(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050048
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】集電体およびその製造方法、電極、ならびに電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20240403BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240403BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156630
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山川 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】池山 泰史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳余子
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017BB08
5H017BB12
5H017CC01
5H017DD06
5H017EE07
5H017EE10
5H017HH00
5H017HH01
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA04
5H050DA11
5H050EA24
5H050EA28
5H050FA04
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】電極の作製時に合材層にひび割れ等が生じ難い集電体の提供を目的とする。
【解決手段】上記課題を解決する集電体は、金属を含む基材と、前記基材の少なくとも一方の面に配置されたコート層と、を有する集電体であり、前記コート層は、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、特定の構造の化合物由来の構成単位と、を含むフッ化ビニリデン重合体A、および導電助剤を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含む基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に配置されたコート層と、
を有する集電体であり、
前記コート層は、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、下記一般式(1)で表される化合物由来の構成単位と、を含むフッ化ビニリデン重合体A、および導電助剤を含む、
集電体。
【化1】
(前記一般式(1)において、
R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、または炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、
X
1は、主鎖の原子数が1以上6以下である、分子量156以下の二価の原子団を表す)
【請求項2】
前記コート層中の前記フッ化ビニリデン重合体Aおよび前記導電助剤の合計量を100質量部としたとき、前記フッ化ビニリデン重合体Aの量が、65質量部以下である、
請求項1に記載の集電体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の集電体と、
前記集電体の前記コート層上に配置された、活物質およびバインダーを含む合材層と、
を有する電極。
【請求項4】
前記バインダーが、
フッ化ビニリデン単独重合体ならびに/または、
フッ化ビニリデン由来の構成単位と、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位および/または下記一般式(2)で表される化合物由来の構成単位と、を含むフッ化ビニリデン重合体Bを含む、
請求項3に記載の電極。
【化2】
(前記一般式(2)において、
R
4は、水素原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、または炭素数1以上5以下のアルキル基で置換されたカルボキシ基を表し、
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、
X
2は、単結合、または主鎖の原子数が1以上20以下である、分子量500以下の2価の原子団を表す)
【請求項5】
請求項3に記載の電極を有する、
電池。
【請求項6】
金属を含む基材の少なくとも一方の面に、フッ化ビニリデン重合体aと、溶媒とを含むコート液を塗布する工程を含む、集電体の製造方法であり、
前記フッ化ビニリデン重合体aは、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、下記一般式(1a)で表される化合物由来の構成単位と、を含む、
集電体の製造方法。
【化3】
(前記一般式(1a)において、
R
1a、R
2a、およびR
3aは、それぞれ独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、または炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、
X
1aは、主鎖の原子数が1以上6以下である、分子量156以下の二価の原子団を表す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体およびその製造方法、電極、ならびに電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、各種電子機器、電気自動車等に広く使用されている。リチウムイオン二次電池の電極は、集電体と、その集電体上に配置された、活物質およびバインダーを含む合材層と、を有することが一般的である。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池の高容量化が求められており、例えば、高電圧での充電により、リチウムイオン二次電池を高容量化することが試みられている。さらに、集電体と合材層との間に、導電性を有する層(以下、「導電層」とも称する)を形成し、集電体と合材層との界面の電気的抵抗を低減することも検討されている。例えば、集電体の表面に、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等によって酸変性ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルピロリドン、および粉体状炭素材料を含む層を配置することが提案されている(特許文献1)。また、導電性基材の表面に、アクリル酸およびフッ化ビニリデンとの共重合体と、導電性粒子と、を含む樹脂層を設けた集電体も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6529700号公報
