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特開2024-50060固体電池、基板つき固体電池、および固体電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050060
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】固体電池、基板つき固体電池、および固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240403BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240403BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240403BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M6/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156652
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 正一
(72)【発明者】
【氏名】樋口 聡
(72)【発明者】
【氏名】隈本 清敬
(72)【発明者】
【氏名】河原 司征
【テーマコード(参考)】
5H024
5H029
【Fターム(参考)】
5H024AA01
5H024AA02
5H024BB01
5H024FF23
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
(57)【要約】
【課題】温度変化による、電極層や固体電解質層と保護層との間へのクラックの発生を抑制し、これにより放電容量の低下を抑制し得る固体電池、当該固体電池と基板とを有する基板つき固体電池、および当該固体電池の製造方法を提供する。
【解決手段】正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを含む固体電池本体と、前記固体電池本体を覆う保護層と、前記正極層と前記保護層との界面、前記負極層と前記保護層との界面、および前記固体電解質層と前記保護層との界面のうち少なくとも一部に配置されたクッション層と、を有する、固体電池。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを含む固体電池本体と、
前記固体電池本体を覆う保護層と、
前記正極層と前記保護層との界面、前記負極層と前記保護層との界面、および前記固体電解質層と前記保護層との界面のうち少なくとも一部に配置されたクッション層と、
を有する、固体電池。
【請求項2】
前記界面に前記クッション層が配置された前記正極層、前記負極層または保護層は、Naを含む材料により形成されている、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記固体電解質層は、NASICON型の固体電解質を含む、請求項2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記クッション層は、Naを含むリン酸骨格を有する成分を含む、請求項3に記載の固体電池。
【請求項5】
積層構造からなる固体電池であって、
前記固体電池の積層構造に、最外層と固体電解質層との間、および正極層または負極層と固体電解質層との間にクッション層が形成された、固体電池。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電池と、
前記固体電池が実装された基板と、
を有する、基板つき固体電池。
【請求項7】
正極合剤層と、負極合剤層と、前記正極合剤層と前記負極合剤層との間に配置された電解質合剤層と、前記電解質合剤層と接するように配置された保護材料合剤層と、を有する積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、
を含み、
前記焼成する工程において、前記電解質合剤層に含まれる材料、および前記保護材料合剤層に含まれる材料、のいずれとも異なる成分からなるクッション層を、前記電解質合剤層と前記保護材料合剤層との界面に形成する、
固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池、基板つき固体電池、および固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話(スマートフォン)および電気自動車などの、情報関連機器や通信機器、交通関連機器に関する技術の急速な発展に伴い、これらの電源としての電池の開発が重要視されている。そして、これらの用途に使用する電池としては、安全性が高く、かつエネルギー密度も高い、リチウムイオン二次電池や固体電池が注目されている。
【0003】
これらの電池のうち、正極活物質層と負極活物質層との間に配置される電解質層に可燃性の有機電解液を用いるリチウムイオン二次電池は、液漏れやそれに伴う発火および短絡など、ならびに過充電などを抑止するための安全対策が必要である。特に、電池を高容量化したり高エネルギー密度化したりすると、これらの危険性も向上するため、さらなる安全対策が必要となる。これに対し、有機電解液を使用せず、電解質層に固体電解質を使用する固体電池は、上記した問題が生じにくく、安全性がより高いことが知られている。そのため、固体電池の開発が進められている。
【0004】
特許文献1には、正極層および負極層の電極層の電気引き出し部と、固体電池から外部に電気を取り出す外部端子と、の間に、固体電池の最外部に配置される保護層と同一の樹脂非含有絶縁性材(ガラスまたはセラミックス)から構成される緩衝部を有する、固体電池が記載されている。特許文献1によれば、この緩衝部は固体電池を作製する際の焼成時に電気引き出し部および外部端子の両方と接合して、電気引き出し部と外部端子との間の接合強度を高める、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/070929号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、電極層に接した位置に保護層と同じ材料からなる層を設けることで、電気引き出し部と外部端子との接合強度を高めることができると記載されている。しかし、本発明者らの知見によれば、固体電池には、電極層や固体電解質層と保護層との間にクラックが生じやすく、温度変化による放電容量の低下が生じやすい傾向がある。そして、特許文献1に記載のようにガラスまたはセラミックスによる保護層を拡張すると、温度変化によるクラックの発生に起因する放電容量の低下が生じやすくなってしまう。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、温度変化による、電極層や固体電解質層と保護層との間へのクラックの発生を抑制し、これにより放電容量の低下を抑制し得る固体電池、当該固体電池と基板とを有する基板つき固体電池、および当該固体電池の製造方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の固体電池、基板つき固体電池、および固体電池の製造方法によって解決することができる。
