(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050281
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】樹脂製パネル
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157052
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】米野 孝
(72)【発明者】
【氏名】横井 慎司
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061BB17
(57)【要約】
【課題】樹脂製パネルの反射音に起因する騒音を抑制することを目的としている。
【解決手段】互いに向かい合う第1及び第2面部を備えた中空の樹脂製パネルであって、第1面部には、複数の上面部と凹状の複数のリブ部とを有する凹凸構造が形成され、各前記リブ部は、底面部を有し、前記凹凸構造における前記底面部の総面積は、前記凹凸構造における前記上面部の総面積の0.1倍以上である、樹脂製パネルが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに向かい合う第1及び第2面部を備えた中空の樹脂製パネルであって、
第1面部には、複数の上面部と凹状の複数のリブ部とを有する凹凸構造が形成され、
各前記リブ部は、底面部を有し、
前記凹凸構造における前記底面部の総面積は、前記凹凸構造における前記上面部の総面積の0.1倍以上である、樹脂製パネル。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂製パネルであって、
前記リブ部は、前記上面部と前記底面部とを接続する側面部を更に有し、
前記側面部は、前記上面部に対して30度以上、85度以下をなしている、樹脂製パネル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の樹脂製パネルであって、
前記樹脂製パネルの厚み方向において、前記上面部と前記底面部との間の距離は、5mm以上、50mm以下である、樹脂製パネル。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂製パネルであって、
前記リブ部は、前記上面部と前記底面部とを接続する側面部を更に有し、
前記凹凸構造における、前記側面部の投影面積と前記底面部の面積を合わせた総面積は、前記凹凸構造における、前記側面部の前記投影面積と前記底面部の面積と前記上面部の面積を合わせた総面積の0.3倍以上である、樹脂製パネル。
【請求項5】
請求項1、請求項2及び請求項4の何れか1つに記載の樹脂製パネルであって、
前記樹脂製パネルは、防音パネルである、樹脂製パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、例えば車両の内装品として用いられる樹脂製パネルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の樹脂製パネルが所望の場所に設置されたときにおいて、当該場所に伝搬する音波が、樹脂製パネルで反射して耳に届き、不快に感じることがある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、樹脂製パネルの反射音に起因する騒音を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の樹脂製パネルが提供される。
[1]互いに向かい合う第1及び第2面部を備えた中空の樹脂製パネルであって、第1面部には、複数の上面部と凹状の複数のリブ部とを有する凹凸構造が形成され、各前記リブ部は、底面部を有し、前記凹凸構造における前記底面部の総面積は、前記凹凸構造における前記上面部の総面積の0.1倍以上である、樹脂製パネル。
【0007】
本発明では、凹凸構造における底面部の総面積は、凹凸構造における上面部の総面積の0.1倍以上であり、凹凸構造の底面部における音の反射面積を増加させて、底面部で反射する音と上面部で反射する音とを干渉させて樹脂製パネルの反射音を減衰させやすくし、騒音を抑制することができる。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
[2][1]に記載の樹脂製パネルであって、前記リブ部は、前記上面部と前記底面部とを接続する側面部を更に有し、前記側面部は、前記上面部に対して30度以上、85度以下をなしている、樹脂製パネル。
