(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050249
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】溶媒リサイクル法を用いた酸化チタンゾルの製造方法および酸化チタンゾル
(51)【国際特許分類】
C01G 23/053 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
C01G23/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156990
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】堀 邦朗
(72)【発明者】
【氏名】境 政俊
(72)【発明者】
【氏名】清水 武洋
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB05
4G047CB08
4G047CB09
4G047CC01
4G047CD03
(57)【要約】
【課題】環境負荷の低い酸化チタンゾルの製造方法および保存安定性が高い酸化チタンゾルの提供。
【解決手段】水と酸化チタン粒子とを含む水ゾルを調製する水ゾル調製工程、極性溶媒と有機ケイ素化合物とを混合して得られた表面処理溶液と、前記水ゾルとを混合して前記酸化チタン粒子を表面処理し、表面処理ゾルを得る表面処理工程、前記表面処理ゾルに含まれる前記水および前記極性溶媒を別の溶媒に置換して酸化チタンゾルと回収溶媒とを得る溶媒置換工程、前記回収溶媒を精製して精製溶媒を調製する精製工程、を含み、前記精製溶媒を前記表面処理工程または前記溶媒置換工程に再利用する、酸化チタンゾルの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と酸化チタン粒子とを含む水ゾルを調製する水ゾル調製工程、
極性溶媒と有機ケイ素化合物とを混合して得られた表面処理溶液と、前記水ゾルとを混合して前記酸化チタン粒子を表面処理し、表面処理ゾルを得る表面処理工程、
前記表面処理ゾルに含まれる前記水および前記極性溶媒を別の溶媒に置換して酸化チタンゾルと回収溶媒とを得る溶媒置換工程、
前記回収溶媒を精製して精製溶媒を調製する精製工程、を含み、
前記精製溶媒を前記表面処理工程または前記溶媒置換工程に再利用する、
酸化チタンゾルの製造方法。
【請求項2】
前記極性溶媒が、極性有機溶媒である、請求項1に記載の酸化チタンゾルの製造方法。
【請求項3】
前記回収溶媒が、水、Si、Tiおよび極性有機溶媒を含み、水の含有量が10質量%以上であり、Siの含有量が1000ppm以上であり、Tiの含有量が20ppm以上である、請求項2に記載の酸化チタンゾルの製造方法。
【請求項4】
前記回収溶媒を精製して、水の含有量が1~5質量%の範囲にある極性有機溶媒を前記精製溶媒として回収する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記回収溶媒を精製して、Siの含有量が50ppm以下の極性有機溶媒を前記精製溶媒として回収する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記回収溶媒を精製して、Tiの含有量が5ppm以下の極性有機溶媒を前記精製溶媒として回収する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記精製工程において系内を減圧した状態で前記回収溶媒に含まれる極性有機溶媒を蒸発させる、請求項2~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記回収溶媒を前記極性有機溶媒の沸点未満かつ-20℃以内の温度で蒸留する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
酸化チタン粒子が溶媒に分散したゾルであって、
前記溶媒に溶解している不純物元素の総量が、原子量換算で100ppm以下であり、
前記不純物元素がTi、Si、Na、K、Ca、Co、Al、Cr、Cu、Fe、Ni、Pb、ZrおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である、
酸化チタンゾル。
