(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050121
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】船舶の推進装置
(51)【国際特許分類】
B63H 5/125 20060101AFI20240403BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B63H5/125
B63H20/00 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156768
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】河合 則和
(57)【要約】
【課題】装置の大型化を抑制しつつ、複数の接続通路を上部ケースと下部ケースの摺接部に配置することができる船舶の推進装置を提供する。
【解決手段】推進装置は、上部ケース、下部ケース、スクリュー、送給流路、戻し流路を備える。上部ケースは船体に支持される。下部ケースは上部ケースに回動可能に支持される。スクリューは下部ケースの外水に没する部位に配置される。送給流路は上部ケースと下部ケースの摺接部を経由して上部ケースから下部ケースに流体を送給する。戻し流路は摺接部を経由して下部ケースから上部ケースに流体を戻す。上部ケース側の摺接部と下部ケース側の摺接部の間には環状空間が設けられる。環状空間は複数の仕切壁によって第1弧状通路と第2弧状通路とに仕切られる。第1弧状通路と第2弧状通路のいずれか一方が送給流路に連通し、いずれか他方が戻し流路に連通する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に支持される上部ケースと、
前記上部ケースに回動可能に支持される下部ケースと、
前記下部ケースの外水に没する部位に配置されて推進力を発生するスクリューと、
前記上部ケースと前記下部ケースの相対回動する摺接部を経由して前記上部ケースから前記下部ケースに流体を送給する送給流路と、
前記摺接部を経由して前記下部ケースから前記上部ケースに流体を戻す戻し流路と、を備え、
前記上部ケース側の前記摺接部と前記下部ケース側の前記摺接部の間に環状空間が設けられるとともに、前記環状空間が複数の仕切壁によって第1弧状通路と第2弧状通路とに仕切られ、
前記第1弧状通路と前記第2弧状通路のいずれか一方が前記送給流路に連通し、
前記第1弧状通路と前記第2弧状通路のいずれか他方が前記戻し流路に連通していることを特徴とする船舶の推進装置。
【請求項2】
前記送給流路と前記戻し流路の対を複数備え、
前記摺接部は、前記上部ケースと前記下部ケースの相互に対向する筒状面に配置され、
前記送給流路と前記戻し流路の各対に対応する複数の前記環状空間は、前記筒状面に軸方向に並んで配置されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶の推進装置。
【請求項3】
前記送給流路と前記戻し流路の対は二組であり、
前記筒状面の前記上部ケース寄りに配置される前記環状空間には、前記上部ケース内を潤滑する潤滑油が流れ、
前記筒状面の前記下部ケース寄りに配置される前記環状空間には、前記上部ケースの内部、若しくは、外部に配置される発熱部を冷却する冷媒が流れることを特徴とする請求項2に記載の船舶の推進装置。
【請求項4】
前記環状空間は、前記下部ケースと前記上部ケースのいずれか一方に形成された環状溝と、いずれか他方に設けられた閉塞壁とに囲まれて構成され、
前記下部ケースと前記上部ケースのうちの前記環状溝の形成される一方のケースには、前記第1弧状通路と前記第2弧状通路の夫々に接続されるケース側通路が形成され、
前記閉塞壁には、前記第1弧状通路と前記第2弧状通路に夫々臨む連通口が形成され、
前記下部ケースと前記上部ケースのうちの前記閉塞壁を有する他方のケースには、前記連通口を通して前記第1弧状通路と前記第2弧状通路に夫々連通する別のケース側通路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶の推進装置。
【請求項5】
前記環状空間は、一対の仕切壁によって中心角が約180°の円弧状の二つの通路に仕切られ、一方の前記通路が前記第1弧状通路とされるとともに、他方の前記通路が前記第2弧状通路とされ、
各前記連通口は、前記上部ケースに対する前記下部ケースの回動角度が中立位置から一方向と他方向に夫々ほぼ90°の範囲内であるときに前記第1弧状通路と前記第2弧状通路のいずれか一方に常時連通することを特徴とする請求項4に記載の船舶の推進装置。
【請求項6】
前記第1弧状通路に臨む前記連通口と、前記第2弧状通路に臨む前記連通口とは、前記環状空間の周方向と交差する幅方向においてオフセットして配置され、
一対の前記仕切壁は、前記環状空間内の仕切領域が前記幅方向の一側と他側で周方向にオフセットする形状に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の船舶の推進装置。
【請求項7】
一対の前記仕切壁は、前記閉塞壁に臨む突出方向の端面から見た形状がクランク形状に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の船舶の推進装置。
【請求項8】
一対の前記仕切壁は、前記閉塞壁に臨む突出方向の端面から見た形状が前記幅方向の一側から他側に向かって周方向の一側に傾斜する傾斜形状に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の船舶の推進装置。
【請求項9】
前記下部ケースは、前記上部ケースに対して前記中立位置を中心として一方向と他方向に夫々90°以上に回動しないように設定されていることを特徴とする請求項5に記載の船舶の推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の推進装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の推進装置として船外機や船内外機、POD式推進装置等が知られている。この種の推進装置として、船体側に支持される上部ケースと、上部ケースに回動可能に支持される下部ケースと、を備え、下部ケースの後部にスクリューが取り付けられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の推進装置は、上部ケースが船舶に支持され、上部ケースに回動可能に支持される下部ケースの内部に、スクリューを回転駆動するため油圧モータが内蔵されている。スクリューが配置される下部ケースの下部領域は、海水や淡水等の外水中に没する。下部ケースは、上部ケース内に配置された操舵用モータの動力によって上部ケースに対する回動角度を操作される。推進装置は、これによってスクリューの向きを変え、船舶の進行方向を制御する。
