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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005027
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240110BHJP
   F02B 19/12 20060101ALI20240110BHJP
   F02P 5/152 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F02D45/00 368S
F02D45/00 368A
F02B19/12 A
F02P5/152
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104999
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 建史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】新谷 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 範孝
【テーマコード(参考)】
3G022
3G023
3G384
【Fターム(参考)】
3G022DA02
3G022EA02
3G023AA06
3G023AB01
3G023AC04
3G023AD25
3G023AD28
3G384AA01
3G384AA06
3G384BA24
3G384DA55
3G384DA56
3G384EB03
3G384EB04
3G384ED07
3G384FA01Z
3G384FA29Z
3G384FA33Z
3G384FA52Z
3G384FA54Z
3G384FA56Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】ノッキングの発生と燃焼騒音の発生とを検知する。
【解決手段】主燃焼室と、副燃焼室と、副燃焼室の内部の混合気を点火する点火部とを有する内燃機関の制御装置100は、主燃焼室の圧力を検出する筒内圧センサ9と、第1周波数帯の圧力変動データを抽出するBPF53と、第1周波数帯より低い第2周波数帯の圧力変動データを抽出するBPF54と、内燃機関の燃焼サイクルごとに第1、第2周波数帯の圧力変動データに含まれる第1、第2最大振幅を算出する振幅算出部55と、第1最大振幅に基づいて主燃焼室でノッキングが発生しているか否かを判定する第1判定部56と、第2最大振幅に基づいて主燃焼室で燃焼騒音が発生しているか否かを判定する第2判定部57と、内燃機関の運転条件と判定結果とに基づいて点火部の動作を制御する点火制御部58とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内を往復動するピストンに面した主燃焼室と、噴孔を介して前記主燃焼室に連通する副燃焼室と、前記副燃焼室の内部の混合気を点火する点火部と、を有する内燃機関の制御装置であって、
前記主燃焼室の圧力を検出する圧力検出部と、
前記圧力検出部により検出された圧力の変動データから第1周波数帯の圧力変動データを抽出する第1抽出部と、
前記圧力検出部により検出された圧力の変動データから、前記第1周波数帯より低い第2周波数帯の圧力変動データを抽出する第2抽出部と、
前記内燃機関の燃焼サイクルごとに、前記第1抽出部により抽出された前記第1周波数帯の圧力変動データに含まれる第1最大振幅を算出するとともに、前記第2抽出部により抽出された前記第2周波数帯の圧力変動データに含まれる第2最大振幅を算出する振幅算出部と、
前記振幅算出部により算出された前記第1最大振幅に基づいて、前記主燃焼室でノッキングが発生しているか否かを判定する第1判定部と、
前記振幅算出部により算出された前記第2最大振幅に基づいて、前記主燃焼室で燃焼騒音が発生しているか否かを判定する第2判定部と、
前記内燃機関の運転条件と、前記第1判定部および前記第2判定部による判定結果と、に基づいて、前記点火部の動作を制御する点火制御部と、を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記第2判定部は、前記第1判定部により前記主燃焼室でノッキングが発生していないと判定されることを条件として、前記主燃焼室で燃焼騒音が発生しているか否かを判定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、
