IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ビーテクノシステムの特許一覧

<>
  • 特開-家屋の免震構造 図1
  • 特開-家屋の免震構造 図2
  • 特開-家屋の免震構造 図3
  • 特開-家屋の免震構造 図4
  • 特開-家屋の免震構造 図5
  • 特開-家屋の免震構造 図6
  • 特開-家屋の免震構造 図7
  • 特開-家屋の免震構造 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050020
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】家屋の免震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240403BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
F16F15/02 L
F16F15/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156584
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】522385290
【氏名又は名称】株式会社ビーテクノシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100120226
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 知浩
(72)【発明者】
【氏名】谷山 惠一
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC02
2E139CA24
2E139CB05
2E139CC02
3J048AA07
3J048AC01
3J048AD05
3J048BE12
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】簡易な構成かつ低コストで、高耐久性が得られ、家屋と家屋構成部材との間の滑りの悪化を阻止でき、十分な減衰機能を発揮する家屋の免震構造を提供する。
【解決手段】家屋10を構成する家屋構成部材14と土台基礎12との間に設けられ、土台基礎12側から家屋構成部材14側に伝達する振動を減衰させる家屋10の免震構造であって、土台基礎12に取り付ける第1の滑り材18と、第1の滑り材18の上面に載置されるとともに家屋構成部材14を支持する第2の滑り材20と、第1の滑り材18の一部にはフッ素樹脂が表面に塗布された第1の鋼板18aを有し、第2の滑り材20の一部にはフッ素樹脂が表面に塗布された第2の鋼板20bを有し、第1の鋼板18aと第2の鋼板20bとを各々のフッ素樹脂を介して接触させ、相互に摺動することにより振動を減衰させる。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
家屋を構成する家屋構成部材と土台基礎との間に設けられ、前記土台基礎側から前記家屋構成部材側に伝達する振動を減衰させる家屋の免震構造であって、
前記土台基礎に取り付ける第1の滑り材と、
前記第1の滑り材の上面に載置されるとともに前記家屋構成部材を支持する第2の滑り材と、
前記第1の滑り材の少なくとも一部には、フッ素樹脂が表面に塗布された第1の鋼板を有し、
前記第2の滑り材の少なくとも一部には、フッ素樹脂が表面に塗布された第2の鋼板を有し、
前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とを各々の前記フッ素樹脂を介して接触させ、相互に摺動することにより前記振動を減衰させる、家屋の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家屋の免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震大国の日本では、従来から様々な地震対策が採用されている。
【0003】
地震対策には、主として、耐震工法と、制震工法と、免震工法と、がある。ここで、耐震工法とは、地震動に対して、家屋が倒壊しないように強固に補強する施工をいう。すなわち、耐震構造では、地震動が家屋へ伝達することを前提として、その力に対して柱、梁、壁が耐え得るように補強する方法が取られている。
【0004】
ところが、耐震工法では、地震動によって家屋自体が倒壊しないようにすることが可能であるが、地震動の揺れによって家屋の中の家具、電気製品が転倒・落下するおそれがある。これにより、家具などが破壊・破損する他に、転倒・落下した家具などにより、その住民が被害を受けるおそれがある。
【0005】
また、制震工法とは、1階の揺れによる変形を利用してダンパ等の制震装置を作動させるものである。1階は地面と同じように揺れるが、2階から上階は、制震装置の効果で揺れが小さくなる。
【0006】
しかしながら、制震工法では、1階が地面と同じように揺れるため、1階の住人は被災するという問題が残る。
【0007】
一方、免震工法とは、家屋の土台基礎に、地震動を伝えない特殊な台(免震支承)を設置し、この免震支承により地震動を家屋に伝えないようにする施工をいう。免震工法により、地面と家屋との間に変位が生じるが、家屋の揺れを大幅に低減させることができる。このように、免震工法では、大掛かりな耐震補強を必要とすることなく、家具等の転倒を防止することができる。
【0008】
