(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050172
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】リスク推定装置、保険料算出システム、リスク推定方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/08 20120101AFI20240403BHJP
【FI】
G06Q40/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156850
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】若尾 あすか
(72)【発明者】
【氏名】上田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】田村 英地
(72)【発明者】
【氏名】宮路 大勇
【テーマコード(参考)】
5L040
5L055
【Fターム(参考)】
5L040BB61
5L055BB61
(57)【要約】
【課題】将来の事故やイベントのリスクをより正確に定量的に評価できるようにする。
【解決手段】保険対象に関する条件の入力を受け付ける条件設定部と、前記条件に基づいて、環境に関する時系列データを含む環境データついてデータベースを探索して取得するデータ取得部と、前記取得された環境データを基にリスクを推定するリスク推定部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保険対象に関する条件の入力を受け付ける条件設定部と、
前記条件に基づいて、環境に関する時系列データを含む環境データついてデータベースを探索して取得するデータ取得部と、
前記取得された環境データを基にリスクを推定するリスク推定部と、
を備えるリスク推定装置。
【請求項2】
前記推定されたリスクに応じた保険料を求める保険料算出部と、
を備える請求項1に記載のリスク推定装置。
【請求項3】
前記推定されたリスク応じたリスクレベルを算出するレベル算出部と、
リスクレベルに応じた保険料を記憶する記憶部と、を有し、
前記保険料算出部は、前記算出されたリスクレベルに応じた保険料を前記記憶部から読み出すことで前記保険料を求める
請求項2に記載のリスク推定装置。
【請求項4】
前記リスク推定部は、前記環境データとリスクとの関係を学習した学習モデルを用いることで、前記探索することで得られた環境データに応じたリスクを推定する
請求項1に記載のリスク推定装置。
【請求項5】
前記学習モデルは、非線形の時系列データに対して予測可能な非深層学習型のアルゴリズムに基づいて学習された学習モデルである
請求項4に記載のリスク推定装置。
【請求項6】
前記学習モデルは、深層学習によって学習された学習モデルである
請求項4に記載のリスク推定装置。
【請求項7】
前記時系列データは、気象、交通量、株価、為替レートのうち少なくともいずれか1つを含む
請求項1に記載のリスク推定装置。
【請求項8】
端末装置と保険料算出装置とを含む保険料算出システムであって、
前記端末装置は、
ユーザから入力される操作内容に基づいて保険対象に関する条件を取得する取得部を有し、
前記保険料算出装置は、
前記端末装置から、保険対象に関する条件の入力を受け付ける条件設定部と、
前記条件に基づいて、環境に関する時系列データを含む環境データついてデータベースを探索して取得するデータ取得部と、
前記取得された環境データを基にリスクを推定するリスク推定部と、
前記推定されたリスクに応じた保険料を求める保険料算出部と、
前記保険料を前記端末装置に通知する出力部と、
を備える保険料算出システム。
【請求項9】
条件設定部が、保険対象に関する条件の入力を取得し、
データ取得部が、前記条件に基づいて、環境に関する時系列データを含む環境データについてデータベースを探索して取得し、
リスク推定部が、前記取得された環境データを基にリスクを推定する
リスク推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リスク推定装置、保険料算出システム、リスク推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貨物保険、火災保険、自動車保険等の損害保険の保険料は、一般的に、将来のリスクに応じて保険料が設定される。例えば、国際間での荷物輸送の損害を補償する貨物保険では、陸上、海上、航空等で発生する事故リスクと、荷物が通過する国や地域で発生する戦争、ストライキ等のイベントリスクとを考慮して、保険料が決定される。
