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特開2024-49840被験者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049840
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】被験者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240403BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20240403BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20240403BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6837 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156318
(22)【出願日】2022-09-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態解明と治療薬開発に資する基盤研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真也
(72)【発明者】
【氏名】森岡 慎一郎
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR55
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】COVID-19罹患後症状をより客観的に評価する技術を提供する。
【解決手段】被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法であって、血液試料中の1種類又は複数種類の液性因子の存在量を測定する工程を含み、CXCL6又はCXCL2の存在量が有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての倦怠感を発症していることを示し、CCL8の存在量が有意に高いことが咳を発症していることを示し、DKK1の存在量が有意に高いことが脱毛を発症していることを示し、CCL23の存在量が有意に低いことが嗅覚異常を発症していることを示し、CCL27又はLIFの存在量が有意に低いことが抑うつを発症していることを示し、VEGFの存在量が有意に低いことが物忘れを発症していることを示す、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法であって、
前記被験者由来の血液試料中の、CXCL6、CXCL2、CCL8、DKK1、CCL23、CCL27、LIF及びVEGFからなる群より選択される1種類又は複数種類の液性因子の存在量を測定する工程を含み、
前記液性因子の存在量がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータであり、
前記液性因子がCXCL6又はCXCL2であり、前記被験者由来の血液試料中のCXCL6又はCXCL2の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての倦怠感を発症している可能性があることを示し、又は、
前記液性因子がCCL8であり、前記被験者由来の血液試料中のCCL8の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての咳を発症している可能性があることを示し、又は、
前記液性因子がDKK1であり、前記被験者由来の血液試料中のDKK1の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての脱毛を発症している可能性があることを示し、又は、
前記液性因子がCCL23であり、前記被験者由来の血液試料中のCCL23の存在量が対照と比較して有意に低いことが、COVID-19罹患後症状としての嗅覚異常を発症している可能性があることを示し、又は、
前記液性因子がCCL27又はLIFであり、前記被験者由来の血液試料中のCCL27又はLIFの存在量が対照と比較して有意に低いことが、COVID-19罹患後症状としての抑うつを発症している可能性があることを示し、又は、
前記液性因子がVEGFであり、前記被験者由来の血液試料中のVEGFの存在量が対照と比較して有意に低いことが、COVID-19罹患後症状としての物忘れを発症している可能性があることを示す、方法。
【請求項2】
被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定する方法であって、
前記被験者由来のDNA試料について、Rho GTPase activating protein 15(ARHGAP15)遺伝子、testis development related protein(TDRP)遺伝子、又は、Spermatogenesis Associated 5(SPATA5)遺伝子における変異の存在を検出する工程を含み、
ARHGAP15遺伝子に変異が存在することが、前記被験者がCOVID-19罹患後症状としての嘔吐を発症する遺伝的素因を有することを示し、又は、
TDRP遺伝子若しくはSPATA5遺伝子に変異が存在することが、前記被験者がCOVID-19罹患後症状としての物忘れを発症する遺伝的素因を有することを示す、方法。
【請求項3】
