(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004995
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】流体デバイスおよび流体デバイスの制御方法
(51)【国際特許分類】
B01D 43/00 20060101AFI20240110BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B01D43/00 Z
H04R3/00 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104948
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 景太
(72)【発明者】
【氏名】小島 力
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 満
(72)【発明者】
【氏名】新井 義雄
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 紘斗
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019FF02
(57)【要約】
【課題】所望の大きさの微粒子を安定して捕捉することができる流体デバイスおよび流体デバイスの制御方法を提供する。
【解決手段】流体デバイス10は、微粒子を含有する流体が流通する流路20と、駆動信号の入力によって、流路20内の流体に超音波を送信する超音波送信部60と、流路20における流体の流速を測定する流速測定部40と、超音波送信部60を制御する制御部70と、を備え、制御部70は、流速測定部40により測定された流速である測定流速に応じて駆動信号の振幅を設定し、設定された振幅の駆動信号を超音波送信部60に入力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を含有する流体が流通する流路と、
駆動信号の入力によって、前記流路内の前記流体に超音波を送信する超音波送信部と、
前記流路における前記流体の流速を測定する流速測定部と、
前記超音波送信部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記流速測定部により測定された流速である測定流速に応じて前記駆動信号の振幅を設定し、設定された振幅の前記駆動信号を前記超音波送信部に入力する、流体デバイス。
【請求項2】
前記超音波送信部が前記流体に前記超音波を送信する間、前記制御部は、前記測定流速が基準流速よりも大きい場合、前記駆動信号の振幅を増加させ、前記測定流速が前記基準流速よりも小さい場合、前記駆動信号の振幅を減少させる、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項3】
前記制御部は、捕捉対象である前記微粒子の大きさと、前記測定流速とに基づいて、前記駆動信号の振幅を設定する、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項4】
前記流路の少なくとも一部を含み、かつ、前記超音波送信部が設けられた分離モジュールと、
前記流路に前記流体の流れを発生させるポンプと、をさらに備え、
前記流速測定部は、前記流路における前記分離モジュールと前記ポンプとの間の前記流体の流速を測定する、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項5】
前記流路の少なくとも一部を含み、かつ、前記超音波送信部が設けられた分離モジュールをさらに備え、
前記流速測定部は、前記分離モジュール内の前記流体の流速を測定する、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項6】
前記流路に前記流体の流れを発生させるポンプをさらに備え、
前記流速測定部は、前記ポンプ内の前記流体の流速を測定する、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項7】
前記超音波送信部は、
前記流路に設けられた振動部と、
前記振動部に設けられ、前記振動部を撓み振動させることで前記流体に前記超音波を送信する圧電素子と、を有する、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項8】
前記超音波送信部は、前記流体に前記超音波を送信することで、前記流体中に前記流体の流通方向に直交する方向に沿った定在波を発生させる、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項9】
