(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050265
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】鋳型、制御設備及び鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/16 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
B22D11/16 104B
B22D11/16 A
B22D11/16 104R
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157025
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 則親
(72)【発明者】
【氏名】田村 匠
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004AA08
4E004MC12
(57)【要約】
【課題】スリット溝の特殊加工をすることなく温度検出間隔を短くできる鋳型を提供する。
【解決手段】鋼の連続鋳造に用いられる鋳型であって、前記鋳型は複数の鋳型銅板を有し、前記複数の鋳型銅板の少なくとも1つは、鋳造方向に異なる少なくとも2段の位置に前記鋳型銅板の幅方向に渡って埋設される光ファイバー式温度センサーを有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造に用いられる鋳型であって、
前記鋳型は複数の鋳型銅板を有し、
前記複数の鋳型銅板の少なくとも1つは、鋳造方向に異なる少なくとも2段の位置に前記鋳型銅板の幅方向に渡って埋設される光ファイバー式温度センサーを有する、鋳型。
【請求項2】
前記光ファイバー式温度センサーはFBG方式の光ファイバー式温度センサーであり、
前記光ファイバー式温度センサーには複数の回折格子が50mm以下の間隔で設けられ、各段の回折格子は、前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置に設けられる、請求項1に記載の鋳型。
【請求項3】
前記光ファイバー式温度センサーはOFDR方式の光ファイバー式温度センサーである、請求項1に記載の鋳型。
【請求項4】
前記鋳型銅板の背面にはスリット溝が設けられ、
前記光ファイバー式温度センサーは、前記鋳型銅板の溶鋼側表面から厚み方向に1mmの位置から、前記スリット溝の溝底から厚み方向に1mmの位置までの間に埋設される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鋳型。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鋳型と、前記鋳型を用いて行う鋼の連続鋳造を制御する制御装置と、を有する、制御設備であって、
前記制御装置は、前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置であって鋳造方向に異なる位置の温度を用いて、凝固シェルの温度変化量が急低下もしくは急上昇したことを示す指標を算出する、制御設備。
【請求項6】
請求項4に記載の鋳型と、前記鋳型を用いて行う鋼の連続鋳造を制御する制御装置と、を有する、制御設備であって、
前記制御装置は、前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置であって鋳造方向に異なる位置の温度を用いて、凝固シェルの温度変化量が急低下もしくは急上昇したことを示す指標を算出する、制御設備。
【請求項7】
前記光ファイバー式温度センサーは、鋳造方向に異なるi段(i=2~4)の位置に埋設され、
前記制御装置は、下記(1)~(3)式のいずれかを用いて前記指標であるM値を算出する、請求項5に記載の制御設備。
i=4の場合
M=|[ΔT1×{t-(L4-L1)/VR(t)}×(ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}×(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}]b|+|(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}×ΔT4(t)]c|・・・(1)
i=3の場合
M=|[ΔT1×{t-(L3-L1)/VR(t)}×ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}×ΔT3(t)]b|・・・(2)
i=2の場合
M=|[ΔT1×{t-(L2-L1)/VR(t)}×ΔT2(t)]a|・・・(3)
上記(1)~(3)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、b、cは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であり、下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。
【請求項8】
前記光ファイバー式温度センサーは、鋳造方向に異なるi段(i=2~4)の位置に埋設され、
前記制御装置は、下記(1)~(3)式のいずれかを用いて前記指標であるM値を算出する、請求項6に記載の制御設備。
i=4の場合
M=|[ΔT1×{t-(L4-L1)/VR(t)}×(ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}×(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}]b|+|(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}×ΔT4(t)]c|・・・(1)
i=3の場合
M=|[ΔT1×{t-(L3-L1)/VR(t)}×ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}×ΔT3(t)]b|・・・(2)
i=2の場合
M=|[ΔT1×{t-(L2-L1)/VR(t)}×ΔT2(t)]a|・・・(3)
上記(1)~(3)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、b、cは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であり、下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。
