(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050166
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 19/12 20060101AFI20240403BHJP
F02D 17/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
F02B19/12 B
F02D17/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156841
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若本 進児
【テーマコード(参考)】
3G023
3G092
【Fターム(参考)】
3G023AA01
3G023AA08
3G023AA18
3G023AB01
3G023AC04
3G023AD21
3G023AD28
3G092AB11
3G092BA08
3G092BB06
3G092DC07
3G092DE03
3G092GA02
3G092HB02Z
(57)【要約】
【課題】エンジンの暖機運転を適切に実行する。
【解決手段】エンジンは、チャンバ隔壁を境に主燃焼室および副燃焼室が区画されるシリンダヘッドと、前記主燃焼室に燃料を噴射する燃料インジェクタと、前記副燃焼室に空気を噴射するエアインジェクタと、を有する。前記エンジンは、前記副燃焼室に配置される点火電極を備える点火デバイスを有する。前記エンジンは、前記燃料インジェクタ、前記エアインジェクタおよび前記点火デバイスを制御する制御システムを有する。前記制御システムは、暖機運転時の圧縮行程において、第1期間に亘って前記燃料インジェクタから燃料を噴射させ、かつ前記第1期間と少なくとも一部が重なる第2期間に亘って前記エアインジェクタから空気を噴射させる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気火花を用いて混合気に点火するエンジンであって、
複数の貫通孔が形成されるチャンバ隔壁を備え、前記チャンバ隔壁を境に主燃焼室および副燃焼室が区画されるシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドに設けられ、前記主燃焼室に燃料を噴射する燃料インジェクタと、
前記シリンダヘッドに設けられ、前記副燃焼室に空気を噴射するエアインジェクタと、
前記副燃焼室に配置される点火電極を備え、前記点火電極と前記チャンバ隔壁との間で放電させる点火デバイスと、
互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記燃料インジェクタ、前記エアインジェクタおよび前記点火デバイスを制御する制御システムと、
を有し、
前記制御システムは、
暖機運転時の圧縮行程において、第1期間に亘って前記燃料インジェクタから燃料を噴射させ、かつ前記第1期間と少なくとも一部が重なる第2期間に亘って前記エアインジェクタから空気を噴射させ、
暖機運転時の膨張行程において、前記燃料インジェクタから燃料を噴射させた後に、前記点火電極と前記チャンバ隔壁との間で放電させる、
エンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンにおいて、
前記チャンバ隔壁には、前記複数の貫通孔として、前記点火電極の先端に対向する第1貫通孔と、前記点火電極の側面に対向する複数の第2貫通孔と、が形成されている、
エンジン。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンにおいて、
前記第2貫通孔の中心線は、前記点火電極の径方向に対して傾斜している、
エンジン。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジンにおいて、
前記燃料インジェクタおよび前記チャンバ隔壁は、吸気バルブおよび排気バルブよりも前記主燃焼室の中央に寄せて配置されている、
エンジン。
【請求項5】
請求項1に記載のエンジンにおいて、
前記制御システムは、
前記暖機運転時の膨張行程において、前記第1期間よりも短い第3期間に亘って前記燃料インジェクタから燃料を噴射させた後に、前記点火電極と前記チャンバ隔壁との間で放電させる、
エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気火花を用いて混合気に点火するエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関であるエンジンに関し、シリンダヘッドの副燃焼室から主燃焼室に火炎を噴射させる技術が提案されている(特許文献1-3参照)。このように、副燃焼室から主燃焼室に向けて火炎を噴射させることにより、主燃焼室のリーンな混合気を適切に燃焼させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3956503号公報
【特許文献2】特開2011-38465号公報
【特許文献3】特許第6562019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン初始動後の暖機運転時には、排気系の触媒コンバータを早期に暖めるため、点火タイミングを遅角させる点火リタード制御が実行される。併せて、排気ガス中の窒素酸化物NOxを低減するため、圧縮行程中に多量の燃料を噴射する成層燃焼制御が実行される。また、暖機運転中の主燃焼室や副燃焼室は低温であることから、混合気の燃焼安定性を低下させる点火リタード制御と相俟って、暖機運転時には混合気を適切に燃焼させることが困難となっていた。つまり、副燃焼室を区画する隔壁が低温である場合には、成層燃焼のために圧縮行程中に主燃焼室に噴射された燃料が隔壁に付着して燃料濃度を局所的に高めることから、排気ガス中の炭化水素HC等を増加させてしまう虞がある。このため、暖機運転時においても混合気を良好に燃焼させることにより、エンジンの暖機運転を適切に実行することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、エンジンの暖機運転を適切に実行することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態のエンジンは、電気火花を用いて混合気に点火するエンジンであって、複数の貫通孔が形成されるチャンバ隔壁を備え、前記チャンバ隔壁を境に主燃焼室および副燃焼室が区画されるシリンダヘッドと、前記シリンダヘッドに設けられ、前記主燃焼室に燃料を噴射する燃料インジェクタと、前記シリンダヘッドに設けられ、前記副燃焼室に空気を噴射するエアインジェクタと、前記副燃焼室に配置される点火電極を備え、前記点火電極と前記チャンバ隔壁との間で放電させる点火デバイスと、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記燃料インジェクタ、前記エアインジェクタおよび前記点火デバイスを制御する制御システムと、を有し、前記制御システムは、暖機運転時の圧縮行程において、第1期間に亘って前記燃料インジェクタから燃料を噴射させ、かつ前記第1期間と少なくとも一部が重なる第2期間に亘って前記エアインジェクタから空気を噴射させ、暖機運転時の膨張行程において、前記燃料インジェクタから燃料を噴射させた後に、前記点火電極と前記チャンバ隔壁との間で放電させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、制御システムは、暖機運転時の圧縮行程において、第1期間に亘って燃料インジェクタから燃料を噴射させ、かつ第1期間と少なくとも一部が重なる第2期間に亘ってエアインジェクタから空気を噴射させる。これにより、混合気を良好に燃焼させることができ、エンジンの暖機運転を適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態であるエンジンが搭載される車両の一例を示す図である。
【
図3】シリンダヘッドに形成される主燃焼室およびその近傍を示す図である。
【
図4】プレチャンバ隔壁およびその近傍を示す図である。
【
図5】
図4のA-A線に沿ってプレチャンバ隔壁を示す断面図である。
【
図6】電子制御ユニットの基本構造の一例を示す図である。
【
図7】制御例1として、燃焼制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートである。
【
図8】
図7に示したクランク角CA1~CA4におけるエアインジェクタおよび燃料インジェクタの作動状況を示す図である。
【
図9】
図7に示したクランク角CA5~CA7における燃料インジェクタおよび点火デバイスの作動状況を示す図である。
【
図10】通常運転時における燃焼制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートである。
【
図11】
