(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005009
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】飲料、飲料ベース、飲料の製造方法、飲料ベースの製造方法、及び、飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20240110BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240110BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20240110BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20240110BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/52
A23L2/56
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104969
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 英敏
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LH11
4B117LC03
4B117LK06
4B117LL01
(57)【要約】
【課題】ニッキのような風味が低減した飲料、飲料ベース、飲料の製造方法、飲料ベースの製造方法、及び、飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る飲料は、シンナムアルデヒドを含有する飲料であって、β-カリオフィレンを含有する。また、本発明に係る飲料は、シンナムアルデヒドの含有量が0.1~100ppmであるのが好ましく、β-カリオフィレンの含有量が0.1~300ppbであるのが好ましく、アルコールを含有するのが好ましい。また、本発明に係る飲料の香味向上方法は、シンナムアルデヒドを含有する飲料のニッキのような風味を低減させる飲料の香味向上方法であって、飲料にβ-カリオフィレンを含有させる工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンナムアルデヒドを含有する飲料であって、
β-カリオフィレンを含有する飲料。
【請求項2】
前記シンナムアルデヒドの含有量が0.1~100ppmである請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記β-カリオフィレンの含有量が0.1~300ppbである請求項1又は請求項2に記載の飲料。
【請求項4】
アルコールを含有する請求項1に記載の飲料。
【請求項5】
シンナムアルデヒドを含有する飲料ベースであって、
β-カリオフィレンを含有する飲料ベース。
【請求項6】
前記シンナムアルデヒドの含有量をXppmとし、希釈倍率をD倍とした場合に、X/Dが0.1~100である請求項5に記載の飲料ベース。
【請求項7】
前記β-カリオフィレンの含有量をYppbとし、希釈倍率をD倍とした場合に、Y/Dが0.1~300である請求項5又は請求項6に記載の飲料ベース。
【請求項8】
アルコールを含有する請求項5に記載の飲料ベース。
【請求項9】
シンナムアルデヒドとβ-カリオフィレンとを含有させる工程を含む飲料の製造方法。
【請求項10】
シンナムアルデヒドとβ-カリオフィレンとを含有させる工程を含む飲料ベースの製造方法。
【請求項11】
シンナムアルデヒドを含有する飲料のニッキのような風味を低減させる飲料の香味向上方法であって、
前記飲料にβ-カリオフィレンを含有させる工程を含む飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料、飲料ベース、飲料の製造方法、飲料ベースの製造方法、及び、飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料については、消費者のニーズに合致した商品を創出するために、様々な研究開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料であって、ピペリン類を含有し、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002以上であることを特徴とする容器詰炭酸飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、シンナムアルデヒドを含有する炭酸飲料の炭酸感を増強させるために、ピペリン類を使用するという技術が説明されている。
