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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050218
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
   E03D 1/28 20060101AFI20240403BHJP
   E03D 5/01 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
E03D1/28
E03D5/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156940
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】岩城 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 知祥
【テーマコード(参考)】
2D039
【Fターム(参考)】
2D039AA02
2D039AC02
2D039AD06
2D039BA16
2D039FD01
(57)【要約】
【課題】壁の裏側又はキャビネット内に配置される貯水タンクの容量の確保と、ポンプ装置及びその周辺機器のメンテナンス性の確保とを両立させることができる水洗大便器を提供する。
【解決手段】本発明の水洗大便器1は、汚物を受ける汚物受け面10と、この汚物受け面の上縁に形成されるリム部12と、を含むボウル部14と、このボウル部内の汚物を排出する排水流路16と、ボウル部及び排水流路の外側から取り囲むスカート部18と、を備えた便器本体2と、洗浄水を貯留する貯水タンク4を備えたタンク装置6と、貯水タンクから供給される洗浄水を加圧して便器本体のボウル部に供給するポンプ装置8と、を有し、貯水タンクは、便器本体の後方に配置された壁Wの裏側又はキャビネットC内に隠蔽されることにより便器本体の外部に配置されている一方、ポンプ装置8は、便器本体のスカート部よりも内側に配置されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水により洗浄されて汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、この汚物受け面の上縁に形成されるリム部と、を含むボウル部と、このボウル部内の汚物を排出する排水流路と、上記ボウル部及び上記排水流路の外側から取り囲むスカート部と、を備えた便器本体と、
洗浄水を貯留する貯水タンクを備えたタンク装置と、
上記貯水タンクから供給される洗浄水を加圧して上記便器本体のボウル部に供給するポンプ装置と、を有し、
上記貯水タンクは、上記便器本体の後方に配置された壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽されることにより上記便器本体の外部に配置されている一方、上記ポンプ装置は、上記便器本体のスカート部よりも内側に配置されていることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
上記貯水タンクの下端位置は、上記便器本体のリム部の上面よりも下方の位置に設定されている請求項1記載の水洗大便器。
【請求項3】
上記スカート部は、上記便器本体の背面側に設けられた後壁部と、この後壁部を前後方向に貫く便器側開口部と、を備えており、
上記貯水タンクは、上記便器本体の後方側から上記便器側開口部に向かって差し向けられて上記貯水タンク内の洗浄水を上記便器本体側に供給する供給口を備えており、
上記水洗大便器は、さらに、上記貯水タンクの供給口と上記ポンプ装置とを接続する通水部材を有し、この通水部材は、上記便器側開口部を経由するように配置されている請求項1記載の水洗大便器。
【請求項4】
上記水洗大便器は、さらに、上記ポンプ装置を制御する制御装置を有し、この制御装置は、上記便器本体に配置されている請求項1記載の水洗大便器。
【請求項5】
上記水洗大便器は、さらに、上記便器本体の上面後方に設けられ且つ便器使用者の局部に対して洗浄水を噴射して洗浄する局部洗浄装置を有し、この局部洗浄装置は、その外郭を形成する外郭部を備えており、
上記貯水タンク内の洗浄水のオーバーフロー水位は、上記便器本体のリム部の上面よりも高い位置に設定され、かつ、上記局部洗浄装置の外郭部の上端よりも低い位置に設定されている請求項3記載の水洗大便器。
【請求項6】
上記水洗大便器は、さらに、上記便器本体の後方に位置する壁の裏側又はキャビネット内に配置され且つ上記便器本体及び上記タンク装置を固定するフレーム部を有する壁掛式の水洗大便器であり、上記便器本体の排水流路は、その下流側が上記壁の裏側又は上記キャビネット内に差し向けられており、上記貯水タンクは、上記排水流路よりも上方に配置されている請求項1記載の水洗大便器。
【請求項7】
上記タンク装置は、さらに、上記貯水タンクと上記便器本体とを接続し且つ上記貯水タンクからオーバーフローした洗浄水を通水させるオーバーフロー経路を備えており、このオーバーフロー経路は、上記貯水タンク側に接続された上流端と、上記便器本体側に接続された下流端と、を備えており、上記貯水タンクからオーバーフローした洗浄水を上記上流端から上記便器側開口部を経由して上記下流端から上記便器本体まで通水させる請求項5記載の水洗大便器。
【請求項8】
上記便器本体又は上記局部洗浄装置の後方に配置された上記壁又は上記キャビネットの前壁には、点検用開口部が設けられており、上記通水部材又は上記オーバーフロー経路は、上記点検用開口部を経由するように配置されている請求項7記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に係り、特に、洗浄水により洗浄されて汚物を排出する水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、洗浄水により洗浄されて汚物を排出する水洗大便器として、例えば、特許文献1に記載されているように、貯水タンクに貯留された洗浄水をポンプ装置によって便器本体に加圧して便器洗浄を行う、いわゆる、「ポンプ式の水洗大便器」が知られている。
