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特開2024-49989ニッケル水素電池の寿命を推定する方法
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  • 特開-ニッケル水素電池の寿命を推定する方法 図1
  • 特開-ニッケル水素電池の寿命を推定する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049989
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ニッケル水素電池の寿命を推定する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20240403BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20240403BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20240403BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01M10/48 P
G01R31/392
G01R31/378
H01M10/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156540
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】山中 哲
(72)【発明者】
【氏名】田村 雅伯
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 英之
【テーマコード(参考)】
2G216
5H028
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA29
5H028AA06
5H028AA10
5H028BB10
5H028BB11
5H028HH01
5H030AA10
5H030AS03
5H030AS08
5H030FF51
(57)【要約】
【課題】 充放電サイクルの頻度や環境温度が時間の経過に伴い変わる場合があっても高精度でニッケル水素電池の寿命を推定する方法を提供する。
【解決手段】 水素吸蔵合金を含む負極板を電解液と共に収容するニッケル水素電池の寿命を推定するにあたり、ニッケル水素電池を充電する充電段階と、充電段階後にニッケル水素電池を放電させる放電段階とを充放電サイクルの1サイクルとする。電解液と接触する界面となる負極板の表面積が、1サイクルの充放電を経た後で変化するときの変化率を求める。n回のサイクルに対して累積された変化率に基づいて水素吸蔵合金の腐食量を求め、腐食量に基づき電池の寿命を推定する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板とセパレータを介して対向するとともに水素吸蔵合金を含む負極板とを、電解液と共に収容するニッケル水素電池の寿命を推定する方法であって、
前記ニッケル水素電池を充電する充電段階と、前記充電段階後に前記ニッケル水素電池を放電させる放電段階とを、充放電サイクルの1サイクルとし、
前記電解液と接触する界面となる前記負極板の表面積が、1回の充放電サイクルを経た後で変化するときの変化率を求める工程と、
n回の充放電サイクルに対して累積させた前記変化率に基づいて前記水素吸蔵合金の腐食量を求め、前記腐食量に基づき前記寿命を推定する、方法。
【請求項2】
前記ニッケル水素電池の充電段階及び放電段階の期間と、第i番目のサイクルと第(i+1)番目のサイクル(iはn未満の自然数)との間における前記ニッケル水素電池の充電及び放電のどちらでもない放置段階の期間と、を合わせた最初の充電段階からの経過時間を求める工程を、さらに有し、
前記変化率は、1回の充放電サイクルによる前記表面積の増加率であり、
サイクル毎に測定されたn回分の増加率と、前記経過時間とに基づいて、前記水素吸蔵合金の腐食量を求める、請求項1記載の方法。
【請求項3】
n回の充放電サイクル数と、サイクル毎に測定されたn回分の増加率と、前記経過時間とに基づき、前記放置段階での前記水素吸蔵合金の腐食量を推定する、請求項2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素電池の寿命を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素電池は、様々な用途に使用されており、工業用途としては、バックアップ電源や車載用電源として用いられている。そのため、ニッケル水素電池に対して、長期信頼性や電池パックの交換頻度削減のために長寿命化が求められている。一方で、実際に電池を評価するには相当の期間を必要とするので、電池寿命を推定する手段が必要とされている。
【0003】
例えば、これまでの寿命推定方法は、環境温度や充放電条件毎に電池を評価し、経験に基づいた式を利用して計算している(特許文献1)。また、ニッケル水素電池の劣化は、負極の水素吸蔵合金の腐食に起因することから、負極の腐食量を経験的に数式化し、腐食量に応じて電池の寿命を推定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2006/013881号
【特許文献2】特開平8-138759号
【特許文献3】特開2000-215923号
