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  • 特開-剥離紙 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049820
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】剥離紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20240403BHJP
   D21H 19/32 20060101ALI20240403BHJP
   D21H 19/34 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
D21H27/00 A
D21H19/32
D21H19/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156287
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 卓哉
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG46
4L055AG64
4L055AG86
4L055AG97
4L055BE08
4L055BE09
4L055EA08
4L055FA11
(57)【要約】
【課題】シリコーン系剥離剤をコーティングしたときの目止め効果に優れ、バリア性が高い剥離紙を提供すること。
【解決手段】紙基材10と、前記紙基材10の一方の面11に設けられた酢酸セルロースを含む目止め層20と、前記目止め層20の前記紙基材10側とは反対側の面に設けられたシリコーン系剥離剤を含む剥離剤層30と、を備える剥離紙100。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、
前記紙基材の一方の面に設けられた酢酸セルロースを含む目止め層と、
前記目止め層の前記紙基材側とは反対側の面に設けられたシリコーン系剥離剤を含む剥離剤層と、
を備える剥離紙。
【請求項2】
請求項1に記載の剥離紙において、
前記目止め層の厚さが、2μm以上、20μm以下である、
剥離紙。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の剥離紙において、
前記酢酸セルロースの酢化度が、50%以上、62%以下である、
剥離紙。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の剥離紙において、
前記酢酸セルロースのアセチル基総置換度が、2.3以上、2.6以下である、
剥離紙。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の剥離紙において、
前記目止め層は、前記酢酸セルロースが有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングしてなる層である、
剥離紙。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の剥離紙において、
前記シリコーン系剥離剤が、エマルション型のシリコーン系剥離剤である、
剥離紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は剥離紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、剥離紙は、粘着シートなどが有する粘着剤層の保護用シート、樹脂シート作製用工程紙、及び合成皮革製造用工程紙などの各種用途に幅広く用いられている。剥離紙は、例えば、紙基材と、紙基材上に設けられた剥離剤層とを有し、必要に応じて、紙基材と剥離剤層との間に、目止め層が設けられる場合がある。
【0003】
特許文献1には、トリアセチルセルロースフィルムからなる基材と、この基材の少なくとも一方の面に設けたシリコーンを主成分とする離型剤層とを備え、前記基材と前記離型剤層との間に下地層を設けた離型フィルムが提案されている。
【0004】
特許文献2には、基紙の少なくとも片面に、低密度ポリエチレン層を介して紫外線硬化型シリコーン層が設けられた紫外線硬化型シリコーン塗工剥離紙が提案されている。前記基紙は、密度0.90g/cm以上で、JAPAN TAPPI No.5に定められる王研式平滑度試験器による平滑度が200秒以上である。
【0005】
