(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049894
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】二酸化炭素の吸脱着方法、及び二酸化炭素の吸脱着材
(51)【国際特許分類】
B01D 53/02 20060101AFI20240403BHJP
C01F 7/785 20220101ALI20240403BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240403BHJP
B01J 20/12 20060101ALI20240403BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240403BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B01D53/02
C01F7/785
B01J20/28 Z
B01J20/12 A
B01J20/34 F
B01D53/04 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156405
(22)【出願日】2022-09-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業、研究開発課題名:「大気中CO2を利用可能な統合化固定・反応系(quad-C system)の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅博
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏益
(72)【発明者】
【氏名】式田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敏明
(72)【発明者】
【氏名】亀田 知人
【テーマコード(参考)】
4D012
4G066
4G076
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012CA03
4D012CC06
4D012CD03
4D012CE03
4D012CF05
4D012CF08
4D012CG01
4D012CG05
4D012CG10
4G066AA63B
4G066BA23
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA02
4G066DA03
4G066GA02
4G066GA06
4G076AA10
4G076AA18
4G076AA19
4G076AB08
4G076BA15
4G076BA46
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA26
4G076CA28
4G076DA25
4G076DA29
(57)【要約】
【課題】従来よりも少ないエネルギーで二酸化炭素の吸着、脱着を行うことが可能な二酸化炭素の吸脱着材、及び、該吸脱着材を用いた二酸化炭素の吸脱着方法を提供する。
【解決手段】ハイドロタルサイト類化合物を主成分として含む二酸化炭素の吸脱着材に二酸化炭素を吸脱着する方法であって、該方法は、20~350℃の吸脱着材に二酸化炭素含有ガスを導入して二酸化炭素を吸着させる吸着工程と、該吸着工程により二酸化炭素を吸着させた吸脱着材を80~350℃に加熱してハイドロタルサイト類化合物から二酸化炭素を脱着させる脱着工程とを含むことを特徴とする二酸化炭素の吸脱着方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロタルサイト類化合物を主成分として含む二酸化炭素の吸脱着材に二酸化炭素を吸脱着する方法であって、
該方法は、20~350℃の吸脱着材に二酸化炭素含有ガスを導入して二酸化炭素を吸着させる吸着工程と、
該吸着工程により二酸化炭素を吸着させた吸脱着材を80~350℃に加熱してハイドロタルサイト類化合物から二酸化炭素を脱着させる脱着工程とを含む
ことを特徴とする二酸化炭素の吸脱着方法。
【請求項2】
前記吸着工程において用いる二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素濃度が200~600ppmであることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の吸脱着方法。
【請求項3】