【0009】
本発明の固体電池は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを含む固体電池本体と、前記固体電池本体を覆う保護層と、前記正極層と前記保護層との界面、前記負極層と前記保護層との界面、および前記固体電解質層と前記保護層との界面のうち少なくとも一部に配置されたクッション層と、を有する。
【0010】
本発明の基板つき固体電池は、前記固体電池と、前記固体電池が実装された基板と、を有する。
【0011】
また、本発明の固体電池は、積層構造からなる固体電池であって、前記固体電池の積層構造に、最外層と固体電解質層との間、および正極層または負極層と固体電解質層との間にクッション層が形成されている。
【0012】
本発明の固体電池の製造方法は、正極合剤層と、負極合剤層と、前記正極合剤層と前記負極合剤層との間に配置された電解質合剤層と、前記電解質合剤層と接するように配置された保護材料合剤層と、を有する積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、前記焼成する工程において、前記電解質合剤層に含まれる材料、および前記保護材料合剤層に含まれる材料、のいずれとも異なる成分からなるクッション層を、前記電解質合剤層と前記保護材料合剤層との界面に形成する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度変化による、電極層や固体電解質層と保護層との間へのクラックの発生を抑制し、これにより放電容量の低下を抑制し得る固体電池、当該固体電池と基板とを有する基板つき固体電池、および当該固体電池の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1A図1Cは、本実施形態に係る固体電池の構成を示す模式図である。
図2図2A図2Cは、クッション層が配置され得る領域を示す、図1B中の領域の部分拡大図である。
図3図3は、本実施形態に係る固体電池つき基板の構成を示す模式図である。
図4図4A図4Eは、正極合剤層パーツの作製工程の一例を示す模式図である。
図5図5A図5Cは、作製された正極合剤層パーツの一例を示す模式図である。
図6図6A図6Cは、作製された負極合剤層パーツの一例を示す模式図である。
図7図5A図7Cは、固体電池本体を作製する工程の一例を示す模式図である。
図8図8A図8Cは、固体電池本体を作製する工程の一例を示す模式図である。
図9図9は、実施例および比較例のヒートサイクル試験結果を示すグラフである。
図10図10は、実施例および比較例の固体電池の切断面を示す模式図である。
図11図11A図11Cは、実施例および比較例の固体電池の切断面のSEM画像である。
図12図12は、実施例のクッション層の成分調査(XRDパターン)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.固体電池
図1A図1Cは、本実施形態に係る固体電池1の構成を示す模式図である。このうち、図1Aは、固体電池の模式的な要部斜視図であり、図1Bは、図1Aの1B線に沿った模式的な断面図であり、図1Cは、図1Aの1C線に沿った模式的な断面図である。
【0016】
図1A~1Cに示すように、固体電池1は、固体電池本体10、保護層20、ならびに外部電極31および外部電極32を含む。
【0017】
1-1.固体電池本体10
固体電池本体10は、正極層11、負極層12、およびそれらの間に配置された固体電解質層13を有する。本実施形態では、複数の正極層11、複数の負極層12および複数の固体電解質層13が、一対の正極層11と負極層12との間に固体電解質層13が介在されるように積層されている。すなわち、本実施形態の固体電池本体10は、下から順に、負極層12、固体電解質層13、正極層11、固体電解質層13、負極層12、固体電解質層13、正極層11が積層された構造となっている。そして、本実施形態の固体電池本体10は、正極層11と保護層20との界面、負極層12と保護層20との界面、および固体電解質層13と保護層20との界面のうち少なくとも一部に配置された、クッション層25を有する。
【0018】
(正極層11)
正極層11は、固体電解質層13の一方の面13aの一部に配置されている。
【0019】
正極層11は、正極活物質を含む。正極活物質の例には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、およびニッケル酸リチウム(LiNiO2)等の層状酸化物、ピロリン酸コバルトリチウム(Li2CoP2O7、以下「LCPO」ともいう)、およびリン酸コバルトリチウム(LiCoPO4)等のオリビン構造を持つ化合物、LiMO2(MはNi、Mn、Coのうち一種または複数種)等のスピネル構造を有するマンガン酸リチウム、チタン酸リチウム、ならびに、リン酸バナジウムリチウム(Li3V2(PO4)3、以下「LVP」ともいう)、Li2FeP2O7、Li2CoP2O7、Li2NiP2O7、Li2MnP2O7等のリン酸化合物等が含まれる。
【0020】
正極層11は、必要に応じて固体電解質や導電助剤をさらに含んでもよい。正極層11が含み得る固体電解質の例には、後述する固体電解質層13に用いられる固体電解質と同様の材料が含まれ、好ましくは後述するLAGP等の酸化物固体電解質が用いられる。導電助剤の例には、カーボンファイバー、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素材料が含まれる。
【0021】
正極層11の厚みは、特に制限されないが、例えば5μm以上30μ以下m、好ましくは10μm以上20μm以下である。正極層11の厚みが下限値以上であると、放電容量を一層高めやすく、上限値以下であると、正極層11の厚み方向におけるLiイオンの拡散による抵抗上昇を一層抑制できる。
【0022】
(負極層12)
