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特開2024-50161樹脂製パイプの製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050161
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】樹脂製パイプの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/00 20060101AFI20240403BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20240403BHJP
   B29C 45/28 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B29C45/00
B29C45/76
B29C45/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156835
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉木 敦美
(72)【発明者】
【氏名】幸 淳史
(72)【発明者】
【氏名】三好 裕也
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AG08
4F202AH11
4F202AP06
4F202AR11
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK07
4F202CK89
4F206AG08
4F206AH11
4F206AP062
4F206AR11
4F206AR12
4F206JA05
4F206JF06
4F206JL02
4F206JN15
4F206JN27
4F206JP11
4F206JQ81
4F206JT07
(57)【要約】
【課題】流体アシスト成形による複数個取りの樹脂製パイプの製造において、各パイプを所定の肉厚で成形する。
【解決手段】樹脂製パイプの製造方法は、金型における複数のキャビティ(12)のそれぞれに対し、当該キャビティ(12)の容量よりも少ない異なる所定量の溶融樹脂(R)を射出する樹脂射出工程と、個々のキャビティ(12)における溶融樹脂(R)の射出の進行中または完了後に、当該キャビティ(12)内の溶融樹脂(R)の内部に加圧ガス(G)を注入するガス注入工程とを含む。樹脂射出工程では、複数のキャビティ(12)のそれぞれで、成形するパイプ(100)の肉厚に応じて溶融樹脂(R)の射出時間を調整する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のキャビティ(12)を有する金型(10)を用い、1回の成形サイクルで形状が異なる樹脂製パイプ(100)を複数成形する樹脂製パイプの製造方法であって、
前記複数のキャビティ(12)のそれぞれに対し、当該キャビティ(12)の容量よりも少ない異なる所定量の溶融樹脂(R)を射出する樹脂射出工程と、
個々の前記キャビティ(12)における前記溶融樹脂(R)の射出の実行中または完了後に、当該キャビティ(12)内の前記溶融樹脂(R)の内部に加圧流体(G)を注入する流体注入工程と、を含み、
前記樹脂射出工程では、前記複数のキャビティ(12)のそれぞれで、成形する前記樹脂製パイプ(100)の肉厚に応じて前記溶融樹脂(R)の射出時間を調整する、
ことを特徴とする樹脂製パイプの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂製パイプの製造方法において、
前記金型(10)は、前記キャビティ(12)として、第1キャビティ(12a)および第2キャビティ(12b)を有し、
前記樹脂射出工程では、前記第1キャビティ(12a)に対する前記溶融樹脂(R)の射出時間と、前記第2キャビティ(12b)に対する前記溶融樹脂(R)の射出時間とを合わせる、
ことを特徴とする樹脂製パイプの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂製パイプの製造方法において、
前記第1キャビティ(12a)と前記第2キャビティ(12b)とで、前記キャビティ(12)の長さ、径および曲がり形状のうち少なくともいずれか1つが互いに異なる、
ことを特徴とする樹脂製パイプの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂製パイプの製造方法において、
前記樹脂射出工程では、
シリンダ(52)と、該シリンダ(52)内に収容されたスクリュー(56)とを備え、該スクリュー(56)を後退位置から進出させることで、前記溶融樹脂(R)を射出する樹脂射出機(50)を用いて、個々の前記キャビティ(12)に対する前記溶融樹脂(R)の射出を個別に順次行い、
各々の前記キャビティ(12)に対して射出する前記溶融樹脂(R)の量を、前記樹脂射出機(50)の前記スクリュー(56)の進出位置で決定し、
個々の前記キャビティ(12)に対する前記溶融樹脂(R)の射出時間を、前記樹脂射出機(50)の前記スクリュー(56)の進出速度で設定する、
ことを特徴とする樹脂製パイプの製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂製パイプの製造方法において、
前記流体注入工程では、前記流体(G)として、不活性ガス(G)を使用する、
ことを特徴とする樹脂製パイプの製造方法。
【請求項6】
複数のキャビティ(12)を有する金型(10)と、
前記複数のキャビティ(12)のそれぞれに対し、当該キャビティ(12)の容量よりも少ない異なる所定量の溶融樹脂(R)を射出する樹脂射出機(50)と、
個々の前記キャビティ(12)における前記溶融樹脂(R)の射出の実行中又は完了後に、当該キャビティ(12)内の前記溶融樹脂(R)の内部に加圧流体(G)を注入する流体注入機(60)と、
前記樹脂射出機(50)における前記スクリュー(56)の進出位置を検出する位置センサ(59)と、
前記樹脂射出機(50)および前記位置センサ(59)と接続され、前記位置センサ(59)の検出信号に基づいて、前記樹脂射出機(50)の動作を制御する制御ユニット(70)と、を備え、
前記制御ユニット(70)は、各々の前記キャビティ(12)に対して射出する前記溶融樹脂(R)の量を、前記位置センサ(59)によって検出される前記スクリュー(56)の進出位置で管理し、個々の前記キャビティ(12)に対する前記溶融樹脂(R)の射出時間を、前記スクリュー(56)の進出速度で設定する、
ことを特徴とする樹脂製パイプの製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂製パイプの製造装置において、
前記キャビティ(12)ごとに設けられ、当該キャビティ(12)に対する前記溶融樹脂(R)の射出の実行および停止を制御する第1制御バルブ(36,38)をさらに備え、
前記制御ユニット(70)は、前記第1制御バルブ(36,38)に接続され、前記位置センサ(59)によって検出される前記スクリュー(56)の進出位置に基づいて、前記第1制御バルブ(36,38)の動作を制御する、