前記ARHGAP15遺伝子における変異が、2番染色体の第143728354番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs77558426で特定されるSNP)、2番染色体の第143561978番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs117959854で特定されるSNP)、又は、2番染色体の第143684512番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs5834963で特定されるSNP)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記TDRP遺伝子における変異が、8番染色体の第510615番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs73175035で特定されるSNP)、8番染色体の第508322番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs58140026で特定されるSNP)、又は、8番染色体の第531500番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs35475931で特定されるSNP)である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記SPATA5遺伝子における変異が、4番染色体の第123279008番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs80136065で特定されるSNP)である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集するためのキットであって、
前記被験者由来の血液試料中の、CXCL6、CXCL2、CCL8、DKK1、CCL23、CCL27、LIF及びVEGFからなる群より選択される1種類又は複数種類の液性因子の存在量を測定するための試薬を含む、キット。
【請求項7】
被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定するためのキットであって、
ARHGAP15遺伝子、TDRP遺伝子、又は、SPATA5遺伝子における変異の存在を検出するための試薬を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法に関する。より詳細には、本発明は、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定する方法、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集するためのキット、及び、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19罹患後症状とは、COVID-19の後遺症のことである。COVID-19罹患後症状は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した人に見られ、少なくとも2ヶ月以上持続する。また、他の疾患による症状として説明がつかないものである。通常、COVID-19罹患後症状は、COVID-19の発症から3ヶ月経った時点においても見られる。
【0003】
例えば、非特許文献1には、COVID-19罹患後症状について報告されている。COVID-19罹患後症状には、倦怠感、咳、息切れ、記憶障害、集中力低下、抑うつ、味覚異常、嗅覚異常、嘔吐、下痢、腹痛、脱毛等があり、日常生活に影響することもある。
【0004】
COVID-19罹患後症状には、COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、急性期から持続する症状がある。また、症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Miyazato Y., et al., Prolonged and Late-Onset Symptoms of Coronavirus Disease 2019, Open Forum Infectious Diseases, Volume 7, Issue 11, ofaa507, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
COVID-19罹患後症状については未だ不明点が多く、それぞれの症状とCOVID-19との因果関係も十分には明らかにされていない。また、COVID-19罹患後症状を発症している患者が、COVID-19罹患後症状であることを認識していない場合もある。本発明は、COVID-19罹患後症状を、より客観的に評価する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1]被験者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法であって、前記被験者由来の血液試料中の、CXCL6、CXCL2、CCL8、DKK1、CCL23、CCL27、LIF及びVEGFからなる群より選択される1種類又は複数種類の液性因子の存在量を測定する工程を含み、前記液性因子の存在量がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータであり、前記液性因子がCXCL6又はCXCL2であり、前記被験者由来の血液試料中のCXCL6又はCXCL2の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての倦怠感を発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がCCL8であり、前記被験者由来の血液試料中のCCL8の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての咳を発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