前記点火制御部は、前記第1判定部により前記主燃焼室でノッキングが発生していると判定されると第1所定量だけ点火時期を遅角するように前記点火部の動作を制御し、前記第2判定部により前記主燃焼室で燃焼騒音が発生していると判定されると前記第1所定量より小さい第2所定量だけ前記点火時期を遅角するように前記点火部の動作を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記主燃焼室でノッキングが発生しているときの前記第1最大振幅に対応する第1閾値と、前記主燃焼室で燃焼騒音が発生しているときの前記第2最大振幅に対応する第2閾値と、所定頻度と、を記憶する記憶部をさらに備え、
前記第1判定部は、前記第1最大振幅が前記記憶部に記憶された前記第1閾値を超えると、前記主燃焼室でノッキングが発生していると判定し、
前記第2判定部は、前記第2最大振幅が前記記憶部に記憶された前記第2閾値を超える頻度が前記記憶部に記憶された前記所定頻度を超えると、前記主燃焼室で燃焼騒音が発生していると判定し、
前記第1閾値と前記第2閾値と前記所定頻度とは、前記内燃機関の運転条件に応じて予め定められることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記第1周波数帯および前記第2周波数帯は、前記気筒の直径に応じて予め定められることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副燃焼室を有する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のノッキングを検出するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の装置では、筒内圧センサの出力を介して得た筒内圧信号から、ノッキングの周波数を含む所定の周波数帯域の信号を抽出し、抽出された信号に基づいて、ノッキングが発生したか否かが判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-157087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、主燃焼室と副燃焼室とを有する内燃機関では、副燃焼室から主燃焼室内に火炎を噴出させることで火炎伝播を早めるため、熱効率が高い半面、ノッキングの有無にかかわらず燃焼騒音が発生することがある。このため、ノッキングの発生だけでなく燃焼騒音の発生も検知することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、気筒内を往復動するピストンに面した主燃焼室と、噴孔を介して主燃焼室に連通する副燃焼室と、副燃焼室の内部の混合気を点火する点火部と、を有する内燃機関の制御装置であって、主燃焼室の圧力を検出する圧力検出部と、圧力検出部により検出された圧力の変動データから第1周波数帯の圧力変動データを抽出する第1抽出部と、圧力検出部により検出された圧力の変動データから、第1周波数帯より低い第2周波数帯の圧力変動データを抽出する第2抽出部と、内燃機関の燃焼サイクルごとに、第1抽出部により抽出された第1周波数帯の圧力変動データに含まれる第1最大振幅を算出するとともに、第2抽出部により抽出された第2周波数帯の圧力変動データに含まれる第2最大振幅を算出する振幅算出部と、振幅算出部により算出された第1最大振幅に基づいて、主燃焼室でノッキングが発生しているか否かを判定する第1判定部と、振幅算出部により算出された第2最大振幅に基づいて、主燃焼室で燃焼騒音が発生しているか否かを判定する第2判定部と、内燃機関の運転条件と、第1判定部および第2判定部による判定結果と、に基づいて、点火部の動作を制御する点火制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ノッキングの発生と燃焼騒音の発生とを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置が適用される内燃機関としてのエンジンの要部構成を概略的に示す図。
図2図1の矢印II-II線に沿って切断した場合のエンジンの要部を示す図。
図3図1の要部拡大図。
図4】本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置の要部構成を示すブロック図。
図5図1の主燃焼室でノッキングや燃焼騒音が発生するときの共鳴周波数について説明するための図。
図6図4の筒内圧センサにより検出される筒内圧の変動データおよびBPFにより抽出される筒内圧の変動データの一例を示す図。
