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特開2024-499蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000499
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20231225BHJP
   C12Q 1/6823 20180101ALN20231225BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6823 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073566
(22)【出願日】2023-04-27
(62)【分割の表示】P 2022099032の分割
【原出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅之
(72)【発明者】
【氏名】岩坂 美咲
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】堀内 陽介
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QR14
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR56
4B063QR66
4B063QS28
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】三重鎖構造を効率よく形成することができるInvasive Cleavage Assay(ICA)用の蛍光基質を提供する。
【解決手段】蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記消光物質が塩基に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、
自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、
前記消光物質が塩基に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項2】
5’末端にリン酸基が付加されており、前記蛍光物質が、前記リン酸基に結合している、請求項1に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項3】
前記消光物質が、前記蛍光物質よりも3’側に位置するヌクレオチド残基の塩基に結合している、請求項2に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項4】
5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項5】
前記蛍光物質よりも3’側に前記消光物質が標識されており、フラップエンドヌクレアーゼにより切断された場合に、前記蛍光物質を含むオリゴヌクレオチド断片が遊離する、請求項1~3のいずれか一項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項6】
前記蛍光物質の分子量が350~1100である、請求項1~3のいずれか一項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項7】
前記ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に前記蛍光物質及び前記消光物質の双方が存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項8】
フラップエンドヌクレアーゼの蛍光基質における三重鎖構造の形成効率を向上させる方法であって、
前記蛍光基質は、蛍光物質及び消光物質で標識された第1の一本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチド、及び、前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドの3’側に相補的な塩基配列を有する第2の一本鎖オリゴヌクレオチドを接触させる工程を含み、
前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、前記第2の一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記フラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記消光物質が前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドの塩基に結合しているものである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
微量な解析対象分子の検出方法として、FRET(Fluorescence resonance energy transfer、蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した方法が知られている。
【0003】
例えば、遺伝子診断において、標的核酸を正確かつ迅速に検出、定量する手法が数多く存在する。その中でも、Invasive Cleavage Assay(ICA)は、操作性及び反応安定性が優れている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
