(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050155
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ガラス長繊維用集束剤、ガラスヤーン及びガラスクロス
(51)【国際特許分類】
D06M 13/17 20060101AFI20240403BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20240403BHJP
D06M 15/356 20060101ALI20240403BHJP
C03C 25/1095 20180101ALI20240403BHJP
【FI】
D06M13/17
D06M15/53
D06M15/356
C03C25/1095
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156827
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305040569
【氏名又は名称】ユニチカグラスファイバー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 崇治
(72)【発明者】
【氏名】芦原 公美
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 直央
【テーマコード(参考)】
4G060
4L033
【Fターム(参考)】
4G060AA12
4G060BA02
4G060BB02
4G060BC01
4G060BC02
4G060BC10
4G060BD15
4G060BD22
4G060CB12
4G060CB24
4G060CB33
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC12
4L033BA14
4L033CA11
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】 エアージェット織機において緯入れする際に、到達角度の変動を抑制する(飛走性のバラツキが生じにくい)ガラスヤーンを得ることに寄与する、ガラス長繊維用集束剤及び該ガラス長繊維用集束剤を塗布して得られるガラスヤーンに関する技術、の提供を主な課題とする。
【解決手段】 本発明は、(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンと、を含む、ガラス長繊維用集束剤を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンとを含む、ガラス長繊維用集束剤。
【請求項2】
前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する前記(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルの質量の割合が5~38質量%である、請求項1記載のガラス長繊維用集束剤。
【請求項3】
前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する前記(B)ポリビニルピロリドンの質量の割合が5~28質量%である、請求項2記載のガラス長繊維用集束剤。
【請求項4】
(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンとを含む皮膜が形成されているガラス長繊維を含む、ガラスヤーン。
【請求項5】
請求項4記載のガラスヤーンで形成された、ガラスクロス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス長繊維用集束剤、ガラスヤーン及びガラスクロスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の軽量化に伴い、プリント基板及びプリント基板用プリプレグの補強材料であるガラスクロスに対して、薄肉化の要求が高まっている。ガラスクロスの薄肉化の取り組みとして、細番手(単繊維の直径が5μm以下)のガラス長繊維を適用して、エアージェット織機を用いて高密度に製織することが進められている。そして、製織されたガラスクロスには、開繊処理が施され、製織直後よりさらに薄くなるように加工されている。より薄く加工することで、プリント基板及びプリント基板用プリプレグを作製する際のマトリクス樹脂の含浸性を高めることができ、プリント基板及びプリント基板用プリプレグの加工速度を向上させることができる。
【0003】
プリント基板の補強材料として用いられるガラス長繊維は、製織性を向上させる目的で、澱粉を含む集束剤を塗布し、製織されるのが一般的である。澱粉を含む集束剤を塗布したガラス長繊維を用いて製織されたガラスクロスは、基板材料としての機械物性、耐熱性、電気特性等への悪影響を防ぐために、澱粉等を除去するヒートクリーニング処理が施されている。すなわち、澱粉がガラスクロスに塗布されたままだと、澱粉がプリント基板及びプリント基板用プリプレグのマトリクス樹脂のガラス長繊維との密着性を阻害し、得られるプリント基板及びプリント基板用プリプレグにボイド等が発生し、機械物性、耐熱性、電気特性等に悪影響を及ぼす。
【0004】
一方、ヒートクリーニング処理をおこなうと、一般的なヒートクリーニング処理ではガラスクロスが400℃以上の高温に長時間曝されるため、ガラスクロスを構成するガラス長繊維は熱によりその強度が低下する。当該強度低下は、ガラスクロスを構成するガラスヤーンの単繊維直径を小さくして(例えば5μm以下)、薄いガラスクロスとした場合により影響が大きくなる。
【0005】
そこで、澱粉を含ませないようにしヒートクリーニング処理を必要としないようにした集束剤の検討が行われている。当該集束剤として、例えば、特許文献1には、シランカップリング剤と、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、帯電防止剤と、柔軟剤と、平均粒子径が1μm以下のポリマー微粒子とを含むガラス長繊維用集束剤が提案されている。当該文献によれば、ガラスクロスの開繊効率や複合材料とする際の前記クロスへのマトリクス樹脂の含浸性を向上させ、得られる複合材料の機械特性を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されているガラス長繊維用集束剤は、当該集束剤を塗布したガラス長繊維を用いてガラスクロスとする場合、開繊効率やマトリクス樹脂の含浸性は向上する。しかし、当該ガラス長繊維をガラスクロスの緯糸としてエアージェット織機で緯入れする際、到達角度(到達タイミング)のバラツキが生じ、これに起因してガラスクロスに毛羽が発生しやすくなることを知得した。