図7図4のコントローラで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図7を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1は、本発明が適用される内燃機関の一例であるエンジン1の要部構成を概略的に示す図である。エンジン1は、例えばガソリンを燃料として火花点火により混合気の燃焼を行うガソリンエンジンであり、動作周期の間に吸気、膨張、圧縮および排気の4つの行程を経る4ストロークエンジンである。吸気行程の開始から排気行程の終了までを、便宜上、エンジン1の燃焼行程の1サイクルまたは燃焼サイクルと称する。エンジン1は4気筒、6気筒、8気筒等、複数の気筒を有するが、図1には、単一の気筒の構成を示す。なお、各気筒の構成は互いに同一である。燃料は、アルコールを含む燃料であってもよい。
【0009】
図1に示すように、エンジン1は、シリンダブロック11に形成された略円筒形状のシリンダ2と、シリンダ2の内壁に沿って摺動可能に配置されたピストン3と、ピストン3とシリンダヘッド12との間に形成された燃焼室4と、を有する。ピストン3は、コンロッド5を介してクランクシャフト6に連結され、シリンダ2内をピストン3が往復動することにより、クランクシャフト6が回転する。なお、ピストン3の上面は例えば凹凸状に形成されるが、図1では、便宜上、平坦面として示す。
【0010】
シリンダヘッド12には、吸気ポート13と排気ポート14とが設けられる。燃焼室4には、吸気ポート13を介して吸気通路15が連通する一方、排気ポート14を介して排気通路16が連通する。吸気ポート13は吸気バルブ17により開閉され、排気ポート14は排気バルブ18により開閉される。吸気バルブ17の上流側の吸気通路15には、スロットルバルブ19が設けられ、スロットルバルブ19により燃焼室4へ流れる吸気量が調整される。吸気バルブ17と排気バルブ18とは、不図示の動弁機構により、クランクシャフト6の回転に同期した所定のタイミングで開閉される。
【0011】
シリンダヘッド12には、燃焼室4に臨むようにインジェクタ7が装着される。インジェクタ7は、例えばシリンダブロック11の側方かつ吸気バルブ17の近傍に、先端の燃料噴射口を斜め下方に向けて配置される。インジェクタ7は、コントローラ(図4)からの指令により、吸気行程から圧縮行程にかけての範囲内で1回または複数回、燃焼室4内に燃料を噴射する。すなわち、インジェクタ7は、筒内噴射型の燃料噴射弁として構成される。なお、インジェクタ7の配置はこれに限らず、例えば吸気ポート13に面してインジェクタ7を配置し、ポート噴射型の燃料噴射弁として構成してもよい。
【0012】
図2は、シリンダ2を下方から見た図(図1の矢印II-II線に沿って切断した図)である。図2に示すように、一対の吸気バルブ17と一対の排気バルブ18との間には、シリンダ2の壁面付近に筒内圧センサ9が設けられる。筒内圧センサ9は、燃焼室4(主燃焼室41)に臨むようにシリンダヘッド12に設けられ、燃焼室4(主燃焼室41)の圧力である筒内圧、より具体的にはシリンダ2の壁面付近の筒内圧を検出する。
【0013】
図1図2に示すように、シリンダヘッド12の中央部には、吸気ポート13と排気ポート14との間において、ピストン3に向けてハウジング45が突設される。図3は、ハウジング45の周囲の構成を拡大して示す図1の要部拡大図である。図3に示すように、ハウジング45は、軸線CL1を中心とした断面略U字状、より具体的には、突出側の先端部46が略円弧状(例えば半円状ないしドーム状)に形成され、先端部46は、軸線CL1を中心とした対称形状を呈する。軸線CL1は、例えば図1のシリンダ2の中心線に一致する。軸線CL1がシリンダ2の中心線から例えばインジェクタ7の反対側にずれるようにハウジング45を設けてもよい。
【0014】
ハウジング45の先端部46には、軸線CL1を中心として周方向等間隔に周方向複数の貫通孔、すなわち噴孔47が開口される。噴孔47は、軸線CL1からピストン3側かつ径方向外側に斜めに延在する軸線CL2に沿って放射状に開口される。なお、軸線CL1と軸線CL2とのなす角α1は、燃焼室壁に火炎ジェットが触れないような角度に設定することが好ましく、例えば30°~60°の範囲にある。
【0015】