特許文献1には、自動車保険の保険料を算出する保険料計算システムについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、事故やイベントは、時々刻々と変化する多様な要素が複合的に絡み合って偶発的に発生する。そのため、保険対象を取り巻く環境によっては、保険対象に対して影響が生じる。しかし、保険対象がどのようなものであるかを特定し、その特定内容に基づいて保険料を求めたとしても、保険対象がおかれる環境によっては、必ずしも保険料に反映されているとは言えるものではない。
【0005】
上述の課題を鑑み、本発明は、将来の事故やイベントのリスクをより正確に定量的に評価することができるリスク推定装置、保険料算出システム、リスク推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる保険料算出装置は、保険対象に関する条件の入力を受け付ける条件設定部と、前記条件に基づいて、環境に関する時系列データを含む環境データついてデータベースを探索して取得するデータ取得部と、前記取得された環境データを基にリスクを推定するリスク推定部と、前記推定されたリスクに応じた保険料を求める保険料算出部と、を備える保険料算出装置である。
【0007】
本発明の一態様にかかる端末装置と保険料算出装置とを含む保険料算出システムは、前記端末装置は、ユーザから入力される操作内容に基づいて保険対象に関する条件を取得する取得部を有し、前記保険料算出装置は、前記端末装置から、保険対象に関する条件の入力を受け付ける条件設定部と、前記条件に基づいて、環境に関する時系列データを含む環境データついてデータベースを探索して取得するデータ取得部と、前記取得された環境データを基にリスクを推定するリスク推定部と、前記推定されたリスクに応じた保険料を求める保険料算出部と、前記保険料を前記端末装置に通知する出力部と、を備える保険料算出システムである。
【0008】
本発明の一態様にかかる保険料算出方法は、条件設定部が、保険対象に関する条件の入力を取得し、データ取得部が、前記条件に基づいて、環境に関する時系列データを含む環境データについてデータベースを探索して取得し、リスク推定部が、前記取得された環境データを基にリスクを推定し、保険料算出部が、前記推定されたリスクに応じた保険料を求める保険料算出方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、将来の事故やイベントのリスクをより正確に定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態にかかる保険料算出システムの概要を示すシステム構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態にかかる保険料算出システムにおける端末装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施の形態にかかる保険料算出システム1の概略の機能を示す機能ブロック図である。
【
図4】事故発生予測部204aと保険料提示部205aの構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】記憶部2551に記憶される保険料テーブルの一例を示す図である。
【
図6】計算サーバー20の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる保険料算出システム1の概要を示すシステム構成図である。
図1に示すように、本実施形態にかかる保険料算出システム1は、端末装置10と、計算サーバー20と、データ提供サーバー30(30a、30b、30c、…)とから構成される。端末装置10、計算サーバー20、及びデータ提供サーバー30(30a、30b,30c、…)は、ネットワーク40を介して通信可能に接続されている。
【0012】
端末装置10は、ユーザから入力される操作内容に基づいて保険対象に関する条件を取得する取得部を有する。取得部は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等の各種入力デバイスから入力されるデータを取得する。また、端末装置10は、計算サーバー20によって求められた保険料を表すデータを取得し、表示装置に表示することで出力する。