がDKK1であり、前記被験者由来の血液試料中のDKK1の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての脱毛を発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がCCL23であり、前記被験者由来の血液試料中のCCL23の存在量が対照と比較して有意に低いことが、COVID-19罹患後症状としての嗅覚異常を発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がCCL27又はLIFであり、前記被験者由来の血液試料中のCCL27又はLIFの存在量が対照と比較して有意に低いことが、COVID-19罹患後症状としての抑うつを発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がVEGFであり、前記被験者由来の血液試料中のVEGFの存在量が対照と比較して有意に低いことが、COVID-19罹患後症状としての物忘れを発症している可能性があることを示す、方法。
[2]被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定する方法であって、前記被験者由来のDNA試料について、Rho GTPase activating protein 15(ARHGAP15)遺伝子、testis development related protein(TDRP)遺伝子、又は、Spermatogenesis Associated 5(SPATA5)遺伝子における変異の存在を検出する工程を含み、ARHGAP15遺伝子に変異が存在することが、前記被験者がCOVID-19罹患後症状としての嘔吐を発症する遺伝的素因を有することを示し、又は、TDRP遺伝子若しくはSPATA5遺伝子に変異が存在することが、前記被験者がCOVID-19罹患後症状としての物忘れを発症する遺伝的素因を有することを示す、方法。
[3]前記ARHGAP15遺伝子における変異が、2番染色体の第143728354番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs77558426で特定されるSNP)、2番染色体の第143561978番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs117959854で特定されるSNP)、又は、2番染色体の第143684512番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs5834963で特定されるSNP)である、[2]に記載の方法。
[4]前記TDRP遺伝子における変異が、8番染色体の第510615番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs73175035で特定されるSNP)、8番染色体の第508322番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs58140026で特定されるSNP)、又は、8番染色体の第531500番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs35475931で特定されるSNP)である、[2]に記載の方法。
[5]前記SPATA5遺伝子における変異が、4番染色体の第123279008番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs80136065で特定されるSNP)である、[2]に記載の方法。
[6]被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集するためのキットであって、前記被験者由来の血液試料中の、CXCL6、CXCL2、CCL8、DKK1、CCL23、CCL27、LIF及びVEGFからなる群より選択される1種類又は複数種類の液性因子の存在量を測定するための試薬を含む、キット。
[7]被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定するためのキットであって、ARHGAP15遺伝子、TDRP遺伝子、又は、SPATA5遺伝子における変異の存在を検出するための試薬を含む、キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、COVID-19罹患後症状を、より客観的に評価する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実験例1の概要を説明する模式図である。
図2図2は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての倦怠感の発症の有無と、血液中のCXCL6又はCXCL2の存在量との関連性を示すグラフである。
図3図3は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての倦怠感の発症の有無に関連する因子の多変量解析の結果を示す図である。
図4図4は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての咳の有無と、血液中のCCL8の存在量との関連性を示すグラフである。
図5図5は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての咳の有無に関連する因子の多変量解析の結果を示す図である。
図6図6は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての嗅覚異常の有無と、血液中のCCL23の存在量との関連性を示すグラフである。
