(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049953
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 13/62 20060101AFI20240403BHJP
C07C 5/00 20060101ALI20240403BHJP
C07C 4/12 20060101ALI20240403BHJP
C07D 339/08 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C07C13/62 CSP
C07C5/00
C07C4/12
C07D339/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156485
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 哲郎
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB90
4H006AC13
4H006AC26
4H006BB11
4H006BB12
4H006BC10
4H006BC19
4H006BE62
(57)【要約】
【課題】ジベンゾ[g,p]クリセンの2つのベイ領域に五員環を導入したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物とその製造方法を提供する。
【解決手段】3位、6位、11位、14位に、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を有し、1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個のメチレン基、または、1,3-ジチアノ基がスピロ構造を保持して結合した炭素原子を介して5員環構造を形成したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3位、6位、11位、14位に、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を有し、
1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個のメチレン基、または、1,3-ジチアノ基がスピロ構造を保持して結合した炭素原子を介して5員環構造を形成したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物。
【請求項2】
下記化学式:
【化1】
【化2】
または
【化3】
で表される化合物である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
(a)3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基から選ばれる置換基を有するジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オンを還元する工程、および、
(b)得られた3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を有する4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンを脱アルキル化、脱アルケニル化または脱アルキニル化する工程
を含む4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンの製造方法。
【請求項4】
還元工程(a)において、3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基から選ばれる置換基を有するジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オンと、アルカンジチオールおよびルイス酸を反応させた後に、ハロシリル化剤およびハロゲン化剤を反応させる請求項3に記載の4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン、および、4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンは、以下の化学式に示すように、6個の六員環と2個の五員環を有しており、バックミンスターフラーレン(C60)の部分構造に相当するバッキーボウル分子である。
【0003】
【0004】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン、および、4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンは、典型的な非平面性のπ共役系構造を有する多環芳香族炭化水素(PAHs)として知られ、炭素数28個の比較的小さな有機分子である。C60の断片構造(フラグメント)であることから、C60と似たような有機エレクトロニクス材料・有機半導体材料としての性質を持つのではないかと目されている。また、C60の部分構造であることから様々な炭素材料としての可能性も有すると期待されている。しかしながら、これまでにこれらの実質的な合成に関する報告は皆無であり、誘導体さえ報告されていない。従来の技術、とりわけ過去の合成例においては、バッキーボウルと言えば1966年のコランニュレンと2003年のスマネンの合成報告(たとえば特許文献1)が最もよく知られている。コランニュレンとスマネンと同じくらいの影響を学界や産業界に与えるようなバッキーボウルの報告はほとんど見当たらない。材料展開という視点において、それらの可能性は滞っている。
【0005】
非特許文献1には、一方のベイ領域が5員環構造となったインデノクリセン誘導体が開示されている。しかしながら、両方のベイ領域が5員環構造のクリセン誘導体は開示されていない。また、開示された方法では、両方のベイ領域に5員環構造を導入することは不可能である。
【0006】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体、および、4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体は、下記化学式に示すように、ジベンゾ[g,p]クリセンのベイ領域と言われる箇所(1位・8位・9位・16位の炭素原子周辺)に二つの五員環を形成することで得られる。この反応では、対称性良く二炭素を増炭することが鍵となる。
【0007】
【0008】
しかしながら、ジベンゾ[g,p]クリセンは、フィヨルド領域と呼ばれる4位、5位、12位、13位の炭素原子に結合した水素原子が大きな立体反発を生むため、ベイ領域をメチレン架橋することは非常に困難である。実際、これまでに、2箇所のベイ領域に五員環を形成して架橋した報告は皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ito,H.;Itami,K.,Angew.Chem.,Int.Ed.2017,56,12224-12228.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ジベンゾ[g,p]クリセンの2つのベイ領域に五員環を導入したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物の合成方法について検討を進めたところ、ジベンゾ[g,p]クリセンのベイ領域をカルボニル基で架橋した化合物を前駆体として用い、カルボニル基を還元して、ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物を合成することができることを見出し、本発明を完成した。また、tert-ブチル基は、ルイス酸等を用いて除去でき、4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンを液相合成できることも見出した。
