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特開2024-50083減速装置、減速装置付きモータ、及び、減速装置付きモータを用いた被駆動体駆動装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050083
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】減速装置、減速装置付きモータ、及び、減速装置付きモータを用いた被駆動体駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/28 20060101AFI20240403BHJP
   F16D 65/16 20060101ALI20240403BHJP
   H02K 7/102 20060101ALI20240403BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20240403BHJP
   F16D 121/14 20120101ALN20240403BHJP
   F16D 125/50 20120101ALN20240403BHJP
【FI】
F16H1/28
F16D65/16
H02K7/102
H02K7/116
F16D121:14
F16D125:50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156689
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】504078545
【氏名又は名称】スリーピース株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100104396
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 信昭
(72)【発明者】
【氏名】西山弘信
(72)【発明者】
【氏名】高口 剛
(72)【発明者】
【氏名】宇塚和夫
(72)【発明者】
【氏名】友森匡継
【テーマコード(参考)】
3J027
3J058
5H607
【Fターム(参考)】
3J027FA19
3J027FA36
3J027FB40
3J027GA03
3J027GB03
3J027GC13
3J027GE27
3J027GE29
3J058AA43
3J058AA47
3J058AA53
3J058AA70
3J058AA79
3J058BA12
3J058BA62
3J058BA67
3J058FA42
5H607BB01
5H607BB26
5H607CC01
5H607CC03
5H607DD19
5H607EE07
5H607EE31
(57)【要約】
【課題】 部品点数をできるだけ減らしたシンプルかつコンパクトな構造の減速装置を提供する。
【解決手段】
入力軸の回転を所定速度まで減速して出力軸から出力するためのギア群(7)と、ブレーキ面(13a)を有するブレーキ壁(13)と、当該ギア群に含まれ、ブレーキ端面(9b)を有する少なくとも1個の制動ギア(9)と、当該制動ギアのスラスト方向スライド移動を許容するスライド支持構造と、スライド移動によって当該制動ギアのブレーキ端面を当該ブレーキ壁のブレーキ面に直接もしくは間接に押圧し、これにより少なくとも当該反対方向の回転を制動する摩擦力を発生させるための摩擦制動構造(15)と、を備える、ことを特徴とする。制動ギアのスライドによって出力軸の制動可能にしてあるから少ない部品によって制動可能な減速装置になる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転を所定速度まで減速して出力軸から出力するためのギア群と、
ブレーキ面を有するブレーキ壁と、
当該ギア群に含まれ、当該ブレーキ面と移動空隙のみを介して対向するブレーキ端面を有する少なくとも1個の制動ギアと、
当該制動ギアを回転支持するとともに、復帰可能なスラスト方向のスライド移動を前記移動空間において許容するスライド支持構造と、
当該入力軸の回転に伴う当該出力軸の一方向の回転を可能にしつつ、当該出力軸を当該一方向の回転に伴う出力軸の回転とは反対方向に少なくとも回転させようとする外力を当該出力軸が受けたとき、当該少なくとも1個の制動ギアのスライド移動によって当該制動ギアのブレーキ端面を当該ブレーキ壁のブレーキ面に直接もしくは間接に押圧し、これにより少なくとも当該反対方向の回転を制動する摩擦力を発生させるための摩擦制動構造と、を備える、
ことを特徴とする減速装置。
【請求項2】
前記ギア群は、前記ブレーキ壁の前記ブレーキ面に直接対向する位置に配されたヘリカル遊星歯車機構を含めて構成され、
前記制動ギアは、当該ヘリカル遊星歯車機構を構成するヘリカル遊星歯車群の一部又は全部によって構成され、
前記制動駆動構造は、当該ヘリカル遊星歯車機構を構成する、当該ヘリカル遊星歯車とヘリカル太陽歯車およびヘリカル内歯車の噛み合いによるスラスト方向の分力発生構造により構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の減速装置。
【請求項3】
前記ヘリカル内歯車の前記入力軸側または出力軸側に前記ブレーキ壁が、一体に設けられている、又は、固定部材を介して固定されている、
ことを特徴とする請求項2記載の減速装置。
【請求項4】
前記モータには、前記モータの他端側から突き出す他端側モータ軸を他の入力軸とする他の減速装置が設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載の減速装置。
【請求項5】
前記他の減速装置は、前記減速装置と同一構造に構成されている、
ことを特徴とする請求項4記載の減速装置。
【請求項6】
前記モータには、前記モータの他端側から突き出す他端側モータ軸を他の入力軸とする他の減速装置が設けられ、
当該他の減速装置には、当該他の入力軸の回転を所定速度まで減速して出力軸から出力するためのギア群と、
ブレーキ面を有するブレーキ壁と、
当該ギア群に含まれ、当該ブレーキ面と移動空隙のみを介して対向するブレーキ端面を有する少なくとも1個の他の制動ギアと、
当該他の制動ギアを回転支持するとともに、復帰可能なスラスト方向のスライド移動を前記移動空間において許容するスライド支持構造と、を備え、
当該ギア群は、前記ブレーキ壁の前記ブレーキ面に直接又は間接に対向する位置に配されたヘリカル遊星歯車機構を含めて構成されるとともに、当該制動ギアは、当該ヘリカル遊星歯車機構を構成するヘリカル遊星歯車群の一部又は全部によって構成され、
当該他の入力軸の回転に伴う当該出力軸の一方向の回転を可能にしつつ、当該出力軸を当該一方向の回転に伴う出力軸の回転とは反対方向に少なくとも回転させようとする外力を当該出力軸が受けたとき、当該少なくとも1個の制動ギアのスライド移動によって当該制動ギアのブレーキ端面を当該ブレーキ壁のブレーキ面に直接もしくは間接に押圧し、これにより少なくとも当該反対方向の回転を制動する摩擦力を発生させるための摩擦制動構造と、を備え、
当該制動駆動構造は、当該ヘリカル遊星歯車機構を構成する、当該ヘリカル遊星歯車とヘリカル太陽歯車およびヘリカル内歯車の噛み合いによるスラスト方向の分力発生構造により構成されている、
ことを特徴とする請求項2記載の減速装置。
【請求項7】
前記減速装置に設けられたヘリカル遊星歯車のネジレ方向と前記他の減速装置に設けられたヘリカル遊星歯車のネジレ方向が相異なることを特徴とする、
請求項6記載の減速装置。
【請求項8】
前記減速装置に設けられたヘリカル遊星歯車のネジレ方向と前記他の減速装置に設けられたヘリカル遊星歯車のネジレ方向が同じであることを特徴とする、
