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特開2024-50285トリアルキルアルミニウムの反応生成促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050285
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】トリアルキルアルミニウムの反応生成促進剤
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/06 20060101AFI20240403BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C07F5/06 A
B01J37/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157079
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】橋元 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雄太
【テーマコード(参考)】
4G169
4H048
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA27C
4G169BB02C
4G169BB08C
4G169BC16C
4G169BD14C
4G169BE01C
4G169BE16C
4G169DA04
4G169FB43
4G169FB80
4G169FC02
4G169FC03
4G169FC04
4G169FC10
4H048AA02
4H048AB40
4H048AB84
4H048AC90
4H048AD11
4H048BA63
4H048BB11
4H048BD32
4H048BD52
4H048BE21
4H048VA80
(57)【要約】
【課題】トリアルキルアルミニウムの反応生成促進剤、その製造方法及びその使用の提供。
【解決手段】本発明は、有機溶媒中でのトリアルキルアルミニウムの反応生成後、当該トリアルキルアルミニウムを蒸留により留去して残存したスラリー中から回収された前記有機溶媒からなる、トリアルキルアルミニウム反応生成促進剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中でのトリアルキルアルミニウムの反応生成後、当該トリアルキルアルミニウムを蒸留により留去して残存したスラリー中から回収された前記有機溶媒からなる、トリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項2】
前記有機溶媒のスラリー中からの回収を濾過及び/又は蒸留により行う、請求項1に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項3】
前記有機溶媒が炭化水素溶媒である、請求項1に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項4】
前記炭化水素溶媒が炭素数5~18の飽和炭化水素溶媒及び炭素数6~12の芳香族炭化水素溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項5】
前記炭化水素溶媒がn-ドデカンである、請求項4に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項6】
トリアルキルアルミニウムの反応生成が、前記有機溶媒中で、アルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金をハロゲン化アルキルと反応させることで行う、請求項1に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項7】
前記トリアルキルアルミニウムの反応生成が、含窒素有機化合物の存在下で行われる、請求項6に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項8】
前記含窒素有機化合物が、窒素原子を少なくとも1個含み、かつ5員環及び/または6員環骨格を有する共役複素環化合物である、請求項7に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項9】
前記共役複素環化合物が、ピリジン、2-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、キノリン、イソキノリン、2,2-ビピリジン、1-メチルイミダゾールから成る群から選ばれる、請求項8に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項10】
前記トリアルキルアルミニウムの生成反応が、さらにハロゲン単体の存在下で行う、請求項6に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項11】
前記ハロゲン単体がヨウ素である、請求項10に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項12】
前記トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、請求項1に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
【請求項13】
請求項1に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤を溶媒として使用する、トリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項14】
トリアルキルアルミニウムの製造が、溶媒として使用する前記トリアルキルアルミニウム反応生成促進剤中で、アルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金をハロゲン化アルキルと反応させることで行う、請求項13に記載のトリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項15】
トリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法であって、有機溶媒中でのトリアルキルアルミニウムの反応生成後、当該トリアルキルアルミニウムを蒸留により留去して残存したスラリー中から前記有機溶媒を回収することを含む、トリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