【化3】
【0013】
すなわち、本発明は、3位、6位、11位、14位に、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を有し、1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個のメチレン基、または、1,3-ジチアノ基がスピロ構造を保って結合した炭素原子を介して5員環構造を形成したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物に関する。
【0014】
前期化合物は、下記式
【化4】
【化5】
または
【化6】
で表される化合物が好ましい。
【0015】
また、本発明は、
(a)3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基から選ばれる置換基を有するジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オンを還元する工程、および、
(b)得られた3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を有する4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンを脱アルキル化、脱アルケニル化または脱アルキニル化する工程
を含む4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンの製造方法に関する。
【0016】
還元工程(a)において、3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基から選ばれる置換基を有するジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オンと、アルカンジチオールおよびルイス酸を反応させた後に、ハロシリル化剤およびハロゲン化剤を反応させることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物は、新たなバッキーボウルであり、特に3位、6位、11位、14位に、水素原子、または、分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基等の置換基を有している。特に、純粋な炭化水素である4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンは、初めて化学合成することに成功したものであり、優れた電子材料の簡便創製につながるだけでなく、グラフェン断片構造体など新材料の化学合成も期待することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格の誘導体は、3位、6位、11位、14位に、水素原子、分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を有し、1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個のメチレン基、または、1,3-ジチアノ基がスピロ構造を保持して結合した炭素原子を介して5員環構造を形成することを特徴とする。
【0019】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンの骨格構造は、ジベンゾ[g,p]クリセンの1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個の炭素原子を介して5員環構造を形成した化合物である。ここで、ジベンゾ[g,p]クリセンは、下記化学式
【化7】
で表される化合物である。各炭素の置換位置を図中に示す。
【0020】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物において、3位、6位、11位、14位に、アルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を有すると、有機溶媒に対する溶解性が向上する。有機溶媒としては、-78℃から150℃の温度範囲における溶解度の点で、トルエン、キシレン、塩化メチレン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒を利用することが好ましい。
【0021】
アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基の中では、幅広い種類の有機溶媒に対する溶解性の点で、アルキル基が好ましい。
【0022】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基の炭素数は3~12が好ましく、3~8がより好ましい。例えば、iso-プロピル、n-プロピル、iso-ブチル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ブチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ペンチル、iso-ヘキシル、n-ヘキシル、iso-ヘプチル、n-ヘプチル、iso-オクチル、n-オクチル、iso-ノニル、n-ノニル、iso-デシル、n-デシル、iso-ウンデシル、n-ウンデシル、iso-ドデシル、n-ドデシル等が挙げられる。なかでも、分岐構造を有するものが好ましく、iso-プロピル、iso-ブチル、tert-ブチルなどがより好ましい。アルケニル基は、前記アルキル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニル基は、前記アルキル基の内部または末端に三重結合を有する基である。
【0023】
3位、6位、11位、14位に、水素原子、または、アルキル基等の置換基を有していれば、他の置換位置に置換基を有していても良い。他の置換基としては、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基などが挙げられる。
【0024】
アリール基の炭素数は6~14が好ましい。例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基などが挙げられる。
【0025】
アルキルエーテル基としては、置換基を有していてもよい直鎖状又は分枝状のアルキルエーテル基が挙げられる。アルキルエーテル基の炭素数は1~12が好ましく、1~8がより好ましい。例えば、メチルエーテル基、エチルエーテル基、n-プロピルエーテル基、iso-プロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基、n-ヘプチルエーテル基、n-オクチルエーテル基、n-ノニルエーテル基、n-デシルエーテル基、n-ウンデシルエーテル基、n-ドデシルエーテル基等が挙げられ、メチルエーテル基、エチルエーテル基、n-プロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基が好ましい。アルケニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に三重結合を有する基である。
【0026】
ポリオキシアルキレン基としては、アルキレンジオールの単独重合体または共重合体の末端の水素を取った置換基である。このような置換基を導入することで、水または水溶性有機溶媒に溶解しやすくなる。ポリオキシアルキレンとしては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等が挙げられる。重合度は、ポリエチレングリコールの場合には4~450が好ましく、ポリエチレンオキシドの場合には450~10000が好ましい。
