ローラと、
前記第二成形ローラと前記線材内周面との接触領域(以下、第二接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において前記線材外周面と接触する第三成形ローラと、
前記第三成形ローラと前記線材外周面との接触領域(以下、第三接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において前記線材内周面と接触する引きガイドと、
前記引きガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、引きガイド接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において前記線材外周面と接触する押込みガイドと、を有する
ことを特徴とする螺旋状線材製造装置。
【請求項2】
前記螺旋状コイルとなるために前記線材が曲がる方向を正曲げ方向、前記正曲げ方向と反対方向に前記線材が曲がる方向を逆曲げ方向と定義する際に、
前記第一接触領域および前記第三接触領域により、前記線材を前記第二接触領域に押圧することで、前記第一接触領域では前記線材が逆曲げ方向に変位し、前記第二接触領域では前記線材が正曲げ方向に変位することを特徴とする、
請求項1に記載の螺旋状線材製造装置。
【請求項3】
前記引きガイド接触領域では、前記線材が弾性変形の範囲内で変位することを特徴とする、
請求項1に記載の螺旋状線材製造装置。
【請求項4】
前記押込みガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、押込みガイド接触領域)では、前記線材が弾性変形の範囲内で変位することを特徴とする、
請求項1に記載の螺旋状線材製造装置。
【請求項5】
前記線材供給装置における前記線材の供給位置を起点として前記芯部接触位置までの線材通過経路における前記線材外周面に沿う仮想線を線材外側パスと定義し、
前記押込みガイドが前記線材外周面と接触しない状態を仮定し、前記線材の第1巻き目で定義される前記線材外側パスを、非押込み時初回線材外側パスと定義した際に、
前記押込みガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、押込みガイド接触領域)は、前記非押込み時初回線材外側パスと同一位置、又は、前記非押込み時初回線材外側パスよりも、曲率半径の径方向内側に設定されることを特徴とする、
請求項1に記載の螺旋状線材製造装置。
【請求項6】
前記押込みガイド接触領域は、前記非押込み時初回線材外側パスから、前記曲率半径の径方向内側に向かって、該曲率半径の0.1%以上離れる場所に設定されることを特徴とする、
請求項5に記載の螺旋状線材製造装置。
【請求項7】
前記引きガイド接触領域における前記線材センターパス上の中央点(以下、引きガイド中央点)から、前記押込みガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、押込みガイド接触領域)における前記線材センターパス上の中央点(以下、押込みガイド中央点)までの前記線材センターパス上の距離が、前記螺旋状コイルにおける前記線材の中心線の一周分の周長の2.7%以上に設定されることを特徴とする、
請求項1に記載の螺旋状線材製造装置。
【請求項8】
前記引きガイド接触領域における前記線材センターパス上の中央点(以下、引きガイド中央点)から、前記押込みガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、押込みガイド接触領域)における前記線材センターパス上の中央点(以下、押込みガイド中央点)までの前記線材センターパス上の距離が、前記螺旋状コイルにおける前記線材の中心線の一周分の周長の33.3%以下に設定されることを特徴とする、
請求項1に記載の螺旋状線材製造装置。
【請求項9】
前記曲げ加工装置よりも下流側における前記線材通過経路の変位を検知する経路検出装置を備えることを特徴とする、
請求項1に記載の螺旋状線材製造装置。
【請求項10】
前記螺旋状コイルは、ピストンリング用の素材であることを特徴とする、
請求項1に記載の螺旋状線材製造装置。
【請求項11】
請求項10に記載の螺旋状線材製造装置と、
前記螺旋状コイルを切断して、単巻のピストンリング部材に分割する分割装置と、
を備えることを特徴とするピストンリング製造装置。
【請求項12】
線材供給装置によって、直線状且つ金属製となる線材を供給し、
前記線材供給装置の下流側に配置される曲げ加工装置によって、前記線材を弧状に曲げ加工し、
前記曲げ加工装置を経て螺旋状コイルとなる前記線材の内周面を支持用芯部によって支持し、
前記線材における前記螺旋状コイルの外周側の面を線材外周面、前記螺旋状コイルの内周側の面を線材内周面と定義し、かつ、前記線材供給装置における前記線材の供給位置を起点として前記線材が前記支持用芯部に接触する位置(以下、芯部接触位置)までの線材通過経路における前記線材の中心線に沿う仮想線を線材センターパスと定義する際に、
前記曲げ加工装置では、
前記線材供給装置から供給される前記線材の前記線材外周面に第一成形ローラを接触させるようにし、
前記第一成形ローラと前記線材外周面との接触領域(以下、第一接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において第二成形ローラを前記線材内周面に接触させるようにし、
前記第二成形ローラと前記線材内周面との接触領域(以下、第二接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において第三成形ローラを前記線材外周面に接触させるようにし、
前記第三成形ローラと前記線材外周面との接触領域(以下、第三接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において引きガイドを前記線材内周面に接触させるようにし、
前記引きガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、引きガイド接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において押込みガイドを前記線材外周面に接触させる
ことを特徴とする螺旋状線材製造方法。
【請求項13】
請求項12の螺旋状線材製造方法によって製造される前記螺旋状コイルを単巻状に分割して、ピストンリング部材とすることを特徴とするピストンリング製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直線状の線材を湾曲させて螺旋状に成形する螺旋状線材製造装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンリングや圧縮コイルばね、トーションコイルばね等を製造する際に、螺旋状線材製造装置が用いられる。この螺旋状線材製造装置は、線材供給装置によって直線状でかつ金属製の線材を曲げ加工装置に案内し、この曲げ加工装置において線材を弧状に曲げ加工(塑性加工)する。曲げ加工装置において連続的に曲げ加工された線材は螺旋状コイルとなる。ピストンリングの場合は、この螺旋状コイルを、1巻単位で事後的に切断すればよい(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願時に未公知となる本発明者らの知見となるが、例えば、螺旋状線材製造装置において、螺旋状コイルの中心軸が水平となるように製造すると、曲げ加工装置から出力される螺旋状コイルの巻き数が増えるにつれて、螺旋状コイルの自重が曲げ加工装置に悪影響を与え得る。そこで、出力される螺旋状コイルの内部に芯部材を通し、この芯部材によって螺旋状コイルの自重を受け止めようとすると、今度は、芯部材と螺旋状コイルの間に摺動抵抗が発生し、曲げ加工装置に悪影響を与え得る。