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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050301
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】血管壁穿刺用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/34 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
A61B17/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157101
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】522385913
【氏名又は名称】吉田 泰之
(71)【出願人】
【識別番号】522385924
【氏名又は名称】石田 宏輝
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】石田 宏輝
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160FF49
(57)【要約】
【課題】血管壁に穿刺針を刺入する際に、従来技術と比較して穿刺針を安定して保持する。
【解決手段】血管壁穿刺用デバイスは、血管の径方向に拡径及び縮径が可能な拡縮部と、
穿刺針をチューブ先端より出没自在に収容するためのチューブであって、拡縮部に対し直接的または間接的に係合されるチューブを備えている。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の径方向に拡径及び縮径が可能な拡縮部と、
穿刺針をチューブ先端より出没自在に収容するためのチューブであって、前記拡縮部に対し直接的または間接的に係合されるチューブと、
を備えた血管壁穿刺用デバイス。
【請求項2】
前記拡縮部のうち拡径に応じて血管壁に当接される当接部位に止血部材が設けられている、
請求項1に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項3】
前記拡縮部には、血液を血管内の流れ方向に連通させるための連通孔が形成されている、
請求項1に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項4】
前記拡縮部と血管壁との間には、血液を血管内の流れ方向に連通させるための隙間が形成される、
請求項1に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項5】
前記拡縮部は、その軸方向の縮退及び伸長に応じて径方向の拡径及び縮径がそれぞれ可能となる可撓性を有する網状構造体を含む、
請求項1に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項6】
前記拡縮部を前記軸方向へ縮退動作及び伸長動作させる操作部、
を備えた請求項5に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項7】
前記拡縮部には、血液を血管内の流れ方向に連通させるための連通孔が前記網状構造体の網目として形成されている、
請求項5に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項8】
前記拡縮部のうち前記当接部位における前記網目の密度は、前記拡縮部のうち前記当接部位以外の部位における前記網目の密度よりも大きい、
請求項7に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項9】
血管の径方向に拡径及び縮径が可能な拡縮部と、
穿刺針をチューブ先端より出没自在に収容するためのチューブであって、前記拡縮部に対し直接的または間接的に係合されるチューブと、
前記拡縮部のうち拡径に応じて血管壁に当接される当接部位に設けられた止血部材と、
を備えた血管壁穿刺用デバイス。
【請求項10】
血管の径方向に拡径及び縮径が可能な拡縮部と、
前記拡縮部に対し直接的または間接的に係合される穿刺針と、
前記拡縮部のうち拡径に応じて血管壁に当接される当接部位に設けられた止血部材と、
を備えた血管壁穿刺用デバイス。
【請求項11】
前記拡径部のうち前記止血部材が設けられた箇所の少なくとも一部は、X線不透過性を有する請求項9に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項12】
前記拡径部のうち前記止血部材が設けられた箇所の少なくとも一部は、X線不透過性を有する請求項10に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項13】
前記拡縮部は、網状構造体を含み、
血液を血管内の流れ方向に連通させるための連通孔が前記網状構造体の網目として形成されており、
前記拡縮部のうち前記当接部位における前記網目の密度は、前記拡縮部のうち前記当接部位以外の部位における前記網目の密度よりも大きい、
請求項9に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項14】
前記拡縮部は、網状構造体を含み、
血液を血管内の流れ方向に連通させるための連通孔が前記網状構造体の網目として形成されており、
前記拡縮部のうち前記当接部位における前記網目の密度は、前記拡縮部のうち前記当接部位以外の部位における前記網目の密度よりも大きい、
請求項10に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【請求項15】
前記穿刺針又は前記チューブの少なくとも一部は、X線不透過性を有する請求項1~14のいずれか一項に記載の血管壁穿刺用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管壁穿刺用デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カテーテルに設けられたバルーンの拡縮動作と連動して針が血管壁に刺入されるという発明が記載されている。
【0003】
特許文献2には、カテーテル本体から血管壁穿刺部材が送り出されて血管の穿刺が行われ、血管壁穿刺部材の管腔を通ってデリバリーカテーテルが管外標的部位に向けて前進されるという発明が記載されている。
【0004】
特許文献3には、バルーンを膨張させて貫通手段を血管壁に押し付けて貫通手段により血管壁を貫通させるという発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6302870号明細書
【特許文献2】特表2004-528062号公報
【特許文献3】米国特許第5681281号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血管壁に穿刺針を刺入する際には、穿刺針を安定して保持する必要がある。
【0007】