前記流速測定部、前記超音波送信部および前記制御部を収容する筐体をさらに備え、
前記筐体には、前記流体が前記流路に流入する流入口と、前記流路から前記流体が流出する1以上の排出口とが設けられる、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項10】
前記超音波により集束された前記微粒子を回収し、回収された前記微粒子を検査する検査モジュールをさらに備える、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項11】
微粒子を含有する流体が流通する流路と、
駆動信号の入力によって、前記流路内の前記流体に超音波を送信する超音波送信部と、
前記流路における前記流体の流速を測定する流速測定部と、を備える流体デバイスの制御方法であって、
前記流速測定部により測定された流速である測定流速に応じて前記駆動信号の振幅を設定し、設定された振幅の前記駆動信号を前記超音波送信部に入力する、流体デバイスの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体デバイスおよび流体デバイスの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体中に分散する微粒子を流体から分離するデバイスが知られている。例えば、特許文献1に開示される流体デバイスは、流路が形成された基板と、基板に設けられた圧電素子とを備えている。圧電素子で生じた超音波は、基板を介して流路内に伝達され、流路内の流体に定在波を生じさせる。流体中の微粒子は、定在波により形成される流体の圧力勾配により流路内の所定範囲に集束し、集束した微粒子を含む濃縮液が回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載したような流体デバイスでは、捕捉可能な微粒子の大きさを調整することが望まれる。しかし、所望の大きさの微粒子を捕捉できるように流体デバイスの出力(すなわち超音波の振幅)を調整した場合、流体の流速が変化することで、捕捉可能な微粒子の大きさが変化するという問題がある。その結果、所望の大きさの微粒子を安定して捕捉することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1態様に係る流体デバイスは、微粒子を含有する流体が流通する流路と、駆動信号の入力によって、前記流路内の前記流体に超音波を送信する超音波送信部と、前記流路における前記流体の流速を測定する流速測定部と、前記超音波送信部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記流速測定部により測定された流速である測定流速に応じて前記駆動信号の振幅を設定し、設定された振幅の前記駆動信号を前記超音波送信部に入力する。
【0006】
本開示の第2態様に係る流体デバイスの制御方法は、微粒子を含有する流体が流通する流路と、駆動信号の入力によって、前記流路内の前記流体に超音波を送信する超音波送信部と、前記流路における前記流体の流速を測定する流速測定部と、を備える流体デバイスの制御方法であって、前記流速測定部により測定された流速である測定流速に応じて前記駆動信号の振幅を設定し、設定された振幅の前記駆動信号を前記超音波送信部に入力する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】第1実施形態の流体デバイスにおける分離モジュールを模式的に示す断面図。
【
図3】第1実施形態の流体デバイスの制御方法を説明するためのフローチャート。
【
図5】変形例の流体デバイスにおける流路系を示す図。
【
図6】他の変形例の流体デバイスにおける流路系を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
第1実施形態の流体デバイスについて、
図1および
図2を参照して説明する。
(流体デバイスの構成)
図1および
図2に示すように、本実施形態の流体デバイス10は、微粒子Mを含有する流体Sが流通する流路20と、流路20内に流体Sの流れを発生させるポンプ30と、流路20における流体Sの流速を測定する流速測定部40と、流路20の一部を含む分離モジュール50と、流体デバイス10の動作を制御する制御部70と、これらを収容する筐体80と、を備える。
【0009】
本実施形態の流体デバイス10は、分離モジュール50における流路20内の流体S中の微粒子Mを超音波によって捕捉することで、当該微粒子Mが濃縮された流体Sを回収可能にするものである。また、本実施形態の流体デバイス10は、流路20を流通する流体Sの流速を測定し、測定結果に基づいて流体デバイス10の出力(すなわち超音波の振幅)を設定または調整するものである。
