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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050061
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】金属製アンカー
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20240403BHJP
   F16B 13/10 20060101ALI20240403BHJP
   F16B 31/00 20060101ALI20240403BHJP
   F16B 35/04 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
E04B1/41 501
F16B13/10 H
F16B31/00 Z
F16B35/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156653
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】506162828
【氏名又は名称】FSテクニカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正吾
【テーマコード(参考)】
2E125
3J025
【Fターム(参考)】
2E125AA70
2E125AE01
2E125AG06
2E125AG12
2E125AG13
2E125BA02
2E125BA13
2E125BA17
2E125BA22
2E125BA23
2E125BA25
2E125BB08
2E125BB17
2E125BB22
2E125BB23
2E125BB27
2E125BB30
2E125BD01
2E125BE07
2E125BE08
2E125BF06
2E125CA05
2E125CA09
2E125CA13
3J025AA07
3J025BA25
3J025CA03
3J025EA01
(57)【要約】
【課題】アンカーボルトに生ずる伸びを検知することで、想定を越える引張り荷重の検知を安定して行うことができる金属製アンカーを提供する。
【解決手段】コンクリート躯体Cに定着される金属製アンカー10であって、基端から先端に向かって穿孔した遊嵌孔12を有し、基端部において固定対象物Sが支持固定されるアンカーボルト11と、遊嵌孔12に遊嵌されると共に、基端側をアンカーボルト11の基端から突出させ、先端側を抜止めとなるように係止させたロッド状部材15と、アンカーボルト11の基端部とロッド状部材12の基端部との間に介設され、アンカーボルト11に、荷重による所定の伸びが生じたことを検知する伸び検知機構部16と、を備えたものである。
【選択図】 図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定対象物を支持固定するために、コンクリート躯体に定着される金属製アンカーであって、
基端から先端に向かって軸方向に穿孔した遊嵌孔を有し、基端部において前記固定対象物が支持固定されるアンカーボルトと、
前記遊嵌孔に遊嵌されると共に、基端側を前記アンカーボルトの基端から突出させ、先端側を前記アンカーボルトに抜止めとなるように係止させたロッド状部材と、
前記アンカーボルトの基端部と前記ロッド状部材の基端部との間に介設され、前記アンカーボルトに、荷重による所定の伸びが生じたことを検知する伸び検知機構部と、を備えたことを特徴とする金属製アンカー。
【請求項2】
前記伸び検知機構部は、
同軸上において、前記ロッド状部材の基端部に取り付けた視認キャップと、
前記視認キャップの取付け位置を、前記アンカーボルトの基端から前記所定の伸びに相当する所定の離間距離となるように調整する調整機構部と、を有し、
前記視認キャップは、伸びにより前記アンカーボルトの基端が突き当たることで破壊可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属製アンカー。
【請求項3】
前記調整機構部は、
前記アンカーボルトの基端部を受けとして、前記視認キャップを軸方向外方に付勢するコイルばねと、
