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  • 特開-保持具、及び保持具の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050253
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】保持具、及び保持具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/32 20120101AFI20240403BHJP
   B24B 37/30 20120101ALI20240403BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B24B37/32 Z
B24B37/30 C
H01L21/304 622G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157001
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜也
(72)【発明者】
【氏名】伊地 修平
(72)【発明者】
【氏名】守 純也
(72)【発明者】
【氏名】高田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝太
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC04
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EA14
3C158EA15
3C158EA16
3C158EA24
3C158EA25
3C158EB01
5F057AA23
5F057BA15
5F057BA21
5F057CA12
5F057DA03
5F057EC10
5F057FA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】保持パッドと枠材との間に十分な接着性を有しつつ、保持面の平坦性に優れる保持具を提供する。
【解決手段】保持面を有する保持パッド12と、枠材14と、を有し、上記枠材が、硬化した光硬化性樹脂を介して上記保持面に固定されており、上記枠材が光透過性を有する、保持具。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持面を有する保持パッドと、枠材と、を有し、
前記枠材が、硬化した光硬化性樹脂を介して前記保持面に固定されており、
前記枠材が光透過性を有する、
保持具。
【請求項2】
前記光硬化性樹脂が、紫外線硬化性樹脂を含む、
請求項1に記載の保持具。
【請求項3】
前記枠材が、波長1nm以上700nm以下のうちいずれかの波長に対して光透過率が20%以上である、請求項1に記載の保持具。
【請求項4】
前記枠材が、ポリカーボネート樹脂を含む、
請求項1に記載の保持具。
【請求項5】
保持面を有する保持パッドと枠材との間に位置する光硬化性樹脂を光照射により硬化することにより、前記枠材を、前記光硬化性樹脂を介して前記保持面に固定する光照射工程を有し、
前記枠材が光透過性を有する、
保持具の製造方法。
【請求項6】
前記光照射の放射照度が、180mW/cm2以上300mW/cm2以下である、
請求項5に記載の保持具の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の保持具を用いて被研磨物を研磨する工程を含む、
研磨物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持具、及び保持具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス、電子部品等の材料、特に、Si基板(シリコンウェハ)、GaAs(ガリウム砒素)基板、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料やLCD(液晶ディスプレイ)用基板等の薄型基板(被研磨物)の表面(加工面)には、平坦性が求められる。そのような表面を得るために、機械研磨(ラッピング)や、研磨パッドをスラリーと共に用いる化学機械研磨(CMP)が行われている。
【0003】
このような研磨加工では、一般的に、被研磨物を保持するための保持具が用いられる。保持具は、被研磨物を吸着する保持面を有する保持パッドと、保持パッドの表面外縁に固定された枠材とを含み、被研磨物の横ずれ等を抑制することができる。保持パッドと枠材とを固定する手段として加熱が不要な粘着剤を用いた場合、接着力が不足する傾向にある。そこで、その固定する手段として主に熱融着性接着剤が使用される。より具体的には、熱融着性接着剤をシート状にした接着テープや、基材の両面に接着剤を塗布した両面テープ等が用いられる。そのような保持具の例として、例えば、特許文献1には、保持シートと枠材との間で剥離が生じにくい保持具を提供することを目的として、所定の積層体からなる枠材と、ポリウレタン発泡シートとを所定の熱融着型接着剤を介して120℃、圧力1.5MPaで熱圧着させて接合させた保持具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-155577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の保持具は、必ず熱圧着する工程を経て製造され、その工程において熱融着型接着剤を介して保持パッドと枠材とを固定するために、保持具が湾曲しやすく、平坦性が悪化しやすいことがわかった。本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、保持パッドと枠材との間に十分な接着性を有しつつ、保持面の平坦性に優れる保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、光透過性を有する枠材と保持パッドとを光硬化性樹脂を介して固定することにより、熱圧着工程を経ることなく両者が十分に接着し、かつ平坦性に優れる保持具を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