自重や摺動抵抗の悪影響は、螺旋状コイルにおける巻径変動に現れてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、巻径変動を抑制可能な螺旋状線材製造装置等を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、直線状且つ金属製となる線材を供給する線材供給装置と、前記線材供給装置の下流側に配置されて、前記線材を弧状に曲げ加工する曲げ加工装置と、前記曲げ加工装置を経て螺旋状コイルとなる前記線材の内周面を支持する支持用芯部と、を備え、前記線材における前記螺旋状コイルの外周側の面を線材外周面、前記螺旋状コイルの内周側の面を線材内周面と定義し、かつ、前記線材供給装置における前記線材の供給位置を起点として前記線材が前記支持用芯部に接触する位置(以下、芯部接触位置)までの線材通過経路における前記線材の中心線に沿う仮想線を線材センターパスと定義する際に、前記曲げ加工装置は、前記線材供給装置から供給される前記線材の前記線材外周面に接触する第一成形ローラと、前記第一成形ローラと前記線材外周面との接触領域(以下、第一接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において前記線材内周面と接触する第二成形ローラと、前記第二成形ローラと前記線材内周面との接触領域(以下、第二接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において前記線材外周面と接触する第三成形ローラと、前記第三成形ローラと前記線材外周面との接触領域(以下、第三接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において前記線材内周面と接触する引きガイドと、前記引きガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、引きガイド接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において前記線材外周面と接触する押込みガイドと、を有することを特徴とする螺旋状線材製造装置である。
【0007】
上記螺旋状線材製造装置に関連して、前記螺旋状コイルとなるために前記線材が曲がる方向を正曲げ方向、前記正曲げ方向と反対方向に前記線材が曲がる方向を逆曲げ方向と定義する際に、前記第一接触領域および前記第三接触領域により、前記線材を前記第二接触領域に押圧することで、前記第一接触領域では前記線材が逆曲げ方向に変位し、前記第二接触領域では前記線材が正曲げ方向に変位することを特徴としてもよい。
【0008】
上記螺旋状線材製造装置に関連して、前記引きガイド接触領域では、前記線材が弾性変形の範囲内で変位することを特徴としてもよい。
【0009】
上記螺旋状線材製造装置に関連して、前記押込みガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、押込みガイド接触領域)では、前記線材が弾性変形の範囲内で変位することを特徴としてもよい。
【0010】
上記螺旋状線材製造装置に関連して、前記線材供給装置における前記線材の供給位置を起点として前記芯部接触位置までの線材通過経路における前記線材外周面に沿う仮想線を線材外側パスと定義し、前記押込みガイドが前記線材外周面と接触しない状態を仮定し、前記線材の第1巻き目で定義される前記線材外側パスを、非押込み時初回線材外側パスと定義した際に、前記押込みガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、押込みガイド接触領域)は、前記非押込み時初回線材外側パスと同一位置、又は、前記非押込み時初回線材外側パスよりも、曲率半径の径方向内側に設定されることを特徴としてもよい。
【0011】
上記螺旋状線材製造装置に関連して、前記押込みガイド接触領域は、前記非押込み時初回線材外側パスから、前記曲率半径の径方向内側に向かって、該曲率半径の0.1%以上離れる場所に設定されることを特徴としてもよい。
【0012】
上記螺旋状線材製造装置に関連して、前記引きガイド接触領域における前記線材センターパス上の中央点(以下、引きガイド中央点)から、前記押込みガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、押込みガイド接触領域)における前記線材センターパス上の中央点(以下、押込みガイド中央点)までの前記線材センターパス上の距離が、前記螺旋状コイルにおける前記線材の中心線の一周分の周長の2.7%以上に設定されることを特徴としてもよい。
【0013】
上記螺旋状線材製造装置に関連して、前記引きガイド接触領域における前記線材センターパス上の中央点(以下、引きガイド中央点)から、前記押込みガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、押込みガイド接触領域)における前記線材センターパス上の中央点(以下、押込みガイド中央点)までの前記線材センターパス上の距離が、前記螺旋状コイルにおける前記線材の中心線の一周分の周長の33.3%以下に設定されることを特徴としてもよい。
【0014】
上記螺旋状線材製造装置に関連して、前記曲げ加工装置よりも下流側における前記線材通過経路の変位を検知する経路検出装置を備えることを特徴としてもよい。
【0015】
上記螺旋状線材製造装置に関連して、前記螺旋状コイルは、ピストンリング用の素材であることを特徴としてもよい。
【0016】
上記目的を達成する本発明は、上記の螺旋状線材製造装置と、前記螺旋状コイルを切断して、単巻のピストンリング部材に分割する分割装置と、
【0017】
を備えることを特徴とするピストンリング製造装置である。
【0018】
上記目的を達成する本発明は、線材供給装置によって、直線状且つ金属製となる線材を供給し、前記線材供給装置の下流側に配置される曲げ加工装置によって、前記線材を弧状に曲げ加工し、前記曲げ加工装置を経て螺旋状コイルとなる前記線材の内周面を支持用芯部によって支持し、前記線材における前記螺旋状コイルの外周側の面を線材外周面、前記螺旋状コイルの内周側の面を線材内周面と定義し、かつ、前記線材供給装置における前記線材の供給位置を起点として前記線材が前記支持用芯部に接触する位置(以下、芯部接触位置)までの線材通過経路における前記線材の中心線に沿う仮想線を線材センターパスと定義する際に、前記曲げ加工装置では、前記線材供給装置から供給される前記線材の前記線材外周面に第一成形ローラを接触させるようにし、前記第一成形ローラと前記線材外周面との接触領域(以下、第一接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において第二成形ローラを前記線材内周面に接触させるようにし、前記第二成形ローラと前記線材内周面との接触領域(以下、第二接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において第三成形ローラを前記線材外周面に接触させるようにし、前記第三成形ローラと前記線材外周面との接触領域(以下、第三接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において引きガイドを前記線材内周面に接触させるようにし、前記引きガイドと前記線材内周面との接触領域(以下、引きガイド接触領域)よりも前記線材センターパスの下流側において押込みガイドを前記線材外周面に接触させることを特徴とする螺旋状線材製造方法である。
【0019】
上記目的を達成する本発明は、上記の螺旋状線材製造方法によって製造される前記螺旋状コイルを単巻状に切断して、ピストンリング部材とすることを特徴とするピストンリング製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、巻径が安定した螺旋状線材を製造できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(A)は、本発明の実施形態にかかる螺旋状線材製造装置の第1回の巻回時の全体構成を示す正面図であり、(B)は同螺旋状線材製造装置の第1回の巻回時の全体構成を示す平面図である。
