(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050284
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】溶融塩電解装置及び、チタン系電析物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 3/28 20060101AFI20240403BHJP
C25C 7/02 20060101ALI20240403BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20240403BHJP
C25C 7/08 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C25C3/28
C25C7/02 308Z
C25C7/06 302
C25C7/06 303
C25C7/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157078
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】熊本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中條 雄太
(72)【発明者】
【氏名】堀川 松秀
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA13
4K058BA10
4K058BB06
4K058CB04
4K058CB05
4K058DD06
4K058EA02
4K058EB16
4K058EC04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ある程度小さい電力で、電解を比較的長時間にわたって継続可能な溶融塩電解装置、及びチタン系電析物の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融塩電解装置1は、Ti、Al、Oを有し導電性を有する粗チタン系材料から、より高純度の精製チタン系材料を得る電解精製に用いられ、内部に溶融塩浴Bm、粗チタン系材料を含む陽極52と対向して陰極53が設けられる電解槽2と、電解槽2の開口部2cを通って設けられ、陽極と陰極を電気的に接続する通電部材7と、電解槽2の開口部2cを通って設けられ、陽極又は陰極を保持する電極保持部材3及び/又は4が、陽極及び陰極を対向姿勢で互いに離隔させる方向へ移動可能であり、電解槽2の開口部2cを覆って配置され、電極保持部材4の移動を許容する穴部5aが形成された蓋体5と、蓋体5に対して設けられ、穴部5aを塞ぎながら電極保持部材4とともにスライドするスライド式閉塞板6とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩浴を用いた電解により、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料から、当該粗チタン系材料よりも高純度の精製チタン系材料を得る電解精製に用いられる溶融塩電解装置であり、
内部に、前記溶融塩浴、並びに、電極としての、前記粗チタン系材料を含む板状の陽極及び、該陽極と対向して位置して前記精製チタン系材料を析出させる板状の陰極が設けられる電解槽と、
前記電解槽の開口部を通って外部側から内部側にわたって設けられ、前記陽極及び前記陰極をそれぞれ電源に電気的に接続する通電部材と、
前記電解槽の開口部を通って外部側から内部側にわたって設けられ、当該内部側で前記陽極又は前記陰極をそれぞれ保持する陽極用及び陰極用の電極保持部材であって、陽極用及び/又は陰極用の電極保持部材が、前記陽極及び前記陰極を対向姿勢で互いに離隔させる方向へ移動可能である陽極用及び陰極用の電極保持部材と、
前記電解槽の前記開口部を覆って配置され、移動可能な前記電極保持部材が内側を突き抜けて延びて該電極保持部材の移動を許容する穴部が形成された蓋体と、
前記蓋体に対して前記電解槽の内部側もしくは外部側に設けられ、前記穴部を塞ぎながら前記電極保持部材の移動とともにスライドするスライド式閉塞板と
を備える溶融塩電解装置。
【請求項2】
前記通電部材のうち、移動可能な前記電極保持部材で保持される陽極及び/又は陰極の通電部材が、その移動可能な電極保持部材とともに移動可能である請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項3】
移動可能な前記電極保持部材が、陽極用又は陰極用の一方の前記電極保持部材であり、
陽極用又は陰極用の他方の前記電極保持部材が、前記蓋体に対して固定されている請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項4】
前記蓋体の前記穴部の形成位置からずれた位置で前記スライド式閉塞板に、内側を前記他方の電極保持部材が突き抜けて延びる穴部が形成されており、
前記スライド式閉塞板のスライドに伴い、前記スライド式閉塞板の前記穴部の内側を前記他方の電極保持部材が変位可能である請求項3に記載の溶融塩電解装置。
【請求項5】
前記スライド式閉塞板が、前記蓋体に対して前記電解槽の外部側に配置されている請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項6】
前記電極保持部材がロッド状であり、前記電極の一個当たり複数本のロッド状の前記電極保持部材が設けられている請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項7】
前記電解槽の内部に設けられ、前記電解槽の内部、前記溶融塩浴、前記精製チタン系材料及び/又は前記電極の温度を調節する温度調節器を備える請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項8】
前記温度調節器が熱交換器であり、前記電解槽の内部で前記電極よりも底部側にて、前記精製チタン系材料が成長する領域に敷設されている請求項7に記載の溶融塩電解装置。
【請求項9】
前記温度調節器が、前記陽極側と陰極側を異なる温度に調節可能である請求項7に記載の溶融塩電解装置。
【請求項10】
前記電解槽が、溶融塩貯留槽と接続可能な溶融塩供給口及び溶融塩排出口を有する請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項11】
前記電解槽及び/又は蓋体が、減圧装置と接続可能な通気口を有する請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項12】
