(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050325
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】鍵盤装置の鍵
(51)【国際特許分類】
G10B 3/12 20060101AFI20240403BHJP
G10C 3/12 20060101ALI20240403BHJP
G10H 1/34 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G10B3/12 100
G10C3/12 100
G10H1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157138
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】山口 勉
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478BD01
(57)【要約】
【課題】木質板の取り付け位置の調整が容易であり、鍵本体と木質板の間の隙間を生じず、かつ、接着剤のはみ出しにより美観を損ねることのない鍵盤装置の鍵を提供する。
【解決手段】本発明に係る鍵盤装置の鍵は、前後方向に所定長さ延び、上面部4と側面部5とを有する鍵本体2と、側面部5の一部に沿って取り付けられる木質板3と、を有し、上面部4の側面部5側の端部に、この端部に沿って延在し、上面部4と連続的に形成され、側面部5よりも側方に突出する上部突出部6が形成され、側面部5の下端部の近傍に、側方に向けて突出し上部突出部6と対向する下部支持突起7が形成され、下部支持突起7の上面は、先端側に向かうほど下方に向かって傾斜する傾斜面Sとなっており、木質板3は、上端面が上部突出部6の下面と当接するように配設され、上部突出部6と下部支持突起7によって挟持される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に所定長さ延び、上面部と、長手方向に延びる側面部と、を有する鍵本体と、前記側面部の少なくとも一部に沿って取り付けられる一又は複数の木質板と、を有する鍵盤装置の鍵であって、
前記上面部の前記側面部側の端部に、該端部に沿って延在し、前記上面部と連続的に形成され、前記側面部よりも側方に突出する上部突出部が形成され、
前記側面部の下端部の近傍に、前記鍵本体の側方に向けて突出し、前記上部突出部と対向する下部支持突起が形成され、
前記下部支持突起の上面は、先端側に向かうほど下方に向かって傾斜する傾斜面となっており、
前記一又は複数の木質板は、上端面が前記上部突出部の下面と当接するように配設され、前記上部突出部と前記下部支持突起によって挟持されることを特徴とする、鍵盤装置の鍵。
【請求項2】
前記一又は複数の木質板の高さ寸法は、前記上部突出部の前記下面から前記下部支持突起の基端までの長さ寸法とほぼ同一であることを特徴とする、請求項1に記載の鍵盤装置の鍵。
【請求項3】
前記下部支持突起の先端は、前記上部突出部の先端よりも側方に突出していることを特徴とする、請求項1に記載の鍵盤装置の鍵。
【請求項4】
前記下部支持突起は、前記鍵本体の前記側面部に複数形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の鍵盤装置の鍵。
【請求項5】
前記鍵本体は、前記上面部の前端部及び前記側面部の前端部に接するように設けられた前面部を更に有し、
前記前面部の前記側面部側の端部に、該端部に沿って延在し、前記前面部と連続的に形成され、前記側面部よりも側方に突出する前部突出部が形成され、
前記側面部の後端部の近傍に、前記鍵本体の側方に向けて突出し、前記前部突出部と対向する後部支持突起が形成され、
前記後部支持突起の前面は、先端側に向かうほど後方に向かって傾斜する傾斜面となっており、
前記一又は複数の木質板は、前端面が前記前部突出部の後面と当接するように配設され、前記前部突出部と前記後部支持突起によって挟持されることを特徴とする、請求項1に記載の鍵盤装置の鍵。
【請求項6】
前後方向に所定長さ延び、上面部と、長手方向に延びる側面部と、前記上面部の前端部及び前記側面部の前端部に接するように設けられた前面部を有する鍵本体と、前記側面部の少なくとも一部に沿って取り付けられる一又は複数の木質板と、を有する鍵盤装置の鍵であって、
前記前面部の前記側面部側の端部に、該端部に沿って延在し、前記前面部と連続的に形成され、前記側面部よりも側方に突出する前部突出部が形成され、
前記側面部の後端部の近傍に、前記鍵本体の側方に向けて突出し、前記前部突出部と対向する後部支持突起が形成され、
