IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特開-ドハティ増幅回路 図1
  • 特開-ドハティ増幅回路 図2
  • 特開-ドハティ増幅回路 図3
  • 特開-ドハティ増幅回路 図4
  • 特開-ドハティ増幅回路 図5
  • 特開-ドハティ増幅回路 図6
  • 特開-ドハティ増幅回路 図7
  • 特開-ドハティ増幅回路 図8
  • 特開-ドハティ増幅回路 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050153
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ドハティ増幅回路
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/02 20060101AFI20240403BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H03F1/02 188
H03F1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156825
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 翔平
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA21
5J500AC18
5J500AC21
5J500AC36
5J500AC54
5J500AC57
5J500AC81
5J500AC92
5J500AF10
5J500AF15
5J500AF17
5J500AH02
5J500AH06
5J500AH09
5J500AH25
5J500AH29
5J500AH33
5J500AH43
5J500AM08
5J500AM13
5J500AM19
5J500AQ04
5J500AT01
5J500LV08
5J500NG06
(57)【要約】
【課題】特性の変化を抑制する。
【解決手段】ドハティ増幅回路は、1つ又は複数の増幅器を含むキャリアアンプと、1つ又は複数の増幅器を含むピークアンプと、を含む。少なくとも1つの増幅器は、高周波信号並びに変化するバイアス電圧又はバイアス電流がベース又はゲートに入力され、増幅後の高周波信号をコレクタ又はドレインから出力するトランジスタと、増幅後の高周波信号に基づく電圧又は電流をトランジスタのベース若しくはゲート又はエミッタ若しくはソースに与える帰還回路と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の増幅器を含むキャリアアンプと、
1つ又は複数の増幅器を含むピークアンプと、
を含み、
少なくとも1つの前記増幅器は、
高周波信号並びに変化するバイアス電圧又はバイアス電流がベース又はゲートに入力され、増幅後の高周波信号をコレクタ又はドレインから出力するトランジスタと、
前記増幅後の高周波信号に基づく電圧又は電流を前記トランジスタのベース若しくはゲート又はエミッタ若しくはソースに与える帰還回路と、
を含む、
ドハティ増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載のドハティ増幅回路であって、
前記帰還回路は、
前記トランジスタのベース又はゲートとコレクタ又はドレインとの間に電気的に接続された抵抗を含む、
ドハティ増幅回路。
【請求項3】
請求項2に記載のドハティ増幅回路であって、
前記帰還回路は、
前記抵抗と直列接続されたコンデンサを更に含む、
ドハティ増幅回路。
【請求項4】
請求項3に記載のドハティ増幅回路であって、
少なくとも1つの前記増幅器は、
前記トランジスタを構成する複数の単位トランジスタ及び前記抵抗を構成する複数の単位抵抗を夫々含む、複数のセルを含み、
前記コンデンサは、
前記複数のセルに共通して設けられている、
ドハティ増幅回路。
【請求項5】
請求項4に記載のドハティ増幅回路であって、
少なくとも1つの前記増幅器は、
前記複数のセルは、
一方向に沿って配列され、
前記コンデンサは、