前記電解槽の内部に溶融塩浴が存在しないときに前記陽極と前記陰極との間に配置可能であり、前記陽極と前記陰極との間での伝熱を抑制する断熱板を備える請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の溶融塩電解装置を用いて、前記電解精製によりチタン系電析物を製造する方法であって、
電解槽の内部の溶融塩浴を用いた電解により、前記陰極に前記精製チタン系材料を析出させ、該電解の途中に、前記陽極及び前記陰極を対向姿勢で互いに離隔させる電解工程を含む、チタン系電析物の製造方法。
【請求項14】
前記電解工程の後、溶融塩貯留槽と接続した溶融塩排出口を介して、前記電解槽の内部から溶融塩を排出して、溶融塩浴から前記精製チタン系材料を露出させる溶融塩排出工程を含む、請求項13に記載のチタン系電析物の製造方法。
【請求項15】
前記溶融塩排出工程の後、前記電解槽の内部に設けた温度調節器を用いて前記陰極上の前記精製チタン系材料を加熱しながら、減圧装置と接続した通気口から前記電解槽の内部の気体を排出し、溶融塩の残留物を前記精製チタン系材料から分離させる残留物分離工程を含む、請求項14に記載のチタン系電析物の製造方法。
【請求項16】
前記陽極と前記陰極との間に、前記陽極と前記陰極との間での伝熱を抑制する断熱板を配置し、前記残留物分離工程を行う、請求項15に記載のチタン系電析物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩浴を用いた電解で、粗チタン系材料から精製チタン系材料を得る電解精製に用いられる溶融塩電解装置及び、チタン系電析物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属チタンやチタン合金は一般に、大量生産に適したクロール法を基盤とした方法により製造される。しかしながら、この方法は、チタン鉱石の塩化及び、その後の四塩化チタンの金属マグネシウムによる還元が必要である他、スポンジチタン塊の破砕や、還元で生じた塩化マグネシウムの電気分解も必要になって、多数のバッチ工程を行うので、金属チタンを効率的かつ低コストに製造できるとは言い難い。
【0003】
これに対し、溶融塩電解を用いた電解精製によれば、クロール法よりもチタンを容易に製造できる可能性がある。
【0004】
この種の技術として、特許文献1には、「下記の工程を含むことを特徴とする、チタン鉱からのチタン生産物の抽出方法:チタン鉱と還元剤を含む化学ブレンドであって、前記チタン鉱対前記還元剤の比が、0.9~2.4の前記チタン鉱中の酸化チタン成分:前記還元剤中の還元用金属の質量比に相当する前記化学ブレンドを混合する工程;前記化学ブレンドを加熱して抽出反応を開始する工程であって、前記化学ブレンドを、1℃~50℃/分の上昇速度で加熱する工程;前記化学ブレンドを、5分と30分の間の時間、1500~1800℃の反応温度に維持する工程;前記化学ブレンドを、1670℃よりも低い温度に冷却する工程;および、チタン生産物を、残留スラグから分離する工程」で、「チタン生産物を、陽極、陰極および電解質を有する反応容器に入れる工程;前記反応容器を600℃~900℃の温度に加熱して溶融混合物を生成させ、前記陽極と陰極の間に電気的差動を適用してチタンイオンを前記陰極に付着させる工程;および、前記電気的差動を終了し、前記溶融混合物を冷却して精錬チタン生産物を生成させる工程;を含み、前記精錬チタン生産物の表面積が少なくとも0.1m2/gであること」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶融塩電解を用いた電解精製では、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料を陽極として使用し、開口部を蓋体で覆った電解槽の内部の溶融塩浴にて、陽極と陰極との間に電圧を印加する。これにより、陽極の粗チタン系材料が溶解するとともに、陰極に、粗チタン系材料に比して純度の高い精製チタン系材料が析出し、チタン系電析物を製造することができる。
【0007】
ここで、陽極及び陰極としては、いずれも板状のものを対向させて配置することがある。この場合、電気抵抗の影響を小さくして消費電力を抑えるとの観点からは、極間距離が短くなるように、陽極と陰極をある程度近くに位置させることが好ましい。一方、電解を継続すると、陰極では、そこに析出する精製チタン系材料が次第に成長する。このため、陽極と陰極を予め近くに位置させて電解を行うと、陰極上で成長する精製チタン系材料と陽極との接触による短絡が短期間のうちに発生し、溶融塩電解を継続できなくなるおそれがある。
【0008】
この発明の目的は、ある程度小さい電力で、電解を比較的長時間にわたって継続することができる溶融塩電解装置及び、チタン系電析物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の溶融塩電解装置は、溶融塩浴を用いた電解により、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料から、当該粗チタン系材料よりも高純度の精製チタン系材料を得る電解精製に用いられる溶融塩電解装置であり、内部に、前記溶融塩浴、並びに、電極としての、前記粗チタン系材料を含む板状の陽極及び、該陽極と対向して位置して前記精製チタン系材料を析出させる板状の陰極が設けられる電解槽と、前記電解槽の開口部を通って外部側から内部側にわたって設けられ、前記陽極及び前記陰極をそれぞれ電源に電気的に接続する通電部材と、前記電解槽の開口部を通って外部側から内部側にわたって設けられ、当該内部側で前記陽極又は前記陰極をそれぞれ保持する陽極用及び陰極用の電極保持部材であって、陽極用及び/又は陰極用の電極保持部材が、前記陽極及び前記陰極を対向姿勢で互いに離隔させる方向へ移動可能である陽極用及び陰極用の電極保持部材と、前記電解槽の前記開口部を覆って配置され、移動可能な前記電極保持部材が内側を突き抜けて延びて該電極保持部材の移動を許容する穴部が形成された蓋体と、前記蓋体に対して前記電解槽の内部側もしくは外部側に設けられ、前記穴部を塞ぎながら前記電極保持部材の移動とともにスライドするスライド式閉塞板とを備えるものである。なお、多くの場合、水平面に平行な設置面上に構築された溶融塩電解装置では、電解槽の開口部を通って外部側から内部側にわたって設けられる電極保持部材における「外部側」は上方側に相当し、「内部側」は下方側に相当し得る。
【0010】
上記の溶融塩電解装置では、前記通電部材のうち、移動可能な前記電極保持部材で保持される陽極及び/又は陰極の通電部材が、その移動可能な電極保持部材とともに移動可能であることが好ましい。
【0011】
上記の溶融塩電解装置では、移動可能な前記電極保持部材が、陽極用又は陰極用の一方の前記電極保持部材であり、陽極用又は陰極用の他方の前記電極保持部材が、前記蓋体に対して固定されていることが好ましい。
【0012】
