(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050136
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
H01G4/30 201K
H01G4/30 512
H01G4/30 513
H01G4/30 515
H01G4/30 516
H01G4/30 517
H01G4/30 201C
H01G4/30 201D
H01G4/30 201L
H01G4/30 311D
H01G4/30 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156794
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】水野 高太郎
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AE04
5E001AH01
5E001AJ01
5E001AJ02
5E082AB03
5E082BC38
5E082EE04
5E082EE19
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG10
5E082LL02
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 焼結助剤として機能する液相成分が存在していても、誘電体層と内部電極層との界面に添加金属元素を含む偏析層の安定形成を実現することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、前記複数の内部電極層のうち少なくともいずれかは、隣接する誘電体層との界面に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素を含む偏析層を備え、前記隣接する誘電体層の少なくともいずれかの粒界に、Siと前記添加金属元素とが存在し、前記粒界において、前記添加金属元素/Siの原子濃度比率は、1.3以上であることを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、
前記複数の内部電極層のうち少なくともいずれかは、隣接する誘電体層との界面に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素を含む偏析層を備え、
前記隣接する誘電体層の少なくともいずれかの粒界に、Siと前記添加金属元素とが存在し、
前記粒界において、前記添加金属元素/Siの原子濃度比率は、1.3以上であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記粒界を挟む2つの誘電体粒子の間において、前記添加金属元素の濃度ピークとSiの濃度ピークとが、同じ位置になるか、異なる位置になることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記隣接する誘電体層において、Tiに対するSiの比率は、0.1at%以上5.0at%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記粒界における前記添加金属元素は、前記粒界の少なくとも一部分において、Siよりも高濃度に偏在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記添加金属元素は、As、Au、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ir、Mg、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Ge、Te、W、Y、Zn、Ag、Mo、Geのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記添加金属元素は、第1添加金属元素および第2添加金属元素を含み、
前記第1添加金属元素の酸化還元電位と前記第2添加金属元素の酸化還元電位との差は、1.8V以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記複数の内部電極層の主成分は、NiまたはCuであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック子部品。
【請求項8】
前記複数の内部電極層は、主成分金属に対して、0.01at%以上5at%以下の前記添加金属元素を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記複数の誘電体層の1層あたりの厚みは、0.2μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記複数の誘電体層における誘電体粒子の平均粒径は、20nm以上600nm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
前記複数の内部電極層の1層あたりの厚みは、0.1μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項12】
セラミック粉末およびSiを含む複数の誘電体グリーンシートのそれぞれと、主成分金属の粉末および添加金属元素の粉末を含む複数の内部電極パターンのそれぞれと、が交互に積層された積層体を準備する工程と、
前記積層体を焼成することで、前記誘電体グリーンシートから誘電体層を形成し、前記内部電極パターンから内部電極層を形成する工程と、
前記積層体を焼成する際に、複数の前記内部電極層のうち少なくともいずれかに、隣接する前記誘電体層との界面に前記添加金属元素を含む偏析層を形成し、前記隣接する誘電体層の少なくともいずれかの粒界において、前記添加金属元素/Siの原子濃度比率を1.3以上とすることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品は、チタン酸バリウムなどの誘電体材料を主原料とした誘電体グリーンシートの上に、金属粉末を主原料とする金属ペーストを印刷し、積層、圧着、カット、脱バインダ、焼成、外部電極塗布等を経て作製される。市場要求である小型大容量化のため、誘電体層の薄層化、内部電極層の薄層化、高積層化が要求されている。
【0003】
一方で、誘電体層の薄層化は、電界強度の増加を伴うため、寿命の確保がより難しくなる。希土類酸化物等の微量添加物をチタン酸バリウム等の誘電体材料に固溶させるなどの誘電体材料設計による検討に加え、近年では、内部電極層中に異種金属元素を添加金属元素として添加し、誘電体層と内部電極層との界面設計による検討も報告されている(例えば、特許文献1参照)。誘電体層と内部電極層との界面に、添加金属元素を含む偏析層を形成することで、ショットキー障壁が強化され、寿命が改善されるものと考えられている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/111592号
