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特開2024-50185分娩予測装置、分娩予測方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050185
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】分娩予測装置、分娩予測方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
A01K29/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156875
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】ティ ティ ズイン
(72)【発明者】
【氏名】パイ ティン
(57)【要約】
【課題】動物の分娩のタイミングを予測する。
【解決手段】データ取得部は、動物を連続的に撮像した複数の画像データを取得する。姿勢判定部は、画像データに基づいて動物の姿勢が臥位であるか立位であるかを判定する。データ生成部は、所定の周期で区分される複数の単位期間それぞれについて、姿勢の遷移の頻度を表す遷移データを生成する。確率計算部は、学習済みの分類モデルに、生成された単位期間ごとの遷移データを入力することで、動物が分娩状態である確率である分娩確率を計算する。予測部は、複数の遷移データそれぞれに係る分娩確率に基づいて、動物が分娩状態である時期を予測する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物を連続的に撮像した複数の画像データを取得するデータ取得部と、
前記画像データに基づいて前記動物の姿勢が臥位であるか立位であるかを判定する姿勢判定部と、
所定の周期で区分される複数の単位期間それぞれについて、前記姿勢の遷移の頻度を表す遷移データを生成するデータ生成部と、
分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データと非分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データとを含むデータセットを用いて、遷移データから動物が分娩状態である確率を計算するように学習された学習済みモデルに、生成された前記単位期間ごとの前記遷移データを入力することで、前記動物が分娩状態である確率である分娩確率を計算する確率計算部と、
前記複数の遷移データそれぞれに係る前記分娩確率に基づいて、前記動物が分娩状態である時期を予測する予測部と
を備える分娩予測装置。
【請求項2】
前記予測部は、前記複数の遷移データそれぞれに係る前記分娩確率に基づいて前記分娩確率を求める時間の関数を特定し、前記関数に基づいて前記動物が分娩状態に入るタイミングを予測する
請求項1に記載の分娩予測装置。
【請求項3】
前記予測部は、前記関数に基づいて、前記撮像期間以降の所定のタイミングに係る前記分娩確率を算出し、当該分娩確率に基づいて、前記所定のタイミングにおいて前記動物が分娩状態に入るか否かを予測する
請求項2に記載の分娩予測装置。
【請求項4】
前記遷移データは、前記単位期間において前記姿勢が臥位である回数、前記姿勢が立位である回数、前記姿勢が臥位から立位に遷移した回数、前記姿勢が臥位から立位に遷移した回数の少なくとも何れかを含む
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の分娩予測装置。
【請求項5】
前記確率計算部は、前記データセットに基づいて、前記遷移データが与えられた条件下における前記動物が分娩状態である条件付確率と、前記遷移データが与えられた条件下における前記動物が非分娩状態である条件付確率との比に基づいて、前記分娩確率を計算する
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の分娩予測装置。
【請求項6】
前記データ生成部は、前記複数の単位期間に係る前記遷移データに基づいて、前記動物の姿勢の遷移に係る遷移確率を特定し、特定した前記遷移確率に基づいて、前記画像データが撮像されていない期間に係る前記遷移データを生成する
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の分娩予測装置。
【請求項7】
動物を連続的に撮像した複数の画像データを取得するステップと、
前記画像データに基づいて前記動物の姿勢が臥位であるか立位であるかを判定するステップと、
所定の周期で区分される複数の単位期間それぞれについて、前記姿勢の遷移の頻度を表す遷移データを生成するステップと、
分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データと非分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データとを含むデータセットを用いて、遷移データから動物が分娩状態である確率を計算するように学習された学習済みモデルに、生成された前記単位期間ごとの前記遷移データを入力することで、前記動物が分娩状態である確率である分娩確率を計算するステップと、
