(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049865
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/3207 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
A61B17/3207
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156351
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】桑野 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160MM36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】切削屑を効果的に回収できる医療デバイスを提供する。
【解決手段】医療デバイスは、回転可能な駆動シャフト20および流体ルーメン22を備えた長尺なシャフト部と、駆動シャフトの先端に固定され、流体ルーメンに連通する内腔および当該内腔と連通する先端開口部44を備えて物体を切削する切削部40と、を有し、切削部は、外周面に溝および/またはスリットである少なくとも1つの誘導部45を有し、誘導部は、先端方向Xに向かって回転方向Rと反対方向に延在する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な駆動シャフトおよび流体ルーメンを備えた長尺なシャフト部と、
前記駆動シャフトの先端に固定され、前記流体ルーメンに連通する内腔および当該内腔と連通する先端開口部を備えて物体を切削する切削部と、を有し、
前記切削部は、外周面に溝および/またはスリットである少なくとも1つの誘導部を有し、前記誘導部は、先端方向に向かって回転方向と反対方向に延在する医療デバイス。
【請求項2】
前記誘導部の少なくとも一部は、前記切削部の外周面から内周面へ貫通するスリットである請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記誘導部の少なくとも一部は、前記切削部の外周面に形成される溝である請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記誘導部の溝の深さは、前記切削部の基端側よりも先端側で深くなる請求項3に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記切削部の外周面における前記誘導部の延在方向と垂直な方向の長さである幅は、前記切削部の基端側よりも先端側で広くなる請求項1~4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記誘導部は、物体を切削する切削要素を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記切削要素は、前記切削部の最も大きな外径を有する大径部と異なる位置の前記誘導部に配置される請求項6に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記切削要素は、回転軸と直交する断面において、最大外径を有する部位よりも径方向の内側に配置される請求項6に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記切削部は、前記切削部の先端で前記先端開口部を囲むように並ぶ複数の刃を有し、
前記誘導部は、隣接する2つの前記刃の間で前記先端開口部と連通する請求項1~4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記誘導部は、誘導面を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体管腔の物体を除去するための医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
血管内のプラークや血栓などによる狭窄部の治療方法は、バルーンにより血管を拡張する方法や、網目状またはコイル状のステントを血管の支えとして血管内に留置する方法などが挙げられる。しかしながら、これらの方法は、石灰化により硬くなっている狭窄部や、血管の分岐部で生じている狭窄部を治療することは、困難である。このような場合においても治療が可能な方法として、プラークや血栓などの狭窄物を切削して除去する方法がある。
【0003】
例えば特許文献1には、先端に配置された切削部を回転させて血管内の物体を切削し、発生した切除屑を吸引口から吸引するデバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
