(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050311
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】分離膜の製造方法及び分離膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/16 20060101AFI20240403BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240403BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240403BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B01D71/16
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157113
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100214639
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】笹原 健司
(72)【発明者】
【氏名】榊原 康之
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA41
4D006HA61
4D006JA05C
4D006JA06C
4D006JA19C
4D006MA03
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4D006MC22
4D006MC23
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4D006PA01
4D006PB18
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB66
4D006PB68
(57)【要約】
【課題】高圧の混合気体を処理することに適した分離膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、分離機能層1を備えた分離膜10の製造方法である。製造方法は、セルロース化合物及び溶剤を含む塗布液を基材に塗布して、塗布膜15を形成する工程Iと、塗布膜15から溶剤を除去して、分離機能層1を形成する工程IIと、を含む。製造方法は、以下の要件(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たす。
(a)塗布液は、セルロース化合物として、置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含む。塗布液において、酢酸セルロースC1及びC2の重量の比C2/C1が1.0より大きい。
(b)塗布液が、カルボキシル基を有する化合物Aを含む。塗布液における化合物Aの含有率が2.0wt%よりも高い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離機能層を備えた分離膜の製造方法であって、
前記製造方法は、
セルロース化合物及び溶剤を含む塗布液を基材に塗布して、塗布膜を形成する工程Iと、
前記塗布膜から前記溶剤を除去して、前記分離機能層を形成する工程IIと、
を含み、
以下の要件(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たす、製造方法。
(a)前記塗布液は、前記セルロース化合物として、置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含み、
前記塗布液において、前記酢酸セルロースC1の重量に対する前記酢酸セルロースC2の重量の比C2/C1が1.0より大きい。
(b)前記塗布液が、カルボキシル基を有する化合物Aを含み、
前記塗布液における前記化合物Aの含有率が2.0wt%よりも高い。
【請求項2】
前記要件(a)において、前記酢酸セルロースC1の前記置換度が2.0~2.7である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記要件(a)において、前記比C2/C1が5.0以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記要件(b)において、前記化合物Aが有する前記カルボキシル基の数が2以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記要件(b)において、前記化合物Aの炭素数が10以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記要件(b)において、前記含有率が10wt%以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記塗布液の30℃における粘度は、12Pa・s以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記基材が多孔性支持体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程IIにおいて、水を含む液体を前記塗布膜に接触させることによって、前記塗布膜から前記溶剤を除去する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記分離機能層の上に、前記分離機能層を保護する保護層を形成する工程IIIをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含む分離機能層を備え、
前記分離機能層において、前記酢酸セルロースC1の重量に対する前記酢酸セルロースC2の重量の比C2/C1が1.0より大きい、分離膜。
【請求項12】
前記分離機能層は、多孔層と、前記多孔層の上に形成されたスキン層とを有する、請求項11に記載の分離膜。
【請求項13】
前記分離機能層を支持する多孔性支持体と、前記分離機能層を保護する保護層とをさらに備えた、請求項11に記載の分離膜。
【請求項14】
前記分離機能層は、ナノインデンテーション法によって測定される硬度が0.070GPa以上である、請求項11に記載の分離膜。
【請求項15】