【0027】
前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物の中でも、下記式
【化8】
【化9】
、または、
【化10】
で表される化合物が好ましい。これらのジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物は、たとえば以下に説明する本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物の製造方法により、合成することができる。
【0028】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物の製造方法は、
(a)3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基から選ばれる置換基を有するジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オンを還元する工程、および、
(b)得られた3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を有する4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンを脱アルキル化、脱アルケニル化または脱アルキニル化する工程
を含むことを特徴とする。
【0029】
[還元工程(a)]
3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基から選ばれる置換基を有するジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オンを還元する工程(a)において、還元方法は特に限定されない。たとえば三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三塩化アルミニウムなどのルイス酸試薬と、1,3-プロパンジチオール、1,2―エタンジチオールなどのアルカンジチオールを反応させた後に、トリメチルシリルクロライド、トリメチルシリルブロマイド、トリメチルシリルヨージドなどのハロシリル化剤およびヨウ化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化ナトリウムなどのハロゲン化剤を組み合わせて反応させることにより還元する方法などが挙げられる。
【0030】
[脱アルキル化、脱アルケニル化または脱アルキニル化する工程(b)]
工程(a)で得られた3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を有する4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンを脱アルキル化、脱アルケニル化または脱アルキニル化する方法は特に限定されない。たとえば、三塩化アルミニウム、二塩化アルキルアルミニウム、三臭化アルミニウム、三臭化ホウ素、三フッ化ホウ素などのルイス酸と反応させる方法などが挙げられる。
【0031】
工程(a)で使用する3,6,11,14位に、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基から選ばれる置換基を有するジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オンは、たとえば以下の方法により合成することができる。
【0032】
(A)3位、6位、11位、14位に、分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を有し、8位または9位、1位または16位に、それぞれハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αと、ジアルキルカーボネート化合物を反応させて、ハロゲノ基をアルキルまたはアリールエステル基に変換させ、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する工程
(B)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを加水分解し、アルキルまたはアリールエステル基をカルボキシル基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する工程
(C)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γのカルボキシル基を酸ハライド基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δを合成する工程、および、
(D)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δをルイス酸の存在下でフリーデルクラフツ反応を行い、環化する工程
【0033】
工程(A)
工程(A)で使用する3位、6位、11位、14位に、分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を有し、8位または9位、1位または16位に、それぞれハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αにおいて、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。なかでも、リチウム-ハロゲン交換反応が容易であることから臭素またはヨウ素が好ましい。他の置換位置に、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基などの置換基を有していても良い。具体的なジベンゾ[g,p]クリセン誘導体としては、たとえば
【化11】
などが挙げられる。
【0034】
前記ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、たとえば以下の製造方法によって作製することができる。
(X)分岐構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基と、ハロゲノ基を有する9―フルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(Y)得られたスピロケトン誘導体を還元してスピロアルコール誘導体を作製する工程、および、
(Z)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程
【0035】
9―フルオレノン誘導体における分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基等の置換基、ハロゲノ基は、前述した置換基と同じ置換基である。また、これらの置換基の置換位置は、目的とするジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に対応する置換位置に置換されている必要がある。
【0036】
工程(X)におけるフルオレノン誘導体の二量化方法は特に限定されず、亜リン酸トリアルキルなどの酸素親和性の高いルイス塩基試薬の存在下で行う方法が挙げられる。亜リン酸トリアルキルなどの活性化試薬は2当量以上が好ましい。反応温度は特に限定されず、90~200℃が好ましい。
【0037】
工程(Y)におけるスピロケトン誘導体の還元法は特に限定されず、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素ガスを用いた接触還元法などが挙げられる。
【0038】
工程(Z)におけるスピロアルコール誘導体の脱水法は特に限定されず、二塩化エチルアルミニウム、三塩化アルミニウム、濃塩酸、塩酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0039】
