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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050044
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】水素製造装置、及び水素製造システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/30 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
C01B3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156622
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健
(72)【発明者】
【氏名】碓井 志典
(72)【発明者】
【氏名】浅野 耕司
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 宏之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 孝男
(72)【発明者】
【氏名】中桐 基裕
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140DA03
4G140DB02
4G140DB03
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を発生させることなく、環境負荷がさらに低減され、かつ低コストで運用することが可能な水素製造装置、及び水素製造システムを提供する。
【解決手段】水素製造装置は、内部に反応室が形成された反応器と、反応室内に天然ガスを供給するガス供給部と、反応室内の天然ガス中に粒子を供給する粒子供給部と、高温ガス炉の排熱によって昇温された熱媒を介して反応室内の天然ガスを加熱することで、天然ガスに含まれるメタンを熱分解させて水素と炭素を発生させる加熱部と、水素を反応室から外部に導く抽出部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に反応室が形成された反応器と、
前記反応室内に天然ガスを供給するガス供給部と、
前記反応室内の前記天然ガス中に粒子を供給する粒子供給部と、
高温ガス炉の排熱によって昇温された熱媒を介して前記反応室内の前記天然ガスを加熱することで、該天然ガスに含まれるメタンを熱分解させて水素と炭素を発生させる加熱部と、
前記水素を前記反応室から外部に導く抽出部と、
を備える水素製造装置。
【請求項2】
前記粒子は、
前記メタンの熱分解反応に対して触媒作用を生じる触媒粒子と、
該触媒粒子に接触することで、該触媒粒子の表面に析出した前記炭素を除去する炭素除去粒子と、
を含む請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記触媒粒子は金属触媒であり、前記炭素除去粒子は前記金属触媒よりも高い硬度を有する材料で形成されている請求項2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記ガス供給部は、前記反応室の下部に設けられ、前記天然ガスを噴出するガスノズルを有し、
前記粒子供給部は、
前記反応室の上部に設けられ、前記粒子を供給する粒子供給口と、
前記反応室の下部に設けられ、前記粒子を排出する粒子排出口と、
該粒子排出口から前記粒子供給口に向けて前記粒子を還流させる還流部と、
をさらに有する請求項1から3のいずれか一項に記載の水素製造装置。
【請求項5】
前記ガスノズルは、前記反応室を横切る方向に延びるとともに、下方に向かって前記天然ガスを噴出する複数の噴出口を有する請求項4に記載の水素製造装置。
【請求項6】
前記反応室を上下方向に配列された複数の小室に区画する隔壁と、
該隔壁を上下方向に貫通するとともに、該隔壁と重なる部分の径が他の部分の径よりも小さく設定されている縮小管と、
をさらに有する請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項7】
前記縮小管の上側の端部に設けられ、前記粒子の径よりも大きい幅寸法を有する複数のスリットが形成された上側末端部をさらに有する請求項6に記載の水素製造装置。
【請求項8】
上下方向に隣り合う一対の前記小室同士を連通させる連通管をさらに有し、
該連通管の下側の端部は、前記縮小管の下側の端部よりも上方に位置している請求項6又は7に記載の水素製造装置。
【請求項9】