保持面を有する保持パッドと、枠材と、を有し、
前記枠材が、硬化した光硬化性樹脂を介して前記保持面に固定されており、
前記枠材が光透過性を有する、
保持具。
〔2〕
前記光硬化性樹脂が、紫外線硬化性樹脂を含む、
〔1〕に記載の保持具。
〔3〕
前記枠材が、波長1nm以上700nm以下のうちいずれかの波長に対して光透過率が20%以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の保持具。
〔4〕
前記枠材が、ポリカーボネート樹脂を含む、
〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の保持具。
〔5〕
保持面を有する保持パッドと枠材との間に位置する光硬化性樹脂を光照射により硬化することにより、前記枠材を、前記光硬化性樹脂を介して前記保持面に固定する光照射工程を有し、
前記枠材が光透過性を有する、
保持具の製造方法。
〔6〕
前記光照射の放射照度が、180mW/cm2以上300mW/cm2以下である、
〔5〕に記載の保持具の製造方法。
〔7〕
〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の保持具を用いて被研磨物を研磨する工程を含む、
研磨物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保持パッドと枠材との間に十分な接着性を有しつつ、保持面の平坦性に優れる保持具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、保持具を用いて被研磨物を研磨する態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
1.保持具
本実施形態に係る保持具は、保持面を有する保持パッドと、枠材と、を有し、上記枠材が、硬化した光硬化性樹脂を介して前記保持面に固定されており、上記枠材が光透過性を有する、保持具である。
【0012】
保持具において、保持パッドと枠材とを固定する手段として、加熱が不要な粘着剤を用いると接着力に不足する傾向にあるため、主に熱融着型接着剤が使用される。しかしながら、熱融着型接着剤を用いる場合は必ず熱圧着工程を用いて保持パッドと枠材とを固定する。その結果、当該熱圧着工程に起因して保持具が湾曲しやすく、保持面の平坦性が悪化しやすい。
【0013】
熱融着型接着剤に起因して保持具が湾曲するメカニズムとしては、特に限定されないが、次の少なくとも一つのように考えられる。保持パッドは熱圧着工程による熱及び圧力や、熱融着型接着剤の反応熱が加わることにより熱収縮を起こしやすく、その結果、保持具が湾曲すると考えられる。さらに、保持パッドは反りへの抵抗が少ないため、熱圧着工程によりわずかにでも熱収縮が起こると反りが大きくなってしまうものと考えられる。加えて、保持パッドが加圧され潰れた状態で熱融着型接着剤が硬化するため、除圧した際に、熱融着型接着剤が塗布されている箇所とそうでない箇所の間における復元力が異なるものとなり、保持面側に反りやすい点も考えられる。このような傾向は、特に保持パッドがクッション性を有する軟質な樹脂シートである場合により顕著になると考えられる。
【0014】
一方、本実施形態の保持具は、光硬化性樹脂と、光透過性を有する枠材とを有することで、熱融着型接着剤を用いた場合と同様の保持パッドと枠材との間の接着性(以下、単に「接着性」ともいう。)を維持しつつ、かつ保持面の平坦性(以下、単に「平坦性」ともいう。)に優れる。以下、本実施形態の保持具が備える各部材について詳説する。
【0015】
1.1.保持パッド
本実施形態における保持パッドとしては、被研磨物を保持するための保持面を有するものであれば、その材質や形状については特に限定されない。また、保持パッドは、特に限定されないが、例えば、シート状であることが好ましく、その場合は、シートの表面が保持面となる。ただし、保持パッドの形状はシート状に限定されない。
【0016】
保持パッドは、その保持面に、好ましくは適量の水を含ませて被研磨物を押し付けることで、保持面と被研磨物の表面との相互作用、水の表面張力、及び保持面の表面に開孔がある場合はその開孔による吸着力により被研磨物をより良好に保持することができる。保持パッドの保持面は、被研磨物を保持しやすいように被研磨物の保持パッドと接触する面よりやや大きく設計されていてもよい。さらに、保持パッドは、複数の被研磨物を同時に保持できるよう構成されていてもよい。本実施形態において、研磨時の衝撃に由来する研磨物表面の研磨傷の発生を一層抑制する観点から、保持パッドは、樹脂を含むことが好ましく、弾性樹脂を含むことがより好ましく、弾性樹脂発泡体を含むことが更に好ましい。
【0017】
1.1.1.弾性樹脂発泡体
本実施形態において、「弾性樹脂発泡体」とは、弾性樹脂と、その弾性樹脂内に存在する複数の気泡と、を有するものをいう。弾性樹脂発泡体がこのような構造を有することにより、研磨時に被研磨物が研磨パッドから受ける衝撃を弾性樹脂発泡体が吸収することができる。そのため、研磨時の衝撃に由来する研磨物表面の研磨傷の発生が効果的に抑制される傾向にある。以下、弾性樹脂発泡体の構成について詳説する。
【0018】
弾性樹脂発泡体を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、湿式凝固法及びモールド成型法が挙げられる。その中でも、湿式凝固法により製造されるものは、被研磨物の保持力により優れる傾向にあるため、本発明に特に好適に用いることができ好ましい。また、湿式凝固法により製造される弾性樹脂発泡体は軟質である傾向にあり、保持具として反りやすくかつ平坦性を損ないやすい傾向にある。しかしながら、本実施形態における保持具では、保持パッドにそのような弾性樹脂発泡体を用いる場合でも、保持面の平坦性に優れたものとすることができる。湿式凝固法の詳細については後述するとおりである。