切除屑が発生する作用部と吸引口とが近接しない場合や、吸引口が作用部よりも血流の上流側にある場合には、デバイスは、切除屑を回収できない恐れがある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、切削屑を効果的に回収できる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記(1)に記載の発明により達成される。
(1)本発明に係る医療デバイスは、回転可能な駆動シャフトおよび流体ルーメンを備えた長尺なシャフト部と、前記駆動シャフトの先端に固定され、前記流体ルーメンに連通する内腔および当該内腔と連通する先端開口部を備えて物体を切削する切削部と、を有し、前記切削部は、外周面に溝またはスリットである誘導部を有し、前記誘導部は、先端方向に向かって回転方向と反対方向に延在する。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成した医療デバイスは、切削部が回転すると、誘導部は接触対象に先端側へ向かう力を作用させる。このため、医療デバイスは、切削部により切削された切削屑を先端開口部が形成される先端側へ誘導して、流体ルーメンに連通する内腔へ効果的に回収できる。
【0009】
(2) 上記(1)に記載の医療デバイスにおいて、前記誘導部の少なくとも一部は、前記切削部の外周面から内周面へ貫通するスリットであってもよい。これにより、医療デバイスは、誘導部により切削屑を先端側へ誘導するだけでなく、直接的に切削部の内腔へ誘導して回収できる。
【0010】
(3) 上記(1)または(2)に記載の医療デバイスにおいて、前記誘導部の少なくとも一部は、前記切削部の外周面に形成される溝であってもよい。これにより、医療デバイスは、誘導部の深さを限定できるため、接触する生体組織の損傷を抑制して血管穿孔等の発生を抑制しつつ、切削対象を切削できる。また、医療デバイスは、流体ルーメンに連通する切削部の内腔への切削屑の回収経路を、先端開口部に限定できる。このため、医療デバイスは、流体ルーメンによる血液の過剰な排出を抑制できる。
【0011】
(4) 上記(3)に記載の医療デバイスにおいて、前記誘導部の溝の深さは、前記切削部の基端側よりも先端側で深くなってもよい。これにより、医療デバイスは、誘導部内の、切削屑を搬送する方向である先端方向側の流路を広く確保できるため、切削屑を先端側へ効果的に搬送できる。
【0012】
(5) 上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の医療デバイスにおいて、前記切削部の外周面における前記誘導部の延在方向と垂直な方向の長さである幅は、前記切削部の基端側よりも先端側で広くなってもよい。これにより、医療デバイスは、誘導部内の、切削屑を搬送する方向である先端方向側の流路を広く確保できるため、切削屑を先端側へ効果的に搬送できる。
【0013】
(6) 上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の医療デバイスにおいて、前記誘導部は、物体を切削する切削要素を有してもよい。これにより、医療デバイスは、切削部の外周面に形成される誘導部により切削対象を切削できるため、切削対象を効果的に切削しつつ、誘導部にて発生した切削屑をそのまま誘導部で先端側へ誘導して、内腔へ効果的に回収できる。
【0014】
(7) 上記(6)に記載の医療デバイスにおいて、前記切削要素は、前記切削部の最も大きな外径を有する大径部と異なる位置の前記誘導部に配置されてもよい。これにより、医療デバイスは、接触する生体組織の損傷を抑制して血管穿孔等の発生を抑制しつつ、切削対象を効果的に切削できる。
【0015】
(8) 上記(6)または(7)に記載の医療デバイスにおいて、前記切削要素は、回転軸と直交する断面において、最大外径を有する部位よりも径方向の内側に配置されてもよい。これにより、医療デバイスは、接触する生体組織の損傷を抑制して血管穿孔等の発生を抑制しつつ、切削対象を効果的に切削できる。
【0016】
(9) 上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の医療デバイスにおいて、前記切削部は、前記切削部の先端で前記先端開口部を囲むように並ぶ複数の刃を有し、前記誘導部は、隣接する2つの前記刃の間で前記先端開口部と連通してもよい。これにより、医療デバイスは、誘導部により先端側へ誘導した切削屑を、2つの刃の間で確保されやすい隙間から、先端開口部へ効果的に到達させることができる。
【0017】