特許文献3には、木材パルプ系繊維を主体とする基紙の少なくとも片面に、顔料とバインダーを主成分とする顔料塗工層を5g/m以上20g/m以下設けてなる剥離紙用原紙が提案されている。特許文献3に記載される剥離紙用原紙は、前記バインダー成分としてエチレン酢酸ビニル共重合体を使用すると共に、前記顔料とバインダーの配合比が、重量比で35/65以上65/35以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-056160号公報
【特許文献2】特開平2-292379号公報
【特許文献3】特開2000-273798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、基材として、トリアセチルセルロースフィルムを用い、当該トリアセチルセルロースフィルムの片面に、直接、シリコーンを主成分とする離型剤層を設けた場合には、トリアセチルセルロースフィルムと離型剤層との密着性が極めて低いことが記載されている。このため、特許文献1に記載される離型フィルムは、トリアセチルセルロースフィルムとシリコーンを主成分とする離型剤層との間に、下地層を設けることで、トリアセチルセルロースフィルムと離型剤層との十分な接着力が確保できるとされている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載される離型フィルムは、紙基材を用いた離型フィルムではない。また、特許文献1に記載される離型フィルムは、下地層として、ポリエステルフィルムを用いており、廃棄処理に伴う環境負荷が大きくなることが懸念される。このため、上記の離型フィルムには、さらなる環境影響への配慮が求められる。
【0009】
特許文献2に記載される剥離紙は、ポリエチレンを用いて目止め層としているため、比較的高いバリア性が得られる。特許文献2に記載される剥離紙において、ポリエチレンの厚さは、10μm以上である。しかしながら、紙基材上に、厚さを10μm未満でポリエチレンをラミネートすることは困難である。また、特許文献2に記載される剥離紙は、ポリエチレンをラミネートしているため、廃棄処理に伴う環境負荷が大きくなることが懸念される。
【0010】
特許文献3に記載される剥離紙用原紙は、顔料及びバインダーを主体とする顔料コート層を工夫することによって、パルプ繊維を主体とする基紙表面のパルプ繊維間の空隙を完全に目止めすることができるとされている。特許文献3に記載される剥離紙用原紙は、ポリエチレンラミネート紙を使用しないため、古紙として再生可能であるとされている。また、当該剥離紙用原紙上に、シリコーン系の剥離剤を、直接、コーティングすることが可能であり、良好な剥離適性(適切な剥離力)が得られるとされている。
【0011】
しかしながら、特許文献3に記載される剥離紙用原紙では、紙基材上に、直接、シリコーン系剥離剤をコーティングするため、バリア性が未だ十分とはいえず、さらなる改善の余地があった。
【0012】
本発明の目的は、シリコーン系剥離剤をコーティングしたときの目止め効果に優れ、バリア性が高い剥離紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1] 紙基材と、
前記紙基材の一方の面に設けられた酢酸セルロースを含む目止め層と、
前記目止め層の前記紙基材側とは反対側の面に設けられたシリコーン系剥離剤を含む剥離剤層と、
を備える剥離紙。
【0014】
[2] [1]に記載の剥離紙において、
前記目止め層の厚さが、2μm以上、20μm以下である、
剥離紙。
【0015】
[3] [1]又は[2]に記載の剥離紙において、
前記酢酸セルロースの酢化度が、50%以上、62%以下である、
剥離紙。
【0016】
[4] [1]から[3]のいずれかに記載の剥離紙において、
前記酢酸セルロースのアセチル基総置換度が、2.3以上、2.6以下である、
剥離紙。
【0017】
[5] [1]から[4]のいずれかに記載の剥離紙において、
前記目止め層は、前記酢酸セルロースが有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングしてなる層である、
剥離紙。
【0018】
[6] [1]から[5]のいずれかに記載の剥離紙において、
前記シリコーン系剥離剤が、エマルション型のシリコーン系剥離剤である、
剥離紙。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、シリコーン系剥離剤をコーティングしたときの目止め効果に優れ、バリア性が高い剥離紙が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る剥離紙の一例を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<剥離紙>
