(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050045
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】医療用ポンプ、医療用ポンプ接続ラック、医療用ポンプシステム、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61M 5/142 20060101AFI20240403BHJP
A61M 5/14 20060101ALI20240403BHJP
A61M 5/168 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A61M5/142 530
A61M5/14 582
A61M5/168 504
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156623
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勝也
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA07
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD12
4C066EE06
4C066FF01
4C066HH02
4C066HH12
4C066JJ07
4C066LL06
4C066QQ32
4C066QQ84
(57)【要約】
【課題】医療用ポンプ、医療用ポンプ接続ラック、医療用ポンプシステム、及びコンピュータプログラムの提供。
【解決手段】外部の制御装置から通信制御される医療用ポンプであって、投薬パターンに係るパラメータを記憶する記憶部と、前記制御装置との通信切断を検知する検知部と、該検知部が前記制御装置との通信切断を検知した場合、前記制御装置による通信制御から、前記パラメータに基づく自己制御に切り替える制御部とを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の制御装置から通信制御される医療用ポンプであって、
投薬パターンに係るパラメータを記憶する記憶部と、
前記制御装置との通信切断を検知する検知部と、
該検知部が前記制御装置との通信切断を検知した場合、前記制御装置による通信制御から、前記パラメータに基づく自己制御に切り替える制御部と
を備える、医療用ポンプ。
【請求項2】
前記制御部は、
前記通信制御による投薬パターンのパラメータを取得し、
前記制御装置との通信切断を検知した場合、前記通信制御による投薬パターンのパラメータを引き継いで、前記自己制御を実行する
請求項1に記載の医療用ポンプ。
【請求項3】
前記記憶部は、複数種の薬剤の夫々について投薬パターンを含む情報が登録される薬剤ライブラリを備え、
前記制御部は、前記制御装置との通信切断を検知した場合、前記薬剤ライブラリを参照して継続投薬を判定し、判定結果に応じて、投薬を継続又は停止させる
請求項1に記載の医療用ポンプ。
【請求項4】
前記情報に投薬の継続時間が含まれる場合、前記制御部は、投薬の継続後、前記継続時間が経過したタイミングで投薬を停止させる
請求項3に記載の医療用ポンプ。
【請求項5】
前記情報に投薬停止後の再開時間が含まれる場合、前記制御部は、投薬の停止後、前記再開時間が経過したタイミングで投薬を再開させる
請求項3に記載の医療用ポンプ。
【請求項6】
前記通信切断を検知した場合における警報出力の要否を受付ける受付部と、
前記検知部が前記通信切断を検知した場合であって、警報出力が要である場合、警報を出力する警報出力部と
を備える請求項1に記載の医療用ポンプ。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1つに記載の医療用ポンプを接続する接続部と、
該接続部に接続された医療用ポンプと、該医療用ポンプを通信制御する制御装置との間の通信を中継する中継部と
を備える、医療用ポンプ接続ラック。
【請求項8】
請求項1から請求項6の何れか1つに記載の医療用ポンプと、
該医療用ポンプを通信制御する制御装置と
を備える、医療用ポンプシステム。
【請求項9】
医療用ポンプを通信制御する制御装置との通信が切断したか否かを判断し、
前記制御装置との通信が切断したと判断した場合、前記制御装置による通信制御から、設定された投薬パターンに係るパラメータに基づく自己制御に切り替える
