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特開2024-50246トリアルキルアルミニウム含有残渣の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050246
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】トリアルキルアルミニウム含有残渣の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/06 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
C07F5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156986
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】橋元 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雄太
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AB40
4H048AB84
4H048AC90
4H048AD11
4H048BB11
4H048BC51
4H048BC52
4H048BE21
4H048VA80
(57)【要約】
【課題】トリアルキルアルミニウムの生成反応における、トリアルキルアルミニウムの蒸留回収後に発生する残渣の処理方法の提供。
【解決手段】本発明は、トリアルキルアルミニウムの製造方法において発生したトリアルキルアルミニウム含有残渣を安全に取り扱えるようにする処理方法であって、前記残渣を減圧蒸留に付し、含有するトリアルキルアルミニウムを留去する工程を含む方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアルキルアルミニウムの製造方法において発生したトリアルキルアルミニウム含有残渣を処理する方法であって、前記残渣を減圧蒸留に付し、含有するトリアルキルアルミニウムを留去する工程を含む方法。
【請求項2】
前記減圧蒸留を0.5~3kPaAの真空度で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記減圧蒸留を60~160℃の内温で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記減圧蒸留を、留去する成分がなくなる時点を起点にさらに30分~3時間実施し続ける、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
トリアルキルアルミニウムの製造方法が、アルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金とハロゲン化アルキルとを有機溶媒中で反応させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が炭化水素溶媒である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記炭化水素溶媒が炭素数5~18の飽和炭化水素溶媒及び炭素数6~12の芳香族炭化水素溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒がn-ドデカンである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアルキルアルミニウムの生成反応後に発生する残渣の処理方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルキルアルミニウムは、代表的なルイス酸として工業的利用価値が高く、プラスチックや合成ゴムなどの重合助触媒として利用されている。近年では、電子材料分野の高度成長に伴い、半導体の絶縁膜や化合物半導体の原料としても使用されている。一般的にアルキルアルミニウムは取扱いが非常に危険な物質であり、空気に触れると自然発火し、水に接触すると爆発的に反応することが知られる。アルキルアルミニウムの中でも、特にトリメチルアルミニウム(TMAL)は反応性が極めて高いことから、安全に取り扱いができ、かつ製造できる方法が望まれている。
【0003】
トリアルキルアルミニウムを簡便に得る方法として、アルミニウム粉末とハロゲン化アルキル(例:塩化メチル、臭化メチル)を反応させて得られるアルキルアルミニウムセスキハライド(Me3Al23、X=Cl, Br)をアルカリ金属またはアルカリ土類金属により還元することで得ることができる(非特許文献1)。その他の方法として、アルミニウムを含む合金とハロゲン化アルキルを触媒存在下有機溶媒中で反応させることでも得ることができる(特許文献1、特許文献2)。これら反応で生成したトリアルキルアルミニウムは一般的に減圧蒸留にて分離回収がなされてきた。蒸留後の釜残残渣には回収できなかったトリアルキルアルミニウム、未反応のアルミニウムまたはアルミニウムを含む合金、無機塩(アルカリ金属またはアルカリ土類金属とハロゲンからなる塩)、反応に使用した有機溶剤からなるスラリーが残存する。このスラリーには、トリアルキルアルミニウムを含むため無害化処理を含めた適切な処置が必要となる。
【0004】
一般的にトリアルキルアルミニウムなどのアルキルアルミニウムを蒸留回収した後の残渣の処理方法として、ろ過をする方法が知られている(特許文献3、特許文献4)。上述のとおり、残渣にはアルキルアルミニウムが少なからず残存することから、不活性ガス雰囲気下で行う必要があり、密閉性の高い特殊で高価なろ過器を使用する必要がある。また、アルキルアルミニウムは空気に触れるだけで自然発火するため、ろ過器のメンテナンス、トラブル対応時の操作が煩雑になりやすく、作業員への負荷も大きいことが挙げられる。
【0005】