ここで、図1を参照しながらICAについて説明する。図1は、ICAの一例を説明する模式図である。図1の例では、標的核酸100中のT(チミン)塩基101の存在を検出する。まず、標的核酸100に相補的なフラッププローブ110及び侵入プローブ120をハイブリダイズさせる。その結果、侵入プローブ120は、標的核酸100の、フラッププローブ110がハイブリダイズする位置に隣接する部位にハイブリダイズする。そして、侵入プローブ120の3’末端の少なくとも1塩基は、フラッププローブ110と標的核酸100がハイブリダイズしている領域141の5’末端の位置に侵入し、第1の三重鎖構造130が形成される。
【0005】
続いて、第1の三重鎖構造130にフラップエンドヌクレアーゼを反応させると、第1の三重鎖構造130のフラップ部位140が切断され、核酸断片140が生成される。続いて、核酸断片140は、核酸断片150にハイブリダイズして第2の三重鎖構造160を形成する。
【0006】
図1の例では、核酸断片150の5’末端には蛍光物質Fが結合されており、核酸断片150の5’末端から数塩基3’側に消光物質Qが結合されている。蛍光物質Fと消光物質Qは空間的近傍に位置する。このため、蛍光物質Fが発する蛍光は、消光物質Qにより消光される。
【0007】
続いて、第2の三重鎖構造160にフラップエンドヌクレアーゼを反応させると、第2の三重鎖構造160のフラップ部位170が切断され、核酸断片170が生成される。その結果、蛍光物質Fが消光物質Qから遊離し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光を検出することにより、標的核酸100中のT(チミン)塩基101の存在を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-309405号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Eis P. S. et al, An invasive cleavage assay for direct quantitation of specific RNAs, Nature Biotechnology, 19 (7), 673-676, 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らは、ICAにおいて、図1に示す核酸断片140及び核酸断片150(以下、「蛍光基質」という場合がある。)のハイブリダイズによる三重鎖構造の形成を、蛍光基質に標識した蛍光物質F及び消光物質Qが阻害する場合があることを見出した。三重鎖構造の形成が阻害されるとICAの反応性が低下してしまう。
【0011】
そこで、本発明は、三重鎖構造を効率よく形成することができるICA用の蛍光基質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の態様を含む。
[1]蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記蛍光物質が塩基以外の部分に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチド。
[2]5’末端にリン酸基が付加されており、前記蛍光物質が、前記リン酸基に結合している、[1]に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[3]前記消光物質が、前記蛍光物質よりも3’側に位置するヌクレオチド残基の塩基に結合している、[2]に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[4]5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基である、[1]~[3]のいずれかに記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[5]前記蛍光物質よりも3’側に前記消光物質が標識されており、フラップエンドヌクレアーゼにより切断された場合に、前記蛍光物質を含むオリゴヌクレオチド断片が遊離する、[1]~[4]のいずれかに記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[6]前記蛍光物質の分子量が350~1100である、[1]~[5]のいずれかに記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[7]前記ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に前記蛍光物質及び前記消光物質の双方が存在する、[1]~[6]のいずれかに記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