本実施形態に係る剥離紙は、紙基材と、前記紙基材の一方の面に設けられた酢酸セルロースを含む目止め層と、前記目止め層の前記紙基材側とは反対側の面に設けられたシリコーン系剥離剤を含む剥離剤層と、を備える。
【0022】
本実施形態に係る剥離紙は、上記構成を備えることにより、シリコーン系剥離剤をコーティングしたときの目止め効果に優れ、バリア性が高い剥離紙が得られる。理由は定かではないが、酢酸セルロースは、目止め効果が高いと考えられるため、剥離剤層を設けるときに、シリコーン系剥離剤を含む剥離剤組成物の紙基材への染み込みがより抑制されると考えられる。これにより、得られた剥離紙は、透気抵抗が高くなり、バリア性が高いと推測される。
【0023】
本実施形態に係る剥離紙について、図面を参照して説明する。図1に示される剥離紙100は、紙基材10と、紙基材10の一方の面(紙基材10の第一主面11)に設けられた目止め層20と、目止め層20の紙基材10側とは反対側の面(目止め層20の主面21)に設けられた剥離剤層30とを備えており、紙基材10、目止め層20、及び剥離剤層30が、紙基材10から剥離剤層30に向かって、この順で順次積層されている。紙基材10の第二主面13には、目止め層20及び剥離剤層30が設けられておらず、紙基材10の第二主面13が露出している。目止め層20は、酢酸セルロースを含み、剥離剤層30は、シリコーン系剥離剤を含む。剥離紙100において、剥離剤層30の主面31は、被剥離物が接触する面(剥離面)となる。ここで、主面とは、紙基材、目止め層、又は剥離剤層の最大面であり、厚さ方向(すなわち、各層の積層方向)に向く面を表す。なお、剥離紙100においては、酢酸セルロースを含む目止め層と、シリコーン系剥離剤を含む剥離剤層30とが、直接、接しているにもかかわらず、両者の層の密着性の低下が抑制されている。
【0024】
以上、図1を参照して、本実施形態に係る剥離紙の一例を説明したが、本実施形態に係る剥離紙は、これに限定されるものではない。本実施形態に係る剥離紙は、上記構成を有していれば、種々の形態を採用し得る。
【0025】
(紙基材)
紙基材としては、後述の目止め層を支持できれば、特に限定されるものではない。紙基材としては、例えば、クラフト紙、グラシン紙、非コート紙(例えば、上質紙、中質紙、及び薄葉紙など)、及びコート紙(例えば、アート紙、クレーコート紙、及びキャストコート紙など)などが挙げられる。
【0026】
本明細書において、コート紙は、パルプ繊維を主成分とする原紙と、原紙の上に設けられた顔料コート層とを備えている。原紙は、例えば、パルプ繊維を主成分として、目的とする添加剤が添加され、公知の方法で得られる。顔料コート層は、原紙の上に、公知の方法で設けられる。顔料コート層は、単層構造でもよく、多層構造でもよい。顔料コート層は、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、サチンホワイト、酸化チタン、及びプラスチックピグメントなどの一種又は二種以上の顔料100質量部に対して、例えば、水性樹脂などの接着剤を、2質量部以上、50質量部以下の範囲で含有する。本明細書において、水性樹脂とは、水に分散し得る樹脂、又は水に溶解し得る樹脂を指す。水性樹脂とは、水溶性の樹脂だけでなく、エマルション型、及びディスパージョン型のように、水に分散可能な樹脂も含む。
【0027】
紙基材が、顔料コート層を備えることで、酢酸セルロースを含む目止め層の目止め効果が高まりやすい。また、目止め層上に剥離剤層を設けるときの目止効果も向上しやすい。
【0028】
紙基材の坪量は、特に限定されず、例えば、30g/m以上であることが好ましく、50g/m以上であることがより好ましい。紙基材の坪量は、例えば、300g/m以下であることが好ましく、200g/m以下であることがより好ましい。紙基材の厚さは、特に限定されず、例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。紙基材の厚さは、例えば、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0029】
紙基材が、コート紙である場合、原紙の厚さは、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。原紙の厚さは、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。顔料コート層の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。顔料コート層の厚さは、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0030】
(目止め層)