【0013】
ここで、保険には種々のものがある。例えば、保険は、貨物保険、運送保険、生命保険、自動車保険、バイク保険、火災保険、レンタカーにおける保険、旅行会社における旅行保険等のように様々なものがある。この実施形態における保険料算出システム1は、種々の保険において保険料を求めることができるが、ここでは一例として保険が貨物保険である場合について説明する。
【0014】
貨物保険は、国際間輸送される貨物を対象に、陸上、海上、航空運送中等におけるリスクに起因して生じる損害をカバーする保険である。端末装置10は、保険対象に関する条件を取得するが、保険の対象が貨物保険である場合、輸送対象物、輸送期間、輸送区間、輸送用具、保険種類、保険金額の希望額等が入力される。
【0015】
計算サーバー20は、将来の事故やイベントのリスクを定量的に評価するための演算を行う。また、計算サーバー20は、評価された、将来の事故やイベントのリスクと、端末装置10に入力された条件を基に、リスクに応じた保険料を算出し、端末装置10に通知することもできる。例えば貨物保険では、陸上、海上、航空のうち少なくともいずれか1つを経由して貨物が輸送される。その輸送中におけるリスクとしては、陸上、海上、航空等の輸送途中において生じる事故であるリスクと、戦争、ストライキ等のイベントであるリスクとがある。これらのリスクは、保険対象を取り巻く環境からの影響を受ける。本実施形態では、計算サーバー20は、環境に関する時系列データを含む環境データを用いて事故やイベントの発生リスクを推定することで、時々刻々と変化する事故やイベントの発生リスクをより正確に推定して、保険料に反映させることができる。
この実施形態では、計算サーバー20が、将来の事故やイベントのリスクを定量的に評価することができる。そして、将来の事故やイベントのリスクを定量的に評価した結果を活用する場面の一つとして保険料を求める場合を一例として説明する。
【0016】
データ提供サーバー30(30a、30b,30c、…)は、計算サーバー20において保険料を算出するために用いられるデータを提供する。データ提供サーバー30は、1つのサーバー装置であってもよいし、サーバー装置30a、サーバー装置30b、サーバー装置30cのように、複数のサーバー装置であってもよく、いわゆるクラウドサーバであってもよい。
データ提供サーバー30が計算サーバー20に渡すことが可能なデータとしては、環境に関する時系列データを含む環境データである。環境データは、保険対象に対して設定された保険対象期間における、当該保険対象が置かれる環境に関するデータである。環境データは、例えば、時系列データとクロスセクションデータとがある。
時系列データは、時間的な変化を連続的に観測して得られたデータである。具体的には、時系列データとして、気象(温度、湿度、降水量、降雪量、風速、風向、気圧)、交通量、株価、為替レート等が挙げられる。交通量は、道路において渋滞が発生しているか否か、発生している渋滞の程度(渋滞○km、○○インターチェンジまで○分かかる等)等であってもよい。時系列データは、気象、交通量、株価、為替レートのうち少なくともいずれか1つを含んでいてもよい。
クロスセクションデータは、ある時点で横断的に収集したデータである。具体的には、クロスセクションデータとして、輸送経路、輸送時刻、道路環境(道路に落下物がある、通行止めなど)、海域、港、空港、輸送会社、従業員数、平均給与、会社格付け等が挙げられる。
【0017】
データ提供サーバー30(30a、30b,30c、…)は、保険会社が管理するサーバーやデータベースであってもよいが、これに限られるものではなく、気象庁や気象情報を提供する気象サーバー、交通情報を提供するサーバー、証券会社のサーバー等、各種の情報を提供するサーバーのうち少なくともいずれか1つであっても良い。なお、高速道路の交通量データは、ETC(Electronic Toll Collection System)データから、所定時間毎に高速道路を通過する車の数を計数することでも取得できる。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態にかかる保険料算出システム1における端末装置10の構成例を示すブロック図である。この端末装置10は、例えばパーソナルコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)101と、ROM(Read Only Memory)102と、RAM(Random Access Memory)103と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等のストレージデバイス104と、表示部105と、操作受付部106と、通信部107と、インターフェース部108とを備える。また、各ブロック間における各信号のやりとりは、バス109を介して行われる。