上述した特許文献1に記載されている従来の水洗大便器においては、貯水タンク及びポンプ装置のそれぞれが、便器本体の後方に配置された壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽されることにより便器本体の外部に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-199996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の水洗大便器においては、貯水タンク及びポンプ装置が便器本体の後方の壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽されるため、貯水タンクの容量を確保しつつ、ポンプ装置の配置スペースを確保するためには、壁の裏側又はキャビネット内のスペースをある程度大きく確保しなければならないという問題がある。
また、洗浄水を貯留する貯水タンクは比較的長寿命であるが、ポンプ装置やその駆動部を制御する制御装置等の関連機器においては、技術進歩が大きく、定期的なメンテナンスや、部品や機器の取り替えが必要であるため、ポンプ装置やその周辺機器(制御装置等)が壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽されていると、メンテナンス性が損なわれるという問題がある。
したがって、いかに、壁の裏側又はキャビネット内に配置される貯水タンクの容量を確保しつつ、ポンプ装置及びその周辺機器のメンテナンス性を確保するかが、近年要請されている課題となっている。
【0005】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題や近年要請されている課題を解決するためになされたものであり、壁の裏側又はキャビネット内に配置される貯水タンクの容量の確保と、ポンプ装置及びその周辺機器のメンテナンス性の確保とを両立させることができるポンプ式の水洗大便器を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、洗浄水により洗浄されて汚物を排出する水洗大便器であって、汚物を受ける汚物受け面と、この汚物受け面の上縁に形成されるリム部と、を含むボウル部と、このボウル部内の汚物を排出する排水流路と、上記ボウル部及び上記排水流路の外側から取り囲むスカート部と、を備えた便器本体と、洗浄水を貯留する貯水タンクを備えたタンク装置と、上記貯水タンクから供給される洗浄水を加圧して上記便器本体のボウル部に供給するポンプ装置と、を有し、上記貯水タンクは、上記便器本体の後方に配置された壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽されることにより上記便器本体の外部に配置されている一方、上記ポンプ装置は、上記便器本体のスカート部よりも内側に配置されていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、タンク装置の貯水タンクを便器本体の後方に配置された壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽することにより便器本体の外部に配置する一方、ポンプ装置を便器本体のスカート部よりも内側に配置することができた。
これにより、便器本体のデザイン性を損なうことなく、便器本体の後方の壁の表側又はキャビネットの外部のスペース(便器本体の後方かつ上方のスペース等)を確保することができるため、これらのスペースについて、例えば、窓や飾り棚等を設置するスペースとして活用することができる等、水洗大便器の周辺スペースにおけるレイアウトの自由度を高めることができる。
また、タンク装置の貯水タンクを便器本体の後方の壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽して便器本体の外部に配置し、ポンプ装置を便器本体のスカート部よりも内側に配置したことにより、ポンプ装置をタンク装置の貯水タンクと共に壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽した場合に比べて、ポンプ装置が占有するスペース分だけ、壁の厚み又はキャビネット内のスペースを抑制しつつ、貯水タンクの容量を大きく確保することができる。
さらに、ポンプ装置を便器本体の後方の壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽してしまうと、ポンプ装置やその周辺機器に対する点検や部品交換等のメンテナンス時にアクセスがし難くなるが、便器本体のスカート部よりも内側のスペースにポンプ装置を配置したことにより、壁の表側又はキャビネットの外部でポンプ装置やその周辺機器に容易にアクセスがし易くなるため、メンテナンス性を向上させることができる。
したがって、貯水機能を損ない難く、長寿命なタンク装置の貯水タンクについては壁の裏側又はキャビネット内に配置する一方、貯水タンクに比べて技術進歩が大きく、点検や部品交換等のメンテナンス頻度が高いポンプ装置については、便器本体内の一部に配置することができた。
これによりに、壁の裏側又はキャビネット内に配置される貯水タンクの容量の確保と、便器本体側におけるポンプ装置及びその周辺機器のメンテナンス性の確保とを両立させることができる。
【0007】
本発明において、好ましくは、上記貯水タンクの下端位置は、上記便器本体のリム部の上面よりも下方の位置に設定されている。
このように構成された本発明においては、便器本体の後方に配置された壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽された従来の貯水タンクでは、その内部の洗浄水について重力(位置エネルギー)を利用して下流側(便器本体側)に供給する、いわゆる、「重力給水式の貯水タンク」が採用されていたため、貯水タンク内の洗浄水の重力(位置エネルギー)の作用を発揮させるために、貯水タンク内の水位(例えば、貯水タンク内の待機時の水位等)を可能な限り高く設定すべく、貯水タンクの下端位置を便器本体のリム部の上面よりも上方の位置に設定していた。
これに対し、本発明では、ポンプ装置により貯水タンクから供給される洗浄水を加圧して便器本体のボウル部に供給する、いわゆる、「ポンプ式の貯水タンク」が採用されていることにより、貯水タンクの下端位置を便器本体のリム部の上面よりも下方の位置に設定することができる。
したがって、便器本体の上方のスペース等について、より大きく確保することができ、有効的に活用することができる。
また、貯水タンクの下端位置が便器本体のリム部の上面よりも下方の位置に設定されていることにより、貯水タンク内の洗浄水の重力(位置エネルギー)の作用が発揮し難い状況であっても、ポンプ装置の加圧力により貯水タンク内の洗浄水を便器本体のボウル部に十分に供給することができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、上記スカート部は、上記便器本体の背面側に設けられた後壁部と、この後壁部を前後方向に貫く便器側開口部と、を備えており、上記貯水タンクは、上記便器本体の後方側から上記便器側開口部に向かって差し向けられて上記貯水タンク内の洗浄水を上記便器本体側に供給する供給口を備えており、上記水洗大便器は、さらに、上記貯水タンクの供給口と上記ポンプ装置とを接続する通水部材を有し、この通水部材は、上記便器側開口部を経由するように配置されている。