【特許文献2】国際公開第2013/151046号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、電極の作製時に、導電性の基材と合材層との間に、引用文献1に記載の酸変性ポリフッ化ビニリデンや、引用文献2に記載のアクリル酸およびフッ化ビニリデンの共重合体を含む層を形成すると、電極の作製時、合材層にひび割れが生じやすいことが明らかとなった。
【0006】
そこで、本発明は、電極の作製時に合材層にひび割れが生じ難い集電体やその製造方法、これを用いた電極、ならびに電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属を含む基材と、前記基材の少なくとも一方の面に配置されたコート層と、を有する集電体であり、前記コート層は、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、下記一般式(1)で表される化合物由来の構成単位と、を含むフッ化ビニリデン重合体A、および導電助剤を含む、集電体を提供する。
【化1】
(前記一般式(1)において、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、または炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、X
1は、主鎖の原子数が1以上6以下である、分子量156以下の二価の原子団を表す)
【0008】
また、本発明は、上記集電体と、当該集電体の前記コート層上に配置された、活物質およびバインダーを含む合材層と、を有する電極を提供する。
さらに、本発明は、上記電極を有する電池を提供する。
【0009】
本発明は、金属を含む基材の少なくとも一方の面に、フッ化ビニリデン重合体aと、溶媒とを含むコート液を塗布する工程を含む、集電体の製造方法であり、前記フッ化ビニリデン重合体aは、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、下記一般式(1a)で表される化合物由来の構成単位と、を含む、集電体の製造方法を提供する。
【化2】
(前記一般式(1a)において、R
1a、R
2a、およびR
3aは、それぞれ独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、または炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、X
1aは、主鎖の原子数が1以上6以下である、分子量156以下の二価の原子団を表す)
【発明の効果】
【0010】
本発明の集電体は、その上に合材層を形成しても、合材層にひび割れが生じ難い。したがって、当該集電体やこれを用いた電極は、各種リチウムイオン二次電池の部材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.集電体
本発明の集電体は、リチウムイオン二次電池等に使用するための集電体であり、通常、当該集電体上に合材層を形成して使用される。また、本発明の集電体は、金属を含む基材と、当該基材の少なくとも一方の面に配置されたコート層と、を有し、当該コート層は、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、下記一般式(1)で表される化合物由来の構成単位とを含むフッ化ビニリデン重合体A、および導電助剤を含む。
【化3】
(前記一般式(1)において、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、または炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、X
1は、主鎖の原子数が1以上6以下である、分子量156以下の二価の原子団を表す)
【0012】
前述のように、基材上に、フッ化ビニリデンとアクリル酸やマレイン酸モノメチルとの共重合体を含むコート層を形成した集電体では、当該コート層上に合材層を形成すると、合材層の表面にひび割れが生じやすかった。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0013】
アクリル酸やマレイン酸モノメチル等とフッ化ビニリデンとの共重合体は、導電助剤の存在下で溶媒に溶解または分散すると、溶媒が揮発する際に、非常に凝集しやすい性質(凝集力)を有すると考えられる。当該凝集力は、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、アクリル酸やマレイン酸モノメチル等由来のカルボキシ基とが近接して配置されていることに起因すると考えられる。このような共重合体を含むコート層上に、合材スラリー(合材層を形成するための組成物)を塗布すると、合材スラリー中の溶媒に上記共重合体の一部が溶出する。そして、溶出した共重合体は、再び溶媒が揮発して析出する際に凝集して、基材の表面に島状の領域を形成する。その結果、その上に形成された合材層の内部に歪みが生じ、合材層の表面にひび割れが生じると考えられる。
【0014】
これに対し、上記一般式(1)で表される化合物とフッ化ビニリデンとの共重合体では、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、上記一般式(1)で表される化合物由来のカルボキシ基とが、比較的離れた位置に配置される。そのため、合材スラリー中の溶媒に溶出しても、大きな凝集力が生じ難く、上述の島状の領域を形成し難い。その結果、得られる合材層の表面にひび割れが生じ難いと考えられる。
以下、本発明の集電体の構成について、詳しく説明する。
【0015】
(1)基材
基材は、集電体のベースとなる構成であり、当該基材は、十分な導電性を有し、かつ金属を含んでいればよい。基材は、金属のみを含んでいてもよく、金属以外の材料(例えば樹脂やセラミックス等)を含んでいてもよい。基材は、金属のみで構成されることがより好ましい。ここで、基材が含む金属の種類は、電池の種類や形状等に合わせて適宜選択される。基材は、金属を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。基材が含む金属の例には、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、チタン等が含まれる。
【0016】
また、基材の形状は、電池の種類や大きさ等に合わせて適宜選択される。基材は、例えば上記金属の箔あるいは金属網等であってもよい。また、基材は、金属以外の材料の表面に上記金属箔あるいは金属網等を積層したもの等であってもよい。
【0017】
(2)コート層
コート層は、フッ化ビニリデン重合体Aおよび導電助剤を少なくとも含んでいればよく、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。当該コート層が、フッ化ビニリデン重合体Aおよび導電助剤を含むと、上記基材と合材層との間の抵抗を低減することができる。
【0018】
・フッ化ビニリデン重合体A
フッ化ビニリデン重合体Aは、上記フッ化ビニリデン由来の構成単位と、後述の一般式(1)で表される化合物由来の構成単位とを含む重合体である。コート層は、当該フッ化ビニリデン重合体Aを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0019】