前記一方向に沿って延在し、前記複数の単位トランジスタのコレクタ又はドレインに電気的に接続された第1極板と、
前記一方向に沿って延在し、前記第1極板に対向する第2極板と、
を含み、
前記第2極板と前記複数の単位抵抗との間を電気的に接続する1つ又は2つの配線は、前記第2極板の一方又は両方の端部から前記複数のセルの一方又は両方の端部の外側を通過して設けられている、
ドハティ増幅回路。
【請求項6】
請求項1に記載のドハティ増幅回路であって、
前記帰還回路は、
前記トランジスタのエミッタ又はソースと基準電位との間に電気的に接続された抵抗を含む、
ドハティ増幅回路。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のドハティ増幅回路であって、
前記バイアス電圧又はバイアス電流は、高周波信号の包絡線、電源電圧、温度、前記キャリアアンプの飽和状態及び反射電力の内の少なくとも1つに基づいて変化する、
ドハティ増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドハティ増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ピークアンプのバイアス点を変化させるドハティ増幅回路が記載されている。ピークアンプは、バイアス点を変化させると、利得を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0149099号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エミッタ接地増幅器は、バイアス点が変化すると、入力インピーダンスや通過位相特性が大きく変化することがある。このエミッタ接地増幅器の特性の変化は、ドハティ増幅回路のキャリアアンプ及びピークアンプの通過位相特性に影響を及ぼすことがある。ドハティ増幅回路は、キャリアアンプ及びピークアンプの通過位相特性の関係性が重要であり、キャリアアンプ及びピークアンプの通過位相特性が変化しないことが望ましい。従って、ドハティ増幅回路は、上記のエミッタ接地増幅器の特性の変化により、結果的に良好な特性を得られない(高周波出力信号が歪む)ことがあった。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、特性の変化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面のドハティ増幅回路は、1つ又は複数の増幅器を含むキャリアアンプと、1つ又は複数の増幅器を含むピークアンプと、を含む。少なくとも1つの増幅器は、高周波信号並びに変化するバイアス電圧又はバイアス電流がベース又はゲートに入力され、増幅後の高周波信号をコレクタ又はドレインから出力するトランジスタと、増幅後の高周波信号に基づく電圧又は電流をトランジスタのベース若しくはゲート又はエミッタ若しくはソースに与える帰還回路と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、特性の変化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施の形態のドハティ増幅回路の構成を示す図である。
図2図2は、第1の実施の形態のドハティ増幅回路の利得可変の増幅器の構成を示す図である。
図3図3は、比較例の増幅器の回路シミュレーション結果を示す図である。
図4図4は、第1の実施の形態の利得可変の増幅器の回路シミュレーション結果を示す図である。
図5図5は、第2の実施の形態の利得可変の増幅器の構成を示す図である。
図6図6は、比較例の第1レイアウト例を示す図である。
図7図7は、比較例の第2レイアウト例を示す図である。
図8図8は、第2の実施の形態の利得可変の増幅器のレイアウト例を示す図である。
図9図9は、第3の実施の形態の増幅器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2の実施の形態以降では第1の実施の形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施の形態毎には逐次言及しない。