穿刺針が安定して保持されないまま刺入が行われると、穿刺針が目標穿刺経路からずれたり、穿刺標的に正確に穿刺されなくなるおそれがある。
【0008】
また、穿刺針を刺入した後、刺入した箇所から血管外への血液の漏出をより良く抑制したいというニーズがある。
【0009】
また、血管内の血液の流れを止めずに、穿刺針の刺入を行いたいというニーズがある。
【0010】
本発明は、血管壁に穿刺針を刺入する際に、従来技術と比較して穿刺針を安定して保持できるようにすることを第1の課題とする。
【0011】
本発明は、血管壁に穿刺針を刺入する際に、従来技術と比較して穿刺針を刺入した後、刺入した箇所から血管外への血液の漏出をより良く抑制できるようにすることを第2の課題とする。
【0012】
本発明は、血管壁に穿刺針を刺入する際に、従来技術と比較して血管内の血液の流れを止めずに、穿刺針の刺入を行えるようにすることを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様は、血管の径方向に拡径及び縮径が可能な拡縮部と、穿刺針をチューブ先端より出没自在に収容するためのチューブであって、前記拡縮部に対し直接的または間接的に係合されるチューブと、を備えた血管壁穿刺用デバイスである。
【0014】
第2の態様は、第1の態様において、前記拡縮部のうち拡径に応じて血管壁に当接される当接部位に止血部材が設けられている、血管壁穿刺用デバイスである。
【0015】
第3の態様は、第1の態様において、前記拡縮部には、血液を血管内の流れ方向に連通させるための連通孔が形成されている、血管壁穿刺用デバイスである。
【0016】
第4の態様は、第1の態様において、前記拡縮部と血管壁との間には、血液を血管内の流れ方向に連通させるための隙間が形成される、血管壁穿刺用デバイスである。
【0017】
第5の態様は、第1の態様において、前記拡縮部は、その軸方向の縮退及び伸長に応じて径方向の拡径及び縮径がそれぞれ可能となる可撓性を有する網状構造体を含む、血管壁穿刺用デバイスである。
【0018】
第6の態様は、第5の態様において、前記拡縮部を前記軸方向へ縮退動作及び伸長動作させる操作部、を備えた血管壁穿刺用デバイスである。
【0019】
第7の態様は、第5の態様において、前記拡縮部には、血液を血管内の流れ方向に連通させるための連通孔が前記網状構造体の網目として形成されている、血管壁穿刺用デバイスである。
【0020】
第8の態様は、第7の態様において、前記拡縮部のうち前記当接部位における前記網目の密度は、前記拡縮部のうち前記当接部位以外の部位における前記網目の密度よりも大きい、血管壁穿刺用デバイスである。
【0021】
第9の態様は、血管の径方向に拡径及び縮径が可能な拡縮部と、穿刺針をチューブ先端より出没自在に収容するためのチューブであって、前記拡縮部に対し直接的または間接的に係合されるチューブと、前記拡縮部のうち拡径に応じて血管壁に当接される当接部位に設けられた止血部材と、を備えた血管壁穿刺用デバイスである。
【0022】
第10の態様は、血管の径方向に拡径及び縮径が可能な拡縮部と、前記拡縮部に対し直接的または間接的に係合される穿刺針と、前記拡縮部のうち拡径に応じて血管壁に当接される当接部位に設けられた止血部材と、を備えた血管壁穿刺用デバイスである。
【0023】
第11の態様は、第9の態様において、前記拡径部のうち前記止血部材が設けられた箇所の少なくとも一部は、X線不透過性を有する血管壁穿刺用デバイスである。
【0024】
第12の態様は、第10の態様において、前記拡径部のうち前記止血部材が設けられた箇所の少なくとも一部は、X線不透過性を有する血管壁穿刺用デバイスである。
【0025】
第13の態様は、第9の態様において、前記拡縮部は、網状構造体を含み、血液を血管内の流れ方向に連通させるための連通孔が前記網状構造体の網目として形成されており、前記拡縮部のうち前記当接部位における前記網目の密度は、前記拡縮部のうち前記当接部位以外の部位における前記網目の密度よりも大きい、血管壁穿刺用デバイスである。
【0026】
第14の態様は、第10の態様において、前記拡縮部は、網状構造体を含み、血液を血管内の流れ方向に連通させるための連通孔が前記網状構造体の網目として形成されており、前記拡縮部のうち前記当接部位における前記網目の密度は、前記拡縮部のうち前記当接部位以外の部位における前記網目の密度よりも大きい、血管壁穿刺用デバイスである。
【0027】
第15の態様は、第1~第14の態様のいずれかにおいて、前記穿刺針又は前記チューブの少なくとも一部は、X線不透過性を有する血管壁穿刺用デバイスである。
【発明の効果】
【0028】
第1乃至第15の態様によれば、血管壁に穿刺針を刺入する際に、従来技術と比較して穿刺針を安定して保持できる。
【0029】
第2及び第9~第14の態様によれば、血管壁に穿刺針を刺入する際に、従来技術と比較して穿刺針を刺入した後、刺入した箇所から血管外への血液の漏出をより良く抑制できる。
【0030】
第3~第8の態様及び第13、14の態様によれば、血管壁に穿刺針を刺入する際に、従来技術と比較して血管内の血液の流れを止めずに、穿刺針の刺入を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A図1Aは、血管壁穿刺用デバイスの全体の構成を示す図である。
図1B図1Bは、血管壁穿刺用デバイスの全体の構成を示す図である。
図2A図2Aは、図1Aを部分的に拡大して示す図である。
図2B図2Bは、図1Bを部分的に拡大して示す図である。
図3図3は、チューブと穿刺針を拡大して示す図である。
図4図4は、血管壁穿刺方法の処理の手順を示すフローチャートである。
図5図5は、図1Bに対応する図で、網状構造体の血管壁に当接される当接部位のメッシュ密度が、テーパ部位127のメッシュ密度に対して大きくなっている実施態様を例示する図である。
図6図6は、図1Bに対応する図で、穿刺針が拡縮部に係合する箇所が、血管壁に当接される当接部位に一致している実施態様を示す図である。
図7A図7Aは、図1Bに対応する図で、拡縮部を自己拡張性ステントを含んで構成した実施態様を示す図である。
図7B図7Bは、図1Bに対応する図で、拡縮部を自己拡張性ステントを含んで構成した実施態様を示す図である。
図8A図8Aは、図1Bに対応する図で、拡縮部を、バルーンによって拡縮するように構成した実施態様を示す図である。
図8B図8Bは、図8Aの断面図である。
図8C図8Cは、図8Aに示すバルーンの斜視図である。
図8D図8Dは、拡縮部を、バルーンによって拡縮するように構成した別の実施態様を示す断面図である。
図9図9は、図8Aに示すバルーンに対するチューブの固定方法を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、血管壁穿刺用デバイスの実施の形態について説明する。
【0033】
図1A図1Bは、血管壁穿刺用デバイスの全体の構成を示す。
【0034】
本実施形態の血管壁穿刺用デバイス100は、大きくは、カテーテル110と、拡縮部120と、穿刺針130と、チューブ140と、操作部150を含んで構成される。なお、本発明の血管壁穿刺用デバイスは、穿刺針130及びチューブ140のうち少なくとも一方を含んでいればよく、必ずしも穿刺針130及びチューブ140の双方を含まなくてもよい。また本発明の血管壁穿刺用デバイスは、操作部150を含まなくてもよい。