【請求項10】
前記溶媒が極性有機溶媒である、請求項9に記載の酸化チタンゾル。
【請求項11】
前記極性溶媒がアルコール類である、請求項10に記載の酸化チタンゾル。
【請求項12】
前記溶媒に含まれる有機ケイ素化合物の含有量が20ppm以下である、請求項11に記載の酸化チタンゾル。
【請求項13】
前記溶媒に含まれる水の含有量が、0.2質量%~8質量%の範囲にある、請求項12に記載の酸化チタンゾル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒リサイクル法を用いた酸化チタンゾルの製造方法および酸化チタンゾルに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、種々の用途、例えば、顔料、紫外線遮蔽剤、触媒、光触媒、触媒担体、吸着剤、イオン交換剤、充填剤、補強剤、セラミックス用原料、ペロブスカイト型複合酸化物等の複合酸化物の前駆体、及び磁気テープの下塗り剤等に使用されている。これらの用途に合わせて、粉末、ペースト、ゾル等の種々の形態で使用されている。
【0003】
特許文献1~3には、酸化チタンゾルおよびその製造方法が開示されている。これらの製造方法が酸化チタン粒子を有機ケイ素化合物で表面処理(表面改質ともいう。)して溶媒への分散性を高める表面処理工程、酸化チタンゾルに含まれる溶媒を別の溶媒に置換する溶媒置換工程を含みうることも開示されている。しかしながら、これらの工程を含む酸化チタンゾルの製造方法では廃液が大量に発生するので、環境負荷が高く、廃棄処理に伴うコストアップが問題視されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-249191号公報
【特許文献2】特開2012-56816号公報
【特許文献3】国際公開WO2018/181241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、環境負荷の低い製造方法を用いて、保存安定性が高い酸化チタンゾルを得ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(13)である。
(1)水と酸化チタン粒子とを含む水ゾルを調製する水ゾル調製工程、
極性溶媒と有機ケイ素化合物とを混合して得られた表面処理溶液と、前記水ゾルとを混合して前記酸化チタン粒子を表面処理し、表面処理ゾルを得る表面処理工程、
前記表面処理ゾルに含まれる前記水および前記極性溶媒を別の溶媒に置換して酸化チタンゾルと回収溶媒とを得る溶媒置換工程、
前記回収溶媒を精製して精製溶媒を調製する精製工程、を含み、
前記精製溶媒を前記表面処理工程または前記溶媒置換工程に再利用する、
酸化チタンゾルの製造方法。
(2)前記極性溶媒が、極性有機溶媒である、上記(1)に記載の酸化チタンゾルの製造方法。
(3)前記回収溶媒が、水、Si、Tiおよび極性有機溶媒を含み、水の含有量が10質量%以上であり、Siの含有量が1000ppm以上であり、Tiの含有量が20ppm以上である、上記(1)または(2)に記載の酸化チタンゾルの製造方法。
(4)前記回収溶媒を精製して、水の含有量が1~5質量%の範囲にある極性有機溶媒を前記精製溶媒として回収する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)前記回収溶媒を精製して、Siの含有量が50ppm以下の極性有機溶媒を前記精製溶媒として回収する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(6)前記回収溶媒を精製して、Tiの含有量が5ppm以下の極性有機溶媒を前記精製溶媒として回収する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(7)前記精製工程において系内を減圧した状態で前記回収溶媒に含まれる極性有機溶媒を蒸発させる、上記(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)前記回収溶媒を前記極性有機溶媒の沸点未満かつ-20℃以内の温度で蒸留する、上記(1)~(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)酸化チタン粒子が溶媒に分散したゾルであって、