【特許文献4】特開2000-243459号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでの寿命推定方法は、電池電圧や内部抵抗の経時変化に着目した経験的な手法のため、充放電サイクルの頻度や環境温度が時間の経過に伴い変わるような広範囲の条件の下では、高い精度で推定する事は難しかった。
【0006】
一方、負極の腐食を考慮した推定は、実績データに基づく手法であるため実測条件範囲では高い精度で行うことができた。しかしながら、電池電圧や内部抵抗の経時変化に基づく推定と同様に、充放電サイクルの頻度や環境温度が時間の経過に伴い変わる場合は、高い精度で推定することは難しかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、充放電サイクルの頻度や環境温度が時間の経過に伴い変わる場合があっても高精度でニッケル水素電池の寿命を推定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の方法は、正極板と、負極板とセパレータを介して対向するとともに水素吸蔵合金を含む負極板とを、電解液と共に収容するニッケル水素電池の寿命を推定する方法であって、前記ニッケル水素電池を充電する充電段階と、前記充電段階後に前記ニッケル水素電池を放電させる放電段階とを、充放電サイクルの1サイクルとし、前記電解液と接触する界面となる前記負極板の表面積が、1回の充放電サイクルを経た後で変化するときの変化率を求める工程と、n回の充放電サイクルに対して累積させた前記変化率に基づいて前記水素吸蔵合金の腐食量を求め、前記腐食量に基づき前記寿命を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、電池の寿命をより精度良く推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係るニッケル水素電池を部分的に破断して示す図である。
図2】電池の実測寿命に対する実施例と比較例とのそれぞれの推定寿命の誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施の形態に係るニッケル水素電池の寿命推定方法について説明する。
1.電池の構成
寿命推定の対象となるニッケル水素電池(以下、「電池」と称す)1は、例えば図1に示すように、AAサイズの円筒型の所定電池容量を有する二次電池セルである。電池1は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶2に、正極板3と負極板4とがセパレータ5を介して対向して巻回された電極群6がアルカリ電解液と共に収容され、上端が封口体7にて封止されている。
【0012】
外装缶2は、底壁8が導電性を有して負極端子として機能する。封口体7は、蓋板9及び正極端子10を含む。蓋板9は、導電性を有して中央にガス抜き孔11を有し、蓋板9の外面上には、ガス抜き孔11を塞ぐゴム製の弁体12が配置される。蓋板9は、外装缶2の開口端部にリング形状のガスケット13を介して配置され、外装缶2の開口縁をかしめ加工することにより当該開口を閉塞する。蓋板9には、正極端子10が取付けられる。
【0013】
電極群6において、正極板3、負極板4及びセパレータ5は、それぞれ帯状に形成されている。正極板3と負極板4との間にセパレータ5が挟み込まれた状態で渦巻状に巻回されて、電極群6は、ほぼ円柱形状をなしている。すなわち、正極板3及び負極板4は、セパレータ5を介して互いに対向し、外装缶2の径方向に重ね合わせられている。
【0014】
外装缶2内では、電極群6の一端と蓋板9との間に正極リード14が配置され、正極リード14の各端部は、それぞれ正極板3及び蓋板9に電気的に接続される。
【0015】
正極板3は、多孔質構造を有する導電性の正極基板と、正極基板の空孔内及び正極基板の表面に保持された正極合剤とからなる。正極基板としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体や発泡ニッケルを用いることができる。
【0016】
正極合剤は、正極活物質粒子、導電材、正極添加剤及び結着剤を含む。正極活物質粒子は、水酸化ニッケル(Ni(OH))粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。なお、これら水酸化ニッケル粒子には、亜鉛、マグネシウム及びコバルトのうちの少なくとも一種を固溶させることが好ましい。
【0017】
負極板4は、帯状をなす導電性の負極芯体を有し、この負極芯体に負極合剤が担持される。負極芯体は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、表面にニッケルメッキを施した鉄製のパンチングシートを用いる。負極合剤は、負極芯体に保持されると負極合剤層を構成する。
【0018】
負極合剤は、水素吸蔵合金の粒子(以下、合金粒子と称す)、負極添加剤、導電材及び結着剤を含む。
【0019】
水素吸蔵合金は、負極活物質である水素を吸蔵及び放出可能な合金である。水素吸蔵合金としては、一般的な水素吸蔵合金を用いることができる。ここで、本開示においては、希土類元素、Mg、Niを含む希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。
【0020】
セパレータ5は、例えば、フッ素処理やスルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維からなる不織布からなる。
