(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049885
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】歯牙構造測定装置及び歯牙構造測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20240403BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G01N21/3581
A61C19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156388
(22)【出願日】2022-09-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日:2021年9月30日、ウェブサイトのアドレス:http://www.jarde.jp/zasshi/e/19-1-3.html、ウェブサイトのアドレス:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jarde/19/1/19_19_15/_article 発行者名:日本再生歯科医学会、刊行物名:Journal of Oral Tissue Engineering,Vol.19,No.1,pp.15-20(ジャーナルオブオーラルティッシュエンジニアリング、第19巻、第1号、第15-20頁)、発行日:2021年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(71)【出願人】
【識別番号】591097702
【氏名又は名称】京都府
(71)【出願人】
【識別番号】592205023
【氏名又は名称】堤 定美
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】西谷 佳浩
(72)【発明者】
【氏名】坂之上 悦典
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 直也
(72)【発明者】
【氏名】谷田 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】堤 定美
【テーマコード(参考)】
2G059
4C052
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB12
2G059EE02
2G059FF01
2G059HH01
2G059HH05
2G059KK01
2G059MM01
4C052NN04
4C052NN16
(57)【要約】
【課題】テラヘルツパルス波を用いて、歯質層の厚さを表す指標を把握することができる歯牙構造測定装置及び歯牙構造測定方法を提供する。
【解決手段】受波部120は、対象歯牙200に入射したテラヘルツパルス波の、第1界面221で反射した第1反射波RW1と、第2界面222で反射した第2反射波RW2とをそれぞれ受波する。反射間隔測定部131は、第1反射波RW1が受波された時刻と、第2反射波RW2が受波された時刻との時間差である第1反射間隔を測定する。ユーザは、第2歯質層212が、予めテラヘルツパルス波の伝播速度が既知とされた複数種の伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかを指定部133で指定する。算出部135は、第2歯質層212に該当するものとして指定された伝播速度既知歯質層におけるテラヘルツパルス波の既知の伝播速度と、第1反射間隔とを用いて、第2歯質層212の厚さを表す指標を算出する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定の対象とする対象歯牙に向けてテラヘルツパルス波を放射する放射部と、
前記対象歯牙に入射した前記テラヘルツパルス波の、前記対象歯牙における第1歯質層と前記第1歯質層の外方に位置する第2歯質層との界面である第1界面で反射した第1反射波と、前記対象歯牙の前記第2歯質層の表面に位置する第2界面で反射した第2反射波とをそれぞれ受波する受波部と、
前記第1反射波が受波された時刻と、前記第2反射波が受波された時刻との時間差である第1反射間隔を測定する反射間隔測定部と、
前記第2歯質層が、歯牙を構成する複数種の伝播速度既知歯質層であって予め前記テラヘルツパルス波の伝播速度が計測により既知とされた複数種の前記伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかをユーザが指定するための指定部と、
前記第2歯質層に該当するものとして指定された前記伝播速度既知歯質層における前記テラヘルツパルス波の既知の前記伝播速度と、前記第1反射間隔とを用いて、前記第2歯質層の厚さを表す指標を算出する算出部と、
を備える、歯牙構造測定装置。
【請求項2】
前記受波部が、前記対象歯牙に入射した前記テラヘルツパルス波の、前記対象歯牙における前記第2歯質層の外方に位置する第3歯質層の表面に位置する第3界面で反射した第3反射波も受波し、