前記溶媒に溶解している不純物元素の総量が、原子量換算で100ppm以下であり、
前記不純物元素がTi、Si、Na、K、Ca、Co、Al、Cr、Cu、Fe、Ni、Pb、ZrおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である、
酸化チタンゾル。
(10)前記溶媒が極性有機溶媒である、上記(9)に記載の酸化チタンゾル。
(11)前記極性溶媒がアルコール類である、上記(9)または(10)に記載の酸化チタンゾル。
(12)前記溶媒に含まれる有機ケイ素化合物の含有量が20ppm以下である、上記(9)~(11)のいずれかに記載の酸化チタンゾル。
(13)前記溶媒に含まれる水の含有量が、0.2質量%~8質量%の範囲にある、上記(9)~(12)のいずれかに記載の酸化チタンゾル。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環境負荷の低い酸化チタンゾルの製造方法および保存安定性が高い酸化チタンゾルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の製造方法を用いた酸化チタンゾルの製造フローの一例。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、酸化チタンゾルの製造方法であって、溶媒置換工程で発生する廃液を回収し、酸化チタンゾルの製造工程で再利用する製造方法を含む。具体的には、水と酸化チタン粒子とを含む水ゾルを調製する水ゾル調製工程、極性溶媒と有機ケイ素化合物とを混合して得られた表面処理溶液と、前記水ゾルとを混合して前記酸化チタン粒子を表面処理し、表面処理ゾルを得る表面処理工程、前記表面処理ゾルに含まれる前記水および前記極性溶媒を別の溶媒に置換して酸化チタンゾルと回収溶媒とを得る溶媒置換工程、前記回収溶媒を精製して精製溶媒を調製する精製工程、を含み、前記精製溶媒を表面処理工程または溶媒置換工程に再利用する、酸化チタンゾルの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)を含む。本発明の製造方法を用いた酸化チタンゾルの製造フローの一例を
図1に示す。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0010】
[本発明の製造方法]
〔水ゾル調製工程〕
本発明の製造方法は、水と酸化チタン粒子とを含む水ゾルを調製する水ゾル調製工程を含む。本発明において、「水ゾル」とは、水に粒子が分散したゾルを指すものとする。この工程では、前記水ゾルを従来公知の方法を用いて調製することができる。例えば、塩化チタンを水溶液中で加水分解して得られる過酸化チタン酸を含む混合液をオートクレーブにて80~250℃の温度で水熱処理する方法、チタンアルコキシドを加水分解する方法、酸化チタン粉末を水に分散させる方法等により、前記水ゾルを調製することができる。また、市販されている酸化チタンゾルを購入し、このゾルに含まれる溶媒が水である場合はそのまま用いてもよく、その溶媒が水以外の溶媒である場合は、水に置換して用いてもよい。更に、前記特許文献1~3の製造方法を参考に前記水ゾルを調製することもできる。
【0011】
〔表面処理工程〕
本発明の製造方法は、極性溶媒と有機ケイ素化合物とを混合して得られた表面処理溶液と、前記水ゾルとを混合して前記酸化チタン粒子を表面処理し、表面処理ゾルを得る表面処理工程を含む。この工程では、従来公知の方法を用いて酸化チタン粒子を有機ケイ素化合物で表面処理することができる。例えば、前記有機ケイ素化合物を水やアルコールなどの極性溶媒に溶解した表面処理溶液と前記水分ゾルとを混合したのち、40~60℃の温度に加熱して約1~20時間、撹拌する方法で表面処理することができる。この方法では、有機ケイ素化合物が水で加水分解され、加水分解により生成した生成物と酸化チタン粒子の表面とが結合して表面処理が起こる。このとき、有機ケイ素化合物の加水分解によって生成した副生成物や未反応の有機ケイ素化合物が、前記表面処理ゾルの溶媒中に残留する。
【0012】