(10) 上記(1)~(9)のいずれか1つに記載の医療デバイスにおいて、前記誘導部は、誘導面を有してもよい。これにより、医療デバイスは、誘導面により、切削屑または切削屑を含む液体に効果的に力を作用させて、接触屑を先端方向へ効果的に誘導できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態における医療デバイスの全体正面図である。
【
図2】医療デバイスの先端部付近拡大断面図である。
【
図3】医療デバイスの基端部付近拡大正面図であって、ハンドル部の内部構造を表した図である。
【
図4】ハンドル部とシャフト部の接続部との分解拡大正面図である。
【
図6】切削部を示す図であり、(A)は
図5のA-A線に沿う断面図、(B)は
図5のB-B線に沿う断面図である。
【
図8】切削部の変形例を示す断面図であり、(A)は第1変形例、(B)は第2変形例を示す。
【
図9】切削部の変形例を示す正面図であり、(A)は第3変形例、(B)は第4変形例、(C)は第5変形例を示す。
【
図10】切削部の第6の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。本明細書では、医療デバイス10の生体管腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0020】
本実施形態に係る医療デバイス10は、急性下肢虚血や深部静脈血栓症において、血管内に挿入され、血栓、プラーク、アテローム、石灰化病変等を破壊して除去する処置に用いられる。なお、除去する物体は、必ずしも血栓、プラーク、アテローム、石灰化病変に限定されず、生体管腔内や体腔内に存在し得る物体は、全て該当し得る。
【0021】
医療デバイス10は、
図1、2に示すように、長尺であって回転駆動される駆動シャフト20と、駆動シャフト20を収容する外管30と、を有するシャフト部15を有する。シャフト部15の基端部にはハンドル部17が設けられる。駆動シャフト20の先端部には、血栓等の物体を切削する切削部40が設けられる。
【0022】
駆動シャフト20は、回転力を切削部40に伝達する。駆動シャフト20は、切削部40により物体を切削する際に回転する方向が一方向に規定されている。駆動シャフト20には、切削した物体を基端側へ搬送するための流体ルーメン22が形成されている。駆動シャフト20は、外管30を貫通し、先端部に切削部40が固定されている。駆動シャフト20は、先端に、吸引対象物である切削屑S(切削した血栓等)が入り込む入口部26を有している。
【0023】
駆動シャフト20は、柔軟で、かつ基端側から作用する回転の動力を先端側に伝達可能な特性を有する。駆動シャフト20は、全体が1つの部材で構成されてもよく、または複数の部材で構成されてもよい。駆動シャフト20は、部位によって剛性を調節するために、螺旋状のスリットや溝をレーザー加工等により形成されてもよい。また、駆動シャフト20の先端部と基端部は、異なる部材で構成されてもよい。
【0024】
駆動シャフト20の構成材料は、例えば、ステンレス鋼、ニッケルチタン合金のような形状記憶合金、銀・銅・亜鉛などからなる合金(銀蝋成分)、金・錫などからなる合金(半田成分)、タングステンカーバイドなどの強硬合金、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン共重合体)等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド、などが好適に使用できる。また、複数の材料によって構成されてもよく、線材などの補強部材が埋設されてもよい。
【0025】
外管30は、駆動シャフト20を回転可能に収容する外管本体31と、外管本体31の先端部の側面に固定される先端チューブ32とを備えている。
【0026】
外管本体31の先端部は、切削部40の基端側に位置している。外管本体31を回転させることで、切削部40を除去する物体に向けることができる。また、外管本体31は、先端部に、所定の角度で曲がる湾曲部を有していてもよい。湾曲部は、外管本体31に回転されることで、切削部40を除去する物体に当接しやすくできる。
【0027】
先端チューブ32は、外管本体31の先端部の外周面に固定されている。先端チューブ32は、内部にガイドワイヤを挿入可能なガイドワイヤルーメン33を有している。したがって、医療デバイス10は、先端部にのみガイドワイヤルーメン33が形成されるラピッドエクスチェンジ型のデバイスである。
【0028】