【0019】
CPU101は、ROM102に記憶されている各種制御プログラムに基づいて、端末装置10の各部を制御する。ROM102は、読み出し専用のメモリであり、起動プログラム等を記憶する。RAM103は、CPU101のメインメモリ(主記憶装置)に用いられるメモリであり、CPU101において実行されるプログラムの作業領域等を記憶する。ストレージデバイス104は、保険料算出システムで用いられるアプリケーションプログラム100等が格納されている。
【0020】
表示部105は、CPU101の制御に基づいて各種情報を表示する。表示部105としては、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等のディスプレイを用いることができる。操作受付部106は、各種入力キーからなるキーボードやマウス(ポインティングデバイス)を備え、これらのマウス等から操作入力を受け付けると、受け付けた操作入力の内容をCPU101に出力する。通信部107は、CPU101の制御に基づいて、データ提供サーバー30との間で各種情報の送受信を実行する。
【0021】
なお、端末装置10としては、パーソナルコンピュータに限らず、スマートフォン等の携帯端末やタブレット端末のいずれかであっても良い。また、アプリケーションプログラムは、端末装置10において実行される場合について図示されているが、端末装置10にインストールされるのではなくWeb上で動作させても良い。
【0022】
図3は、本発明の実施の形態にかかる保険料算出システム1の概略の機能を示す機能ブロック図である。計算サーバー20は、CPU、ROM、RAM、GPUなどからなるコンピュータを主体として構成されるコンピュータ上で実現される。
【0023】
図3に示すように、計算サーバー20は、条件設定部201と、条件マスタ202と、データ取得部203と、リスク推定部204と、保険料提示部205とを含んで構成される。
【0024】
条件設定部201は、端末装置10から入力される操作内容に基づいて、保険対象に関する条件の入力を受け付ける。保険対象に関する条件は、例えば、保険対象がどのようなものであるかを表す第1情報、保険対象が置かれる環境に関する第2情報などがある。
第1情報は、保険対象が物品である場合には、その物品を表す情報であり、例えば、「○○の機械部品が300ケース」、「物質○○の粉体が○kg」のように、物品の詳細と、物品の量を表す情報である。
第2情報は、例えば、保険の種別が貨物保険である場合、輸送期間(運送開始日○月○日、到着予定日△月△日等)、輸送区間(出発地A国○○市△△工場、到着地A国××市××工場等)、輸送用具、保険種類、保険金額等が入力される。輸送用具は、輸送対象物を輸送する際に、車両等にどのように設置し、どのような固定手段(輸送中に振動等によってズレてしまわないように固定するために用いられる用具の種別等)によって固定するかを表すものである。
また、第2情報には、取得する対象となる時系列データを取得するために用いられるデータも含まれる。
保険の種類は、貨物保険、生命保険等のうち、いずれの保険であるかを示す種類(種別)を表す。
保険金額は、保険契約において約束されている金額である。貨物保険では、保険対象であって運ぶ対象の物品に破損や紛失等の事象が発生した場合に支払われる金額(給付額)の最高限度額である。生命保険では、保険事故が発生した場合に支払われる金額(給付額)である。
【0025】
条件マスタ202は、保険の種類に応じた、入力が必要な条件の項目を記憶する記憶装置。
保険の種別が貨物保険である場合、輸送期間、輸送区間、輸送用具、保険種類、保険金額等である。保険の種別が旅行保険である場合、旅行期間、旅行の経由地や目的地、利用する交通機関、宿泊施設、保険金額等である。
条件マスタ202にこれらのデータが記憶されていることで、端末装置10から条件入力の要求がなされると、条件設定部201は、端末装置10から保険の種類の入力を受け付け、その保険の種類に応じて入力が必要な項目を条件マスタ202から読み出して端末装置10に送信する。これにより、端末装置10において、条件として入力が必要な項目が提示され、ユーザによって、この必要な入力項目に対する入力がなされる。これにより、条件設定部201が、保険対象に関する条件の入力を受け付けることができる。