図10に示したクランク角CA11~CA12における燃料インジェクタの作動状況を示す図である。
【
図12】
図10に示したクランク角CA13における点火デバイスの作動状況を示す図である。
【
図13】制御例2として、燃焼制御の実行状況の他の例を示すタイミングチャートである。
【
図14】制御例3として、燃焼制御の実行状況の他の例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0010】
[車両]
図1は本発明の一実施形態であるエンジン10が搭載される車両11の一例を示す図である。
図1に示すように、車両11には、エンジン10および変速機12からなるパワーユニット13が搭載されている。パワーユニット13の出力軸14には、プロペラ軸15およびデファレンシャル機構16を介して後輪17が連結されている。なお、後述するように、図示するエンジン10は、水平対向エンジンであるが、これに限られることはなく、直列エンジン、V型エンジン或いは単気筒エンジンであっても良い。また、図示するパワーユニット13は、後輪駆動用のパワーユニットであるが、これに限られることはなく、前輪駆動用や全輪駆動用のパワーユニットであっても良い。
【0011】
[エンジン]
図2はエンジン10の一例を示す図である。
図2に示すように、エンジン10は、一方のシリンダバンクを構成するシリンダブロック20と、他方のシリンダバンクを構成するシリンダブロック21と、一対のシリンダブロック20,21に支持されるクランク軸22と、を有している。各シリンダブロック20,21にはシリンダボア23が形成されており、各シリンダボア23にはピストン24が収容されている。クランク軸22とピストン24とは、コネクティングロッド25を介して互いに連結されている。
【0012】
各シリンダブロック20,21には、動弁機構30等を備えたシリンダヘッド31が取り付けられている。シリンダヘッド31には、主燃焼室32に開口する吸気ポート33が形成されるとともに、吸気ポート33を開閉する吸気バルブ34が組み付けられている。また、シリンダヘッド31には、主燃焼室32に開口する排気ポート35が形成されるとともに、排気ポート35を開閉する排気バルブ36が組み付けられている。さらに、シリンダヘッド31には、排気ポート35からの排気ガスを外部に案内するため、触媒コンバータ37および消音器38等を備えた排気系39が接続されている。
【0013】
図3はシリンダヘッド31に形成される主燃焼室32およびその近傍を示す図である。
図3に示すように、シリンダヘッド31には、吸気ポート33および排気ポート35に連通する主燃焼室32が形成されている。なお、本明細書においては、シリンダヘッド31、シリンダボア23およびピストン24によって区画される空間を主燃焼室32として記載している。また、シリンダヘッド31には、主燃焼室32に燃料を噴射する燃料インジェクタ40が設けられるとともに、複数の貫通孔41,42が形成されるプレチャンバ隔壁(チャンバ隔壁)43が設けられている。また、燃料インジェクタ40およびプレチャンバ隔壁43は、吸気バルブ34および排気バルブ36よりも主燃焼室32の中央CL1に寄せて配置されている。なお、燃料インジェクタ40には、図示しない高圧燃料ポンプ等が接続されている。
【0014】
図4はプレチャンバ隔壁43およびその近傍を示す図である。
図4に示すように、プレチャンバ隔壁43は、シリンダヘッド31に取り付けられるベース部44と、ベース部44に設けられる円筒形状の側壁部45と、側壁部45に設けられる半球形状のドーム部46と、を有している。このようなプレチャンバ隔壁43をシリンダヘッド31に設けることにより、シリンダヘッド31にはプレチャンバ隔壁43を境に主燃焼室32および副燃焼室47が区画される。つまり、シリンダヘッド31には、プレチャンバ隔壁43の外側に主燃焼室32が区画されるとともに、プレチャンバ隔壁43の内側に副燃焼室47が区画されている。また、プレチャンバ隔壁43は、金属等の導電材料を用いて形成されている。
【0015】
シリンダヘッド31には、プレチャンバ隔壁43内の副燃焼室47に空気を噴射するエアインジェクタ50が設けられている。エアインジェクタ50とプレチャンバ隔壁43とは、接続配管51を介して互いに接続されている。なお、エアインジェクタ50には、図示しない高圧エアポンプ等が接続されている。また、
図3および