[8]フラップエンドヌクレアーゼの蛍光基質における三重鎖構造の形成効率を向上させる方法であって、前記蛍光基質は、蛍光物質及び消光物質で標識された第1の一本鎖オリゴヌクレオチドであり、前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチド、及び、前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドの3’側に相補的な塩基配列を有する第2の一本鎖オリゴヌクレオチドを接触させる工程を含み、前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、前記第2の一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記フラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記蛍光物質が前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドの塩基以外の部分に結合しているものである、方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、三重鎖構造を効率よく形成することができるICA用の蛍光基質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、Invasive Cleavage Assay(ICA)の一例を説明する模式図である。
図2図2(a)及び(b)は、実験例1の結果を示すグラフである。
図3図3(a)及び(b)は、実験例2の結果を示すグラフである。
図4図4(a)及び(b)は、実験例3の結果を示すグラフである。
図5図5(a)及び(b)は、実験例4の結果を示すグラフである。
図6図6は、実験例5の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[一本鎖オリゴヌクレオチド]
一実施形態において、本発明は、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記蛍光物質が塩基以外の部分に結合している、一本鎖オリゴヌクレオチドを提供する。
【0016】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドは、ICA用の蛍光基質であり、フラップエンドヌクレアーゼの基質であるということもできる。フラップエンドヌクレアーゼとしては、フラップエンドヌクレアーゼ1(NCBIアクセッション番号:WP_011012561.1、Holliday junction 5’ flap endonuclease(GEN1)(NCBIアクセッション番号:NP_001123481.3)、excision repair protein(NCBIアクセッション番号:AAC37533.1等が挙げられる。
【0017】
ここで、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に形成される三重鎖構造は、図1に示す第2の三重鎖構造160に対応する。すなわち、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドは、フラップ部位140に由来する核酸断片140に対応する。
【0018】
実施例において後述するように、蛍光基質の蛍光物質が、塩基以外の部分に結合していることにより、三重鎖構造を効率よく形成することができ、ICAの反応性を向上させることができる。蛍光物質が塩基以外の部分に結合しているとは、蛍光物質が、蛍光基質を形成するオリゴヌクレオチドの、糖残基、リン酸基、塩基のうちの、糖残基又はリン酸基に結合していることを意味する。なかでも、蛍光物質が、蛍光基質のリン酸基に結合していることが好ましい。
【0019】
本明細書において、ICAの反応性が向上するとは、ICAの結果検出される蛍光シグナルが、より短時間に所定の値に到達することであってもよい。あるいは、ICAの結果検出される蛍光シグナル強度が、より高い値に到達することであってもよい。あるいは、ICAの結果検出されるバックグラウンドの蛍光シグナルがより低い値に維持されることであってもよい。
【0020】
本実施形態の一本鎖オリゴヌクレオチドは、20~150塩基程度の長さを有していることが好ましい。また、ヘアピン構造を形成する塩基対の数は5~50個程度であることが好ましい。
【0021】
(蛍光物質)
蛍光物質としては、特に限定されず、例えば、フルオレセイン(分子量332.3)、ATTO425(分子量401.45)、Alexa488(分子量534.47)、ATTO542(分子量914)、Yakima Y(分子量718.33)、Redmond R(分子量445.3)、ATTO643(分子量836)、Alexa647(分子量860)、Alexa680(分子量1050)、Alexa568(分子量694.7)、FAM(分子量332.3)、ATTO633(分子量652.2)、Cy5(分子量483.7)、HiLyte Fluor 647(分子量1205.6)、ATTO665(分子量723)、Alexa594(分子量722.8)、Cy3(分子量457.6)、ROX(分子量534.6)等が挙げられる。蛍光物質の分子量は350~1100であることが好ましく、445~1100であることがより好ましく、445~914であることが更に好ましい。実施例において後述するように、蛍光物質の分子量が上記の範囲であると、高いシグナルノイズ比(S/N比)が得られる傾向にあり、好ましい。
【0022】
蛍光基質の一本鎖オリゴヌクレオチドは、5’末端にリン酸基が付加されており、蛍光物質が、5’末端に付加されたリン酸基に結合していることが好ましい。
【0023】
実施例において後述するように、5’末端にリン酸基が付加されており、蛍光物質が、5’末端に付加されたリン酸基に結合している蛍光基質は、蛍光物質が塩基に結合している蛍光基質と比較して、ICAの反応性が向上しており、三重鎖構造を効率よく形成することができる。