従って、トリアルキルアルミニウムの製造方法において、トリアルキルアルミニウムを蒸留回収した後に得られる残渣を安全かつ効率的に処理する方法の出現が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09-136890号公報
【特許文献2】特開2018-135300号公報
【特許文献3】特開2010-116339号公報
【特許文献4】特開2011-84507号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. V. Grosse, et.al., J. Org. Chem., 05, 2.106-121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、トリアルキルアルミニウムの製造方法において、トリアルキルアルミニウムを蒸留回収した後に発生する蒸留残渣の新規の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため、トリアルキルアルミニウムの生成反応でトリアルキルアルミニウムを蒸留で回収した後、反応装置内の残渣について、トリアルキルアルミニウムを得る目的で実施する蒸留精製とは異なる目的で再度蒸留工程にかけ、当該残渣からトリアルキルアルミニウムを留去し無害化するという残渣の処理方法を想到した。
【0010】
従って、本願は以下の発明を包含する。
(1)トリアルキルアルミニウムの製造方法において発生したトリアルキルアルミニウム含有残渣を処理する方法であって、前記残渣を減圧蒸留に付し、含有するトリアルキルアルミニウムを留去する工程を含む方法。
(2)前記減圧蒸留を0.5~3kPaAの真空度で実施する、(1)に記載の方法。
(3)前記減圧蒸留を60~160℃の内温で実施する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記減圧蒸留を、留去する成分がなくなる時点を起点にさらに30分~3時間実施し続ける、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)トリアルキルアルミニウムの製造方法が、アルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金とハロゲン化アルキルとを有機溶媒中で反応させることを含む、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記有機溶媒が炭化水素溶媒である、(5)に記載の方法。
(7)前記炭化水素溶媒が炭素数5~18の飽和炭化水素溶媒及び炭素数6~12の芳香族炭化水素溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種である、(6)に記載の方法。
(8)有機溶媒がn-ドデカンである、(6)又は(7)に記載の方法。
(9)前記トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、(1)~(8)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
従前のトリアルキルアルミニウム含有残渣の処理は、安全面だけでなく、コストや設備、工程数、操作性の面でも解決すべき課題を抱えていた。本発明により、従前知られている方法に比べ、より安全かつ設備投資、人件費を最小限に抑え、効率的にトリアルキルアルミニウム含有残渣を処理することが可能となる。また、残渣に含まれる有機物量を減らすことができることから、後工程での処理工数減、それに伴うコスト削減、廃棄に必要なエネルギーを節約できる。また、本発明によって、反応に利用した有機溶媒を回収利用できることから、溶媒コスト、処理費用削減にも効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
トリアルキルアルミニウムの製造方法において発生したトリアルキルアルミニウム含有残渣は減圧蒸留に付すことで、トリアルキルアルミニウムを留去することができる。トリアルキルアルミニウムには、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等が含まれ、特に好ましいのはトリメチルアルミニウムである。
【0013】
本発明の減圧蒸留の条件は特に限定されるものではないが、トリアルキルアルミニウムが効率よく留去される条件が好ましい。例えば真空度は0.1~10kPaA、好ましくは0.5~3kPaAの範囲となるように設定してよい。減圧蒸留の際の装置内の温度は60~200℃、好ましくは80~160℃で実施してよい。残渣に残存するトリアルキルアルミニウムの最終含有量は、安全に取り扱うことができるようにするため、最大で0.1重量%、より好ましくは最大で0.05重量%程度にまで、最も好ましくは最大で0.03重量%にまで削減させてよい。そのためにも、減圧蒸留は、留去する成分がなくなる時点を起点に、さらに10分~10時間、好ましくは30分~3時間、より好ましくは1~2時間実施し続けてよい。
【0014】
また、上記のトリアルキルアルミニウムを留去する方法において、トリアルキルアルミニウムの製造に有機溶剤を使用した場合、残渣中に含まれる有機溶媒も留去することができる。残渣中に含まれる有機溶媒の最終含有量は、廃棄物量を減らすため、最大で50重量%程度にまで、より好ましくは最大で10重量%にまで、最も好ましくは1重量%程度にまで削減させても良い。さらに、留去した有機溶媒は、トリアルキルアルミニウムの反応溶媒として再利用することもできる。
【0015】
本発明において、トリアルキルアルミニウムの製造方法は特に限定されるものではなく、トリアルキルアルミニウムの製造後、その精製を目的に蒸留分離する工程を包含する方法であればよい。その具体的な製造方法としては、例えば(i)アルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金とハロゲン化アルキルを有機溶媒中で反応させてトリアルキルアルミニウムを製造する方法、(ii)アルミニウムとハロゲン化アルキル等から合成されたアルキルアルミニウムセスキハライドをナトリウム、マグネシウムと接触させ、還元によりトリメチルアルミニウムを得る方法、(iii)アルミニウムをアルキルアルミニウムと水素により活性化し、それに不飽和炭化水素を反応させ、置換反応によりトリアルキルアルミニウムを得る方法、などがある。これらの方法では、いずれもアルミニウムや還元剤となる金属を使用するため、反応後の残渣にはそれらの無機塩が生成し反応釜に残存するため、それらの処理をする工程が必須である。