前記脱着工程は、二酸化炭素を吸着させた吸脱着材を80~350℃に加熱しながら不活性ガスを導入して吸脱着材から二酸化炭素を脱着させる工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素の吸脱着方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の二酸化炭素の吸脱着方法用の二酸化炭素の吸脱着材であって、
該吸脱着材は、窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積が3.0cm2g-1以上であり、かつBET比表面積が13.0m2/g以上であるハイドロタルサイト類化合物を主成分として含む
ことを特徴とする二酸化炭素の吸脱着材。
【請求項5】
前記ハイドロタルサイト類化合物は、25℃における二酸化炭素の吸着等温線において、10kPaでの二酸化炭素の吸着量が0.4mmol/g以上であることを特徴とする請求項4に記載の二酸化炭素の吸脱着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の吸脱着方法、及び二酸化炭素の吸脱着材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の削減が重要な課題となっており、排出量の削減とともに、二酸化炭素を回収し、資源として利用する技術についても研究が進んでいる。二酸化炭素を回収する技術として、ハイドロタルサイト類化合物を利用して二酸化炭素を効率的に濃縮分離する技術が開示されている(非特許文献1参照)。また、排ガス中の二酸化炭素を捕集する排ガス用二酸化炭素吸収剤として、炭酸カリウムまたは重炭酸カリウムを含む活性成分と支持体と無機結合剤及び再生増進剤とを含む排ガス用炭素吸収剤が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】多賀谷英幸、外5名、「層状化合物を利用する二酸化炭素の効率的濃縮分離」、化学工学論文集、1993年、第19巻、第5号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1の技術のように、従来よりハイドロタルサイト類化合物に二酸化炭素を吸着、脱着させる技術が知られているが、従来行われているのは層間の炭酸イオンを公知の技術である熱処理等で除去した状態のハイドロタルサイト類化合物での検討である。一般的にハイドロタルサイト類化合物の層間の炭酸イオンの除去には、500~550℃での熱処理が必要であり、二酸化炭素を吸着できる状態にする為、多大なエネルギーを必要としている。更に、熱処理及び二酸化炭素吸着を行った後のハイドロタルサイト類化合物から二酸化炭素を脱着させるには、再度500~550℃での熱処理が必要であり、熱処理時のエネルギー消費が二酸化炭素の排出へ繋がる懸念がある。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、従来よりも少ないエネルギーで二酸化炭素の吸着、脱着を行うことが可能な二酸化炭素の吸脱着材、及び、該吸脱着材を用いた二酸化炭素の吸脱着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来は高温での熱処理により二酸化炭素の吸脱着が行われていたハイドロタルサイト類化合物を吸着材とし、より少ないエネルギーで二酸化炭素の吸脱着を行う方法について検討した。そして、20~350℃の状態のハイドロタルサイト類化合物に二酸化炭素を含むガスを導入すると、ハイドロタルサイト類化合物に二酸化炭素を吸着させることが可能であること、及び、このようにして二酸化炭素を吸着させたハイドロタルサイト類化合物は80~350℃程度の従来よりも低温の加熱でも二酸化炭素を脱着させることができることを見出した。更に本発明者らは、特定の要件を満たすハイドロタルサイト類化合物がこのような二酸化炭素の吸脱着方法に特に適することも見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]ハイドロタルサイト類化合物を主成分として含む二酸化炭素の吸脱着材に二酸化炭素を吸脱着する方法であって、該方法は、20~350℃の吸脱着材に二酸化炭素含有ガスを導入して二酸化炭素を吸着させる吸着工程と、該吸着工程により二酸化炭素を吸着させた吸脱着材を80~350℃に加熱してハイドロタルサイト類化合物から二酸化炭素を脱着させる脱着工程とを含むことを特徴とする二酸化炭素の吸脱着方法。
【0009】
[2]前記吸着工程において用いる二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素濃度が200~600ppmであることを特徴とする[1]に記載の二酸化炭素の吸脱着方法。
【0010】