この工程では、極性溶媒として、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロピルアルコ-ル等のアルコール類、水等の一般的な極性溶媒を用いることができ、アルコール類を用いることが好ましい。アルコール等の極性有機溶媒を用いると、表面処理後の酸化チタン粒子が表面処理ゾル中で分散状態を維持しやすくなる。このような有機溶媒は、そのまま廃棄すると環境負荷が高いので、何かしらの処理を行って廃棄する必要があり、コストアップ要因の一つとなる。しかしながら、本発明の製造方法では、この工程で極性有機溶媒を用いても、後述の精製工程において精製して再利用されるので、環境負荷の低減およびコストダウンの効果がより顕著に表れる。
【0013】
この工程では、有機ケイ素化合物として、トリメチルエトキシシラン、ジメチルフェニルエトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン等の単官能性シラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等の二官能性シラン、メチルトリエトシキシラン、フェニルトリエトシキシシラン等の三官能性シラン、テトラエトキシシラン等の四官能性シランを用いることができ、三官能性シランまたは四官能性シランを用いることが好ましい。これらの有機ケイ素化合物で酸化チタン粒子を表面処理することで、有機溶媒中でも酸化チタン粒子が分散しやすくなる。
【0014】
〔溶媒置換工程〕
本発明の製造方法は、前記表面処理ゾルに含まれる前記水および前記極性溶媒を別の溶媒に置換して酸化チタンゾルと回収溶媒とを得る溶媒置換工程を含む。この工程では、表面処理ゾルの溶媒を別の溶媒に置換して、表面処理ゾルの溶媒に含まれる有機ケイ素化合物の加水分解によって生成した副生成物や未反応の有機ケイ素化合物を除去することを目的の一つとしている。したがって、この工程における「別の溶媒」は、表面処理ゾルに含まれる溶媒と同一の種類であってもよい。例えば、別の溶媒として水を用いて酸化チタンゾルを得てもよく、極性有機溶媒を用いて酸化チタンゾルを得てもよい。この工程では、従来公知の方法を用いて表面処理ゾルに含まれる水および極性溶媒を別の溶媒に置換することができる。例えば、限外ろ過法、エバポレータなど公知の方法を用いて表面処理ゾルに含まれる溶媒を一定量除去した後、別の溶媒を加える方法を用いることができる。このとき除去された溶媒は、回収溶媒として回収され、後述の精製工程で精製される。
【0015】
〔精製工程〕
本発明の製造方法は、前記回収溶媒を精製して精製溶媒を調製する精製工程を含む。この工程では、回収溶媒に含まれる溶媒と不純物とを除去する。回収溶媒に含まれる溶媒には、水、極性溶媒、極性有機溶媒等が含まれ得る。また、回収溶媒に含まれる不純物は、溶媒以外の成分を指すものとし、例えば、未反応の有機ケイ素化合物、有機ケイ素化合物の加水分解によって生成した副生成物、ろ過漏れした酸化チタン粒子等がある。これらの不純物は従来公知の方法で除去することができる。例えば、一定の条件下で回収溶媒を蒸発させ、蒸発した溶媒を回収することで、精製された精製溶媒を得ることができる。回収溶媒を精製するプロセスフローの一例として蒸発缶を使ったフローを
図2に示す。蒸発缶を必ずしも用いなくとも、例えば、蒸留、エバポレーターといった方法で回収溶媒を精製することができる。回収溶媒に含まれる溶媒、不純物の含有量は特に限定されるものではない。
【0016】
回収溶媒が、水、Si、Tiおよび極性有機溶媒を含み、水の含有量が10質量%以上である回収溶媒を精製する場合、水の含有量が1~5質量%の範囲にある極性有機溶媒を精製溶媒として回収することが好ましい。水の含有量が前述の範囲にある極性有機溶媒を精製溶媒として回収し、再利用すると、酸化チタンゾルの安定性が向上する。
【0017】
回収溶媒が、水、Si、Tiおよび極性有機溶媒を含み、Siの含有量が1000ppm以上である回収溶媒を精製する場合、Siの含有量が50ppm以下である極性有機溶媒を精製溶媒として回収することが好ましい。Siの含有量が前述の範囲にある極性有機溶媒を精製溶媒として回収し、再利用すると、酸化チタンゾルの安定性が向上する。
【0018】
回収溶媒が、水、Si、Tiおよび極性有機溶媒を含み、Tiの含有量が50ppm以上である回収溶媒を精製する場合、Tiの含有量が5ppm以下である極性有機溶媒を精製溶媒として回収することが好ましい。Tiの含有量が前述の範囲にある極性有機溶媒を精製溶媒として回収し、再利用すると、酸化チタンゾルの安定性が向上する。
【0019】