外管本体31および先端チューブ32の構成材料は、特に限定されないが、例えばステンレス鋼、ニッケルチタン合金のような形状記憶合金、チタン、銀・銅・亜鉛などからなる合金(銀蝋成分)、金・錫などからなる合金(半田成分)、タングステンカーバイドなどの超硬合金、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、もしくは各種エラストマー、ETFE等のフッ素系ポリマー、PEEK、ポリイミド、ポリアセタールなどが好適に使用できる。また、外管本体31は、複数の材料によって構成されてもよく、線材などの補強部材が埋設されてもよい。
【0029】
切削部40は、血栓、プラークや石灰化病変等の物体を切削して小さくする部材である。したがって、“切削”とは、接触する物体に力を作用させて、物体を小さくすることを意味する。切削における力の作用方法や、切削後の物体の形状や形態は、限定されない。切削部40は、上述した物体を切削できる強度を有している。切削部40は、駆動シャフト20の先端部に固定されている。切削部40は、駆動シャフト20よりも先端側へ突出する円筒である。切削部40の先端は、鋭利な刃41を備えている。刃41は、鋸刃のように複数設けられ、切削部40の先端に周方向へ並んで配置される。なお、刃41の形状は、特に限定されない。刃41は、鋸刃状でなくてもよく、例えば、360度に渡って略均一に形成される円筒状の刃であってもよい。切削部40は、刃41ではなく、微小な砥粒を多数有してもよい。
【0030】
切削部40は、
図5~7に示すように、回転軸に沿う方向である軸方向の略中央部に、先端側および基端側よりも大きな外径で形成される大径部42を備えている。なお、切削部40の軸方向への外径の変化は、段差的ではなく漸次的であることが好ましい。切削部40は、物体を切削する際の回転方向Rが一方向に規定されている。切削部40は、基端側が駆動シャフト20に固定されており、駆動シャフト20の流体ルーメン22と連通する内腔43が形成される。切削部40は、先端に、内腔43が開口する先端開口部44が設けられる。切削部40は、外周面に、先端方向Xへ向かって回転方向Rと反対方向に傾いて延在する誘導部45が形成される。誘導部45は、切削部40の外周面から内周面へ貫通するスリットである。スリットは、切削部40の内腔43が外部へ開口する開口部でもある。本実施形態において、誘導部45は、切削部40の先端から基端まで軸方向の全体に形成され、先端開口部44と連通している。誘導部45の先端は、切削部40の先端で周方向に隣接して並ぶ2つの刃41(切削要素)の間に配置される。切削部40の外周面に沿って延在する誘導部45の延在方向が、軸方向に対して傾斜する角度である誘導部傾斜角θは、0度を超えて90度未満であり、好ましくは10度~70度、より好ましくは30度~50度である。誘導部45は、回転方向Rと反対方向側の誘導面46と、回転方向R側の対向面47とを備えている。誘導面46は、切削部40が回転することで、切削屑Sまたは切削屑Sを含む液体と接触して切削屑Sに力を作用させて、接触屑Sを先端方向へ誘導する。対向面47は、誘導面46と対向する面である。誘導部45の外周面における幅W(誘導面46と対向面47との間の距離)は、駆動シャフト20の軸方向の位置によらず一定であってもよいが、軸方向の位置によって異なってもよい。
【0031】
誘導面46と切削部40の外周面との境界の縁部は、物体を切削可能な鋭利な第2刃48(切削要素)が形成される。切削部40の外周面に対して誘導面46が傾斜する角度である誘導面傾斜角αは、90度未満であっても、90度であっても、90度を超えてもよい。誘導面傾斜角αが90度未満である場合、第2刃48による切削効果が向上するとともに、誘導面46に接触する切削屑Sや液体に、切削部40の径方向の内側へ向かう力を作用させて、切削屑Sを誘導面46と対向面47との間の隙間から内腔43へ効果的に誘導できる。誘導面傾斜角αが90度以上、または90度を超える場合、第2刃48による切削効果が低減されて、接触する血管等の生体組織の損傷が抑制され、安全性が向上する。
【0032】
対向面47と切削部40の外周面との境界の縁部は、面取りされた面取り部49が形成される。面取り部49は、例えば平面で形成されてもよく、または曲面で形成されてもよい。対向面47に面取り部49が形成されると、接触対象が対向面47と誘導面46との間の隙間に入り込みやすくなるため、誘導面46に形成される第2刃48が、接触対象の物体に接触しやすくなる。このため、物体を第2刃48により効果的に切削できる。なお、面取り部49は、設けられなくてもよい。さらに、面取り部49が曲面で形成されることによって、医療デバイス10を病変部の近傍まで移動させる時に、医療デバイス10を移動可能に収容するガイディングカテーテルの内表面や血管や病変部が削れることを抑制できる。
【0033】
また、
