(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050228
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】表面状態判定装置、表面状態判定方法、及び表面状態判定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20240403BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
B23K31/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156954
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】椛島 治樹
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA07
2G051AB20
2G051AC19
2G051BA04
2G051BB15
2G051CA03
2G051CA04
2G051CB01
(57)【要約】
【課題】 溶接時の周辺部材に付着した凹凸を伴うスパッタの数をより正確に特定することができる。
【解決手段】 表面状態判定装置は、対象物の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長の照射光を照射する光源部と、照射光の照射に伴って対象物により反射される反射光を撮像する撮像部と、反射光の画像を含む画像情報を撮像部から取得する処理部と、を備える表面状態判定装置であって、処理部は、画像情報より反射光の反射率が所定量以下の低反射領域の有無を判定する判定部と、低反射領域が存在する場合、低反射領域の対象物における位置を特定する特定部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長の照射光を照射する光源部と、
前記照射光の照射に伴って前記対象物により反射される反射光を撮像する撮像部と、
前記反射光の画像を含む画像情報を前記撮像部から取得する処理部と、
を備える表面状態判定装置であって、
前記処理部は、
前記画像情報より前記反射光の反射率が所定量以下の低反射領域の有無を判定する判定部と、
前記低反射領域が存在する場合、前記低反射領域の前記対象物における位置を特定する特定部と、
を備えることを特徴とする表面状態判定装置。
【請求項2】
前記処理部は、
前記光源部が照射する照射光の波長を決定する波長決定部を備えることを特徴とする請求項1に記載の表面状態判定装置。
【請求項3】
前記対象物に対する溶接はアーク溶接であって、前記低反射領域はアーク溶接後に前記対象物の表面に生じたスパッタに起因することを特徴とする請求項1に記載の表面状態判定装置。
【請求項4】
前記判定部における前記低反射領域の有無の判定に際し、前記反射光の反射率に閾値が設定されることを特徴とする請求項1に記載の表面状態判定装置。
【請求項5】
前記判定部における前記低反射領域の有無の判定に際し、前記画像情報をグレースケールに変換する処理が行われることを特徴とする請求項1に記載の表面状態判定装置。
【請求項6】
前記撮像部は、ロボットに装着されている請求項1に記載の表面状態判定装置。
【請求項7】
前記ロボットは多関節ロボットであって、前記低反射領域を除去する際に、前記多関節ロボットの所定位置に装着されている前記撮像部に替えて爪部が装着されることを特徴とする請求項6に記載の表面状態判定装置。
【請求項8】
前記処理部は、
前記多関節ロボットにおける前記撮像部及び前記爪部の動作を制御する動作制御部を備えることを特徴とする請求項7に記載の表面状態判定装置。
【請求項9】
対象物の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長の照射光を照射する光源部と、
前記照射光の照射に伴って前記対象物により反射される反射光を撮像する撮像部と、
前記反射光の画像を含む画像情報を前記撮像部から取得する処理部と、
を備える表面状態判定装置における表面状態判定方法であって、
前記処理部が、
前記画像情報より前記反射光の反射率が所定量以下の低反射領域の有無を判定する判定ステップと、
前記低反射領域が存在する場合、前記低反射領域の前記対象物における位置を特定する特定ステップと、
を実行することを特徴とする表面状態判定方法。
【請求項10】
対象物の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長の照射光を照射する光源部と、