【請求項16】
前記有機溶媒のスラリー中からの回収を濾過及び/又は蒸留により行う、請求項15に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
【請求項17】
前記有機溶媒が炭化水素溶媒である、請求項16に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
【請求項18】
前記炭化水素溶媒が炭素数5~18の飽和炭化水素溶媒及び炭素数6~12の芳香族炭化水素溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種である、請求項17に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
【請求項19】
前記炭化水素溶媒がn-ドデカンである、請求項18に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
【請求項20】
トリアルキルアルミニウムの反応生成が、前記有機溶媒中で、アルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金をハロゲン化アルキルと反応させることで行う、請求項15に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
【請求項21】
前記トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、請求項15に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアルキルアルミニウムの反応生成促進剤、その製造方法及びその使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルキルアルミニウムは代表的なルイス酸および高い反応性を有することから、重合用触媒、高級アルコールの原料として使用されている。その中でも、モノアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウムは、一般的にアルミニウム粉末またはアルミニウムを含む合金とハロゲン化アルキルを反応させ得ることができ、蒸留操作によって高純度なものを取得できる。特にトリアルキルアルミニウムは製品価値が高く、近年、極めて高い需要がある電子材料、半導体の原料でもあることから、効率的な生産方法の確立が望まれている。
【0003】
トリアルキルアルミニウムは、アルミニウム粉末とハロゲン化アルキル(例:塩化メチル、臭化メチル)を反応させて得られるアルミニウムセスキハライド(MeAl3、X=Cl, Br)をアルカリ金属またはアルカリ土類金属により還元することで得ることができる(非特許文献1;特許文献1)。その他の方法として、アルミニウムを含む合金とハロゲン化アルキルを触媒存在下、有機溶媒中で反応させることでも得ることができる(特許文献2)。これらトリアルキルアルミニウムの生成に対する、反応促進剤として、ヨウ素や含窒素有機化合物が知られている(特許文献2)。確かに、ヨウ素や含窒素有機化合物を添加することでトリアルキルアルミニウムの生成を促進できる。しかしながら、ヨウ素は毒性、腐食性も高いことから、取扱方法にも制約があり、トラブルを招きやすい物質でもある。一方、含窒素有機化合物、例えば、ピリジンはアンモニアに似た刺激臭があり、目、皮膚への刺激も強く、毒性も高いことから、作業環境および取扱時に注意が必要である。近年、世界的なエネルギー価格の高騰により、化学製品の価格が上昇傾向にあることから、ヨウ素や含窒素有機化合物に代わる経済的事情に左右されない促進剤の出現が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許5380898号
【特許文献2】特開2018-135300号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. V. Grosse, et.al., J. Org. Chem., 05, 2.106-121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トリアルキルアルミニウムの反応生成促進剤、その製造方法及びその使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、有機溶媒を使用するトリアルキルアルミニウムの生成反応において、トリアルキルアルミニウムを減圧蒸留により分離回収した後に反応槽に残存したスラリー中の有機溶媒を回収し、トリアルキルアルミニウムの生成反応の有機溶媒として再使用すると、驚くべきことに新品の有機溶媒を使用した反応系と比較してトリアルキルアルミニウム転化率が顕著に向上し、トリアルキルアルミニウムの反応生成促進剤として使用できることを見出した。
【0008】
従って、本願は以下の発明を包含する。
(1)有機溶媒中でのトリアルキルアルミニウムの反応生成後、当該トリアルキルアルミニウムを蒸留により留去して残存したスラリー中から回収された前記有機溶媒からなる、トリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(2)前記有機溶媒のスラリー中からの回収を濾過及び/又は蒸留により行う、(1)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(3)前記有機溶媒が炭化水素溶媒である、(1)又は(2)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(4)前記炭化水素溶媒が炭素数5~18の飽和炭化水素溶媒及び炭素数6~12の芳香族炭化水素溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種である、(1)~(3)のいずれかに記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(5)前記炭化水素溶媒がn-ドデカンである、(1)~(4)のいずれかに記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(6)トリアルキルアルミニウムの反応生成が、前記有機溶媒中で、アルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金をハロゲン化アルキルと反応させることで行う、(1)~(5)のいずれかに記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(7)前記トリアルキルアルミニウムの反応生成が、含窒素有機化合物の存在下で行われる、(6)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(8)前記含窒素有機化合物が、窒素原子を少なくとも1個含み、かつ5員環及び/または6員環骨格を有する共役複素環化合物である、(7)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(9)前記共役複素環化合物が、ピリジン、2-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、キノリン、イソキノリン、2,2-ビピリジン、1-メチルイミダゾールから成る群から選ばれる、(8)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(10)前記トリアルキルアルミニウムの生成反応が、さらにハロゲン単体の存在下で行う、(6)~(9)のいずれかに記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(11)前記ハロゲン単体がヨウ素である、(10)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(12)前記トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、(1)~(11)のいずれかに記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤。
(13)(1)~(12)のいずれかに記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤を溶媒として使用する、トリアルキルアルミニウムの製造方法。
(14)トリアルキルアルミニウムの製造が、溶媒として使用する前記トリアルキルアルミニウム反応生成促進剤中で、アルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金をハロゲン化アルキルと反応させることで行う、(13)に記載のトリアルキルアルミニウムの製造方法。
(15)トリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法であって、有機溶媒中でのトリアルキルアルミニウムの反応生成後、当該トリアルキルアルミニウムを蒸留により留去して残存したスラリー中から前記有機溶媒を回収することを含む、トリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
(16)前記有機溶媒のスラリー中からの回収を濾過及び/又は蒸留により行う、(15)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
(17)前記有機溶媒が炭化水素溶媒である、(15)又は(16)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
(18)前記炭化水素溶媒が炭素数5~18の飽和炭化水素溶媒及び炭素数6~12の芳香族炭化水素溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種である、(17)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
(19)前記炭化水素溶媒がn-ドデカンである、(18)に記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
(20)トリアルキルアルミニウムの反応生成が、前記有機溶媒中で、アルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金をハロゲン化アルキルと反応させることで行う、(15)~(19)のいずれかに記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
(21)前記トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである、(16)~(20)のいずれかに記載のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤を使用することで、トリアルキルアルミニウムの生産効率を顕著に高めることができる。また、トリアルキルアルミニウムの反応生成工程において使用した有機溶媒を再使用することになるので、収益性改善、有機溶剤使用量削減、廃棄物処理コストの削減といった効果が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、トリアルキルアルミニウムの反応生成促進剤、その製造方法及びその使用を提供する。トリアルキルアルミニウムには、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等が含まれ、工業的に特に有用なのはトリメチルアルミニウムである。
【0011】
本発明でいうトリアルキルアルミニウムの反応生成方法は特に限定されるものではなく、トリアルキルアルミニウムの反応生成後、その精製を目的に蒸留分離する工程を包含する方法であればよい。その具体的な反応生成方法としては、例えば(i)アルミニウムと還元剤となる金属又はそれらの合金と、ハロゲン化アルキルとを触媒存在下、有機溶媒中で反応させてトリアルキルアルミニウムを生成する方法、(ii)アルミニウムとハロゲン化アルキル等から合成されたハロゲン化アルキルアルミニウムをナトリウム、マグネシウムと接触させ、還元によりトリアルキルアルミニウムを得る方法、(iii)アルミニウムをアルキルアルミニウムと水素により活性化し、それに不飽和炭化水素を反応させ、置換反応によりトリアルキルアルミニウムを生成する方法などがある。これらの方法では、いずれもアルミニウムやアルカリ金属を使用するため、未反応の原料、反応で副生する無機塩、有機溶媒が釜残に残存するため、釜残を処理する工程が必須である。
【0012】