すなわち、エアージェット織機においては、緯糸の到達タイミングが部分的に遅くなると、これを検知し自動でエアー圧力を高めて、到達角度が設定どおりとなるようにしている。そして、本発明者は、上記特許文献1の集束剤を塗布して得られるガラスヤーンを緯糸として緯入れした場合、当該エアー圧力の変動が生じ(すなわち、ガラスヤーンの飛走性のバラツキが生じ)、緯入れの際に発生する毛羽が生じやすくなることを知得したのである。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を解決し、エアージェット織機において緯入れする際に、到達角度の変動を抑制する(飛走性のバラツキが生じにくい)ガラスヤーンを得ることに寄与する、ガラス長繊維用集束剤及び該ガラス長繊維用集束剤を塗布して得られるガラスヤーンに関する技術、の提供を主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が上記問題について検討したところ、(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンとを含む集束剤とすることで、意外にも、エアージェット織機において緯入れする際に、到達角度の変動を抑制する(飛走性のバラツキが生じにくい)ガラスヤーンを得ることに寄与することを突き止めた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンとを含む、ガラス長繊維用集束剤。
項2.前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する前記(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルの質量の割合が5~38質量%である、項1記載のガラス長繊維用集束剤。
項3.前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する前記(B)ポリビニルピロリドンの質量の割合が5~28質量%である、項2記載のガラス長繊維用集束剤。
項4.(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンとを含む皮膜が形成されているガラス長繊維を含む、ガラスヤーン。
項5.項4記載のガラスヤーンで形成された、ガラスクロス。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガラス長繊維用集束剤は、(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンとを含むことから、エアージェット織機において緯入れする際に、到達角度の変動を抑制する(飛走性のバラツキが生じにくい)ガラスヤーンを得ることに寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.ガラス長繊維用集束剤
本発明のガラス長繊維用集束剤は、(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンとを含むことを特徴とする。本発明のガラス長繊維用集束剤では、前記2つの成分を一体として含むことにより、エアージェット織機において緯入れする際に、到達角度の変動を抑制する(飛走性のバラツキが生じにくい)ガラスヤーンを得ることに寄与する。以下、本発明のガラス長繊維用集束剤について詳細に説明する。
【0013】
[(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル]
本発明のガラス長繊維用集束剤は(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(以下、単に(A)成分と示すことがある。)を含む。本発明において、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルとは、下記一般式(1)で示される化合物である。
【0014】
【0015】
一般式(1)中、R1及びR2は、同一又は異なって、アルキレン基を示す。アルキレン基の炭素数としては、例えば、2~4個、好ましくは2又は3個、より好ましくは2個が挙げられる。一般式(1)中、n1及びn2は、アルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す。n1及びn2として、例えば、2~50、好ましくは4~30、より好ましくは6~20が挙げられる。n1及びn2は、それぞれ異なる数値であってもよいが、略同一の数値であってもよい。ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルの一態様として、一般式(1)において、R1及びR2が同一のアルキレン基であり、且つn1及びn2は略同一の数値であるものが挙げられる。
【0016】
本発明で使用されるポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルとしては、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテルまたはポリオキシプロピレンビスフェノールAエーテルが好ましく挙げられる。中でも、潤滑性に優れ、ガラスヤーン製造時の毛羽発生をより低減しやすくする観点から、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテルがより好ましい。本発明で使用されるポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルにおけるアルキレンオキサイドの平均付加モル数としては、例えば、2~40、好ましくは4~30、より好ましくは6~20が挙げられる。ここで、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルにおけるアルキレンオキサイドの平均付加モル数とは、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルを構成している2本のポリアルキレンオキサイド鎖に含まれるアルキレンオキサイドの総数の平均値である。
【0017】