【0019】
1.1.1.1.弾性樹脂
弾性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリノルボルネン樹脂、トランス-ポリイソプレン樹脂、及びスチレン-ブタジエン樹脂が挙げられる。その中でも、硬度、粘弾性特性の調整、良好な発泡性、及び耐摩耗性の観点からポリウレタン樹脂が好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、弾性樹脂とは、弾性を有する樹脂を意味し、弾性とは、外力によって生じた変形が、外力をなくしたときに元に戻る性質を意味する。
【0020】
ポリウレタン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。その中でも、被研磨物の保持力、及び枠材との接着性の観点から、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0021】
ポリウレタン樹脂は、従来公知の方法により合成してもよく、また、市販品を入手してもよい。市販品としては、特に限定されないが、例えば、SMP((株)SMPテクノロジーズ社製商品名)、ディアプレックス(三菱重工業(株)社製商品名)、クリスボン(DIC(株)社製商品名)、サンプレン(三洋化成工業(株)社製商品名)、及びレザミン(大日本精化工業(株)社製商品名)が挙げられる。
【0022】
上記ポリノルボルネン樹脂は、従来公知の方法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、特に限定されないが、例えば、ノーソレックス(日本ゼオン(株)社製商品名)が挙げられる。
【0023】
上記トランス-ポリイソプレン樹脂は、従来公知の方法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、特に限定されないが、例えば、クラレTPI(クラレ(株)社製商品名)が挙げられる。
【0024】
上記スチレン-ブタジエン樹脂は、従来公知の方法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、特に限定されないが、例えば、アスマー(旭化成(株)社製商品名)が挙げられる。
【0025】
ポリウレタン樹脂の含有量は、弾性樹脂の総量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。弾性樹脂がポリウレタン樹脂からなるものであると極めて好ましい。
【0026】
弾性樹脂はモールド成型法により製造されるものであってもよい。モールド成型法でポリウレタン樹脂を製造する場合、特に限定されないが、例えば、まずイソシアネート基含有化合物及び該イソシアネート基含有化合物の末端イソシアネート基と反応する活性水素基を有する活性水素化合物を混合した混合液が調製される。イソシアネート基含有化合物は、分子内に2つ以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物とを反応させることで生成することができる。得られた混合液が型枠に注型され、型枠内でイソシアネート基含有化合物と活性水素化合物とが反応、硬化してブロック状のポリウレタン成型体が形成される。このポリウレタン成型体がシート状にスライスされてウレタンシートが形成される。また、ブロック状のウレタン成型体をスライスすることに代えて、型枠サイズを変更することで所望の厚さを有するウレタンシートを1枚ずつ成形することも可能である。保持パッドがこのようにして得られたウレタンシートを含んでもよい。
【0027】
保持パッドが樹脂を含む場合、樹脂以外に、必要に応じてその他の添加材を1種又は2種以上含んでもよい。このような添加剤としては、特に限定されないが、例えば、発泡剤、触媒、界面活性剤、酸化防止剤、帯電防止剤、親水剤、疎水剤、染料及び顔料が挙げられる。
【0028】
保持パッドが弾性樹脂発泡体を含む場合、弾性樹脂発泡体に存在する気泡としては、特に限定されない。そのような気泡としては、例えば、複数の気泡が独立して存在する独立気泡、複数の気泡が連通孔でつながっている連続気泡が挙げられ、これらが混在していてもよい。これらのなかでも、弾性樹脂発泡体は保持パッドに要求されるクッション性及び密着性(保持性能)を一層確保しやすいという観点から連続気泡を有することが好ましい。気泡の形状は特に限定されないが、例えば、球形状、略球形状、弾性樹脂発泡体の面方向に扁平になった形状(扁平形状)、涙型形状が挙げられる。このうち、保持パッドに要求されるクッション性及び密着性(保持性能)を一層確保しやすいという観点から涙型形状であることが好ましい。
【0029】
樹脂の密度(かさ密度)は、好ましくは0.10g/cm3以上1.0g/cm3以下であり、より好ましくは0.30g/cm3以上0.95g/cm3以下であり、さらに好ましくは0.50g/cm3以上0.90g/cm3以下である。樹脂の密度が0.10g/cm3以上であることにより、高い研磨圧で加工された場合においても沈み込みが抑制され、被研磨物の一層高度な平坦化が達成される傾向にある。また、樹脂の密度が1.0g/cm3以下であることにより、研磨時の衝撃に由来する研磨物表面の研磨傷の発生をより抑制できる傾向にある。密度は、例えば、樹脂の種類を選択したり、弾性樹脂発泡体を用いる場合にその弾性樹脂発泡体に含まれる気泡の量を制御することにより、調整することができる。なお、密度はJIS-K-7222(2005)に準拠して測定することができる。
【0030】
保持パッドが弾性樹脂発泡体を含む場合、弾性樹脂発泡体は、その表面(被研磨物の保持面)に開孔を有してもよい。この開孔は、弾性樹脂発泡体中の気泡が表面に露出したものであり、弾性樹脂発泡体のスライス処理もしくはバフ処理により形成される。
【0031】