[3]前記脱着工程は、二酸化炭素を吸着させた吸脱着材を80~350℃に加熱しながら不活性ガスを導入して吸脱着材から二酸化炭素を脱着させる工程であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の二酸化炭素の吸脱着方法。
【0011】
[4][1]~[3]のいずれかに記載の二酸化炭素の吸脱着方法用の二酸化炭素の吸脱着材であって、該吸脱着材は、窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積が3.0cm2g-1以上であり、かつBET比表面積が13.0m2/g以上であるハイドロタルサイト類化合物を主成分として含むことを特徴とする二酸化炭素の吸脱着材。
【0012】
[5]前記ハイドロタルサイト類化合物は、25℃における二酸化炭素の吸着等温線において、10kPaでの二酸化炭素の吸着量が0.4mmol/g以上であることを特徴とする[4]に記載の二酸化炭素の吸脱着材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の二酸化炭素の吸脱着方法は、従来のハイドロタルサイト類化合物を用いた二酸化炭素の吸脱着方法よりも少ないエネルギーで二酸化炭素の吸脱着を可能とする方法であり、二酸化炭素の回収や資源化に寄与する有用な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】合成例1~3で合成したハイドロタルサイト類化合物の比表面積測定による二酸化炭素の吸着等温線である。
【
図2】実施例において、二酸化炭素の吸脱着試験を行った装置の概略図である。
【
図3】実施例の吸着試験1において、出口ガスの二酸化炭素濃度と混合ガスを流した時間との関係を示した図である。
【
図4】実施例の吸着試験1において、二酸化炭素の総吸着量と混合ガスを流した時間との関係を示した図である。
【
図5】実施例の吸着試験2において、出口ガスの二酸化炭素濃度と混合ガスを流した時間との関係を示した図である。
【
図6】実施例の吸着試験2において、二酸化炭素の総吸着量と混合ガスを流した時間との関係を示した図である。
【
図7】実施例の脱着試験1において、出口ガスの二酸化炭素濃度と窒素100%ガスを流した時間との関係を示した図である。
【
図8】実施例の脱着試験1において、二酸化炭素の総回収量と窒素100%ガスを流した時間との関係を示した図である。
【
図9】実施例の脱着試験2において、出口ガスの二酸化炭素濃度と窒素100%ガスを流した時間との関係を示した図である。
【
図10】実施例の脱着試験2において、二酸化炭素の総回収量と窒素100%ガスを流した時間との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0016】
1.二酸化炭素の吸脱着方法
本発明の二酸化炭素の吸脱着方法は、20~350℃のハイドロタルサイト類化合物を主成分として含む吸脱着材に二酸化炭素含有ガスを導入して二酸化炭素を吸着させる吸着工程と、該吸着工程により二酸化炭素を吸着させた吸脱着材を80~350℃に加熱してハイドロタルサイト類化合物から二酸化炭素を脱着させる脱着工程とを含む。
上述したとおり、従来、ハイドロタルサイト類化合物に二酸化炭素を吸着させる場合、ハイドロタルサイト類化合物の層間に存在する炭酸イオンを500~550℃の熱処理で除いた後に二酸化炭素を吸着させ、脱着時には再度500~550℃に加熱することを必要としていたが、本発明の方法では、従来のような高温の熱処理を行うことなく、20~350℃のハイドロタルサイト類化合物を主成分として含む吸脱着材に二酸化炭素含有ガスを導入して二酸化炭素を吸着させる。更にこのようにして二酸化炭素を吸着させたハイドロタルサイト類化合物は80~350℃の加熱でも二酸化炭素を脱着させることができる。
このように従来の二酸化炭素の吸脱着に比べて低温でハイドロタルサイト類化合物に二酸化炭素を吸脱着させることができる理由は明らかではないが、ハイドロタルサイト類化合物の層間に存在する結晶水に二酸化炭素が溶け込み、結晶水に溶け込んだ二酸化炭素は低温の加熱でも脱着させることができるものと推定される。
なお、本発明におけるハイドロタルサイト類化合物には、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイトの亜鉛変性タイプやハイドロタルサイトとその他の物質が複合したものが含まれる。
【0017】
本発明の二酸化炭素の吸脱着方法に用いる吸脱着材は、ハイドロタルサイト類化合物を主成分として含む。ハイドロタルサイト類化合物を主成分として含むとは、吸脱着材の50質量%以上がハイドロタルサイト類化合物であることを意味する。吸脱着材中のハイドロタルサイト類化合物の割合は60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、100質量%、すなわち、吸脱着材がハイドロタルサイト類化合物のみからなることが最も好ましい。