【請求項9】
前記制御装置は、前記M値を用いて縦割れ欠陥及びブレークアウトの少なくとも一方の発生を予測する、請求項7に記載の制御設備。
【請求項10】
前記制御装置は、前記M値を用いて縦割れ欠陥及びブレークアウトの少なくとも一方の発生を予測する、請求項8に記載の制御設備。
【請求項11】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鋳型を用いる鋼の連続鋳造方法であって、
前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置であって鋳造方向に異なる位置の温度を用いて、凝固シェルの温度変化量が急低下もしくは急上昇したことを示す指標を算出し、前記指標を操業指標に用いる、鋼の連続鋳造方法。
【請求項12】
請求項4に記載の鋳型を用いる鋼の連続鋳造方法であって、
前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置であって鋳造方向に異なる位置の温度を用いて、凝固シェルの温度変化量が急低下もしくは急上昇したことを示す指標を算出し、前記指標を操業指標に用いる、鋼の連続鋳造方法。
【請求項13】
前記光ファイバー式温度センサーは、鋳造方向に異なるi段(i=2~4)の位置に埋設され、
下記(1)~(3)式のいずれかを用いて前記指標であるM値を算出する、請求項11に記載の鋼の連続鋳造方法。
i=4の場合
M=|[ΔT1×{t-(L4-L1)/VR(t)}×(ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}×(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}]b|+|(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}×ΔT4(t)]c|・・・(1)
i=3の場合
M=|[ΔT1×{t-(L3-L1)/VR(t)}×ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}×ΔT3(t)]b|・・・(2)
i=2の場合
M=|[ΔT1×{t-(L2-L1)/VR(t)}×ΔT2(t)]a|・・・(3)
上記(1)~(3)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、b、cは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であり、下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。
【請求項14】
前記光ファイバー式温度センサーは、鋳造方向に異なるi段(i=2~4)の位置に埋設され、
下記(1)~(3)式のいずれかを用いて前記指標であるM値を算出する、請求項12に記載の鋼の連続鋳造方法。
i=4の場合
M=|[ΔT1×{t-(L4-L1)/VR(t)}×(ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}×(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}]b|+|(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}×ΔT4(t)]c|・・・(1)
i=3の場合
M=|[ΔT1×{t-(L3-L1)/VR(t)}×ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}×ΔT3(t)]b|・・・(2)
i=2の場合
M=|[ΔT1×{t-(L2-L1)/VR(t)}×ΔT2(t)]a|・・・(3)
上記(1)~(3)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、b、cは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であって下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。
【請求項15】
前記M値を縦割れ欠陥及びブレークアウトのうちの少なくとも一方の予測に用いる、請求項13に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項16】
前記M値を縦割れ欠陥及びブレークアウトのうちの少なくとも一方の予測に用いる、請求項14に記載の鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造において鋳型内の凝固シェルに発生する縦割れ欠陥やブレークアウト(凝固シェルの破れ)につながる異常現象を精度良く検知するための鋳型、縦割れ欠陥やブレークアウトを高精度に予測できる制御設備及び鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては高生産性ならびに高品質への要求がより厳しくなっている。特に溶鋼が凝固する段階である連続鋳造機の鋳型内の凝固シェルを正常に成長させることは、連続鋳造の安定操業及び製造されるスラブの品質を維持、向上させる観点で極めて重要である。特に、凝固シェルからの溶鋼の流出(ブレークアウト)は、連続鋳造の操業及び設備保全上の大問題になるので、従来から様々なブレークアウトの検知方法が提案されている。
【0003】
ブレークアウトの検知方法としては、鋳型銅板に熱電対を埋設し、熱電対から得られる温度情報から異常を検知する方法や、鋳型振動系設備もしくは鋳型に圧力測定用の測定機器を設置し、その抗力もしくは摩擦力の変化から異常を検知する方法が提案されている。特許文献1には、鋳型銅板に上下2段にシース熱電対を埋設し、この温度測定結果に基づいてブレークアウトを検知する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、縦割れ欠陥やブリード、湯漏れ程度の小規模のブレークアウトを検知するには幅方向の熱電対間隔が100~200mmであると広く、すり抜けが起きる場合があるという課題があった。これらの課題に対応するには、幅方向の熱電対間隔を100mmより狭くすることが有効であると考えられる。
【0006】
ここで、従来のシース熱電対が設けられた鋳型銅板について説明する。
図1は、背面にバックアッププレートが固定された従来の鋳型銅板102を示す模式図である。
図1(a)はバックアッププレート側からみた背面図であり、
図1(b)は
図1(a)のA-A断面図である。
【0007】