【0026】
データ取得部203は、事故やイベントのリスクを予測するのに必要なデータをデータ提供サーバー30から探索して取得し、リスク推定部204に送る。
例えば、データ取得部203は、条件設定部201によって取得された条件に基づいて、この条件に基づく、環境に関する時系列データを含む環境データについて、データ提供サーバー30を探索して取得する。より具体的には、保険の種別が貨物保険である場合、条件として入力された輸送区間に基づいて、輸送を開始する出発地から到着地までの含む経路における交通量、イベントの履歴、気象状況等を表す時系列のデータである。また、保険の種別が旅行保険である場合、旅行の経由地や目的地における交通量や人混みの状況、イベントの履歴、気象状況、利用される交通機関の運行状況、宿泊施設の周囲の治安に関する情報等の時系列のデータである。
【0027】
リスク推定部204は、事故発生予測部204a、イベント発生予測部204b、及び保険料の推定にかかわる各種の事象の発生予測部を含んでいる。この図ではリスク推定部204が事故発生予測部204a、イベント発生予測部204bとを含む場合について図示されているが、他の機能について有していてもよく、その場合の例は後述する。
【0028】
事故発生予測部204aは、データ提供サーバー30から取得された環境データを基に、将来発生する事故等のリスクを推定する。
【0029】
イベント発生予測部204bは、データ提供サーバー30から取得された環境データを基に、ストライキ、戦争等のイベントについて、将来において発生するリスクを推定する。
【0030】
保険料提示部205は、リスク推定部204によって推定されたリスクに応じた保険料を求める保険料算出部としての機能を有する。
また、保険料提示部205は、リスク推定部204によって算出されたリスクを基に、保険料算出機能によって保険料を算出して、端末装置10に送信することで通知する。例えば、保険料提示部205は、事故やイベントのリスクが大きい場合には、算出される保険料が高くなり、事故やイベントのリスクが低い場合には、算出される保険料が安くなる。
さらに、保険料提示部205は、固定用具の種類、ドライバーの評価、走行距離、梱包用具の種類、被保険対象の脆弱度等に応じて、保険料に対して割増や割引等をする補正処理を行う。
このように、従来のような保険対象に関する情報を基に保険料を算出するのではなく、保険対象と、その保険対象が置かれる環境も考慮して保険料を求めることができる。これにより、環境も考慮することで、保険料を最適な金額となるように求めることができる。
なお、保険料提示部205は、リスク推定部204によって推定されたリスクを基に、ルールベースで保険料を算出するようにしてもよい。
【0031】
ここで、事故発生予測部204a及びイベント発生予測部204bは、AI(Artificial Intelligence)技術を用いて、将来の事故リスクやイベントリスクを推定するようにしてもよい。例えば、事故発生予測部204aは、輸送期間、輸送区間の情報から、荷物を輸送するのに利用する交通機関(船、飛行機、鉄道、トラック)や通過地域を設定する。そして、その通過地域の時系列データ(交通量、天候(降水量、霧、降雪量、風速))等と、クロスセクションデータ(通行する航路、通行時間(昼、夜)等とリスクとの関係を学習することで学習モデルを生成し、この学習モデルを使って、条件設定部201が取得した条件に応じた環境データに基づく事故のリスクを推定する。同様に、イベント発生予測部204bは、例えば、輸送期間、輸送区間の情報から、荷物を輸送する運送会社を設定する。そして、その運送会社に関連する時系列データ(株価、為替レート)等と、クロスセクションデータ(従業員数、平均給与)等とリスクとの関係を学習することで学習モデルを生成し、この学習モデルを使って、条件設定部201が取得した条件に応じた環境データに基づくストライキのリスク等を推定する。
【0032】
ここで、リスク推定部204は、データ取得部203によって得られる、連続的な時系列データをリアルタイムで解析し、複数の学習モデルを切り替えながら、将来の状況を予測・推論するようにしてもよい。これにより、時間経過による時系列データの変化のパターンを解析し、未来のデータの振る舞いを分類・予測することができる。よって、保険対象が置かれる環境の変化や外的要因を考慮しつつ、高速で高い精度の予測をすることが可能となる。