前記照射光の照射に伴って前記対象物により反射される反射光を撮像する撮像部と、
前記反射光の画像を含む画像情報を前記撮像部から取得する処理部と、
を備える表面状態判定装置における表面状態判定プログラムであって、
前記処理部に、
前記画像情報より前記反射光の反射率が所定量以下の低反射領域の有無を判定する判定機能と、
前記低反射領域が存在する場合、前記低反射領域の前記対象物における位置を特定する特定機能と、
を実現させることを特徴とする表面状態判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接時に生じたスパッタの溶接母材などの周辺部材の表面への付着の有無を判定する表面状態判定装置、表面状態判定方法、及び表面状態判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接、ガス溶接などの溶接時に発生するスパッタは、溶融金属の微粒子であり高温状態で飛散し溶接母材などの周辺部材に付着することがある。このようなスパッタは、周辺部材の表面に凹凸として残り、除去が困難な場合があり溶接製品の品質を低下させる。
【0003】
スパッタの除去作業にはスパッタの付着の有無の確認作業などがあり、昨今では自働化が進められている。例えば、アーク溶接時にワーク全体を含むスパッタの飛散領域全体の動画を撮影し、当該動画を分割して得る静止画の中のスパッタの数を特定することができるとする溶接条件設定支援装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方で、溶接時の周辺部材には、飛散したスパッタが付着しないまでも接触によって焦げて変色している部分、或いは、付着したスパッタを除去した後に残った焦げにより変色した部分もあり、これらの部分は周辺部材の表面に凹凸を生じさせないため、凹凸を伴うスパッタとは対処方法が異なる場合があった。
【0005】
従って、溶接時の周辺部材の表面に付着した痕跡が凹凸を伴うスパッタであるか、凹凸を伴わない単なる焦げにより変色している部分であるかの識別の正確性が求められていた。
【0006】
しかし、周辺部材の表面に付着したスパッタの有無を画像に基づいて判定する場合、凹凸を伴わない単に焦げた部分と、スパッタが付着して凹凸を伴う部分とを識別することは困難であった。例えば、特許文献1に開示の技術では、この点は考慮されておらず、凹凸を伴わない単に焦げた部分が凹凸を伴うスパッタとして計数され、凹凸を伴うスパッタの数を正確に特定することができないという懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本開示は、溶接時の周辺部材に付着した凹凸を伴うスパッタの数をより正確に特定することができる表面状態判定装置、表面状態判定方法、及び表面状態判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1の態様に係る表面状態判定装置は、対象物の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長の照射光を照射する光源部と、照射光の照射に伴って対象物により反射される反射光を撮像する撮像部と、反射光の画像を含む画像情報を撮像部から取得する処理部と、を備える表面状態判定装置であって、処理部は、画像情報より反射光の反射率が所定量以下の低反射領域の有無を判定する判定部と、低反射領域が存在する場合、低反射領域の対象物における位置を特定する特定部と、を備える。
【0010】
第2の態様は、第1の態様に係る表面状態判定装置において、処理部は、光源部が照射する照射光の波長を決定する波長決定部を備えることとしてもよい。
【0011】
第3の態様は、第1の態様に係る表面状態判定装置において、対象物に対する溶接はアーク溶接であって、低反射領域はアーク溶接後に対象物の表面に生じたスパッタに起因することとしてもよい。
【0012】
第4の態様は、第1の態様に係る表面状態判定装置において、判定部における低反射領域の有無の判定に際し、反射光の反射率に閾値が設定されることとしてもよい。
【0013】
第5の態様は、第1の態様に係る表面状態判定装置において、判定部における低反射領域の有無の判定に際し、画像情報をグレースケールに変換する処理が行われることとしてもよい。
【0014】
第6の態様は、第1の態様に係る表面状態判定装置において、撮像部は、ロボットに装着されていることとしてもよい。
【0015】
第7の態様は、第6の態様に係る表面状態判定装置において、ロボットは多関節ロボットであって、低反射領域を除去する際に、多関節ロボットの所定位置に装着されている撮像部に替えて爪部が装着されることとしてもよい。