鋳型銅板102の背面には鋳造方向に沿って複数のスリット溝106が形成される。バックアッププレート104は、鋳型銅板102の背面にスタッドボルト108によって固定される。鋳型銅板102の背面にバックアッププレート104が固定されることで、スリット溝106は、鋳型銅板102を冷却する冷却媒体が通過する冷却水路となる。
【0008】
鋳型銅板102には、鋼の連続鋳造中に鋳型の温度を測定するために、鋳型銅板102の鋳造方向に異なる2段の位置に、幅方向に複数のシース熱電対110が埋設される。シース熱電対110は、バックアッププレート104を貫通し、鋳型銅板102の背面側から串刺し式に差し込まれて設けられる。シース熱電対110は、スタッドボルト108と同様にスリット溝106を避けた位置に配置される。従って、シース熱電対110は、必然的にスタッドボルト108が設けられる位置の近傍に設けられる。
【0009】
スタッドボルト108は、鋳型銅板102の幅方向に200mm程度の間隔で設けられる。このため、シース熱電対110もスタッドボルト108と同様に200mm程度の間隔で設けられる。シース熱電対110を100mm以下の間隔で設けるには、鋳型銅板102及びバックアッププレート104に多数の差し込み穴を設けることになるので、バックアッププレート104の強度が低下するという問題が生じる。さらに、シース熱電対110の差し込み穴とスリット溝106とが連通することを回避するために、スリット溝106を曲線的に加工するという特殊な加工が必要になる。さらに、シース熱電対110の配線も特殊な仕様にする必要があるという問題が生じる。このような問題のため、幅方向の温度検出間隔が短くなるように設備仕様を変更できないという課題があった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みてなされたものであり、スリット溝の特殊加工をすることなく温度検出間隔を短くできる鋳型、当該鋳型を含む制御設備及び鋼の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 鋼の連続鋳造に用いられる鋳型であって、前記鋳型は複数の鋳型銅板を有し、前記複数の鋳型銅板の少なくとも1つは、鋳造方向に異なる少なくとも2段の位置に前記鋳型銅板の幅方向に渡って埋設される光ファイバー式温度センサーを有する、鋳型。
[2] 前記光ファイバー式温度センサーはFBG方式の光ファイバー式温度センサーであり、前記光ファイバー式温度センサーには複数の回折格子が50mm以下の間隔で設けられ、各段の回折格子は、前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置に設けられる、[1]に記載の鋳型。
[3] 前記光ファイバー式温度センサーはOFDR方式の光ファイバー式温度センサーである、[1]に記載の鋳型。
[4] 前記鋳型銅板の背面にはスリット溝が設けられ、前記光ファイバー式温度センサーは、前記鋳型銅板の溶鋼側表面から厚み方向に1mmの位置から、前記スリット溝の溝底から厚み方向に1mmの位置までの間に埋設される、[1]から[3]のいずれかに記載の鋳型。
[5] [1]から[3]のいずれかに記載の鋳型と、前記鋳型を用いて行う鋼の連続鋳造を制御する制御装置と、を有する、制御設備であって、前記制御装置は、前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置であって鋳造方向に異なる位置の温度を用いて、凝固シェルの温度変化量が急低下もしくは急上昇したことを示す指標を算出する、制御設備。
[6] [4]に記載の鋳型と、前記鋳型を用いて行う鋼の連続鋳造を制御する制御装置と、を有する、制御設備であって、前記制御装置は、前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置であって鋳造方向に異なる位置の温度を用いて、凝固シェルの温度変化量が急低下もしくは急上昇したことを示す指標を算出する、制御設備。
[7] 前記光ファイバー式温度センサーは、鋳造方向に異なるi段(i=2~4)の位置に埋設され、前記制御装置は、下記(1)~(3)式のいずれかを用いて前記指標であるM値を算出する、[5]に記載の制御設備。
i=4の場合
M=|[ΔT1×{t-(L4-L1)/VR(t)}×(ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}×(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}]b|+|(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}×ΔT4(t)]c|・・・(1)
i=3の場合
M=|[ΔT1×{t-(L3-L1)/VR(t)}×ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}×ΔT3(t)]b|・・・(2)
i=2の場合
M=|[ΔT1×{t-(L2-L1)/VR(t)}×ΔT2(t)]a|・・・(3)
上記(1)~(3)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、b、cは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であり、下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。
[8] 前記光ファイバー式温度センサーは、鋳造方向に異なるi段(i=2~4)の位置に埋設され、前記制御装置は、下記(1)~(3)式のいずれかを用いて前記指標であるM値を算出する、[6]に記載の制御設備。
i=4の場合
M=|[ΔT1×{t-(L4-L1)/VR(t)}×(ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}×(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}]b|+|(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}×ΔT4(t)]c|・・・(1)
i=3の場合
M=|[ΔT1×{t-(L3-L1)/VR(t)}×ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}×ΔT3(t)]b|・・・(2)
i=2の場合
M=|[ΔT1×{t-(L2-L1)/VR(t)}×ΔT2(t)]a|・・・(3)