前記反射間隔測定部が、前記第2反射波が受波された時刻と、前記第3反射波が受波された時刻との時間差である第2反射間隔も測定し、
前記指定部によって、前記第3歯質層が複数種の前記伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかも指定され、
前記算出部が、前記第3歯質層に該当するものとして指定された前記伝播速度既知歯質層における前記テラヘルツパルス波の既知の前記伝播速度と、前記第2反射間隔とを用いて、前記第3歯質層の厚さを表す指標も算出する、
請求項1に記載の歯牙構造測定装置。
【請求項3】
前記指定部で指定する際の選択肢としての複数種の前記伝播速度既知歯質層には、象牙質層と、前記象牙質層よりも脱灰した脱灰象牙質層とが含まれる、
請求項1又は2に記載の歯牙構造測定装置。
【請求項4】
前記指定部で指定する際の選択肢としての複数種の前記伝播速度既知歯質層には、エナメル質層と、前記エナメル質層よりも脱灰した脱灰エナメル質層とが含まれる、
請求項1又は2に記載の歯牙構造測定装置。
【請求項5】
前記第1歯質層が、歯髄層である、
請求項1又は2に記載の歯牙構造測定装置。
【請求項6】
測定の対象とする対象歯牙に向けてテラヘルツパルス波を放射する放射ステップと、
前記対象歯牙に入射した前記テラヘルツパルス波の、前記対象歯牙における第1歯質層と前記第1歯質層の外方に位置する第2歯質層との界面である第1界面で反射した第1反射波と、前記対象歯牙の前記第2歯質層の表面に位置する第2界面で反射した第2反射波とをそれぞれ受波する受波ステップと、
前記第1反射波を受波した時刻と、前記第2反射波を受波した時刻との時間差である第1反射間隔を測定する反射間隔測定ステップと、
前記第2歯質層が、歯牙を構成する複数種の伝播速度既知歯質層であって予め前記テラヘルツパルス波の伝播速度が計測により既知とされた複数種の前記伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかを指定する指定ステップと、
前記第2歯質層に該当するものとして指定された前記伝播速度既知歯質層における前記テラヘルツパルス波の既知の前記伝播速度と、前記第1反射間隔とを用いて、前記第2歯質層の厚さを表す指標を算出する算出ステップと、
を含む、歯牙構造測定方法。
【請求項7】
前記受波ステップでは、前記対象歯牙に入射した前記テラヘルツパルス波の、前記対象歯牙における前記第2歯質層の外方に位置する第3歯質層の表面に位置する第3界面で反射した第3反射波も受波し、
前記反射間隔測定ステップでは、前記第2反射波を受波した時刻と、前記第3反射波を受波した時刻との時間差である第2反射間隔も測定し、
前記指定ステップでは、前記第3歯質層が複数種の前記伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかも指定し、
前記算出ステップでは、前記第3歯質層に該当するものとして指定された前記伝播速度既知歯質層における前記テラヘルツパルス波の既知の前記伝播速度と、前記第2反射間隔とを用いて、前記第3歯質層の厚さを表す指標も算出する、
請求項6に記載の歯牙構造測定方法。
【請求項8】
前記指定ステップで指定する際の選択肢としての複数種の前記伝播速度既知歯質層には、象牙質層と、前記象牙質層よりも脱灰した脱灰象牙質層とが含まれる、
請求項6又は7に記載の歯牙構造測定方法。
【請求項9】
前記指定ステップで指定する際の選択肢としての複数種の前記伝播速度既知歯質層には、エナメル質層と、前記エナメル質層よりも脱灰した脱灰エナメル質層とが含まれる、
請求項6又は7に記載の歯牙構造測定方法。
【請求項10】
前記第1歯質層が、歯髄層である、
請求項6又は7に記載の歯牙構造測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙構造測定装置及び歯牙構造測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、歯牙の構造の測定にパルス状のテラヘルツ波(以下、テラヘルツパルス波と記す。)を用いることが提案されている。なお、本明細書において、テラヘルツ波とは、周波数が10GHz以上、300THz以下の電磁波を指す。
【0003】
特許文献1は、歯牙に入射させたテラヘルツパルス波の、エナメル質の層(以下、エナメル質層と記す。)と空気との界面からの反射波と、エナメル質層と象牙質の層(以下、象牙質層と記す。)との界面からの反射波とをそれぞれ受波し、互いの反射波の強度比を算出するステップを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エナメル質層や象牙質層といった、歯牙を構成する各種の層(以下、歯質層と総称する。)の厚さを把握したい場合がある。
【0006】
本発明の目的は、テラヘルツパルス波を用いて、歯質層の厚さを表す指標を把握することができる歯牙構造測定装置及び歯牙構造測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歯牙構造測定装置は、