請求項6記載の減速装置。
【請求項9】
前記ブレーキ壁のブレーキ面に密着配置された摩擦調整材が設けられ、
当該摩擦調整材は、前記ブレーキ壁のブレーキ面と前記制動ギアのブレーキ端面との間に発生する摩擦力を調整可能に構成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の減速装置。
【請求項10】
入力軸の回転を所定速度まで減速して出力軸から出力するためのギア群と、
ブレーキ面を有するブレーキ壁と、
当該ギア群に含まれ、当該ブレーキ面と移動空隙を介して対向する少なくとも1個の制動ギアと、
当該移動空隙内に配された可動ブレーキ板と、
当該制動ギアを回転支持するとともに、復帰可能なスラスト方向のスライド移動を前記移動空間において許容するスライド支持構造と、
当該可動ブレーキ板を当該ブレーキ壁に向けて復帰可能なスライド移動を許容するスライド許容構造と、
当該入力軸の回転に伴う当該出力軸の一方向の回転を可能にしつつ、当該出力軸を当該一方向の回転に伴う出力軸の回転とは反対方向に少なくとも回転させようとする外力を当該出力軸が受けたとき、当該少なくとも1個の制動ギアのスライド移動によって当該可動ブレーキ板を当該ブレーキ壁のブレーキ面に直接押圧し、これにより少なくとも当該反対方向の回転を制動する摩擦力を発生させるための摩擦制動構造と、を備える、
ことを特徴とする減速装置。




















【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸と出力軸を有する減速装置であって、特に、出力軸を回転させようとする外力を受けたとき、回転を制動する所定の制動力を発生させる減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動ブラインドの駆動装置のギヤケース内に収容されたブレーキ装置が開示されている。このブレーキ装置は、当該出力軸に取着されたブレーキホィールと、ギヤケース側面の支持孔に収容されたコイルスプリングの付勢力でブレーキホィールの外周面に半径方向から摺接するブレーキパッドと、により構成されている。
【0003】
特許文献2には、出力軸にブレーキホィールを一体回転するように取り付け、ブレーキハウジングを支点として、当該ブレーキホィールの外周面に対し接線方向に延びる巻きバネで当該外周面を押圧して制動力を発生させるブレーキ装置を備えたモータが提案されている。
【0004】
特許文献3には、スプリングモーターの付勢力に基づいてスクリーンを巻取軸に巻き取って所望高さに保持するブレーキ装置が記載されている。このブレーキ装置は、当該巻取軸のスクリーン巻戻し方向の回転のみを阻止するワンウェイクラッチと、当該ワンウェイクラッチの出力部と一体に回転するブレーキ筒と、当該ブレーキ筒の外周面に嵌着されたブレーキスプリングと、当該巻取軸と一体に回転するとともに、ブレーキスプリングの一端に係合する押圧部とを備えている。当該ブレーキスプリングは、前記ウェイトバーの引き下げ操作に基づいて当該ブレーキ筒との摩擦を増大させるように構成されている。
【0005】
特許文献4には、駆動軸の回転に合わせて変動する送りねじ、および送りコマと、送りねじ、および送りコマの変動に連係して撓み変形し、送りねじ、および送りコマを介して、復元力を駆動軸に回転トルクとして付与するブレーキばね、ブレーキばね64を支持する軸支壁と、を有するブレーキユニットが示されている。その他に、遊星ギアユニットが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-197952
【特許文献2】特開2009-100594
【特許文献3】特開2011-38340
【特許文献4】特開2022-038460
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のブレーキ装置は、ブレーキホィール、コイルスプリング、ブレーキパッド、スプリングをギヤケース以外に少なくとも有している。すなわち、ギヤケースの構造が複雑になり部品点数が多くなる、という欠点がある。
【0008】
特許文献2のブレーキ装置は、ブレーキホィールの外周面を押圧する巻きバネの押圧は、前者が断面円形で後者が直線であることから点接触押圧になる。このため、十分な制動効果を期待できないという欠点がある。
【0009】
特許文献3のブレーキ装置も、前記のとおり部品点数が多く構造が複雑という欠点を有している。
【0010】
特許文献4のブレーキユニットは、多数の部品を必要であり、それが遊星ギアユニットとは別に設けられている。よって、やはり構造が複雑になり部品点数が多くなる、という欠点がある。
【0011】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものであって、部品点数をできるだけ減らしたシンプルかつコンパクトな構造の減速装置、減速装置付きモータ、及び、減速装置付きモータを用いた被駆動体昇降装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明は、次の特徴を備えている。
【0013】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る減速装置(以下、「請求項1の装置」という)は、入力軸の回転を所定速度まで減速して出力軸から出力するためのギア群と、ブレーキ面を有するとブレーキ壁と、をまず有している。ブレーキ壁の設置位置は、たとえば、制動ギアの形態やその設置位置との相対関係(たとえば、入力軸側とか出力軸側)などによって適宜定めることができる。その上で、当該ギア群に含まれ、当該ブレーキ面と移動空隙(遊び空間、クリアランス、ギャップ)のみを介して対向するブレーキ端面を有する少なくとも1個の制動ギアと、当該制動ギアを回転支持するとともに、復帰可能なスラスト方向のスライド移動を前記移動空間において許容するスライド支持構造と、を有する。さらに、当該入力軸の回転に伴う当該出力軸の一方向の回転を可能にしつつ、当該出力軸を当該一方向とは反対方向に回転させようとする外力を当該出力軸が受けたとき、当該少なくとも1個の制動ギアのスライド移動によって当該制動ギアのブレーキ端面を当該ブレーキ壁のブレーキ面に直接もしくは間接(たとえば、摩擦調整材その他の部材などの介在)に押圧し、これにより少なくとも当該反対方向の回転を制動する摩擦力を発生させるための摩擦制動構造と、を備える。以上が請求項1の装置の特徴である。スライド支持構造は、制動ギアの構造や設置位置との相対関係に基づき、適宜、その具体的構造を定めるとよい。
【0014】
請求項1の装置によれば、入力軸は、外付けのモータによって回転される。入力軸の回転は、ギア群(たとえば、平歯車、ヘリカル(はすば)歯車、傘歯車、内歯車、ウォームギア、ラックアンドピニオンなどの適宜な組み合わせ)を経て所定速度まで減速された一方向(モータ側から見て時計回り方向もしくは反時計回り方向。説明のため本欄では反時計回り方向とする)の回転として出力軸から出力される。ギア群に含まれる少なくとも1個の制動ギア(たとえば、2個、3個、4個・・・のように複数であってもよい)は、移動空間の中をスライド移動する。移動により制動ギアのブレーキ端面がブレーキ面に直接もしくは間接に押圧される。この押圧は、摩擦制動構造の働きによる。ここで反対方向(本欄ではモータ側から見た時計回り方向)に回転させようとする外力を出力軸が受けたとき、少なくとも当該時計周り方向の回転を、ブレーキ面に対する制動ギアの押圧による摩擦力で制動する。この押圧による摩擦制動作用は、出力軸が受けるモータ側から見た反時計回り方向に作用するものであっても構わない。以上のとおり、請求項1の装置はシンプルかつコンパクトな構造になっている。