前記後部支持突起の前面は、先端側に向かうほど後方に向かって傾斜する傾斜面となっており、
前記一又は複数の木質板は、前端面が前記前部突出部の後面と当接するように配設され、前記前部突出部と前記後部支持突起によって挟持されることを特徴とする、鍵盤装置の鍵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどの鍵盤楽器に適用される鍵盤装置の鍵に関し、特に側面に木質板が取り付けられる鍵盤装置の鍵に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低コストで鍵に木質感を付与するために、樹脂製の鍵本体の側面に木質材を取り付ける鍵盤装置の鍵が知られている。例えば特許文献1では、上部と下部と、これらを連結する連結部とを一体に形成した樹脂製の鍵ベース体と、この鍵ベース体の上部及び下部の間の凹部に設けられた木質系材と、からなる鍵構造体が開示されている。
【0003】
また、特許文献2では、下面側が開放される箱状に形成された樹脂製のベース部材と、ベース部材の左右側面のそれぞれに配設される矩形板状の一対の木質部材とを備えた鍵盤装置の鍵が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-271126号公報
【特許文献2】特開2018-112763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の鍵構造体は、鍵ベース体の上部と下部と連結部とで構成される凹部が、鍵ベース体の前後方向のほぼ全長に亘って形成され、この凹部にほぼ隙間なく木質材を嵌め込む構成となっているため、鍵ベース体の凹部と木質材の間の隙間が非常に小さい。そのため、接着剤を用いて木質材を凹部に接着する場合、余分な接着剤が凹部の外側へとはみ出して固着することがあり、これにより美観を損ねたり、場合によっては隣接する鍵との干渉を生じて演奏に支障をきたすおそれがある。
【0006】
また、こうした問題を回避するために、鍵ベース体の凹部の寸法よりも小さい木質材を用い、接着剤が外部にはみ出す可能性を小さくすることも可能だが、この場合、凹部と木質材の間に隙間が生じ、鍵の美観を悪化させるおそれがある。
【0007】
特許文献2の鍵盤装置の鍵の場合、木質材の下方側が開放された構造となっているため、余分な接着剤は木質材の下方側に逃がすことが可能であり、接着剤のはみ出しにより美観を損ねるおそれは小さくなる。一方で、この鍵盤装置の鍵の場合、鍵構造体の側面の凹部に木質材を嵌め込む特許文献1の鍵構造体とは異なり、木質材の取り付け位置が自動的には定まらないため、木質材の取り付けの際に、ベース部材と木質材の間に隙間が生じることで美観を損ねるおそれがある。
【0008】
特に、鍵の側面の上部は、隣接する鍵を押鍵した際に目視可能な部位であるため、ベース部材と木質材とを密着させ、鍵側面の上部に隙間を生じないようにした状態で接着する必要がある。そのためには、木質材の正確な位置決めと、位置決め後に更に木質材をベース部材に押し付けて密着させる工程が必要となり、製造時の難易度と工数の増加、ひいてはコスト増加の要因となっていた。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、鍵本体に対する木質板の取り付け位置の調整が容易であり、鍵本体と木質板の間の隙間によって美観を損ねることがなく、かつ、余分な接着剤がはみ出したとしても、隣接する鍵との干渉を生じず、また美観を損ねることのない鍵盤装置の鍵を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る鍵盤装置の鍵は、前後方向に所定長さ延び、上面部4と、長手方向に延びる側面部5と、を有する鍵本体2と、側面部5の少なくとも一部に沿って取り付けられる一又は複数の木質板3と、を有する鍵盤装置の鍵1であって、上面部4の側面部5側の端部に、該端部に沿って延在し、上面部4と連続的に形成され、側面部5よりも側方に突出する上部突出部6が形成され、側面部5の下端部の近傍に、鍵本体2の側方に向けて突出し、上部突出部6と対向する下部支持突起7が形成され、下部支持突起7の上面は、先端側に向かうほど下方に向かって傾斜する傾斜面Sとなっており、一又は複数の木質板3は、上端面が上部突出部6の下面6aと当接するように配設され、上部突出部6と下部支持突起7によって挟持されることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、鍵本体の上面部の側面部側の端部に沿って形成された上部突出部と、側面部の下端部の近傍に形成された下部支持突起とによって木質板が上下に挟み込まれるようにして支持されるので、隣接する鍵の押鍵時に視認されやすい鍵の側面の上端部近傍において、鍵本体と木質板との間に隙間が生じず、美観を損ねることがない。
