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  • 特開-耐油紙及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050015
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】耐油紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/34 20060101AFI20240403BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
D21H19/34
D21H27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156578
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 卓哉
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG46
4L055BE08
4L055EA14
4L055EA25
4L055FA30
4L055GA48
(57)【要約】
【課題】生分解性があり、かつ十分な耐油性を有する耐油紙を提供すること。
【解決手段】紙基材10と、紙基材10の一方の面11に設けられた酢酸セルロースを含む樹脂層20と、を備え、樹脂層20の厚さが2μm以上、20μm以下である、耐油紙100。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、
前記紙基材の一方の面に設けられた酢酸セルロースを含む樹脂層と、
を備え、
前記樹脂層の厚さが2μm以上、20μm以下である、
耐油紙。
【請求項2】
請求項1に記載の耐油紙において、
前記酢酸セルロースの酢化度が、50%以上、62%以下である、
耐油紙。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の耐油紙において、
前記酢酸セルロースのアセチル基総置換度が、2.3以上、2.6以下である、
耐油紙。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の耐油紙において、
前記樹脂層は、前記酢酸セルロースが有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングしてなる樹脂層である、
耐油紙。
【請求項5】
紙基材上に、酢酸セルロースが有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングして、厚さが2μm以上、20μm以下である樹脂層を形成する工程を含む、
耐油紙の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の耐油紙の製造方法において、
前記塗布液の粘度が、20mPa・s以上、2000mPa・s以下である、
耐油紙の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の耐油紙の製造方法において、
前記有機溶剤が、エチルメチルケトン、ジメチルホルムアミド、及びシクロヘキサノンからなる群から選択される少なくとも1つの有機溶剤である、耐油紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐油紙を用いた紙製容器は、安価で使い捨てができるので、食品産業などで広く使われている。
例えば、特許文献1には、木材パルプと合成樹脂とによるシートを原料として、熱プレス成形によって、先ず紙製容器の底部のみを最初に成形し、次に上縁部を成形し、最後に紙製容器胴体部を成形する、深絞り紙製容器の製造方法が記載されている。
また、特許文献2には、水蒸気通過をブロックせずに、良好な耐油性と、内容物の結露を防止可能な耐油紙において、基材である紙層の片面上に少なくとも1層の生分解性樹脂層を形成した耐油紙が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-176130号公報
【特許文献2】特開2004-131859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で得られた紙製容器には、生分解性のない合成樹脂が熱プレス成形されているため、紙製容器の生分解性の点で問題があった。
また、特許文献2に記載の耐油紙は、耐油性の点で必ずしも十分なものではなかった。また、特許文献2に記載の生分解樹脂層として、ポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、及び澱粉系材料などが例示されているが、酢酸セルロースは記載されていない。
【0005】
本発明の目的は、生分解性があり、かつ十分な耐油性を有する耐油紙、並びに、耐油紙の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 紙基材と、
前記紙基材の一方の面に設けられた酢酸セルロースを含む樹脂層と、
を備え、
前記樹脂層の厚さが2μm以上、20μm以下である、
耐油紙。
【0007】
[2] [1]に記載の耐油紙において、
前記酢酸セルロースの酢化度が、50%以上、62%以下である、
耐油紙。
【0008】
[3] [1]又は[2]に記載の耐油紙において、
前記酢酸セルロースのアセチル基総置換度が、2.3以上、2.6以下である、
耐油紙。
【0009】
[4] [1]から[3]のいずれかに記載の耐油紙において、
前記樹脂層は、前記酢酸セルロースが有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングしてなる樹脂層である、
耐油紙。
【0010】
[5] 紙基材上に、酢酸セルロースが有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングして、厚さが2μm以上、20μm以下である樹脂層を形成する工程を含む、
耐油紙の製造方法。
【0011】
[6] [5]に記載の耐油紙の製造方法において、
前記塗布液の粘度が、20mPa・s以上、2000mPa・s以下である、
耐油紙の製造方法。
【0012】
[7] [5]又は[6]に記載の耐油紙の製造方法において、