処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ポンプ、医療用ポンプ接続ラック、医療用ポンプシステム、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の医療用ポンプと、これらの医療用ポンプを集中的に制御する制御装置とを備え、制御装置から複数の医療用ポンプを通信制御できるように構成された医療用ポンプシステムが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通信を介して医療用ポンプの送液を制御する医療用ポンプシステムにおいて、医療用ポンプと制御装置との間の通信が何らかの原因により切断した場合、正しく送液を制御することができない。
【0005】
一つの側面では、通信が切断した場合であっても自己制御が可能な医療用ポンプ、医療用ポンプ接続ラック、医療用ポンプシステム、及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)一つの側面に係る医療用ポンプは、外部の制御装置から通信制御される医療用ポンプであって、投薬パターンに係るパラメータを記憶する記憶部と、前記制御装置との通信切断を検知する検知部と、該検知部が前記制御装置との通信切断を検知した場合、前記制御装置による通信制御から、前記パラメータに基づく自己制御に切り替える制御部とを備える。
【0007】
(2)上記(1)の医療用ポンプにおいて、前記制御部は、前記通信制御による投薬パターンのパラメータを取得し、前記制御装置との通信切断を検知した場合、前記通信制御による投薬パターンのパラメータを引き継いで、前記自己制御を実行することが好ましい。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)の医療用ポンプにおいて、前記記憶部は、複数種の薬剤の夫々について投薬パターンを含む情報が登録される薬剤ライブラリを備え、前記制御部は、前記制御装置との通信切断を検知した場合、前記薬剤ライブラリを参照して継続投薬を判定し、判定結果に応じて、投薬を継続又は停止させることが好ましい。
【0009】
(4)上記(3)の医療用ポンプにおいて、前記情報に投薬の継続時間が含まれる場合、前記制御部は、投薬の継続後、前記継続時間が経過したタイミングで投薬を停止させることが好ましい。
【0010】
(5)上記(3)の医療用ポンプにおいて、前記情報に投薬停止後の再開時間が含まれる場合、前記制御部は、投薬の停止後、前記再開時間が経過したタイミングで投薬を再開させることが好ましい。
【0011】
(6)上記(1)から(5)の医療用ポンプにおいて、前記通信切断を検知した場合における警報出力の要否を受付ける受付部と、前記検知部が前記通信切断を検知した場合であって、警報出力が要である場合、警報を出力する警報出力部とを備えることが好ましい。
【0012】
(7)一つの側面に係る医療用ポンプ接続ラックは、上記(1)から(6)に何れか1つに記載の医療用ポンプを接続する接続部と、該接続部に接続された医療用ポンプと、該医療用ポンプを通信制御する制御装置との間の通信を中継する中継部とを備える。
【0013】
(8)一つの側面に係る医療用ポンプシステムは、上記(1)から(6)に何れか1つに記載の医療用ポンプと、該医療用ポンプを通信制御する制御装置とを備える。
【0014】
(9)一つの側面に係るコンピュータプログラムは、医療用ポンプを通信制御する制御装置との通信が切断したか否かを判断し、前記制御装置との通信が切断したと判断した場合、前記制御装置による通信制御から、設定された投薬パターンに係るパラメータに基づく自己制御に切り替える処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
一つの側面では、制御装置との通信が切断した場合であっても自己制御により、投薬を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態1における医療用ポンプシステムの構成例を示す模式図である。
【
図2】医療用ポンプの内部構成を示すブロック図である。
【
図3】制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図5】薬剤ライブラリの構成例を示す概念図である。
【
図6】医療用ポンプが実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
【
図7】投薬継続処理の処理手順を説明するフローチャートである。
【
図8】投薬停止処理の処理手順を説明するフローチャートである。
【