[3][1]又は[2]に記載の樹脂製パネルであって、前記樹脂製パネルの厚み方向において、前記上面部と前記底面部との間の距離は、5mm以上、50mm以下である、樹脂製パネル。
[4][1]~[3]の何れか1つに記載の樹脂製パネルであって、前記リブ部は、前記上面部と前記底面部とを接続する側面部を更に有し、前記凹凸構造における、前記側面部の投影面積と前記底面部の面積を合わせた総面積は、前記凹凸構造における、前記側面部の前記投影面積と前記底面部の面積と前記上面部の面積を合わせた総面積の0.3倍以上である、樹脂製パネル。
[5][1]~[4]の何れか1つに記載の樹脂製パネルであって、前記樹脂製パネルは、防音パネルである、樹脂製パネル。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る樹脂成形体100の上面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す樹脂成形体100の樹脂製パネル101の斜視図である。
【
図3】
図3Aは、
図2に示す樹脂製パネル101のリブ部1Bを通るx-z平面の端面図である。
図3Bは、
図3Aに示す領域A及び領域Bの拡大図である。
【
図4】
図4Aは、
図2に示す樹脂製パネル101のリブ部1Bを通るy-z平面の端面図である。
図4Bは、
図4Aに示す領域Bの拡大図である
【
図5】
図5は、平坦面が形成されている領域(上面部1A、底面部1B1,1B2)の説明図である。
図5では、平坦面を強調するために曲率が変化することを示す線を一部省略している。
【
図6】
図6は、凹凸構造Stにおける平坦面としての上面部1Aを斜線で強調表示した図である。
【
図7】
図7は、凹凸構造Stにおける平坦面としての底面部1B1,1B2を斜線で強調表示した図である。
【
図8】
図8は、凹凸構造Stにおける側面部1B3の投影面積1B3Sを斜線で強調表示した図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る樹脂成形体100の樹脂製パネル101のy-z平面の端面図である。
【
図11】
図11Aは、第2実施形態に係る樹脂成形体100の樹脂製パネル101の変形例を示した上面図である。
図11Bは、
図11Aに示すB-B端面図である。
【
図12】
図12は、実施形態に係る樹脂成形体100の樹脂製パネル101の効果を説明するためのグラフである。
図12は、実測することで得られた樹脂製パネル101の騒音抑制効果(吸音・消音率測定結果)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
1 第1実施形態
1―1 樹脂成形体100の構成説明
図1及び
図2に示すように、樹脂成形体100は、一対の樹脂製パネル101がヒンジ部102を介して連結されて構成されている。樹脂成形体100は、例えば、自動車等の車両用の荷室ボードである。また、樹脂成形体100(樹脂製パネル101)は、防音パネルであってもよい。防音パネルは、例えば、建物の壁面等に設置される形態のパネルであってもよいし、オフィス等における空間を仕切るパーティションであってもよい。
実施形態では、樹脂成形体100が樹脂製パネル101を複数備えるものとして説明しているが、これに限定されるものではなく、樹脂成形体100は1つの樹脂製パネル101を備えるものであってもよい。
なお、以下の説明において、x方向は、後述する樹脂製パネル101の凹凸構造Stの凹(リブ部1B)や凸(上面部1A)が延びる方向に対応してており、y方向は、x方向と直交し、凹凸構造Stの凹(リブ部1B)や凸(上面部1A)が並ぶ方向に対応している。z方向は、x方向及びy方向に直交し、樹脂製パネル101の厚み方向に対応している。
【0012】
樹脂成形体100は、中空成形体であり、ヒンジ部102の部位で折曲可能に構成されている。なお、樹脂製パネル101及びヒンジ部102は、共に、樹脂シートが金型で成形されることで形成されるが、ヒンジ部102は、成形時において樹脂シートが金型に押圧されることで形成される中実の部位である。樹脂成形体100は、例えば、垂下した樹脂シートを金型のキャビティに真空賦形した後に、金型を閉じて樹脂シートを成形することで製造することが可能である。
【0013】
樹脂成形体100の構成材料は、熱可塑性樹脂で構成することができ、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体及びその混合物等を採用することができる。なお、実施形態では、樹脂成形体100の構成樹脂が発泡樹脂ではないものとして説明する。