負極層12は、固体電解質層13の他方の面13bの一部に設けられている。図1Bに示すように、対をなす正極層11と負極層12は、固体電解質層13を介して互いに部分的に重なり合うように配置されている。
【0023】
負極層12は、負極活物質を含む。負極活物質の例には、天然黒鉛、人造黒鉛および黒鉛炭素繊維等の炭素材料、アナターゼ型の酸化チタン、LATP、LVP、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)等の金属酸化物、シリコン(Si)、錫(Sn)等の金属、酸化ニオブ(Nb2O5)、ならびにニッケル(Ni)等の金属のシリサイド等が含まれる。これらのうち、アナターゼ型の酸化チタンが好ましい。負極活物質は、1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0024】
負極層12は、必要に応じて固体電解質や導電助剤をさらに含んでもよい。負極層12に用いられる固体電解質や導電助剤は、正極層11に用いられる固体電解質や導電助剤と同様のものを用いることができる。負極層12は、正極層11と同種の固体電解質を含むことが好ましい。
【0025】
負極層12の厚みは、特に制限されないが、例えば5μm以上30μm以下、好ましくは10μm以上20μm以下である。負極層12の厚みが下限値以上であると、放電容量を一層高めやすく、上限値以下であると、負極層12の厚み方向におけるLiイオンの拡散による抵抗上昇を一層抑制できる。
【0026】
(固体電解質層13)
固体電解質層13は、固体電解質を含む。固体電解質の例には、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等が含まれる。これらのうち、酸化物固体電解質が好ましい。酸化物固体電解質の例には、一般式Li1+yAlyM2-y(PO4)3で表されるNASICON型(Na super ionicconductor型、「ナシコン型」とも称される)の酸化物固体電解質が含まれる。上記一般式において、組成比yは0<y≦1であり、Mはゲルマニウム(Ge)およびチタン(Ti)の一方または両方である。NASICON型の酸化物固体電解質は、LAGPであることが好ましい。LAGPは、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0<x≦1)で表される酸化物固体電解質であって、アルミニウム置換リン酸ゲルマニウムリチウム等と称される。たとえば、固体電解質層13のLAGPとしては、組成比x=0.5のLi1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3が好ましい。また、LAGPとしては、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3の組成に限らず、Li1.4Al0.4Ge1.6(PO4)3といった他の組成のNASICON型LAGPが用いられてもよい。LAGPには、非晶質のLAGPであってもよいし、結晶質のLAGPであってもよいし、これらを組み合わせたものであってもよい。また、LAGPのほか、NASICON型LATP(一般式Li1+zAlzTi2-z(PO4)3,0<z≦1)の1種であるLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を用いてもよい。その他の酸化物固体電解質の例には、ガーネット型のジルコン酸ランタンリチウム(Li7La3Zr2O12,以下「LLZ」ともいう)、ペロブスカイト型のチタン酸ランタンリチウム(Li0.5La0.5TiO3,以下「LLT」ともいう)、および一部を窒化したγ-リン酸リチウム(γ-Li3PO4,以下「LiPON」ともいう)などが含まれる。
【0027】
固体電解質層13の厚みは、特に制限されないが、例えば2μm以上10μm以下、好ましくは3μm以上6μm以下である。固体電解質層13の厚みが下限値以上であると、正極層11と負極層12との間の絶縁性を一層高めやすく、上限値以下であると、固体電解質層13の厚み方向におけるLiイオンの拡散による抵抗上昇を一層抑制できる
【0028】
上記のように構成された固体電池本体10では、充電時には、正極層11から固体電解質層13を介して負極層12にリチウムイオンが伝導して取り込まれ、放電時には、負極層12から固体電解質層13を介して正極層11にリチウムイオンが伝導して取り込まれる。このようなリチウムイオン伝導によって、充放電動作が実現される。
【0029】
1-2.保護層20
保護層20は、固体電池本体10の正極層11の端面11aおよび負極層12の端面12aが露出するように、固体電池本体10を覆う(図1B参照)。固体電池本体10の、保護層20から正極層11の端面11aが露出する面が、正極引出面1aとなり、保護層20から負極層12の端面12aが露出する面が、負極引出面1bとなる。このように、固体電池本体10の周囲が保護層20で覆われることで、外部から加えられる力や外部の環境から固体電池本体10を保護することができる。
【0030】
保護層20は、電子絶縁性を有していればよいが、水分やガスの透過性が低く、良好な密閉性を有するものが好ましい。中でも、固体電池本体10を構成する各層と同程度の線膨張係数を有するものや、各層との密着性が良好なものが好ましい。保護層20を構成する材料としては、ガラスまたはセラミックスや、固体電解質層13に用いられる固体電解質が用いられる。
【0031】
上記ガラスの例には、SnO-B2O3-P2O5-Al2O3、SiO2-B2O3-BaO-ZnO、SiO2-B2O3-Bi2O3-ZnO、ZnO-Bi2O3-B2O3、SiO2-Bi2O3、B2O3-P2O5-Na2O-CaO-BaO-Al2O3、SnO-P2O5、SnO-B2O3-P2O5、SiO2-SnO-P2O5、SiO2-B2O3-R2O、SiO2-B2O3-ZnO-Na2O-NaF-V2O5、SnO-ZnO-P2O5-R2O-R2O、SiO2-B2O3-ZnO、SiO2-B2O3-Al2O3-ZrO2、SiO2-B2O3-ZnO-R2O-R2O、SiO2-B2O3-Al2O3-R2O-R2O、SiO2-B2O3-BaO-ZnOなどが含まれる(なお、Rはアルカリ金属を、R2はアルカリ土類金属を、それぞれ示す。)などが含まれる。
【0032】