図9】実施の形態2における医療用ポンプシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1における医療用ポンプシステムの構成例を示す模式図である。実施の形態に係る医療用ポンプシステム1は、医療用ポンプ10及び制御装置20を備える。医療用ポンプ10及び制御装置20は通信ネットワークNWを介して互いに通信可能に接続される。
図1の例では、3台の医療用ポンプ10を記載しているが、通信ネットワークNWに接続される医療用ポンプ10の台数は3台に限定されるものではなく、1台以上の医療用ポンプ10が通信ネットワークNWに接続される。
【0018】
医療用ポンプ10は、患者の体内に薬剤等を送液するための装置である。医療用ポンプ10には、輸液バッグ中の液体を制御された輸液速度で輸液チューブを介して患者に注入する輸液ポンプやシリンジの内容物を制御された輸液速度で患者に送液するシリンジポンプなどが用いられる。手術室や病室などにおいて複数種の薬剤を同時に患者に投薬しようとする場合には、薬剤の数に応じた複数の医療用ポンプ10が用意される。医療用ポンプ10は、手術室や病室を含む医療施設内に設置される。代替的に、医療用ポンプ10は、患者の自宅等に設置される。前者の場合、医療用ポンプ10と制御装置20とは例えば院内LAN(Local Area Network)により接続され、後者の場合、医療用ポンプ10と制御装置20とはインターネット網などの一般の通信ネットワークを介して接続される場面も期待される。なお、患者の自宅等に設置される医療用ポンプと制御装置20とを接続する場合、VPN(Virtual Private Network)を介して接続されることが好ましい。
【0019】
制御装置20は、医師や看護師などの医療従事者により利用されるコンピュータであり、医療施設内(例えばナースステーション内)に設置される。制御装置20には、パーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、タブレット端末などの専用又は汎用のコンピュータが用いられる。制御装置20は、通信ネットワークNWを介した通信により医療用ポンプ10の動作を制御し、医療従事者によって設定された投薬パターンに従って患者への投薬を行う。また、制御装置20は、医療用ポンプ10から出力される情報を通信ネットワークNW経由で受信し、受信した情報を医療従事者に提示する。医療用ポンプ10から出力される情報は、投薬を行った日時や投薬量などの投薬状況に関する情報である。また、医療用ポンプ10から出力される情報には、体温や血圧等の患者のバイタル情報が含まれてもよい。
【0020】
医療用ポンプシステム1では、通信ネットワークNW経由で、制御装置20から医療用ポンプ10の動作を制御したり、医療用ポンプ10での投薬状況を制御装置20において監視したりすることが可能である。
【0021】
しかしながら、何らかの原因により、医療用ポンプ10と制御装置20との間の通信が切断した場合、正しく送液を制御することができない可能性がある。そこで、本実施の形態では、制御装置20との通信切断を検知した場合、投薬の継続又は投薬の停止を含む自己制御を行う医療用ポンプ10の構成について説明する。
【0022】
図2は医療用ポンプ10の内部構成を示すブロック図である。医療用ポンプ10は、制御部11、記憶部12、通信部13、送液機構14、操作部15、表示部16等を備える。
【0023】
制御部11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。制御部11が備えるROMには、医療用ポンプ10が備えるハードウェア各部の動作を制御する制御プログラム等が記憶される。制御部11内のCPUは、ROMに記憶された制御プログラムや記憶部12に記憶されたコンピュータプログラムを実行し、ハードウェア各部の動作を制御することによって、装置全体を本実施の形態における医療用ポンプ10として機能させる。制御部11が備えるRAMには、演算の実行中に生成されるデータが一時的に記憶される。
【0024】
制御部11は、上記の構成に限らず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える1又は複数の制御回路であってもよく、プロセッサ、メモリ、ストレージ、通信インタフェース等を集積した1つのハードウェア(SoC:System On a Chip)として構成されてもよい。また、制御部11は、日時情報を出力するクロック、開始指示を与えてから終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ等を備えてもよい。
【0025】