【0014】
図3A~
図4Bに示すように、樹脂製パネル101は、互いに向かい合う第1面部1及び第2面部2を備えている。第1面部1は、樹脂製パネル101の上面を構成しており、第2面部2は、樹脂製パネル101の下面を構成している。
図2に示すように、第1面部1には、凹凸構造Stが形成されている。凹凸構造Stは、複数の上面部1Aと、凹状の複数のリブ部1Bとを有する。上面部1A及びリブ部1Bは、交互に並ぶように配置されている。リブ部1B及び上面部1Aは、x方向に平行に、長尺状に延びるように形成されている。また、第1面部1には、平坦面部1Cが形成されている。平坦面部1Cは、凹凸構造Stの両側に隣接して設けられている。平坦面部1Cは、上面が平坦面で形成されているため、y方向において凹凸構造が形成されていない。
【0015】
図4A及び
図4Bに示すように、上面部1Aは、凹凸構造Stのうち凸に対応する部分である。上面部1Aは、第2面部2に対して間隔をあけて設けられており、換言すると、上面部1Aの構成樹脂は、第2面部2の構成樹脂に対して溶着していない。上面部1Aの上面は、平坦面で形成されている。上面部1Aは、後述する底面部1B1,1B2と平行に設けられている。上面部1Aは、x方向を長辺とし、y方向を短辺とする矩形状又は略矩形状に形成されている。
【0016】
図3A~
図4Bに示すように、リブ部1Bは、底面部1B1と、底面部1B2と、側面部1B3と、接続面部1B4と、接続面部1B5とを備えている。
【0017】
図3B及び
図4Bに示すように、底面部1B1,1B2は、リブ部1Bのうち上面部1Aに対して凹んで形成された部分であり、底面部1B1,1B2の上面は、平坦面で形成されている。第1実施形態では、1つのリブ部1B内には、x方向において、底面部1B1及び底面部1B2が交互に並ぶように配置されている。
底面部1B1は、x方向を長辺とし、y方向を短辺とする矩形状又は略矩形状に形成されている。底面部1B1は、凹状のリブ部1Bのうち最も凹んだ部分であり、第1実施形態では、底面部1B1の構成樹脂が、第2面部2の構成樹脂に対して溶着しており、樹脂製パネル101の剛性を向上させている。なお、第1実施形態では、底面部1B1の構成樹脂が、第2面部2の構成樹脂に対して溶着しているものとして説明するが、これに限定されるものではなく、底面部1B1は第2面部2に対して離れていてもよい。
【0018】
底面部1B2は、矩形状又は略矩形状に形成されており、第1実施形態では、底面部1B1よりも、x方向の幅は短いが、y方向の幅は長くなっている。また、底面部1B2は、厚み方向zにおいて、上面部1Aと、底面部1B1との間に配置されている。つまり、底面部1B2は、第2面部2に対して間隔をあけて設けられている。
【0019】
ここで、凹凸構造Stにおける底面部1B1,1B2の総面積Ts1は、凹凸構造Stにおける上面部1Aの総面積Ts2の0.1倍以上である。具体的には例えば、総面積Ts1は、総面積Ts2の0.10,0.15,0.20,0.25,0.30,0.35,0.40,0.45,0.50,0.55,0.60,0.65,0.70,0.75,0.80,0.85,0.90,0.95,1.00,1.05,1.10,1.15,1.20,1.25,1.30,1.35,1.40,1.45,1.50倍であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。これにより、凹凸構造Stの底面部1B1,1B2における音の反射面積を増加させて、底面部1B1,1B2で反射する音と上面部1Aで反射する音とを干渉させやすくなり、騒音を抑制することができる。
【0020】
また、底面部1B1,1B2だけでなく、側面部1B3も、音の反射による音の干渉に寄与し得る。そこで、凹凸構造Stにおける、総面積Tp1は、総面積Tp2の0.3倍以上であることが好ましく、また、0.35倍以上であることが更に好ましい。
ここで、総面積Tp1は、側面部1B3の投影面積1B3S(
図4B及び
図8参照)と、底面部1B1,1B2の面積を合わせた総面積である。
また、総面積Tp2は、側面部1B3の投影面積1B3Sと、底面部1B1,1B2の面積と、上面部1Aの面積を合わせた総面積である。
【0021】
また、樹脂製パネル101の厚み方向zにおいて、上面部1Aと底面部1B1,1B2との間の距離D(mm)は、具体的には例えば、5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。但し、上面部1Aと底面部1B1との間の距離は、上面部1Aと底面部1B2との間の距離よりも大きいものとする。
