(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050184
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20240403BHJP
H01G 9/035 20060101ALI20240403BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240403BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01G9/028 F
H01G9/028 G
H01G9/035
H01G9/15
H01G9/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156874
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】町田 健治
(72)【発明者】
【氏名】茂垣克己
(72)【発明者】
【氏名】吉岡恭平
(57)【要約】
【課題】低ESRと高耐電圧を両立する固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】固体電解コンデンサは、陽極箔と陰極体と電解質を有するコンデンサ素子を備える。陽極箔は、トンネル状のエッチングピットで表面が拡面化され、表面に誘電体皮膜を有する。陰極体は、陽極箔に対向する。電解質は、導電性高分子を含む固体電解質層を含む。導電性高分子は、コンデンサ素子の単位体積当たり11mg/cm
3以下の割合で含まれている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極箔と陰極体と電解質を有するコンデンサ素子を備え、
前記陽極箔は、トンネル状のエッチングピットで表面が拡面化され、表面に誘電体皮膜を有し、
前記陰極体は、前記陽極箔に対向し、
前記電解質は、導電性高分子を含む固体電解質層を含み、
前記導電性高分子は、前記コンデンサ素子の単位体積当たり11mg/cm3以下の割合で含まれていること、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記導電性高分子は、前記コンデンサ素子の単位体積当たり2mg/cm3以上11mg/cm3以下の割合で含まれていること、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記導電性高分子は、前記コンデンサ素子の単位体積当たり6.2mg/cm3以上9.0mg/cm3以下の割合で含まれていること、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記コンデンサ素子の空隙に充填される液状成分を含むこと、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記固体電解質層は、前記導電性高分子が分散又は溶解する導電性高分子液内の前記導電性高分子及び溶媒の一部又は全部を含んで成ること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記固体電解質層は、ヒドロキシ基を有する化合物を含むこと、
を特徴とする請求項5記載の固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質が固体電解質層又は固体電解質層と液状成分のハイブリッド型である固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に陽極酸化等の処理によって誘電体皮膜を有する。陽極箔と陰極箔との間には電解質が介在する。
【0003】
この電解コンデンサは、陽極箔の拡面化により比表面積を大きくすることができ、他種のコンデンサと比べて大きな静電容量を得やすいメリットがある。また、電解コンデンサは、電解液の形態で電解質を備えている。電解液は、陽極箔の誘電体皮膜との接触面積が増える。そのため、電解コンデンサの静電容量は更に大きくし易い。しかしながら、電解液は時間経過と共に外部へ蒸発揮散し、電解コンデンサには経時的に静電容量の低下や静電正接の増大が起こり、ドライアップを迎えてしまう。
【0004】
そこで、電解コンデンサのなかでも、固体電解質を用いた固体電解コンデンサが注目されている。固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。近年は、反応速度が緩やかで、また誘電体皮膜との密着性に優れたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の、π共役二重結合を有するモノマーから誘導された導電性高分子が固体電解質として急速に普及している。導電性高分子は、ポリアニオン等の酸化合物がドーパントとして用いられ、またモノマー分子内にドーパントとして作用する部分構造を有し、高い導電性が発現する。そのため、固体電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が低くなる利点を有する。
【0005】
固体電解コンデンサは、コンデンサ素子に電解液を含浸させた液体型の電解コンデンサと比べて、誘電体である陽極酸化皮膜の欠陥部の修復作用に乏しく、漏れ電流が増大する虞がある。そこで、セパレータを介在させて陽極箔と陰極箔とを対向させたコンデンサ素子に固体電解質層を形成すると共に、コンデンサ素子の空隙に駆動用電解液を含浸させた所謂ハイブリッドタイプの固体電解コンデンサも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-109068号公報