【0035】
(カテーテル)
【0036】
カテーテル110は、血管10内に挿入可能な大きさ、形状に形成されている。カテーテル110は、湾曲した血管10に沿って移動可能に可撓性を有する材料、例えば合成樹脂によって形成されている。カテーテル110は、血管10内に挿通可能な外径を有し、操作部150の操作ワイヤ151、チューブ140が挿通可能な内径を有する断面環状に形成されている。
【0037】
カテーテル110の基端部114は、カテーテル110を押し引き及び回転させる操作が可能である。
【0038】
(拡縮部)
【0039】
拡縮部120は、その長手方向中心軸がカテーテル110の長手方向中心軸110Cと同軸となるように、その後端部122がカテーテル110の先端部112に固定されている。拡縮部120は、血管10の径方向10A、つまり、軸方向に直交する方向に、拡径及び縮径が可能に構成されている。拡縮部120には、血液を血管10内の流れ方向10Bに連通させるための孔120Mが複数形成されている。拡縮部120は筒状であり、その内部空間を介して孔120M同士が連通する。このため血液は、拡径時の拡縮部120を通過することができる。
【0040】
本発明のカテーテル110と拡縮部120は、本実施形態のように必ずしも固定されていなくてもよい。例えば、図7A図7Bで後述するように、カテーテル110に拡縮部120を内挿可能なルーメン(内腔)を備え、血管10内に配置されたカテーテル110のルーメンから拡縮部120を押し出すことで拡縮部120を拡径させてもよい。図7Aに示す実施態様においては、患者の体外で予め拡縮部120とチューブ140とを係合させた状態の複合体を、カテーテル110のルーメンに内挿しておくことが望ましい。
【0041】
図1A図1Bに戻り、拡縮部120は、カテーテル110の軸方向110Bの縮退及び伸長に応じて径方向110Aの拡径及び縮径がそれぞれ可能となる可撓性を有する網状構造体121を含んでいる。本実施形態では、血液を血管10内の流れ方向10Bに連通させるための孔120Mが網状構造体121の網目として形成されている。本実施形態の拡縮部120は、全体が網状構造体121で構成されている。しかし血液を通過させるための孔120Mは、少なくとも血管10内の血液の流れ方向10B(つまりカテーテル110の軸方向110B)に対して角度をなしているテーパ部位127の一部あるいは全部に設けられていればよい。すなわち、拡縮部120のうち少なくとも血管10内の血液の流れ方向10B(つまり軸方向110B)に対して傾斜している部分の一部又は全部が、網状構造体121で構成されていればよい。
【0042】
網状構造体121の材料としては、例えばニッケルチタン合金などの形状記憶合金あるいは超弾性合金を使用することができる。
【0043】
図2A図2Bはそれぞれ、図1A図1Bに示す拡縮部120のうち血管壁11に近接する近接部位126´及び血管壁11に当接する当接部位126を拡大して示す。
【0044】
図1B図2Bに示すように拡縮部120又は網状構造体121の表面120Sのうち、血管壁11に当接される当接部位126は、拡径時において拡縮部120又は網状構造体121のうち最大径をなす部分である。図1Bに示すように軸方向110Bに沿った当接部位126の長さを有効長Lと定義する。拡縮部120又は網状構造体121は、血管壁11に当接される当接部位126を挟んで、先端部123及び後端部122に向けて径が小さくなるテーパ部位127を有する。
【0045】
図2Bに示すように拡縮部120又は網状構造体121の表面120Sのうち、少なくとも拡径に応じて血管壁11に当接される当接部位126には、止血部材125が設けられている。なお実施形態のように、止血部材125は、テーパ部127に跨って設けられていてもよい。例えば網状構造体121の表面120Sのうち、血管壁11に当接される当接部位126に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン) 、ポリウレタンなどの止血機能を有する樹脂層が止血部材125として担持される。また、止血機能を有する樹脂層を外表面に有する膜を、網状構造体121の当接部位126の外側に巻くようにしてもよい。
【0046】
拡縮部120を拡張させる拡張力は、穿刺針130の刺入時における血管壁11からの反力(特に、血管壁11に直交するベクトルの反力)に耐え、刺入操作の安定性を与えるのに十分な拡張力を提供しやすい観点で設定することが望ましい。例えば、拡縮部120の径5~15mmの少なくとも1点における拡張力を1kPa~3000kPaの範囲に設定することができる。拡張力の下限を、具体的には1.5kPa、2kPa、3kPa、又は5kPaに設定することができる。拡張力の上限を、具体的には2800kPa、2500kPa、2000kPa、又は1500kPaに設定することができる。
【0047】
拡縮部120と血管壁11との摩擦力は、穿刺針130の刺入時における血管壁11からの反力(特に、血管壁11に平行なベクトルの反力)に耐え、刺入操作の安定性を与えるのに十分な摩擦力を提供しやすい観点で設定することが望ましい。摩擦力は、人工血管モデル「イブ」(ファインバイオ社製)に対して0.1N~10Nの範囲に設定することができる。摩擦力の下限を、具体的には0.2N、0.3N、0.5N、又は1Nに設定することができる。摩擦力の上限を、具体的には9N、8N、6N、又は5Nに設定することができる。
【0048】
刺入時の安定性を与えるのに十分な拡張力を安全に提供しやすい観点で、拡縮部120又は網状構造体121の有効長Lは1mm以上、望ましくは3mm以上、又は5mm以上に設定することができる。拡縮部120又は網状構造体121の有効長Lに相当する部位が止血部材125を兼ねる場合、止血のしやすさ(例えば血管壁11の刺入箇所(穿刺孔)13を止血部材125で被覆する手技のしやすさ)の観点で、有効長Lを設定することが望ましい。拡縮部120又は網状構造体121の有効長Lを、望ましくは8mm以上、又は10mm以上に設定することができる。他方、拡縮部120又は網状構造体121の有効長Lが過剰であると、血管壁穿刺用デバイス100の操作性が低下するおそれがあることを考慮して、拡縮部120又は網状構造体121の有効長Lを50mm以下、望ましくは30mm以下、又は20mm以下に設定することができる。
【0049】
拡縮部120が血管壁11に当接される当接部位126は、拡張力と止血性に寄与する一方、テーパ部位127は血液の通り易さに寄与する。このため拡縮部120のうち血管壁11に当接される当接部位126はテーパ部位127に比べ、網状構造体121を成すストラット120Tの太さ及び/又は網状構造体121のメッシュ(孔、網目)120Mの密度が大きいことが望ましい。
【0050】
具体的には、テーパ部位127のストラット太さ、メッシュ密度に対する当接部位126のストラット太さ、メッシュ密度の比率はそれぞれ、非拡径時におけるストラット太さ、メッシュ密度各々で独立して、1.1倍以上、望ましくは1.5倍以上又は2.0倍以上に設定することができる。テーパ部位127のストラット太さ、メッシュ密度に対する当接部位126のストラット太さ、メッシュ密度の比率の上限は、特に限定されないが、量産性の観点から、5.0倍、4.0倍、又は3.0倍に設定することができる。