【特許文献2】国際公開第2014/024538号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミック電子部品の製造工程における投入エネルギーの削減と、金属を主成分とする内部電極層の過焼成に起因する不連続化抑制を目的として、焼結助剤として機能する液相成分の導入による焼成温度の低温化が図られている。一方で、焼成工程において液相が生成すると、各種元素が溶解し、所望の微細構造の形成が妨げられることがある。これは、誘電体層と内部電極層との界面に、添加金属元素を含む偏析層を形成する際にも起こり得ることである。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、焼結助剤として機能する液相成分が存在していても、誘電体層と内部電極層との界面に添加金属元素を含む偏析層の安定形成を実現することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、前記複数の内部電極層のうち少なくともいずれかは、隣接する誘電体層との界面に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素を含む偏析層を備え、前記隣接する誘電体層の少なくともいずれかの粒界に、Siと前記添加金属元素とが存在し、前記粒界において、前記添加金属元素/Siの原子濃度比率は、1.3以上であることを特徴とする。
【0008】
上記セラミック電子部品の前記粒界を挟む2つの誘電体粒子の間において、前記添加金属元素の濃度ピークとSiの濃度ピークとが、同じ位置になるか、異なる位置になっていてもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品の前記隣接する誘電体層において、Tiに対するSiの比率は、0.1at%以上5.0at%以下であっていてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記粒界における前記添加金属元素は、前記粒界の少なくとも一部分において、Siよりも高濃度に偏在していてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記添加金属元素は、As、Au、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ir、Mg、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Ge、Te、W、Y、Zn、Ag、Mo、Geのいずれか1種以上であってもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記添加金属元素は、第1添加金属元素および第2添加金属元素を含み、前記第1添加金属元素の酸化還元電位と前記第2添加金属元素の酸化還元電位との差は、1.8V以上であってもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記複数の内部電極層の主成分は、NiまたはCuであってもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品において、前記複数の内部電極層は、主成分金属に対して、0.01at%以上5at%以下の前記添加金属元素を含んでいてもよい。
【0015】
上記セラミック電子部品において、前記複数の誘電体層の1層あたりの厚みは、0.2μm以上10μm以下であってもよい。
【0016】
上記セラミック電子部品において、前記複数の誘電体層における誘電体粒子の平均粒径は、20nm以上600nm以下であってもよい。
【0017】
上記セラミック電子部品において、前記複数の内部電極層の1層あたりの厚みは、0.1μm以上2μm以下であってもよい。
【0018】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、セラミック粉末およびSiを含む複数の誘電体グリーンシートのそれぞれと、主成分金属の粉末および添加金属元素の粉末を含む複数の内部電極パターンのそれぞれと、が交互に積層された積層体を準備する工程と、前記積層体を焼成することで、前記誘電体グリーンシートから誘電体層を形成し、前記内部電極パターンから内部電極層を形成する工程と、前記積層体を焼成する際に、複数の前記内部電極層のうち少なくともいずれかに、隣接する前記誘電体層との界面に前記添加金属元素を含む偏析層を形成し、前記隣接する誘電体層の少なくともいずれかの粒界において、前記添加金属元素/Siの原子濃度比率を1.3以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、焼結助剤として機能する液相成分が存在していても、誘電体層と内部電極層との界面に複合化元素を含む偏析層の安定形成を実現することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図4】誘電体層と、当該誘電体層に隣接する2層の内部電極層の概略図である。
【
図5】(a)および(b)は誘電体層と内部電極層との界面におけるSTEM-EDSライン分析の結果の一例である。
【
図6】(a)および(b)は2つの誘電体粒子の粒界付近におけるSTEM-EDSライン分析の結果の一例である。
【
図7】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図8】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の積層方向の上面および下面以外の4面を側面と称する。上記2端面は、この4側面に含まれる。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面と、下面と、2端面以外の2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0023】
なお、
図1~
図3において、X軸方向は、積層チップ10の長さ方向であって、積層チップ10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向は、内部電極層の幅方向であり、積層チップ10の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。Z軸方向は、積層方向であり、積層チップ10の上面と下面とが対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0024】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面において、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じであっても構わない。