温度50℃、圧力0.35MPaのメタンが前記分離膜を透過するときの透過速度T1CH4(GPU)に対する、温度50℃、圧力0.35MPaの二酸化炭素が前記分離膜を透過するときの透過速度T1CO2(GPU)の比T1CO2/T1CH4が35以上である、請求項11に記載の分離膜。
【請求項16】
温度50℃、圧力8.0MPaの窒素を前記分離膜と1時間接触させた場合に、前記比T1CO2/T1CH4の維持率が70%以上である、請求項15に記載の分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜の製造方法及び分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素などの酸性ガスを含む混合気体から酸性ガスを分離する方法として、膜分離法が開発されている。膜分離法は、混合気体に含まれる酸性ガスを吸収剤に吸収させて分離する吸収法と比べて、運転コストを抑えながら酸性ガスを効率的に分離することができる。
【0003】
膜分離法に用いられる分離膜は、例えば、分離機能層を備える。分離機能層の材料としては、例えば、セルロース化合物が挙げられる。例えば、特許文献1には、セルロース化合物を含む分離膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一例として、ガス田から採掘される天然ガス(混合気体)は、5~70mol%程度の含有率で二酸化炭素を含んでいる。このガスをパイプラインで輸送すると、二酸化炭素などの酸性ガスによって配管が腐食される。さらに、二酸化炭素が多く含まれている天然ガスを用いた場合、燃焼効率が低下する。以上の観点から、膜分離法によって、天然ガスから二酸化炭素などの酸性ガスを分離する対応が検討されている。
【0006】
ガス田から採掘される天然ガスは、通常、高い圧力を有しており、ガス田によっては最大で10MPa程度の圧力を有する。本発明者らの検討によれば、分離膜、特にセルロース化合物を含む分離膜を用いて、高圧の混合気体(例えば圧力6.0MPa以上の混合気体)を処理した場合、分離膜の分離性能が低下する傾向がある。
【0007】
そこで本発明は、高圧の混合気体を処理することに適した分離膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
分離機能層を備えた分離膜の製造方法であって、
前記製造方法は、
セルロース化合物及び溶剤を含む塗布液を基材に塗布して、塗布膜を形成する工程Iと、
前記塗布膜から前記溶剤を除去して、前記分離機能層を形成する工程IIと、
を含み、
以下の要件(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たす、製造方法を提供する。
(a)前記塗布液は、前記セルロース化合物として、置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含み、
前記塗布液において、前記酢酸セルロースC1の重量に対する前記酢酸セルロースC2の重量の比C2/C1が1.0より大きい。
(b)前記塗布液が、カルボキシル基を有する化合物Aを含み、
前記塗布液における前記化合物Aの含有率が2.0wt%よりも高い。
【0009】
さらに本発明は、
置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含む分離機能層を備え、
前記分離機能層において、前記酢酸セルロースC1の重量に対する前記酢酸セルロースC2の重量の比C2/C1が1.0より大きい、分離膜を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高圧の混合気体を処理することに適した分離膜の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる製造方法によって製造される分離膜を模式的に示す断面図である。
【
図2A】本発明の一実施形態にかかる製造方法を説明するための図である。
【
図2B】本発明の一実施形態にかかる製造方法を説明するための図である。
【
図3】分離膜が備える分離機能層を模式的に示す断面図である。
【
図4】分離膜を備えた膜分離装置の概略断面図である。
【
図5】分離膜を備えた膜分離装置の変形例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1態様にかかる製造方法は、
分離機能層を備えた分離膜の製造方法であって、
前記製造方法は、
セルロース化合物及び溶剤を含む塗布液を基材に塗布して、塗布膜を形成する工程Iと、
前記塗布膜から前記溶剤を除去して、前記分離機能層を形成する工程IIと、
を含み、
以下の要件(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たす。
(a)前記塗布液は、前記セルロース化合物として、置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含み、
前記塗布液において、前記酢酸セルロースC1の重量に対する前記酢酸セルロースC2の重量の比C2/C1が1.0より大きい。
(b)前記塗布液が、カルボキシル基を有する化合物Aを含み、
前記塗布液における前記化合物Aの含有率が2.0wt%よりも高い。
【0013】
本発明の第2態様において、例えば、第1態様にかかる製造方法では、前記要件(a)において、前記酢酸セルロースC1の前記置換度が2.0~2.7である。
【0014】
本発明の第3態様において、例えば、第1又は第2態様にかかる製造方法では、前記要件(a)において、前記比C2/C1が5.0以下である。
【0015】
本発明の第4態様において、例えば、第1~第3態様のいずれか1つにかかる製造方法では、前記要件(b)において、前記化合物Aが有する前記カルボキシル基の数が2以上である。
【0016】
本発明の第5態様において、例えば、第1~第4態様のいずれか1つにかかる製造方法では、前記要件(b)において、前記化合物Aの炭素数が10以下である。
【0017】
本発明の第6態様において、例えば、第1~第5態様のいずれか1つにかかる製造方法では、前記要件(b)において、前記含有率が10wt%以下である。
【0018】
本発明の第7態様において、例えば、第1~第6態様のいずれか1つにかかる製造方法では、前記塗布液の30℃における粘度は、12Pa・s以上である。
【0019】
本発明の第8態様において、例えば、第1~第7態様のいずれか1つにかかる製造方法では、前記基材が多孔性支持体である。