【特許文献2】特許第4536625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンデンサは各種用途で用いられる。例えばパワーエレクトロニクスの分野において、交流電源の電力をコンバータ回路で直流電力に変換し、この直流電力をインバータ回路にて所望の交流電力に変換する電源回路には、コンバータ回路から出力される直流の脈動を抑制して平滑化してからインバータ回路に入力するために、平滑コンデンサが設けられている。また、窒化ガリウム等の半導体スイッチング素子の安定動作やノイズ除去のために、デカップリングコンデンサが当該半導体スイッチング素子の近傍に設けられる。
【0008】
このような近年の大電力化に伴い、固体電解コンデンサには、より高い耐電圧が要望される。例えば、パワーエレクトロニクス等の分野によっては、少なくとも200Vを超えるような高耐電圧のコンデンサが期待されている。しかしながら、固体電解コンデンサの利点である低ESRを維持しながら、高耐圧化することは容易ではなかった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、低ESRと高耐電圧を両立する固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサは、陽極箔と陰極体と電解質を有するコンデンサ素子を備え、前記陽極箔は、トンネル状のエッチングピットで表面が拡面化され、表面に誘電体皮膜を有し、前記陰極体は、前記陽極箔に対向し、前記電解質は、導電性高分子を含む固体電解質層を含み、前記導電性高分子は、前記コンデンサ素子の単位体積当たり11mg/cm3以下の割合で含まれている。
【0011】
前記導電性高分子は、前記コンデンサ素子の単位体積当たり2mg/cm3以上11mg/cm3以下の割合で含まれているようにしてもよい。
【0012】
前記導電性高分子は、前記コンデンサ素子の単位体積当たり6.2mg/cm3以上9.0mg/cm3以下の割合で含まれているようにしてもよい。
【0013】
前記コンデンサ素子の空隙に充填される液状成分を含むようにしてもよい。
【0014】
前記導電性高分子が分散又は溶解する導電性高分子液内の前記導電性高分子及び溶媒の一部又は全部を含んで成るようにしてもよい。
【0015】
前記固体電解質層は、ヒドロキシ基を有する化合物を含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、固体電解コンデンサは低ESRと高耐電圧とを両立する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1乃至7に係り、導電性高分子の重量と耐電圧との関係、及び導電性高分子重量の重量とESRとの関係を示すグラフである。
【
図2】実施例8乃至14に係り、導電性高分子の重量と耐電圧との関係、及び導電性高分子の重量とESRとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(固体電解コンデンサ)
固体電解コンデンサは、一対の電極体と電解質層を有する。一方の電極体は陽極箔であり、箔表面に誘電体皮膜が形成されている。他方の電極体は陰極体である。陰極体は陽極箔と対向配置される。これら一対の電極体は電解質層を挟んで対向配置される。これら一対の電極体と電解質層を組み合わせたアセンブリをコンデンサ素子という。
【0019】
コンデンサ素子はセパレータを備える場合がある。セパレータは、一対の電極体との間に介在することで、陽極箔と陰極体を隔絶してショートを阻止し、また電解質層を保持する。電解質層の形状が自力で保持され、電解質層によって一対の電極体を隔離できる場合、セパレータをコンデンサ素子から省くことができる。
【0020】
陽極箔には陽極リードが接続され、陰極体には陰極リードが接続されている。固体電解コンデンサは、これら陽極リードと陰極リードを介して実装回路に電気的に接続される。実装回路と導通することで、固体電解コンデンサは、誘電体皮膜の誘電分極作用により静電容量を得て電荷の蓄電及び放電を行う受動素子となる。
【0021】
(電極体)
このような固体電解コンデンサにおいて、電極体は、弁作用金属を材料とする箔体である。巻回型では、弁作用金属を延伸した長尺の帯形状が多用され、平板型では、弁作用金属を延伸した平板が多用される。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極箔に関して99.9%以上、陰極体に関して99%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていてもよい。
【0022】
陽極箔の片面又は両面には、拡面層が形成されている。拡面層は、多数のトンネル状のエッチングピットを有するエッチング層である。トンネル状のエッチングピットは、箔厚み方向に掘り込まれた孔である。トンネル状のピットは箔を貫通してもよいし、最深部が箔内に留まる長さであってもよい。トンネル状のエッチングピットは、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流電流を流すことで形成される。トンネル状のエッチングピットは、更に、硝酸等の酸性水溶液中で直流電流を流すことで拡径される。