前記連通管は、上下方向から見て、前記下側の端部から上側の端部に向かうに従って、上下方向に延びる軸に対する周方向の一方側から他方側に向かって延びている請求項8に記載の水素製造装置。
【請求項10】
請求項1に記載の水素製造装置と、
該水素製造装置に前記熱媒としてのヘリウムガスを供給する高温ガス炉と、
を備える水素製造システム。
【請求項11】
前記水素製造装置は、互いに並列となるように複数設けられている請求項10に記載の水素製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素製造装置、及び水素製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラル促進の観点から、水素をエネルギー源として用いる事例が増えている。このようにエネルギー利用される水素の一種として、ターコイズ水素と呼ばれるものが知られている。ターコイズ水素は、メタン等の炭化水素を直接的に熱分解することによって得られることを特徴としている。このターコイズ水素を生成する際には、副生物として炭素が生じるものの、二酸化炭素は排出されない。したがって、ターコイズ水素の活用は、上記のカーボンニュートラルを促進する上で有利であり、特に注目が集まっている。
【0003】
上記の方法で水素を製造する技術の具体例として、下記特許文献1に記載されたものが挙げられる。下記特許文献1に係る装置では、炭化水素を含む原料ガスと触媒とを反応器内に供給して加熱することで、炭化水素を水素分子と炭素分子とに熱分解させる。触媒を加熱するための手段として、スチーム等が流通するジャケットが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7089235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、大量の水素を製造するにあたり、炭化水素を熱分解するためには、多くの熱が必要となる。しかしながら、上記のように触媒を加熱するための熱源としてスチーム等を用いた場合、必要となる熱を得るために装置が大型化したり、運用コストが増大したりする可能性がある。そもそも、水素製造のためにスチーム等を発生させる際に化石燃料を燃やすことから、二酸化炭素が発生する虞もある。太陽光等の再生可能エネルギーでスチーム等を発生させる場合、水素製造も天候に左右されるため安定的に水素製造することが困難である。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、二酸化炭素を発生させることなく、環境負荷がさらに低減され、かつ低コストかつ安定的に運用することが可能な水素製造装置、及び大容量の水素製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係る水素製造装置は、内部に反応室が形成された反応器と、前記反応室内に天然ガスを供給するガス供給部と、前記反応室内の前記天然ガス中に粒子を供給する粒子供給部と、高温ガス炉の排熱によって昇温された熱媒を介して前記反応室内の前記天然ガスを加熱することで、該天然ガスに含まれるメタンを熱分解させて水素と炭素を発生させる加熱部と、前記水素を前記反応室から外部に導く抽出部と、を備える。
【0008】
本開示に係る水素製造システムは、上記の水素製造装置と、該水素製造装置に前記熱媒としてのヘリウムガスを供給する高温ガス炉と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、二酸化炭素を発生させることなく、環境負荷がさらに低減され、かつ低コストで運用することが可能な水素製造装置、及び水素製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の第一実施形態に係る水素製造システムの構成を示す模式図である。
図2】本開示の第一実施形態に係る水素製造装置の構成を示す模式断面図である。
図3】本開示の第一実施形態に係る反応器、及び還流部を上下方向から見た図である。
図4】本開示の第二実施形態に係る水素製造装置の構成を示す模式断面図である。
図5図4のV-V線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第一実施形態>
(水素製造システムの構成)
以下、本開示の第一実施形態に係る水素製造システム1、及び水素製造装置10について、図1から図3を参照して説明する。この水素製造システム1は、天然ガスに含まれるメタン等の炭化水素を直接的に熱分解することで水素(ターコイズ水素)を製造するために用いられる。また、水素製造システム1は、高温ガス炉100(原子炉)から排出される熱媒(ヘリウムガス)の熱を熱源として利用する。
【0012】