本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対するポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルの質量の割合としては、5~95質量%が挙げられ、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより抑制する観点から5~38質量%が好ましい。また、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより抑制することと、ガラスヤーン製造時の毛羽発生を抑制することとをより両立させる観点からは25~35質量%がより好ましく、28~32質量%がさらに好ましい。また、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより一層抑制する観点から、5~12質量%がより好ましく、8~12質量%がさらに好ましい。なお、本発明において、「不揮発性成分」とは、常圧下、110℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0018】
[(B)ポリビニルピロリドン]
本発明のガラス長繊維用集束剤は、(B)ポリビニルピロリドン(以下、単に(B)成分と示すことがある。)を含む。本発明において、ポリビニルピロリドンは、特に、その分子量に制限はないが、例えば、重量平均分子量5,000~1,000,000程度が挙げられる。ポリビニルピロリドンの状態についての制限はなく、粉末製品を用いて溶液を作製しても、液体製品を用いてもよい。本発明において使用可能なポリビニルピロリドンの具体例としては、例えば、ポリビニルピロリドンK-30、ポリビニルピロリドンK-85、ポリビニルピロリドンK-30W、ポリビニルピロリドンK-85W(以上、(株)日本触媒製)、ピッツコールK-30(分子量45,000)、ピッツコールK-50(分子量250,000)、ピッツコールK-80(分子量900,000)、ピッツコールK-85(分子量1,000,000)(以上、第一工業製薬(株)製)等を挙げることができるがこの限りではない。中でも、ガラス長繊維への集束剤の付着量(ガラスヤーンの強熱減量値)をより調整しやすくする観点から好ましいポリビニルピロリドンとして、ピッツコールK-30(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0019】
本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する(B)ポリビニルピロリドンの質量の割合としては、5~95質量%が挙げられ、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより抑制する観点から5~28質量%が好ましい。また、上記割合は、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより抑制することと、ガラスヤーン製造時の毛羽発生を抑制することとをより両立させる観点から5~15質量%がより好ましく、8~12質量%がさらに好ましい。また、上記割合は、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより一層抑制する観点から、18~25質量%が好ましく、18~22質量%がさらに好ましい。
【0020】
本発明のガラス長繊維用集束剤において、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する(A)成分及び(B)成分の総量((A)成分及び(B)成分の含有量の合計)の割合としては、10~100質量%が挙げられ、好ましくは23~50質量%、より好ましくは26~44質量%が挙げられる。また、上記割合は、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより抑制することと、ガラスヤーン製造時の毛羽発生を抑制することとをより両立させる観点から30~50質量%であることがより好ましく、36~44質量%がさらに好ましい。また、上記割合は、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより一層抑制する観点から、23~37質量%が好ましく、26~34質量%がさらに好ましい。
【0021】
[(A)及び(B)成分以外のその他の不揮発性成分]
本発明のガラス長繊維用集束剤は、(A)及び(B)成分に加えて、本発明の効果を奏する範囲で、(A)及び(B)成分以外のその他の不揮発性成分(以下、「その他の不揮発性成分」と示すことがある。)を含有することができる。
【0022】
[(C)シランカップリング剤及び/又はその反応物]
本発明のガラス長繊維用集束剤に配合できるその他の不揮発性成分として、例えば、シランカップリング剤及び/又はその反応物が挙げられる。シランカップリング剤及び/又はその反応物は、ガラス長繊維または得られるプリント基板及びプリント基板用プリプレグの機械物性を改善する目的で用いられる。
【0023】
本発明において、シランカップリング剤は、例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-グリシドキシエトキシトリメトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、N-[2-(ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、等が挙げられる。
【0024】
これらのシランカップリング剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
これらのシランカップリング剤中でも、アミノ基を有するアミノシランカップリング剤が好ましく、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-[2-(ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩がより好ましく、N-[2-(ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩が特に好ましい。
【0026】
シランカップリング剤の反応物としては、例えば、シランカップリング剤の加水分解物、該加水分解物の脱水縮合物等が挙げられる。ガラス長繊維用集束剤中に、シランカップリング剤が存在すると、シランカップリング剤が加水分解されて加水分解物として存在したり、該加水分解物の脱水縮合物として存在したりすることがある。
【0027】
本発明のガラス長繊維用集束剤にシランカップリング剤及び/又はその反応物を含有させる場合、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対するシランカップリング剤及び/又はその反応物の質量の割合としては、例えば、20~40質量%が挙げられ、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより抑制することとガラスヤーン製造時の毛羽発生を抑制することとをより両立させる観点からは20~28質量%が好ましく挙げられ、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより一層抑制する観点からは32~40質量%が好ましく挙げられる。