【0004】
また、特許文献1に記載の推進装置は、スクリュー駆動用の油圧モータに対し、上部ケース側の油圧回路から作動液を送給し、油圧モータを作動させた作動液を再び上部ケース側の油圧回路に戻している。油圧モータに接続される送給流路と戻し流路は、夫々上部ケースと下部ケースの間に配置された二組の油圧回転継手を通して、上部ケース側通路と下部ケース側通路に接続されている。油圧回転継手は、上部ケースと下部ケースの環状の摺接部に設けられた環状空間を主要素して構成されている。即ち、油圧回転継手は、上部ケースと下部ケースの接触部に環状空間を設け、上部ケース側通路と下部ケース側通路を環状空間を通して接続することにより、下部ケースの回動位置に拘わらず上部ケース側通路と下部ケース側通路を常時接続状態に維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の推進装置は、上部ケースと下部ケースの間に送給流路と戻し流路を設けるために、上部ケースと下部ケースの接触部に環状空間(油圧回転継手)を二段に設ける必要がある。このため、上部ケース側通路と下部ケース側通路を接続するための接続通路が上部ケースと下部ケースの摺接部の広い面積を占有し、装置全体が大型化する原因となり易い。
特に、上部ケースと下部ケースに流体を流す流路が複数種類(複数系統)存在する場合には、摺接部に設ける環状空間(油圧回転継手)の数がさらに増大し、装置全体がさらに大型化し易い。
【0007】
そこで本発明は、装置の大型化を抑制しつつ、複数の接続通路を上部ケースと下部ケースの摺接部に配置することができる船舶の推進装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る船舶の推進装置は、船体に支持される上部ケース(例えば、実施形態のモータケース部12U)と、前記上部ケースに回動可能に支持される下部ケース(例えば、実施形態のギヤケース部12L)と、前記下部ケースの外水に没する部位に配置されて推進力を発生するスクリュー(例えば、実施形態のスクリュー10)と、前記上部ケースと前記下部ケースの相対回動する摺接部を経由して前記上部ケースから前記下部ケースに流体を送給する送給流路(例えば、実施形態の送給流路FP)と、前記摺接部を経由して前記下部ケースから前記上部ケースに流体を戻す戻し流路(例えば、実施形態の戻し流路RP)と、を備え、前記上部ケース側の前記摺接部と前記下部ケース側の前記摺接部の間に環状空間(例えば、実施形態の環状空間49)が設けられるとともに、前記環状空間が複数の仕切壁(例えば、実施形態の仕切壁50)によって第1弧状通路(例えば、実施形態の第1弧状通路51)と第2弧状通路(例えば、実施形態の第2弧状通路52)とに仕切られ、前記第1弧状通路と前記第2弧状通路のいずれか一方が前記送給流路に連通し、前記第1弧状通路と前記第2弧状通路のいずれか他方が前記戻し流路に連通していることを特徴とする。
【0009】
上記の構成により、送給流路の流体は、環状空間内の第1弧状通路と第2弧状通路の一方を経由して上部ケース側から下部ケース側に流れる。また、戻し流路の流体は、第1弧状通路と第2弧状通路の他方を経由して下部ケース側から上部ケース側に流れる。
【0010】
船舶の推進装置は、前記送給流路と前記戻し流路の対を複数備え、前記摺接部は、前記上部ケースと前記下部ケースの相互に対向する筒状面(例えば、実施形態の嵌合孔23の内周面、及び、接続筒22の外周面)に配置され、前記送給流路と前記戻し流路の各対に対応する複数の前記環状空間は、前記筒状面に軸方向に並んで配置されるようにしても良い。
【0011】
この場合、送給流路と戻し流路の対が複数あっても、各対に対応する環状空間が筒状面に軸方向に並んで配置されることになるため、複数の接続通路(第1弧状通路、及び、第2弧状通路)を上部ケースと下部ケースの摺接部にコンパクトに配置することができる。
【0012】
前記送給流路と前記戻し流路の対は二組であり、前記筒状面の前記上部ケース寄りに配置される前記環状空間には、前記上部ケース内を潤滑する潤滑油が流れ、前記筒状面の前記下部ケース寄りに配置される前記環状空間には、前記上部ケースの内部、若しくは、外部に配置される発熱部を冷却する冷媒が流れるようにしても良い。
【0013】
この場合、潤滑油が流れる環状空間(第1弧状通路、及び、第2弧状通路)が上部ケース寄りに配置されているため、万が一環状空間を流れる潤滑油が上部ケース側に漏れることがあっても、上部ケース内への流体の漏出による悪影響は生じない。
【0014】
前記環状空間は、前記下部ケースと前記上部ケースのいずれか一方に形成された環状溝(例えば、実施形態の環状溝28)と、いずれか他方に設けられた閉塞壁(例えば、実施形態の嵌合孔23の内周面)とに囲まれて構成され、前記下部ケースと前記上部ケースのうちの前記環状溝の形成される一方のケースには、前記第1弧状通路と前記第2弧状通路の夫々に接続されるケース側通路(例えば、実施形態の第1軸通路29、第2軸通路32)が形成され、前記閉塞壁には、前記第1弧状通路と前記第2弧状通路に夫々臨む連通口(例えば、実施形態の第1連通口27、第2連通口36)が形成され、前記下部ケースと前記上部ケースのうちの前記閉塞壁を有する他方のケースには、前記連通口を通して前記第1弧状通路と前記第2弧状通路に夫々連通する別のケース側通路(例えば、実施形態の第1底壁通路25c、第2底壁通路35a)が形成されるようにしても良い。
【0015】
この場合、閉塞壁に形成された各連通口が第1弧状通路と第2弧状通路に連通することにより、上部ケース側から下部ケース側に流体を送給し、下部ケース側から上部ケース側に流体を戻すことが可能になる。本構成では、製造の容易な簡単な構成により、第1弧状通路と第2弧状通路を用いた摺接部での通路接続を実現することができる。
【0016】
前記環状空間は、一対の仕切壁によって中心角が約180°の円弧状の二つの通路に仕切られ、一方の前記通路が前記第1弧状通路とされるとともに、他方の前記通路が前記第2弧状通路とされ、各前記連通口は、前記上部ケースに対する前記下部ケースの回動角度が中立位置から一方向と他方向に夫々ほぼ90°の範囲内であるときに前記第1弧状通路と前記第2弧状通路のいずれか一方に常時連通するようにしても良い。