燃焼室4は、ハウジング45により、ハウジング45の外側の主燃焼室41と、ハウジング45の内側の副燃焼室42とに分けられる。図1に示すように、インジェクタ7は主燃焼室41に面して配置され、主燃焼室41に燃料が噴射される。吸気ポート13と排気ポート14との間のシリンダヘッド12の中央部、より具体的には、軸線CL1上には、点火プラグ8が設けられる。点火プラグ8は、先端の点火部が副燃焼室42に面するようにその長手方向の中心線が例えば軸線CL1に沿って配置され、コントローラ(図4)からの指令に応じて電気エネルギーにより点火部で火花を発生するように構成される。
【0016】
インジェクタ7から主燃焼室41に燃料が噴射されると、主燃焼室41で空気と燃料との混合気が生成される。この混合気の一部は、周方向複数の噴孔47を介して副燃焼室42に流入し、点火プラグ8で点火されて燃焼する。副燃焼室42で生成された燃焼ガスは、噴孔近傍の混合気を未燃ガスジェットとして主燃焼室41に追いやった後、複数の噴孔47からトーチ状の火炎ジェット48として放射状に噴出し、主燃焼室41の混合気を燃焼させる。膨張行程では、主燃焼室41で燃焼した高温高圧の燃焼ガスによってピストン3が押し下げられ、クランクシャフト6が回転される。
【0017】
このように副燃焼室42の噴孔47から主燃焼室41内に火炎ジェット48を噴出させる場合、主燃焼室41での火炎伝播が早まるため、エンジン1の熱効率が高まる半面、ノッキングの有無にかかわらず燃焼騒音が発生することがある。そこで、本実施形態では、筒内圧センサ9により検出された筒内圧に基づいてノッキングの発生と燃焼騒音の発生とを検知することができるよう、以下のように内燃機関の制御装置を構成する。
【0018】
図4は、本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置(以下、装置)100の要部構成を示すブロック図である。図4に示すように、装置100は、コントローラ50を中心として構成され、コントローラ50にそれぞれ接続された点火プラグ8と、筒内圧センサ9と、クランク角センサ51と、吸気量センサ52と、バンドパスフィルタ(BPF)53,54とを有する。
【0019】
クランク角センサ51は、クランクシャフト6に設けられ、クランクシャフト6の回転に伴いパルス信号を出力するように構成される。コントローラ50は、クランク角センサ51からのパルス信号に基づいて、ピストン3の吸気行程開始時の上死点TDCの位置を基準としたクランクシャフト6の回転角度(クランク角)を特定するとともに、エンジン回転数を算出する。したがって、クランク角センサ51は、エンジン回転数センサとしても機能する。
【0020】
吸気量センサ52は、シリンダ2への吸入空気量を検出するセンサであり、例えば吸気通路15(より具体的にはスロットルバルブの上流)に配置されたエアフロメータにより構成される。コントローラ50は、吸気量センサ52からの信号に基づいてインジェクタ7の目標噴射量を算出する。吸気量センサ52により検出される吸気量は、エンジン1の出力トルクと相関関係を有する。したがって、吸気量センサ52は、エンジン負荷を検出するトルクセンサとしても機能する。
【0021】
図5は、主燃焼室41でノッキングや燃焼騒音が発生するときの共鳴周波数について説明するための図である。発明者らは、Wavelet変換を用いて筒内圧の変動(経時変化)を周波数ごとに解析し、ノッキング発生時と燃焼騒音発生時とでは圧力変動が大きくなる周波数帯が異なることを知見した。すなわち、ノッキング発生時は、第1周波数帯(10~16kHz)と、第1周波数帯より低い第2周波数帯(6~9kHz)とで圧力変動が大きくなり、燃焼騒音発生時は、第2周波数帯のみで圧力変動が大きくなることを知見した。
【0022】
点火プラグ8(図3)による点火が行われると、副燃焼室42の各噴孔47から主燃焼室41内に火炎ジェット48が噴出し、火炎ジェット48が到達するシリンダ2の壁面付近で筒内圧が高まることで圧力波が発生する。また、ノッキング発生時は、シリンダ2の壁面付近の複数の着火点で混合気が自着火し、各着火点を起点とする圧力波も発生する。このように発生した圧力波は、シリンダ2の反対側の壁面で反射した反射波と干渉し、これにより主燃焼室41内で共鳴現象が発生する。
【0023】
点火プラグ8による点火が行われる上死点TDC付近のクランク角では、主燃焼室41は直径に対して高さが十分小さい円筒空間を形成する。このような円筒空間では、周方向と径方向とに振幅と位相の空間分布を有する複数の共鳴モードが発生する。図5には、円筒空間で発生する共鳴モードのモード形状が示される。破線は共鳴振動の節線を表し、±は共鳴振動の位相を表す。周方向の次数mは、円筒空間の周方向における節線の本数に対応し、径方向の次数nは、円筒空間の径方向における節線の本数に対応する。