本実施形態において、流体Sは、特に限定されないが、例えば水や血液などの任意の液体である。微粒子Mは、特に限定されないが、例えば微小繊維や細胞である。なお、
図2では、図の簡略化のため、複数の微粒子Mの大きさが同一であるが、様々な大きさの微粒子Mが流体Sに分散しているものとする。
【0010】
図1に示すように、流路20は、流体Sが流入する流入口21と、流入口21と分離モジュール50との間を連通する連通流路22と、分離モジュール50に含まれる分離流路23と、分離モジュール50で捕捉された微粒子Mを含む流体S(すなわち濃縮液)を排出する濃縮出口24と、分離モジュール50から濃縮液以外の流体Sを排出する排出口25と、を有する。なお、濃縮出口24および排出口25は、本発明の排出口に対応する。
【0011】
ポンプ30は、例えばペリスタポンプやダイヤフラムポンプなど、流路20内に流体Sの流れを発生させる任意の装置を利用できる。本実施形態において、ポンプ30は、連通流路22における任意の位置に設けられる。
【0012】
流速測定部40は、例えば超音波流量計など、流路20における流体Sの流速を測定する任意の装置を利用できる。本実施形態において、流速測定部40は、連通流路22において、ポンプ30の下流側となる位置に設けられているが、ポンプ30の上流側となる位置に設けられてもよい。
【0013】
図2に示すように、分離モジュール50は、流路20の一部である分離流路23と、分離流路23内の流体Sに超音波を送信する超音波送信部60と、を有する。
【0014】
分離流路23は、例えば流路基板51に形成される。流路基板51は、分離流路23に対応する凹溝を有するベース基板と、当該凹溝を覆うリッド基板とによって構成される。これら基板は、特に限定されないが、例えばガラス基板やシリコン基板を利用できる。また、分離流路23は、連通流路22から流体Sが流入する流入流路231と、定在波が形成される流路本体232と、定在波により捕捉された微粒子を含む流体Sを選択的に流通させる濃縮流路233と、それ以外の流体Sを選択的に流通させる排出流路234と、を有する。
流路本体232は、流体Sの流通方向(X方向)に直交する任意の流路幅方向(Y方向)において互いに対向する第1壁面235および第2壁面236を有する。第1壁面235と第2壁面236との間の流路幅Lは、既知の値とする。
濃縮流路233には、上述の濃縮出口24が接続され、排出流路234には、上述の排出口25が接続される。
【0015】
超音波送信部60は、第1壁面235の一部を構成する超音波送信面60Aを有しており、当該超音波送信面60Aが流路本体232内の流体Sに面することで、当該流体Sに超音波を送信可能である。
具体的には、超音波送信部60は、素子基板61と、素子基板61に支持される振動膜62と、振動膜62に設けられる圧電素子63と、を備えている。素子基板61は、Si等の半導体基板で構成されており、当該素子基板61を厚み方向に貫通する開口部611が設けられている。振動膜62は、例えばSiO2膜およびZrO2膜など、複数種類の膜を積層した積層体等より構成されており、素子基板61に支持されると共に、開口部611を閉塞する。開口部611には音響整合層が設けられてもよい。この振動膜62のうち、素子基板61の厚み方向における平面視で開口部611と重なる部分は、超音波の送信を行う振動部621を構成する。圧電素子63は、振動部621と重なる位置に設けられている。圧電素子63は、図示を省略するが、下部電極、圧電膜および上部電極が振動膜62上に順に積層されることにより構成されている。
【0016】
このような超音波送信部60では、後述の駆動回路71から圧電素子63に駆動信号Sdが入力されると、圧電素子63の圧電膜が伸縮することにより、振動部621が素子基板61の厚み方向に撓み振動する。振動部621の撓み振動が流体Sの粗密波に変換されることで、超音波送信部60から流体Sへの超音波の伝搬が行われる。ここで、素子基板61の厚み方向は、流路本体232の流路幅方向(Y方向)に沿った方向であるため、当該流路幅方向(Y方向)に超音波が送信される。
【0017】
制御部70は、
図1に示すように、超音波送信部60を駆動する駆動回路71と、各種制御を行うプロセッサー72と、メモリー73と、を備える。
【0018】
駆動回路71は、超音波送信部60に対して所定周波数の駆動信号Sdを出力する。なお、駆動信号Sdの振幅(すなわち駆動電圧Vd)は、超音波送信部60から送信される超音波の振幅に対応する。