【0024】
下記式(1)は、5’末端にリン酸基が付加されており、蛍光物質が、5’末端に付加されたリン酸基に結合している蛍光基質の一例を示す化学式である。下記式(1)に示すように、蛍光物質は、炭素数1~100程度の炭化水素基からなるリンカーを介して、5’末端に付加されたリン酸基に結合していてもよい。リンカーの炭素数としては、1~30個程度が好ましく、1~10個程度がより好ましい。リンカーの炭素数が前記下限値以上であることにより、蛍光物質と、フラップエンドヌクレアーゼによる切断箇所との距離を適度に保つことが可能である。その結果、フラップエンドヌクレアーゼによる切断反応は蛍光物質により阻害されにくくなり、フラップエンドヌクレアーゼによる切断効率は向上する。また、リンカーの炭素数が前記上限値以下であることにより、蛍光物質と消光物質との距離がより短くなる。その結果、消光物質による消光の効果が向上する。
【0025】
【化1】
【0026】
下記式(2)は、蛍光物質が塩基に結合している蛍光基質の一例を示す化学式である。
【0027】
【化2】
【0028】
(消光物質)
消光物質としては、使用する蛍光物質の蛍光を消光することができるものであれば特に限定されず、例えば、Black Hole Quencher(BHQ)(登録商標)-1、BHQ(登録商標)-2、BHQ(登録商標)-3、Tide Quencher 1(TQ1)、Tide Quencher 2(TQ2)、Tide Quencher 2WS(TQ2WS)、Tide Quencher 3(TQ3)、Tide Quencher 3WS(TQ3WS)、Tide Quencher 4(TQ4)、Tide Quencher 4WS(TQ4WS)、Tide Quencher 5(TQ5)、Tide Quencher 5WS(TQ5WS)、Tide Quencher 6WS(TQ6WS)、Tide Quencher 7WS(TQ7WS)、QSY35、QSY7、QSY9、QSY21、Iowa Black FQ、Iowa Black RQ等が挙げられる。消光物質としては、使用する蛍光物質の蛍光を消光することができるものを選択する。
【0029】
蛍光物質が消光物質の空間的近傍にある場合、蛍光物質からの蛍光は消光物質により消光される。「蛍光を消光する」とは、次のような意味である。消光物質が存在しない場合において、励起光を蛍光物質に対して照射したときの、蛍光物質から発光する蛍光の強度をAとする。また、消光物質が蛍光物質の空間的近傍に存在する場合において、励起光を蛍光物質に対して照射したときの、蛍光物質から発光する蛍光の強度をBとする。ここで、「蛍光を消光する」とは、上記B/Aの値が、40%以下であることを意味する。
【0030】
蛍光物質が消光物質の空間的近傍にある状態における、蛍光物質と消光物質距離との距離は、蛍光物質からの蛍光発光が消光物質により抑制される限り特に限定されず、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましく、2nm以下であることが更に好ましい。
【0031】
本実施形態の蛍光基質において、消光物質は、蛍光物質よりも3’側に位置するヌクレオチド残基の塩基に結合していることが好ましい。
【0032】
実施例において後述するように、消光物質が蛍光物質よりも5’側に位置する蛍光基質よりも、消光物質が蛍光物質よりも3’側に位置する蛍光基質のほうが、ICAにおける反応性が高い傾向がある。すなわち、蛍光物質よりも3’側に消光物質が標識されており、フラップエンドヌクレアーゼにより切断された場合に、蛍光物質を含むオリゴヌクレオチド断片が遊離する態様のほうが、蛍光基質から消光物質が遊離する態様よりもICAにおける反応性が高い傾向がある。
【0033】
消光物質は、糖-リン酸バックボーンに組み込むこともできる。下記式(3)は、ヌクレオチドの糖-リン酸バックボーンに組み込まれた消光物質の一例を示す化学式である。下記式(3)における消光物質は、BHQ(登録商標)-1である。
【0034】
【化3】
【0035】
しかしながら、実施例において後述するように、消光物質が糖-リン酸バックボーンに組み込まれている蛍光基質よりも、消光物質が塩基に結合している蛍光基質のほうが、ICAにおける反応性が高い傾向がある。
【0036】
下記式(4)は、消光物質が塩基に結合している蛍光基質の一例を示す化学式である。下記式(4)における消光物質は、BHQ(登録商標)-1である。
【0037】
【化4】
【0038】
(オリゴヌクレオチド)
本実施形態の蛍光基質を形成する一本鎖オリゴヌクレオチドは、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、天然の核酸であってもよいし、合成された核酸であってもよい。
【0039】
天然の核酸としては、例えば、ゲノムDNA、mRNA、rRNA、hnRNA、miRNA、tRNA等が挙げられる。天然の核酸は、生体から回収されたものであってもよいし、生体と接触した水、有機物等から回収されたものであってもよい。天然の核酸の回収方法としては、フェノール/クロロホルム法等の公知の手法が挙げられる。
【0040】
合成された核酸としては、例えば、合成DNA、合成RNA、cDNA、Bridged Nucleic Acid(BNA)、Locked Nucleic Acid(LNA)等が挙げられる。
【0041】