記憶部12は、半導体メモリや磁気メモリなどを備える。半導体メモリには、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)等の揮発性メモリやEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリが用いられる。磁気メモリには、ハードディスク及び磁気抵抗メモリ等が用いられる。
【0026】
記憶部12には、各種のコンピュータプログラムや医療用ポンプ10において使用される各種のデータが記憶される。記憶部12に記憶されるコンピュータプログラムは、投薬制御を制御部11に実行させるための投薬制御プログラムPGなどを含む。これらのコンピュータプログラムは、単一のコンピュータプログラムであってもよく、複数のコンピュータプログラムにより構築されるプログラム群であってもよい。また、投薬制御プログラムPGを含むコンピュータプログラムは、複数のコンピュータに分散して配置され、複数のコンピュータにより協働して実行されるものであってもよい。
【0027】
投薬制御プログラムPGを含むコンピュータプログラムは、コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体RMにより提供される。記録媒体RMは、CD-ROM、USBメモリ、SD(Secure Digital)カードなどの可搬型メモリである。制御部11は、図に示していない読取装置を用いて、記録媒体RMから所望のコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部12に記憶させる。代替的に、投薬制御プログラムPGを含むコンピュータプログラムは、通信により提供されてもよい。この場合、制御部11は、通信により所望のコンピュータプログラムをダウンロードし、ダウンロードしたコンピュータプログラムを記憶部12に記憶させる。
【0028】
記憶部12に記憶されるデータは医療用ポンプ10の設定情報STを含む。設定情報STは、患者に投薬すべき薬剤に応じて患者毎に設定される情報であり、例えば投薬パターン及び投薬パターンにおいて使用されるパラメータなどを含む。また、記憶部12は薬剤ライブラリLBを備えてもよい。設定情報ST及び薬剤ライブラリLBの構成については後に詳述する。また、記憶部12に記憶されるデータには、患者の氏名、患者識別コード、主治医、性別、生年月日、年齢、体重、アレルギーの有無などの患者情報が含まれてもよい。
【0029】
通信部13は、通信ネットワークNWに接続するための通信インタフェースを備え、各種の情報を送受信する。通信部13が備える通信インタフェースは、LAN(Local Area Network)の通信規格に準拠した通信インタフェースである。代替的に、通信部13が備える通信インタフェースは、3G、4G、5G、LTE(Long Term Evolution)などの通信規格に準拠した通信インタフェースであってもよい。通信部13は、制御装置20から送信される情報を受信した場合、受信した情報を制御部11へ出力する。また、通信部13は、送信すべき情報が制御部11から入力された場合、所定の宛先(例えば制御装置20)へ情報を送信する。
【0030】
送液機構14は、薬液を送出するための機構を備える。医療用ポンプ10が輸液ポンプの場合、送液機構14は、例えば送液用の複数のフィンガーを具備し、複数のフィンガーが順次に輸液チューブを押すことによりチューブ内の薬液を送出する。また、医療用ポンプ10がシリンジポンプであれば、送液機構14はシリンジを装着してその押し子を押圧して送出する構成となる。
【0031】
操作部15は、タッチパネル、キーボード、スイッチなどの操作デバイスを備え、医療従事者や患者等による各種の操作及び設定を受付ける。制御部11は、操作部15より与えられる各種の操作情報に基づき適宜の制御を行い、必要に応じて設定情報を記憶部12に記憶させる。
【0032】
表示部16は、液晶モニタや有機ELなどの表示デバイスを備え、制御部11からの指示に応じて医療従事者や患者などに報知すべき情報を表示する。
【0033】
図3は制御装置20の内部構成を示すブロック図である。制御装置20は、制御部21、記憶部22、通信部23、操作部24、表示部25等を備える。
【0034】
制御部21は、例えば、CPU、ROM、RAM等を備える。制御部21のCPUは、ROM又は記憶部22に予め記憶された各種プログラムをRAMに展開して実行することにより、上述した各種ハードウェアの動作を制御する。
【0035】
記憶部22は、フラッシュメモリ、ハードディスクなどを用いた記憶装置を備える。記憶部22には、制御部21によって実行される各種コンピュータプログラム、及びコンピュータプログラムの実行に必要なデータ等が記憶される。