この場合、前記蓋体の前記穴部の形成位置からずれた位置で前記スライド式閉塞板に、内側を前記他方の電極保持部材が突き抜けて延びる穴部が形成されており、前記スライド式閉塞板のスライドに伴い、前記スライド式閉塞板の前記穴部の内側を前記他方の電極保持部材が変位可能であることが好ましい。
【0013】
上記の溶融塩電解装置では、前記スライド式閉塞板が、前記蓋体に対して前記電解槽の外部側に配置されていることが好ましい。
【0014】
上記の溶融塩電解装置では、前記電極保持部材がロッド状であり、前記電極の一個当たり複数本のロッド状の前記電極保持部材が設けられていることが好ましい。
【0015】
上記の溶融塩電解装置は、前記電解槽の内部に設けられ、前記電解槽の内部、前記溶融塩浴、前記精製チタン系材料及び/又は前記電極の温度を調節する温度調節器を備えることが好ましい。
【0016】
前記温度調節器は熱交換器であり、前記電解槽の内部で前記電極よりも底部側にて、前記精製チタン系材料が成長する領域に敷設されていることが好ましい。水平面に平行な設置面上に構築された溶融塩電解装置では、上記の「底部側」は低部側ないし下方側に相当することが一般的である。
【0017】
前記温度調節器は、前記陽極側と陰極側を異なる温度に調節可能であることが好ましい。
【0018】
前記電解槽は、溶融塩貯留槽と接続可能な溶融塩供給口及び溶融塩排出口を有することが好ましい。
【0019】
前記電解槽及び/又は蓋体が、減圧装置と接続可能な通気口を有することが好ましい。
【0020】
上記の溶融塩電解装置は、前記電解槽の内部に溶融塩浴が存在しないときに前記陽極と前記陰極との間に配置可能であり、前記陽極と前記陰極との間での伝熱を抑制する断熱板を備えることが好ましい。
【0021】
この発明のチタン系電析物の製造方法は、上記のいずれかの溶融塩電解装置を用いて、前記電解精製によりチタン系電析物を製造する方法であって、電解槽の内部の溶融塩浴を用いた電解により、前記陰極に前記精製チタン系材料を析出させ、該電解の途中に、前記陽極及び前記陰極を対向姿勢で互いに離隔させる電解工程を含むものである。
【0022】
上記のチタン系電析物の製造方法は、前記電解工程の後、溶融塩貯留槽と接続した溶融塩排出口を介して、前記電解槽の内部から溶融塩を排出して、溶融塩浴から前記精製チタン系材料を露出させる溶融塩排出工程を含むことが好ましい。
【0023】
上記のチタン系電析物の製造方法は、前記溶融塩排出工程の後、前記電解槽の内部に設けた温度調節器を用いて前記陰極上の前記精製チタン系材料を加熱しながら、減圧装置と接続した通気口から前記電解槽の内部の気体を排出し、溶融塩の残留物を前記精製チタン系材料から分離させる残留物分離工程を含むことが好ましい。
【0024】
この場合、前記陽極と前記陰極との間に、前記陽極と前記陰極との間での伝熱を抑制する断熱板を配置し、前記残留物分離工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、ある程度小さい電力で、電解を比較的長時間にわたって継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】この発明の一の実施形態の溶融塩電解装置を示す、溶融塩浴の深さ方向に沿う断面図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿う水平方向の断面図である。
【
図3】
図1の溶融塩電解装置で陽極から陰極を離隔させた状態を示す、
図1と同様の断面図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿う水平方向の断面図である。
【
図5】
図1のV-V線に沿う水平方向の断面図である。
【
図6】他の実施形態の溶融塩電解装置を示す、溶融塩浴の深さ方向に沿う断面図である。
【
図7】さらに他の実施形態の溶融塩電解装置を示す、溶融塩浴の深さ方向に沿う断面図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII線に沿う断面図である。
【
図9】
図7のIX-IX線に沿う水平方向の断面図である。
【
図10】
図7の溶融塩電解装置で陽極から陰極を離隔させた状態を示す、
図7と同様の断面図である。
【
図11】
図10のXI-XI線に沿う水平方向の断面図である。
【
図12】
図10のXII-XII線に沿う水平方向の断面図である。
【
図13】
図1の溶融塩電解装置で電解工程を行う前に、電解槽の内部に溶融塩を供給して溶融塩浴を設ける様子を示す、
図1と同様の断面図である。
【
図14】
図1の溶融塩電解装置で電解工程後に行うことができる溶融塩排出工程を示す、
図1と同様の断面図である。
【
図15】
図14の溶融塩排出工程後に行うことができる残留物分離工程を示す、
図1と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
(溶融塩電解装置)
図1に例示する溶融塩電解装置1は、溶融塩浴Bmにて電極51の陽極52及び陰極53を用いた電解により、粗チタン系材料から精製チタン系材料を得る電解精製に用いられるものである。
【0029】
粗チタン系材料は、Ti(チタン)、Al(アルミニウム)及びO(酸素)を含有するとともに導電性を有するものであって、陽極52の一部または全部として陽極52に含ませる。電解精製では、
図1に示すように、陽極52及び陰極53のそれぞれを、その少なくとも一部で溶融塩浴Bmに浸漬させた状態で、陽極52と陰極53との間に電圧を印加する。そうすると、陽極52の粗チタン系材料が溶解し、不純物であるAlやOの少なくとも一部が除去されて、陰極53に、粗チタン系材料よりも純度の高い精製チタン系材料が析出する。これにより、精製チタン系材料として、金属チタン又は、アルミニウムがある程度の量で含まれるチタン合金等のチタン系電析物を製造することができる。電解精製を含むチタン系電析物の製造方法の詳細については後述する。
【0030】
図示の溶融塩電解装置1は、内部に、溶融塩を貯留させてなる溶融塩浴Bm及び、上記の電極51の陽極52及び陰極53を設ける電解槽2を備えるものである。電解槽2は鉄鋼製や煉瓦製等の容器状であって、たとえば、深さ方向に直交する断面の内外輪郭形状が楕円形等の円形である円筒状または、その内外輪郭形状が矩形等の多角形である角筒状その他の筒状の周壁部2aと、周壁部2aの下方側を密閉する底部2bと、周壁部2aの上方側の開口部2cとを有する。煉瓦製や鋼製の電解槽2の内面は、Ni等でライニングを施すことがある。
【0031】
電解槽2の内部に設ける電極51としては、板状の陽極52及び板状の陰極53を、それらの主要な表面が向き合うように対向させて位置させる。このようにすれば、電解の間、陰極53の主要な表面上に、精製チタン系材料がある程度均一に析出し、極間距離の局所的な変動が抑えられるので、低電力にて電解精製を効率的に行うことができる。
【0032】