【0018】
上記吸着工程は、20~350℃の吸脱着材に二酸化炭素含有ガスを導入して二酸化炭素を吸着させる工程であればよいが、二酸化炭素含有ガスを導入する吸脱着材の温度は、20~200℃であることが好ましい。より好ましくは、25~100℃であり、更に好ましくは、30~60℃である。
【0019】
上記吸着工程において、吸脱着材に二酸化炭素を吸着させる際に用いる二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素を含むガスであればそれ以外のガスを含むものであってもよい。二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素濃度は200~600ppmであることが好ましい。このような二酸化炭素濃度であると、より効率的に吸脱着材に二酸化炭素を吸着させることができる。二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素濃度は200~500ppmであることがより好ましく、200~400ppmであることが更に好ましい。
上記二酸化炭素含有ガスが含む二酸化炭素以外の成分は特に制限されないが、大気中に含まれる窒素や酸素(その他微量成分)等が挙げられ、これらの1種であってもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0020】
上記吸着工程において、吸脱着材に二酸化炭素含有ガスを導入する方法は特に制限されないが、マスフローコントローラー等を用いて線速度の制御等によるガス流量を制御して導入することが好ましい。
また、吸脱着材に二酸化炭素含有ガスを導入する際の二酸化炭素含有ガスの線速度は、0.40~0.60m/分であることが好ましい。より好ましくは、0.45~0.55m/分であり、更に好ましくは、0.48~0.52m/分である。
【0021】
上記吸着工程を行う時間は特に制限されず、吸着工程を行う装置のサイズやガスの線速度等に応じて、吸着の為に設置したハイドロタルサイト類化合物を含む二酸化炭素の吸脱着材が十分に二酸化炭素を吸着しうる時間を適宜設定することができる。
【0022】
上記脱着工程は、二酸化炭素を吸着させた吸脱着材を80~350℃に加熱して吸脱着材から二酸化炭素を脱着させる工程であればよいが、二酸化炭素を脱着させるために吸脱着材を加熱する温度は90~340℃であることが好ましい。より好ましくは、200~330℃であり、更に好ましくは、250~310℃である。
【0023】
上記脱着工程において、ハイドロタルサイト類化合物から二酸化炭素を脱着させる方法は、二酸化炭素が脱着する限り特に制限されないが、二酸化炭素を吸着させた吸脱着材を80~350℃に加熱しながら不活性ガスを導入して吸脱着材から二酸化炭素を脱着させる工程であることが好ましい。このようにすることで、ハイドロタルサイト類化合物から効率的に二酸化炭素を脱着させることができる。
この場合に使用する不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴン等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
上記脱着工程において、不活性ガスを導入して吸脱着材から二酸化炭素を脱着させる場合、不活性ガスの流速は、0.100~1.000m/分であることが好ましい。より好ましくは、0.130~0.700m/分であり、更に好ましくは、0.160~0.510m/分である。
【0025】
上記脱着工程を行う時間は特に制限されず、脱着工程を行う装置のサイズやガスの線速度等に応じて、二酸化炭素の吸脱着材として設置したハイドロタルサイト類化合物を含む二酸化炭素の吸脱着材が、吸着している二酸化炭素を脱離する時間を適宜設定することができる。
【0026】
本発明の二酸化炭素の吸脱着方法は、上述した吸着工程と脱着工程とを含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、事前、または事後に膜による二酸化炭素の濃縮を行う工程等が挙げられる。
【0027】
2.二酸化炭素の吸脱着方法用の二酸化炭素の吸脱着材
本発明はまた、本発明の二酸化炭素の吸脱着方法用の二酸化炭素の吸脱着材であって、該吸脱着材は、窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積が3.0cm2g-1以上であり、かつBET比表面積が13.0m2/g以上であるハイドロタルサイト類化合物を主成分として含むことを特徴とする二酸化炭素の吸脱着材でもある。