【0020】
本発明の第9態様において、例えば、第1~第8態様のいずれか1つにかかる製造方法では、前記工程IIにおいて、水を含む液体を前記塗布膜に接触させることによって、前記塗布膜から前記溶剤を除去する。
【0021】
本発明の第10態様において、例えば、第1~第9態様のいずれか1つにかかる製造方法は、前記分離機能層の上に、前記分離機能層を保護する保護層を形成する工程IIIをさらに含む。
【0022】
本発明の第11態様にかかる分離膜は、
置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含む分離機能層を備え、
前記分離機能層において、前記酢酸セルロースC1の重量に対する前記酢酸セルロースC2の重量の比C2/C1が1.0より大きい。
【0023】
本発明の第12態様において、例えば、第11態様にかかる分離膜では、前記分離機能層は、多孔層と、前記多孔層の上に形成されたスキン層とを有する。
【0024】
本発明の第13態様において、例えば、第11又は第12態様にかかる分離膜は、前記分離機能層を支持する多孔性支持体と、前記分離機能層を保護する保護層とをさらに備える。
【0025】
本発明の第14態様において、例えば、第11~第13態様のいずれか1つにかかる分離膜では、前記分離機能層は、ナノインデンテーション法によって測定される硬度が0.070GPa以上である。
【0026】
本発明の第15態様において、例えば、第11~第14態様のいずれか1つにかかる分離膜では、温度50℃、圧力0.35MPaのメタンが前記分離膜を透過するときの透過速度T1CH4(GPU)に対する、温度50℃、圧力0.35MPaの二酸化炭素が前記分離膜を透過するときの透過速度T1CO2(GPU)の比T1CO2/T1CH4が35以上である。
【0027】
本発明の第16態様において、例えば、第15態様にかかる分離膜では、温度50℃、圧力8.0MPaの窒素を前記分離膜と1時間接触させた場合に、前記比T1CO2/T1CH4の維持率が70%以上である。
【0028】
以下、本発明の詳細を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0029】
<分離膜の製造方法>
本実施形態の製造方法は、分離機能層1を備えた分離膜10(
図1)の製造方法である。分離膜10は、例えば、分離機能層1を支持している多孔性支持体2と、分離機能層1を保護する保護層3とをさらに備えている。分離膜10において、分離機能層1は、例えば、多孔性支持体2及び保護層3の間に位置し、多孔性支持体2及び保護層3のそれぞれに直接接している。分離膜10は、例えば、混合気体に含まれる酸性ガスを優先的に透過させることができる。
【0030】
本実施形態の製造方法は、セルロース化合物及び溶剤を含む塗布液を基材に塗布して、塗布膜を形成する工程Iと、塗布膜から溶剤を除去して、分離機能層1を形成する工程IIと、を含む。さらに、本実施形態の製造方法は、以下の要件(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たす。
(a)塗布液は、セルロース化合物として、置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含み、
塗布液において、酢酸セルロースC1の重量に対する酢酸セルロースC2の重量の比C2/C1が1.0より大きい。
(b)塗布液が、カルボキシル基を有する化合物Aを含み、
塗布液における化合物Aの含有率が2.0wt%よりも高い。
【0031】
(工程I)
上記の工程Iでは、まず、セルロース化合物及び溶剤を含む塗布液を準備する。セルロース化合物は、β-グルコース(詳細には、β-D-グルコース)を構成糖として含むβ-1,4-グルカンである。セルロース化合物は、β-1,4-グルコシド結合を有するグルコースユニットUを含み、例えば、実質的にグルコースユニットUのみから構成されている。
【0032】
セルロース化合物に含まれるグルコースユニットUは、無置換のグルコースユニットであってもよいが、無置換のグルコースユニットに含まれる水酸基の一部又は全部に置換基が導入されたものであることが好ましい。グルコースユニットUは、例えば、下記式(1)で表される。
【化1】
【0033】
式(1)において、Xは、互いに独立して、水素原子、又は任意の置換基である。Xは、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。任意の置換基の具体例は、アシル基であり、典型的にはアセチル基である。セルロース化合物は、置換基としてアセチル基が導入されたグルコースユニットUを含む酢酸セルロースであることが好ましい。
【0034】
塗布液は、単一種類のセルロース化合物を含んでいてもよいが、2種類以上のセルロース化合物を含むことが好ましい。特に、塗布液は、セルロース化合物として、置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含むことが好ましい。
【0035】
なお、置換度は、詳細には、セルロース化合物に含まれる1つのグルコースユニット当たりの置換基の数を意味する。置換度が3.0である場合、セルロース化合物は、無置換のグルコースユニットに含まれる水酸基のほとんど全てに置換基が導入された構造を有していると言える。置換度は、例えば、セルロース化合物について、核磁気共鳴分光分析(1H-NMR)を行うことによって特定することができる。置換度は、DS値と呼ばれることがある。
【0036】
酢酸セルロースC1の置換度は、2.7以下であってもよく、2.6以下、さらには2.5以下であってもよい。この置換度は、例えば1.5以上であり、2.0以上、2.1以上、2.2以上、さらには2.3以上であってもよい。酢酸セルロースC1の置換度は、2.0~2.7であることが好ましい。
【0037】
酢酸セルロースC1の重量平均分子量は、特に限定されず、例えば5千以上であり、1万以上であってもよい。酢酸セルロースC1の重量平均分子量の上限は、例えば、100万以下であり、50万以下、さらには10万以下であってもよい。
【0038】
酢酸セルロースC2の置換度は、2.9以上であってもよく、実質的に3.0であってもよい。本明細書では、酢酸セルロースC2を三酢酸セルロース(CTA)呼ぶことがある。
【0039】