一方、本発明者は、特許文献1で着目されている炭酸感ではなく、飲料に最も重要な指標である香味に着目して、シンナムアルデヒドを含有する飲料について鋭意検討した。
その結果、本発明者は、シンナムアルデヒドを飲料に含有させることによって、「ニッキのような風味」が付与されることを確認した。そして、本発明者は、この「ニッキのような風味」がネガティブなイメージを一部の飲用者に与えてしまうことから、これを低減することができれば、シンナムアルデヒドを含有する飲料の香味をさらに良好なものにできるのではないかと考えた。
【0006】
そこで、本発明は、ニッキのような風味が低減した飲料、飲料ベース、飲料の製造方法、飲料ベースの製造方法、及び、飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)シンナムアルデヒドを含有する飲料であって、β-カリオフィレンを含有する飲料。
(2)前記シンナムアルデヒドの含有量が0.1~100ppmである前記1に記載の飲料。
(3)前記β-カリオフィレンの含有量が0.1~300ppbである前記1又は前記2に記載の飲料。
(4)アルコールを含有する前記1から前記3のいずれか1つに記載の飲料。
(5)シンナムアルデヒドを含有する飲料ベースであって、β-カリオフィレンを含有する飲料ベース。
(6)前記シンナムアルデヒドの含有量をXppmとし、希釈倍率をD倍とした場合に、X/Dが0.1~100である前記5に記載の飲料ベース。
(7)前記β-カリオフィレンの含有量をYppbとし、希釈倍率をD倍とした場合に、Y/Dが0.1~300である前記5又は前記6に記載の飲料ベース。
(8)アルコールを含有する前記5から前記7のいずれか1つに記載の飲料ベース。
(9)シンナムアルデヒドとβ-カリオフィレンとを含有させる工程を含む飲料の製造方法。
(10)シンナムアルデヒドとβ-カリオフィレンとを含有させる工程を含む飲料ベースの製造方法。
(11)シンナムアルデヒドを含有する飲料のニッキのような風味を低減させる飲料の香味向上方法であって、前記飲料にβ-カリオフィレンを含有させる工程を含む飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る飲料は、ニッキのような風味が低減している。
本発明に係る飲料ベースは、希釈後の飲料について、ニッキのような風味が低減している。
本発明に係る飲料の製造方法は、ニッキのような風味が低減した飲料を製造することができる。
本発明に係る飲料ベースの製造方法は、希釈後の飲料について、ニッキのような風味が低減した飲料ベースを製造することができる。
本発明に係る飲料の香味向上方法は、飲料のニッキのような風味を低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る飲料、飲料ベース、飲料の製造方法、飲料ベースの製造方法、及び、飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0010】
[飲料]
本実施形態に係る飲料は、シンナムアルデヒドを含有する飲料であって、β-カリオフィレンを含有する。
そして、本実施形態に係る飲料の一つとして、アルコールを含有するアルコール飲料が挙げられるが、このアルコール飲料については、特定の種類の飲料に限定されないものの、例えば、チューハイテイスト飲料が挙げられる。そして、このチューハイテイスト飲料とは、チューハイのような味わいを呈する飲料、つまり、チューハイの香味が感じられるように香味設計された飲料である。なお、チューハイの香味には、サワーやカクテルといった香味も含まれる。
なお、本実施形態に係る飲料は、シンナムアルデヒドを含有することによってスパイシーな香味が付与されることから、コーラテイスト飲料(コーラ様の香味となるように香味設計された飲料)に適用するのが好ましい。
以下、本実施形態に係る飲料を構成する各要素について説明する。
【0011】
(シンナムアルデヒド)
シンナムアルデヒド(Cinnamaldehyde)とは、分子式C9H8Oで表される芳香族不飽和アルデヒドの一つであり、ケイ皮アルデヒドとも呼ばれる。
