(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049898
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】眼科用レーザ治療装置、および眼科用レーザ治療プログラム
(51)【国際特許分類】
A61F 9/008 20060101AFI20240403BHJP
A61B 18/20 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A61F9/008 130
A61F9/008 120E
A61B18/20
A61F9/008 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156410
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】水戸 慎也
(72)【発明者】
【氏名】片岡 暁
【テーマコード(参考)】
4C026
【Fターム(参考)】
4C026AA03
4C026HH03
(57)【要約】
【課題】構造的特徴が少ない部位でも良好に照射位置を合わせることができる眼科用レーザ治療装置、および眼科用レーザ治療プログラムを提供する。
【解決手段】
患者眼を治療するための眼科用レーザ治療装置であって、前記患者眼に治療用または照準用のレーザ光を照射する照射手段と、前記レーザ光の照射位置を調整する調整手段と、前記患者眼を撮影して観察画像を取得する観察光学系と、前記患者眼に対して前記照射位置を合わせるための基準となる参照画像と、前記観察画像と、に基づいて前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の位置ずれを検出する検出手段と、前記調整手段を制御し、前記検出手段によって検出された前記位置ずれに基づいて前記照射位置を補正する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記観察画像によって前記参照画像を更新することを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者眼を治療するための眼科用レーザ治療装置であって、
前記患者眼に治療用または照準用のレーザ光を照射する照射手段と、
前記レーザ光の照射位置を調整する調整手段と、
前記患者眼を撮影して観察画像を取得する観察光学系と、
前記患者眼に対して前記照射位置を合わせるための基準となる参照画像と、前記観察画像と、に基づいて前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の位置ずれを検出する検出手段と、
前記調整手段を制御し、前記検出手段によって検出された前記位置ずれに基づいて前記照射位置を補正する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記観察画像によって前記参照画像を更新することを特徴とする眼科用レーザ治療装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記レーザ光の照射後に撮影された前記観察画像によって前記参照画像を更新することを特徴とする請求項1に記載の眼科用レーザ治療装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記レーザ光の照射後に更新された前記参照画像および前記観察画像に写る凝固斑の位置に基づいて、前記位置ずれを検出することを特徴とする請求項2に記載の眼科用レーザ治療装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記観察画像に写る照準光の像の輝度変化に基づいて、前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の前記位置ずれを検出することを特徴とする請求項1の眼科用レーザ治療装置。
【請求項5】
患者眼を治療するための眼科用レーザ治療装置であって、
前記患者眼に治療用または照準用のレーザ光を照射する照射手段と、
前記レーザ光の照射位置を調整する調整手段と、
前記患者眼によって反射した前記照準光の戻り光を受光する照準光受光手段と、
前記照準光受光手段によって受光された前記戻り光の輝度変化に基づいて、前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の位置ずれを検出する検出手段と、
前記調整手段を制御し、前記検出手段によって検出された前記位置ずれに基づいて前記照射位置を補正する制御手段と、を備えることを特徴とする眼科用レーザ治療装置。