目止め層は、酢酸セルロースを含んでいる。目止め層には、樹脂成分として酢酸セルロースが含まれていればよく、樹脂成分として酢酸セルロースのみが含まれていてもよい。
【0031】
目止め層の厚さは、特に限定されない。目止め層の厚さは、シリコーン系剥離剤をコーティングしたときの目止め効果に優れ、バリア性が得られやすくなる観点で、例えば、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることがさらに好ましい。目止め層の厚さは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。なお、目止め層の厚さは、20μm以下であると、例えば、カールの発生が抑制されやすい。
【0032】
本実施形態に係る剥離紙において、目止め層の厚さは、10μm未満(例えば、9μm以下)であっても目止め効果に優れる。したがって、従来から用いられているポリエチレン樹脂による目止め層の厚さに比べ、薄くできるという利点がある。
【0033】
環境影響を考慮すると、酢酸セルロースは、生分解性が得られやすくなる観点で、酢化度が50%以上であることが好ましい。酢酸セルロースは、酢化度が52%以上でもよく、53%以上でもよく、54%以上でもよい。酢酸セルロースは、生分解性が得られやすくなる観点で、酢化度が62%以下であることが好ましい。
【0034】
酢酸セルロースの酢化度は、ASTM D-817-91(セルロースアセテートなどの試験方法)の酢化度の測定方法に準拠して測定することができる。
【0035】
環境影響を考慮すると、酢酸セルロースのアセチル基総置換度は、生分解性が得られやすくなる観点で、2.3以上であることが好ましく、2.4以上であることがより好ましい。酢酸セルロースのアセチル基総置換度は、生分解性が得られやすくなる観点で、2.6以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。
【0036】
酢酸セルロースのアセチル基総置換度は、酢酸セルロースの酢化度から、下記数式(F1)で換算することにより求められる。
DS=162.14×AV/(6005.2-AV×42.037)・・・(F1)
数式(F1)中、DSは、アセチル基総置換度、AVは、酢化度(%)を表す。
【0037】
また、酢酸セルロースは、25±1℃における6%粘度(6%に希釈した際の粘度)が50mPa・s以上200mPa・s以下であることが好ましい。なお、6%粘度は、例えば、乾燥試料3gを95%アセトン水溶液39.9gで溶解させた濃度6wt/vol%(質量/体積%)の溶液を、オストワルド粘度計を用いて測定できる。
【0038】
酢酸セルロースは、融点が230℃以上、300℃以下であることが好ましい。酢酸セルロースの融点は、例えばJIS K7121:1987で規定される方法に準拠して測定できる。
【0039】
後述の目止め層形成用組成物の塗布液のように、酢酸セルロースを含有する溶液の粘度は、例えばJIS K7117-1:1999で規定される方法に準拠して測定できる。
【0040】
目止め層は、(i)酢酸セルロースを溶融押出法によって設けられた層(樹脂層)であってもよく、(ii)酢酸セルロースを有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングしてなる層であってもよい。目止め層の形成のしやすさの観点、及び紙基材との密着性の観点で、目止め層は、酢酸セルロースを有機溶剤に溶解した塗布液(目止め層形成用組成物の塗布液)をコーティングしてなる層であることが好ましい。
【0041】
目止め層は、酢酸セルロースの他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、添加剤など(例えば、可塑剤など)のその他の成分を含有してもよい。
【0042】
(剥離剤層)
剥離剤層は、シリコーン系剥離剤を含む。シリコーン系剥離剤は、シロキサン結合を骨格とするシリコーン樹脂を含む。シリコーン系剥離剤のシリコーン樹脂としては、特に限定されず、例えば、クロロシラン化合物(例えば、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、及びメチルビニルジクロロシランなど)の単独重合体又は共重合体などが挙げられる。シリコーン樹脂は単独又は二種以上を混合して用いることができる。
【0043】