工程(A)で使用するジアルキルカーボネート化合物としては、ジメトキシカーボネート、ジエトキシカーボネートなどが挙げられる。これらのジアルキルカーボネート化合物とジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αをn-BuLi、メチルリチウム、フェニルリチウム、ノルマルヘキシルリチウムなどの有機リチウム化合物の存在下でリチウムハロゲン交換反応させて、ハロゲノ基をエステル基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する。
【0040】
工程(B)
工程(A)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βは、酸または塩基の存在下で加水分解し、アルキルまたはアリールエステル基をカルボキシル基に変換して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する。塩基としては、t-BuOK、t-BuONaなどが挙げられる。
【0041】
工程(C)
工程(B)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γは、N,N-ジメチルホルムアミド存在下においてチオニルクロライドと反応させて、カルボキシ基を酸ハライド基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δを合成する。
【0042】
工程(D)
工程(C)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δは、三塩化アルミニウムや三フッ化ホウ素や三塩化鉄やゼロ価鉄などのルイス酸の存在下でフリーデルクラフツ反応を行って環化し、2つのベイ領域に5員環を形成した目的のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を合成することができる。
【0043】
(化1)~(化2)で表される化合物は、いずれも本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する(化3)で表される化合物の製造方法における中間体として生成する新規物質である。(化1)で表される化合物は、本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格の誘導体の製造方法における還元工程(a)において、出発物質であるインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オンと1,3-プロパンジチオールを反応させることによって合成することができる。(化2)で表される化合物は、(化1)で表される化合物とトリアルキルヨードシラン、トリアルキルブロモシラン、トリアルキルクロロシランなどのハロシリル化剤と、ヨウ化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化剤を組み合わせて反応させることにより合成することができる。
【0044】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物は、高分子材料、高耐熱性樹脂、光機能性材料、有機エレクトロニクス材料、化学センサー材料、高機能炭素材料、分子ナノカーボン材料、グラフェンナノリボン材料の分野に適用される。具体的には、低伝送損失基板材料、低誘電・光接着ポリイミド樹脂用原料、リソグラフィー用材料、レジスト材料、有機EL用材料、接着剤等の樹脂用材料、スーパーエンジニアリングプラスチック用材料、有機半導体材料、有機態様電池用材料、フレキシブルプリント基板等が挙げられる。特に、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子や、その前駆体の化合物として応用可能である。また、屈折率が高く、プラスチックレンズなどの高屈折率材料や光学材料として応用可能である。
【実施例0045】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0046】
実施例において、禁水反応はアルゴンまたは窒素雰囲気下で行なっており、特に断りのない限り実験は禁水条件で実施した。購入した無水溶媒・試薬は、改めて精製して純度を向上させることなく使用した。薄層クロマトグラフィーとしてMerck silica 60F254を使用し、カラムクロマトグラフィーとしてシリカゲル60N(関東化学(株)製)を用いた。高分解能質量測定(HRMS)として飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFまたはLCMS-IT-TOF)または直接質量分析法(DART-MS)のいずれかを用いた。
【0047】
1H-NMR、13C-NMRスペクトルについては、5mmのQNPプローブを用い、それぞれ400MHz、100MHzで測定した。化学シフト値はδ(ppm)で示しており、それぞれの溶媒中での基準値は1H-NMR:CHCl3(7.26),CH2Cl2(5.32)、DMSO(2.50);13C-NMR:CDCl3(77.0)、DMSO(39.5)としている。分裂のパターンは、s:単一線、d:二重線、t:三重線、q:四重線、m:多重線、br:幅広線で示す。
【0048】
以下の実施例で言及する化合物と化合物番号を以下に示す。
【化12】
【0049】
【0050】
本発明の製造方法で使用する出発物質である化合物16の化合物12からの合成スキームを以下に示す。
【化17】
【0051】
合成例1
4-ブロモ-2、7-ジ-tert-ブチルフルオレノン(化合物10)の合成
空気下、200mLの一径フラスコに4-ブロモフルオレン(5.72g,16mmol)とピリジン(32mL)と塩化鉄(III)六水和物(864mg,3.2mmol)を加えた。tert-ブチルペルオキシド(6.6mL,48mmol,70%水溶液)を滴下後、80℃に昇温した。反応1時間後、さらにtert-ブチルペルオキシド(2.2mL,16mmol)を滴下し、原料の完全消失を確認した。反応溶液を濾過、除媒濃縮後、得られた黄色固体を塩化メチレンに溶かし抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮後、黄色の粗生成物を得た。これをイソプロピルアルコールで再結晶操作を行い、化合物10を5.22g(88%)の黄色の結晶として得た。
【0052】
化合物10の分析データ
Rf value 0.37(Hexane/EtOAc=19/1);
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.18(d,J=8.0Hz,1H),
7.73(d,J=2.0Hz,1H),7.66(d,J=1.7Hz,1H),7.56(d,J=1.7Hz,1H),7.55(dd,J=8.0,2.0Hz,1H),1.35(s,9H),1.33(s,9H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)193.6,154.2,153.1,141.4,140.2,137.3,136.3,134.8,131.9,123.1,121.9,120.9,117.3,35.33,35.30,31.4,31.3ppm;
MS(DART-TOFMS)m/z:371[MH]+;
IR(neat):2960,1714(C=O),1606,1475,1360,1148,826,778,563cm-1;
HRMS(DART-TOFMS)calcd for C21H24BrO:371.1011[MH]+,Found:371.1009;
Anal. Calcd for C21H23BrO:C,67.93;H,6.24.Found:C,67.73;H,6.10.