【請求項6】
患者眼を治療するための眼科用レーザ治療装置において実行される眼科用レーザ治療プログラムであって、前記眼科用レーザ治療装置の制御手段によって実行されることで、
前記患者眼に治療用または照準用のレーザ光を照射する照射ステップと、
前記レーザ光の照射位置を調整する調整ステップと、
前記患者眼を撮影して観察画像を取得する画像取得ステップと、
前記患者眼に対して前記照射位置を合わせるための基準となる参照画像と、前記観察画像と、に基づいて前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の位置ずれを検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおいて検出された前記位置ずれに基づいて前記照射位置を補正する補正ステップと、
前記観察画像によって前記参照画像を更新する更新ステップと、
を前記眼科用レーザ治療装置に実行させることを特徴とする眼科用レーザ治療プログラム。
【請求項7】
患者眼を治療するための眼科用レーザ治療装置において実行される眼科用レーザ治療プログラムであって、前記眼科用レーザ治療装置の制御手段によって実行されることで、
前記患者眼に治療用または照準用のレーザ光を照射する照射ステップと、
前記レーザ光の照射位置を調整する調整ステップと、
前記患者眼によって反射した前記照準光の戻り光を受光する照準光受光ステップと、
前記照準光受光ステップにおいて受光された前記戻り光の輝度変化に基づいて、前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の位置ずれを検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおいて検出された前記位置ずれに基づいて前記照射位置を補正する補正ステップと、
を前記眼科用レーザ治療装置に実行させることを特徴とする眼科用レーザ治療プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光を照射することによって患者眼を治療する眼科用レーザ治療装置、および眼科用レーザ治療プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
患者眼にレーザ光を照射し、患者眼の治療を行うための眼科用レーザ治療装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、新しい眼科用レーザ治療装置として、眼科撮影装置とレーザ治療装置が一体となった装置が開発されている。このような装置では、眼科撮影装置によって撮影された眼底の血管や視神経乳頭などの構造的特徴に基づいて照射位置の位置合わせを行う。
【0005】
しかしながら、治療部位の周辺に構造的特徴が少ない場合は、照射位置を合わせることが困難であった。
【0006】
本開示は、従来技術の問題点に鑑み、構造的特徴が少ない部位でも良好に照射位置を合わせることができる眼科用レーザ治療装置、および眼科用レーザ治療プログラムを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1)患者眼を治療するための眼科用レーザ治療装置であって、前記患者眼に治療用または照準用のレーザ光を照射する照射手段と、前記レーザ光の照射位置を調整する調整手段と、前記患者眼を撮影して観察画像を取得する観察光学系と、前記患者眼に対して前記照射位置を合わせるための基準となる参照画像と、前記観察画像と、に基づいて前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の位置ずれを検出する検出手段と、前記調整手段を制御し、前記検出手段によって検出された前記位置ずれに基づいて前記照射位置を補正する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記観察画像によって前記参照画像を更新することを特徴とする。
(2) 患者眼を治療するための眼科用レーザ治療装置であって、前記患者眼に治療用または照準用のレーザ光を照射する照射手段と、前記レーザ光の照射位置を調整する調整手段と、前記患者眼によって反射した前記照準光の戻り光を受光する照準光受光手段と、前記照準光受光手段によって受光された前記戻り光の輝度変化に基づいて、前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の位置ずれを検出する検出手段と、前記調整手段を制御し、前記検出手段によって検出された前記位置ずれに基づいて前記照射位置を補正する制御手段と、を備えることを特徴とする。