フッ化ビニリデン重合体Aは、フッ化ビニリデン由来の構成単位および一般式(1)で表される化合物由来の構成単位のみを含んでいてもよく、これら以外の化合物由来の構成単位を一部に含んでいてもよい。
【0020】
フッ化ビニリデン重合体A中のフッ化ビニリデン由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン重合体Aを構成する全構成単位の量(モル)に対して90.0モル%以上99.99モル%以下が好ましく、93モル%以上99.98モル%以下がより好ましく、96モル%以上99.97モル%以下が特に好ましい。フッ化ビニリデン由来の構成単位の量が、90.0モル%以上であると、コート層において、フッ化ビニリデン由来の特性、例えば電気化学的安定性が得られやすい。フッ化ビニリデン重合体A中のフッ化ビニリデン由来の構成単位の量は、例えば19F-NMRによる分析等によって特定が可能である。
【0021】
次に、一般式(1)を以下に示す。フッ化ビニリデン重合体Aは、上記一般式(1)で表される化合物由来の構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【化4】
上記一般式(1)において、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。ただし、重合反応性の観点から、R
1およびR
2は立体障害の小さい置換基が好ましく、水素または炭素数1以上3以下のアルキル基が好ましく、水素またはメチル基が好ましい。
【0022】
また、上記一般式(1)におけるX1は、主鎖の原子数が1以上6以下であり、かつ分子量156以下の二価の原子団を表す。本明細書において、X1の主鎖の原子数とは、上記一般式(1)における末端のカルボキシ基と、-C(=O)O-基とを繋ぐ、最も短い鎖の原子の数とする。上記X1で表される原子団の主鎖の原子数が1以上であると、上述のように、フッ化ビニリデン重合体Aが溶媒に溶解しても大きな凝集力が発生し難く、合材層にひび割れが生じ難くなる。一方、上記主鎖の原子数が6以下であると、フッ化ビニリデンとの共重合性が良好になる。
【0023】
上記X1で表される原子団、その分子量が156以下であり、かつ上記主鎖の原子数を満たしていれば、その構造は特に制限されず、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環構造を含んでいてもよい。上記原子団を構成する構造の例には、アルキレン基、カルボニル基(-C(=O)-、エーテル結合(-O-)、芳香環、脂環式構造が含まれる。
【0024】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例には、カルボキシメチルアクリレート、カルボキシメチルメタクリレート、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸、アクリロイロキシプロピルコハク酸、メタクリロイロキシプロピルコハク酸等が含まれる。これらの中でも特に、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシプロピルコハク酸、メタクリロイロキシプロピルコハク酸がフッ化ビニリデンとの共重合性に優れ、かつコート層上に形成する合材層にひび割れが生じ難くなることから好ましい。
【0025】
フッ化ビニリデン重合体A中の上記一般式(1)で表される化合物由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン重合体Aを構成する全構成単位の量(モル)に対して0.01モル%以上10.0モル%以下が好ましく、0.02モル%以上7.0モル%以下がより好ましく、0.03モル%以上4.0モル%以下が特に好ましい。一般式(1)で表される化合物由来の構成単位の量が、0.01モル%以上であると、コート層と基材との接着強度や、コート層と合材層との接着強度が高まる。一方、一般式(1)で表される化合物由来の構成単位の量が、10.0モル%以下であると、相対的にフッ化ビニリデン由来の構成単位の量が多くなり、コート層の電気化学的安定性が良好になりやすい。フッ化ビニリデン重合体A中の上記一般式(1)で表される化合物由来の構成単位の量は、19F-NMRや、1H-NMR等によって分析可能である。
【0026】
また、フッ化ビニリデン重合体Aは、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、フッ化ビニリデンおよび一般式(1)で表される化合物以外の化合物(以下、「その他の化合物」とも称する)由来の構成単位を一部に含んでいてもよい。ただし、その他の化合物由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン重合体Aを構成する全構成単位の量(モル)に対して9.99モル%以下が好ましい。フッ化ビニリデン重合体A中における、その他の化合物由来の構成単位の量が9.99モル%以下であると、コート層の電気化学的安定性が良好になり、コート層と基材との接着強度が高まりやすい。その他の化合物由来の構成単位の量は、19F-NMRや、1H-NMR等によって分析可能である。
【0027】
その他の化合物の例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル等のパーフルオロアルキルビニルエーテル等の、フッ化ビニリデン以外のフッ素系化合物;マレイン酸モノメチル(MMM)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸等が含まれる。
【0028】
ここで、フッ化ビニリデン重合体Aのインヘレント粘度は1.0以上が好ましく、1.3dL/g以上がより好ましく、2.0dL/g以上がより好ましい。インヘレント粘度が上記の通りであると、コート層と基材との接着強度や、コート層と当該コート層上に形成する合材層との接着強度が高まりやすい。上記インヘレント粘度は、以下の方法で測定可能である。まずフッ化ビニリデン重合体A80mgを20mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させて、30℃の恒温槽内でウベローデ粘度計を用いて粘度を測定する。そして、得られた値から、次式に基づいて、フッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度(ηi)を算出する。
ηi=(1/C)・ln(η/η0)
なお、上記式におけるηは溶液の粘度、η0は溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミド単独の粘度、Cはフッ化ビニリデン重合体Aの濃度、すなわち0.4g/dLである。
【0029】
上記フッ化ビニリデン重合体Aの調製方法は特に制限されず、フッ化ビニリデン、および上記一般式(1)で表される化合物を公知の方法で重合すればよい。重合方法の例には、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が含まれる。
【0030】