本実施形態において、保持パッドの硬度は、好ましくはショアA硬度10°以上ショアD硬度70°以下であり、より好ましくはショアA硬度20°以上ショアA硬度90°以下であり、さらに好ましくはショアA硬度30°以上ショアA硬度80°以下である。ショアA硬度が10°以上であることにより、高い研磨圧により研磨加工された際に保持パッドの沈み込みがより抑制され、被研磨物の一層高度な平坦化が達成される傾向にある。また、ショアD硬度が70°以下であることにより、研磨時の衝撃に由来する研磨物表面の研磨傷の発生をより抑制できる傾向にある。保持パッドの硬度は、特に限定されないが、例えば、樹脂の種類を選択したり、弾性樹脂発泡体を用いる場合にその弾性樹脂発泡体に含まれる気泡の量を制御することにより、調整することができる。なお、ショアA硬度及びショアD硬度は、JIS-K-6253(2012)に準拠して測定することができる。
【0032】
保持パッドの圧縮率は、0.10%以上60%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0%以上50%以下であり、さらに好ましくは5.0%以上40%以下である。保持パッドの圧縮率が0.10%以上であることにより、研磨時の衝撃に由来する被研磨物表面の研磨傷の発生がより抑制される傾向にある。また、保持パッドの圧縮率が60%以下であることにより、研磨レートがより向上する傾向にある。圧縮率は下記の方法により測定することができる。なお、保持パッドが弾性樹脂発泡体を含むことは、例えば、上記圧縮率が0.10~60%であることから確認することができる。
【0033】
ここで、圧縮率は、日本工業規格(JIS-L-1021(2020))に従い、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めることができる。具体的には、無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt0を測定し、次に、厚さt0の状態から最終圧力を60秒間かけた後の厚さt1を測定する。圧縮率は、圧縮率(%)=100×(t0-t1)/t0の式で算出する。このとき、初荷重は100g/cm2、最終圧力は1120g/cm2(湿式凝固法樹脂シート)又は初荷重は300g/cm2、最終圧力は1800g/cm2(モールド成型法樹脂シート)とする。
【0034】
保持パッドの圧縮弾性率は、60%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは70%以上100%以下であり、さらに好ましくは80%以上100%以下である。保持パッドの圧縮弾性率が60%以上であることにより、研磨時の衝撃に由来する被研磨物表面の研磨傷の発生がより抑制される傾向にある。圧縮弾性率は下記の方法により測定することができる。なお、保持パッドが弾性樹脂発泡体を含むことは、例えば、上記圧縮弾性率が60%以上100%以下であることから確認することができる。
【0035】
圧縮弾性率は、日本工業規格(JIS-L-1021(2020))に従い、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めることができる。具体的には、無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt0を測定し、次に、厚さt0の状態から最終圧力を60秒間かけた後の厚さt1を測定する。厚さt1の状態から全ての荷重を除き、60秒間放置(無荷重状態とした)後、再び初荷重を30秒間かけた後の厚さt0’を測定する。圧縮弾性率は、圧縮弾性率(%)=100×(t0’-t1)/(t0-t1)の式で算出する。このとき、初荷重は100g/cm2、最終圧力は1120g/cm2(湿式凝固法樹脂シート)又は初荷重は300g/cm2、最終圧力は1800g/cm2(モールド成型法樹脂シート)とする。
【0036】
保持パッドの形状及び寸法は、対象とする被研磨物が研磨領域から飛び出さないようなものであれば特に限定されない。形状としては、特に限定されないが、例えば、円形であってもよい。寸法としては、特に限定されず、研磨条件に応じて所望の寸法を採用できる。
【0037】
保持パッドの厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.10mm以上5.0mm以下であり、より好ましくは0.20mm以上2.0mm以下であり、さらに好ましくは0.30mm以上0.70mm以下である。保持パッドの厚さが0.10mm以上であることにより、圧縮変形量がより向上することにより被研磨物の保持性能(密着性)がより向上し、また、研磨時に被研磨物への衝撃を吸収して破損等の欠陥がより減少する傾向にある。また、保持パッドの厚さが5.0mm以下であることにより、圧縮変形量が高すぎることに起因した、平坦性の悪化や研磨レートの低下を一層抑制する傾向にある。なお、保持パッドの厚さは、保持パッドの定盤と接する面から保持パッドの被研磨物保持面までの距離を意味し、日本工業規格(JIS-K-6505(1995))に準拠して測定される。また、定盤と接する面に両面テープ等の接着層を有している場合は、公知の画像処理技術等を併用し、接着層の厚みを減算する。
【0038】
1.2.枠材
枠材は、研磨加工中に被研磨物が横ずれを起こして、保持パッドの保持面から被研磨物が脱落することを防止する(横ずれ範囲を規制する)ものである。そのため、枠材は、保持パッド上に配置され、典型的には、保持パッドの保持面の周囲にある面上に設けられる。枠材の形状及び寸法は、被研磨物が研磨領域から飛び出さないようなものであれば特に限定されない。例えば、円形の被研磨物を保持する場合、枠材はその内径が被研磨物よりもやや大きい円形状を有する、すなわち保持穴を有していてもよい。また、枠材の厚さは、特に限定されないが、例えば、被研磨物の厚さと同等又はそれ以下とすることが好ましい。また、枠材の厚さは、後述の光透過性を有する範囲であればよい。それらの観点から、枠材の厚さは、100μm以上1000μm以下であってもよい。