図1に示すように、水素製造システム1は、中間熱交換器21と、ヘリウムガスライン22と、LNGタンク23と、天然ガスライン24と、水素製造装置10と、予熱器25と、水素抽出ライン26と、除塵装置27と、冷却器28と、触媒分離機29と、貯留槽30と、を備える。
【0013】
中間熱交換器21は、炉心の冷却媒体として原子炉から取り出された一次ヘリウムガスが流れる一次ライン101と、二次ヘリウムガスが流れるヘリウムガスライン22との間に設けられている。中間熱交換器21では、一次ヘリウムガスと、二次ヘリウムガスとの間で熱交換が行われる。一例として、一次ヘリウムガスの供給温度は950℃程度であり、二次ヘリウムガスの供給温度は850℃程度である。二次ヘリウムガスは、後述する水素製造装置10で、天然ガスを加熱するための熱媒として用いられる。
【0014】
ヘリウムガスライン22上には、複数(一例として2つずつ)の水素製造装置10と、予熱器25と、が設けられている。水素製造装置10では、LNGタンク23から天然ガスライン24を通じて供給された天然ガスが熱媒としてのヘリウムガスの熱によって熱分解されて水素と炭素が生じる。水素製造装置10は、ヘリウムガスライン22上で互いに並列となるように配列されている。水素製造装置10の構成は後述する。
【0015】
予熱器25は、水素製造装置10の下流側に設けられている。予熱器25は、水素製造装置10に供給される天然ガスの温度を上げるために設けられている。予熱器25には、天然ガスライン24を通じて供給された天然ガスと、水素製造装置10から排出された熱媒としてのヘリウムガスとが流れ込む。予熱器25では、相対的に低温の天然ガスと高温のヘリウムガスとが熱交換する。これにより、水素製造装置10に送られる天然ガスの温度が350℃程度に上げられる。
【0016】
除塵装置27は、水素製造装置10から延びる水素抽出ライン26上に設けられている。水素抽出ライン26中には水素製造装置10で生成された水素が流れている。除塵装置27は、この水素中に含まれる塵埃を取り除くための装置であり、不図示のフィルター装置等を備えている。水素抽出ライン26における除塵装置27の下流側には、冷却器28が設けられている。冷却器28には、天然ガスライン24を流れる低温の天然ガスが流れ込む。これにより、冷却器28では、水素と天然ガスが熱交換して、水素は冷却され、天然ガスは加温される。一例として水素は250℃程度まで冷却され、天然ガスは200℃程度まで加温される。
【0017】
触媒分離機29は、水素製造装置10で炭化水素の熱分解に用いられた粒子19を分級して触媒粒子と、炭素除去粒子とに分離する。これらの粒子19については後述する。触媒分離機29の下流側には、これら粒子19をそれぞれ貯留する貯留槽30が設けられている。
【0018】
(水素製造装置の構成)
次に、水素製造装置10の構成について、図2図3を参照して説明する。図2に示すように、水素製造装置10は、反応器11と、ガス供給部12と、粒子供給部13と、加熱部14と、抽出部15と、を有する。
【0019】
反応器11は、上下方向に延びる有底筒状の容器である。反応器11の内部の空間は反応室16とされている。ガス供給部12は、上記の天然ガスライン24から供給された天然ガスを反応室16内に供給する。ガス供給部12は、ガスノズル17を有する。ガスノズル17は、反応室16の下部に設けられている。ガスノズル17は、反応室16を横切る方向に延びている。ガスノズル17は、下方に向かって天然ガスを噴出する複数の噴出口18を有する。つまり、噴出口18は下方に向かって開口している。ガスノズル17から噴出された天然ガスは、反応室16内を下方から上方に向かって流れる。
【0020】
粒子供給部13は、天然ガスが充満した反応室16内に粒子19を供給する。粒子供給部13は、反応室16の上部に設けられた粒子供給口41と、反応室16の下部に設けられた粒子排出口42と、粒子排出口42から粒子供給口41に向けて粒子19を還流させる還流部43と、を有する。還流部43は、一例としてスクリューフィーダである。図3に示すように、還流部43は、反応器11の側方で、周方向に間隔をあけて複数(一例として4つ)配置されている。また、還流部43には、耐熱性を確保するための水冷ジャケットが併設されていてもよい。
【0021】
ここで、粒子19は、天然ガスに含まれる炭化水素(メタン)の熱分解反応に対して触媒作用を生じる触媒粒子と、触媒粒子の表面に析出した炭素を除去する炭素除去粒子と、を含む。触媒粒子として具体的には、鉄、ニッケル、コバルト、白金のような金属触媒が用いられる。これら金属触媒の表面には、メタンの熱分解に伴って炭素が析出する。炭素除去粒子は、触媒粒子とともに流動することで当該触媒粒子に接触して、摩擦力によって炭素を物理的に除去する。炭素除去粒子は、触媒粒子よりも高い硬度を有している。具体的には、炭素除去粒子として、ジルコニアが好適に用いられる。