【0016】
第8の態様は、第7の態様に係る表面状態判定装置において、処理部は、多関節ロボットにおける撮像部及び爪部の動作を制御する動作制御部を備えることとしてもよい。
【0017】
第9の態様に係る表面状態判定方法は、対象物の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長の照射光を照射する光源部と、照射光の照射に伴って対象物により反射される反射光を撮像する撮像部と、反射光の画像を含む画像情報を撮像部から取得する処理部と、を備える表面状態判定装置における表面状態判定方法であって、処理部が、画像情報より反射光の反射率が所定量以下の低反射領域の有無を判定する判定ステップと、低反射領域が存在する場合、低反射領域の対象物における位置を特定する特定ステップと、を実行する。
【0018】
第10の態様に係る表面状態判定プログラムは、対象物の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長の照射光を照射する光源部と、照射光の照射に伴って対象物により反射される反射光を撮像する撮像部と、反射光の画像を含む画像情報を撮像部から取得する処理部と、を備える表面状態判定装置における表面状態判定プログラムであって、処理部に、画像情報より反射光の反射率が所定量以下の低反射領域の有無を判定する判定機能と、低反射領域が存在する場合、低反射領域の対象物における位置を特定する特定機能と、を実現させる。
【発明の効果】
【0019】
本開示に係る表面状態判定装置等は、対象物の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長の照射光を照射する光源部と、照射光の照射に伴って対象物により反射される反射光を撮像する撮像部と、反射光の画像を含む画像情報を撮像部から取得する処理部と、を備える表面状態判定装置であって、処理部は、画像情報より反射光の反射率が所定量以下の低反射領域の有無を判定する判定部と、低反射領域が存在する場合、低反射領域の対象物における位置を特定する特定部と、を備えるので、溶接時の周辺部材に付着した凹凸を伴うスパッタの数をより正確に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る表面状態判定装置の対象物について説明するための図である。
【
図2】本実施形態に係る表面状態判定装置の概要について説明するための図である。
【
図3】本実施形態に係る表面状態判定装置の機能を説明するためのブロック図である。
【
図4】本実施形態に係る表面状態判定装置の対象物の表面状態を判定する原理について説明するための図である。
【
図5】本実施形態に係る表面状態判定装置の対象物の表面状態を判定する原理について説明するための図である。
【
図6】本実施形態に係る表面状態判定装置の対象物の表面状態を判定する原理について説明するための図である。
【
図7】本実施形態に係る表面状態判定装置の照射光の波長と相対反射率の相関関係を示すグラフである。
【
図8】本実施形態に係る表面状態判定装置の対象物を各種波長で撮像した画像情報のサンプルである。
【
図9】本実施形態に係る低反射領域について説明するための図である。
【
図10】本実施形態に係る画像情報における低反射領域の一例を示す図である。
【
図11】本実施形態に係るロボットの動作を説明するための図である。
【
図12】本実施形態に係る表面状態判定プログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(表面状態判定装置10の判定の対象物1)
図1を参照して表面状態判定装置10の判定の対象物1について説明する。
図1は本実施形態に係る表面状態判定装置10の対象物1について説明するための図である。
【0022】
対象物1は、溶接母材1aに溶接部材1bをアーク溶接、ガス溶接などの溶接により溶接して形成されたものである。スパッタ3は溶接時に溶融された金属の微粒子であり飛散する(
図1(a)参照)。溶接母材1aの表面に飛来したスパッタ3は、冷却とともに溶接母材1aの表面に付着する。特に経験上、溶接によって生じるビード2付近にスパッタ3が付着することが分かっている(
図1(b)参照)。溶接後の工程において、スパッタ3が付着した溶接母材1aなどの周辺部材の表面に他部品4を取り付ける際、スパッタ3の凹凸が干渉し精度よく周辺部材に取り付けられない等の問題が生じる(
図1(c)参照)。このような問題を解消するために、表面状態判定装置10は凹凸を伴うスパッタ3が周辺部材の表面に有るか否かの判定を行う。