【0024】
このような共鳴モードの周波数(共鳴周波数)fm,n,0[Hz]は、Draperの式に基づいて推定することができる。ρm,n,0はモード定数、κは比熱比、Rは気体定数[J/kgK]、Τは主燃焼室41の代表温度[K]、Bは円筒空間の直径(すなわち、シリンダ2の直径)[m]である。
1,0,0=ρ1,0,0(κRT)1/2/πB
【0025】
図5では、一例として、円筒空間の直径Bを0.073[m]、比熱比κを1.3、気体定数Rを287[J/kgK]、代表温度Τを2424[K]とした場合の共鳴周波数fm,n,0を示す。ノッキング発生時にのみ圧力変動が大きくなる第1周波数帯(10~16kHz)は、(2,0,0)モードの共鳴周波数f2,0,0(12.6[kHz])付近の周波数帯である。ノッキング発生時および燃焼騒音発生時の両方で圧力変動が大きくなる第2周波数帯(6~9kHz)は、(1,0,0)モードの共鳴周波数f1,0,0(7.63[kHz])付近の周波数帯である。
【0026】
ノッキング発生時は、火炎ジェット48が到達するシリンダ2の壁面付近と、その反対側の壁面付近とで同時に自着火が発生し、各着火点を起点とする圧力波と反射波とが干渉する。これにより、(1,0,0)モードの共鳴と(2,0,0)モードの共鳴とが同時に発生する。ノッキングはエンジン部品の損傷につながるため、第1周波数帯(10~16kHz)の圧力変動の大きさを監視し、ノッキング発生時に見られる所定以上の圧力変動が観測された場合には、直ちに点火時期を遅角し、ノッキングを解消する必要がある。この場合、ノッキングを解消するために十分な遅角量(第1所定量)θ1を確保する必要がある(例えば、1.5[deg]程度)。
【0027】
一方、ノッキングが発生していなければ、燃焼騒音が発生していても、すなわち燃焼音がユーザに違和感を与えるほど大きくなったとしても、エンジン部品が損傷することはない。ただし、その音量(圧力変動の大きさ)が大きい状態が一定の頻度以上で発生すると、ユーザに違和感を与え、エンジン1の商品性を低下させるおそれがある。燃焼音も、ノッキングと同様に、点火時期を遅角することで緩和することができる。燃焼音は、ユーザに違和感を与えない程度まで軽減すればよく、燃焼音を軽減するための遅角量(第2所定量)θ2は、ノッキングを解消するために必要となる第1所定量θ1よりも小さい(θ1>θ2)(例えば、0.5[deg]程度)。
【0028】
(1,0,0)モードの共鳴による第2周波数帯(6~9kHz)の圧力変動は、燃焼騒音として認識され得るが、(2,0,0)モードの共鳴による第1周波数帯(10~16kHz)の圧力変動は、高周波のため燃焼騒音として認識され難い。第2周波数帯(6~9kHz)の圧力変動の大きさを監視し、燃焼騒音として認識され得る所定以上の圧力変動が観測され、かつ、その観測頻度が所定頻度を超えた場合には、第2所定量θ2だけ点火時期を遅角することで、燃焼音を緩和することができる。
【0029】
図4のBPF53は、筒内圧センサ9により検出された筒内圧の変動データから第1周波数帯の圧力変動データを抽出するように構成され、BPF54は、第2周波数帯の圧力変動データを抽出するように構成される。
【0030】
図6は、筒内圧センサ9により検出される筒内圧(センサ値)P0の変動データおよびBPF53,54により抽出される筒内圧P1,P2の変動データの一例を示す図であり、クランク角θに対する筒内圧P0~P2の変動データの一例を示す。
【0031】
図4のコントローラ50は、電子制御ユニット(ECU)により構成され、CPU等の演算部50Aと、ROM,RAM等の記憶部50Bと、その他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。コントローラ50の演算部50Aは、振幅算出部55と、第1判定部56と、第2判定部57と、点火制御部58として機能する。
【0032】
振幅算出部55は、エンジン1の燃焼サイクルごとに、BPF53により抽出された第1周波数帯の圧力変動データに含まれる最大振幅PP1を算出するとともに、BPF54により抽出された第2周波数帯の圧力変動データに含まれる最大振幅PP2を算出する。より具体的には、図6に示すように、第1周波数帯の筒内圧P1および第2周波数帯の筒内圧P2の変動データから、燃焼サイクルごとに振幅が最大となる箇所を検出し、最大振幅(P-P(Peak to Peak)値)PP1,PP2を算出する。
【0033】