上述した、従来よりも少ないエネルギーで二酸化炭素の吸着、脱着を行うことが可能な二酸化炭素の吸脱着方法は、二酸化炭素を吸脱着することが可能ないずれのハイドロタルサイト類化合物を用いても行うことができるが、ハイドロタルサイト類化合物の中でも、窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積が3.0cm2g-1以上であり、かつBET比表面積が13.0m2/g以上であるものを用いると、上述した二酸化炭素の吸脱着方法において、より効率的に二酸化炭素の吸脱着を行うことができる。
【0028】
本発明の二酸化炭素の吸脱着方法用の二酸化炭素の吸脱着材が含むハイドロタルサイト類化合物は、窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積が3.1cm2g-1以上であることが好ましい。より好ましくは、3.2cm2g-1以上であり、更に好ましくは、3.5cm2g-1以上である。窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積の上限については、特に制限はないが、20cm2g-1以下であることが好ましい。より好ましくは、15cm2g-1以下であり、更に好ましくは10cm2g-1以下である。
またBET比表面積は13.1m2/g以上であることが好ましい。より好ましくは、13.5m2/g以上であり、更に好ましくは、14.0m2/g以上である。BET比表面積の上限については、特に制限はないが、150m2/g以下であることが好ましい。より好ましくは、120m2/g以下であり、更に好ましくは100m2/g以下である。
ハイドロタルサイト類化合物の細孔径9.9~106nmの積算細孔面積、BET比表面積は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0029】
上記ハイドロタルサイト類化合物は、下記式(1):
M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O (1)
(式中、M2+はMg2+、Zn2+、Ca2+、Fe2+、Mn2+、Co2+、Ni2+及びCu2+から選ばれる少なくとも1種の2価金属イオンを示し、M3+はAl3+、Fe3+、Cr3+及びCo3+から選ばれる少なくとも1種の3価金属イオンを示し、An-はSO4
2-、Cl-、CO3
2-、OH- 及びケイ素系酸素酸イオンから選ばれる少なくとも1種のn価のアニオンを示し、xは0<x<0.5を満足する数であり、mは0≦m<2を満足する数である。)で表されるものであることが好ましい。
【0030】
上記式(1)中、mは0≦m<2の条件を満たす値であるが、0<m<2の条件を満たす値であることが好ましい。すなわち、結晶水を有することが好ましい。
【0031】
上記式(1)において、M2+ =Mg、M3+ =Alであるものは、Mg/Al系ハイドロタルサイトと称され、M2+ =MgおよびZnであるものは、亜鉛変性ハイドロタルサイトと称される。本発明では、これらのいずれも好適に使用できる。
【0032】
本発明の二酸化炭素の吸脱着方法用の二酸化炭素の吸脱着材が含むハイドロタルサイト類化合物としては、上記式(1)において、(1-x)/xが4未満であるものが好ましい。このようなハイドロタルサイト類化合物を用いると、本発明の二酸化炭素の吸脱着方法による二酸化炭素の吸脱着をより効率的に行うことができる。
【0033】
本発明の二酸化炭素の吸脱着方法用の二酸化炭素の吸脱着材が含むハイドロタルサイト類化合物は、25℃における二酸化炭素の吸着等温線において、10kPaでの二酸化炭素の吸着量が0.4mmol/g以上であることが好ましい。このようなハイドロタルサイト類化合物は、より多くの二酸化炭素を吸着することができるため、本発明の二酸化炭素の吸脱着方法用の吸脱着材が含むハイドロタルサイト類化合物としてより好適なものとなる。より好ましくは、25℃における二酸化炭素の吸着等温線において、10kPaでの二酸化炭素の吸着量が0.5mmol/g以上となるハイドロタルサイト類化合物であり、更に好ましくは、0.6mmol/g以上となるハイドロタルサイト類化合物である。
25℃における二酸化炭素の吸着等温線における10kPaでの二酸化炭素の吸着量は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0034】
上記ハイドロタルサイト類化合物の粒子の形状は特に限定されず、例えば、板状、球状、円盤状等が挙げられる。中でも、板状又は円盤状であることが好ましい。
なお、粒子形状は、走査型電子顕微鏡等によって観察することができる。
【0035】