【0023】
(表面状態判定装置10の概要)
図2を参照して本実施形態に係る表面状態判定装置10の概要について説明する。
図2は本実施形態に係る表面状態判定装置10の概要について説明するための図である。
表面状態判定装置10は、
図2に示す様に、本体9、キーボード16、ディスプレイ17、マウス18、ツールチェンジボックス19、光源部25、ロボット26、撮像部27、及び爪部28などを備える。ロボット26は、有線若しくは無線により表面状態判定装置10に接続され、表面状態判定装置10により操作などの制御が行われる。
【0024】
本体9は、パーソナルコンピュータ(以下、PC)、ノートPC、タブレットPCなどに代表される情報処理装置であり、汎用の情報処理装置に後述する表面状態判定プログラムを追加して使用可能にすることができる。また、本体9は、表面状態判定プログラムを実行可能とし表面状態判定装置10の機能に特化した専用の情報処理装置としてもよい。
撮像部27は、ロボット26に装着されている。
【0025】
ロボット26は多関節ロボットであって、後述の低反射領域31(前出のスパッタ3)を除去する際に、多関節ロボットの所定位置に装着されている撮像部27に替えて爪部28が装着される(
図11参照)。
【0026】
なお、ロボット26は、多関節ロボットに限定されるものではなく、パラレルリンクロボット、スカラロボット、及び直交ロボットを含む各種産業用ロボットを用いてもよい。
【0027】
ロボット26の先端部29は、撮像部27と爪部28とが択一的に装着される。撮像部27と爪部28とはツールチェンジボックス19に載置されており、ロボット26はツールチェンジボックス19に先端部29を移動させ、撮像部27及び爪部28の何れか一方を選択して先端部29に装着する。
【0028】
ロボット26は、先端部29に撮像部27と爪部28の何れか一方を装着しており他方に換装する場合、先端部29をツールチェンジボックス19の所定位置に移動させて行う。むろん、先端部29に撮像部27と爪部28の両方が常時装着されていても良い。
【0029】
光源部25は、所定の波長の照射光6を対象物1に対して照射する。照射光6の波長は、後述の波長決定部21により決定される。
光源部25は、対象物1の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長の照射光6を照射する。
【0030】
撮像部27は、照射光6の照射に伴って対象物1により反射される反射光7を撮像する。
対象物1に対する溶接はアーク溶接であって、低反射領域31はアーク溶接後に対象物1の表面に生じたスパッタに起因する。
【0031】
(表面状態判定装置10の機能)
図3を参照して、本実施形態に係る表面状態判定装置10の機能について説明する。
図3は本実施形態に係る表面状態判定装置10の機能を説明するためのブロック図である。
【0032】
表面状態判定装置10は、
図3に示す様に、本体9、処理部11、Read Only Memory(ROM)12、Random Access Memory(RAM)13、記憶部14、入出力インターフェース15等を備えて構成されている。また、処理部11、ROM12、RAM13、記憶部14、入出力インターフェース15等は、バス20によって相互に接続され、データの双方向の伝送を可能にしている。
【0033】
処理部11は、Central Processing Unit(CPU)などで構成され、後述の表面状態判定プログラムを実行することで、内蔵する構成部位の機能を制御し、構成部位のそれぞれの機能を実現させる。
【0034】
ROM12及び記憶部14は、記憶装置として利用でき、表面状態判定プログラム、及び表面状態判定プログラムを利用するための各種データ並びにアプリケーションなどが記憶される。
【0035】
表面状態判定装置10は、表面状態判定プログラムをROM12若しくは記憶部14に保存し、RAM13などで構成されるメインメモリに表面状態判定プログラムを取り込む。そして、処理部11は、表面状態判定プログラムを取り込んだメインメモリにアクセスして、表面状態判定プログラムを実行する。
表面状態判定装置10は、入出力インターフェース15を介してキーボード16、ディスプレイ17、マウス18、光源部25、ロボット26、撮像部27、爪部28などに接続される。
【0036】
光源部25は、波長可変光源を用い、照射光6の波長を1nmごとに変えることができる。光源部25の照射光の波長を変化させる方式としては、固定波長の光源の光から回折格子を用いて特定の波長の光のみを照射光として出力する方式、若しくは光源の光そのものの波長を変化させる方式があるが、何れの方式を用いてもよい。