なお、第1実施形態では、樹脂製パネル101が複数のリブ部1Bを有するが、これらのリブ部1Bに関して、上面部1Aと底面部1B1との間の距離は、同じでなくてもよく、上述の例示した数値又は数値の範囲内であればよい。上面部1Aと底面部1B2についても同様であり、上面部1Aと底面部1B2との間の距離は、同じでなくてもよく、上述の例示した数値又は数値の範囲内であればよい。
【0022】
側面部1B3は、上面部1Aと、底面部1B1,1B2とを接続するように形成されている。側面部1B3の上面には、傾斜面が形成されており、当該傾斜面は、上面部1A側から、底面部1B1,1B2側にかけて下に傾斜するように形成されている。側面部1B3の傾斜面の傾斜角度αは、具体的には例えば、30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、第1実施形態では、樹脂製パネル101が複数のリブ部1Bを有するが、これらのリブ部1Bの側面部1B3の傾斜角度は、同じでなくてもよく、上述の例示した数値又は数値の範囲内であればよい。
【0023】
接続面部1B4は、底面部1B1と底面部1B2とを接続するように形成されている。また、接続面部1B4は、側面部1B3に接続されている。接続面部1B4の上面には、傾斜面が形成されている。底面部1B2と底面部1B2に接続される一対の接続面部1B4とは、厚み方向zに突き出すように形成されており、樹脂製パネル101の剛性を向上させている。
【0024】
接続面部1B5は、リブ部1Bの長手方向であるx方向におけるリブ部1Bの両端部にそれぞれ設けられている。接続面部1B5は、平坦面部1Cと底面部1B1とを接続するように形成されている。接続面部1B5の上面には、傾斜面が形成されており、当該傾斜面は、平坦面部1C側から、底面部1B1側にかけて下に傾斜するように形成されている。接続面部1B5の傾斜面の傾斜角度は、特に限定されるものではないが、上述した側面部1B3の傾斜面の傾斜角度αよりも小さくなっている。
【0025】
ここで、
図5~
図8を参照して、上面部1Aや底面部1B1,1B2の領域、及び側面部1B3の投影面積1B3Sについて具体的に説明する。
図5において、縁E1は、樹脂製パネル101を上面視したときにおいて、第1面部1のうち最も外側に位置している部分である。
縁E2は、上面部1Aから底面部1B1,1B2へ側面部1B3(
図4B参照)が傾斜し始める部分である。換言すると、縁E2よりも内側では、高さ位置が、上面部1Aの高さ位置よりも低くなっている。
縁E3は、樹脂製パネル101を上面視したときにおいて、底面部1B1のうち最も外側に位置している部分である。換言すると、縁E3は、側面部1B3の傾斜が終了する部分である。
縁E4は、樹脂製パネル101を上面視したときにおいて、底面部1B2のうち最も外側に位置している部分である。
基準仮想線RLは、縁E1のうち、x方向における最も端部側の部分を通る線であり、y方向に平行な線として定義することができる。なお、第1実施形態では、複数のリブ部1Bに関して、x方向における端部の位置が一致している。このため、基準仮想線RLは、各リブ部1Bのx方向の端部を通過することになる。一方で、複数のリブ部1Bに関して、x方向における端部の位置がずれている場合には、最も突き出した端部を通る線を基準仮想線RLに設定することができる。
【0026】
図6において斜線で強調されてるように、上面部1Aの領域は、縁E1の内側であり、且つ、両側の基準仮想線RLの内側であり、且つ、縁E2の外側のである。
図7において斜線で強調されているように、底面部1B1の領域は、縁E3の内側である。また、底面部1B2の領域は、縁E4の内側である。
図8において斜線で強調されているように、側面部1B3の投影面積1B3Sは、樹脂製パネル101を上面視したときにおいて、縁E2の内側であり、且つ、縁E3及び縁E4の外側の面積として定義することができる。
【0027】
1-2 第1実施形態の作用効果
第1実施形態では、凹凸構造Stにおける底面部1B1,1B2の総面積Ts1は、凹凸構造Stにおける上面部1Aの総面積Ts2の0.1倍以上となっている。これにより、凹凸構造Stの底面部1B1,1B2における音の反射面積を増加させて、底面部1B1,1B2で反射する音と上面部1Aで反射する音とが干渉して、樹脂製パネル101の反射音が減衰し、騒音を抑制することができる。以下に、底面部1B1,1B2で反射する音と上面部1Aで反射する音とが干渉して、樹脂製パネル101の反射音が減衰する原理について説明する。