【0017】
この場合、下部ケースが、中立位置から一方向と他方向にほぼ90°回動する範囲で、第1弧状通路と第2弧状通路を用いて上部ケースのケース側通路と下部ケースのケース側通路を接続状態に維持することができる。このため、下部ケースを中立位置から適宜方向にほぼ90°までの範囲で回動させることにより、船舶の進行方向を自由に変更することができる。
なお、船舶を後方側に向けて進行させる場合には、スクリューを逆方向に駆動して下部ケースの回動角度を変更することにより、後方側の進行方向も自由に変更することができる。
【0018】
前記第1弧状通路に臨む前記連通口と、前記第2弧状通路に臨む前記連通口とは、前記環状空間の周方向と交差する幅方向においてオフセットして配置され、一対の前記仕切壁は、前記環状空間内の仕切領域が前記幅方向の一側と他側で周方向にオフセットする形状に形成されるようにしても良い。
【0019】
この場合、下部ケースが、中立位置から一方向と他方向のいずれかに90°回動したときに、一方の仕切壁の一部は、環状空間の幅方向の一側寄りに配置された連通口を乗り越えないようにすることできる。また、このとき他方の仕切壁の一部は、環状空間の幅方向の他側寄りに配置された連通口を乗り越えないようにすることができる。この結果、一方の連通口は第1弧状通路と連通した状態に維持され、他方の連通口は第2弧状通路と連通した状態に維持される。
したがって、本構成を採用した場合には、下部ケースが、中立位置から一方向と他方向のいずれかに90°回動するときにも、第1弧状通路と第2弧状通路を通した流体の流通を許容することができる。よって、本構成を採用した場合には、下部ケースを中立位置から90°回動させて船舶を横向きに進行させることも可能になる。
【0020】
一対の前記仕切壁は、前記閉塞壁に臨む突出方向の端面から見た形状がクランク形状に形成されるようにしても良い。
【0021】
この場合、下部ケースが中立位置から一方向と他方向のいずれかに90°回動したときに、一方の仕切壁の端面のクランク形状の一部が一方の連通口を乗り越えず、その連通口が第1弧状通路と連通した状態に維持される。また、このとき、他方の仕切壁の端面のクランク形状の他の一部が他方の連通口を乗り越えず、その連通口が第2弧状通路と連通した状態に維持される。
【0022】
一対の前記仕切壁は、前記閉塞壁に臨む突出方向の端面から見た形状が前記幅方向の一側から他側に向かって周方向の一側に傾斜する傾斜形状に形成されるようにしても良い。
【0023】
この場合、下部ケースが中立位置から一方向と他方向のいずれかに90°回動したときに、一方の仕切壁の端面の傾斜形状の一部が一方の連通口を乗り越えず、その連通口が第1弧状通路と連通した状態に維持される。また、このとき、他方の仕切壁の端面の傾斜形状の他の一部が他方の連通口を乗り越えず、その連通口が第2弧状通路と連通した状態に維持される。
【0024】
前記下部ケースは、前記上部ケースに対して前記中立位置を中心として一方向と他方向に夫々90°以上に回動しないように設定されるようにしても良い。
【0025】
この場合、下部ケースが中立位置から90°以上に回動しないため、第1弧状通路に連通していた連通口と第2弧状通路に連通していた連通口が、夫々逆の弧状通路に連通する不都合を無くことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様に係る船舶の推進装置は、摺接部に配置された一つの環状空間が仕切壁によって仕切られて第1弧状通路と第2弧状通路が構成され、送給流路の流体と戻し流路の流体が第1弧状通路と第2弧状通路の各一方を流れる。このため、上部ケース側の通路と下部ケース側の通路を接続するための複数の通路が上部ケースと下部ケースの摺接部を大きく占有しなくなる。したがって、本発明の一態様に係る船舶の推進装置を採用した場合には、装置の大型化を抑制しつつ、複数の接続通路を上部ケースと下部ケースの摺接部に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、第1実施形態の電動船外機(推進装置)の部分断面側面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の電動船外機(推進装置)の
図2と別位置の縦断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の電動船外機(推進装置)の
図2,
図3と別位置の縦断面図である。
【
図6】
図6は、
図5のVI-VI断面に対応する断面図である。
【
図7】
図7は、ギヤケース部(下部ケース)の回動時の作動状態を示す
図6と同様の断面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の電動船外機(推進装置)の分解側面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の電動船外機(推進装置)の
図5と同様の断面図である。
【
図11】
図11は、
図9のXI矢視に対応するギヤケース部側の部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、図面の適所には、推進装置の推進方向の前側を指す矢印FRが記されている。また、以下で説明する各実施形態では、共通部分に同一符号を付し、重複する説明を一部省略するものとする。
【0029】
<第1実施形態>
本実施形態の船舶の推進装置は、電動モータ11によって駆動される電動船外機1である。
図1は、本実施形態の電動船外機1の一部を縦断面にした側面図であり、
図2は、
図1の縦断面部分を拡大して示した図である。
電動船外機1は、図示しない船体の後部の船尾板(トランサムボード)に取付可能とされている。電動船外機1は、海や河川、湖沼等の水(以下、「外水w」と称する。)に没して推進力を発生するスクリュー10と、スクリュー10を回転駆動する電動モータ11(駆動源)と、電動モータ11を含む駆動関連部品を内部に収容する船外機ケース12と、を備えている。船外機ケース12は図示しない骨格部材に支持されている。骨格部材は、図示しないチルト軸を中心として船体の後部に上下方向に回動可能に支持されている。
【0030】
なお、電動船外機1に関しては、スクリュー10が外水wに没する姿勢のときに鉛直上方を向く側を「上」と称し、鉛直下方を向く側を「下」と称する。また、特に、断りのない場合には、電動船外機1がスクリュー10の推進力を受けて進む方向を「前」と称し、電動船外機1が進む方向と逆側を「後」と称する。