【0023】
陰極体としては例えば箔状である陰極箔を用いてもよい。その他、陰極体は、銀等の金属層とカーボン層の積層体であってもよい。陰極箔の片面又は両面にも拡面層が形成されていてもよい。拡面層のないプレーン箔を陰極箔として用いてもよい。陰極箔の拡面層は、エッチング層、弁作用金属の粉体を焼結した焼結層、又は箔に弁作用金属粒子を蒸着した蒸着層である。即ち、陰極箔の拡面層は、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体若しくは粒子間の空隙により成る。
【0024】
誘電体皮膜は、拡面層の凹凸表面に形成されている。誘電体皮膜は、典型的には、陽極箔の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極箔がアルミニウム箔であれば、拡面層の表面を酸化させた酸化アルミニウム層である。誘電体皮膜を形成する化成処理では、化成液中で陽極箔に対して、所望の耐電圧を目指して電圧印加する。化成液は、ハロゲンイオン不在の溶液であり、例えば、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液である。
【0025】
陰極体は、自然酸化皮膜、又は化成処理により形成された薄い酸化皮膜(1~10V程度)を有していてもよい。自然酸化皮膜は、陰極体が空気中の酸素と反応することにより形成される。
【0026】
(電解質層)
電解質層は、少なくとも陽極箔の誘電体皮膜の一部に付着しており、固体電解コンデンサの真の陰極となっている。好ましくは、電解質層は、誘電体皮膜全域と密着し、陰極体の表面と接続する。この電解質層は、固体電解質層であり、又は固体電解質層と液状成分で構成されている。固体電解質層は、導電性高分子を含有している。液状成分は、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子の空隙に含浸している駆動用電解液又は当該電解液の溶媒部である。
【0027】
(固体電解質層)
導電性高分子は、分子内のドーパント分子によりドーピングされた自己ドープ型又は外部ドーパント分子によりドーピングされた共役系高分子である。共役系高分子は、π共役二重結合を有するモノマー又はその誘導体を化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られる。ドーピングされた共役系高分子は、高い導電性を発現する。即ち、共役系高分子に電子を受け入れやすいアクセプター、もしくは電子を与えやすいドナーといったドーパントを少量添加することで導電性を発現する。
【0028】
固体電解質層は、導電性高分子液を用いて形成される。導電性高分子液は、導電性高分子の粒子又は粉末が分散又は溶解した液体である。導電性高分子液には、必要に応じて添加剤が添加されている。導電性高分子液に、少なくとも陽極箔、一対の電極体及びセパレータの各々、又はコンデンサ素子を浸漬し、浸漬後に乾燥させる。導電性高分子液は浸漬の他、滴下塗布又はスプレー塗布されてもよい。これにより、導電性高分子及び添加剤が付着し、固体電解質層を構成する。固体電解質層は、導電性高分子液から未揮発の溶媒の一部又は全部を含んでいてもよい。
【0029】
固体電解質層に含まれる導電性高分子の重量は、コンデンサ素子の単位体積当たり、11mg/cm3以下である。コンデンサ素子の単位体積当たり、11mg/cm3以下であると、低ESRと高耐電圧が両立する。また、導電性高分子の重量は、コンデンサ素子の単位体積当たり、2mg/cm3以上であることが好ましい。2mg/cm3以上11mg/cm3以下の範囲では、ESRが特に低くなる。
【0030】
特に、導電性高分子の重量は、コンデンサ素子の単位体積当たり、6.2mg/cm3以上9mg/cm3以下が好ましい。導電性高分子の重量がこの範囲に収まると、ESRが特に低くなって極小化し、また耐電圧が特に高くなって極大化する。この範囲を上下に逸脱すると、絶対値としては低ESR及び高耐電圧ではあるものの、この範囲に比してESRが増加し、またこの範囲に比して耐電圧が低下する。
【0031】
固体電解質層中の導電性高分子の重量調整は、導電性高分子液に分散若しくは溶解させる導電性高分子の量、又は分散媒若しくは溶媒の量を調整すればよい。実際に固体電解質層に含まれる導電性高分子の重量については、まず、固体電解質層形成前後でコンデンサ素子の重量を計測して差分を計算する。そして、差分値と、導電性高分子液に含まれる導電性高分子の濃度とから、固体電解質層に含まれる導電性高分子の重量を計算すればよい。また、固体電解コンデンサを分解し、導電性高分子のみを抽出するようにしてもよい。
【0032】
このような固体電解質層において、共役系高分子としては、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレンなどが挙げられる。これら共役系高分子は、単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、更に2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0033】