酢酸セルロースC2の重量平均分子量は、特に限定されず、例えば5千以上であり、1万以上であってもよい。酢酸セルロースC2の重量平均分子量の上限は、例えば、100万以下であり、50万以下、さらには10万以下であってもよい。酢酸セルロースC2の重量平均分子量は、酢酸セルロースC1の重量平均分子量と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0040】
塗布液において、酢酸セルロースC1の重量(g)に対する酢酸セルロースC2の重量(g)の比C2/C1は、例えば0.5以上であり、1.0以上、1.0超、1.3以上、1.5以上、1.8以上、さらには2.0以上であってもよい。比C2/C1の上限は、特に限定されず、例えば5.0以下であり、4.0以下、さらには3.0以下であってもよい。本発明者らの検討によると、塗布液における酢酸セルロースC1と酢酸セルロースC2の重量比によって、分離機能層1の機械特性を調整できる傾向がある。特に、上記の要件(a)が満たされるように、比C2/C1を1.0より大きい値に調整することによって、分離機能層1の機械特性を適切に調整しやすい。機械特性が適切に調整された分離機能層1によれば、分離膜10について、高圧下での分離性能の低下が抑制される傾向がある。さらに、この分離機能層1を備えた分離膜10は、屈曲性が優れる傾向もある。
【0041】
塗布液におけるセルロース化合物の含有率は、特に限定されず、例えば5wt%以上であり、10wt%以上であってもよい。セルロース化合物の含有率の上限は、例えば30wt%以下であり、20wt%以下であってもよい。なお、塗布液がセルロース化合物として酢酸セルロースC1及びC2を含む場合、セルロース化合物の含有率は、酢酸セルロースC1の含有率と、酢酸セルロースC2の含有率の合計値を意味する。
【0042】
塗布液に含まれる溶剤としては、セルロース化合物を含む分離膜の作製に用いられる溶剤として公知のものを使用することができる。溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカンなどの炭化水素化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル化合物;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどの脂肪族ケトン;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルシクロペンチルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソランなどのエーテル化合物;N-メチルピロリドン、2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどの窒素又は硫黄を含む化合物が挙げられる。塗布液は、1種又は2種以上の溶剤を含んでいてもよい。
【0043】
溶剤としては、アセトンなどの脂肪族ケトン、N-メチルピロリドンなどの窒素含有化合物、1,3-ジオキソランなどのエーテル化合物、メタノールなどの低級アルコール、及び、デカンなどの炭化水素化合物を適宜組み合わせて用いることが好ましい。一例として、アセトンは、後述するスキン層の形成に適した溶剤である。N-メチルピロリドンや1,3-ジオキソランは、セルロース化合物の良溶媒として機能し、メタノールは、セルロース化合物の貧溶媒として機能する。N-メチルピロリドン、1,3-ジオキソラン、メタノールは、後述する多孔層に含まれる孔の孔径の調整に寄与しうる溶剤である。デカンは、分離機能層1に対して後述の乾燥処理を行った場合に、分離機能層1の収縮を抑制しうる溶剤である。
【0044】
塗布液における溶剤の含有率は、特に限定されず、例えば70wt%~95wt%である。一例として、塗布液における脂肪族ケトンの含有率が15wt%~30wt%であり、窒素含有化合物の含有率が5wt%~20wt%であり、エーテル化合物の含有率が15wt%~40wt%であり、低級アルコールの含有率が5wt%~20wt%であり、炭化水素化合物の含有率が1wt%~10wt%である。
【0045】
塗布液は、セルロース化合物及び溶剤以外に、カルボキシル基を有する化合物Aをさらに含むことが好ましい。化合物Aは、塗布液中で、カルボキシル基を介してセルロース化合物と水素結合を形成することによって、塗布液の粘度を向上させる傾向がある。
【0046】
化合物Aが有するカルボキシル基の数は、1であってもよいが、2以上であることが好ましい。化合物Aは、2つのカルボキシル基を有するジカルボン酸であることが特に好ましい。化合物Aの炭素数は、例えば10以下であり、6以下であってもよい。化合物Aの炭素数の下限は、例えば2以上であり、3以上であってもよい。化合物Aは、カルボキシル基以外の他の官能基(例えばヒドロキシル基)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。化合物Aは、炭素-炭素二重結合などの不飽和結合を含んでいてもよい。
【0047】
化合物Aとしては、例えば、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸などが挙げられ、好ましくはマレイン酸である。
【0048】
塗布液における化合物Aの含有率は、例えば1.0wt%以上であり、2.0wt%以上、2.0wt%超、3.0wt%以上、4.0wt%以上、さらには5.0wt%以上であってもよい。化合物Aの含有率の上限は、特に限定されず、例えば20wt%以下であり、15wt%以下、さらには10wt%以下であってもよい。特に、上記の要件(b)が満たされるように、化合物Aの含有率を2.0wt%よりも高い値に調整することによって、塗布液の粘度を適切に調整しやすい。粘度が適切に調整された塗布液によれば、後述する多孔層において、孔の孔径を減少させるとともに、孔の数を増加させやすい。この多孔層を有する分離機能層1では、機械特性が適切に調整される傾向がある。機械特性が適切に調整された分離機能層1によれば、分離膜10について、高圧下での分離性能の低下が抑制される傾向がある。さらに、この分離機能層1を備えた分離膜10は、屈曲性が優れる傾向もある。
【0049】
塗布液の30℃における粘度は、例えば12Pa・s以上であり、好ましくは15Pa・s以上である。この粘度の上限値は、塗布液の取り扱いの観点から、例えば20Pa・sである。塗布液の粘度は、市販の粘度・粘弾性測定装置(例えば、TOKI SANGYO社製のRE-85形粘度計)を用いて、以下の条件で測定することができる。