【0031】
船外機ケース12は、電動モータ11を収容するモータケース部12Uと、動力伝達機構13を収容するギヤケース部12Lと、を備えている。動力伝達機構13は、複数の歯車を備えた減速機構であり、電動モータ11の出力軸11aの回転を所定の減速比に減速してスクリュー10に伝達する。モータケース部12Uは、船体の後部に取り付けられ、ギヤケース部12Lは、モータケース部12Uの下方に回動可能に連結(支持)されている。ギヤケース部12Lは、電動モータ11の出力軸11aと同軸の回転中心軸線c1回りに回動可能とされている。
なお、本実施形態では、モータケース部12Uが推進装置における上部ケースを構成し、ギヤケース部12Lが推進装置における下部ケースを構成している。
【0032】
また、ギヤケース部12Lは、モータケース部12U内に配置された図示しない回動用のモータによって所定の角度範囲で回動操作される。ギヤケース部12Lに支持されたスクリュー10は、回転中心軸線c1回りにギヤケース部12Lとともに旋回する。電動船外機1は、このモータによるスクリュー10の向きの変更により、推進方向を変えることができる。
【0033】
スクリュー10は、ギヤケース部12Lの後壁を前後に貫通するスクリュー軸10aに一体回転可能に支持されている。スクリュー軸10aは、ギヤケース部12Lの内部において、動力伝達機構13に連結されている。スクリュー10は、ギヤケース部12Lの下端後方に配置されている。スクリュー10は、電動モータ11の回転動力を受け、外水w中で回転することで推進力を発生する。
船外機ケース12の下部領域を構成するギヤケース部12Lの一部は、船舶の航行時に、スクリュー10とともに外水w中に没する。
【0034】
モータケース部12Uの後部側の外面には、電動モータ11の駆動回路を含む制御部40が配置されている。制御部40は、電動モータ11の駆動回路等の発熱部が外ケースの内側に配置されている。制御部40の内側の発熱部は、後述する循環流路70(
図8参照)を流れる冷媒によって冷却される。
なお、電動モータ11等の電力源である図示しないバッテリは、モータケース部12U、若しくは、船体の内部に配置されている。
【0035】
また、モータケース部12Uの内部には、冷却液2を貯留する冷却液貯留部15と、冷却液貯留部15内の冷却液2を吸い上げて冷却液2の循環流路24に流すためのポンプ装置31が配置されている。冷却液貯留部15内に貯留される冷却液2は、潤滑成分を含むもの(潤滑油)が用いられている。冷却液2(潤滑油)は、モータケース部12U内の機械部品に供給されることにより、当該機械部品を潤滑することができる。ポンプ装置31は、例えば、電動モータ11の出力軸11aによって駆動される。ポンプ装置31は、冷却液貯留部15から吸い上げた冷却液2を循環流路24に送り出すことができるものであれば、トロコイド式や遠心式、ギヤ式等の種々の型式のものを採用することができる。
【0036】
循環流路24は、ポンプ装置31によって冷却液貯留部15から吸い上げた冷却液2をギヤケース部12L側に送り、ギヤケース部12L側で外水wとの熱交換によって冷却液2を冷却する。そして、循環流路24は、ギヤケース部12L側で冷却された冷却液2を再度モータケース部12U側に戻し、電動モータ11の発熱部11bに吐出する。これにより、発熱部11bは、冷却液2によって冷却される。このとき、発熱部11bに吐出された冷却液2は下方に滴下して冷却液貯留部15に貯留される。冷却液貯留部15に貯留された冷却液2はポンプ装置31によって再度循環流路24に送り出される。
なお、電動モータ11の発熱部11bは、例えば、コイルやステータの外側を覆うモータケースである。ただし、電動モータ11の構造によっては、発熱部11bは、ロータやコイル自体であっても良い。
【0037】
ギヤケース部12Lは、動力伝達機構13を内部に収容する中空状のケース本体12Laと、ケース本体12Laから後方側に向かって延びる後方延出部12Lbと、ケース本体12Laの外周部と後方延出部12Lbの下面に連設されるアンチキャビテーションプレート45と、を備えている。アンチキャビテーションプレート45は、ケース本体12Laや後方延出部12Lbよりも幅の広い略水平な板状に形成されている。アンチキャビテーションプレート45は、ケース本体12Laの外側部から後方延出部12Lbの後端部とほぼ同位置までほぼ同幅に延在している。
【0038】
アンチキャビテーションプレート45は、スクリュー10の上方側を覆うように配置されている。スクリュー10は、ケース本体12Laの下部側の後壁から後方側に突出して配置されている。アンチキャビテーションプレート45は、船舶の航行時に、少なくとも下面側が外水w中に没する。アンチキャビテーションプレート45は、スクリュー10が外水w中で回転するときに、スクリュー10によるエアの巻き込み(キャビテーションの発生)を防止する。
【0039】
アンチキャビテーションプレート45の内部のほぼ全域には、蛇行した図示しない微細な流路が形成されている。アンチキャビテーションプレート45の内部の一部の領域(例えば、右半分の領域)には、モータケース部12Uから送給された循環流路24内の冷却液2が流れる。アンチキャビテーションプレート45の内部の冷却液用の流路は、内部を冷却液2が流れるときに、その冷却液2が外表面に接する外水との間で熱交換を行う。流路を流れる冷却液2は、外水との間で熱交換を行うことによって冷却される。
また、アンチキャビテーションプレート45の内部の残余の領域(例えば、左半分の領域)には、モータケース部12Uから送給された循環流路70(
図8参照)内の冷媒が流れる。アンチキャビテーションプレート45内の冷媒用の流路は、内部を冷媒が流れるときに、その冷媒が外表面に接する外水との間で熱交換を行う。流路を流れる冷媒は、外水との間で熱交換を行うことによって冷却される。
【0040】
図2に示すように、モータケース部12Uの内部には、回転中心軸線c1と同軸に略筒状の動力伝達軸16が配置されている。動力伝達軸16は、軸受17を介してモータケース部12Uに回転可能に支持されている。動力伝達軸16は、図示しない回動用のモータの回転をギヤケース部12Lに伝達するための部材であり、上端側の外周面には、モータ側の駆動ギヤ18と噛み合う外歯19が設けられている。
【0041】