【0053】
合成例2
スピロケトン誘導体(化合物11、化合物iso-11)の合成
空気下、一径フラスコに化合物10(4-ブロモ-2、7-ジ-tert-ブチルフルオレノン)(6.68g,16mmol)と亜リン酸トリエチル(6.2mL,36mmol)を加え、室温下のオイルバスに浸し175℃に昇温した。60時間撹拌後、60℃に自然降温した。水道水(6.5mL,360mmol)を添加後、再び80℃に昇温した。2時間撹拌後、減圧濾取し、水と冷メタノールで洗浄した。200mLの一径フラスコにメタノールを加え、95℃で加熱還流した。30分撹拌後、室温に自然降温、減圧濾取し、冷メタノールで洗浄した。加熱真空乾燥後、黄白色の粗生成物を5.17g(79%,異性体比50:50)得た。その内500mgを用いてシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒はヘキサン/トルエン=1/1)を行い、化合物11を209mg(28%)、化合物iso-11を178mg(33%)の白色固体として得た。化学構造は、X線結晶構造解析により決定した。
【0054】
化合物11の分析データ
Rf value 0.70(Hexane/Toluene=1/1);
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.72(d,J=8.5Hz,1H),8.42(d,J=8.3Hz,1H),7.82(dd,J=8.5,2.3Hz,1H),7.72(d,J=2.3Hz,1H),7.65(d,J=2.0Hz,1H),7.50(d,J=1.6Hz,1H)7.42(dd,J=8.3,2.0Hz,1H),6.84(d,J=1.6Hz,1H),6.82(d,J=1.8Hz,1H),6.66(d,J=1.8Hz,1H),1.32(s,9H),1.15(s,9H),1.13(s,9H),1.09(s,9H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)198.3,152.5,152.1,152.0,151.4,148.0,145.8,140.7,138.0,137.3,134.9,132.9,132.6,130.6,130.5,129.7,128.6,125.3,125.1,124.9,123.4,122.4,122.2,120.7,116.6,70.3,35.1,35.0(two peaks are overlapped),34.9,31.5,31.4,31.3,31.1ppm;
MS(DARTTOF)m/z:727[MH]+;
IR(neat):2959,1702(C=O),1454,1362,1229,829,753cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd for C42H47Br2O:727.1973 [H]+,Found:727.1971;
Anal.Calcd for C42H46Br2O:C,69.42;H,6.38.Found:C,69.35;H,6.34.
【0055】
化合物iso-11の分析データ
Rf value 0.74(Hexane/Toluene=1/1);
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.55(d,J=8.3Hz,1H),8.44(d,J=8.3Hz,1H),8.03(d,J=2.0Hz,1H),7.71(d, J=2.0Hz,1H),7.52(d,J=1.5Hz,1H),7.43(dd,J =8.3,2.0Hz,1H),7.41(d,J=8.3,2.1Hz,1H),7.04-7.03(m,2H),6.82(d,J=2.1Hz,1H),1.30(s,9H),1.19(s,9H)1.18(s,9H),1.14(s,9H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)198.0,152.8,152.3,151.9,151.2,147.2,144.9,138.1,138.0,137.7,137.4,136.1,134.0,130.5,128.9,128.8,125.2,125.1,124.9,124.4,123.4,122.9,122.7,119.5,116.6,69.9,35.1(four peaks are overlapped),31.52,31.45,31.3,31.1ppm;
MS(DART-TOF)m/z:727[MH]+;
IR(neat):2959,1699(C=O),1447,1362,1234,1157,830,746,695cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd for C42H47Br2O:727.1973[MH]+,Found:727.1988;
Anal. Calcd for C42H46Br2O:C,69.42;H,6.38. Found:C,69.59;H,6.41.