これらの釜残には、少なからずアルキルアルミニウムが残存することから、処理方法や取扱に細心の注意が必要である。特に、アルキルアルミニウムは空気に触れただけで自然発火し、水に触れたりすると爆発的に反応して発熱し、熱分解して連鎖爆発が起こることがあり、重大な事故や災害につながりかねない。従って、釜残のスラリーについても適切な処置または有効的な処理方法の提案が望まれる。
【0013】
本発明者は、この蒸留精製工程の後に反応装置に残留する所謂釜残のスラリーが含む、トリアルキルアルミニウムの生成反応において用いた有機溶媒の再利用に着目したのである。そして驚くべきことに、そのスラリーを濾過や蒸留などにかけることで回収された有機溶媒をトリアルキルアルミニウムの反応生成工程における有機溶媒として再使用すると、新品の有機溶媒を使用した反応系と比較してトリアルキルアルミニウム転化率が顕著に向上した。よって、このようにして回収された有機溶媒はトリアルキルアルミニウムの反応生成促進剤として有効であることが見出された。ここでいう顕著な向上は統計学的に有意な向上を意味し、例えば新品の有機溶媒に比べ、転化率を5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上向上させることを意味し得る。
【0014】
上記スラリーからの本発明のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤の回収方法は特に限定されるものではないが、具体的には、濾過、沈降、遠心、蒸留など従来から知られた分離方法を使用することができる。例えば、濾材を用いたケーク濾過、蒸留塔を用いた蒸留、遠心分離や遠心沈降(デカンター)、液体サイクロンやセトラー等の沈降濃縮等を例示でき、これらを組み合わせて回収しても良い。
【0015】
本発明のトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤はトリアルキルアルミニウム反応生成に再利用された後、再度回収されることで再びトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤として使用できる。従って、回収した溶媒は繰り返し使用できる、即ち半永久的にトリアルキルアルミニウム反応生成促進剤として使用し続けることができる。
【0016】
特に好ましいトリアルキルアルミニウムの反応生成方法は上記(i)のアルミニウムと還元剤となる金属又はそれらの合金と、ハロゲン化アルキルとを触媒存在下、有機溶媒中で反応させてトリアルキルアルミニウムを生成する方法である。
【0017】
上記還元剤となる金属の具体例には、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属や、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属などが挙げられる。還元剤となる金属として特に好ましいのはマグネシウムである。アルミニウムと還元剤となる金属の合金の例には、リチウム合金、ナトリウム合金、カリウム合金、マグネシウム合金、カルシウム合金、バリウム合金、ストロンチウム合金などが挙げられる。合金として特に好ましいのはアルミニウム-マグネシウム合金である。アルミニウム-マグネシウム合金を使用する場合、例えば、マグネシウムを20~99重量%含有する合金であることができ、マグネシウム含有量は30~99重量%であることがより好ましく、35~99重量%がさらに好ましい。
【0018】
アルミニウムや還元剤となる金属又はそれらの合金は、特に制限されるものではないが、粉砕処理を行い粉末状にして反応に使用することができる。粉砕処理については、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の従来から知られている一般的な合金の粉砕処理の方法を使用することができる。これらの粉末の粒径は、特に制限されるものではないが、1μm~1000μmが好ましく、5~500μmがさらに好ましい。
【0019】
ハロゲン化アルキルとしては、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチル、塩化イソブチル、臭化イソブチル、ヨウ化イソブチル等が挙げられる。この反応は、アルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金にハロゲン化アルキルを添加することによって行うが、あらかじめ、反応容器内でアルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金とハロゲン化アルキルの一部を混合させておき、反応が開始してから残りのハロゲン化アルキルを添加してもよい。
【0020】
ハロゲン化アルキルの使用量は、特に制限はないが、アルミニウム又はその合金中のアルミニウム1molに対して3mol以上用いれば良いが、3mol以上、5mol以下が好ましく、3mol以上、4mol以下がさらに好ましい。
【0021】
反応は、回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく、特に制限なく実施することができる。反応装置としては、縦型または横型の耐圧反応容器を用いることができる。例えば、耐圧性の撹拌器付オートクレーブを用いることができる。用いる撹拌翼としては、一般に知られているどのようなものでも良いが、例えばプロペラ、タービン、三枚後退翼、大型翼等が挙げられる。さらに、ホモジナイザーなども使用できる。
【0022】
ハロゲン化アルキルの反応装置への投入については、連続的に投入しても、断続的に投入しても良い。ハロゲン化アルキルを連続的に投入する場合は、反応が発熱反応であることから、過度の温度の上昇を防止するために、投入量及び加熱温度を制御する必要がある。断続的に投入する場合は、ハロゲン化アルキルを投入した後に加熱し、発熱反応が終了するまで反応を行うことが好ましい。断続的に投入する場合は、上記の反応を繰り返しても良い。本発明においては、アルミニウムと還元剤となる金属又はそれらの合金を溶媒に懸濁させスラリー状にしてハロゲン化アルキルを投入するのが好ましい。
【0023】
反応の温度は、特に制限はないが、20℃~200℃が好ましく、60℃~160℃がさらに好ましい。反応の時間は、特に制限はないが、1~12時間が好ましく、3~8時間がさらに好ましい。
【0024】
反応には溶媒を用いることができ、溶媒としては、例えば、炭化水素溶媒を用いることができる。炭化水素溶媒は、疎水性かつ反応性の乏しい炭化水素溶媒であることが好ましく、そのような有機溶媒としては、例えば、飽和炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0025】