図8(A)に示す第1変形例のように、誘導面46と切削部40の外周面との境界の縁部は、鋭利な第2刃48が形成されなくてもよい。すなわち、切削部40は、先端の刃41以外の切削要素を備えなくてもよい。また、軸方向における誘導部45の一部にのみ、第2刃48が形成されてもよい。例えば、大径部42に位置する対向面47と切削部40の外周面との境界の縁部には、第2刃48が形成されず、大径部42よりも先端側および/または基端側に位置する対向面47と切削部40の外周面との境界の縁部に、第2刃48が形成されてもよい。
【0034】
また、
図8(B)に示す第2変形例のように、切削部40は、回転軸と直交する断面において、一定の外径を有する外周面よりも径方向の内側に、第2刃48(切削要素)が形成されてもよい。第2刃48の径方向の外側には、第2刃48に隣接して、外径が一定の外周面から径方向の内側へ入り込む緩衝面90が形成される。緩衝面90は、例えば滑らかな凸状の曲面で形成されるが、滑らかな平面で形成されてもよい。緩衝面90は、周囲の部材よりも低摩擦の材料が被覆されてもよい。緩衝面90が設けられることで、第2刃48は、生体組織に接触し難くなる。このため、第2刃48による生体組織の損傷を抑制して血管穿孔等の発生を抑制しつつ、第2刃48により切削対象を効果的に切削できる。
【0035】
また、切削部40の誘導部45に配置される切削要素は、鋭利な第2刃48ではなく、例えば多数の微小な砥粒であってもよい。なお、砥粒は、誘導部45以外の位置に設けられてもよい。誘導部45は、第2刃48に加えて、砥粒を有してもよい。
【0036】
なお、誘導部45は、切削部40の軸方向の一部にのみ形成されてもよい。すなわち、誘導部45は、
図9(A)に示す第3変形例のように、切削部40の先端から基端側へ所定の位置まで形成されてもよい。または、誘導部45は、
図9(B)に示す第4変形例のように、切削部40の基端から先端側へ所定の位置まで形成されてもよい。または、誘導部45は、
図9(C)に示す第5変形例のように、切削部40の先端よりも基端側の位置から切削部40の基端よりも先端側の位置まで形成されてもよい。
【0037】
また、
図10、11に示す第6変形例のように、切削部40の誘導部45は、外周面に溝状に形成されてもよい。切削部40は、周方向に均等に並ぶ回転対称構造の3つの誘導部45を有するが、誘導部45の数は1つであっても、2つであっても、4つ以上であってもよい。誘導部45は、外周面から内周面に貫通しない。この場合、回転する切削部40の誘導面46から力を受ける切削屑Sは、径方向の内側へ向かって直接的に内腔43へは誘導されず、先端側の先端開口部44へ誘導される。溝状の誘導部45の外周面からの深さDは、軸方向の位置によらず一定であってもよいが、軸方向の位置によって異なってもよい。例えば、誘導部45の深さDは、基端側よりも先端側で深いことが好ましい。誘導部45において、先端方向Xが切削屑Sを搬送する方向となる。このため、誘導部45内の、切削屑Sを搬送する方向である先端方向X側の流路を広く確保できるため、切削屑Sを先端側へ効果的に搬送できる。
【0038】
また、溝状(またはスリット状)の誘導部45の幅W(外周面における誘導面46と対向面47との間の距離)は、軸方向の位置によらず一定であってもよいが、軸方向の位置によって異なってもよい。例えば、誘導部45の幅Wは、基端側よりも先端側で広くてもよい。誘導部45の先端側の幅Wを広くすることで、誘導部45内の、切削屑Sを搬送する方向である先端方向X側の流路を広く確保できるため、切削屑Sを先端側へ効果的に搬送できる。
【0039】
また、
図12に示す第7変形例のように、溝状(またはスリット状)の切削部40の誘導部45は、切削部40の外周面に360度以上巻回するように螺旋状に形成されてもよい。
【0040】
また、
図13に示す第8変形例のように、切削部40の誘導部45は、溝と、溝の途中で内周面へ貫通する開口91(またはスリット)とにより形成されてもよい。これにより、医療デバイス10は、誘導部45により切削屑Sを先端開口部44へ向けて先端側へ誘導するだけでなく、開口91から直接的に切削部40の内腔43へ誘導して回収できる。
【0041】
また、
図14に示す第9変形例のように、誘導面46は、径方向の外側を向くように形成されてもよい。すなわち、切削部40の外周面に対して誘導面46が傾斜する角度である誘導面傾斜角αが、90度を超えて180度未満であってもよい。この場合、第2刃48による切削能力を抑えることができ、第2刃48による生体組織の損傷を抑制して血管穿孔等の発生を抑制できる。
【0042】