【0012】
また、下部支持突起の上面が、先端側に向かうほど下方に向かって傾斜する傾斜面になっているため、木質板を鍵本体に取り付ける際、木質板の下端部をこの傾斜面の先端側に乗せた状態で木質板を鍵本体の側面に向けて押し付けることで、木質板の下端部が傾斜面の先端側から基端側に向けて滑るようにして上方へと移動し、それにより木質板の上端面が上部突出部の下面と当接する。このようにして、下部支持突起の傾斜面を木質板取り付けの際のガイドとして用いることにより、鍵本体と木質板を容易に密着させることができる。したがって、鍵本体に対する木質板の取り付け位置の調整が容易である。
【0013】
さらに、下部支持突起の上面が、先端側に向かうほど下方に向かって傾斜する傾斜面になっているため、下部支持突起の傾斜面の基端側が木質板と接して木質板を支持するとともに、傾斜面の先端側は木質板と接触せずに開放されている。これにより、接着剤を用いて木質板を鍵本体に接着する場合、余分な接着剤は傾斜面を伝わって傾斜面の先端側に開放された空間へと流れ出ることができる。木質板の下方にはみ出した接着剤は、隣接する鍵との干渉を生じるおそれがない。また、木質板の下方は隣接する鍵が押鍵された際にも外部に露出することがないため、はみ出した接着剤により美観が損なわれることも防止できる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤装置の鍵において、一又は複数の木質板3の高さ寸法は、上部突出部の下面6aから下部支持突起7の基端7aまでの長さ寸法L1とほぼ同一であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、木質板の高さ寸法は、上部突出部の下面から下部支持突起の基端までの長さ寸法とほぼ同一であるため、木質板を鍵本体に取り付ける際、下部支持突起の傾斜面をガイドとして、傾斜面上で木質板の下端部を滑らせるようにして木質板を鍵本体の側面に向けて押し付けたときに、木質板の下端部が傾斜面の基端に達した位置で、木質板の上面が上部突出部の下面と丁度、当接し、密着することとなる。したがって、鍵本体に対する木質板の取り付け位置の調整が更に容易である。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤装置の鍵において、下部支持突起7の先端は、上部突出部6の先端よりも側方に突出していることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、下部支持突起の先端が、上部突出部の先端よりも側方に突出しているので、木質板を鍵本体に取り付ける際、木質板の下端部を容易に下部支持突起の傾斜面に乗せることができる。したがって、下部支持突起の傾斜面の木質板取り付けにおけるガイドとしての利便性が更に向上する。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤装置の鍵において、下部支持突起7は、鍵本体2の側面部5に複数形成されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、鍵本体の側面部の下端部の近傍に複数の下部支持突起が形成されるので、木質板を鍵本体に取り付ける際、木質板の下端部をより安定的にガイドすることができるとともに、位置決めされた木質板をより安定的に支持することができる。したがって、鍵の側面の上端部近傍において、鍵本体と木質板の間に隙間が生じることをより効果的に防止することができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤装置の鍵において、鍵本体2は、上面部4の前端部及び側面部5の前端部に接するように設けられた前面部8を更に有し、前面部8の側面部側の端部に、該端部に沿って延在し、前面部8と連続的に形成され、側面部5よりも側方に突出する前部突出部9が形成され、側面部5の後端部の近傍に、鍵本体2の側方に向けて突出し、前部突出部9と対向する後部支持突起10が形成され、後部支持突起10の前面は、先端側に向かうほど後方に向かって傾斜する傾斜面となっており、一又は複数の木質板3は、前端面が前部突出部9の後面と当接するように配設され、前部突出部9と後部支持突起10によって挟持されることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、木質板は、上部突出部と下部支持突起とによって上下に挟み込まれるようにして支持されることに加え、前部突出部と後部支持突起とによって前後方向に挟み込まれるようにして支持される。したがって、隣接する鍵の押鍵時に視認されやすい鍵の側面の前端部近傍においても、鍵本体と木質板との間に隙間が生じず、美観を損ねることを更に防止できる。