【0010】
<第1の実施の形態>
(構成)
図1は、第1の実施の形態のドハティ増幅回路の構成を示す図である。ドハティ増幅回路1は、入力端子1aに入力される高周波信号RFinを増幅して、高周波信号RFoutを出力端子1bから出力する。
【0011】
ドハティ増幅回路1は、ディバイダ11と、キャリアアンプ12と、ピークアンプ13と、結合器14と、を含む。
【0012】
キャリアアンプ12は、前段の増幅器21と、後段の増幅器22と、を含む。増幅器21は、利得可変の増幅器である。増幅器22は、利得非可変の増幅器である。
【0013】
ピークアンプ13は、前段の増幅器31と、後段の増幅器32と、を含む。増幅器31は、利得可変の増幅器である。増幅器32は、利得非可変の増幅器である。
【0014】
増幅器21及び増幅器31は、バイアス点が変えられることにより、利得が変化する。
【0015】
実施の形態では、キャリアアンプ12及びピークアンプ13の各々が2個の増幅器を含むこととしたが、本開示はこれに限定されない。キャリアアンプ12及びピークアンプ13の各々は、1個又は3個以上の増幅器を含むこととしても良い。
【0016】
実施の形態では、前段の増幅器21及び増幅器31が利得可変の増幅器であることとしたが、本開示はこれに限定されない。キャリアアンプ12及びピークアンプ13に含まれる複数の増幅器の内の少なくとも1個が利得可変の増幅器であれば良い。
【0017】
ドハティ増幅回路1は、ピークアンプ13を必要最小限で動作させることとすると効率が良い。従って、ピークアンプ13に含まれる複数の増幅器の内の少なくとも1個が利得可変の増幅器であると、好ましい。
【0018】
増幅器21及び増幅器31は、バイアス点が変えられることにより、直接的に効率が向上する。前段の増幅器21及び増幅器31の利得が制御されることにより、後段の増幅器22及び増幅器32の消費電力が減少する。即ち、後段の増幅器22及び増幅器32は、前段の増幅器21及び増幅器31のバイアス点が変えられることにより、間接的に効率が向上する。なお、後段の増幅器22及び増幅器32のバイアス点が変えられることとすれば、後段の増幅器22及び増幅器32は、直接的に効率が向上する。
【0019】
増幅器21は、高周波信号RFinを増幅した高周波信号RF1を増幅器22に出力する。増幅器22は、高周波信号RF1を増幅した高周波信号RF2を、結合器14に出力する。
【0020】
ディバイダ11は、高周波信号RFinと位相が略90°異なる高周波信号RF3を増幅器31に出力する。なお、「略90°」とは、90°の位相のみではなく、90°±45°の位相をも含むものとする。ディバイダ11は、90°ハイブリッド回路が例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0021】
増幅器31は、高周波信号RF3を増幅した高周波信号RF4を増幅器32に出力する。増幅器32は、高周波信号RF4を増幅した高周波信号RF5を結合器14に出力する。
【0022】
結合器14は、高周波信号RF2と高周波信号RF5とを結合した高周波信号RFoutを、ドハティ増幅回路1の出力端子1bから出力する。
【0023】
図2は、第1の実施の形態のドハティ増幅回路の利得可変の増幅器の構成を示す図である。図2は、増幅器31の構成を示す。なお、増幅器21の構成も、増幅器31の構成と同様であるので、図示及び説明を省略する。
【0024】
増幅器31は、入力端子31aに入力される高周波信号RF3を増幅して、高周波信号RF4を出力端子31bから出力する。増幅器31は、バイアス回路51から入力端子31cにバイアス電流又はバイアス電圧BIASが入力される。
【0025】
バイアス回路51は、入力される信号Sに基づいて、バイアス電流又はバイアス電圧BIASを可変し、増幅器31の入力端子31cに出力する。これにより、増幅器31は、バイアス点が可変し、利得が可変する。
【0026】