(3) 患者眼を治療するための眼科用レーザ治療装置において実行される眼科用レーザ治療プログラムであって、前記眼科用レーザ治療装置の制御手段によって実行されることで、前記患者眼に治療用または照準用のレーザ光を照射する照射ステップと、前記レーザ光の照射位置を調整する調整ステップと、前記患者眼を撮影して観察画像を取得する画像取得ステップと、前記患者眼に対して前記照射位置を合わせるための基準となる参照画像と、前記観察画像と、に基づいて前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の位置ずれを検出する検出ステップと、前記検出ステップにおいて検出された前記位置ずれに基づいて前記照射位置を補正する補正ステップと、前記観察画像によって前記参照画像を更新する更新ステップと、を前記眼科用レーザ治療装置に実行させることを特徴とする。
(4) 患者眼を治療するための眼科用レーザ治療装置において実行される眼科用レーザ治療プログラムであって、前記眼科用レーザ治療装置の制御手段によって実行されることで、前記患者眼に治療用または照準用のレーザ光を照射する照射ステップと、前記レーザ光の照射位置を調整する調整ステップと、前記患者眼によって反射した前記照準光の戻り光を受光する照準光受光ステップと、前記照準光受光ステップにおいて受光された前記戻り光の輝度変化に基づいて、前記レーザ光の光軸に垂直な方向における前記照射位置の位置ずれを検出する検出ステップと、前記検出ステップにおいて検出された前記位置ずれに基づいて前記照射位置を補正する補正ステップと、を前記眼科用レーザ治療装置に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、治療部位に照射位置を好適に合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施例>
以下、本開示に係る眼科用レーザ治療装置1を図面に基づいて説明する。眼科用レーザ治療装置1は、例えば、照射光学系10と、照準光受光光学系30と、観察光学系40と、制御部60を主に備える(
図1参照)。照射光学系10は、治療用レーザ光および照準光(エイミング光)を患者眼Eに照射する。照準光受光光学系30は、患者眼Eの眼底Erで反射した照準光の戻り光を検出する。観察光学系40は、患者眼の眼底を観察する。制御部60は、眼科用レーザ治療装置1を制御する。
【0012】
<照射光学系>
照射光学系10は、例えば、治療用レーザ光を発振し、レーザ光を患者眼Eに照射する。照射光学系10は、例えば、レーザ光源11、レンズ12、レンズ15、レンズ16、偏向部17、対物レンズ18、フォーカス調整部20などを備える。
【0013】
レーザ光源11は、治療用レーザ光を出射する。また、本実施例のレーザ光源11は、照準光源を兼ねる。例えば、レーザ光源11は、可視の照準光を出射する。照準光は、眼底に照射される治療用レーザ光の照射状態(例えば、治療用レーザ光のスポットの大きさ、およびフォーカス等)を示す。もちろん、レーザ光源と照準光源は別々に設けられてもよい。レンズ12は、レーザ光源11からのレーザ光または照準光を平行光束とする。レンズ15は、レーザ光または照準光を一旦結像させる。レンズ16は、レンズ15によって結像されたレーザ光または照準光を平行光束として偏向部17に導光する。偏向部17は、患者眼の眼底上でレーザ光または照準光を走査させる。偏向部17は、例えば、ガルバノミラーなどである。偏向部17は、例えば、X軸走査用のガルバノミラーと、Y軸走査用のガルバノミラーを備え、レーザ光または照準光を眼底上で2次元的に走査させる。対物レンズ18は、偏向部17によって偏向されたレーザ光または照射光を患者眼に照射する。
【0014】
レーザ光源11からのレーザ光または照準光は、レンズ12およびビームスプリッタ50を透過し、レンズ15およびレンズ16を介して、偏向部17およびダイクロイックミラー51で反射され、対物レンズ18を介して眼底Erに集光される。このとき、偏向部17によって眼底上におけるレーザ光または照準光の照射位置が変更される。このように偏向部17は、レーザ光の照射位置を調整する調整手段として機能する。
【0015】
フォーカス調整部20は、患者眼の組織(本実施例では眼底)における治療用レーザ光および照準光のフォーカスを調整する。フォーカス調整部20は、例えば、駆動部21を備える。駆動部21は、例えば、照射光学系10の一部または全部を光軸方向に移動させる。例えば、フォーカス調整部20は、レーザ光源11からレンズ15までの光学系(