コート層中のフッ化ビニリデン重合体Aの量は、コート層中のフッ化ビニリデン重合体Aおよび導電助剤の合計量を100質量部としたとき、65質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、55質量部以下であることがさらに好ましい。フッ化ビニリデン重合体Aの量が、上記の範囲であると、コート層上に合材層を形成する際に、フッ化ビニリデン重合体Aが合材層にさらに影響を及ぼし難くなり、高品質な合材層が得られやすい。また、フッ化ビニリデン重合体Aの量は5質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、25質量部以上であることがさらに好ましい。フッ化ビニリデン重合体Aの量が上記範囲であると、基材とコート層との接着強度や、コート層と合材層との接着強度が良好になりやすい。
【0031】
・導電助剤
当該導電助剤は、上記基材と合材層中の活物質とを電気的に導通させる役割を果たす。当該導電助剤としては、公知の導電助剤を使用可能である。導電助剤の具体例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、黒鉛粉末、グラフェン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、および金属粉末等が含まれる。コート層は、当該導電助剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0032】
コート層中の導電助剤の量は、コート層中のフッ化ビニリデン重合体Aおよび導電助剤の合計量を100質量部としたとき、35質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましく、45質量部以上95質量部以下がさらに好ましい。導電助剤の量が、45質量部以上であると、基材と合材層との間の電気的抵抗を低減しやすい。一方、導電助剤の量が95質量部以下であると、相対的にフッ化ビニリデン重合体Aの量が多くなり、基材とコート層との接着強度や、コート層と合材層との接着強度が高まりやすい。
【0033】
・その他
コート層は、上述のフッ化ビニリデン重合体Aおよび導電助剤の他に、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、アクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の公知の分散剤が含まれる。さらに、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物、およびアンモニウム化合物等の窒素化合物;有機エステル、各種シラン系、チタン系およびアルミニウム系のカップリング剤;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、およびポリアクリロニトリル(PAN)等の樹脂;をさらに含んでいてもよい。ただし、当該他の成分の量は、コート層中のフッ化ビニリデン重合体Aおよび導電助剤の合計量を100質量部としたときに、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0034】
・コート層の物性
また、上記コート層は、上述の基材の一方の面に配置されていればよく、両面に形成されていてもよい。また、コート層は、基材の一方の面にパターン状に配置されていてもよいが、基材の一方の面、もしくは両方の面を全て覆うように配置されていることが、合材層のひび割れを抑制したり、合材層と基材との間の電気的抵抗を低減したりしやすいとの観点で好ましい。
【0035】
基材の少なくとも一方の面におけるコート層の厚みは、0.5μm以上10μm以下が好ましく、0.8μm以上5μm以下がより好ましい。コート層の厚みが0.5μm以上であると、コート層と合材層との接着強度が良好になりやすい。一方、コート層の厚みを10μm以下とすることで、これを用いた電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0036】
(3)集電体の製造方法
本発明の集電体の製造方法は、上述の基材上にコート層を形成可能な方法であれば特に制限されないが、上述の基材の少なくとも一方の面に、コート液を塗布する工程(以下、「塗布工程」とも称する)と、当該コート液を乾燥させる工程(以下、「乾燥工程」とも称する)と、を含む方法が好ましい。以下、各工程について説明する。
【0037】
・塗布工程
塗布工程で塗布するコート液は、フッ化ビニリデン重合体aと、溶媒と、導電助剤とを少なくとも含んでいればよいが、分散剤等をさらに含んでもよい。
【0038】
コート液が含むフッ化ビニリデン重合体aは、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、下記一般式(1a)で表される化合物由来の構成単位とを含む。
【化5】
上記一般式(1a)におけるR
1a、R
2a、およびR
3aは、それぞれ独立に、水素原子、塩素原子、フッ素原子、または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。当該R
1a、R
2a、およびR
3aは、上述の一般式(1)におけるR
1、R
2、およびR
3と同様である。また、上記一般式(1a)におけるX
1aは、主鎖の原子数が1以上6以下である、分子量156以下の二価の原子団を表し、上述の一般式(1)におけるX
1と同様である。つまり、上記一般式(1a)で表される化合物は、上述の一般式(1)で表される化合物に相当する。
【0039】
当該フッ化ビニリデン重合体a(フッ化ビニリデン重合体A)のインヘレント粘度は1.0dL/g以上が好ましく、1.3dL/g以上がより好ましく、2.0dL/g以上がさらに好ましい。インヘレント粘度が1.0dL/g以上であると、得られるコート層と、当該コート層上に配置される合材層との接着強度が高まりやすい。
【0040】
また、コート液中のフッ化ビニリデン重合体aの量は、コート液中のフッ化ビニリデン重合体aおよび導電助剤の合計量を100質量部としたとき、65質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、55質量部以下がさらに好ましい。フッ化ビニリデン重合体aの量が、上記の範囲であると、相対的に導電助剤の量が十分になる。また、フッ化ビニリデン重合体aの量は5質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、25質量部以上であることがさらに好ましい。フッ化ビニリデン重合体aの量が上記の範囲であると、フッ化ビニリデン重合体aが導電助剤を十分に結着することができ、基材とコート層との接着強度が高まったり、コート層と合材層との接着強度が高まったりしやすい。
【0041】
一方、コート液が含む導電助剤は、上述の導電助剤と同様である。コート液中の導電助剤の量は、コート液中のフッ化ビニリデン重合体aおよび導電助剤の合計量を100質量部としたとき、35質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましく、45質量部以上がさらに好ましい。導電助剤の量が、前述の範囲であると、電気的抵抗が低いコート層が得られやすい。またコート液中の導電助剤の量は、コート液中のフッ化ビニリデン重合体aおよび導電助剤の合計量を100質量部としたとき、95質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましい。導電助剤の量が上記範囲であると、相対的にフッ化ビニリデン重合体の量が十分になる。