図4に示すように、シリンダヘッド31には、副燃焼室47内に配置される点火電極52と、点火コイルやイグナイタ等からなる通電回路部53と、を備えた点火デバイス54が設けられている。点火電極52はプレチャンバ隔壁43のほぼ中央に位置しており、プレチャンバ隔壁43のベース部44と点火電極52との間には絶縁碍子55が設けられている。また、点火電極52の先端52aは、後述するドーム部46の中央貫通孔41の近傍まで伸びている。この点火デバイス54においては、通電回路部53から点火電極52に高電圧を印加することにより、点火電極52とプレチャンバ隔壁43との間で放電させることができ、点火電極52とプレチャンバ隔壁43との間に電気火花を発生させることができる。
【0016】
また、プレチャンバ隔壁43のドーム部46には、火炎を噴射する複数の貫通孔41,42が形成されている。つまり、プレチャンバ隔壁43には、複数の貫通孔41,42として、ドーム部46の中央に形成されて点火電極52の先端52aに対向する中央貫通孔(第1貫通孔)41と、中央貫通孔41を囲むように配置されて点火電極52の側面52bに対向する複数の側部貫通孔(第2貫通孔)42と、が設けられている。ここで、
図5は
図4のA-A線に沿ってプレチャンバ隔壁43を示す断面図である。
図5に示すように、プレチャンバ隔壁43に形成される複数の側部貫通孔42は、周方向に所定間隔を空けて配置されるとともに、ドーム部46の内周面46aの接線方向に開口している。つまり、プレチャンバ隔壁43に形成される側部貫通孔42の中心線CL2は、点火電極52の径方向Dr1に対して傾斜している。なお、図示する例では、点火電極52がプレチャンバ隔壁43の中央に配置されることから、点火電極52の径方向Dr1と円筒形状の側壁部45の径方向とは互いに一致している。
【0017】
[制御システム]
図3に示すように、エンジン10には、燃料インジェクタ40、エアインジェクタ50および点火デバイス54等を制御するため、電子制御ユニット60からなる制御システム61が設けられている。電子制御ユニット60に接続されるセンサとして、車速を検出する車速センサ62、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ63、およびブレーキペダルの操作量を検出するブレーキセンサ64がある。また、電子制御ユニット60に接続されるセンサとして、クランク軸22の回転角度を検出するクランク回転センサ65、エンジン10の冷却水温度を検出する冷却水温センサ66、およびエンジン10の吸入空気量を検出するエアフローセンサ67がある。さらに、電子制御ユニット60に接続されるセンサとして、触媒コンバータ37の温度を検出する触媒温度センサ68、および排気ガスの酸素濃度から空燃比を検出する空燃比センサ69がある。さらに、電子制御ユニット60には、制御システム61の起動時や停止時に手動操作される起動スイッチ70が設けられている。
【0018】
電子制御ユニット60は、各センサからの出力信号に基づいて、燃料インジェクタ40、エアインジェクタ50および点火デバイス54等の制御目標を設定する。そして、電子制御ユニット60は、各制御目標に応じて設定された制御信号を、燃料インジェクタ40、エアインジェクタ50および点火デバイス54等に向けて出力する。例えば、電子制御ユニット60は、エンジン回転数および吸入空気量に基づいて、燃料インジェクタ40の燃料噴射量や燃料噴射タイミングを制御する。また、電子制御ユニット60は、エンジン回転数および吸入空気量に基づいて、点火デバイス54による混合気への点火タイミングを制御する。
【0019】
図6は電子制御ユニット60の基本構造の一例を示す図である。
図6に示すように、制御システム61を構成する電子制御ユニット60は、プロセッサ80およびメインメモリ(メモリ)81等が組み込まれたマイクロコントローラ82を有している。メインメモリ81には所定のプログラムが格納されており、プロセッサ80によってプログラムが実行される。プロセッサ80とメインメモリ81とは、互いに通信可能に接続されている。なお、マイクロコントローラ82に複数のプロセッサ80を組み込んでも良く、マイクロコントローラ82に複数のメインメモリ81を組み込んでも良い。
【0020】