前記コイルばねとの間に前記視認キャップを挟むように、前記ロッド状部材の基端部に螺合した調整ナットと、を有することを特徴とする請求項2に記載の金属製アンカー。
【請求項4】
前記伸び検知機構部は、
前記ロッド状部材の基端部が挿通すると共に、前記アンカーボルトの基端に当接する視認コマを有し、
前記視認コマは、前記アンカーボルトの伸びを受けて前記ロッド状部材の基端部上を軸方向に摩擦移動し、
前記ロッド状部材の基端部には、前記所定の伸びが生じたときの前記視認コマの移動位置を指標するマーキングが施されていることを特徴とする請求項1に記載の金属製アンカー。
【請求項5】
前記視認コマは、蛍光色に着色されており、
前記マーキングは、ロッド状部材の基端部の一部に施された着色部位で構成され、
前記着色部位は、ロッド状部材の基端まで延びると共に、前記視認コマと異なる蛍光色で着色されていることを特徴とする請求項4に記載の金属製アンカー。
【請求項6】
前記所定の伸びが、前記アンカーボルトのおける比例限度および弾性限度のいずれか一方の伸びの50~80%であることを特徴とする請求項1に記載の金属製アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先付けおよび後付け(あと施工)を問わず、コンクリート躯体に定着される金属製アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の金属製アンカーとして、固定対象物を支持固定するために、コンクリート躯体に後付けて定着されるものが知られている(特許文献1参照)。
この金属製アンカーは、基端から先端に向かって軸方向に穿孔した遊嵌孔を有するアンカーボルトと、アンカーボルトの先端部をアンカー穴の拡径部に定着させる定着機構部と、遊嵌孔に遊嵌されると共に、遊嵌孔の奥部において先端部をアンカーボルトに固定されたロッド状部材と、外部側からアンカーボルトの基端面に当接した状態でロッド状部材の基端部に螺合した荷重検知機構部と、を備えている。
荷重検知機構部は、比較的脆い金属材料等で形成されており、外部側からアンカーボルトの基端面に当接する円板状の視認頭部と、ロッド状部材の基端部に螺合した機構本体と、視認頭部と機構本体との間に介設されたネック部と、で一体に形成されている。そして、ネック部は、アンカーボルトに想定を越える荷重が作用したときに、アンカーボルトの伸びを受けて破断するようになっている。これにより、アンカーボルトに想定を越える引張り荷重が作用したときに、これを視認可能に検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-85464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来の金属製アンカーでは、ネック部の破断により、アンカーボルトに想定外の荷重が作用したことを、視覚を通じて明確に確認することができる。この場合、ネック部を所定の荷重で確実に破断させるためには、ネック部を精度良く形成する必要がある。例えば、所定の荷重(強度)を長期許容引張り荷重(降伏点強度の25~30%程度)とした場合、荷重検知機構部のネック部は、長期許容引張り強度を越えたところで破断するように形成しておく必要がある。しかし、荷重検知機構部自体、脆い材料で形成されていることもあり、所定の強度を奏するようにネック部(荷重検知機構部)を精度良く形成することが難しく、想定を越える引張り荷重の検知を安定的に行うことができない問題があった。
【0005】
本発明は、アンカーボルトに生ずる伸びを検知することで、アンカーボルトに作用する引張り荷重の検知を安定して行うことができる金属製アンカーを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属製アンカーは、固定対象物を支持固定するために、コンクリート躯体に定着される金属製アンカーであって、基端から先端に向かって軸方向に穿孔した遊嵌孔を有し、基端部において固定対象物が支持固定されるアンカーボルトと、遊嵌孔に遊嵌されると共に、基端側をアンカーボルトの基端から突出させ、先端側をアンカーボルトに抜止めとなるように係止させたロッド状部材と、アンカーボルトの基端部とロッド状部材の基端部との間に介設され、アンカーボルトに、荷重による所定の伸びが生じたことを検知する伸び検知機構部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、アンカーボルトに組み込んだロッド状部材は、その先端側をアンカーボルトに抜止めとなるように係止されると共に、基端側においてアンカーボルトの基端部との間に伸び検知機構部を介設するようにしている。