【0016】
これらの無機塩は、例えば、反応剤として塩化アルキルを用いて、還元剤としてナトリウムを使用した場合、塩化ナトリウムが生成し、マグネシウムを使用した場合、塩化マグネシウムが生成する。これらの無機塩は生成するトリアルキルアルミニウム1モルに対して、1.5~3.0モル生成するため、工業的にトリアルキルアルミニウムを合成する場合、これらの処理を含めた工程が必要である。したがって、残渣中に含まれるトリアルキルアルミニウムの量を減らすことで、後工程の処理方法が極めて安全かつ効率的に改善される。
【0017】
特に好ましいトリアルキルアルミニウムの製造方法は、使用する原料の安全性、反応の工程数、反応後の残渣中に残存する無機塩およびそれらの後処理方法を鑑みると、上記(i)のアルミニウムや還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金とハロゲン化アルキルを、有機溶媒中で反応させてトリアルキルアルミニウムを製造する方法である。
【0018】
上記反応に用いるアルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金は、例えば、アルミニウムを20~99重量%含有する混合組成物または合金であることができ、アルミニウム含有量は30~70重量%であることがより好ましく、35~50重量%がさらに好ましい。還元剤となる金属の具体例には、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属やベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属が好ましく、さらに好ましいのはマグネシウムである。アルミニウムと還元剤となる金属を含む合金はアルミニウムと合金を形成する金属であればよく、リチウム合金、ナトリウム合金、カリウム合金、マグネシウム合金、カルシウム合金、バリウム合金、ストロンチウム合金でなどが挙げられる。合金として特に好ましいのはアルミニウム-マグネシウム合金である。
【0019】
アルミニウムと還元剤となる金属の混合組成物および/またはそれらの合金は、特に制限されるものではないが、粉砕処理を行い反応に使用することができる。粉砕処理については、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の従来から知られている一般的な方法を使用することができる。粉末を反応に使用する場合、粒径は特に制限されるものではないが、1μm~1000μmが好ましく、5~500μmがさらに好ましい。
【0020】
ハロゲン化アルキルは、一般的に入手可能なものが使用でき、例えば、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチル、塩化イソブチル、臭化イソブチル、ヨウ化イソブチル等が挙げられる。上記の中でも塩化メチルが好ましい。
【0021】
ハロゲン化アルキルの使用量は、特に制限はないが、アルミニウム又はその合金中のアルミニウム1molに対して32mol以上用いれば良いが、32mol以上、54mol以下が好ましく、32.5mol以上、43.5mol以下がさらに好ましい。
【0022】
反応は、回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく、特に制限なく実施することができる。反応装置としては、縦型または横型の耐圧反応容器を用いることができる。例えば、耐圧性の撹拌器付オートクレーブを用いることができる。用いる撹拌翼としては、一般に知られているどのようなものでも良いが、例えばプロペラ、タービン、三枚後退翼、大型翼等が挙げられる。さらに、ホモジナイザーなども使用できる。
【0023】
ハロゲン化アルキルの反応装置への投入については、連続的に投入しても、断続的に投入しても良い。ハロゲン化アルキルを連続的に投入する場合は、反応が発熱反応であることから、過度の温度の上昇を防止するために、投入量及び加熱温度を制御する必要がある。断続的に投入する場合は、ハロゲン化アルキルを投入した後に加熱し、発熱反応が終了するまで反応を行うことが好ましい。断続的に投入する場合は、上記の反応を繰り返しても良い。本発明においては、アルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金を溶媒に懸濁させスラリー状にしてハロゲン化アルキルを投入するのが好ましい。
【0024】
反応の温度は、特に制限はないが、20℃~200℃が好しく、60℃~160℃がさらに好ましい。反応の時間は、特に制限はないが、1~12時間が好ましく、3~8時間がさらに好ましい。
【0025】
反応には溶媒を用いることができ、例えば、炭化水素を用いることができる。溶媒は、疎水性かつ反応性の乏しい炭化水素溶媒であることが好ましく、そのような有機溶媒としては、例えば、飽和炭化水素および芳香族炭化水素から成る群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0026】
炭化水素溶媒は、沸点が30℃以上、250℃以下の範囲のものが好ましい。上記飽和炭化水素溶媒としては、炭素数が5以上18以下の置換もしくは非置換の直鎖飽和炭化水素であっても、置換もしくは非置換の環状飽和炭化水素であっても良い。また、パラフィン油あるいはそれらの混合物が含まれていても良い。
【0027】
上記飽和炭化水素溶媒の具体例としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロへプタン、シクロオクタン、シクロデカン、o-メンタン、m-メンタン、p-メンタン、デカヒドロナフタレン、パラフィン類C2n+2、イソパラフィン類Cn2n+2などが例示出来る。特にn-ドデカンが好ましい。