シリコーン系剥離剤は、特に限定されず、溶剤型、無溶剤型、又はエマルション型のいずれの形態でも用いることができる。シリコーン系剥離剤は、環境対応の観点から、エマルション型のシリコーン系剥離剤(以下、エマルションシリコーンと称する場合がある)、又は無溶剤型のシリコーン系剥離剤であることが好ましい。シリコーン系剥離剤は、エマルション型のシリコーン系剥離剤であることがより好ましい。エマルション型のシリコーン系剥離剤は、水に任意の割合で相溶するため、剥離剤組成物に含まれるバインダー樹脂との相溶性、及び環境対応などの観点で好適である。エマルション型のシリコーン系剥離剤は、例えば、シリコーンオイルを各種乳化剤で乳化して得られる。
【0044】
シリコーン系剥離剤として、エマルション型のシリコーン系剥離剤が用いられる場合、剥離剤層は、バインダー樹脂と剥離剤とを含むことが好ましい。バインダー樹脂と剥離剤との比率は、剥離面と接触する被剥離物との適度な剥離性を得る観点で、例えば、剥離剤に対するバインダー樹脂の固形分比率(バインダー樹脂/剥離剤)として、質量換算で、50/50以上、95/5以下であることが好ましく、60/40以上、93/7以下であることが好ましく、70/30以上、90/10以下であることがより好ましい。
【0045】
バインダー樹脂としては、ポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂を用いることができる。バインダー樹脂として、水溶性樹脂を用いる場合、被剥離物との適度な剥離性を得るなどの観点から、バインダー樹脂は、ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。以下、ポリビニルアルコールをPVAと称する場合がある。
【0046】
バインダー樹脂として、PVAを用いる場合、PVAは、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られる。PVAのけん化度は、PVA中の酢酸基の数と水酸基の数との合計数に対する水酸基の数の百分率で表される。PVAのけん化度及び重合度は特に限定されない。PVAのけん化度は、70%以上であってもよく、78%以上であってもよく、85%以上であってもよく、95%以上であってもよく、98%以上であってもよい。PVAのけん化度は、100%以下でもよく、99%以下でもよい。PVAの重合度は、300以上であってもよく、500以上であってもよく、1000以上であってもよい。PVAの重合度は、3000以下でもよく、2000以下であってもよい。PVAのけん化度、及び重合度は、例えば、JIS K6726:1994に規定されている方法で求められる。これらの中でも、剥離剤の目止効果などの観点から、PVAは、けん化度が98%以上であり、重合度が500以上であることが好ましい。PVAは一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0047】
剥離剤層の厚さは、特に限定されず、乾燥および硬化後の剥離剤層として、3μm以上であることが好ましい。剥離剤層の厚さは、特に限定されず、乾燥および硬化後の剥離剤層として、15μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。
【0048】
剥離剤層は、シリコーン系剥離剤の他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、添加剤などのその他の成分を含有してもよい。
【0049】
(剥離紙の製造方法)
本実施形態に係る剥離紙の製造方法は、特に限定されない。本実施形態に係る剥離紙の好ましい製造方法の一例としては、例えば、紙基材を準備する工程と、前記紙基材の一方の面に、酢酸セルロースを含む目止め層を設ける工程と、前記目止め層の前記紙基材側とは反対側の面に、シリコーン系剥離剤を含む剥離剤層を設ける工程と、を備える。
【0050】
紙基材を準備する工程は、前述の紙基材で説明した紙基材を準備すればよい。
【0051】
目止め層を設ける工程は、紙基材の一方の面に、酢酸セルロースを含む目止め層を設けることができれば、特に限定されない。
前記目止め層を設ける工程は、具体的には、酢酸セルロースを含む目止め層形成用組成物を調製した後、前記目止め層形成用組成物を紙基材上に塗布、乾燥して塗膜を形成する工程であってもよい。紙基材上に目止め層を設ける方法は、例えば、酢酸セルロースを含む目止め層形成用材料を有機溶剤で溶解した目止め層形成用組成物の塗布液を、紙基材上にコーティングする方法が挙げられる。目止め層形成用組成物の塗布液を、紙基材上にコーティングした後、乾燥することで、目止め層が形成される。
【0052】