上記(1)~(3)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、b、cは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であり、下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。
[9] 前記制御装置は、前記M値を用いて縦割れ欠陥及びブレークアウトの少なくとも一方の発生を予測する、[7]に記載の制御設備。
[10] 前記制御装置は、前記M値を用いて縦割れ欠陥及びブレークアウトの少なくとも一方の発生を予測する、[8]に記載の制御設備。
[11] [1]から[3]のいずれかに記載の鋳型を用いる鋼の連続鋳造方法であって、前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置であって鋳造方向に異なる位置の温度を用いて、凝固シェルの温度変化量が急低下もしくは急上昇したことを示す指標を算出し、前記指標を操業指標に用いる、鋼の連続鋳造方法。
[12] [4]に記載の鋳型を用いる鋼の連続鋳造方法であって、前記鋳型銅板の幅方向に同じ位置であって鋳造方向に異なる位置の温度を用いて、凝固シェルの温度変化量が急低下もしくは急上昇したことを示す指標を算出し、前記指標を操業指標に用いる、鋼の連続鋳造方法。
[13] 前記光ファイバー式温度センサーは、鋳造方向に異なるi段(i=2~4)の位置に埋設され、下記(1)~(3)式のいずれかを用いて前記指標であるM値を算出する、[11]に記載の鋼の連続鋳造方法。
i=4の場合
M=|[ΔT1×{t-(L4-L1)/VR(t)}×(ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}×(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}]b|+|(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}×ΔT4(t)]c|・・・(1)
i=3の場合
M=|[ΔT1×{t-(L3-L1)/VR(t)}×ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}×ΔT3(t)]b|・・・(2)
i=2の場合
M=|[ΔT1×{t-(L2-L1)/VR(t)}×ΔT2(t)]a|・・・(3)
上記(1)~(3)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、b、cは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であり、下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。
[14] 前記光ファイバー式温度センサーは、鋳造方向に異なるi段(i=2~4)の位置に埋設され、下記(1)~(3)式のいずれかを用いて前記指標であるM値を算出する、[12]に記載の鋼の連続鋳造方法。
i=4の場合
M=|[ΔT1×{t-(L4-L1)/VR(t)}×(ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}×(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}]b|+|(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}×ΔT4(t)]c|・・・(1)
i=3の場合
M=|[ΔT1×{t-(L3-L1)/VR(t)}×ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}×ΔT3(t)]b|・・・(2)
i=2の場合
M=|[ΔT1×{t-(L2-L1)/VR(t)}×ΔT2(t)]a|・・・(3)
上記(1)~(3)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、b、cは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であって下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。
[15] 前記M値を縦割れ欠陥及びブレークアウトのうちの少なくとも一方の予測に用いる、[13]に記載の鋼の連続鋳造方法。
[16] 前記M値を縦割れ欠陥及びブレークアウトのうちの少なくとも一方の予測に用いる、[14]に記載の鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0012】
光ファイバー式温度センサーが埋設された鋳型を用いることでスリット溝の特殊加工をすることなく、鋳型の温度検出間隔を短くできる。この鋳型を用いて連続鋳造中の鋳型温度を監視することで、従来よりも高い精度で縦割れ欠陥やブレークアウトの原因となる凝固シェルの異常成長が予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、背面にバックアッププレートが固定された従来の鋳型銅板102を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る鋳型12を有し、鋼の連続鋳造が実施できる連続鋳造設備10の一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る鋳型12を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、背面にバックアッププレートが固定された鋳型長辺銅板40を示す模式図である。
【
図5】
図5は、光ファイバー式温度センサー50を鋳型長辺銅板40に埋設する方法を示す模式図である。
【
図6】
図6は、制御装置60の構成の一例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、背面にバックアッププレートが固定された鋳型長辺銅板80を示す模式図である。
【
図8】
図8は、背面にバックアッププレートが固定された鋳型長辺銅板90を示す模式図である。
【
図9】
図9は、背面にバックアッププレートが固定された鋳型長辺銅板94を示す模式図である。
【
図10】
図10は、幅方向に隣り合う4つの位置のM値の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を本発明の実施形態を通じて説明する。以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、これらの実施形態によって何ら限定されるものではない。