【0015】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係る減速装置(以下、「請求項2の装置」という)は、請求項1の装置の好ましい態様として、前記ギア群は、前記ブレーキ壁の前記ブレーキ面に直接対向するヘリカル遊星歯車機構を含めて構成され、前記制動ギアは、当該ヘリカル遊星歯車機構を構成するヘリカル遊星歯車群の一部又は全部によって構成されている。ここで、前記制動駆動構造は、当該ヘリカル遊星歯車機構を構成する、当該ヘリカル遊星歯車とヘリカル太陽歯車およびヘリカル内歯車の噛み合いによるスラスト方向の分力発生構造により構成されている、ことを特徴とする。
【0016】
請求項2の装置によれば、ブレーキ面に直接対向するヘリカル遊星歯車の一部(たとえば、1個またはそれ以上のヘリカル遊星歯車)又は全部(ヘリカル遊星歯車を構成する歯車の全部)によって構成されている。ヘリカル遊星歯車機構を採用すれば、平歯車を組み合わせた減速装置に比べて少ない段数で大きな減速比を得ることができること、入力軸と出力軸を同軸上に配置できることから、装置をコンパクトにできることや、かみ合う箇所が複数あるため大きな回転力を得ることができる。これに加え、ヘリカル遊星歯車機構を構成する、ヘリカル遊星歯車とヘリカル太陽歯車およびヘリカル内歯車は、それぞれの歯筋が軸に対し所定のネジレ(ねじれ)角をもって傾いているため、回転にともなう噛み合いによって分力(スラスト(水力))が軸方向に働き、この分力が歯車を軸方向に動かす。つまり、軸方向分力を発生させるというヘリカル遊星歯車そのものを摩擦制動構造とし、これにブレーキ壁という最小限の部品・部材を付加するだけで制動機能付きの減速機が構成される。
【0017】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係る減速装置(以下、「請求項3の装置」という)は、請求項2の装置の好ましい態様として、前記ヘリカル内歯車の入力軸側または出力軸側に前記ブレーキ壁が一体に設けられている、又は、もともとは別体であったブレーキ壁が固定部材を介して固定されていることを特徴とする。
【0018】
請求項3の装置によれば、ヘリカル内歯車の前記出力軸側に前記ブレーキ壁が一体に設けられている場合は、部品点数が一つ減るし構造がよりシンプルになる。特に、ヘリカル内歯とブレーキ壁を樹脂で一体成型する場合に、そのメリットが大きい。別体のブレーキ壁を固定する場合は、ブレーキ壁の素材や形態の自由度を高くすることができる。
【0019】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係る減速装置(以下、「請求項4の装置」という)は、請求項1の装置の好ましい態様として、前記モータには、前記モータの他端側から突き出す他端側モータ軸を他の入力軸とする他の減速装置が設けられている、
【0020】
請求項4の装置によれば、一つのモータをもって、もともと備えられた一方の減速装置と他の減速装置なる二つの減速装置を同時駆動することができる。換言すれば、両減速装置によって駆動されるそれぞれの被駆動体を一つのモータで駆動することができる。一方の減速装置と他の減速装置が、互いに構造と回転方向・回転速度が同一である、互いに構造は同じで回転速度は同じだが回転方向が異なる、互いに構造は異なるが回転方向・回転速度が同一である、さらに、互いに構造も回転方向・回転速度も異なる、という設定選択ができる。すなわち、一つのモータを用いて二つの被駆動体を、様々な用途に応じた駆動分けをすることが可能になる。
【0021】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係る減速装置(以下、「請求項5の装置」という)は、請求項4の装置の好ましい態様として、前記他の減速装置は、前記減速装置と同一構造に構成されている、ことを特徴とする。
【0022】
請求項5の減速装置によれば、一方の減速装置と他の減速装置の構造が同じなので、たとえば外観の統一性、製造・管理のし易さ、さらに制御が簡単になるという利点がある。
【0023】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係る減速装置(以下、「請求項6の装置」という)は、請求項2の装置の好ましい態様として、前記モータには、前記モータの他端側から突き出す他端側モータ軸を他の入力軸とする他の減速装置が設けられている。ここで当該他の減速装置には、当該他の入力軸の回転を所定速度まで減速して出力軸から出力するためのギア群と、ブレーキ面を有するブレーキ壁と、当該ギア群に含まれ、当該ブレーキ面と移動空隙のみを介して対向するブレーキ端面を有する少なくとも1個の他の制動ギアと、当該他の制動ギアを回転支持するとともに、復帰可能なスラスト方向のスライド移動を前記移動空間において許容するスライド支持構造と、を備えている。当該ギア群は、前記ブレーキ壁の前記ブレーキ面に直接又は間接に対向する位置に配されたヘリカル遊星歯車機構を含めて構成されるとともに、当該制動ギアは、当該ヘリカル遊星歯車機構を構成するヘリカル遊星歯車群の一部又は全部によって構成されている。当該他の入力軸の回転に伴う当該出力軸の一方向の回転を可能にしつつ、当該出力軸を当該一方向の回転に伴う出力軸の回転とは反対方向に少なくとも回転させようとする外力を当該出力軸が受けたとき、当該少なくとも1個の制動ギアのスライド移動によって当該制動ギアのブレーキ端面を当該ブレーキ壁のブレーキ面に直接もしくは間接に押圧し、これにより少なくとも当該反対方向の回転を制動する摩擦力を発生させるための摩擦制動構造と、を備えている。当該制動駆動構造は、当該ヘリカル遊星歯車機構を構成する、当該ヘリカル遊星歯車とヘリカル太陽歯車およびヘリカル内歯車の噛み合いによるスラスト方向の分力発生構造により構成されている。以上が請求項6の減速装置の特徴である。
【0024】
請求項6の減速装置によれば、一つのモータをもって、もともと備えられた一方の減速装置と他の減速装置(一方の減速装置と同じ構成でもよいし、異なる構成でもよい)なる二つの減速装置を同時駆動することができる。換言すれば、両減速装置によって駆動されるそれぞれの被駆動体を一つのモータで駆動することができる。その上で他の減速装置そのものが、前述した請求項2の減速装置のそれと同様な作用効果を奏する。その中でも特に、ヘリカル遊星歯車機構を構成する、ヘリカル遊星歯車とヘリカル太陽歯車およびヘリカル内歯車は、それぞれの歯筋が軸に対し所定のネジレ(ねじれ)角をもって傾いているため、回転にともなう噛み合いによって分力(スラスト(推力))が軸方向に働き、この分力が歯車を軸方向に動かす。つまり、軸方向分力を発生させるというヘリカル遊星歯車そのものを摩擦制動構造とし、これにブレーキ壁という最小限の部品・部材を付加するだけで制動機能付きの減速機が構成される点に作用効果上の利点がある。なお、ここで「同一構造」とは、主としてギア群やこれらを支持するギア軸などの構成が同一を意味し、ギア群の中にヘリカル歯車が含まれるのであれば、そのネジレ角のみが異なるものも含まれる。
【0025】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係る減速装置付きモータ(以下、「請求項7の減速モータ」という)は、請求項6の減速装置の好ましい利用態様として、前記減速装置に設けられたヘリカル遊星歯車のネジレ方向と前記他の減速装置に設けられたヘリカル遊星歯車のネジレ方向が相異なることを特徴とする。ネジレ方向の相違を構成上の特徴とするもので、ネジレ角や端数の相違の有無は問わない。
【0026】