なお図示は省略するが、仮に、円筒状の陽極の内側に複数個の円柱状の陰極を周方向に並べて配置した場合や、一個の円筒状もしくは円柱状の陰極を陽極と同心円状に配置した場合は、次のような問題点があり、非効率である。すなわち、前者では、複数個の陰極上に析出する精製チタン系材料は、それらの対向する表面上の所定の極間距離の短い箇所の陰極上に集中して析出する。後者は、初期の極間距離が長いので、溶融塩浴の電気抵抗が大きくなって消費電力が大きくなり、また、陰極上で精製チタン系材料が成長すると、極間距離は短くなるが、表面積が増えるので電流量が増えて消費電力が大きくなり、総じて非効率である。
【0033】
板状の陽極52及び板状の陰極53はそれぞれ、上記の主要な表面の正面視で長方形もしくは正方形の矩形状等の多角形状を有することが好ましい。また、陽極52及び陰極53は、図示の平板状のものに限らず、その少なくとも一部に屈曲部及び/又は湾曲部が存在する板状のものとすることができる他、その少なくとも一部で厚みが変化するものとしてもよい。なお、板状とは、厚みに対して主要な表面の寸法(縦横の長さ等)が長い形状を意味し、これには直方体状や円盤状等が含まれる。また、電流の集中を避けるため、直方体状等の周縁ないし四隅に角部がある形状の場合に角部を丸くすること等によって角部を無くす面取り等の加工や、その周縁と中央で厚みを変化させる加工等を施したものも、板状に含まれる。
【0034】
このような板状の陽極52及び陰極53を用いて電解を行うと、陰極53の主要な表面上に析出する精製チタン系材料54が次第に成長し(
図3参照)、陰極53上の精製チタン系材料54が陽極52に接近する。そして、精製チタン系材料54が陽極52に接触したときに短絡が発生し、それ以降に電解を継続することができなくなる。短絡が発生し得るほどに精製チタン系材料54と陽極52が接近したときに一旦電解を終了し、精製チタン系材料54を陰極53から分離させて回収した後に、再び電解を行うことは、その作業に過度の労力が必要となるだけでなく時間を要し、生産性を低下させる。
【0035】
この一方で、電解の間における陰極53上での精製チタン系材料54の成長を考慮して、電解の開始前に予め、陽極52と陰極53を離して位置させておくと、精製チタン系材料54が成長するまでの間の電解の初期に、陽極52と陰極53との極間距離が長くなる。その場合、溶融塩浴Bmによる電気抵抗の影響が大きくなるので、膨大な電力を消費する。
【0036】
このことに対処するため、ここでは、まず、陽極52及び陰極53を、それらの対向姿勢が維持された状態である程度近くに位置させる。陽極52と陰極53をある程度近い距離に位置させると、電解の開始時はある程度短い極間距離として消費電力を抑えることができ、その後に、陰極53上での精製チタン系材料54の成長に応じて陽極52と陰極53を徐々に離隔させることで、精製チタン系材料54と陽極52とを接触させずに、電解を長時間にわたって継続することができる。なお、精製チタン系材料54は陰極53上で生成され、陽極52に向かって、陰極53の主要な表面の寸法が維持されながら成長し得る。この精製チタン系材料54には電流が流れることから、陰極53上に精製チタン系材料54が生成した後は、精製チタン系材料54の成長とともに、陽極52と、陰極53及び精製チタン系材料54との間で電解が行われる。このとき、陽極52と陰極53を離隔させると、陽極52と精製チタン系材料54とをある程度近接させた状態で配置することが可能である。これにより、低電力にて電解を長時間にわたって継続することができる。その結果、一度の電解で多量の精製チタン系材料54が得られるので、生産性を大きく高めることができる。
【0037】
そのような電解時の陽極52と陰極53との離隔を可能にするため、この実施形態の溶融塩電解装置1は、陽極52又は陰極53をそれぞれ保持する陽極52用及び陰極53用の電極保持部材3及び4を備えるものとする。陽極52用の電極保持部材3及び陰極53用の電極保持部材4のうちの少なくとも一方は、陽極52及び陰極53を対向姿勢で互いに離隔させる方向へ移動可能なものである。
【0038】
電極保持部材3及び4はそれぞれ、電解槽2の開口部2cを通って電解槽2の外部側(
図1では上方側)から内部側(
図1では下方側)にわたって設けられ、電解槽2の内部側で、陽極52又は陰極53の上方側の上面に取り付けられること等により、陽極52又は陰極53を保持している。たとえば、電解槽2の外部に設置される図示しない駆動源からの動力の付与等により、陽極52用の電極保持部材3及び/又は陰極53用の電極保持部材4は、電解槽2の内部の陽極52及び/又は陰極53を保持しながら、陰極53に析出する精製チタン系材料54とともに、陽極52と陰極53が離れる方向に移動することができる。多くの場合、移動可能な陽極52用の電極保持部材3及び/又は陰極53用の電極保持部材4は、陽極52と陰極53との離隔方向のみならず、陽極52と陰極53との接近方向にも移動することが可能である。また、電極保持部材3及び/又は4は、電解の開始前や終了後において電極51や精製チタン系材料54を取り出す際等に、上下方向にも移動できるようにしてもよい。
図1では、溶融塩電解装置1を水平面に平行な設置面上に構築しており、この場合、電極保持部材3及び4は、電解槽2の開口部2cを通って、電解槽2の外部側である上方側から、内部側である下方側にわたって設けられている。
【0039】
なお、陽極52用の電極保持部材3及び陰極53用の電極保持部材4の両方をそれぞれ、陽極52及び陰極53の離隔ないし接近方向に移動できるようにしてもよいが、ここでは、陰極53用の電極保持部材4だけを移動可能としている。
【0040】
ところで、電解の間に、溶融塩浴Bmの吸湿防止や陰極53に析出する精製チタン系材料54の酸化防止等の観点から、電解槽2の内部への外気の流入を抑制することを目的として、溶融塩電解装置1には、電解槽2の開口部2cを覆う蓋体5が設けられる。上述した陽極52用の電極保持部材3及び陰極53用の電極保持部材4は、開口部2cを通って配置されるところ、電極保持部材4は、蓋体5を閉じたときに電解槽2の内部の気密性が確保されるようにしながら、移動可能に設けることが必要になる。
【0041】
そこで、図示の実施形態では、蓋体5に、
図2に示すように、蓋体5の厚み方向に貫通する穴部5aを形成する。そして、移動可能な電極保持部材4は、上記の穴部5aの内側を突き抜けて延びるように配置される。その上で、蓋体5の上、すなわち蓋体5に対して電解槽2の外部側に、
図2に破線で示すように、蓋体5の上記の穴部5aを塞ぎながら電極保持部材4の移動とともに蓋体5上でスライドするスライド式閉塞板6を設ける。電極保持部材4を陽極52及び陰極53の離隔方向に移動させると、それに追従してスライド式閉塞板6も同方向にスライドする(
図3及び4参照)。なお、陰極53用の電極保持部材4および通電部材7は、スライド式閉塞板6を貫通して延びており、スライド式閉塞板6と固定されている。