【0015】
図2は、本実施形態に係る鋳型12を有し、鋼の連続鋳造が実施できる連続鋳造設備10の一例を示す断面模式図である。連続鋳造設備10は、鋳型12と、鋳型12の上方に設置されるタンディッシュ14と、鋳型12の下方に複数並べて配置される鋳片支持ロール16と、搬送ロール17と、複数の二次冷却帯26と、鋳片切断機30と、制御装置60とを有する。図示を省略してあるが、タンディッシュ14の上方には、溶鋼18を収容する取鍋が設置され、取鍋の底部からタンディッシュ14に溶鋼18が注入される。タンディッシュ14の底部には、浸漬ノズル20が設置され、当該浸漬ノズル20を介して溶鋼18が鋳型12に注入される。溶鋼18は、鋳型12の内面から抜熱されて凝固し、凝固シェル22が形成される。これにより、凝固シェル22を外殻とし、溶鋼18からなる未凝固層24を内部に有する鋳片28が形成される。
【0016】
鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロール16の間隙には、スプレーノズル(図示せず)が配置された二次冷却帯26が、鋳型12の直下から鋳造方向に沿って複数設置されている。二次冷却帯26のスプレーノズルから噴出される冷却水によって、鋳片28は、引き抜かれながら冷却される。鋳片28が、鋳片支持ロール16で搬送されて、複数の二次冷却帯26を通過している間に、凝固シェル22が適切に冷却されて未凝固層24の凝固が進み、鋳片28の凝固が完了する。
【0017】
鋳造方向の下流側には、鋳片28を引き続き搬送するための搬送ロール17が複数設置されている。搬送ロール17の上方には、鋳片28を切断するための鋳片切断機30が配置されている。凝固完了後の鋳片28は、鋳片切断機30によって、所定の長さに切断されて、スラブ29が製造される。
【0018】
図3は、本実施形態に係る鋳型12を示す斜視図である。
図3に示すように、鋳型12は、複数の鋳型銅板から構成される。本実施形態において複数の鋳型銅板は、例えば、一対の鋳型長辺銅板40と一対の鋳型短辺銅板42である。
【0019】
図4は、背面にバックアッププレートが固定された鋳型長辺銅板40を示す模式図である。
図4(a)はバックアッププレート側からみた背面図であり、
図4(b)は
図4(a)のB-B断面図である。なお、
図1に示した鋳型銅板102と同じ構成には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
【0020】
鋳型長辺銅板40には、FBG方式の光ファイバー式温度センサー50が設けられる。FBG(Fiber Bragg Grating)方式の光ファイバー式温度センサーは、特定の波長を回折させる回折格子を光ファイバーに設け、当該回折格子におけるBragg回折現象を利用して温度を検出する温度センサーである。
【0021】
図4(a)、(b)に示すように、鋳型長辺銅板40の背面には鋳造方向に沿って複数のスリット溝106が形成される。バックアッププレート44は、鋳型長辺銅板40の背面にスタッドボルト108によって固定される。鋳型長辺銅板40には、光ファイバー式温度センサー50が鋳造方向に異なる4段の位置に埋設される。
【0022】
4段の光ファイバー式温度センサー50は、鋳型長辺銅板40のメニスカス(湯面位置)下50~600mmの範囲に設けられることが好ましい。本実施形態に係る鋳型長辺銅板40では、1段目の光ファイバー式温度センサー50がメニスカス下50mmの位置に埋設され、2段目の光ファイバー式温度センサー50がメニスカス下150mmの位置に埋設される。また、3段目の光ファイバー式温度センサー50がメニスカス下250mmの位置に埋設され、4段目の光ファイバー式温度センサー50がメニスカス下350mmの位置に埋設される。1~4段の光ファイバー式温度センサー50には、回折格子52が50mm以下の間隔で設けられている。1~4段の光ファイバー式温度センサー50は、各段の回折格子52の幅方向の位置が同じになるように、回折格子52の幅方向の位置が各段で揃えられて埋設される。
【0023】
FBG方式の光ファイバー式温度センサー50では、回折格子52が設けられている位置の温度が検出される。このため、
図4に示した鋳型長辺銅板40では、鋳造方向に異なる4段の位置であって、幅方向に50mm以下の間隔で凝固シェル22の温度が反映された鋳型温度を検出できる。
【0024】
図5は、光ファイバー式温度センサー50を鋳型長辺銅板40に埋設する方法を示す模式図である。
図5(a)は穴加工後の鋳型長辺銅板40を示す斜視図である。
図5(b)は光ファイバー式温度センサー50を示す斜視図である。
図5(c)は光ファイバー式温度センサー50と銅パイプ56との二重管58を示す斜視図である。
【0025】
図5(a)に示すように、鋳型長辺銅板40は、鋳型長辺銅板40の一方の側面から他方の側面に向けて水平に4本の穴48が放電加工される。光ファイバー式温度センサー50が穴48に差し込まれることによって、光ファイバー式温度センサー50が鋳型長辺銅板40に埋設される。
図5(b)に示した光ファイバー式温度センサー50の直径は1mm程度である。このため、光ファイバー式温度センサー50を鋳型長辺銅板40に差し込んで埋設する場合には、光ファイバー式温度センサー50の直径に対応した直径1mm程度の穴48が鋳型長辺銅板40の幅方向の全長にわたって必要になる。
【0026】
しかしながら、直径1mm程度の穴48を鋳型長辺銅板40の幅方向長さである2500mmにわたって放電加工することは困難である。さらに、可撓性を有する光ファイバー式温度センサー50を2500mmの長さの穴48に挿入することも困難である。
【0027】
このため、
図5(c)に示すように、直径3~5mmの銅パイプ56に光ファイバー式温度センサー50を差し込んで構成される二重管58を用いることが好ましい。
図5(c)に示した二重管58を用いることで、鋳型長辺銅板40に放電加工する穴48の直径が3~5mmになるので、鋳型長辺銅板40への放電加工が容易になる。さらに、光ファイバー式温度センサー50を埋設するのに、剛直な二重管58を鋳型長辺銅板40に挿入することになるので、光ファイバー式温度センサー50の鋳型長辺銅板40への埋設作業性も向上する。
【0028】
穴48は、鋳型長辺銅板40の溶鋼側表面から厚み方向に1mmの位置からスリット溝106の溝底から厚み方向に1mmの位置までの間に設けられることが好ましい。これにより、摩耗等によって変化する鋳型長辺銅板40の溶鋼側表面の影響や、冷却水温やスリット溝の表面状況の影響を小さくできる。穴48は、溶鋼側表面から厚み方向に5mmの位置からスリット溝106の溝底から厚み方向に5mmの位置までの間に設けられることがより好ましい。これにより、摩耗等によって変化する鋳型長辺銅板40の溶鋼側表面の影響や、冷却水温やスリット溝106の表面状況の影響をさらに小さくできる。