【0056】
合成例3
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物12、iso-12)混合物の合成
空気下、二径フラスコに化合物iso-11(541mg,0.74mmol)、トルエン(3.0mL)、メタノール(0.6mL)を加え、45℃に昇温した。水素化ホウ素ナトリウム(28mg,0.74mmol)を20分かけて添加後、30分間攪拌した。アセトン(0.5mL)を加え、30分間攪拌後、室温に自然降温した。有機層を水で洗浄し、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮を経て黄白色の粗生成物520mgを得た。得られた粗生成物は精製することなくそのまま次のステップに供した。
【0057】
得られた粗生成物(250mg、0.34mmol)のトルエン(2.5mL)溶液にヘキサフルオロ-2-イソプロパノール(2.5mL)と濃塩酸(0.02mL,0.21mmol,35%水溶液)を加えた。1時間攪拌後、0℃で飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応停止操作を行った。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮を行い、白色の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、白色固体の混合物(化合物12:化合物iso-12=91:9)を221mg(91%)で得た。
【0058】
合成例4
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物13、iso-13)混合物の合成
アルゴン雰囲気下、二径フラスコに、合成例3で合成した化合物12(3.20g,4.5mmol)と無水ジエチルエーテル(80mL)を加えた。ノルマルブチルリチウム(10.4mL,16.2mmol,1.56Mヘキサン溶液)を-78℃下で滴下し、15分間撹拌後、炭酸ジメチル(1.9mL,22.5mmol)を加えた。反応溶液を30分間撹拌後、室温へ昇温した後にさらに2時間攪拌を行い、1M塩酸を加えて反応停止操作を行った。水層に対してトルエンで抽出操作を行い、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作を行い、1.75g(58%,異性体比57:43)の化合物13を白色固体として得た。
【0059】
化合物13の分析データ
M.p.250℃.
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.78(d,J=2.0Hz,2H),8.62(d,J=2.0Hz,2H),8.61(d,J=2.0Hz,2H),8.45(d,J=2.0Hz,2H),8.04(d,J=8.6Hz,2H),8.03(d,J=8.6Hz,2H),7.86(d,J=2.0Hz,2H),7.81(d,J=2.0Hz,2H),7.59(dd,J=2.0,8.6Hz,4H),4.05(s,6H),4.04(s,6H),1.47-1.40(m,72H)ppm.
13CNMR(100MHz,CDCl3)173.3,173.1,150.3,150.2,149.1,149.0,131.2,130.84,130.80,130.3,130.21,130.18,130.1,129.0,128.1,127.49,127.46,127.2,127.1,127.01,127.0,126.9,126.7,126.0,125.6,125.2,124.8,124.0,123.8,53.07,53.05,35.52,35.47(two peaks are overlapped),35.43,31.84,31.82(two peaks are overlapped),31.80ppm.
MS(DART-TOF)m/z:669[MH]+.
IR(neat):2952,1718(C=O),1599,1432,1240,1141, 882cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C46H53O4[MH]+:669.3944,found:669.3924.
【0060】
合成例5
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物14、iso-14)混合物の合成
アルゴン雰囲気下、一径フラスコにカリウムターシャリーブトキシド(12.0g,107mmol)と無水テトラヒドロフラン(150mL)を加えた。この反応溶液に、0℃下にて蒸留水(0.49mL,27.3mmol)を加え、5分撹拌後、化合物13(8.29g,12.4mmol)を加えた。反応溶液を70℃まで昇温し、1時間撹拌後、3M塩酸で反応停止操作を行った。水層に対して酢酸エチルで抽出操作を行い、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥後、化合物14(異性体比52:48)を定量的に得た。
【0061】
化合物14の分析データ
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.70(d,J=1.8Hz,2H),8.55(d,J=1.8Hz,2H),8.54(d,J=1.8Hz,2H),8.40(d,J=1.8Hz,2H),8.34(d,J=8.6Hz,2H),8.32(d,J=8.6Hz,2H),7.89(d,J=1.8Hz,2H),7.84(d,J=1.8Hz,2H),7.53(dd,J=8.6,1.8Hz,4H),1.42-1.35(m,72H)ppm.