【0042】
このことによれば、電解槽2の内外にわたって延びる電極保持部材4の、陽極52及び陰極53の離隔ないし接近方向への移動が、蓋体5に形成した穴部5aにより許容される。またここでは、電極保持部材4が電極51の接近位置(
図1及び2)から離隔位置(
図3及び4)に至るまでの間、穴部5aがスライド式閉塞板6で塞がれるので、電解槽2の内部の気密性が確保される。言い換えれば、穴部5aはその端部がスライド式閉塞板6で完全に覆われているので、前述のように電解槽2の内部の気密性が確保される。それにより、溶融塩浴Bmの吸湿や精製チタン系材料54の酸化を抑制しつつ、電解の長時間の継続を実現することができる。
【0043】
図2に示す穴部5aは、一例として、切れ込みのように、電極保持部材4の移動方向(陽極52及び陰極53の離隔ないし接近方向、
図2の左右方向)に延びる態様で蓋体5を貫通するスリット状ないし溝状のものとして、電極保持部材4ごとに設けられている。穴部5aの端部としては、図示のように蓋体5内で終端させることができる他、図示は省略するが、蓋体5の周縁に達するまで延ばしてもよい。穴部5aは、その内側で電極保持部材4が変位可能であって電極保持部材4の移動が許容されるものであれば、図示のスリット状のものに限らず、その形状及び寸法を適宜変更することができる。図示は省略するが、例えば、内側に全ての電極保持部材4を受け入れる一つの大きめの寸法を有する穴部とすることも考えられる。図示のような細長いスリット状の穴部5aとした場合は、電極保持部材4が移動する際に、その穴部5aの内側を摺動して変位することがある。
【0044】
なお、蓋体5やスライド式閉塞板6は、電解後の電解槽2の内部からの精製チタン系材料54の取り出しやすさ等を考慮し、分解可能な複数の部材で構築してもよい。また、図示は省略するが、スライド式閉塞板は、図示のような変形しない平板状ではなく、いわゆるシャッターのスラットのような蛇腹型もしくは簾型の巻込みもしくは折畳みによって収納可能に変形する板状とし、電極保持部材の移動とともに引き出されたり又は、巻き込まれ若しくは折り畳まれたりしてスライドするもの等としてもよい。
【0045】
ここで述べる実施形態では、スライド式閉塞板6を、蓋体5よりも電解槽2の外部側(
図1では上方側)に設けているが、図示は省略するが、スライド式閉塞板は、蓋体よりも電解槽の内部側ないし下方側、つまり蓋体と電解槽との間に設けてもよい。但し、その場合、スライド式閉塞板を電解槽2に対してスライド可能に配置する構造が必要になる。このため、構造の簡略化との観点からは、図示のように、スライド式閉塞板6を蓋体5上に設けることが好ましい。蓋体5とスライド式閉塞板6との間等の必要な箇所には、断熱材が設けられ得る。
【0046】
先述したように、この溶融塩電解装置1では、陰極53用の電極保持部材4だけを蓋体5に対して移動可能に配置し、陽極52用の電極保持部材3は蓋体5に対して固定して配置している。具体的には、蓋体5に、陽極52用の電極保持部材3よりも若干大きい寸法の貫通孔5bを設けており、その貫通孔5bに当該電極保持部材3を挿入することで固定して配置している。この一方で、図示しないが、蓋体に対し、陰極用の電極保持部材を固定し、陽極用の電極保持部材を移動可能としてもよい他、また、陰極用及び陽極用の両方の電極保持部材を移動可能としてもよい。なお、溶融塩電解装置1では、陰極53用の電極保持部材4は、スライド式閉塞板6に設けた貫通孔6aに挿入して配置されており、スライド式閉塞板6と一体となって移動する。貫通孔5b、6aと、そこに挿入して配置される電極保持部材3、4、通電部材7との間には、絶縁物やシールリングを介在させることが好ましい。
【0047】
陽極52及び陰極53をそれぞれ電解槽2の外部の図示しない電源に電気的に接続する導線等の通電部材7は、陰極53用の電極保持部材4の移動及びスライド式閉塞板6のスライドを阻害しなければ、その配置態様は特に問わない。図示の例では、各通電部材7は、電極保持部材3もしくは4とともに陽極52もしくは陰極53のそれぞれの上面に連結され、電極保持部材3もしくは4と並行して、貫通孔5b又は、穴部5a及び貫通孔6aを通って、電解槽2の外部に延びるように配置している。移動可能な電極保持部材4で保持される陽極52及び/又は陰極53の通電部材7は、その移動可能な電極保持部材4とともに移動可能であることが好ましい。図示の例では、陰極53が、移動可能な電極保持部材4で保持されており、その陰極53に通電する通電部材7は、当該電極保持部材4とともに移動するように構成されている。通電部材7は、蓋体5及びスライド式閉塞板6と、さらには電極保持部材4とも絶縁性が確保されるように配置される。たとえば、電極保持部材4が、セラミック等の絶縁材料からなる場合、通電部材7との間で絶縁性を確保するための別途の対策は不要であるが、炭素鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼等の金属材料からなる場合は、かかる対策を行う。また、通電部材7と溶融塩浴Bmとの接触を避けるため、陽極52及び陰極53の上面は、溶融塩浴Bmの浴面よりも上方側に位置させている。
【0048】
電極保持部材3、4や通電部材7は板状等の形状とすることも可能であるが、ここではロッド状とし、
図2及び4からわかるように、電極51の陽極52や陰極53の一個当たり複数本、たとえば三本設けている。
【0049】
ところで、溶融塩電解装置1の電解槽2の内部には、電解槽2の内部、溶融塩浴Bm、精製チタン系材料54及び/又は電極51を加熱もしくは冷却し、その温度を調節する温度調節器8を設けることができる。この温度調節器8として、図示の実施形態では、
図1、3及び5に示すように、熱媒体を流動させる配管を含む熱交換器を、電極51よりも底部2b側(低部側ないし下方側)に敷設している。熱交換器である温度調節器8は、その敷設領域に、電極保持部材4の移動方向(陽極52及び陰極53の離隔ないし接近方向)にて、陰極53上で精製チタン系材料54が成長する領域が含まれるように配置することが好適である。熱交換器である温度調節器8の敷設領域には、電極保持部材4の可動領域が含まれ得る。ここでは、熱交換器としての温度調節器8により、電解槽2の内部ないし溶融塩浴Bmの温度が調整され、それを介して精製チタン系材料54や電極51の温度を調整することができる。
【0050】
図5に示すところでは、底部2bの平面視で、温度調節器8は、陽極52の直下に位置して、電極保持部材4の移動方向(
図5の左右方向)と直交する方向(