【0028】
本発明のガラス長繊維用集束剤にシランカップリング剤及び/又はその反応物を含有させる場合、シランカップリング剤及び/又はその反応物100質量部に対する(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルの質量の比率としては、例えば、20~150質量部が挙げられ、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより一層抑制する観点から20~49質量部が好ましく挙げられ、25~35質量部がより好ましく挙げられる。
【0029】
[(D)柔軟剤成分]
本発明のガラス長繊維用集束剤に配合できるその他の不揮発性成分の他の例として、柔軟剤成分が挙げられる。柔軟剤成分を含むことにより、ガラスヤーン製造時の毛羽発生をより抑制しやすくすることができる。
【0030】
本発明において、柔軟剤成分は、例えば、ポリアミド誘導体、脂肪酸アミド誘導体、アルキルアミド誘導体、アミノ変性シリコン誘導体、アルキルポリアミン誘導体等が挙げられる。これらの柔軟剤成分の中でも、好ましくはアルキルポリアミン誘導体が挙げられる。
【0031】
本発明のガラス長繊維用集束剤に柔軟剤成分を含有させる場合、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する柔軟剤成分の質量の割合としては、例えば、10~30質量%が挙げられ、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより抑制することとガラスヤーン製造時の毛羽発生を抑制することとをより両立させる観点から15~25質量%が好ましく挙げられ、18~22質量%がより好ましく挙げられる。
【0032】
[(E)界面活性剤成分]
また、本発明のガラス長繊維用集束剤に配合できるその他の不揮発性成分の他の例として、界面活性剤成分が挙げられる。界面活性剤成分は、ガラス長繊維間の潤滑成分として機能し、ガラスヤーン製造時の毛羽発生をより抑制しやすくすることができる。
【0033】
本発明において界面活性剤成分は、エーテル型のノニオン系界面活性剤が好ましく挙げられ、中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが特に好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとは、ポリオキシエチレン鎖とアルキル基がエーテル結合している化合物である。本発明で使用されるポリオキシエチレンアルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数としては、例えば、6~30、好ましくは12~24が挙げられる。また、本発明で使用されるポリオキシエチレンアルキルエーテルにおけるエチレンオキサイドの付加モル数としては、例えば、1~60、好ましくは3~50が挙げられる。
【0034】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして具体的には、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられる。
【0035】
本発明のガラス長繊維用集束剤に界面活性剤成分を含有させる場合、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する界面活性剤成分の質量の割合としては、例えば、3~15質量%が挙げられ、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより抑制することとガラスヤーン製造時の毛羽発生を抑制することとをより両立させる観点から5~12質量%が好ましく挙げられ、8~12質量%がより好ましく挙げられる。
【0036】
[(F)ポリマー粒子]
さらに、本発明のガラス長繊維用集束剤に配合できるその他の不揮発性成分の他の例として、ポリマー粒子が挙げられる。ポリマー粒子を含むことにより、ガラスクロスの開繊効率を高め、プリント基板及びプリント基板用プリプレグとする際の前記クロスへのマトリクス樹脂の含浸性を向上させ、得られるプリント基板及びプリント基板用プリプレグの機械特性を向上させることができる。
【0037】
ポリマー粒子のポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸、ポリアリレート、液晶ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ダイマー酸ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、共重合ポリエステル、ポリエチレンイミン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、イミン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂が挙げられる。中でも、ガラスクロスの開繊効率を高めやすくする観点から、ポレオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂が好ましく、ガラスクロスの開繊効率を高めることとガラスヤーン製造時の毛羽発生をより抑制しやすくすることとをより両立する観点から、アクリル系樹脂がより好ましい。アクリル系樹脂としては、特に制限されないが、ポリメタクリル酸アクリルエステルが好ましく、ポリメタクリル酸メチルがより好ましい。
【0038】
ポリマー粒子の平均粒子径(メジアン径)は、特に限定されないが、例えば、1~7μm程度が挙げられる。本発明において、ポリマー粒子の平均粒子径は、動的光散乱光度計(大塚電子製LPAシステム;ELSZ-2000ZS)によって次の条件で測定される値である。すなわち、ポリマー粒子が分散媒中に分散した分散液(エマルションを含む。)を測定可能な濃度まで蒸留水で希釈した後、四面透過型10mm角セルに満たし、25℃の条件でHe-Neレーザーを照射し測定を行い、数平均粒子径値(50%粒子径)を求める。
【0039】
本発明のガラス長繊維用集束剤に界面活性剤成分を含有させる場合、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対するポリマー粒子の質量の割合としては、例えば、1~10質量%が挙げられ、ガラスクロスの開繊効率を高めることとガラスヤーン製造時の毛羽発生をより抑制しやすくすることとをより両立する観点から3~8質量%が好ましく挙げられる。
【0040】