本発明者は、シンナムアルデヒドを飲料に含有させると、「ニッキのような風味」(ネガティブな風味)が付与されてしまうことを見出した。また、本発明者は、シンナムアルデヒドを飲料に含有させると、「舌に残るざらつき」(ざらつくような香味)も付与されてしまうことも見出した。
加えて、本発明者は、シンナムアルデヒドと後記するβ-カリオフィレンの両者が飲料で混ざり合うことによって、「スパイシーな複雑さ」、「味のやわらかさ」、「後味のキレ」、「後味の苦味」が増強されることも見出した。
【0012】
シンナムアルデヒドの含有量は、0.1ppm以上が好ましく、0.3ppm以上、0.5ppm以上、0.8ppm以上、1ppm以上、2ppm以上、2.5ppm以上、2.8ppm以上、3ppm以上がより好ましい。シンナムアルデヒドの含有量が所定値以上であることによって、課題(ニッキのような風味)や問題点(舌に残るざらつき)がより明確となるとともに、所定の効果(スパイシーな複雑さの増強効果、味のやわらかさの増強効果、後味のキレの増強効果、後味の苦味の増強効果)をよりしっかりと発揮することができる。
シンナムアルデヒドの含有量は、100ppm以下が好ましく、80ppm以下、50ppm以下が好ましく、40ppm以下、35ppm以下、32ppm以下、30ppm以下がより好ましい。シンナムアルデヒドの含有量が所定値以下であることによって、飲料の香味のバランスが悪くなるといった事態を回避することができる。
なお、本明細書において「ppm」という単位は「mg/L」と同義である。
【0013】
飲料におけるシンナムアルデヒドの含有量は、例えば、固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフ-質量分析法(SPME-GC-MS法)によって測定することができる。
【0014】
(β-カリオフィレン)
β-カリオフィレン(beta-caryophyllene)とは、分子式C15H24で表される二環式のセスキテルペンの一種である。
本発明者は、β-カリオフィレンがシンナムアルデヒドに起因するニッキのような風味を低減させることを見出した。また、本発明者は、β-カリオフィレンによって、舌に残るざらつきを低減させることも見出した。
加えて、本発明者は、β-カリオフィレンと前記したシンナムアルデヒドの両者が飲料で混ざり合うことによって、「スパイシーな複雑さ」、「味のやわらかさ」、「後味のキレ」、「後味の苦味」が増強されることも見出した。
【0015】
β-カリオフィレンの含有量は、0.1ppb以上が好ましく、0.3ppb以上、0.5ppb以上、0.8ppb以上、1ppb以上、2ppb以上、3ppb以上、4ppb以上、4.8ppb以上、5ppb以上がより好ましい。β-カリオフィレンの含有量が所定値以上であることによって、ニッキのような風味の低減効果、舌に残るざらつきの低減効果、スパイシーな複雑さの増強効果、味のやわらかさの増強効果、後味のキレの増強効果、後味の苦味の増強効果の各効果をしっかりと発揮させることができる。
β-カリオフィレンの含有量は、300ppb以下が好ましく、200ppb以下、150ppb以下、100ppb以下、80ppb以下、60ppb以下、55ppb以下、50ppb以下、40ppb以下、30ppb以下、20ppb以下、15ppb以下、10ppb以下がより好ましい。β-カリオフィレンの含有量が所定値以下であることによって、総合評価が低下してしまうといった事態を回避することができる。
なお、本明細書において「ppb」という単位は「μg/L」と同義である。
【0016】
飲料におけるβ-カリオフィレンの含有量は、例えば、固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフ-質量分析法(SPME-GC-MS法)によって測定することができる。
【0017】
(アルコール)
本実施形態に係る飲料は、アルコールを含有してもよい。
アルコールは飲用することができるアルコールであればよく、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、種類、製法、原料などに限定されることがないが、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ類(例えばジン、ウォッカ、ラム等のスピリッツ、及び、原料用アルコール等)、リキュール類、焼酎等、さらには清酒、果実酒、ビール等の醸造酒を使用することができ、これらの中でも、特に、蒸留酒であるウォッカ、原料用アルコールのうちの1種以上が好ましい。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0018】