上記ハイドロタルサイト類化合物粒子の平均粒子径は、二酸化炭素の吸着が行われる限り特に制限されないが、0.05~3.00μmであることが好ましい。より好ましくは、0.10~2.00μmであり、更に好ましくは、0.10~1.00μmである。
ハイドロタルサイト類化合物粒子の平均粒子径は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0036】
本発明の二酸化炭素の吸脱着方法用の二酸化炭素の吸脱着材は、上述した特定のハイドロタルサイト類化合物のみからなるものであってもよく、上述した特定のハイドロタルサイト類化合物とその他の成分とを含むものであってもよい。
その他の成分としては、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、これらを1種又は2種以上を含むことができる。
本発明の二酸化炭素の吸脱着方法用の二酸化炭素の吸脱着材が上述した特定のハイドロタルサイト類化合物以外のその他の成分を含む場合、その他の成分の割合は吸脱着材100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、20質量%以下である。
【実施例0037】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0038】
<窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積>
各ハイドロタルサイトについて、サンプル管の重量を測定したのち、サンプルを必要量投入した。サンプル管の試料部分を真空引きし、表面に付着した水分を除去したのちMICROTRAC MRB社製 BELSORP MINIXによって窒素吸脱着等温線を測定した。
測定した窒素吸脱着等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法により処理して積算細孔面積を算出した。
【0039】
<BET比表面積>
MICROTRAC MRB社製 BELSORP MINIXによって測定した窒素吸脱着等温線を解析する事によりBET比表面積を算出した。
【0040】
<Mg/Al比>
各ハイドロタルサイトを0.1g精秤し、イオン交換水10ml加え必要量の塩酸を加え完全に溶解したのち1000mlとした。さらに10倍希釈したのちICP分析装置にて分析後、Mg/Al比を算出した。
【0041】
<平均粒子径(D50)>
レーザー回折粒度分布測定装置(HORIBA製LA950)を用いて粒度分布を測定し、D50を求めた。D50とは、体積基準での50%積算粒径を意味する。
【0042】
合成例1
3リットルの反応器に水400mlを入れ、攪拌下において、硫酸マグネシウム塩と硫酸アルミニウム塩の混合水溶液(Mg2+=40.0g/l、Al3+=14.8g/l)800mlと、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合水溶液(NaOH=156.8g/l、Na2CO3=89.0g/l)800mlを同時に加えた後、150℃で3時間水熱合成を行った。得られたハイドロタルサイトのスラリーをろ過後、ろ過ケーキを75℃10lの水で水洗を行い、得られた水洗ケーキを100℃で24時間乾燥し、粉砕を行うことによって、ハイドロタルサイトを得た。得られたハイドロタルサイトは、Mg/Al比が3.0であり、D50は0.42μmであった。
また、得られたハイドロタルサイトの、窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積は、5.2cm2g-1であり、BET比表面積は16.3m2/gであった。また得られたハイドロタルサイトは、上述した式(1)におけるmが1.0のものであった。
【0043】
合成例2
3リットルの反応器に水400mlを入れ、攪拌下において、硫酸マグネシウム塩と硫酸アルミニウム塩の混合水溶液(Mg2+=39.5g/l、Al3+=11.0g/l)800mlと、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合水溶液(NaOH=146.2g/l、Na2CO3=64.6g/l)800mlを同時に加えた後、160℃で3時間水熱合成を行った。得られたハイドロタルサイトのスラリーをろ過後、ろ過ケーキを75℃10lの水で水洗を行い、得られた水洗ケーキを100℃で24時間乾燥し、粉砕を行うことによって、ハイドロタルサイトを得た。得られたハイドロタルサイトは、Mg/Al比が4.0であり、D50は0.47μmであった。