核酸の合成方法は特に限定されず、ホスホロアミダイト法によるDNA固相合成等の公知の化学的合成法、公知の核酸増幅方法、逆転写反応等が挙げられる。核酸増幅方法としては、例えば、PCR法、LAMP法、SMAP法、NASBA法、RCA法等が挙げられる。
【0042】
本実施形態の蛍光基質において、5’末端のヌクレオチド残基の近傍に蛍光物質が配置されており、5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基であることが好ましい。プリン塩基には蛍光物質の蛍光を消光する傾向がある。このため、5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基であれば、蛍光物質の蛍光の消光が抑制され、好ましい。
【0043】
本実施形態の蛍光基質において、ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に前記蛍光物質及び前記消光物質の双方が存在することが好ましい。
【0044】
実施例において後述するように、ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に蛍光物質が存在し、他方の鎖に消光物質が存在する蛍光基質よりも、ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に蛍光物質及び消光物質の双方が存在する蛍光基質のほうが、ICAにおける反応性が良好である傾向がある。より詳細には、ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に蛍光物質が存在し、他方の鎖に消光物質が存在する蛍光基質では、バックグラウンドの蛍光シグナルが上昇してしまう場合がある。
【0045】
[ICAの蛍光基質における三重鎖構造の形成効率を向上させる方法]
一実施形態において、本発明は、ICAの蛍光基質における三重鎖構造の形成効率を向上させる方法であって、ICAの反応液に蛍光物質が塩基以外の部分に結合している蛍光基質を添加する工程を含む方法を提供する。
【0046】
ICAの蛍光基質は、蛍光物質及び消光物質で標識された一本鎖オリゴヌクレオチドであって、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、3’側に相補的な塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記三重鎖構造を認識したフラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものである。
【0047】
本実施形態の方法は、フラップエンドヌクレアーゼの蛍光基質における三重鎖構造の形成効率を向上させる方法であって、蛍光物質及び消光物質で標識された第1の一本鎖オリゴヌクレオチド、及び、前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドの3’側に相補的な塩基配列を有する第2の一本鎖オリゴヌクレオチドを準備する工程と、前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドと、前記第2の一本鎖オリゴヌクレオチドとを接触させる工程と、を含み、前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイゼーションにより5’側がヘアピン構造を形成し、前記第2の一本鎖オリゴヌクレオチドがハイブリダイズすると、5’末端部分に三重鎖構造が形成され、前記フラップエンドヌクレアーゼにより切断されて、前記蛍光物質と前記消光物質とが遊離し、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記蛍光物質が前記第1の一本鎖オリゴヌクレオチドの塩基以外の部分に結合している方法であるということもできる。
【0048】
本実施形態の方法において、ICA、蛍光物質、消光物質、オリゴヌクレオチド等については上述したものと同様である。
【0049】
本実施形態の方法において、蛍光基質は、5’末端にリン酸基が付加されており、蛍光物質が、5’末端に付加されたリン酸基に結合していることが好ましい。
【0050】
本実施形態の方法において、蛍光基質は、消光物質が、蛍光物質よりも3’側に位置するヌクレオチド残基の塩基に結合していることが好ましい。
【0051】
本実施形態の方法において、蛍光基質は、5’末端のヌクレオチド残基の塩基がピリミジン塩基であることが好ましい。
【0052】
本実施形態の方法において、蛍光基質は、蛍光物質よりも3’側に消光物質が標識されており、フラップエンドヌクレアーゼにより切断された場合に、蛍光物質を含むオリゴヌクレオチド断片が遊離するものであることが好ましい。
【0053】
本実施形態の方法において、蛍光基質の分子量は、350~1100であることが好ましく、445~1100であることがより好ましく、445~914であることが更に好ましい。実施例において後述するように、蛍光物質の分子量が上記の範囲であると、高いシグナルノイズ比(S/N比)が得られる傾向にあり、好ましい。
【0054】
本実施形態の方法において、蛍光基質は、ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に蛍光物質及び消光物質の双方が存在するものであることが好ましい。
【0055】
本実施形態の方法において、ICAは微小空間内で行うことが好ましい。具体的には、微小な複数のウェルを有するウェルアレイを有するデバイスを用いてICAを行うことが好ましい。