動力伝達軸16は、段付きの円筒状に形成されている。即ち、動力伝達軸16の上部領域は大径の筒状に形成され、下部領域は上部領域よりも小径の筒状に形成されている。動力伝達軸16は、上部側の大径の筒状部16aが軸受17を介してモータケース部12Uに支持されている。動力伝達軸16の下部側の小径の筒状部16bは、ギヤケース部12Lに同軸に連結されている。また、小径の筒状部16bの上部側の内周面は、軸受20を介して出力軸11aを回転可能に支持している。さらに、小径の筒状部16bの下部側の内周面と出力軸11aの間には、上下の空間(モータケース部12U内の空間とギヤケース部12L内の空間)を液密に密閉するためのシール部材21が設けられている。
【0042】
ギヤケース部12Lのケース本体12Laの上部には、略円筒状の接続筒22が一体に連結されている。モータケース部12Uの底壁の中央には、ギヤケース部12L側の接続筒22が回動可能に嵌合される嵌合孔23が形成されている。嵌合孔23の内周面と接続筒22の外周面は、上部ケース(モータケース部12U)と下部ケース(ギヤケース部12L)の相対回動する摺接部を構成している。なお、ギヤケース部12Lは、適宜の規制手段によりモータケース部12Uに対して軸方向に抜け規制されている。
また、嵌合孔23の内周面と接続筒22の外周面は、上部ケース(モータケース部12U)と下部ケース(ギヤケース部12L)の相互に対向する筒状面を構成している。相対回動する上記の摺接部は各筒状面に設けられている。
【0043】
接続筒22の内周面には、動力伝達軸16の下部側の筒状部16bがスプライン嵌合によって連結されている。これにより、ギヤケース部12Lのケース本体12Laは、接続筒22を介して、動力伝達軸16と一体に回動する。したがって、モータケース部12Uに支持されたギヤケース部12Lは、回動用のモータの駆動力により、回転中心軸線c1回りに回動することができる。
【0044】
次に、電動モータ11の発熱部11bと、熱交換部であるアンチキャビテーションプレート45の間で冷却液2を循環させる循環流路24について説明する。
図3は、電動船外機1を、回転中心軸線c1回りの
図2と別の位置で断面にした縦断面図である。
図4は、電動船外機1を、回転中心軸線c1回りの
図2,
図3と別の位置で断面にした縦断面図である。また、
図5は、
図2のV部の拡大図であり、
図6,
図7は、
図5のVI-VI断面に対応する断面図である。
【0045】
図3に示すように、ポンプ装置31の吸入部には、冷却液貯留部15の底部に向かって延びる吸入通路25aが接続されている。吸入通路25aの端部にはストレーナ26が接続されている。また、
図2に示すように、ポンプ装置31の吐出部には、モータケース部12Uの底壁の第1底壁通路25cに連通する吐出通路25bが接続されている。第1底壁通路25cは、
図5にも示すように、モータケース部12Uの底壁に沿って径方向内側に延び、径方向の内側の端部が嵌合孔23の内周面(周状面、摺接部)に開口している。嵌合孔23の内周面に開口する第1底壁通路25cの端部は、第1底壁通路25cを後述する第1弧状通路51に連通させる第1連通口27(連通口)を構成している。
【0046】
ギヤケース部12L側の接続筒22の外周面のうちの、第1連通口27に対向する高さ位置には、
図6に示すように、一対の仕切壁50によって二つの円弧状の溝に仕切られた環状溝28が設けられている。環状溝28は、接続筒22がモータケース部12U側の嵌合孔23に嵌合されることにより、一対の仕切壁50によって仕切られた環状空間49を構成している。環状空間49は、一対の仕切壁50によって仕切られることにより、円弧状の第1弧状通路51と第2弧状通路52とに分離されている。一対の仕切壁50は、環状溝28内の円周方向に180°離間した二位置に突設されている。第1弧状通路51と第2弧状通路52の周長は同一長さとされている。
なお、本実施形態では、嵌合孔23の内周面が、環状溝28とともに環状空間49を構成する閉塞壁を構成している。
【0047】
ギヤケース部12Lの接続筒22とケース本体12Laの周壁には、アンチキャビテーションプレート45内の上流側の流路に接続される第1軸通路29が形成されている。第1軸通路29の上部は、接続孔30によって第1弧状通路51に連通している。接続孔30は、
図6に示すように、第1弧状通路51の周方向の略中央位置に連通している。
【0048】
また、
図4に示すように、ギヤケース部12Lの接続筒22とケース本体12Laの周壁には、アンチキャビテーションプレート45内の下流側の流路に接続される第2軸通路32が形成されている。第2軸通路32は、接続筒22とケース本体12Laの周壁のうちの、第1軸通路29と離間した位置(例えば、回転中心軸線c1回りに180°離間した位置)に形成されている。第2軸通路32の上部は、接続孔33によって第2弧状通路52に連通している。接続孔33は、
図6に示すように、第2弧状通路52の周方向の略中央位置に連通している。
【0049】
また、モータケース部12Uの底壁には、当該底壁に沿って径方向に延びる第2底壁通路35aが形成されている。第2底壁通路35aの径方向内側の端部は、嵌合孔23の内周面(周状面、摺接部)に開口している。嵌合孔23の内周面に開口する第2底壁通路35aの端部は、第2底壁通路35aを第2弧状通路52に連通させる第2連通口36(連通口)を構成している。第2連通口36は、接続筒22の外周面の環状溝28と同一高さ位置に開口している。
【0050】
第2底壁通路35aには、
図4に示すように、冷却液2を電動モータ11の発熱部11bの近傍に導入する導入通路35bが接続されている。アンチキャビテーションプレート45によつて熱交換(冷却)された後に導入通路35bに導入された冷却液2は、電動モータ11の周域から発熱部11bに向かって噴射される。これにより、発熱部11bは、充分に冷却された冷却液2によって冷却されることになる。
【0051】
ところで、上述した冷却液2の循環流路24は、モータケース部12Uからギヤケース部12Lに冷却液2(流体)を送給する送給流路FPと、ギヤケース部12Lからモータケース部12Uに冷却液(流体)を戻す戻し流路RPと、を備えている。
送給流路FPは、吐出通路25b、第1底壁通路25c、第1軸通路29等によって構成され、戻し流路RPは、第2軸通路32、第2底壁通路35a、導入通路35b等によって構成されている。送給流路FP内の冷却液2は、モータケース部12Uとギヤケース部12Lの相対回動する摺接部を経由して、モータケース部12U側からギヤケース部12L側(アンチキャビテーションプレート45側)に流れる。戻し流路RP内の冷却液は、モータケース部12Uとギヤケース部12Lの同じ摺接部を経由して、ギヤケース部12L側(アンチキャビテーションプレート45側)からモータケース部12U側に戻される。