上記セラミックスの例には、アルミナ、フェライト、ジルコニア、ジルコン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ランタン、チタン酸ネオジウム、チタン酸ジルコン鉛、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、錫酸バリウム、錫酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、フォルステライトなどの焼結体が含まれる。
【0033】
1-3.外部電極31および外部電極32
外部電極31は、固体電池1の正極引出面1a上に設けられ、正極引出面1aから露出する正極層11の端面11aと接続される(図1B参照)。外部電極32は、固体電池1の負極引出面1bに設けられ、負極引出面1bから露出する負極層12の端面12aと接続される(図1B参照)。
【0034】
外部電極31および外部電極32には、各種導体材料を用いることができる。たとえば、外部電極31および外部電極32には、銀(Ag)等の金属粒子や炭素粒子等の導電性粒子を含有した導電性ペーストを乾燥、硬化させたもの、或いはスパッタ法やメッキ法等を用いた各種金属の堆積によって形成されたものが用いられる。
【0035】
1-4.クッション層
クッション層25は、正極層11と保護層20との界面、負極層12と保護層20との界面、および固体電解質層13と保護層20との界面のうち少なくとも一部に配置されている。
【0036】
図2A図2Cは、クッション層25が配置され得る領域を示す、それぞれ図1B中の領域2A、領域2B、および領域2Cの部分拡大図である。クッション層25は、図2Aに示す正極層11と保護層20との界面に配置されていてもよいし、図2Bに示す負極層12と保護層20との界面に配置されていてもよいし、図2Cに示す固体電解質層13と保護層20との界面に配置されていてもよい(なお、図2Aおよび図2Bにも、クッション層25が固体電解質層13と保護層20との界面に配置され得ることが示されている。)。クッション層25は、これらのうち一部の層間の界面に形成されていてもよいし、すべての層間の界面に形成されていてもよい。
【0037】
また、図1Bおよび図1Cに示すように、本実施形態では正極層11と保護層20との界面は固体電池本体10の内部の複数箇所に存在する。クッション層25は、これら複数の正極層11と保護層20との界面のうち、一部の界面のみに形成されていてもよいし、すべての界面に形成されていてもよい。負極層12と保護層20との界面、および固体電解質層13と保護層20との界面に配置されるクッション層25も同様に、複数存在する界面のうち一部の界面のみに形成されていてもよいし、すべての界面に形成されていてもよい。
【0038】
また、クッション層25は、図2A図2Cに示した領域の全体に配置されていてもよいし、上記領域のうちに部分的に配置されていてもよい。
【0039】
クッション層25は、保護層20と各電極層または固体電解質層との間に生じた応力を吸収する。これにより、クッション層25は上記応力に起因するこれらの層間へのクラックの発生(層間剥離)を抑制すると考えられる。特に、固体電池1を基板に実装したときなどには、固体電池1と基板との線膨張係数の差により、温度変化時に基板の体積変化量と固体電池1の体積変化量との間に大きな差が生じる。そして、この体積変動量の差により、固体電池1に大きな応力が印加されやすい。クッション層25は、このような応力による上記層間へのクラックの発生を顕著に抑制する。
【0040】
クッション層25の厚みは、特に限定されないが、たとえば1μm以上50μm以下、好ましくは3μm以上20μm以下である。クッション層25の厚みが下限値以上であると、クラックの発生がより効果的に抑制される。クッション層25の厚みが上限値以下であると、正極層11、負極層12、固体電解質層13および保護層20の各層の厚みを十分に確保できるため、これらの層の機能が阻害されにくい。同様の観点から、クッション層25の厚みは、固体電池本体10および保護層20の合計の厚みに対して、たとえば0.2%以上4%以下、好ましくは0.5%以上2%以下である。
【0041】
本実施形態では、クッション層25は、保護層20の材料の一部とこれらの層との材料の一部とが焼成時に反応して形成される層である。このような材料からなるクッション層25は、正極層11、負極層12または固体電解質層13により強固に結合して、クラックの発生をより生じにくくすることができる。また、上記材料からなるクッション層25は、その線膨張係数が、保護層20に近く、かつ正極層11、負極層12または固体電解質層13とも近い値となる。そのため、熱によるクッション層25の体積変動量が、これらの層の体積変動量により近くなり、クッション層25とこれらの層との間の線膨張係数の差に起因するクラックの発生も生じにくくなる。
【0042】
焼成時にクッション層25を形成するとき、保護層20の材料としては、正極層11、負極層12および固体電解質層13の材料よりも低い温度域に軟化点を有する材料を使用する。たとえば、Si系のガラスを使用することができ、このとき保護層20の材料にはSiO2-B2O3-R2O(Rはアルカリ金属を示す。)などの、アルカリ金属を含むSi系のガラス等を使用することができる。Rはアルカリ金属であればよいが、クッション層25を良好に形成させる観点からは、ナトリウム(Na)が好ましい。上記Si系のガラスは、Al2O3、ZnO、Bi2O3、ZrO2、およびSnO2などを含んでいてもよい。
【0043】
また、焼成時にクッション層25を形成するとき、正極層11、負極層12、固体電解質層13には、固体電解質としてNASICON型の酸化物固体電解質を使用することが好ましい。NASICON型の酸化物固体電解質は、通常、LiM2(PO4)3で示される構造式を有する(Mはチタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)および錫(Sn)などの遷移金属を示す。)。そして、焼成時には、このリン酸基(PO4)が上記Si系のガラスに含まれるアルカリ金属、好ましくはNaと反応して、上記アルカリ金属を含むリン酸骨格を有する反応生成物を生成する。この反応生成物をクッション層25とすることで、クラックの発生をより効果的に抑制することができる。
【0044】
1-5.作用
上記実施形態に係る固体電池1は、固体電池本体10が、正極層11と保護層20との界面、負極層12と保護層20との界面、および固体電解質層13と保護層20との界面のうち少なくとも一部に配置された、クッション層25を有する。それにより、温度変化による固体電池1の内部の層間へのクラックの発生が抑制され、これによる放電容量の低下を抑制することができる。
【0045】