【0033】
図4は、リスク推定部254と保険料提示部255の構成を示す機能ブロック図である。
リスク推定部254は、リスク推定部204の他の実施形態を示すものであり、保険料提示部255は、保険料提示部205の他の実施形態を示すものである。
ここでは、リスク推定部254が、陸上で荷物を輸送する場合に事故発生予測を行う場合について説明するが、イベント発生について予測するようにしてもよい。
【0034】
図4において、リスク推定部254は、予測データ探索部2541、学習・推論用データ生成部2542、学習部2543、学習モデル2544、推論部2545を有する。
予測データ探索部2541は、条件設定部201を介して端末装置10から保険対象に関する条件を取得すると、取得した条件から、事故のリスクを予測するために必要なデータについて、データ提供サーバー30を探索する。例えば、予測データ探索部2541は、陸上での貨物移動では、輸送期間の条件から、通行道路の交通量、気象(温度、湿度、降水量、降雪量、風速、風向、気圧)等の時系列データをデータ提供サーバー30から探索する。また、予測データ探索部2541は、通行する道路種別(高速道路、一般道)、通行する地域、時間(昼、夜)等のクロスセクションデータをデータ提供サーバー30から探索する。
【0035】
学習・推論用データ生成部2542は、探索された時系列データ及びクロスセクションデータから、学習や推論に用いることが可能なデータを生成する。このデータの生成は、学習モデルを生成するにあたり、教師データとして用いられる各データの前処理を行うものであってもよい。
学習部2543は、学習・推論用データ生成部2542によって生成されたデータを用いて、学習モデル2544を生成する。例えば、陸上での貨物移動では、学習部2543は、交通量や気象等の時系列データと、通行する道路、通行する時間、通行する地域等のクロスセクションデータと、実際に事故が発生した数との関係を学習することで、事故のリスクを算出することが可能な学習モデル2544を生成する。
推論部2545は、学習モデル2544を使って、事故のリスクを推定する。推論部2545によってリスクが推定されると、このリスクが保険料に反映される。
【0036】
本実施形態では、時系列データを含むデータを用いてリスクの推定を行っているため、学習モデル2544は複数生成される。すなわち、時間の経過毎に、気象や交通量のような時系列データは更新されていく。時系列データが更新される毎に、複数の学習モデル2544が生成されていく。また、このときの結果は、学習部2543に返され、事故のリスクを算出する学習モデルの最適化に利用される。
【0037】
なお、学習モデル2544は、深層学習モデルを用いて学習された学習モデルであっても良い。また、学習モデル2544は、非線形の時系列データに対して予測可能な非深層学習型のアルゴリズムを使用して学習することで得られる学習モデルであってもよく、この場合、学習時間を短縮させ、システムの応答のたびに、その時点での最新の情報を使い、AIモデルを作成できる。これにより、リアルタイムで精度の高い予測が可能となる。
【0038】
以上のように、本発明の実施形態では、リスク推定部254は、環境データとリスクとの関係を学習した学習モデルを用いることで、探索することで得られた環境データに応じたリスクを推定することができる。これにより、将来の事故やイベントのリスクを、時系列データを含むデータを用いて定量的に推定している。これにより、将来の事故やイベントのリスクを正確に反映した保険料を提示することができる。
また、保険料の提示することに加えて、保険料を推定した根拠となる情報をExplainable AI(説明可能なAI)に分類される技術や手法を用いて算出し、端末装置10に送信することで、端末装置10に表示させるようにしてもよい。
【0039】
なお、上述の例では、陸上での荷物を輸送する場合のリスクを、交通量や気象等の時系列データと、通行する道路、通行する時間、通行する地域等のデータとをパラメータとして学習モデルを使って推定しているが、これは一例であり、リスクを推定するパラメータは、どのように設定しても良い。
【0040】
また、上述の説明では、陸上での荷物を輸送する場合のリスクについて説明したが、他のリスクについても、時系列データを含むデータをパラメータとして、同様に推定できる。
【0041】