【0025】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.110mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.1mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0026】
誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO3(チタン酸バリウム),CaZrO3(ジルコン酸カルシウム),CaTiO3(チタン酸カルシウム),SrTiO3(チタン酸ストロンチウム),MgTiO3(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3は、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。
【0027】
誘電体層11には、添加物が添加されていてもよい。誘電体層11への添加物として、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素(Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホロミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、または、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)もしくはSi(ケイ素)を含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。
【0028】
内部電極層12の主成分は、特に限定されるものではないが、Ni、Cu(銅)、Sn(スズ)等の卑金属である。内部電極層12の主成分として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0029】
内部電極層12は、主成分金属に加え、添加金属元素を含んでいる。添加金属元素は、特に限定されるものではないが、内部電極層12の主成分金属よりも貴な金属であることが好ましい。添加金属元素は、例えば、Au、Sn、Cr、Fe(鉄)、Y、In(インジウム)、As(砒素)、Co、Cu、Ir(イリジウム)、Mg、Os(オスミウム)、Pd、Pt、Re(レニウム)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Se(セレン)、Te(テルル)、W、Zn(亜鉛)、Ag、Mo、Ge(ゲルマニウム)から選択された1種または2種以上である。
【0030】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0031】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0032】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の4側面のうち2端面以外の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0033】
このような積層セラミックコンデンサでは、小型大容量化のため、誘電体層の薄層化、内部電極層の薄層化、高積層化が要求されている。しかしながら、誘電体層の薄層化は、電界強度の増加を伴うため、寿命の確保がより難しくなる。希土類酸化物等の微量添加物をチタン酸バリウム等の誘電体材料に固溶させるなどの誘電体材料設計による検討に加え、近年では、内部電極層中に異種金属元素を添加金属元素として添加し、誘電体層と内部電極層との界面設計による検討が報告されている。誘電体層と内部電極層との界面に、添加金属元素を含む偏析層を形成することで、ショットキー障壁が強化され、寿命が改善されるものと考えられている。
【0034】
ところで、誘電体層11および内部電極層12は、セラミック粉末を含む誘電体グリーンシートおよび金属粉末を含む内部電極パターンを同時に焼成することにより得られる。この場合の焼成工程における投入エネルギーの削減と、金属を主成分とする内部電極層12の過焼成に起因する不連続化抑制を目的として、焼結助剤として機能する液相成分を誘電体グリーンシートに導入することで、焼成温度の低温化が図られている。一方で、焼成工程において液相が生成すると、各種元素が溶解し、所望の微細構造の形成が妨げられることがある。これは、誘電体層11と内部電極層12との界面に、添加金属元素を含む偏析層を形成する際にも起こり得ることである。
【0035】
そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、焼結助剤として機能する液相成分が存在していても、誘電体層11と内部電極層12との界面に添加金属元素を含む偏析層の安定形成を実現することができる構成を有している。
【0036】
図4は、誘電体層11と、当該誘電体層11に隣接する2層の内部電極層12の概略図である。
図4で例示するように、内部電極層12は、誘電体層11との界面に、偏析層31を備えている。偏析層31は、内部電極層12の主成分と、内部電極層12に添加された添加金属元素とを含む。偏析層31は、積層方向にSTEM(走査型透過型電子顕微鏡)-EDS(エネルギー分散型X線分光法)ライン分析を行なった場合に、内部電極層12全体の添加金属元素の平均濃度以上となる領域と定義することができる。なお、ここでは、STEM-EDSライン分析は1000万倍の倍率にて測定している。また、偏析層31は、例えば、10nm以下の厚みを有している。
【0037】
図5(a)および
図5(b)は、誘電体層11の主成分セラミックとしてBaTiO
3を用い、内部電極層12の主成分金属としてNiを用い、添加金属元素としてAuおよびFeの2種類を用いた場合の、誘電体層11と内部電極層12との界面におけるSTEM-EDSライン分析の結果の一例である。
図5(a)で例示するように、内部電極層12の所定の位置から、誘電体層11の所定の位置までを分析してある。
図5(b)で例示するように、誘電体層11に近づくにつれてNi濃度が徐々に減少し、BaTiO
3の濃度が徐々に増加する。NiとTiの信号が交差する位置を、誘電体層11と内部電極層12との界面と定義することができる。この界面付近において、AuおよびFeの濃度にピークが見られる。このように、誘電体層11と内部電極層12との界面において、AuおよびFeを含む偏析層31が形成されていることがわかる。
【0038】
誘電体層11と内部電極層12との界面に偏析層31が設けられることで、ショットキー障壁が強化され、積層セラミックコンデンサ100の寿命が改善される。偏析層31は、内部電極層12と誘電体層11との界面の全体に設けられていなくてもよく、当該界面の少なくとも一部に設けられていればよい。ただし、偏析層31は、内部電極層12と誘電体層11との界面の全体に設けられていることが好ましい。
【0039】
また、