図3は、上記実施形態に係る固体電池1が基板51に実装されてなる基板つき固体電池50を示す、模式図である。この基板つき固体電池は、固体電池1と基板51との間の線膨張係数の違いに起因する、固体電池1の内部へのクラックが生じにくく、これによる放電容量の低下が生じにくい。
【0046】
基板51の材料の例には、ガラスエポキシ基板などの、等分野で通常使用される基板が含まれる。
【0047】
2.固体電池の製造方法
本実施形態に係る固体電池1は、1)負極ペースト(負極合剤)、正極ペースト(正極合剤)、電解質ペースト(電解質合剤)および保護ペースト(保護材料合剤)を準備する工程、2)当該負極ペーストから得られる負極合剤層、正極合剤層、および電解質合剤層を含む積層体を形成する工程、および3)積層体を焼成する工程を経て製造され得る。
【0048】
1)負極ペースト等を準備する工程
まず、負極ペーストを準備する。負極ペーストは、負極活物質を含み、必要に応じて固体電解質や導電助剤、バインダ、分散剤、可塑剤、希釈剤等をさらに含んでもよい。たとえば、負極ペーストは、負極活物質としてアナターゼ型の酸化チタン粒子、固体電解質として酸化物固体電解質(好ましくはLAGP)、導電助剤、バインダ、分散剤および希釈剤(有機溶剤)を含み得る。
【0049】
さらに、正極ペースト(正極合剤)、電解質ペースト(電解質合剤)および保護ペースト(保護材料合剤)についても同様に準備する。
【0050】
(正極ペースト)
正極ペーストは、正極活物質を含み、必要に応じて固体電解質や導電助剤、バインダ、分散剤、可塑剤、希釈剤等をさらに含んでもよい。たとえば、正極ペーストは、LCPO等の正極活物質、LAGP等の酸化物固体電解質、カーボンナノファイバー等の導電助剤、バインダ、および希釈剤を含み得る。
【0051】
(電解質ペースト)
電解質ペーストは、固体電解質を含み、必要に応じて固体電解質や導電助剤、バインダ、分散剤、可塑剤、希釈剤等をさらに含み得る。たとえば、電解質ペーストは、LAGP等の固体電解質および希釈剤を含み得る。
【0052】
(保護ペースト)
保護ペーストは、上述した保護層20の材料を含む。たとえば保護層20がガラスであるときは、保護ペーストは、その材料となる珪砂(シリカ)、ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)、ホウ酸やその他の焼成により形成されるガラスに応じた材料を含むペーストであればよい。また、保護層20がセラミックスであるときは、保護ペーストは、アルミナ、フェライト、ジルコニアなどの粉末を含むペーストであればよい。また、保護層20が固体電解質を含むときは、保護ペーストには、電解質ペーストを用いてもよい。
【0053】
2)積層体を形成する工程
次いで、上記ペーストを用いて、正極合剤層41、負極合剤層42、電解質合剤層43、保護材料合剤層(埋込層)21および保護材料合剤層(最外層)22を含む積層体44を形成する。本実施形態では、正極合剤層パーツ、負極合剤層パーツを作製し、これらを積層して、積層体44を形成する。
【0054】
(正極合剤層パーツの作製)
図4A図4Eは、正極合剤層パーツの作製工程の一例を示す模式図である。図5A図5Cは、作製された正極合剤層パーツの一例を示す模式図である。このうち、図5Aは、正極合剤層パーツの模式的な斜視図であり、図5Bは、図5Aの5B線に沿った模式的な断面図であり、図5Cは、図5Aの5C線に沿った模式的な断面図である。
【0055】
まず、支持体40の一部上に、たとえばスクリーン印刷法により正極ペーストを塗工した後、乾燥させて、正極合剤層41を形成する(図4Aおよび4B)。次いで、支持体40の一部上に形成された正極合剤層41の周囲に、たとえばスクリーン印刷法により、保護ペーストを塗工し、乾燥させて、保護材料合剤層(埋込層)21を形成する(図4C参照)。
【0056】
正極ペーストの塗工およびその周囲の保護ペーストの塗工は、正極合剤層41の厚さおよび活物質量の調整等のため、交互に繰り返して複数回行われてもよい。この場合、正極ペーストおよび保護ペーストの乾燥は、各々の塗工後に都度行われてもよいし、複数回の正極ペーストおよび保護ペーストの塗工後に一括で行われてもよい。
【0057】
次いで、正極合剤層41上、およびその周囲に形成された埋込層21の一部上に、たとえばスクリーン印刷法により、電解質ペーストを塗工し、乾燥させて、電解質合剤層43を形成する(図4D参照)。電解質合剤層43の形成後、それによって覆われない埋込層21の一部上に、たとえばスクリーン印刷法により、保護ペーストを塗工し、乾燥させて、埋込層21を形成する(図4E参照)。それにより、正極合剤層パーツが得られる(図5A参照)。
【0058】
電解質ペーストの塗工およびその外側の保護ペーストの塗工は、電解質合剤層43の厚さの調整等のため、交互に繰り返して複数回行われてもよい。この場合、電解質ペーストおよび保護ペーストの乾燥は、各々の塗工後に都度行われてもよいし、複数回の電解質ペーストおよび保護ペーストの塗工後に一括で行われてもよい。
【0059】
なお、図5A図5Cに示すような正極合剤層パーツから支持体40を剥離したものを、正極合剤層パーツとして用いることもできる。また、電解質合剤層43を形成する前の、図4Cに示すようなパーツ又は当該パーツから支持体40を剥離したものを、正極合剤層パーツとして用いることもできる。
【0060】
また、支持体40上に正極合剤層41およびその周囲の埋込層21を形成した後、電解質合剤層43およびその外側の埋込層21の形成を行う例を示したが、この順序を逆にすることもできる。すなわち、支持体40上に、電解質合剤層43およびその外側の埋込層21の形成した後、正極合剤層41およびその周囲の埋込層21の形成を行うようにしてもよい。
【0061】
なお、保護層20として固体電解質を含むものを用いるときは、保護ペーストの代わりに電解質ペーストを塗工してもよい。ただし、固体電解質との焼成時の反応によりクッション層25を形成するときは、少なくともいずれかの層には、正極合剤層41または電解質合剤層43と接する位置に保護ペーストを塗工することが好ましい。
【0062】
また、各層は、支持体40上に直接、塗布してもよいが、他の離型フィルム(たとえばPETフィルム)上に塗布した後、支持体40上に転写して形成してもよい。
【0063】
(負極合剤層パーツの作製)
図6A図6Cは、作製された負極合剤層パーツの一例を示す模式図である。このうち、図6Aは、負極合剤層パーツの模式的な斜視図であり、図6Bは、図6Aの6B線に沿った模式的な断面図であり、図6Cは、図6Aの6C線に沿った模式的な断面図である。
【0064】