このため、固定対象物からアンカーボルトに引張り荷重が作用すると、アンカーボルトには伸びが生ずる一方、ロッド状部材には伸びが生じない。アンカーボルトに所定の伸びが生ずると、その伸びが、アンカーボルトとロッド状部材との間に介設された伸び検知機構部により長さをもって検知される。したがって、アンカーボルトに、例えば設計時に想定される伸びを越える伸びが生じたこと、すなわち設計時に想定される荷重を越える荷重が作用したことを、精度良く検知することができる。これにより、固定対象物を支持固定した金属製アンカーの点検・管理を適切に行うことができ、金属製アンカーの健全性を担保することができる。
なお、金属製アンカーには、あと施工アンカー(後付け)は元より先付けのアンカーも含まれる。
【0008】
この場合、伸び検知機構部は、同軸上において、ロッド状部材の基端部に取り付けた視認キャップと、視認キャップの取付け位置を、アンカーボルトの基端から所定の伸びに相当する所定の離間距離となるように調整する調整機構部と、を有し、視認キャップは、伸びによりアンカーボルトの基端が突き当たることで破壊可能に構成されていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、ロッド状部材の基端部に取り付けた視認キャップは、その取り付け位置が、調整機構部によりアンカーボルトの基端から所定の伸びに相当する所定の離間距離となるように調整される。この状態において、アンカーボルトに所定の伸びが生ずると、アンカーボルトの基端がロッド状部材の基端部に取り付けた視認キャップに突き当たり、これを破壊する。破壊された視認キャップは、ロッド状部材から離散してしまうため、アンカーボルトに所定の伸びが生じたことを、視覚を通じて確認することができる。
【0010】
この場合、調整機構部は、アンカーボルトの基端部を受けとして、視認キャップを軸方向外方に付勢するコイルばねと、コイルばねとの間に視認キャップを挟むように、ロッド状部材の基端部に螺合した調整ナットと、を有することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、コイルばねにより付勢された視認キャップは、アンカーボルトの基端からの所定の離間距離を、ロッド状部材の基端部に螺合した調整ナットにより調整される。これにより、アンカーボルトに生ずる所定の伸びを、簡単な構造で精度良く検知することができる。
【0012】
また、伸び検知機構部は、ロッド状部材の基端部が挿通すると共に、アンカーボルトの基端に当接する視認コマを有し、視認コマは、アンカーボルトの伸びを受けてロッド状部材の基端部上を軸方向に摩擦移動し、ロッド状部材の基端部には、所定の伸びが生じたときの視認コマの移動位置を指標するマーキングが施されていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、ロッド状部材の基端部上を摩擦移動可能な視認コマが、アンカーボルトの基端に当接するようにして、ロッド状部材の基端部に装着されている。この状態において、アンカーボルトに所定の伸びが生ずると、アンカーボルトの基端がロッド状部材に装着した視認コマをマーキングの位置まで摩擦移動させる。移動した視認コマとマーキングとの対比において、アンカーボルトに所定の伸びが生じたことを、視覚を通じて確認することができる。
【0014】
この場合、視認コマは、蛍光色に着色されており、マーキングは、ロッド状部材の基端部の一部に施された着色部位で構成され、着色部位は、ロッド状部材の基端まで延びると共に、視認コマと異なる蛍光色で着色されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、視認コマと着色部位とは相互に異なる蛍光色に着色されているため、視認コマの移動位置と着色部位との対比においてアンカーボルトに所定の伸びが生じたこと容易に確認することができる。また、着色部位内における視認コマの移動位置により、アンカーボルトの伸びの程度を容易に推測することができる。