【
図2】(A)は、同螺旋状線材製造装置の複数回の巻回時の全体構成を示す正面図であり、(B)は同螺旋状線材製造装置の複数回の巻回時の全体構成を示す平面図である。
【
図3】(A)は、同螺旋状線材製造装置の制御装置の内部構成を示すブロック図であり、(B)は同制御装置のプログラムの機能構成を示すブロック図である。
【
図4】(A)は、同螺旋状線材製造装置の非押込み状態の第1回の巻回時の全体構成を示す正面図であり、(B)は同螺旋状線材製造装置の非押込み状態の複数回の巻回時の全体構成を示す正面図である。
【
図5】(A)は、非押込み状態の螺旋状線材製造装置により螺旋状コイルを製造する過程における導出経路検出装置の検出信号の測定結果を示すグラフであり、(B)は非押込み状態の螺旋状線材製造装置により製造した螺旋状コイルの径変化量を示すグラフである。
【
図6】(A)は、同螺旋状線材製造装置の非押込み状態の第1回の巻回時の全体構成を示す正面図であり、(B)は同螺旋状線材製造装置の押込み状態の第1回の巻回時の全体構成を示す正面図である。
【
図7】同螺旋状線材製造装置の押込み状態の複数回の巻回時の全体構成を示す正面図である。
【
図8】(A)は、押込み状態の螺旋状線材製造装置により螺旋状コイルを製造する過程における導出経路検出装置の検出信号の測定結果を示すグラフであり、(B)は押込み状態の螺旋状線材製造装置により製造した螺旋状コイルの径変化量を示すグラフである。
【
図9】(A)は、押込み状態の螺旋状線材製造装置により螺旋状コイルを製造する過程における導出経路検出装置の検出信号の測定結果を示すグラフであり、(B)は押込み状態の螺旋状線材製造装置により製造した螺旋状コイルの径変化量を示すグラフである。
【
図10】(A)は、押込み状態の螺旋状線材製造装置により螺旋状コイルを製造する過程における導出経路検出装置の検出信号の測定結果を示すグラフであり、(B)は押込み状態の螺旋状線材製造装置により製造した螺旋状コイルの径変化量を示すグラフである。
【
図11】(A)は、押込み状態の螺旋状線材製造装置により螺旋状コイルを製造する過程における導出経路検出装置の検出信号の測定結果を示すグラフであり、(B)は押込み状態の螺旋状線材製造装置により製造した螺旋状コイルの径変化量を示すグラフである。
【
図12】(A)は、押込み状態の螺旋状線材製造装置により螺旋状コイルを製造する過程における導出経路検出装置の検出信号の測定結果を示すグラフであり、(B)は押込み状態の螺旋状線材製造装置により製造した螺旋状コイルの径変化量を示すグラフである。
【
図13】(A)は、分割装置によって螺旋状コイルをまとめて分割する態様を示す平面図であり、(B)は分割されたピストンリングを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1に、本発明の実施形態にかかる螺旋状線材製造装置1の全体構成を示す。螺旋状線材製造装置1は、直線状且つ金属製となる所定長さを有する線材2を、連続的に曲げ加工を行い、螺旋状の線材(以下、螺旋状コイル90)に成形する装置となる。螺旋状線材製造装置1は、線材供給装置10、曲げ加工装置20、切断装置300、支持用芯部70、導出経路検出装置80、制御装置85を備える。本実施形態において、螺旋状コイル90はピストンリングを製造する際の素材として用いられる。つまり、この螺旋状線材製造装置1は、ピストンリング製造装置の一部となる。
【0024】
(各種定義)
螺旋状線材製造装置1を説明する際に、適宜、以下の定義を利用する。
線材外周面2A:螺旋状コイル90の成形される線材2において、この螺旋状コイル90の外周側に位置することになる面
線材内周面2B:螺旋状コイル90の成形される線材2において、この螺旋状コイル90の内周側に位置することになる面
仮想螺旋軸G:螺旋状コイル90における仮想的な中心軸(
図1(A)の紙面直交方向)
線材通過経路T:線材2が、線材供給装置10、曲げ加工装置20を経由して、支持用芯部70に到達するまでの経路
線材センターパスP:線材通過経路Tを通過する線材2の中心線に沿う仮想線
線材外側パスPA:線材通過経路Tを通過する線材2の線材外周面2Aに沿う仮想線
線材内側パスPB:線材通過経路Tを通過する線材2の線材内周面2Bに沿う仮想線
直線案内方向X:線材2が線材供給装置10から曲げ加工装置20に到達するまでの間、線材2が直線案内される方向(水平に設定される場合がある)
直線案内直交軸Z:直線案内方向Xと仮想螺旋軸Gの双方に直角となる方向の仮想軸(鉛直に設定される場合がある)
直線案内直交軸Zの正方向ZB:直線案内方向Xに案内される線材2が巻回される方向(
図1(A)では下方向)
直線案内直交軸Zの逆方向ZA:正方向ZBと反対方向(
図1(A)では上方向)
直線案内領域T1:線材通過経路Tにおける線材供給装置10を起点として曲げ加工装置20の最初の部品に線材2が到達するまでの経路
曲げ加工領域T2:線材通過経路Tにおける曲げ加工装置20の最初の曲げ関連部品(曲げ加工に影響を与える部品)に線材2の到達する点(直線案内領域T1の終点)を起点として、曲げ加工装置20の最後の曲げ関連部品から線材2が放たれる場所までの経路
加工後導出領域T3:線材通過経路Tにおける曲げ加工装置20の最後の曲げ関連部品から線材2が放たれる場所(曲げ加工領域T2の終点)を起点として、線材2が支持用芯部70に到達するまでの経路(
図2(A)参照)
コイル平均径Kr:成形される螺旋状コイル90の線材2の中心線によって構成される各巻回の円弧径(単位コイル径)を、全巻回で平均化したときの直径(
図2(B)参照)
コイル平均周長:螺旋状コイル90の線材2の中心線によって構成される各巻回の円弧長さ(単位コイル周長)を、全巻回で平均化したときの周長(コイル平均径×円周率)
【0025】
(線材供給装置)
線材供給装置10は、直線状且つ金属製の線材2を、曲げ加工装置20まで直線的に案内する。本実施形態では、線材供給装置10による線材2の直線案内方向Xが水平方向に設定されており、鉛直上方が線材外周面2A、鉛直下方が線材内周面2Bとなる。線材供給装置10は、例えば、特に図示しない送りローラ対によって線材2を挟み込み、送りローラ対を回転駆動することで、線材2を直線案内方向Xに推進(付勢)する。なお、線材供給装置10の内部において、レベラー等によって線材2を直線状に成形加工してもよい。線材2の断面形状は、例えば、正方形、長方形、台形、多角形、キーストン形状等、その目的に応じて様々に選択できる。また、線材外周面2Aは、その断面が平面形状、テーパ形状、バレル形状、偏心バレル形状、凹バレル形状等、その目的に応じて様々に選択できる。
【0026】
(曲げ加工装置)
曲げ加工装置20は、線材通過経路Tにおいて線材供給装置10の下流側に配置され、線材2を螺旋状コイル90に成形するために、線材2を連続的に円弧状に曲げ加工する。なお、この曲げ加工装置20による巻回方向(最終的に線材2が塑性変形によって曲がる方向)は、
図1(A)に示すように、直線案内直交軸Zの正方向ZB(
図1(A)の下側方向)となる。曲げ加工装置20は、ベース22、第一成形ローラ30、第二成形ローラ40、第三成形ローラ50、引きガイド60、押込みガイド65を有する。
【0027】
ベース22は、第一成形ローラ30、第二成形ローラ40、第三成形ローラ50、引きガイド60、及び、押込みガイド65を支持する基台となる。ベース22は、第一成形ローラ30、第二成形ローラ40、第三成形ローラ50を、回転自在な状態で片持ち構造で支持すると同時に、これらのローラ回転軸38、48、58を、図示しない変位機構によって、直線案内方向Xの進退方向及び/又は直線案内直交軸Zの正方向ZB・逆方向ZBに位置調整自在としている。
【0028】