また、電子制御ユニット60には、入力回路83、駆動回路84、通信回路85、外部メモリ86および電源回路87等が設けられている。入力回路83は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ82に入力可能な信号に変換する。駆動回路84は、マイクロコントローラ82から出力される信号に基づき、前述した燃料インジェクタ40等の各種デバイスに対する駆動信号を生成する。通信回路85は、マイクロコントローラ82から出力される信号を、他の電子制御ユニットに向けた通信信号に変換する。また、通信回路85は、他の電子制御ユニットから受信した通信信号を、マイクロコントローラ82に入力可能な信号に変換する。さらに、電源回路87は、マイクロコントローラ82、入力回路83、駆動回路84、通信回路85および外部メモリ86等に対し、安定した電源電圧を供給する。また、不揮発性メモリ等からなる外部メモリ86には、プログラムおよび各種データ等が記憶される。
【0021】
[暖機運転制御]
エンジン初始動時つまり冷間始動時においては、触媒温度を早期に上昇させて触媒コンバータ37を活性化させることが必要であるため、制御システム61によるエンジン10の暖機運転制御が実行される。この暖機運転制御においては、例えば、アイドリング回転数を通常時よりも高くするアイドルアップ制御が実行されるとともに、点火タイミングを遅角させる点火リタード制御が実行される。これにより、触媒温度を早期に高めることができ、触媒コンバータ37を早期に活性化させることができる。なお、暖機運転制御は、所定の終了条件が成立するまで継続される。暖機運転制御の終了条件として、例えば、触媒温度が規定温度に到達すること、冷却水温度が規定温度に到達すること、或いは暖機運転の実行時間が規定時間に到達すること、を用いることができる。
【0022】
ところで、暖機運転制御が実行される暖機運転時においては、主燃焼室32内のプレチャンバ隔壁43も低温であることから、点火タイミングを遅角させつつ混合気を良好に燃焼させることが困難であった。つまり、プレチャンバ隔壁43が低温である場合には、主燃焼室32に噴射された燃料がプレチャンバ隔壁43に付着して燃料濃度を局所的に高めることから、排気ガス中の炭化水素HCおよび粒子状物質数PN等を増加させてしまう虞がある。このため、暖機運転時においても混合気を良好に燃焼させることにより、エンジン10の暖機運転制御を適切に実行することが求められている。
【0023】
[燃焼制御:制御例1]
そこで、制御システム61は、暖機運転制御が実行される暖機運転時において、エアインジェクタ50、燃料インジェクタ40および点火デバイス54を制御する燃焼制御を実行する。ここで、
図7は、制御例1として、燃焼制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートである。また、
図8は
図7に示したクランク角CA1~CA4におけるエアインジェクタ50および燃料インジェクタ40の作動状況を示す図であり、
図9は
図7に示したクランク角CA5~CA7における燃料インジェクタ40および点火デバイス54の作動状況を示す図である。なお、
図7に示した「OPEN」とは、燃料インジェクタ40やエアインジェクタ50の図示しないノズルが開かれることを意味しており、
図7に示した「CLOSE」とは、燃料インジェクタ40やエアインジェクタ50の図示しないノズルが閉じられることを意味している。
【0024】
図7に示すように、暖機運転時の圧縮行程においては、クランク角CA1でエアインジェクタ50が開かれ(符号a1)、クランク角CA2で燃料インジェクタ40が開かれる(符号b1)。続いて、クランク角CA3で燃料インジェクタ40が閉じられ(符号b2)、クランク角CA4でエアインジェクタ50が閉じられる(符号a2)。つまり、暖機運転時の圧縮行程においては、エアインジェクタ50から副燃焼室47への空気噴射が開始された後に、燃料インジェクタ40から主燃焼室32への燃料噴射が開始される。そして、燃料インジェクタ40から主燃焼室32への燃料噴射が停止された後に、エアインジェクタ50から副燃焼室47への空気噴射が停止される。このように、エアインジェクタ50は第1期間T1に亘って空気を噴射しており、燃料インジェクタ40は第2期間T2に亘って燃料を噴射している。また、燃料噴射期間である第2期間T2の全ては、空気噴射期間である第1期間T1に重なっている。
【0025】
前述したように、暖機運転時の圧縮行程においては、クランク角CA1~CA4にかけて、エアインジェクタ50から副燃焼室47に空気が噴射され、燃料インジェクタ40から主燃焼室32に燃料が噴射される。ここで、
図8に示すように、エアインジェクタ50から副燃焼室47に噴射された空気は、矢印x1で示すように、プレチャンバ隔壁43の各貫通孔41,42を通過して主燃焼室32に放出され、プレチャンバ隔壁43を覆うように空気層ALを形成する。また、前述の