【0056】
ウェルは、無処理でそのまま使用してもよいし、目的に応じて、予めウェル内壁に抽出試薬、抗体等の検出試薬等を固定化する、ウェル開口部を脂質二重膜で覆う等の前処理を施してもよい。
【0057】
デバイスは、流路を有していてもよく、流路を介してICAの反応液をウェルアレイのウェルに供給してもよい。
【0058】
ウェルの直径は例えば3μm程度であってよく、ウェルの深さは例えば4.5μm程度であってよい。ウェルは、基材上に、三角格子状又は正方格子状を形成するように整列してウェルアレイを形成していてもよい。
【0059】
基材の材質としては、例えば、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、シリコーン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、フッ素樹脂、アモルファスフッ素樹脂等が挙げられる。
【0060】
ウェルアレイにおけるウェルの個数は、1デバイスあたり10万個~600万個程度であることが好ましい。また、1ウェルあたりの容量は1fL~6pLであることが好ましい。
【実施例0061】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実験例1]
(蛍光基質の検討1)
蛍光物質が塩基に結合している蛍光基質と、蛍光物質が塩基以外の部分に結合している蛍光基質を用いてICAを行い、反応性を比較した。
【0063】
下記表1及び表2に示す核酸断片を用いてICAを行った。表1中の標的核酸(配列番号1)は検出対象となる核酸である。本実験例のICAでは標的核酸中の小文字で示したg(グアニン)の存在を検出する。フラッププローブ(配列番号2)及び侵入プローブ(配列番号3)は、それぞれ、標的核酸(配列番号1)に相補的な塩基配列を有している。
【0064】
標的核酸(配列番号1)に、フラッププローブ(配列番号2)及び侵入プローブ(配列番号3)がそれぞれハイブリダイズすると、三重鎖構造が形成される。ここで、フラッププローブ(配列番号2)の小文字部分「5’-cgcgccgaggc-3’」(配列番号4)は塩基対形成せず、フラップ部位を形成する。
【0065】
フラップエンドヌクレアーゼは、上記三重鎖構造を認識して、フラッププローブ(配列番号2)を切断し、核酸断片(配列番号4)が切り出される。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
上記表2に示す蛍光基質1(配列番号5)は、蛍光物質が塩基に結合している蛍光基質であり、具体的には下記式(5)のような構造を有する。蛍光基質1におけるFはフルオレセインを表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。
【0069】
【化5】
【0070】
上記表2に示す蛍光基質2(配列番号6)は、蛍光物質が塩基以外の部分に結合している蛍光基質であり、具体的には下記式(6)のような構造を有する。蛍光基質2におけるFはフルオレセインを表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。
【0071】
【化6】
【0072】
蛍光基質1又は蛍光基質2に、切り出された核酸断片(配列番号4)がハイブリダイズした場合、上記表2において、蛍光基質1又は蛍光基質2の太文字で表すT(チミン)残基は三重鎖構造を形成し、フラップエンドヌクレアーゼの基質となり、切断される。その結果、蛍光物質が消光物質から離れて、励起光の照射により蛍光シグナルが検出される。
【0073】
まず、下記表3に示す組成で反応溶液を調製し微量試験チューブに入れた。続いて、チューブをリアルタイムPCR装置にセットし、66℃で60分間加熱したときの蛍光強度変化(励起波長490nm、蛍光波長520nm)を経時的に測定した。また、比較のために、標的核酸の代わりに滅菌水を添加した反応溶液を調製し、同様の測定を行った。
【0074】
【表3】
【0075】
図2(a)は、蛍光基質1を用いた場合の蛍光強度変化を測定した結果を示すグラフである。また、図2(b)は、蛍光基質2を用いた場合の蛍光強度変化を測定した結果を示すグラフである。図2(a)及び(b)中、横軸は反応開始からの経過時間(秒)を示し、縦軸は蛍光強度(相対値)を示す。
【0076】
その結果、蛍光物質が塩基以外の部分に結合している蛍光基質2を用いた方が、ICAの反応性が高いことが明らかとなった。
【0077】
[実験例2]
(蛍光基質の検討2)
消光物質が糖-リン酸バックボーンに組み込まれている蛍光基質と、消光物質が塩基に結合している蛍光基質を用いてICAを行い、反応性を比較した。
【0078】
標的核酸(配列番号1)、フラッププローブ(配列番号2)、侵入プローブ(配列番号3)は、実験例1と同様のものを使用し、下記表4に示す蛍光基質3及び蛍光基質4を用いてICAを行った。
【0079】
【表4】
【0080】
上記表4に示す蛍光基質3(配列番号7)は、消光物質が糖-リン酸バックボーンに組み込まれている蛍光基質であり、消光物質は下記式(7)のような構造を有する。蛍光基質3におけるFはフルオレセインを表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。
【0081】
【化7】
【0082】