本発明のガラス長繊維用集束剤において、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する、その他の不揮発性成分の総量((A)成分及び(B)成分以外の不揮発性成分の合計量)の割合としては、0~90質量%が挙げられ、好ましくは50~77質量%、より好ましくは56~74質量%が挙げられる。また、上記割合は、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより抑制することと、ガラスヤーン製造時の毛羽発生を抑制することとをより両立させる観点から50~70質量%であることがより好ましく、56~64質量%がさらに好ましい。また、上記割合は、エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動をより一層抑制する観点から、63~77質量%が好ましく、66~74質量%がさらに好ましい。
【0041】
本発明のガラス長繊維用集束剤の好ましい実施態様の例としては、次のようなものが挙げられる。
(1)(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンと前記(A)成分及び前記(B)成分以外のその他の不揮発性成分を含む、ガラス長繊維用集束剤であって、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対するポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルの質量の割合が25~35質量%であり、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する(B)ポリビニルピロリドンの質量の割合が5~15質量%であり、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する、その他の不揮発性成分の総量((A)成分及び(B)成分以外の不揮発性成分の合計量)の割合が50~70質量%であり、前記その他の不揮発成分として、(C)シランカップリング剤及び/又はその反応物、(D)ポリアミド誘導体、脂肪酸アミド誘導体、アルキルアミド誘導体、アミノ変性シリコン誘導体及びアルキルポリアミン誘導体からなる群より選ばれる1種以上の柔軟剤成分、(E)エーテル型のノニオン系界面活性剤、並びに(F)アクリル樹脂及び/若しくはポリオレフィン系樹脂からなるポリマー微粒子からなる群より選ばれる1種以上を含む、ガラス長繊維用集束剤。
(2)(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンと前記(A)成分及び前記(B)成分以外のその他の不揮発性成分を含む、ガラス長繊維用集束剤であって、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対するポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルの質量の割合が25~35質量%であり、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する(B)ポリビニルピロリドンの質量の割合が5~15質量%であり、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する、その他の不揮発性成分の総量((A)成分及び(B)成分以外の不揮発性成分の合計量)の割合が50~70質量%であり、前記その他の不揮発成分として、(C)シランカップリング剤及び/又はその反応物、(D)ポリアミド誘導体、脂肪酸アミド誘導体、アルキルアミド誘導体、アミノ変性シリコン誘導体及びアルキルポリアミン誘導体からなる群より選ばれる1種以上の柔軟剤成分、(E)エーテル型のノニオン系界面活性剤、並びに(F)アクリル樹脂及び/若しくはポリオレフィン系樹脂からなるポリマー微粒子を含む、ガラス長繊維用集束剤。
(3)(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンと前記(A)成分及び前記(B)成分以外のその他の不揮発性成分を含む、ガラス長繊維用集束剤であって、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対するポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルの質量の割合が5~12質量%であり、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する(B)ポリビニルピロリドンの質量の割合が18~25質量%であり、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する、その他の不揮発性成分の総量((A)成分及び(B)成分以外の不揮発性成分の合計量)の割合が63~77質量%であり、前記その他の不揮発成分として、(C)シランカップリング剤及び/又はその反応物、(D)ポリアミド誘導体、脂肪酸アミド誘導体、アルキルアミド誘導体、アミノ変性シリコン誘導体及びアルキルポリアミン誘導体からなる群より選ばれる1種以上の柔軟剤成分、(E)エーテル型のノニオン系界面活性剤、並びに(F)アクリル樹脂及び/若しくはポリオレフィン系樹脂からなるポリマー微粒子からなる群より選ばれる1種以上を含む、ガラス長繊維用集束剤。
(4)(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンと前記(A)成分及び前記(B)成分以外のその他の不揮発性成分を含む、ガラス長繊維用集束剤であって、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対するポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルの質量の割合が5~12質量%であり、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する(B)ポリビニルピロリドンの質量の割合が18~25質量%であり、前記ガラス長繊維用集束剤に含まれる全不揮発性成分の総質量に対する、その他の不揮発性成分の総量((A)成分及び(B)成分以外の不揮発性成分の合計量)の割合が63~77質量%であり、前記その他の不揮発成分として、(C)シランカップリング剤及び/又はその反応物、(D)ポリアミド誘導体、脂肪酸アミド誘導体、アルキルアミド誘導体、アミノ変性シリコン誘導体及びアルキルポリアミン誘導体からなる群より選ばれる1種以上の柔軟剤成分、(E)エーテル型のノニオン系界面活性剤、並びに(F)アクリル樹脂及び/若しくはポリオレフィン系樹脂からなるポリマー微粒子を含む、ガラス長繊維用集束剤。
【0042】