ことを特徴とする樹脂製パイプの製造装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の樹脂製パイプの製造装置において、
前記キャビティ(12)ごとに設けられ、当該キャビティ(12)に対する前記加圧流体(G)の注入の実行および停止を制御する第2制御バルブ(40,42)をさらに備え、
前記制御ユニット(70)は、前記第2制御バルブ(40,42)に接続され、前記位置センサ(59)によって検出される前記スクリュー(56)の進出位置に基づいて、前記第2制御バルブ(40,42)の動作を制御する、
ことを特徴とする樹脂製パイプの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製パイプの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂製の中空成形品を製造する技術として、流体アシスト成形が知られている。流体アシスト成形では、金型のキャビティに溶融樹脂を射出した後、その樹脂の内部に加圧流体を注入することで、樹脂を中空状に成形すると共に金型の成形面に押し付けて固化させる。そうした中空成形品の製造方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1は、1回の成形サイクルで複数の中空成形品を成形する複数個取りの中空成形品の製造方法を開示する。この中空成形品の製造方法では、複数のキャビティを有する金型を用い、金型における各キャビティ内に樹脂を充填する。そして、各キャビティ内に配置されたセンサにより所定量の樹脂が充填されたことを検知して樹脂の充填を停止させた後、充填された樹脂内にガスを注入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-009478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のような複数個取りの製造方法を樹脂製パイプの製造に適用して、長さや径、外観形状が互いに異なるパイプを複数個取りの方法により成形する場合、金型における各キャビティに同じ射出速度で溶融樹脂を射出すると、各キャビティに対する溶融樹脂の射出を開始してから完了するまでの射出時間が異なる。各キャビティに射出された溶融樹脂は、金型に冷却されて固化が進行する。
【0006】
このため、各キャビティにおいて、ガスなどの加圧流体を注入するまでに進行する溶融樹脂の固化具合がばらつき、同時に成形するパイプの肉厚が安定しない。また、複数個取りの金型を用いて互いに異なる肉厚のパイプを成形する場合、溶融樹脂の射出の実行中においても溶融樹脂の固化が進行することを考慮しないと、各パイプを所定の肉厚で成形することが困難である。
【0007】
本発明の目的は、流体アシスト成形による複数個取りの樹脂製パイプの製造において、各パイプを所定の肉厚で成形することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明では、溶融樹脂の射出の実行中においても溶融樹脂の固化が進行することを考慮して、個々のキャビティに対する溶融樹脂の射出時間を設定するようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明は、複数のキャビティを有する金型を用い、1回の成形サイクルで形状が異なる樹脂製パイプを複数成形する樹脂製パイプの製造方法を対象とする。当該樹脂製パイプの製造方法は、前記複数のキャビティのそれぞれに対し、当該キャビティの容量よりも少ない異なる所定量の溶融樹脂を射出する樹脂射出工程と、個々の前記キャビティにおける前記溶融樹脂の射出の進行中または完了後に、当該キャビティ内の前記溶融樹脂の内部に加圧流体を注入する流体注入工程とを含む。前記樹脂射出工程では、前記複数のキャビティのそれぞれで、成形する前記樹脂製パイプの肉厚に応じて前記溶融樹脂の射出時間を調整する。
【0010】
第2の発明は、第1の発明の樹脂製パイプの製造方法において、前記金型が、前記キャビティとして、第1キャビティおよび第2キャビティを有する、樹脂製パイプの製造方法である。そして、前記樹脂射出工程では、前記第1キャビティに対する前記溶融樹脂の射出時間と、前記第2キャビティに対する前記溶融樹脂の射出時間とを合わせる。
【0011】
第3の発明は、第2の発明の樹脂製パイプの製造方法において、前記第1キャビティと前記第2キャビティとで、長さ、径および曲がり形状のうち少なくともいずれか1つが互いに異なる、樹脂製パイプの製造方法である。
【0012】
第4の発明は、第1~第3の発明のいずれか1つの樹脂製パイプの製造方法において、前記樹脂射出工程で、シリンダと、該シリンダ内に収容されたスクリューとを備え、該スクリューを後退位置から進出させることで、前記溶融樹脂を射出する樹脂射出機を用いて、個々の前記キャビティに対する前記溶融樹脂の射出を個別に順次行う、樹脂製パイプの製造方法である。さらに、前記射出工程では、各々の前記キャビティに対して射出する前記溶融樹脂の量を、前記樹脂射出機の前記スクリューの進出位置で決定する。そして、前記射出工程では、個々の前記キャビティに対する前記溶融樹脂の射出時間を、前記樹脂射出機の前記スクリューの進出速度で設定する。
【0013】
第5の発明は、第1~第3の発明のいずれか1つの樹脂製パイプの製造方法において、前記流体注入工程で、前記加圧流体として、不活性ガスを使用する、樹脂製パイプの製造方法である。
【0014】
第6の発明は、樹脂製パイプの製造装置を対象とする。第6の発明の樹脂製パイプの製造装置は、複数のキャビティを有する金型と、前記複数のキャビティのそれぞれに対し、当該キャビティの容量よりも少ない異なる所定量の溶融樹脂を射出する樹脂射出機と、個々の前記キャビティにおける前記溶融樹脂の射出の実行中または完了後に、当該キャビティ内の前記溶融樹脂の内部に加圧流体を注入する流体注入機と、前記樹脂射出機における前記スクリューの進出位置を検出する位置センサと、前記樹脂射出機および前記位置センサと接続され、前記センサの検出信号に基づいて、前記樹脂射出機の動作を制御する制御ユニットとを備える。そして、前記制御ユニットは、各々の前記キャビティに対して射出する前記溶融樹脂の量を、前記位置センサによって検出される前記スクリューの進出位置で管理し、個々の前記キャビティに対する前記溶融樹脂の射出時間を、前記スクリューの進出速度で設定する。
【0015】
第7の発明は、第6の発明の樹脂製パイプの製造装置において、前記キャビティごとに設けられ、当該キャビティに対する前記溶融樹脂の射出の実行および停止を制御する第1制御バルブをさらに備える、樹脂製パイプの製造装置である。そして、前記制御ユニットは、前記第1制御バルブに接続され、前記位置センサによって検出される前記スクリューの進出位置に基づいて、前記第1制御バルブの動作を制御する。
【0016】