図4で例示するように、誘電体層11は、複数の誘電体粒子32が粒界を介して焼結した構成を有している。誘電体粒子32は、例えば、コア部32aおよびシェル部32bを備えるコア-シェル構造などを有している。誘電体層11には、焼成温度を低下させるために、液相成分33が添加されている。液相成分は、焼成の過程で液相になり、焼成が完了して降温した後は固相となる成分である。
図4で例示するように、液相成分33は、誘電体粒子32の粒界に形成されている。液相成分33は、Siを含んでいる。例えば、液相成分33は、SiO
2を主材とする非晶質相である。液相成分33は、Li、B、Na、K、Ca(カルシウム)などを含んでいてもよい。液相成分33は、誘電体粒子32の粒界において焼結助剤として機能し、誘電体粒子32の緻密化、粒成長温度の調整に用いられる。
【0040】
また、誘電体粒子32の粒界にも、内部電極層12に添加されている添加金属元素を含む添加金属元素成分34が位置している。すなわち、添加金属元素成分34は、液相成分33と同じ位置、または液相成分33に接する位置に存在している。液相成分33と添加金属元素成分34の偏析層が全体的に誘電体層11に分布していることにより、セラミック素体の焼結性を高め、焼成時間を短縮することができる。
【0041】
図6(a)および
図6(b)は、誘電体層11の主成分セラミックとしてBaTiO
3を用い、内部電極層12の主成分金属としてNiを用い、添加金属元素としてAuおよびFeの2種類を用いた場合の、2つの誘電体粒子32の粒界付近におけるSTEM-EDSライン分析の結果の一例である。
図6(a)で例示するように、一方の誘電体粒子32の所定の位置から、他方の誘電体粒子32の所定の位置までを分析してある。
図6(b)で例示するように、測定方向に沿ってSi濃度が徐々に増加して減少していくピークが存在している。このピークの位置付近が粒界である。粒界付近で、Fe濃度が徐々に増加して減少していくピークが存在し、Au濃度が徐々に増加して減少していくピークが存在している。このように、誘電体粒子32の粒界においても、内部電極層12に添加されている添加金属元素濃度にピークが存在している。したがって、誘電体粒子32の粒界において、添加金属元素成分34が形成されていることがわかる。
【0042】
本実施形態においては、少なくともいずれかの誘電体層11の少なくともいずれかの隣接する2つの誘電体粒子32の粒界において、添加金属元素の原子濃度とSiの原子濃度との比率である添加金属元素/Siの原子濃度比率が1.3以上となっている。添加金属元素の原子濃度とSiの原子濃度との比率である添加金属元素/Siの原子濃度比率は、ライン分析を行った場合のピーク濃度の比率のことである。この構成によれば、誘電体粒子32の粒界の少なくとも一部分において、添加金属元素が、液相成分であるSiよりも高濃度に偏在する。それにより、誘電体層11と内部電極層12との界面に、偏析層31の安定形成を実現することができる。また、誘電体粒子32の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されるため、当該粒界におけるダブルショットキー障壁が強化され、より高い信頼性水準が実現される。なお、内部電極層12に複数種類の添加金属元素が添加されている場合には、「添加金属元素/Siの原子濃度比率」における「添加金属元素」とは、当該複数種類の添加金属元素の合計の原子濃度を表す。
【0043】
なお、粒界を挟む2つの誘電体粒子32の間において上記STEM-EDSライン分析を行った場合に、添加金属元素の濃度ピークとSiの濃度ピークとは、同じ位置になることもあれば、異なる位置になることもある。
【0044】
誘電体粒子32の粒界において添加金属元素をより高濃度で偏析させる観点から、上記添加金属元素/Siの原子濃度比率は、1.6以上であることが好ましく、1.9以上であることがより好ましい。
【0045】
なお、誘電体層11における液相成分33の量が少ないと、焼成過程において液相成分33の浸透が遅れ、不均一となり、偏析層31の形成も不均一となるおそれがある。そこで、誘電体層11における液相成分33の量に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、誘電体層11において、主成分セラミックのBサイト元素を100at%と仮定した場合に、Siの濃度が0.1at%以上であることが好ましく、0.2at%以上であることがより好ましく、0.3at%以上であることがさらに好ましい。主成分セラミックがチタン酸バリウムである場合には、Bサイト元素はTiである。
【0046】
一方、誘電体層11における液相成分33の量が多いと、過度な液相焼結が進行し、偏析層成分の液相への溶出により、明瞭な偏析層31の形成ができないおそれがある。さらに、内部電極層12の過焼成、誘電体層11の異常粒成長など、内部構造の不均一化が進行するおそれがある。そこで、誘電体層11における液相成分33の量に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、誘電体層11において、主成分セラミックのBサイト元素を100at%と仮定した場合に、Siの濃度が5.0at%以下であることが好ましく、4at%以下であることがより好ましく、3at%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
Bサイト元素に対するSi濃度は、配合時の原料粉末重量比から見積もることができる。また、レーザーアブレーション高周波誘導結合プラズマ発行分光質量(LA-ICP-MS)分析により、焼結体からもBサイト元素に対するSi濃度を実測することも可能である。焼結体を樹脂に埋包し、研磨した断面に対し、直径10μm、スポット間隔20μmでレーザー光を照射し、揮発した微粒子の元素組成をLA-ICP-MSにより分析し、5か所以上の分析値を平均化し、実測することができる。
【0048】
また、誘電体層11が薄い高容量の積層セラミックコンデンサにおいては、信頼性に関わる酸素欠陥の移動、蓄積によるトンネル電流の発生抑制に対し、誘電体層11と内部電極層12との界面の作用が大きい。そのため、内部電極層12と接触する少なくとも1つ以上の誘電体粒子32は、添加金属元素成分34と同じ位置、または接する位置の液相成分33に外周が覆われており、安定な添加金属元素成分34の界面が形成されていることが有効である。また、液相成分33が誘電体粒子32の表層を覆うことで、粒界における絶縁抵抗が増加するため、リーク電流の低減に有効である。なお、積層セラミックコンデンサ100へのバイアス印加において粒界部分に局所電界が掛かるため、粒界近傍の酸素欠陥の蓄積により絶縁劣化が生じやすくなるが、粒界に添加金属元素成分34を導入することで、粒界におけるダブルショットキー障壁を強化し、高い信頼性水準を実現すると共に、リーク電流の低減を両立させることが可能となる。
【0049】