図7図7は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての嗅覚異常の有無に関連する因子の多変量解析の結果を示す図である。
図8図8は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての脱毛の有無と、血液中のDKK1の存在量との関連性を示すグラフである。
図9図9は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての脱毛の有無に関連する因子の多変量解析の結果を示す図である。
図10図10は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての抑うつの発症の有無と、血液中のCCL27又はLIFの存在量との関連性を示すグラフである。
図11図11は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての抑うつの発症の有無に関連する因子の多変量解析の結果を示す図である。
図12図12は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての物忘れの発症の有無と、血液中のVEGFの存在量との関連性を示すグラフである。
図13図13は、実験例1において、COVID-19罹患後症状としての物忘れの発症の有無に関連する因子の多変量解析の結果を示す図である。
図14図14は、実験例2において、COVID-19罹患後症状としての嘔吐の症状の有無に関連性を示すSNPのゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果を示すグラフである。
図15図15は、実験例2において、COVID-19罹患後症状としての物忘れの症状の有無に関連性を示すSNPのゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法]
一実施形態において、本発明は、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法であって、前記被験者由来の血液試料中の、CXCL6、CXCL2、CCL8、DKK1、CCL23、CCL27、LIF及びVEGFからなる群より選択される1種類又は複数種類の液性因子の存在量を測定する工程を含み、前記液性因子の存在量がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータであり、前記液性因子がCXCL6又はCXCL2であり、前記被験者由来の血液試料中のCXCL6又はCXCL2の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての倦怠感を発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がCCL8であり、前記被験者由来の血液試料中のCCL8の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての咳を発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がDKK1であり、前記被験者由来の血液試料中のDKK1の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての脱毛を発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がCCL23であり、前記被験者由来の血液試料中のCCL23の存在量が対照と比較して有意に低いことが、COVID-19罹患後症状としての嗅覚異常を発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がCCL27又はLIFであり、前記被験者由来の血液試料中のCCL27又はLIFの存在量が対照と比較して有意に低いことが、COVID-19罹患後症状としての抑うつを発症している可能性があることを示し、又は、前記液性因子がVEGFであり、前記被験者由来の血液試料中のVEGFの存在量が対照と比較して有意に低いことが、COVID-19罹患後症状としての物忘れを発症している可能性があることを示す、方法を提供する。
【0011】
本実施形態の方法は、医師による医療行為を含まないものである。実施例において後述するように、本実施形態の方法によれば、COVID-19罹患後症状を、より客観的に評価することができる。また、COVID-19罹患後症状の解明や、治療技術の開発に貢献することが期待される。
【0012】
本実施形態の方法において、被験者由来の血液試料としては、血清、血漿等が挙げられる。まず、被験者由来の血液試料中の、CXCL6、CXCL2、CCL8、DKK1、CCL23、CCL27、LIF及びVEGFからなる群より選択される1種類又は複数種類の液性因子の存在量を測定する。血液試料中の液性因子の存在量の測定方法は、特に限定されず、例えばELISA法により行うことができる。
【0013】
ヒトCXCL6のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号は、NP_002984.1である。ヒトCXCL2のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号は、NP_002080.1である。ヒトCCL8のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号は、NP_005614.2である。ヒトDKK1のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号は、NP_036374.1である。ヒトCCL23のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号は、NP_005055.3、NP_665905.2等である。ヒトCCL27のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号は、NP_006655.1である。ヒトLIFのアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号は、NP_001244064.1、NP_002300.1等である。ヒトVEGFのアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号は、NP_001020537.2、NP_001020538.2、NP_001020539.2等である。