酢酸セルロースを溶解する有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、ケトン類(アセトン、シクロヘキサノン、及びメチルエチルケトン(MEK)など)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、及びエステル類(酢酸エチル、及び酢酸ブチルなど)などが挙げられる。これらの有機溶剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの有機溶剤の中でも、酢酸セルロースの溶解のし易さの観点から、エチルメチルケトン、ジメチルホルムアミド、及びシクロヘキサノンからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0053】
目止め層形成用組成物の塗布液の25℃での粘度は、20mPa・s以上、2000mPa・s以下であることが好ましい。当該粘度が前記範囲内であれば、塗布液を用いて適切な目止め層を形成し易くなる。この粘度は、例えばJIS K7117-1:1999で規定される方法に準拠して測定できる。目止め層形成用組成物の塗布液における不揮発分濃度は、25℃での粘度が上記範囲内に調製することができれば、特に限定されない。
【0054】
目止め層形成用組成物の塗布液を紙基材の上にコーティングする方法としては、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、カーテンコート法、及びグラビアコート法などが挙げられる。目止め層形成用組成物の塗布液のコーティング量は、例えば、目止め層の乾燥後の厚さとして、2μm以上、20μm以下の範囲となる量であることが好ましい。目止め層が酢酸セルロースのみからなる層である場合、目止め層形成用組成物の塗布液のコーティング量は、特に限定されず、例えば、3g/m以上、30g/m以下であることが挙げられる。
【0055】
剥離剤層を設ける工程は、紙基材上に設けられた目止め層上に剥離剤層を設けることができれば、特に限定されない。
前記剥離剤層を設ける工程は、具体的には、シリコーン系剥離剤を含む剥離剤組成物を調製した後、紙基材上に形成された前記目止め層上に、前記剥離剤組成物を塗布、乾燥して塗膜を形成する工程であってもよい。目止め層上に剥離剤層を設ける方法は、例えば、紙基材上に設けられた目止め層上に、シリコーン系剥離剤を含む剥離剤組成物の塗布液を塗布した後、加熱して塗膜を形成し、目止め層上に剥離剤層を設ける。
【0056】
シリコーン系剥離剤が、エマルションシリコーンである場合、剥離剤組成物の塗布液には、エマルションシリコーンと水溶性樹脂とを含むことが好ましい。水溶性樹脂は、PVAであることが好ましい。PVAとエマルションシリコーンとの比率は前述の範囲であることが好ましい。
【0057】
剥離剤組成物の塗布液における不揮発分濃度は、コーティング適性および乾燥性の観点で、5質量%以上、60質量%以下であることが好ましい。当該不揮発分濃度は、10質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよい。当該不揮発分濃度は、50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよい。
【0058】
剥離剤組成物の塗布方法としては、例えば、カーテンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、及びエアナイフ法などが挙げられる。
【0059】
以上の工程を得ることにより、本実施形態に係る剥離紙が得られる。
【0060】
(剥離紙の用途)
本実施形態に係る剥離紙は、一般的な剥離シートの用途に適用できる。本実施形態に係る剥離紙は、例えば、剥離紙の剥離剤層の剥離面にシート状物を形成する工程において用いられる工程紙として使用可能である。本実施形態に係る剥離紙は、具体的には、各種樹脂シート、合成皮革、又は各種複合材料などを作製するときの各種工程紙として適用できる。
【0061】
本実施形態に係る剥離紙は、剥離剤層を設けるときに、シリコーン系剥離剤を含む剥離剤組成物の紙基材への染み込みがより抑制されると考えられる。本実施形態に係る剥離紙は、バリア性に優れるため、例えば、被剥離物を剥離剤層と接したとき、被剥離物からの剥離力をより小さくすることが可能である。このため、本実施形態に係る剥離紙は、例えば、粘着シートの製造及び保護に用いられる剥離紙として適用することが有用である。
【0062】
本発明は、前記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良などを含むことができる。
【実施例0063】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
【0064】
各実施例及び各比較例の剥離紙を作製するための原材料として、下記の原材料を準備した。
【0065】
(紙基材)
P-1:上質紙(日本製紙社製、npi上質、坪量64g/m