このように構成された本発明においては、便器本体のスカート部の背面側の後壁部に対して、前後方向に貫く便器側開口部を設けることができると共に、貯水タンク内の洗浄水を便器本体側に供給する貯水タンクの供給口について、便器本体の後方側から便器側開口部に向かって差し向けるように設けることができた。また、貯水タンクの供給口とポンプ装置とを接続する通水部材について、便器本体の便器側開口部を経由するように配置することができた。
また、貯水タンクの供給口が便器側開口部に向かって差し向けられていることにより、貯水タンクの供給口とポンプ装置とを接続する通水部材が迂回するような無駄なスペースを削減し、最短経路で貯水タンクの供給口とポンプ装置とを接続することができる。
したがって、貯水タンクの容量を確保することができると共に、通水部材の流路長による圧力損失を低減することができるため、貯水タンク内の洗浄水をポンプ装置により効率よく便器本体のボウル部に供給することができる。
なお、通水部材については、ポンプ装置に対して一体に設けられていてもよい。これにより、通水部材とポンプ装置との接続部において必要となる保持部材(ホースクランプ等)が不要となる。よって、貯水タンクとポンプ装置とを前後方向の距離が最短になるように接続することができるため、水洗大便器の前出寸法を抑制することができる。
したがって、水洗大便器の周辺スペースにおけるレイアウトの自由度を高めることができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、上記水洗大便器は、さらに、上記ポンプ装置を制御する制御装置を有し、この制御装置は、上記便器本体に配置されている。
このように構成された本発明においては、貯水機能を損ない難く、長寿命なタンク装置の貯水タンクについては壁の裏側又はキャビネット内に配置する一方、貯水タンクに比べて技術進歩が大きく、点検や部品交換等のメンテナンス頻度が高いポンプ装置及び制御装置については、便器本体内の一部に配置することができた。
これにより、便器本体側におけるポンプ装置、制御装置、及び、それらの周辺機器のメンテナンス性を向上させることができる。
また、ポンプ装置や制御装置をタンク装置の貯水タンクと共に壁の裏側又はキャビネット内に隠蔽した場合に比べて、ポンプ装置や制御装置が占有するスペース分だけ、壁の厚み又はキャビネット内のスペースを抑制しつつ、貯水タンクの容量を大きく確保することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、上記水洗大便器は、さらに、上記便器本体の上面後方に設けられ且つ便器使用者の局部に対して洗浄水を噴射して洗浄する局部洗浄装置を有し、この局部洗浄装置は、その外郭を形成する外郭部を備えており、上記貯水タンク内の洗浄水のオーバーフロー水位は、上記便器本体のリム部の上面よりも高い位置に設定され、かつ、上記局部洗浄装置の外郭部の上端よりも低い位置に設定されている。
このように構成された本発明においては、仮に、貯水タンク内の洗浄水のオーバーフロー水位が便器本体のリム部の上面よりも低い位置に設定されている場合、例えば、便器本体側で詰まりが発生すると、便器本体側が満水になる前に、便器本体の後方の壁の裏側又はキャビネット内において、貯水タンク内の洗浄水がオーバーフロー水位を超えて機外漏水が発生する可能性がある。
また、貯水タンク内の洗浄水のオーバーフロー水位が、局部洗浄装置の外郭部の上端よりも高い位置に設定されている場合、便器本体側で詰まりが発生すると、便器本体側が満水となり、便器本体内の洗浄水がリム部の上面から溢れるため、使用者は便器本体側の漏水に気づくことができるが、このような漏水が局部洗浄装置の外郭部の上端を超えるようになると、局部洗浄装置の外郭部の上端よりも上方のスペースに窓や飾り棚等を設置することができなくなる可能性がある。
そこで、本発明においては、貯水タンク内の洗浄水のオーバーフロー水位が便器本体のリム部の上面よりも高い位置に設定され、かつ、局部洗浄装置の外郭部の上端よりも低い位置に設定されているため、便器本体側で詰まりが発生して便器本体内の洗浄水がリム部の上面から溢れた場合には、使用者が便器本体側の漏水に気づくことができると共に、局部洗浄装置の外郭部の上端よりも上方のスペースに窓や飾り棚等を設置することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、上記水洗大便器は、さらに、上記便器本体の後方に位置する壁の裏側又はキャビネット内に配置され且つ上記便器本体及び上記タンク装置を固定するフレーム部を有する壁掛式の水洗大便器であり、上記便器本体の排水流路は、その下流側が上記壁の裏側又は上記キャビネット内に差し向けられており、上記貯水タンクは、上記排水流路よりも上方に配置されている。
このように構成された本発明においては、水洗大便器が便器本体の後方に位置する壁の裏側又はキャビネット内に配置され且つ便器本体及びタンク装置を固定するフレーム部を有する壁掛式の水洗大便器であり、便器本体の排水流路の下流側が壁の裏側又はキャビネット内に差し向けられており、貯水タンクが排水流路よりも上方に配置されているため、万一、タンク装置の故障が発生した場合であっても、フレーム部により固定された便器本体及びその排水流路をそのまま維持した状態(固定状態)で、壁の裏側又はキャビネット内のタンク装置のみを単独で取り替えることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、上記タンク装置は、さらに、上記貯水タンクと上記便器本体とを接続し且つ上記貯水タンクからオーバーフローした洗浄水を通水させるオーバーフロー経路を備えており、このオーバーフロー経路は、上記貯水タンク側に接続された上流端と、上記便器本体側に接続された下流端と、を備えており、上記貯水タンクからオーバーフローした洗浄水を上記上流端から上記便器側開口部を経由して上記下流端から上記便器本体まで通水させる。
このように構成された本発明においては、貯水タンクと便器本体とを接続し且つ貯水タンクからオーバーフローした洗浄水を通水させるタンク装置のオーバーフロー経路が、貯水タンクからオーバーフローした洗浄水を上流端から便器本体の便器側開口部を経由して下流端から便器本体まで通水させることができる。