図5に示すように、側部貫通孔42の中心線CL2は、点火電極52の径方向Dr1に対して傾斜している。これにより、矢印x2で示すように、側部貫通孔42から放出される空気を旋回させることができ、プレチャンバ隔壁43を覆うように空気層ALを適切に形成することができる。このように、プレチャンバ隔壁43を空気層ALによって覆うことにより、プレチャンバ隔壁43の近傍に燃料Fuが噴射された場合であっても、プレチャンバ隔壁43に対する燃料の付着を抑制することができる。なお、噴射燃料の一部がプレチャンバ隔壁43の近傍を通過するように、燃料インジェクタ40の図示しない噴射孔の向きが設定されている。つまり、噴射燃料の一部がプレチャンバ隔壁43に衝突することのないように、燃料インジェクタ40の図示しない噴射孔の向きが設定されている。
【0026】
前述したように、プレチャンバ隔壁43を空気層ALによって覆うことにより、プレチャンバ隔壁43に対する燃料の付着を抑制することができ、プレチャンバ隔壁43の近傍における燃料濃度の過度な高まりを防止することができる。これにより、その後の点火時においては混合気を適切に燃焼させることができるため、排気ガス中の炭化水素HCおよび粒子状物質数PN等を低減することができる。しかしながら、副燃焼室47にはエアインジェクタ50から空気が供給されることから、点火電極52によって副燃焼室47内のリーンな混合気に点火することが困難となっていた。
【0027】
そこで、制御システム61は、混合気に点火して適切に燃焼させるため、上死点後の膨張行程において主燃焼室32に微量な燃料を噴射する。つまり、
図7に示すように、暖機運転時の膨張行程においては、クランク角CA5で燃料インジェクタ40が開かれ(符号b3)、クランク角CA6で燃料インジェクタ40が閉じられる(符号b4)。このように、膨張行程においては、第2期間T2よりも短い第3期間T3に亘って、燃料インジェクタ40から主燃焼室32に微量な燃料が噴射される。そして、燃料噴射後のクランク角CA7において、副燃焼室47内の点火電極52に対して高電圧が印加される。
【0028】
ここで、
図9の拡大部分に示すように、上死点後のクランク角CA7においては、ピストン24がシリンダヘッド31から離れる方向に移動するため、矢印x3で示すように、副燃焼室47から主燃焼室32に向かう気流が発生する。また、燃料インジェクタ40から噴射された燃料Fuは、矢印x4で示すように、プレチャンバ隔壁43を覆う空気層ALを巻き込みながら、プレチャンバ隔壁43の先端近傍を通過する。このように、プレチャンバ隔壁43およびその近傍においては、矢印x3,x4で示した気流が発生することから、副燃焼室47から中央貫通孔41を通過して主燃焼室32に向かう気流が発生し、電気火花の経路である放電チャネルChが中央貫通孔41から主燃焼室32側に引き出される。
【0029】
このように、放電チャネルChを主燃焼室32側に引き出すことにより、副燃焼室47のリーンな混合気ではなく、主燃焼室32のリッチな混合気に対して点火することができる。つまり、プレチャンバ隔壁43に対する燃料の付着を抑制するため、エアインジェクタ50から副燃焼室47に空気を噴射したとしても、放電チャネルChを主燃焼室32側に引き出すことで混合気に点火して適切に燃焼させることができる。このように、暖機運転時であっても混合気を適切に燃焼させることにより、排気ガス中の炭化水素HCおよび粒子状物質数PN等を低減することができ、エンジン10の暖機運転を適切に実行することができる。
【0030】
また、燃料インジェクタ40およびプレチャンバ隔壁43は、吸気バルブ34および排気バルブ36よりも主燃焼室32の中央CL1に寄せて配置されている。これにより、燃料インジェクタ40とプレチャンバ隔壁43とを互いに近づけることができるため、
図9に示すように、燃料インジェクタ40から微量な燃料を噴射する場合であっても、プレチャンバ隔壁43の先端近傍に燃料を適切に供給することができる。
【0031】
[燃焼制御:通常運転時]
続いて、暖機運転終了後の通常運転時における燃焼制御について説明する。
図10は通常運転時における燃焼制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートである。また、
図11は
図10に示したクランク角CA11~CA12における燃料インジェクタ40の作動状況を示す図であり、
図12は
図10に示したクランク角CA13における点火デバイス54の作動状況を示す図である。
【0032】