ここで、家屋の免震工法について、本願の発明者によって、家屋構成部材(木材)で構成される家屋と、地面に設置される土台基礎と、土台基礎と家屋との間に配置されて土台基礎と家屋との非接触状態を実現し、かつ土台基礎から家屋への地震力の伝達を遮断する鋼板と、土台基礎に配置される復元材と、を有する家屋の免震構造であって、家屋構成部材の鋼板に接触する部位に蝋を塗布し、鋼板の家屋構成部材に接触する部位に塗料を塗布し、家屋が土台基礎に固定されることなく鋼板に載置されるとともに、復元材が家屋側と土台基礎側とを連絡することを特徴とする家屋の免震構造が提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5383944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、鋼板と木材である家屋構成部材との間に発生する減衰機能が発揮され難いという問題があった。加えて、家屋構成部材が木材であるため、鋼板と家屋構成部材(木材)との間の滑り易さ等を実現するために蝋を塗布していたが、その蝋の粘性により蝋にゴミや埃等が付着する問題があった。これにより、鋼板と家屋構成部材との間の摩擦係数がむしろ高くなり、両者間の滑りが悪化していた。さらに、蝋が木材である家屋構成部材の内部に浸透する事態が生じ、家屋構成部材の耐久性が低下する問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、簡易な構成かつ低コストで、高耐久性が得られ、家屋と家屋構成部材との間の滑りの悪化を阻止でき、十分な減衰機能を発揮する家屋の免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、家屋を構成する家屋構成部材と土台基礎との間に設けられ、前記土台基礎側から前記家屋構成部材側に伝達する振動を減衰させる家屋の免震構造であって、前記土台基礎に取り付ける第1の滑り材と、前記第1の滑り材の上面に載置されるとともに前記家屋構成部材を支持する第2の滑り材と、前記第1の滑り材の少なくとも一部には、フッ素樹脂が表面に塗布された第1の鋼板を有し、前記第2の滑り材の少なくとも一部には、フッ素樹脂が表面に塗布された第2の鋼板を有し、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とを各々の前記フッ素樹脂を介して接触させ、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とが相互に摺動することにより前記振動を減衰させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構成かつ低コストで、高耐久性が得られ、家屋と家屋構成部材との間の滑りの悪化を阻止でき、十分な減衰機能が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造が施工される木造家屋の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る家屋の免震施構造を構成する土台基礎側に取り付けられた第1の滑り材の斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造を構成する土台基礎側に載置された家屋構成部材の斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造と併せて用いる復元ゴム部材の斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造を構成する第1の滑り材と第2の滑り材との接触状態を示す概念的な構成図である。
図7】本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造について行った実証実験の実験状況を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造について行った実証実験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造及び家屋の免震施工方法について、図面を参照して説明する。
【0016】
(家屋の免震構造)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造について、家屋10と、土台基礎12と、からなるモデルを例に挙げて説明する。家屋は、新築家屋を対象にする。
【0017】
図2及び図6に示すように、家屋10は、柱、梁及び土台(根太)などの家屋構成部材14を有している。家屋構成部材14は、例えば木材で構成されている。本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造は、家屋10を構成する家屋構成部材14と土台基礎12との間に設けられ、地震などの自然災害発生時において、土台基礎12側から家屋構成部材14側に伝達する振動を減衰させるものである。
【0018】
図2乃至図4図6に示すように、本発明の一実施形態に係る家屋の免震構造は、コンクリート16が打設された土台基礎12と、土台基礎12の上面に配置された第1の滑り材18と、第1の滑り材18の上面に載置されるとともに家屋構成部材14を支持する第2の滑り材20と、を有している。
【0019】
第1の滑り材18は、全体を正方形状又は長方形状等の鋼板(スチール板)18aで構成してもよく、その一部の領域の上面のみを正方形状又は長方形状等の鋼板(スチール板)で構成してもよい。
【0020】
第1の滑り材18は、土台基礎12側に対してボルトなどの固着具により固定される。
【0021】
第2の滑り材20は、直方体状の木で構成された木材部20aと、木材部20aの下面に固着具等により固定された鋼板(スチール板)20bと、で構成されている。
【0022】
第2の滑り材20は、家屋構成部材14に対して固着具等により固定されている。このため、木材部20aが家屋構成部材14の下面に面接触した状態である。
【0023】
第1の滑り材18と第2の滑り材20は、家屋構成部材12を下方から支持する支持機能を有している。詳細には、第1の滑り材18と第2の滑り材20の圧縮強度により家屋10を支持している。
【0024】
第1の滑り材18の鋼板18a及び第2の滑り材20の鋼板20bの表面には、防錆及び摩擦係数低減の観点から、所定の塗料が塗布されている。塗料として、例えば、フッ素樹脂塗料が採用されるが、これに限られるものではない。フッ素樹脂塗料として、例えば、ポリアミドイミド(PAI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが用いられる。このため、第1の滑り材18の鋼板18aの表面にはフッ素樹脂層18bが形成されている。また、第2の滑り材20の鋼板20bの表面にも、同様にしてフッ素樹脂層20cが形成されている。