請求項7の減速モータによれば、ネジレ方向が相違するため、各々の出力軸に加わる摩擦制動が、前記減速装置に加わる外力と前記他の減速装置に加わる外力との方向が相異なることときに生じる。この結果、各々の出力軸によって駆動される被駆動体の駆動態様(たとえば、上下動)が異なることになり、そのような駆動態様が必要な際に好適である。
【0027】
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載の発明に係る減速装置付きモータ(以下、「請求項8の減速モータ」という)は、請求項6の減速装置の好ましい利用態様として、前記減速装置に設けられたヘリカル遊星歯車のネジレ方向と前記他の減速装置に設けられたヘリカル遊星歯車のネジレ方向が同じであることを特徴とする。ネジレ方向が同一であることを構成上の特徴とするもので、ネジレ角の違いや歯数の相違の有無は問わない。
【0028】
請求項8の減速装置によれば、ネジレ方向が同じであるため、各々の出力軸に加わる摩擦制動が、前記減速装置に加わる外力と前記他の減速装置に加わる外力との方向も同一となるときに生じる。この結果、各々の出力軸によって駆動される被駆動体の駆動態様(たとえば、上下動)も同じことになり、そのような駆動態様が必要な際に好適である。特に、前記減速装置と前記他の減速装置を何れの被駆動体に取り付ける際に、その取付方向を不問とするので大変使い勝手がよくなる。
【0029】
(請求項9記載の発明の特徴)
請求項9記載の発明に係る減速装置付きモータ(以下、「請求項9の減速モータ」という)は、請求項1又は2の減速装置の好ましい利用態様として、前記ブレーキ壁のブレーキ面に密着配置された摩擦調整材が設けられ、当該摩擦調整材は、前記ブレーキ壁のブレーキ面と前記制動ギアのブレーキ端面との間に発生する摩擦力を調整可能に構成されている、ことを特徴とする。
【0030】
請求項9の減速モータによれば、摩擦調整材をブレーキ端面とブレーキ面との間に配することにより、両者間に発生する摩擦力を制動目的のために向上させたり減少させたりすることでより適切なものとすることができる。たとえば、ヘリカル遊星歯車とブレーキ壁の素材の違いに基づく摩耗を抑制することにより、摩擦力を長期に渡って適正に保つことができる。
【0031】
(請求項10記載の発明の特徴)
請求項10記載の発明に係る減速装置付きモータ(以下、「請求項10の減速モータ」という)は、入力軸の回転を所定速度まで減速して出力軸から出力するためのギア群と、
ブレーキ面を有するブレーキ壁と、当該ギア群に含まれ、当該ブレーキ面と移動空隙(遊び空間、クリアランス、ギャップ)を介して対向する少なくとも1個の制動ギアと、当該移動空隙内に配された可動ブレーキ板と、を有している。その上で、当該制動ギアを回転支持するとともに、復帰可能なスラスト方向のスライド移動を前記移動空間において許容するスライド支持構造と、当該可動ブレーキ板を当該ブレーキ壁に向けて復帰可能なスライド移動を許容するスライド許容構造と、を有する。当該入力軸の回転に伴う当該出力軸の一方向の回転を可能にしつつ、当該出力軸を当該一方向の回転に伴う出力軸の回転とは反対方向に少なくとも回転させようとする外力を当該出力軸が受けたとき、当該少なくとも1個の制動ギアのスライド移動によって当該可動ブレーキ板を当該ブレーキ壁のブレーキ面に直接押圧し、これにより少なくとも当該反対方向の回転を制動する摩擦力を発生させるための摩擦制動構造と、を備える、ことを特徴とする。
【0032】
請求項10の装置によれば、入力軸は、外付けのモータによって回転される。入力軸の回転は、ギア群(たとえば、平歯車、ヘリカル(はすば)歯車、傘歯車、内歯車、ウォームギア、ラックアンドピニオンなどの適宜な組み合わせ)を経て所定速度まで減速された一方向(モータ側から見て時計回り方向もしくは反時計回り方向。説明のため本欄では反時計回り方向とする)の回転として出力軸から出力される。ギア群に含まれる少なくとも1個の制動ギア(たとえば、2個、3個、4個・・・のように複数であってもよい)は、移動空間の中をスライド移動する。このスライド移動は、可動ブレーキ板を移動させ、この移動により可動ブレーキ板がブレーキ面に直接押圧される。この押圧は、摩擦制動構造の働きによる。ここで反対方向(本欄ではモータ側から見た時計回り方向)に回転させようとする外力を出力軸が受けたとき、少なくとも当該時計周り方向の回転を、ブレーキ面に対する制動ギアの押圧による摩擦力で制動する。この押圧による摩擦制動作用は、出力軸が受けるモータ側から見た反時計回り方向に作用するものであっても構わない。以上のとおり、請求項10の装置はシンプルかつコンパクトな構造になっている。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、部品点数をできるだけ減らしたシンプルかつコンパクトな構造の減速装置及び減速装置付きモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】第1実施形態に係る減速装置付きモータの概略構成を示すブロック図である。
図2】第1実施形態の変形例1に係る減速装置付きモータの概略構成を示すブロック図である。
図3】第1実施形態の変形例2に係る減速装置付きモータの概略構成を示すブロック図である。
図4】第1実施形態の変形例3に係る減速装置付きモータの概略構成を示すブロック図である。
図5】第2実施形態に係る減速装置付きモータの概略構成を示すブロック図である。
図6】第2実施形態の適用例1に係る減速装置付きモータの概略構成を示すブロック図である。
図7】第2実施形態の適用例2に係る減速装置付きモータの概略構成を示すブロック図である。
図8】実施例1に係る減速装置付きモータの斜視図である。
図9】実施例1に係る減速装置の左側面図(a)、正面図(b)である。
図10】減速装置の分解斜視図である。
図11】長尺ヘリカル内歯車の斜視図(a)(b)、同平面図(c)及び同縦断面図(c)である。
図12】制動ギアの斜視図(a)、制動ギアとその周辺の部分拡大正面図(b)である。
図13図9に示す第1実施形態の減速装置の制動前縦断面図(a)、(a)の部分拡大図(b)、制動後縦断面図(c)である。
図14図12(b)に示すブレーキ面に摩擦調整リングを密着配置した状態を示す正面図である。
図15】第1実施形態及び実施例1の使用状態を示す正面図である。
図16】実施例2に係る減速装置付きモータの斜視図である。
図17】実施例2に係る減速装置付きモータの分解斜視図である。
図18】実施例2に係る減速装置付きモータの縦断面図である。
図19】第2実施形態及び実施例2の使用状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を実施するための形態(以下、「第1実施形態」という)について説明する。
【0036】
(減速装置の概略構成)
図1に示す符号1は、第1実施形態に係る減速装置付きモータ(以下、「減速モータ1」という)を示す。同図の符号2Aは、第1実施形態に係る減速装置である。減速装置2Aは、ギア群7と、ブレーキ壁13と、制動ギア9と、制動ギア軸9c、摩擦制動構造15と、を主要部材とし、これらに加え図外の複数の周辺部材を有している。
【0037】
(ギア群の構成)
本願におけるギア群7は、減速装置2Aに外付けされたモータ21による入力軸3の回転を所定速度まで減速して出力軸5から出力するための各種複数のギアやこれらのギアを回転させる部材の集合体である。すなわち、ギア群7は、たとえば、平歯車、ヘリカル(はすば)歯車、傘歯車、内歯車、ウォームギア、ラックアンドピニオンなどに加え、これらを回転させるための回転軸・固定軸や必要な場合のプレート、摩擦調整部材としての(たとえば、金属製、樹脂製、セラミック製などの)ワッシャやグリス、オイルなどの適宜な組み合わせにより構成することができる。一方、ギア群7の中には、少なくとも1個の制動ギア9が含まれる。第1実施形態における制動ギア9は、機械的シンプル化を図りながら回転の安定性、制動の効果性(後述するブレーキ端面9aの総面積)などを考慮して3個とした。3個の制動ギア9それぞれは、互いに同じ構成を有している。なお、より詳しい構成については、後述の実施例の中で説明する。