ローター:3゜×R14
測定温度:30℃
回転速度:20[rpm]
【0050】
工程Iでは、
図2Aに示すように、塗布液を基材に塗布して、塗布膜15を形成する。基材は、典型的には多孔性支持体2(特に不織布)である。塗布液の塗布方法としては、特に限定されず、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法などを利用できる。塗布膜15の厚さは、特に限定されず、例えば10μm~300μmであり、10μm~50μmであってもよい。
【0051】
(工程II)
図2Bに示すように、工程IIでは、塗布膜15から溶剤を除去することによって分離機能層1を形成する。詳細には、工程IIは、例えば、次の方法によって行うことができる。まず、工程Iで作製した塗布膜15を室温(例えば25℃)で、例えば3秒~5分放置する。これにより、塗布膜15の表面付近で揮発性の高い溶剤(例えばアセトン)が揮発し、スキン層Sが形成される(
図3)。スキン層Sは、典型的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、拡大倍率2万倍で観察したときに、孔が確認できない緻密層(無孔層)である。
【0052】
次に、水を含む液体Lを塗布膜15に接触させる。詳細には、液体L中に塗布膜15を浸漬させることによって、塗布膜15と液体Lを接触させる。これにより、塗布膜15に含まれる溶剤が液体Lによって置換され、塗布膜15から溶剤を除去することができる。なお、塗布膜15が上記の化合物Aを含む場合、塗布膜15が液体Lと接触することによって、塗布膜15から化合物Aも除去されうる。
【0053】
水を含む液体Lは、典型的には水そのものである。液体Lの温度は、後述する相分離現象が生じる速度を適切に調整する観点から、例えば4℃~25℃である。塗布膜15と液体Lを接触させる時間は、特に限定されず、例えば5分~1時間である。なお、液体Lを塗布膜15に接触させる操作は、液体Lを取り替えて繰り返し行ってもよい。この場合、2回目以降の操作では、液体Lの温度を25℃より大きい値(例えば70℃)に設定してもよい。
【0054】
上述のとおり、液体Lを塗布膜15に接触させると、塗布膜15に含まれる溶剤が液体Lによって置換される。セルロース化合物は、水に対する溶解性が低いため、上記の操作によってセルロース化合物が析出する。このとき、相分離現象が生じることで、多孔質構造を有する多孔層Pが形成される(
図3)。液体Lによる置換がスキン層S側の表面から進行するため、得られた多孔層Pでは、スキン層S側の表面から基材側の表面に向かって、孔の孔径が徐々に大きくなる傾向がある。
【0055】
工程Iにおいて、要件(b)が満たされている場合、塗布液の粘度が適切に調整されている傾向がある。この塗布液から形成された塗布膜15では、溶剤と液体Lとの置換速度が比較的遅い傾向がある。本発明者らの検討によれば、この置換速度が遅いと、多孔層Pにおいて、孔の孔径を減少させるとともに、孔の数を増加させやすい。孔の孔径が小さく、その数が多い多孔層Pによれば、分離機能層1の機械特性が適切に調整されるため、分離膜10について、高圧下での分離性能の低下が抑制される傾向がある。
【0056】
工程IIでは、塗布膜15から溶剤が除去されることによって分離機能層1が得られる。液体Lと接触した後の分離機能層1については、乾燥処理をさらに行ってもよい。分離機能層1の乾燥条件は、特に限定されず、例えば、乾燥温度が70℃~130℃であり、乾燥時間が3~30分である。
【0057】
(工程III)
本実施形態の製造方法は、分離機能層1の上に、分離機能層1を保護する保護層3を形成する工程IIIをさらに含んでいてもよい。工程IIIを行うことによって、分離機能層1、多孔性支持体2及び保護層3を備える分離膜10が得られる(
図1)。
【0058】
工程IIIでは、まず、保護層3の材料を含む塗布液を準備する。塗布液は、例えば、シリコーン樹脂組成物である。この塗布液を分離機能層1の上に塗布し、得られた塗布膜を硬化させることによって保護層3を形成することができる。塗布液の塗布方法としては、工程Iについて上述したものが挙げられる。塗布膜の硬化条件は、塗布液の組成などによって適宜設定することができる。
【0059】
(分離膜)
本実施形態の製造方法によれば、セルロース化合物を含む分離機能層1を備えた分離膜10が得られる。分離膜10において、分離機能層1は、例えば、セルロース化合物を主成分として含み、実質的にセルロース化合物のみから構成されていてもよい。「主成分」は、分離機能層1に重量比で最も多く含まれる成分を意味する。
【0060】
上記の工程Iにおいて、酢酸セルロースC1及びC2を含む塗布液を用いた場合、分離機能層1は、酢酸セルロースC1及びC2を含む。分離機能層1において、酢酸セルロースC1の重量に対する酢酸セルロースC2の重量の比C2/C1は、通常、上記の塗布液での比C2/C1と同じである。そのため、本実施形態の製造方法が上記の要件(a)を満たす場合、分離機能層1においても、比C2/C1が1.0より大きい。
【0061】
本発明は、その別の側面から、
置換度が2.8未満である酢酸セルロースC1と、置換度が2.8以上である酢酸セルロースC2とを含む分離機能層1を備え、
分離機能層1において、酢酸セルロースC1の重量に対する酢酸セルロースC2の重量の比C2/C1が1.0より大きい、分離膜10を提供する。
この分離膜10では、分離機能層1の機械特性が適切に調整されていることによって、高圧下での分離性能の低下が抑制される傾向がある。
【0062】
分離機能層1における比C2/C1は、分離機能層1について、核磁気共鳴分光分析(1H-NMR)や、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)などの質量分析を行った結果に基づいて特定することができる。なお、酢酸セルロースC1及びC2を含む分離機能層1について1H-NMRを行った場合、通常、酢酸セルロースC1及びC2のそれぞれの置換度や重量比が考慮された全体の置換度を特定することができる。この置換度と質量分析の結果を組み合わせて、比C2/C1を特定することができる。
【0063】
(分離機能層)
図3に示すように、分離機能層1は、例えば、多孔層Pと、多孔層Pの上に形成されたスキン層Sとを有する。多孔層Pとスキン層Sは、通常、互いに同じ組成を有する。上述のとおり、スキン層Sは、拡大倍率2万倍で観察したときに孔が確認できない緻密層であり、分離膜10の分離性能に大きく寄与する層である。スキン層Sの厚さは、特に限定されず、例えば1nm~100nmである。