【0022】
また、後部支持突起の前面が、先端側に向かうほど後方に向かって傾斜する傾斜面になっているため、木質板を鍵本体に取り付ける際、木質板の後端部をこの傾斜面の先端側に乗せた状態で木質板を鍵本体の側面に向けて押し付けることで、木質板の後端部が傾斜面の先端側から基端側に向けて滑るようにして前方へと移動し、それにより木質板の前端面が前部突出部の後面と当接する。このように、下部支持突起の傾斜面に加え、後部支持突起の傾斜面も、木質板取り付けの際のガイドとして用いることができるので、鍵本体と木質板を更に容易に密着させることができる。したがって、鍵本体に対する木質板の取り付け位置の調整が更に容易である。
【0023】
請求項6に係る鍵盤装置の鍵は、前後方向に所定長さ延び、上面部4と、長手方向に延びる側面部5と、上面部4の前端部及び側面部5の前端部に接するように設けられた前面部8を有する鍵本体2と、側面部5の少なくとも一部に沿って取り付けられる一又は複数の木質板3と、を有する鍵盤装置の鍵1であって、前面部8の側面部側の端部に、該端部に沿って延在し、前面部8と連続的に形成され、側面部5よりも側方に突出する前部突出部9が形成され、側面部5の後端部の近傍に、鍵本体2の側方に向けて突出し、前部突出部9と対向する後部支持突起10が形成され、後部支持突起10の前面は、先端側に向かうほど後方に向かって傾斜する傾斜面となっており、一又は複数の木質板3は、前端面が前部突出部9の後面と当接するように配設され、前部突出部9と後部支持突起10によって挟持されることを特徴とする
【0024】
この構成によれば、鍵本体の前面部の側面部側の端部に沿って形成された前部突出部と、側面部の後端部の近傍に形成された後部支持突起とによって木質板が前後に挟み込まれるようにして支持されるので、隣接する鍵の押鍵時に視認されやすい鍵の側面の前端部近傍において、鍵本体と木質板との間に隙間が生じず、美観を損ねることがない。
【0025】
また、後部支持突起の前面が、先端側に向かうほど後方に向かって傾斜する傾斜面になっているため、木質板を鍵本体に取り付ける際、木質板の後端部をこの傾斜面の先端側に乗せた状態で木質板を鍵本体の側面に向けて押し付けることで、木質板の後端部が傾斜面の先端側から基端側に向けて滑るようにして前方へと移動し、それにより木質板の前端面が前部突出部の後面と当接する。このようにして、後部支持突起の傾斜面を木質板取り付けの際のガイドとして用いることにより、鍵本体と木質板を容易に密着させることができる。したがって、鍵本体に対する木質板の取り付け位置の調整が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明を適用した白鍵における鍵本体と、その側面部に取り付けられる木質板を示す斜視図である。
【
図2】木質板を取り付けた状態の鍵本体を示す斜視図である。
【
図4】鍵本体への木質板の取り付け手順を説明するための図である。
【
図5】鍵本体の下部支持突起の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。以下に説明する構成は本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれに限定されない。なお、本明細書において、前方向とは図面中の方向X1をいい、後ろ方向とは図面中の方向X2をいう。また、右方向とは図面中の方向Y1をいい、左方向とは図面中の方向Y2をいう。また、上方向とは図面中の方向Z1をいい、下方向とは図面中の方向Z2をいう。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態による鍵盤装置の鍵1における鍵本体2と、その側面部に取り付けられる木質板3を示し、
図2は、木質板3が取り付けられた状態の鍵本体2を示す。これらの図に示すように、この鍵1は、電子ピアノなどの鍵盤楽器の鍵盤装置に用いられる白鍵であり、図示しない黒鍵とともに、左右方向に多数(例えば88鍵)並設されることにより、鍵盤装置を構成する。なお、本実施形態では、本発明を白鍵に適用した例を説明するが、同様の構造を黒鍵に適用してもよい。
【0029】
鍵1は、前後方向に延びる鍵本体2と、この鍵本体2の側面部に取り付けられた木質板3などを備えている。鍵本体2は、所定種類の合成樹脂(例えばAS樹脂など)から成り、前後方向に延びる所定形状の成形品で構成されている。本実施形態における鍵1は、上述のとおり白鍵であり、例えばD鍵(レの音用の鍵)である。
【0030】