【0036】
通信部23は、通信ネットワークNWに接続するための通信インタフェースを備える。通信部23が備える通信インタフェースは、例えば、LANの通信規格に準拠した通信インタフェースである。通信部23は、更に、3G、4G、5G、LTE等の通信規格に準じた通信インタフェースを備えてもよい。通信部23は、外部へ通知すべき各種情報を送信すると共に、外部から自装置宛に送信される各種情報を受信する。
【0037】
操作部24は、キーボードやマウスなどの入力デバイスを備えており、各種の操作情報や設定情報を受付ける。制御部21は、操作部24から入力される操作情報に基づき適宜の制御を行い、必要に応じて設定情報を記憶部22に記憶させる。
【0038】
表示部25は、液晶表示パネル、有機EL表示パネル等の表示デバイスを備えており、制御部21から出力される制御信号に基づいて、医療従事者等に通知すべき情報を表示する。
【0039】
実施の形態に係る医療用ポンプ10は、制御装置20との通信切断を検知した場合、設定情報ST又は薬剤ライブラリLBに登録されている情報を参照して、自己制御を行う。以下、設定情報ST及び薬剤ライブラリLBの構成について説明する。
【0040】
図4は設定情報STの構成例を示す概念図である。設定情報STは、継続投薬、警報通知、設定引継、投薬継続時間、投薬パターン及びそれに付随するパラメータ、投薬再開時間を設定項目として備える。
【0041】
継続投薬の項目は、通信切断の検知後に薬剤の投薬を継続するか否かを定める。継続投薬のフラグがONであれば、薬剤の投薬は継続され、OFFであれば、薬剤の投薬は停止される。
【0042】
警報通知の項目は、通信切断の検知後に警報を出力するか否かを定める。警報通知のフラグがONであれば、警報は出力され、OFFであれば、警報は出力されない。
【0043】
設定引継の項目は、通信切断の検知後に設定を引き継ぐか否かを定める。設定引継のフラグがONであれば、通信切断前の投薬設定を引き継ぎ、OFFであれば、通信切断前の投薬設定を引き継がずに、設定情報ST若しくは後述の薬剤ライブラリLBを参照して投薬を行う。
【0044】
投薬継続時間の項目は、通信切断の検知後に投薬を継続させる時間を定める。また、投薬再開時間の項目は、通信切断の検知後に投薬を再開させる時間を定める。
【0045】
投薬パターン及びそれに付随するパラメータの項目は薬剤の投薬方法を定める。投薬パターン及びそれに付随するパラメータには、以下のものが含まれる。各パラメータは組み合わせて使用されてもよい。
【0046】
(A)継続投薬:薬剤を一定流量で投薬するパターンである。継続投薬のパラメータとして、流量などが設定される。
(B)PCA投薬:自己調節鎮痛法(Patient Controlled Analgesia)と呼ばれ、痛みがある場合に患者が自らスイッチを押すことで疼痛管理剤が投薬されるパターンである。PCA投薬のパラメータとして、PCA投薬量、ロックアウト時間などが設定される。
(C)間欠投薬:一定時間毎に設定された量だけボーラス投薬するパターンである。間欠投薬のパラメータとして、間欠投薬量、投薬間隔、初回遅延時間などが設定される。
(D)レスキュー投薬:疼痛管理において患者が痛みを感じた際に医療従事者が一定量をボーラス投薬するパターンである。レスキュー投薬のパラメータとして、レスキュー投薬量などが設定される。
(E)連携/特殊投薬:薬剤の混注時間を減少させるために、輸液セットの側注管に別の輸液セットを接続するパターン(Piggyback)、シリンジ交換のタイミングでポンプ2台を連携し、流量一定を保ちながらメインポンプを切り替えるパターン(2ch Relay Function)、目標血中濃度になるように投薬速度を自動調整するパターン(OTCI)を含む。TCI(Target Controlled Infusion)は麻酔薬であるディプリバンで使用されるのに対し、OTCI(Open TCI)ではディプリバン以外の薬剤にも適用可能であることを意味する。
【0047】
設定情報STの項目は、操作部15を用いて医療従事者により事前に入力され、記憶部12に設定される。代替的に、設定情報STは、制御装置20の操作部24を通じて医療従事者により入力され、通信を介して医療用ポンプ10の記憶部12に設定されてもよい。
【0048】
図5は薬剤ライブラリLBの構成例を示す概念図である。薬剤ライブラリLBは、複数種の薬剤の夫々について、識別コード(薬剤コード)、適性流量、上限流量、下限流量、薬剤カラーなどの情報を関連付けて記憶する。本実施の形態では、これらの情報に追加して、継続投薬、警報通知、設定引継、投薬継続時間、投薬パターン及びそれに付随するパラメータ、投薬再開時間の項目が設定登録される。