上記の共役系高分子の中でも、チオフェン又はその誘導体が重合されて成る共役系高分子が好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェン又はこれらの誘導体が重合された共役系高分子が好ましい。チオフェン誘導体としては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択された化合物が好ましく、チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。アルキル基やアルコキシ基の炭素数は1~16が適している。
【0034】
特に、EDOTと呼称される3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体、即ち、PEDOTと呼称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。また、3,4-エチレンジオキシチオフェンに置換基が付加されていてもよい。例えば、置換基として炭素数が1~5のアルキル基が付加されたアルキル化エチレンジオキシチオフェンが用いられてもよい。アルキル化エチレンジオキシチオフェンとしては、例えば、メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、ブチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-ブチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、2-アルキル-3,4-エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。
【0035】
ドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。ドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、高分子又は単量体を用いてもよい。例えば、ドーパントとしては、ポリアニオン、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ボロジサリチル酸、ビスオキサレートボレート酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
【0036】
ポリアニオンは、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。具体的には、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0037】
導電性高分子液の溶媒、即ち固体電解質層内の残存溶媒は、導電性高分子が分散又は溶解すればよく、水又は水と有機溶媒の混合物が好ましい。有機溶媒としては、極性溶媒、アルコール類、エステル類、炭化水素類、カーボネート化合物、エーテル化合物、鎖状エーテル類、複素環化合物、ニトリル化合物等が挙げられる。
【0038】
極性溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。炭化水素類としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。カーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。エーテル化合物としては、ジオキサン、ジエチルエーテル等が挙げられる。鎖状エーテル類としては、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。複素環化合物としては、3-メチル-2-オキサゾリジノン等が挙げられる。ニトリル化合物としては、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
【0039】
導電性高分子液への添加剤は、多価アルコール、有機バインダー、界面活性剤、分散剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。多価アルコールとしては、ソルビトール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、へプタンジオール、オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ポリオキシアルキレングリセリン、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、スルホラン、メチルスルホラン又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0040】
このような導電性高分子液を構成する溶媒、添加剤又はこれらの両方としては、ヒドロキシ基などの親水性基又は親水性分子を有する化合物が好ましい。ヒドロキシ基を有する化合物としては、例えばエチレングリコール及びグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。ヒドロキシ基を有する化合物により、導電性高分子の高次構造の変化を起こし、固体電解コンデンサのESR低減や耐電圧向上効果が得られる。また、多価アルコールは、沸点が高く電解質層に残留して固体電解質層を構成し易い。
【0041】
(液状成分)
液状成分は、駆動用電解液、又は駆動用電解液の溶媒部である。駆動用電解液の溶媒としては、プロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒が挙げられ、単独又は2種類以上が組み合わせられる。
【0042】