第8の発明は、第6または第7の発明の樹脂製パイプの製造装置において、前記キャビティごとに設けられ、当該キャビティに射出された前記溶融樹脂の内部に対する前記加圧流体の注入の実行および停止を制御する第2制御バルブをさらに備える、樹脂製パイプの製造装置である。そして、前記制御ユニットは、前記第2制御バルブに接続され、前記位置センサによって検出される前記スクリューの進出位置に基づいて、前記第2制御バルブの動作を制御する。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明では、複数のキャビティのそれぞれで、成形する樹脂製パイプの肉厚に応じて溶融樹脂の射出時間を調整する。各キャビティにおいて、溶融樹脂の射出時間は、加圧流体を注入するまでに進行する溶融樹脂の固化具合と関係があり、キャビティに対する溶融樹脂の射出時間が長いほど、溶融樹脂の固化が進行する。そして、溶融樹脂の固化が進行するほど、樹脂製パイプの肉厚が厚くなる。よって、複数のキャビティのそれぞれで溶融樹脂の射出時間を調整することで、各パイプを所定の肉厚を成形できる。
【0018】
第2の発明では、第1キャビティに対する溶融樹脂の射出時間と、第2キャビティに対する溶融樹脂の射出時間とを合わせる。各キャビティにおいて、溶融樹脂の射出時間を合わせると、加圧流体を注入するまでに進行する溶融樹脂の固化具合を同程度とすることができる。それにより、各キャビティに同じ肉厚の樹脂製パイプを安定して成形できる。
【0019】
第3の発明では、第1キャビティと第2キャビティとの長さ、径および曲がり形状のうち少なくとも1つがそれら両キャビティで互いに異なる。このような第1キャビティおよび第2キャビティに対してそれぞれ同じ射出速度で溶融樹脂を射出すると、各キャビティに対する溶融樹脂の射出を開始してから完了するまでの射出時間が異なる。このため、溶融樹脂の射出の実行中においても溶融樹脂の固化が進行することを考慮しないと、各パイプを所定の肉厚で成形することが困難である。よって、第2の発明が特に有効である。
【0020】
第4の発明では、各々のキャビティに対して射出する溶融樹脂の量を、樹脂射出機のスクリューの進出位置で決定し、個々のキャビティに対する溶融樹脂の射出時間を、樹脂射出機のスクリューの進出速度で設定する。これによれば、キャビティごとの溶融樹脂の射出時間の調整を容易に行える。したがって、第1の発明を好適に実施できる。
【0021】
第5の発明では、加圧流体として不活性ガスを使用する。不活性ガスは、化学反応を起こし難い安定した気体である。よって、樹脂製パイプを製造するときに、樹脂の分解や樹脂焼けなどの不具合が生じるのを抑制できる。
【0022】
第6の発明では、制御ユニットが、各々のキャビティに対して射出する溶融樹脂の量を、センサによって検出されるスクリューの進出位置で管理し、個々のキャビティに対する前記溶融樹脂の射出時間を、スクリューの進出速度で設定する。これによれば、キャビティごとの溶融樹脂の射出時間の調整を容易に行える。したがって、当該樹脂製パイプの製造装置は、第1の発明を実施するのに好適である。
【0023】
第7の発明では、制御ユニットが、位置センサによって検出されるスクリューの進出位置に基づいて、第1制御バルブの動作を制御する。第1制御バルブは、キャビティごとの溶融樹脂の射出の実行および停止を制御する。これによれば、共通の樹脂射出機を使用して、各キャビティについて、射出する溶融樹脂の量を管理しつつ、溶融樹脂の射出時間を調整できる。
【0024】
第8の発明では、制御ユニットが、位置センサによって検出されるスクリューの進出位置に基づいて、第2制御バルブの動作を制御する。第2制御バルブは、キャビティごとの溶融樹脂の内部に対する加圧流体の注入の実行および停止を制御する。これによれば、共通の流体注入機を使用して、各キャビティにおける溶融樹脂の内部に加圧流体の注入を行える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、樹脂製パイプの製造装置の概略構成を例示する図である。
図2図2は、樹脂製パイプの製造方法を例示するタイミングチャートである。
図3図3は、樹脂製パイプの製造における第1射出工程を例示する図である。
図4図4は、樹脂製パイプの製造における第2射出工程および第1注入工程を例示する図である。
図5図5は、樹脂製パイプの製造における第2注入工程を例示する図である。
図6図6は、樹脂製パイプの製造における後処理を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面は、本発明の理解を容易にするために寸法、比または数を、誇張あるいは簡略化して表す場合がある。また、以下に述べる「第1」、「第2」、…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【0027】
《実施形態》
この実施形態の樹脂製パイプの製造方法は、複数のキャビティを有する金型を用い、1回の成形サイクルで複数の樹脂製パイプを成形する、いわゆる複数個取りの製造方法である。本例の樹脂製パイプの製造方法では、ガスアシスト成形を用いる。ガスアシスト成形は、加圧流体としてガスを使用する流体アシスト成形の一種であり、ガスインジェクション成形とも呼ばれる。
【0028】
-樹脂製パイプ-
1回の成形サイクルごとに成形する複数の樹脂製パイプ100は、互いの形状が異なる。それら複数の樹脂製パイプ100には、互いの形状が異なる2つの樹脂製パイプ100が含まれていればよい。ここで、「形状が異なる」とは、外観形状が異なる場合に限らず、パイプの長さ、外径、内径、および曲がり形状の少なくとも1つが異なることを意味する。
【0029】
本例の樹脂製パイプの製造方法では、樹脂製パイプ100として、第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bを製造する。第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bは、互いの長さおよび曲がり形状が異なる断面円形の中空部品である。第1パイプ100Aと第2パイプ100Bとは、互いの外径および内径が概ね同じであって、同程度の肉厚を有する。
【0030】
第1パイプ100Aは相対的に短いパイプであり、第2パイプ100Bは相対的に長いパイプである。第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bは、例えば熱可塑性樹脂からなる。第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bの材料としては、例えば、ナイロン6やナイロン66といったポリアミド樹脂(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)が挙げられる。
【0031】
-ガスアシスト成形装置-
第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bの製造には、図1に示すガスアシスト成形装置1が使用される。ガスアシスト成形装置1は、樹脂製パイプの製造装置の一例である。
【0032】
ガスアシスト成形装置1は、金型10と、第1ゲートバルブ36と、第2ゲートバルブ38と、ガス供給路30と、第1ガスバルブ40と、第2ガスバルブ42と、樹脂射出機50と、ガス注入機60と、制御ユニット70とを備える。第1ガスバルブ40および第2ガスバルブ42はそれぞれ、第2制御バルブの一例である。第1ゲートバルブ36および第2ゲートバルブ38はそれぞれ、第1制御バルブの一例である。
【0033】
〈金型〉