また、得られたハイドロタルサイトの、窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積は、5.6cm2g-1であり、BET比表面積は16.6m2/gであった。また得られたハイドロタルサイトは、上述した式(1)におけるmが1.0のものであった。
【0044】
合成例3
合成例1、2に準じて、公知の方法にて、金属塩の水溶液をMg/Al比が2.0となる様に調整したものと、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合水溶液を調整したものを同時に加えた後、170℃で3時間水熱反応を行った。合成例1、2と同様にろ過水洗乾燥を行い、ハイドロタルサイトを得た。得られたハイドロタルサイトはM/Al=2.0であり、D50は0.56μmであった。
また、得られたハイドロタルサイトの、窒素の吸着等温線からBJH法により算出した細孔径9.9~106nmの積算細孔面積は、2.4cm2g-1であり、BET比表面積は10.6m2/gであった。また得られたハイドロタルサイトは、上述した式(1)におけるmが0.99のものであった。
【0045】
合成例1~3で合成したハイドロタルサイトの比表面積測定による二酸化炭素の吸着等温線を
図1に示す。合成例1~3で合成したハイドロタルサイトの25℃における二酸化炭素の最大吸着量はそれぞれ0.894mmol/g、0.879mmol/g、0.174mmol/gであった。
【0046】
実施例
(吸着試験1)
図2に示す装置の反応管内に合成例1で合成したハイドロタルサイト0.5gをガラスウールで固定・設置した。二酸化炭素濃度を400ppmに調整した二酸化炭素と窒素との混合ガスをマスフローコントローラーで線速度0.500m/分に調整して30℃の反応管に流入させ、出口のガスを二酸化炭素濃度計で分析し、二酸化炭素の吸着量を測定した。同様の試験を反応管の温度を60℃、100℃及び200℃に変更して行った。
出口ガスの二酸化炭素濃度と混合ガスを流した時間との関係、及び、二酸化炭素の総吸着量と混合ガスを流した時間との関係をそれぞれ
図3、4に示す。
【0047】
(吸着試験2)
図2に示す装置を用い、吸着試験1と同様に反応管内に合成例2で合成したハイドロタルサイト0.5gを設置した。二酸化炭素濃度を400ppmに調整した二酸化炭素と窒素との混合ガス(線速度0.5m/分)を用いて、反応管の温度を30℃とした条件で吸着試験を行った。
出口ガスの二酸化炭素濃度と混合ガスを流した時間との関係、及び、二酸化炭素の総吸着量と混合ガスを流した時間との関係を確認した。合成例3で合成したハイドロタルサイトについても同様の試験を行った。結果をそれぞれ
図5、6に示す。なお、
図5、6中の合成例1は、それぞれ
図3、4中の30℃とした条件と同じものである。
【0048】
(脱着試験1)
図2に示す装置を用い、吸着試験において、最適な条件で二酸化炭素を吸着させた合成例1のハイドロタルサイトを用い、反応管内にハイドロタルサイト0.25gをガラスウールで固定・設置した。窒素99.99%ガスを線速度0.500m/分で100℃の反応管に流入させ、出口ガスを二酸化炭素濃度計で分析した。更に反応管の温度を200℃、300℃に変えて同様の脱着試験を行った。
出口ガスの二酸化炭素濃度と窒素99.99%ガスを流した時間との関係、及び、二酸化炭素の総回収量と窒素99.99%ガスを流した時間との関係をそれぞれ
図7、8に示す。
【0049】
(脱着試験2)
図2に示す装置を用い、吸着試験において、最適な条件で二酸化炭素を吸着させた合成例1のハイドロタルサイトを用い、反応管内にハイドロタルサイト0.25gをガラスウールで固定・設置した。窒素99.99%ガスを線速度0.167m/分で300℃の反応管に流入させ、出口ガスを二酸化炭素濃度計で分析した。更に窒素ガスの線速度を0.250m/分に変えて同様の脱着試験を行った。
出口ガスの二酸化炭素濃度と窒素99.99%ガスを流した時間との関係、及び、二酸化炭素の総回収量と窒素99.99%ガスを流した時間との関係をそれぞれ
図9、10に示す。なお、
図9、10中の0.500m/分は、それぞれ
図7、8中の300℃とした条件と同じものである。
【0050】
吸着試験の結果から、従来のような500℃を超える加熱なしでもハイドロタルサイトに二酸化炭素を吸着させることができることが確認された。また脱着試験の結果から、高温加熱なしで二酸化炭素を吸着させたハイドロタルサイトは、500℃を超える高温加熱をしなくても二酸化炭素を脱着させることができることが確認された。
吸着試験、脱着試験の結果から、本発明の二酸化炭素の吸脱着方法には、窒素の吸着等温線からBJH法により算出した 細孔径9.9~106nmの積算細孔面積が3.0cm2g-1以上であり、かつBET比表面積が13.0m2/g以上であるハイドロタルサイトが適することが確認された。