【0039】
本実施形態の枠材は、光透過性を有する。それにより、保持パッドと枠材との間に配置された光硬化性樹脂に向けて光を照射した際に、光が枠材を透過することができる。その結果、該光硬化性樹脂を十分に硬化することができ、保持パッドと枠材との間の接着性に優れ、かつ、得られる保持具は平坦性に優れるものとなる。
【0040】
枠材の光透過性は、枠材を介して光硬化性樹脂が硬化できる程度の透光性を有していればよく、波長1nm以上700nm以下のうちいずれかの波長の光透過率が20%以上であってもよいが、波長1nm以上700nm以下の全範囲で光透過率が20%以上であることが好ましい。生産性の観点から、光透過率は50%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることがよりさらに好ましく、85%以上であることが特に好ましい。
【0041】
また、枠材は、光透過性の観点から、枠材内部における気泡の割合が5.0面積%以下であることが好ましく、1.0面積%以下であることがより好ましく、0.1面積%以下であることがさらに好ましい。ここで、上記面積%とは、枠材表面と直交する枠材断面の単位面積において気泡が占める割合を意味する。
【0042】
さらに、光硬化性樹脂と接する枠材表面の開孔径は、特に限定されないが、例えば、耐久性、及び耐薬品性等の観点からは、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。開孔径の測定方法は公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、次の方法により測定される。レーザー顕微鏡(例えばKEYENCE社製商品名「VK-X105」)で200倍に拡大して観察し、その画像を得る。次いで、得られた画像を画像解析ソフト(例えば、三谷商事株式会社製商品名「WinRoof」)により二値化処理することで、開孔とそれ以外の部分とを区別する。そして、区別した各々の開孔の面積から円相当径、すなわち開孔が真円であると仮定して開孔径を算出する。そして、各々の開孔の開孔径を相加平均して平均開孔径(μm)とする。
【0043】
枠材の材料としては、光透過性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、光透過性を有する樹脂が挙げられる。光透過性を有する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ハロゲン系樹脂(ポリ塩化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂等)、ポリスチレン樹脂、オレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、ブタジエンゴム、及びイソプレンゴムが挙げられる。その中でも、光透過性、及び研磨の際に要求される硬度、耐薬品性、及び精度等の観点から、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0044】
また、枠材の1.80MPaにおける荷重たわみ温度は、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましい。それにより、光硬化性樹脂が硬化する際の反応熱等によって生じる反りを防止することができ、得られる保持具の平坦性に更に優れる傾向にある。なお、上記荷重たわみ温度は、ISO75-1,2(2020)に基づき測定することができる。
【0045】
1.3.光硬化性樹脂
光硬化性樹脂は、保持面を有する保持パッドと枠材とを接合するために用いられる。光硬化性樹脂を用いることにより、枠材を保持パッドに対してより強固に接合することができ、かつ、該接合の際に熱圧着工程等を経る必要がなく、加熱や圧力印加による材料の熱収縮等を回避することができ、得られる保持具の平坦性に一層優れる。
【0046】
また、本実施形態の光硬化性樹脂は、併せて用いられる保持パッドが弾性樹脂発泡体を含むことが好ましく、ポリウレタン樹脂を含むことがより好ましく、湿式凝固法により得られるポリウレタン樹脂を含むことがさらに好ましい。光硬化性樹脂が、弾性樹脂発泡体を含む保持パッドと併せて用いられることにより、保持パッドと枠材との間の接着性に更に優れる傾向にある。そのメカニズムについては、特に限定されないが、光硬化性樹脂が、被着材である保持パッドにおける弾性樹脂発泡体の表面の凹凸を埋め、硬化の際に、弾性樹脂発泡体の表面の官能基と共有結合等を形成することによって、光硬化性樹脂が弾性樹脂発泡体を強固に固定するものと考えられる。
【0047】
さらに、本実施形態の光硬化性樹脂は、併せて用いられる枠材が、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂を含むことが好ましく、ポリカーボネート樹脂を含むことがより好ましい。光硬化性樹脂が、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂を含む枠材と併せて用いられることにより、保持パッドと枠材との間の接着性により優れる傾向にある。そのメカニズムについては、特に限定されないが、例えば、硬化の際に、光硬化性樹脂が、枠材におけるアクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂の表面の官能基と共有結合等を形成することによって、保持パッドをより強固に固定する等が考えられる。
【0048】
本実施形態の光硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、光ラジカル重合性樹脂、及び光カチオン重合性樹脂が挙げられる。その中でも、取扱容易性等の観点からは、光ラジカル重合性樹脂であることが好ましい。
【0049】