【0016】
一方、所定の伸びが、アンカーボルトにおける比例限度および弾性限度のいずれか一方の伸びの50~80%であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、アンカーボルトの所定の伸びを、アンカーボルトの短期許容引張り荷重や長期許容引張り荷重にほぼ対応させることができる。このため、アンカーボルトの所定の伸びを検知可能とすることで、施工した金属製アンカーの点検・管理を適切に行うことができ、金属製アンカーの健全性を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る金属製アンカーの施工状態の構造図である。
図2】金属製アンカーのアンカーボルト廻りの分解図である。
図3】金属製アンカーにおける伸び検知機構部の機能について説明する説明図であって、定常状態の図(a)、所定の伸びを検知した状態の図(b)、および検知後において伸びが戻った状態の図(c)である。
図4】第2実施形態に係る金属製アンカーの施工状態の構造図であって、定常状態の図(a)、所定の伸びを検知した状態の図(b)、および検知後において伸びが戻った状態の図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係る金属製アンカーについて説明する。この金属製アンカーは、固定対象物をコンクリート躯体に支持固定するためにコンクリート躯体に定着される、先付け或いは後付け(あと施工)のアンカーである。また、この金属製アンカーは、主体を為すアンカーボルトに想定を越える引張り荷重が作用したときに、これをアンカーボルトの伸びという形で視認可能に検知する機能を有するものである。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る金属製アンカーの構造図であり、図2は、金属製アンカーのアンカーボルト廻りの分解図である。両図に示すように、この金属製アンカー10は、いわゆるあと施工アンカーにおける金属拡張アンカー(メカニカルアンカー)であり、アンカーボルト11を始めとする主要部品が、スチールやステンレススチール等で形成されている。
【0021】
コンクリート躯体Cには、奥部に拡径部AHaを形成したアンカー穴AHが穿孔されており、金属製アンカー10は、このアンカー穴AHに打ち込まれるようにして定着される。アンカー穴AH(コンクリート躯体C)に定着された金属製アンカー10は、そのアンカーボルト11の基端部がコンクリート躯体Cの表面から突出しており、ワッシャーWを介してこの部分に螺合した固定ナットNにより、固定対象物SのベースプレートSaが締結される。
【0022】
金属製アンカー10は、基端から先端に向かって軸方向に穿孔した遊嵌孔12を有するアンカーボルト11と、アンカーボルト11の先端部をアンカー穴AHの拡径部AHaに定着させる定着機構部13と、を備えている。また、金属製アンカー10は、遊嵌孔12に遊嵌されると共に、先端部をアンカーボルト11の先端部に固定されたロッド状部材15と、アンカーボルト11の基端部とロッド状部材15の基端部との間に介設され、アンカーボルト11に、荷重による所定の伸びが生じたことを検知する伸び検知機構部16と、を備えている。
【0023】
アンカーボルト11と定着機構部13とは、コンクリート躯体Cに固定対象物Sを支持固定する金属製アンカー10の本来のアンカー機能を有している。一方、ロッド状部材15と伸び検知機構部16とは、アンカーボルト11が大きな荷重を受けて所定の伸びが生じたときに、これを検知する本実施形態特有の機能を有している。
【0024】
アンカーボルト11は、径が金属製アンカー10の呼び径となる全ネジボルトで構成されている。アンカーボルト11の軸心部には、基端から先端に向かって延びる遊嵌孔12が形成されている(図2参照)。遊嵌孔12は、同軸上においてアンカーボルト11を軸方向に貫通している。また、遊嵌孔12は、ロッド状部材15が遊嵌される孔本体12aと、孔本体12aよりも大径に形成され、伸び検知機構部16の一部が収容される基端側の収容孔部12bと、孔本体12aよりも大径に形成され、後述するロッド状部材15の先端フランジ部31が嵌合固定される先端側の嵌合孔部12cと、を有している。