【0064】
多孔層Pは、スキン層Sを支持する層である。多孔層Pの多孔質構造に含まれる孔5は、三次元状に連続して形成された連続孔であってもよく、独立孔であってもよい。多孔層Pは、孔5として、連続孔及び独立孔の両方を含んでいてもよい。孔5の平均孔径は、特に限定されず、例えば1nm~100nmである。多孔層Pの厚さは、特に限定されず、例えば20μm~50μmである。
【0065】
上述のとおり、本実施形態の製造方法では、要件(a)及び(b)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件が満たされることによって、分離機能層1の機械特性が適切に調整される傾向がある。一例として、分離機能層1は、硬度が大きい傾向があり、例えば、ナノインデンテーション法によって測定される硬度Hが0.070GPa以上である。
【0066】
硬度Hは、次の方法によって測定することができる。まず、分離機能層1及び多孔性支持体2の積層体を準備する。この積層体は、上述の工程I及びIIを実施することによって作製できる。次に、市販のナノインデンター(例えば、Hysitron社製のTriboindenter)を用いて、以下の条件で分離機能層1の表面(詳細には、スキン層Sの表面)に圧子を押し込み、荷重-変位曲線を得る。
測定温度:25℃
圧子:Berkovich(三角錐)型のダイヤモンド圧子
測定モード:単一押込み測定
最大押込み深さ:500nm
押込み速度:20nm/sec
【0067】
次に、得られた荷重-変位曲線から最大荷重Pmax(最大変位にて圧子に作用する荷重)を特定する。この最大荷重Pmaxと、接触投影面積Ap(最大変位で圧子と分離機能層1とが接触する面積)とに基づいて、圧子を押し込んだ位置での硬度(Pmax/Ap)を算出する。分離機能層1の表面の任意の複数の点(少なくとも3点)で上記の測定を繰り返し、得られた値の平均値を硬度Hとみなすことができる。
【0068】
硬度Hは、0.075GPa以上であってもよく、0.080GPa以上であってもよい。硬度Hは、場合によっては、0.040GPa以上であってもよく、0.050GPa以上、さらには0.060GPa以上であってもよい。硬度Hの上限値は、特に限定されず、例えば0.150GPaである。
【0069】
本発明は、その別の側面から、
セルロース化合物を含む分離機能層1を備え、
分離機能層1は、ナノインデンテーション法によって測定される硬度が0.070GPa以上である、分離膜10を提供する。
【0070】
(多孔性支持体)
上述のとおり、多孔性支持体2は、分離機能層1を支持している。多孔性支持体2としては、例えば、不織布;多孔質ポリテトラフルオロエチレン;芳香族ポリアミド繊維;多孔質金属;焼結金属;多孔質セラミック;多孔質ポリエステル;多孔質ナイロン;活性化炭素繊維;ラテックス;シリコーン;シリコーンゴム;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド及びポリフェニレンオキシドからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む透過性(多孔質)ポリマー;連続気泡又は独立気泡を有する金属発泡体;連続気泡又は独立気泡を有するポリマー発泡体;シリカ;多孔質ガラス;メッシュスクリーンなどが挙げられる。多孔性支持体2は、これらのうちの2種以上を組み合わせたものであってもよい。多孔性支持体2は、典型的には不織布である。なお、本実施形態の分離膜10は、多孔性支持体2が不織布であっても、実用上十分な剛性を有する傾向がある。
【0071】
多孔性支持体2は、例えば0.01~0.4μmの平均孔径を有する。多孔性支持体2の厚さは、特に限定されず、例えば10μm以上であり、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは50μm以上である。多孔性支持体2の厚さは、例えば300μm以下であり、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下である。
【0072】
(保護層)
上述のとおり、保護層3は、分離機能層1を保護する層である。保護層3の材料としては、特に限定されず、例えばシリコーン樹脂が挙げられる。保護層3の厚さは、特に限定されず、例えば5μm以下であり、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下である。
【0073】
(分離膜の特性)
分離膜10では、酸性ガスが透過するときの透過速度が、他のガスが透過するときの透過速度に比べて大きいことが好ましい。一例として、温度50℃、圧力0.35MPaのメタンが分離膜10を透過するときの透過速度T1CH4(GPU)に対する、温度50℃、圧力0.35MPaの二酸化炭素が分離膜10を透過するときの透過速度T1CO2(GPU)の比T1CO2/T1CH4は20以上である。比T1CO2/T1CH4は、好ましくは25以上であり、30以上、35以上、38以上、40以上、43以上、45以上、さらには48以上であってもよい。比T1CO2/T1CH4の上限値は、特に限定されず、例えば100である。
【0074】
透過速度T1CH4は、次の方法によって測定することができる。まず、分離膜10の一方の面(例えば分離膜10の保護層側の主面)に隣接する空間に、温度50℃、圧力0.35MPaのメタンを供給する。これにより、分離膜10の他方の面(例えば分離膜10の多孔性支持体側の主面)に隣接する空間にて、分離膜10を透過した透過流体が得られる。透過流体の重量などから透過速度T1CH4を算出できる。
【0075】
透過速度T1CH4は、例えば10GPU以下であり、5GPU以下であってもよい。透過速度T1CH4の下限値は、特に限定されず、例えば1GPUである。なお、GPUは、10-6・cm3(STP)/(sec・cm2・cmHg)を意味する。cm3(STP)は、1気圧、0℃での気体の体積を意味する。
【0076】
透過速度T1CO2は、メタンに代えて二酸化炭素を用いることを除き、透過速度T1CH4と同じ方法によって測定することができる。透過速度T1CO2は、例えば50GPU以上であり、200GPU以上であってもよい。透過速度T1CO2の上限値は、特に限定されず、例えば300GPUである。
【0077】