第一成形ローラ30は、曲げ加工装置20の最初の曲げ関連部品となり、第一周面32が線材2の線材外周面2Aに当接する。つまり、第一成形ローラ30の第一回転中心30Cは、直線案内領域T1の線材外側パスPAの延長線上よりも直線案内直交軸Zの逆方向ZAに位置する。また、第一周面32と線材外周面2Aが接触する範囲を第一接触領域33と定義すると、第一接触領域33の始端33sは、直線案内領域T1の終端と一致する。
図1(B)に示すように、第一周面32は、第一成形ローラ30の外周に形成される周方向の凹溝の底面によって構成されており、この凹溝が、線材2の側面を支持しながら案内することで、曲げ加工中における線材2の捻じれを抑止する。第一周面32の直径は、コイル平均径Krよりも小さく設定される。例えば、第一周面32の直径は、Kr×(1/4)~Kr×(3/4)の範囲内に設定される。
【0029】
直線状の線材2が、螺旋状コイル90となるために最終的に曲がる方向を「正曲げ方向」と定義し、この正曲げ方向と反対方向に線材2が曲がる方向を「逆曲げ方向」と定義すると、第一成形ローラ30における第一接触領域33の中央点33c近傍(曲率半径が最小となる点の近傍)では、線材2が逆曲げ方向に変位する(一次逆曲げ方向変位)。
【0030】
第二成形ローラ40は、曲げ加工装置20の二番目の曲げ関連部品となり、第二周面42が線材2の線材内周面2Bに当接する。ここで、第二成形ローラ40の第二回転中心40Cは、直線案内領域T1の線材内側パスPBの延長線上よりも直線案内直交軸Zの正方向ZBに位置すると同時に、第一回転中心30Cよりも直線案内方向Xの前方側に位置する。また、第二周面42と線材内周面2Bが接触する範囲を第二接触領域43と定義すると、第二接触領域43は、第一接触領域33よりも線材通過経路Tの下流側となる。更に、第二接触領域43の中央点43cは、直線案内領域T1の線材内側パスPBの延長線上よりも、直線案内直交軸Zの逆方向ZA側に入り込んでいる。更に中央点43cは、直線案内領域T1の領域線材外側パスPAの延長線上よりも、直線案内直交軸Zの逆方向ZA側に入り込んでいる。結果、第二接触領域43における線材内側パスPBは、直線案内領域T1の線材センターパスP及び線材外側パスPAの延長線の双方に交差する。
【0031】
図1(B)に示すように、第二周面42は、第二成形ローラ40の外周に形成される周方向の凹溝の底面によって構成されており、この凹溝が、線材2の側面を支持しながら案内することで、曲げ加工中における線材2の捻じれを抑止する。第二周面42の直径は、コイル平均径Krよりも小さく設定され、更に、第一周面32及び第三周面52の各直径よりも小さく設定される。第二周面42の直径は、例えば、Kr×(1/4)~Kr×(2/3)の範囲内に設定される。
【0032】
第二成形ローラ40における第二接触領域43の中央点43cの近傍(曲率半径が最小となる点近傍)では、線材2が正曲げ方向に変位する(二次正曲げ方向変位)。なお、この正曲げ方向への変位は、第一成形ローラ30と第三成形ローラ50によって、線材2が第二接触領域43に強制的に巻き付けられることによる。
【0033】
第三成形ローラ50は、曲げ加工装置20の三番目の曲げ関連部品となり、第三周面52が線材2の線材外周面2Aに当接する。ここで、第三成形ローラ50の第三回転中心50Cは、直線案内領域T1の線材外側パスPAの延長線上よりも直線案内直交軸Zの逆方向ZAに位置すると同時に、第二回転中心40Cよりも直線案内方向Xの前方側に位置する。また、第三周面52と線材外周面2Aが接触する範囲を第三接触領域53と定義すると、第三接触領域53は、第二接触領域43よりも線材通過経路Tの下流側となる。更に、第三接触領域53の終端53eは、直線案内領域T1の線材内側パスPBの延長線上と略一致している。
【0034】
図1(B)に示すように、第三周面52は、第三成形ローラ50の外周に形成される周方向の凹溝の底面によって構成されており、この凹溝が、線材2の側面を支持しながら案内することで、曲げ加工中における線材2の捻じれを抑止する。第三周面52の直径は、コイル平均径Krよりも小さく設定される。例えば、第一周面32の直径は、コイル平均径Krよりも小さく設定され、例えば、Kr×(1/4)~Kr×(3/4)の範囲内に設定される。
【0035】
本実施形態では、第三周面52の直径は、第一周面32の直径と一致させている。また、第三回転中心50Cにおける直線案内領域T1の線材外側パスPAの延長線上からの距離は、第一回転中心30Cにおける同距離と一致させている。
【0036】
第三接触領域53は、第一接触領域33と協働して、両者の間に存在する線材2を第二接触領域43に押圧する。結果、第二接触領域43において線材2が正曲げ方向に塑性態様で曲げ変形する。なお、第三成形ローラ50における第三接触領域53の中央点53cの近傍(曲率半径が最小となる点近傍)では、線材2の押さえ込み動作の反作用として、線材2が、正曲げ方向の曲率を減少させる方向に変位する(三次逆曲げ方向変位)。このように、本実施形態の曲げ加工装置20では、第一成形ローラ30の第一接触領域33によって、一旦、線材2を逆曲げ方向に変位させてから、第二成形ローラ40の第二接触領域43で線材2を正曲げ方向に塑性態様で曲げ変形させることができるので、成形後のスプリングバック量を抑制することが可能となっている。
【0037】
第一接触領域33の中央点33c、第二接触領域43の中央点43c、第三接触領域53の中央点53cの直線案内直交軸Zの位置を比較すると、第二接触領域43の中央点43cが最も正方向ZBに位置する。本実施形態では、直線案内直交軸Zが鉛直方向に設定されているので、この第二接触領域43の中央点43cが最も高所となる。
【0038】
更に、第一接触領域33の中央点33cから、第二接触領域43の中央点43cを経て、第三接触領域53の中央点53cまでの経路範囲を、仮想螺旋軸Gを基準とした位相角度で説明する。この位相角度の範囲は、120度以下に設定することが好ましく、更に好ましくは90度以下とし、より望ましくは60度以下とする。また、第一接触領域33の中央点33cから第二接触領域43の中央点43cまでの位相角度範囲と、第二接触領域43の中央点43cから第三接触領域53の中央点53cまでの位相角度範囲は、殆ど一致させることが好ましい。
【0039】
引きガイド60は、曲げ加工装置20の四番目の曲げ関連部品となり、ガイド接触面(領域)62が線材2の線材内周面2Bに当接する。引きガイド60は、アーム63を介して引きガイド移動機構64に接続されており、引きガイド移動機構64によって、引きガイド60の螺旋状コイル90の径方向に沿う位置(引き量)を調節自在となっている。ガイド接触面62における線材センターパスP上の中央点を引きガイド中央点62cと定義すると、引きガイド中央点62cは、第三接触領域53よりも線材通過経路Tの下流側となる。更に、引きガイド中央点62cは、直線案内領域T1の線材内側パスPBの延長線上よりも直線案内直交軸Zの正方向ZB側となる。
【0040】
引きガイド中央点62cは、第一接触領域33よりも直線案内方向Xの前方側且つ直線案内直交軸Zの正方向ZB側に位置する。引きガイド中央点62cは、第二接触領域43よりも直線案内方向Xの前方側且つ直線案内直交軸Zの正方向ZB側に位置する。引きガイド中央点62cは、第三接触領域53よりも直線案内方向Xの前方側且つ直線案内直交軸Zの正方向ZB側に位置する。
【0041】
更に、第三接触領域53の中央点53cから引きガイド中央点62cまでの経路範囲を、仮想螺旋軸Gを基準とした位相角度で説明する。この位相角度の範囲は、90度以下に設定することが好ましく、より好ましくは60度以下とする。
【0042】