【0042】
コート液が含む溶媒は、上記フッ化ビニリデン重合体aおよび導電助剤を均一に分散もしくは溶解させることが可能であればよい。当該溶媒の例には、水;ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール、トリプロピレングリコール等のアルコール;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン化合物;1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド;γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン化合物等が含まれる。コート液は、溶媒を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの中でも、N-メチルピロリドンがフッ化ビニリデン重合体aを容易に溶解させることが可能である点で好ましい。
【0043】
当該溶媒の量は、溶媒の種類、コート液の所望の粘度等に応じて適宜選択されるが、通常フッ化ビニリデン重合体aおよび導電助剤の合計量100質量部に対して1000質量部以上10000質量部以下が好ましく、3000質量部以上7000質量部以下がより好ましい。
【0044】
基材にコート液を塗布する方法は特に制限されず、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法およびディップコート法等を適用できる。
【0045】
・乾燥工程
上記コート液の塗布後、任意の温度で加熱し、溶媒を揮発させてコート層を得る。加熱温度は特に制限されず、一例において、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。上限値は、溶媒の種類に応じて適宜選択される。加熱は、異なる温度で複数回行ってもよい。また、乾燥工程は、大気圧下、加圧下、減圧下のいずれの環境で行ってもよい。
【0046】
2.電極
本発明の電極は、上述の集電体と、当該集電体上に配置された、活物質およびバインダーを含む合材層と、を有する。合材層は、活物質およびバインダーを含んでいればよく、その種類は特に制限されないが、バインダーが、フッ化ビニリデン単独重合体、もしくはフッ化ビニリデン由来の構成単位と、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位および/または後述の一般式(2)で表される化合物由来の構成単位とを含むフッ化ビニリデン重合体Bを含むことが好ましい。以下、当該電極の各構成について説明する。
【0047】
・活物質
合材層が含む活物質は、正極活物質であってもよく、負極活物質であってもよく、その用途に応じて適宜選択される。
【0048】
負極活物質の例には、人工黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、活性炭、またはフェノール樹脂およびピッチ等を焼成炭化したもの等の炭素材料;Cu、Li、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、ZrおよびY等の金属・合金材料;ならびにSiO、SiO2、GeO、GeO2、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Li4Ti5O12(LTO)等の金属酸化物等が含まれる。また、負極活物質は、これらの表面にコーティングを施したものであってもよく、1種を単独でも、2種以上を含んでも良い。なお、負極活物質は、市販品であってもよい。
【0049】
一方、正極活物質の例には、リチウム系正極活物質が含まれ、例えば下記一般式(3)で表されるリチウム金属酸化物や、その表面にコーティングを施したものが挙げられる。
LiMxO2・・・(3)
一般式(3)において、MはNiを含む少なくとも一種の金属元素を表し、Ni以外の金属元素としては、Co、Al、Fe、Mn、CrおよびVからなる群から選択されることが好ましい。Niに加えて、さらにCo、MnおよびAlからなる群から選択される1種または2種以上の金属を含有することがより好ましい。また、上記式(3)で表されるリチウム金属酸化物において、Mを構成する金属元素の合計を100モル%としたとき、55モル%以上のNiを含むことが好ましく、70%以上のNiを含むことがより好ましい。
上記一般式(3)において、0.5≦x≦1.5であり、さらに好ましくは0.7≦x≦1.3である。
【0050】
上記一般式(3)で表されるリチウム系正極活物質や、その他のリチウム系正極活物質の組成の例には、Li1.0Ni0.8Co0.2O2、Li1.0Ni0.5Mn0.5O2、Li1.00Ni0.35Co0.34Mn0.34O2(NCM111)、Li1.00Ni0.52Co0.20Mn0.30O2(NCM523)、Li1.00Ni0.50Co0.30Mn0.20O2(NCM532)、Li1.00Ni0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)、Li1.00Ni0.83Co0.12Mn0.05O2(NCM811)、Li1.00Ni0.85Co0.15Al0.05O2(NCA811)、LiCoO2(LCO)、LiMn2O4(LMO)、LiFePO4(LFP)、LiMnPO4(LMP)、およびLiMn1-xFexPO4(LFMP)等が含まれる。また、正極活物質は、これらの表面にコーティングを施したものであってもよく、1種を単独でも、2種以上を含んでも良い。なお、正極活物質は、市販品であってもよい。
【0051】
合材層が含む活物質の量は、その種類、電極の機能、電池の種類等に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、一例において、合材層の総量に対して、50.0質量%以上99.9質量%以下が好ましい。活物質の量が当該範囲であると、例えば十分な充放電容量が得られ、電池性能が良好になりやすい。
【0052】
・バインダー
合材層が含むバインダーは、上記活物質を結着可能であれば特に制限されないが、上述のように、フッ化ビニリデン単独重合体、もしくはフッ化ビニリデン由来の構成単位と、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位および/または後述の一般式(2)で表される化合物由来の構成単位とを含むフッ化ビニリデン重合体Bを含むことが好ましい。バインダーは、フッ化ビニリデン単独重合体のみを含んでいてもよく、フッ化ビニリデン重合体Bのみを含んでいてもよく、これら両方を含んでいてもよい。さらにフッ化ビニリデン重合体Bを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0053】