前記複数の遷移データそれぞれに係る前記分娩確率に基づいて、前記動物が分娩状態に入るタイミングを予測するステップと
を備える分娩予測方法。
【請求項8】
コンピュータに、
動物を連続的に撮像した複数の画像データを取得するステップと、
前記画像データに基づいて前記動物の姿勢が臥位であるか立位であるかを判定するステップと、
所定の周期で区分される複数の単位期間それぞれについて、前記姿勢の遷移の頻度を表す遷移データを生成するステップと、
分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データと非分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データとを含むデータセットを用いて、遷移データから動物が分娩状態である確率を計算するように学習された学習済みモデルに、生成された前記単位期間ごとの前記遷移データを入力することで、前記動物が分娩状態である確率である分娩確率を計算するステップと、
前記複数の遷移データそれぞれに係る前記分娩確率に基づいて、前記動物が分娩状態に入るタイミングを予測するステップと
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分娩予測装置、分娩予測方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
動物の分娩は、動物にとって大きなストレスとなると解されている。また動物の分娩が長引くと、当該動物およびその子供の健康に影響を与える可能性があり、動物である家畜を保有する酪農家にとっては経済的な損失を被るおそれがある。そのため、動物の分娩のタイミングを正確に予測することが求められている。非特許文献1、2には、動物の分娩のタイミングを予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Sumi, K.; Maw, S.Z.; Zin, T.T.; Tin, P.; Kobayashi, I.; Horii, Y. Activity-Integrated Hidden Markov Model to Predict Calving Time. Animals 2021, 11, 385. https://doi.org/10.3390/ani11020385
【非特許文献2】Maw, S.Z.; Zin, T.T.; Tin, P.; Kobayashi, I.; Horii, Y. An Absorbing Markov Chain Model to Predict Dairy Cow Calving Time. Sensors 2021, 21, 6490. https://doi.org/10.3390/ s21196490 A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、動物の分娩のタイミングを予測することができる分娩予測装置、分娩予測方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、分娩予測装置は、動物を連続的に撮像した複数の画像データを取得するデータ取得部と、前記画像データに基づいて前記動物の姿勢が臥位であるか立位であるかを判定する姿勢判定部と、前記複数の画像データの撮像期間を所定の周期で分割した複数の単位期間それぞれについて、前記姿勢の遷移の頻度を表す遷移データを生成するデータ生成部と、分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データと非分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データとを含むデータセットを用いて、遷移データから動物が分娩状態である確率を計算するように学習された学習済みモデルに、生成された前記単位期間ごとの前記遷移データを入力することで、前記動物が分娩状態である確率である分娩確率を計算する確率計算部と、前記複数の遷移データそれぞれに係る前記分娩確率に基づいて、前記動物が分娩状態に入るタイミングを予測する予測部とを備える。
【0006】
本発明の第2の態様によれば、分娩予測方法は、動物を連続的に撮像した複数の画像データを取得するステップと、前記画像データに基づいて前記動物の姿勢が臥位であるか立位であるかを判定するステップと、前記複数の画像データの撮像期間を所定の周期で分割した複数の単位期間それぞれについて、前記姿勢の遷移の頻度を表す遷移データを生成するステップと、分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データと非分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データとを含むデータセットを用いて、遷移データから動物が分娩状態である確率を計算するように学習された学習済みモデルに、生成された前記単位期間ごとの前記遷移データを入力することで、前記動物が分娩状態である確率である分娩確率を計算するステップと、前記複数の遷移データそれぞれに係る前記分娩確率に基づいて、前記動物が分娩状態に入るタイミングを予測するステップとを備える。