上記表4に示す蛍光基質4(配列番号8)は、消光物質が塩基に結合している蛍光基質であり、消光物質は下記式(8)のような構造を有する。蛍光基質4におけるFはフルオレセインを表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。
【0083】
【化8】
【0084】
蛍光基質3又は蛍光基質4に、フラッププローブ(配列番号2)から切り出された核酸断片(配列番号4)がハイブリダイズした場合において、蛍光基質3又は蛍光基質4の太文字で表すT(チミン)残基は三重鎖構造を形成し、フラップエンドヌクレアーゼの基質となり、切断される。その結果、蛍光物質が消光物質から離れて、励起光の照射により蛍光シグナルが検出される。
【0085】
まず、下記表5に示す組成で反応溶液を調製し微量試験チューブに入れた。続いて、チューブをリアルタイムPCR装置にセットし、66℃で60分間加熱したときの蛍光強度変化(励起波長490nm、蛍光波長520nm)を経時的に測定した。また、比較のために、標的核酸の代わりに滅菌水を添加した反応溶液を調製し、同様の測定を行った。
【0086】
【表5】
【0087】
図3(a)は、蛍光基質3を用いた場合の蛍光強度変化を測定した結果を示すグラフである。また、図3(b)は、蛍光基質4を用いた場合の蛍光強度変化を測定した結果を示すグラフである。図3(a)及び(b)中、横軸は反応開始からの経過時間(秒)を示し、縦軸は蛍光強度(相対値)を示す。
【0088】
その結果、消光物質が塩基に結合している蛍光基質4を用いた方が、ICAの反応性が高いことが明らかとなった。
【0089】
[実験例3]
(蛍光基質の検討3)
消光物質が蛍光物質よりも5’側に位置する蛍光基質と、消光物質が蛍光物質よりも3’側に位置する蛍光基質を用いてICAを行い、反応性を比較した。
【0090】
標的核酸(配列番号1)、フラッププローブ(配列番号2)、侵入プローブ(配列番号3)は、実験例1と同様のものを使用し、下記表6に示す蛍光基質5及び蛍光基質6を用いてICAを行った。
【0091】
【表6】
【0092】
上記表6に示す蛍光基質5(配列番号9)は、消光物質が蛍光物質よりも5’側に位置する蛍光基質であり、具体的には下記式(9)のような構造を有する。蛍光基質5におけるFはフルオレセインを表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。なお、下記式(9)において、Qは、5’末端のチミン残基の塩基に修飾されており、Fは、鎖内のチミン残基の塩基に修飾されている。
【0093】
【化9】
【0094】
上記表6に示す蛍光基質6(配列番号10)は、消光物質が蛍光物質よりも3’側に位置する蛍光基質であり、具体的には下記式(10)のような構造を有する。蛍光基質6におけるFはフルオレセインを表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。なお、下記式(10)において、Fは、5’末端のチミン残基の塩基に修飾されており、Qは、鎖内のチミン残基の塩基に修飾されている。
【0095】
【化10】
【0096】
蛍光基質5又は蛍光基質6に、フラッププローブ(配列番号2)から切り出された核酸断片(配列番号4)がハイブリダイズした場合において、蛍光基質5又は蛍光基質6の太文字で表すT(チミン)残基は三重鎖構造を形成し、フラップエンドヌクレアーゼの基質となり、切断される。その結果、蛍光物質が消光物質から離れて、励起光の照射により蛍光シグナルが検出される。
【0097】
まず、下記表7に示す組成で反応溶液を調製し微量試験チューブに入れた。続いて、チューブをリアルタイムPCR装置にセットし、66℃で60分間加熱したときの蛍光強度変化(励起波長490nm、蛍光波長520nm)を経時的に測定した。また、比較のために、標的核酸の代わりに滅菌水を添加した反応溶液を調製し、同様の測定を行った。
【0098】
【表7】
【0099】
図4(a)は、蛍光基質5を用いた場合の蛍光強度変化を測定した結果を示すグラフである。また、図4(b)は、蛍光基質6を用いた場合の蛍光強度変化を測定した結果を示すグラフである。図4(a)及び(b)中、横軸は反応開始からの経過時間(秒)を示し、縦軸は蛍光強度(相対値)を示す。
【0100】
その結果、消光物質が蛍光物質よりも3’側に位置する蛍光基質6を用いた方が、ICAの反応性が高いことが明らかとなった。
【0101】
[実験例4]
(蛍光基質の検討4)
ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に蛍光物質が存在し、他方の鎖に消光物質が存在する蛍光基質と、ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に蛍光物質及び消光物質の双方が存在する蛍光基質を用いてICA反応を行い、反応性を比較した。
【0102】
標的核酸(配列番号1)、フラッププローブ(配列番号2)、侵入プローブ(配列番号3)は、実験例1と同様のものを使用し、下記表8に示す蛍光基質を用いてICAを行った。
【0103】
【表8】
【0104】
上記表8に示す蛍光基質7(配列番号11)は、ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に蛍光物質が存在し、他方の鎖に消光物質が存在する蛍光基質であり、具体的には下記式(11)のような構造を有する。蛍光基質7におけるFはフルオレセインを表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。なお、下記式(11)において、Fは、5’末端のチミン残基の塩基に修飾されており、Qは、鎖内のチミン残基の塩基に修飾されている。