また、貯水タンクからオーバーフローした洗浄水を壁の表側又はキャビネットの前方の便器本体のボウル部(使用者側)に通水させることにより、使用者が異常を検知しやすくすることができる。
さらに、万一、便器本体側で排水不良等の詰まりが発生した場合であっても、最終的に漏水する箇所が便器本体のボウル部であれば、使用者が清掃することができるため、漏水による水洗大便器周辺の家財の腐食等を防止することができる。
一方、仮に、オーバーフロー経路について、その下流端を壁の裏側又はキャビネット内の排水流路等に接続する等、壁の裏側又はキャビネット内のみで完結するように設けてしまうと、漏水が発生した際には、壁の裏側又はキャビネット内を清掃することができないため、そのまま壁内の木材等が腐食してしまうことになるという問題がある。
さらに、仮に、壁の裏側又はキャビネット内のみで完結するようにオーバーフロー経路を設けてしまうと、貯水タンクの容量が確保できなくなってしまうという問題がある。
これらの問題に対し、本発明では、タンク装置のオーバーフロー経路が、貯水タンクからオーバーフローした洗浄水を上流端から便器本体の便器側開口部を経由して下流端から便器本体まで通水させることができるため、貯水タンクの容量を確保することができると共に、水洗大便器の周辺スペースにおけるレイアウトの自由度を高めることができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、上記便器本体又は上記局部洗浄装置の後方に配置された上記壁又は上記キャビネットの前壁には、点検用開口部が設けられており、上記通水部材又は上記オーバーフロー経路は、上記点検用開口部を経由するように配置されている。
このように構成された本発明においては、便器本体の後方の壁の裏側又はキャビネット内のタンク装置の関連機器等をメンテナンスする際、或いは、便器本体側のポンプ装置や局部洗浄装置の一部(小部品等)をメンテナンスする際にも、壁又はキャビネットを破壊することなく、点検用開口部から容易にアクセスすることができるため、メンテナンス性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水洗大便器によれば、壁の裏側又はキャビネット内に配置される貯水タンクの容量の確保と、ポンプ装置及びその周辺機器のメンテナンス性の確保とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による水洗大便器の全体構成図である。
図2】本発明の一実施形態による水洗大便器を斜め前方かつ上方から見た概略斜視図である。
図3】本発明の一実施形態による水洗大便器の平面図である。
図4図3のIV-IV線に沿った断面図である。
図5】本発明の一実施形態による水洗大便器の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態による水洗大便器について説明する。
まず、図1は、本発明の一実施形態による水洗大便器の全体構成図である。つぎに、図2は、本発明の一実施形態による水洗大便器を斜め前方かつ上方から見た概略斜視図である。また、図3は、本発明の一実施形態による水洗大便器の平面図である。さらに、図4は、図3のIV-IV線に沿った断面図である。また、図5は、本発明の一実施形態による水洗大便器の背面図である。
まず、図1図5に示すように、本発明の一実施形態による水洗大便器1は、その便器本体2の後部がトイレ室Tの壁W(又はキャビネットCの前壁W)に固定された、いわゆる、「壁掛け式の水洗大便器」である。
【0017】
つぎに、本実施形態の壁掛け式の水洗大便器1は、陶器製の便器本体2と、この便器本体2に供給する洗浄水を貯留する貯水タンク4を備えたタンク装置6と、このタンク装置6の下流側に設けられ且つ貯水タンク4から供給される洗浄水を加圧して便器本体2に供給するポンプ装置8とを備えている。
また、トイレ室Tの壁Wの裏側(又はキャビネットC内)には、便器本体2及びタンク装置6を固定する固定装置Sが設けられている。この固定装置Sは、概ね直方体形状の外枠を形成する複数のフレーム部(縦フレーム部材S1、横フレーム部材S2)等を備えている。
【0018】
便器本体2の後部がトイレ室Tの壁W(又はキャビネットCの前壁W)を介して固定装置Sに対してボルトB及びナットN(図3参照)により固定されると、便器本体2の全体が、固定装置Sにより壁Wの表側で固定され、かつ、床面Fよりも上方に固定されるようになっている。
また、タンク装置6については、壁Wの裏側(又はキャビネットC内)で固定装置Sにより固定されており、タンク装置6が壁Wの裏側のスペース(又はキャビネットC内)に隠蔽されることにより便器本体2の外部に配置されている。
一方、ポンプ装置8については、便器本体2の内部に配置されている。
【0019】
つぎに、図1図5に示すように、便器本体2は、具体的には、汚物を受ける汚物受け面10と、この汚物受け面10の上縁に形成されるリム部12とを含むボウル部14を備えている。
また、便器本体2は、ボウル部14内の汚物を排出する排水流路を形成する排水トラップ部16と、ボウル部14及び排水トラップ部16を外側から取り囲むように形成されるスカート部18と、を備えている。
ここで、スカート部18については、便器本体2と一体に形成された陶器製のスカート部に限られず、便器本体2とは別体に設けられて且つ便器本体2に対して外側から覆うように取り外し可能に取り付けられたパネル部材等も含む。
そして、ポンプ装置8は、便器本体2のスカート部18よりも内側かつボウル部14の後方のスペース内に配置されている。
【0020】
さらに、図1及び図4に示すように、排水トラップ部16は、より具体的には、その入口部16aがボウル部14の下方に接続されており、この入口部16aから後方かつ下方の最下端部16bまで延びた後、後方かつ上方に向かって上昇する屈曲した排水流路を形成するようになっている。そして、この屈曲した排水流路は、その下流端(後端)が後方に向かって延びるように形成されている。
また、便器本体2の後方の壁Wの裏側(又はキャビネットC内)には、排水管20が設置されている。この排水管20は、床面Fよりも下方から上方に延びた後、便器本体2側(前方側)に差し向けられており、その前端(上流端)に位置する入口部20aが排水ソケット22を介して排水トラップ部16の後端(下流端)の出口部16cに接続されている。
【0021】
つぎに、図1図3及び図5に示すように、タンク装置6は、貯水タンク4の上流側に接続された給水管24を備えている。この給水管24の最上流側は、水道等の外部の給水源26に接続されている。