鍵本体2は、水平な上面部4と、この上面部4の左右両端部からそれぞれ下方に垂下する左右の側面部5、5(
図3参照)と、上面部4及び左右の側面部5、5の前端部に設けられた前面部8とを備えている。また、鍵本体2は、別の白鍵に隣接する幅広部2aと、黒鍵に隣接する幅狭部2bとから成る構成を有し、幅広部2aと幅狭部2bのそれぞれの左右の側面部5、5に木質板3が取り付けられる。
【0031】
鍵本体2の上面部4の左右の両端部には、左右の側面部5、5よりも側方に突出する上部突出部6が形成されている。本実施形態において、上部突出部6は、幅広部2aと幅狭部2bのそれぞれの左右の端部に設けられている。上部突出部6は、上面部4と連続的に形成され、上面部4の左右の端部に沿って前後方向に長く延在している。上部突出部6は、側面部5、5に取り付けられる木質板3の上端部の位置を規制するためのものであり、木質板3の上端面は、その全長に亘って、上部突出部6とほぼ隙間なく当接するように取り付けられる。
【0032】
鍵本体2の下端部の近傍には、鍵本体2の側方に向けて突出し、上部突出部6と対向する下部支持突起7が複数形成されている。下部支持突起7は、鍵本体2に取り付けられる木質板3の下端部の位置を規制するためのものであり、木質板3の下端部は、複数の下部支持突起7によって部分的に支持されている。
【0033】
また、鍵本体2の前面部8の左右の両端部には、左右の側面部5、5よりも側方に突出する前部突出部9が形成されている。前部突出部9は、前面部8と連続的に形成され、前面部8の左右の端部に沿って上下方向に長く延在している。前部突出部9は、側面部5、5に取り付けられる木質板3の前端部の位置を規制するためのものであり、木質板3の前端面は、その全長に亘って、前部突出部9とほぼ隙間なく当接するように取り付けられる。
【0034】
また、幅広部2aの側面部5、5の後端部近傍、及び幅狭部2bの側面部5、5の後端部近傍には、鍵本体2の側方に向けて突出し、前部突出部9と対向する後部支持突起10が形成されている。後部支持突起10は、鍵本体2に取り付けられる木質板3の後端部の位置を規制するためのものであり、木質板3の後端部は、後部支持突起10によって部分的に支持されている。
【0035】
木質板3としては、木材の他、木目調の化粧板、合板、中密度繊維板(MDF)などの木質材を採用し得る。本実施形態では、木質板3として、比重が0.5以下の軟質の木材を採用している。こうした木材の例としては、スプルースや所定の南洋材などが含まれる。
【0036】
図3は、
図2のB-B線に沿う断面図である。同図に示すように、木質板3の厚さは、上部突出部6における側方への突出長さ寸法L2と概ね同じ寸法に揃えられる。このようにすることで、上部突出部53と木質板52が鍵1の側面においてほぼ面一となり、側方から見た鍵1の外観に木製の鍵に似た美観を与えることができる。木質板3の厚さは、設計に応じて任意に設定可能であるが、本実施形態では、木質板3の強度や鍵本体2への取り付けの容易さ、コスト等のバランスから、概ね2mm程度とする。
【0037】
上部突出部6の下面6aは、上面部4の押鍵面とほぼ平行である。一方、下部支持突起7の上面は、先端(側面部5から遠い側の端部)側に向かうほど下方に向かって傾斜する傾斜面Sとなっている。下部支持突起7の傾斜面Sは、木質板3を鍵本体2の側面部5に取り付ける際のガイドとして機能し、木質板3の取り付け位置の調整を容易とする。
【0038】
図4は、木質板3を側面部5に取り付ける際の手順を示す。木質板3の取り付けは、木質板3、又は側面部5の木質板3の取り付け面のいずれかに接着剤を塗布した状態で行われる。取り付けの際には、まず、木質板3の下端部を傾斜面Sに乗せる。このとき、木質板3の上端部は側面部5に向けて倒され、側面部5の上部に接して寄り掛かった状態となる。
図3に示すように、下部支持突起7の突出長さL3は、上部突出部6の突出長さL2よりも長い。すなわち、下部支持突起7の先端は、上部突出部6の先端よりも側方に突出している。こうした構成により、木質板3の下端部を傾斜面Sに乗せることが容易となる。
【0039】
木質板3の下端部を傾斜面Sに乗せ、上端部を側面部5に寄り掛からせた後、木質板3を側面部5の方向に押すと、木質板3の下端部は、傾斜面Sの先端側から基端(側面部5に近い側の端部)側に向けて滑るようにして上方へと移動し、基端7aに接する位置(
図4中の破線で示した位置)まで到達する。
【0040】
本実施形態において、木質板3の高さ寸法は、上部突出部6の下面6aから下部支持突起7の基端7aまでの長さ寸法L1とほぼ同一となるように構成されているので、木質板3の下端部が基端7aに接する位置に到達したとき、木質板3の上端面は、上部突出部6の下面6aと丁度、当接し密着する位置に到達する。