【0105】
【化11】
【0106】
上記表8に示す蛍光基質8(配列番号12)は、ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に蛍光物質及び消光物質の双方が存在する蛍光基質であり、具体的には下記式(12)のような構造を有する。蛍光基質8におけるFはフルオレセインを表し、QはBHQ(登録商標)-1を表す。なお、下記式(12)において、Fは、5’末端のチミン残基の塩基に修飾されており、Qは、鎖内のチミン残基の塩基に修飾されている。
【0107】
【化12】
【0108】
蛍光基質7又は蛍光基質8に、フラッププローブ(配列番号2)から切り出された核酸断片(配列番号4)がハイブリダイズした場合において、蛍光基質7又は蛍光基質8の太文字で表すT(チミン)残基は三重鎖構造を形成し、フラップエンドヌクレアーゼの基質となり、切断される。その結果、蛍光物質が消光物質から離れて、励起光の照射により蛍光シグナルが検出される。
【0109】
まず、下記表9に示す組成で反応溶液を調製し微量試験チューブに入れた。続いて、チューブをリアルタイムPCR装置にセットし、66℃で60分間加熱したときの蛍光強度変化(励起波長490nm、蛍光波長520nm)を経時的に測定した。また、比較のために、標的核酸の代わりに滅菌水を添加した反応溶液を調製し、同様の測定を行った。
【0110】
【表9】
【0111】
図5(a)は、蛍光基質5を用いた場合の蛍光強度変化を測定した結果を示すグラフである。また、図5(b)は、蛍光基質6を用いた場合の蛍光強度変化を測定した結果を示すグラフである。図5(a)及び(b)中、横軸は反応開始からの経過時間(秒)を示し、縦軸は蛍光強度(相対値)を示す。
【0112】
その結果、ヘアピン構造の二本鎖オリゴヌクレオチド部分の一方の鎖に蛍光物質及び消光物質の双方が存在する蛍光基質8を用いた方が、ICAの反応性が高いことが明らかとなった。
【0113】
[実験例5]
(蛍光基質の検討5)
分子量が異なる蛍光物質が修飾された複数の蛍光基質を用いてICA反応を行ってS/N比を求め、蛍光物質の分子量とS/N比との関連について検討した。
【0114】
標的核酸(配列番号1)、フラッププローブ(配列番号2)、侵入プローブ(配列番号3)は、実験例1と同様のものを使用し、下記表10に示す蛍光基質を用いてICAを行った。
【0115】
【表10】
【0116】
上記表10に示す蛍光基質9~16(配列番号13)は、消光物質が蛍光物質よりも3’側に位置する蛍光基質であり、具体的には下記式(13)のような構造を有する。下記式(13)において、蛍光物質Fは、5’末端のチミン残基の塩基に修飾されており、Qは、鎖内のチミン残基の塩基に修飾されている。
【0117】
【化13】
【0118】
蛍光基質9~16における蛍光物質F及び消光物質Qの組み合わせを下記表11に示す。下記表11には、蛍光物質の分子量及び後述する方法により測定されたS/N比も示す。
【0119】
【表11】
【0120】
蛍光基質9~16に、フラッププローブ(配列番号2)から切り出された核酸断片(配列番号4)がハイブリダイズした場合において、蛍光基質9~16の太文字で表すT(チミン)残基は三重鎖構造を形成し、フラップエンドヌクレアーゼの基質となり、切断される。その結果、蛍光物質が消光物質から離れて、励起光の照射により蛍光シグナルが検出される。
【0121】
まず、下記表12に示す組成で反応溶液をそれぞれ調製し、ウェルアレイを備えた流体デバイスのウェルに導入した。ウェルアレイは約93万個のウェルを有しており、ウェル1つあたりの容積は約1683fLであった。
【0122】
続いて、流体デバイスをアルミブロック恒温槽(型式「DTU-Mini」、タイテック社)にセットし、66℃で25分間加熱した後、顕微鏡(製品名「オールインワン蛍光顕微鏡」、型式「BZ-X810」、キーエンス社)を用いて観察した。
【0123】
続いて、顕微鏡観察画像に基づいて、発光ウェル(S)及び未発光ウェル(N)を識別し、発光ウェル及び未発光ウェルの輝度を算出した。続いて、発光ウェルの輝度及び未発光ウェルの輝度の比、すなわち、S/N比を算出した。
【0124】
【表12】
【0125】
算出されたS/N比を上記表11に示した。また、図6は、蛍光物質の分子量及びS/N比の関係をまとめたグラフである。その結果、蛍光物質の分子量が350~1100であると、S/N比が1.5以上となることが明らかとなった。また、蛍光物質の分子量が445~1100であると、S/N比が2以上となることが明らかとなった。また、蛍光物質の分子量が445~914であると、S/N比が3以上となることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明によれば、三重鎖構造を効率よく形成することができるICA用の蛍光基質を提供することができる。
【符号の説明】
【0127】
100…標的核酸、101…塩基、110…フラッププローブ、120…侵入プローブ、130…第1の三重鎖構造、140,170…フラップ部位(核酸断片)、141…領域、150…核酸断片、151…ミスマッチ部位、160…第2の三重鎖構造、F…蛍光物質、Q…消光物質。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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