(アルコール度数)
本実施形態に係る飲料がアルコールを含有する場合、アルコール度数は、1v/v%以上であるのが好ましく、2v/v%以上、2.5v/v%以上、3v/v%以上、5v/v%以上であるのがより好ましい。また、アルコール度数は、25v/v%以下であるのが好ましく、20v/v%以下、15v/v%以下、13v/v%以下、12.5v/v%以下、10v/v%以下、9v/v%以下、7v/v%以下、6v/v%以下であるのがより好ましい。
また、本実施形態に係る飲料がアルコールを含有しない場合、アルコール度数は、例えば、1v/v%未満、0.7v/v%以下、0.5v/v%以下、0.3v/v%以下、0.1v/v%以下、0.0v/v%である。
なお、飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計・ガスクロマトグラフ分析法)に基づいて測定することができる。
【0019】
(エキス分)
本実施形態に係る飲料のエキス分(エキスの含有量)は特に限定されないものの、例えば、以下のとおりである。
エキス分は、1w/v%以上が好ましく、3w/v%以上、5w/v%以上、7w/v%以上、8w/v%以上が好ましい。また、エキス分は、18w/v%以下が好ましく、17w/v%以下、15w/v%以下、13w/v%以下、12w/v%以下、11w/v%以下、10w/v%以下がより好ましい。
【0020】
ここで、エキス分とは、温度15度の時において原容量百立方センチメートル中に含有する不揮発性成分のグラム数である(酒税法第三条)。そして、エキス分は、主に後記する甘味料の含有量が反映される数値であり、甘味料の含有量が多いと当該数値は高くなり、甘味料の含有量が少ないと当該数値は低くなる。
なお、飲料のエキス分は、例えば、日本国の国税庁所定分析法に準拠して比重(日本酒度)及びアルコール度を測定して算出することができる。
【0021】
(発泡性)
本実施形態に係る飲料は、炭酸ガスを含有する発泡性のもの(炭酸飲料)でも、非発泡性のものでもよい。ここで、本実施形態における発泡性とは、20℃におけるガス圧(全圧)が0.5kg/cm2以上であることをいい、1.0kg/cm2以上が好ましく、1.5kg/cm2以上、1.6kg/cm2以上がより好ましい。また、20℃におけるガス圧(全圧)は、5.0kg/cm2以下が好ましく、4.0kg/cm2以下、3.5kg/cm2以下、3.0kg/cm2以下がより好ましい。
なお、本実施形態に係る飲料の20℃におけるガス圧(全圧)は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)「8-3ガス圧」に基づいて測定することができる。
【0022】
(その他)
本実施形態に係る飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよい。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトースなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
なお、前記したシンナムアルデヒドやβ-カリオフィレンは、成分単体として飲料に含有させてもよいが、これらの成分を含むスパイスや香料や果汁などとして含有させてもよい。
【0023】
(果汁)
本実施形態に係る飲料は、果汁を含有してもよい。
ここで、果汁とは、果実を搾った汁であり、濃縮果汁、還元果汁、ストレート果汁といった各種果汁、果実ピューレ(火を通した果実あるいは生の果実をすりつぶしたり裏ごししたりした半液体状のもの)、これらの希釈液、濃縮液、混合液なども含む。また、果汁は、1種類の果実を原料としてもよいし、2種類以上の果実を原料としてもよい。
【0024】
果汁の含有量は、果汁率換算で0%でもよいものの、例えば、0.5%以上、0.8%以上、1%以上、3%以上、5%以上であり、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下である。
【0025】
本実施形態に係る飲料の果汁の含有量(果汁率換算)は、「含有量(果汁率換算)%(詳細には、w/v%)」=「飲料100mL中への果汁配合量(g)」×「濃縮倍率」/100mL×100により算出することとする。ここで、「濃縮倍率」(ストレート果汁を100%としたときの果汁の相対的濃縮倍率)を算出するにあたり、JAS規格に準ずるものとする。詳細には、JAS規格の糖用屈折計示度の基準(°Bx)又は酸度の基準(%)に基づいて算出することができ、例えば、酸度が7%の梅果汁を用いた場合、果実飲料の日本農林規格(平成28年2月24日農林水産省告示第489号)の別表4によると梅の基準酸度は3.5%であるから、この梅果汁は、2倍濃縮の梅果汁となる。