光ラジカル重合性樹脂としては、取扱容易性等の観点から、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含むものが好ましくい。光ラジカル重合性樹脂としては、接着性の観点から、紫外線硬化性樹脂であることが好ましい。光硬化性樹脂を紫外線硬化樹脂とする場合、枠材は紫外線硬化性樹脂が硬化できる程度の透光性を有していればよい。波長1nm以上400nm以下のうちいずれかの波長の光透過率が20%以上であってもよいが、波長1nm以上400nm以下の全範囲で光透過率が20%以上であることが好ましい。生産性の観点から、光透過率は50%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることがよりさらに好ましく、85%以上であることが特に好ましい。
【0050】
紫外線硬化性樹脂としては、接着性等の観点から、分子内にアクリロイル基を有するアクリレート系樹脂であることが好ましい。紫外線硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、及び紫外線硬化型エポキシ樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
本実施形態の光硬化性樹脂は、光重合開始剤を含んでいてもよい。光重合開始剤としては、光吸収によりラジカルを発生させるものであれば、特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、及びチオチサントン系化合物が挙げられる。
【0052】
2.保持具の製造方法
本実施形態の保持具の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)は、保持面を有する保持パッドと枠材との間に配置された光硬化性樹脂を光照射により硬化することにより、枠材を、光硬化性樹脂を介して保持面に固定する光照射工程を有し、上記枠材が光透過性を有するものである。当該製造方法は、上述した構成を有する保持具を得ることができるものであれば、特に限定されないが、光照射工程の他、例えば、保持パッド準備工程、光硬化性樹脂形成工程、及び積層工程を有していてもよい。
【0053】
2.1.保持パッド準備工程
保持パッド準備工程では、保持パッドを準備する。準備する保持パッドの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、湿式凝固法を用いることができる。湿式凝固法としては、特に限定されないが、例えば、樹脂と良溶媒とを含む樹脂溶液を調製する工程(樹脂溶液調製工程)と、樹脂溶液を成膜用基材の表面に塗布する工程(塗布工程)と、樹脂溶液中の樹脂を貧溶媒により凝固再生して、前駆体シートを形成する工程(凝固再生工程)と、前駆体シートから上記溶媒を除去して樹脂シートを得る工程(溶媒除去工程)と、樹脂シートをバフ処理又はスライス処理により研削する工程(研削工程)とを有する、方法が挙げられる。各工程について、以下詳説する。
【0054】
2.1.1.樹脂溶液調製工程
樹脂溶液調製工程としては、特に限定されないが、例えば、以下のとおりである。まず、ポリウレタン樹脂等のマトリックス樹脂と、そのマトリックス樹脂を溶解可能であって、後述の凝固液に混和する溶媒と、必要に応じて樹脂シートに含ませるその他の材料(例えば、顔料、親水性添加剤及び疎水性添加剤)とを混合し、更に必要に応じて減圧下で脱泡して樹脂溶液を調製する。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という。)及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。樹脂溶液について、B型回転粘度計を用いて25℃で測定した粘度が3Pa・s以上50Pa・s以下の範囲であると好ましく、5Pa・s以上20Pa・s以下の範囲であるとより好ましい。そのような粘度の数値範囲にある樹脂溶液を得る観点、並びに後述の凝固スピードを調整する観点から、例えば、マトリックス樹脂を、樹脂溶液の全体量に対して10質量%以上30質量%以下の範囲、より好ましくは15質量%以上25質量%以下の範囲で溶媒に溶解させてもよい。樹脂溶液の粘性は、用いるマトリックス樹脂の種類及び分子量にも依存するため、これらを総合的に考慮し、マトリックス樹脂の選定、濃度設定等を行うことが重要である。また、発泡を促進させる親水性添加剤及び凝固再生を安定化させる疎水性添加剤の種類及び添加量も、適宜選択及び調整することが重要である。
【0055】
2.1.2.塗布工程
塗布工程としては、特に限定されないが、例えば、以下のとおりである。まず、樹脂溶液を、好ましくは常温下で、ナイフコータ等の塗布装置を用いて帯状の成膜用基材に塗布して塗膜を形成する。このときに塗布する樹脂溶液の厚さは、最終的に得られる樹脂シートの厚さが所望の厚さになるように、適宜調整すればよい。成膜用基材の材質としては、例えば、PETフィルムなどの樹脂フィルム、布帛及び不織布が挙げられる。これらの中では、液を浸透し難いPETフィルムなどの樹脂フィルムが好ましい。
【0056】
2.1.3.凝固再生工程
凝固再生工程としては、特に限定されないが、例えば、以下のとおりである。まず、成膜用基材に塗布された樹脂溶液の塗膜を、マトリックス樹脂に対する貧溶媒(例えば、ポリウレタン樹脂の場合は水)を主成分とする凝固液中に連続的に案内する。凝固液には、マトリックス樹脂の再生速度を調整するために、樹脂溶液中の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよい。また、凝固液の温度は、マトリックス樹脂を凝固できる温度であれば特に限定されないが、マトリックス樹脂がポリウレタン樹脂である場合、15~65℃が好ましい。凝固液中では、まず、樹脂溶液の塗膜と凝固液との界面に皮膜(スキン層)が形成され、皮膜の直近のマトリックス樹脂中に無数の緻密な微多孔が形成される。その後、樹脂溶液に含まれる溶媒の凝固液中への拡散と、マトリックス樹脂中への貧溶媒の浸入との協調現象により、好ましくは連続気泡構造を有するマトリックス樹脂の再生が進行する。このとき、成膜用基材が液を浸透し難いもの(例えばPETフィルム)であると、凝固液がその基材に浸透しないため、樹脂溶液中の溶媒と貧溶媒との置換がスキン層付近より優先的に生じ、スキン層付近よりもその内側にある領域の方に、より大きな空孔が形成される傾向にある。こうして成膜用基材上に前駆体シートが形成される。