【0025】
定着機構部13は、アンカーボルト11の先端部に螺合した拡開ナット21と、アンカーボルト11を囲繞するように配設された打込みスリーブ22と、を有している。拡開ナット21は、アンカーボルト11に螺合する図示下半部のナット本体24と、スリット25aにより4分割された図示上半部の拡開部25と、で一体に形成されている。
【0026】
打込みスリーブ22の先端部には、コーン部26が形成されており、打込みスリーブ22を打ち込むことにより拡開ナット21の拡開部25が径方向外方に拡開する。拡開した拡開部25は、拡径部AHaの周壁に向かって広がり、拡径部AHaに定着される(図1参照)。そして、この拡開部25と拡径部AHaの協働により、アンカーボルト11がクサビ効果を発揮する。
【0027】
ロッド状部材15は、アンカーボルト11よりも十分に細径の棒材で構成されている。ロッド状部材15の先端部には、上記遊嵌孔12の嵌合孔部12cに嵌合固定される先端フランジ部31が形成されている。また、ロッド状部材15の基端部には、伸び検知機構部16が螺合する基端雄ネジ部32が形成されている。ロッド状部材15は、アンカーボルト11を軸方向に貫通した状態で、その先端フランジ部31を嵌合孔部12cに溶着することで、アンカーボルト11に組付けられている。これにより、ロッド状部材15は、アンカーボルト11に抜止めとなるように係止・固定されている。
【0028】
なお、遊嵌孔12は貫通孔でなくてもよい。また、アンカーボルト11の先端部内周面に雌ネジを形成し、これにロッド状部材15の先端部を螺合するようにしてもよい。かかる場合には、遊嵌孔12は貫通孔であってもよいし、貫通孔でなくてもよい。
【0029】
伸び検知機構部16は、アンカーボルト11の基端から所定の距離隔ててロッド状部材15の基端雄ネジ部32に取り付けた視認キャップ41と、視認キャップ41とアンカーボルト11の収容孔部12bとの間に介設したコイルばね42と、コイルばね42との間に視認キャップ41を挟むように、ロッド状部材15の基端雄ネジ部32に螺合した調整ナット43と、を有している。また、視認キャップ41は、脆いプラスチック、セラミック等で形成され、且つ目立つように蛍光色に着色されている。
【0030】
視認キャップ41は、アンカーボルト11の径よりもわずかに小さい径に形成され、アンカーボルト11の基端部と共に外部に露出している。また、視認キャップ41は、ロッド状部材15が挿通する挿通孔を有する円板状のキャップ本体41aと、キャップ本体41aから垂下した円筒状のキャップ縁部41bと、で一体に形成されている。
【0031】
そして、視認キャップ41は、収容孔部12bの底と視認キャップ41のキャップ本体41aとの間に介設したコイルばね42により外方(図示の上方)に付勢されている。また、この付勢に抗するようにロッド状部材15の基端雄ネジ部32に螺合した調整ナット43により、キャップ縁部41bの端とアンカーボルト11の基端との間の離間寸法dが調整されるようになっている。
【0032】
詳細は後述するが、このキャップ縁部41bの端とアンカーボルト11の基端との間の離間寸法dは、アンカーボルト11の引張強さにおける比例限度または弾性限度の伸び(歪)の50~80%に設定されている。したがって、ベースプレートSaを介してアンカーボルト11に想定(設計)を越える荷重が作用し、アンカーボルト11が離間寸法dを越えて伸びると。アンカーボルト11の基端が視認キャップ41のキャップ縁部41bに到達し、視認キャップ41を破壊する。
【0033】
ところで、この種の金属製アンカー10(拡底アンカー)では、その引張り耐力が、アンカーボルト11の降伏点強度に安全率を加味した引張り強度(耐力)に基づいて設計される。具体的には、固定対象物S別に、降伏点強度の20~100%をアンカーボルト11の引張り強度とし、これに基づいてアンカーボルト11(金属製アンカー10)の設計が為される。
【0034】