【0026】
なお、果汁の由来となる果実は、特に限定されず、本発明の所望の効果が阻害されない範囲において、食用のものであれば、いずれの果実も使用できる。例えば、果汁の由来となる果実としては、柑橘類果実である、レモン、ライム、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、シークワーサー等や、バラ科果実である、リンゴ、イチゴ、桃等、これら以外にも、ぶどう、プラム、ざくろ、ブルーベリー、カシス、クランベリー、マキベリー、いちご、梅、ピーチ、マンゴー、パイナップル、キウイ、梨等といった従来公知の果実も挙げることができる。
【0027】
本実施形態に係る飲料は、仮に、チューハイテイスト飲料とする場合、前記した果汁以外にも、フルーツフレーバー(フルーツ様の香りを付与するフレーバー)、果実エキス(果実又は果汁から水やアルコールなどを用いて当該果実の有効成分を抽出した抽出物)を含有させることもできる。そして、果実フレーバーや果実エキスの果実種は、前記した果汁の果実種と同様のものが挙げられるが、別の種類を用いてもよい。
なお、本発明の効果(特に、ニッキのような風味の低減効果)は、フレーバー・果実エキスの香味タイプや香味の強弱に基づいて、当該効果が完全に消失してしまうといったことはないと考えることから、フレーバーなどによる香味タイプは多様であってもよく、含有量についても特に限定されない。
【0028】
以上説明したように、本実施形態に係る飲料は、ニッキのような風味が低減している。また、本実施形態に係る飲料は、舌に残るざらつきが低減しているとともに、スパイシーな複雑さ、味のやわらかさ、後味のキレ、後味の苦味が増強している。
【0029】
[飲料ベース]
本実施形態に係る飲料ベースは、後記する割り材で希釈されることにより前記の飲料とすることができる。
なお、本実施形態に係る飲料ベースは、消費者や飲食店などに提供されるに際して、飲料ベースの状態(RTS:Ready To Serve)で提供された後に割り材で希釈されてもよいし、飲料ベースを割り材で希釈した後に飲料の状態(RTD:Ready To Drink)で提供されてもよい。
【0030】
以下、本実施形態に係る飲料ベースを説明するに際して、前記の飲料と共通する構成については説明を省略し、相違する構成(特に含有量等)を中心に説明する。
【0031】
(シンナムアルデヒド)
飲料ベースのシンナムアルデヒドの含有量をXppmとし、希釈倍率をD倍とした場合、X/Dは、0.1以上が好ましく、0.3以上、0.5以上、0.8以上、1以上、2以上、2.5以上、2.8以上、3以上がより好ましい。また、X/Dは、100以下が好ましく、80以下、50以下、40以下、35以下、32以下、30以下がより好ましい。
【0032】
(β-カリオフィレン)
飲料ベースのβ-カリオフィレンの含有量をYppbとし、希釈倍率をD倍とした場合、Y/Dは、0.1以上が好ましく、0.3以上、0.5以上、0.8以上、1以上、2以上、3以上、4以上、4.8以上、5以上がより好ましい。また、Y/Dは、300以下が好ましく、200以下、150以下、100以下、80以下、60以下、55以下、50以下、40以下、30以下、20以下、15以下、10以下がより好ましい。
【0033】
(アルコール度数)
飲料ベースのアルコール度数をAv/v%とし、希釈倍率をD倍とした場合、A/Dは、1以上であるのが好ましく、2以上、2.5以上、3以上、5以上であるのがより好ましい。また、A/Dは、25以下であるのが好ましく、20以下、15以下、13以下、12.5以下、10以下、9以下、7以下、6以下であるのがより好ましい。
なお、飲料ベースがアルコールを含有しない場合、A/Dは、例えば、1未満、0.7以下、0.5以下、0.3以下、0.1以下、0.0である。
【0034】
(エキス分)
飲料ベースのエキス分をEw/v%とし、希釈倍率をD倍とした場合、E/Dは、1以上が好ましく、3以上、5以上、7以上、8以上がより好ましい。また、E/Dは、18以下が好ましく、17以下、15以下、13以下、12以下、11以下、10以下がより好ましい。
【0035】
(割り材)
割り材とは、本実施形態に係る飲料ベースの希釈に用いるものである。