【0051】
図5は、図1Bに対応する図である。図5は、網状構造体121の血管壁11に当接される当接部位126のメッシュ(孔、網目120M)密度を、テーパ部位127のメッシュ(孔、網目120M´)密度に対して大きく設定した血管壁穿刺用デバイス100の実施態様を例示する。
【0052】
ただし、この実施形態に限定されることはなく、血管壁11に当接される当接部位126のストラット太さ及び/又はメッシュ密度を、テーパ部位127のストラット太さ及び/又はメッシュ密度と同等にしてもよい。この場合、テーパ部位127のストラット太さ及びメッシュ密度にかかわらず十分な止血性を補償するために、止血機能を有する樹脂層を外表面に有する膜を、網状構造体121の当接部126の外側に巻くことが望ましい。
【0053】
血管10内での止血部位または穿刺箇所の拡縮過程での位置ずれを抑制するために、拡縮部120のショートニング倍率が低いことが望ましい。ショートニング倍率は、拡縮部120の全長の最長値/最短値で定義される。拡縮部120のショートニング倍率は、1~5倍、望ましくは1~1.5倍に設定することができる。拡縮部120のショートニング倍率は、テーパ部位127のテーパ角φ、メッシュ密度などで調整することができる。図5にテーパ部位127のテーパ角φを示す。テーパ部位127のテーパ角φを5~80°の範囲に設定することができる。またテーパ部位127のメッシュ密度を2個/cm^2~15個/cm^2の範囲に設定することができる。
【0054】
拡縮部120のうち止血部材125が設けられている部位の少なくとも一部が、X線不透過性を有してよい。これにより血管10内における止血部材125をX線透視画像上で容易に視認することができる。このため穿刺針130の刺入箇所(穿刺孔)13を止血部材125で被覆する操作を簡便に行うことができる。
【0055】
X線不透過性の素材を、拡縮部120のストラット120Tの全周に被覆してもよく、また、ストラット120Tの部分周だけに被覆してもよい。いずれの場合においてもX線不透過性の素材が被覆された部分のストラット120TにX線透過性を付与することができる。
【0056】
拡縮部120のうちX線不透過性を有する部分は、ある程度の長さ(例えば1mm以上)を有するものであってもよく、ドット状(例えば1mm未満)であってもよい。
【0057】
また、網状構造体121の当接部126の外側に巻かれる膜、つまり止血機能を有する樹脂層を外表面に有する膜に、X線不透過性素材を含めてもよい。
【0058】
血管壁11に当接される当接部位126の最大径は、血管壁穿刺用デバイス100が用いられる血管10の領域に応じて、血管壁11に適切な拡張力が負荷されるように適宜設定することができる。血管壁11に当接される当接部位126の最大径は、脳領域で用いる場合に3mm~15mmに設定することができ、また、腹部領域で用いる場合に3mm~20mmに設定することができる。
【0059】
本実施形態の拡縮部120は、後述する操作部150による軸方向110Bの縮退動作及び伸長動作によって受動的に拡縮する。しかし、これに限定されることなく、図7A図7Bに例示するように拡縮部120を自己拡張型ステントで構成して自己拡張性によって拡縮させてもよい。拡縮部120を自己拡張型ステントで構成する場合等においては、操作部150は必ずしも要しない。
【0060】
また図8A図8B図8C図8Dに例示するように、拡縮部120を、網状構造体121で構成する代わりに、バルーン129を用いて構成してもよい。バルーン129の内部空間への流体導入及び流体流出に応じて拡縮部120を拡大及び縮径させることができる。
【0061】
(穿刺針)
【0062】
図2A図2Bはそれぞれ図1A図1Bに示す穿刺針130のうち先端部131を拡大して示す。
【0063】
穿刺針130は、血管壁11への刺入及び血管壁11からの抜針が可能な材料、形状で構成されている。また穿刺針130は、弾性変形する材料、例えばステンレス、ニッケルチタン合金など構成されている。
【0064】
穿刺針130は、その医療目的に応じて、その先端から任意の材料を吐出させたり、その先端に部材を配置したり、その先端に部材を突出可能に設けたりすることができる。例えば、穿刺針130の先端からゲル状物質、細胞(幹細胞、T細胞、ips細胞等)を吐出させたり、可視光、X線、放射線などを照射する光ファイバ、加熱用、冷却用、通電用のファイバ、PH、温度などを検出するセンサ類、ステント、ステントグラフト、ガイドワイヤ、コイル、体液(髄液、腹水等)排出用のカテーテルなどを、穿刺針130の先端に配置したり、穿刺針130の先端から突出可能に設けることができる。
【0065】
例えば図3に示すように、穿刺針130は、薬剤注入用途のために、薬剤注入路133を内包した環状に構成されている。穿刺針130は、穿刺針先端部131がベベル面132を有した形状に形成されている。
【0066】
穿刺針130の基端部134は、穿刺針130を押し引き及び回転させる操作が可能な態様でハンドル135に連結されている。穿刺針130の薬剤注入路133は、薬剤注入用のシリンジ136に連通している。
【0067】
穿刺針130は、弾性変形性、刺入性能、網状構造体121への係合のし易さのバランス化を考慮して、外径を2.11mm~0.1mmに、望ましくは0.51mm~0.31mmに設定することができる。
【0068】
図2Bに示すように、穿刺針130が拡縮部120に係合する係合箇所128は、血管壁11に当接される当接部位126から軸方向110Bに沿って10mm以内に設定することができる。これにより穿刺針130が刺入される血管壁11の刺入箇所13を、止血部材125が当接する位置又はその近傍の位置に位置させることができる。このため穿刺針130の抜去後、簡便かつ短時間に止血部材125を血管壁11の刺入箇所13に配置させることができる。
【0069】
なお、穿刺針130が拡縮部120に係合する係合箇所128は、血管壁11に当接される当接部位126に相当する位置又は当接部位126の遠位側又は近位側のいずれであってもよい。係合箇所128を、血管壁11に当接される当接部位126に相当する位置に一致させた場合には、穿刺針130の刺入時における血液の漏出を止血できる観点では望ましい。しかし、係合箇所128を、当接部位126の遠位側又は近位側に位置させた場合と比較して、刺入後に止血部材125のボイド(穿刺針130が貫通していた孔)が残るおそれがある。このため、この止血部材125のボイドからの血液が漏出するおそれがあり得る。このため、刺入後に止血部材125を若干動かし、ボイドと穿刺箇所13をずらす操作を行うか、チューブ140及び穿刺針130を抜去して止血部材125中のボイドをなくす操作を行うことが望ましい。
【0070】
図6は、図1Bに対応する図である。図6は、穿刺針130が拡縮部120に係合する係合箇所128が、血管壁11に当接される当接部位126に一致する実施態様を示す。
【0071】