前述したように、例えば、触媒コンバータ37の温度が規定温度に到達すると、暖機運転制御を終了させて通常運転制御に移行する。この通常運転制御が実行される通常運転時の圧縮行程においては、
図10に示すように、クランク角CA11で燃料インジェクタ40が開かれ(符号c1)、クランク角CA12で燃料インジェクタ40が閉じられる(符号c2)。このように、通常運転時の圧縮行程においては、クランク角CA11~CA12にかけて、
図11に示すように、燃料インジェクタ40から主燃焼室32に燃料Fuが噴射される。また、上死点前のクランク角CA11~CA12においては、ピストン24がシリンダヘッド31に近づく方向に移動するため、矢印x5で示すように、主燃焼室32から副燃焼室47に向かう気流が発生する。これにより、主燃焼室32の混合気は副燃焼室47に供給され、副燃焼室47は混合気で満たされた状態となる。なお、通常運転時においては、エアインジェクタ50は空気を噴射しない停止状態に保持される。
【0033】
図10に示すように、通常運転時の圧縮行程では、燃料噴射後のクランク角CA13において、副燃焼室47内の点火電極52に高電圧が印加される。ここで、
図12の拡大部分に示すように、上死点前のクランク角CA13においては、ピストン24がシリンダヘッド31に近づく方向に移動するため、矢印x6で示すように、主燃焼室32から中央貫通孔41を通過して副燃焼室47に向かう気流が発生する。これにより、電気火花の放電チャネルChが中央貫通孔41から副燃焼室47側に引き込まれ、副燃焼室47内の混合気に点火することができる。このように、副燃焼室47内の混合気が点火されて燃焼すると、プレチャンバ隔壁43の各貫通孔41,42から火炎ジェットJFが噴射される。つまり、高エネルギーの火炎ジェットJFが副燃焼室47から主燃焼室32に噴射されるため、混合気の燃焼安定性を維持したまま主燃焼室32内の混合気をリーンにすることができる。
【0034】
[燃焼制御:制御例2]
図7に示した制御例1では、燃料噴射期間である第2期間T2の全てを、空気噴射期間である第1期間T1に重ねているが、これに限られることはなく、第1期間T1と第2期間T2との少なくとも一部が重なっていれば良い。ここで、
図13は、制御例2として、燃焼制御の実行状況の他の例を示すタイミングチャートである。なお、
図13において、
図7に示したクランク角や作動状況と、同様のクランク角や作動状況については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0035】
図13に示すように、暖機運転時の圧縮行程においては、クランク角CA2で燃料インジェクタ40が開かれ(符号b1)、クランク角CA21でエアインジェクタ50が開かれる(符号d1)。続いて、クランク角CA24でエアインジェクタ50が閉じられ(符号d2)、クランク角CA3で燃料インジェクタ40が閉じられる(符号b2)。つまり、暖機運転時の圧縮行程においては、燃料インジェクタ40から主燃焼室32への燃料噴射が開始された後に、エアインジェクタ50から副燃焼室47への空気噴射が開始される。そして、エアインジェクタ50から副燃焼室47への空気噴射が停止された後に、燃料インジェクタ40から主燃焼室32への燃料噴射が停止される。
【0036】
このように、燃料インジェクタ40から主燃焼室32には、第2期間T2に亘って燃料が噴射されており、エアインジェクタ50から副燃焼室47には、第2期間T2よりも短い第1期間T1aに亘って空気が噴射されている。このように、第2期間T2よりも短い第1期間T1aで空気を噴射した場合であっても、プレチャンバ隔壁43を空気層ALによって覆うことが可能である。これにより、制御例1と同様に、プレチャンバ隔壁43に対する燃料の付着を抑制することができるため、プレチャンバ隔壁43の近傍における燃料濃度の過度な高まりを防止することができ、点火時には混合気を適切に燃焼させることができる。
【0037】
なお、
図13に示した例では、燃料インジェクタ40から主燃焼室32に燃料噴射を開始した後に、エアインジェクタ50から副燃焼室47に空気噴射を開始しているが、これに限られることはなく、エアインジェクタ50から副燃焼室47に空気噴射を開始した後に、燃料インジェクタ40から主燃焼室32に燃料噴射を開始しても良い。また、
図13に示した例では、エアインジェクタ50から副燃焼室47に対する空気噴射を停止した後に、燃料インジェクタ40から主燃焼室32に対する燃料噴射を停止しているが、これに限られることはなく、燃料インジェクタ40から主燃焼室32に対する燃料噴射を停止した後に、エアインジェクタ50から副燃焼室47に対する空気噴射を停止しても良い。