【0052】
モータケース部12Uとギヤケース部12Lの摺接部には、上述のように軸方向の同一高さ位置に第1弧状通路51と第2弧状通路52とが配置されている。そして、第1弧状通路51は、送給流路FPのうちの、モータケース部12U側のケース側通路(第1底壁通路25c)とギヤケース部12L側のケース側通路(第1軸通路29)を接続している。また、第2弧状通路52は、戻し流路RPのうちの、ギヤケース部12L側のケース側通路(第2軸通路32)とモータケース部12U側のケース側通路(第2底壁通路35a)を接続している。
【0053】
図6は、モータケース部12Uに対するギヤケース部12Lの回動位置が中立位置(スクリュー10が船体の後方を向く回動位置)であるときの、送給流路FPと戻し流路RPの接続状態を示している。
この状態では、第1弧状通路51が通路の円弧形状の中央位置で第1連通口27に連通し、第2弧状通路52が通路の円弧形状の中央位置で第2連通口36に連通している。
【0054】
図7(A)は、ギヤケース部12Lが
図6に示す中立位置から一方向に回動したときの、送給流路FPと戻し流路RPの接続状態を示し、
図7(B)は、ギヤケース部12Lが
図6に示す中立位置から他方向に回動したときの、送給流路FPと戻し流路RPの接続状態を示している。
図7(A)の状態では、
図6に示す中立位置から、第1弧状通路51と第2弧状通路52が図中反時計回りに所定角度変位している。このとき、第1弧状通路51は、通路の円弧形状の中央位置から一端側に偏った位置で第1連通口27に連通し、第2弧状通路52は、同様に、通路の円弧形状の中央位置から一端側に偏った位置で第2連通口36に連通している。
図7(B)の状態では、
図6に示す中立位置から、第1弧状通路51と第2弧状通路52が図中時計回りに所定角度変位している。このとき、第1弧状通路51は、通路の円弧形状の中央位置から他端側に偏った位置で第1連通口27に連通し、第2弧状通路52は、同様に、通路の円弧形状の中央位置から他端側に偏った位置で第2連通口36に連通している。
【0055】
したがって、電動船外機1は、ギヤケース部12Lがモータケース部12Uに対していずれの方向に回動した場合にも、送給流路FPと戻し流路RPの各上下のケース側通路を接続状態に維持することができる。
【0056】
ここで、本実施形態の電動船外機1では、ギヤケース部12L(下部ケース)がモータケース部12U(上部ケース)に対して中立位置を中心として一方向と他方向に夫々90°を超えて回動した場合、第1弧状通路51が第2連通口36に連通し、第2弧状通路52が第1連通口27に連通するようになる。このとき、冷却液2は、送給流路FP側では、第1連通口27から第2弧状通路52を経由して第2軸通路32に流れ、戻し流路RPでは、第1軸通路29から第1弧状通路51を経由して第2連通口36に流れる。つまり、ギヤケース部12L(下部ケース)側のアンチキャビテーションプレート45においては、冷却液2が流入側と流出側が逆になって流れる。このとき、アンチキャビテーションプレート45では冷却液2の流れる向きが逆になるものの、冷却液2と外水wとの間で通常通りに熱交換を行うことができる。
【0057】
図8は、制御部40の内部の機器を冷却する冷媒の循環流路70を示す電動船外機1の分解側面図である。
図8に示すように、循環流路70は、冷媒を貯留するリザーブタンク75と、リザーブタンク75内の冷媒を制御部40内の機器に供給するためのポンプ装置76と、を備えている。ポンプ装置76の吸入部は、モータケース部12Uに設けられた戻し口41に接続され、ポンプ装置76の吐出部は、制御部40に設けられた流入口40aに接続されている。
【0058】
制御部40の流出口40bは、モータケース部12Uからギヤケース部12Lに冷媒(流体)を流すための送給流路FPに接続されている。送給流路FPを通ってギヤケース部12Lに流入した冷媒は、アンチキャビテーションプレート45内の冷媒用の流路に流入する。また、モータケース部12Uの戻し口41は、ギヤケース部12Lからモータケース部12Uに冷媒を戻すための戻し流路RPに接続されている。戻し流路RPは、アンチキャビテーションプレート45内の冷媒用の流路の排出側に接続されている。アンチキャビテーションプレート45で外水wと熱交換された冷媒は、戻し流路RPを通ってリザーブタンク75に戻される。
【0059】
図2~
図5に示すように、モータケース部12U側の摺接部である嵌合孔23と、ギヤケース部12L側の摺接部である接続筒22の外周面の間には、上述した冷却液用の循環流路24と同様の第1弧状通路51Aと第2弧状通路52Aを備えた接続構造が配置されている。即ち、第1弧状通路51Aと第2弧状通路52Aは、接続筒22の周域の環状空間49Aが図示しない一対の仕切壁によって仕切られることによって形成されている。第1弧状通路51Aと第2弧状通路52Aを形成する環状空間49は、接続筒22の周域の冷却液用の循環流路24の環状空間49Aの下方側に並んで配置されている。冷却液用と冷媒用の二つの環状空間49,49Aは、接続筒22の外周面(筒状面)に軸方向に並んで配置されている。
【0060】
また、嵌合孔23と接続筒22の間の摺接部には、各環状空間49,49Aからの冷却液2や冷媒の漏出を防止するための環状のシール部材s1,s2,s3が配置されている。シール部材s1は、上部側の環状空間49の上方側の外側縁部に配置され、シール部材s3は、下部側の環状空間49Aの下方側の外側縁部に配置されている。シール部材s2は、上下の環状空間49,49Aの中間位置に配置されている。
【0061】
以上のように、本実施形態の電動船外機1(船舶の推進装置)は、モータケース部12U側の摺接部とギヤケース部12L側の摺接部の間に環状空間49(49A)が設けられ、環状空間49(49A)が複数の仕切壁50によって第1弧状通路51(51A)と第2弧状通路52と(52A)に仕切られている。そして、第1弧状通路51(51A)が送給流路FPに連通し、第2弧状通路52(52A)が戻し流路RPに連通している。このため、モータケース部12U側の摺接部とギヤケース部12L側の摺接部の間に配置される一つの環状空間が第1弧状通路51(51A)と第2弧状通路52と(52A)に仕切られて使用されることになる。したがって、モータケース部12U側(上部ケース側)の通路とギヤケース部12L側(下部ケース側)の通路を接続するための複数の通路が両ケース部の摺接部を大きく占有しなくなる。