穿刺針130の少なくとも一部(望ましくは、穿刺針130の先端から約100mm以内の範囲を含む)は、X線不透過性を有していてもよい。これにより刺入された血管壁11の刺入箇所13をX線透視画像上で視認することができる。このため刺入箇所13を止血部材125によって被覆する操作を簡便に行うことができる。
【0072】
(チューブ)
【0073】
図1A図1Bに戻り、チューブ140は、カテーテル110に沿って配置されている。チューブ140は、カテーテル110内の挿通路111に挿通されている。チューブ140は、穿刺針130を、チューブ先端141より出没自在に収容している。
【0074】
チューブ140は、カテーテル110と共に湾曲した血管10に沿って姿勢変化が可能となるように可撓性を有する材料、例えば合成樹脂によって形成されている。チューブ140は、挿通路111内に挿通可能な外径を有し、穿刺針130が挿通可能な内径を有する断面環状に形成されている。
【0075】
チューブ140のチューブ先端部142は、拡縮部120の拡径に応じて血管壁11に近接する方向10A1に移動されると共に、拡縮部120の縮径に応じて血管壁11から離間する方向10A2に移動されるように、拡縮部120に装着されている。
【0076】
チューブ140は拡縮部120に直接的又は間接的に係合されていればよい。ここで「直接的に」とは、チューブ140が拡縮部120の表面120Sから突出可能に拡張部120に係り合っていることをいうものとする。また「間接的に」とは、チューブ140が拡縮部120の表面120Sから突出可能にはなってはいないが、チューブ140が拡縮部120とカテーテル110の間隙から突出可能に拡縮部120に係り合っていること、又はチューブ140が拡縮部120と伸縮操作部材153の間隙から突出可能に拡縮部120に係り合っていることをいうものとする。
【0077】
また血管壁穿刺用デバイス100がチューブ140を含まない実施形態においては、同様にして拡縮部120に穿刺針130を直接的又は間接的に係合することができる。これにより、穿刺針130が、拡縮部120の拡径に応じて血管壁11に近接する方向10A1に移動されると共に、拡縮部120の縮径に応じて血管壁11から離間する方向10A2に移動される。
【0078】
図7Bは、チューブ140が拡縮部120に間接的に係合されている実施態様を示す。
【0079】
図7Bに示す血管壁穿刺用デバイス100は、カテーテル110に拡縮部120を内挿可能なルーメン(内腔)を備え、血管10内に配置されたカテーテル110のルーメンから拡縮部120を押し出すことで拡縮部120が拡径する。チューブ140は、拡縮部120の表面120Sに係り合いながら拡縮部120とカテーテル110の間隙から血管壁11に向けて移動する。
【0080】
なお、チューブ140の拡縮部120に対する係合の方法は、固着が望ましい。しかし、係合の方法は、固着に限定されることなく、チューブ140が網状構造体121の網目120Mから離脱困難なように篏合されているだけでもよい。
【0081】
図2Bに示すように、チューブ140が拡縮部120に係合する係合箇所128は、血管壁11に当接される当接部位126から軸方向110Bに沿って10mm以内に設定することができる。これにより穿刺針130に刺入される血管壁11の刺入箇所13を、止血部材125が当接する位置又はその近傍の位置に位置させることができる。
【0082】
なお、チューブ140が拡縮部120に係合する係合箇所128は、血管壁11に当接される当接部位126に相当する位置又は当接部位126の遠位側又は近位側のいずれであってもよい。係合箇所128を、血管壁11に当接される当接部位126に相当する位置に一致させた場合には、穿刺針130の刺入時における血液の漏出を止血できる観点では望ましい。しかし、係合箇所128を、当接部位126の遠位側又は近位側に位置させた場合と比較して、刺入後に止血部材125のボイド(チューブ140が貫通していた孔)が残るおそれがある。
【0083】
また穿刺角度θを小さく設計しやすい観点からは、係合箇所128を、当接部位126の遠位側に位置させることが望ましい。一方で、図8A図8B図8C図8Dに示すように拡縮部120にバルーン129を用いる場合には、チューブ140がバルーン129と干渉しない観点から、係合箇所128を、当接部位126の近位側に位置させた方が望ましい。
【0084】
チューブ140は、弾性変形性、網状構造体121への係合のし易さのバランスの観点で、外径1.2mm~0.2mm、望ましくは0.6mm~0.3mmの範囲に設定することができる。
【0085】
チューブ140の少なくとも一部(望ましくは、穿刺針140の先端から約100mm以内の範囲を含む)は、X線不透過性を有してもよい。これにより血管壁11の刺入箇所13の近傍をX線透視画像上で容易に視認することができる。このため刺入箇所13を止血部材125で被覆する操作を簡便に行うことができる。
【0086】
図2Bに例示する穿刺角度θは、刺入箇所13のずれを抑制しやすい点から、90°に近いことが望ましい。穿刺角度θは、設計自由度や送達・回収時の操作性の観点から80°以下に設定してもよい。穿刺針130の先端を血管壁11に貫通させる場合には、穿刺角度θを5°以上、望ましくは15°以上に設定することができる。穿刺針130の先端を血管壁11内に穿刺する場合には、穿刺角度θを0.5~10°の範囲、望ましくは3~8°の範囲に設定することができる。
【0087】
このようにチューブ140は拡縮部120に直接的又は間接的に係合されているため穿刺針130の根元となるチューブ先端部142が安定して保持された状態で、穿刺針130を血管壁11に刺入させることができる。
【0088】
図7A図7Bは、図1Bに対応する図である。図7A図7Bは、拡縮部120を、自己拡張性ステントを含んで構成した実施態様を示す。
【0089】
拡縮部120の後端部122には、プッシャワイヤ160が固着されている。拡縮部120は、縮径された状態でカテーテル110に内挿されている。プッシャワイヤ160は、拡縮部120と共にカテーテル110内に挿通され、その後端部がカテーテル110の外部の図示しないハンドルによって操作可能に連結されている。このハンドルによってプッシャワイヤ160をカテーテル110に対し相対的に前方へ押し出す操作及び後方に後退させる操作を行うことにより拡縮部120をカテーテル110に対して相対的に前進移動及び後進移動させることができる。
【0090】
カテーテル110が血管10内の目標部位に位置したときに、拡縮部120がカテーテル110の先端部112から外方に解放されるように前進移動させると共にチューブ140がカテーテル110の先端部112から外方に解放されるように前進移動させる。これにより拡縮部120は自己拡張性によって拡径すると共にチューブ140は拡縮部120の表面120Sに係り合いながら血管壁11に向けて移動する。この結果、拡縮部120は血管壁11の目標部位に当接すると共に、チューブ140のチューブ先端141を血管壁11の目標部位に当接する。
【0091】