信号Sは、信号S1から信号S5までを含むことが例示される。信号S1は、高周波信号RFinの包絡線に応じて変化するエンベロープトラッキング信号が例示される。信号S2は、ドハティ増幅回路1に供給される電源電圧を表す信号が例示される。信号S3は、ドハティ増幅回路1の温度を表す信号が例示される。信号S4は、キャリアアンプ12の飽和状態を表す信号が例示される。信号S5は、ドハティ増幅回路1の反射電力を表す信号が例示される。但し、本開示はこれらに限定されない。
【0027】
増幅器31は、コンデンサCと、抵抗Rと、トランジスタQと、帰還回路41と、を含む。
【0028】
実施の形態では、各トランジスタは、バイポーラトランジスタとするが、本開示はこれに限定されない。バイポーラトランジスタは、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor:HBT)が例示されるが、本開示はこれに限定されない。トランジスタは、例えば、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)であっても良い。トランジスタは、複数の単位トランジスタを電気的に並列接続した、マルチフィンガートランジスタであっても良い。単位トランジスタとは、トランジスタが構成される最小限の構成を言う。
【0029】
各トランジスタがFETである場合、FETのドレインがバイポーラトランジスタのコレクタに相当し、FETのゲートがバイポーラトランジスタのベースに相当し、FETのソースがバイポーラトランジスタのエミッタに相当する。
【0030】
コンデンサCの一端は、入力端子31aに電気的に接続されている。コンデンサCの他端は、トランジスタQのベースに電気的に接続されている。コンデンサCは、高周波信号RF3の直流成分をカットするDCカットコンデンサである。
【0031】
抵抗Rの一端は、入力端子31cに電気的に接続されている。抵抗Rの他端は、トランジスタQのベースに電気的に接続されている。
【0032】
トランジスタQのエミッタは、基準電位に電気的に接続されている。基準電位は、接地電位が例示されるが、本開示はこれに限定されない。トランジスタQのコレクタには、入力端子31d及びチョークコイル52を介して、電源電圧が供給される。トランジスタQは、ベースに入力される高周波信号RF3を増幅し、高周波信号RF4をコレクタから出力端子31bに出力する。
【0033】
帰還回路41は、トランジスタQのベースとコレクタとの間に電気的に接続されている。帰還回路41は、抵抗Rと、コンデンサCと、を含む。抵抗R及びコンデンサCは、直列接続されている。抵抗Rの一端は、トランジスタQのベースに電気的に接続されている。抵抗Rの他端は、コンデンサCの一端に電気的に接続されている。コンデンサCの他端は、トランジスタQのコレクタに電気的に接続されている。
【0034】
実施の形態では、抵抗RがトランジスタQのベースに電気的に接続され、コンデンサCがトランジスタQのコレクタに電気的に接続されていることとしたが、本開示はこれに限定されない。抵抗RがトランジスタQのコレクタに電気的に接続され、コンデンサCがトランジスタQのベースに電気的に接続されていることとしても良い。
【0035】
トランジスタQは、ベース-コレクタ間に、寄生容量Cを有する。寄生容量Cは、ベース(P型半導体)とコレクタ(N型半導体)との間の接合容量である。
【0036】
(寄生容量の影響)
一般に、エミッタ接地増幅器において、ベースに入力された高周波信号は、増幅されコレクタ電流となる。このコレクタ電流が負荷に流れることで生じる電圧が、エミッタ接地増幅器から出力されるコレクタ電圧である。
【0037】
トランジスタのベース-コレクタ間の寄生容量の容量値は、コレクタ電圧の振幅が大きくなると(より正確には、コレクタ電圧の瞬時値が0V(ボルト)に近づく時間が長くなるほど)、大きくなる性質がある。
【0038】
寄生容量は、トランジスタの入力と出力とをつなぐものであるので、帰還容量となる。従って、寄生容量の容量値がコレクタ電圧の振幅により変化する性質によって、トランジスタの入力と出力との間の帰還量が変化し、エミッタ接地増幅器の特性(例えば、入力インピーダンス、通過位相特性等)が出力電力又は入力電力によって変化していた。
【0039】