【0019】
プロセッサー72は、メモリー73に記憶されたプログラムを実行することで、測定制御部721および駆動制御部722として機能する。測定制御部721および駆動制御部722の詳細については後述する。
メモリー73は、各種プログラムや各種データを記憶する記憶装置である。例えば、メモリー73には、測定流速Vと駆動電圧Vdとの対応関係を示す駆動テーブルまたは演算係数が記憶されている。駆動テーブルまたは演算係数は、捕捉対象となる微粒子Mの大きさごとに準備されていることが好ましい。なお、微粒子Mの大きさは、微粒子Mの寸法や体積など、任意の数値範囲ごとに区分されていてもよい。
【0020】
筐体80は、流路20、流速測定部40、分離モジュール50および制御部70を収容する。これにより、流体デバイス10は、一体的に構成される。なお、流路20の流入口21、濃縮出口24および排出口25は、筐体80に設けられる。また、筐体80内には、流体デバイス10の各部位に電力を供給するバッテリーが収容されてもよい。また、特に限定されないが、100cc以下の筐体80に対して各部位を収容することで、流体デバイス10を小型化することが好ましい。
【0021】
(流体デバイスの制御メカニズム)
本実施形態の流体デバイス10において、流体S中の微粒子Mを濃縮するメカニズムについて説明する。
超音波送信部60から送信される超音波は、球面波として流体S中に放射状に拡散され、このうち流路幅方向(Y方向)に沿って進む超音波が、第1壁面235と第2壁面236との間で反射を繰り返すことで、流路本体232内に定在波SWを発生させる。
ここで、超音波送信部60から送信される超音波の周波数をf、定在波SWのモード次数をm、流体S中の音速をc、流路20の流路幅をLとするとき、以下の式(1)の条件を満たす場合に定在波SWが形成される。
【数1】
【0022】
図2に示すように、1次モードの定在波SWが生じる場合、流路本体232の流路幅方向(Y方向)の中央部に節が現れ、流路本体232の流路幅方向の両端部のそれぞれに腹が現れる。この場合、流体Sよりも音響インピーダンスの高い微粒子Mは、流体Sが流路本体232内を流通する過程で、定在波SWの節、すなわち流路本体232の流路幅方向の中央部へ集束する(音響集束)。そして、集束した微粒子Mを含む流体S(濃縮液)は、濃縮流路233を介して濃縮出口24から排出され、それ以外の流体Sは、排出流路234を介して排出口25から排出される。すなわち、微粒子Mが濃縮液として流体Sから分離される。
なお、本実施形態では、説明の簡略化のため、1次モードの定在波SWを生じさせる例を用いるが、定在波SWのモード次数は特に限定されない。
【0023】
ここで、流体デバイス10による微粒子Mの捕捉力とは、音響集束により捕捉可能な微粒子の大きさの下限を決定するものであり、当該捕捉力が大きいほど、より小さな微粒子を捕捉可能になる。
このような流体デバイス10による微粒子Mの捕捉力は、超音波の振幅(すなわち駆動電圧Vd)と流体Sの流速とに依存している。仮に、所望の大きさの微粒子Mを捕捉できるように、所定の流速下で駆動電圧Vdを調整した場合、ポンプ30の出力変動等によって流速が変化すると、捕捉可能な微粒子Mの大きさ範囲が変化する。例えば、流速が速くなると、所望の大きさの微粒子Mが十分に集束する前に流体Sが定在波SWの形成範囲を通過してしまい、所望の大きさの微粒子Mを十分に捕捉することができない。一方、流速が遅くなると、流体Sが定在波SWの形成範囲を通過する間において、所望の大きさの微粒子Mだけでなく、より小さな微粒子Mも共に集束してしまい、捕捉可能な微粒子Mの大きさの精度が低下する。
そこで、本実施形態では、後述するように流体Sの流速を測定し、測定された流速(測定流速V)に応じて駆動電圧Vdを調整することで、所望の大きさの微粒子Mを安定して捕捉可能にする。
【0024】
(流体デバイスの制御方法)
本実施形態の流体デバイス10の制御方法の一例について、
図3のフローチャートを参照して説明する。なお、フローチャートの開始前、捕捉対象となる微粒子Mの大きさについて、予め所定の大きさが設定されていてもよいし、使用者の操作に応じて設定されてもよい。また、本実施形態では、説明の簡略化のため、定在波SWを形成するための所定周波数fが予め決定されているものとする。
【0025】
まず、使用者の開始操作などに応じて、ポンプ30が始動する(ステップS1)。このとき、ポンプ30の出力は、使用者の操作に応じて設定されてもよいし、予め所定出力に設定されていてもよい。
【0026】