設計上用いられる引張り強度には、長期許容引張り強度(降伏点強度の25~30%程度)や短期許容引張り強度(降伏点強度の40~50%程度)がある。例えば、固定対象物Sが駆動部を有するもの、固定対象物Sが風圧や振動を受けるもの、或いは固定対象物Sを吊るものである場合には、長期許容引張り強度を考慮することが好ましい。また、固定対象物Sとの関係でアンカーボルト11に金属疲労の可能性がある場合には、降伏点強度の20%を引張り強度とすることが好ましい。
【0035】
このようにして、金属製アンカー10(アンカーボルト11)が設計されるが、実際の現場では、アンカーボルト11に想定を越える荷重(想定外の荷重)が作用することがある。かかる場合、アンカーボルト11が大きなダメージを受け、固定対象物Sの支持が不安定になり、或は固定対象物S自体に問題が生じている場合がある。しかし、アンカーボルト11が抜けかけている等の物理的に顕著な変化が無いと、この事態を把握することができない。
【0036】
この点において、本実施形態における顕著な物理的変化は、伸び検知機構部16における視認キャップ41の破壊として履歴的に検知される。アンカーボルト11に、荷重による所定の伸び(比例限度または弾性限度の伸び(歪)の50~80%)が生じたときに、アンカーボルト11の基端が視認キャップ41に突き当たってこれを破壊する。視認キャップ41の破壊は、同時に視認キャップ41が飛散することであり、これにより、アンカーボルト11に所定の伸びが生じたことが、視覚を通じて検知される。
【0037】
ここで、図3を参照して、金属製アンカー10の施工手順について簡単に説明すると共に、伸び検知機構部16の機能について説明する。
この金属製アンカー10では、先ずロッド状部材15を組み込んだアンカーボルト11をアンカー穴AHに挿入し、打込みスリーブ22を打ち込んで、アンカーボルト11をコンクリート躯体Cに定着させる。
【0038】
次に、ロッド状部材15の基端部に、コイルばね42、視認キャップ41、調整ナット43の順で伸び検知機構部16を組み付ける。ここで、視認キャップ41(キャップ縁部41b)の端とアンカーボルト11の基端との間の離間寸法dが、所定の寸法となるように、調整ナット43により視認キャップ41の位置を調整する。これと相前後して、固定対象物Sを持ち込み、そのベースプレートSaを固定ナットNによりコンクリート躯体Cの表面に固定する。これにより、固定対象物Sは、金属製アンカー10を介してコンクリート躯体Cに支持固定される(図3(a)参照)。
【0039】
このようにして、固定対象物Sをコンクリート躯体Cに支持固定した状態において、アンカーボルト11に想定を越える引張り荷重が作用した場合、具体的には、固定対象物Sに想定を越える風圧や振動が作用し、例えばアンカーボルト11に弾性限度の50%を越える伸びが生じた場合、伸び検知機構部16の視認キャップ41が破断する。アンカーボルト11は、スチールやステンレススチール等で形成されており、アンカーボルト11に大きな荷重が作用すると、これに比例してアンカーボルト11に軸方向の伸びが生ずる。
【0040】
アンカーボルト11に伸びが生ずると、アンカーボルト11の基端がロッド状部材15に取り付けられている視認キャップ41に接近し、やがてアンカーボルト11の基端が視認キャップ41に突き当たってこれを破壊する。破壊された視認キャップ41は、弾き飛ばされるようにして基端雄ネジ部32から離脱する(図3(b)参照)。この視認キャップ41の破壊により、アンカーボルト11に想定外の伸びが生じたことが、視覚を通じて検知される。図3に示す例では、アンカーボルト11に弾性限度を越える荷重が作用した状態を表しており、荷重が去って(伸びが戻った)後のアンカーボルト11には、永久変形による微小な伸びが残っている(図3(c)参照)。
【0041】
一方、この検知に基づいて管理者は、例えば以下のような対応策を講ずる。先ず、この想定外の伸び(荷重)の原因を究明し、これを解消するよう努める。原因が解消でき、且つ想定外の伸びがアンカーボルト11の弾性限度以内のものと想定される場合には、新たに視認キャップ41を取り付ける。また、原因が解消でき、且つ想定外の伸びが、アンカーボルト11の弾性限度を越えるものであった場合には、金属製アンカー10を付け替える。同様に、原因が解消できない場合には、金属製アンカー10を付け替える。
【0042】