よって、ドハティ増幅回路は、出力電力又は入力電力によって通過位相特性が変化するエミッタ接地増幅器を用いると、キャリアアンプの高周波出力信号とピークアンプの高周波出力信号との間の好適な位相差を維持することができず、特性が低下していた。
【0040】
(第1の実施の形態の特徴)
一方、第1の実施の形態の増幅器31では、トランジスタQのコレクタから抵抗Rを介してベースに至る帰還回路41が設けられている。帰還回路41は、増幅後の高周波信号RF4に基づく電圧振幅又は電流振幅をトランジスタQのベースに与える回路である。加えて、帰還回路41は、直流を遮断するためのDCカットコンデンサであるコンデンサCが抵抗Rに直列に電気的に接続されている。
【0041】
抵抗Rの抵抗値は、寄生容量Cのインピーダンス以下にすることが例示される。これにより、増幅器31は、入力電力及び出力電力に依らず安定した特性を実現しやすくなる。なぜならば、抵抗Rの抵抗値を低くすることにより、帰還回路41を通過する帰還量(電圧振幅又は電流振幅)を、寄生容量Cを通過する帰還量よりも大きくすることができる。従って、寄生容量Cが変化しても、帰還回路41を通過する帰還量が寄生容量Cを通過する帰還量よりも大きいので、寄生容量Cを通過する帰還量の変化を相対的に小さくすることができる。その結果、増幅器31は、出力電力又は入力電力に依らず安定した特性を実現できる。
【0042】
なお、同様の観点から、コンデンサCの容量は、寄生容量Cの容量以上にすることが例示される。例えば、寄生容量Cの容量値が数pF(ピコファラド)程度である場合、コンデンサCの容量値は、数十pF程度が例示される。
【0043】
(回路シミュレーション結果)
図3は、比較例の増幅器の回路シミュレーション結果を示す図である。比較例は、増幅器31の帰還回路41を無くしたものである。図3において、横軸は、入力電力(dBm)を表し、縦軸は、位相遅れ(deg)を表す。位相遅れは、トランジスタQの出力電圧の位相がトランジスタQへの入力電圧の位相に対してどの程度遅れているかを表す。
【0044】
図3に示すように、帰還回路41が無い比較例では、入力電力が変化するのに伴って、位相遅れが大きく変化する。
【0045】
図4は、第1の実施の形態の利得可変の増幅器の回路シミュレーション結果を示す図である。図4において、横軸は、入力電力(dBm)を表し、縦軸は、位相遅れ(deg)を表す。
【0046】
図4図3と比較すると、帰還回路41を備える増幅器31では、入力電力が変化しても、位相遅れの変化が抑制される。
【0047】
(効果)
増幅器31は、帰還回路41を備えることにより、出力電力又は入力電力が変化しても、トランジスタQの特性(入力インピーダンス、通過位相特性等)の変化を抑制することができる。これにより、ドハティ増幅回路1は、キャリアアンプ12が出力する高周波信号RF2とピークアンプ13が出力する高周波信号RF5との間の位相差が変化することを抑制することができるので、特性の低下(高周波信号RFoutの歪み)を抑制できる。
【0048】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態の構成要素のうち、第1の実施の形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
第1の実施の形態の増幅器31は、増幅用トランジスタがトランジスタQの1個だけであり、出力電力には限度があった。そこで、第2の実施の形態の増幅器31Aは、増幅用トランジスタを複数の単位トランジスタで構成することとした。これにより、第2の実施の形態の増幅器31Aは、出力電力を大きくすることが可能になる。
【0050】
(構成)
図5は、第2の実施の形態の利得可変の増幅器の構成を示す図である。
【0051】
増幅器31Aは、コンデンサCと、セル61、61、・・・、61(Nは、自然数)と、を含む。セル61、61、・・・、61は、マルチフィンガー(マルチセル)トランジスタとしてGaAs基板、Si基板等に形成され得る。コンデンサCも、セル61、61、・・・、61が形成される基板に形成され得る。
【0052】