負極合剤層パーツの作製は、上記正極合剤層パーツの作製方法と同様にして行うことができる。それにより、支持体40と、負極合剤層42およびその周囲の埋込層21と、電解質合剤層43およびその外側の埋込層21と、がこの順に積層された負極合剤層パーツを得ることができる(図6A図6C)。
【0065】
このときも、保護層20として固体電解質を含むものを用いるときは、保護ペーストの代わりに電解質ペーストを塗工してもよい。ただし、固体電解質との焼成時の反応によりクッション層25を形成するときは、少なくともいずれかの層には、負極合剤層42または電解質合剤層43と接する位置に保護ペーストを塗工することが好ましい。
【0066】
(積層体の形成)
図7A図7Cおよび図8A図8Cは、固体電池本体10を作製する工程の一例を示す模式図である。
【0067】
上記作製した正極合剤層パーツと負極合剤層パーツを積層する。たとえば図8Bの支持体40付きの負極合剤層パーツ上に、図7Bの正極合剤層パーツから支持体40を剥離したものを積層し、その上に、図8Bに示した負極合剤層パーツから支持体40を剥離したものを積層し、その上に、図8Cに示した正極合剤層パーツから支持体40を剥離したものを積層する(図7A参照)。そして、得られた積層物から支持体40が剥離され、下側および上側に保護材料合剤層(最外層)22を積層し、これらを所定の圧力および温度の条件で熱圧着して、積層体44を形成する(図7B参照)。
【0068】
正極合剤層パーツと負極合剤層パーツの積層は、電解質合剤層43を介して対向する負極合剤層42と正極合剤層41とが部分的に重なり合うように行われる。また、積層数は、求められる性能(電池の容量等)に応じて設定され得る。
【0069】
それにより、正極合剤層41、負極合剤層42およびそれらの間に介在される電解質合剤層43と、埋込層21および最外層22とを含む積層体44が形成される(図7B参照)。
【0070】
3)積層体を焼成する工程
次いで、得られた積層体44を、必要に応じて所定の位置C1および位置C2で切断する(図7B参照)。そして、得られた積層体44を、所定の温度で焼成する(図8Aおよび8B参照)。
【0071】
(脱脂・焼成)
積層体44を、所定の雰囲気、温度および時間の条件の下で熱処理する。熱処理は、たとえば熱処理炉45で行うことができる。具体的には、主にバインダ等の有機成分を焼失させる脱脂のための熱処理、主に固体電解質および保護材料を焼結させる焼成のための熱処理を行う。
【0072】
脱脂のための熱処理は、例えば酸素を含む雰囲気下、300~600℃で5~30時間、好ましくは500℃で10時間保持して行うことができる。焼成のための熱処理は、例えば窒素又は酸素を含む雰囲気下、400~650℃で1~10時間、好ましくは600℃で2時間保持して行うことができる。
【0073】
焼成のための熱処理により、積層体44に含まれる電解質合剤層43内の固体電解質や、正極合剤層41内および負極合剤層42内の固体電解質が焼結される。また、焼成のための熱処理により、積層体44に含まれる埋込層21や最外層22が焼結され、それらが互いに一体化される。これにより、正極層11、負極層12、固体電解質層13および保護層20を有する積層体44の焼結物が形成される(図8B参照)。
【0074】
また、埋込層21または最外層22が、焼成によりクッション層25を形成する材料を含むときは、この焼成により、埋込層21または最外層22に含まれる材料と、正極合剤層41、負極合剤層42または電解質合剤層43の含まれる材料とが反応して、クッション層25が形成される。
【0075】
積層体44の焼結物の位置C1での切断面は、正極引出面1aとなり、正極引出面1aから露出する正極層11の端面11aは、外部電極31と接続される。積層体44の焼結物の位置C2での切断面は、負極引出面1bとなり、負極引出面1bから露出する負極層12の端面12aは、外部電極32と接続される。それにより、固体電池本体10を得ることができる(図8B参照)。
【0076】
(外部電極の形成)
得られた積層体44の焼結物の正極引出面1aに外部電極31を形成し、負極引出面1bに外部電極32を形成する。外部電極31および外部電極32は、たとえば導電性ペーストを塗工、乾燥、硬化させる方法や、スパッタ法やメッキ法等で金属を堆積させる方法により形成される。これにより、固体電池1が得られる(図8C参照)。
【0077】
3.変形例
なお、上記実施形態では、固体電池本体10を構成する正極層11、負極層12および固体電解質層13が、それぞれ複数ずつあるが、これに限らず、それぞれ1つずつであってもよい。また、正極層11、負極層12および固体電解質層13の数は、上記実施形態に限らず、求められる特性に応じて適宜設定されてよい。
【0078】
固体電解質層13、正極層11および負極層12には、互いに同種の酸化物固体電解質が用いられてもよいし、互いに異種の酸化物固体電解質が用いられてもよい。固体電解質層13、正極層11および負極層12にはそれぞれ、1種の酸化物固体電解質が用いられてもよいし、2種以上の酸化物固体電解質が用いられてもよい。
【0079】
また、それぞれの保護層20(埋込層21または最外層22)は、すべて同一組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。たとえば、埋込層となる埋込層21と、積層体44の下側および上側に配置される(積層体44の最上層および最下層となる)最外層22とは、同一組成の保護ペーストで形成されてもよいし、異なる組成の保護ペーストで形成されてもよい。また、固体電池1の製造時に、クッション層25を形成したい部位のみに、焼成時の反応によりクッション層25を形成する保護ペーストを使用し、他の部位には他の組成の保護ペースト(あるいは電解質ペースト)を用いてもよい。
【0080】
また、クッション層25の形成方法は上記製造方法に限られることはない。たとえば、クッション層25を形成すべき界面のみに、クッション層25の材料を配置するように、各合剤層および積層体44を形成して、これを焼成してもよい。
【0081】
また、正極合剤層41、負極合剤層42およびそれらの間に介在される電解質合剤層43と、埋込層21とを含む積層体を形成して焼成し、正極層11と保護層20との界面、および負極層12と保護層20との界面にクッション層25が形成された焼結体(図2A図2B参照)を形成してもよい。その後さらに、焼結体に最外層22を積層して焼成し、最外層(最上層および最下層)としての保護層20と固体電解質層13との間にクッション層25が形成された焼結体(図2C参照)を形成してもよい。
【実施例0082】
以下、実施例を参照してさらに本発明を説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらによって限定されるものではない。