ポンプ30の始動から所定時間経過後、測定制御部721は、流速測定部40に対して測定指示を出力し、流速測定部40に測定された流体Sの流速(すなわち測定流速V)を取得する(ステップS2)。なお、所定時間は、例えばポンプ30の駆動が安定するために要する時間である。また、ステップS2で測定された測定流速Vの値は、基準流速Vsとしてメモリー73に記憶される。
【0027】
次いで、駆動制御部722は、ステップS2で測定された測定流速Vに応じて、駆動電圧Vdを設定する(ステップS3)。これにより、超音波送信部60から送信される超音波の振幅が設定される。
例えば、駆動制御部722は、メモリー73から捕捉対象の微粒子Mの大きさに対応する駆動テーブルまたは演算係数を特定し、特定された駆動テーブルまたは演算係数に基づいて、ステップS2で測定された測定流速Vに対応する駆動電圧Vdの値を算出し、算出された値を駆動回路71に設定する。
【0028】
その後、駆動回路71は、定在波SWを形成するための所定周波数fと、ステップS3で設定された駆動電圧Vdとを有する駆動信号Sdを、超音波送信部60に対して出力開始する(ステップS4)。これにより、超音波送信部60から超音波が送信され、流体Sに定在波が形成されることで、微粒子Mの濃縮液が分離開始される。
【0029】
そして、測定制御部721は、予め定められた所定の測定タイミングになったか否かを判定し(ステップS5)、測定タイミングになったと判定したとき(ステップS5;Yesの場合)、流速測定部40に対して測定指令を出力し、流速測定部40で測定された測定流速Vを取得する(ステップS6)。この測定タイミングは、特に限定されないが、例えば所定時間ごとに設定されていればよい。
【0030】
次に、駆動制御部722は、ステップS6で測定された測定流速Vと、メモリー73に記憶された基準流速Vsとが一致するか否かを判定する(ステップS7)。ここで、「一致」とは、完全一致していることに限定されず、所定の誤差を含むものとする。すなわち、|V-Vs|が予め設定された誤差範囲内である場合に、両者が一致すると判定する。
【0031】
ステップS7でNoと判定される場合、駆動制御部722は、ステップS5で測定された測定流速Vに応じて駆動電圧Vdを調整する(ステップS8)。
具体的には、駆動制御部722は、メモリー73から捕捉対象の微粒子Mの大きさに対応する駆動テーブルまたは演算係数を特定し、特定された駆動テーブルまたは演算係数に基づいて、ステップS6で測定された測定流速Vに対応する駆動電圧Vdの値を算出し、算出された値を駆動回路71に設定する。また、駆動制御部722は、ステップS6で測定された測定流速Vの値を、メモリー73に記憶される基準流速Vsとして更新する。
【0032】
仮に、測定流速Vが基準流速Vsよりも大きい場合、駆動制御部722は、駆動電圧Vdとして現在の設定値よりも大きい値を算出し、駆動回路71に設定される駆動電圧Vdを増大させる。これにより、流体S中の微粒子Mが集束する速度が速くなるため、流体Sが定在波SWの形成範囲を通過する間に所望の大きさの微粒子Mを十分に集束させることができる。
一方、測定流速Vが基準流速Vsよりも小さい場合、駆動制御部722は、駆動電圧Vdとして現在の設定値よりも小さい値を算出し、駆動回路71に設定される駆動電圧Vdを減少させる。これにより、流体S中の微粒子Mが集束する速度が遅くなるため、流体Sが定在波SWの形成範囲を通過する間において、所望の大きさの微粒子Mを集束させつつ、所望の大きさよりも小さい微粒子Mを集束させないようにすることができる。
【0033】
ステップS7でYesと判定される場合は、現在の駆動電圧Vdによる超音波送信部60の駆動が継続され、ステップS9に移行する。
【0034】
その後、制御部70は、濃縮液の分離を停止するか否かを判定する(ステップS9)。例えば、使用者の操作により停止指示が入力された場合や、予め定められた所定時間が経過した場合など、制御部70は、ステップS9でYesと判定し、ポンプ30や超音波送信部60の各動作を停止させる(ステップS10)。一方、制御部70がステップS9でNoと判定する場合、ステップS5に戻る。
以上により、
図3のフローチャートが継続する間、駆動電圧Vdは、測定流速Vに応じて制御される。
【0035】
(本実施形態の作用効果)
本実施形態の流体デバイス10は、上述したように、超音波送信部60から送信される超音波の音響力によって流体S中の微粒子Mを集束させることができる。また、測定流速Vに応じて駆動信号Sdの振幅を調整することで、超音波の振幅を適切に設定することができる。その結果、所望の大きさの微粒子Mを安定して捕捉することができる。
【0036】
本実施形態において、制御部70は、測定流速Vが基準流速Vsよりも大きい場合、駆動信号Sdの振幅を増加させ、測定流速Vが基準流速Vsよりも小さい場合、駆動信号Sdの振幅を減少させる。これにより、所望の大きさの微粒子Mをより安定して捕捉することができる