溶媒であるプロトン性の有機溶媒としては、一価アルコール類、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類などが挙げられる。一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール、ポリグリセリン、ポリエチレングリコールやポリオキシエチレングリセリン、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0043】
溶媒である非プロトン性の有機極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、スルホキシド系などが代表として挙げられる。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。スルホキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0044】
液状成分に駆動用電解液の溶質が添加される場合、溶質はアニオン成分及びカチオン成分である。溶質は、典型的には、有機酸の塩、無機酸の塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物の塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を別々に溶媒に添加してもよい。
【0045】
溶質としてアニオン成分となる有機酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、t-ブチルアジピン酸、11-ビニル-8-オクタデセン二酸、レゾルシン酸、フロログルシン酸、没食子酸、ゲンチシン酸、プロトカテク酸、ピロカテク酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等のカルボン酸や、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。
【0046】
また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジアゼライン酸、ボロジ安息香酸、ボロジマレイン酸、ボロジ乳酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジ(2-ヒドロキシ)イソ酪酸、ボロジレゾルシン酸、ボロジメチルサリチル酸、ボロジナフトエ酸、ボロジマンデル酸及びボロジ(3-ヒドロキシ)プロピオン酸等が挙げられる。
【0047】
また、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩としては、例えばアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。アミン塩としては、一級アミン、二級アミン、三級アミンの塩が挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミン等、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0048】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリエチレングリコールやポリオキシエチレングリセリンなどの多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、p-ニトロベンジルアルコールなど)、リン酸エステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【実施例0050】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1-7)
次のようにして、実施例1乃至7及び比較例1の固体電解コンデンサを作製した。実施例1乃至7及び比較例1の固体電解コンデンサは、非ハイブリッド型であり、電解質層に液状成分は含まれない。
【0052】
まず、両電極体は、長尺帯形状のアルミニウム箔とした。陽極箔の両面に直流エッチングによってトンネル状のピットを形成した。また、陽極箔には化成処理により誘電体皮膜を形成した。化成処理では、印加電圧を650Vに到達させた。陰極箔については両面に交流エッチングによってピットを形成し、化成処理により3Vfsの化成電圧で酸化皮膜を形成した。両電極体にリード線を接続し、マニラ麻製のセパレータを介して両電極体を対向させて巻回した。そして、ホウ酸アンモニウム水溶液によって修復化成が施された。
【0053】
次に、コンデンサ素子を導電性高分子液に浸漬し、導電性高分子液をコンデンサ素子に含浸した後、コンデンサ素子を110℃で乾燥した。導電性高分子液には、導電性高分子としてポリスチレンスルホン酸がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT/PSS)を分散させた。導電性高分子液の溶媒は90wt%の水及び10wt%のエチレングリコールの混合液である。
【0054】
これにより、コンデンサ素子内には固体電解質層が形成された。ここで、実施例1乃至7及び比較例1は、固体電解質層内の導電性高分子の重量が異なる。導電性高分子の重量は、コンデンサ素子の単位体積当たりの重量であり、以下、単に、導電性高分子重量という。導電性高分子重量は、導電性高分子液に分散又は溶解するPEDOT/PSSの濃度によって調整した。
【0055】