また、給水管24において、給水源26側(上流側)から下流側に向かって、止水栓28、バルブユニット30がそれぞれ設けられている。このバルブユニット30は、給水管24に設けられた定流量弁32と、この定流量弁32の下流側に設けられた開閉弁(ダイヤフラム弁34)と、この開閉弁(ダイヤフラム弁34)を開閉させる電磁弁36とをそれぞれ備えている。
さらに、給水管24の下流端には、給水ノズル38が設けられている。この給水ノズル24aは、貯水タンク4の内部に向かって差し向けられており、給水管24の洗浄水を貯水タンク4内に給水する給水部となっている。
これらにより、電磁弁36の作動によりダイヤフラム弁34が開弁されると、給水源26から水道等の給水圧で給水管24内に供給された洗浄水は、止水栓28からバルブユニット30の定流量弁32を通過することにより流量が一定に調整された後、ダイヤフラム弁34を通過し、給水ノズル38から貯水タンク4内に洗浄水が給水されるようになっている。
【0022】
ここで、図1図4に示すように、タンク装置6の貯水タンク4は、下側に配置された主タンク40と、この主タンク40の上端に連結された補助タンク42とを備えている。
これらのタンク40,42は、互いに上下方向に連通している。
これにより、給水ノズル38から給水された洗浄水は、まず、補助タンク42で水受けされた後、補助タンク42の下側開口部42aを通過し、この下側開口部42aに連結されている主タンク40の上側開口部40aから主タンク40内に給水されるようになっている。
また、図1図5に示すように、補助タンク42は、その側壁の一部にオーバーフロー口42bが設けられている。このオーバーフロー口42bには、オーバーフロー管44が接続されており、このオーバーフロー管44は、補助タンク42内の洗浄水について主タンク40を経由させることなく便器本体2のボウル部14側に通水させるオーバーフロー経路を形成している。
【0023】
さらに、補助タンク42とオーバーフロー管44との接続部付近(オーバーフロー管44の入口部44a付近)には、オーバーフロー口42bを開閉する逆止弁46が設けられている。
この逆止弁46は、タンク装置6の通常使用時においては、オーバーフロー口42bを常時閉鎖している。より厳密に説明すると、通常使用時において、便器洗浄が行われていない場合には、オーバーフロー口42bは逆止弁46により僅かに開放されている状態(微開状態)となっており、逆止弁46の固着を防止するようになっている。
一方、便器洗浄時には、逆止弁46が作動することによりオーバーフロー口42bが閉鎖され、ポンプ装置8からの水の逆流を防止することにより、洗浄能力の低下を抑制するようになっている。
また、逆止弁46は、タンク装置6の動作不良や停電による停止等の異常時において、主タンク40内の水位が満水水位よりも上昇し、補助タンク42内の水位が所定の高さ水位、すなわち、貯水タンク4のオーバーフロー水位まで上昇すると、逆止弁46が補助タンク42内の洗浄水により開弁するようになっている。
これにより、オーバーフロー口42bから流出した洗浄水について、オーバーフロー管44から逆流させることなく、便器本体2のボウル部14内に流出させることができるようになっている。
【0024】
つぎに、図1図5に示すように、ポンプ装置8は、駆動部(図示せず)が内蔵されているポンプ本体部48と、このポンプ本体部48の上流側及び下流側にそれぞれ設けられた吸引管50及び吐水管52とを備えている。
また、主タンク40の前壁には、便器本体2の後方側から前方側に差し向けられている供給口40bが設けられており、ポンプ装置8の吸引管50は、その上流側端部が通水部材(通水管54)を介して主タンク40の供給口40bに接続されている。
さらに、通水管54は、主タンク40の供給口40bとの接続部から、その上流側の主タンク40の内部まで延びている。
また、ポンプ装置8の吐水管52は、その上流側端部がポンプ本体部48に接続されている一方、吐水管52の下流側端部は、可撓性ホース56を介して便器本体2の後方側内部の主導水路2aに接続されている。
【0025】
なお、オーバーフロー管44の下流側端部(出口部44b)についても、便器本体2の主導水路2aに接続されている。
ちなみに、図3に示すように、便器本体2の主導水路2a、便器本体2の後方側内部における左右方向の中央部に前後方向に延びるように形成されており、その前端(下流端)には、左右に分岐する第1リム導水路2b及び第2リム導水路2cがそれぞれ形成されている。
また、第1リム導水路2b及び第2リム導水路2cのそれぞれの下流端には、第1リム吐水口2d及び第2リム吐水口2eのそれぞれが形成されている。
【0026】
つぎに、図1図5に示すように、本実施形態の水洗大便器1は、ポンプ装置8の作動を制御する制御装置であるコントローラ58を備えている。このコントローラ58は、便器本体2の一部に配置されている。
また、タンク装置6は、主タンク40の内の水位を検知するフロートスイッチ60を備えている。
ここで、バルブユニット30の電磁弁36の開閉動作は、フロートスイッチ60が検知した主タンク40内の水位に基づいてコントローラ58により制御されるようになっている。
また、ポンプ装置8の作動についても、フロートスイッチ60が検知した主タンク40内の水位に基づいてコントローラ58により制御されるようになっている。
例えば、フロートスイッチ60が検知した主タンク40内の水位が所定以下である場合には、電磁弁36が開弁すると共にダイヤフラム弁34が開弁することにより、給水管24が開放され、ポンプ装置8が作動されるようになっている。
そして、主タンク40内の水位が所定水位まで到達すると、電磁弁36が閉弁すると共にダイヤフラム弁34が閉弁することにより、給水管24が閉鎖され、ポンプ装置8が停止されるようになっている。
【0027】
また、主タンク40内に貯水されている洗浄水は、ポンプ装置8が作動することにより通水管54から吸引管50を経てポンプ本体部48内に吸引された後、吐水管52に圧送されるようになっている。
これにより、主タンク40からポンプ装置8により吐水管52に供給された洗浄水のうちのすべてが、可撓性ホース56から便器本体2の主導水路2aに供給された後、各リム導水路2b,2c内に供給されるようになっている。
そして、各リム導水路2b,2c内の洗浄水は、各リム吐水口2d,2eのみからボウル部14内に吐水され、便器洗浄(いわゆる、リム吐水100%による便器洗浄)が行われるようになっている。
【0028】
つぎに、図1図5を参照して、本実施形態による水洗大便器1における便器本体2、貯水タンク4を備えたタンク装置6、ポンプ装置8、並びに、これらの周辺部分の構造に関する具体的な特徴について説明する。
まず、図1図4及び図5に示すように、タンク装置6における貯水タンク4の主タンク40の最下端40cの高さ位置P1は、便器本体2におけるリム部12の上面12aの高さ位置P2よりも下方の位置に設定されている。