切削部40の構成材料は、血栓を切削できる程度の強度を有することが好ましく、例えば、ステンレス鋼、チタン、ダイヤモンド、セラミックス、ニッケルチタン合金のような形状記憶合金、タングステンカーバイドなどの強硬合金、銀・銅・亜鉛などからなる合金(銀蝋成分)、ハイス鋼、などが好適に使用できる。切削部40の構成材料は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタールなどのエンジニアリングプラスチック等の樹脂でもよい。
【0043】
ハンドル部17について説明する。
図3に示すように、ハンドル部17は、ハウジング60を有し、ハウジング60の先端側には術者が操作するための操作スイッチ61が設けられる。ハウジング60の内部には、モーターである回転駆動源65と、ポンプである流体駆動源66と、バッテリーである電源部67と、が収納されている。回転駆動源65は駆動シャフト20を回転駆動する。流体駆動源66は、流体ルーメン22の先端側から基端側に流体を移動させる。電源部67は、回転駆動源65および流体駆動源66に接続されて、これらに電源を供給する。
【0044】
ハウジング60は、先端側に空洞状の収納部63を有する。収納部63には、シャフト部15の基端部に設けられるシャフト部の接続部50が収納される。シャフト部15の接続部50は、内部にシャフト部15の回転接続部51とシャフト部15の流体接続部52とを有している。このため、シャフト部15の回転接続部51とシャフト部15の流体接続部52は、互いの位置が固定されている。
【0045】
シャフト部15の接続部50の内部において、シャフト部15は分岐している。シャフト部15が有する駆動シャフト20は、中心軸が同軸上にあるシャフト部15の回転接続部51に連結される。流体ルーメン22は、シャフト部15から分岐した分岐管53側に引き出され、分岐管53の先端部にシャフト部15の流体接続部52が設けられる。
【0046】
図4に示すように、シャフト部15の回転接続部51は、基端側に開口する軸挿入部51aを有している。ハンドル部17が有する回転駆動源65は、収納部63に突出するハンドル部17の回転接続部71を有している。ハンドル部17の回転接続部71は、回転駆動源65の回転軸である。ハンドル部17の回転接続部71は、回転駆動源65を介してハウジング60に固定されている。ハンドル部17の回転接続部71がシャフト部15の回転接続部51の軸挿入部51aに挿入されることで、両者は接続される。シャフト部15の回転接続部51とハンドル部17の回転接続部71は、径方向および周方向には互いに移動不能に固定されるが、軸方向には固定されない。すなわち、これらは互いにロックされない状態で接続される。
【0047】
シャフト部15の流体接続部52は、筒状の挿入部52aを有し、その先端部にはOリング52bが装着されている。ハンドル部17には、シャフト部15の流体接続部52を接続するためのハンドル部17の流体接続部72が設けられる。ハンドル部17の流体接続部72は、ハウジング60に固定されている。ハンドル部17の流体接続部72は、シャフト部15の流体接続部52の挿入部52aを納めるコネクタ部72aを有している。コネクタ部72aは、シャフト部15の流体接続部52を係止する係止部72bを有している。コネクタ部72aの内面は、係止部72bの先端側がやや小径状となっており、挿入部52aのOリング52bが小径状の部分を乗り越えて、係止部72bに対し弾性的に係止される。これにより、シャフト部15の流体接続部52は、ハンドル部17の流体接続部72に対し、ロックされつつ接続される。
【0048】
シャフト部15の回転接続部51とハンドル部17の回転接続部71の接続構造と、シャフト部15の流体接続部52とハンドル部17の流体接続部72の接続構造は互いに異なる。また、シャフト部15の回転接続部51とハンドル部17の回転接続部71は、互いにロックされない状態で接続され、シャフト部15の流体接続部52とハンドル部17の流体接続部72は、互いにロックされて接続される。このため、吸引側のロックが解除されれば、回転側の接続も簡単に解除される。これにより、処置中に吸引ができなくなった場合でも、回転をすぐに停止して血管内に切削物を増加させないようにすることができる。
【0049】
コネクタ部72aは、樹脂材で形成されており、係止部72bの軸方向前後の部分が、径方向に弾性変形可能な変形可能部72cである。このため、変形可能部72cを術者が指で径方向に潰すように押すことで、変形可能部72cが弾性変形し、それに伴って挿入部52aの係止部72bに対する係止状態が解除される。このため、シャフト部15の流体接続部52をコネクタ部72aから容易に取り外すことができる。一方で、術者が意図的に変形可能部72cを変形させなければ、挿入部52aの係止部72bに対する係止状態は維持されるので、シャフト部15の流体接続部52がハンドル部17の流体接続部72から不意に外れることを防止できる。