【0007】
本発明の第3の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、動物を連続的に撮像した複数の画像データを取得するステップと、前記画像データに基づいて前記動物の姿勢が臥位であるか立位であるかを判定するステップと、前記複数の画像データの撮像期間を所定の周期で分割した複数の単位期間それぞれについて、前記姿勢の遷移の頻度を表す遷移データを生成するステップと、分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データと非分娩状態の動物の姿勢の遷移の頻度を表す遷移データとを含むデータセットを用いて、遷移データから動物が分娩状態である確率を計算するように学習された学習済みモデルに、生成された前記単位期間ごとの前記遷移データを入力することで、前記動物が分娩状態である確率である分娩確率を計算するステップと、前記複数の遷移データそれぞれに係る前記分娩確率に基づいて、前記動物が分娩状態に入るタイミングを予測するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、動物の分娩のタイミングを予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第一実施形態に係る分娩予測システムの構成を示す図である。
図2】第一実施形態に係る分娩予測装置の構成を示す概略ブロック図である。
図3】第一実施形態に係るデータ記憶部に記録されたデータの例を示す図である。
図4】第一実施形態に係る分娩予測装置の事前準備方法を示すフローチャートである。
図5】第一実施形態に係る分娩予測装置の分娩予測方法を示すフローチャートである。
図6】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〈第一実施形態〉
《分娩予測システム1の構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第一実施形態に係る分娩予測システム1の構成を示す図である。第一実施形態に係る分娩予測システム1は、酪農場にて飼育される牛Bの分娩状態を予測する。分娩予測システム1は、撮像装置11と、分娩予測装置12とを備える。
【0011】
撮像装置11は、酪農場の分娩房に設けられる。分娩房は、飼育される牛Bのうち、分娩が近いもの(例えば、分娩予定日が3日以内である牛B)が配置される房である。分娩房には複数等の牛Bが配置されてよい。牛Bは分娩室内を自由に移動可能とされる。撮像装置11は、分娩房のうち牛Bが存在し得る範囲全体を撮像可能に設けられる。例えば、分娩房が7m×7mの床面を有する場合、撮像装置11は、分娩房の床から3m程度の高さに設けられ、設置位置から見下ろす分娩房全体を撮像する。撮像装置11は、例えば全方位カメラや、複数のカメラによって構成されてよい。撮像装置11は、動画像データを撮像する。つまり、撮像装置11は、分娩房内を連続的に撮像し、複数の画像データを生成する。
【0012】
分娩予測装置12は、撮像装置11が撮像した画像データに基づいて各牛Bの分娩状態を予測する。図2は、第一実施形態に係る分娩予測装置12の構成を示す概略ブロック図である。分娩予測装置12は、データ取得部121、個体特定部122、姿勢判定部123、データ生成部124、状態入力部125、データ記憶部126、確率計算部127、予測部128、出力部129を備える。
【0013】
データ取得部121は、撮像装置11から画像データを取得する。画像データには、メタデータとして撮像時刻が含まれる。
【0014】
個体特定部122は、画像データから牛Bが写っている領域を特定し、各牛Bの個体を特定する。なお、個体特定は、時間的に連続して同一の個体を特定できればよく、必ずしも牛Bに予め割り当てられた個体番号を特定しなくてもよい。個体特定部122は、例えば以下の手順で牛Bの個体を特定する。
【0015】
まず、個体特定部122は、画像データから牛Bが写っている領域を抽出する。牛Bが写っている領域の抽出は、例えばパターンマッチングによって行われてもよいし、機械学習された物体検出モデル(例えば、YOLO、R-CNN(Regions with Convolutional Neural Network)、SSD(Single Shot Multi-Box Detector)等)によって行われてもよい。物体検出モデルを用いる場合、当該物体検出モデルは、入力サンプルである牛Bが写った画像と、出力サンプルである牛Bが写る領域を示すバウンディングボックスの組み合わせを学習用データセットとして、画像を入力したときに、牛Bが存在する領域を出力するように学習されたものである。なお、物体検出モデルは、画像に複数の牛Bが写る場合に、各牛Bのバウンディングボックスを出力する。
【0016】