【0083】
1.固体電池の作製
[実施例1]
1-1.ペーストの調製
1-1-1.正極ペーストの調製
正極活物質としてLi2CoP2O7粉末(LCPO粉末)を11.8質量部、固体電解質として非晶質Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3粉末(LAGPg粉末)を17.7質量部、導電助剤として気相成長炭素繊維粉末(VGCF粉末)を2.7質量部、バインダとしてポリビニルブチラールを7.8質量部、可塑剤としてビス(2-エチルヘキサン酸)トリエチレングリコール(住友化学株式会社製、G-260)を0.3質量部、分散剤として楠本化成株式会社製、HIPLAAD ED350(「HIPLAAD」は同社の登録商標)を0.6質量部、希釈剤としてターピネオールを59.1質量部の割合で使用した。これらをボールミルで72時間混合した後、三本ロールミルで混合分散させて、粒ゲージを用いて材料凝集体が1μm以下になるまで、分散させて、正極ペーストを得た。
【0084】
1-1-2.負極ペーストの調製
正極活物質の代わりに、負極活物質としてアナターゼ型の酸化チタンを同量用いた以外は正極ペーストの作製と同様にして、負極ペーストを得た。
【0085】
1-1-3.電解質ペーストの調製
固体電解質として非晶質Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3粉末(LAGPg粉末)を29.0質量部および結晶質Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3粉末(LAGPc粉末)を3.2質量部、バインダとしてポリビニルブチラールを6.2質量部、可塑剤としてビス(2-エチルヘキサン酸)トリエチレングリコール(住友化学株式会社製、G-260)を2.2質量部、分散剤として楠本化成株式会社製、HIPLAAD ED350を0.3質量部、希釈剤としてターピネオールを59.1質量部の割合で使用した。これらをボールミルで72時間混合した後、三本ロールミルで混合分散させて、粒ゲージを用いて材料凝集体が1μm以下になるまで、分散させて、電解質ペーストを得た。
【0086】
1-1-4.保護層ペーストの調製
SiO2-B2O3-Na2Oガラスを34.1質量部、バインダとしてポリビニルブチラールを6.4質量部、可塑剤としてビス(2-エチルヘキサン酸)トリエチレングリコール(住友化学株式会社製、G-260)を0.2質量部、分散剤として楠本化成株式会社製、HIPLAAD ED350を0.5質量部、希釈剤としてターピネオールを58.8質量部の割合で使用した。
【0087】
1-2.固体電池の作製
1-2-1.正極合剤層パーツの作製
PETフィルム上に、スクリーン印刷法で上記電解質ペーストをパターン印刷し、90℃で5分間乾燥させた。その上に、上記正極ペーストをスクリーン印刷法でパターン印刷し、90℃で5分間乾燥させた。次いで、パターン印刷した正極ペーストの周囲に、スクリーン印刷法で上記保護層ペーストを印刷した後、90℃で5分間乾燥させた。これらの操作を、所定の厚みになるまで繰り返した。それにより、PETフィルム/電解質合剤層/正極合剤層およびその周囲の保護材料合剤層(埋込層)の積層構造を有する正極合剤層パーツを作製した。
【0088】
1-2-2.負極合剤層パーツの作製
上記正極ペーストに代えて、上記負極ペーストを用いた以外は正極合剤層パーツと同様にして負極合剤層パーツを作製した。それにより、PETフィルム/電解質合剤層/負極合剤層およびその周囲の保護材料合剤層(埋込層)の積層構造を有する負極合剤層パーツを作製した。
【0089】
1-2-3.上側保護層および下側保護層の作製
PETフィルム上に、上記保護層ペーストをベタ状に印刷(全面印刷)した後、乾燥させた。それにより、PETフィルム/保護材料合剤層(最外層)の積層構造を有する上側保護層パーツおよび下側保護層パーツをそれぞれ作製した。
【0090】
1-2-4.積層体の作製
上記作製した下面保護層パーツの保護材料合剤層(最外層)上に、上記作製した正極合剤層パーツを、その正極合剤層が下面保護層パーツの保護材料合剤層と接するように積層し、熱圧着させて、正極合剤層/電解質合剤層を転写した。
【0091】
次いで、転写した電解質合剤層上に、負極合剤層パーツを、その負極合剤層が当該電解質合剤層と接するように積層し、熱圧着させて、負極合剤層/電解質合剤層を転写した。
【0092】
上記した正極合剤層パーツと負極合剤層パーツの転写とを、所定の積層数(10層)となるまで繰り返した。最後に、上側保護層パーツの保護材料合剤層(最外層)を同様に積層し、熱圧着させて、転写した。
【0093】
熱圧着条件は、いずれも20MPa、70℃とした。それにより、図7Aに示されるような積層構造を有する積層体(ただし一番上は電解質合剤層である。)を得た。
【0094】
この積層体を4.5mm×3.2mmの平面寸法になるように切断した後、2枚の多孔性セラミックス板で挟んだ状態で、大気雰囲気下、500℃で1時間加熱して、バインダ成分の脱脂を行った。その後、窒素雰囲気下、600℃で2時間加熱した。それにより、積層体を焼成した。
【0095】
得られた焼成後の積層体の引き出し部を覆うようにして外部電極を形成した。外部電極は、銀を含む主材を塗布した後、その表面にNiメッキおよびSnメッキを施して形成した。それにより、図1に示されるような固体電池を作製した。
【0096】
[比較例1]
保護層ペーストの代わりに電解質ペーストを用いた以外は同様にして、比較例の固体電池を作製した。
【0097】
2.評価
2-1.ヒートサイクル試験
作成した固体電池を、ガラスエポキシ基板(FR4)にリフロー実装して、以下のヒートサイクル試験を行った。
【0098】
2-1-1.放電容量(基準値)の測定
23℃で、固体電池の充放電を行った。
【0099】
充電は、CC-CV充電モード(Constant Current-Constant Voltage)で行った。CC充電モードの最大電流レートは1C、CV充電モードの終了条件は、CVモード開始から5時間とした。CV充電モードにおける充電上限電圧は、3.35Vとした。
【0100】
放電は、CC放電モードで行った。電流レート0.2C、1V終止とした。充放電試験は、85℃で実施した。
【0101】
上記条件での充放電サイクルを3回行い、3回目の放電容量を、各固体電池の放電容量の基準値とした。
【0102】
その後、上記充電条件で各固体電池を充電し、次のヒートサイクル試験に供した。
【0103】