【0057】
2.1.4.溶媒除去工程
溶媒除去工程としては、特に限定されないが、例えば、以下のとおりである。まず、形成された前駆体シート中に残存する溶媒を除去して樹脂シートを得る。溶媒の除去には、従来知られている洗浄液を用いることができる。また、溶媒を除去した後の樹脂シートを、必要に応じて乾燥してもよい。樹脂シートの乾燥には、例えば、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機を用いることができるが、乾燥方法はこれに限定されない。シリンダ乾燥機を用いる場合、前駆体シートがシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。さらに、得られた樹脂シートをロール状に巻き取ってもよい。
【0058】
2.1.5.研削工程
研削工程としては、特に限定されないが、例えば、以下のとおりである。まず、樹脂シートの好ましくはスキン層側の主面と、その反対側である裏面とのうちの少なくとも一方を、バフ処理で研削又はスライス処理で除去する。バフ処理やスライス処理により樹脂シートの厚さの均一化を図ることができるため、被研磨物に対する押圧力を一層均等化し、被研磨物の損傷を更に抑制すると共に被研磨物の平坦性を一層向上させることができる。また、スキン層側の主面を樹脂シートにおける保持面となる面としてもよく、バフ処理又はスライス処理により開気孔が形成されると、被研磨物の研磨均一性が一層向上するので好ましい。
【0059】
上記工程は、弾性樹脂発泡体を形成するための従来公知の装置を用いて、連続的に行われてもよい。また、湿式凝固法による製造方法を例示したが、従来知られているモールド成型法によってポリウレタン樹脂発泡体を形成してもよい。
【0060】
2.2.光硬化性樹脂形成工程
光硬化性樹脂形成工程は、保持パッドと枠材との間に硬化前の光硬化性樹脂を形成して配置する工程である。
【0061】
保持パッドと枠材との間に硬化前の光硬化性樹脂を形成して配置する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、その中でも、光硬化性樹脂を印刷する工程を含むことが好ましい。印刷の具体的な手法としては、特に限定されないが、例えば、従来公知のものを採用することができ、スクリーン印刷、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷が挙げられる。これらの中でも、多品種少量生産の容易性、溝等の表面形状形成の容易性、設備コスト、生産性、対応する樹脂の多様さ、厚みや精度の観点から、スクリーン印刷が好ましい。
【0062】
ここで、スクリーン印刷とは、典型的には、紗と呼ばれる極細の網(スクリーン)目を通じてパターンを形成する手法である。本実施形態における形成工程に、スクリーン印刷を適用することで、厚さが数十μmから数百μm程度に小さい(薄い)光硬化性樹脂を保持パッド上に好適に形成することができる。
【0063】
上記スクリーン印刷する工程としては、例えば、所望するデザインが印刷できるように、かつ、枠材が印刷された後に要望される厚さとなるために、シルクスクリーン紗の番手の選定とシルクスクリーン紗へのデザイン転写(印刷しない箇所をマスクし、印刷する箇所のマスクを溶かす工程)を含むシルクスクリーンの作製工程と、光硬化性樹脂を、当該スクリーンを介して保持パッド上に塗布する工程と、を含むものとすることができる。シルクスクリーン紗は、シルク等の天然繊維を含むものに限定されず、ポリエステル等の合成繊維、ステンレススチール等の金属繊維を含むものでもよく、その他の公知のスクリーン紗も要求性能に応じて利用できる。
【0064】
2.3.光照射工程
光照射工程は、本実施形態に係る光硬化性樹脂を硬化させる工程である。光照射工程により、枠材を保持パッドに対して強固に接合することができ、熱融着型接着剤を用いた場合と同様の接着性を有することができる。また、該接合の際に熱圧着工程等を経る必要がなく、加熱や圧力印加による材料の熱収縮等を回避することができると共に、得られる保持具は平坦性に優れるものとなる。照射する光としては、光硬化性樹脂を硬化することができるものであれば、特に限定されないが、硬化物の接着性の観点から照射波長は紫外線であることが好ましい。
【0065】
光源としては、従来公知のものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、太陽光、キセノンランプ、蛍光灯、発光ダイオード(LED)、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプが挙げられる。
【0066】
光照射工程における放射照度は、180mW/cm2以上300mW/cm2以下であることが好ましく、200mW/cm2以上280mW/cm2以下であることがより好ましく、220mW/cm2以上260mW/cm2以下であることがさらに好ましく、230mW/cm2以上250mW/cm2以下であることがよりさらに好ましい。放射照度が180mW/cm2以上であることにより、接着性に優れる傾向にあり、放射照度が300mW/cm2以下であることにより、光照射工程自体による保持面劣化を防止し、更に平坦性に優れる傾向にある。
【0067】
2.4.積層工程
本実施形態の保持具の製造方法は、保持パッドの、枠材が形成された面とは反対の面に対して、基材を貼り合せる積層工程をさらに有していてもよい。このようにして得られる保持具と基材の複合体を以下、保持具用シートともいう。
【0068】