また、本発明は、貨物保険に限らず、火災保険、自働車保険等の損害保険の保険料の算出や、生命保険、医療保険の保険料の算出に用いることができる。さらに、本発明は、旅行会社での料金の算出や、レンタカーの料金の算出を行う場合にも、用いることができる。
【0042】
保険料提示部255は、記憶部2551、レベル算出部2552、保険料算出部2553を含む。
記憶部2551は、リスクレベルに応じた保険料を記憶する。
図5は、記憶部2551に記憶される保険料テーブルの一例を示す図である。
保険料テーブルは、リスクレベルと保険料とが対応づけられたデータである。
リスクレベルは、「1」がリスクのレベルが最も低く、レベルを表す数が増えるほど、リスクのレベルが高いことを示す。
保険料は、リスクレベルが低いほど安い金額であり、リスクレベルが高くなるほど高い金額が保険料テーブルにおいて定められている。
【0043】
レベル算出部2552は、推論部2545によって推定されたリスク応じたリスクレベルを算出する。例えば、レベル算出部2552は、リスクの度合いが小さい場合には、リスクレベルが低くなるように算出し、リスクの度合いが大きい場合には、リスクレベルが高くなるように算出する。例えば、レベル算出部2552は、推定されたリスクとして、特に事故やイベントが発生しないことが推定された場合には、リスクの度合いが低いため、リスクレベルを「1」として算出する。
また、レベル算出部2552は、保険対象を輸送する経路において渋滞が発生し、通常よりも輸送時間がかかることが推定される場合には、輸送期間として定められた期間内に輸送が完了しない可能性が生じるため、この場合には、例えばリスクレベルが「3」であるとして算出する。
また、レベル算出部2552は、保険対象を輸送する経路において渋滞が発生し、かつ、台風などの悪天候であることが推定される場合には、輸送期間として定められた期間内に輸送が完了しない可能性があるとともに、大雨のため輸送する対象物が水没する可能性がある場合には、対象物が水濡れするリスクがあるため、この場合には、例えばリスクレベルが「5」であるとして算出する。
【0044】
保険料算出部2553は、レベル算出部2552によって算出されたリスクレベルに応じた保険料を記憶部2551から読み出すことで保険料を求める。
また、保険料算出部2553は、料金補正部2553aを有する。料金補正部2553aは、記憶部2551から読み出された保険料に対して割り増し金額の加算、保険料の割引き処理を行う。例えば、料金補正部2553aは、端末装置10から入力された条件のうち、輸送対象について安全に輸送できるような要因に基づいて、割り増しまたは割引きを行う。より具体的には、料金補正部2553aは、安全に輸送できるような要因としては、以下のようなものがある。
【0045】
(1)固定用具
輸送対象を車両によって運ぶ場合、輸送対象が走行時の振動等によって車両内において移動してしまわないように、固定金具や固定バンドなどの固定用具を用いて固定したり、固定するにあたり、走行時の振動が輸送対象に伝搬することを低減する防振部材を用いる場合がある。このような固定用具の種類やグレードが高く安全性が高まるような条件が設定されている場合には、料金補正部2553aは、保険料を割り引いた金額となるように補正する。また、固定用具の種類やグレードが低いため安全性があまり高まらない、あるいは安全性が低い状態である場合には、保険料が割り増しされるように金額を補正する。
【0046】
(2)輸送機関のドライバーの評価
輸送対象を車両によって運ぶ場合、その車両を運転するドライバーの評価に応じて保険料を補正する。例えば、評価が高いドライバー(過去に事故を起こしたことがない、輸送対象の積み卸しが丁寧である等)が条件として入力されている場合には、料金補正部2553aは、保険料を割り引いた金額となるように補正する。また、評価が低いドライバー(過去に事故を起こしたことがある、輸送対象の積み卸しが丁寧ではない等)が条件として入力されている場合には、保険料が割り増しされるように保険料を補正する。
【0047】
(3)走行距離
輸送対象を車両によって運ぶ場合、その予定された走行距離に応じて保険料を補正する。例えば、条件として入力された走行距離が短いほど、料金補正部2553aは、保険料を割り引いた金額となるように補正する。また、走行距離が長くなるほど、料金補正部2553aは、保険料が割り増しされるように保険料を補正する。
【0048】
(4)梱包用具の種類