前記有機溶剤が、エチルメチルケトン、ジメチルホルムアミド、及びシクロヘキサノンからなる群から選択される少なくとも1つの有機溶剤である、耐油紙の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、生分解性があり、かつ十分な耐油性を有する耐油紙、並びに、耐油紙の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る耐油紙の一例を模式的に表す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一例である耐油紙の好ましい実施形態について説明する。
【0016】
本実施形態に係る耐油紙は、紙基材と、前記紙基材の一方の面に設けられた酢酸セルロースを含む樹脂層と、を備える。前記樹脂層の厚さが2μm以上、20μm以下である。
【0017】
本実施形態に係る耐油紙は、上記構成を備えることにより、生分解性があり、かつ十分な耐油性を有する、という特性が得られる。この理由は定かではないが、酢酸セルロースは、酢酸セルロース以外の生分解性樹脂よりも耐油性が高いため、上記の十分な耐油性を有する耐油紙が得られると、本発明者らは推察している。
なお、耐油紙の耐油性は、JAPAN TAPPI No.41:2000に記載のはつ油度で評価できる。このはつ油度(しみ込まないキットナンバーの最高値)は、7以上であることが好ましく、8以上であることが好ましく、10以上であることがさらにより好ましく、12以上であることが特に好ましい。
【0018】
樹脂層の厚さは、2μm以上、20μm以下であることが必要である。樹脂層の厚さが2μm未満では、耐油紙の耐油性が不十分となる。他方、樹脂層の厚さが20μmを超えると、(i)耐油紙の光沢が大きくなり過ぎるという問題、(ii)耐油紙が硬くなり過ぎて、耐折強度が不十分となるという問題、又は、(iii)耐油紙にカールが発生するという問題などが発生するおそれがある。また、同様の観点から、樹脂層の厚さは、3μm以上であることがより好ましい。また、樹脂層の厚さは、10μm以下であることがより好ましい。5μm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本実施形態に係る耐油紙について、図面を参照して説明する。図1に示される耐油紙100は、紙基材10と、紙基材10の一方の面(紙基材10の第一主面11)に設けられた樹脂層20とを備えており、紙基材10、及び樹脂層20が、紙基材10から樹脂層20に向かって、この順で、順次積層されている。紙基材10の第二主面13には、層が設けられておらず、紙基材10の第二主面13が露出している。樹脂層20は、酢酸セルロースを含む。耐油紙100においては、樹脂層20が設けられた紙基材10の第一主面11に、耐油性が付与される。ここで、主面とは、紙基材、又は樹脂層の最大面であり、厚さ方向(すなわち、各層の積層方向)に向く面を表す。
【0020】
以上、図1を参照して、本実施形態に係る耐油紙の一例を説明したが、本実施形態に係る耐油紙は、これに限定されるものではない。本実施形態に係る積層体は、上記構成を有していれば、種々の形態を採用し得る。
【0021】
(紙基材)
紙基材としては、後述の樹脂層を支持できれば、特に限定されるものではない。紙基材としては、例えば、クラフト紙、グラシン紙、非コート紙(例えば、上質紙、中質紙、及び薄葉紙など)、及びコート紙(例えば、アート紙、クレーコート紙、及びキャストコート紙など)などが挙げられる。
【0022】
本明細書において、コート紙は、パルプ繊維を主成分とする原紙と、原紙の上に設けられた顔料コート層とを備えている。原紙は、例えば、パルプ繊維を主成分として、目的とする添加剤が添加され、公知の方法で得られる。顔料コート層は、原紙の上に、公知の方法で設けられる。顔料コート層は、単層構造でもよく、多層構造でもよい。顔料コート層は、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、サチンホワイト、酸化チタン、及びプラスチックピグメントなどの1種又は2種以上の顔料100質量部に対して、例えば、水性樹脂などの接着剤を、2質量部以上、50質量部以下の範囲で含有する。
【0023】
紙基材の坪量は、特に限定されず、例えば、30g/m以上であることが好ましく、50g/m以上であることがより好ましい。紙基材の坪量は、例えば、300g/m以下であることが好ましく、200g/m以下であることがより好ましい。
紙基材の厚さは、特に限定されず、例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。紙基材の厚さは、例えば、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0024】
基材が、コート紙である場合、原紙の厚さは、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。原紙の厚さは、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。顔料コート層の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。顔料コート層の厚さは、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0025】
(樹脂層)
樹脂層は、酢酸セルロースを含んでいる。樹脂層は、酢酸セルロースのみが含まれていることが好ましい。
【0026】
酢酸セルロースは、生分解性が得られ易くなる観点で、酢化度が50%以上であることが好ましく、52%以上であることがより好ましい。酢酸セルロースは、酢化度が53%以上でもよく、54%以上でもよい。酢酸セルロースは、生分解性が得られ易くなる点で、酢化度が62%以下であることが好ましい。
【0027】
酢酸セルロースの酢化度は、ASTM D-817-91(セルロースアセテートなどの試験方法)の酢化度の測定方法に準拠して測定することができる。
【0028】
酢酸セルロースのアセチル基総置換度は、生分解性が得られ易くなる観点で、2.3以上であることが好ましく、2.4以上であることがより好ましい。酢酸セルロースのアセチル基総置換度は、生分解性が得られ易くなる観点で、2.6以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。
【0029】
酢酸セルロースのアセチル基総置換度は、酢酸セルロースの酢化度から、下記数式(F1)で換算することにより求められる。
DS=162.14×AV/(6005.2-AV×42.037)・・・(F1)
数式(F1)中、DSは、アセチル基総置換度、AVは、酢化度(%)を表す。
【0030】