また、図4及び図5に示すように、貯水タンク4(主タンク40、補助タンク42)は、排水流路(排水トラップ部16及び排水管20)よりも上方に配置されている。
【0029】
つぎに、図1及び図3図5に示すように、本実施形態の水洗大便器1は、さらに、便器使用者の局部に対して洗浄水を噴射して洗浄する局部洗浄装置62を備えている。
この局部洗浄装置62は、便器本体2におけるリム部12の上面12aの後方に設けられており、その本体の外郭を形成する外郭部62aを備えている。
ここで、図3及び図5では、局部洗浄装置62及びその外郭部62aの外形を想像線で示している。
また、図4及び図5に示すように、補助タンク42内におけるオーバーフロー口42bの下限位置と同一の水位を「貯水タンク4内のオーバーフロー水位WL1」と定義すると、このオーバーフロー水位WL1は、貯水タンク4内における主タンク40の満水水位WL2よりも上方に位置している。
さらに、貯水タンク4内のオーバーフロー水位WL1は、便器本体2におけるリム部12の上面12aの高さ位置P2よりも高い位置に設定され、かつ、局部洗浄装置62における外郭部62aの上端62bの高さ位置P3よりも低い位置に設定されている。
【0030】
つぎに、図2及び図3に示すように、便器本体2のスカート部18は、その背面側に設けられた後壁部18aと、この後壁部18aの上縁における左右方向の中央部を前後方向に貫く便器側開口部である後方開口部18bと、を備えている。
これにより、主タンク40の供給口40bとポンプ装置8の吸引管50とを接続する通水管54は、便器本体2のスカート部18の後壁部18aの後方開口部18bを経由するように配置されている。
ここで、本実施形態の水洗大便器1の便器本体2におけるスカート部18の後方開口部18bについては、その上縁が下方に凹状に切り欠かれた切欠き形状の形態となっているが、このような形態に限られず、スカート部18の後壁部18aの上縁を切り欠くことなく、後壁部18aを前後方向に貫く穴形状の形態であってもよい。
【0031】
さらに、図2図4に示すように、オーバーフロー管44は、貯水タンク4の補助タンク42のオーバーフロー口42bに接続された上流端(入口部44a)と、便器本体2の主導水路2aに接続された下流端(出口部44b)とを備えており、オーバーフロー管44の入口部44aと出口部44bとの間の途中の経路がスカート部18の後方開口部18bを経由するようになっている。
これにより、オーバーフロー管44は、補助タンク42内の洗浄水について主タンク40を経由させることなく便器本体2のボウル部14側に通水させるオーバーフロー経路を形成している。
また、貯水タンク4の補助タンク42のオーバーフロー口42bからオーバーフローした洗浄水は、オーバーフロー管44により上流端(入口部44a)からスカート部18の後方開口部18bを経由し、下流端(出口部44b)から便器本体2の主導水路2aまで通水した後、各リム導水路2b,2cの各リム吐水口2d,2eからボウル部14内に通水することができるようになっている。
【0032】
つぎに、図1に示すように、便器本体2及び局部洗浄装置62の後方に配置された壁W又はキャビネットCの前壁Wには、前後方向に貫く点検用開口部64が設けられている。
そして、通水部材(通水管54)及びオーバーフロー経路(オーバーフロー管44)は、点検用開口部64を経由するように配置されている。
【0033】
つぎに、図1図5を参照して、上述した本発明の一実施形態による水洗大便器1の作用について説明する。
まず、本発明の一実施形態による水洗大便器1によれば、タンク装置6の貯水タンク4を便器本体2の後方に配置された壁Wの裏側又はキャビネットC内に隠蔽することにより便器本体2の外部に配置する一方、ポンプ装置8を便器本体2のスカート部18よりも内側に配置することができた。
これにより、便器本体2のデザイン性を損なうことなく、便器本体2の後方の壁Wの表側又はキャビネットCの外部のスペース(便器本体2の後方かつ上方のスペース等)を確保することができるため、これらのスペースについて、例えば、窓や飾り棚等を設置するスペースとして活用することができる等、水洗大便器1の周辺スペースにおけるレイアウトの自由度を高めることができる。
また、タンク装置6の貯水タンク4を便器本体2の後方の壁WC内に隠蔽して便器本体2の外部に配置し、ポンプ装置8を便器本体2のスカート部18よりも内側に配置したことにより、ポンプ装置8をタンク装置6の貯水タンク4と共に壁Wの裏側又はキャビネットC内に隠蔽した場合に比べて、ポンプ装置8が占有するスペース分だけ、壁Wの厚み又はキャビネットC内のスペースを抑制しつつ、貯水タンク4の容量を大きく確保することができる。
さらに、ポンプ装置8を便器本体2の後方の壁Wの裏側又はキャビネットC内に隠蔽してしまうと、ポンプ装置8やその周辺機器に対する点検や部品交換等のメンテナンス時にアクセスがし難くなるが、便器本体2のスカート部18よりも内側のスペースにポンプ装置8を配置したことにより、壁Wの表側又はキャビネットCの外部でポンプ装置8やその周辺機器(コントローラ58等)に容易にアクセスがし易くなるため、メンテナンス性を向上させることができる。
したがって、貯水機能を損ない難く、長寿命なタンク装置6の貯水タンク4については壁Wの裏側又はキャビネットC内に配置する一方、貯水タンク4に比べて技術進歩が大きく、点検や部品交換等のメンテナンス頻度が高いポンプ装置8については、便器本体2内の一部に配置することができた。
これによりに、壁Wの裏側又はキャビネットC内に配置される貯水タンク4の容量の確保と、便器本体2側におけるポンプ装置8及びその周辺機器(コントローラ58等)のメンテナンス性の確保とを両立させることができる。
【0034】
また、便器本体2の後方に配置された壁Wの裏側又はキャビネットC内に隠蔽された従来の貯水タンクでは、その内部の洗浄水について重力(位置エネルギー)を利用して下流側(便器本体側)に供給する、いわゆる、「重力給水式の貯水タンク」が採用されていたため、貯水タンク内の洗浄水の重力(位置エネルギー)の作用を発揮させるために、貯水タンク内の水位(例えば、貯水タンク内の待機時の水位等)を可能な限り高く設定すべく、貯水タンクの下端位置を便器本体のリム部の上面よりも上方の位置に設定していた。
これに対し、本実施形態による水洗大便器1によれば、ポンプ装置8により貯水タンク4から供給される洗浄水を加圧して便器本体2のボウル部14に供給する、いわゆる、「ポンプ式の貯水タンク4」が採用されていることにより、貯水タンク4における主タンク40の最下端40cの高さ位置P1を便器本体2におけるリム部12の上面12aの高さ位置P2よりも下方の位置に設定することができる。