【0037】
本実施形態において、制御部70は、設定された微粒子Mの大きさと、測定流速Vとに基づいて、駆動信号Sdの振幅を調整する。これにより、所望の大きさの微粒子Mをより好適に回収できる。
【0038】
本実施形態において、流速測定部40は、流路20における分離モジュール50とポンプ30との間の流体Sの流速を測定する。このような構成では、ポンプ30、流速測定部40および分離モジュール50をそれぞれ別体として構成できるため、各構成の設置やメンテナンスが容易である。
【0039】
本実施形態の超音波送信部60は、流路20に設けられた振動部621を含んでおり、超音波送信部60から流体Sへ超音波を効率的に伝達させることができる。これにより、消費電力を抑制することができる。
【0040】
本実施形態において、超音波送信部60は、流体Sに超音波を送信することで、流体S中に流体Sの流通方向に直交する方向に沿った定在波SWを発生させる。これにより、定在波SWの節(または腹)に対して流体S中の微粒子Mを集束させることができ、微粒子Mの回収を好適に行うことができる。
【0041】
本実施形態において、流速測定部40、超音波送信部60および制御部70を収容する筐体80をさらに備え、筐体80には、流路20の流入口21、濃縮出口24および排出口25が設けられる。このような構成では、流体デバイス10が一体的に構成され、流体デバイス10の携帯性を向上できる。
【0042】
[第2実施形態]
第2実施形態の流体デバイスについて
図4を参照して説明する。
第2実施形態の流体デバイス10Aは、微粒子Mを検査するための構成をさらに備える点以外、第1実施形態とほぼ同様の構成を備える。以下では、第1実施形態と同様の構成には同一符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0043】
第2実施形態の流体デバイス10Aは、第1実施形態の流路20の濃縮出口24に替えて、検査モジュール90を備える。検査モジュール90は、分離モジュール50内の濃縮流路233に接続され、集束した微粒子Mを含む流体S(濃縮液)を回収し、回収した濃縮液中の微粒子Mの各種情報を取得する。
また、第2実施形態のプロセッサー72は、メモリー73に記憶されたプログラムを実行することで、検査モジュール90を制御する検査制御部723としても機能する。この検査制御部723は、検査モジュール90で取得された情報に基づいて、微粒子Mの分析を行う。検査制御部723は、分析結果を表示部81に表示させてもよいし、有線、無線などを介して外部端末に分析結果を送信してもよい。
【0044】
なお、検査モジュール90および検査制御部723によって行われる検査および分析の種類は、特に限定されない。例えば、検査モジュール90および検査制御部723は、微粒子Mの濃度を測定するセルカウンターなどの分光光度計として構成されてもよい。また、検査モジュール90は、撮像手段を備え、検査制御部723は、撮像された画像に基づいて微粒子Mを分析してもよい。あるいは、検査モジュール90は、レーザー光源および分光器を備え、検査制御部723は、吸光光度分析法、ラマン分光法などの各種の分光法によって微粒子Mを分析してもよい。
【0045】
第2実施形態の流体デバイス10Aの制御方法は、第1実施形態と同様である。ただし、
図3のステップS9の判定では、検査モジュール90に十分な濃縮液を回収できたか否かを基準としてもよい。
【0046】
以上説明した第2実施形態の流体デバイス10Aでは、第1実施形態による効果に加え、回収した微粒子Mを好適に検査することができる。特に、第2実施形態の流体デバイス10Aは、様々な大きさの微粒子Mを含む流体S中の特定の大きさの微粒子Mを対象とした検査に好適に利用できる。
【0047】
[変形例]
なお、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良、および各実施形態を適宜組み合わせる等によって得られる構成は本発明に含まれるものである。
【0048】
(変形例1)
上記各実施形態では、流速測定部40が分離モジュール50とポンプ30との間の流体Sの流速を測定するように設けられる例を示しているが、流速測定部40の配置はこれに限定されない。
【0049】
図5は、変形例にかかる流速測定部40の配置を示す流路図である。
図5に示すように、流速測定部40は、分離モジュール50内の流体Sの流速を測定してもよい。この場合、流速測定部40は、分離モジュール50と一体的に構成することができる。このような変形例では、分離モジュール50内の流体Sの流速を測定することで、駆動信号Sdの振幅をより高精度に調整することができる。