図1の点線枠内)を駆動部21によって光軸方向に一体的に移動させることで、レーザ光および照準光のフォーカスを調整する。なお、レーザ光源と照準光源が別々に設けられる場合、レーザ光のフォーカス位置とエイミング光のフォーカス位置は、Z方向に関して異なっていてもよい。
【0016】
<照準光受光光学系>
照準光受光光学系30は、結像レンズ31と、受光素子32を備える。結像レンズ31は、照準光が眼底Erで反射されたときの戻り光を結像させる。受光素子32は、結像レンズ31によって結像された戻り光の像を受光する。受光素子32は、例えば、CCDなどの2次元センサである。受光素子32は、照準光の受光信号を制御部60へ出力する。照準光受光光学系30は、照射光学系10の光路から分岐される。例えば、レンズ12とレンズ15との間に配置されたビームスプリッタ50の反射方向に照準光受光光学系30が設けられる。したがって、眼底Erに照射された照準光の戻り光は、対物レンズ18を介して、ダイクロイックミラー51および偏向部17で反射され、レンズ16およびレンズ15を通過してビームスプリッタ50で反射される。そして、ビームスプリッタ50で反射された戻り光は、結像レンズ31によって結像され、受光素子32によって受光される。なお、照準光受光光学系30の倍率を高くすることで、眼底全体に対して検出できる範囲は狭くなるが、照準光のレーザスポットサイズに対して高解像度で検出することができるため、戻り光の像の輝度分布をより正確に得ることができる。
【0017】
<観察光学系>
観察光学系40は、例えば、被検眼の観察画像を撮影する。観察光学系40は、例えば、撮影光源41と、コンデンサーレンズ41aと、スリット板42と、レンズ43と、走査部44と、対物レンズ18と、光路分岐部45と、レンズ46と、撮像素子47を備える。撮影光源41は、組織の画像を撮影するための光(以下、「撮影光」という)を出射する。撮影光源41には、例えば、レーザ光源、SLD(スーパー・ルミネッセント・ダイオード)光源、LED等の少なくともいずれかを用いることができる。撮影光源41には、点状の光源が用いられてもよい。コンデンサーレンズ41aは、撮影光源41から出射された撮影光をスリット板42上へ集める。本実施例の撮影光源41は、患者眼Eの組織(本実施例では瞳孔)と共役な位置に配置される。撮影光源41は、赤外光または可視光の少なくともいずれかを出射する光源であってもよい。撮影光源41は、可視光と赤外光を同時に出射する光源であってもよい。赤外光を出射する光源を用いる場合、無散瞳状態での撮影が容易に行われる。白色光(可視光)を出射する光源を用いる場合、カラー撮影が容易に行われる。また、凝固斑を撮影する場合は可視光による撮影が適している。
【0018】
スリット板42は、撮影光源41から出射された撮影光の一部を遮蔽することで、撮影光をスリット状光束に変換する。つまり、スリット板42は、撮影光をスリット状光束に変換する光束変換素子として機能する。スリット板42は、例えば、眼底共役位置上に配置される。本実施例のスリット板42は、走査部44によるスリット状光束の走査方向に交差(本実施例では直交)する方向に延びるスリットを有し、走査方向にはスリット幅を有する。スリット板42からの光は、レンズ43および光路分岐部45を通過して、走査部44へ入射される。
【0019】
なお、スリット板42以外の光学素子を光束変換素子として採用することも可能である。例えば、光束変換素子として、撮影光源41と眼底共役位置との間に配置されたシリンドリカルレンズを採用し、眼底共役位置において撮影光をライン状に集光させてもよい。その結果、眼底Er上において撮影光がライン状に成形される。
【0020】
レンズ43は、撮影光源41から出射された撮影光を、対物レンズ18の前側焦点位置にて一旦結像させる。レンズ43は、1つのレンズによって構成されていてもよいし、一群のレンズによって構成されていてもよい。
【0021】
対物レンズ18は、走査部44から入射する撮影光を患者眼Eの眼底Erに導光する。また、対物レンズ18は、患者眼Eの眼底Erによって反射された撮影光の戻り光を、走査部44に戻す。対物レンズ18は、1つのレンズによって構成されていてもよいし、一群のレンズによって構成されていてもよい。本実施例では、対物レンズ18によって、走査部44は患者眼Eの瞳孔と共役な位置に配置されている。対物レンズ18は、撮影光の光路のうち、走査部44よりも下流側(詳細には、ダイクロイックミラー51よりも下流側)、且つ患者眼Eよりも上流側に配置されている。なお、対物レンズ18は照射光学系10と兼用される。
【0022】