【0041】
このようにして、本実施形態の鍵1によれば、下部支持突起7の傾斜面Sを、木質板3の取り付けの際のガイドとして用いることができるので、下端部を傾斜面Sに乗せた木質板3を側面部5の方向に押すだけで、木質板3を正しい取り付け位置へと導くことができる。
【0042】
特に、下部支持突起7の先端は上部突出部6の先端よりも側方に長く突出しているため、木質板3の下端部を乗せやすく、ガイドとしての利便性が高い。
【0043】
また、木質板3の高さ寸法が、上部突出部6の下面6aから下部支持突起7の基端7aまでの長さ寸法L1とほぼ同一であるため、側面部5に向けて押された木質板3の下端部が下部支持突起7の傾斜面Sの基端7aに達して停止した位置で、木質板3の上端面が上部突出部6の下面6aと当接し、木質板3を下部突出部6に隙間なく密着させることができる。このようにして、木質板3の鍵本体2への取り付けの際の位置決め及び取り付けを容易に行うことができる。
【0044】
なお、本実施形態の鍵1において、下部支持突起7の先端は上部突出部6の先端よりも側方に長く突出しているが、木質板の下方は、鍵盤楽器の通常の使用状態において視認されることがないため、突出した下部支持突起7により美観を損ねるということはない。
【0045】
また、下部支持突起7の上面が傾斜面Sとなっているため、木質板3が鍵本体2に取り付けられた際、下部支持突起7の基端7aが木質板3と接して木質板3を支持する一方で、傾斜面Sの先端側は、木質板3と接触せずに開放されている。この傾斜面Sの先端側に形成される木質板3と下部支持突起7の間の隙間は、木質板3の接着に用いられた接着剤のうちの余剰分が逃げるための空間として機能する。すなわち、木質板3の接着の際、余分な接着剤は傾斜面Sを伝わって下部支持突起7の先端側の空間へと流れ出ることができる。木質板3の下方にはみ出した接着剤は、隣接する鍵との干渉を生じるおそれがなく、また、上述のように、木質板3の下方は隣接する鍵が押鍵された際にも外部に露出することがないため、はみ出した接着剤により美観が損なわれることも防止することができる。
【0046】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
図5は、下部支持突起の変形例を示す。上述の実施形態においては、木質板3を部分的に支持する下部支持突起7が鍵本体2の側面部5の下端部近傍に複数形成されたが、
図5に示す変形例に係る下部支持突起17は、前後方向に長く延在するように形成され、木質板3の下端部をほぼ全長に亘って支持するように構成されている。このような変形例の下部支持突起17においても、上述した下部支持突起7と同様の作用、効果を得ることができる。また、この変形例に限らず、下部支持突起の数や前後方向の長さは任意に選択可能である。
【0047】
また、上述の実施形態では、上部突出部と下部支持突起によって木質板の上下方向の取り付け位置の調整を容易とする構成について説明したが、別の実施形態として、上部突出部及び下部支持突起に代えて、前部突出部と後部支持突起を、それぞれ上部突出部及び下部支持突起と同様の構成とすることにより、木質板の前後方向の取り付け位置の調整を容易とする構成とすることも可能である。この場合、前部突出部の後面を前面部とほぼ平行に形成するとともに、後部支持突起の前面を、先端側に向かうほど後方に傾斜する傾斜面とすることで、後部支持突起の傾斜面を木質板の取り付けの際のガイドとして機能させ、木質板の前端面を前部突出部の後面に容易に当接させ、密着させることができる。
【0048】
さらに別の実施形態では、上部突出部と下部支持突起により木質板の上下方向の取り付け位置の調整を容易とするとともに、前部突出部と後部支持突起により木質板の前後方向の取り付け位置の調整を容易とする構成も採用可能である。この場合、木質板の取り付けの際には、木質板の下端部を下部支持突起の傾斜面に乗せるとともに、木質板の後端部を後部支持突起の傾斜面に乗せ、木質板を2つの傾斜面に沿って上方及び前方に向けて滑らせることにより、木質板の上端面を上部突出部の下面に当接させ密着させるとともに、木質板の前端面を前部突出部の後面に当接させ密着させることができる。
【0049】
その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 鍵
2 鍵本体
3 木質板
4 上面部
5 側面部
6 上部突出部
6a 上部突出部の下面
7 下部支持突起
7a 下部支持突起の基端
8 前面部
9 前部突出部
10 後部支持突起
17 変形例の下部支持突起
L1 上部突出部の下面から下部支持突起の基端までの長さ寸法
L2 上部突出部の突出長さ寸法
L3 下部支持突起の突出長さ寸法
S 傾斜面