測定の対象とする対象歯牙に向けてテラヘルツパルス波を放射する放射部と、
前記対象歯牙に入射した前記テラヘルツパルス波の、前記対象歯牙における第1歯質層と前記第1歯質層の外方に位置する第2歯質層との界面である第1界面で反射した第1反射波と、前記対象歯牙の前記第2歯質層の表面に位置する第2界面で反射した第2反射波とをそれぞれ受波する受波部と、
前記第1反射波が受波された時刻と、前記第2反射波が受波された時刻との時間差である第1反射間隔を測定する反射間隔測定部と、
前記第2歯質層が、歯牙を構成する複数種の伝播速度既知歯質層であって予め前記テラヘルツパルス波の伝播速度が計測により既知とされた複数種の前記伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかをユーザが指定するための指定部と、
前記第2歯質層に該当するものとして指定された前記伝播速度既知歯質層における前記テラヘルツパルス波の既知の前記伝播速度と、前記第1反射間隔とを用いて、前記第2歯質層の厚さを表す指標を算出する算出部と、
を備える。
【0008】
前記受波部が、前記対象歯牙に入射した前記テラヘルツパルス波の、前記対象歯牙における前記第2歯質層の外方に位置する第3歯質層の表面に位置する第3界面で反射した第3反射波も受波し、
前記反射間隔測定部が、前記第2反射波が受波された時刻と、前記第3反射波が受波された時刻との時間差である第2反射間隔も測定し、
前記指定部によって、前記第3歯質層が複数種の前記伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかも指定され、
前記算出部が、前記第3歯質層に該当するものとして指定された前記伝播速度既知歯質層における前記テラヘルツパルス波の既知の前記伝播速度と、前記第2反射間隔とを用いて、前記第3歯質層の厚さを表す指標も算出してもよい。
【0009】
前記指定部で指定する際の選択肢としての複数種の前記伝播速度既知歯質層には、象牙質層と、前記象牙質層よりも脱灰した脱灰象牙質層とが含まれてもよい。
【0010】
前記指定部で指定する際の選択肢としての複数種の前記伝播速度既知歯質層には、エナメル質層と、前記エナメル質層よりも脱灰した脱灰エナメル質層とが含まれてもよい。
【0011】
前記第1歯質層が、歯髄層であってもよい。
【0012】
本発明に係る歯牙構造測定方法は、
測定の対象とする対象歯牙に向けてテラヘルツパルス波を放射する放射ステップと、
前記対象歯牙に入射した前記テラヘルツパルス波の、前記対象歯牙における第1歯質層と前記第1歯質層の外方に位置する第2歯質層との界面である第1界面で反射した第1反射波と、前記対象歯牙の前記第2歯質層の表面に位置する第2界面で反射した第2反射波とをそれぞれ受波する受波ステップと、
前記第1反射波を受波した時刻と、前記第2反射波を受波した時刻との時間差である第1反射間隔を測定する反射間隔測定ステップと、
前記第2歯質層が、歯牙を構成する複数種の伝播速度既知歯質層であって予め前記テラヘルツパルス波の伝播速度が計測により既知とされた複数種の前記伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかを指定する指定ステップと、
前記第2歯質層に該当するものとして指定された前記伝播速度既知歯質層における前記テラヘルツパルス波の既知の前記伝播速度と、前記第1反射間隔とを用いて、前記第2歯質層の厚さを表す指標を算出する算出ステップと、
を含む。
【0013】
前記受波ステップでは、前記対象歯牙に入射した前記テラヘルツパルス波の、前記対象歯牙における前記第2歯質層の外方に位置する第3歯質層の表面に位置する第3界面で反射した第3反射波も受波し、
前記反射間隔測定ステップでは、前記第2反射波を受波した時刻と、前記第3反射波を受波した時刻との時間差である第2反射間隔も測定し、
前記指定ステップでは、前記第3歯質層が複数種の前記伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかも指定し、
前記算出ステップでは、前記第3歯質層に該当するものとして指定された前記伝播速度既知歯質層における前記テラヘルツパルス波の既知の前記伝播速度と、前記第2反射間隔とを用いて、前記第3歯質層の厚さを表す指標も算出してもよい。
【0014】
前記指定ステップで指定する際の選択肢としての複数種の前記伝播速度既知歯質層には、象牙質層と、前記象牙質層よりも脱灰した脱灰象牙質層とが含まれてもよい。
【0015】
前記指定ステップで指定する際の選択肢としての複数種の前記伝播速度既知歯質層には、エナメル質層と、前記エナメル質層よりも脱灰した脱灰エナメル質層とが含まれてもよい。
【0016】
前記第1歯質層が、歯髄層であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、テラヘルツパルス波を用いて、第2歯質層の厚さを表す指標を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1基礎実験で用いた伝播速度計測装置の構成を示す概念図。
【