このように、実施例1乃至7及び比較例1の固体電解コンデンサは、導電性高分子量を除き、同一構成、同一組成、同一製造方法及び同一製造条件で作製された。
【0056】
(耐電圧及びESR)
実施例1乃至8の固体電解コンデンサの耐電圧を測定した。耐電圧の測定方法は次の通りである。即ち、105℃において固体電解コンデンサに電圧を印加した。開始電圧は200Vであり、印加電圧を10秒ごとに1Vずつ昇圧していった。そして、固体電解コンデンサに流れた電流が1mAに到達したときの電圧を耐電圧とした。
【0057】
また、実施例1乃至8の固体電解コンデンサのESRを測定した。耐電圧の測定方法は次の通りである。ESRは、株式会社エヌエフ回路設計ブロック製のLCRメータを用いて室温下で測定した。測定周波数は100kHzであり、交流振幅は0.5Vmsの正弦波である。
【0058】
実施例1乃至8の導電性高分子重量と共に、耐電圧とESRの測定結果を下表1に示す。表1では、導電性高分子重量は、素子の単位体積あたりの導電性高分子量と表されている。
(表1)
【0059】
表1に示すように、導電性高分子重量は、コンデンサ素子の単位体積当たりに換算した重量(mg/cm3)であり、1.2mg/cm3から11.0mg/cm3まで、実施例1乃至8及び比較例1が固有の値を取るように変化させた。尚、個々の導電性高分子の重量は、導電性高分子液に浸漬後及び乾燥前のコンデンサ素子の重量から、浸漬前のコンデンサ素子の重量を差し引き、差分値にPEDOT/PSSの濃度を乗算することで算出した。
【0060】
この表1に基づき、導電性高分子重量と耐電圧との関係、及び導電性高分子重量とESRとの関係を
図1のグラフに示す。
図1中、黒色のプロットが耐電圧であり、白色のプロットがESRである。尚、ESRは対数で表されている。
【0061】
表1及び
図1に示すように、耐電圧は、導電性高分子重量が11.0mg/cm
3までの全範囲で耐電圧が200Vを超えている。特に、耐電圧は、9.0mg/cm
3まで500Vを超える高い水準を維持する。また、ESRは、11.0mg/cm
3までの全範囲で良好であるが、特に2.0mg/cm
3のESRが1.2mg/cm
3比べて、半分近くに低下する。そして、ESRは、6.2mg/cm
3から9.0mg/cm
3にかけて極小化するが、10.3mg/cm
3以降は、絶対値としては良好であるものの、8.6mg/cm
3から9.0mg/cm
3の範囲と比べると、急上昇する。
【0062】
このように、固体電解コンデンサは、導電性高分子重量が11mg/cm3以下であると、低ESRと高耐電圧を両立する。また、非ハイブリッド型の固体電解コンデンサは、導電性高分子重量が2mg/cm3以上11mg/cm3以下であると、更に低いESRと高耐電圧を両立する。また、導電性高分子重量が6.2mg/cm3以上9.0mg/cm3以下であると、ちょうど、極大化した耐電圧と極小化したESRの両方を得られる。
【0063】
(実施例9-17)
更に、実施例9乃至17の固体電解コンデンサを作製した。実施例9乃至17の固体電解コンデンサは、ハイブリッド型であり、電解質層は固体電解質層と液状成分で構成される。液状成分は、59.4wt%のエチレングリコール、39.6wt%のポリエチレングリコールを、及び1wt%のアゼライン酸アンモニウムである。ポリエチレングリコールの平均分子量は1000である。コンデンサ素子に液状成分を含浸させた。その他の同一構成、同一組成、同一製造方法及び同一製造条件は、導電性高分子重量を除き、実施例1乃至8と同じである。
【0064】
(耐電圧及びESR)
実施例9乃至17の固体電解コンデンサの耐電圧を測定した。耐電圧及びESRの測定方法及び条件は、実施例1乃至8と同一である。個々の導電性高分子重量の確認方法も、実施例1乃至8と同一である。
【0065】
実施例9乃至17の導電性高分子重量と共に、耐電圧とESRの測定結果を下表2に示す。表2では、導電性高分子重量は、素子の単位体積あたりの固体電解質量と表されている。
(表2)
【0066】
表2に示すように、導電性高分子重量は、コンデンサ素子の単位体積当たりに換算した重量(mg/cm
3)であり、1.2mg/cm
3から11mg/cm
3まで、実施例9乃至17が固有の値を取るように変化させた。この表2に基づき、導電性高分子重量と耐電圧との関係、及び導電性高分子重量とESRとの関係を
図2のグラフに示す。
図2中、黒色のプロットが耐電圧であり、白色のプロットがESRである。尚、ESRは対数で表されている。
【0067】
表2及び
図2に示すように、耐電圧は、導電性高分子重量が11.0mg/cm
3までの全範囲で耐電圧が200Vを超えている。特に、耐電圧は、9.0mg/cm
3まで500Vを超える高い水準を維持する。また、ESRは、11.0mg/cm
3までの全範囲で良好であるが、特に2.0mg/cm
3のESRが1.2mg/cm
3比べて、半分近くに低下する。そして、ESRは、6.2mg/cm
3から9.0mg/cm
3にかけて極小化する。
【0068】
このように、固体電解コンデンサは、ハイブリッド型であっても、導電性高分子重量が11mg/cm3以下であると、低ESRと高耐電圧を両立する。また、ハイブリッド型であっても、導電性高分子重量が2mg/cm3以上11mg/cm3以下であれば、更に低いESRと高耐電圧を両立し、導電性高分子重量が6.2mg/cm3以上9.0mg/cm3以下であると、ちょうど、極大化した耐電圧と極小化したESRの両方を得られる。