この引きガイド60は、線材2を第三接触領域53に押圧する役割を担う。第三接触領域53に対して、予め塑性態様で正曲げ方向に曲げ変形済みとなる線材2が押圧されると、その曲率が減少するように塑性変形する。本実施形態では、これを曲げ戻し加工を呼ぶ。引きガイド60による引き量を大きくする(押圧力を大きくする)と、この曲げ戻し加工における曲げ戻し量が大きくなり、引きガイド60による引き量を小さくする(押圧力を小さくする)と、この曲げ戻し加工における曲げ戻し量が小さくなる。本実施形態では、この曲げ戻し加工を組み合わせることで、線材2の曲率の微調整を行うことができるので、螺旋状コイル90の成形後のスプリングバック量を抑制することが可能となり、螺旋状コイル90のコイル平均径Krが安定する。なお、この引きガイド中央点62cでは、線材2は、常に弾性変形の範囲内に収まるようになっている。
【0043】
押込みガイド65は、曲げ加工装置20の五番目の曲げ関連部品となり、押込み接触面(領域)66が線材2の線材外周面2Aに当接する。押込みガイド65は、アーム67を介して押込みガイド移動機構68に接続されており、押込みガイド移動機構68によって、押込みガイド65の螺旋状コイル90の径方向に沿う位置(押込み量)を調節自在となっている。なお、押込みガイド移動機構68は、押込みガイド65を退避させることで、線材2の線材外周面2Aから離反させることも可能となっている(
図3参照)。
【0044】
押込み接触面66における線材センターパスP上の中央点を押込みガイド中央点66cと定義すると、押込みガイド中央点66cは、引きガイド中央点62cよりも線材通過経路Tの下流側となる。
【0045】
押込み接触面66は、第一接触領域33よりも直線案内方向Xの前方側且つ直線案内直交軸Zの正方向ZB側に位置する。押込み接触面66は、第二接触領域43よりも直線案内方向Xの前方側且つ直線案内直交軸Zの正方向ZB側に位置する。押込み接触面66は、第三接触領域53よりも直線案内方向Xの前方側且つ直線案内直交軸Zの正方向ZB側に位置する。
【0046】
更に、押込みガイド中央点66cは、引きガイド中央点62cと比較して、直線案内領域T1の線材内側パスPBの延長線上よりも直線案内直交軸Zの正方向ZB側(ここでは鉛直方向下側)となる。一方、押込みガイド中央点66cは、引きガイド中央点62cと比較して、直線案内方向Xの手前側に位置する。
【0047】
引きガイド中央点62cから押込みガイド中央点66cまでの経路範囲を、仮想螺旋軸Gを基準とした位相角度範囲で定義する。この位相角度範囲は、90度以下に設定することが好ましく、より好ましくは60度以下とする。一方で、引きガイド中央点62cから押込みガイド中央点66cまでの位相角度範囲を10度以上に設定することが好ましく、より好ましくは18度以上とし、更に好ましくは25度以上とする。
【0048】
位相角度範囲に代えて、引きガイド中央点62cから押込みガイド中央点66cまでの線材通過経路Tに沿う距離で表現すると、当該距離を、コイル平均周長の33.3%以下に設定することが好ましく、25%以下に設定することが更に好ましく、より好ましくは17%以下に設定する。一方で、当該距離を、コイル平均周長の2.7%以上に設定することが好ましく、より好ましくは5%以上とし、更に好ましくは7%以上にする。
【0049】
また、押込みガイド中央点66cは、線材通過経路Tにおける鉛直方向の下端点Lを基準として、上流側に位置調整されることが好ましい。具体的に押込みガイド中央点66cは、下端点Lを起点として、上流側に位相角度範囲で10度以上離反させることが好ましく、より好ましくは15度以上離反させる。
【0050】
詳細は後述するが、この押込みガイド65は、これよりも下流側の線材2から、上流側に向かって伝達される軸力の影響を受け止める。この受け止め効果によって、同軸力の影響が、更に上流側の引きガイド60に伝達されにくくなり、結果として、第三接触領域53における第三次逆方向曲げ加工の曲げ量が常に安定する。
【0051】
押込みガイド65による押込み状態における曲げ加工領域T2は、第一成形ローラ30の第一接触領域33の始端33sから、押込みガイド中央点66cまでとなる。なお、本実施形態の曲げ加工装置20では、主として、第二接触領域43で線材2を正曲げ方向に塑性加工し、第三接触領域53で曲げ戻し加工しており、その他の場所では線材2が弾性変形する場合を例示しているが、本発明はこれに限定されない。線材2は、曲げ加工領域T2内において、塑性変形・弾性変形が複雑に混在する態様で、正曲げ方向の変位と逆曲げ方向の変位を繰り返された結果として、最終的に、正曲げ方向に曲がった状態で出力されていればよい。
【0052】
(切断装置)
切断装置300は、下端点Lの近傍に配置されて、線材2を任意のタイミングで切断する装置となる。切断装置300は、例えば、一対の切断刃を備えており、特に図示しない駆動装置によって、一対の切断刃を閉じることで、線材2を切断する。例えば、螺旋状コイル90の目標巻き数が予め決まっている場合は、その目標巻き数(最終巻き目)に到達したタイミングで線材2を切断すればよい。切断ポイントに後続する新たな線材2は、螺旋状コイル90の第1巻き目となる。なお、切断方法はこれに限定されず、例えば切断用の砥石によって切断してもよい。
【0053】
(支持用芯部)
支持用芯部70は、第二成形ローラ40の側面に同軸状に固定される筒状又は柱状の棒部材となる。結果、支持用芯部70は、第二成形ローラ40によって片持状態で保持されており、第二成形ローラ40と一緒に回転する。
図2に示すように、曲げ加工装置20から導出されて連続成形される螺旋状コイル90は、支持用芯部70を内部に巻き込むことになり、支持用芯部70の回転中の外周面における上縁と、螺旋状コイル90の回転中の内周面における鉛直方向上縁Hが当接することで、螺旋状コイル90の自重を受け止める役割を担う。
【0054】
図2(A)に示すように、支持用芯部70の支持周面72の直径72Dは、第二成形ローラ40の第二周面42の直径よりも小さい。結果、支持周面72の周速は、第二周面42の周速よりも小さくなる。第二周面42の周速は、線材2の送り速度と略一致することから、螺旋状コイル90の内周面の周速が、支持周面72の周速を上回ることになり、両者の間に摺動抵抗が発生する。この摺動抵抗は、螺旋状コイル90の巻き数の量に比例して大きくなる。この摺動抵抗は、線材2の内部を上流側に向かって伝達する軸力となって、押込みガイド中央点66cに到達する。
【0055】
なお、押込みガイド65による押込み状態における加工後導出領域T3は、押込みガイド中央点66cから、螺旋状コイル90の鉛直方向上縁Hまでとなる。
【0056】
(導出経路検出装置)
導出経路検出装置80は、曲げ加工装置20から導出される線材2の線材通過経路T(加工後導出領域T3)の現状位置を検知する部材となる。本実施形態では、引きガイド60及び押込みガイド65よりも下流側において、導出経路検出装置80のプローブを、線材外周面2Aに接触させることで、線材外側パスPAの現状位置又はその変化を検知する。
【0057】
プローブが線材2と接触する場所における線材センターパスP上の中央点を検出点82と定義すると、この検出点82は、加工後導出領域T3の任意の場所を選択できる。一方、導出経路検出装置80の検出結果を利用して、押込みガイド65の押込み量を制御する場合、両者をできる限り接近させることが好ましい。具体的には、押込みガイド中央点66cから検出点82までの経路範囲を、仮想螺旋軸Gを基準とした位相角度範囲で説明すると、45度以下に設定されることが好ましく、より好ましくは30度以下とする。引きガイド中央点62cを基準に説明すると、引きガイド中央点62cから検出点82までの仮想螺旋軸Gを基準とした位相角度範囲を90度以下に設定することが好ましく、より好ましくは60度以下とする。一方、引きガイド中央点62cから検出点82までの同位相角度範囲を10度以上に設定することが好ましく、より好ましくは18度以上とし、より好ましくは25度以上とする。
【0058】
また、検出点82は、線材通過経路Tにおける鉛直方向の下端点Lを基準として、上流側に位置決めされることが好ましい。具体的に検出点82は、下端点Lを起点として、上流側に位相角度範囲で10度以上離反させることが好ましく、より好ましくは15度以上離反させる。
【0059】
(制御装置)