P-2:キャストコート紙(日本製紙社製、エスプリC、坪量157g/m
【0066】
(酢酸セルロース)
CA-1:酢化度55%(アセチル基総置換度2.4)の酢酸セルロース(ダイセル社製、L-20)
【0067】
(剥離剤)
EM-Si:エマルションシリコーンKM-3951(信越化学工業社製)
【0068】
(バインダー樹脂)
PVA:ポリビニルアルコール(クラレ社製、クラレポバール28-98)
【0069】
<実施例1>
上質紙(P-1)の片面に、酢酸セルロース(CA-1)をメチルエチルケトンで溶解して調製した目止め層形成用組成物の塗布液(25℃での粘度1200mPa・s)を、アプリケーターでコーティングした後、120℃、1分間で乾燥して、厚さ3μmで、目止め層を形成した。予め、固形分比で、PVAを25質量部、エマルションシリコーン(EM-Si)を75質量部となる割合で混合し、水で希釈した剥離剤組成物の塗布液(PVA/EM-Si)を調製した。目止め層の表面に、乾燥後塗工量が5g/mとなるように、剥離剤組成物の塗布液をマイヤーバーでコーティングした。コーティング後、180℃で、1分間で乾燥させ、厚みが4μmである剥離剤層を形成して、実施例1の剥離紙を得た。
【0070】
<実施例2>
表1にしたがって、目止め層の厚さを変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の剥離紙を得た。
【0071】
<比較例1>
酢酸セルロースに代えて、上質紙の片面に、ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、ノバテックLD LC680)を、厚さが15μmになるように、Tダイにより溶融押出して、ポリエチレン(表1中、PEと表記)を目止め層とした以外は、実施例1と同様にして、剥離剤層を形成して、比較例1の剥離紙を得た。
【0072】
<比較例2>
目止め層を設けずに、上質紙に、直接、剥離剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の剥離紙を得た。
【0073】
<比較例3>
上質紙をキャストコート紙に変更して、目止め層を設けずに、キャストコート紙に、直接、剥離剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の剥離紙を得た。
【0074】
[剥離力の測定1]
各例で作製した剥離紙の剥離剤層の表面に、アクリル系粘着剤(トーヨーケム社製、オリバインBPS5127)を厚さが23μmとなるようにコーティングした後、厚さ50μmのPETフィルムと貼り合わせた。その後、2kgローラを1往復させて粘着体を作製した。この粘着体を温度23℃、相対湿度50%の条件下に1日間放置した後に、JIS Z0237:2022に規定する、「剥離ライナーをテープ及びシートの粘着面に対して180°に引き剥がす試験方法」により、剥離力を測定した。
【0075】
[剥離力の測定2]
剥離剤層にポリエステル粘着テープ(日東電工社製、No.31B、ポリエステル基材、アクリル系粘着剤)を貼り合わせ、温度23℃、相対湿度50%の条件下で、30分間放置後の剥離力を、JIS Z0237:2022に準拠して、剥離速度0.3m/分の条件で180°ピール試験を行い、測定した。
【0076】
[透気度の測定]
各例で作製した剥離紙の王研式透気度を、JIS P8117:2009に規定する王研式試験機法に準拠して、測定した。
【0077】
【表1】
【0078】
各実施例の剥離紙は、目止め層を設けない比較例2及び比較例3の剥離紙に比べ、バリア性に優れることが分かる。各実施例の剥離紙は、ポリエチレンの目止め層を設けた比較例1と比べ、目止め層の厚さが薄い場合であっても、同等のバリア性が得られることが分かる。
【0079】
なお、各実施例の剥離紙は、優れたバリア性が得られ、比較例の剥離紙に比べ、より低い剥離力を有していた。これは、酢酸セルロースの目止め効果が高いため、シリコーン系剥離剤を含む剥離剤組成物が、より目止め層の表面に残留しやすいと推測される。
また、各実施例の剥離紙は、各剥離力の測定において、酢酸セルロースを含む目止め層と、シリコーン系剥離剤を含む剥離剤層との間で剥離することが無く、両者の層は密着性に優れていた。
【0080】
各実施例の剥離紙は、酢酸セルロースを含む目止め層を設けている。このため、本実施形態に係る剥離紙は、生分解性に優れ、環境影響が低減されやすい。
【符号の説明】
【0081】
10…紙基材、11…第一主面(紙基材10の第一主面)、13…第二主面(紙基材10の第二主面)、20…目止め層、21…主面(目止め層20の主面)、30…剥離剤層、31…主面(剥離剤層30の主面)、100…剥離紙。
図1