個体特定部122は、対象の画像データから抽出された領域それぞれについて、対象の画像データの1つ前の画像データから特定されたいずれの個体に対応するかを特定する。個体特定部122は、抽出された領域の重心の位置、領域の形状、1つ前の画像データに係る個体を表す領域との重複範囲の広さ、領域内の画像特徴量の類似度などから、抽出された各領域について、対応する個体を特定する。個体特定部122は、特定した個体に当該個体を示す番号を付す。当該番号は、牛Bの個体に割り当てられた識別番号ではなく、画像データにおける牛Bを分類可能な暫定的な番号であってよい。なお、他の実施形態では、個体特定部122は、抽出した領域の特徴量と、予め取得された牛Bごとの個体の特徴量との比較によって、牛Bの識別番号を特定してもよい。
【0017】
姿勢判定部123は、個体特定部122が特定した各個体について、姿勢が臥位であるか立位であるかを判定する。例えば、姿勢判定部123は、データ取得部121が取得した画像データのうち個体特定部122が特定した各個体に係る領域の部分画像を、機械学習された姿勢判定モデルに入力することで、当該個体の姿勢を判定してもよい。姿勢判定モデルは、例えば、SVM(Support-Vector Machine)、CNN(Convolutional Neural Network)、HMM(Hidden Markov Model)などによって実装されてよい。姿勢判定モデルは、入力サンプルである牛Bが写った画像と、出力サンプルである牛Bの姿勢を表すラベルの組み合わせを学習用データセットとして、画像を入力したときに、牛Bの姿勢を表すラベルを出力するように学習されたものである。姿勢判定部123は、パターンマッチングによって個体の姿勢を判定してもよい。なお、個体特定部122が用いる物体検出モデルが、物体のラベルとバウンディングボックスの組み合わせを出力可能である場合、物体検出モデルにラベルとして牛Bの姿勢を学習させてもよい。この場合、姿勢判定部123の機能は個体特定部122によって実現される。
【0018】
データ生成部124は、所定の周期(例えば、1時間)で区切られる単位期間(例えば、1時間)に撮影された画像データに基づいて、牛Bの個体ごとの姿勢の遷移を表す遷移データを生成する。第1の実施形態に係る遷移データは、単位期間の間における牛Bの姿勢が立位である回数S、牛Bの姿勢が臥位である回数L、牛Bの姿勢が立位から臥位に遷移した回数SL、および牛Bの姿勢が臥位から立位に遷移した回数LSの組み合わせで表される。データ生成部124は、まず単位期間を所定のサンプリング周期(例えば5秒)で区切ることで複数のサンプリング区間を特定する。データ生成部124は、各サンプリング区間について、牛Bの姿勢が臥位、立位または遷移中の何れであるかを判定し、判定した姿勢に係る回数をカウントアップする。姿勢が遷移中である場合、データ生成部124は、遷移前の姿勢が臥位である場合に臥位から立位に遷移した回数LSをカウントアップし、遷移前の姿勢が立位である場合に立位から臥位に遷移した回数SLをカウントアップする。以降、データ生成部124は、単位期間に係る各サンプリング区間ごとに、牛Bの姿勢を判定する。
これにより、データ生成部124は、単位期間ごとに牛Bの個体ごとの姿勢の遷移を表す遷移データを生成する。なお、他の実施形態に係る遷移データは、単位期間の間における牛Bの姿勢が立位である回数Sおよび牛Bの姿勢が臥位である回数Lの少なくとも何れかと、牛Bの姿勢が立位から臥位に遷移した回数SLおよび牛Bの姿勢が臥位から立位に遷移した回数LSの少なくとも何れかとを含むものであってよい。
【0019】
状態入力部125は、利用者から、各単位期間について牛Bが分娩状態Cであるか非分娩状態Cであるかの入力を受け付ける。利用者は、単位期間に係る牛Bの画像データを視認し、当該牛Bが分娩状態Cにあるか否かを判断する。分娩状態Cと非分娩状態Cの区別の例としては、一次破水以降を分娩状態C、一次破水以前を非分娩状態Cとするもの、二次破水以降を分娩状態C、二次破水以前を非分娩状態Cとするもの、陣痛開始以降を分娩状態C、陣痛開始以前を非分娩状態Cとするものが挙げられる。
【0020】
データ記憶部126は、単位期間ごとに、時刻と、データ生成部124が生成した遷移データと、状態入力部125に入力された状態とを関連付けて記憶する。図3は、第一実施形態に係るデータ記憶部126に記録されたデータの例を示す図である。データ記憶部126に記録されたデータは、確率計算部127による分娩確率の計算に用いる分類モデルの機械学習の学習用データセットとして用いられる。
【0021】
分類モデルは、例えばナイーブベイズ分類器で構成される。分類モデルは、データ記憶部126が記憶するデータを学習用データセットとして、状態が未知の牛Bに係る遷移データXを入力したときに、当該遷移データXが与えられた条件下における牛Bが分娩状態Cである条件付確率P(C|X)と、当該遷移データXが与えられた条件下における牛Bが非分娩状態Cである条件付確率P(C|X)との確率比θを算出する。
具体的には、分類モデルは、遷移データXが与えられると、牛Bが分娩状態Cである条件下において当該遷移データXが表れる条件付確率P(X|C)と、牛Bが分娩状態Cである周辺確率P(C)と、牛Bが非分娩状態Cである条件下において当該遷移データXが表れる条件付確率P(X|C)と、牛Bが非分娩状態Cである周辺確率P(C)と、を用いて、下記の式(1)から確率比θを算出する。確率比θが高いほど牛Bが分娩状態Cである可能性が高く、確率比θが低いほど牛Bが非分娩状態Cである可能性が高い。