【0038】
[燃焼制御:制御例3]
図7に示した制御例1では、暖機運転時の吸気行程において、燃料および空気を噴射していないが、これに限られることはない。つまり、暖機運転時の圧縮行程だけでなく吸気行程においても、燃料インジェクタ40から燃料を噴射しても良く、エアインジェクタ50から空気を噴射しても良い。ここで、
図14は、制御例3として、燃焼制御の実行状況の他の例を示すタイミングチャートである。なお、
図14において、
図7に示したクランク角や作動状況と、同様のクランク角や作動状況については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
図14に示すように、暖機運転時の吸気行程においては、クランク角CA31でエアインジェクタ50が開かれ(符号e1)、クランク角CA32で燃料インジェクタ40が開かれる(符号f1)。続いて、クランク角CA33で燃料インジェクタ40が閉じられ(符号f2)、クランク角CA34でエアインジェクタ50が閉じられる(符号e2)。つまり、暖機運転時の吸気行程においては、エアインジェクタ50から副燃焼室47への空気噴射が開始された後に、燃料インジェクタ40から主燃焼室32への燃料噴射が開始される。そして、燃料インジェクタ40から主燃焼室32への燃料噴射が停止された後に、エアインジェクタ50から副燃焼室47への空気噴射が停止される。
【0040】
このように、暖機運転時の圧縮行程だけでなく吸気行程において、双方のインジェクタ40,50から燃料および空気を噴射した場合であっても、プレチャンバ隔壁43を空気層ALによって覆うことができる。これにより、プレチャンバ隔壁43に対する燃料の付着を抑制することができるため、プレチャンバ隔壁43の近傍における燃料濃度の過度な高まりを防止することができ、点火時には混合気を適切に燃焼させることができる。なお、暖機運転時の吸気行程において、エアインジェクタ50からの空気噴射を開始する前に、燃料インジェクタ40からの燃料噴射を開始しても良い。また、暖機運転時の吸気行程において、エアインジェクタ50からの空気噴射を停止した後に、燃料インジェクタ40からの燃料噴射を停止しても良い。
【0041】
なお、
図14に示した例では、暖機運転時の吸気行程において、双方のインジェクタ40,50から燃料および空気を噴射しているが、これに限られることはない。例えば、暖機運転時の吸気行程において、燃料インジェクタ40から燃料を噴射させる一方、エアインジェクタ50からの空気噴射を停止させても良い。また、暖機運転時の吸気行程において、エアインジェクタ50から空気を噴射させる一方、燃料インジェクタ40からの燃料噴射を停止させても良い。これらの場合であっても、暖機運転時の圧縮行程において、エアインジェクタ50から空気が噴射されることから、プレチャンバ隔壁43を空気層ALによって覆うことができ、プレチャンバ隔壁43に対する燃料の付着を抑制することができる。
【0042】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、1つの電子制御ユニット60によって制御システム61を構成しているが、これに限られることはなく、複数の電子制御ユニット60によって制御システム61を構成しても良い。また、図示するプレチャンバ隔壁43は半球形状のドーム部46を有しているが、これに限られることはなく、他形状の先端部を備えたプレチャンバ隔壁が設けられていても良い。また、図示するエンジン10は、燃料としてガソリンを用いるエンジンであるが、これに限られることなく、ガソリン以外の燃料を用いるエンジンに本発明を適用しても良い。また、図示するエンジン10は、車両11に用いられるエンジンであるが、これに限られることはなく、他の装置等に動力源として用いられるエンジンに本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0043】
10 エンジン
31 シリンダヘッド
32 主燃焼室
34 吸気バルブ
36 排気バルブ
40 燃料インジェクタ
41 中央貫通孔(貫通孔,第1貫通孔)
42 側部貫通孔(貫通孔,第2貫通孔)
43 プレチャンバ隔壁(チャンバ隔壁)
47 副燃焼室
50 エアインジェクタ
52 点火電極
52a 先端
52b 側面
54 点火デバイス
61 制御システム
80 プロセッサ
81 メインメモリ(メモリ)
CL1 中央
CL2 中心線
Dr1 径方向
T1,T1a 第1期間
T2 第2期間
T3 第3期間