なお、図5に示すように、第1周波数帯に対応する(2,0,0)モードでも、第2周波数帯に対応する(1,0,0)モードでも、シリンダ2の壁面付近が振幅の腹となる。図2に示すように、筒内圧センサ9をシリンダ2の壁面付近に設け、シリンダ2の壁面付近の筒内圧P0を検出することで、圧力変動の最大振幅PP1,PP2を精度よく検出することができる。
【0034】
第1判定部56は、振幅算出部55により算出された最大振幅PP1に基づいて、主燃焼室41でノッキングが発生しているか否かを判定する。より具体的には、最大振幅PP1がエンジン1の運転条件に応じて予め定められた第1閾値pp1を超えるか否かを判定する。最大振幅PP1が第1閾値pp1を超える場合(PP1>pp1)は、ノッキングが発生していると判定し、第1閾値pp1以下の場合(PP1≦pp1)は、ノッキングが発生していないと判定する。
【0035】
第1判定部56によるノッキングの判定に用いられる第1閾値pp1は、試験により予め定められ、記憶部50Bに記憶される。第1閾値pp1を定めるための試験は、エンジン1の運転条件、すなわちエンジン回転数とエンジン負荷(吸気量)とを変えながら行われ、第1閾値pp1は、回転数と負荷とに応じて予め定められた特性マップとして記憶部50Bに記憶される。第1判定部56は、クランク角センサ51により検出されたエンジン回転数と吸気量センサ52により検出されたエンジン負荷とに基づいて、記憶部50Bに記憶された特性マップから運転条件に応じた第1閾値pp1を検索し、ノッキングの判定に用いる。
【0036】
第2判定部57は、第1判定部56により主燃焼室41でノッキングが発生していないと判定されることを条件として、振幅算出部55により算出された最大振幅PP2に基づいて、主燃焼室41で燃焼騒音が発生しているか否かを判定する。
【0037】
第2判定部57は、先ず、燃焼音が基準より大きいか否かを判定する。より具体的には、最大振幅PP2がエンジン1の運転条件に応じて予め定められた第2閾値pp2を超えるか否かを判定する。最大振幅PP2が第2閾値pp2を超える場合(PP2>pp1)は、燃焼音が基準より大きいと判定し、第2閾値pp2以下の場合(PP2≦pp2)は、燃焼音が基準以下であると判定する。
【0038】
第2判定部57による燃焼音の判定に用いられる第2閾値pp2も、第1閾値pp1と同様に、試験により予め定められ、エンジン回転数とエンジン負荷(吸気量)とに応じて予め定められた特性マップとして記憶部50Bに記憶される。第2判定部57は、クランク角センサ51により検出されたエンジン回転数と吸気量センサ52により検出されたエンジン負荷とに基づいて、記憶部50Bに記憶された特性マップから運転条件に応じた第2閾値pp2を検索し、燃焼音の判定に用いる。
【0039】
第2判定部57は、燃焼サイクルごとの燃焼音の判定において、連続して、燃焼サイクルで燃焼音が基準より大きいと判定した回数C2が所定回数c2(例えば、1回)を超えると、主燃焼室41で燃焼騒音が発生していると判定する。
【0040】
第2判定部57による燃焼騒音の判定に用いられる所定回数c2も、第1閾値pp1や第2閾値pp2と同様に、試験により予め定められ、エンジン回転数とエンジン負荷(吸気量)とに応じて予め定められた特性マップとして記憶部50Bに記憶される。第2判定部57は、クランク角センサ51により検出されたエンジン回転数と吸気量センサ52により検出されたエンジン負荷とに基づいて、記憶部50Bに記憶された特性マップから運転条件に応じた所定回数c2を検索し、燃焼騒音の判定に用いる。
【0041】
点火制御部58は、エンジン1の運転条件と、第1判定部56および第2判定部57による判定結果とに基づいて、点火プラグ8の動作を制御する。すなわち、点火制御部58は、ノッキングも燃焼騒音も発生していない場合は、エンジン1の運転条件に応じて予め定められた基準点火時期θ0、例えば最大トルクが得られる最適点火時期MBTで点火を行うように、点火プラグ8の動作を制御する。
【0042】
点火制御部58は、第1判定部56により主燃焼室41でノッキングが発生していると判定されると、第1所定量θ1だけ点火時期を遅角するように点火プラグ8の動作を制御する(θ0→θ0+θ1)。また、第2判定部57により主燃焼室41で燃焼騒音が発生していると判定されると、第2所定量θ2だけ点火時期を遅角するように点火プラグ8の動作を制御する(θ0→θ0+θ2)。第1所定量θ1および第2所定量θ2は、試験により予め定められ、記憶部50Bに記憶される。
【0043】
図7は、予め記憶されたプログラムに従い、図4のコントローラ50で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、エンジン始動後に開始され、所定周期で繰り返される。