バインダーとして使用可能なフッ化ビニリデン単独重合体は、公知のフッ化ビニリデン単独重合体と同様である。当該フッ化ビニリデン単独重合体の調製方法は特に制限されず、フッ化ビニリデンを公知の方法で重合すればよい。重合方法の例には、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が含まれる。
【0054】
一方、フッ化ビニリデン重合体Bは、フッ化ビニリデン由来の構成単位、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位および/または一般式(2)で表される化合物由来の構成単位を含む重合体である。フッ化ビニリデン重合体Bは、例えばフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であってもよく、フッ化ビニリデンと一般式(2)で表される化合物との共重合体であってもよく、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと一般式(2)で表される化合物との共重合体であってもよい。また、フッ化ビニリデン重合体Bは、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、他の共重合成分を含んでいてもよい。
【0055】
当該フッ化ビニリデン重合体B中のフッ化ビニリデン由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン重合体Bを構成する全構成単位の量(モル)に対して50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、80モル%以上が特に好ましい。フッ化ビニリデン由来の構成単位の量が、50モル%以上であると、フッ化ビニリデン由来の特性、例えば電気化学的安定性が得られやすい。フッ化ビニリデン重合体B中のフッ化ビニリデン由来の構成単位の量は、19F-NMRにより特定できる。
【0056】
一方、フッ化ビニリデン重合体B中のヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン重合体Bを構成する全構成単位の量(モル)に対して10モル%以下がより好ましい。ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の量が、上記範囲であると、フッ化ビニリデン重合体Bの融点が所望の範囲に収まりやすく、かつフッ化ビニリデン重合体Bと、上述の活物質等との接着強度が高まる。フッ化ビニリデン重合体B中のヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位の量は、19F-NMRにより特定できる。
【0057】
次に、一般式(2)を以下に示す。フッ化ビニリデン重合体Bは、上記一般式(2)で表される化合物由来の構成単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【化6】
上記一般式(2)において、R
4は、水素原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、または炭素数1以上5以下のアルキル基で置換されたカルボキシ基を表す。炭素数1以上5以下のアルキル基で置換されたカルボキシ基とは、-C(=O)-OCnH2n+1で表される基(ただし、nは1以上5以下)を意味する。これらの中でも、R
4は、重合反応性の観点から、水素原子、メチル基、または-C(=O)-OCH3が好ましい。
【0058】
また、R5およびR6は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、重合反応性の観点から、立体障害の小さい置換基が好ましく、水素または炭素数1以上3以下のアルキル基が好ましく、水素またはメチル基が好ましい。
【0059】
さらに、上記一般式(2)におけるX2は、単結合、または主鎖の原子数が1以上20以下であり、かつ分子量500以下の二価の原子団を表す。X2の主鎖の原子数とは上記一般式(2)における末端のカルボキシ基と、炭素-炭素二重結合とを繋ぐ、最も短い鎖を構成する原子の数である。主鎖の原子数は15以下がより好ましい。
【0060】
上記X2で表される原子団は、その分子量が500以下であり、かつ上記主鎖の原子数を満たしていれば、その構造は特に制限されず、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環構造を含んでいてもよい。上記原子団を構成する構造の例には、アルキレン基、カルボニル基(-C(=O)-、エーテル結合(-O-)、芳香環、脂環式構造が含まれる。
【0061】
上記式一般式(2)で表される化合物の具体例には、上述の一般式(1)で表される化合物が含まれる。また、マレイン酸モノメチル(MMM)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、等が含まれる。
【0062】
上記一般式(2)で表される化合物由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン重合体Bを構成する全構成単位の量(モル)に対して0.01モル%以上10モル%以下が好ましく、0.02モル%以上7モル%以下がより好ましく、0.03モル%以上4モル%以下が特に好ましい。一般式(2)で表される化合物由来の構成単位の量が、0.01モル%以上であると、バインダーと活物質との接着強度や、合材層とコート層との接着強度が高まる。一方、一般式(2)で表される化合物由来の構成単位の量が、10モル%以下であると、相対的にフッ化ビニリデン由来の構成単位の量が多くなり、合材層の電気化学的安定性が良好になりやすい。フッ化ビニリデン重合体B中の上記一般式(2)で表される化合物由来の構成単位の量は、19F-NMRや、1H-NMR等によって分析可能である。
【0063】
また、フッ化ビニリデン重合体Bは、上述のように、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、および一般式(2)で表される化合物以外の化合物(以下、「その他の化合物」とも称する)由来の構成単位を一部に含んでいてもよい。その他の化合物の具体例には、上述のフッ化ビニリデン重合体Aにおける説明で挙げたその他の化合物が含まれる。その他の化合物由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン重合体Bを構成する全構成単位の量(モル)に対して10モル%以下が好ましい。フッ化ビニリデン重合体B中における、その他の化合物由来の構成単位の量が10モル%以下であると、合材層の電気化学的安定性が高まりやすく、合材層とコート層との接着強度が高まりやすい。その他の化合物由来の構成単位の量は、19F-NMRや、1H-NMR等によって分析可能である。
【0064】
上記フッ化ビニリデン重合体Bの調製方法は特に制限されず、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンおよび/または上記一般式(2)で表される化合物と、を公知の方法で重合すればよい。重合方法の例には、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が含まれる。
【0065】