図7Aに示す実施形態では、患者の体外で予め拡縮部120にチューブ140を直接的に係合させた状態の複合体を、カテーテル110のルーメンに内挿しておくことが望ましい。チューブ140は、拡縮部120のテーパ部位127の網目120Mに拡縮部120の内側120Vに向けて挿通され、さらに拡縮部120の当接部126の網目120Mに外方に向けて挿通されている。チューブ140は、プッシャワイヤ160が内挿されるルーメンと同じルーメンに内挿されている。なお血管壁穿刺用デバイス100がチューブ140を含まない実施形態においては、同様にして患者の体外で予め拡縮部120に穿刺針130を直接的に係合させた状態の複合体を、カテーテル110のルーメンに内挿しておくことが望ましい。
【0092】
図8Aは、図1Bに対応する図で、拡縮部120を、バルーン129によって拡縮するように構成した実施態様を示す。
【0093】
図8Bは、図8Aの断面図を示す。
【0094】
図8Cは、図8Aに示すバルーン129の斜視図を示す。
【0095】
図8Dは、図8Bに対応する断面図で、拡縮部120を、バルーン129によって拡縮するように構成した別の実施態様を示す。
【0096】
図8A図8B図8Cに示すように、カテーテル110の先端部112には、流体導入・導出用チューブ129Tを介してバルーン129、例えば3つのバルーン129A、129B、129Cが配置されている。流体導入・導出用チューブ129Tは、カテーテル110に内挿されている。バルーン129A、129B、129Cは、その長手方向がカテーテル110の軸方向110Bに一致するように配置されている。バルーン129A、129B、129Cは、ノンコンプライアントバルーンを用いることができる。なおノンコンプライアントバルーンとは、ある拡張圧以上では、圧をあげてもバルーン径が増加しない高耐圧バルーンのことである。
【0097】
チューブ140は、バルーン129A、129B、129Cの中央の隙間129D及び図中上方のバルーン129A、129B間の隙間129Eを挿通している。チューブ140は、チューブ先端141が図中上方の血管壁11に相対するようにバルーン129A、129B、129Cの中央の隙間129D及び図中上方のバルーン129A、129B間の隙間129Eに配置されている。なお、チューブ140はチューブ先端141が予め上方に向けて曲げられているか、若しくはチューブ140が上方に向けて屈曲可能な構造を有していることが望ましい。
【0098】
チューブ140は、バルーン129に係合されている。
【0099】
拡縮部120にバルーン129を用いる場合には、チューブ140が拡縮部120に係合する係合箇所128を、チューブ140がバルーン129と干渉しない位置に設けることが望ましい。
【0100】
図9は、図8Aに示すバルーン129A、129B、129Cに対するチューブ140の係合方法を例示する。チューブ140は、図中下方のバルーン129Cに連結部材129Fによって連結されている。なおチューブ140は、連結部材129Fの挿通孔129Gに摺動自在に挿通される。すなわち係合箇所128においてチューブ140は軸方向110Bに摺動可能となっており、バルーン129A、129B、129Cの拡径及び縮径に応じて軸方向110Bに移動させることができる。
【0101】
バルーン129は、その内部空間に流体導入・導出用チューブ129Tを介して造影剤等の流体が導入及び導出されることで、拡径及び縮径が可能である。
【0102】
図8A図8B図8Cに示す実施形態では、図8Bに示すように、例えば複数(例えば3つ)のバルーン129A、129B、129Cが血管10の断面内の周方向に等間隔に配置されており、各バルーン129A、129B、129Cが血管10の断面内で拡径及び縮径する。拡径時のバルーン129A、129B、129Cと血管壁11との間には、隙間120Mが形成される。このため拡縮部120の拡径時に、隙間120Mを介して血液を血管10内の流れ方向10Bに連通させることができる。
【0103】
なお図8A図8B図8Cにおいて血管壁穿刺用デバイス100がチューブ140を含まないように構成してもよい。この実施形態では、バルーン129A、129B、129Cに穿刺針130が係合される。
【0104】
図8Dは、拡縮部120を単一のバルーン129Hで構成した別実施形態を示す。バルーン129Hは断面視で切欠き部129Iを備えた円弧状に形成されている。図8A図8B図8Cに示す実施形態と同様にチューブ140は、例えば連結部材129Fを介してバルーン129Hに係合されている。なお、バルーン129Hに穿刺針130を係合させてもよい。
【0105】
バルーン129Hは血管10の断面内で拡径及び縮径する。拡径時のバルーン129Hと血管壁11との間には、切欠き部129Iの形状および大きさに応じた形状および大きさの隙間120Mが形成される。このため拡縮部120の拡径時に、隙間120Mを介して血液を血管10内の流れ方向10Bに連通させることができる。
【0106】
(操作部)
【0107】
図1A図1Bに戻り、操作部150は、拡縮部120を、カテーテル110の軸方向110Bへ縮退動作及び伸長動作させる。
【0108】
図1Aは、拡縮部120を、カテーテル110の軸方向110Bへ伸長動作させた伸長状態を示す。図1Bは、拡縮部120を、カテーテル110の軸方向110Bへ縮退動作させた縮退状態を示す。
【0109】
操作部150は、操作ワイヤ151と、伸縮操作部材153と、ハンドル155を含んで構成されている。
【0110】
伸縮操作部材153は、後端が開放された筒状部材で構成され、拡縮部120の先端側に配置されている。
【0111】
操作ワイヤ151は、伸縮操作部材153の長手方向中心軸、拡縮部120の長手方向中心軸、カテーテル110の長手方向中心軸110Cと同軸となるように伸縮操作部材153内、拡縮部120内、カテーテル110内それぞれに配置されている。操作ワイヤ151は、カテーテル110内の挿通路111に挿通されている。
【0112】
伸縮操作部材153の後端部153Bには、拡縮部120の先端部123が固定されている。
【0113】
伸縮操作部材153の先端部153Aには、ワイヤ先端部152が貫通して前方へ突出する態様で、操作ワイヤ151が固定されている。操作ワイヤ151の基端部154は、操作ワイヤ151を押し引きさせる操作が可能な態様でハンドル155に連結されている。ワイヤ先端部152は、ガイドワイヤとして機能するように湾曲状に形成されていてもよい。
【0114】
図1Aに示す伸長状態から図1Bに示す縮退状態に拡縮部120の形状を変化させたいときには、ハンドル155を引く方向155Aに操作する。この操作によって操作ワイヤ151が伸縮操作部材153と共に、カテーテル110に対して相対的に軸方向後方110B1に移動される。これにより拡縮部120が、軸方向後方110B1に縮退され、縮退に応じて径拡大方向10A1に拡径する。
【0115】
この結果、図2Aに示す状態から、図2Bに示す状態、つまりチューブ先端部142が血管壁11に近接する方向10A1に移動され、チューブ先端部142が血管壁11と拡縮部120によって挟持される。
【0116】