炭化水素溶媒は、沸点が30℃以上、250℃以下の範囲のものが好ましい。上記飽和炭化水素溶媒としては、炭素数が5以上18以下の置換もしくは非置換の直鎖飽和炭化水素であっても、置換もしくは非置換の環状飽和炭化水素であっても良い。また、パラフィン油あるいはそれらの混合物が含まれていても良い。
【0026】
上記飽和炭化水素溶媒の具体例としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、o-メンタン、m-メンタン、p-メンタン、デカヒドロナフタレン、パラフィン類Cn2n+2、イソパラフィン類Cn2n+2などが例示出来る。特にn-ドデカンが好ましい。
【0027】
溶媒として用いられる芳香族炭化水素としては、炭素数1から8のアルキル基、炭素数3から8のシクロアルキル基および炭素数2から8のアルキレン基からなる群から選ばれる置換基を有する芳香族炭化水素または無置換の芳香族炭化水素が好ましい。
【0028】
芳香族炭化水素の置換基である炭素数1から8のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、ネオヘキシル、tert-ヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、ネオヘプチル、tert-ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、ネオオクチル、tert‐オクチル基が挙げられる。
【0029】
芳香族炭化水素の置換基である炭素数3から8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基が挙げられる。
【0030】
芳香族炭化水素の置換基である炭素数2から8のアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン基が挙げられる。
【0031】
上記芳香族炭化水素の具体例としては、クメン、o-クメン、m-クメン、p-クメン、プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、1-フェニルペンタン、1-フェニルヘプタン、1-フェニルオクタン、1,2-ジエチルベンゼン、1,4-ジエチルベンゼン、メシチレン、1,3-ジ-tert-ブチルベンゼン、1,4-ジ-tert-ブチルベンゼン、ジ-n-ペンチルベンゼン、トリ-tert-ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、インダン、テトラリンがある。
【0032】
溶媒の使用量は特に限定されないが、1molのアルミニウム又はその合金のアルミニウムに対して、例えば、0.1mol以上、100mol以下の範囲とすることができ、1mol以上、10mol以下の範囲であることが好ましい。
【0033】
アルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金とハロゲン化アルキルの反応は、含窒素有機化合物の存在下で実施してもよい。含窒素有機化合物とは窒素原子を一つ以上含有している化合物である。含窒素有機化合物はアミン化合物、窒素原子を含む複素環化合物及び、アミド化合物を挙げることができる。これらの含窒素有機化合物は2つ以上のものを併用しても良い。
【0034】
アミン化合物としては、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、窒素原子を含む複素環式化合物、を挙げることができる。
【0035】
脂肪族アミン化合物は、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジンのような第1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジアミルアミン、ジシクロヘキシルアミンのような第2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエタノールアミン、トリシクロヘキシルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンのような第3級アミンを挙げることができる。本発明においてはとくに、第3級アミンを用いることが好ましい。
【0036】
芳香族アミン化合物は、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン等が挙げられる。
【0037】
窒素原子を含む複素環式化合物は、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタン、ピロールのような飽和複素環式化合物、及びピラゾール、イミダゾール、ピリジン、2-メチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、2,6-ジエチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、2,2-ビピリジンピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、4-ジメチルアミノピリジン、インドール、キノリン、イソキノリン、プリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-ブチルイミダゾールのような不飽和複素環式化合物が挙げられる。本発明においては、不飽和複素環式化合物を用いることが好ましい。
【0038】
含窒素有機化合物の存在量は、アルミニウム又はその合金中のアルミニウム1molに対して、1mol以下であれば良いが、0.001mol以上、0.2mol以下の範囲が好ましく、0.001mol以上、0.1mol以下の範囲がより好ましく、0.01mol以上、0.08mol以下の範囲がさらに好ましい。
【0039】
アルミニウム及び還元剤となる金属又はそれらの合金とハロゲン化アルキルの反応においては、含窒素有機化合物に加えて、アルキルアルミニウム化合物、ヨウ素、臭素及びハロゲン化化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を共存させることができる。
【0040】