【0028】
図4Bにおいて、音sw1が、底面部1B1に角度θで入射及び反射し、また、音sw2は、上面部1Aに角度θで入射及び反射するものとする。角度θは、音の進行方向と厚み方向zとがなす角度である。また、音sw1及び音sw2は同一音源から入射する音であり、位相は等しく、波長はλであるとする。また、距離Dは、上面部1Aと底面部1B1との間の距離であり、底面部1B1の深さに対応している。
このとき、音sw1と音sw2との経路差は、2D/cosθで表すことができる。
そして、音sw1の反射音と音sw2の反射音とが干渉によって最も減衰する条件は、2D/cosθ=λ/2を満たすときである。なお、λは、c/f(cは音速、fは周波数)で表される。このため、先述の式は、f=c×cosθ/4Dと表すことができる。例えば、cosθ=1(つまり、θ=0)である場合には、底面部1B1及び上面部1Aに垂直に音が入射及び反射することになる。この場合には、f=c/4Dを満たすときに、音sw1の反射音と音sw2の反射音とが干渉によって最も減衰すると考えられる。
【0029】
予め定められた形状(例えば距離Dが20mm)の樹脂製パネル101を製造し、樹脂製パネル101の凹凸構造Stを有する面を音入射面とした時の残響室法吸音率を測定したところ、
図12に示すグラフが得られた。このグラフの縦軸である吸音率が高くなっているほど、吸音(消音)効果が高いことを表している。ここで、計算やシミュレーションで検証したところ、第1実施形態の作用効果は、
図12に示す領域Bに対応するものであることがわかった。
なお、樹脂製パネル101の形状等に応じて結果として得られるグラフは変わってくると考えられるが、概ね次のことがわかる。つまり、吸音特性(消音特性)は、ある中心周波数を中心として、高周波側及び低周波側になだらかな裾状をなすということである。なお、
図12の例では、約3000Hz~約8000Hzの周波数範囲において吸音率が0.1以上となった。なお、この周波数範囲に含まれるノイズとしては、自動車であれば、モーターノイズ、風切り音、ブレーキ鳴き、パターンノイズ等であり、樹脂製パネル101が自動車に搭載される場合、これらのノイズの消音に効果を発揮することが期待できる。
【0030】
また、総面積Ts1が0の場合(リブ部1Bがない場合)から、総面積Ts1と総面積Ts2とが等しくなる場合(総面積Ts1が総面積Ts2の1.00倍である場合)にかけて、総面積Ts1を徐々に増やして、吸音率を計算した。すると、総面積Ts1が0の場合には吸音(消音)の効果が見られないが、総面積Ts1が増えるごとに、中心周波数における吸音率の最大値が増大していくことがわかった。このため、総面積Ts1が総面積Ts2の1.00倍又はその近傍に寄せることで消音効果をより効果的にすることができることがわかる。
【0031】
2 第2実施形態
2-1 樹脂製パネル101の構成説明
第1実施形態は、上面部1Aを反射する音と底面部1B1,1B2を反射する音とを干渉させて、樹脂製パネル101の反射音を減衰させやすくし、騒音を抑制する構成(消音構成)を備えるものであった。第2実施形態は、上面部1Aに到達した音によって上面部1Aと樹脂製パネル101の内部空気層を振動させ、音のエネルギーの一部を熱エネルギーに変換し、樹脂製パネル101の反射音と透過音を低減させ、騒音を抑制する構成(吸音構成)を備えている。
【0032】
第2実施形態において、樹脂製パネル101は、互いに向かい合う第1及び第2面部1,2を備えており、第1面部1には、複数の上面部1Aと凹状の複数のリブ部1Bとを有する凹凸構造Stが形成され、且つ、第1面部1には、上面部1A及びリブ部1Bが交互に配置され、各リブ部1Bは、底面部1B1,1B2を有し、上面部1A及びリブ部1Bは、平行に延びており、各上面部1Aは、矩形状に形成され、複数の上面部1Aには、短手方向の幅が異なるものが含まれる。
第2実施形態では、第1実施形態と共通する部分については適宜説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0033】
図9に示すように、第2実施形態では、樹脂製パネル101が、短手方向の幅が異なる上面部1Aを含んでいる。