【0050】
図6は、他の変形例に係る流速測定部40の配置を示す流路図である。
図6に示すように、流速測定部40は、ポンプ30内の流体Sの流速を測定してもよい。この場合、流速測定部40は、ポンプ30と一体的に構成することができる。このような変形例では、流量計が一体に構成された市販ポンプをポンプ30および流速測定部40として利用することができる。
【0051】
なお、上記各実施形態では、説明の簡略化のため、流速測定部40が流速を出力するものとして記載しているが、流速測定部40は、少なくとも流速の検出を行うセンサーであればよい。この場合、測定制御部721が、流速測定部40から入力される検出信号に基づいて流速を算出する演算処理を行ってもよい。
【0052】
(変形例2)
上記各実施形態では、流体デバイス10,10Aの制御方法(
図3参照)として、基準流速Vsを初期設定するために、流速測定部40による流速測定(ステップS2)を行っているが、これに限られない。例えば、基準流速Vsの初期値は、ポンプ30の出力等に基づいて予め設定されていてもよい。この場合、駆動電圧Vdが予め設定されていてもよい。
【0053】
(変形例3)
上記各実施形態では、流体デバイス10,10Aの制御方法(
図3参照)として、濃縮液の分離開始後、流速測定(ステップS6)を繰り返し行い、測定流速Vに応じて駆動電圧Vdを調整しているが、これに限定されない。
例えば、最初に測定された測定流速Vに応じて駆動電圧Vdの初期設定(ステップS3)を行った後、測定流速Vに応じた駆動電圧Vdの調整(ステップS6~S8)を行わなくてもよい。
【0054】
(変形例4)
上記各実施形態の流体デバイス10,10Aは、流体Sの流れを発生させるポンプ30を備えるが、このようなポンプ30を備えなくてもよい。例えば、ポンプ30は、筐体80の外側に配置され、流体デバイス10,10Aとは別体として設けられてもよい。あるいは、流体デバイス10,10Aに供給される流体Sが流れを有する場合には、ポンプ30が設けられなくてもよい。
【0055】
(変形例5)
上記各実施形態の流体デバイス10,10Aは、各構成を収容する筐体80を備えるが、このような筐体80を備えなくてもよい。
【0056】
(変形例6)
上記各実施形態の分離モジュール50には、流路20の一部である分離流路23が形成されるが、これに限られず、流路20の全部が分離モジュール50に形成されてもよい。
【0057】
(変形例7)
上記各実施形態の流体デバイス10,10Aにおいて、超音波送信部60の構成は、上述したものに限定されない。
例えば、超音波送信部60は、複数の振動部621を有してもよい。この場合、素子基板61に対して複数の開口部611がアレイ状に設けられ、素子基板61に設けられる振動膜62のうちの各開口部611に重なる部分が、振動部621を構成してもよい。各振動部621に対して圧電素子63が設けられることで、各振動部621から超音波が送信される。
また、超音波送信部60は、圧電アクチュエーターを振動させる構成を有してもよいし、静電アクチュエーターに含まれる振動板を振動させる構成を有してもよい。このような超音波素子は、所定駆動周波数の駆動信号Sdが印加されることで振動を生じさせ、超音波を送信することができる。
【0058】
(変形例8)
上記各実施形態では、流体Sの流通方向に直交する方向として、流路20の幅方向に定在波SWを発生させるが、流路20の深さ方向に定在波SWを発生させてもよい。
また、上記各実施形態の流体デバイス10,10Aは、流路内に定在波SWを形成することに限定されない。例えば、流体デバイス10,10Aは、超音波による音響力を利用して所望の大きさの微粒子Mを操作するものであればよい。
【0059】
[本開示のまとめ]
以下、本開示のまとめを付記する。
(付記1)
本開示に係る流体デバイスは、微粒子を含有する流体が流通する流路と、駆動信号の入力によって、前記流路内の前記流体に超音波を送信する超音波送信部と、前記流路における前記流体の流速を測定する流速測定部と、前記超音波送信部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記流速測定部により測定された流速である測定流速に応じて前記駆動信号の振幅を設定し、設定された振幅の前記駆動信号を前記超音波送信部に入力する。
このような構成では、超音波送信部から送信される超音波の音響力によって流体中の微粒子を操作し、当該微粒子を回収できる。また、測定流速に応じて駆動信号の振幅を調整することで、超音波の振幅を調整し、回収される微粒子の大きさを安定させることができる。