【0022】
触媒粒子に対して炭素除去粒子は、10~20体積%程度含有されていることが望ましい。また、触媒粒子の粒径は、100μm程度であることが望ましい。これは、上記した天然ガスの流れによって触媒粒子が吹き飛ばされないためである。具体的には、触媒粒子の好ましい粒径は、天然ガスの流速に基づいて、ストークスの式によって適宜決定される。炭素除去粒子の粒径は、この触媒粒子の粒径と同等以上であることが望ましい。
【0023】
加熱部14は、反応室16内で天然ガスを加熱するために設けられている。加熱部14は、上部ヘッダ管51と、複数の伝熱管52と、下部ヘッダ管53と、を有する。上部ヘッダ管51は反応室16の上部に設けられ、下部ヘッダ管53は反応室16の下部に設けられている。複数の伝熱管52は、上部ヘッダ管51と下部ヘッダ管53とを上下方向に接続している。上部ヘッダ管51、及び下部ヘッダ管53には、上述のヘリウムガスライン22が接続されている。熱媒としての高温のヘリウムガスが、上部ヘッダ管51側から下部ヘッダ管53側に向かって伝熱管52の内部を流通する。伝熱管52の内部を流通する中途で反応室16内の天然ガスが加熱されることで、触媒粒子を介した熱分解反応を生じて天然ガスが水素と炭素とに分解される。具体的には、熱媒としてのヘリウムガスの温度は600℃以上であることが望ましい。反応室16内で生じた水素は、反応器11の上部に設けられた抽出部15によって水素抽出ライン26に導かれる。
【0024】
(作用効果)
次に、水素製造システム1、及び水素製造装置10の動作について説明する。水素製造システム1を運転するに当たっては、まず水素製造装置10の反応室16に粒子19と天然ガスを供給する。この状態で、原子炉の運転によって生じたヘリウムガス(二次ヘリウムガス)を熱媒として加熱部14に供給する。これにより、天然ガスに含まれる炭化水素(メタン)が熱分解されて水素と炭素が生じる。水素は水素抽出ライン26によって反応器11から取り出されて、外部で貯留されるか、エネルギー源として種々の利用に供される。
【0025】
熱分解反応の副生物としての炭素は、触媒粒子や伝熱管52の表面に析出する。この炭素は、触媒粒子とともに流動する炭素除去粒子によって物理的に除去される。具体的には、還流部43の動作によって反応室16の下部から上部に向かって流動する中途で、触媒粒子の表面に析出した炭素が摩擦によって除去される。また、反応室16内を流動する中途で、伝熱管52の表面に付着した炭素も、炭素除去粒子によって除去される。水素製造システム1の運転終了後、除去された炭素、触媒粒子、及び炭素除去粒子は、図1に示す触媒分離機29によって分級・分離された後、貯留槽30に貯留される。
【0026】
ここで、メタン等の炭化水素を熱分解するためには、特に多くの熱が必要となる。しかしながら、従来は触媒を加熱するための熱源としてスチーム等が用いられていた。この種の熱源を用いた場合、必要となる熱を得るために装置が大型化したり、燃料コストの高騰等により運用コストが増大したりする可能性がある。また、熱を発生させるために化石燃料を燃焼させる必要が生じて、新たな二酸化炭素が発生する虞もある。このような問題を解決するために本実施形態では上述の各構成を採っている。
【0027】
上記構成によれば、天然ガスを加熱する熱媒は、高温ガス炉100(原子炉)の排熱によって昇温される。高温ガス炉100の排熱を熱媒の加熱に用いることによって、大きな熱量を安価に、かつ継続的に得ることができる。これにより、スチーム等の他の熱源を用いる場合に比べて、水素製造システム1の運用コストを大幅に削減することが可能となる。また、熱の発生に伴う二酸化炭素の発生がないことから、環境負荷も大きく低減することが可能となる。
【0028】
さらに、上記構成によれば、炭素除去粒子を触媒粒子中に混在させることによって、メタンの熱分解によって触媒粒子の表面に析出した炭素を物理的に除去することができる。具体的には、炭素除去粒子が触媒粒子に追従して流動することで、互いにこすれ合う。この際に生じる摩擦力によって、触媒粒子の表面の炭素が除去される。このように、触媒粒子と炭素除去粒子とをともに流動させることのみによって触媒粒子を再生することができる。その結果、当該触媒粒子の触媒作用を永続的に発揮させることができる。
【0029】
また、上記構成によれば、炭素除去粒子が、金属触媒よりも高い硬度を有する材料で形成されている。具体的には炭素除去粒子としてジルコニアが好適に用いられる。これにより、炭素除去粒子が触媒粒子に接触した際に欠けたり損耗したりしてしまう可能性が低減され、永続的に炭素除去粒子本来の性状を維持することができる。
【0030】