ショットキー障壁を十分に強化する観点から、偏析層31における添加金属元素の濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、偏析層31における添加金属元素の濃度は、内部電極層12における偏析層31以外の非偏析部の添加金属元素濃度の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。内部電極層12の全体における添加金属元素濃度を高くする観点から、内部電極層12の全体における添加金属元素濃度は、有効金属濃度で0.01at%以上であることが好ましく、0.05at%以上であることがより好ましく、0.1at%以上であることがさらに好ましい。有効金属濃度とは、内部電極層12の主成分金属を100at%とした場合に添加する金属成分濃度のことである。
【0050】
偏析層31における添加金属元素の濃度が高すぎると、電極抵抗の増加によるESRの増加や焼結性や内部応力差による内部電極の不連続化やクラックの発生のおそれがある。そこで、偏析層31における添加金属元素の濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、偏析層31における添加金属元素の濃度は、内部電極層12における偏析層31以外の非偏析部の添加金属元素濃度の20倍以下であることが好ましく、15倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることがさらに好ましい。内部電極層12の全体における添加金属元素濃度を低く抑える観点から、内部電極層12の全体における添加金属元素濃度は、有効金属濃度で5at%以上であることが好ましく、4at%以上であることがより好ましく、3at%以上であることがさらに好ましい。
【0051】
1層あたりの誘電体層11の厚みは、例えば、0.2μm以上10μm以下であり、または0.2μm以上8μm以下であり、または0.2μm以上5μm以下である。一般に、誘電体層11が薄くなる方が、内部電極層12に添加した添加金属元素の拡散による影響や、内部電極層12の局所酸化による影響を受けやすいため、電気特性の変動が起こりやすい。本実施形態においても、誘電体層11の薄層化に伴い、より大きな作用効果の発現が期待される。1層あたりの誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の例えば
図2の断面を機械研磨で露出した後、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から10か所の厚さの平均値を求めるようにして測定することができる。
【0052】
各誘電体層11において、誘電体粒子32の平均粒径は、20nm以上600nm以下であることが好ましく、30nm以上500nm以下であることがより好ましく、40nm以上400nm以下であることがさらに好ましい。また、1層あたりの誘電体グレイン数は、1個以上30個以下であることが好ましく、2個以上20個以下であることがより好ましく、3個以上10個以下であることがさらに好ましい。
【0053】
1層あたりの内部電極層12の厚みは、例えば、0.1μm以上2μm以下であり、または0.2μm以上1μm以下であり、または0.3μm以上0.8μm以下である。内部電極層12が薄くなるほど、表面比率の増大から、局所酸化が起こりやすくなるため、本実施形態において、より大きな作用効果の発現が期待される。しかしながら、内部電極層12の厚みが0.05μm未満になると、内部電極層12の厚みに対して、偏析層31の厚み比率が高くなりすぎ、ESR(等価直列抵抗)の増加、内電酸化、内電焼結性の影響が無視できなくなるおそれがある。1層あたりの内部電極層12の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の例えば
図2の断面を機械研磨で露出した後、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から10か所の厚さの平均値を求めるようにして測定することができる。
【0054】
添加金属元素は、2種類以上であることが好ましい。例えば、添加金属元素が、少なくとも第1添加金属元素および第2添加金属元素の2種類を含むことが好ましい。
【0055】
ここで、一般的に、酸化還元電位が低い金属はイオン化しやすい。そのため、酸化還元電位の低い添加金属元素は、液相成分への溶解や、酸化物相への拡散も生じやすいものと考えられる。第1添加金属元素の酸化還元電位が高い場合には、偏析層31は内部電極層12と誘電体層11との界面に留まり易く、界面における偏析層31の均一形成が起こりやすい。一方で、第1添加金属元素と第2添加金属元素との酸化還元電位差が1.8V以上である場合、添加金属元素成分34は、偏析層31と隣接する位置、或いは、その誘電体層11側に優先的に偏析層を形成し、内部電極層12側の偏析層を安定化させると共に、イオン化しやすい元素の誘電体界面への偏析層形成を促すことになり、より高い寿命改善効果を発現する。以上のことから、第1添加金属元素の酸化還元電位と第2添加金属元素の酸化還元電位との差は、1.8V以上であることが好ましい。
【0056】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図7は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0057】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiO3は、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の誘電体粉末の合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0058】
得られた誘電体粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mo、Nb、Ta、W、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素(Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb)の酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。これらのうち、主としてSiO2が焼結助剤として機能する。
【0059】
例えば、誘電体粉末および添加化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0060】
なお、誘電体粉末間へのSiO2の均一配置を達成するため、SiO2粒子の平均径は、誘電体粉末の平均径以下にすることが好ましく、誘電体粉末の平均径の4分の1以下にすることがより好ましい。また、誘電体材料において、主成分セラミックのBサイト元素を100at%と仮定した場合に、Siの濃度を0.1at%以上、5.0at%以下とすることが好ましい。