【0044】
図7に示すように、先ずステップS1で、クランク角センサ51および吸気量センサ52からの信号と、BPF53,54により抽出された第1周波数帯の筒内圧P1および第2周波数帯の筒内圧P2の変動データとを読み込む。次いでステップS2で、ステップS1で読み込まれた信号に基づいてエンジン1の運転条件を特定する。次いでステップS3で、ステップS1で読み込まれた第1周波数帯の筒内圧P1の変動データに基づいて、エンジン1の燃焼サイクルごとの最大振幅PP1を算出する。次いでステップS4で、ステップS3で算出された最大振幅PP1が、ステップS2で特定された運転条件に対応する第1閾値pp1を超えるか否かを判定する。
【0045】
ステップS4で肯定されると、ステップS5に進み、主燃焼室41でノッキングが発生していると判定し、ステップS6に進む。ステップS6では、ステップS2で特定された運転条件に対応する基準点火時期θ0を第1所定量θ1だけ遅角(θ0→θ0+θ1)するように点火プラグ8に制御信号を出力し、処理を終了する。
【0046】
一方、ステップS4で否定されると、主燃焼室41でノッキングが発生していないと判定し、ステップS7に進む。ステップS7では、ステップS1で読み込まれた第2周波数帯の筒内圧P2の変動データに基づいて、エンジン1の燃焼サイクルごとの最大振幅PP2を算出する。次いでステップS8で、ステップS7で算出された最大振幅PP2が、ステップS2で特定された運転条件に対応する第2閾値pp2を超えるか否かを判定する。
【0047】
ステップS8で否定されると、燃焼音が基準以下であると判定してステップS9に進み、主燃焼室41でノッキングも燃焼騒音も発生していないと判定し、ステップS10に進む。ステップS10では、ステップS2で特定された運転条件に対応する基準点火時期θ0(最適点火時期MBT)まで必要に応じて進角するように点火プラグ8に制御信号を出力し、処理を終了する。
【0048】
一方、ステップS8で肯定されると、燃焼音が基準より大きいと判定してステップS11に進み、燃焼音が基準より大きいと判定した回数C2をカウントアップし(C2(今回値)=C2(前回値)+1)、ステップS12に進む。ステップS12では、燃焼音が基準より大きいと判定した回数C2が、ステップS2で特定された運転条件に対応する所定回数c2を超えるか否かを判定する。
【0049】
ステップS12で肯定されると、ステップS13に進み、主燃焼室41で燃焼騒音のみが発生していると判定し、ステップS14に進む。ステップS14では、ステップS2で特定された運転条件に対応する基準点火時期θ0を第2所定量θ2だけ遅角(θ0→θ0+θ2)するように点火プラグ8に制御信号を出力し、処理を終了する。一方、ステップS12で否定されると、点火時期の遅角も進角も行うことなく処理を終了する。
【0050】
ノッキング発生時にのみ圧力変動が大きくなる第1周波数帯と燃焼騒音発生時に圧力変動が大きくなる第2周波数帯とをそれぞれ監視することで、ノッキングの発生と燃焼騒音の発生とを個別に検知することができる(S3~S4,S7~S8)。また、エンジン部品の損傷につながるノッキングの発生を優先的に検知することで、ノッキングが発生した場合でも直ちに解消することができる(S4)。また、燃焼音が基準より大きい状態が継続したときに限って燃焼騒音の発生を検知するため、点火時期の過剰な遅角を抑制し、エンジン出力や燃費の低下を最小限に抑えることができる(S8,S11~S13)。
【0051】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)装置100は、シリンダ2内を往復動するピストン3に面した主燃焼室41と、噴孔47を介して主燃焼室41に連通する副燃焼室42と、副燃焼室42の内部の混合気を点火する点火プラグ8とを有するエンジン1を制御する(図1図3)。
【0052】
装置100は、主燃焼室41の圧力を検出する筒内圧センサ9と、筒内圧センサ9により検出された圧力の変動データから第1周波数帯(10~16kHz)の圧力変動データを抽出するBPF53と、筒内圧センサ9により検出された圧力の変動データから、第1周波数帯より低い第2周波数帯(6~9kHz)の圧力変動データを抽出するBPF54と、エンジン1の燃焼サイクルごとに、BPF53により抽出された第1周波数帯の圧力変動データに含まれる最大振幅PP1を算出するとともに、BPF54により抽出された第2周波数帯の圧力変動データに含まれる最大振幅PP2を算出する振幅算出部55とを備える(図4)。
【0053】