[水性溶媒(揮発性成分)]
本発明のガラス長繊維用集束剤は、基剤として水性溶媒(揮発性成分)を含有する。水性溶媒の種類については、特に制限されないが、例えば、水、水溶性有機溶媒、及びこれらの混用溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類、N-メチルピロリドン等の極性溶媒が挙げられる。
【0043】
本発明のガラス長繊維用集束剤における水性溶媒の濃度は、不揮発性成分を除く残部を占めていればよい。
【0044】
[製造方法]
本発明のガラス長繊維用集束剤は、(A)及び(B)成分、必要に応じて配合される他の不揮発性成分、及び水性溶媒を所定量混合することにより得ることができる。
【0045】
[使用方法]
本発明のガラス長繊維用集束剤は、ガラス長繊維を集束させてガラスヤーン(ガラス長繊維束)を調製するために使用される。本発明のガラス長繊維用集束剤で処理されたガラス長繊維は、不揮発性成分によって表面が皮膜で被覆された状態になる。
【0046】
本発明のガラス長繊維用集束剤の処理対象となるガラス長繊維の種類については、特に制限されないが、例えば、Eガラス、Tガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Cガラス、Hガラス、ARGガラス、石英ガラス等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはEガラスが挙げられる。本発明において、Eガラスとは、具体的には、SiO2が52~56質量%、Al2O3が12~16質量%、CaO+MgOが20~25質量%、B2O3が5~10質量%を含むガラス組成物からなるガラス素材である。
【0047】
また、本発明のガラス長繊維用集束剤の処理対象となるガラス長繊維の他の好適な例として、低誘電性を有するガラス長繊維が挙げられる。低誘電性を有するガラス長繊維を構成するガラス組成物としては、例えば、SiO2が45~60質量%、B2O3が15~35質量%、Al2O3が10~20質量%を含む、ガラス組成が挙げられる。低誘電性を有するガラス長繊維の好適な例として、周波数1MHzにおける誘電率が5.0未満であるガラス組成物が挙げられ、より具体的には、SiO2が50~56質量%、B2O3が20~30質量%、Al2O3が10~20質量%を含むガラス組成物が挙げられる。なお、本明細書において、「誘電率」とは真空の誘電率との比である比誘電率を指す。また、本明細書において、「周波数1MHzにおける誘電率」は、ASTM D150-87に準拠して、測定温度を20℃に設定して測定される値である。
【0048】
本発明のガラス長繊維用集束剤の処理対象となるガラス長繊維の単繊維(フィラメント)直径については、特に制限されないが、ガラスヤーン製造時の毛羽発生の抑制効果をより有効に発揮させるという観点から、好ましくは3~5μm、さらに好ましくは3~4.5μmが挙げられる。
【0049】
本発明のガラスヤーンの番手については、特に制限されないが、ガラスヤーン製造時の毛羽発生の抑制効果をより有効に発揮させるという観点から、好ましくは1~12tex、さらに好ましくは1~5tex、特に好ましくは1~3texが挙げられる。
【0050】
本発明のガラス長繊維用集束剤を用いて1本のガラスヤーンに集束させるガラス長繊維のフィラメント数については、特に制限されないが、例えば、20~400本、好ましくは30~200本、さらに好ましくは30~100本、特に好ましくは30~50本が挙げられる。
【0051】
本発明のガラス長繊維用集束剤を用いてガラス長繊維を処理してガラスヤーンを調製するには、ガラス長繊維に本発明のガラス長繊維用集束剤を塗布して集束し、乾燥すればよい。本発明のガラス長繊維用集束剤をガラス長繊維に塗布するには、例えば、ローラー型やベルト型のアプリケーター、スプレー等を使用すればよい。また、本発明のガラス長繊維用集束剤が塗布されたガラス長繊維を集束するには、公知の集束機を使用すればよい。また、集束後の乾燥は、例えば、室温~150℃の範囲の温度条件で行えばよい。斯くして、本発明のガラス長繊維用集束剤をガラス長繊維に塗布して集束した後に乾燥することにより、水性溶媒等の揮発成分が除去され、ガラス長繊維の表面に本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる不揮発性成分による皮膜が形成されたガラスヤーンが得られる。斯くして得られたガラスヤーンは、必要に応じて、撚糸機で撚りをかけて、ガラスクロスの原料糸として使用できる。
【0052】
本発明のガラス長繊維用集束剤を処理対象となるガラス長繊維に付着させる量については、ガラスヤーン製造時の毛羽発生の抑制効果が有効に奏される範囲内になるように適宜設定すればよく、例えば、集束されたガラスヤーンの強熱減量が0.1~1.0質量%、好ましくは0.1~0.5質量%となる範囲内で設定すればよい。ガラスヤーンの強熱減量は、本発明のガラス長繊維用集束剤に含まれる不揮発性成分の付着量に実質的に相当しており、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.3.2 強熱減量」に規定されている方法に従って測定される値である。
【0053】
2.ガラスヤーン
本発明のガラスヤーンは、表面に(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、(B)ポリビニルピロリドンとを含む皮膜が形成されているガラス長繊維を含むことを特徴とする。
【0054】
本発明のガラスヤーンは、前記ガラス長繊維用集束剤でガラス長繊維を処理することにより得ることができる。本発明のガラスヤーンにおいて、使用するガラス長繊維の種類、単繊維直径、番手等については、前記「1.ガラス長繊維用集束剤」の欄に記載の通りである。また、ガラス長繊維上に形成されている皮膜の量は、前記「1.ガラス長繊維用集束剤」の欄で記載する強熱減量と同様である。また、ガラス長繊維上に形成されている皮膜に含まれる(A)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル及び(B)ポリビニルピロリドンの構成、当該皮膜に含まれ得るその他の不揮発性成分の種類、当該皮膜の組成等についても、前記「1.ガラス長繊維用集束剤」の欄で記載する各不揮発性成分の種類やそれらの組成と同様である。
【0055】
3.ガラスクロス
本発明のガラスクロスは、前記本発明のガラスヤーンで形成されてなる。本発明のガラスクロスは、前記ガラスヤーンを原料糸として使用して製織することにより得られる。
【0056】
本発明のガラスクロスの織組織については、特に制限されないいが、例えば、平織、朱子織、ななこ織、からみ織、模紗織、綾織等が挙げられる。
【0057】