【0061】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。
【0062】
次に、
図8(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極パターン53を成膜する。
図8(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。内部電極パターン53が印刷された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。各内部電極パターン53に、添加金属元素を有する有機金属錯体溶液や、当該添加金属元素を有する微粉末を添加する。添加金属元素は、単金属、合金、酸化物などの形態を有していてもよい。また、添加金属元素の導入方法として、内部電極パターン53の主成分金属の表面に添加金属元素がコートされたものを用いてもよい。添加金属元素として、Au、Sn、Cr、Fe、Y、In、As、Co、Cu、Ir、Mg、Os、Pd、Pt、Re、Rh、Ru、Se、Te、W、Zn、Ag、Mo、Geから選択された1種または2種以上を添加する。
【0063】
また、誘電体層11の内部に添加金属元素成分34を拡散させるため、添加金属元素の平均粒径を500nm以下とすることが好ましく、300nm以下とすることがより好ましく、200nm以下とすることがさらに好ましい。
【0064】
添加金属元素が少ないと、十分に偏析層31を形成できないおそれがある。そこで、添加金属元素の添加量に下限を設けることが好ましい。例えば、添加金属元素の添加量は、内部電極パターン53の主成分金属に対して、有効金属濃度で0.01at%以上の添加金属元素を添加することが好ましく、0.05at%以上であることがより好ましく、0.1at%以上であることがさらに好ましい。
【0065】
一方、添加金属元素が多いと、誘電体層11への添加金属元素の拡散、内部電極層12の酸化、内部電極層12の焼結性低下、などの影響が無視できなくなるおそれがある。そこで、添加金属元素の添加量に上限を設けることが好ましい。例えば、添加金属元素の添加量は、内部電極パターン53の主成分金属に対して、有効金属濃度で5.0at%以下であることが好ましく、4.0at%以下であることがより好ましく、3.0at%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、
図8(b)で例示するように、積層単位を積層する。次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
図8(b)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシート54は、誘電体グリーンシート52と同じ成分であってもよく、添加化合物が異なっていてもよい。
【0067】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で焼成する。この際、300℃から900℃においては、50℃/min以下の昇温速度とし、十分な脱バイ残渣の除去を促すのに対し、900℃から焼成トップの温度においては、200℃/min以上の昇温速度とし、内部電極の過焼結による球状化の抑制を図ると共に、誘電体粒界における液相成分の均一配置を促す。ここで、過度な熱エネルギーの供与は、内部電極の不連続化に伴い生じる空間への液相成分の排出や、誘電体粒子の粒成長による液相成分の粒界から三重点への排出を引き起こすおそれがある。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0068】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中において600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0069】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0070】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0071】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0072】
(実施例1)
チタン酸バリウムを誘電体材料として含み、焼結助剤を含む誘電体グリーンシート上に、Ni粉末を含むNiペーストが内部電極パターンとして印刷された積層単位を積層し、圧着し、カットし、バインダを除去し、焼成することによって、チップ形状1.0mm×0.5mm×0.5mmの積層チップを作製した。誘電体層の厚みは0.8μmであり、内部電極層の厚みは0.5μmであり、誘電体層および内部電極層の各積層数は470層とした。
【0073】
実施例1では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuおよびFeを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加し、Feを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0074】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Au、Feが検出された。AuおよびFeは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0075】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Au+Fe)/Si)は、1.6であった。
【0076】
(実施例2)
実施例2では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuおよびFeを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加し、Feを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を5.0at%とした。
【0077】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Au、Feが検出された。AuおよびFeは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0078】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Au+Fe)/Si)は、1.3であった。
【0079】
(実施例3)
実施例3では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuおよびFeを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加し、Feを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を0.1at%とした。