【0038】
第1実施形態の入力軸3は、外付けするモータ21の一端側から突き出すモータ軸21aを流用している。ギア群7の中に入力軸3を設け、これにモータ軸21aを連結する方法もあるが、流用したほうが部品点数を減らせるし、連結部材を設けるスペース節約にもなる。なお、図1に示す符号21a‘は、モータ21の他端側から突き出すモータ軸を示す。
【0039】
(制動ギアの構成)
制動ギア9は、外側又は内側に凹凸の歯群を周方向に沿って持ち、円周面を挟む両端面を有している。当該両端面のうち後述のブレーキ壁13aに向き合う側の端面をブレーキ端面9aと呼ぶ。第1実施形態の制動ギア9は、構造単純化のため好ましくはヘリカル(はすば)歯車であるが、平歯車や内歯車等の歯車を採用することもできる。歯車の種類は、後述する摩擦制動構造15の構造との兼ね合いによって適宜選択することになる。ブレーキ端面9aは、一般的には平面であるが、たとえば、摩擦力上昇のため凹凸等を有していてもよいし、摩擦力を調整しつつ摩擦から保護するためのコーティングをしたり、グリス等の摩擦調整材を塗布したり、保護プレートを配したりしてもよい。歯車がボス(中心孔の周囲で、軸方向に肉厚になっている部分)を有する場合は、そのボスの端面がブレーキ端面9aに該当する。なお、制動ギア9の素材は、作用的・強度的に適応するなら、金属、合成樹脂、セラミック等を適宜選択してよい。各制動ギア9は、固定軸である制動ギア軸9cの周りを回転自在に(もしくは、回転軸である制動ギア軸9aと一体回転自在に)かつ復帰可能なスラスト方向(軸方向)のスライド移動を許容するように支持されている。
【0040】
(ブレーキ壁の構成)
ギア群7の好ましくは入力軸3側には、ブレーキ壁13が設けられている。ブレーキ壁13は、3個の制動ギア9それぞれのブレーキ端面9aのそれぞれと対向するブレーキ面13aを有している。ブレーキ壁13(ブレーキ端面13a)は、第1実施形態では一面であり、これが一般的であるが、制動ギア群9の個数と同数の複数面であることを妨げない。ブレーキ面13aとブレーキ端面9aの間は、各制動ギア9のスラスト方向の所定距離移動(スライド移動)を許容するとともに、スライド移動によりブレーキ端面9aがブレーキ面13aに直接接触(直接押圧)できる空隙・空間・隙間(移動空隙11)である。ブレーキ壁13の素材は、金属、合成樹脂、セラミック等が、製造の容易性や価格妥協性の面で好適である。ブレーキ面13aの上には、たとえば、制動端面9aとの間の摩擦力を高めるための凹凸等を設けたり、摩擦力を高めつつ摩擦から保護するためのコーティングをしたり、グリス等の摩擦調整材を塗布したり、保護プレートを配したりすることができる。
【0041】
(摩擦制動構造の構成)
摩擦制動構造15は、制動ギア軸9cに沿って、もしくは制動ギア軸9cとともに制動ギア9を、矢印Sの方向にスライド移動させる動力を付与する各種構造(板ばね、弾性部材などを含む)である。入力軸3の一方向の回転(モータ21から見た時計方向回転、図1の矢印3x。以下、第1実施形態において、この方向の回転を「正転」と定義する)に伴う出力軸5の正転(図1の矢印5x)を可能にする、すなわち、正転の邪魔をしない。一方、出力軸5を正転とは反対方向に回転(すなわち、逆転。図1の矢印5y)させようとする外力を出力軸5が受けたとき、3個の制動ギア9それぞれ若しくはそのうちの少なくとも1個のスライド移動(図1に矢印Sで示す)によって制動ギア9のブレーキ端面9aをブレーキ壁13のブレーキ面13aに直接(間接でもよい)に押圧する(2点鎖線で示す)。この押圧により少なくとも逆転を制動する摩擦力fが発生し、これにより、通常使用における回転軸5の逆転が阻止・制動されるように構成されている。なお、第1実施形態の制動ギア9それぞれは、前述のとおりヘリカル歯車の採用が好ましいため、軸に対して歯が斜めであることから回転させようとしたときスラスト方向に分力が働く。このヘリカル構造自体が第1実施形態における摩擦制動構造15である。ここで摩擦力fの大きさは、出力軸5が外力5yに対して耐えるのに少なくとも必要な大きさとなるように設定する。
【0042】
(第1実施形態の作用効果)
引き続き図1を参照する。減速モータ1によれば、入力軸3は、減速装置2Aに外付けされたモータ21によって正転される。入力軸3の正転は、ギア群7を構成するギアその他の部材を経て所定速度まで減速され、出力軸5を正転させる。ギア群7に含まれる3個の制動ギア9それぞれは、移動空間11の中を図中に矢印のスライドSで示すように、実線で示す位置から2点鎖線で示す位置までスライド移動する。移動により制動ギア9のブレーキ端面9aがブレーキ面13aに直接に押圧される。この押圧は、摩擦制動構造15の動力による作用である。ここで逆転させようとする外力5yを出力軸5が受けたとき、ブレーキ面13aに対する制動ギア9のブレーキ端面9aの押圧による摩擦力fでこの逆転を制動する。この外力とは、たとえば出力軸5に連結された被駆動体101の重量による負荷のことをいう。なお、この押圧による摩擦制動作用は、出力軸5が受けるモータ21側から見た反時計回り方向(つまり、正転方向)に併せて作用するものであっても構わない。最後に、本明細書における正転と逆転は、説明しやすくするための仮の定義であって、先に定義した正転と逆転は、前者が逆転で後者が正転である場合もある(以下、同じ)。
【0043】
(第1実施形態の変形例1)
図2に示す減速装置2A―1が第1実施形態の減速装置2Aと異なる点は、入力軸3(21a)とブレーキ壁13aとの間に前段ギア群7aが設けられている点である。減速装置2Aにおけるブレーキ壁13は入力軸3の直近に設けられている。前段ギア群7aは、たとえば、平歯車、ヘリカル(はすば)歯車、傘歯車、内歯車、ウォームギア、ラックアンドピニオンなどの適宜な組み合わせにより構成することができ、その中に軸方向に移動する歯車を含めることもできる。前段ギア群7aを設けるためのスペースを必要とするが、設けることにより減速した分、制動ギア群9に対する摩擦負担が小さくなるので、制動効果を高めることができる。
【0044】
(第1実施形態の変形例2)
図3に示す減速装置2A―2が第1実施形態の減速装置2Aと異なる点は、制動ギア群9を他のギア群(移動ギア群9d)が直接的もしくは間接的に押圧する構造となっている点である。入力軸3(21a)とブレーキ壁13aとの間に前段ギア群7aが設けられている点である。移動ギア群9dの移動動力は、摩擦制動構造15の作用によることは、第1実施形態の場合と異ならない。
【0045】
(第1実施形態の変形例3)
図4に示す減速装置2A―3が第1実施形態の減速装置2Aと異なる点は、制動ギア群9が他の部材を介してブレーキ壁13を押圧する点である。ここでは、制動ギア群9は、中央にあるヘリカル太陽歯車と、その上下に描いた複数(少なくとも2個)のヘリカル遊星歯車により構成されている。このため、スラスト方向に押圧する力が働いており、これが摩擦制動構造15として機能するようになっている。ヘリカル遊星歯車群9は、キャリアプレート15aに対して自転可能に取り付けられている。キャリアプレート15a自体も軸方向にスライド移動可能に支持されている。ここで、制動ギア群9が摩擦制動構造15の作用によりブレーキ壁13の方向に移動するための力を受けると、これに伴ってキャリアプレート15aも移動して、そのブレーキ端面15bがブレーキ壁13のブレーキ面13aと接触する結果、回転制動を促す摩擦力が発生するように構成されている。すなわち、減速装置2A-3の制動ギア群9は、ブレーキ面13aを間接的に押圧することになる。