拡縮部120が軸方向後方110B1に縮退すると、拡縮部120の血管壁11に当接する当接部位126のメッシュ密度、つまり孔120Mが増加する(操作部150による操作か否かにかかわらない)。この状態では、当接部位126に設けられた止血部材125が高密度で血管壁11に当接する。このため止血能力が増大する。拡径部120を最大径まで拡径した状態での、血管壁11に当接する当接部位126のメッシュ密度、つまり孔120Mの密度は、3個/cm以上、望ましくは10個/cm以上に設定することができる。
【0117】
また、図1Bに示す縮退状態から図1Aに示す伸長状態に拡縮部120の形状を変化させたいときには、ハンドル155を押す方向155Bに操作する。この操作によって操作ワイヤ151が伸縮操作部材153と共に、カテーテル110に対して相対的に軸方向前方110B2に移動される。これにより拡縮部120が、軸方向前方110B2に伸長され、伸長に応じて径縮小方向10A2に縮径する。
【0118】
この結果、図2Bに示す状態から、図2Aに示す状態、つまりチューブ先端部142が血管壁11から離間する方向10A2に移動される。
【0119】
(血管壁穿刺方法及び薬剤投与方法)
【0120】
図4は、実施形態の血管壁穿刺方法及び薬剤投与方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【0121】
なお実施形態の血管壁穿刺方法及び薬剤投与方法は、例えば術者又は手術機械によってX線画像に基づき実施することができる。CT装置等により、寝台上の患者に対してX線が照射され、CT撮影(Computed Tomography;コンピュータ断層撮影)が行われ、患者体内各断面のCT透視画像を取得してもよい。取得されたCT透視画像がモニタ装置の表示画面に表示され、表示画面に表示されるCT透視画像を見ながら、血管壁穿刺用デバイス100が操作される。これは一例であり、画像の取得方法は任意である。超音波画像を取得し、表示画面に表示される超音波画像に基づき、血管壁穿刺用デバイス100が操作されてもよい。
【0122】
(カテーテルを挿入)
【0123】
血管10内に血管壁穿刺用デバイス100のカテーテル110を挿入する。例えば図示しないシース管を患者の皮膚を介して血管10の挿入位置に刺入し、シース管を介して血管10内に血管壁穿刺用デバイス100のカテーテル110を挿入することができる(ステップS1)。
【0124】
(カテーテルを目的位置まで移動)
【0125】
血管壁穿刺用デバイス100を血管10の目標位置まで移動させる。この操作は常法に従ってよく、例えば先導する図示しないガイドワイヤに沿って、カテーテル110の基端114を押す方向115Aに操作することで、血管壁穿刺用デバイス100を血管10内の目標位置まで前進させることができる。
【0126】
この段階では、穿刺針130がチューブ140から突出した状態となっていないことが望ましい。これにより、血管壁穿刺用デバイス100の移動中に穿刺針130によって血管壁11を損傷してしまうことを回避できる。穿刺針130をチューブ140に内挿するタイミングは、カテーテル110を目標位置に配置する前、例えば典型的には、カテーテル110を血管10内に挿入する前でもよく、またカテーテル110を目標位置に配置した後でもよい。
【0127】
また、図1A図1Bに示す実施形態のようにカテーテル110に操作部150が固定されている場合、ワイヤ先端部152が伸縮操作部材153の前方に突出しているため、ワイヤ先端部152を血管10の曲がりに対応するガイドワイヤとして機能させることもできる。この場合、血管壁穿刺用デバイス100を血管10の曲がりに対応しながら目標位置まで前進させることができる。
【0128】
血管10に沿って血管壁穿刺用デバイス100を移動させる際は、拡縮部120が縮径しており、血管壁11との間に隙間がある。この隙間に沿って血液を通過させることができる。このため血管10内の血液の流れを阻害することなく、血管壁穿刺用デバイス100を血管10に沿って目標位置まで前進させることができる。
【0129】
図7A図7Bに例示するカテーテル110と拡縮部120が固定されていない血管壁穿刺用デバイス100を用いる場合は、カテーテル110が血管10内の目標位置に配置された後、カテーテル110のルーメンに拡縮部120を縮径状態で内挿して前進させ、ルーメンの開口部(典型的には遠位端)から押し出すことで、拡縮部120を目標位置に配置する。
【0130】
拡縮部120とチューブ140を体外で係合した状態にした複合体を、カテーテル110のルーメンに内挿しておくことが望ましい。これにより、目標位置において、チューブ140を拡縮部120と想定通りの係合箇所で係合させた状態にすることができる。なお血管壁穿刺用デバイス100がチューブ140を含まない実施形態においては、同様にして拡縮部120と穿刺針130を体外で係合した状態にした複合体を、カテーテル110のルーメンに内挿しておくことが望ましい(ステップS2)。
【0131】
(拡縮部を拡径)
【0132】
図1A図1B図2A図2Bに戻り、カテーテル110が血管10の目標位置に到達すると、拡縮部120を血管10の径方向10Aに拡径させて、チューブ先端部142を血管壁11に近接する方向10A1に移動させる。
【0133】
図1A図2Aに示す状態で、ハンドル155を引く方向155Aに操作する。この操作によって操作ワイヤ151が伸縮操作部材153と共に、カテーテル110に対して相対的に軸方向後方110B1に移動される。これにより拡縮部120が、軸方向後方110B1に縮退され、縮退に応じて径拡大方向110A1に拡径する。
【0134】
この結果、図1B図2Bに示すように、チューブ先端部142が血管壁11に近接する方向10A1に移動され、チューブ先端部142が血管壁11と拡縮部120によって挟持される。なお、カテーテル110の基端部114を回転させる操作を行って、カテーテル110を回転させて、血管壁11の周方向目標部位に位置させるように調整してもよい。
【0135】
なお、図7A図7Bに例示する拡縮部120が自己拡張性を有する血管壁穿刺用デバイス100を用いる場合には、拡縮部120をカテーテル110のルーメンから開放することで、拡縮部120が能動的に拡径して血管壁11に当接する。また図8A図8B図8C図8Dに例示する拡縮部120がバルーン129で構成された血管壁穿刺用デバイス100を用いる場合には、拡縮部120の内部空間に流体(典型的には造影剤)を導入することで、拡縮部120が拡径して血管壁11に当接する。
【0136】
拡縮部120が拡径して血管壁11に当接した状態では、止血部材125が高密度で血管壁11に当接する。このため止血能力が増大しやすい。一方、拡縮部120が拡径した状態においても、網状構造体121の網目としての孔120Mの内外を、血液が通過する。このため、血管10内の血液の流れを阻害することなく、これ以降の操作を行うことができる(ステップS3)。
【0137】
(穿刺針を刺入)
【0138】
図1B図2Bに示すように、穿刺針130の穿刺針先端部131を、チューブ先端141から突出させて血管壁11外の目標部位12Pに向けて血管壁11に刺入する操作を行う。ハンドル135を押す方向135Aに操作して、穿刺針130の穿刺針先端部131を、チューブ先端141から突出させる。この際に、ハンドル135を回転する方向に操作して、穿刺針130の穿刺針先端部131を回転させてもよい。穿刺針130の穿刺針先端部131を、チューブ先端141から突出させる操作は、拡縮部120を拡径させる操作が完了してから行ってもよく、拡縮部120を拡径させる操作と同時に行ってもよい。