【0060】
(付記2)
付記1に記載の流体デバイスにおいて、前記制御部は、前記超音波送信部が前記流体に超音波を送信する間、前記測定流速が基準流速よりも大きい場合、前記駆動信号の振幅を増加させ、記測定流速が前記基準流速よりも小さい場合、前記駆動信号の振幅を減少させることが好ましい。これにより、所望の大きさの微粒子を安定して回収することができる。
【0061】
(付記3)
付記1または付記2に記載の流体デバイスにおいて、前記制御部は、前記微粒子の大きさと、前記測定流速とに基づいて、前記駆動信号の振幅を設定することが好ましい。これにより、所望の大きさの微粒子をより好適に回収できる。
【0062】
(付記4)
付記1から付記3のいずれかに記載の流体デバイスは、前記超音波送信部が設けられ、かつ、前記流路の一部を含む分離モジュールと、前記流路に前記流体の流れを発生させるポンプと、をさらに備え、前記流速測定部は、前記流路における前記分離モジュールと前記ポンプとの間の前記流体の流速を測定してもよい。このような構成では、ポンプ、流速測定部および分離モジュールをそれぞれ別体として構成できるため、各構成の設置やメンテナンスが容易である。
【0063】
(付記5)
付記1から付記3のいずれかに記載の流体デバイスでは、前記超音波送信部が設けられ、かつ、前記流路の少なくとも一部を含む分離モジュールをさらに備え、前記流速測定部は、前記分離モジュール内の前記流体の流速を測定してもよい。このような構成では、所望の大きさの微粒子を操作させるための駆動信号の振幅をより正確に設定することができる。
【0064】
(付記6)
付記1から付記3のいずれかに記載の流体デバイスは、前記流路に前記流体の流れを発生させるポンプをさらに備え、前記流速測定部は、前記ポンプ内の前記流体の流速を測定してもよい。このような構成では、流量計が一体に構成された市販ポンプを好適に利用することができる。
【0065】
(付記7)
付記1から付記6のいずれかに記載の流体デバイスにおいて、前記超音波送信部は、前記流路に設けられた振動部と、前記振動部に設けられ、前記振動部を撓み振動させることで前記流体に前記超音波を送信する圧電素子と、を有することが好ましい。これにより、超音波送信部から流体への超音波の伝搬効率が向上し、消費電力を抑制することができる。
【0066】
(付記8)
付記1から付記7のいずれかに記載の流体デバイスにおいて、前記超音波送信部は、前記流体に超音波を送信することで、前記流体中に前記流体の流通方向に直交する方向に沿った定在波を発生させることが好ましい。これにより、定在波の節(または腹)に対して流体中の微粒子を集束させることができ、微粒子の回収をより好適に行うことができる。
【0067】
(付記9)
付記1から付記8のいずれかに記載の流体デバイスは、前記流速測定部、前記超音波送信部および前記制御部を収容する筐体をさらに備え、前記筐体には、前記流体が前記流路に流入する流入口と、前記流路から前記流体が流出する1以上の排出口とが設けられることが好ましい。このような構成では、流体デバイスが一体的に構成され、流体デバイスの携帯性を向上できる。
【0068】
(付記10)
付記1から付記6のいずれかに記載の流体デバイスは、前記超音波により集束された前記微粒子を回収し、回収された前記微粒子を検査する検査モジュールをさらに備えてもよい。
【0069】
(付記11)
本開示に係る流体デバイスの制御方法は、微粒子を含有する流体が流通する流路と、駆動信号の入力によって、前記流路内の前記流体に超音波を送信する超音波送信部と、前記流路における前記流体の流速を測定する流速測定部と、を備える流体デバイスの制御方法であって、前記流速測定部により測定された流速である測定流速に応じて前記駆動信号の振幅を設定し、設定された振幅の前記駆動信号を前記超音波送信部に入力する。このような方法によれば、回収される微粒子の大きさを安定させることができる。
【符号の説明】
【0070】
10,10A…流体デバイス、20…流路、21…流入口、22…連通流路、23…分離流路、231…流入流路、232…流路本体、233…濃縮流路、234…排出流路、235…第1壁面、236…第2壁面、24…濃縮出口、25…排出口、30…ポンプ、40…流速測定部、50…分離モジュール、60…超音波送信部、60A…超音波送信面、61…素子基板、611…開口部、62…振動膜、621…振動部、63…圧電素子、70…制御部、71…駆動回路、72…プロセッサー、721…測定制御部、722…駆動制御部、723…検査制御部、73…メモリー、80…筐体、81…表示部、90…検査モジュール、f…所定周波数、L…流路幅、M…微粒子、S…流体、Sd…駆動信号、SW…定在波、V…測定流速。