【0021】
電極群6は、負極側が外装缶2の底壁8に接するように外装缶2に収容される。
【0022】
外装缶2内に、所定量のアルカリ電解液を注入したあと、外装缶2の開口を塞ぐ。アルカリ電解液は、正極板3、負極板4及びセパレータ5に含浸され、正極板3と負極板4との間の電気化学反応、いわゆる充放電反応に関与する。アルカリ電解液としては、NaOHを溶質の主体として含むアルカリ電解液が用いられる。
【0023】
上記のようにして作成された電池1に対し初期活性化処理を行い、電池1を使用可能状態とする。
【0024】
2.電池寿命の推定
次に、電池1の寿命の推定方法について以下に説明する。
【0025】
電池1は、満充電になるまで充電される充電段階と、充電後に負荷に向けて放電する放電段階との組合せを1サイクルとする充放電サイクルを複数回繰り返す。
【0026】
電池1が電気的に接続されている負荷に放電する場合、電池1の放電は、電池電圧が放電終止電圧まで降下すると終了する。なお、放電終止電圧とは、電池1が放電可能な電圧であって、放電可能な電池容量が0%になる電池電圧である。ニッケル水素電池では、1セルあたり、1.1~0.8Vに降下した電圧である。
【0027】
または、間欠充電制御など、電池1を常に放電可能に維持するための制御が電池1に行われている場合、自己放電などの浅い放電によって電池電圧が放電終止電圧に降下する前に、電池1の充電が開始される。
【0028】
電池1は、サイクル数の増加に従い放電可能な電池容量が低下して寿命に至る。電池1の劣化の主な要因は、サイクル数の増加に伴い進行する負極の水素吸蔵合金の腐食であることが知られている。水素吸蔵合金の腐食は、充電段階及び放電段階に加えて、充電段階及び放電段階のどちらでもない状態、すなわち、自己放電を含む電池を使用していない状態又は放置状態を含む放置段階においても進行する。
【0029】
水素吸蔵合金の腐食は、アルカリ電解液と負極との界面に位置する合金粒子の表面から始まる。また、合金粒子の表面では、電池1の充放電反応によりクラックが発生して合金粒子が微粉化する。微粉化により生じた合金粒子の表面は、アルカリ電解液と接触するので、次の充放電反応でクラック発生の対象となる面になる。このように、サイクル数の増加に伴い、合金粒子の微粉化が進むので、アルカリ電解液に晒される合金粒子の総表面積が増えていく。
【0030】
また、合金粒子の腐食の進行は、充電段階及び放電段階と、放置段階とに分けて推定する。充電段階及び放電段階での腐食は、サイクル数に実質的に比例して進行する。一方、放置段階での腐食は、サイクル数と、電池1の使用開始からの経過時間とに依存する。さらに、放置段階の腐食は、微粉化による合金粒子表面積の増加にも依存することを本発明者は見出した。
【0031】
そこで、本発明者は、合金粒子の腐食のモデル化を試行し、以下に示す式(1)から負極の腐食量を求め、その腐食量から推定される電池1の寿命が、後述する実験結果と整合することを確認した。なお、水素吸蔵合金の腐食は、振動型磁力計であるVIBRATING SAMPLE MAGNETOMETER(VSM)装置を用いたニッケルの飽和磁化(emu/g)を測定して定量化する。
【0032】
【数1】
【0033】
式(1)における各パラメータは以下のとおりである。
M:負極の飽和磁化
Mo:初期の飽和磁化[emu/g] 使用開始時(t=0)における飽和磁化のスタート値。
At:放置期間1か月あたりの腐食進行係数[emu/g month]
α:1サイクルあたりの腐食速度の増加率、但し、第1サイクルでの値
σ:1サイクルあたりのαの減少率
t:電池使用開始からの経過時間(充電段階、放電段階及び放置段階に相当する期間の総計)、単位は月[month]
T:環境温度、単位は[K]
ref:参照温度[K] At及びAcの基準となる温度
Ac:1サイクルあたりの腐食係数[emu/g cyc]
Ncyc:サイクル回数[cyc]
Qt、Qc:時間経過による腐食進行、充放電による腐食進行の活性化エネルギー[J/mol]
【0034】
式(1)の右辺において、第1項は使用開始時の初期の飽和磁化、第2項は放置段階での腐食による飽和磁化、第3項は充放電段階での腐食による飽和磁化を表す。放置段階での腐食による飽和磁化は、従前の推定により判明している「経過時間による腐食」に、「微粉化による合金粒子の表面積増加」に対応する数値を掛けることによって推定される。本開示において、「経過時間」とは、充電段階、放電段階及び放置段階の合計時間、すなわち、電池の使用開始時からの経過時間である。
【0035】
既述したように、微粉化により生じた新たな表面は、次の充放電反応により腐食される。また、既存の表面も、次の充放電反応により累積的に腐食されることになる。したがって、巨視的には、合金粒子の微粉化による合金粒子の表面積の増加は、一サイクルあたりの腐食速度の増加率αを初項として、一サイクルあたりのαの減少率σを公比とする等比数列の和としてモデル化できる。式(1)から合金粒子の微粉化による表面積の増加を示す部分(2)を以下に示す。なお、微粉化による合金粒子の表面積の増加率は、サイクル数が増えるに従い徐々に小さくなることが実験的に確認されている。
【0036】
【数2】
【0037】
上記のように、負極の合金腐食量を計算するにあたり、充電段階及び放電段階に生じる合金粒子の表面積の増加を含めることにより、合金腐食量の推定精度の向上が期待される。
【0038】
3.電池の推定寿命と実測寿命との比較