【0037】
撮像部27は、光源部25から照射された照射光6の対象物1の表面からの反射光7を撮像する。撮像部27はRGBカメラであり、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなどの撮像素子を用いて、光を電気信号に変換しデータを取得する。
爪部28は、対象物1の表面に付着したスパッタ3を削り、こそげとる刃状、へら状の器具のことを言い、ロボット26の先端部29に装着して用いられる。
【0038】
処理部11は、反射光7の画像を含む画像情報を撮像部27から取得する。
反射光7の画像とは、照射光6が対象物1の表面において反射されて反射光7となり、当該反射光7を撮像部27で撮像して得た像のことである。
画像情報とは、撮像部27が撮像する度に得る画像データのことであり、当該画像データの中に対象物1の表面及び当該表面に写る反射光7の画像が含まれる。
【0039】
表面状態判定装置10は、波長決定部21、判定部22、特定部23、及び動作制御部24などを処理部11に備える。そして、表面状態判定装置10は表面状態判定プログラムを実行する。
波長決定部21は、光源部25が照射する照射光6の波長を決定する。
照射光6は、対象物1の溶接後の表面に、溶接に伴って変色した部分と変色しなかった部分とで反射率の差が少ない波長が選択される。
光源部25が照射する照射光6の波長の決定方法について
図4乃至
図7を参照して以下に説明する。波長決定部21は、当該決定方法に基づいて光源部25が照射する照射光6の波長を決定する。
【0040】
図4乃至
図6は、本実施形態に係る表面状態判定装置10の対象物1の表面状態を判定する原理について説明するための図である。
図7は、本実施形態に係る表面状態判定装置10の照射光6の波長と相対反射率の相関関係を示すグラフである。
図4に示す様に、ここでの説明に用いる対象物1の表面には凹凸を伴わない焦げ5が4か所と凹凸を伴うスパッタ3が2か所に存在している。撮像部27は、上方から対象物1の表面を撮像する。
【0041】
図5を参照して、光源部25から照射する照射光6の波長を適切に選んだ場合について説明する。
図5(a)の左側図は、適切に選択された波長の照射光6を対象物1に照射し、当該対象物1を撮像部27で撮像して得た分光画像であり、
図5(a)の右側図は、当該分光画像をグレースケール化したものである。
【0042】
図5(a)の左側図が示す様に、焦げ5の部分は見えなくなり、スパッタ3の部分のみ表示される。
図5(a)の左側図が示す様に焦げ5の部分が見えなくなるのは、
図5(b)に示す様に、焦げ5の無い部分(
図5(b)の(1))と焦げ5の部分(
図5(b)の(2))とでは適切に選択された波長の照射光6の反射率は同じであり(
図5(b)において100と表示する。この数値は反射率の相対的な値を示す。)、当該分光画像においてはどちらも違いが無く、焦げ5の部分がその周囲に同化するからである。
【0043】
図5(a)の左側図が示す様にスパッタ3の部分のみ表示されるのは、
図5(b)に示す様に、焦げ5の無い部分(
図5(b)の(1))及び焦げ5の有る部分(
図5(b)の(2))とスパッタ3の部分(
図5(b)の(3))とでは適切に選択された波長の照射光6の反射率は異なり、(
図5(b)において100と50とで表示する)、当該分光画像においてはスパッタ3の部分(
図5(b)の(3))のみ表示される。
【0044】
適切に選択された波長の照射光6は、対象物1の表面の焦げ5の有無などによる色味の違いによって照射光6の反射率は変化せず、対象物1の表面の凹凸の有無の違いによって照射光6の反射率が変化するという特性を有する。
【0045】
図5(a)の右側図は、
図5(a)の左側図の分光画像をグレースケール化した画像であり、照射光6の反射率の低いスパッタ3の付着した部分(
図5(b)の(3))が低反射領域31として黒く表示される。
【0046】
図6を参照して、光源部25から照射する照射光6の波長が不適切だった場合について説明する。
図6(a)の左側図は、不適切に選択された波長の照射光6を対象物1に照射し、当該対象物1を撮像部27で撮像して得た分光画像であり、
図6(a)の右側図は、当該分光画像をグレースケール化したものである。
【0047】
図6(a)の左側図が示す様に、焦げ5の部分及びスパッタ3の部分の両方が表示される。
図6(a)の左側図が示す様に、焦げ5の部分が見えるのは、
図6(b)に示す様に、焦げ5の無い部分(
図6(b)の(1))と焦げ5の部分(