図3(A)に示すように、制御装置85は、いわゆる計算機であり、CPU851と、RAM852と、ROM853と、入力装置854と、表示装置855と、電源857と、入出力インターフェース858と、バス859とを備える。
【0060】
CPU851は、いわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて各種機能を実現する。RAM852は、いわゆるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)であり、CPU851の作業領域として使用される。ROM853は、いわゆるROM(リード・オンリー・メモリ)であり、CPU851で実行される基本OSや各種プログラム(例えば、測定プログラム)を記憶する。
【0061】
入力装置854は、ボタンやタッチパネル式の入力キーやキーボード、マウスであり、各種情報を入力する。表示装置855は、ディスプレイであり、各種測定進捗や測定結果を表示する。
【0062】
電源857は、各部品が動作するための電力を供給する。入出力インターフェース858は、引きガイド移動機構64、押込みガイド移動機構68、導出経路検出装置80に接続されて、導出経路検出装置80の検出信号を受けると共に、引きガイド移動機構64及び押込みガイド移動機構68を制御するための制御信号を出力する。バス859は、CPU851、RAM852、ROM853、入力装置854、表示装置855、電源857、入出力インターフェース858などを一体的に接続して通信を行う配線である。
【0063】
ROM853に記憶された基本OSや各種プログラム(制御プログラム)が、CPU851によって実行されると、
図3(B)に示す機能ブロックが実装される。即ち、制御装置85は、機能ブロックとして、非押込み時経路測定部860、押込み量算出部870、引き量算出部880を有する。以降、これらの機能を交えて、螺旋状線材製造装置1による螺旋状コイル90の製造手順について説明する。
【0064】
(摺動抵抗によるコイル平均径への影響)
まず、螺旋状コイル90を製造する際において、支持用芯部70と螺旋状コイル90の間に生じる摺動抵抗の影響について説明する。
図4は、押込みガイド65を線材外周面2Aから離反させた状態(押込みガイド65が存在しないと仮定した状態/以下、非押込み状態と称す)で、螺旋状線材製造装置1が螺旋状コイル90を製造する場合を示す。なお、予め、引きガイド60による引き量を設定しておく必要があるが、その設定方法については後述する。
【0065】
図4(A)に示すように、線材2の先端2sが支持用芯部70に接触する前となる第1回目の巻回工程では、支持用芯部70と線材2の間の摺動抵抗が零となる。このように、押込みガイド65を線材外周面2Aから離反させた状態(または形式的に接触していても外力を付与していない状態)で、かつ、第1回目の巻回工程における線材通過経路Wを「非押込み時初回線材通過経路W(1)」と定義する。また、非押込み時初回線材通過経路W(1)における直線案内領域W1を「非押込み時初回直線案内領域W1(1)」と定義し、非押込み時初回線材通過経路W(1)における曲げ加工領域W2を「非押込み時初回曲げ加工領域W2(1)」と定義し、非押込み時初回線材通過経路W(1)における加工後導出領域W3を「非押込み時初回加工後導出領域W3(1)」と定義する。なお、非押込み状態における、非押込み時初回曲げ加工領域W2(1)は、第一成形ローラ30の第一接触領域33の始端33sから引きガイド中央点62cまでとなる。また、非押込み状態における、非押込み時初回加工後導出領域W3(1)は、引きガイド中央点62cから螺旋状コイル90の内周面における鉛直方向上縁Hまでとなる。
【0066】
ここで、制御装置85における非押込み時経路測定部860は、非押込み時初回加工後導出領域W3(1)における線材外側パスPAを、導出経路検出装置80によって測定する。なお、ここでは非押込み時経路測定部860が、第1回目の線材外側パスPAを測定する場合を例示するが、本発明はこれに限られず、摺動抵抗の影響が小さい初期数巻(例えば初期5回巻き)の中で選択されるいずれかの線材外側パスPAを測定したり、初期数巻き(例えば初期5回巻き)の線材外側パスPAの平均位置を算出したりしても良い。
【0067】
図4(B)に示すように、仮に非押込み状態のままで、第n回(n>1)の巻回工程が進展すると、各巻回の内周面と支持用芯部70の間に摺動抵抗が増大する。しかも、巻回数の増加に連動して摺動抵抗も増大する。本実施形態では、螺旋状コイル90の内周面の周速が、支持周面72の周速を上回ることになるので、この摺動抵抗が、螺旋状コイル90の下流側から上流側に向かって付勢する軸力Jとなり、線材2を伝達して引きガイド60に向かう。この軸力Jは、線材供給装置10による送り方向の推進力Sに対する反力となることから、第n回目の線材通過経路W(n)における加工後導出領域W3(n)が、非押込み時初回加工後導出領域W3(1)よりも径方向外側に変位する。つまり、加工後導出領域W3(n)の曲率半径が増大する。この曲率半径は、巻回数(n)が増大するほど大きくなる。
【0068】
加工後導出領域W3(n)の外側への変位(曲率半径の増大)自体は、線材2にとっての弾性変形の範囲内である。しかし、非押込み時初回線材通過経路W(1)を基準とした引きガイド60の引き量は、第n回目(n>1)の線材通過経路W(n)を基準にすると、相対的に減少する。この引き量の減少量は、巻回数が増えるほどに増大する。
【0069】
すでに述べたように、引き量の減少は、線材2を第三成形ローラ50の第三接触領域53に押圧させるための押圧力の減少となり、最終的に、第三接触領域53における曲げ戻し加工の曲げ戻し量の減少となる。結果、各巻回(n)の単位コイル径K(n)が、巻回数の増大に伴って小さくなっていく。
【0070】
(検証事例の紹介)
図5に、押込みガイド65を線材外周面2Aから離反させた状態で、螺旋状線材製造装置1による螺旋状コイル90の製造状況を示す。なお、使用した線材2は、素材はSUS410相当のステンレス鋼、断面の軸方向長さが1.2mm、断面の径方向長さが2.7mmを採用した。また、コイル平均径Krの目標値が88mmとなるように調整した。導出経路検出装置80の配置として、引きガイド中央点62cから検出点82までの位相角度を60度に設定した。また、
図5では、便宜上、第1回巻から第10回巻の各値の平均値を「1本目」の値と表現し、第46回巻から第55回巻の各値の平均値を「50本目」の値と表示し、第91回巻から第100回巻の各値の平均値を「100本目」の値と表示している。
【0071】
図5(A)は、導出経路検出装置80によって、製造中における線材外側パスPAを測定した結果を示す。「1本目」の検知位置を基準(0mm)とし、線材外側パスPAが外側に変位する方向を正値とした場合、「50本目」における検知位置は0.057mm、「100本目」における検知位置は0.078mmとなる。つまり、巻回数の増大(つまり、時間経過)に伴って、線材外側パスPAが外側(正側)に向かって徐々に変位することがわかる。また、
図5(B)は、製造された螺旋状コイルにおいて、「1本目」と「50本目」と「100本目」の単位コイル径K(n)を測定・算出し、更に「1本目」を基準とした径変化量を算出した結果である。「50本目」における径変化量は-0.017mm、「100本目」における径変化量は-0.027mmとなる。つまり、巻き回が進むに伴って、各巻回の単位コイル径K(n)が次第に小さくなることがわかる。
【0072】
(押込みガイドを利用した螺旋状コイルの製造方法)
【0073】
次に、押込みガイド65を線材外周面2Aに当接させながら螺旋状コイル90を製造する手法について説明する。
図6に、押込みガイド65を線材外周面2Aに当接させて、螺旋状線材製造装置1が螺旋状コイル90を製造する場合を示す。
【0074】
図6(A)は、