図2】第1基礎実験で用いたテラヘルツ非破壊検査装置の仕様を示す図。
【
図3】第1基礎実験で用いた第1-第6サンプルの厚さに対するテラヘルツパルス波の伝播速度の依存性を示すグラフ。
【
図4】第1基礎実験で用いた第1-第6サンプルにおけるテラヘルツパルス波の伝播速度の、中央値、最大値、及び最小値を示す図。
【
図5】第2基礎実験で用いた第6サンプルとミラーとの界面からの反射波、及び第6サンプルと水との界面からの反射波の波形を示すグラフ。
【
図6】第2基礎実験で用いた第6サンプルの厚さに対する反射波の強度の依存性を示すグラフ。
【
図7】第1実施形態に係る歯牙構造測定装置の機能を示す概念図。
【
図8】第1実施形態に係る第1反射波から第3反射波の波形を示す概念図。
【
図9】第1実施形態に係る計測本体部の構成を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態の説明に先立ち、基礎となる検討事項を説明する。
【0020】
[第1基礎実験]
歯科研究、歯科治療等において、歯牙を構成する歯質層の厚さを把握したい場合がある。本願発明者らは、任意の歯質層の厚さを、その歯質層におけるテラヘルツパルス波の伝播速度と、その歯質層をテラヘルツパルス波が伝播するのに要する時間とを用いて求める手法を着想した。
【0021】
しかし、その手法は、歯質層におけるテラヘルツパルス波の伝播速度が、その歯質層の厚さに依存しないと言えることを前提としており、その前提は必ずしも自明でない。そこで、テラヘルツパルス波の伝播速度が歯質層の厚さに依存しないと言えることの確認を一目的として、以下の実験を行った。
【0022】
図1に、本実験で用いた伝播速度計測装置の構成を示す。サンプル14には、薄板状にスライスした歯質層、又は歯質層を模擬した材質の薄板状体を用いる。放射器11が、サンプル14の表面に向けてテラヘルツパルス波を放射する。
【0023】
サンプル14に入射したテラヘルツパルス波の一部は、サンプル14の表面で反射し、受波器12に入射する。なお、サンプル14の表面へのテラヘルツパルス波の入射角θは10°とした。
【0024】
また、サンプル14に入射したテラヘルツパルス波の他の一部は、サンプル14の内部に進入し、サンプル14の裏面に密着させたミラー13の表面で反射し、同じ受波器12に入射する。なお、ミラー13はアルミニウムよりなる。
【0025】
図2に、放射器11及び受波器12として用いたテラヘルツ非破壊検査装置(株式会社アドバンテスト製、製品型番:TAS7500TS)の仕様を示す。放射器11から放射されるテラヘルツパルス波の中心波長は、1550nmであり、パルス幅は、50fs以下であり、出力強度は20mW以上である。受波器12の時間分解能は2fsである。
【0026】
図1に戻り、説明を続ける。サンプル14の表面で反射した反射波が受波器12に到達した時刻と、サンプル14の裏面のミラー13で反射した反射波が受波器12に到達した時刻との時間差(以下、反射間隔と記す。)tを測定する。
【0027】
サンプル14の厚さdが予め既知であるとき、そのサンプル14におけるテラヘルツパルス波の伝播速度vは、近似的に、次のように書ける。
v≒2d・cosθ/t≒2d/t ・・・(a)
【0028】
上記の関係式(a)を用い、厚さdが既知の種々のサンプル14について、反射間隔tの測定を通じて、そのサンプル14におけるテラヘルツパルス波の伝播速度vを求めた。具体的には、厚さが既知のサンプル14として、以下の6種類のものを準備した。
【0029】
(1)第1サンプル:ヒトの健全な象牙質層(後に参照する
図3及び
図4で、“Dentin”とも記す。)、
(2)第2サンプル:ウシの健全な象牙質層(後に参照する
図3及び
図4で、“Bovine Dentin”とも記す。)、
(3)第3サンプル:ウシの脱灰させた象牙質層(後に参照する
図3及び
図4で、“Bovine Dentin (decalcification)”とも記す。)、
(4)第4サンプル:ウシの健全なエナメル質層(後に参照する
図3及び
図4で、“Bovine enamel”とも記す。)、
(5)第5サンプル:水酸燐灰石の天然の単結晶(後に参照する
図3及び
図4で、“NSC”とも記す。)、
(6)第6サンプル:水酸燐灰石の粉末を熱間静水圧プレス法で加圧成形したもの(後に参照する
図3及び
図4で、“HIP”とも記す。)。
【0030】
なお、ウシの脱灰させた象牙質層よりなる第3サンプルは、う蝕した象牙質層を模擬したものである。脱灰は、ウシの健全な象牙質層を、キレート剤、具体的には、濃度質量5%のエデト酸ナトリウム(EDTA)溶液に7日間にわたって浸漬することにより行った。
【0031】
また、水酸燐灰石の天然の単結晶よりなる第5サンプルと、水酸燐灰石の粉末を熱間静水圧プレス法で加圧成形したものよりなる第6サンプルは、いずれもエナメル質層を模擬したものである。
【0032】
第1サンプルから第6サンプルの各々について、既知の種々の厚さdのものを準備し、上式(a)を用いて、テラヘルツパルス波の伝播速度vを求めた。
【0033】