【0022】
【数1】
【0023】
確率計算部127は、データ生成部124が生成した、同一の牛Bに係る複数の単位期間の遷移データXを、それぞれ分類モデルに入力し、分娩に係る確率比θを算出する。
予測部128は、単位期間ごとの確率比θに基づいて、所定のタイミング(例えば、現在時刻から4時間後など)において牛Bが分娩状態Cであるか否かを予測する。具体的には、予測部128は、単位期間ごとの確率比θに基づいて時刻と確率比との関係を示す関数を求め、当該関数に所定のタイミングを代入することで、当該タイミングにおける確率比θ´を得る。予測部128は、得られた確率比θ´が1未満である場合に、所定のタイミングにおいて牛Bが非分娩状態Cであると予測し、得られた確率比θ´が1以上である場合に、所定のタイミングにおいて牛Bが分娩状態Cであると予測する。
出力部129は、予測部128による予測結果を出力する。例えば出力部129は、予測結果をディスプレイに表示させる。
【0024】
《事前準備》
分娩予測装置12による分娩タイミングの予測を行う前に、予め、データ記憶部126に遷移データと牛Bの状態の組み合わせからなるデータセットを記録しておく必要がある。図4は、第一実施形態に係る分娩予測装置12の事前準備方法を示すフローチャートである。
【0025】
データ取得部121は、撮像装置11から連続して撮像される複数の画像データを受信し、単位期間ごとに蓄積する(ステップS1)。次に、個体特定部122は、複数の画像データそれぞれに基づいて、牛Bの同一個体を追跡し、個体ごとに写る領域を抽出する(ステップS2)。次に、姿勢判定部123は、各領域について、当該領域に写る牛Bの姿勢が立位であるか臥位であるかを判定する(ステップS3)。データ生成部124は、牛Bの個体ごとに、当該単位期間における姿勢の遷移を表す遷移データを生成する(ステップS4)。
【0026】
次に、状態入力部125は、単位期間に係る各牛Bの個体の画像データをディスプレイに表示させ、利用者から各牛Bの分娩に係る状態の入力を受け付ける(ステップS5)。状態入力部125は、牛Bの個体ごとに、ステップS4で生成した遷移データとステップS5で入力された状態とを関連付けてデータ記憶部126に記録する(ステップS6)。
【0027】
上述の事前準備を、ベイズ分類器による推定が可能な程度にデータ記憶部126にデータが蓄積されるまで繰り返し実行する。
【0028】
《推定処理》
データ記憶部126に十分なデータが記録されると、分娩予測装置12は分娩タイミングの予測を行うことができる。図5は、第一実施形態に係る分娩予測装置12の分娩予測方法を示すフローチャートである。
【0029】
データ取得部121は、撮像装置11から連続して撮像される複数の画像データを受信し、単位期間ごとに蓄積する(ステップS21)。次に、個体特定部122は、複数の画像データそれぞれに基づいて、牛Bの同一個体を追跡し、個体ごとに写る領域を抽出する(ステップS22)。次に、姿勢判定部123は、各領域について、当該領域に写る牛Bの姿勢が立位であるか臥位であるかを判定する(ステップS23)。データ生成部124は、牛Bの個体ごとに、当該単位期間における姿勢の遷移を表す遷移データを生成する(ステップS24)。当該遷移データは、状態が未知の牛Bに係る遷移データXである。次に、確率計算部127は、ステップS24で生成した遷移データを分類モデルに入力し、分娩に係る確率比θを算出する(ステップS25)。確率計算部127は、算出した確率比θを、牛Bの個体に関連付けてデータ記憶部126に記録する。
【0030】
予測部128は、データ記憶部126に記録された個体ごとの確率比θが、予測に十分な数だけ記録されているか否かを判定する(ステップS26)。例えば、予測部128は、一の個体について、7日分の確率比θが記録されている場合に予測に十分であると判定する。予測に十分な確率比θが記録されていない場合(ステップS26:NO)、予測部128は、十分な確率比θが記録されるまで待ってから予測を行う。
【0031】
予測に十分な確率比θが記録されている場合(ステップS26:YES)、予測部128は、単位期間ごとの確率比θに基づいて、個体ごとに確率比θを求める時間の関数を特定する(ステップS27)。つまり、予測部128は、時間または時刻を説明変数として、確率比θを目的変数とする関数を求める。予測部128は、例えば最小二乗法などの回帰分析手法によって関数の傾きおよび切片を求めてもよいし、機械学習によってモデルのパラメータを決定してもよい。
【0032】
予測部128は、特定した関数に基づいて、現在より未来の所定のタイミングにおける確率比θ´を個体ごとに算出する(ステップS28)。予測部128は、得られた確率比θ´に基づいて個体ごとの所定のタイミングにおける状態を予測する(ステップS29)。そして、出力部129は、予測部128による予測結果を出力する(ステップS30)。
【0033】
《効果》