【0050】
ハンドル部17の回転接続部71とハンドル部17の流体接続部72は、いずれもハンドル部17のハウジング60に固定されているので、両者は互いの位置が固定されている。前述のように、シャフト部15の回転接続部51とシャフト部15の流体接続部52も互いの位置が固定されている。このため、シャフト部15の接続部50をハンドル部17の収納部63に納めることにより、シャフト部15の回転接続部51をハンドル部17の回転接続部71に、シャフト部15の流体接続部52をハンドル部17の流体接続部72に、それぞれ接続できる。
【0051】
流体駆動源66は、ポンプ本体80に注入口81と吐出口82を有している。注入口81には、ハンドル部17の流体接続部72から延びる注入チューブ85が接続される。吐出口82には吐出チューブ86が接続される。吐出チューブ86は、ハウジング60の外部に引き出される。吐出チューブ86のハウジング60の外部に引き出された部分は、一部または全てが透明あるいは透光性を有する。これにより、吐出チューブ86の内部を術者が視認できる。なお、吐出チューブ86のハウジング60の内部に配置される部分は、透明あるはい透光性を有していなくてもよい。吐出チューブ86は、ハンドル部17の外部において回収バッグ(図示しない)に接続される。
【0052】
次に、実施形態に係る医療デバイス10の使用方法を、血管内の血栓、石灰化病変等の病変部(物体)を破壊して吸引する場合を例として説明する。
【0053】
初めに、術者は、ガイドワイヤ(図示せず)を血管に挿入し、病変部の近傍へ到達させる。次に、術者は、
図3に示す医療デバイス10のガイドワイヤルーメン33に、ガイドワイヤの基端を挿入する。この後、ガイドワイヤをガイドとして、医療デバイス10を病変部の近傍へ到達させる。
【0054】
次に、術者は、
図3~4に示すように、ハンドル部17の回転接続部71を、シャフト部15の回転接続部51に接続する。続いて、術者は、ハンドル部17の流体接続部72を、シャフト部15の流体接続部52に接続する。この後、術者は、ハンドル部17の回転駆動源65および流体駆動源66を作動させる。これにより、回転接続部71の回転と、流体接続部72の吸引が開始される。ハンドル部17の回転接続部71は、シャフト部15の回転接続部51を介して駆動シャフト20を回転させる。これにより、駆動シャフト20の先端部に固定された切削部40が回転する。回転する切削部40は、血管内で病変部を切削する。
【0055】
切削部40の刃41により切削される病変部は、切削屑Sとなって、液体(主に血液)とともに切削部40の内腔43を基端側へ移動する。切削屑Sは、駆動シャフト20の入口部26から流体ルーメン22に吸引される。
【0056】
切削屑Sの一部は、切削部40の先端開口部44から内腔43に入らず、切削部40の外側を基端側へ流れる場合がある。切削部40に形成される誘導部45は、先端方向Xへ向かって回転方向Rと反対方向に傾いて延在するため、誘導部45の誘導面46は、切削部40が回転することで、切削部40の外側を移動する切削屑Sまたは切削屑Sを含む液体と接触して、切削屑Sに先端側へ向かう力を作用させることができる。また、誘導部45がスリット状であれば、医療デバイス10は、切削屑Sを、誘導部45を通して内腔43へ直接的に誘導できる。切削部40の外周面に対して誘導面46が傾斜する角度である誘導面傾斜角αが、90度未満であれば、第2刃48による切削効果が向上するとともに、誘導面46に接触した切削屑Sや流体に、切削部40の径方向の内側へ向かう力を作用させて、切削屑Sを誘導面46と対向面47との間の隙間から内腔へ効果的に誘導できる。誘導面傾斜角αが90度以上、または90度を超える場合、第2刃48による切削効果が低減されて、血管等の生体組織の損傷が抑制され、安全性が向上する。
【0057】
誘導部45に第2刃48や砥粒等の切削要素が配置される場合には、誘導部45は、血栓等の病変部を切削し、切削屑Sを発生させる。誘導部45は、この切削屑Sを、先端側の先端開口部44や、径方向の内側の内腔43へ効果的に誘導できる。
【0058】
切削部40の刃41や第2刃48により切削される病変部は、切削屑Sとなって、液体(主に血液)とともに切削部40の内側を基端側へ移動する。切削屑Sは、駆動シャフト20の入口部26から流体ルーメン22に吸引される。
【0059】
吸引された切削屑Sは、流体ルーメン22を基端方向へ移動し、流体接続部52および流体接続部72を通って流体接続部72へ到達した後に、吐出チューブ86を通って、ハンドル部17の外部の回収バッグ等に回収される。
【0060】