図9に示す例では、樹脂製パネル101は、短手方向の幅がW1である上面部1Aaと、短手方向の幅がW2である上面部1Abと、短手方向の幅がW3である上面部1Acとを備えている。なお、幅W1<幅W2<幅W3の大小関係である。樹脂製パネル101には、y方向において、上面部1Aa、上面部1Ab及び上面部1Acが、この順番で繰り返すように形成されている。なお、順番は、例えば、上面部1Aa、上面部1Ac及び上面部1Abであってもよい。
【0034】
上面部1Aa~上面部1Acは、上面部1Aa~上面部1Acのうち短手方向の幅が異なるものと隣接するように、配置されている。つまり、第3実施形態では、同じ幅の上面部がy方向において連続して配置されていない。なお、上面部1Aa~上面部1Acが、第1上面部~第3上面部に対応している。
【0035】
上面部1Aの短手方向(y方向)の寸法(mm)は、具体的には例えば、10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
なお、上面部1Aの短手方向(y方向)の寸法は、上面部1Aのうち短手方向(y方向)の両端部間の距離に対応しており、例えば、上面部1Aが矩形であれば、短辺の長さに対応している。
【0036】
上面部1Aの厚み(mm)は、具体的には例えば、0.5,1.0,1.5,2.0,2.5,3.0,3.5,4.0,4.5,5.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0037】
また、上面部1Aの長手方向(x方向)の寸法(mm)は、具体的には例えば、100,150,200,250,300,350,400,450,500,550,600,650,700,750,800,850,900,950,1000,1050,1100,1150,1200,1250,1300,1350,1400,1450,1500であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
なお、上面部1Aの長手方向(x方向)の寸法は、上面部1Aのうち長手方向(x方向)の両端部間の距離に対応しており、例えば、上面部1Aが矩形であれば、長辺の長さに対応している。
【0038】
2-2 第2実施形態の作用効果
第2実施形態の作用効果について
図9等を参照して説明する。なお、
図9では、上面部1Aに入射する音がsw3に対応し、上面部1Aで反射する音がsw4に対応している。
上面部1Aに音が入射すると、上面部1Aの樹脂と内部空気層を共振させ、板振動による吸音効果が得られる。つまり、音sw3が、上面部1Aに入射すると上面部1Aで反射するとともに、上面部1Aと樹脂製パネル101の内部空気層を振動させ、当該振動は、熱エネルギーに変換される。これにより、樹脂製パネル101の反射音・透過音に起因する騒音が抑制される。ここで、上述した板振動の吸音周波数の理論式は以下の通りである。
【0039】
【0040】
上記の式(1)の平方根内の第1項は、空気バネの影響に対応し、第2項は板振動の影響に対応している。
各パラメータは以下の通りである。
f:板振動の固有振動数
ρ:空気の密度
c:音速
m:基材の面密度(上面部1Aの面密度)
h:空気層の厚さ(
図9参照)
K:基材の剛性(上面部1Aの剛性)
なお、上述の空気層の厚さhは、上面部1Aの下面と第2面部2の上面との間の距離に対応している。
【0041】
上記式は、剛性Kが効いてくることがわかる。剛性Kは、例えば、上面部1Aの短手方向の幅を調整することや、上面部1Aの厚みを調整することで変化させることができる。換言すると、上面部1Aの短手方向の幅や上面部1Aの厚みを調整することで、吸音したい周波数に合わせることが可能である。
【0042】
図12に示す実測のグラフに関連して、計算やシミュレーションで検証したところ、第2実施形態の作用効果(板振動に基づく吸音効果)は、
図12に示す領域Aに対応するものであることがわかった。但し、
図12に示す実測の結果は、各上面部1Aの短手方向の幅が同じである。
第1実施形態と同様、樹脂製パネル101の形状等に応じて結果として得られるグラフは変わってくると考えられるが、
図12に示すグラフから概ね次のことがわかる。つまり、板振動に基づく吸音特性は、ある中心周波数を中心として、高周波側及び低周波側になだらかな裾状をなすということである。なお、
図12の例では、600Hz~約1300Hzの周波数範囲において吸音率が0.1以上となった。なお、この周波数範囲に含まれるノイズとしては、自動車であれば、ロードノイズ、エンジンノイズ、パターンノイズ、デフギヤノイズ等であり、樹脂製パネル101が自動車に搭載される場合、これらのノイズの消音に効果を発揮することが期待できる。
【0043】