この工程では、系内を減圧した状態で回収溶媒に含まれる極性有機溶媒を蒸発させることが好ましい。系内を減圧することで、蒸発に必要な熱エネルギーを節約して精製することができる。また、系内の回収溶媒の温度を、極性有機溶媒の沸点未満かつ沸点から-20℃以内に調節することで、精製された極性有機溶媒に含まれる前述の不純物の含有量を低減することができる。更に、蒸発した極性有機溶媒を回収する際に蒸気の温度を15℃以下に調節することで、回収された極性有機溶媒に含まれる水の含有量を低減することができる。更に、蒸気の温度を下げることで、極性有機溶媒を系外に排出せず、効率良く回収することができる。
【0020】
本発明の製造方法は、前記精製溶媒を前記表面処理工程または前記溶媒置換工程に再利用する。このとき、前記工程は別のフロー式(連続式)製造方法の工程の一部であってもよく、
図1のような別バッチの製造方法の工程の一部であってもよい。また、精製溶媒の全量を前記工程において再利用してもよく、その一部を市販の溶媒と混合して再利用してもよい。本発明の製造方法においては、表面処理工程における前記極性溶媒として、または溶媒置換工程における前記別の溶媒として使用する溶媒の全量に対し、精製溶媒の使用量が少なくとも50質量%以上であることが好ましい。
【0021】
本発明は、酸化チタン粒子が溶媒に分散した酸化チタンゾルであって、不純物の少ない高純度な酸化チタンゾルを含む。具体的には、前記溶媒に溶解している不純物元素の総量が、原子量換算で100ppm以下であり、前記不純物元素がTi、Si、Na、K、Ca、Co、Al、Cr、Cu、Fe、Ni、Pb、ZrおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素である、酸化チタンゾル(以下、「本発明の酸化チタンゾル」ともいう。)を含む。本発明の酸化チタンゾルは、前述の元素で特定される不純物元素の含有量を一定量以下にすることで、保存安定性が高くなる。このような酸化チタンゾルは、例えば本発明の製造方法を用いて調製することができる。このような酸化チタンゾルは、光学用途、研磨用途、触媒用途等の幅広い用途で使用することができる。以下、本発明の酸化チタンゾルについて、詳細を説明する。
【0022】
前記不純物の総量は、50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。前記不純物の総量が前述の範囲にある本発明の酸化チタンゾルは、保存安定性がより高くなる。
【0023】
前記溶媒は、極性有機溶媒であることが好ましく、溶解パラメーターが10~22の範囲にある極性有機溶媒であることがより好ましく、アルコール類であることが特に好ましい。前記溶媒が極性有機溶媒である場合、水の含有量が0.2質量%~8質量%の範囲にあることが好ましく、0.2質量%~6質量%の範囲にあることがより好ましく、0.2質量%~1質量%の範囲にあることが特に好ましい。水の含有量が前述の範囲にある本発明の酸化チタンゾルは、保存安定性がより高くなる。
【0024】
前記酸化チタン粒子は、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型から選ばれる少なくとも1種類の結晶構造を有している。本発明の酸化チタンゾルは、アナターゼ型、ルチル型の何れかの結晶構造を有していることが好ましい。
【0025】
前記酸化チタン粒子の平均粒子径は、5nm~100nmの範囲にあることが好ましく、5nm~50nmの範囲にあることがより好ましく、5nm~30nmの範囲にあることが特に好ましい。平均粒子径が前述の範囲にある酸化チタン粒子は、前述の用途で好適に使用することができる。
【0026】
前記酸化チタン粒子は、Ti、O以外の元素を含んでいてもよい。例えば、Si、Al、Fe、Sn等の元素を、合計で、1質量%~20質量%の範囲で含んでいてもよい。これらの元素を含む酸化チタン粒子は、光触媒活性が低くなりやすく、樹脂等と混合して使用する用途に好適である。
【0027】
本発明の酸化チタンゾルに含まれる酸化チタン粒子は、その表面に被覆層を有していてもよい。例えば、シリカ、ジルコニア、アルミナで被覆されていてもよい。被覆層を有する酸化チタン粒子は、溶媒中で良好に分散する。また、被覆層を有する酸化チタン粒子は、光触媒反応が起こりにくいので、樹脂等の光触媒反応で劣化する材料と組み合わせて使用するときに好適である。