装置100は、さらに、振幅算出部55により算出された最大振幅PP1に基づいて、主燃焼室41でノッキングが発生しているか否かを判定する第1判定部56と、振幅算出部55により算出された最大振幅PP2に基づいて、主燃焼室41で燃焼騒音が発生しているか否かを判定する第2判定部57と、エンジン1の運転条件と、第1判定部56および第2判定部57による判定結果と、に基づいて、点火プラグ8の動作を制御する点火制御部58とを備える(図4)。
【0054】
すなわち、BPF53,54を設け、ノッキング発生時にのみ圧力変動が大きくなる第1周波数帯(10~16kHz)と燃焼騒音発生時に圧力変動が大きくなる第2周波数帯(6~9kHz)とをそれぞれ監視する。これにより、単一の筒内圧センサ9による単一のセンサ値P0に基づいて、ノッキングの発生と燃焼騒音の発生とをそれぞれ精度よく検知することができる。
【0055】
(2)第2判定部57は、第1判定部56により主燃焼室41でノッキングが発生していないと判定されることを条件として、主燃焼室41で燃焼騒音が発生しているか否かを判定する。これにより、エンジン部品の損傷につながるノッキングの発生を優先的に検知することができる。
【0056】
(3)点火制御部58は、第1判定部56により主燃焼室41でノッキングが発生していると判定されると第1所定量θ1だけ点火時期を遅角するように点火プラグ8の動作を制御し、第2判定部57により主燃焼室41で燃焼騒音が発生していると判定されると第1所定量θ1より小さい第2所定量θ2だけ点火時期を遅角するように点火プラグ8の動作を制御する。
【0057】
すなわち、ノッキングが発生している場合は、十分な遅角量(第1所定量)θ1を確保することでノッキングを確実に解消し、燃焼騒音が発生している場合は、ある程度の遅角量(第2所定量θ2)で燃焼音を軽減する。点火時期を、エンジン1の運転条件に応じて予め定められた最適な基準点火時期θ0よりも遅角すると、エンジン出力や燃費が低下する。ノッキングの発生と燃焼騒音の発生とをそれぞれ判定し、発生事象に応じた適切な遅角を行うことで、点火時期の遅角によるエンジン出力や燃費の低下を最小限に抑えることができる。
【0058】
(4)装置100は、主燃焼室41でノッキングが発生しているときの最大振幅PP1に対応する第1閾値pp1と、主燃焼室41で燃焼騒音が発生しているときの最大振幅PP2に対応する第2閾値pp2と、所定回数c2と、を記憶する記憶部50Bをさらに備える(図4)。第1判定部56は、最大振幅PP1が記憶部50Bに記憶された第1閾値pp1を超えると、主燃焼室41でノッキングが発生していると判定する。第2判定部57は、最大振幅PP2が記憶部50Bに記憶された第2閾値pp2を超えた回数C2が記憶部50Bに記憶された所定回数c2を超えると、主燃焼室41で燃焼騒音が発生していると判定する。第1閾値pp1と第2閾値pp2と所定回数c2とは、エンジン1の運転条件に応じて予め定められる。
【0059】
より具体的には、第1閾値pp1と第2閾値pp2と所定回数c2とは、それぞれ、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じて予め定められた特性マップとして記憶部50Bに記憶される。このように、ノッキングや燃焼音、燃焼騒音の判定に用いる閾値をエンジン1の運転条件に応じてきめ細かく設定しておくことで、ノッキングの発生と燃焼騒音の発生とを一層精度よく検知することができる。また、ノッキングの発生と燃焼騒音の発生とを過剰に判定することを防止でき、点火時期の遅角によるエンジン出力や燃費の低下を最小限に抑えることができる。
【0060】
(5)第1周波数帯および第2周波数帯は、シリンダ2の直径Bに応じて予め定められる。すなわち、主燃焼室41と副燃焼室42とを有するエンジン1であれば、シリンダ2の直径Bに応じて適切な第1周波数帯および第2周波数帯を定め、ノッキングの発生と燃焼騒音の発生とを精度よく検知することができる。
【0061】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 エンジン、2 シリンダ、3 ピストン、8 点火プラグ、9 筒内圧センサ、41 主燃焼室、42 副燃焼室、47 噴孔、50 コントローラ、50A 演算部、50B 記憶部、51 クランク角センサ、52 吸気量センサ、53,54 BPF、55 振幅算出部、56 第1判定部、57 第2判定部、58 点火制御部、100 制御装置(装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7