図5の上下方向)に延びる陽極52用の配管と、精製チタン系材料54の成長領域の下方側に位置し、電極保持部材4の移動方向に蛇行して延びる部分及び、電極保持部材4の移動方向と直交する方向に延びる三本の部分を含む陰極53用の配管を有する。温度調節器8は、配管の形状に関わらず、このように陽極52用の配管及び陰極53用の配管を設けること等によって、陽極52側と陰極53側を異なる温度に調節できるように構成することが好ましい。それにより、後述の残留物分離工程で、当該温度調節器8によって、陰極53及び精製チタン系材料54だけを加熱することができる。また、当該温度調節器8は、電解槽2の内部を解放して陽極52、精製チタン系材料54、陰極53などを取り出したり、交換したりする前の迅速な冷却にも使用することができる。
【0051】
電解槽2には、溶融塩供給口9a及び溶融塩排出口9bを設けることができる。溶融塩供給口9aは、電解を行う前の準備として、電解槽2の内部に溶融塩を供給して内部を溶融塩浴Bmとすることに用いられる。溶融塩排出口9bは、電解が終了した後、後述の溶融塩排出工程で電解槽2の内部から溶融塩を排出する際に使用する。溶融塩供給口9a及び溶融塩排出口9bは、溶融塩の保管ないし輸送等に用いる後述の溶融塩貯留槽61と接続可能にすれば、電解槽2と溶融塩貯留槽61との間での溶融塩の授受が容易になる(
図13及び14参照)。
【0052】
図示の電解槽2のように、溶融塩供給口9aは、溶融塩浴Bmの浴面よりも上方側の高さに設けることが好ましく、また、溶融塩排出口9bは、溶融塩浴Bmの浴面よりも下方側で底部2b寄りの高さに設けることが好ましい。これにより、溶融塩貯留槽61との間での授受の際に溶融塩の流動がその自重により促進される。
【0053】
また、電解槽2には、通気口を設けることが好ましい。この通気口は、後述するように、減圧装置71と接続可能とし、残留物分離工程での電解槽2の内部の気体の排出に用いられる(
図15参照)。通気口は、上述した溶融塩供給口9aや溶融塩排出口9bとは別に設けてもよいが、図示の例では、溶融塩供給口9aを通気口としても兼用している。
【0054】
溶融塩電解装置1は、陽極52と陰極53との間での伝熱を抑制する断熱板10を設けることができる(
図15参照)。この断熱板10は、後述の残留物分離工程で、電解槽2の内部に溶融塩浴Bmが存在しないときに陽極52と陰極53との間に配置できるようにする。残留物分離工程で陰極53上の精製チタン系材料54を加熱する際に、断熱板10により、その陰極53側の熱が陽極52側に伝わることが抑制される。断熱板10は、たとえば、電解槽2の内部に溶融塩浴Bmが存在する電解の間等には、電解槽2の周壁部2a側に収容させておき、電解槽2の内部に溶融塩浴Bmが存在せず、残留物分離工程等で必要になったときに、そこから側方に移動させて陽極52と陰極53との間に配置可能にすることが好ましい。
【0055】
図6に示す他の実施形態は、陽極52を隔てて両側に陰極53を配置したものである。この場合、両側の陰極53のそれぞれについて、先に述べたような穴部5a及びスライド式閉塞板6を設けて、各陰極53を陽極52に対して離隔できるようにすることが好適である。
図6の溶融塩電解装置1の他の構成は、先に述べた実施形態と実質的に同様であり、その再度の説明は省略する。
【0056】
図7~12に、さらに他の実施形態の溶融塩電解装置1を示す。
図7~12の溶融塩電解装置1は、主に、スライド式閉塞板6を電極保持部材4の移動方向に長くしたこと、及び、そのスライド式閉塞板6に、内側を陽極52用の電極保持部材3が変位するスリット状の穴部6bを、蓋体5の穴部5aの形成位置からずれた位置に設けたことを除いて、
図1~5に示すものとほぼ同様の構成を有する。
【0057】
より詳細には、スライド式閉塞板6には、
図7~12に示すように、陰極53用の電極保持部材4の移動方向に延びるスリット状ないし溝状の穴部6bが、スライド式閉塞板6を貫通して形成されている。陽極52用の電極保持部材3は、スライド式閉塞板6の穴部6bの内側を突き抜けて延びるように配置されている。そして、陰極53用の電極保持部材4の移動に伴ってスライド式閉塞板6がスライドすると、上記の穴部6bの内側を陽極52用の電極保持部材3が、スライド式閉塞板6に対して相対的に変位する。このとき、陰極53用の電極保持部材4は、
図1~5の実施形態と同様に、蓋体5に設けた穴部5aの内側を摺動する等して変位する。このように、
図7~12の溶融塩電解装置1は、蓋体5の穴部5aの内側を、陰極53用の一方の電極保持部材4が変位可能であり、スライド式閉塞板6の穴部6bの内側を、陽極52用の他方の電極保持部材3が変位可能に構成されている。
【0058】
スライド式閉塞板6の穴部6bは、
図8及び9並びに
図11及び12に示すように、平面視で、電極保持部材4の移動方向と直交する方向に、蓋体5の穴部5aの形成位置からずれた位置に形成されている。このため、蓋体5に対してスライド式閉塞板6がスライドして、スライド式閉塞板6の穴部6bと蓋体5の穴部5aとが、
図11及び12に示すように、電極保持部材4の移動方向に重複する位置関係になったとしても、それらの穴部6bと穴部5aとは、電極保持部材4の移動方向と直交する方向に重複していないことから、スライド式閉塞板6による蓋体5の穴部5aの閉塞状態が維持される。またそれとともに、スライド式閉塞板6の穴部6bも、蓋体5によって塞がれた状態が保たれる。その結果として、陽極52と陰極53を離隔させるときにも、電解槽2の内部の気密性を確保することができる。
【0059】
図7~12の溶融塩電解装置1では、
図1~5に示すものに比して、電極保持部材4の移動距離を長くすることができる。それにより、
図7~12の溶融塩電解装置1は、陽極52と陰極53とをさらに近くに位置させること(すなわち、極間距離をさらに狭くすること)や、陽極52と陰極53とをさらに遠くに離隔させることが可能であり、より低い消費電力で電解の継続時間の長期化、陰極53でのより多量の精製チタン系材料54の析出を実現できる点で有利である。
【0060】
スライド式閉塞板6の穴部6bは、内側を電極保持部材3が変位可能であれば、図示のスリット状ないし溝状のものに限らない。スライド式閉塞板6の穴部6bの寸法及び形状は、蓋体5の穴部5aについて先述したところと同様に、適宜変更することができる。
【0061】
なお、
図10に示すように、陰極53の片側の表面上に精製チタン系材料54が大きく成長した場合、電極保持部材4だけでは、その支持が困難となる場合がある。これに対処するため、図示しないが、電解槽2の底部2b上で精製チタン系材料54の下方側に、精製チタン系材料54を下方側から支持する支持台を配置してもよい。
【0062】
図7~12の溶融塩電解装置1で
図1~5に示すものと同じ構成については、
図1~5について先述したところと同様であり、その説明は省略する。
【0063】
(チタン系電析物の製造方法)
チタン系電析物を製造するには、上述したような溶融塩電解装置1を用いて電解精製を行う電解工程に先立って予め、粗チタン系材料を準備しておく。粗チタン系材料は、抽出工程により得ることができる。
【0064】