走査部44は、患者眼に投光される撮影光を眼底上で走査させる。本実施例の走査部44は、撮影光のスリット状光束を、スリット方向に交差(本実施例では直交)する方向に走査させる。走査方向は、例えば、鉛直方向であってもよいし、水平方向であってもよい。走査部44を構成する素子には、反射ミラー(例えば、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、またはレゾナントスキャナ)、または、光の進行方向を変化させる音響光学素子等の少なくともいずれかを用いることができる。また、走査部44は、複数の素子(例えば、撮影光をX方向に走査する素子と、撮影光をY方向に走査する素子)を備えていてもよい。
【0023】
レンズ43と対物レンズ18との間の光路上には、光路分岐部45が設けられている。光路分岐部45は、撮影光源41から出射されて眼底に投光される撮影光(本実施例ではスリット状光束)を通過(または透過)させる。また、光路分岐部45は、眼底Erによって反射された撮影光の戻り光を反射させて、レンズ46に導光する。光路分岐部45は、穴あきミラー、ハーフミラー等の種々のビームスプリッタのうち、いずれかであってもよい。
【0024】
レンズ46は、患者眼Eの眼底によって反射された撮影光の戻り光を、撮像素子47上で結像させる。撮像素子47は、眼底によって反射された撮影光の戻り光を受光し、撮像信号を出力する。撮像素子47は、患者眼Eの眼底と共役な位置に配置されている。本実施例の撮像素子47には、スリット状の反射光を受光する二次元撮像素子が用いられている。
【0025】
撮影光源41から出射された撮影光は、スリット板42、レンズ43、光路分岐部45を通過し、走査部44によって偏向された後、対物レンズ18を介して患者眼Eへ照射される。対物レンズ18は、前眼部に形成される射出瞳を介して、撮影光を眼底Erへ導く。走査部44の駆動に応じて、撮影光は射出瞳の位置で旋回される。撮影光は、眼底Erで反射又は散乱される。その結果として、眼底Erからの戻り光(散乱・反射光)が、瞳孔から平行光として出射される。眼底Erからの戻り光は、対物レンズ18、走査部44、光路分岐部45、レンズ46を介して撮像素子47に受光される。
【0026】
なお、本実施例の観察光学系40は、スリット光を眼底全体に走査させて1枚の広域観察画像を取得してもよいし、スリット光を眼底の一部の領域に走査させることで狭域観察画像(動画)を取得してもよい。走査領域を狭くすることによって、患者の眩しさを低減できる。
【0027】
なお、観察光学系40は、高倍率な狭域観察動画を取得するための変倍光学系を備えてもよい。変倍光学系は、例えば、複数のレンズによって構成される。変倍光学系を備えることによって、より高解像度で眼底を観察できる。
【0028】
<制御部>
制御部60は、眼科用レーザ治療装置1における各種制御処理を行う。制御部60は、制御を司るコントローラであるCPU61と、プログラムおよびデータ等を記憶することが可能な記憶部62を備える。記憶部62には、患者眼Eへのレーザ光照射を実行するためのレーザ治療プログラム等が記憶されている。なお、制御部60およびコントローラの数は1つに限定されない。制御部60には、表示部63と、操作部64が接続される。表示部63は、観察光学系40によって撮影された観察画像などが表示される。操作部64は、術者の操作を受け付け、制御部60へ操作信号を出力する。
【0029】
<照射位置の補正について>
続いて、レーザ光の照射位置を補正する方法について説明する。照射位置の補正は、例えば、患者眼の動きなどによって患者眼の疾患部位(治療予定部位)とレーザ光の照射位置がずれた場合に必要となる。本実施例の眼科用レーザ治療装置1は、位置合わせの基準となる参照画像を更新することによって、より安定した照射位置の補正を行う。
【0030】
例えば、本実施例の眼科用レーザ治療装置1は、レーザ照射後に参照画像を更新することによって、凝固斑を用いて照射位置の位置ずれ(レーザ光の光軸に垂直な方向における照射位置の位置ずれ)を検出する。例えば、制御部60は、照射位置の位置ずれを検出する検出手段として機能する。
図2(a)は、治療前に撮影された参照画像101を示す。参照画像101は、例えば、レーザ光の照射位置を設定するために用いられる。
図2(b)は、治療時に観察光学系40によってリアルタイムに撮影される観察画像102を示す。観察画像102には、照射光学系10によって照射された照準光の像Gが写る。照準光の像Gの位置がレーザ光の照射位置となる。
図2(c)は、レーザ光の照射後に観察光学系40によって撮影された新たな参照画像103である。参照画像103には照準光の像Gと凝固斑Pが写る。
【0031】