金型10は、複数のキャビティ12を有する複数個取りの金型である。金型10は、キャビティ12として、第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bを有する。第1キャビティ12aと第2キャビティ12bとでは、キャビティ12の径が同程度であるが、キャビティ12の長さおよび曲がり形状が互いに異なる。第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bは、金型10を型閉じすることで形成される。図1では、第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bについて、詳細な形状を省略し、長さの違いのみを模式的に示す。
【0034】
第1キャビティ12aには、第1ガス導入部14aと、第1成形キャビティ部16aと、第1捨てキャビティ部18aとが含まれる。第1ガス導入部14aは、第1成形キャビティ部16aに対して加圧ガスを導入するための空洞である。第1成形キャビティ部16aは、第1パイプ100Aを成形するための空洞である。第1捨てキャビティ部18aは、第1成形キャビティ部16aから溶融樹脂Rの余剰分が排出される空洞である。
【0035】
本例の第1キャビティ12aでは、第1ガス導入部14aが第1成形キャビティ部16aの一端側に連通し、第1捨てキャビティ部18aが第1成形キャビティ部16aの他端側に連通する。第1成形キャビティ部16aは、第1パイプ100Aの外面を成形する第1成形面20aによって画定される。第1成形キャビティ部16aは、後述する第2成形キャビティ部16bに比べて相対的に短く、相対的に小さな容積を有する。
【0036】
第2キャビティ12bには、第2ガス導入部14bと、第2成形キャビティ部16bと、第2捨てキャビティ部18bとが含まれる。第2ガス導入部14bは、第2成形キャビティ部16bに対して加圧ガスを導入するための空洞である。第2成形キャビティ部16bは、第2パイプ100Bを成形するための空洞である。第2捨てキャビティ部18bは、第2成形キャビティ部16bから溶融樹脂Rの余剰分が排出される空洞である。
【0037】
本例の第2キャビティ12bでは、第2ガス導入部14bが第2成形キャビティ部16bの一端側に連通し、第2捨てキャビティ部18bが第2成形キャビティ部16bの他端側に連通する。第2成形キャビティ部16bは、第2パイプ100Bの外面を成形する第2成形面20bによって画定される。第2成形キャビティ部16bは、第1成形キャビティ部16aと比べて相対的に長く、相対的に大きな容積を有する。
【0038】
金型10はさらに、樹脂供給路22を有する。樹脂供給路22は、スプルー24、第1ランナー26a、第2ランナー26b、第1ゲート28aおよび第2ゲート28bを含んで構成される。
【0039】
スプルー24は、金型10の外面に開口する。第1ランナー26aおよび第2ランナー26bはそれぞれ、スプルー24に連通される。第1ゲート28aは、第1ランナー26aに連通され、第1成形キャビティ部16aに開口する。第2ゲート28bは、第2ランナー26bに連通され、第2成形キャビティ部16bに開口する。
【0040】
第1ゲートバルブ36は、第1キャビティ12aに対応して設けられる。第1ゲートバルブ36は、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出の実行および停止を制御する。本例の第1ゲートバルブ36は、第1ゲート28aに組み込まれて、バルブゲートを構成する。第1ゲート28aは、第1ゲートバルブ36により開閉される。第1ゲートバルブ36は、制御ユニット70から入力される制御信号を受けて作動する。
【0041】
第2ゲートバルブ38は、第2キャビティ12bに対応して設けられる。第2ゲートバルブ38は、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出の実行および停止を制御する。本例の第2ゲートバルブ38は、第2ゲート28bに組み込まれて、バルブゲートを構成する。第2ゲート28bは、第2ゲートバルブ38により開閉される。第2ゲートバルブ38は、制御ユニット70から入力される制御信号を受けて作動する。
【0042】
ガス供給路30は、主路32、第1分岐路34aおよび第2分岐路34bを含んで構成される。主路32は、ガス注入機60に接続される。第1分岐路34aおよび第2分岐路34bは、主路32から分岐した流路であり、それぞれ金型10に接続される。第1分岐路34aは第1キャビティ12aに連通し、第2分岐路34bは第2キャビティ12bに連通する。第1分岐路34aは、第1ガス導入部14aの第1成形キャビティ部16aとは反対側の部位に開口する。第2分岐路34bは、第2ガス導入部14bの第2成形キャビティ部16bとは反対側の部位に開口する。
【0043】
第1ガスバルブ40は、第1キャビティ12aに対応して設けられる。第1ガスバルブ40は、第1キャビティ12aに対する加圧ガスの注入の実行および停止を制御する。本例の第1ガスバルブ40は、ガス供給路30の第1分岐路34aにおける金型10外の部分に設けられる。この第1分岐路34aは、第1ガスバルブ40により開閉される。第1ガスバルブ40は、制御ユニット70から入力される制御信号を受けて作動する。
【0044】
第2ガスバルブ42は、第2キャビティ12bに対応して設けられる。第2ガスバルブ42は、第2キャビティ12bに対する加圧ガスの注入の実行および停止を制御する。本例の第2ガスバルブ42は、ガス供給路30の第2分岐路34bにおける金型10外の部分に設けられる。この第2分岐路34bは、第2ガスバルブ42により開閉される。第2ガスバルブ42は、制御ユニット70から入力される制御信号を受けて作動する。
【0045】
〈樹脂成形機〉
樹脂射出機50は、複数のキャビティ12のそれぞれに対し、当該キャビティ12の容量よりも少ない異なる所定量の溶融樹脂Rを射出する。このような各キャビティ12に対する溶融樹脂Rの未完全充填は、ショートショットとも呼ばれる。本例の樹脂射出機50は、第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bのそれぞれに所定量の溶融樹脂Rを射出する。
【0046】
第1キャビティ12aに射出する溶融樹脂Rの量は、第1キャビティ12aの容量(厳密には、第1成形キャビティ部16aの容量)よりも少ない第1ショートショット量である。第2キャビティ12bに射出する溶融樹脂Rの量は、第2キャビティ12bの容量(厳密には、第2成形キャビティ部16bの容量)よりも少ない第2ショートショット量である。第1ショートショット量は、第2ショートショット量よりも少ない。
【0047】
樹脂射出機50は、シリンダ52と、スクリュー56と、駆動装置58と、位置センサ59とを備える。
【0048】
シリンダ52は、円筒形の部材である。シリンダ52の先端には、ノズル54が設けられる。ノズル54は、金型10におけるスプルー24の外面開口に接続される。シリンダ52の後側には、ペレットなどの樹脂材料を供給するためのホッパーが設けられる。また、シリンダ52には、ヒータが設けられる。ヒータは、シリンダ52内の樹脂材料を加熱する。シリンダ52は、成形材料である樹脂を加熱して溶融状態とし、溶融樹脂Rを内部に蓄積する。
【0049】