図5の例では、本実施の形態において使用される項目のみを抜粋して示している。各項目の内容は、設定情報STと同様である。
【0049】
以下、医療用ポンプ10の動作について説明する。
図6は医療用ポンプ10が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。医療用ポンプ10の制御部11は、電源投入後の適宜のタイミングにて、薬剤ライブラリLBが選択されたか否かを判断する(ステップS101)。薬剤ライブラリLBを参照した投薬を行う場合、医療用ポンプ10の電源投入後に、ユーザによって所望のライブラリが選択される。
【0050】
薬剤ライブラリLBが選択されたと判断した場合(S101:YES)、制御部11は、薬剤ライブラリLBに登録されている項目の情報を参照する(ステップS102)。参照する情報には、投薬速度等に関するパラメータの他、継続投薬、警報通知、設定引継、投薬継続時間、投薬パターン及びそれに付随するパラメータ、並びに、投薬再開時間の項目を含む通常切断時の動作に関するパラメータが含まれる。
【0051】
薬剤ライブラリLBが選択されていないと判断した場合(S101:NO)、制御部11は、設定情報を受付ける(ステップS103)。ステップS103で受付ける設定情報には、投薬速度等に関するパラメータの他、継続投薬、警報通知、設定引継、投薬継続時間、投薬パターン及びそれに付随するパラメータ、並びに、投薬再開時間の項目を含む通常切断時の動作に関するパラメータが含まれる。制御部11は、ステップS103で受付けた設定情報を、記憶部12に設定情報STとして記憶させる。
【0052】
医療用ポンプ10の起動後、制御装置20からの通信制御によって、遠隔投薬が開始される(ステップS104)。すなわち、医療用ポンプ10の制御部11は、制御装置20からの通信制御に従って、送液機構14の動作を制御することにより、薬剤投薬を開始する。通信制御に基づく投薬パターンやそれに付随するパラメータは記憶部12に一時的に記憶される。
【0053】
次いで、制御部11は、制御装置20との通信が切断したか否かを判断する(ステップS105)。通信が切断したか否かの判断は、遠隔投薬が開始された後、定期的なタイミングで実施すればよい。制御部11は、制御装置20から送信される制御コマンド等を一定時間受信しない場合、通信が切断したと判断することができる。
【0054】
制御装置20との通信が切断していないと判断した場合(S105:NO)、制御部11は、ステップS106以降の処理に進まずに、制御装置20からの通信制御に基づく薬剤投薬を継続する。
【0055】
制御装置20との通信が切断したと判断した場合(S105:YES)、制御部11は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STを参照して、継続投薬判定を行う(ステップS106)。具体的には、制御部11は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STにおける継続投薬のフラグを確認し、フラグがONであれば継続投薬を行うと判定し、フラグがOFFであれば継続投薬を行わないと判定すればよい。
【0056】
継続投薬を行うと判定した場合(S106:YES)、制御部11は、後述する投薬継続処理を実行する(ステップS107)。一方、継続投薬を行わないと判定した場合(S106:NO)、制御部11は、後述する投薬停止処理を実行する(ステップS108)。
【0057】
なお、ステップS105において、制御装置20との通信が切断したと判断した場合、制御部11は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STを参照し、警報通知がONである場合、警報を出力してもよい。例えば、制御部11は、制御装置20との通信が切断した旨の文字情報やアイコンを表示部16に表示すればよい。また、医療用ポンプ10が警報音を出力するブザー等を備える場合、ブザーを鳴らすことにより、警報を出力してもよい。医療用ポンプ10が医療施設内に設置されているか、患者の自宅に設置されているかに応じて、警報通知のON/OFFを切り替えてもよい。例えば、医療用ポンプ10が医療施設内に設置されている場合、警報通信をONに設定し、医療従事者に通信切断を報知すればよい。一方、医療用ポンプ10が患者の自宅に設置されている場合、患者の不安をあおってしまう側面と、家族が警報に気づきやすいという側面とがあるので、操作部15を通じて、ON/OFFの切替えを受付ける構成とすればよい。また、制御部11は、通信が切断した場合の対処方法を表示部16に表示し、患者や患者の家族に報知してもよい。