【0014】
本実施形態の方法において、対照としては、採血時にCOVID-19罹患後症状を発症していなかった患者、健常人等が挙げられる。
【0015】
実施例において後述するように、被験者由来の血液試料中のCXCL6又はCXCL2の存在量が対照と比較して有意に高い場合、当該被験者は、COVID-19罹患後症状としての倦怠感を発症している可能性があると判断することができる。
【0016】
従来、COVID-19罹患後症状ではない倦怠感と、血液試料中のCXCL6又はCXCL2の存在量との関連性は報告されていない。
【0017】
また、実施例において後述するように、被験者由来の血液試料中のCCL8の存在量が対照と比較して有意に高い場合、当該被験者は、COVID-19罹患後症状としての咳を発症している可能性があると判断することができる。
【0018】
従来、COVID-19罹患後症状ではない咳の症状と、血液試料中のCCL8の存在量との関連性は報告されていない。
【0019】
また、実施例において後述するように、被験者由来の血液試料中のDKK1の存在量が対照と比較して有意に高い場合、当該被験者は、COVID-19罹患後症状としての脱毛を発症している可能性があると判断することができる。
【0020】
DKK1については、COVID-19罹患後症状ではない脱毛においても関連性が知られている因子である。したがって、COVID-19罹患後症状としての脱毛の治療に、DKK1が関連する脱毛の治療薬の投与が有効である可能性が考えられる。
【0021】
DKK1が関連する脱毛の治療薬としては、男性に対しては、男性型脱毛症用薬(AGA治療薬)であるフィナステリド、ミノキシジル等が挙げられる。また、女性に対しては、女性男性型脱毛症用薬(FAGA治療薬)であるミノキシジル等が挙げられる。
【0022】
また、実施例において後述するように、被験者由来の血液試料中のCCL23の存在量が対照と比較して有意に低い場合、当該被験者は、COVID-19罹患後症状としての嗅覚異常を発症している可能性があると判断することができる。
【0023】
従来、COVID-19罹患後症状ではない嗅覚異常の症状と、血液試料中のCCL23の存在量との関連性は報告されていない。
【0024】
また、実施例において後述するように、被験者由来の血液試料中のCCL27又はLIFの存在量が対照と比較して有意に低い場合、当該被験者は、COVID-19罹患後症状としての抑うつを発症している可能性があると判断することができる。
【0025】
従来、COVID-19罹患後症状ではない抑うつの症状と、血液試料中のCCL27又はLIFの存在量との関連性は報告されていない。
【0026】
また、実施例において後述するように、被験者由来の血液試料中のVEGFの存在量が対照と比較して有意に低い場合、当該被験者は、COVID-19罹患後症状としての物忘れを発症している可能性があると判断することができる。
【0027】
従来、COVID-19罹患後症状ではない物忘れの症状と、血液試料中のVEGFの存在量との関連性は報告されていない。
【0028】
[被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定する方法]
一実施形態において、本発明は、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定する方法であって、前記被験者由来のDNA試料について、ARHGAP15遺伝子、TDRP遺伝子、又は、SPATA5遺伝子における変異の存在を検出する工程を含み、ARHGAP15遺伝子に変異が存在することが、前記被験者がCOVID-19罹患後症状としての嘔吐を発症する遺伝的素因を有することを示し、又は、TDRP遺伝子若しくはSPATA5遺伝子に変異が存在することが、前記被験者がCOVID-19罹患後症状としての物忘れを発症する遺伝的素因を有することを示す、方法を提供する。
【0029】
本発明によれば、COVID-19罹患後症状を、より客観的に評価する技術を提供することができる。本実施形態の方法は、医師による医療行為を含まないものである。本実施形態の方法は、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定するためのデータを収集する方法であるということもできる。
【0030】
ヒトARHGAP15遺伝子のゲノムDNAの塩基配列のNCBIアクセッション番号は、Gene ID:55843である。また、ヒトTDRP遺伝子のゲノムDNAの塩基配列のNCBIアクセッション番号は、Gene ID:157695である。また、ヒトSPATA5遺伝子のゲノムDNAの塩基配列のNCBIアクセッション番号は、Gene ID:166378である。
【0031】
被験者由来のDNA試料としては、被験者の生体から採取されたものであれば特に限定されず、例えば、血液、細胞、組織等から調製された試料が挙げられる。DNAの抽出方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いて抽出することができる。例えば、フェノール/クロロホルム法、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)法等が挙げられる。DNAの抽出には、市販のキットを用いてもよい。当該キットとしては、例えば、Wizard Genomic DNA Purification Kit(プロメガ)等が挙げられる。