次に、式(1)を用いて推定される電池1の推定寿命と、実測寿命との比較を行った。比較に使用した電池は、AAサイズ、容量1000mAhの電池1である。この電池に対し、充電段階では環境温度40℃で間欠充電を行った。間欠充電は、電池電圧が1.34V以下に低下した時に0.1C充電を1時間行い電池1を満充電にする。電池1が放電する放電段階では、電池1が環境温度25℃で10分間に亘り2Wを出力可能であれば、電池1は使用可能であると判断する。一方、環境温度25℃で10分間に亘り2Wの電力を出力できなければ、電池は寿命であると判断されて、新しい電池に交換される。このように、電池1は、使用または放置により電池電圧が1.34V以下になると充電されるので、通常、係る充電は4日間に1回のペースで行われる。電池電圧が1.34Vに低下した電池は、電池容量が満充電に対し90%残っている状態であり、再開される充電により電池容量の10%を充電する。すなわち、本実施の形態では、電池1の推定寿命と実測寿命とを比較するにあたり、1サイクルは、満充電まで電池1が充電される充電段階と、負荷に向けて放電を行い電池容量が90%になる放電段階との組合せを意味し、充電段階及び放電段階のどちらでもない段階が放置段階に相当する。
【0039】
電池の使用開始から、3ヶ月後(実施例1)、6ヶ月後(実施例2)、1年後(実施例3)の電池の飽和磁化と内部抵抗とを測定して、式(1)を利用して、実施例毎に推定した寿命を表1に示す。上記したように、4日間に充電が1回行われることから、1月を30日と仮定すると、実施例1の3ヶ月間では22.5回の充電、実施例2の6ヶ月間では45回の充電、実施例3の1年間(365日)では91回の充電が行われると想定される。
【0040】
比較のために、各実施例の電池に対し、式(1)において合金粒子の微粉化による表面積増加を表す部分(2)を1に置換して、すなわち微粉化による表面積増加を考慮しない3ヶ月後(比較例1)、6ヶ月後(比較例2)、及び1年後(比較例3)の寿命を表1及び図2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
AAサイズ、容量1000mAhの電池1の実測寿命は79ヶ月であった。微粉化による合金粒子の表面積増加を加味した電池1の推定寿命は、実施例1で77.3ヶ月、実施例2で77.4ヶ月、実施例3で77.6ヶ月であった。実測寿命に対する誤差は約1.6ヶ月であった。これに対し、合金粒子の表面積増加を考慮しない電池1の推定寿命は、比較例1で102.5ヶ月、比較例2では95.5ヶ月、比較例3では95.3ヶ月である。いずれの比較例の推定寿命も、実測寿命に比べて短く、特に使用開始時に近い電池の推定寿命は、実測寿命に対して23.5ヶ月、およそ2年余り短い。したがって、合金粒子の表面積増加を加味せずに電池寿命を推定してしまうと、当初の推定時期よりも前に電池が使用できなくなり、電池を使用する装置や設備に不測の事態を招くことになる。
【0043】
このように、測定される負極の飽和磁化から、合金粒子の微粉化による合金粒子の表面積増加を考慮して寿命を推定すると、実測値に近い年数を算出できる。さらに、合金粒子の表面積増加を考慮した推定寿命は、実測寿命に対し1.6ヶ月短いために、電池性能を効率的に使用できるとともに、係る電池を使用する装置や設備の動作に支障を与えない。
【0044】
また、合金粒子の表面積増加のモデル化として、1サイクルあたりの腐食速度の増加率αを初項、1サイクルあたりのαの減少率σを公比とし、1からサイクル回数Nまでの等比数列の和の計算式を採用することにより、例えば1年未満などの短期間の負極板の飽和磁化の測定値に基づいて実測寿命に近い推定寿命を算出することができる。
【0045】
本開示では、水素吸蔵合金粒子の腐食を、電池の充放電段階と、電池の充電又は放電のどちらでもない放置段階とに分けて算出し、また、サイクル数に伴い微粉化されて増加する合金粒子の表面積増加を考慮することによって、電池寿命の推定精度を向上させることができる。
【0046】
上記実施形態では、AAサイズの円筒形電池を使用したが、本開示は、水素吸蔵合金粒子を負極合材とする適宜の二次電池に適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 電池
2 外装缶
3 正極板
4 負極板
5 セパレータ
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-09-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
【表1】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
AAサイズ、容量1000mAhの電池1の実測寿命は79ヶ月であった。微粉化による合金粒子の表面積増加を加味した電池1の推定寿命は、実施例1で77.3ヶ月、実施例2で77.4ヶ月、実施例3で77.6ヶ月であった。実測寿命に対する誤差は約1.6ヶ月であった。これに対し、合金粒子の表面積増加を考慮しない電池1の推定寿命は、比較例1で102.5ヶ月、比較例2では95.5ヶ月、比較例3では95.3ヶ月である。いずれの比較例の推定寿命も、実測寿命に比べて長く、特に使用開始時に近い電池の推定寿命は、実測寿命に対して23.5ヶ月、およそ2年余り長い。したがって、合金粒子の表面積増加を加味せずに電池寿命を推定してしまうと、当初の推定時期よりも前に電池が使用できなくなり、電池を使用する装置や設備に不測の事態を招くことになる。