スクリュー56は、シリンダ52の中にシリンダ52と同軸に位置するように収容される。スクリュー56は、シリンダ52内で回転および進退する。スクリュー56は、回転動作によりシリンダ52内の溶融樹脂Rを前方へ送り、進退動作によりシリンダ52内で変位する。スクリュー52によって送られた溶融樹脂Rは、シリンダ52から押し出され、ノズル54から樹脂供給路22(スプルー24)に射出される。
【0050】
シリンダ52内においてスクリュー56が採り得る位置には、計量完了位置P0と、第1進出位置P1と、第2進出位置P2とが含まれる。計量完了位置P0は、シリンダ52内に溶融樹脂Rの計量を完了したときのスクリュー56の後退位置である。第1進出位置P1は、第1ショートショット量の溶融樹脂Rをシリンダ52から押し出したときのスクリュー56の進出位置である。第2進出位置P2は、第2ショートショット量の溶融樹脂Rをシリンダ52から押し出したときのスクリュー56の進出位置である。
【0051】
駆動装置58は、スクリュー56に接続され、スクリュー56を回転および進退させる。駆動装置58は、ベルト伝動機構および電動モータを含んで構成される。駆動装置58は、制御ユニット70から入力される制御信号を受けて作動する。位置センサ59は、シリンダ52内でのスクリュー56の前後方向における位置、つまり進出位置および後退位置を検出する。位置センサ59は、例えば、駆動装置58のスクリュー56を進退させる機構部分に設けられる。位置センサ59は、スクリュー56の位置を示す信号を制御ユニット70に出力する。
【0052】
樹脂射出機50は、スクリュー56を後退位置から進出させることで、ノズル54から溶融樹脂Rを射出する。本例の樹脂射出機50は、スクリュー56を計量完了位置P0から第1進出位置P1に進出させることにより、第1ショートショット量の溶融樹脂Rをノズル54から射出する。また、樹脂射出機50は、スクリュー56を第1進出位置P1から第2進出位置P2に進出させることにより、第2ショートショット量の溶融樹脂Rをノズル54から射出する。
【0053】
〈ガス注入機〉
ガス注入機60は、個々のキャビティ12における溶融樹脂Rの射出の完了後に、当該キャビティ12内の溶融樹脂Rの内部に加圧ガスを注入する。ガス注入機60は、金型10におけるガス供給路30の外面開口に接続される。本例のガス注入機60は、加圧流体としての加圧ガスを発生させる。そして、ガス注入機60は、発生させた加圧ガスを、ガス供給路30を介して金型10の第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bのそれぞれに所定の圧力で注入する。
【0054】
ガス注入機60は、第1キャビティ12aに対する加圧ガスの注入を、第1キャビティ12aにおける溶融樹脂Rの射出の完了後に行う。また、ガス注入機60は、第2キャビティ12bに対する加圧ガスの注入を、第2キャビティ12bにおける溶融樹脂Rの射出の完了後に行う。本例のガス注入機60では、加圧ガスとして、窒素ガスを発生させてガス供給路30に供給する。窒素ガスは、不活性ガスの一例である。
【0055】
〈制御ユニット〉
制御ユニット70は、第1ゲートバルブ36、第2ゲートバルブ38、第1ガスバルブ40、第2ガスバルブ42、駆動装置58および位置センサ59に接続される。制御ユニット70は、位置センサ59から検出信号を入力される。制御ユニット70は、位置センサ59の検出信号に基づいて、第1ゲートバルブ36、第2ゲートバルブ38、第1ガスバルブ40、第2ガスバルブ42および駆動装置58に制御信号を出力し、金型10の樹脂供給路22およびガス供給路30の開閉状態と樹脂射出機50の動作を制御する。
【0056】
制御ユニット70は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラである。制御ユニット70は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリとを有する。CPUは、ガスアシスト成形装置1による樹脂製パイプ100の成形動作を制御するためのプログラムを実行する。メモリは、CPU上で実行される各種のプログラムおよびデータを記憶する。
【0057】
制御ユニット70は、位置センサ59によって検出されるスクリュー56の進出位置に基づいて、第1ゲートバルブ36および第2ゲートバルブ38の動作を制御する。制御ユニット70は、位置センサ59によって検出されるスクリュー56の進出位置に基づいて、第1ガスバルブ40および第2ガスバルブ42の動作を制御する。制御ユニット70は、位置センサ59の検出信号により、スクリュー56の進出位置を監視する。
【0058】
制御ユニット70は、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出を実行するときに第1ゲートバルブ36を開き、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出が完了するタイミングで第1ゲートバルブ36を閉じる。制御ユニット70は、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出を実行するときに第2ゲートバルブ38を開き、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出を完了するときタイミングで第2ゲートバルブ38を閉じる。
【0059】
制御ユニット70は、第2ゲートバルブ38を閉じた状態で第1ゲートバルブ36を開き、第1ゲートバルブ36を閉じた状態で第2ゲートバルブ38を開く。制御ユニット70は、第1ゲートバルブ36および第2ゲートバルブ38の開閉を制御することで、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出と、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出とを、個別に順次行う。本例の制御ユニット70は、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出を完了した後に、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出を行うように、第1ゲートバルブ36および第2ゲートバルブ38の開閉を切り換える。
【0060】
制御ユニット70は、第1キャビティ12aに対する加圧ガスの注入を実行するときに第1ガスバルブ40を開き、第1キャビティ12aに対する加圧ガスの注入が完了するタイミングで第1ガスバルブ40を閉じる。制御ユニット70は、第2キャビティ12bに対する加圧ガスの注入を実行するときに第2ガスバルブ42を開き、第2キャビティ12bに対する加圧ガスの注入を完了するタイミングで第2ガスバルブ42を閉じる。制御ユニット70は、第1ガスバルブ40および第2ガスバルブ42の開閉を制御することで、第1キャビティ12aに対する加圧ガスの注入と、第2キャビティ12bに対する加圧ガスの注入とを、個別に開始および終了させる。
【0061】
本例の制御ユニット70は、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出が完了すると、第1キャビティ12aに対する加圧ガスの注入を開始し、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出が完了すると、第2キャビティ12bに対する加圧ガスの注入を開始するように、第1ガスバルブ40および第2ガスバルブ42の開閉を切り換える。