セル61は、コンデンサCB1と、抵抗RB1と、抵抗RF1と、トランジスタQと、を含む。トランジスタQのベース-コレクタ間の寄生容量は、記載を省略している。コンデンサCB1と、抵抗RB1と、抵抗RF1と、トランジスタQと、の接続関係は、増幅器31(図2参照)と同様であるので、説明を省略する。抵抗RF1の他端は、コンデンサCの一端に電気的に接続されている。
【0053】
抵抗RF1とコンデンサCとが、トランジスタQのベース-コレクタ間の帰還回路を構成する。
【0054】
セル61は、コンデンサCB2と、抵抗RB2と、抵抗RF2と、トランジスタQと、を含む。トランジスタQのベース-コレクタ間の寄生容量は、記載を省略している。コンデンサCB2と、抵抗RB2と、抵抗RF2と、トランジスタQと、の接続関係は、増幅器31(図2参照)と同様であるので、説明を省略する。抵抗RF2の他端は、コンデンサCの一端に電気的に接続されている。
【0055】
抵抗RF2とコンデンサCとが、トランジスタQのベース-コレクタ間の帰還回路を構成する。
【0056】
セル61は、コンデンサCBNと、抵抗RBNと、抵抗RFNと、トランジスタQと、を含む。トランジスタQのベース-コレクタ間の寄生容量は、記載を省略している。コンデンサCBNと、抵抗RBNと、抵抗RFNと、トランジスタQと、の接続関係は、増幅器31(図2参照)と同様であるので、説明を省略する。抵抗RFNの他端は、コンデンサCの一端に電気的に接続されている。
【0057】
抵抗RFNとコンデンサCとが、トランジスタQのベース-コレクタ間の帰還回路を構成する。
【0058】
つまり、コンデンサCは、セル61、61、・・・、61の帰還回路に共用されている。コンデンサCは、DCカットコンデンサであるので、共用可能である。
【0059】
トランジスタQ、Q、・・・、Qが、本開示の「単位トランジスタ」の一例に相当する。抵抗RF1、RF2、・・・、RFNが、本開示の「単位抵抗」の一例に相当する。
【0060】
(比較例)
比較例は、コンデンサCを共用しないで、セル毎にコンデンサを設ける。つまり、図2に示す増幅器31を単純にN個並列接続する。
【0061】
[比較例の第1レイアウト例]
図6は、比較例の第1レイアウト例を示す図である。
【0062】
セル61、61、・・・、61は、一方向(図中左右方向)に沿って、間隔を空けずに、基板71に形成されている。
【0063】
コンデンサCF1、CF2、・・・、CFNは、一方向に沿って、間隔を空けて、基板71に形成されている。
【0064】
セル61、61、・・・、61の列と、コンデンサCF1、CF2、・・・、CFNの列とは、並行している。
【0065】
コンデンサCF1は、相対的に下層の極板81と、相対的に上層の極板82と、を含む。図6では、図面の見易さのため、極板81のサイズと、極板82のサイズと、を異ならせているが、同サイズでも良い。
【0066】
セル61の中のトランジスタQのコレクタは、配線83を介して、極板81に電気的に接続されている。
【0067】
セル61の中の抵抗RF1図5参照)と極板82とを電気的に接続する配線84は、セル61の上層(又は下層)を引き回す必要がある。
【0068】
[比較例の第2レイアウト例]
図7は、比較例の第2レイアウト例を示す図である。第2レイアウト例のうち、第1レイアウト例と共通の構成については、説明を省略する。
【0069】
セル61、61、・・・、61は、一方向に沿って、間隔を空けて、基板71に形成されている。
【0070】
セル61の中の抵抗RF1図5参照)と極板82とを電気的に接続する配線84は、セル61とセル61との間を引き回す必要がある。
【0071】
(第2の実施の形態のレイアウト例)
図8は、第2の実施の形態の利得可変の増幅器のレイアウト例を示す図である。第2の実施の形態のレイアウト例のうち、比較例のレイアウト例と共通の構成については、説明を省略する。
【0072】
セル61、61、・・・、61は、一方向に沿って、間隔を空けずに、基板71に形成されている。
【0073】
コンデンサCは、一方向に沿って延在する長方形の形状を有する。
【0074】
コンデンサCは、相対的に下層の極板91と、相対的に上層の極板92と、を含む。図8では、図面の見易さのため、極板91のサイズと、極板92のサイズと、を異ならせているが、同サイズでも良い。
【0075】