MS(DART-TOF)m/z:639[M-H]-.
IR(neat):3060,2952,2630,1690(C=O),1249,886,714cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C44H47O4[M-H]-:639.3474,found:639.3460.
【0062】
合成例6
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物15、iso-15)混合物の合成
アルゴン雰囲気下、化合物14(9.61g,15mmol)の塩化チオニル(96mL,1.3mol)溶液に、室温下でDMFを少量加えた。反応溶液を30分間攪拌後に除媒し、真空乾燥後、化合物15(異性体比50:50)を定量的に得た。
【0063】
化合物15の分析データ
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.86(d,J=1.9Hz,2H),8.63(d,J=1.9Hz,2H),8.62(d,J=1.9Hz,2H),8.41(d,J=1.9Hz,2H),8.25(d,J=8.6Hz,4H),8.04(d,J=1.9Hz,2H),7.98(d,J=1.9Hz,2H),7.69(dd,J=8.6,1.9Hz,4H),1.50-1.41(m,72H)ppm.
13CNMR(100MHz,CDCl3)172.2,172.1,151.5,151.2,149.5,149.3,135.7,135.3,131.7,130.4,130.3,130.22,130.17,129.9,129.2,129.1,128.9,128.8,126.5,126.3,126.2,126.1,126.0,125.8,125.4,125.3,124.8(two peaks are overlapped),124.5,35.7,35.63,35.61,35.57,31.78(two peaks are overlapped),31.75(two peaks are overlapped)ppm.
MS(DART-TOF)m/z:676[M]+.
IR(neat):2956,1770(C=O),933,742,727,607cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C44H46Cl2O2[M]+:676.2875,found:676.2862.
【0064】
合成例7
2,6,9,13-tetra-tert-butyldiindeno[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]chrysene-4,11-di-one(2,6,9,13-テトラ-ターシャリー-ブチルジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オン)(化合物16)の合成
アルゴン雰囲気下、一径フラスコに原料の化合物15(6.37g,9.4mmol)と無水塩化メチレン(86mL)を加えた。この溶液に、0℃下で塩化アルミニウム(3.76g,28.2mmol)を加え、30分間攪拌後、水を加えて反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対してクロロホルムで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、6.03gの粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作を行い、5.22g(92%)の化合物16を黄色固体として得た。
【0065】
化合物16の分析データ
M.p.>350℃.
1HNMR(400MHz,CDCl3)9.06(s,4H),8.06(s,4H),1.57(s,36H)ppm.
13CNMR(100MHz,CDCl3)194.7,153.4,137.8,133.8,128.8,127.9,127.0,121.7,36.6,32.3ppm.
MS(DART-TOFMS)m/z:605[MH]+.
IR(neat):2952,1714(C=O),1363,1204,877,774cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C44H45O2[MH]+:605.3420,found:605.3397.
Anal.Calcd.for C44H44O2;C,87.38;H,7.33.Found: C,87.46;H,7.25.
【0066】
化合物16から本発明の化合物1、2、3の合成スキームを以下に示す。
【化18】
【0067】
実施例1
化合物1の合成
アルゴン雰囲気下、ジケトン体である化合物16(2.0g、3.3mmol)、無水塩化メチレン(500mL)を加え、室温で10分攪拌した。1,3-プロパンジチオール(3.3mL,33mmol)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(6.7mL,53mmol)を加え、室温で1時間攪拌後、水を加えて反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対してクロロホルムで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、粗生成物を得た。シリカゲルによる濾過カラム精製操作を行い、化合物1を1.8gの白色固体として得た(収率70%)。
【0068】
化合物1のデータ
M.p.302℃(dec.).
1HNMR(400MHz,CDCl3)9.11(s,4H),8.18(s,4H),3.51(t,J=5.7Hz,8H),2.54-2.53(m,4H),1.63(s,36H) ppm.
13CNMR(100MHz,CDCl3)151.7,148.3,132.6,129.9,127.6,122.9,119.3,55.7,36.5,32.7,28.3,25.1ppm.