【0046】
(第2実施形態の構造)
図5を参照しながら、第1実施形態の変形例(以下、「第2実施形態」という)に係る減速装置付きモータ51について説明する。第2実施形態が第1実施形態と基本的に異なる点は、第2実施形態が、第1実施形態の減速装置2Aに加え、減速装置2Bを併せて備えている点である。減速装置2Bの構造は、互いに異ならせることを妨げないが、次の点を除いて減速装置2Aの構造と実質的に同じである。よって、減速装置2Bの構造説明は省略する。両者が構造的に異なる点は、第2実施形態の入力軸3‘に流用されるものがモータ軸21aであることは入力軸3と共通するが、入力軸3は一端側から突き出る部分であるのに対し、入力軸3‘は他端側から突き出る部分である点で相違する。
【0047】
つまり、図5に示すように第2実施形態では、減速装置2Aと減速装置2Bという2個の減速装置を、1個のモータ21(1本の駆動軸)で駆動可能になっている。これにより、モータ21側から見た入力軸3‘の回転方向は、減速装置2Aのそれとは視座が逆になるため入力軸3の回転方向とは逆方向になる(矢印3x‘、5x‘)。このため、矢印5y‘の外力を受けた出力軸5‘は、減速装置2Bに含まれる摩擦制動構造(図示を省略)の働きにより制動され回転することはない。この点は、矢印5x‘と同方向の外力に対しても同じである。なお、符号101‘は、減速装置2Bにより駆動される被駆動体を示す。
【0048】
第2実施形態に係る減速装置付きモータ51によれば、すなわち、互いに同じ構造の減速装置2Aと減速装置2Bとを、モータ21を中心に点対称に配置したことになるから、減速装置2Aと減速装置2Bそれぞれの出力軸5と出力軸5‘に加わる外力との方向が相異なることときに生じる。この結果、各々の出力軸によって駆動される被駆動体の駆動態様(たとえば、上下動)が異なることになり、そのような駆動態様が必要な際に好適である。
【0049】
(第2実施形態の適用例1)
図6に示す減速装置2B―1は、先に述べた減速装置2A―3をモータ21の軸方向両側に配し、ヘリカル歯車である制動ギア9のネジレ角のネジレ方向と制動ギア9‘のネジレ角のネジレ方向を同じにしたものである。この構成にすることによって、出力軸5と出力軸5‘の取付方向を問わないものとすることができる。すなわち、減速装置2B―1を設置するに際して左右を見定める必要がなくなるので、取付方向の間違えを防ぎ作業効率を高めるために大変使い勝手がよくなる。
【0050】
(第2実施形態の適用例2)
図7に示す減速装置2B―2は、先に述べた減速装置2A―3をモータ21の軸方向両側に配し、ヘリカル歯車である制動ギア9のネジレ角のネジレ方向と制動ギア9‘のネジレ角のネジレ方向を互いに反対にしたものである。この構成によれば、左右においてネジレ角を異ならせることになるので、出力軸5と出力軸5‘それぞれにおいてブレーキがかかるときの外力方向を相異ならせることができる。そのような使用態様が必要な際に好適である。
【0051】
(実施例1)
図8ないし14を参照しながら、実施例1について説明する。実施例1は、第1実施形態に対応している。したがって、特に断らない限り、両者にて使用する部材符号も共通する。図8に示す符号1は、減速モータを示す。減速モータ1は、モータ21と、モータ21のモータ軸21a(図10)の回転を減速する減速装置2Aと、を備え、出力軸5から減速された回転を出力するものである。モータ軸21aは、入力軸3としての役割とモータピニオン8aを回転させる回転軸とした役割をも持っている(図13)。モータピニオン8aは、ギア群7の構成部材の一つである。モータ21と減速装置2Aとは、後述する取付部材17により連結されている。モータ21は直流(交流でもよい)の可逆モータであり、後端から突き出すリード線21b,21c(図10)を介して電力供給・制御されるようになっている。
【0052】
図10及び13において、符号24aは、出力軸5を回転自在に支える軸受けである。軸受24aは、長尺ヘリカル内歯車10の内歯車本体10aと外径をほぼ同じとする円盤状のヘッド部材14の中心孔14hを貫通しワッシャ16dに受け止められた状態で固定される。ヘッド部材14は、内歯車本体10aの肉厚部分を長さ方向に貫通する4個のネジ孔10p(図11(c))それぞれを貫通する4本の長ネジ24cによって内歯車本体10aに螺合固定される(図13(a)(b)に示す状態)。図10の符号24bは、出力軸5の周方向に形成された抜け止め溝5aに嵌めるためのC型リングを示す(図13(a)(b))。
【0053】
(取付部材の構成)
図8ないし10に示すように取付部材17は、板状リング形状の間座本体17aと、間座本体17aの周縁から周方向等間隔に配された放射状に突き出る4個の突起止め片17bと、突起止め片17bの間の周縁から周方向等間隔に配された内歯車本体10a(後述)に向かって屈曲する2個の折れ片17cと、を有している。また、間座本体17aの中心には、モータ軸21aを貫通させるための中心孔17hが開口されている。間座本体17aは、モータ21にネジ固定可能に構成されている。折れ片10cは、受け入れ凹部10b(図10、6)に受け入れられた支持部材12(後述)とともに内歯車本体10aにネジ固定されるようになっている。以上により、モータ21を内歯車本体10aに対し、取り外し可能に取り付けられる。なお、支持部材12は間座本体17aを挟んでモータ21の後端に密着し、これを支持するための部材である。
【0054】
(減速モータの構成)
図7ないし13、特に図10を参照しながら、減速モータ1の構造を説明する。減速モータ1が有する減速装置2Aは、ギア群7の一部を構成する長尺ヘリカル内歯車10により外観構成されている。長尺ヘリカル内歯車10は、金属やセラミックで構成することもできるが、軽量化とコスト低減の目的から合成樹脂製とすることが好ましい。長尺ヘリカル内歯車10は、円筒形の一端開放・他端有底のビール樽に類似する形状の内歯車本体10aを有している。内歯車本体10aは、減速装置2A全体のケースを兼ねており、ケースを不要とするための部品点数削減に寄与している。内歯車本体10aのモータ21側の末端から全体の5分の1ほどの位置に、ビール樽でいう底に該当する円形のブレーキ壁13が一体成型により設けられている。上述のとおり、合成樹脂製としたのでブレーキ壁13の一体成型が可能になり製造工程を少なくすることができる。金属やセラミックなどを素材とするなら、別体のブレーキ壁13を適当な固定部材を介して内歯車本体10aに固定する。なお、ブレーキ壁13の中央には、モータピニオン8aを通過させるための円形中心孔13hが形成されている。
【0055】
(内歯車本体の構成)
ブレーキ壁13の存在により、内歯車本体10aの中空部が軸方向に2分され、これによりモータ21側には、後述する支持部材12を受け入れるための受け入れ凹部10b(図10、11)が形成される。内歯車本体10aのうち、受け入れ凹部10bを囲む部位には、軸方向に窪む矩形の止め凹部10d(図11)が、周方向等間隔に4個形成されている。止め凹部10dそれぞれに突起止め片17bの突起が嵌まり込んで周方向回転を止めるように構成されている。一方、内歯車本体10aの内面側全体(受け入れ凹部10bの部位を除く)にはヘリカル(はすば)の内歯部10cが形成されている。この内歯部10cを含めた他のヘリカル歯車のネジレ角は、それらが配置された位置や減速比などに応じて適宜設定される。符号10fは、支持部材12の突起12a(後述)をはめ込むために中心から周縁に向かって凹む周縁凹部を示す。以下の説明は、入力軸3の代用となるモータ軸21aから出力軸5に動力伝達される順番に説明する。