セル61、61、・・・、61の列と、コンデンサCとは、並行している。
【0076】
セル61、61、・・・、61の列の一方向の幅と、コンデンサCの一方向の幅とは、略同じであることが例示される。
【0077】
セル61、61、・・・、61の中の抵抗RF1、RF2、・・・、RFN図5参照)と極板92とを電気的に接続する配線93は、セル61の図中左辺に沿って、基板71の面上に延在する。セル61、61、・・・、61の中の抵抗RF1、RF2、・・・、RFNと極板92とを電気的に接続する配線94は、セル61の図中右辺に沿って、基板71の面上に延在する。
【0078】
なお、配線93及び配線94は、どちらか一方だけ設けられても良い。但し、配線93及び配線94の両方を設けることとすると、レイアウトの対称性に優れる利点がある。
【0079】
(効果)
第2の実施の形態のレイアウト例(図8参照)は、比較例の第1レイアウト例(図6参照)と比較して、配線93及び配線94をセル61、61、・・・、61の上層(又は下層)、特に各セル61、61、・・・、61のベース、或いは、ゲート側を引き回すことなく、基板71の面上に形成することができる。
【0080】
第2の実施の形態のレイアウト例(図8参照)は、比較例の第2レイアウト例(図7参照)と比較して、配線93及び配線94の本数を少なくすることができる。また、セル61、61、・・・、61の列の一方向の幅を短くすることができる。
【0081】
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態の構成要素のうち、他の実施の形態の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
図9は、第3の実施の形態の増幅器の構成を示す図である。
【0083】
増幅器31Bは、増幅器31(図2参照)と比較して、帰還回路41に代えて、帰還回路41Bを含む。
【0084】
帰還回路41Bは、トランジスタQのエミッタと基準電位との間に電気的に接続されている。帰還回路41Bは、抵抗Rを含む。抵抗Rの一端は、トランジスタQのエミッタに電気的に接続されている。抵抗Rの他端は、基準電位に電気的に接続されている。
【0085】
(効果)
[1]
抵抗Rは、トランジスタQのエミッタ電流(≒コレクタ電流)に比例する電圧降下を発生する。
【0086】
抵抗Rは、トランジスタQのエミッタ電流が増加すると、電圧降下量が増加し、トランジスタQのエミッタ電位を上昇させ、トランジスタQのベース-エミッタ間電圧を減少させる。その結果、トランジスタQの出力電流が減少する。
【0087】
抵抗Rは、トランジスタQのエミッタ電流が減少すると、電圧降下量が減少し、トランジスタQのエミッタ電位を下降させ、トランジスタQのベース-エミッタ間電圧を増加させる。その結果、トランジスタQの出力電流が増加する。
【0088】
つまり、抵抗Rは、直列負帰還回路である。
【0089】
上記の通り、抵抗Rによってネガティブフィードバック効果が得られる。つまり、抵抗Rは、増幅後の高周波信号RF4(トランジスタQのコレクタ電流(≒エミッタ電流)の高周波成分の一部)に基づく電圧降下をトランジスタQのベースに与える帰還回路である。このネガティブフィードバックによって、第1の実施の形態の増幅器31と同様に、特性の低下(高周波信号RFoutの歪み)を抑制できる。
【0090】
[2]
増幅器31Bは、増幅器31(図2参照)と比較して、ダメージに対する安定性(耐性)を有する。
【0091】
バイアス回路51(図2参照)は、状況変化に高速(例えば、数nsec(ナノ秒)程度)に追従するために、低速化につながる演算及び機能が極力省かれる。そのため、増幅器31では、トランジスタQのベースに、高い電圧が制限されずに印加されることがあり得る。その結果、トランジスタQのベース-エミッタ間に大きな電圧が掛かり、コレクタに大電流が流れ、トランジスタQが大きなダメージを受けることがあった。
【0092】