本発明のガラスクロスの用途については、特に制限されず、従来、ガラスクロスが適用されているあらゆる用途に使用することができる。また、プリント配線板用のガラスクロス(プリント配線板の芯材として使用されるガラスクロス)では、高密度実装や軽薄短小化に対応するために、厚さを薄くすることが要求されているが、従来技術では、ガラス長繊維用集束剤として澱粉を含むものとしていたことからヒートクリーニング処理が必要であった。そして、ヒートクリーニング処理による強度低下は、ガラスクロスを構成するガラスヤーンの単繊維直径を小さくして(例えば5μm以下)、薄いガラスクロスとした場合により影響が大きくなる。これに対して、本発明のガラスクロスでは、前記本発明のガラスヤーンで形成させていることから、ヒートクリーニング処理が不要であり、ヒートクリーニング処理による強度低下の問題が生じない。このような効果を鑑みれば、本発明のガラスクロスの用途の好適な例として、プリント配線板用のガラスクロス、特に薄型のプリント配線板用のガラスクロスが挙げられる。薄型のガラスクロスの厚さとしては、例えば、8~20μmが挙げられる。
【0058】
本発明のガラスクロスは、前記ガラスヤーンを経糸及び緯糸として使用し、ガラスクロスの織組織や織密度等に応じて公知の手法で製織する工程により得られる。
【0059】
また、前記工程で使用する経糸には、更に2次サイズ剤で処理されていてもよい。使用する2次サイズ剤の組成については、特に制限されないが、好ましくは、前記ガラス長繊維用集束剤と同じ組成のものが挙げられる。
【0060】
本発明のガラスクロスの製造方法において、必要に応じて前記工程以外のその他の処理工程を含むことができる。このような処理工程としては、例えば、ガラスクロスを構成するガラスヤーンを拡幅する開繊処理工程が挙げられる。
【実施例0061】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0062】
1.試験方法
(1)ガラスヤーンの強熱減量
ガラスヤーン及びガラスクロスの強熱減量は、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.3.2 強熱減量」に規定されている方法に従って、測定、算出した。
【0063】
(2)ガラス長繊維の単繊維直径(μm)
ガラス長繊維の単繊維直径は、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.6 単繊維直径」のB法(横断面法)に規定されている方法に従って、測定、算出した。
【0064】
(3)ガラスヤーンの番手(tex)
ガラスヤーンの番手は、JIS R 3420 2013の「ガラス繊維一般試験方法」の「7.1 番手」に規定されている方法に従って、測定、算出した。
【0065】
(4)ガラスヤーン製造時に発生した毛羽数(個/100m)
ガラスヤーン製造時の毛羽発生の抑制効果の評価について、得られたガラスヤーンを用いて100m/分の速度で巻取ローラーにて解舒して巻取ローラーとガラスヤーンが巻き取られたボビンとの間に設置したテンションバーを通過した後の長さ1.5mm以上の毛羽の数をセンサーにてカウントした。1kmカウントし、100m当たりの毛羽数(個/100m)を求めた。
【0066】
(5)エアージェット織機において緯入れする際の到達角度の変動の評価
ガラスヤーンを高速エアージェット織機(津田駒工業株式会社製ZAX9100)にて設定到達角度230°、織機回転数400rpmの条件で製織を行って、1000ピック打ち込んだときの到達角度の標準偏差σを測定した。尚、製織ができず、σを測定できなかった場合は×とした。
【0067】
2.ガラス長繊維用集束剤の調製に使用した材料
実施例及び比較例において、ガラス長繊維用集束剤における各配合成分としては、以下のものを使用した。
(1)ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル
(1-1)ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル(吉村油化学株式会社製、商品名GF-690、不揮発性成分70質量%)
(2)ポリビニルピロリドン
(2-1)ポリビニルピロリドン(第一工業製薬株式会社製、商品名ピッツコールK-30、不揮発性成分100質量%)
(3)シランカップリング剤
(3-1)N-[2-(ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩(JNC株式会社製、商品名サイラエースS350、不揮発性成分40質量%)
(4)柔軟剤
(4-1)アルキルポリアミン誘導体(松本油脂製薬株式会社製、商品名ゾンテスIB、不揮発性成分14質量%)
(5)界面活性剤
(5-1)ポリオキシエチレンアルキルエーテル(松本油脂製薬株式会社製、商品名マーポテロンLE、不揮発性成分30質量%)
(6)ポリマー粒子
(6-1)架橋アクリルポリマー(ENEOS液晶株式会社製、商品名ENEOSユニパウダーNMB-0520C、平均粒子径5μm、不揮発性成分5質量%)
(6-2)架橋アクリルポリマー(ENEOS液晶株式会社製、商品名ENEOSユニパウダーNMB-0220C、平均粒子径2μm、不揮発性成分5質量%)
(6-3)低分子量ポリエチレン(三井化学株式会社製、商品名ケミパールW300、平均粒子径3μm、不揮発性成分40質量%)
【0068】
3.ガラス長繊維用集束剤及びガラスヤーンの製造
[実施例1]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
不揮発性成分組成比が表1に記載のとおりになるようにして、水性溶媒として所定量の水と混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。ガラス長繊維用集束剤中の不揮発性成分濃度は3.0質量%であった。
【0069】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を、紡糸炉から紡出させた複数のガラス長繊維(Eガラス、フィラメント径4.1μm)にロールアプリケーターを用いて塗布し、当該ガラス長繊維を1本の束(ストランド)に集束させた。次いで、このストランドを、撚りをかけずにチューブに巻き取り、ケーキを得た。次いで、得られたケーキを室温で乾燥した。乾燥後のケーキからストランドを解舒しつつ、撚りをかけながら、ボビンに巻き付け、ガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.65tex、強熱減量が0.22質量%であった。
【0070】
[実施例2]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