アルキルアルミニウム化合物としては、例えば、トリアルキルアルミニウム、アルキルアルミニウムセスキクロライド、ジアルキルアルミニウムクロライド、アルキルアルミニウムジクロライドが挙げられる。アルキルアルミニウム化合物を添加することで、上記反応におけるトリアルキルアルミニウム選択率及びトリアルキルアルミニウム転化率が向上する。添加剤に用いるアルキルアルミニウム化合物としては、上記反応の反応生成物であるトリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムクロライドとの混合物をそのまま用いることもできる。
【0041】
アルキルアルミニウム化合物の添加量は、アルミニウム又はその合金中のアルミニウム1molに対して、0.001mol以上、0.1mol以下の範囲が好ましく、0.01mol以上、0.05mol以下の範囲がさらに好ましい。
【0042】
添加剤としてのハロゲン化化合物としては、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチル、臭化メチルが挙げられる。ヨウ素、臭素及び/又はハロゲン化化合物を添加することで、上記反応におけるアルミニウムやその合金の転化率が向上し、かつトリアルキルアルミニウム選択率及びトリアルキルアルミニウム転化率が向上する。
【0043】
ヨウ素、臭素、またはハロゲン化化合物の添加量は、アルミニウム又はその合金中のアルミニウム1molに対して、0.001mol以上、0.20mol以下の範囲が好ましく、0.01mol以上、0.10mol以下の範囲がさらに好ましい。
【0044】
添加剤としては、アルキルアルミニウム化合物と、ヨウ素、臭素、またはハロゲン化化合物及び含窒素有機化合物とを併用することが、アルミニウムやその合金の転化率が向上し、かつトリアルキルアルミニウム選択率及びトリアルキルアルミニウム転化率が向上するため好ましい。特に、アルキルアルミニウム化物としてジアルキルアルミニウムハロゲン化物、ヨウ素、含窒素有機化合物として2,6-ジメチルピリジンの組み合わせが好ましく、原料であるハロゲン化アルキルが塩化メチルであり、生成物であるトリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムである場合、ジアルキルアルミニウムハロゲン化物は、ジメチルアルミニウムクロライドであること、添加剤はジメチルアルミニウムクロライド、ヨウ素、2,6-ジメチルピリジンの組み合わせであることが、好ましい。
【0045】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0046】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0047】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0048】
工程(1)(新品のドデカンを使用)
窒素置換を行った1.5 Lオートクレーブに、メジアン径90 μmのAlMg合金粉末92.59 g(Al:39.35 g、1.46 mol、Mg:53.24 g、2.19 mol)、ヨウ素10.0 g(AlMg合金中のアルミニウム1 molに対して0.0270 mol)、2,6-ジメチルピリジン6.02 g(AlMg合金中のアルミニウム1 molに対して0.0385 mol)、ジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)3.34 g、(AlMg合金中のアルミニウム1molに対して0.0248 mol)、n-ドデカン313.66 gを投入した。その後、145℃まで昇温し、塩化メチルを投入して反応を行った。発熱がなくなった点を反応終点とし、塩化メチルの投入を終了した。塩化メチルを投入時間は7時間、圧力は0.2 MPa、投入量は236.61 g(AlMg合金中のアルミニウムに対して3.21 mol)だった。反応終了後、減圧蒸留によりトリメチルアルミニウム(TMAL)とジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)の混合物を取得し、アルミニウム及び塩素の含有量を定量分析した。取得した溶液中のTMAL及びDMACの量は、それぞれ、TMALが60.2 g(0.84 mol)、DMACが16.4 g(0.18 mol)であり、投入したAlMg合金に含まれるアルミニウムの69.5%がTMALまたはDMACに転化した。
【0049】
工程(2)(固液分離)
工程(1)でオートクレーブに残存した釜残スラリー(412.45 g、スラリー濃度37.4 wt%)を抜き出した。これを室温・窒素雰囲気下、G4(細孔の大きさ5~10μm)のガラスフィルターを用いて減圧濾過(20 kPaA)した。ドデカンの回収量は227.34 gであり、回収率は88.1%だった(未回収分はケークへの付着液として残存)。工程(3)で行うTMAL生成反応へのドデカン不足分は新品のドデカンを85.43 g追加して使用した。
【0050】
工程(3)(反応生成促進剤を使用)
窒素置換を行った1.5 Lオートクレーブに、メジアン径90μmのAlMg合金粉末92.78 g(Al:39.43g、1.46 mol、Mg:53.35 g、2.20 mol)、ヨウ素10.5 g(AlMg合金中のアルミニウム1 molに対して0.0283 mol)、2,6-ジメチルピリジン5.55 g(AlMg合金中のアルミニウム1 molに対して0.0354 mol)、ジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)3.48 g、(AlMg合金中のアルミニウム1molに対して0.0257 mol)、回収ドデカン312.77 gを投入した。その後、145℃まで昇温し、塩化メチルを投入して反応を行った。発熱がなくなった点を反応終点とし、塩化メチルの投入を終了した。塩化メチルを投入時間は7時間、圧力は0.2 MPa、投入量は260.81 g(AlMg合金中のアルミニウムに対して3.54 mol)だった。反応終了後、減圧蒸留によりトリメチルアルミニウム(TMAL)とジメチルアルミニウムクロリド(DMAC)の混合物を取得し、アルミニウム及び塩素の含有量を定量分析した。取得した溶液中のTMAL及びDMACの量は、それぞれ、TMALが66.7 g(0.92 mol)、DMACが19.0 g(0.21 mol)であり、投入したAlMg合金に含まれるアルミニウムの77.3%がTMALまたはDMACに転化した。
【0051】
工程(1)に比べ、工程(2)で回収した溶剤を使用して実施した工程(3)ではアルミニウムのTMALまたはDMACへの転化が著しく向上した。従って、工程(2)で回収した溶剤はTMALの反応生成促進剤として有用である。