【0029】
このように、鋳型長辺銅板40では、バックアッププレート44に貫通穴を設けることなく、光ファイバー式温度センサー50を鋳型長辺銅板40に埋設できる。さらに、光ファイバー式温度センサー50を埋設する穴48は、スリット溝106と連通しない位置に設けられることから、スリット溝106を曲線的に加工する必要もない。これらのことから、鋳型長辺銅板40を有する本実施形態に係る鋳型12は、スリット溝106の特殊加工をすることなく、鋳型幅方向の温度検出間隔を短くできる鋳型となる。さらに、バックアッププレート44に貫通穴を設けることなく、光ファイバー式温度センサー50を鋳型長辺銅板40に埋設できるので、バックアッププレート44の強度低下も抑制できる。
【0030】
再び、
図4を参照する。インテロゲータ54は、光ファイバー式温度センサー50の端部に接続される。インテロゲータ54は、光ファイバー式温度センサー50内に光を入射するとともに、各回折格子52からの反射光を分析して温度データを作成する。インテロゲータ54は、作成した温度データを鋳型長辺銅板40における回折格子52の位置を示す識別情報とともに制御装置60に出力する。回折格子52の位置を示す識別情報とは、例えば、基準位置からの幅方向の順番及び段数を含む情報である。例えば、4段目の光ファイバー式温度センサーに設けられる右端(基準位置)から20番目の回折格子に対しては、20-4が回折格子52の位置を示す情報になる。
【0031】
図6は、制御装置60の構成の一例を示す模式図である。制御装置60は、例えば、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータである。鋳型12を含む制御装置60が連続鋳造を制御する制御設備となる。
【0032】
制御装置60は、制御部62と、入力部64と、出力部66と、記憶部68とを有する。制御部62は、例えば、CPU等であって、記憶部68から読み込んだプログラムを実行することにより、制御部62を温度データ取得部70、演算部72として機能させる。記憶部68は、例えば、更新記録可能なフラッシュメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、メモリーカード等の情報記録媒体及びその読み書き装置である。記憶部68には、制御部62が各機能を実行するためのプログラムや当該プログラムが使用するデータ等が格納されている。入力部64は、例えば、キーボード、ディスプレイと一体的に設けられたタッチパネル等である。出力部66は、例えば、LCD又はCRTディスプレイ等である。
【0033】
次に、温度データ取得部70及び演算部72が実行する処理について説明する。温度データ取得部70は、インテロゲータ54からサンプリング時間0.5~1.0秒で温度データと回折格子52の位置を示す情報を取得する。鋳造速度3.0m/minの高速鋳造では50mm/secで鋳型12から鋳片28が引き抜かれるので、0.5~1.0秒ごとに温度データを取得することで、50mm以下のピッチで凝固シェル22の温度が反映された鋳型温度を検出できる。温度データ取得部70は、取得した温度データと回折格子52の位置を示す情報を演算部72に出力する。
【0034】
演算部72は、温度データ取得部70から10秒以上温度データを取得すると、下記(1)式等を記憶部68から読みだす。演算部72は、幅方向の位置が同じであって鋳造方向に位置が異なる4つの回折格子52から検出された温度データと下記(1)式とを用いてM値を算出する。演算部72は、M値の算出を鋳型長辺銅板40の幅方向の位置ごとに実施する。
【0035】
M=|[ΔT1×{t-(L4-L1)/VR(t)}×(ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L4-L2)/VR(t)}×(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}]b|+|(ΔT3×{t-(L4-L3)/VR(t)}×ΔT4(t)]c|・・・(1)
上記(1)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、b、cは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であり、下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。
【0036】
なお、計算に使用する時間刻みΔtはサンプリング時間と同じ0.5~1.0秒であることが好ましく、平均温度の算出に用いる時間nは5~10秒であることが好ましい。また、重み付け係数a、b、cは経験的に定められる係数である。例えば、最上段の温度センサーは溶鋼の湯面変動の影響により誤検知しやすいので重み付け係数aを、他の重み付け係数b、cよりも小さい値にすることが好ましい。一方、最下段は縦割れや異物の噛み込みによって温度差が出ている可能性が高いので、重み付け係数cを、重み付け係数a、bよりも大きな値にすることが好ましい。
【0037】
上記(1)式から算出されるM値は、凝固シェル22の温度変化量が急低下もしくは急上昇したことを示す指標となる。縦割れ欠陥やブレークアウトの原因となる凝固シェル22の異常成長が発生すると、凝固シェル22の温度変化量が大きくなるのでM値が大きくなる。このため、凝固シェル22の異常成長が発生し始めたときのM値を閾値として予め定めておけば、算出されたM値が閾値を超えたか否かを判断することで、縦割れ欠陥やブレークアウトの発生を予測できるようになる。このように、M値を用いることで縦割れ欠陥やブレークアウトの発生を予測できるので、当該M値は、縦割れ欠陥やブレークアウトの発生を抑制し、安定して鋼の連続鋳造を実施するための操業指標となる。
【0038】
なお、M値の閾値は、連続鋳造する鋼種、モールドフラックスの種類及びサンプリング時間別にグルーピングし、このグループ別に過去の実績データに基づいて経験的に定めることが好ましい。また、M値の閾値は、予め定められて記憶部68に格納されていてもよく、入力部64を介してオペレータから入力されてもよい。
【0039】