以上のように、第1実施形態の金属製アンカー10によれば、大きな荷重を受けてアンカーボルト11に想定を越える伸びが生じたときに、伸び検知機構部16の視認キャップ41が破壊する。このため、アンカーボルト11に想定を越える伸びが生じたことを、視覚を通じて確実に検知することができる。この場合、アンカーボルト11の伸び、アンカーボルト11の基端と視認キャップ41との間の離間距離dで規定することができる。したがって、アンカーボルト11の伸び(想定を越える伸び)を精度良く検知することができる。言い換えれば、アンカーボルト11の伸びを介して、アンカーボルト11に作用する想定外の荷重を精度良く検知することができる。
【0043】
[第2実施形態]
次に、図4を参照して、第2実施形態の金属製アンカー10Aについて、伸び検知機構部16A廻りの構造を中心に説明する。第2実施形態の金属製アンカー10Aは、ロッド状部材15Aの形態および伸び検知機構部16Aの形態が、第1実施形態のものと異なっている。
【0044】
図4に示すように、ロッド状部材15Aは、第1実施形態のロッド状部材15のような基端雄ネジ部32(凹凸)はなく、アンカーボルト11の基端から突出したロッド状部材15Aの基端部には、その外方半部(図示の上方半部)に蛍光色に着色された着色部位51が設けられている。
【0045】
伸び検知機構部16Aは、ロッド状部材15Aの基端部に装着した視認コマ52と、上記の着色部位51とで構成されている。視認コマ52は、アンカーボルト11よりも小径の円盤状に形成され、中心部にはロッド状部材15Aの基端部が嵌合する嵌合孔が形成されている。また、視認コマ52は、靭性を有するプラスチック等で形成され、ロッド状部材15Aに対し軸方向に摩擦移動可能に構成されている。そして、セッティング時の視認コマ52は、ロッド状部材15Aに装着した状態でアンカーボルト11の基端に突き当てられている(図4(a)参照)。
【0046】
実施形態のものは、例えば着色部位51がピンクの蛍光色に着色され、視認コマ52がレモンイエローの蛍光色に着色されている。したがって、この金属製アンカー10を上方から見ると、上側から順に蛍光ピンクの着色部位51、ロッド状部材15Aにおける金属色の地肌部分、そして蛍光イエローの視認コマ52が視認される(図4(a)参照)。一方、蛍光ピンクの着色部位51と、蛍光イエローの視認コマ52とが重なって視認される場合には(図4(c)参照)、アンカーボルト11に所定の伸びが生じたことが検知される。
【0047】
着色部位51とロッド状部材15Aの地肌部分(金属色)との境界を為すラインは、アンカーボルト11に所定の伸びが生じたときに、視認コマ52が移動する位置であり、本実施形態ではアンカーボルト11における弾性限度の50%の伸びに対応している。したがって、アンカーボルト11に伸びが生じ、視認コマ52が着色部位51内に移動していれば(図4(b)参照)、弾性限度の50%を越える伸びが検知されたことになる。
【0048】
一方、着色部位51の外端(図示上端)の位置は、アンカーボルト11の弾性限度の伸びに対応している。したがって、アンカーボルト11に伸びが生じ、視認コマ52が着色部位51を越えて移動し、ロッド状部材15Aから脱落してしまった場合には、弾性限度を越える伸びが検知されたことになる。本実施形態は、アンカーボルト11に、弾性限度の50%を越えるが弾性限度以下の伸びが生じた例を表しており、荷重が去った後のアンカーボルト11は、元の状態に戻っている(図4(c)参照)。
【0049】
この実施形態では、ロッド状部材15上における視認コマ52の移動位置により、弾性限度内においてアンカーボルト11にどの程度の伸びが生じたかを、視覚を通じて確認することができる。
【0050】
なお、本発明の金属製アンカー10は、上記のような金属拡張アンカーの他、接着系アンカーや先付けアンカーにも適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10,10A…金属製アンカー、11…アンカーボルト、12…遊嵌孔、13…定着機構部、15,15A…ロッド状部材、16,16A…伸び検知機構部、31…先端フランジ部、32…基端雄ネジ部、41…視認キャップ、42…コイルばね、43…調整ナット、51…着色部位、52…視認コマ、AH…アンカー孔、C…コンクリート躯体、N…固定ナット、S…固定対象物、Sa…ベースプレート、d…離間寸法、
図1
図2
図3
図4