また、合材層中のバインダーの量は、バインダーの組成、電極の機能、電池の種類等に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、一例において、合材層の総量に対して、0.1質量%以上50質量%以下が好ましい。バインダーの量が当該範囲であると、合材層とコート層との接着強度が良好になる。また、相対的に活物質の量が十分になることから、十分な充放電容量が得られ、電池性能が良好になりやすい。
【0066】
・その他の成分
合材層は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、公知の分散剤、接着補助剤、増粘剤等を含んでいてもよい。さらに、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物、およびアンモニウム化合物等の窒素化合物;有機エステル、各種シラン系、チタン系およびアルミニウム系のカップリング剤;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、およびポリアクリロニトリル(PAN)等の樹脂;をさらに含んでいてもよい。ただし、これらの総量は、合材層の総量に対して、15質量%以下が好ましい。
【0067】
・合材層の形成方法
合材層は、上述の活物質、バインダー、また必要に応じてその他の成分、および溶媒を含む合材スラリーを、上述の集電体のコート層上に公知の方法で塗布し、公知の方法で乾燥させることで形成できる。
【0068】
3.電池
上述の集電体や、電極は、各種リチウムイオン二次電池等に使用可能であるが、他の用途に使用してもよい。
【実施例0069】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
1.材料の準備
以下の材料を準備した。
【0071】
(フッ化ビニリデン重合体)
[調製例1]
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1096g、メトローズ90SH-100(信越化学工業(株)製)0.2g、50質量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-HFE-347pc-f溶液2.2g、酢酸エチル1.3g、フッ化ビニリデン426g、およびアクリロイロキシエチルコハク酸(AES)の初期添加量0.2gの各量を仕込み、26℃まで1時間で昇温した。その後、26℃を維持し、6質量%アクリロイロキシエチルコハク酸水溶液を0.5g/minの速度で徐々に添加した。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥して極性基を含むフッ化ビニリデン共重合体(VDF/AES)を得た。アクリロイロキシエチルコハク酸は、初期に添加した量を含め、全量4.3gを添加した。
【0072】
[調製例2]
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1085g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.2g、50質量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-HFE-347pc-f溶液1.3g、酢酸エチル2.1g、フッ化ビニリデン(VDF)424gの各量を仕込み、26℃まで1時間で昇温した。その後、26℃を維持して重合を行った。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥してフッ化ビニリデン重合体(PVDF)を得た。
【0073】
[調製例3]
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1092g、メトローズ90SH-100(信越化学工業(株)製)0.2g、50質量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-HFE-347pc-f溶液3.6g、酢酸エチル5.3g、フッ化ビニリデン423g、およびアクリロイロキシエチルコハク酸(AES)の初期添加量0.2gの各量を仕込み、26℃まで1時間で昇温した。その後、26℃を維持し、5質量%アクリロイロキシエチルコハク酸水溶液を0.6g/minの速度で徐々に添加した。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥して極性基を含むフッ化ビニリデン共重合体(VDF/AES)を得た。アクリロイロキシエチルコハク酸は、初期に添加した量を含め、全量4.2gを添加した。
【0074】
[調製例4]
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1081g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.8g、50質量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-HFE-347pc-f溶液2.0g、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)12.9g、フッ化ビニリデン(VDF)415g、およびマレイン酸モノメチル(MMM)1.3gの各量を仕込み、29℃まで1時間で昇温した。その後、29℃を維持して重合を行った。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥してフッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/MMM)を得た。
【0075】
[調製例5]
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1091g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.2g、50質量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-HFE-347pc-f溶液5.1g、酢酸エチル7.7g、フッ化ビニリデン(VDF)426gの各量を仕込み、26℃まで1時間で昇温した。その後、26℃を維持して重合を行った。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥してフッ化ビニリデン重合体(PVDF)を得た。
【0076】
[調製例6]
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1009g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.2g、50質量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-HFE-347pc-f溶液5.1g、酢酸エチル9.3g、フッ化ビニリデン(VDF)420g、およびアクリロイロキシエチルコハク酸(AES)の初期添加量0.2gの各量を仕込み、26℃まで1時間で昇温した。その後、26℃を維持し、5質量%アクリロイロキシエチルコハク酸水溶液を0.7g/minの速度で徐々に添加した。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥して極性基を含むフッ化ビニリデン共重合体(VDF/AES)を得た。アクリロイロキシエチルコハク酸は、初期に添加した量を含め、全量4.2gを添加した。