よって、本実施形態の電動船外機1を採用した場合には、装置の大型化を抑制しつつ、複数の接続通路をモータケース部12U(上部ケース)とギヤケース部12L(下部ケース)の摺接部に配置することができる。
【0062】
また、本実施形態の電動船外機1は、複数の循環流路24,70を備え、複数の循環流路24,70に対応する環状空間49,49Aが、モータケース部12U側の嵌合孔23の内周面(筒状面)と、ギヤケース部12L側の接続筒22の外周面(筒状面)の間に軸方向に並んで配置されている。このため、モータケース部12Uとギヤケース部12Lを跨ぐ送給流路FPと戻し流路RPの対が複数あっても、ギヤケース部12Lの回動を許容する複数の接続通路をモータケース部12Uとギヤケース部12Lの摺接部にコンパクトに配置することができる。
なお、本実施形態では、モータケース部12Uとギヤケース部12Lを跨ぐ送給流路FPと戻し流路RPの対が二対設けられているが、送給流路FPと戻し流路RPの対は三対以上あっても良い。この場合も、各対に対応する環状空間を嵌合孔23の内周面(筒状面)と接続筒22の外周面(筒状面)の間に軸方向に並んで配置することにより、複数の接続通路を摺接部にコンパクトに配置することができる。
【0063】
また、本実施形態の電動船外機1は、送給流路FPと戻し流路RPの対が二組設けられ、接続筒22の外周面(筒状面)の上部寄りに配置される環状空間49(第1弧状通路51、及び、第2弧状通路52)には潤滑成分を含む冷却液(潤滑油)が流れる。また、接続筒22の外周面(筒状面)の下部寄りに配置される環状空間49A(第1弧状通路51A、及び、第2弧状通路52A)には潤滑成分を含まない冷媒が流れる。このため、万が一、潤滑成分を含む冷却液2(潤滑油)が環状空間49(第1弧状通路51、及び、第2弧状通路52)からモータケース部12U側に漏れることがあっても、モータケース部12U内への冷却液の漏出による悪影響は生じない。つまり、モータケース部12U内の底部側は冷却液貯留部15であるため、環状空間49(第1弧状通路51、及び、第2弧状通路52)内の冷却液2がモータケース部12U内に漏出しても、成分の異なる流体が混入するような不具合は生じない。
【0064】
また、本実施形態の電動船外機1では、環状空間49,49Aは、接続筒22に形成された環状溝28と、モータケース部12U側の嵌合孔23の内周面(閉塞壁)と、に囲まれて構成されている。そして、接続筒22のあるギヤケース部12L側には、第1弧状通路51,51Aと第2弧状通路52,52Aに接続される第1軸通路29や第2軸通路32(ケース側通路)が形成され、嵌合孔23の内周面(閉塞壁)には、第1弧状通路51,51Aと第2弧状通路52,52Aに臨む第1連通口27,27Aと第2連通口36,36Aが形成されている。本実施形態の電動船外機1は、嵌合孔23の内周面(閉塞壁)に形成された第1連通口27,27Aと第2連通口36,36Aが第1弧状通路51,51Aと第2弧状通路52,52Aに連通することにより、モータケース部12U側からギヤケース部12L側に冷却液や冷媒を送給し、ギヤケース部12L側からモータケース部12U側に冷却液や冷媒を戻すことができる。
本構成を採用した場合には、製造の容易な簡単な構成により、第1弧状通路51,51Aと第2弧状通路52,52Aを用いた摺接部での通路接続を実現することができる。
【0065】
さらに、本実施形態の電動船外機1は、環状空間49,49Aが一対の仕切壁50によって中心角が約180°の第1弧状通路51,51Aと第2弧状通路52,52Aに仕切られている。そして、第1連通口27,27Aと第2連通口36,36Aは、ギヤケース部12Lの回動角度が中立位置から一方向と他方向に90°回動した位置以外では、第1弧状通路51,51Aと第2弧状通路52,52Aのいずれかに連通する。このため、船舶の進行方向を自由に変更することができる。
【0066】
本実施形態の電動船外機1では、モータケース部12U(上部ケース)に対するギヤケース部12L(下部ケース)の回動範囲は特に制限されていないが、ギヤケース部12L(下部ケース)は、モータケース部12U(上部ケース)に対して中立位置を中心として一方向と他方向に夫々90°以上に回動しないように設定することも可能である。つまり、ギヤケース部12Lの中立位置からの回動範囲は、一方向と他方向に関して90°に達しないほぼ90°の回動範囲に設定するようにしても良い。
【0067】
この場合、第1弧状通路51,51Aに連通していた連通口(第1連通口27,27A)と第2弧状通路52,52Aに連通していた連通口(第2連通口36,36A)が、夫々逆の弧状通路に連通して、アンチキャビテーションプレート45内を流れる冷却液2の向きが急激に変わるのを防ぐことができる。
なお、船舶を後方側に向けて進行させる場合には、スクリュー10を逆方向に駆動してギヤケース部12Lの回動角度を変更することにより、船舶の後方側への進行方向も自由に変更することができる。
【0068】
<第2実施形態>
図9は、本実施形態の電動船外機101(推進装置)の第1実施形態の
図5と同様の断面図である。
図10は、
図9のX矢視に対応する接続筒122の側面図であり、
図11は、
図9のXI矢視に対応する接続筒122の側面図である。
本実施形態の電動船外機101は、全体の基本構成は上述した第1実施形態と同様とされている。第1実施形態の電動船外機1では、中立位置を中心としたギヤケース部12Lの回動角度が90°の回動位置では、モータケース部12Uとギヤケース部12Lの間の冷却液2の流通が停止する。このため、第1実施形態の電動船外機1では、90°の角度位置での使用が制限されていた。これに対し、本実施形態の電動船外機101は、中立位置を中心としたギヤケース部12Lの最大回動角度を90°以上にできる構造を採用している。具体的には、上下の環状空間49,49Aの内部の構造と、各環状空間49,49Aに臨む第1連通口27,27Aと第2連通口36,36Aの配置を第1実施形態のものから変更している。これらの変更点は、上側の環状空間49側のものと下側の環状空間49A側のものでほぼ同様とされている。このため、以下では、上側の環状空間49側のものについてのみ詳細に説明する。
【0069】
ギヤケース部12L側の接続筒122の外周部には、軸方向に並んで環状溝28が形成され、上側の環状溝28が、モータケース部12U側の嵌合孔23の内周面とともに環状空間49を形成している。環状溝28内の円周方向に180°離間した位置には一対の仕切壁150が突設されている。環状空間49の内部は、一対の仕切壁150によって第1弧状通路51と第2弧状通路52とに仕切られている。この構成は第1実施形態と同様であるが、仕切壁150の形状は第1実施形態のものと異なっている。