【0062】
制御ユニット70は、各々のキャビティ12に対して射出する溶融樹脂Rの量を、位置センサ59によって検出されるスクリュー56の進出位置で管理する。本例の制御ユニット70は、第1キャビティ12aに対して射出する第1ショートショット量を第1進出位置P1で管理し、第2キャビティ12bに対して射出する第2ショートショット量を第2進出位置P2で管理する。
【0063】
制御ユニット70は、位置センサ59の検出信号に基づいて、スクリュー56が第1進出位置P1に到達したと判定したときに、樹脂射出機50による溶融樹脂Rの第1ショートショット量の射出を完了する。また、制御ユニット70は、位置センサ59の検出信号に基づいて、スクリュー56が第2進出位置P2に到達したと判定したときに、樹脂射出機50による溶融樹脂Rの第2ショートショット量の射出を完了する。
【0064】
そして、制御ユニット70は、個々のキャビティ12に対する溶融樹脂Rの射出時間を、スクリュー56の進出速度で設定する。スクリュー56の進出速度は、第1速度と第2速度とに分けて設定される。第1速度は、スクリュー56が計量完了位置P0から第1進出位置P1に至るまでの速度である。第2速度は、スクリュー56が第1進出位置P1から第2進出位置P2に至るまでの速度である。制御ユニット70は、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出時間を第1速度で設定し、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出時間を第2速度で設定する。
【0065】
本例のガスアシスト成形装置1では、成形対象である第1パイプ100Aと第2パイプ100Bとを互いに同程度の肉厚に成形する。そのため、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出時間と、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出時間とを合わせるように、第1速度および第2速度が設定される。本例のガスアシスト成形装置1では、第2成形キャビティ部16bが第1成形キャビティ部16aよりも大容積であるので、第2速度は、第1速度よりも速く設定される。
【0066】
-樹脂製パイプの製造方法-
この実施形態の樹脂製パイプの製造は、上記ガスアシスト成形装置1を使用して行われる。当該樹脂製パイプの製造方法は、樹脂射出工程と、ガス注入工程と、脱型工程とを含む。ガス注入工程は、流体注入工程の一例である。
【0067】
樹脂射出工程は、複数のキャビティ12のそれぞれに対し、当該キャビティ12の容量よりも少ない異なる所定量の溶融樹脂Rを射出する工程である。樹脂注入工程では、樹脂射出機50を用いて、個々のキャビティ12に対する溶融樹脂Rの射出を個別に順次行う。そして、樹脂射出工程では、複数のキャビティ12のそれぞれで、成形する樹脂製パイプ100の肉厚に応じて溶融樹脂Rの射出時間を調整する。本例の樹脂射出工程では、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出時間と、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出時間とを合わせる。
【0068】
ガス注入工程は、個々のキャビティ12における溶融樹脂Rの射出の完了後に、当該キャビティ12内の溶融樹脂Rの内部に加圧ガスを注入する工程である。ガス注入工程では、ガス注入機60を用いて、個々のキャビティ12に対する加圧ガスの注入を個別に開始させ、互いに並行して行う。そして、ガス注入工程では、複数のキャビティ12のそれぞれにおいて、一定の圧力で加圧ガスを溶融樹脂Rの内部に注入する。
【0069】
本例の樹脂射出工程は、第1射出工程と、第2射出工程とを含む。本例のガス注入工程は、第1注入工程と、第2注入工程とを含む。第1射出工程および第1注入工程は、第1キャビティについての工程であり、この順で行われる。第2射出工程および第2注入工程は、第2キャビティについての工程であり、この順で行われる。
【0070】
図2に示すように、樹脂製パイプ100の製造は、ガスアシスト成形装置1の第1ゲートバルブ36、第2ゲートバルブ38、第1ガスバルブ40および第2ガスバルブ42を閉じた状態で開始される。このとき、樹脂射出機50では、シリンダ52内に溶融樹脂Rを計量済みである。
【0071】
樹脂製パイプ100の製造を開始すると、まず、制御ユニット70により第1射出工程が行われる。第1射出工程は、1回の成形サイクルを開始する時刻tに開始され、第1キャビティ12aに対する第1ショートショット量の溶融樹脂Rの射出が完了する時刻tに終了する。
【0072】
第1射出工程では、第2ゲートバルブ38を閉じた状態としたまま、第1ゲートバルブ36を開く。そして、制御ユニット70は、樹脂射出機50に射出動作を行わせる。図3に示すように、射出動作では、樹脂射出機50の駆動装置58を作動させ、スクリュー56を第1速度で第1進出位置P1まで進出させる。これにより、樹脂射出機50のノズル54から樹脂供給路22を介して第1キャビティ12a(第1成形キャビティ部16a)に溶融樹脂Rを射出する。そして、スクリュー56が第1進出位置P1に到達した時点で第1ゲートバルブ36を閉じて、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出を完了する。
【0073】
このようにして、第1キャビティ12aに対して射出する溶融樹脂Rの量を、樹脂射出機50のスクリュー56の進出位置で決定し、第1ショートショット量の溶融樹脂Rを第1キャビティ12aに射出する。この第1射出工程では、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出時間を、第1パイプ100Aの肉厚に応じて、樹脂射出機50のスクリュー56の進出速度で設定する。第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出は、その開始から所定の時間(例えば約2秒)で完了する。
【0074】
第1射出工程を終了すると、制御ユニット70により第2射出工程が行われる。第2射出工程は、第1射出工程が終了する時刻tに開始され、第2キャビティ12bに対する第2ショートショット量の溶融樹脂Rの射出が完了する時刻tに終了する。
【0075】
第2射出工程では、第1ゲートバルブ36を閉じた状態としたまま、第2ゲートバルブ38を開く。そして、図4に示すように、樹脂射出機50の駆動装置58を引き続き作動させ、スクリュー56の進出速度を速くして、スクリュー56を第2速度で第2進出位置P2まで進出させる。それにより、樹脂射出機50のノズル54から樹脂供給路22を介して第2キャビティ12b(第2成形キャビティ部16b)に溶融樹脂Rを射出する。そして、スクリュー56が第2進出位置P2に到達した時点で駆動装置58を停止し、第2ゲートバルブ38を閉じて、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出を完了する。
【0076】