図6(b)の(2))とでは不適切に選択された波長の照射光6の反射率は異なるため(
図6(b)において100と50とで表示する。この数値は反射率の相対的な値を示す。以下同様。)、当該分光画像においては焦げ5の部分(
図6(b)の(2))はその周囲に対して顕在化される。
【0048】
図6(a)の左側図が示す様にスパッタ3の部分が見えるのは、
図6(b)に示す様に、焦げ5の無い部分(
図6(b)の(1))とスパッタ3の部分(
図6(b)の(3))とでは不適切に選択された波長の照射光6の反射率は異なるため、(
図6(b)において100と50とで表示する)、当該分光画像においてはスパッタ3の部分(
図6(b)の(3))はその周囲に対して顕在化される。
従って、焦げ5の部分とスパッタ3の付着した部分とはその周囲に対して照射光6の反射率が異なるので顕在化される。
【0049】
さらに、焦げ5の部分とスパッタ3の付着した部分とは、照射光6の反射率が同程度(
図6の(b)において50と表示する)であるため、不適切に決定された波長の照射光6の対象物1における反射光7を撮像部27で撮像した分光画像をグレースケール化した場合、
図6(a)の右側図に示す様に焦げ5の部分とスパッタ3の付着した部分の白比(グレースケール化した場合の白色の割合)が同程度であるため、両者を識別することができない。
【0050】
次に
図7を参照して、光源部25から照射される照射光6の適切な波長について説明する。
図7のグラフは、対象物1に自然光又は蛍光灯などの通常の室内光を照射した状態の表面において、溶接により変色しなかった部分(グラフ線1:通常)、スパッタが付着した部分(グラフ線2、3:スパッタ)、及び、溶接により焼き色が付着した部分(グラフ線4:焼き色焦げ)のそれぞれにおける、反射光の波長ごとの相対反射率の測定結果である。相対反射率の測定はハイパースペクトルカメラを用いて行った。
図7のグラフの横軸は対象物1からの反射光の波長(nm)であり、
図7のグラフの縦軸は対象物1からの反射光の相対反射率である。
【0051】
図7のグラフに示す通り、対象物1に自然光又は室内光を照射した状態における表面からの反射光は、波長が長くなるほどグラフ線1~4の間の相対反射率の値の差が小さくなることが分かり、当該反射光の波長が950nmの時にグラフ線1~4の間の相対反射率の値の差(矢印30)が最も小さくなることが分かった。この測定結果から光源部25から照射される照射光の波長は950nmと決定される。
【0052】
次に
図8を参照して、対象物1に自然光又は室内光を照射した状態における表面からの反射光の所定波長の分光画像を示す。
図8の(a)~(e)の画像は、自然光又は室内光を照射した状態における対象物1の反射光から各種波長の反射光を抽出して得た分光画像をグレースケール化した画像であり、
図8(a)は540nmの波長の反射光、
図8(b)は700nmの波長の反射光、
図8(c)は780nmの波長の反射光、
図8(d)は850nmの波長の反射光、
図8(e)は950nmの波長の反射光である。
【0053】
図8の各波長の分光画像から分かるように、反射光の波長が長くなるにつれて、対象物1の表面に付着した色味は薄れていき、対象物1の形状に起因する白黒の濃淡のみになることが分かる。従って、波長の長い照射光は、対象物1の表面の色味に起因して反射率が変化することは少なく、対象物1の表面形状に起因して反射率が変化することが分かる。
波長決定部21は、対象物1の表面の色味には反応せず、対象物1の表面形状にのみ起因して反射率が変化する波長を選択し決定する。
具体的には、波長決定部21は、以下の手順により光源部25から照射する照射光の波長を決定する。
【0054】
第1に波長決定部21は、自然光又は室内光を照射した状態における対象物1の表面をハイパースペクトルカメラによって撮像した画像を取得する。なお、撮像部27にハイパースペクトルカメラを採用した場合は、撮像部27が自然光又は室内光を照射した状態における対象物1の表面を撮像し、波長決定部21は撮像部27から画像を取得してもよい。
第2に波長決定部21は、第1で取得した画像を分光解析することで波長ごとの分光画像を取得する。
第3に波長決定部21は、第2で取得した分光画像をグレースケール化し分光画像のグレースケール画像を取得する。
【0055】
第4に波長決定部21は、第3で取得した波長ごとのグレースケール画像における、溶接により変色しなかった部分(グラフ線1:通常)、スパッタが付着した部分(グラフ線2、3:スパッタ)、及び、溶接により焼き色が付着した部分(グラフ線4:焼き色焦げ)のそれぞれの相対反射率を測定する。