輸送対象を車両によって運ぶ場合、輸送対象が梱包される状態に応じて保険料を補正する。例えば、条件として入力された梱包状態が良い(防水シートを利用して梱包されている、外部からの衝撃を吸収するような部材を利用して梱包されている等)ほど、料金補正部2553aは、保険料を割り引いた金額となるように補正する。また、梱包状態が悪くなるほど(簡易的な梱包である、破損の影響を受けやすい部材を利用して梱包されている等)、料金補正部2553aは、保険料が割り増しされるように保険料を補正する。
【0049】
(5)天候情報
輸送対象を車両によって運ぶ場合、輸送区間における天候に応じて保険料を補正する。例えば、輸送区間における天候が良い(晴れ、降水確率が低い等)ほど、料金補正部2553aは、保険料を割り引いた金額となるように補正する。また、天候が良くないほど(台風の暴風域の影響を受ける、高波の影響を受ける等)、料金補正部2553aは、保険料が割り増しされるように保険料を補正する。
【0050】
(6)被保険対象の脆弱度合い
輸送対象を車両によって運ぶ場合、被保険対象の脆弱度合いに応じて保険料を補正する。例えば、被保険対象の脆弱度合いが低い(震動や衝撃の影響を受けにくい)ほど、料金補正部2553aは、保険料を割り引いた金額となるように補正する。また、被保険対象の脆弱度合いが高い(震動や衝撃の影響を受けやすい)ほど、料金補正部2553aは、保険料が割り増しされるように保険料を補正する。
【0051】
料金補正部2553aは、例えば、これら(1)から(6)のうち少なくともいずれか1つの項目に基づいて、保険料をルールベースで補正してもよい。
【0052】
図6は、上述した計算サーバー20の動作を説明するフローチャートである。
計算サーバー20の条件設定部201は、端末装置10から条件の入力を受け付ける(ステップS101)。リスク推定部254は、入力された条件に応じた予測データの探索を行い(ステップS102)、得られた予測データを、予め生成された学習モデルに入力することでリスクを推定する(ステップS103)。そしてリスク推定部254は、推定されたリスクに応じたリスクレベルを算出する(ステップS104)。
リスクレベルが算出されると、保険料提示部255は、リスクレベルに応じた保険料を算出し(ステップS105)、端末装置10から入力された条件に応じて保険料を補正し(ステップS106)、保険料を端末装置10に通知する(ステップS107)。
【0053】
なお、このフローチャートでは、リスク推定部254、保険料提示部255が処理を行う場合について説明したが、リスク推定部204、保険料提示部205が処理を行う場合であっても、このフローチャートに示す処理の順序に従って処理を実行するようにしてもよい。
【0054】
また、以上説明した実施形態においては、計算サーバー20は、データ取得部203と、リスク推定部204とを含むようにし、評価する条件を外部から入力し、その条件に基づいて、リスク推定部204によってリスクを推定し、外部に出力するリスク推定装置として構成するようにしてもよい。これにより、事故やイベントのリスクを定量的に評価した評価結果を提供することができる。また、評価結果を利用する場面の一つとして保険料の算出を一例として説明したが、別の場面に適用するようにしてもよい。別の場面としては、例えば、事故やイベントのリスクに対する対策をするための防災用の商品、防犯用の商品、防犯サービス等のリコメンドをするための処理を、リスク推定装置とは異なるサーバー装置において行うようにしてもよい。これにより、端末装置10に対して、将来の事故やイベントのリスクに応じた事前準備をするための案内をすることができる。
【0055】
上述した実施形態における保険料算出システム1の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバーやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0056】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0057】
10…端末装置、20…計算サーバー、30…データ提供サーバー、201…条件設定部、202…条件マスタ、203…データ取得部、204,254…リスク推定部、205…保険料提示部、211…予測データ探索部、212…推論用データ生成部、213,2543…学習部、214,2544…学習モデル、215,2545…推論部、2541…予測データ探索部、2542…学習・推論用データ生成部、2551…記憶部、2552…レベル算出部、2553…保険料算出部、2553a…料金補正部