【0028】
本発明の酸化チタンゾルに含まれる酸化チタン粒子は、表面が有機ケイ素化合物で表面処理されていることが好ましい。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、本発明は、実施例に限定されるものではない。
[測定方法ないし評価方法]
各種測定ないし評価は以下のように行った。
【0030】
[1]組成分析(Ti、Si、Na、K、Ca、Co、Al、Cr、Cu、Fe、Ni、Pb、ZrおよびZn)
酸化チタンゾルに含まれる溶媒、回収溶媒または精製溶媒に含まれるTi、Si、Na、K、Ca、Co、Al、Cr、Cu、Fe、Ni、Pb、Zr、Znの濃度を、それぞれ原子量換算で、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法を用いて測定した。なお、酸化チタンゾルに含まれる溶媒は、限外膜ろ過を用いて濾過した後の溶媒を測定試料として用いた。また、酸化チタンゾルに含まれる粒子の組成分析を行う際は、溶媒を蒸発させた後に残留した固形分を酸等を用いて溶解したものを測定試料とした。なお、検出下限以下(本発明においては、5ppm以下)の値は、0ppmとみなした。
【0031】
[2]溶媒に含まれるH2O測定
酸化チタンゾルに含まれる溶媒、回収溶媒または精製溶媒に含まれるH2Oの濃度を、カールフィッシャー法水分測定装置((株)三菱化学アナリテック製、CA-200)を用いて測定した。
【0032】
[3]結晶構造分析
酸化チタンゾルを測定試料とし、磁製ルツボ(B-2型)に固形分重量として2g分を採取し、110℃で12時間乾燥させた後、残渣をデシケーターに入れて室温まで冷却した。次に、残渣を乳鉢で粉砕した後、X線回折装置SmartLab((株)リガク製)を用いて粉末X線回折を測定した。測定条件およびデータ解析の詳細については以下の通りとした。
・測定条件
測定装置:粉末X線回折測定装置SmartLab((株)リガク製)
X線発生装置:9kW開放管(CuKα線源、電圧45kV、電流200mA)
Soller/PSC:5.0deg
IS長手:10.0mm
PSA:なし
Soller:5.0deg
IS:1/2
RS1:13mm
RS2:20mm
スキャンステップ:0.02deg
スキャン範囲:5-70deg
スキャンスピード:5deg/min
X線検出器:高速1次元X線検出器(D/TeX Ultra 250)
測定雰囲気:大気下
試料台:Al2O3製試料ホルダー(底なし)
・データ解析
解析ソフトウェア:統合粉末X線解析ソフトウェア PDXL2 Version 2.7.2.0((株)リガク製)
平滑化:B-Splneによる平滑化(X閾値1.5)
バックグラウンド除去:フィッティング方式
Kα2除去:強度比0.497
ピークサーチ:2次微分法、σカット値=3、σカット範囲0.5~20.0
プロファイルフィッティング方法:測定データに対してフィッティング
プロファイルフィッティング ピーク形状:分割型擬Voigt関数
【0033】
[4]平均粒子径測定
酸化チタンゾルを測定試料とし、測定試料に含まれる粒子の形状を、走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製、S-5500)を用いて、30kVの加速電圧で観察した。観察用の試料は、以下のように作製した。測定試料を水で固形分濃度0.05質量%に希釈した後、コロジオン膜付金属グリッド(応研商事(株)製)に塗布し、250Wの赤外線ランプを30分間照射して溶媒を蒸発させて観察用の試料を作成した。得られたSEM像を印刷し、一次粒子100個についてノギスにて粒子径を計測し、その平均値を平均粒子径とした。なお、粒子の形状に異方性がある場合は、その長径を粒子径とした。
【0034】
[5]pH測定
酸化チタンゾルを測定試料とし、これを50ml入れたセルに、25℃の温度に保たれた恒温槽中で、pH4、7および9の標準液で更正が完了したpHメータ(堀場製作所製、F22)のガラス電極を挿入して、pH値を測定した。このとき、酸化チタンゾルの溶媒が有機溶媒である場合には、酸化チタンゾルを蒸留水で10倍に希釈したものを測定試料とした。
【0035】
[6]粘度測定