【0077】
[調製例7]
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水987g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.2g、50質量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-HFE-347pc-f溶液8.8g、酢酸エチル0.8g、フッ化ビニリデン(VDF)405g、およびマレイン酸モノメチル(MMM)4.1gの各量を仕込み、29℃まで1時間で昇温した。その後、29℃を維持して重合を行った。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥して極性基を含むフッ化ビニリデン共重合体(VDF/MMM)を得た。
【0078】
[調製例8]
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水900g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.4g、ブチルペルオキシピバレート2g、フッ化ビニリデン396g、およびアクリル酸の初期添加量0.2gの各量を仕込み、50℃に加熱した。重合中に圧力を一定に保つ条件で、アクリル酸を含む1重量%アクリル酸水溶液を反応容器に連続的に供給した。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥して極性基を含むフッ化ビニリデン共重合体(VDF/AA)を得た。アクリル酸は、初期に添加した量を含め、全量4gを添加した。
【0079】
2.電極の作製
(実施例1)
・コート層の作製
表1に示すコート層フッ化ビニリデン重合体をN-メチル-2ピロリドン(以下、NMPと示す)に溶解し、6質量%のフッ化ビニリデン重合体を含む、フッ化ビニリデン重合体溶液を作製した。その後、当該重合体溶液に、導電助剤としてTimcal Japan(株)製 Super-PおよびNMPを添加し、固形分濃度4質量%のコート液を調整した。コート液におけるSuper-P、およびフッ化ビニリデン重合体の質量比は、この順で、50:50とした。得られたコート液を、集電体である厚み15μmのアルミニウム箔(基材)上に、(株)サンクメタル製TH-C型コーターを用いて塗布し、乾燥させ、目付量が1.4g/m2のコート層を形成した。
【0080】
・合材層の作製
表1に示す合材層フッ化ビニリデン重合体をNMPに溶解し、6質量%のフッ化ビニリデン重合体を含む、フッ化ビニリデン重合体溶液を作製した。その後、当該重合体溶液に、導電助剤としてCNT(カーボンチューブ)分散液(管径7nm、比表面積300m2/gのMWCNT4.3質量%含むNMP混合溶液)およびNMPを添加し、混練を行った。次いで、LFP(リン酸鉄リチウム:一次粒子径:D50:2μm、比表面積:19.9m2/g)を添加して、固形分濃度を55質量%とし、混練を行うことで、合材スラリーを調整した。合材スラリーにおける正極活物質、CNT、およびフッ化ビニリデン重合体の質量比は、この順で、100:2:2とした。得られた合材スラリーを、上記コート層上に、(株)サンクメタル製TH-C型コーターを用いて塗布し、乾燥させ、目付量がおよそ150g/m2の合材層を形成した。
【0081】
(実施例2~10、および比較例1~2)
コート層の形成に使用するコート液中のフッ化ビニリデン重合体の種類や量、合材層の形成に使用する合材スラリー中のフッ化ビニリデン重合体の種類や量等を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に電極を作製した。
【0082】
(参考例)
コート層を形成せず、基材上に直接合材層を形成した以外は、実施例1と同様に電極を作製した。
【0083】
3.評価
各種物性の測定や評価は、以下のように行った。
【0084】
・インヘレント粘度の測定
上述の実施例および比較例で使用したフッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度は、以下のように測定した。まず、フッ化ビニリデン重合体80mgを20mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させて、30℃の恒温槽内でウベローデ粘度計を用いて粘度を測定した。そして、得られた値から、次式に基づいて、フッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度(ηi)を算出した。
ηi=(1/C)・ln(η/η0)
なお、上記式において、ηは溶液の粘度、η0は溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミド単独の粘度であり、Cはフッ化ビニリデン重合体の濃度、すなわち0.4g/dLである。
【0085】
・電極状態
合材層の形成後、合材層を目視にて観察し、ひび割れがあったものを×、軽微なひび割れ観察されたものを△、ひび割れが無かったものを〇と評価した。電極をロールプレスにてプレスし、電極密度を2.3g/cm3に調整すると、電極状態△の合材層のひび割れは修復され、観察されなくなった。一方、電極状態が×の合材層は、同様にロールプレスを行ってもひび割れは修復されなかった。
【0086】
・剥離強度測定
ロールプレス後、ひび割れが観察されなかった電極(電極状態が〇および△のもの)について剥離強度測定を実施した。長さ50mm、幅20mmに切り出し、JIS K6854-1に準じて、引張試験機((株)A&D製「STB-1225S」)を使用し、ヘッド速度10mm/分で90度剥離試験を行い、剥離強度(gf/mm)を測定した。なお、剥離強度が低く、測定する前に基材から剥がれたものについては「測定不可」と表現した。
【0087】
【0088】
上記表1に示すように、基材上に、フッ化ビニリデン由来の構成単位および上述の一般式(1)で表される化合物由来の構成単位を含むフッ化ビニリデン重合体Aと、導電助剤とを含むコート層を有する実施例1~10では、コート層を含まない場合と比較して剥離強度が高くなった。
【0089】
また、コート層中のフッ化ビニリデン重合体が、一般式(1)で表される化合物由来の構成単位を含まない場合には、合材層の表面にひび割れが生じた(比較例1および2)。これに対し、フッ化ビニリデン重合体が、一般式(1)で表される化合物由来の構成単位を含む場合には、ひび割れが生じなかった(実施例1~4、実施例6~10)、または軽微なひび割れ観察されたものの、ロールプレスすることでひび割れが観察されなくなった(実施例4)。
本発明の集電体は、当該集電体上に合材層を形成し、電極とした際に、電極の表面にひび割れが生じ難く、高品質な電極や電池を製造できる。したがって、リチウムイオン二次電池等の製造に非常に有用である。