したがって、便器本体2の上方のスペース等について、より大きく確保することができ、例えば、窓や飾り棚等を設置するスペースとして、有効的に活用することができる。
また、貯水タンク4における主タンク40の最下端40cの高さ位置P1が便器本体2におけるリム部12の上面12aの高さ位置P2よりも下方の位置に設定されていることにより、貯水タンク4の主タンク40内における洗浄水の重力(位置エネルギー)の作用が発揮し難い状況であっても、ポンプ装置8の加圧力により貯水タンク4の主タンク40内の洗浄水を便器本体2のボウル部14に十分に供給することができる。
【0035】
また、本実施形態による水洗大便器1によれば、便器本体2のスカート部18の背面側の後壁部18aに対して、前後方向に貫く便器側開口部(後方開口部18b)を設けることができると共に、貯水タンク4内の洗浄水を便器本体2側に供給する主タンク40の供給口40bについて、便器本体2の後方側から便器本体2のスカート部18の後方開口部18bに向かって差し向けるように設けることができた。
さらに、貯水タンク4の主タンク40の供給口40bとポンプ装置8とを接続する通水部材(通水管54)について、便器本体2のスカート部18の後方開口部18bを経由するように配置することができた。
また、貯水タンク4の主タンク40の供給口40bが便器本体2のスカート部18の後方開口部18bに向かって差し向けられていることにより、主タンク40の供給口40bとポンプ装置8とを接続する通水部材(通水管54)が迂回するような無駄なスペースを削減し、最短経路で貯水タンク4の主タンク40の供給口40bとポンプ装置8とを接続することができる。
したがって、貯水タンク4の容量を確保することができると共に、通水部材(通水管54)の流路長による圧力損失を低減することができるため、貯水タンク4内の洗浄水をポンプ装置8により効率よく便器本体2のボウル部14に供給することができる。
なお、通水部材(通水管54)については、ポンプ装置8に対して一体に設けられていてもよい。これにより、通水部材(通水管54)とポンプ装置8との接続部において必要となる保持部材(ホースクランプ等)が不要となる。よって、貯水タンク4とポンプ装置8とを前後方向の距離が最短になるように接続することができるため、水洗大便器1の前出寸法を抑制することができる。
したがって、水洗大便器1の周辺スペースにおけるレイアウトの自由度を高めることができる。
【0036】
さらに、本実施形態による水洗大便器1によれば、貯水機能を損ない難く、長寿命なタンク装置6の貯水タンク4については壁Wの裏側又はキャビネットC内に配置する一方、貯水タンク4に比べて技術進歩が大きく、点検や部品交換等のメンテナンス頻度が高いポンプ装置8及び制御装置(コントローラ58)については、便器本体2内の一部に配置することができた。
これにより、便器本体2側におけるポンプ装置8、コントローラ58、及び、それらの周辺機器のメンテナンス性を向上させることができる。
また、ポンプ装置8やコントローラ58をタンク装置6の貯水タンク4と共に壁Wの裏側又はキャビネットC内に隠蔽した場合に比べて、ポンプ装置8やコントローラ58が占有するスペース分だけ、壁Wの厚み又はキャビネットC内のスペースを抑制しつつ、貯水タンクの容量を大きく確保することができる。
【0037】
また、本実施形態による水洗大便器1によれば、仮に、貯水タンク4内の洗浄水のオーバーフロー水位WL1が便器本体2におけるリム部12の上面12aの高さ位置P2よりも低い位置に設定されている場合、例えば、便器本体2側で詰まりが発生し、かつ、オーバーフロー管44の入口部44aの接続シール部が破損すると、便器本体2側が満水になる前に、便器本体2の後方の壁Wの裏側又はキャビネットC内において、貯水タンク4内の洗浄水がオーバーフロー水位WL1を超えて機外漏水が発生する可能性がある。
なお、本実施形態の水洗大便器1のタンク装置6について、欧州等の海外仕様の規格に対応させる場合、例えば、貯水タンク4の補助タンク42におけるオーバーフロー口42bよりも上方且つ給水ノズル38よりも下方に大気連通する開口部等を設けることにより、この開口部の下縁(補助タンク42内の上限水位に相当)とその上方の給水ノズル38の吐水口の下端との間に空間(エアギャップ)を設けた形態を採用することがある。
このような空間(エアギャップ)を設けた形態を採用した場合、オーバーフロー口42bが便器本体2のリム部12の上面12aよりも下方に設定されていると、便器本体2側で排水不良等の詰まりが発生した場合、便器本体2のボウル部14からの漏水よりも先に空間(エアギャップ)から漏水(機外漏水)するおそれがあるという問題がある。
また、貯水タンク4内の洗浄水のオーバーフロー水位WL1が、局部洗浄装置62における外郭部62aの上端62bの位置P3よりも高い位置に設定されている場合、便器本体2側で詰まりが発生すると、便器本体2側が満水となり、便器本体2内の洗浄水がリム部12の上面12aから溢れるため、使用者は便器本体2側の漏水に気づくことができるが、このような漏水が局部洗浄装置62の外郭部62aの上端62bを超えるようになると、局部洗浄装置62の外郭部62aの上端62bよりも上方のスペースに窓や飾り棚等を設置することができなくなる可能性がある。
そこで、本実施形態による水洗大便器1においては、貯水タンク4内の洗浄水のオーバーフロー水位WL1が便器本体2におけるリム部12の上面12aの高さ位置P2よりも高い位置に設定され、かつ、局部洗浄装置62における外郭部62aの上端62bの高さ位置P3よりも低い位置に設定されている。
これにより、便器本体2側で詰まりが発生して便器本体2内の洗浄水がリム部12の上面12aから溢れた場合には、使用者が便器本体2側の漏水に気づくことができると共に、局部洗浄装置62の外郭部62aの上端62bよりも上方のスペースに窓や飾り棚等を設置することができる。
【0038】
さらに、本実施形態による水洗大便器1によれば、この水洗大便器1が便器本体2の後方に位置する壁Wの裏側又はキャビネットC内に配置され且つ便器本体2及びタンク装置6を固定する固定装置Sを有する壁掛式の水洗大便器であり、便器本体2の排水流路(排水トラップ部16)の下流側が壁Wの裏側又はキャビネットC内に差し向けられており、貯水タンク4が排水流路(排水トラップ部16及び排水管20)よりも上方に配置されている。
したがって、万一、タンク装置6の故障が発生した場合であっても、固定装置Sにより固定された便器本体2及びその排水流路(排水管20)をそのまま維持した状態(固定状態)で、壁Wの裏側又はキャビネットC内のタンク装置6のみを単独で取り替えることができる。
【0039】