一方、増幅器31Bでは、トランジスタQのエミッタと基準電位との間に抵抗Rが電気的に接続されている。トランジスタQのベースに大きな電圧が印加されコレクタに電流が流れると、コレクタ電流と略同じ電流がエミッタに流れる。すると、抵抗Rで電圧降下が発生し、トランジスタQのエミッタ電位が上昇する。結果として、トランジスタQのベース-エミッタ間に大きな電圧が掛かることが抑制されるので、トランジスタQが大きなダメージを受けることが抑制される。
【0093】
[3]
増幅器31Bは、増幅器31(図2参照)と比較して、発振に対する安定性を有する。
【0094】
バイアス回路51によって意図的にバイアス点を変化させると、増幅器31が発振しやすいバイアス条件が発生する可能性が高くなる。例えば、瞬間的に高いバイアス状態では、バイアスが高いことでトランジスタQの電流増幅率も高く、増幅器31が発振しやすい。また、トランジスタQの温度が低い場合は、トランジスタQの電流増幅率が高く、増幅器31が発振しやすい。
【0095】
増幅器31(図2参照)は、抵抗Rの両端に寄生容量が発生した場合、高い周波数において正帰還になることがあり、発振することがあり得る。
【0096】
一方、増幅器31Bでは、抵抗Rの両端に寄生容量が発生した場合でも、正帰還になることはなく、発振に至りにくくなる。
【0097】
<本開示の構成例>
本開示は、下記の構成をとることもできる。
【0098】
(1)
1つ又は複数の増幅器を含むキャリアアンプと、
1つ又は複数の増幅器を含むピークアンプと、
を含み、
少なくとも1つの前記増幅器は、
高周波信号並びに変化するバイアス電圧又はバイアス電流がベース又はゲートに入力され、増幅後の高周波信号をコレクタ又はドレインから出力するトランジスタと、
前記増幅後の高周波信号に基づく電圧又は電流を前記トランジスタのベース若しくはゲート又はエミッタ若しくはソースに与える帰還回路と、
を含む、
ドハティ増幅回路。
【0099】
(2)
上記(1)に記載のドハティ増幅回路であって、
前記帰還回路は、
前記トランジスタのベース又はゲートとコレクタ又はドレインとの間に電気的に接続された抵抗を含む、
ドハティ増幅回路。
【0100】
(3)
上記(2)に記載のドハティ増幅回路であって、
前記帰還回路は、
前記抵抗と直列接続されたコンデンサを更に含む、
ドハティ増幅回路。
【0101】
(4)
上記(3)に記載のドハティ増幅回路であって、
少なくとも1つの前記増幅器は、
前記トランジスタを構成する複数の単位トランジスタ及び前記抵抗を構成する複数の単位抵抗を夫々含む、複数のセルを含み、
前記コンデンサは、
前記複数のセルに共通して設けられている、
ドハティ増幅回路。
【0102】
(5)
上記(4)に記載のドハティ増幅回路であって、
少なくとも1つの前記増幅器は、
前記複数のセルは、
一方向に沿って配列され、
前記コンデンサは、
前記一方向に沿って延在し、前記複数の単位トランジスタのコレクタ又はドレインに電気的に接続された第1極板と、
前記一方向に沿って延在し、前記第1極板に対向する第2極板と、
を含み、
前記第2極板と前記複数の単位抵抗との間を電気的に接続する1つ又は2つの配線は、前記第2極板の一方又は両方の端部から前記複数のセルの一方又は両方の端部の外側を通過して設けられている、
ドハティ増幅回路。
【0103】
(6)
上記(1)に記載のドハティ増幅回路であって、
前記帰還回路は、
前記トランジスタのエミッタ又はソースと基準電位との間に電気的に接続された抵抗を含む、
ドハティ増幅回路。
【0104】
(7)
上記(1)から(6)のいずれか1つに記載のドハティ増幅回路であって、
前記バイアス電圧又はバイアス電流は、高周波信号の包絡線、電源電圧、温度、前記キャリアアンプの飽和状態及び反射電力の内の少なくとも1つに基づいて変化する、
ドハティ増幅回路。
【0105】
なお、上記した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0106】
1 ドハティ増幅回路
11 ディバイダ
12 キャリアアンプ
13 ピークアンプ
14 結合器
21、22、31、31A、31B、32 増幅器
41、41B 帰還回路
51 バイアス回路
61、61、・・・、61 セル
コンデンサ
抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9