【0056】
(支持部材の構成)
図10に示すように、支持部材12は、受け入れ凹部10bに遊び少なくすっぽり嵌まり込むように構成されたリング状部材であり、円形中心孔12hと、周方向等間隔にかつ周縁から放射状に延びる2個の突起12aと、周縁から中心方向に僅かに凹む2個の逃げ凹部12bと、を有している。受け入れ凹部10bに支持部材12が嵌まり込むと、これと同時に、円形中心孔12hをモータピニオン8aが貫通し、突起12aのそれぞれが内歯車本体10aの止め凹部10dのそれぞれに嵌まり込んで周方向の回転を拒む。さらに、逃げ凹部12bのそれぞれが、内歯車本体10aの窓部10eそれぞれと放射方向に連通して(図15)、窓部10eそれぞれの外から差し込むネジ(要修正図示を省略)により、支持部材12を内歯車本体10aに固定する。支持部材12は、リード線21b,21cの保護などを主目的とする部材である。
【0057】
(動力伝達の仕組み)
説明の都合上、まず3個ある遊星キャリアのうち、遊星キャリア18aの共通構成について説明した後、この構成と他の遊星キャリアとなる遊星キャリア18bおよび遊星キャリア18cとの違いについて言及する。図5ないし8を参照する。
【0058】
(遊星キャリアの構造)
図10および13に示すように遊星キャリア18aは、モータ21の回転に伴うモータピニオン8a(ヘリカル太陽歯車)の自転を、このモータピニオン8aと併せて内歯車本体10aの内歯部10cと噛み合う3個のヘリカル遊星歯車9(制動ギア群9)それぞれに伝達してこれらを自転させながら同時に公転させ、この公転によるキャリアプレート18aaの回転を次段に伝達するための部材群である。
【0059】
遊星キャリア18aは、円形のキャリアプレート18aaと、キャリアプレート18aaに差し込み固定されヘリカル遊星歯車9それぞれを回転自在(かつ、スラスト方向にスライド自在)に支持する3本のキャリアピン群18abと、キャリアプレート218aaとヘリカル遊星歯車9それぞれとの間の摩擦を軽減して摩耗や雑音を抑制するためのするキャリアリング群18acと、を含めて構成される。キャリアプレート18aaは薄手で、たとえば金属製の円盤であって、中央孔18hを有している。実施例1では入力軸3(モータ軸21a)側に配されたブレーキ壁13を出力軸5側に配するのであれば、キャリアリング群18acが摩擦調整部材として機能する。
【0060】
キャリアプレート18aaの中央孔18ahは、次段のヘリカル太陽歯車19を一体回転するように差し込み固定するための孔である。周方向等間隔に開けられた3個の貫通孔18ajそれぞれは、キャリアピン18abそれぞれを差し込み固定するための孔である。別体・別素材を排除する趣旨ではないが、キャリアプレート18aaを合成樹脂製とすれば、これとキャリアピン18bbそれぞれを一体成型することができる。
【0061】
説明の都合上、名称と符号を異ならせているが、実施例1のキャリアピン18abは第1実施形態の制動ギア軸9c(図1)に該当する部材である。よってキャリアピン18abは、第1実施形態の制動ギア軸9cの機能、すなわち、キャリア遊星歯車群9のそれぞれを復帰可能なスラスト方向のスライド移動(図12(b)の矢印S)を移動空間11において許容する一方、スライド移動に伴うブレーキ端面9bのブレーキ面13aを押圧することで発生する摩擦力をもって出力軸5を介して制動ギア9に加えられた外力(回転力)を抑制・制動する(つまり、外力に打ち勝って出力軸5を回転させない)機能を有している。ここで押圧により発生する摩擦力の大きさは、出力軸5が外力に対して耐えるのに少なくとも必要な大きさとなるように設定する。なお、図10に示す符号16aは、ブレーキ面13aに密着配置された平板状の摩擦調整リングを示すが、これを不要と考えるのであれば省略可能である(後述)。
【0062】
(他の遊星キャリアの構造)
引き続き図10を参照する。遊星キャリア18bと遊星キャリア18cは、遊星キャリア18aとほぼ同じ構造に基本構成されている。そのため、共通する部材については、図5に部材番号を付するに止め、それらの説明は可能な限り省略する。
【0063】
遊星キャリア18bは、ヘリカル太陽歯車19とヘリカル遊星歯車群18bdを備えている。ヘリカル太陽歯車19は、遊星キャリア18aのキャリアプレート18aaの回転に伴って回転する。ヘリカル太陽歯車19の回転は、内歯部10cと噛み合うヘリカル遊星歯車群18bdを自転と公転を同時に行わせ、これにより、キャリアリング18bcとキャリアピン18bbを介してキャリアプレート18baを回転させる。
【0064】
遊星キャリア18cは、ヘリカル太陽歯車29とヘリカル遊星歯車群18cdを備えている。ヘリカル太陽歯車29は、遊星キャリア18bのキャリアプレート18baの回転に伴って回転する。ヘリカル太陽歯車29の回転は、内歯部10cと噛み合うヘリカル遊星歯車群18cdを自転と公転を同時に行わせ、これにより、キャリアリング18ccとキャリアピン18cbを介してキャリアプレート18caを回転させる。キャリアプレート18caの回転は、その中央孔18chに差し込み固定された出力軸5を回転させる。
【0065】
かくして、モータ21のモータ軸21a(入力軸3)の回転が減速伝達されて出力軸5を回転させる。なお、摩擦調整リング16bは、ヘリカル遊星歯車18bdそれぞれと、これらに対向するキャリアプレート18aaとの間に配される(省略可能。後述)。また、摩擦調整リング16cはヘリカル遊星歯車18cdそれぞれと、これらに対向するキャリアプレート18baとの間に配される(省略可能。後述)。摩擦調整リング18aについては、前述したとおりである。
【0066】
図12(b)及び13に基づき、外力(回転力)を抑制・制動する上記機能について換言する。説明の都合上、図10に示す摩擦調整リング16a、16b及び16cは、これらを省略したものとして記述する。図12(b)及び図13(b)に示すように、制動ギア9とブレーキ壁13との間、すなわち、ブレーキ端面9aを通過する直線L1とブレーキ面13aを通過する直線L2との間には、移動空隙11が存在する。ここで出力軸5に外力が加わると、図13(c)に示すように移動空間11が縮小・消滅され、これに伴いブレーキ端面9aがブレーキ面13aを押圧して抑制・制動が行われる。遊星キャリア18b、18cそれぞれのキャリアピン18bb、キャリアピン18cbそれぞれは、ヘリカル遊星歯車18bd、ヘリカル遊星歯車18cdをスラスト方向に移動させる必要はないが、ヘリカル遊星歯車9と同様な構成としたため、結果として移動可能になっている。
【0067】
(ヘリカル遊星歯車群の変形例)
上記したヘリカル遊星歯車群は、ブレーキ壁13に最も近いヘリカル遊星歯車群9を初段としたときそのスラスト方向の出力軸5側の別の2段を含めた3段の構成となっているが、これは減速比や出力軸5が伝達すべきトルクなどの関係から導き出された段数であって、ヘリカル遊星歯車群9のみからなる1段構成とすることも可能であるし、2段構成とすることや4段以上の構成とすることを妨げる趣旨ではない。なお、遊星キャリア18b及び18cは、何れか一方若しくは双方をヘリカル歯車とは異なる歯車(たとえば、平歯車)を使用することができる。実施例1において遊星キャリア18b及び18cを遊星キャリア18aと同じくヘリカル歯車によって構成したのは、共通構成とすることで部品の一部又は全部の共通化ができるし、よりコンパクトにすることができるからである。
【0068】
(摩擦調節リングの構成と作用効果)