病変部の切削および切削屑Sの吸引が完了した後、術者は、ハンドル部17の回転駆動源65および流体駆動源66の動作を停止させる。これにより、切削部40による切削および切削屑Sの排出が停止される。この後、医療デバイス10を血管から抜去し、処置が完了する。
【0061】
以上のように、本実施形態に係る医療デバイス10は、回転可能な駆動シャフト20および流体ルーメン22を備えた長尺なシャフト部15と、駆動シャフト20の先端に固定され、流体ルーメン22に連通する内腔43および当該内腔43と連通する先端開口部44を備えて物体を切削する切削部40と、を有し、切削部40は、外周面に溝および/またはスリットである少なくとも1つの誘導部45を有し、誘導部45は、先端方向Xに向かって回転方向Rと反対方向に延在する。これにより、切削部40が回転すると、誘導部45は接触対象に先端側へ向かう力を作用させる。このため、医療デバイス10は、切削部40により切削された切削屑Sを先端開口部44が形成される先端側へ誘導して、流体ルーメン22に連通する内腔43へ効果的に回収できる。
【0062】
誘導部45の少なくとも一部は、切削部40の外周面から内周面へ貫通するスリットである。これにより、医療デバイス10は、誘導部45により切削屑Sを先端側へ誘導するだけでなく、直接的に切削部40の内腔43へ誘導して回収できる。
【0063】
誘導部45の少なくとも一部は、切削部40の外周面に形成される溝であってもよい。これにより、医療デバイス10は、誘導部45の深さDを限定できるため、接触する血管等の生体組織の損傷を抑制して血管穿孔等の発生を抑制しつつ、病変部である切削対象を切削できる。また、医療デバイス10は、流体ルーメン22に連通する切削部40の内腔43への切削屑Sの回収経路を、先端開口部44に限定できる。このため、医療デバイス10は、流体ルーメン22による血液の過剰な排出を抑制できる。
【0064】
誘導部45の溝の深さDは、切削部40の基端側よりも先端側で深くなってもよい。これにより、医療デバイス10は、誘導部45内の、切削屑Sを搬送する方向である先端方向側の流路を広く確保できるため、切削屑Sを先端側へ効果的に搬送できる。
【0065】
切削部40の外周面における誘導部45の延在方向と垂直な方向の長さである幅Wは、切削部40の基端側よりも先端側で広くなってもよい。これにより、医療デバイス10は、誘導部45内の、切削屑Sを搬送する方向である先端方向X側の流路を広く確保できるため、切削屑Sを先端側へ効果的に搬送できる。
【0066】
誘導部45は、物体を切削する切削要素を有する。これにより、医療デバイス10は、切削部40の外周面に形成される誘導部45により切削対象を切削できるため、切削対象を効果的に切削しつつ、誘導部45にて発生した切削屑Sをそのまま誘導部45で先端側へ誘導して、内腔43へ効果的に回収できる。また、医療デバイス10は、切削要素として刃41のみを有する場合と比較して、切削対象を広範に切削できる。
【0067】
誘導部45の切削要素は、切削部40の最も大きな外径を有する大径部42と異なる位置の誘導部45に配置されてもよい。これにより、医療デバイス10は、接触する生体組織の損傷を抑制して血管穿孔等の発生を抑制しつつ、切削対象を効果的に切削できる。
【0068】
誘導部45の切削要素は、回転軸と直交する断面において、最大外径を有する部位よりも径方向の内側に配置されてもよい。これにより、医療デバイス10は、接触する生体組織の損傷を抑制して血管穿孔等の発生を抑制しつつ、切削対象を効果的に切削できる。
【0069】
切削部40は、切削部40の先端で先端開口部44を囲むように並ぶ複数の刃41を有し、誘導部45は、隣接する2つの刃41の間で先端開口部44と連通する。これにより、医療デバイス10は、誘導部45により先端側へ誘導した切削屑Sを、2つの刃41の間で確保されやすい隙間から、先端開口部44へ効果的に到達させることができる。
【0070】
誘導部45は、誘導面46を有する。これにより、医療デバイス10は、誘導面46により切削屑Sまたは切削屑Sを含む液体に効果的に力を作用させて、接触屑Sを先端方向へ効果的に誘導できる。
【0071】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、流体駆動源66の種類は、外部から陰圧を生じさせるポンプに限られず、ダイヤフラムポンプなど駆動部が流体に直接接触するポンプであってもよい。
【符号の説明】
【0072】
10 医療デバイス
15 シャフト部
20 駆動シャフト
22 流体ルーメン
40 切削部
41 刃
42 大径部
43 内腔
44 先端開口部
45 誘導部
46 誘導面
47 対向面
48 第2刃(切削要素)
49 面取り部
90 緩衝面
S 切削屑
α 誘導面傾斜角
θ 誘導部傾斜角