積層方法としては、特に限定されないが、例えば、接着層を介して積層する方法が挙げられる。また、基材の、保持パッドが積層された面とは反対の面に対して、粘着層を介して離型層を積層する工程をさらに有していてもよい。基材としては、以下に限定されないが、例えば、湿式凝固法により得られるウレタンシート、モールド成型法により得られるウレタンシート、ポリエチレン等のスポンジフォーム、ポリエチレンテレフタラート(PET)等のフィルム、不織布、織布等を使用することができる。また、基材を用いず、直接、保持パッドの枠材が形成された面と反対の面に粘着層を介して離型層を積層してもよい。
【0069】
本実施形態の保持具の製造方法において、上述のようにして得られた保持具用シートを、そのまま保持具として用いてもよく、更に、所望の平面形状を有するように裁断したものを保持具として用いてもよい。また、保持具を用いて研磨加工を施す前に、その保持具に汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行ってもよい。また、枠材の厚みや形状を調整するために研削処理等の工程を有していてもよい。
【0070】
3.研磨物の製造方法
本実施形態の研磨物の製造方法は、本実施形態の保持具により保持した被研磨物を、研磨パッドを用いて研磨し、研磨物を得る研磨工程を有する。研磨工程は、一次研磨(粗研磨)であってもよく、仕上げ研磨であってもよく、それら両方の研磨を兼ねるものであってもよい。
【0071】
図1に、本実施形態の保持具を用いて被研磨物の研磨を行う場合の模式図を示す。まず、研磨機の被研磨物ホルダ1に保持具10を装着し、保持具10で被研磨物Wを保持させる。図1に示すように、保持具10は保持パッド12上の被研磨物Wを枠材14の内側で保持している。一方、研磨装置の研磨用定盤3上には研磨パッド2が設けられており、被研磨物Wと接した状態にある。この状態で、研磨液を流し研磨パッド2を研磨用定盤3と共に回転することにより、被研磨物Wを研磨することができる。
【0072】
被研磨物としては、特に限定されないが、例えば、半導体デバイス、電子部品等の材料、特に、Si基板(シリコンウェハ)、SiC(シリコンカーバイト)基板、GaAs(ガリウム砒素)基板、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料やLCD(液晶ディスプレイ)用基板等の薄型基板(被研磨物)が挙げられる。このなかでもSi基板(シリコンウェハ)の製造方法として好適に用いることができる。
【実施例0073】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0074】
〔実施例1〕
まず、外径335mm-内径301mmのドーナツ形状で厚さ0.6mmのポリカーボネート樹脂枠材(三菱ガス化学社製、製品名「NF-2000 552A」、光透過率85~91%)に対してUV硬化性樹脂(スリーボンド社製、製品名「ThreeBond 3094」)をスクリーン印刷法にて塗布した。その後、後述する方法により作製した湿式凝固タイプの保持パッド(外径390mm、厚さ0.4mm、密度0.80g/cm3、圧縮率12%、A硬度70)の保持面に、上記UV硬化性樹脂を介して上記枠材を重ねた。そして、上記枠材を介して以下の照射条件により紫外線を照射して、UV硬化性樹脂を硬化させた。これによって、枠材と保持パッドとを接合した実施例1の保持具を得た。その後、実施例1にて得られた保持具を平坦で水平な台に静置し、水平な台を基準として最も浮き上がっている箇所の浮き上がり高さを測定したところ、3mmであった。なお、枠材と保持パッドとの間の接着性は、比較例1の熱融着型接着テープを用いた場合と同様の強度であった。
<照射条件>
照射機:シーシーエス株式会社製UV-LED照射装置 MUB-068
波長 :395nm
調光値 :150
照射距離:10mm
放射照度:240mW/cm2
照射時間:30sec
【0075】
なお、上記保持パッドは次の方法により作製した。
まず、マトリックス樹脂となる原料樹脂であるポリエステル系ポリウレタン樹脂の30%DMF溶液100質量部に対して、粘度調整用のDMFを56質量部、顔料であるカーボンブラックを15質量%含むDMF分散液を17質量部と、疎水性添加剤2.0質量部と、非イオン系界面活性剤2.0質量部と、成膜安定剤3.0質量部とを添加して、混合撹拌し、樹脂溶液を調製した。次に、成膜用基材として、PETフィルムを用意し、そこに、上記樹脂溶液を、ナイフコータを用いて塗布し塗膜を得た。次いで、得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水からなる18℃の凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体シートを得た。前駆体シートを凝固浴から取り出し、PETフィルムを前駆体シートから剥離した後、前駆体シートを水からなる室温の洗浄液(脱溶剤浴)に浸漬し、溶媒であるDMFを除去して樹脂シートを得た。その後、樹脂シートを乾燥して保持パッドを得た。
【0076】
〔比較例1〕
実施例1におけるUV硬化性樹脂(スリーボンド社製「ThreeBond 3094」)に代えて熱融着型接着テープであるウレタン系ホットメルト接着シートを用いたことと、熱融着型接着テープを介して保持パッドと枠材とを重ね合わせた後に125℃で40秒熱圧着して固定したこと以外は、実施例1と同様の操作により比較例1の保持具を得た。その後、比較例1にて得られた保持具を平坦で水平な台に静置し、水平な台を基準として最も浮き上がっている箇所の浮き上がり高さを測定したところ、100mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、研磨加工分野の被研磨物の保持具として産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0078】
1…被研磨物ホルダ、2…研磨パッド、3…研磨用定盤、10…保持具、12…保持パッド、14…枠材、W…被研磨物。
図1