図10に示す摩擦調整リング16a,16b,16cは、前述のとおり何れも省略可能ではあるが、これらを設けた場合の作用効果上の利点を、それらの構成とともに説明する。まず、摩擦調整リング16aは、ブレーキ面13aとブレーキ端面9aとの間に押圧によって生じる摩擦を調整する機能を有している(併せて図14参照。この場合、摩擦調整リング16aのブレーキ端面9aとの対向面がブレーキ面13a‘となる)。実施例1における摩擦調整は摩擦低減を意味するが、摩擦を向上させるためのものを意味する場合もある(摩擦調整リング16b、16cにおいて同じ)。ここで摩擦低減は、外力を受けた出力軸5の回転の抑制・制動に悪影響を与えない範囲のものであることは言うまでもなく、その範囲における利点は、特に、ブレーキ面13a(ブレーキ壁13)とブレーキ端面9b(制動ギア9)の両者が同一(たとえば、同じ合成樹脂同士、同じ金属同士、同じ焼結材同士。これらと異なる素材の摩擦調整リング))の合成樹脂製である場合など、両者接触による摩耗が起きやすいのでこれを抑制する働きがあるからである。さらに摩耗抑制は、不必要な雑音(たとえば、摺動回転に伴う「ガリガリ」という音)の発生もしくは音量の低減にも寄与する。
【0069】
上述の摩耗抑制や雑音発生等に利点は、キャリアプレート18aaとヘリカル遊星歯車群18bdとの関係において、さらに、キャリアプレート18baとヘリカル遊星歯車群18cdとの関係において同じことが言える。雑音発生に絞っていえば、摩擦調整リング16a,16b,16cのどれも省略せずに設けることにより、減速装置2Aから発生する雑音量が極めて小さくすることができる。なお、摩擦調整リング16a,16b,16cを構成する素材は、その目的に照らしステンレスや鉄のような金属が好ましい。
【0070】
(減速モータの適用例)
減速モータ1は、たとえば、図15に示す被駆動体(ロールカーテン101)の昇降装置として好適である。ここで、図13をも参照しながら説明する。通電によりモータ21のモータ軸21a(入力軸3)が回転する。モータ軸21の回転は減速装置2Aによって減速され、図15では隠れて見えないが出力軸5(図13)を介して被駆動体であるロールカーテン101を巻き上げ上昇させる。ロールカーテン101の重量は、出力軸5に対して巻き上げ方向とは逆の方向に働くが、巻き上げのトルクが勝っているためブレーキがかからない(図1に示す5y>5zの状態)。一方、通電を停止すると巻き上げ方向のトルクがなくなり、ロールカーテン101の重量のほうが勝ることになる(図1において5y<5zの状態)。すなわち、出力軸5に対する逆方向の負荷のほうが大きくなる。この逆方向負荷により、前述のとおり、図13(c)に示すように移動空間11が縮小・消滅され、これに伴いブレーキ端面9aがブレーキ面13aを押圧して抑制・制動が行われる。つまり、ロールカーテン101の下降が停止される。
【0071】
(実施例2)
図16乃至18を参照しながら、実施例2について説明する。実施例2は、第2実施形態に対応している。したがって、特に断らない限り、実施例2で使用する部材符号は第2実施形態の部材符号と共通する。実施例2に係る減速モータ51が減速モータ1と異なる点は、減速モータ1は減速装置2Aのみ有しているのに対し、減速モータ51は減速装置2Aとともに減速装置2Bをも有する点である。その上で減速装置2Bの構造は減速装置2Aの構造と同じである。すなわち、図16において、減速装置2Aと減速装置2Bとは左右対称となる。減速装置2Bの構造を減速装置2Aの構造と異なることを妨げる趣旨ではないが、両者を同一構造の減速装置としたのは共通部品・共通組み立てを可能するなどの点で効率がよいからである。
【0072】
減速モータ1が備えるモータ21は、そのまま減速装置2Bの駆動源として共有されている。減速装置2Bの構造については、第2実施形態で使用した部材符号そのまま若しくは同部材番号にダッシュ「‘」を付したものを図16乃至18において使用するに止め、それらの説明は可能な限り省略する。なお、モータ21と、その両側の減速装置2Aと減速装置2Bとは、互い違いに設置固定された取付部材17と17‘によって互いに取り付けられている(図16、17)。
【0073】
(減速装置へのモータ取付)
図17および18に示すようにモータ21には、その他端側から突き出すモータ軸21aを他の入力軸3‘とし、この出力軸3‘に固定されたモータピニオン8a‘が遊星キャリア18a‘の一部を構成する。遊星キャリア18a‘以降の遊星キャリア18b‘及び遊星キャリア18c‘は、遊星キャリア18a及び遊星キャリア18c(何れも図5を併せて参照)と同じ構造である。遊星キャリア18cの回転は、図18の左端に示す出力軸5’から取り出される。
【0074】
出力軸5と出力軸5‘の回転方向は、モータ21から見て互いに逆方向になる。この結果、各々の出力軸によって駆動される被駆動体の駆動態様(たとえば、上下動)が異なることになる。この構成によれば、左右においてネジレ角を異ならせることになるので、出力軸5と出力軸5’それぞれにおいてブレーキがかかるときの外力方向を相異ならせることができる。そのような使用態様が必要な際に好適である。
【0075】
(減速モータの使用例)
図17及び18に加えず19を参照する。符号101,101‘は、減速モータ51によって駆動される、たとえば、昇降操作されるロールカーテンのような被駆動体を示す。前述の減速モータ51により被駆動体101,101‘それぞれを駆動すると、上記のとおり外国方向を相異ならせることができるから、一方のロールカーテン101を、たとえば上昇させる一方、他方のロールカーテン101‘を下降させることができる。その一方で、ネジレ角を同じにすれば、先に述べたように取付方向不問のうえ、ロールカーテン101とロールカーテン101‘とを一緒に上昇もしくは下降させることができる。
【符号の説明】
【0076】
1,51:減速装置付きモータ(減速モータ)、2A,2B:減速装置、3,3‘:入力軸、3a:ピニオン、5:出力軸、5a:抜け止め溝、7:ギア群、7a:前段ギア群、8a:モータピニオン、9:制動ギア、9a:ギア歯部、9b:ブレーキ端面、9c:制動ギア軸、9d:移動ギア(群)、10:長尺ヘリカル内歯車、10a:内歯車本体、10b:受け入れ凹部、10c:内歯部、10d:止め凹部、10e:窓部、10f:周縁凹部、11:移動空隙、12:支持部材、12a:突起、12b:逃げ凹部、12h:円形中心孔、13:ブレーキ壁、13a、13a‘:ブレーキ面、13h:円形中心孔、14:ヘッド部材、14h:中心孔、15:摩擦制動構造、15a:キャリアプレート、15b:直接ブレーキ端面、16a,16b,16c:摩擦調整リング、16d:ワッシャ、17:取付部材、17a:間座本体、17b:突起止め片、17c:折れ片、17d:取付アーム、17h:中心孔、18a,18a‘:遊星キャリア、18aa,18aa‘:キャリアプレート、18ab,18ab‘:キャリアピン(制動ギア軸)、18ac,18ac‘:キャリアリング、18ah,18ah‘:中央孔、18aj,18aj‘:貫通孔、18b,18b‘:遊星キャリア、18ba,18ba‘:キャリアプレート、18bb,18bb‘:キャリアピン、18bc,18bc‘:キャリアリング、18bd,18bd‘:ヘリカル遊星歯車、18bh,18bh‘:中央孔、18bj,18bj‘:貫通孔、18c,18c‘:遊星キャリア、18ca,18ca‘:キャリアプレート、18cb,18cb‘:キャリアピン、18cc,18cc‘:キャリアリング、18cd,18cd‘:ヘリカル遊星歯車、18ch,18ch‘:中央孔、18cj,18cj‘:貫通孔、19:ヘリカル太陽歯車、21:モータ、21a,21a‘:モータ軸、21b,21c:リード線、24a:軸受け、24b:C型リング、24c:長ネジ、29:ヘリカル太陽歯車、101,101‘:被駆動体(ロールカーテン)、G:間隙、L1,L2:直線

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19