1回目にレーザ光を照射する際、制御部60は、画像処理によって参照画像101と観察画像102に写る血管または視神経乳頭などの位置ずれを検出し、検出された位置ずれに基づいて照射位置を補正する。2回目以降にレーザ光を照射する際、制御部60は、レーザ照射後の観察画像を新たな参照画像103とする。例えば、
図2(d)のように、参照画像103が撮影された時点から患者眼が動き、照射位置がずれたとする。この場合、制御部60は、参照画像103に写る凝固斑Pの位置と、観察光学系40によってリアルタイムに撮影される観察画像104に写る凝固斑Pの位置とを画像処理によって検出し、これらの位置ずれ(ずれ量と方向)を算出する。制御部60は、算出された凝固斑Pの位置ずれが相殺されるように偏向部17を制御することによって容易に照射位置を補正することができる。
【0032】
このように、レーザ照射後に参照画像を更新し、凝固斑Pの位置に基づいて照射位置の位置ずれを検出することで、構造的特徴(血管や視神経乳頭など)が少ない部位であっても、凝固斑Pを構造的特徴の1つとしてトラッキングを行うことができる。したがって、患者眼に対する照射位置の位置合わせを安定して行うことができる。
【0033】
<照準光画像による照射位置補正>
なお、本実施例の眼科用レーザ治療装置1は、照準光受光光学系30によって取得された照準光画像の輝度変化を用いて照射位置を補正することもできる。照準光画像は、例えば、照準光が眼底によって反射したときの戻り光が結像された像が写る画像である。制御部60は、受光素子32から出力された照準光の受光信号に基づいて照準光画像を取得する。毛細血管瘤等の病変部に照準光が当たったときの照準光画像は、正常な眼底部分に照準光が当たったときの照準光画像に比べ、輝度が低くなる。そこで、制御部60は、照準光が病変部からずれたことを照準光画像の輝度変化によって検出してもよい。
【0034】
例えば、
図3(a)は照射位置が病変部Dの位置に設定された状態における照準光画像201を示し、
図3(b)は照射位置が
図3(a)の状態から少しずれた状態における照準光画像202を示す。
図3(a),(b)に示すように、照射位置がずれることによって照準光画像201の輝度分布が変化する。制御部60は、治療予定の病変部Dに照射位置を合わせた時点における照準光画像201の輝度情報を基準として、リアルタイムに撮影される照準光画像202の輝度を監視する。制御部60は、基準となる照準光画像201に対してリアルタイムの照準光画像202の輝度が変化した場合、画像処理等によって照射位置のずれ量とずれた方向を算出する。例えば、
図3(a),(b)に示すように、基準となる照準光画像201とリアルタイムの照準光画像202に写る病変部D(低輝度部)の位置(重心など)の変化に基づいて照射位置のずれ量と方向を算出する。制御部60は、算出したずれ量と方向に基づいて位置ずれが相殺されるように偏向部17を制御し、照射位置を修正する。このように、照準光画像201の輝度分布の変化に基づいて照射位置の位置ずれを検出することによって、照射位置の補正をより安定させることができる。
【0035】
<制御動作>
続いて、
図4のフローチャートを用いて眼科用レーザ治療装置1の制御動作の一例を説明する。
【0036】
(ステップS1:アライメント)
まず、制御部60は、図示無き駆動部によって患者眼に対する眼科用レーザ治療装置1の位置関係を調整(アライメント)する。例えば、制御部60は、検者の操作部64への操作に基づいて駆動部を制御する。
【0037】
(ステップS2:参照画像取得)
制御部60は、照射位置を設定するための参照画像101を取得する。例えば、制御部60は、観察光学系40によって患者眼を撮影することで参照画像101を取得してもよいし、外部の撮影手段によって予め撮影された患者眼の画像を参照画像101として取得してもよい。制御部60は、取得した参照画像101を表示部63に表示させる。
【0038】
(ステップS3:照射位置の設定)
術者は、表示部63に表示された参照画像101を確認しながら操作部64を操作し、治療レーザ光の照射位置を設定する。このとき、検者は治療レーザ光の照射禁止領域を設定してもよい。
【0039】
(ステップS4:観察画像取得)
制御部60は、観察光学系40によって観察画像を取得する。制御部60は、治療が終わるまで観察画像(動画)の撮影を行い、取得された画像をリアルタイムで順次表示部63に表示させる。なお、観察画像は狭域の画像であってもよい。例えば、制御部60は、走査領域の一部にのみ撮影光を走査させてカラー眼底画像の撮影を行ってもよい。この場合、例えば制御部60は、ステップS3において設定された照射位置を含む走査領域に可視光を照射し、それ以外の走査領域には撮影光を照射させずに撮影を行ってもよい。
【0040】
(ステップS5:ずれ検出)