【0058】
図7は投薬継続処理の処理手順を説明するフローチャートである。医療用ポンプ10の制御部11は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STに設定されている継続投薬のフラグがONである場合、投薬を継続する(ステップS121)。具体的には、制御部11は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STに設定されている投薬引継のフラグを参照し、投薬引継のフラグがONであれば、通信が切断する前の遠隔制御を引き継いで投薬を継続する。遠隔制御で用いられた投薬パターン及びパラメータは遠隔制御が実施された時点で記憶部12に記憶されるものとする。一方、投薬引継のフラグがOFFである場合、制御部11は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STに設定されている投薬パターンにしたがって投薬を継続する。例えば、継続投薬が設定されている場合、制御部11は、送液の流量が投薬パターンのパラメータに設定されている流量(一定流量)となるように送液機構14の動作を制御して、投薬を継続する。他の投薬パターンが設定されている場合についても、投薬パターンのパラメータに従って投薬を継続すればよい。
【0059】
次いで、制御部11は、制御装置20との通信が再開したか否かを判断する(ステップS122)。制御部11は、制御装置20から送信される制御コマンド等を受信した場合などにおいて、通信が再開したと判断することができる。
【0060】
通信が再開したと判断した場合(S122:YES)、制御装置20からの通信制御によって、遠隔投薬が再開される(ステップS123)。すなわち、医療用ポンプ10の制御部11は、制御装置20からの通信制御に従って、送液機構14の動作を制御することにより、投薬を再開する。
【0061】
通信が再開していないと判断した場合(S122:NO)、制御部11は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STの投薬継続時間を参照し、通信が切断してから、投薬継続時間に到達したか否かを判断する(ステップS124)。
【0062】
投薬継続時間に到達していない場合(S124:NO)、制御部11は、投薬継続時間に到達するまで投薬を継続して待機する。投薬継続時間に到達した場合(S124:YES)、制御部11は、投薬を停止して(ステップS125)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0063】
図8は投薬停止処理の処理手順を説明するフローチャートである。医療用ポンプ10の制御部11は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STに設定されている継続投薬のフラグがOFFである場合、投薬を停止する(ステップS141)。
【0064】
次いで、制御部11は、制御装置20との通信が再開したか否かを判断する(ステップS142)。制御部11は、制御装置20から送信される制御コマンド等を受信した場合などにおいて、通信が再開したと判断することができる。
【0065】
通信が再開したと判断した場合(S142:YES)、制御装置20からの通信制御によって、遠隔投薬が再開される(ステップS143)。すなわち、医療用ポンプ10の制御部11は、制御装置20からの通信制御に従って、送液機構14の動作を制御することにより、投薬を再開する。
【0066】
通信が再開していないと判断した場合(S142:NO)、制御部11は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STを参照し、投薬再開時間が設定されているか否かを判断する(ステップS144)。
【0067】
投薬再開時間が設定されていない場合(S144:NO)、制御部11は、投薬を再開させることなく、本フローチャートによる処理を終了する。一方、投薬再開時間が設定されている場合(S144:YES)、制御部11は、通信が切断してから投薬再開時間が経過した後に、投薬を再開させる(ステップS145)。
【0068】
以上のように、実施の形態1では、制御装置20との通信が切断した場合、医療用ポンプ10は、薬剤ライブラリLB又は設定情報STに登録されている情報に基づいて、投薬の継続又は投薬の停止を含む自己制御に切り替えることができる。
【0069】