割り材としては、例えば、水、炭酸水、お湯、氷、果汁、果汁入り飲料、茶等を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、割り材を用いた希釈は、本実施形態に係る飲料ベースが1.2~20倍、好ましくは1.5~10倍、さらに好ましくは2~5倍、特に好ましくは3~4倍となるように実施すればよい。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る飲料ベース(希釈倍率:D倍用)は、希釈後の飲料(飲用時の飲料)について、ニッキのような風味が低減している。
また、本実施形態に係る飲料ベースは、希釈後の飲料について、舌に残るざらつきが低減しているとともに、スパイシーな複雑さ、味のやわらかさ、後味のキレ、後味の苦味が増強している。
【0037】
[容器詰め飲料、及び、容器詰め飲料ベース]
本実施形態に係る飲料、及び、飲料ベースは、各種容器に入れて提供することができる。各種容器に飲料又は飲料ベースを詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。そして、消費者からの視認性を良くするという観点から、透明な容器(特に、ガラス容器など)が好ましい。
また、各種容器に飲料ベースを詰める場合は、その容器に、前記した割り材等によって希釈して飲んでもよい旨の表示(例えば、希釈倍率等)を付してもよい。
【0038】
[飲料、及び、飲料ベースの製造方法]
次に、本実施形態に係る飲料、及び、飲料ベースの製造方法を説明する。
本実施形態に係る飲料、及び、飲料ベースの製造方法は、混合工程と、後処理工程と、を含む。
【0039】
混合工程では、混合タンクに、水、シンナムアルデヒド、β-カリオフィレン、アルコール、添加剤などを適宜投入して混合後液を製造する。
この混合工程において、シンナムアルデヒドの含有量、β-カリオフィレンの含有量、X/D、Y/Dなどが前記した所定範囲内となるように各原料を混合し、調整すればよい。
【0040】
そして、後処理工程では、例えば、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
なお、後処理工程のろ過処理は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。また、後処理工程の殺菌処理は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。また、後処理工程の充填処理は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにおいて充填するのが好ましい。そして、後処理工程での各処理の順序は特に限定されない。
【0041】
なお、混合工程及び後処理工程において行われる各処理は、RTD飲料、RTS飲料などを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る飲料の製造方法によると、ニッキのような風味、舌に残るざらつきが低減し、スパイシーな複雑さ、味のやわらかさ、後味のキレ、後味の苦味が増強した飲料を製造することができる。
また、本実施形態に係る飲料ベースの製造方法によると、希釈後の飲料について、ニッキのような風味、舌に残るざらつきが低減し、スパイシーな複雑さ、味のやわらかさ、後味のキレ、後味の苦味が増強した飲料ベースを製造することができる。
【0043】
[飲料の香味向上方法]
次に、本実施形態に係る飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係る飲料の香味向上方法は、シンナムアルデヒドを含有する飲料のニッキのような風味を低減させる飲料の香味向上方法であって、β-カリオフィレンを含有させる工程を含む方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「飲料」において説明した値と同じである。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る飲料の香味向上方法によると、飲料について、ニッキのような風味、舌に残るざらつきを低減させ、スパイシーな複雑さ、味のやわらかさ、後味のキレ、後味の苦味を増強させることができる。
【実施例0045】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0046】
[サンプルの準備]