【0056】
第5に波長決定部21は、第4で測定した波長ごとの相対反射率において、変色しなかった部分(グラフ線1:通常)、スパッタが付着した部分(グラフ線2、3:スパッタ)、及び、溶接により焼き色が付着した部分(グラフ線4:焼き色焦げ)のそれぞれの相対反射率の間の差が最も小さい波長を選択し、光源部25が照射する照射光の波長として決定する。
【0057】
判定部22は、画像情報より反射光の反射率が所定量以下の低反射領域31の有無を判定する。
本実施形態において、反射光の反射率は相対反射率を採用する。なお、反射光の反射率は、相対反射率に替えてグレースケール化した画像における白比(グレースケール化した場合の白色の割合)の大きさによって表してもよい。白比は0から255の整数によって表され、数値が大きいほど反射率が高いことを示す。
判定部22における低反射領域31の有無の判定に際し、反射光の反射率に閾値が設定される。閾値は本開示の実施者などの試行錯誤により予め設定される。
判定部22における低反射領域31の有無の判定に際し、画像情報をグレースケールに変換する処理が行われる。
【0058】
判定部22は、撮像部27が撮像した反射光の画像を含む画像情報をグレースケール化して得られたグレースケール画像に基づいて低反射領域31の有無が判定される。
【0059】
本実施形態において、反射光の反射率の閾値は相対反射率によって設定される。なお、反射光の反射率の閾値は、相対反射率に替えてグレースケール化した画像における白比(グレースケール化した場合の白色の割合)の大きさによって表してもよい。
【0060】
特定部23は、低反射領域31が存在する場合、低反射領域31の対象物1における位置を特定する。
本実施形態では、特定部23は、判定部22が低反射領域31が有ると判定した場合に、対象物1の表面をxとyとの2次元の直交座標系によって低反射領域31の位置を特定する。
【0061】
図9を参照して、判定部22及び特定部23の機能について説明する。
図9は本実施形態に係る低反射領域31について説明するための図である。
図9のグラフの横軸は撮像部27が撮像した反射光の画像を含む画像情報をグレースケール化したグレースケール画像の位置を表し単位はピクセルである。
図9のグラフの縦軸は相対反射率を表す。
【0062】
図9に示す様に、低反射領域31はグレースケール画像の位置ごとの相対反射率が閾値より下回った範囲(グラフ中のNGとして示される領域)のことをいう。判定部22は低反射領域31が1か所でもある場合に低反射領域31が有ると判定し、低反射領域31が一つもない場合に低反射領域31が無いと判定する。
【0063】
特定部23は、
図9に示す様に、グレースケール画像の位置ごとの相対反射率が閾値より下回った範囲を特定する。
図9のグラフの横軸は、対象物1の表面を2次元の直交座標系によって表した場合の1軸(x軸又はy軸の何れか一方)を表している。特定部23は、対象物1の表面を2次元の直交座標系によって表した場合の2軸(すなわちx軸とy軸)のそれぞれを横軸とする
図9のグラフを用いて対象物1における低反射領域31の位置を特定する。従って、本実施形態に係る低反射領域31は、その範囲を2次元の直交座標系によって表される。低反射領域31は対象物1の表面に付着したスパッタ3に相当するため、特定部23は低反射領域31の範囲を特定することでスパッタ3の対象物1の表面における範囲を特定するものである。
【0064】
図10を参照して、画像情報における低反射領域31について説明する。
図10は本実施形態に係る画像情報における低反射領域の一例を示す。
図10に示す輪郭33は、撮像部27が撮像した反射光の画像を含む画像情報をグレースケール化したグレースケール画像における相対反射率の閾値に相当し、輪郭33の内側が低反射領域31となり対象物1の表面に付着した凹凸を伴うスパッタ3に相当する。
【0065】
動作制御部24は、多関節ロボット26における撮像部27及び爪部28の動作を制御する。
動作制御部24は、特定部23によって特定された低反射領域31の対象物1における位置を通る移動経路32に沿ってロボット26の先端部29に装着された爪部28を移動させる。爪部28は、ロボット26によって移動経路32を移動する途中で凹凸を伴うスパッタ3を除去する。
【0066】
図11を参照して多関節ロボット26の動作について説明する。
図11は本実施形態に係るロボット26の動作を説明するための図である。
先ず
図11(a)を参照して、表面状態判定装置10の対象物1の表面状態の判定時のロボット26の動作について説明する。ロボット26は先端部29に撮像部27を装着して対象物1の表面を撮像し、取得した画像に基づいて凹凸を伴うスパッタ3の有無を判定する。