図3に、サンプル14としての第1サンプルから第6サンプルの各々について、サンプル14の厚さに対するテラヘルツパルス波の伝播速度の依存性を示す。横軸は、サンプル14の厚さを示し、縦軸は、そのサンプル14におけるテラヘルツパルス波の伝播速度を示す。
【0034】
図3に示すように、第1サンプルから第6サンプルのいずれにおいても、プロットの分布が概ね横ばいの傾向を示している。これより、第1サンプルから第6サンプルのいずれにおいても、テラヘルツパルス波の伝播速度(以下、単に伝播速度とも記す。)が、そのサンプル14の厚さに依存しないと言えることが確認された。
【0035】
さらに、
図3によれば、第1サンプルから第6サンプルの各々に、固有の伝播速度が存在するようにみえる。このことを定量的に確認するために、第1サンプルから第6サンプルの各々における伝播速度の中央値(Median)、最大値(Max)、最小値(Min)を調べた。
【0036】
図4に、その結果を示す。中央値に着目とすると、第1サンプルから第6サンプルの各々に固有の伝播速度が存在すると言えることが分かる。なお、
図4で、”Number”とは、第1サンプルから第6サンプルの各々のn数を意味する。
【0037】
具体的に考察すると、第1サンプルと第2サンプルとで伝播速度の中央値が近似していることから、象牙質層には、固有の伝播速度が存在すると考えられる。また、第4サンプルから第6サンプルで伝播速度の中央値が近似していることから、エナメル質層にも、固有の伝播速度が存在すると考えられる。象牙質層での伝播速度と、エナメル質層での伝播速度とは、明確に相違する。
【0038】
さらに、第3サンプルでの伝播速度の中央値が、第1サンプル及び第2サンプルでの伝播速度の中央値とは明確に相違している。このことから、う蝕した象牙質層には、健全な象牙質層とは異なる、固有の伝播速度が存在することが判明した。なお、
図4には、統計値として中央値を示したが、平均値を採用しても同じ考察が得られる。
【0039】
以上説明したように、第1基礎実験によれば、歯質層における伝播速度が、その歯質層の厚さに依存しないと言えることが確認された。また、材質の異なる歯質層ごとに固有の伝播速度が存在することが判った。
【0040】
従って、或る歯質層におけるテラヘルツパルス波の伝播速度を予め計測しておけば、その歯質層と同質の、厚さが未知の歯質層(以下、対象歯質層と記す。)の厚さを容易に見積もることができる。つまり、対象歯質層をテラヘルツパルス波が伝播するのに要する時間(以下、伝播所要時間と記す。)を計測すれば、その伝播所要時間に既知の伝播速度を掛け算することで、その対象歯質層の厚さを把握できる。
【0041】
この場合、予め種々の歯質層ごとに伝播速度を計測しておき、歯質層別に伝播速度を対応付けたデータを用意しておくのが好ましい。そうしておくと、対象歯質層と同質の歯質層に対応付けられている伝播速度をそのデータから取得することで、その対象歯質層における伝播速度を特定できる。このようにして、任意の対象歯質層の厚さを正確かつ容易に把握できる。
【0042】
[第2基礎実験]
図1に示したように、第1基礎実験では、サンプル14にミラー13を密着させた。サンプル14とミラー13との界面は、例えば、脱灰したエナメル質層(以下、脱灰エナメル質層と記す。)と健全なエナメル質層との界面、エナメル質層と象牙異質層との界面、脱灰した象牙質層(以下、脱灰象牙質層と記す。)と健全な象牙質層との界面等を模擬したものである。
【0043】
しかし、歯牙を構成する歯質層には、歯髄で満たされた歯髄腔(以下、歯髄層と記す。)もある。歯髄は、他の歯質層とは異なって水分を多く含んでいる。そして、テラヘルツパルス波は水に吸収される性質をもつ。このため、歯髄層の表面に位置する界面でテラヘルツパルス波の反射波が得られるかどうかは必ずしも自明でない。
【0044】
そこで、歯髄層の表面に位置する界面でもテラヘルツパルス波の反射波が得られると言えることの確認を目的として、以下の実験を行った。
【0045】
既述の第6サンプルの裏面にミラー13を配置した構成と、同じ第6サンプルの裏面に、歯髄を模擬した水を配置した構成とをそれぞれ準備した。そして、それぞれの構成の第6サンプルの表面に向けてテラヘルツパルス波を放射し、それぞれの構成からの反射波を受波した。
【0046】
図5に、受波した反射波の実測された波形を示す。上段のグラフは、第6サンプルの裏面にミラー13を配置した場合の反射波を示す。下段のグラフは、第6サンプルの裏面に水を配置した場合の反射波を示す。いずれのグラフも、縦軸は振幅を示し、横軸は時間を示す。
【0047】
上段のグラフにおいて、波束RA1は、第6サンプルの表面からの反射波を示す。波束RA2は、厚さ0.553mmの第6サンプルとミラー13との界面からの反射波を表す。波束RA3は、厚さ0.984mmの第6サンプルとミラー13との界面からの反射波を表す。
【0048】
下段のグラフにおいて、波束RB1は、第6サンプルの表面からの反射波を示す。波束RB2は、厚さ0.553mmの第6サンプルと水との界面からの反射波を表す。波束RB3は、厚さ0.984mmの第6サンプルと水との界面からの反射波を表す。