表の各サンプルは、表に示す量となるように、シンナムアルデヒド、β-カリオフィレン、ウォッカ、果糖ぶどう糖液糖、グラニュー糖、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、リン酸、純水を適宜配合してサンプル(アルコール飲料)を準備した。
なお、表の各サンプルは、アルコール度数が5v/v%、エキス分が8w/v%であった。そして、表の各サンプルは、ウォッカ、果糖ぶどう糖液糖、グラニュー糖、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、リン酸の各含有量を、サンプル間で略同じ量とした。
また、表のサンプルの番号の末尾にfを付したサンプルのみ、純水だけでなく炭酸水を混合することによって20℃におけるガス圧(全圧)を約2.1kg/cm2としていたが、その他のサンプルは、20℃におけるガス圧(全圧)は0.0kg/cm2であった。
【0047】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル7名が下記評価基準に則って「ニッキのような風味」、「舌に残るざらつき」、「スパイシーな複雑さ」、「とげとげしくない味のやわらかさ」、「後味のキレ」、「後味の苦味」、「総合評価」について、1~5点の5段階評価で各々点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。
【0048】
そして、各評価(「総合評価」以外の評価)は、サンプル番号の後方番号が1であるサンプルを対照サンプルとし、当該対照サンプルの表に示す点数を基準点とした。そして、各評価は、サンプル番号の前方番号が同じ対照サンプルと比較して評価した。具体的には、対照サンプルは、サンプル1-1、2-1、3-1、4-1であり、例えば、サンプル3-3のニッキのような風味の評価は、サンプル番号の前方番号が同じであって後方番号が1であるサンプル3-1(対照サンプル)のニッキのような風味を5点(基準点)とした比較によって評価を行った。
【0049】
(ニッキのような風味:評価基準)
ニッキのような風味の評価は、対照サンプルを基準(5点)とし、「ニッキのような風味が弱い」場合を1点、「ニッキのような風味が強い」場合を5点と評価した。
そして、「ニッキのような風味」については、点数が低いほど低減されており、好ましいと判断できる。
【0050】
ここで、「ニッキのような風味」とは、文字通り、ニッキ(肉桂)様の風味であるが、飲料の香味をネガティブに感じさせるような香味(風味)である。
【0051】
(舌に残るざらつき:評価基準)
舌に残るざらつきの評価は、対照サンプルを基準(5点)とし、「舌に残るざらつきが弱い」場合を1点、「舌に残るざらつきが強い」場合を5点と評価した。
そして、「舌に残るざらつき」については、点数が低いほど低減されており、好ましいと判断できる。
【0052】
ここで、「舌に残るざらつき」とは、味覚として感じるもの(触覚ではない)であって、「舌に残るざらつき」が強いとは、舌に残るザラザラした香味を強く感じることを示している。
【0053】
(スパイシーな複雑さ:評価基準)
スパイシーな複雑さの評価は、対照サンプルを基準(1点)とし、「スパイシーな複雑さが弱い」場合を1点、「スパイシーな複雑さが強い」場合を5点と評価した。
そして、「スパイシーな複雑さ」については、点数が高いほど増強されており、好ましいと判断できる。
【0054】
ここで、「スパイシーな複雑さ」とは、単調なスパイシーさではなく、多数のスパイスを飲料が含有しているように感じさせるスパイシーさであり、「スパイシーな複雑さ」が強いとは、複雑なスパイシーさを強く感じることを示している。
【0055】
(とげとげしくない味のやわらかさ:評価基準)
とげとげしくない味のやわらかさの評価は、対照サンプルを基準(1点)とし、「味がとげとげしく、やわらかでない」場合を1点、「味がとげとげしくなく、やわらかである」場合を5点と評価した。
そして、「とげとげしくない味のやわらかさ」については、点数が高いほど味がやわらかに感じられ、好ましいと判断できる。
【0056】
ここで、「とげとげしくない味のやわらかさ」の評価は、味全体のやわらかさで評価を行った。
【0057】
(後味のキレ:評価基準)
後味のキレの評価は、対照サンプルを基準(1点)とし、「後味のキレがない」場合を1点、「後味のキレがある」場合を5点と評価した。
そして、「後味のキレ」については、点数が高いほど増強されており、好ましいと判断できる。
【0058】
ここで、「後味のキレ」とは、後味において香味が無くなる際の落差の程度であり、「後味のキレ」があるとは、前記の落差が大きいことを示している。