【0070】
各仕切壁150は、嵌合孔23の内周面(閉塞壁)に臨む突出方向の端面から見た形状がクランク形状に形成されている。即ち、各仕切壁150は、環状空間49内の仕切領域が上下方向(環状空間49の周方向と交差する幅方向)の一側と他側で周方向にオフセットする形状とされている。
【0071】
これに対し、環状空間49内の第1弧状通路51に臨む第1連通口27は、
図10に示すように、環状空間49の幅方向の中央位置に対して所定距離dだけ上方にオフセットした位置に配置されている。また、環状空間49内の第2弧状通路52に臨む第2連通口36は、
図11に示すように、環状空間49の幅方向の中央位置に対して所定距離dだけ下方にオフセットした位置に配置されている。
【0072】
上記のように構成された本実施形態の電動船外機1では、ギヤケース部12Lが、中立位置から一方向と他方向のいずれかに90°以上に回動したときにも、一方の仕切壁150の上部領域は、環状空間49の上部寄りに配置された第1連通口27を乗り越えない。このとき、他方の仕切壁150の下部領域は、環状空間49の下部寄りに配置された第2連通口36を乗り越えない。したがって、ギヤケース部12Lが、中立位置から一方向と他方向のいずれかに90°以上に回動しても、第1連通口27は第1弧状通路51と連通した状態に維持され、第2連通口36は第2弧状通路52と連通した状態に維持される。
また、下部側の環状空間49についても、上部側と同様の構造とされているため、ギヤケース部12Lが中立位置から一方向と他方向のいずれかに90°回動した位置であっても、第1連通口27Aは第1弧状通路51Aと連通した状態に維持され、第2連通口36Aは第2弧状通路52Aと連通した状態に維持される。
【0073】
以上のように、本実施形態の電動船外機101は、第1実施形態と同様の基本的な構成を備えているため、上述した第1実施形態と同様の基本的な効果を得ることができる。
これに加え、本実施形態の電動船外機101は、上述のようにギヤケース部12Lが中立位置から一方向と他方向のいずれかに90°以上に回動しても、第1弧状通路51,51Aと第2弧状通路52,52Aを通した流体の流通を許容することができる。
したがって、本実施形態の電動船外機101を採用した場合には、ギヤケース部12Lを中立位置から90°回動させて船舶を横向きに進行させることも可能になる。
【0074】
<第3実施形態>
図12は、本実施形態の電動船外機の第2実施形態の
図10に対応する側面図であり、
図13は、第2実施形態の
図11に対応する側面図である。
本実施形態は、第2実施形態とほぼ同様の構成にされている。第2実施形態では、突出端方向から見た各仕切壁150の形状がクランク形状とされていたが、本実施形態では、突出端方向から見た各仕切壁250の形状が環状溝28の幅方向の一側から他側に向かって周方向の一側に傾斜する傾斜形状とされている。本実施形態の場合も、各仕切壁250は、環状空間49内の仕切領域が上下方向(環状空間49の周方向と交差する幅方向)の一側と他側で周方向にオフセットする形状とされている。
環状空間49内の第1弧状通路51に臨む第1連通口27は、
図12に示すように、環状空間49の幅方向の中央位置に対して上方にオフセットした位置に配置されている。環状空間49内の第2弧状通路52に臨む第2連通口36は、
図13に示すように、環状空間49の幅方向の中央位置に対して所定距離dだけ下方にオフセットした位置に配置されている。
本実施形態の場合も、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記の各実施形態は、推進装置の形態が電動船外機とされているが、推進装置は電動船外機に限定されない、推進装置は、スクリューがエンジンで駆動されるものや、油圧モータによって駆動されるものであっても良い。また、推進装置は、船外機に限定されるものではなく、船内外機やPOD型の推進装置等であっても良い。
【0076】
さらに、上記の実施形態では、潤滑油の流れる循環流路と冷媒の流れる循環流路に関して本発明の特徴的な構造を採用しているが、取り扱う流体の流路はこれに限定されない。例えば、下部ケース側で油圧機器を取り扱う場合には、油圧機器を作動させるための作動液の流路に本発明の特徴的な構造を適用することも可能である。
【0077】
また、上記の実施形態では、各循環流路に冷却液と冷媒が流されるが、循環流路に流す流体はこれに限定されない。流体は、問えば、アクチュエータを作動させるための作動液や気体等であっても良い。
【0078】
さらに、上記の実施形態では、仕切壁によって仕切られる環状空間を形成するために下部ケース(ギヤケース部12L)側の摺接部に環状溝を形成しているが、環状溝は、上部ケース(モータケース部12U)側の摺接部に形成するようにしても良い。また、環状溝は、上部ケース(モータケース部12U)側の摺接面と下部ケース(ギヤケース部12L)側の摺接面の両方に形成するようにしても良い。
【0079】
また、上記の実施形態では、環状空間内を第1弧状通路と第2弧状通路に隔成する仕切壁が一対(二つ)設けられているが、仕切壁の個数は、環状空間内を少なくとも第1弧状通路と第2弧状通路に隔成することができる個数であれば二つの限定されない。仕切壁の個数は三つ以上であっても良い。
【0080】
また、上記の実施形態では、上部ケース(モータケース部12U)と下部ケース(ギヤケース部12L)の筒状の摺接部の間に、第1弧状通路と第2弧状通路(仕切壁によって仕切られた環状空間)が形成されている。しかし、第1弧状通路と第2弧状通路を形成する摺接部はこれに限定されない。例えば、上部ケースと下部ケースの軸方向(回転中心軸線c1に沿う方向)で接する平坦な摺接部に、第1弧状通路と第2弧状通路を形成することも可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…電動船外機(推進装置)
10…スクリュー
12U…モータケース部(上部ケース)
12L…ギヤケース部(下部ケース)
25c…第1底壁通路(別のケース側通路)
27,27A…第1連通口(連通口)
28…環状溝
29…第1軸通路(ケース側通路)
32…第2軸通路(ケース側通路)
35a…第2外壁通路(別のケース側通路)
36,36A…第2連通口(連通口)
49,49A…環状空間
50,150,250…仕切壁
51,51A…第1弧状通路
52,52A…第2弧状通路
FP…送給流路
RP…戻し流路