このように、第一実施形態に係る分娩予測システム1は、データ取得部121と、姿勢判定部123と、データ生成部124と、確率計算部127と、予測部128とを備える。データ取得部121は、牛Bを連続的に撮像した複数の画像データを取得する。姿勢判定部123は、画像データに基づいて牛Bの姿勢が臥位であるか立位であるかを判定する。データ生成部124は、所定の周期で区分される複数の単位期間それぞれについて、姿勢の遷移の頻度を表す遷移データを生成する。確率計算部127は、学習済みの分類モデルに、生成された単位期間ごとの遷移データを入力することで、牛Bが分娩状態である確率である分娩確率を計算する。分類モデルは、分娩状態の牛Bの姿勢の遷移の頻度を表す遷移データと非分娩状態の牛Bの姿勢の遷移の頻度を表す遷移データとを含むデータセットを用いて、遷移データから牛Bが分娩状態である確率を計算するように学習されたモデルである。予測部128は、複数の遷移データそれぞれに係る分娩確率に基づいて、牛Bが分娩状態である時期を予測する。これにより、分娩予測システム1は、牛Bの分娩のタイミングを予測することができる。牛Bは、分娩期に近づくにつれて、臥位と立位を繰り返す頻度が高くなる。そのため、分娩予測システム1は姿勢の遷移の頻度から分娩確率を予測することができ、これを用いることで、分娩のタイミングを予測することができる。
【0034】
〈第二実施形態〉
第一実施形態に係る分娩予測システム1は、撮像装置11による撮像データから遷移データを得る。これに対し、第二実施形態に係る分娩予測システム1は、撮像データから特定される姿勢の遷移に加え、モンテカルロシミュレーションを行うことで、遷移データを得る。
【0035】
第二実施形態に係る分娩予測装置12は、データ生成部124の動作が第一実施形態と異なる。第二実施形態に係るデータ生成部124は、第一実施形態と同様に、所定の第一期間(例えば、2日間、所定の期間の三分の二程度)について、単位期間ごとに牛Bの個体ごとの姿勢の遷移を表す遷移データを生成する。次に、データ生成部124は、第一期間に係る遷移データに基づいて、個体ごとに、牛Bの姿勢が立位である回数S、牛Bの姿勢が臥位である回数L、牛Bの姿勢が立位から臥位に遷移した回数SL、および牛Bの姿勢が臥位から立位に遷移した回数LSのそれぞれの平均値を求める。次に、データ生成部124は、回数S、L、SLおよびLSの平均値に基づいて、それぞれの立位の発生確率p、臥位の発生確率p、立位から臥位への遷移の発生確率pSL、および臥位から立位への遷移の発生確率pLSを求める。例えば、データ生成部124は、第一期間における回数S、回数L、回数SLおよび回数LSそれぞれの平均値を、当該平均値の総和で除算することで、それぞれの発生確率を求める。
【0036】
データ生成部124は、0以上1以下の乱数Rを発生させ、当該乱数に基づいて牛Bが取る姿勢を推定する。例えば、データ生成部124は、乱数Rが立位の発生確率p未満のときに、牛Bの姿勢を立位とする(回数S=1、回数L、SL、LS=0)。データ生成部124は、乱数Rが立位の発生確率p以上かつ、臥位の発生確率pと立位の発生確率pの和未満のときに、牛Bの姿勢を臥位とする(回数L=1、回数S、SL、LS=0)。データ生成部124は、乱数Rが臥位の発生確率pと立位の発生確率pの和以上かつ、臥位の発生確率pと立位の発生確率pと立位から臥位への遷移の発生確率pSLの和未満のときに、牛Bの姿勢を立位から臥位への遷移とする(回数SL=1、回数S、L、LS=0)。データ生成部124は、乱数Rが臥位の発生確率pと立位の発生確率pと立位から臥位への遷移の発生確率pSLの和以上のときに、牛Bの姿勢を臥位から立位への遷移とする(回数LS=1、回数S、L、SL=0)。
【0037】
データ生成部124は、乱数に基づく牛Bの姿勢のシミュレーションを、シミュレーション対象の単位期間ごとに所定回数実行することで、単位期間における遷移データを得る。データ生成部124は、第一期間より後の第二期間(例えば、第一期間の末尾から1日後までの間、所定の期間の三分の一程度)について、シミュレーションを行い、牛Bの遷移データを生成する。これにより、データ生成部124は、第一期間と第二期間を合わせた所定の期間に係る遷移データを生成することができる。
【0038】
《効果》
第二実施形態によれば、分娩予測システム1は第一期間の遷移データに基づいて、第二期間における牛Bの挙動を模擬し、遷移データを得ることができる。これにより、分娩予測システム1は、牛Bの撮像期間が短い場合にも、分娩の予測を行うことができる。なお、発明者は、第一実施形態に係る手法と第二実施形態に係る手法のそれぞれを用いて牛Bの分娩予測を行い、第二実施形態に係る手法によっても、第一実施形態と同程度の予測精度が得られることを確認した。
【0039】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
上述した実施形態に係る分娩予測装置12は、単独のコンピュータによって構成されるものであってもよいし、分娩予測装置12の構成を複数のコンピュータに分けて配置し、複数のコンピュータが互いに協働することで分娩予測装置12として機能するものであってもよい。
【0040】