【0059】
(後味の苦味:評価基準)
後味の苦味の評価は、対照サンプルを基準(1点)とし、「後味の苦味が弱い」場合を1点、「後味の苦味が強い」場合を5点と評価した。
そして、「後味の苦味」については、点数が高いほど増強されており、好ましいと判断できる。
【0060】
ここで、「後味の苦味」とは、文字通り、後味において感じる苦味である。なお、本願では、後味の苦味によって飲料の香味に特徴を付与できることから、ポジティブな香味特性であると判断している。
【0061】
(総合評価:評価基準)
総合評価は、基準を設けず、「飲料としての全体のバランスが悪い」場合を1点、「飲料としての全体のバランスが良い」場合を5点と評価した。
そして、「総合評価」については、点数が高いほど好ましいと判断できる。
【0062】
ここで、「総合評価」とは、飲料としての香味全体のバランスであり、例えば、特定成分に基づく香味が強く感じられることで香味のバランスが崩れている場合は、悪いとの評価となる。
【0063】
表に、各サンプルの含有量等を示すとともに、各評価の結果を示す。なお、表に示す各成分の数値および指標は、最終製品における含有量および指標である。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
(結果の検討)
表1は、シンナムアルデヒドの含有量を1ppmに固定し、β-カリオフィレンの含有量を変化させた結果である。
サンプル1-1~1-5の結果から、β-カリオフィレンの含有量が増加するに従って、「ニッキのような風味」と「舌に残るざらつき」の点数が低下し、かつ、「スパイシーな複雑さ」と「とげとげしくない味のやわらかさ」と「後味のキレ」と「後味の苦味」と「総合評価」の点数が上昇することが確認できた。
そして、全ての評価結果を考慮すると、サンプル1-1~1-5の中でも、サンプル1-2~1-5(特に、サンプル1-3~1-5)が好ましい結果となった。
また、サンプル1-3とサンプル1-3fを比較すると、炭酸飲料であるサンプル1-3fの方が、全ての効果(ニッキのような風味の低減効果、舌に残るざらつきの低減効果、スパイシーな複雑さの増強効果、味のやわらかさの増強効果、後味のキレの増強効果、後味の苦味の増強効果)が若干強く発揮されることも確認できた。したがって、本発明の各効果は、発泡性飲料であろうと非発泡性飲料であろうと発揮されるとともに、特に発泡性飲料に適用した場合に若干強く発揮されることが確認できた。
【0069】
表2は、シンナムアルデヒドの含有量を3ppmに固定し、β-カリオフィレンの含有量を変化させた結果である。
表2の結果は、表1の結果とほぼ同様の傾向を示した。
そして、全ての評価結果を考慮すると、サンプル2-1~2-5の中でも、サンプル2-2~2-5(特に、サンプル2-3~2-5)が好ましい結果となった。
なお、発泡性の有無(サンプル2-3と2-3f)の比較の結果も、表1の結果と同じ傾向であった。
【0070】
表3は、シンナムアルデヒドの含有量を10ppmに固定し、β-カリオフィレンの含有量を変化させた結果である。
表3の結果は、表1、2の結果とほぼ同様の傾向を示した。
そして、全ての評価結果を考慮すると、サンプル3-1~3-5の中でも、サンプル3-2~3-5(特に、サンプル3-3~3-5)が好ましい結果となった。
なお、発泡性の有無(サンプル3-3と3-3f)の比較の結果も、表1、2の結果とほぼ同じ傾向であった。
【0071】
表4は、シンナムアルデヒドの含有量を30ppmに固定し、β-カリオフィレンの含有量を変化させた結果である。
表4の結果は、表1~3の結果とほぼ同様の傾向を示した。ただ、β-カリオフィレンの含有量が多過ぎると、若干、後味の苦味と総合評価の点数が低下してしまうことが確認できた。
そして、全ての評価結果を考慮すると、サンプル4-1~4-5の中でも、サンプル4-2~4-5(特に、サンプル4-3~4-4)が好ましい結果となった。
なお、発泡性の有無(サンプル4-3と4-3f)の比較の結果も、表1~3の結果とほぼ同じ傾向であった。
【0072】
表1~4の結果に基づくと、シンナムアルデヒドの含有量に関係なく(または、非常に広い含有量の範囲内において)、β-カリオフィレンを飲料に含有させることによって、所望の全ての効果(ニッキのような風味の低減効果、舌に残るざらつきの低減効果、スパイシーな複雑さの増強効果、味のやわらかさの増強効果、後味のキレの増強効果、後味の苦味の増強効果)が発揮されることが確認できた。