第2実施形態では、短手方向の幅が異なる上面部1Aを含んでいるため、第2実施形態の形状の樹脂製パネル101であれば、吸音可能な周波数範囲が
図12に示すグラフよりも更に拡大していること考えられ、広い周波数範囲において騒音が抑制されることが期待される。
【0044】
2-3 第2実施形態の変形例
2-3-1 変形例1:凹凸構造について
第2実施形態では、短手方向の幅が異なる3つの上面部1Aを有し、これらの3つのy方向において繰り返し配置されるものとして説明したがこれに限定されるものではない。
例えば、複数の上面部1Aは、短手方向の幅が互いに異なる第1及び第2上面部を有し、第1及び第2上面部は、短手方向において交互に配置されていてもよい。また、複数の上面部は、短手方向の幅が互いに異なる第1~第3上面部を有していてもよい。更に、各第1~第3上面部は、第1~第3上面部のうち短手方向の幅が異なるものと隣接するように、配置されていてもよい。
【0045】
具体的に例えば、
図10Aに示すように、短手方向の幅が異なる2つの上面部を有する形態であってもよい。そして、短手方向の幅が異なる2つの上面部がy方向において交互に配置されていてもよい。
そして、短手方向の幅が異なる上面部1Aの種類は、2つ及び3つに限定されるものではなく、4つ以上であってもよい。
【0046】
また、
図10Bに示すように、短手方向の幅が異なる2つの上面部1Aを有するが、ある特定の幅の上面部がy方向において連続して配置されてもよい。つまり、
図10Bに示すように、上面部1Aaが複数回(ここでは2回)連続して配置されていてもよい。連続する回数は、2回に限定されるものではなく、具体的には例えば、2,3,4,5,6,7であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
更に、ある特定の幅の上面部が連続する回数は、y方向において変化してもよい。
【0047】
また、樹脂製パネル101内には、例えば、樹脂製又は金属製の補強部材(リンフォース)が設けられていてもよい。そして、この補強部材によって、凹凸構造St(上面部1Aやリブ部1B)が、長手方向(x方向)において分割されていてもよい。換言すると、x方向において、凹凸構造Stに挟まれるように、補強部材が配置されていてもよい。
【0048】
2-3-2 変形例2:外周部3を更に備える
樹脂製パネル101は、
図11A及び
図11Bに示すように、外周部3を更に備えていてもよい。なお、本変形例2に係る樹脂製パネル101は、
図11Aに示すように、一例として、短手方向の幅が異なる2つの上面部1Aを有する。
外周部3は、x-y平面において、樹脂製パネル101の外周(周縁)に配置されている。換言すると、外周部3は、凹凸構造Stよりも外側に配置されている。そして、外周部3の厚み(z方向の幅)は、凹凸構造Stにおける厚み(z方向の幅)よりも大きくなっている。なお、外周部の厚み及び凹凸構造Stの厚みは、上述した式(1)の空気層の厚さhに対応している。
変形例2では、凹凸構造Stの厚みよりも大きい厚みを有する外周部3を備えているので、樹脂製パネル101のうち特に剛性を確保する必要がある箇所における剛性を高めつつも、凹凸構造Stについては、吸音したい周波数に応じた厚みとすることが可能である。つまり、変形例2では、剛性と吸音性をより両立しやすくなっている。なお、本変形例2で説明した外周部3は、第1実施形態の樹脂製パネル101に適用してもよい。
【0049】
3 その他実施形態
第1及び第2実施形態は、組み合わせることもできる。つまり、樹脂製パネル101が、第1実施形態の消音構成と第2実施形態の吸音構成の両方を備えていてもよい。
例えば、第1実施形態の樹脂製パネル101において、第1面部1には、上面部1A及びリブ部1Bが交互に配置され、上面部1A及びリブ部1Bは、平行に延びており、各上面部1Aは、矩形状に形成され、複数の上面部1Aには、短手方向の幅が異なるものが含まれていてもよい。同様に、第1実施形態の樹脂製パネル101は、第2実施形態で説明した構成を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 :第1面部
1A :上面部
1Aa :上面部
1Ab :上面部
1Ac :上面部
1B :リブ部
1B1 :底面部
1B2 :底面部
1B3 :側面部
1B4 :接続面部
1B5 :接続面部
1C :平坦面部
2 :第2面部
3 :外周部
100 :樹脂成形体
101 :樹脂製パネル
102 :ヒンジ部
E1 :縁
E2 :縁
E3 :縁
E4 :縁
RL :基準仮想線
St :凹凸構造