【0032】
ARHGAP15遺伝子、TDRP遺伝子又はSPATA5遺伝子における変異の存在の検出方法は、特に限定されず、公知の方法を用いて検出することができる。例えば、SNPアレイ解析、直接配列決定法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、制限酵素断片長多型(RFLP)法、ハイブリダイゼーション法、TaqMan(登録商標)PCR法、質量分析法等を用いる方法が挙げられる。
【0033】
実施例において後述するように、ARHGAP15遺伝子に変異が存在する場合、当該被験者は、COVID-19罹患後症状としての嘔吐を発症する遺伝的素因を有すると判断することができる。
【0034】
ARHGAP15遺伝子における変異は、例えば、2番染色体の第143728354番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs77558426で特定されるSNP)、2番染色体の第143561978番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs117959854で特定されるSNP)、又は、2番染色体の第143684512番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs1683239873で特定されるSNP)であってもよい。
【0035】
また、実施例において後述するように、TDRP遺伝子又はSPATA5遺伝子に変異が存在する場合、当該被験者は、COVID-19罹患後症状としての物忘れを発症する遺伝的素因を有すると判断することができる。
【0036】
TDRP遺伝子における変異は、8番染色体の第510615番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs73175035で特定されるSNP)、8番染色体の第508322番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs58140026で特定されるSNP)、又は、8番染色体の第531500番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs35475931で特定されるSNP)であってもよい。
【0037】
SPATA5遺伝子における変異は、4番染色体の第123279008番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs80136065で特定されるSNP)であってもよい。
【0038】
[被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集するためのキット]
一実施形態において、本発明は、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集するためのキットであって、前記被験者由来の血液試料中の、CXCL6、CXCL2、CCL8、DKK1、CCL23、CCL27、LIF及びVEGFからなる群より選択される1種類又は複数種類の液性因子の存在量を測定するための試薬を含む、キットを提供する。
【0039】
本実施形態のキットを用いて、上述した、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症しているか否かを判断するためのデータを収集する方法を好適に実施することができる。
【0040】
本実施形態のキットにおいて、CXCL6、CXCL2、CCL8、DKK1、CCL23、CCL27、LIF、VEGFについては上述したものと同様である。
【0041】
本実施形態のキットにおいて、液性因子の存在量を測定するための試薬としては、各液性因子に対する特異的結合物質が挙げられる。特異的結合物質としては、抗体、抗体断片、アプタマー等が挙げられる。本実施形態のキットは、陽性コントロール、溶媒、溶質、マルチウェルプレート等を更に含んでいてもよい。
【0042】
[被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定するためのキット]
一実施形態において、本発明は、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定するためのキットであって、ARHGAP15遺伝子、TDRP遺伝子、又は、SPATA5遺伝子における変異の存在を検出するための試薬を含む、キットを提供する。
【0043】
本実施形態のキットを用いて、上述した、被験者がCOVID-19罹患後症状を発症する遺伝的素因を有するか否かを判定する方法を好適に実施することができる。
【0044】
本実施形態のキットにおいて、ARHGAP15遺伝子、TDRP遺伝子、SPATA5遺伝子については上述したものと同様である。
【0045】
本実施形態のキットにおいて、変異の存在を検出するための試薬は、変異の存在の検出方法に基づいて適宜選択することができる。例えば、ARHGAP15遺伝子、TDRP遺伝子、SPATA5遺伝子の塩基配列を直接配列決定するためのプライマー、次世代シーケンス用ライブラリを調製するための試薬、次世代シーケンス用プライマー、SNPアレイ解析を行うためのSNPアレイ、SNPタイピングに通常用いられる試薬等が挙げられる。本実施形態のキットは、陽性コントロール、溶媒、溶質、マルチウェルプレート等を更に含んでいてもよい。