【0028】
溶媒として用いられる芳香族炭化水素としては、炭素数1から8のアルキル基、炭素数3から8のシクロアルキル基および炭素数2から8のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基を有する芳香族炭化水素または無置換の芳香族炭化水素が好ましい。
【0029】
芳香族炭化水素の置換基である炭素数1から8のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、ネオヘキシル、tert-ヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、ネオヘプチル、tert-ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、ネオオクチル、tert‐オクチル基が挙げられる。
【0030】
芳香族炭化水素の置換基である炭素数3から8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基が挙げられる。
【0031】
芳香族炭化水素の置換基である炭素数2から8のアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン基が挙げられる。
【0032】
上記芳香族炭化水素の具体例としては、クメン、o-クメン、m-クメン、p-クメン、プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、1-フェニルペンタン、1-フェニルヘプタン、1-フェニルオクタン、1,2-ジエチルベンゼン、1,4-ジエチルベンゼン、メシチレン、1,3-ジ-tert-ブチルベンゼン、1,4-ジ-tert-ブチルベンゼン、ジ-n-ペンチルベンゼン、トリ-tert-ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、インダン、テトラリンがある。
【0033】
溶媒の使用量は特に限定されないが、1molのアルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金中に含まれるアルミニウムに対して、例えば、0.1mol以上、100mol以下の範囲とすることができ、1mol以上、10mol以下の範囲であることが好ましい。
【0034】
アルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金とハロゲン化アルキルの反応は、含窒素有機化合物の存在下で実施してもよい。含窒素有機化合物とは窒素原子を一つ以上含有している化合物である。含窒素有機化合物はアミン化合物、窒素原子を含む複素環化合物及び、アミド化合物を挙げることができる。これらの含窒素有機化合物は2つ以上のものを併用しても良い。
【0035】
アミン化合物としては、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、窒素原子を含む複素環式化合物等を挙げることができる。
【0036】
脂肪族アミン化合物は、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジンのような第1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジアミルアミン、ジシクロヘキシルアミンのような第2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエタノールアミン、トリシクロヘキシルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンのような第3級アミンを挙げることができる。本発明においてはとくに、第3級アミンを用いることが好ましい。
【0037】
芳香族アミン化合物は、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン等が挙げられる。
【0038】
窒素原子を含む複素環式化合物は、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタンのような飽和複素環式化合物、及びピラゾール、イミダゾール、ピリジン、2-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、2,2-ビピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、4-ジメチルアミノピリジン、インドール、キノリン、イソキノリン、プリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-ブチルイミダゾールのような不飽和複素環式化合物が挙げられる。本発明においては、不飽和複素環式化合物を用いることが好ましい。
【0039】
含窒素有機化合物の存在量は、アルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金中に含まれるアルミニウム1molに対して、1mol以下であれば良いが、0.001mol以上、0.2mol以下の範囲が好ましく、0.001mol以上、0.1mol以下の範囲がより好ましく、0.01mol以上、0.08mol以下の範囲がさらに好ましい。
【0040】
アルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金とハロゲン化アルキルの反応における含窒素有機化合物の効果は、反応により生成するアルミニウムとマグネシウムと塩素からなる化合物に含窒素有機化合物が錯体形成することにより、トリアルキルアルミニウムの生成を促進する反応系を構築できるためと推察される。ただし、すべてのメカニズムの解明には至っておらず、本発明は、当該推察に拘束されるものではない。
【0041】
アルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金とハロゲン化アルキルの反応においては、含窒素有機化合物に加えて、アルキルアルミニウム化合物、ヨウ素、臭素及びハロゲン化化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を共存させることができる。
【0042】
アルキルアルミニウム化合物としては、例えば、トリアルキルアルミニウム、アルキルアルミニウムセスキクロライド、ジアルキルアルミニウムクロライド、アルキルアルミニウムジクロライドが挙げられる。アルキルアルミニウム化合物を添加することで、アルミニウム表面が活性化され、トリアルキルアルミニウム選択率及びトリアルキルアルミニウム転化率が向上する。
【0043】
アルキルアルミニウム化合物の添加量は、アルミニウム-マグネシウム合金中のアルミニウム1molに対して、0.001mol以上、0.20mol以下の範囲が好ましく、0.01mol以上、0.10mol以下の範囲がさらに好ましい。
【0044】
添加剤としてのハロゲン化化合物としては、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチル、臭化メチルが挙げられる。ヨウ素、臭素及び/又はハロゲン化化合物を添加することで、工程(1)におけるアルミニウムの反応転化率が向上し、かつトリアルキルアルミニウム選択率及びトリアルキルアルミニウム転化率が向上する。
【0045】
ヨウ素、臭素、またはハロゲン化化合物の添加量は、アルミニウムと還元剤となる金属を含む混合組成物および/またはそれらの合金中のアルミニウム1molに対して、0.001mol以上、0.2mol以下の範囲が好ましく、0.01mol以上、0.1mol以下の範囲がさらに好ましい。
【0046】
添加剤としては、アルキルアルミニウム化合物と、ヨウ素、臭素、またはハロゲン化化合物とを併用することが、トリアルキルアルミニウム選択率及びトリアルキルアルミニウム転化率を向上するため好ましい。特に、アルキルアルミニウムとしてジアルキルアルミニウムハロゲン化物とヨウ素との組み合わせが好ましく、原料であるハロゲン化アルキルが塩化メチルであり、生成物であるトリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである場合、ジアルキルアルミニウムハロゲン化物は、ジメチルアルミニウムクロライドであること、添加剤はジメチルアルミニウムクロライドとヨウ素との組み合わせであることが、好ましい。
【0047】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0048】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0049】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0050】
[実施例1]
攪拌機構および釜残排出用配管を備えた1.5 Lの反応装置を窒素置換した。その後、メジアン径90μmのアルミニウム-マグネシウム合金(92.3 g、アルミニウムに換算すると39.2 g、 1.45 mol)、n-ドデカン(308.9 g、 1.81 mmol)、ヨウ素(11.1 g、 0.04 mmol)、2,6―ジメチルピリジン(5.5 g、 0.05 mmol)を加え攪拌し、150℃に昇温した。昇温後、塩化メチルを投入し反応を開始した。発熱がなくなった時点を反応終点とし、塩化メチルの投入を終了した。塩化メチルの投入時間は7時間で、投入量は264.2 g (アルミニウム1 molに対して3.59 mol)であった。反応液を冷却した後、引き続き減圧蒸留にて、トリメチルアルミニウムの回収を行った。減圧蒸留の条件として、真空度3.0 kPaAで実施し、内温が110℃に到達した時点を終点とした。留出液中のTMAL量は62.7 g、n-ドデカンは6.2 g、副生物としてジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)が14.2 gであった。次に、釜残に残存するTMAL成分およびn-ドデカンを留出させるため、真空度を 1.0 kPaA、内温90℃に保ち、留出しなくなった時点から1時間を終点とした。留出液中のTMAL量は8.5 g、DMAC量は1.9 g、n-ドデカンは300.7 gであった。減圧蒸留後、室温に戻し、大気中で釜残排出配管を抜き出した。釜残総抜出量は203.3gであり、アルキルアルミニウム含有量は0.03 wt%、n-ドデカン含有量は 0.96 wt%(湿量基準)であった。
【0051】
[実施例2]
攪拌機構および釜残排出用配管を備えた1.5 Lの反応装置を窒素置換した。その後、メジアン径73.5μmのアルミニウム粉末(38.3 g、1.46 mol)、メジアン径450μmのマグネシウム粉末(69.3 g、2.85 mmol)、n-ドデカン(309.1 g、 1.81 mmol)、ヨウ素(11.1 g、 0.04 mmol)、2,6-ジメチルピリジン(5.5 g、 0.05 mmol)を加え攪拌し、150℃に昇温した。昇温後、塩化メチルを投入し反応を開始した。発熱がなくなった時点を反応終点とし、塩化メチルの投入を終了した。塩化メチルの投入時間は7時間で、投入量は264.7 g (アルミニウム1 molに対して3.59 mol)であった。反応液を冷却した後、引き続き減圧蒸留にて、トリメチルアルミニウムの回収を行った。減圧蒸留の条件として、真空度3.0 kPaAで実施し、内温が110℃に到達した時点を終点とした。留出液中のTMAL量は50.4 g、n-ドデカンは3.1 gであった。次に、釜残に残存するTMAL成分およびn-ドデカンを留出させるため、真空度を 1.0 kPaA、内温160℃まで段階的に昇温し、留出しなくなった時点から1時間を終点とした。留出液中のTMAL量は12.6 g、n-ドデカンは304.9 gであった。減圧蒸留後、室温に戻し、大気中で釜残排出配管を抜き出した。釜残総抜出量は224.0gであり、アルキルアルミニウム含有量は0.02 wt%、n-ドデカン含有量は 0.50 wt%(湿量基準)であった。