演算部72は、算出されたM値が閾値を超えているか否かを判断する。算出されたM値がM値の閾値を超えていると判断すると、演算部72は、縦割れ欠陥やブレークアウトの発生を予測し、例えば、縦割れ欠陥やブレークアウトが発生する危険があることを示す警告表示を出力部66に表示させる。これにより、オペレータは縦割れ欠陥やブレークアウトの発生を事前に予測することができ、その対策をとることができる。例えば、ブレークアウトの発生が予測された場合には鋳造速度を低下させることで、溶鋼18が鋳型12の下端から漏れ出るのを防ぐことができる。
【0040】
一方、算出されたM値が閾値以下であると判断すると、演算部72は、縦割れ欠陥やブレークアウトの発生を予測せず、次のM値の算出処理まで待機する。演算部72は、M値をΔt(0.5~1.0秒)の間隔で算出し、上述した処理を繰り返し実行する。なお、M値は、縦割れ欠陥やブレークアウトの発生の予測に限らず、連続鋳造する鋼種とモールドパウダーとの組み合わせが適切かどうかの評価に用いることができる。このため、M値はモールドパウダーの品質管理やロット管理の指標としても用いることができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係る光ファイバー式温度センサーが埋設された鋳型を用いることで、スリット溝の特殊加工をすることなく、鋳型の幅方向における温度検出間隔を短くできる。さらに、当該鋳型から得られる温度データと上記(1)とから算出されるM値を操業指標として用いることで、従来よりも高い精度で縦割れ欠陥やブレークアウトの発生を予測でき、安定した鋼の連続鋳造の実現に寄与できる。
【0042】
なお、本発明の実施形態は、上記実施形態に限定されず、種々の変更を加えることができる。
図4には、鋳型12が鋳型長辺銅板40と鋳型短辺銅板42から構成される例を示したが、これに限らず、鋳型12は幅寸法が等しい4枚の鋳型銅板から構成されてもよい。さらに、
図4には、鋳型長辺銅板40に光ファイバー式温度センサー50を埋設した例を示したが、鋳型短辺銅板42に光ファイバー式温度センサー50を埋設してもよい。光ファイバー式温度センサー50は、鋳型12を構成する複数の鋳型銅板のうちの少なくとも1つに設けられていればよい。
【0043】
また、
図4には、鋳型長辺銅板40の背面にスリット溝106が設けられる例を示したが、これに限らず、スリット溝106に代えて、鋳型長辺銅板40の背面に冷却媒体が通過する穴を設けてもよい。このように、鋳型長辺銅板40の背面に穴が設けられる場合、鋳型長辺銅板40の背面にバックアッププレート44を固定しなくてもよい。
【0044】
また、
図4には、光ファイバー式温度センサー50を鋳造方向に異なる4段の位置に設けた例を示したが、これに限らない。光ファイバー式温度センサー50は、鋳造方向に異なる少なくとも2段以上の位置に設けられていればよい。光ファイバー式温度センサー50が鋳造方向に異なる3段の位置に設けられる場合、M値は下記(2)式で算出できる。さらに、光ファイバー式温度センサー50が鋳造方向に異なる2段の位置に設けられる場合、M値は下記(3)式で算出できる。
【0045】
M=|[ΔT1×{t-(L3-L1)/VR(t)}×ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}]a|+|[ΔT2×{t-(L3-L2)/VR(t)}×ΔT3(t)]b|・・・(2)
M=|[ΔT1×{t-(L2-L1)/VR(t)}×ΔT2(t)]a|・・・(3)
上記(2)、(3)式において、Liはi段目の光ファイバー式温度センサーのメニスカスからの距離(m)であり、VR(t)は時間tにおける鋳造速度(m/sec)であり、Δtは計算に使用する時間刻み(sec)であり、a、bは上下段センサーの重み付け係数であり、ΔTi(t)は温度変化量(℃/sec)であって下記(4)式で算出される値である。
ΔTi(t)={Tiave(t)-Ti(t)}/Δt・・・(4)
上記(4)式において、Tiave(t)は時間tよりもn秒前の平均温度(℃)であり、Ti(t)は時間tにおけるi段目の光ファイバー式温度センサーの温度(℃)である。なお、Δt及びnは(1)式と同じ値を用いることができ、重み付け係数a、bは(1)式と同様に経験的に定めることができる。
【0046】
また、
図4、6には、インテロゲータ54及び制御装置60を別々の装置として説明したが、インテロゲータ54と制御装置60は同一の装置で構成されていてもよい。さらに、上記実施形態では、制御装置60がM値を算出する例で説明したが、これに限らず、上記(1)式とインテロゲータ54から出力される温度データを用いてオペレータがM値を算出してもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、鋳型長辺銅板40に埋設された光ファイバー式温度センサー50から検出される温度を用いてM値を算出するとして説明したが、これに限らない。鋳型長辺銅板40の幅方向の両端部付近は急激に温度上昇や温度低下が発生するので鋳型長辺銅板40の両端部から所定位置(20mm程度)までの範囲から検出される温度はM値の算出に用いないとしてもよい。これにより、誤検知を抑制できる。
【0048】
図7は、背面にバックアッププレートが固定された鋳型長辺銅板80を示す模式図である。
図7(a)はバックアッププレート側からみた背面図であり、
図7(b)は
図7(a)のC-C断面図である。
図7を用いて、FBG方式の光ファイバー式温度センサーを埋設した鋳型長辺銅板の別例を説明する。なお、
図4に示した鋳型長辺銅板40と同じ構成には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
【0049】
鋳型長辺銅板80には、光ファイバー式温度センサー50の略半分の長さの光ファイバー式温度センサー82が鋳型長辺銅板80の左右の側面から差し込まれて埋設されている。このように、
図4に示した光ファイバー式温度センサー50の半分の長さの光ファイバー式温度センサー82を幅方向の中央線に対して左右対称に鋳型長辺銅板80に埋設してもよい。これにより、穴48の放電加工の長さが短くなり、且つ、埋設時の光ファイバー式温度センサー82の差し込み量も少なくなるので、放電加工性及び埋設作業性が向上する。また、インテロゲータ54が解析する回折格子52の数が少なくなるので、解析できる回折格子52の数が少ないインテロゲータ54であっても用いることができるようになり、汎用性が向上する。
【0050】
図8は、背面にバックアッププレートが固定された鋳型長辺銅板90を示す模式図である。
図8(a)はバックアッププレート側からみた背面図であり、
図8(b)は
図8(a)のD-D断面図である。
図8を用いて、OFDR方式の光ファイバー式温度センサーを埋設した鋳型長辺銅板90を説明する。なお、