図4(A)の状態と略同様であり、押込みガイド65を線材外周面2Aに当接させる前の状態(非押込み状態)である。引き量算出部880は、引きガイド60の引き量を算出し、非押込み状態において、引きガイド移動機構64によって引きガイド60の位置を予め設定する。引きガイド60の引き量は、製造される螺旋状コイル90のコイル平均径Krが、最終目標径Kmとなるように設定することになるが、本実施形態では、最終目標径Kmを基準として、それよりも小さい仮想目標径Kbを目標値として採用し、「非押込み状態」で、この仮想目標径Kbが達成されるような引き量を算出して制御する。具体的には、最終目標径Kmから、後述する押込み量Eの影響による直径増加分(E)だけ小さくなる値(Km-E)を、仮想目標径Kbとすることが好ましい。つまり、非押込み状態で最終目標径Kmを達成するための引き量よりも、非押込み状態で仮想目標径Kbを達成するための引き量の方が小さくなる。
【0075】
このように、仮想目標径Kbを採用して、引き量を事前に小さく設定する理由は、後述する押込み操作の押込み量によって、事後的(相対的)に引き量が増大するからである。
【0076】
次に、制御装置85における押込み量算出部870は、
図6(A)において、非押込み時経路測定部860が測定した非押込み時初回加工後導出領域W3(1)における線材外側パスPAを基準に、押込みガイド65のガイド接触面62が、この線材外側パスPAと同一位置か、または、これよりも曲率半径(または螺旋状コイル90のコイル半径)の径方向内側に位置するような押し込み量を算出し、その押込み量を実現するための制御信号を押込みガイド移動機構68に送信することで、
図6(B)に示すように、押込みガイド65を前進(押込み)させる。
【0077】
本実施形態における具体的な押し込み量につい説明する。
図6(A)において、非押込み時初回加工後導出領域W3(1)における、将来の押込み接触面66の線材外側パスPAの曲率半径をMpとした場合、押込み量算出部870は、押込み量がMp×0.001以上となるように設定する。押込み量算出部870は、好ましくは、押込み量がMp×0.002以上となるように設定する。一方、押込み量算出部870は、押込み量がMp×0.05以下となるように設定する。なお、計算で用いる曲率半径Mpについては、曲げ加工で目標値となるコイル平均径Krの1/2の値を類推適用することも可能である。
【0078】
押込み量算出部870による押込みガイド移動機構68の具体的な制御方法としては、
図6(B)に示すように、導出経路検出装置80によって線材外側パスPAの位置を測定しながら、押込みガイド移動機構68によって押込みガイド65を前進させて、線材外側パスPAに初期接触させる。その初期接触は、導出経路検出装置80の検知信号において、線材外側パスPAの微小変動によって検知できる。この初期接触時の押込みガイド65の位置を起点にして、算出した押込み量相当分にだけ、押込みガイド65を前進させる。また、他の制御方法としては、導出経路検出装置80によって線材外側パスPAの位置を測定しながら、その線材外側パスPAが、算出した押込み量相当分、径方向内側に変位するまで、押込みガイド移動機構68によって押込みガイド65を前進させても良い。この場合は、導出経路検出装置80と押込みガイド65を接近させることが好ましい。
【0079】
なお、本実施形態では、制御装置85が、押込みガイド移動機構68を制御する場合を例示するが、本発明はこれに限定されない。作業員が、目視によって押込みガイド移動機構68を操作して、押し込み量を調整してもよい。この場合、押込みガイド移動機構68は、押し込み量を表示可能なゲージ付きとすることが好ましい。
【0080】
なお、繰り返しになるが、押込みガイド65による押込み操作の結果、(押込み状態の)初回加工後導出領域T3(1)が、径方向内側に変位する。この線材通過経路Tを利用して、螺旋状コイル90を製造する。
【0081】
図7に示すように、押込みガイド65による押込み状態で、螺旋状コイル90を製造すると、巻回数(n)が増えるに伴い、各巻回の内周面と支持用芯部70の間に摺動抵抗が累積される。この摺動抵抗は、螺旋状コイル90の下流側から上流側に向かって付勢する軸力Jとなり、線材2を伝達して押込みガイド65まで到達する。この軸力Jは、線材供給装置10による送り方向の推進力Sに対する反力となることから、線材通過経路Tが径方向外側に変位しようとする。しかし、押込みガイド65によって、押込みガイド中央点66cでの外側変位が規制されるため、押込みガイド中央点66cの下流側の加工後導出領域T3(n)に限って径方向外側に変位することになる。押込みガイド中央点66cよりも下流側であれば、仮に、加工後導出領域T3(n)が外側に変位しても、引きガイド60の実質的な引き量は殆ど変動しない。結果、線材2を第三成形ローラ50の第三接触領域53に押圧させるための押圧力も常に安定するので、第三接触領域53における曲げ戻し加工の曲げ戻し量が一定となり、各巻回(n)の単位コイル径K(n)を常に安定させることができる。
【0082】
目標巻回に到達したら、切断装置300によって、線材2を切断することで、螺旋状コイル90が完成する。その後、例えば
図13(A)に示すように、分割装置400の切断用砥石を利用して、螺旋状コイル90を、その母線に沿ってまとめて切断・分割する。結果、
図13(B)に示すように、単巻き状、かつ、リングの一部が分断されているC字構造のピストンリング500を得ることができる。螺旋状線材製造装置1と分割装置400を組み合わせた全体システムは、ピストンリング製造装置と定義できる。
【0083】
(実施例1)
図6及び
図7の手順によって、押込みガイド65によって線材外周面2Aを押し込んだ状態(押込み状態)で、螺旋状線材製造装置1によって螺旋状コイル90の製造した結果を
図8~
図10に示す。なお、使用した線材2は、素材はSUS410相当のステンレス鋼、断面の軸方向長さが1.2mm、断面の径方向長さが2.7mmを採用した。また、コイル平均径Krの最終目標径Kmが88mmとなるように引き量及び押込み量を調整した。また、
図8~
図10では、便宜上、第1回巻から第10回巻の各値の平均値を「1本目」の値と表現し、第46回巻から第55回巻の各値の平均値を「50本目」の値と表示し、第91回巻から第100回巻の各値の平均値を「100本目」の値と表示している。
【0084】
実施例1では、押込みガイド65の配置として、引きガイド中央点62cから押込みガイド中央点66cまでの位相角度を40度に設定した。また、導出経路検出装置80の配置として、引きガイド中央点62cから検出点82までの位相角度を60度に設定した。
【0085】
図8は、押込み量を0.2mmに設定した際のデータとなる。
図8(A)は、導出経路検出装置80によって製造中における線材外側パスPAを測定した結果を示す。「1本目」の検知位置を基準(0mm)とし、線材外側パスPAが外側に変位する方向を正値とした場合、「50本目」における検知位置は0.040mm、「100本目」における検知位置は0.063mmとなる。つまり、巻回数の増大(つまり、時間経過)に伴って、線材外側パスPAが外側に向かって徐々に変位することがわかる。一方、
図8(B)は、製造された螺旋状コイルにおいて、「1本目」と「50本目」と「100本目」の単位コイル径K(n)を測定・算出し、更に「1本目」を基準とした径変化量を算出した結果である。「50本目」における径変化量は+0.008mm、「100本目」における径変化量は+0.009mmとなる。つまり、巻き回が進んでも、各巻回の単位コイル径K(n)の径変化量が抑制され、ほとんど一定となることが分かる。
【0086】
図9は、押込み量を0.5mmに設定した際のデータとなる。
図9(A)は、導出経路検出装置80によって製造中における線材外側パスPAを測定した結果を示す。「1本目」の検知位置を基準(0mm)とし、線材外側パスPAが外側に変位する方向を正値とした場合、「50本目」における検知位置は0.034mm、「100本目」における検知位置は0.062mmとなる。つまり、巻回数の増大(つまり、時間経過)に伴って、線材外側パスPAが外側に向かって徐々に変位することがわかる。一方、