2-1-2.ヒートサイクル試験
冷熱衝撃装置(エスペック株式会社製、TSA-101L-A)を使用して、各固体電池を、0℃で10分間保持し、その後105℃で10分間保持した。これを1サイクルとして、250サイクルの冷却および加熱を行った。
【0104】
その後、23℃で、各固体電池の充放電をして劣化調査を行った。
【0105】
充電は、CC-CV充電モード(Constant Current-Constant Voltage)で行った。CC充電モードの最大電流レートは1C、CV充電モードの終了条件は、CVモード開始から5時間とした。CV充電モードにおける充電上限電圧は、3.35Vとした。
【0106】
放電は、CC放電モードで行った。電流レート0.2C、1V終止とした。充放電試験は、85℃で実施した。
【0107】
上記条件での充放電サイクルを3回行い、3回目の放電容量を、各固体電池の250サイクル目の放電容量とした。放電容量の基準値に対する、ヒートサイクル実施後の放電容量の比率を算出して、放電容量の維持率(%)とした。
【0108】
上記劣化調査の後に各固体電池の外観を実体顕微鏡で観察し、以上が見られないときにはさらに同様の条件で250サイクルの冷却および加熱を行い、その後、同様の条件で劣化調査を行った。
【0109】
これを繰り返し、外観に異常がないときは、合計で1000サイクルの冷却および加熱、ならびに劣化調査を行った。
【0110】
2-1-3.結果
250サイクルの冷却および加熱ごとに行った劣化調査の結果(放電容量の維持率)を、図9に示す。
【0111】
図9に示すように、実施例1の固体電池は、250サイクルの冷却および加熱を行った時点で約20%の放電容量の低下がみられたが、電池の外観に異常が生じることなく1000サイクルの冷却および加熱を行うことができた。また、250サイクル以降1000サイクルまで、放電容量の変化は少ないことも確認された。
【0112】
一方で、比較例1の固体電池は、250サイクルの冷却および加熱を行った時点で放電容量が約50%低下していた。また、実体顕微鏡により外観を観察したところ、素体へのクラックの発生も確認された。そのため、比較例1の固体電池は、250サイクルで試験を終了した。
【0113】
また、コンピュータ断層撮影(CT)装置(東芝ITコントロールシステム株式会社製、TOSCANER-32300uFD)を使用して250サイクル後の固体電池の内部を確認したところ、内部にもクラックが発生していることが確認された。比較例1の固体電池に生じたクラックは、固体電解質層と保護層との界面に沿って生じていた。つまり、層間剥離が生じていた。
【0114】
なお、実施例1の固体電池の内部をCTで確認したところ、1000サイクル後にもクラックは確認されなかった。
【0115】
2-2.走査電子顕微鏡(SEM)による観察
各固体電池について、走査電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。SEMによる観察は、日本電子株式会社製_JSM-IT700HRを使用して行った。反射電子検出器としてはSEDを使用し、高真空条件で、加速電圧を15kV、照射電流は目盛り値(70)として測定した。まず、各サンプルを樹脂に埋包し、研磨紙(#320、#800、#2000の順に使用)により、観察箇所が露出するまで研磨を行い、さらにダイヤモンドスラリーにより鏡面研磨を行った。このサンプルをアルコールにより5分間洗浄し、観察面にカーボン蒸着をした。その後、チャージアップを防止するため、埋め込み樹脂にカーボンテープを張り付けて、SEMで観察した。
【0116】
実施例1の固体電池を図10の線11Aにそって切断した断面のSEM画像を図11Aに、実施例1の固体電池を図10の線11BAにそって切断した断面のうちの領域11BBのSEM画像を図11Bに、比較例1の固体電池を図Zの線11CAにそって切断した断面のうちの領域11CBのSEM画像を図11Cに、それぞれ示す。
【0117】
図11Aおよび図11Bに示すように、実施例1の固体電池には、正極層と保護層との界面、負極層と保護層との界面、および電解質層と保護層との界面に、正極層、負極層、電解質層および保護層のいずれとも異なるクッション層が形成されていることが確認された。
【0118】
一方で、図11Cに示すように、比較例1の固体電池には、クッション層は形成されていなかった。
【0119】
2-3.クッション層の成分調査
電解質ペーストと保護層ペーストとを、50wt%:50wt%の割合で混合し、スクリーン印刷法で基板上に印刷した。その後、厚みが500~600μmになるまで、この混合物の積層および熱圧着を繰り返した。熱圧着条件は、20MPa、70℃とした。
【0120】
この積層体を適当なサイズに切断し、2枚の多孔性セラミックス板で挟んだ状態で、大気雰囲気下、500℃で1時間加熱して、バインダ成分の脱脂を行った。その後、窒素雰囲気下、600℃で2時間加熱して積層体を焼成して、成分調査用のサンプルを得た。
【0121】
焼成により得られたサンプルをメノウ乳鉢で粉砕し、株式会社リガク製、SmartLabを用いてXRD測定を行った。図12に、得られたXRDパターンを示す。XRDパターンから、固体電解質であるLiGe2(PO4)3(LAGP)に加えて、LAGPとNaの反応生成物であり、アルカリ金属であるNaとリン酸(PO4)骨格とを有する反応生成物(NaGe2(PO4)3)が焼成後に生成していることが確認された。
【0122】
この結果から、保護層ペーストに含まれるNaと、NASICON型の固体電解質であるLAGPとの反応生成物が、クッション層の成分であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、温度変化による、電極層や固体電解質層と保護層との間へのクラックの発生を抑制し、これにより放電容量の低下を抑制し得る固体電池、当該固体電池と基板とを有する基板つき固体電池、および当該固体電池の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 固体電池
1a 正極引出面
1b 負極引出面
10 固体電池本体
11 正極層
12 負極層
13 固体電解質層
11a、12a 端面
13a 一方の面
13b 他方の面
20 保護層
21 保護材料合剤層(埋込層)
22 保護材料合剤層(最外層)
25 クッション層
31、32 外部電極
40 支持体
41 正極合剤層
42 負極合剤層
43 電解質合剤層
44 積層体
50 基板つき固体電池
51 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12