不揮発性成分組成比が表1に記載のとおりになるようにして、水性溶媒として所定量の水と混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。ガラス長繊維用集束剤中の不揮発性成分濃度は3.0質量%であった。
【0071】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を、紡糸炉から紡出させた複数のガラス長繊維(Eガラス、フィラメント径4.1μm)にロールアプリケーターを用いて塗布し、当該ガラス長繊維を1本の束(ストランド)に集束させた。次いで、このストランドを、撚りをかけずにチューブに巻き取り、ケーキを得た。次いで、得られたケーキを室温で乾燥した。乾燥後のケーキからストランドを解舒しつつ、撚りをかけながら、ボビンに巻き付け、ガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.65tex、強熱減量が0.21質量%であった。
【0072】
[実施例3]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
不揮発性成分組成比が表1に記載のとおりになるようにして、水性溶媒として所定量の水と混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。ガラス長繊維用集束剤中の不揮発性成分濃度は3.0質量%であった。
【0073】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を、紡糸炉から紡出させた複数のガラス長繊維(Eガラス、フィラメント径4.1μm)にロールアプリケーターを用いて塗布し、当該ガラス長繊維を1本の束(ストランド)に集束させた。次いで、このストランドを、撚りをかけずにチューブに巻き取り、ケーキを得た。次いで、得られたケーキを室温で乾燥した。乾燥後のケーキからストランドを解舒しつつ、撚りをかけながら、ボビンに巻き付け、ガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.65tex、強熱減量が0.21質量%であった。
【0074】
[実施例4]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
不揮発性成分組成比が表1に記載のとおりになるようにして、水性溶媒として所定量の水と混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。ガラス長繊維用集束剤中の不揮発性成分濃度は3.0質量%であった。
【0075】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を、紡糸炉から紡出させた複数のガラス長繊維(Eガラス、フィラメント径4.1μm)にロールアプリケーターを用いて塗布し、当該ガラス長繊維を1本の束(ストランド)に集束させた。次いで、このストランドを、撚りをかけずにチューブに巻き取り、ケーキを得た。次いで、得られたケーキを室温で乾燥した。乾燥後のケーキからストランドを解舒しつつ、撚りをかけながら、ボビンに巻き付け、ガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.65tex、強熱減量が0.19質量%であった。
【0076】
[比較例1]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
不揮発性成分組成比が表1に記載のとおりになるようにして、水性溶媒として所定量の水と混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。ガラス長繊維用集束剤中の不揮発性成分濃度は3.0質量%であった。
【0077】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を、紡糸炉から紡出させた複数のガラス長繊維(Eガラス、フィラメント径4.1μm)にロールアプリケーターを用いて塗布し、当該ガラス長繊維を1本の束(ストランド)に集束させた。次いで、このストランドを、撚りをかけずにチューブに巻き取り、ケーキを得た。次いで、得られたケーキを室温で乾燥した。乾燥後のケーキからストランドを解舒しつつ、撚りをかけながら、ボビンに巻き付け、ガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.65tex、強熱減量が0.21質量%であった。
【0078】
[比較例2]
(1)ガラス長繊維用集束剤の製造
不揮発性成分組成比が表1に記載のとおりになるようにして、水性溶媒として所定量の水と混合し、ガラス長繊維用集束剤を得た。ガラス長繊維用集束剤中の不揮発性成分濃度は3.0質量%であった。
【0079】
(2)ガラスヤーンの製造
前記ガラス長繊維用集束剤を、紡糸炉から紡出させた複数のガラス長繊維(Eガラス、フィラメント径4.1μm)にロールアプリケーターを用いて塗布し、当該ガラス長繊維を1本の束(ストランド)に集束させた。次いで、このストランドを、撚りをかけずにチューブに巻き取り、ケーキを得た。次いで、得られたケーキを室温で乾燥した。乾燥後のケーキからストランドを解舒しつつ、撚りをかけながら、ボビンに巻き付け、ガラスヤーンを得た。得られたガラスヤーンは、フィラメント本数が50本、撚り数が0.5Z、番手が1.65tex、強熱減量が0.2質量%であった。
【0080】
4.評価結果
実施例1~4及び比較例1~2で得られたガラスヤーンの物性を測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0081】
実施例1~4では、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、ポリビニルピロリドンとを含むガラス長繊維用集束剤を使用したことにより、エアージェット織機において緯入れする際に、平均到達角度のバラつきを低減するガラスヤーンを得ることに寄与することが明らかとなった。また、実施例1~4では、ガラスヤーン製造時の毛羽発生の抑制効果が認められた。
【0082】
一方、比較例1では、ポリビニルピロリドンを含まないガラス長繊維用集束剤を使用しており、ガラスヤーンをエアージェット織機で製織することができなかった。更に、比較例1は、ガラスヤーン製造時の毛羽の発生抑制効果が不十分であった。
【0083】
比較例2では、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルを含まないガラス長繊維用集束剤を使用しており、エアージェット織機において緯入れする際に、平均到達角度のバラつきを低減するガラスヤーンを得ることができなかった。更に、比較例2は、ガラスヤーン製造時の毛羽の発生抑制効果が不十分であった。