図9(B)は、製造された螺旋状コイルにおいて、「1本目」と「50本目」と「100本目」の単位コイル径K(n)を測定・算出し、更に「1本目」を基準とした径変化量を算出した結果である。「50本目」における径変化量は+0.001mm、「100本目」における径変化量は+0.018mmとなる。つまり、巻き回が進んでも、各巻回の単位コイル径K(n)の径変化量が抑制され、ほとんど一定となることが分かる。
【0087】
図10は、押込み量を1.0mmに設定した際のデータとなる。
図10(A)は、導出経路検出装置80によって製造中における線材外側パスPAを測定した結果を示す。「1本目」の検知位置を基準(0mm)とし、線材外側パスPAが外側に変位する方向を正値とした場合、「50本目」における検知位置は0.044mm、「100本目」における検知位置は0.074mmとなる。つまり、巻回数の増大(つまり、時間経過)に伴って、線材外側パスPAが外側に向かって徐々に変位することがわかる。一方、
図10(B)は、製造された螺旋状コイルにおいて、「1本目」と「50本目」と「100本目」の単位コイル径K(n)を測定・算出し、更に「1本目」を基準とした径変化量を算出した結果である。「50本目」における径変化量は+0.003mm、「100本目」における径変化量は+0.000mmとなる。つまり、巻き回が進んでも、各巻回の単位コイル径K(n)の径変化量が抑制され、ほとんど一定となることが分かる。
【0088】
(実施例2)
図6及び
図7の手順によって、押込みガイド65によって線材外周面2Aを押し込んだ状態(押込み状態)で、螺旋状線材製造装置1によって螺旋状コイル90の製造した結果を
図11~
図12に示す。なお、使用した線材2は、素材はSUS410相当のステンレス鋼、断面の軸方向長さが1.2mm、断面の径方向長さが2.7mmを採用した。また、コイル平均径Krの最終目標径Kmが88mmとなるように引き量及び押込み量を調整した。また、
図11及び
図12では、便宜上、第1回巻から第10回巻の各値の平均値を「1本目」の値と表現し、第46回巻から第55回巻の各値の平均値を「50本目」の値と表示し、第91回巻から第100回巻の各値の平均値を「100本目」の値と表示している。
【0089】
実施例2では、押込みガイド65の配置として、引きガイド中央点62cから押込みガイド中央点66cまでの位相角度を30度に設定した。また、導出経路検出装置80の配置として、引きガイド中央点62cから検出点82までの位相角度を65度に設定した。
【0090】
図11は、押込み量を0.2mmに設定した際のデータとなる。
図11(A)は、導出経路検出装置80によって製造中における線材外側パスPAを測定した結果を示す。「1本目」の検知位置を基準(0mm)とし、線材外側パスPAが外側に変位する方向を正値とした場合、「50本目」における検知位置は0.046mm、「100本目」における検知位置は0.113mmとなる。つまり、巻回数の増大(つまり、時間経過)に伴って、線材外側パスPAが外側に向かって徐々に変位することがわかる。一方、
図11(B)は、製造された螺旋状コイルにおいて、「1本目」と「50本目」と「100本目」の単位コイル径K(n)を測定・算出し、更に「1本目」を基準とした径変化量を算出した結果である。「50本目」における径変化量は+0.000mm、「100本目」における径変化量は-0.011mmとなる。つまり、巻き回が進んでも、各巻回の単位コイル径K(n)の径変化量が抑制され、ほとんど一定となることが分かる。
【0091】
図12は、押込み量を0.5mmに設定した際のデータとなる。
図12(A)は、導出経路検出装置80によって製造中における線材外側パスPAを測定した結果を示す。「1本目」の検知位置を基準(0mm)とし、線材外側パスPAが外側に変位する方向を正値とした場合、「50本目」における検知位置は0.052mm、「100本目」における検知位置は0.083mmとなる。つまり、巻回数の増大(つまり、時間経過)に伴って、線材外側パスPAが外側に向かって徐々に変位することがわかる。一方、
図12(B)は、製造された螺旋状コイルにおいて、「1本目」と「50本目」と「100本目」の単位コイル径K(n)を測定・算出し、更に「1本目」を基準とした径変化量を算出した結果である。「50本目」における径変化量は+0.013mm、「100本目」における径変化量は+0.018mmとなる。つまり、巻き回が進んでも、各巻回の単位コイル径K(n)の径変化量が抑制され、ほとんど一定となることが分かる。
【0092】
なお、本実施形態では、螺旋状コイル90の内周面と支持用芯部70の間に摺動抵抗が、線材2の上流側に伝達する軸力J(推進力Sに対する反力成分)となり、この軸力Jによる第三成形ローラ50の逆方向曲げに対する悪影響を、押込みガイド65が抑止する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、螺旋状コイル90側において、推進力Sと同一方向の軸力が作用する場合でも、その悪影響を押込みガイド65が抑止することができる。また例えば、加工後導出領域T3の線材2に対して、何らかの外力が作用する場合等においても、その悪影響を、押込みガイド65が抑止できる。
【0093】
更に本実施形態では、線材の素材としてSUS410相当のステンレス鋼を採用する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線、炭素鋼オイルテンパー線、クロムバナジウム鋼オイルテンパー線、シリコンクロム鋼オイルテンパー線、シリコンクロムバナジウム鋼オイルテンパー線等のばね材が好適に用いられる。また、ピストンリングを製作する際の線材の材質は、線材化にできる材料である限り、従来、ピストンリング用途として使用されている様々な材質を採用でき、鉄系金属、非鉄系金属等を挙げることができる。例えば、炭素鋼、合金鋼、焼入れ鋼、高速度工具鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金等を挙げることができる。具体的には、マルテンサイト系ステンレス鋼、クロムマンガン鋼(SUP9材)、クロムバナジウム鋼(SUP10材)、シリコンクロム鋼(SWOSC-V材)並びに硬鋼線材(SWRH62B材)等が好適に用いられる。
【0094】
また、本実施形態では、螺旋状コイルをピストンリング用の素材として用いてピストンリングを製造する場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、他のリング状構造物の素材として螺旋状コイルを用いることができる。更に、螺旋状コイルそのものを、コイルばね等の構造物に適用できる。本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0095】
1 螺旋状線材製造装置
2 線材
2A 線材外周面
2B 線材内周面
10 線材供給装置
20 曲げ加工装置
22 ベース
30 第一成形ローラ
32 第一周面
33 第一接触領域
40 第二成形ローラ
42 第二周面
43 第二接触領域
50 第三成形ローラ
52 第三周面
53 第三接触領域
60 引きガイド
62 ガイド接触面
64 引きガイド移動機構
65 押込みガイド
66 押込み接触面
68 押込みガイド移動機構
70 支持用芯部
72 支持周面
80 導出経路検出装置
82 検出点
85 制御装置
90 螺旋状コイル
300 切断装置
400 分割装置
500 ピストンリング
E 押込み量
G 仮想螺旋軸
H 鉛直方向上縁
K 単位コイル径
Kb 仮想目標径
Km 最終目標径
Kr コイル平均径
L 下端点
Mp 曲率半径
P 線材センターパス
PA 線材外側パス
PA 領域線材外側パス
PB 線材内側パス
S 推進力
T 線材通過経路
T1 直線案内領域
T2 曲げ加工領域
T3 加工後導出領域
X 直線案内方向
Z 直線案内直交軸