【0080】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Au、Feが検出された。AuおよびFeは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0081】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Au+Fe)/Si)は、3.1であった。
【0082】
(実施例4)
実施例4では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてFeを添加した。Niに対して、Feを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0083】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Feが検出された。Feは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0084】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=Fe/Si)は、2であった。
【0085】
(実施例5)
実施例5では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてCrを添加した。Niに対して、Crを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0086】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Crが検出された。Crは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0087】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=Cr/Si)は、1.7であった。
【0088】
(実施例6)
実施例6では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてZnを添加した。Niに対して、Znを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0089】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Znが検出された。Znは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0090】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=Zn/Si)は、1.3であった。
【0091】
(実施例7)
実施例7では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてGeを添加した。Niに対して、Geを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0092】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Geが検出された。Geは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0093】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=Ge/Si)は、1.3であった。
【0094】
(実施例8)
実施例8では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuおよびCrを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加し、Crを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0095】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Au、Crが検出された。AuおよびCrは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0096】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Au+Cr)/Si)は、2.2であった。
【0097】
(実施例9)
実施例9では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuおよびZnを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加し、Znを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0098】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Au、Znが検出された。AuおよびZnは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0099】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Au+Zn)/Si)は、1.9であった。
【0100】
(実施例10)
実施例10では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuおよびGeを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加し、Geを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0101】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Au、Geが検出された。AuおよびGeは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0102】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Au+Ge)/Si)は、1.6であった。
【0103】
(実施例11)
実施例11では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuおよびInを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加し、Inを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を5.0at%とした。