MS(DART-TOFMS)m/z:785[MH]+.
IR(neat)2958,1595,1415,1271,1203,754,731,665cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C50H57S4:785.3338[MH]+,found:785.3329.
【0069】
実施例2
化合物2の合成
アルゴン雰囲気下、化合物1(450mg,0.57mmol)、無水塩化メチレン(324mL)を加えて室温で20分間攪拌した。ヘアドライヤーで加熱して溶液に近い無色曇状に誘導した。その後、ヨウ化ナトリウム(8.5g,57mmol)を加え、続いてトリメチルクロロシラン(7.2mL,57mmol)を添加した。室温下89時間攪拌した後に、水を加えて加水分解を行い、30分攪拌した。飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対してクロロホルムで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、粗生成物を得た。シリカゲルによる濾過カラム精製操作を行い、化合物2を242mgの白色固体として得た(収率74%)。
【0070】
化合物2のデータ
M.p.214-219℃.
1HNMR(400MHz,CDCl3)9.17(s,4H),7.92(s,4H),4.43(s,4H),1.63(s,36H)ppm.
13CNMR(100MHz,CDCl3)150.7,142.0,136.8,129.9,127.5,120.8,120.2,37.9,36.4,32.8ppm.
MS(DART-TOFMS)m/z:577[MH]+.
IR(neat)2952,1599,1412,1360,1276,1214,846,756,732,665cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C44H49:577.3829[MH]+, found:577.3802.
【0071】
実施例3
化合物3の合成
アルゴン雰囲気下、化合物2(1.4g,2.4mmol)のベンゼン(38mL)懸濁液に、室温下、三塩化アルミニウム(770mg,5.8mmol)を加えた。反応溶液を室温で30 分攪拌後、0℃下で蒸留水(60mL)を3分かけて加え、反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対して塩化メチレンで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、粗生成物を得た。シリカゲルによる濾過カラム精製操作を行い、化合物3を624mgの白色固体として得た(収率73%)。
【0072】
化合物3のデータ
M.p.268-274℃.
1HNMR(400MHz,CDCl3)9.11(dd,J=6.4Hz,6.4Hz,4H),7.85-7.81(m,8H),4.47(s,4H)ppm.
13CNMR(100MHz,CDCl3)142.1,138.7,129.1,128.2,127.7,124.6,122.1,37.8ppm.
MS(DART-TOFMS)m/z:353[MH]+.
IR(neat)2923,1494,1442,1418,1393,1085,1027,937,821,767,708,619,475cm-1.
HRMS(DART-TOF)calcd.for C28H17:353.1325[MH]+, found:353.1314.
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物は、高分子材料、高耐熱性樹脂、光機能性材料、有機エレクトロニクス材料、化学センサー材料、高機能炭素材料、分子ナノカーボン材料、グラフェンナノリボン材料の分野に適用可能である。具体的には、低伝送損失基板材料、低誘電・光接着ポリイミド樹脂用原料、リソグラフィー用材料、レジスト材料、有機EL用材料、接着剤等の樹脂用材料、スーパーエンジニアリングプラスチック用材料、有機半導体材料、有機態様電池用材料、フレキシブルプリント基板等が挙げられる。特に、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子や、その前駆体の化合物として応用可能である。また、屈折率が高く、プラスチックレンズなどの高屈折率材料、光学材料として応用可能である。また、本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物の製造方法は、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子として有用なジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する化合物の製造方法として適用可能である。
本発明の最も重要な要素は、ジベンゾ[g,p]クリセンが持つ2箇所のベイ領域を、メチレン基を用いて架橋した4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンを合成したことである。その主たる効果は、以下の通りである。
(1)バックミンスターフラーレン(C60)の部分構造である4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンを初めて合成し、全く新しい物質を発明したことである。C60は特徴的な物理化学的性質(例えば高い電子受容性など)を有するため、その部分構造も機能性の高い有機分子として期待される。
(2)液相条件下にてボトムアップ合成したことである。原料となるジケトン化合物は、複数個のtert-Bu基を持つため、有機溶媒には問題なく溶ける。そのため、本発明にて標的とする化合物を液相合成することが可能となり、純度の高い物質合成を達成できる。量的供給も十分に可能である。