【0049】
下段のグラフが示すように、第6サンプルと水との界面からも、確かにテラヘルツパルス波の反射波が得られることが確認された。水は歯髄を模擬したものであるため、歯髄層の表面に位置する界面でもテラヘルツパルス波の反射波が得られると言える。
【0050】
図6は、第6サンプルの厚さに対する反射波の強度の依存性を示す。縦軸は強度を示し、横軸は第6サンプルの厚さを示す。グラフRAは、第6サンプルの裏面にミラー13を配置した場合の、反射波の強度を示す。グラフRBは、第6サンプルの裏面に水を配置した場合の、反射波の強度を示す。
【0051】
グラフRBがグラフRAよりも下方に配置されていることから分かるように、第6サンプルの裏面に水を配置した場合は、第6サンプルの裏面にミラー13を配置した場合よりも反射波の強度が低下する。これはテラヘルツパルス波が水に吸収されることに起因する。しかし、グラフRBが示すように、第6サンプルの裏面に水を配置した場合でも、確かにテラヘルツパルス波の反射波が得られる。
【0052】
ところで、反射波の強度が小さ過ぎると、その反射波をノイズと判別することが困難になる。本実験で使用したテラヘルツパルス波の放射強度によれば、反射波の強度がノイズから判別可能であるための、第6サンプルの厚さの限界は1.8mm程度であった。
【0053】
つまり、背後に歯髄層が配置されている条件下でも、1.8mm程度という充分な厚さの歯質層を測定の対象とすることができる。なお、この1.8mmという数値は、実測した結果を表すプロットにフィットする外挿曲線と、典型的なノイズ強度を表す直線との交点として求めたものである。
【0054】
但し、使用するテラヘルツパルス波の放射強度が大きいほど、厚い歯質層からも、ノイズから判別可能な強度の反射波が得られる。どのような放射強度のテラヘルツパルス波を使用するかは、状況に応じて当業者が適宜設計する事項である。
【0055】
[実施形態]
以上説明した第1基礎実験及び第2基礎実験の結果を踏まえ、以下、実施形態に係る歯牙構造測定装置について説明する。
【0056】
図7を参照し、まず、測定の対象とする歯牙(以下、対象歯牙と記す。)200の主要部の構造について説明する。対象歯牙200は、少なくとも、第1歯質層211と、その第1歯質層211の外方に位置する第2歯質層212と、その第2歯質層212の外方に位置する第3歯質層213とを有する。ここで“外方”とは、対象歯牙200の表面に近い方という意味である。また、以下では、歯髄に近い方を“内方”という。
【0057】
具体的には、本実施形態では、第1歯質層211は、歯髄層である。第2歯質層212は、健全な象牙質層である。第3歯質層213は、脱灰象牙質層である。但し、第1歯質層211から第3歯質層213の組み合わせはこれらに限られない。
【0058】
以下では、第1歯質層211の表面に位置する界面、即ち、第1歯質層211と第2歯質層212との界面を第1界面221と呼ぶ。また、第2歯質層212の表面に位置する界面、即ち、第2歯質層212と第3歯質層213との界面を第2界面222と呼ぶ。また、第3歯質層213の表面に位置する界面、即ち、第3歯質層213と空気との界面を第3界面223と呼ぶ。
【0059】
次に、本実施形態に係る歯牙構造測定装置100の構成について説明する。歯牙構造測定装置100は、対象歯牙200に向けてテラヘルツパルス波を放射する放射部110を備える。放射されたテラヘルツパルス波は、対象歯牙200に入射する。
【0060】
また、歯牙構造測定装置100は、対象歯牙200に入射したテラヘルツパルス波の、対象歯牙200からの反射波を受波する受波部120を備える。具体的には、受波部120は、対象歯牙200に入射したテラヘルツパルス波の、第1界面221で反射した反射波(以下、第1反射波と記す。)RW1と、第2界面222で反射した反射波(以下、第2反射波と記す。)RW2と、第3界面で反射した反射波(以下、第3反射波と記す。)RW3とをそれぞれ受波する。
【0061】
また、歯牙構造測定装置100は、受波部120において反射波が受波された結果を用いて、第2歯質層212と第3歯質層213との厚さを見積もる計測本体部130を備える。計測本体部130は、第1反射波RW1から第3反射波RW3が受波部120に到達する時間差を測定する反射間隔測定部131を有する。
【0062】
図8を参照し、反射間隔測定部131の動作を具体的に説明する。
図8は、第1反射波RW1から第3反射波RW3の時間軸波形を示す。波束R1は、第1反射波RW1を示す。波束R2は、第2反射波RW2を示す。波束R3は、第3反射波RW3を示す。
【0063】
最初に、対象歯牙200の表面に位置する第3界面223で反射した第3反射波RW3の波束R3が、受波部120に到着する。次に、第3界面223の内方に位置する第2界面222で反射した第2反射波RW2の波束R2が、受波部120に到着する。次に、第2界面222の内方に位置する第1界面221で反射した第1反射波RW1の波束R1が、受波部120に到着する。このような時間軸波形が受波部120おいて得られる。
【0064】