【0046】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、COVID-19罹患後症状としての脱毛の治療方法であって、被験者由来の血液試料中のDKK1の存在量を測定する工程であって、DKK1の存在量が対照と比較して有意に高いことが、COVID-19罹患後症状としての脱毛を発症している可能性があることを示す工程と、前記血液試料中のDKK1の存在量が対照と比較して有意に高かった場合に、前記患者に有効量の脱毛の治療薬を投与する工程とを含み、前記治療薬が、フィナステリド又はミノキシジルである、治療方法を提供する。
【0047】
本実施形態の治療方法において、血液試料、DKK1等については上述したものと同様である。
【実施例0048】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実験例1]
(COVID-19罹患後症状を発症した患者の網羅的液性因子解析)
COVID-19に罹患した患者457名に対してアンケートを行い、下記表1に示す症状の有無及び罹患期間を問診した。また、そのうち297名について採血を行い、血液試料中の下記表2に示す液性因子の存在量をそれぞれ定量した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
図1は、本実験例の概要を説明する模式図である。図1に示すように、患者の中には、アンケート回答時にCOVID-19罹患後症状が継続していた患者、採血後にCOVID-19罹患後症状から回復した患者、採血前にCOVID-19罹患後症状から回復した患者、COVID-19罹患後症状を発症しなかった患者が存在した。
【0053】
続いて、採血時にCOVID-19罹患後症状を発症していた患者と、採血時にCOVID-19罹患後症状を発症していなかった患者(対照)との間で各液性因子の存在量を比較した。すなわち、COVID-19罹患後症状が継続していた患者及び採血後にCOVID-19罹患後症状から回復した患者を合計した群と、採血前にCOVID-19罹患後症状から回復した患者及びCOVID-19罹患後症状を発症しなかった患者を合計した群(対照)との間で各液性因子の存在量を比較した。
【0054】
《倦怠感と関連する液性因子》
図2は、COVID-19罹患後症状としての倦怠感の発症の有無と、血液中のCXCL6又はCXCL2の存在量との関連性を示すグラフである。図2中、「P」は倦怠感を有していた患者を表し、「N」は倦怠感を有していなかった患者を表す。
【0055】
図2に示すように、COVID-19罹患後症状としての倦怠感を発症している患者は、血液試料中のCXCL6又はCXCL2の存在量が、対照と比較して有意に高いことが明らかとなった。
【0056】
この結果は、血液試料中のCXCL6又はCXCL2の存在量が対照と比較して有意に高い場合、COVID-19罹患後症状としての倦怠感を発症している可能性があることを示す。
【0057】
また、図3に示す因子を含めて多変量解析を行った結果、血液試料中のCXCL6の存在量が高い患者において倦怠感が出ることが示された。
【0058】
《咳と関連する液性因子》
図4は、COVID-19罹患後症状としての咳の有無と、血液中のCCL8の存在量との関連性を示すグラフである。図4中、「P」は咳の症状を有していた患者を表し、「N」は咳の症状を有していなかった患者を表す。
【0059】
図4に示すように、COVID-19罹患後症状としての咳を有している患者は、血液試料中のCCL8の存在量が、対照と比較して有意に高いことが明らかとなった。
【0060】
この結果は、血液試料中のCCL8の存在量が対照と比較して有意に高い場合、COVID-19罹患後症状としての咳の症状を有している可能性があることを示す。
【0061】
また、図5に示す因子を含めて多変量解析を行った結果、血液試料中のCCL8の存在量が高い患者において咳の症状が見られることが示された。
【0062】
《嗅覚異常と関連する液性因子》
図6は、COVID-19罹患後症状としての嗅覚異常の有無と、血液中のCCL23の存在量との関連性を示すグラフである。図6中、「P」は嗅覚異常を発症していた患者を表し、「N」は嗅覚異常を発症していなかった患者を表す。
【0063】
図6に示すように、COVID-19罹患後症状としての嗅覚異常を発症している患者は、血液試料中のCCL23の存在量が、対照と比較して有意に低いことが明らかとなった。
【0064】
この結果は、血液試料中のCCL23の存在量が対照と比較して有意に低い場合、COVID-19罹患後症状としての嗅覚異常を発症している可能性があることを示す。
【0065】
また、図7に示す因子を含めて多変量解析を行った結果、血液試料中のCCL23の存在量が低い患者、及び、女性において嗅覚異常の症状が見られることが示された。
【0066】
《脱毛と関連する液性因子》
図8は、COVID-19罹患後症状としての脱毛の有無と、血液中のDKK1の存在量との関連性を示すグラフである。図8中、「P」は脱毛の症状が見られた患者を表し、「N」は脱毛の症状が見られなかった患者を表す。
【0067】
図8に示すように、COVID-19罹患後症状としての脱毛の症状が見られた患者は、血液試料中のDKK1の存在量が、対照と比較して有意に高いことが明らかとなった。
【0068】
この結果は、血液試料中のDKK1の存在量が対照と比較して有意に高い場合、COVID-19罹患後症状としての脱毛を発症している可能性があることを示す。
【0069】
また、図9に示す因子を含めて多変量解析を行った結果、血液試料中のDKK1の存在量が高い患者において脱毛の症状が見られることが示された。また、女性において脱毛の症状が見られる傾向があることが示された。
【0070】
《抑うつと関連する液性因子》
図10は、COVID-19罹患後症状としての抑うつの発症の有無と、血液中のCCL27又はLIFの存在量との関連性を示すグラフである。図10中、「P」は抑うつの症状を有していた患者を表し、「N」は抑うつの症状を有していなかった患者を表す。