抽出工程では、酸化チタン(TiO2)等のチタン酸化物を含むチタン鉱石等のチタン原料と、アルミニウム(Al)を含む還元剤の混合物を加熱する。この時、分離剤を混合してもよい。このときの反応は複雑だが総じて、たとえば、3TiO2+4Al→3Ti+2Al2O3の反応が起きると考えられる。ここで、Tiはある程度の量のAlとOが固溶しており、これが粗チタン系材料に相当する。加熱温度は1500℃~1800℃とする場合がある。混合物は加熱により溶融状態になった後、密度差で粗チタン系材料(液体または固体)とスラグとが分離するので、粗チタン系材料(上記反応式のTi)を抽出することができる。
【0065】
抽出工程で用いるチタン原料は、チタン酸化物を含むものであればよく、たとえば、必要に応じてリーチング等のアップグレード処理その他の処理が施されたチタン鉱石を挙げることができる。チタン原料として用いるチタン鉱石中のTiO2の含有量は、たとえば50質量%以上、典型的には80質量%以上、特に90質量%以上とすることがある。分離剤は、加熱後においてスラグを生じやすくするために使用される。分離剤として具体的には、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム及びフッ化ナトリウムから選択される一種以上とすることが好ましい。なかでもフッ化カルシウム(CaF2)は、混合物からの粗チタン系材料の優れた分離性をもたらすとともに、当該分離以外に及ぼす影響が少ないことから特に好適である。還元剤は、実質的にアルミニウム(Al)を単独で含むものとすることができる他、さらにCaやNa、Mg、Cu、Si、Fe等を含むものであってもよい。たとえば、混合物は、TiO2:Al:CaF2がモル比で3:4~7:2~6になるように調整して作製する場合がある。
【0066】
抽出工程で得られる粗チタン系材料は、Ti、Al及びOが含まれ、たとえば、Ti含有量が50質量%~80質量%、Al含有量が1質量%~30質量%、O含有量が5質量%~20質量%となる場合がある。典型的には、粗チタン系材料のTi含有量は60質量%以上、Al含有量は20質量%以下、O含有量は20質量%以下となることがある。但し、粗チタン系材料中、TiにおいてAl及びOは、上記の含有量よりも少なく、不可避的不純物に相当し得る程度の含有量で含まれる場合もある。粗チタン系材料は、Al及びOがごく微量で含まれるものであってもよい。
【0067】
このような粗チタン系材料は導電性を有するものであり、次に述べる電解工程で陽極52に含ませて電解精製に供することができる。室温で測定される粗チタン系材料の比抵抗は、たとえば1×10-8Ω・m~1×10-4Ω・m、典型的には1×10-7Ω・m~5×10-5Ω・mである。
【0068】
電解工程では、先述した溶融塩電解装置1を用いて、溶融塩浴Bmにて、陽極52の粗チタン系材料を溶解させ、陰極53に精製チタン系材料54を析出させる電解精製を行う。
【0069】
ここで、陽極52としては、たとえば上述した抽出工程で得られる粗チタン系材料が含まれるものを用いる。一例として、陽極52は、外形が板状であって、Ni製、Ni基合金製、ハステロイ製又は、Niで被覆した鋼製等の多数の貫通孔を有する籠状容器を有し、この場合、その籠状容器内に粒状もしくは粉状等の粗チタン系材料を配置することができる。陽極52が籠状容器を有する場合、通電部材7は籠状容器に接続することができる。但し、陽極52の形態はこれに限らず、たとえば、粗チタン系材料から溶解及び鋳造等により作製した板状(直方体状)のものとしてもよい。陰極53は、少なくともその表面がTi製の板状のものを使用可能であり、たとえば全体がTiからなるチタン板とすることができる。陽極52と陰極53との間に複極を配置することも考えられるが、複極は無くてもよい。
【0070】
また、溶融塩浴Bmは、主として金属塩化物を含む塩化物浴とすることがあり、たとえば、アルカリ金属塩化物及び/又はアルカリ土類金属塩化物を、たとえば70mol%以上、さらに80mol%以上、さらに90mol%以上含有することがある。このような塩化物浴は、フッ化物浴や臭化物浴、ヨウ化物浴に比して、低腐食性、低環境負荷及び低コストであることから好ましい。なかでも、塩化マグネシウム(MgCl2)を含む塩化物浴を用いたときは、O含有量のみならずAl含有量をも十分に低減された精製チタン系材料54を得ることができる。塩化物浴中のMgCl2含有量は、30mоl%以上、さらに50mol%以上、さらに80mol%以上、さらに85mol%以上、特に90mol%以上であることが好ましい。塩化物浴には、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)、塩化ベリリウム(BeCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)及び、塩化バリウム(BaCl2)から選択される一種以上の金属塩化物を、たとえば70mol%以下、さらに50mol%以下、さらに20mol%以下、さらに10mol%以下、さらに5mol%以下で含むものとしてもよい。
【0071】
また、溶融塩浴Bm中には、必要に応じて、四塩化チタンよりもTiの価数が低い低級塩化チタン、具体的には二塩化チタン(TiCl2)や三塩化チタン(TiCl3)等を含ませることもできる。溶融塩浴Bm中のチタンイオンの含有量は、好ましくは3mol%以上、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは6mol%以上、さらには10mol%以上としてもよく、20mоl%以下とすることが好ましい。溶融塩浴Bm中の金属塩化物や金属イオンの含有量は、ICP発光分析や原子吸光分析により測定することができる。チタンイオンの含有量は、溶融塩浴Bm中の金属イオンの合計含有量に対する百分率として求められる。
【0072】
電解槽2の内部に上述した溶融塩浴Bmを設けることは、粒状ないし塊状の所定の塩を電解槽2の内部に入れて、これを加熱して溶融塩とすることにより行うことができる。あるいは、既に溶融塩が得られている場合、例えば、
図13に示すようにして電解槽2の内部に溶融塩を注入してもよい。ここでは、内部に溶融塩が貯留している溶融塩貯留槽61を、電解槽2の溶融塩供給口9aに接続し、溶融塩供給口9aの図示しないバルブを開く。そうすると、溶融塩供給口9aが、電解槽2の内部の溶融塩浴Bmの最終的な浴面の高さよりも上方側に形成されていることにより、溶融塩が自重で溶融塩貯留槽61の内部から電解槽2の内部に流入する。
【0073】