反射間隔測定部131は、受波部120が第1反射波RW1の波束R1を受波した時刻と、受波部120が第2反射波RW2の波束R2を受波した時刻との時間差(以下、第1反射間隔と記す。)T1を測定する。また、反射間隔測定部131は、受波部120が第2反射波RW2の波束R2を受波した時刻と、受波部120が第3反射波RW3の波束R3を受波した時刻との時間差(以下、第2反射間隔と記す。)T2を測定する。
【0065】
図7に戻り、説明を続ける。本実施形態に係る計測本体部130は、歯牙を構成する複数種の歯質層であって予めテラヘルツパルス波の伝播速度が計測により既知とされた複数種の歯質層(以下、伝播速度既知歯質層と記す。)の各々について、その伝播速度既知歯質層におけるテラヘルツパルス波の伝播速度を対応付けたデータ(以下、歯質層別伝播速度データと記す。)132を保持している。
【0066】
具体的には、歯質層別伝播速度データ132は、伝播速度既知歯質層として少なくとも、健全な象牙質層、脱灰象牙質層、健全なエナメル質層、及び脱灰エナメル質層の各々について、予め測定したテラヘルツパルス波の伝播速度を対応付けたものである。
【0067】
また、計測本体部130は、ユーザによって操作される指定部133と、指定部133での操作に基づいて、第2歯質層212及び第3歯質層213におけるテラヘルツパルス波の伝播速度を定める伝播速度設定部134とを備える。
【0068】
まず、伝播速度設定部134は、歯質層別伝播速度データ132に含まれる複数種の伝播速度既知歯質層を、厚さの見積もりが可能な歯質層の選択肢として、指定部133を通じてユーザに提示する。
【0069】
次に、ユーザは、対象歯牙200において厚さを見積もりたい第2歯質層212及び第3歯質層213の各々が、提示された選択肢としての複数種の伝播速度既知歯質層のいずれに該当するかを、指定部133を通じて指定する。具体的には、本実施形態では、ユーザは、第2歯質層212が健全な象牙質層であり、第3歯質層213が脱灰象牙質層である旨を、指定部133を通じて指定する。
【0070】
すると、伝播速度設定部134は、第2歯質層212に該当するものとして指定された伝播速度既知歯質層である健全な象牙質層に対応付けられている既知の伝播速度を、歯質層別伝播速度データ132から取得する。そして、伝播速度設定部134は、取得した伝播速度を、第2歯質層212における伝播速度として定める。
【0071】
同様に、伝播速度設定部134は、第3歯質層213に該当するものとして指定された伝播速度既知歯質層である脱灰象牙質層に対応付けられている既知の伝播速度を、歯質層別伝播速度データ132から取得する。そして、伝播速度設定部134は、取得した伝播速度を、第3歯質層213における伝播速度として定める。
【0072】
また、計測本体部130は、第2歯質層212の厚さを表す指標と、第3歯質層213の厚さを表す指標とを算出する算出部135を有する。
【0073】
算出部135は、上述の要領でユーザの指定に基づいて伝播速度設定部134によって定められた、第2歯質層212におけるテラヘルツパルス波の既知の伝播速度と、反射間隔測定部131によって計測された既述の第1反射間隔T1とを用いて、第2歯質層212の厚さを表す指標を算出する。
【0074】
具体的には、本実施形態では、“第2歯質層212の厚さを表す指標”とは、第2歯質層212の厚さの近似値とする。既述の関係式(a)より、第2歯質層212の厚さdは、第2歯質層212におけるテラヘルツパルス波の既知の伝播速度をvとしたとき、次式で近似される。
d≒v・T1/(2cosθ)≒v・T1/2 ・・・(b)
【0075】
また、算出部135は、同様にして、ユーザの指定に基づいて伝播速度設定部134によって定められた、第3歯質層213におけるテラヘルツパルス波の既知の伝播速度と、反射間隔測定部131によって計測された既述の第2反射間隔T2とを用いて、第3歯質層213の厚さを表す指標、具体的には、第3歯質層213の厚さの近似値を算出する。
【0076】
また、計測本体部130は、算出部135の算出結果を出力する出力部136を有する。本実施形態では、出力部136は、算出部135の算出結果としての、第2歯質層212及び第3歯質層213の厚さを表す指標を、表示により出力する。
【0077】
図9は、以上説明した計測本体部130のハードウエアの構成を示す。計測本体部130は、ユーザが既述の指定その他の入力操作を行うための入力装置130bと、既述の選択肢や算出部135の算出結果等が表示される表示装置130cとを備える。
【0078】
入力装置130bと表示装置130cとで、グラフィカルユーザインタフェースが構成される。そのグラフィカルユーザインタフェースによって、
図7に示した指定部133及び出力部136が実現される。
【0079】
また、計測本体部130は、
図7にも示した歯質層別伝播速度データ132を予め記憶する記憶装置130dを備える。また、記憶装置130dには、第2歯質層212及び第3歯質層213の厚さを表す指標を算出する手順を規定した歯牙構造測定プログラム130eも格納されている。
【0080】