【0139】
図2Bに示すように、穿刺針130の根元となるチューブ先端部142が安定して保持された状態で、穿刺針130を血管壁11に刺入させることができる。このため穿刺針先端を、血管壁11外の目標部位12Pに正確に位置させることができる。この状態でシリンジ136を操作して、薬剤を血管壁11外の目標部位12Pに注入する(ステップS4)。
【0140】
(穿刺針を抜針)
【0141】
薬剤注入が終了すると、穿刺針130の穿刺針先端部131を、チューブ先端141に没してチューブ140内に収納する操作を行う。ハンドル135を引く方向135Bに操作して、穿刺針130の穿刺針先端部131を、チューブ140内に収納させる(ステップS5)。
【0142】
(止血部材を穿刺孔まで移動)
【0143】
抜針した血管壁11には穿刺針130の穿刺孔13が残り、血液の漏出が起こり得る。図1A図1Bに示す実施形態においては、穿刺針130が止血部材125が設けられていない拡縮部120の箇所で係合していることがある。このため抜針時点では止血部材125が穿刺孔13を被覆していないおそれがある。したがって穿刺孔13の被覆をより完全に行うために、抜針後に、止血部材125を穿刺孔13に移動させることが望ましい。
【0144】
また止血部材125との摩擦から血管10を保護する観点では、穿刺孔13への移動時に拡縮部120を縮径し、移動後に再度拡径してもよい。しかし、図1A図1Bに示す実施形態のように穿刺針130が止血部材125の近傍で拡縮部120と係合している場合には、拡縮部120を縮径しなくても血管10を止血部材125との摩擦から保護することができる。このため穿刺孔13への移動操作が簡便なものとなる(ステップS6)。
【0145】
(止血部材による止血)
【0146】
止血部材125が穿刺孔13に移動されて、穿刺孔13に止血部材125が当接される。このため穿刺針130に刺入に伴い、たとえ出血があったとしても止血部材125によって止血が行われる(ステップS7)。
【0147】
(拡縮部を縮径)
【0148】
拡縮部120を血管10の径方向10Aに縮径させて、チューブ先端部142を血管壁11から離間する方向10A2に移動させる。
【0149】
ハンドル155を押す方向155Bに操作する。この操作によって操作ワイヤ151が伸縮操作部材153と共に、カテーテル110に対して相対的に軸方向前方110B2に移動される。これにより拡縮部120が、軸方向前方110B2に伸長され、伸長に応じて径縮小方向110A2に縮径する。
【0150】
この結果、図1A図2Aに示すように、チューブ先端部142が血管壁11から離間する方向10A2に移動される。
【0151】
拡縮部120を縮径させる操作は、穿刺針130の穿刺針先端部131を、チューブ140内に収納する操作が完了してから行ってもよく、穿刺針130の穿刺針先端部131を、チューブ140内に収納する操作と同時に行ってもよい。
【0152】
なお、図7A図7Bに例示する拡縮部120が自己拡張性を有する血管壁穿刺用デバイス100を用いる場合には、拡縮部120をカテーテル110のルーメンに引き込むことで、拡縮部120が縮径する。また図8A図8B図8C図8Dに例示する拡縮部120がバルーン129で構成された血管壁穿刺用デバイス100を用いる場合には、拡縮部120の内部空間から流体(典型的には造影剤)を排出することで、拡縮部120が縮径する(ステップS8)。
【0153】
(カテーテルを挿入位置まで移動)
【0154】
図1A図2Aに戻り、穿刺針130がチューブ先端部142に没した状態で血管壁穿刺用デバイス100を挿入位置まで移動させる。カテーテル110の基端部114を引く方向115Bに操作することで、血管壁穿刺用デバイス100を血管10に沿って挿入位置まで後退させることができる。
【0155】
穿刺針130がチューブ140内に没した状態となっていため、血管壁穿刺用デバイス100の移動中に穿刺針130によって血管壁11を損傷してしまうことを回避できる。
【0156】
図7A図7Bに例示するカテーテル110と拡縮部120が固定されていない血管壁穿刺用デバイス100を用いる場合には、拡縮部120をカテーテル110のルーメンに縮径状態に収容して挿入位置まで後退させ、ルーメンから拡縮部120とチューブ140を抜去すればよい。拡縮部120とチューブ140が係合した状態の複合体を抜去するという一段階方式で抜去してもよく、チューブ140を抜去した後に拡縮部120を抜去するという二段階方式で抜去してもよい。なお血管壁穿刺用デバイス100がチューブ140を含まない実施形態においても、同様に拡縮部120と穿刺針130が係合した状態の複合体を抜去するという一段階方式で抜去してもよく、穿刺針130を抜去した後に拡縮部120を抜去するという二段階方式で抜去してもよい(ステップS9)。
【0157】
(カテーテルを抜去)
【0158】
つぎにカテーテル110が、患者の体内から抜去される(ステップS10)。
【0159】
(撮像方法)
【0160】
つぎに実施形態の血管壁穿刺用デバイス100を用いた撮像方法について説明する。
【0161】
図1Aの状態、つまり血管壁穿刺用デバイス100を目標部位へ移動させ終えたと推測される段階において、拡縮部120(特に止血部材125)、チューブ140及び/又は穿刺針130のX線不透過性部分を撮像する。これにより、拡縮部120(特に止血部材125)、チューブ140及び/又は穿刺針130と、目標部位12Pとの位置関係を視認することができる。
【0162】
つぎに、図1Bの状態、つまり拡径部120を拡径してチューブ140(又は穿刺針130)の先端を血管壁11の近傍に配置し終えたと推測される段階において、拡縮部120(特に止血部材125)、チューブ140及び/又は穿刺針130のX線不透過性部分を撮像する。これにより、穿刺針130が穿刺される部位、止血部位125及び目標部位12Pの位置関係を視認したり、高精度に把握することができる。
【0163】
つぎに、抜針後及び止血部材125の穿刺孔13への移動操作後の段階において、止血部材125のX線不透過性部分を撮像する。これにより、止血部材125と穿刺孔13の位置関係を視認し、止血状況を視認したり高精度に把握することができる。
【0164】
なお上記各撮像段階の各々において、血管10内に造影剤を流し、血管走行及び血液漏出(止血)の状況を視認することが望ましい。
【0165】
実施形態の血管壁穿刺用デバイス100を用いた撮像方法によれば、血管壁穿刺用デバイス100のX線不透過性部分と目標部位12P、穿刺孔13の位置関係を確認しながら、少ないCT透視画像で正確に操作することができる。このためCT透視時間を減らすことができ、患者の被ばく量を低減させることができる。
【符号の説明】
【0166】
100 血管壁穿刺用デバイス
110 カテーテル
120 拡縮部
130 穿刺針
140 チューブ
142 チューブ先端部
11 血管壁
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図9