制御部60は、参照画像101と観察画像102とを比較し、照射位置のずれを検出する。例えば、血管または視神経乳頭などの構造的特徴の位置に基づいて照射位置のずれを検出する。なお、後述するステップS8によって参照画像が更新されている場合、凝固斑の位置に基づいて照射位置のずれを検出してもよい。
【0041】
(ステップS6:照射位置補正)
制御部60は、位置ずれの検出結果に基づいて、レーザ光の照射位置を補正する。例えば、照射位置がずれた方向およびずれ量に基づいて、偏向部17を制御し、レーザ光の照射を制御する。
【0042】
(ステップS7:治療レーザ光の照射)
制御部60は、照射光学系10によって被検眼に照準光を照射する。検者は、表示部63に表示された観察画像の動画に映る照準光によって照射位置を最終的に確認しながら、治療レーザ光の照射を開始させる。制御部60は、撮像素子47によって取得された観察画像に基づいて前述のように照射位置を補正しながら、設定された眼底上の照射位置に対して治療レーザ光を照射する。検者は、表示部63に表示された観察画像によってレーザ照射中または照射後の照射部位の様子を確認する。
【0043】
(ステップS8:参照画像更新)
制御部60は、参照画像を更新する。制御部60は、レーザ光照射後に撮影された被検眼の観察画像を参照画像として用いる。これによって、レーザ光を照射した位置に生じた凝固斑が参照画像に写る。したがって、制御部60は、凝固斑を画像特徴としてトラッキングを行うことができる。なお、制御部60は、レーザ照射毎に参照画像を更新してもよいし、所定の時間間隔で参照画像を更新してもよい。
【0044】
以上のように、本実施例の眼科用レーザ治療装置1は、参照画像を更新することによって、凝固斑の位置ずれに基づいて照射位置を補正することができる。これによって、特徴的な眼底構造がない場合であっても良好にトラッキングを行うことができる。
【0045】
また、本実施例の眼科用レーザ治療装置1は、照準光画像の輝度変化に基づいて照射位置のずれを検出し、照射位置を補正することができる。これによって、レーザ光を治療部位に適正に照射させることができる。また、術中において、術者が観察画像を確認して照射位置がずれたか判断するよりも容易に照射位置を補正できるため、術者の負担が軽減される。
【0046】
なお、参照画像の更新は、フットスイッチが押された後すぐでも良いし、任意の時間間隔でも良い。なお、レーザ光と凝固斑が重なるため、フットスイッチ押下中の観察画像は参照画像として用いない方が良い。また、参照画像として用いる観察画像は、照準光が消灯している、または移動させた後など、凝固斑の位置に照準光が写っていない画像が好ましい。
【0047】
<変容例>
なお、ステップS5において、制御部60は、照準光受光光学系30によって取得された照準光画像の輝度変化に基づいて、照射位置のずれを検出してもよい。例えば、前述のように、照準光画像の輝度分布が変化した場合、照準光画像の輝度変化に基づいて位置ずれを算出し、照射位置を補正してもよい。
【0048】
なお、制御部60は、参照画像を更新する場合、参照画像の全範囲を更新する必要ない。例えば、参照画像の一部の範囲のみを更新してもよい。例えば、参照画像よりも観察画像の撮影範囲が狭い場合、観察画像で撮影している範囲のみを更新するようにしてもよい。
【0049】
なお、以上の実施例では、照準光受光光学系30によって、照準光が照射されている狭域な部位を高倍率で撮影することで照準光画像を取得したが、これに限らない。例えば、広域な観察画像において照準光の像Gが写っている部分の輝度分布の変化に基づいて照射位置のずれを検出してもよい。
【0050】
なお、以上の実施例のように、観察光学系40で得られる観察画像から眼底の動きを算出し、その情報を含めて照射位置を変更してもよい。つまり、観察光学系40を併用し眼底の構造(血管等)に合わせて照準光を走査系で位置調整(トラッキング)してもよい。これによって、観察画像と照準光画像でより正確にトラッキングを行うことができる。
【0051】
また、観察光学系40による眼底全体の輝度情報から照射すべき位置(毛細血管瘤であれば血管とは異なる暗いところ等)を推定して照準光を走査することで、目標位置を自動で検出してもよい。例えば、制御部60は、観察画像による眼底全体の輝度分布を用いて戻り光の輝度が変化する部位を推定し、自動で照射位置を変更してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 眼科用レーザ治療装置
10 照射光学系
11 レーザ光源
17 偏向部
18 対物レンズ
20 フォーカス調整部
30 照準光受光光学系
40 観察光学系
60 制御部