このようにして、第2キャビティ12bに対して射出する溶融樹脂Rの量を、樹脂射出機50のスクリュー56の進出位置で決定し、第2ショートショット量の溶融樹脂Rを第2キャビティ12bに射出する。この第2射出工程では、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出時間を、第2パイプ100Bの肉厚に応じて、樹脂射出機50のスクリュー56の進出速度で設定する。第2キャビティ12bの溶融樹脂Rの射出は、その開始から第1射出工程における溶融樹脂Rの射出時間と同等の時間(例えば約2秒)で完了する。
【0077】
また、第1射出工程を終了すると、制御ユニット70により第1注入工程が行われる。第1注入工程は、第2射出工程と並行して開始される。第1注入工程は、第1射出工程が終了する時刻tに開始され、第1キャビティ12aに対する加圧ガスの注入が完了する時刻tに終了する。
【0078】
第1注入工程では、第2ガスバルブ42を閉じた状態としたまま、第1ガスバルブ40を開く。これにより、図4に示すように、ガス注入機60からガス供給路30を介して第1キャビティ12a内の溶融樹脂Rの内部に加圧ガスを所定の圧力で注入する。第1注入工程では、注入した加圧ガスを、第1捨てキャビティ部18aの一部にも到達させる。そのことにより、第1成形面20aに溶融樹脂Rを加圧しつつ、溶融樹脂Rの余剰分を第1捨てキャビティ部18aに押し出して、第1成形キャビティ部16a内の溶融樹脂Rに中空部を形成する。ガス注入機60による加圧ガスの注入量が第1キャビティ12aの容積に応じた所定量になってから所定時間おいた後、第1ガスバルブ40を閉じて、第1キャビティ12aに対する加圧ガスの注入を完了する。
【0079】
第1注入工程を終了すると、第1キャビティ12a内の溶融樹脂Rに加圧ガスによってかかる圧力を保持しながら、第1キャビティ12a内で当該溶融樹脂Rを冷却する。第1キャビティ12a内における溶融樹脂Rの冷却は、第1射出工程の実行中から徐々に進行する。そのため、第1キャビティに対する溶融樹脂Rの射出時間は、第1パイプ100Aの肉厚に関係する。つまり、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出時間が長いほど、第1パイプ100Aの肉厚が厚くなる傾向がある。第1キャビティ12a内の溶融樹脂Rは、金型10で冷却することにより固化される。それにより、第1キャビティ12a内に第1パイプ100Aが成形される。
【0080】
第2射出工程を終了すると、制御ユニット70により第2注入工程が行われる。第2注入工程は、第1注入工程の実行中に開始される。第2注入工程は、第2射出工程が終了する時刻tに開始され、第2キャビティ12bに対する加圧ガスの注入が完了する時刻tに終了する。
【0081】
第2注入工程では、第1ガスバルブ40を開いた状態としたまま、第2ガスバルブ42を開く。これにより、図5に示すように、ガス注入機60からガス供給路30を介して第2キャビティ12b内の溶融樹脂Rの内部に加圧ガスを所定の圧力で注入する。第2注入工程では、注入した加圧ガスを、第2捨てキャビティ部18bの一部にも到達させる。そのことにより、第2成形面20bに溶融樹脂Rを加圧しつつ、溶融樹脂Rの余剰分を第2捨てキャビティ部18bに押し出して、第2成形キャビティ部16b内の溶融樹脂Rに中空部を形成する。ガス注入機60による加圧ガスの注入量が第2キャビティ12bの容積に応じた所定量になってから所定時間おいた後、第2ガスバルブ42を閉じて、第2キャビティ12bに対する加圧ガスの注入を完了する。
【0082】
第2注入工程を終了すると、第2キャビティ12b内の溶融樹脂Rに加圧ガスによってかかる圧力を保持しながら、第2キャビティ12b内で当該溶融樹脂Rを冷却する。第2キャビティ12b内における溶融樹脂Rの冷却は、第2射出工程の実行中から徐々に進行する。そのため、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出時間は、第2パイプ100Bの肉厚に関係する。つまり、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出時間が長いほど、第2パイプ100Bの肉厚が厚くなる傾向がある。第2キャビティ12b内の溶融樹脂Rは、金型10で冷却することにより固化される。それにより、第2キャビティ12b内に第2パイプ100Bが成形される。
【0083】
また、第2射出工程を終了すると、制御ユニット70は、樹脂射出機50に計量動作を行わせる。計量動作は、第2射出工程が終了する時刻tに開始され、一定容量の溶融樹脂がシリンダ52内に蓄積される時刻tに終了する。計量動作では、ホッパーからシリンダ52内に樹脂材料を供給し、その樹脂材料をヒータによる加熱で溶融状態としてスクリュー56を計量完了位置P0にまで後退させ、一定容量の溶融樹脂Rをシリンダ52内に蓄積する。樹脂射出機50は、計量動作を終了すると、待機状態とされる。
【0084】
しかる後、脱型工程が行われる。脱型工程は、第1キャビティ12a内の溶融樹脂Rが固化、および第2キャビティ12b内の溶融樹脂Rの固化が完了した時刻tに行われる。脱型工程では、金型10を型開きし、型開きした金型10から第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bを取り出す。そして、図6に示すように、第1パイプ100Aにおける第1ガス導入部14aおよび第1捨てキャビティ部18aの余剰固形物102とゲート残渣物104とを切除する。また、第2パイプ100Bにおける第2ガス導入部14bおよび第2捨てキャビティ部18bの余剰固形物102とゲート残渣物104とを切除する。
【0085】
以上のようにして、第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bを1回の成形サイクルで成形することができる。そうして成形される第1パイプ100Aと第2パイプ100bとは、成形サイクルごとの重量のばらつきを±1.5%程度に抑えることができる。
【0086】
-実施形態の特徴-
この実施形態の樹脂製パイプの製造方法では、複数のキャビティ12のそれぞれで、成形する樹脂製パイプ100(第1パイプ100Aおよび第2パイプ100B)の肉厚に応じて溶融樹脂Rの射出時間を調整する。各キャビティ12において、溶融樹脂Rの射出時間は、加圧ガスを注入するまでに進行する溶融樹脂Rの固化具合と関係があり、キャビティ12に対する溶融樹脂Rの射出時間が長いほど、溶融樹脂Rの固化が進行する。そして、溶融樹脂Rの固化が進行するほど、樹脂製パイプ100の肉厚が厚くなる。よって、複数のキャビティ12のそれぞれで溶融樹脂Rの射出時間を調整することで、各パイプ100を所定の肉厚を成形できる。
【0087】
この実施形態の樹脂製パイプの製造方法では、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出時間と、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出時間とを合わせる。第1キャビティ12aと第2キャビティ12bとにおいて、溶融樹脂Rの射出時間を合わせると、加圧ガスを注入するまでに進行する溶融樹脂Rの固化具合を同程度とすることができる。それにより、第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bに同じ肉厚の樹脂製パイプ100(第1パイプ100Aおよび第2パイプ100B)を安定して成形できる。