本実施形態の製造方法によって製造された分離膜10は、高圧のガスと接触した場合であっても分離性能が低下しにくい傾向がある。一例として、分離膜10は、温度50℃、圧力8.0MPaの窒素と1時間接触させた場合に、比T1CO2/T1CH4の維持率が70%以上である。この維持率は、好ましくは75%以上であり、80%以上、85%以上、90%以上、さらには95%以上であってもよく、実質的に100%であってもよい。本明細書では、比T1CO2/T1CH4の維持率を選択性維持率と呼ぶことがある。
【0078】
比T1CO2/T1CH4の維持率は、次の方法によって特定することができる。まず、分離膜10の一方の面(例えば分離膜10の保護層側の主面)に隣接する空間に、温度50℃、圧力8.0MPaの窒素を1時間供給し続ける。この加圧処理後の分離膜10について、温度50℃、圧力0.35MPaのメタンが透過するときの透過速度T2CH4(GPU)と、温度50℃、圧力0.35MPaの二酸化炭素が透過するときの透過速度T2CO2(GPU)とを測定する。なお、透過速度T2CH4及びT2CO2は、透過速度T1CH4及びT1CO2について上述した方法によって、測定することができる。
【0079】
次に、透過速度T2CH4(GPU)に対する透過速度T2CO2(GPU)の比T2CO2/T2CH4を算出する。比T1CO2/T1CH4に対する比T2CO2/T2CH4の比率を算出し、得られた算出値を比T1CO2/T1CH4の維持率とみなすことができる。
【0080】
なお、分離膜10において、上記の比T2CO2/T2CH4は、例えば20以上であり、25以上、30以上、35以上、38以上、40以上、43以上、45以上、さらには48以上であってもよい。比T2CO2/T2CH4の上限値は、特に限定されず、例えば100である。
【0081】
さらに、分離膜10は、酸性ガスを含む混合気体と接触したときに、酸性ガスを優先的に透過させることが好ましい。一例として、分離膜10が二酸化炭素及びメタンからなる混合気体と接触した場合、分離膜10を透過するメタンの透過速度T3CH4は、例えば20GPU以下であり、10GPU以下であってもよい。透過速度T3CH4の下限値は、特に限定されず、例えば1GPUである。さらに、上記の場合に、分離膜10を透過する二酸化炭素の透過速度T3CO2は、例えば60GPU以上であり、80GPU以上、さらには90GPU以上であってもよい。透過速度T3CO2の上限値は、特に限定されず、例えば200GPUである。
【0082】
透過速度T3CO2及びT3CH4は、次の方法によって測定することができる。まず、分離膜10の一方の面に隣接する空間に、二酸化炭素及びメタンからなる混合気体を供給する。これにより、分離膜10の他方の面に隣接する空間にて、分離膜10を透過した透過流体が得られる。透過流体の重量、並びに、透過流体における二酸化炭素の体積比率及びメタンの体積比率を測定する。測定結果から透過速度T3CO2及びT3CH4を算出できる。上記の操作において、混合気体における二酸化炭素の濃度は、標準状態(0℃、101kPa)で50vol%である。分離膜10の一方の面に隣接する空間に供給される混合気体は、温度が50℃であり、圧力が0.35MPaである。
【0083】
なお、透過速度T3CH4(GPU)に対する透過速度T3CO2(GPU)の比T3CO2/T3CH4は、特に限定されず、例えば10~20であり、好ましくは14.0以上である。
【0084】
(分離膜の用途)
分離膜10の用途としては、酸性ガスを含む混合気体から酸性ガスを分離する用途が挙げられる。混合気体の酸性ガスとしては、二酸化炭素、硫化水素、硫化カルボニル、硫黄酸化物(SOx)、シアン化水素、窒素酸化物(NOx)などが挙げられ、好ましくは二酸化炭素である。混合気体は、酸性ガス以外の他のガスを含んでいる。他のガスとしては、例えば、メタン、水素、窒素などの非極性ガス、及び、ヘリウムなどの不活性ガスが挙げられ、好ましくはメタンである。特に、分離膜10は、二酸化炭素及びメタンを含む混合気体(例えば天然ガス)から二酸化炭素を分離する用途に適している。上述のとおり、本実施形態の製造方法によって製造された分離膜10は、高圧のガスと接触した場合であっても分離性能が低下しにくく、高圧の混合気体(例えば、圧力0.5~10MPaの混合気体)を処理することに適している。なお、分離膜10の用途は、混合気体から酸性ガスを分離する用途に限定されない。
【0085】
<膜分離装置の実施形態>
図4に示すとおり、本実施形態の膜分離装置100は、分離膜10及びタンク20を備えている。タンク20は、第1室21及び第2室22を備えている。分離膜10は、タンク20の内部に配置されている。タンク20の内部において、分離膜10は、第1室21と第2室22とを隔てている。分離膜10は、タンク20の1対の壁面の一方から他方まで延びている。
【0086】
第1室21は、入口21a及び出口21bを有する。第2室22は、出口22aを有する。入口21a、出口21b及び出口22aのそれぞれは、例えば、タンク20の壁面に形成された開口である。
【0087】
膜分離装置100を用いた膜分離は、例えば、次の方法によって行われる。まず、入口21aを通じて、酸性ガスを含む混合気体30を第1室21に供給する。混合気体30における酸性ガスの濃度は、特に限定されず、標準状態で、例えば0.01vol%(100ppm)以上であり、1vol%以上、10vol%以上、さらには30vol%以上であってもよい。混合気体30における酸性ガスの濃度の上限値は、特に限定されず、標準状態で、例えば90vol%である。
【0088】
第1室21に供給される混合気体30の圧力は、例えば0.1MPa以上であり、0.5MPa以上、1MPa以上、5MPa以上、さらには10MPa以上であってもよい。膜分離装置100は、混合気体30を昇圧するためのポンプ(図示せず)をさらに備えていてもよい。
【0089】
第1室21に混合気体30を供給した状態で、第2室22内を減圧してもよく、減圧しなくてもよい。膜分離装置100は、第2室22内を減圧するためのポンプ(図示せず)をさらに備えていてもよい。第2室22は、第2室22内の空間が測定環境における大気圧に対して、例えば10kPa以上、好ましくは50kPa以上、より好ましくは100kPa以上小さくなるように減圧されてもよい。
【0090】