酸化チタンゾル20mlを測定試料とし、粘度計(東機産業株式会社製、TV-10M)を用いて室温にて粘度測定を行った。粘度計のローターは回転数60rpmでは1.0~10.0mPa・sの粘度範囲、回転数30rpmでは10.0~20.0mPa・sの粘度範囲、回転数12rpmでは20.0~50.0mPa・sの粘度範囲、回転数6rpmでは50.0~100.0mPa・sの粘度範囲について測定した。
【0036】
[7]安定性評価
酸化チタンゾル50mlを測定試料とし、雰囲気温度が10℃に設定された冷暗所にて密閉状態で測定試料を保管した。粘度が、初日の粘度に対して1.5倍以上になるまでに要した日数をもって、酸化チタンゾルの安定性を評価した。
【0037】
[調製例1]
〔水ゾル調整工程〕
四塩化チタン(大阪チタニウムテクノロジーズ(株)製)をTiO2換算基準で2質量%含む四塩化チタン水溶液93.665kgと、塩化第二鉄(林純薬(株)製)をFe2O3換算基準で4質量%含む塩化第二鉄水溶液0.218kgとを混合した後、この混合物とアンモニアを15質量%含むアンモニア水(宇部興産(株)製)36.295kgとを混合し、pH8.5の微黄褐色スラリー液を調製した。次いで、このスラリーを濾過した後、濾物を純水で洗浄して、固形分濃度が10質量%の鉄を含む鉄含有含水チタン酸ケーキ72.7kgを得た。
【0038】
次に、このケーキに、過酸化水素を35質量%含む過酸化水素水(三菱瓦斯化学(株)製)1.51kgおよび純水7.632kgを加えた後、80℃の温度で1時間撹拌し、さらに純水159kgを加えて、鉄含有過酸化チタン酸を、ここに含まれるチタンおよび鉄の量をそれぞれTiO2およびFe2O3の量に換算した基準で2質量%含む鉄含有過酸化チタン酸水溶液を11.05kg得た。この鉄含有過酸化チタン酸水溶液は、透明な黄褐色でpHは8.5であった。
【0039】
次いで、前記鉄含有過酸化チタン酸水溶液22.5kgに、シリカゾル(日揮触媒化成(株)製、SN-350)0.19kgと純水2.747kgとを混合して、オートクレーブ中にて150℃の温度で6時間、加熱した。次に、オートクレーブを室温まで冷却した後、限外濾過膜装置を用いて濃縮して、固形分含有量が10質量%の水ゾル2.153kgを得た。
【0040】
〔表面処理工程〕
極性溶媒としての市販のメタノール3.00kgと有機ケイ素化合物としてのテトラエトキシシラン(多摩化学工業(株)製)0.13kgとを溶解させた表面処理溶液に、前述の工程で得られた水ゾル1.50kgを撹拌下で添加した後、50℃の温度で6時間加熱して、表面処理ゾル4.50kgを調製した。
【0041】
〔溶媒置換工程〕
限外濾過膜装置を用いて、前述の工程で得られた表面処理ゾル4.50kgに含まれる溶媒を別の溶媒(前述のメタノール)に置換した。このとき発生したろ液は回収溶媒として回収した。さらに、その表面処理ゾルを濃縮して、固形分濃度が30質量%の酸化チタンゾル0.50kgと回収溶媒とを得た。この工程で使用したメタノールの総量は18.00kgであった。回収溶媒の性状を表1に示す。
【0042】
〔精製工程〕
前述の溶媒置換工程で得られた回収溶媒を
図2の精製装置で単蒸留し、精製溶媒を得た。具体的には、蒸発缶に回収溶媒を充填した後、バルブを閉じで循環ラインを形成した。その後循環ポンプを起動させ、回収溶媒が循環ポンプ→熱交換器(熱交)→蒸発缶→循環ポンプの順で循環する状態にした。その後、減圧ポンプを起動し、蒸発缶内の真空度が-0.065MPaとなるまで減圧した。その後、熱交換器を70℃に加熱し、蒸留を開始した。その後、蒸発缶内での回収溶媒の温度が57℃まで上昇し、回収溶媒に含まれるメタノールの蒸発が始まった。このとき発生したメタノールを含む蒸気を冷却器で冷却して精製溶媒を得た。精製溶媒の性状を表1に示す。
【0043】
[実施例1]
溶媒置換工程において、市販のメタノールに代えて精製工程で得られた精製溶媒を用いたこと以外は、調製例1と同様の方法で酸化チタンゾルを得た。この酸化チタンゾルの性状を表2に示す。
【0044】
[実施例2]
溶媒置換工程において、市販のメタノールのうち、最初の半量に精製溶媒を用いたこと以外は、調製例1と同様の方法で酸化チタンゾルを得た。この酸化チタンゾルの性状を表2に示す。
【0045】
[比較例1]
溶媒置換工程において、市販のメタノールに代えて回収溶媒を用いたこと以外は、調製例1と同様の方法で酸化チタンゾルを得た。酸化チタンゾルの性状を表2に示す。
【0046】
【0047】