【0104】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Au、Inが検出された。AuおよびInは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0105】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Au+In)/Si)は、1.3であった。
【0106】
(実施例12)
実施例12では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてFeおよびCrを添加した。Niに対して、Feを1.0at%添加し、Crを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0107】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Fe、Crが検出された。FeおよびCrは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0108】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Fe+Cr)/Si)は、2.2であった。
【0109】
(比較例1)
比較例1では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素を添加しなかった。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0110】
(比較例2)
比較例2では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuを添加した。Niに対して、Auを0.1at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0111】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Auが検出された。Auは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0112】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=Au/Si)は、0.05であった。
【0113】
(比較例3)
比較例3では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を1.5at%とした。
【0114】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Auが検出された。Auは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0115】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=Au/Si)は、0.08であった。
【0116】
(比較例4)
比較例4では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuおよびFeを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加し、Feを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を6.0at%とした。
【0117】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Au、Feが検出された。AuおよびFeは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0118】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Au+Fe)/Si)は、0.09であった。
【0119】
(比較例5)
比較例5では、内部電極パターンのNiペーストに、添加金属元素としてAuおよびFeを添加した。Niに対して、Auを1.0at%添加し、Feを1.0at%添加した。焼成の過程で、内部電極層と誘電体層との界面に、これらの添加金属元素を含む偏析層を形成した。誘電体グリーンシートに、焼結助剤として、SiO2を添加した。誘電体グリーンシートにおいて、Tiに対するSiの添加量を0.05at%とした。
【0120】
内部電極層と誘電体層との界面近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、内部電極層と誘電体層との界面の10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。誘電体層の粒界近傍についてSTEM-EDSで測定したところ、誘電体層の粒界にSi、Au、Feが検出された。AuおよびFeは誘電体粒子側にも配置されており、誘電体粒子の粒界にも添加金属元素の偏析層が形成されていることが確認された。
【0121】
誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率(=(Au+Fe)/Si)は、0.12であった。
【0122】
実施例1~11および比較例1~3の各条件について、表1に示す。なお、表1は、各添加金属元素の酸化還元電位を示している。具体的には、Auの酸化還元電位は1.52Vであり、Feの酸化還元電位は-0.44Vであり、Crの酸化還元電位は-0.9Vであり、Znの酸化還元電位は-0.76Vであり、Geの酸化還元電位は0.25Vであり、Inの酸化還元電位は-0.34Vである。
【表1】
【0123】
実施例1~11および比較例1~3について高温加速寿命(125℃、12V)を測定した。高温加速寿命の50%寿命値を表1に示す。50%寿命値が、1000分以上となる場合に、良品と判定した。表1に示すように、実施例1~11は良品と判定された。これは、誘電体粒子の粒界において、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率が1.3以上となったからであると考えられる。同様の作用効果は、As、Co、Ir、Mg、Os、Pd、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Te、W、Zn、Ag、Mo、Geのいずれか1種以上が含まれる添加金属元素を用いた場合においても、発現が確認できている。これに対して、比較例1は良品と判定されなかった。これは、内部電極パターンに添加金属元素を添加しなかったからであると考えられる。比較例2,3も良品と判定されなかった。これは、添加金属元素/液相成分の原子濃度比率が1.3未満であったからであると考えられる。
【0124】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。