また、本実施形態による水洗大便器1によれば、貯水タンク4と便器本体2とを接続し且つ貯水タンク4からオーバーフローした洗浄水を通水させるタンク装置6のオーバーフロー経路(オーバーフロー管44)により、貯水タンク4からオーバーフローした洗浄水をオーバーフロー管44の入口部44aから便器本体2のスカート部18の後方開口部18bを経由してオーバーフロー管44の出口部44bから便器本体2まで通水させることができる。
さらに、オーバーフロー経路を形成するオーバーフロー管44を便器本体2のスカート部18の後壁部18aにおける後方開口部18bを経由させることにより、貯水タンク4からオーバーフローした洗浄水が壁Wの表側又はキャビネットCの前方の便器本体2のボウル部14(使用者側)に通水するため、使用者が異常を検知しやすくすることができる。
さらに、万一、便器本体2側で排水不良等の詰まりが発生した場合であっても、最終的に漏水する箇所が便器本体2のボウル部14であれば、使用者が清掃することができるため、漏水による水洗大便器1周辺の家財の腐食等を防止することができる。
一方、仮に、オーバーフロー経路を形成するオーバーフロー管44について、その下流端(出口部44b)を壁Wの裏側又はキャビネットC内の排水流路等に接続する等、壁Wの裏側又はキャビネットC内のみで完結するように設けてしまうと、漏水が発生した際には、壁Wの裏側又はキャビネットC内を清掃することができないため、そのまま壁W内の木材等が腐食してしまうことになるという問題がある。
さらに、仮に、壁Wの裏側又はキャビネットC内のみで完結するようにオーバーフロー経路(オーバーフロー管44)を設けてしまうと、貯水タンク4の容量が確保できなくなってしまうという問題がある。
これらの問題に対し、本実施形態では、タンク装置6のオーバーフロー経路(オーバーフロー管44)が、貯水タンク4からオーバーフローした洗浄水を上流端(入口部44a)から便器本体2の便器側開口部(スカート部18の後方開口部18b)を経由して下流端(出口部44b)から便器本体2まで通水させることができるため、貯水タンク4の容量を確保することができると共に、水洗大便器1の周辺スペースにおけるレイアウトの自由度を高めることができる。
【0040】
さらに、本実施形態による水洗大便器1によれば、便器本体2及び局部洗浄装置62の後方に配置された壁W又はキャビネットCの前壁Wには、点検用開口部64が設けられており、通水部材(通水管54)又はオーバーフロー経路(オーバーフロー管44)が点検用開口部64を経由するように配置されている。
これにより、便器本体2の後方の壁Wの裏側又はキャビネットC内のタンク装置6の関連機器等をメンテナンスする際、或いは、便器本体2側のポンプ装置8や局部洗浄装置62の一部(小部品等)をメンテナンスする際にも、壁W又はキャビネットCを破壊することなく、点検用開口部64から容易にアクセスすることができるため、メンテナンス性を向上させることができる。
【0041】
なお、上述した本発明の一実施形態による水洗大便器1においては、便器本体2の後部がトイレ室Tの壁W(又はキャビネットCの前壁W)に固定されると共に、床面Fよりも上方に配置された、いわゆる、「壁掛け式の水洗大便器」の形態について説明したが、このような形態に限られず、便器本体2が床面F上に配置された、いわゆる、「床置き式の水洗大便器」の形態についても適用可能である。
また、本実施形態の水洗大便器1においては、ポンプ装置8の加圧によりタンク装置6の貯水タンク4から便器本体2に供給された洗浄水が各リム吐水口2d,2eのみからボウル部14内に吐水され、いわゆる、リム吐水100%による便器洗浄が行われる形態について説明した。
このようなリム吐水100%による便器洗浄を行う形態では、静音化を実現することができるが、特に、静音化を優先しなくてもよい場合には、他の形態でも適用可能である。
例えば、他の形態として、便器本体2のリム吐水口2d,2eのいずれか一方のリム吐水口を採用する共に、ボウル部の下方かつ前方から排水トラップ部の入口部に向けて噴射するゼット口を採用してもよい。
この場合、ポンプ装置8の下流側の通水路を切り替える切替弁を便器本体2の一部に設け、この切替弁がポンプ装置8の下流側の通水路について、リム吐水口の上流側のリム導水路に連通させるように切り替えるか、或いは、ゼット吐水口の上流側のゼット導水路に連通させるように切り替えるようにしてもよい。
これにより、リム吐水口によるリム吐水とゼット吐水口によるゼット吐水とを併用して便器洗浄を行うことができ、リム吐水100%による便器洗浄に比べて、節水性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 本発明の一実施形態による水洗大便器
2 便器本体
2a 主導水路
2b 第1リム導水路
2c 第2リム導水路
2d 第1リム吐水口
2e 第2リム吐水口
4 貯水タンク
6 タンク装置
8 ポンプ装置
10 汚物受け面
12 リム部
12a リム部の上面
14 ボウル部
16 排水トラップ部(排水流路)
16a 排水トラップ部の入口部
16b 排水トラップ部の最下端部
16c 排水トラップ部の出口部
18 スカート部
18a スカート部の後壁部
18b スカート部の後方開口部(便器側開口部)
20 排水管
20a 排水管の入口部
22 排水ソケット
24 給水管
26 給水源
28 止水栓
30 バルブユニット
32 定流量弁
34 ダイヤフラム弁
36 電磁弁
38 給水ノズル(給水部)
40 主タンク
40a 主タンクの上側開口部
40b 供給口
40c 主タンクの最下端
42 補助タンク
42a 補助タンクの下側開口部
42b オーバーフロー口
44 オーバーフロー管(オーバーフロー経路)
44a オーバーフロー管の入口部(オーバーフロー経路の上流端)
44b オーバーフロー管の出口部(オーバーフロー経路の下流端)
46 逆止弁
48 ポンプ本体部
50 吸引管
52 吐水管
54 通水管(通水部材)
56 可撓性ホース
58 コントローラ(制御装置)
60 フロートスイッチ
62 局部洗浄装置
62a 局部洗浄装置の外郭部
62b 局部洗浄装置の外郭部の上端
64 点検用開口部
B ボルト
C キャビネット
F 床面
N ナット
P1 貯水タンクにおける主タンクの最下端の高さ位置(貯水タンクの下端位置)
P2 便器本体におけるリム部の上面の高さ位置
P3 局部洗浄装置における外郭部の上端の高さ位置
S 固定装置
S1 縦フレーム部材(フレーム部)
S2 横フレーム部材(フレーム部)
T トイレ室
W トイレ室の壁又はキャビネットの前壁
WL1 貯水タンクのオーバーフロー水位
WL2 貯水タンクの主タンクの満水水位
図1
図2
図3
図4
図5