【0067】
次に
図11(b)を参照して、ロボット26のスパッタ3の除去時の動作について説明する。ロボット26は、動作制御部24の制御指令に基づき、撮像部27に替えてツールチェンジボックス19に有る爪部28を装着する、いわゆるツールチェンジを行う。ロボット26の先端部29から着脱された撮像部27は爪部28の代わりにツールチェンジボックス19に載置される。ロボット26は、動作制御部24の制御に基づき、爪部28を移動経路32に沿って移動させて凹凸を伴うスパッタ3を除去する。
【0068】
次に
図11(c)を参照して、スパッタ3の除去後の確認動作について説明する。ロボット26は、動作制御部24の制御指令に基づき、爪部28に替えてツールチェンジボックス19に有る撮像部27を装着する。ロボット26の先端部29から着脱された爪部28は撮像部27の代わりにツールチェンジボックス19に載置される。ロボット26は、動作制御部24の制御に基づき、撮像部27を用いてスパッタ3の除去後の対象物1の表面を撮像し、再度、凹凸を伴うスパッタ3の有無の判定を行う。
【0069】
次に
図12を参照して、本実施形態の表面状態判定装置10における表面状態判定方法について、表面状態判定装置10によって実行される表面状態判定プログラムとともに説明する。
図12は本実施形態に係る表面状態判定プログラムのフローチャートである。表面状態判定プログラムは、波長決定ステップS21、判定ステップS22、特定ステップS23、及び動作制御ステップS24などを含む。
【0070】
表面状態判定プログラムは、RAM13などで構成されるメインメモリに取り込まれて、当該メインメモリにアクセスする処理部11によって実行される。表面状態判定プログラムは、処理部11に対して、波長決定機能、判定機能、特定機能、及び動作制御機能など実現させる。
【0071】
これらの機能は
図12に示す順序で処理を行う場合を例示したが、これに限らず、これらの順番を適宜入れ替えて表面状態判定プログラムを実行しても良い。なお、上記した各機能は、前述の表面状態判定装置10の波長決定部21、判定部22、特定部23、及び動作制御部24の説明と重複するため、その詳細な説明は省略する。
波長決定機能は、光源部25が照射する照射光6の波長を決定する(S21:波長決定ステップ)。
判定機能は、画像情報より反射光7の反射率が所定量以下の低反射領域31の有無を判定する(S22:判定ステップ)。
特定機能は、低反射領域31が存在する場合、低反射領域31の対象物1における位置を特定する(S23:特定ステップ)。
動作制御機能は、多関節ロボット26における撮像部27及び爪部28の動作を制御する(S24:動作制御ステップ)。
【0072】
上記した本実施形態によれば、表面状態判定装置10は、凹凸を伴わない焦げ5の部分を、凹凸を伴うスパッタ3が付着した部分として誤認することが無いので、凹凸を伴うスパッタ3の有無をより正確に判定することができ、さらには凹凸を伴うスパッタ3の位置をより正確に特定することができる。
【0073】
さらに、上記した本実施形態によれば、表面状態判定装置10は、ロボット26を用いて凹凸を伴うスパッタ3を除去することができるので、作業員が手作業でスパッタ3を除去する場合と比較してより安全に作業を行うことができる。
【0074】
さらに、上記した本実施形態によれば、ロボット26は、ツールチェンジにより先端部29に装着する撮像部27と爪部28とを使い分けるので、ロボット26に求められる機能を抑えることができ経済性を優位にすることができる。
【0075】
本開示は上記した実施形態に係る表面状態判定装置10、表面状態判定方法、及び表面状態判定プログラムに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の変形例、若しくは応用例により実施可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 対象物
1a 溶接母材
1b 溶接部材
2 ビード
3 スパッタ
4 他部品
5 焦げ
6 照射光
7 反射光
8 拡散光
9 本体
10 表面状態判定装置
11 処理部
12 ROM
13 RAM
14 記憶部
15 入出力インターフェース
16 キーボード
17 ディスプレイ
18 マウス
19 ツールチェンジボックス
20 バス
21 波長決定部
22 判定部
23 特定部
24 動作制御部
25 光源部
26 ロボット
27 撮像部
28 爪部
29 先端部
30 矢印
31 低反射領域
32 移動経路
33 輪郭