【0071】
図10に示すように、COVID-19罹患後症状としての抑うつを発症している患者は、血液試料中のCCL27又はLIFの存在量が、対照と比較して有意に低いことが明らかとなった。
【0072】
この結果は、血液試料中のCCL27又はLIFの存在量が対照と比較して有意に低い場合、COVID-19罹患後症状としての抑うつを発症している可能性があることを示す。
【0073】
また、図11に示す因子を含めて多変量解析を行った結果、血液試料中のCCL27の存在量が低い患者、女性、BMIが25以上である患者において、抑うつの症状が出ることが示された。
【0074】
《物忘れと関連する液性因子》
図12は、COVID-19罹患後症状としての物忘れの発症の有無と、血液中のVEGFの存在量との関連性を示すグラフである。図12中、「P」は物忘れの症状を有していた患者を表し、「N」は物忘れの症状を有していなかった患者を表す。
【0075】
図12に示すように、COVID-19罹患後症状としての物忘れを発症している患者は、血液試料中のVEGFの存在量が、対照と比較して有意に低いことが明らかとなった。
【0076】
この結果は、血液試料中のVEGFの存在量が対照と比較して有意に低い場合、COVID-19罹患後症状としての物忘れを発症している可能性があることを示す。
【0077】
また、図13に示す因子を含めて多変量解析を行った結果、血液試料中のVEGFの存在量が低い患者において、物忘れの症状が出ることが示された。また、COVID-19の症状が重かった患者において、物忘れの症状が見られる傾向があることが示された。
【0078】
[実験例2]
(COVID-19罹患後症状を発症した患者のゲノム解析)
実験例1でアンケートを行った457名の患者のうち、311名についてゲノム解析を行った。ゲノム解析としては、Illumina Infinium Japanese Screening Array(JSA)を使用したSNPアレイ解析を行い、全SNPの遺伝子型を決定した。
【0079】
《嘔吐と関連する遺伝子変異》
図14は、COVID-19罹患後症状としての嘔吐の症状の有無に関連性を示すSNPのゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果を示すグラフである。
【0080】
その結果、図14に示すように、Rho GTPase activating protein 15(ARHGAP15)遺伝子上に、COVID-19罹患後症状としての嘔吐の症状を有する患者と関連性を示す3つのSNPが特定された。3つのSNPのうちの1つは統計的有意水準p<5×10-8に達しており、残りの2つはサブゲノムワイド水準と呼ばれるp<5×10-7に達していたため、信頼性が高いと考えられた。
【0081】
検出された具体的なSNPは、2番染色体の第143728354番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs77558426で特定されるSNP)、2番染色体の第143561978番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs117959854で特定されるSNP)、2番染色体の第143684512番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs5834963で特定されるSNP)であった。
【0082】
この結果は、ARHGAP15遺伝子に変異を有する患者は、COVID-19罹患後症状としての嘔吐を発症する遺伝的素因を有することを示す。
【0083】
《物忘れと関連する遺伝子変異》
図15は、COVID-19罹患後症状としての物忘れの症状の有無に関連性を示すSNPのゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果を示すグラフである。
【0084】
その結果、図15において矢印で示すように、testis development related protein(TDRP)遺伝子上に、COVID-19罹患後症状としての嘔吐の症状を有する患者と関連性を示す3つのSNPが特定された。3つのSNPは、統計的有意水準p<5×10-8には達していなかったが、サブゲノムワイド水準と呼ばれるp<5×10-7に達していたため、信頼性が高いと考えられた。
【0085】
検出された具体的なSNPは、8番染色体の第510615番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs73175035で特定されるSNP)、8番染色体の第508322番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs58140026で特定されるSNP)、8番染色体の第531500番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs35475931で特定されるSNP)であった。
【0086】
更に、図15の4番染色体上にも、サブゲノムワイド水準と呼ばれるp<5×10-7に達したSNPが特定された。このSNPは、4番染色体の第123279008番目の塩基におけるSNP(NCBIアクセッション番号:rs80136065で特定されるSNP)であり、SPATA5遺伝子上に位置するものであった。
【0087】
以上の結果は、TDRP遺伝子又はSPATA5遺伝子に変異を有する患者は、COVID-19罹患後症状としての物忘れを発症する遺伝的素因を有することを示す。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、COVID-19罹患後症状を、より客観的に評価する技術を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15