その後の電解工程では、電源から電極51の陽極52及び陰極53に通電部材7を介して通電し、電極51間に電圧を印加する。これにより、陽極52に含まれる粗チタン系材料からチタンイオンが溶融塩浴Bm中に溶出し、チタンイオンが陰極53上にチタン原子として析出して精製チタン系材料54となる。このような電解の途中に、陰極53上での精製チタン系材料54の成長に応じて、先述したように、スライド式閉塞板6をスライドさせながら電極保持部材4を移動させ、陽極52及び陰極53を対向姿勢で互いに離隔させて極間距離を調整する。それにより、短絡を発生させずに、電解を長時間にわたって行うことができて、陰極53上に、多量の精製チタン系材料54を、少ない消費電力で析出させることが可能になる。陰極53上に析出した精製チタン系材料54は、チタン系電析物に相当し得る。
【0074】
電解工程の条件として、たとえば、溶融塩浴Bmの温度は450℃~900℃、陰極53での電流密度は0.01A/cm2~3A/cm2とすることがある。電流密度は、式:電流密度(A/cm2)=電流(A)÷電析面積(cm2)により算出することができる。電極51には、電流を連続的に流すことができる他、電流値をゼロにする通電停止期間が設けられて通電期間と通電停止期間とが交互に繰り返されるパルス電流を流してもよい。電極51間の最大電圧は、たとえば0.2V~3.5Vになることがある。電解工程の間、電解槽2の内部は、アルゴン等の不活性雰囲気に維持することが好適である。
【0075】
電解工程が終了した後は、溶融塩排出工程を行うことができる。溶融塩排出工程では、
図14に示すように、たとえば溶融塩が全く貯留していないこと等によって溶融塩が入る余裕のある溶融塩貯留槽61を、電解槽2の溶融塩排出口9bに接続し、溶融塩排出口9bの図示しないバルブを開く。ここでは、溶融塩排出口9bが溶融塩浴Bmの浴面の高さよりも下方側で底部2b側に形成されているので、溶融塩排出口9bのバルブの開放により、溶融塩が自重によって電解槽2の内部から溶融塩貯留槽61の内部に流出する。これにより、電解槽2の内部の溶融塩を排出し、溶融塩浴Bmから精製チタン系材料54を露出させることができる。溶融塩排出工程では、溶融塩浴Bmから精製チタン系材料54のほぼ全体が露出すればよいが、電解槽2の内部に、実質的に溶融塩浴Bmが存在しない状態となるまで溶融塩を排出してもよい。
【0076】
溶融塩排出工程の後、必要に応じて、
図15に示すようにして残留物分離工程が行われ得る。残留物分離工程は、陰極53上の精製チタン系材料54に付着する等して残留している溶融塩の残留物を除去することを目的として行う。
【0077】
残留物分離工程では、たとえば、通気口としての溶融塩供給口9aに減圧装置71を接続し、陰極53上の精製チタン系材料54を、たとえば850℃~1000℃に加熱しながら、電解槽2の内部を真空などの減圧雰囲気とし、電解槽2の内部の気体を減圧装置71側に排出する。これにより、溶融塩の残留物は蒸発して減圧装置71側に排出され、精製チタン系材料54から分離する。減圧装置71は、図示の容器状のコンデンサの他に、図示しない真空ポンプを有し、その真空ポンプによって白抜き矢印で示すように吸引が行われる。減圧装置71の当該コンデンサは冷却され、電解槽2からコンデンサに流入した気体は、そこで固体になって捕捉される。なお、電解槽2内への外気の混入を抑制するため、溶融塩排出口9bは図示しないバルブ等で閉塞しておくことが好ましい。
【0078】
残留物分離工程での陰極53上の精製チタン系材料54の加熱には、電解槽2の内部に設けた温度調節器8の陰極53用の配管を用いることができる。このとき、温度調節器8の陽極52側の配管は使用しないか、又は陽極52の冷却に使用することができる。精製チタン系材料54の加熱による、陽極52の籠状容器等の構成部材の劣化や、陽極52に含まれ得る粗チタン系材料の残渣の焼結等を抑制するためである。また、陽極52側の配管を使用しない場合、無駄なエネルギー消費を回避できる。これは、加熱が必要と判断した部分のみ加熱し、省エネルギーで生産を実施できることをも意味する。たとえば、Ni製の籠状容器では、粗チタン系材料の残渣と反応して低融点の金属間化合物が生成されて、それが上記の加熱時に溶融し、残渣が籠状容器から落下することが懸念される。またこの観点から、残留物分離工程を開始する前に、陽極52と陰極53との間に、
図15に示すように、先述した断熱板10を配置することが好ましい。これにより、陰極53上の精製チタン系材料54の加熱時に、陰極53側から陽極52側への熱の伝達を抑えることができる。
【0079】
残留物分離工程が終了すると、電解槽2の内部から精製チタン系材料54を陰極53とともに取り出す。電解槽2の内部から取り出した精製チタン系材料54は、溶融塩の残留物がまだ残っていることもあり、水洗や酸洗その他の洗浄を行うことができる。
【0080】
残留物分離工程は省略することも可能であり、この場合、溶融塩排出工程の後に、電解槽2の内部から精製チタン系材料54を取り出し、上記の洗浄を行うことがある。
【0081】
上述したようにして精製チタン系材料54を得て、チタン系電析物を製造することができる。
【0082】
(チタン系電析物)
一段又は複数段の電解工程により得られる精製チタン系材料54としてのチタン系電析物は、Ti以外の不純物の合計の含有量が、例えば40000質量ppm以下、好ましくは5000質量ppm以下、より好ましくは2000質量ppm以下、さらに好ましくは1000質量ppm以下、特に好ましくは200質量ppm以下である。
【0083】
チタン系電析物は金属チタンとすることができ、たとえば、Al含有量が5質量ppm~20000質量ppm、O含有量が50質量ppm~20000質量ppmであり、残部がTi及び不可避的不純物からなる場合がある。また、チタン系電析物はAl含有量が5質量ppm~1000質量ppm、O含有量が50質量ppm~1000質量ppmであり、残部がTi及び不可避的不純物からなる場合がある。純度が4N5以上、さらに5N以上、さらに5N5以上の金属チタン製のチタン系電析物が製造できることもある。
【0084】
チタン系電析物中の不可避的不純物は、鉱石由来のものや、塩化物浴由来のもの、還元剤由来のもの、分離剤由来のもの、電解槽などの電解装置を構成する部材などに由来するもの、大気と接触した際に生じるもの等がある。具体的には、チタン系電析物は不可避的不純物として、N(窒素)含有量が0.03質量%以下であり、C(炭素)含有量が0.01質量%以下であり、Fe含有量が0.050質量%以下であり、Mg含有量が0.02質量%以下であり、Ni含有量が0.03質量%以下であり、Cr含有量が0.03質量%以下であり、Si含有量が0.001質量%以下であり、Mn含有量が0.05質量%以下であり、Sn含有量が0.01質量%以下である場合がある。
【符号の説明】
【0085】
1 溶融塩電解装置
2 電解槽
2a 周壁部
2b 底部
2c 開口部
3、4 電極保持部材
5 蓋体
5a 穴部
5b 貫通孔
6 スライド式閉塞板
6a 貫通孔
6b 穴部
7 通電部材
8 温度調節器
9a 溶融塩供給口
9b 溶融塩排出口
10 断熱板
51 電極
52 陽極
53 陰極
54 精製チタン系材料
61 溶融塩貯留槽
71 減圧装置
Bm 溶融塩浴