さらに、上記構成によれば、ガスノズル17から噴出された天然ガスは、反応器11内を上方に向かって流通する。一方で、粒子19は反応室16の上部から当該反応室16内に供給される。つまり、天然ガスと粒子19とが互いに対向する方向から接触する。これにより、天然ガスと粒子19の流動状態を安定的に維持することができる。また、還流部43によって反応室16の下部から上部に向かって粒子19を還流させる際に、触媒粒子と炭素除去粒子とが接触して、触媒粒子を再生させることができる。これにより、長期にわたって安定的に水素製造装置10を運用し続けることが可能となる。
【0031】
加えて、上記構成によれば、ガスノズル17の噴出口18は、下方に向かって天然ガスを噴出するように構成されている。これにより、上方から流動してくる粒子19によって噴出口18が閉塞されてしまう可能性を低減することができる。したがって、ガスノズル17から安定的に天然ガスを噴出させ続けることが可能となる。
【0032】
また、上記構成によれば、高温ガス炉100で冷媒として用いられることで高温となったヘリウムガスを水素製造システム1の熱媒として有効利用することができる。これにより、安定的、かつ安価に水素製造システム1を運用し続けることができる。
【0033】
さらに、上記構成によれば、並列に配置された複数の水素製造装置10によって、より効率的に大量の水素を製造することができる。
【0034】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記の水素製造システム1における水素製造装置10の数は一例であり、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。同様に、水素製造装置10の還流部43の個数は3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。
【0035】
<第二実施形態>
続いて、本開示の第二実施形態について、図4図5を参照して説明する。なお、上記の第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図4に示すように、本実施形態では、水素製造装置10の構成が第一実施形態とは異なっている。
【0036】
本実施形態に係る水素製造装置10では、反応器11の内部に複数(一例として2つ)の隔壁60が設けられている。これら隔壁60によって、反応室16は上下方向に配列された複数(3つ)の小室61に区画されている。隔壁60には、天然ガスと粒子19とを小室61間で流動させるための縮小管62が複数挿通されている。縮小管62は、隔壁60を上下方向に貫通するとともに、当該隔壁60と重なる部分の径が他の部分の径よりも小さく設定されている。つまり、縮小管62は、砂時計のような作用を呈する。これにより、上側の小室61から下側の小室61に向けて、少量ずつの粒子19が継続的に流れ込む。また、縮小管62の上部末端部63には、スリット64が設けられている。スリット64の開口幅は、粒子19の粒径よりも大きく設定されている。
【0037】
さらに、隣り合う小室61同士は、連通管65によっても連通している。連通管65は、反応器11の外部を通って、下側の小室61の上部と、上側の小室61の下部とを連通している。連通管65の下側の端部は、縮小管62の下側の端部よりも上方に位置している。また、図5に示すように、連通管65は、反応器11の外周側で周方向に間隔をあけて複数設けられている。各連通管65は、下側の端部から上側の端部に向かうに従って、上下方向に延びる反応器11の軸の周方向の一方側から他方側に向かって延びている。つまり、連通管65は、軸方向から見てねじれるように延びている。
【0038】
(作用効果)
【0039】
上記構成によれば、複数の小室61ごとに独立した状態で、各小室61内で天然ガスの熱分解(つまり、水素の生成)が行われる。下方の小室61で熱分解された天然ガスの残余の成分は、縮小管62を通じて上方の小室61に送られ、当該上方の小室61でさらに熱分解される。このようなサイクルが複数の小室61の間で連続して生じる。これにより、反応器11の上方に向かうに従って天然ガスの熱分解が進行する。したがって、天然ガスに含まれるメタンを余すことなく熱分解して、大量の水素を効率よく生成することが可能となる。
【0040】
また、上記構成によれば、上側末端部のスリット64を通じて、粒子19を縮小管62の上方から下方に向かって流通させることができる。つまり、上方の小室61から下方の小室61に向かって粒子19を流動させることができる。これにより、小室61ごとに粒子19を供給する装置を設ける必要がなくなり、装置の製造コストやメンテナンスコストを削減することができる。
【0041】