第1室21内に混合気体30が供給されることによって、分離膜10の他方の面側において混合気体30よりも酸性ガスの含有率が高い透過流体35を得ることができる。すなわち、透過流体35が第2室22に供給される。透過流体35は、例えば、酸性ガスを主成分として含んでいる。ただし、透過流体35は、酸性ガス以外の他のガスを少量含んでいてもよい。透過流体35は、出口22aを通じて、タンク20の外部に排出される。
【0091】
混合気体30における酸性ガスの濃度は、第1室21の入口21aから出口21bに向かって徐々に低下する。第1室21で処理された混合気体30(非透過流体36)は、出口21bを通じて、タンク20の外部に排出される。
【0092】
本実施形態の膜分離装置100は、流通式(連続式)の膜分離方法に適している。ただし、本実施形態の膜分離装置100は、バッチ式の膜分離方法に用いられてもよい。
【0093】
<膜分離装置の変形例>
図5に示すとおり、本実施形態の膜分離装置110は、中心管41及び積層体42を備えている。積層体42が分離膜10を含んでいる。膜分離装置110は、スパイラル型の膜エレメントである。
【0094】
中心管41は、円筒形状を有している。中心管41の表面には、中心管41の内部に透過流体35を流入させるための複数の孔が形成されている。中心管41の材料としては、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリサルフォン樹脂(PSF樹脂)などの樹脂;ステンレス鋼、チタンなどの金属が挙げられる。中心管41の内径は、例えば20~100mmの範囲にある。
【0095】
積層体42は、分離膜10の他に、供給側流路材43及び透過側流路材44をさらに含む。積層体42は、中心管41の周囲に巻回されている。膜分離装置110は、外装材(図示せず)をさらに備えていてもよい。
【0096】
供給側流路材43及び透過側流路材44としては、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)又はエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)からなる樹脂製ネットを用いることができる。
【0097】
膜分離装置110を用いた膜分離は、例えば、次の方法によって行われる。まず、巻回された積層体42の一端に混合気体30を供給する。積層体42の分離膜10を透過した透過流体35が中心管41の内部に移動する。透過流体35は、中心管41を通じて外部に排出される。膜分離装置110で処理された混合気体30(非透過流体36)は、巻回された積層体42の他端から外部に排出される。これにより、混合気体30から酸性ガスを分離することができる。
【実施例0098】
以下に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0099】
(比較例1)
まず、酢酸セルロースC1として、置換度2.4の酢酸セルロース(EASTMAN社製、CA-398-10)を準備し、酢酸セルロースC2として、置換度2.9の三酢酸セルロース(EASTMAN社製、M300)を準備した。溶剤として、アセトン、N-メチルピロリドン(NMP)、1,3-ジオキソラン、メタノール(MeOH)及びデカンを準備した。さらに、カルボキシル基を有する化合物Aとして、マレイン酸を準備した。これらの材料を表1に示す比率で混合し、塗布液を作製した。なお、この塗布液の組成は、特許文献1の実施例1で調製されたキャスティングドープとほとんど同じである。
【0100】
次に、塗布液を多孔性支持体(北越コーポレーション株式会社製、ポリエステル湿式不織布S54)に塗布し、塗布膜(厚さ150μm)を形成した。塗布膜を室温で5秒間放置し、その後、7℃の水に塗布膜を5分間浸漬させ、さらに、70℃の水に5分間浸漬させた。これにより、塗布膜から溶剤が除去され、多孔層及びスキン層を有する分離機能層が形成された。この分離機能層については、100℃で30分間乾燥処理を行った。得られた分離機能層の厚さは30μmであった。
【0101】
次に、分離機能層の上に、保護層の材料を含む塗布液(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社社製、RTV615)を塗布し、得られた塗布膜を硬化させることによって保護層を形成した。塗布膜の硬化は、130℃で3分間加熱処理することによって行った。これにより、比較例1の分離膜を得た。
【0102】
(実施例1~2)
表1に示すように、塗布液の組成を変更したことを除き、比較例1と同じ方法によって、実施例1~2の分離膜を得た。
【0103】
[硬度]
実施例及び比較例について、保護層を形成する前の分離機能層及び多孔性支持体の積層体を用いて、上述の方法によって、分離機能層1の硬度Hを測定した。ナノインデンターとしては、Hysitron社製のTriboindenterを用いた。
【0104】
[透過試験]
実施例及び比較例の分離膜について、上述の方法によって、透過速度T1CH4~T3CH4、及び透過速度T1CO2~T3CO2を測定し、比T1CO2/T1CH4、比T2CO2/T2CH4、比T3CO2/T3CH4、及び、加圧処理後の比T1CO2/T1CH4の維持率を算出した。
【0105】
【0106】
【0107】
表1及び2からわかるとおり、上記の要件(a)又は(b)が満たされた製造方法によって作製された実施例の分離膜では、高圧の窒素と接触させた場合に、比T1CO2/T1CH4の維持率(選択性維持率)が比較例よりも高い値であった。このことから、本実施形態の製造方法によれば、高圧の混合気体を処理することに適した分離膜を作製できることがわかる。
【0108】
実施例の分離膜では、要件(a)又は(b)が満たされた製造方法を行うことによって、分離機能層の機械特性が適切に調整され、このことに起因して、選択性維持率が高い値であったことが推定される。実際に、実施例の分離膜が備える分離機能層は、比較例と比べて硬度Hが大きい値であった。
【0109】
さらに、実施例2及び比較例1の分離膜については、陽電子寿命測定を行った。その結果、実施例2の分離膜が備える分離機能層では、比較例1と比べて、多孔層に含まれる孔の孔径が小さく、その数が多いことがわかった。実施例2では、多孔層中の空隙の合計体積が比較例1と同程度であったことに起因して、透過速度T3CO2の値が、比較例1と比べて同程度以上であったと推定される。
本実施形態の分離膜は、酸性ガスを含む混合気体から酸性ガスを分離することに適している。特に、本実施形態の分離膜は、天然ガスから二酸化炭素を分離することに適している。