また、酢酸セルロースは、25±1℃における6%粘度(6%に希釈した際の粘度)が50mPa・s以上200mPa・s以下であることが好ましい。なお、6%粘度は、例えば、乾燥試料3gを、95%アセトン水溶液39.9gで溶解させた6wt/vol%の溶液を試料とすればよい。
酢酸セルロースは、融点が230℃以上、300℃以下であることが好ましい。
酢酸セルロースを含有する溶液の粘度は、例えばJIS K7117-1:1999で規定される方法に準拠して測定できる。また、酢酸セルロースの融点は、例えばJIS K7121-1987で規定される方法に準拠して測定できる。
【0031】
樹脂層は、(i)酢酸セルロースを溶融押出法によって設けられた樹脂層であってもよく、(ii)酢酸セルロースを有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングしてなる樹脂層であってもよい。樹脂層の形成のしやすさと密着性の観点で、樹脂層は、酢酸セルロースを有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングしてなる樹脂層であることが好ましい。
樹脂層には、熱プレスが施されていないことが好ましい。樹脂面の平滑度が高くなりすぎることで、製袋などの工程で接着剤と樹脂面の密着性が低下する傾向にある。
【0032】
樹脂層は、酢酸セルロースの他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、添加剤など(例えば、可塑剤など)のその他の成分を含有してもよい。
【0033】
(耐油紙の製造方法)
次に、本実施形態に係る耐油紙の製造方法について、説明する。
本実施形態に係る耐油紙の製造方法によれば、前述の本実施形態に係る耐油紙を好適に製造できる。
本実施形態に係る耐油紙の製造方法は、紙基材上に、酢酸セルロースが有機溶剤に溶解した塗布液をコーティングして、厚さが2μm以上、20μm以下である樹脂層を形成する工程を備える方法である。
【0034】
紙基材としては、前述の紙基材を使用すればよい。この樹脂層を設ける工程では、紙基材との密着性を高めるために、加熱あるいはコロナ放電処理などの各種表面処理を施してもよい。
この樹脂層を設ける工程では、樹脂層形成用組成物の塗布液を、紙基材上にコーティングした後、乾燥することで、樹脂層が形成される。
【0035】
樹脂層形成用組成物の塗布液の25℃での粘度は、20mPa・s以上、2000mPa・s以下であることが好ましい。粘度が前記範囲内であれば、塗布液を用いて適切な樹脂層を形成し易くなる。この粘度は、例えばJIS K7117-1:1999で規定される方法に準拠して測定できる。
【0036】
酢酸セルロースを溶解する有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、ケトン類(アセトン、シクロヘキサノン、及びメチルエチルケトン(MEK)など)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、及びエステル類(酢酸エチル、及び酢酸ブチルなど)などが挙げられる。これらの有機溶剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの有機溶剤の中でも、酢酸セルロースの溶解のし易さの観点から、エチルメチルケトン、ジメチルホルムアミド、及びシクロヘキサノンからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0037】
樹脂層形成用組成物の塗布液を紙基材の上にコーティングする方法としては、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、カーテンコート法及びグラビアコート法などが挙げられる。樹脂層形成用組成物の塗布液のコーティング量は、例えば、樹脂層の乾燥後の厚さとして、2μm以上、20μm以下の範囲となる量であることが好ましい。樹脂層が酢酸セルロースのみからなる層である場合、樹脂層形成用組成物の塗布液のコーティング量は、特に限定されず、例えば、3g/m以上、30g/m以下であることが挙げられる。
【0038】
以上の工程を経ることにより、本実施形態に係る耐油紙が得られる。
【0039】
本発明は、前記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良などを含むことができる。
【実施例0040】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
各実施例及び各比較例の積層体を作製するための原材料として、下記の原材料を準備した。
【0042】
(紙基材)
紙基材-1:上質紙(日本製紙社製、坪量68g/m
紙基材-2:グラシン紙(リンテック社製、坪量62g/m
紙基材-3:コート紙(上質紙(日本製紙社製、坪量68g/m)上に、PVA(ポリビニルアルコール)のコート層(坪量5g/m))
【0043】
(酢酸セルロース)
CA-1:酢化度55%(アセチル基総置換度2.4)の酢酸セルロース(株式会社ダイセル製、L-20)
【0044】
<実施例1>
紙基材-1の片面に、酢酸セルロースをメチルエチルケトンで溶解して調製した樹脂層形成用組成物の塗布液(25℃での粘度1200mPa・s)を、アプリケーターでコーティングした後、120℃、1分間で乾燥して、厚さ3μmで、樹脂層を形成し、実施例1の耐油紙を得た。
【0045】
<実施例2及び3>
紙基材の種類、樹脂層の厚さ、及び樹脂層の有無などを、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、耐油紙を得た。
<比較例1~3>
紙基材の種類、樹脂層の厚さ、及び樹脂層の有無などを、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、紙又は耐油紙を得た。
【0046】
[はつ油度の評価]
上記の各例で得られた耐油紙又は紙について、JAPAN TAPPI No.41:2000に記載のはつ油度(しみ込まないキットナンバーの最高値)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
以上の結果によれば、酢酸セルロースを含む樹脂層が所定範囲の厚さで設けられている実施例の耐油紙は、当該樹脂層が所定範囲の厚さで設けられていない比較例の紙又は耐油紙に比べ、はつ油度に優れることが分かる。
【符号の説明】
【0049】
10…紙基材、11…第一主面(紙基材の第一主面)、13…第二主面(紙基材の第二主面)、20…樹脂層、100…耐油紙。
図1