また、投薬すべき薬剤に応じて、投薬パターンを定めることができるので、医療機関から遠隔制御が行えない場合であっても、適切な投薬を継続することができる。例えば、麻酔薬であるミダゾラムを集中治療における人工呼吸中の鎮静剤として使用する場合、一定流量で継続的に投薬することが好ましいので、例えば、継続投薬をON、設定引継をOFF、投薬継続時間を30分、投薬パターンを継続投薬(投薬量を0.05mg/kg/h)に設定して、投薬を継続すればよい。また、モルヒネ2倍希釈液をがん疼痛緩和のために在宅下で継続静注する場合、例えば、継続投薬をOFF、投薬再開時間を1時間に設定して、投薬を一旦停止してもよい。
【0070】
また、医療用ポンプ10は、制御装置20との間の通信が切断している間の患者のバイタル情報(体温、脈拍、血圧など)を定期的に取得し、通信が再開したタイミングで、制御装置20にアップロードする構成としてもよい。バイタル情報の計測には患者に装着されるウェアラブル端末を用いることができ、バイタル情報の取得には、ブルートゥース(登録商標)などの近距離無線通信を用いることができる。
【0071】
(実施の形態2)
実施の形態2では、医療用ポンプ接続ラックを介して、制御装置20と通信する構成について説明する。
【0072】
図9は実施の形態2における医療用ポンプシステム1の概略図である。実施の形態2に係る医療用ポンプシステム1は、医療用ポンプ10、制御装置20、及び医療用ポンプ接続ラック30を備える。医療用ポンプ10及び制御装置20の構成は実施の形態1と同様である。作図の都合上、
図9は制御装置20を省略した状態を示している。
【0073】
医療用ポンプ接続ラック30は、複数台の医療用ポンプ10を並べて装着するためのラックである。医療用ポンプ10は、通常、一種類の薬液を送液するために使用される。手術室や集中治療室などにおいて複数の薬液を同時に患者に投薬しようとする場合には、薬液の数に応じた複数の医療用ポンプ10が必要となる。複数の医療用ポンプ10を机上に並べたり、床に置いたりすると、場所がとられてしまう上に、それらを移動するのも容易ではないため、複数の医療用ポンプ10を並べて装着するためのラックが用いられる。
【0074】
医療用ポンプ接続ラック30は、制御部31、接続部32a~32f、及び中継部33を備える。制御部31は、CPUやメモリなどを備え、装置全体の制御を行う。医療用ポンプ接続ラック30には、医療用ポンプ10の装着位置に対応して接続部32a~32fが設けられる。接続部32a~32fは、医療用ポンプ10を接続可能なコネクタを備える。
図9の例では、6つの接続部32a~32fを備える構成としたが、接続部の数は6つに限定されるものではなく、装着される医療用ポンプ10の数に合わせて適宜設計される。中継部33は、接続部32a~32fに接続された医療用ポンプ10と、制御装置20との間の通信を中継する。
【0075】
本実施の形態に係る医療用ポンプシステム1では、制御装置20から遠隔投薬を行う場合、制御装置20は、医療用ポンプ接続ラック30に接続された何れか1つの医療用ポンプ10を宛先として制御コマンドを送信する。制御装置20から送信される制御コマンドは、通信ネットワークNWを介して医療用ポンプ接続ラック30に到達する。医療用ポンプ接続ラック30の中継部33は、制御装置20から受信した制御コマンドを宛先の医療用ポンプ10へ送信する。医療用ポンプ10は、医療用ポンプ接続ラック30を通じて受信した制御コマンドに従って、投薬の制御を行う。
【0076】
制御装置20との通信が切断した場合の動作は実施の形態1と同様である。すなわち、医療用ポンプ10の制御部11は、制御装置20との通信が切断したと判断した場合、実施の形態1と同様の手順により、投薬制御を行えばよい。代替的に、各医療用ポンプ10に対する設定情報STや薬剤ライブラリLBを医療用ポンプ接続ラック30に登録しておき、制御装置20との通信が切断した場合、医療用ポンプ接続ラック30の制御部31が各医療用ポンプ10の動作を制御することにより、通信切断後の投薬制御を行ってもよい。制御部31は、設定情報STや薬剤ライブラリLBを参照することにより、投薬制御に必要なパラメータを決定することができる。
【0077】
以上のように、実施の形態2では、医療用ポンプ接続ラック30を用いて、複数台の医療用ポンプ10をまとめて制御できる。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
10 医療用ポンプ
11 制御部
12 記憶部
13 通信部
14 送液機構
15 操作部
16 表示部
20 制御装置
21 制御部
22 記憶部
23 通信部
24 操作部
25 表示部
PG 投薬制御プログラム
ST 設定情報
LB 薬剤ライブラリ