上述した実施形態に係る分娩予測システム1は、牛Bの分娩期を予測するが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る牛B以外の動物の分娩期を予測してもよい。牛B以外の動物の例としては、豚、馬、犬などの哺乳類が挙げられる。
【0041】
上述した実施形態に係る分娩予測装置12は、牛Bの姿勢として、立位と臥位との何れであるかを判定するが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る分娩予測装置12は、立位と臥位の区分に加えて、尻尾を上げているか否か、飲食しているか否か、臥位において脚を延ばしているか否かなどの他の観点で姿勢を判定してもよい。この場合、分娩予測装置12のデータ生成部124は、遷移データとして上記の姿勢の変化を含んでいてもよい。
【0042】
上述した実施形態に係る分娩予測装置12は、単位期間を複数のサンプリング区間に分けて、各サンプリング区間ごとに姿勢の回数をカウントアップすることで、遷移データを生成する。他方、他の実施形態においてはこれに限られない。例えば、他の実施形態に係る分娩予測装置12は、同一の姿勢が連続した時間と、姿勢の切り替わりの回数と継続時間とを記録し、これに基づいて遷移データを生成してもよい。
【0043】
上述した第二実施形態に係る分娩予測装置12は、牛Bの姿勢として、各姿勢の発生確率p、pLS、p、pSLに基づいて乱数に基づく牛Bの姿勢のシミュレーションを行うが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る分娩予測装置12は、姿勢をマルコフチェーンの状態とおいたときの、確率遷移行列に基づいて、乱数に基づく牛Bの姿勢のシミュレーションを行ってもよい。この場合、分娩予測装置12は、確率pi,jを求める。jは対象のサンプリング区間における牛Bの姿勢(状態)を示し、iは対象のサンプリング区間の直前における牛Bの姿勢(状態)を示す。つまり、確率pi,jを要素とする確率遷移行列は4×4の行列である。確率遷移行列を求める場合、各姿勢の条件付確率は、姿勢判定部123によって判定された、隣接するサンプリング区間それぞれにおける牛Bの姿勢の変化に基づいて算出される。
【0044】
〈コンピュータ構成〉
図6は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ9は、プロセッサ91、メインメモリ92、ストレージ93、インタフェース94を備える。
上述の分娩予測装置12は、コンピュータ9に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ93に記憶されている。プロセッサ91は、プログラムをストレージ93から読み出してメインメモリ92に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ91は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ92に確保する。プロセッサ91の例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
【0045】
プログラムは、コンピュータ9に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータ9は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ91によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0046】
ストレージ93の例としては、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ93は、コンピュータ9のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース94または通信回線を介してコンピュータ9に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ9に配信される場合、配信を受けたコンピュータ9が当該プログラムをメインメモリ92に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ93は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0047】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージ93に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…分娩予測システム 11…撮像装置 12…分娩予測装置 121…データ取得部 122…個体特定部 123…姿勢判定部 124…データ生成部 125…状態入力部 126…データ記憶部 127…確率計算部 128…予測部 129…出力部 9…コンピュータ 91…プロセッサ 92…メインメモリ 93…ストレージ 94…インタフェース B…牛
図1
図2
図3
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図5
図6