さらに、上記構成によれば、縮小管62に加えて、連通管65を通じて、天然ガスを下方の小室61から上方の小室61に向かって流動させることができる。これにより、天然ガスの流量が安定して確保されるため、天然ガスの分解効率をさらに向上させることができる。また、連通管65の下側の端部が縮小管62の下側の端部よりも上方に位置している。このため、例えば水素製造装置10の運転を停止した際に、粒子19が反応室16下部に堆積しても、連通管65の下側の端部は当該堆積した粒子19によって閉塞されることがない。これにより、次回の起動時に、天然ガスを安定的に流動させた状態で直ちに運用を開始することが可能となる。
【0042】
加えて、上記構成によれば、連通管65が上下方向に延びる軸の周方向にねじれて延びていることから、当該連通管65から小室61内に供給される天然ガスの流れに旋回流成分を付与することができる。このような旋回流成分によって、反応室16内で天然ガスと粒子19とがムラなく混合される。その結果、熱分解反応が反応室16内の全域で生じるため、天然ガスを余すことなく熱分解することが可能となる。したがって、大量の水素をさらに効率的に製造することができる。
【0043】
以上、本開示の第二実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第二実施形態で説明した小室61の数は一例であり、2つや、4つ以上であってもよい。また、連通管65の数についても同様であり、設計や仕様に応じて適宜決定されてよい。
【0044】
<付記>
各実施形態に記載の水素製造装置10、及び水素製造システム1は、例えば以下のように把握される。
【0045】
(1)第1の態様に係る水素製造装置10は、内部に反応室16が形成された反応器11と、前記反応室16内に天然ガスを供給するガス供給部12と、前記反応室16内の前記天然ガス中に粒子19を供給する粒子供給部13と、高温ガス炉100の排熱によって昇温された熱媒を介して前記反応室16内の前記天然ガスを加熱することで、該天然ガスに含まれるメタンを熱分解させて水素と炭素を発生させる加熱部14と、前記水素を前記反応室16から外部に導く抽出部15と、を備える。
【0046】
上記構成によれば、天然ガスを加熱する熱媒は、高温ガス炉100の排熱によって昇温される。高温ガス炉100の排熱を用いることによって、大きな熱量を安価に、かつ継続的に得ることができる。これにより、水素製造システム1の運用コストを大幅に削減することが可能となる。
【0047】
(2)第2の態様に係る水素製造装置10は、(1)の水素製造装置10であって、前記粒子19は、前記メタンの熱分解反応に対して触媒作用を生じる触媒粒子と、該触媒粒子に接触することで、該触媒粒子の表面に析出した前記炭素を除去する炭素除去粒子と、を含む。
【0048】
上記構成によれば、炭素除去粒子を触媒粒子中に混在させることによって、メタンの熱分解によって触媒粒子の表面に析出した炭素を物理的に除去することができる。これにより、触媒粒子と炭素除去粒子とをともに流動させることのみによって、当該触媒粒子の触媒作用を永続的に発揮させることができる。
【0049】
(3)第3の態様に係る水素製造装置10は、(2)の水素製造装置10であって、前記触媒粒子は金属触媒であり、前記炭素除去粒子は前記金属触媒よりも高い硬度を有する材料で形成されている。
【0050】
上記構成によれば、炭素除去粒子が、金属触媒よりも高い硬度を有する材料で形成されている。これにより、炭素除去粒子が触媒粒子に接触した際に損耗してしまう可能性が低減され、永続的に炭素除去粒子本来の性状を維持することができる。
【0051】
(4)第4の態様に係る水素製造装置10は、(1)から(3)のいずれか一態様に係る水素製造装置10であって、前記ガス供給部12は、前記反応室16の下部に設けられ、前記天然ガスを噴出するガスノズル17を有し、前記粒子供給部13は、前記反応室16の上部に設けられ、前記粒子19を供給する粒子供給口41と、前記反応室16の下部に設けられ、前記粒子19を排出する粒子排出口42と、該粒子排出口42から前記粒子供給口41に向けて前記粒子19を還流させる還流部43と、をさらに有する。
【0052】
上記構成によれば、ガスノズル17から噴出された天然ガスは、反応器11内を上方に向かって流通する。一方で、粒子19は反応室16の上部から当該反応室16内に供給される。これにより、天然ガスと粒子19の流動状態を安定的に維持することができる。また、還流部43によって反応室16の下部から上部に向かって粒子19を還流させる際に、触媒粒子と炭素除去粒子とが接触して、触媒粒子を再生させることができる。
【0053】
(5)第5の態様に係る水素製造装置10は、(4)の水素製造装置10であって、前記ガスノズル17は、前記反応室16を横切る方向に延びるとともに、下方に向かって前記天然ガスを噴出する複数の噴出口18を有する。