【0025】
ここで、各鋼板18a、20bに塗布される塗料は、少なくとも各鋼板18a、鋼板20bが相互に接触し得る部位に塗布されていれば足りる。各鋼板18a、鋼板20bの表面に所定の塗料が塗布されているため、地震の発生時に、第1の滑り材18の鋼板18aと第2の滑り材20の鋼板20bとの間で滑り易くなる。これにより、鋼板同士がフッ素樹脂を介して接触することになるため、高い減衰機能を発揮させることができ、免震機能を一層高めることができる。
【0026】
以上のように、家屋10の免震構造は、土台基礎12側に接地された第1の滑り部材18と、第1の滑り材18の上面(上側表面)に載置された第2の滑り材20と、第2の滑り材20の上面(上側表面)に載置された家屋構成部材14と、が階層的に構成されている。
【0027】
家屋10は、例えば、木造家屋である。既存の家屋でもよいが、今後新しく建てる新築家屋を対象とする。また、木造家屋の他に、鉄骨構造で作られた家屋でもよい。
【0028】
土台基礎12は、図示しないが、基礎と、土台と、で構成されている。基礎とは、家屋を地面に固定するためのものである。土台とは、家屋と基礎とをつなぐためのものである。土台には、側土台と、間仕切土台と、を有している。
【0029】
なお、土台基礎12の間仕切土台間の空隙部には、コンクリート16が打設される。
【0030】
また、各鋼板18a、鋼板20bの表面にフッ素樹脂を含む塗料が塗布されていることにより、各鋼板18a、鋼板20bの防食・防錆効果を得ることができる。
【0031】
なお、鋼板14は、鋼(スチール)で構成される場合に限られるものではなく、所定の塗料が塗布された他の金属を採用してもよい。
【0032】
図5に示すように、土台基礎12側と家屋構成部材14側とを連結する復元材22を設置することが好ましい。復元材22は、建築基準法上に規定されている緊結材である。なお、復元材22の一例として、復元ゴムが使用される。
【0033】
(家屋の免震施工方法)
次に、本発明の一実施形態に係る家屋の免震施工方法について説明する。ここでは、土台基礎に固定されている新築の木造家屋に対して、本発明の家屋の免震施工方法を適用した場合を例示する。
【0034】
図2及び図6に示すように、本発明の家屋10の免震構造によれば、地震が発生すると、地面から土台基礎12に対して地震力が伝達される。土台基礎12が揺れると第1の滑り材18も土台基礎12と共に揺れる。このとき、第2の滑り材20が第1の滑り材18に対して摺動する。特に、第1の滑り材18の鋼板18aと第2の滑り材20の鋼板20bの表面にはフッ素樹脂層18b、フッ素樹脂層20cが形成されており、フッ素樹脂層同士が面接触しているため、両者の摩擦係数が小さくなる。このため、第2の滑り材20は、第1の滑り材18に対して容易に滑る。
【0035】
ここで、第1の滑り材18の鋼板18aと第2の滑り材20の鋼板20bが摺動するが、鋼板同士の摺動により、高い摩擦減衰効果が得られ、振動減衰機能が高くなる。従来では蝋でコーティングした木材と鋼板との間で摺動していたが、肉質が木と鋼では両者の間で振動減衰機能が発揮できなかった。このため、振動が大きく減衰されることなく家屋側に伝達され、家屋側の揺れを効果的に低減できない不具合があった。本実施形態では、第1の滑り材18の鋼板18aと第2の滑り材20の鋼板20bが摺動により高い振動減衰効果が発揮され、土台基礎12側から家屋10側に伝達される振動が小さくなる。換言すれば、第1の滑り材18の鋼板18aと第2の滑り材20の鋼板20bが各々のフッ素樹脂層18b、20cを介して接触させ、かつ相互に摺動することにより、家屋の揺れが低減するのである。
【0036】
また、第1の滑り材18と第2の滑り材20は、各鋼板18a、20bを介して相互に接触するため、第2の滑り材20の木材部20aを第1の滑り材18の鋼板18aの圧力から保護することができる。さらに、蝋を使用しないため、蝋にゴミや埃等が付着せず、減衰効果に悪影響が生じない。また、第2の滑り材20の木材部20aの劣化を防止できる。これにより、家屋10の免震構造の耐久性が向上する。
【0037】
以上のように、本実施形態の家屋の免震構造によれば、3つの機能が発揮できる。3つの機能とは、支持機能、減衰機能及び復元機能である。
【0038】
支持機能とは、第1の滑り材18と第2の滑り材20の圧縮強度により、家屋10の重量を支持することにより実現する。
【0039】
減衰機能とは、第1の滑り材18の鋼板18aと第2の滑り材20の鋼板20bの間の摩擦減衰により、高い振動減数効果が得られることにより実現する。
【0040】
復元機能とは、土台基礎12と家屋10との間に接地した復元材22により復元機能が得られることにより実現する。
【0041】
次に、本発明の家屋の免震構造に関する実験について説明する。
【0042】
図7に示すように、千葉県にある大型構造物試験センターが所有する多入力振動試験装置(二軸振動台)を利用して、実証実験を行った。
【0043】
実証実験の結果は、図8に示される。図8では、白抜き線が地面の揺れ(入力加速度)、黒の実線が家屋の揺れ(応答加速度)を示している。小さい揺れの時は地面も家屋も同じような振幅で揺れるが、家屋が倒壊するような強い揺れが生じたときに、家屋が地面に対して滑り、家屋は地面と比較して約1/3程度の揺れに低減されていた。換言すれば、例えば震度7の地震が生じれば、家屋では震度4程度の揺れになることを意味する。
【0044】
実証実験によれば、本実施形態の家屋の免震構造により、地震時で発生した振動が効果的に減衰され、家屋側の揺れが低減されることが判明した。
【符号の説明】
【0045】
10 家屋
12 土台基礎
14 家屋構成部材
16 コンクリート
18 第1の滑り材
18a 鋼板(第1の滑り材)
18b フッ素樹脂層(第1の滑り材)
20 第2の滑り材
20a 木材部(第2の滑り材)
20b 鋼板(第2の滑り材)
20c フッ素樹脂層(第2の滑り材)
22 復元材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8