【0088】
この実施形態の樹脂製パイプの製造方法では、第1キャビティ12aと第2キャビティ12bとの長さおよび曲がり形状がそれら両キャビティ12で互いに異なる。このような第1キャビティ12aおよび第2キャビティ12bに対してそれぞれ同じ射出速度で溶融樹脂Rを射出すると、各キャビティ12に対する溶融樹脂Rの射出を開始してから完了するまでの射出時間が異なる。このため、溶融樹脂Rの射出の実行中においても溶融樹脂の固化が進行することを考慮しないと、各パイプ100を所定の肉厚で成形することが困難である。よって、この実施形態の樹脂製パイプの製造方法が有効である。
【0089】
この実施形態の樹脂製パイプの製造方法では、各々のキャビティ12に対して射出する溶融樹脂Rの量を、樹脂射出機50のスクリュー56の進出位置で決定し、個々のキャビティ12に対する溶融樹脂Rの射出時間を、樹脂射出機50のスクリュー56の進出速度で設定する。これによれば、キャビティ12ごとの溶融樹脂Rの射出時間の調整を容易に行える。
【0090】
この実施形態の樹脂製パイプの製造方法では、加圧流体として窒素ガスを使用する。窒素ガスは、化学反応を起こし難い安定した気体である。よって、樹脂製パイプ100を製造するときに、樹脂の分解や樹脂焼けなどの不具合が生じるのを抑制できる。
【0091】
この実施形態のガスアシスト成形装置1では、制御ユニット70が、各々のキャビティ12に対して射出する溶融樹脂Rの量を、位置センサ59によって検出されるスクリュー56の進出位置で管理し、個々のキャビティ12に対する溶融樹脂Rの射出時間を、スクリュー56の進出速度で設定する。これによれば、キャビティ12ごとの溶融樹脂Rの射出時間の調整を容易に行える。したがって、当該樹脂製パイプの製造装置は、複数のキャビティ12のそれぞれで成形する樹脂製パイプ100の肉厚に応じて溶融樹脂Rの射出時間を調整する、この実施形態の樹脂製パイプの製造方法を実施するのに好適である。
【0092】
この実施形態のガスアシスト成形装置1では、制御ユニット70が、位置センサ59によって検出されるスクリュー56の進出位置に基づいて、第1ゲートバルブ36および第2ゲートバルブ38の動作を制御する。第1ゲートバルブ36および第2ゲートバルブ38は、キャビティ12ごとの溶融樹脂Rの射出の実行および停止を制御する。これによれば、共通の樹脂射出機50を使用して、各キャビティ12について、射出する溶融樹脂Rの量を管理しつつ、溶融樹脂Rの射出時間を調整できる。
【0093】
この実施形態のガスアシスト成形装置1では、制御ユニット70が、位置センサ59によって検出されるスクリュー56の進出位置に基づいて、第1ガスバルブ40および第2ガスバルブ42の動作を制御する。第1ガスバルブ40および第2ガスバルブ42は、キャビティ12ごとの溶融樹脂Rの内部に対する加圧ガスの注入の実行および停止を制御する。これによれば、共通のガス注入機60を使用して、各キャビティ12における溶融樹脂Rの内部に加圧ガスの注入を行える。
【0094】
《その他の実施形態》
上記実施形態では、第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bの2本の樹脂製パイプ100を成形対象として説明したが、これに限らない。ガスアシスト成形装置1およびそれを用いた樹脂製パイプの製造方法は、3本以上の樹脂製パイプ100を成形対象としてもよい。
【0095】
上記実施形態では、第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bは、外径および内径が概ね同じであるとしたが、これに限らない。第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bは、外径および内径の一方または両方が異なっていてもよい。この場合、第1パイプ100Aと第2パイプ100Bは、長さおよび曲がり形状の一方または両方が同一であってもよい。
【0096】
上記実施形態では、第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bは、同程度の肉厚を有するとしたが、これに限らない。第1パイプ100Aおよび第2パイプ100Bは、互いに異なる肉厚を有してもよい。例えば、第2パイプ100Bの肉厚が第1パイプ100Aの肉厚よりも厚い場合、第2キャビティ12bに対する溶融樹脂Rの射出時間を、第1キャビティ12aに対する溶融樹脂Rの射出時間よりも長く設定すればよい。
【0097】
上記実施形態では、ガス注入工程において、個々のキャビティ12における溶融樹脂Rの射出の完了後に、当該キャビティ12内の溶融樹脂Rの内部に加圧ガスを注入するとしたが、これに限らない。ガス注入工程では、個々のキャビティ12における溶融樹脂Rの射出の実行中に、当該キャビティ12内の溶融樹脂Rの内部に加圧ガスを注入してもよい。
【0098】
上記実施形態では、ガス注入機60が加圧ガスを発生させる機能を有するとして説明したが、これに限らない。ガスアシスト成形装置1は、加圧ガスを発生させるガス発生装置を、ガス注入機とは別に備え、ガス注入機60は、ガス発生装置で発生させた加圧ガスをガス供給路30に送り出す機能のみを有してもよい。
【0099】
上記実施形態では、本発明に係る樹脂製パイプの製造方法について、ガスアシスト成形を用いる場合を例に挙げて説明したが、これに限らない。本発明は、加圧流体として水などの液体を使用するウォーターアシスト成形など、ガス以外の加圧流体を使用する他の流体アシスト成形を用いる樹脂製パイプの製造方法および製造装置にも適用可能である。
【0100】
以上のように、本発明の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、本発明は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。上記実施形態が例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せに、さらに色々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲に属することは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上説明したように、本発明は、樹脂製パイプの製造方法および製造装置について有用である。
【符号の説明】
【0102】
G 加圧ガス(加圧流体、不活性ガス)
R 溶融樹脂
1 ガスアシスト成形装置(樹脂製パイプの製造装置)
10 金型
12 キャビティ
12a 第1キャビティ
12b 第2キャビティ
36 第1ゲートバルブ(第1制御バルブ)
38 第2ゲートバルブ(第1制御バルブ)
40 第1ガスバルブ(第2制御バルブ)
42 第2ガスバルブ(第2制御バルブ)
50 樹脂射出機
52 シリンダ
56 スクリュー
59 位置センサ
60 ガス注入機(流体注入機)
70 制御ユニット
100 樹脂製パイプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6