【0054】
上記構成によれば、ガスノズル17の噴出口18は、下方に向かって天然ガスを噴出するように構成されている。これにより、上方から流動してくる粒子19によって噴出口18が閉塞されてしまう可能性を低減することができる。
【0055】
(6)第6の態様に係る水素製造装置10は、(1)から(5)のいずれか一態様に係る水素製造装置10であって、前記反応室16を上下方向に配列された複数の小室61に区画する隔壁60と、該隔壁60を上下方向に貫通するとともに、該隔壁60と重なる部分の径が他の部分の径よりも小さく設定されている縮小管62と、をさらに有する。
【0056】
上記構成によれば、複数の小室61ごとに独立した状態で、天然ガスの熱分解(つまり、水素の生成)が行われる。下方の小室61で熱分解された天然ガスの残余の成分は、縮小管62、及び連通管65を通じて上方の小室61に送られ、当該上方の小室61でさらに熱分解される。これにより、天然ガスに含まれるメタンを余すことなく熱分解して、大量の水素を効率よく生成することが可能となる。
【0057】
(7)第7の態様に係る水素製造装置10は、(6)の水素製造装置10であって、前記縮小管62の上側の端部に設けられ、前記粒子19の径よりも大きい幅寸法を有する複数のスリット64が形成された上側末端部をさらに有する。
【0058】
上記構成によれば、上側末端部のスリット64を通じて、粒子19を縮小管62の上方から下方に向かって流通させることができる。これにより、小室61ごとに粒子19を供給する装置を設ける必要がなくなり、装置の製造コストやメンテナンスコストを削減することができる。
【0059】
(8)第8の態様に係る水素製造装置10は、(6)又は(7)の水素製造装置10であって、上下方向に隣り合う一対の前記小室61同士を連通させる連通管65をさらに有し、該連通管65の下側の端部は、前記縮小管62の下側の端部よりも上方に位置している。
【0060】
上記構成によれば、縮小管62に加えて、連通管65を通じて、天然ガスを下方の小室61から上方の小室61に向かって流動させることができる。これにより、天然ガスの分解効率をさらに向上させることができる。また、連通管65の下側の端部が縮小管62の下側の端部よりも上方に位置している。このため、連通管65の下側の端部は当該堆積した粒子19によって閉塞されることがない。これにより、起動時に、天然ガスを安定的に流動させた状態で直ちに運用を開始することが可能となる。
【0061】
(9)第9の態様に係る水素製造装置10は、(8)の水素製造装置10であって、前記連通管65は、上下方向から見て、前記下側の端部から上側の端部に向かうに従って、上下方向に延びる軸に対する周方向の一方側から他方側に向かって延びている。
【0062】
上記構成によれば、連通管65が上下方向に延びる軸の周方向にねじれて延びていることから、当該連通管65から小室61内に供給される天然ガスの流れに旋回流成分を付与することができる。これにより、反応室16内で天然ガスと粒子19とが効率よく混合され、当該天然ガスを余すことなく熱分解することが可能となる。
【0063】
(10)第10の態様に係る水素製造システム1は、(1)から(9)のいずれか一態様に係る水素製造装置10と、該水素製造装置10に前記熱媒としてのヘリウムガスを供給する高温ガス炉100と、を備える。
【0064】
上記構成によれば、高温ガス炉100で冷却材として用いられることで高温となったヘリウムガスを水素製造システム1の熱媒として有効利用することができる。これにより、安定的、かつ安価に水素製造システム1を運用し続けることができる。
【0065】
(11)第11の態様に係る水素製造装置10は、(10)の水素製造システム1であって、前記水素製造装置10は、互いに並列となるように複数設けられている。
【0066】
上記構成によれば、並列に配置された複数の水素製造装置10によって、より効率的に大量の水素を製造することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…水素製造システム
10…水素製造装置
11…反応器
12…ガス供給部
13…粒子供給部
14…加熱部
15…抽出部
16…反応室
17…ガスノズル
18…噴出口
19…粒子
21…中間熱交換器
22…ヘリウムガスライン
23…LNGタンク
24…天然ガスライン
25…予熱器
26…水素抽出ライン
27…除塵装置
28…冷却器
29…触媒分離機
30…貯留槽
41…粒子供給口
42…粒子排出口
43…還流部
51…上部ヘッダ管
52…伝熱管
53…下部ヘッダ管
60…隔壁
61…小室
62…縮小管
63…上部末端部
64…スリット
65…連通管
100…高温ガス炉
101…一次ライン
図1
図2
図3
図4
図5