また、計測本体部130は、歯牙構造測定プログラム130eを実行するプロセッサ130aを備える。プロセッサ130aが歯牙構造測定プログラム130eを実行することにより、
図7に示した反射間隔測定部131、指定部133、伝播速度設定部134、算出部135、及び出力部136の機能が実現される。
【0081】
以上説明したように、本実施形態に係る歯牙構造測定装置100によれば、次の効果が得らえる。
【0082】
(I)テラヘルツパルス波を用いて、第2歯質層212の厚さを表す指標、及び第3歯質層213の厚さを表す指標を把握することができる。具体的には、ユーザは、第2歯質層212の厚さの近似値及び第3歯質層213の厚さの近似値を知ることができる。
【0083】
(II)歯牙構造測定装置100には、歯質層別伝播速度データ132が予め準備されるので、ユーザは、第2歯質層212、第3歯質層213がそれぞれどの伝播速度既知歯質層に該当するかを指定すればよい。その指定により、第2歯質層212、第3歯質層213に応じた固有の伝播速度が用いられる。具体的には、健全な象牙質層と脱灰象牙質層とで、異なる伝播速度が用いられる。この結果、第2歯質層212の厚さを表す指標、及び第3歯質層213の厚さを表す指標を正確に算出することができる。
【0084】
(III)第1歯質層211が水分を多く含む歯髄層であるにも関わらず、第1界面221からも、テラヘルツパルス波の第1反射波RW1が得られる。このため、歯髄層に隣接した歯質層の厚さを把握することもできる。具体的には、ユーザは、歯髄層に隣接した健全な象牙質層としての第2歯質層212の残存量を、第2歯質層212の厚さを表す指標によって定量的に把握することができる。
【0085】
従って、本実施形態に係る歯牙構造測定装置100を例えば歯科治療で用いた場合、ユーザとしての歯科医師は、歯髄層に隣接した健全な象牙質層の残存量を定量的に把握できるので、歯髄を除去する抜髄を行うのか、又は歯髄を保存するのかの判断を適切かつすみやかに行える。
【0086】
また、ユーザとしての歯科医師は、健全な象牙質層に隣接した脱灰象牙質層としての第3歯質層213の厚さを、第3歯質層213の厚さを表す指標として定量的に把握することもできる。このため、歯髄を保存する場合に、脱灰象牙質層としての第3歯質層213を過不足なく除去することができる。
【0087】
(IV)テラヘルツパルス波は、X線とは異なって被爆の恐れが実質的にない。従って、本実施形態に係る歯牙構造測定装置100を、例えば歯科治療で用いた場合、ユーザとしての歯科医師は、患者の対象歯牙200の構造を、その患者を歯科治療用のチェアーに座らせたままでリアルタイムに、しかも何回でもこまめに測定することができる。
【0088】
以上、実施形態について説明した。以下に述べる変形も可能である。
【0089】
上記実施形態では、第2歯質層212の厚さを表す指標として、第2歯質層212の厚さの近似値を採用した。しかし、第2歯質層212の厚さを表す指標は、これに限られない。第2歯質層212の厚さを表す指標は、第2歯質層212の厚さ又は第2歯質層212の厚さに依存する物理量であってもよい。第3歯質層213の厚さを表す指標についても同様である。
【0090】
上記実施形態では、第1歯質層211が歯髄層であり、第2歯質層212が健全な象牙質層であり、第3歯質層213が脱灰象牙質層であることを想定して説明した。しかし、第1歯質層211から第3歯質層213の組み合わせはこれらに限られない。例えば、第1歯質層211が健全な象牙質層であり、第2歯質層212が健全なエナメル質層又は脱灰象牙質層であり、第3歯質層213が脱灰エナメル質層であってもよい。
【0091】
上記実施形態では、第2歯質層212と第3歯質層213との2つの歯質層の厚さを表す指標を求める構成を例示したが、指標の算出の対象とする歯質層の数は、特に限定されない。1つの歯質層の厚さを表す指標だけを求めてもよいし、3つ以上の歯質層の厚さを表す指標を求めてもよい。
【0092】
図9に示した歯牙構造測定プログラム130eを、既存のスマーフォン、タブレット、その他のコンピュータにインストールすることで、そのコンピュータに計測本体部130の機能を実現させることもできる。歯牙構造測定プログラム130eは、通信回線を通じて配布することもできるし、非一時的な記録媒体に格納して配布することもできる。
【符号の説明】
【0093】
11…放射器、
12…受波器、
13…ミラー、
14…サンプル、
100…歯牙構造測定装置、
110…放射部、
120…受波部、
130…計測本体部、
130a…プロセッサ、
130b…入力装置、
130c…表示装置、
130d…記憶装置、
130e…歯牙構造測定プログラム、
131…反射間隔測定部、
132…歯質層別伝播速度データ、
133…指定部、
134…伝播速度設定部、
135…算出部、
136…出力部、
200…対象歯牙、
211…第1歯質層、
212…第2歯質層、
213…第3歯質層、
221…第1界面、
222…第2界面、
223…第3界面、
RA,RB…グラフ、
R1,R2,R3,RA1,RA2,RA3,RB1,RB2,RB3…波束、
RW1…第1反射波、
RW2…第2反射波、
RW3…第3反射波。