図4に示した鋳型長辺銅板40と同じ構成には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
【0051】
OFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)方式は、レイリー散乱による後方散乱光を利用し、特定範囲からの後方散乱光の強度分布をフーリエ変換して周波数の変化を求め、当該周波数の変化から温度を求める方法である。このため、OFDR方式の光ファイバー式温度センサー92は、光ファイバー内に回折格子を設けることなく特定範囲の温度が検出できるので、光ファイバー全長が温度センサーとして機能する。
【0052】
一方、FBG方式の測定距離が数kmであるのに対し、OFDR方式の測定距離は数十mと短いというデメリットがある。しなしながら、鋳型長辺銅板90の幅方向の寸法は長くても3m程度であるので、測定距離が数十mあれば鋳型長辺銅板90の幅方向の温度範囲を十分にカバーできる。したがって、光ファイバー式温度センサーとしてはOFDR方式の光ファイバー式温度センサー92を用いることが好ましい。
【0053】
図8に示すように、OFDR方式の光ファイバー式温度センサー92も、FBG方式の光ファイバー式温度センサーと同様に鋳型長辺銅板90に埋設できる。さらに、
図5(c)に示したように、OFDR方式の光ファイバー式温度センサー92も、直径3~5mmの銅パイプ56に光ファイバー式温度センサー92を差し込んで二重管とし、当該二重管を鋳型長辺銅板90に挿入することで光ファイバー式温度センサー92を埋設してもよい。
【0054】
図9は、背面にバックアッププレートが固定された鋳型長辺銅板94を示す模式図である。
図9(a)はバックアッププレート側からみた背面図であり、
図9(b)は
図9(a)のE-E断面図である。
図9を用いて、OFDR方式の光ファイバー式温度センサーを埋設した鋳型長辺銅板の別例を説明する。なお、
図4に示した鋳型長辺銅板40と同じ構成には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
【0055】
鋳型長辺銅板94には、OFDR方式の光ファイバー式温度センサー92の4倍の長さの光ファイバー式温度センサー96が折り曲げられて鋳造方向に異なる4段の位置に埋設されている。OFDR方式の光ファイバー式温度センサーは測定距離が短いながらも、その測定距離が数+mある。このため、OFDR方式の光ファイバー式温度センサー92を
図9に示したように埋設することで、1本の光ファイバー式温度センサーで、鋳型長辺銅板94の4段分の温度測定が可能になる。
【実施例0056】
次に、光ファイバー式温度センサーを埋設した鋳型長辺銅板を有する鋳型を用いて鋼の連続鋳造を実施した実施例を説明する。連続鋳造した鋼種は中炭素鋼であり、使用したモールドパウダーの塩基度は1.6~1.8であり、粘度は0.4poiseである。鋳造したスラブの厚さは220~260mmであり、スラブ幅は800~1900mmである。また、鋳型長さは820mmであり、鋳造速度VRを最大3.0m/minまでとして連続鋳造を実施した。
【0057】
実施例では、回折格子の間隔を50mm、100mm及び200mmに変えたFBG方式の光ファイバー式温度センサーとOFDR方式の光ファイバー式温度センサーとを準備した。これらの光ファイバー式温度センサーを、鋳型長辺銅板の鋳造方向に異なる4段の位置に幅方向の全長に渡って埋設し、温度センサーの間隔を連続(OFDR方式)、50mm、100mm及び200mmの4水準に変えた鋳型長辺銅板を作製した。鋳造方向に異なる4段の位置のうち、1段目はメニスカス下50mmの位置であり、2段目はメニスカス下150mmの位置であり、3段目はメニスカス下250mmの位置であり、4段目はメニスカス下350mmの位置である。比較例1、2は従来のシース熱電対を上記光ファイバー式温度センサーと同じ鋳造方向に異なる4段の位置に、100mm又は200mmの間隔で鋳型長辺銅板に埋設した比較例である。
【0058】
連続鋳造中、発明例についてはインテロゲータから出力される温度データを収集し、比較例では、シース熱電対から出力される温度データを収集し、幅方向の位置ごとにM値を算出した。そして、算出されたM値を予め定められた閾値と比較し、当該M値を超えた場合に幅方向の位置を記録した。その後、鋳造されたスラブに対して縦割れ、拘束マーク又は異物噛み込みを目視にて確認し、算出されたM値が閾値を超えた幅方向の位置と、スラブに縦割れ、拘束マーク又は異物噛み込みが確認された幅方向の位置との対応関係を調査し、これにより縦割れ、拘束マーク及び異物噛み込みの検知率を算出した。この結果を下記表1に示す。
【0059】
【0060】
表1に示すように、温度センサーの間隔を50mm以下にした発明例1及び発明例2では、90%以上の検知率でスラブの縦割れ及び異物噛み込みを検知できた。さらに、拘束マークに対しては100%の検知率で検知できた。一方、温度センサーの間隔を100mm以上とした比較例1、2では、縦割れ欠陥の検知率は50%以下となり、ブレークアウトにつながる拘束マークや異物噛み込みの検知率も60~65%以下となった。この結果から、100mm以上の温度センサー間隔の比較例1、2では、多くの欠陥の見落としが発生することが確認された。
【0061】
図10は、回折格子の間隔を50mmとしたFBG方式の光ファイバー式温度センサーが埋設された鋳型長辺銅板において幅方向に隣り合う4つの位置のM値の経時変化を示すグラフである。
図10(a)~(d)において、縦軸はM値(-)であり、横軸は時間(sec)である。
図10(b)、(c)に示すように、幅位置No.5及びNo.6のM値は、28秒の位置で閾値60を超過した。一方、幅位置No.4及びNo.7のM値は、28秒の位置では10以下となった。
【0062】
鋳造後のスラブを確認したところ、幅位置No.5及びNo.6に対応した位置で直径40mm、深さ8mm程度の凹みが確認された。これはモールドパウダー等の異物を噛み込んだことによって凝固シェル厚が不足し、これにより凝固シェルの温度変化量が大きくなって、M値が大きくなったものと推定された。このような凹みが大きくなるとブレークアウトにつながることから、M値による管理がブレークアウトにつながる異常検知に有効であることが確認された。
【0063】
また、
図9(b)、(c)ではM値が閾値を超え、
図9(a)、(d)ではM値が閾値を超えなかったことから、異物噛み込みによる凝固シェルの温度変化量が影響を及ぼす範囲は、幅方向で50mmより大きく100mm未満であることがわかる。このため、表1に示したように温度センサーの間隔が100mm以上であると欠陥の見落としが多くなったものと考えられる。