(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050340
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】車両用空調ダクト装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20240403BHJP
B60H 1/34 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B60H1/00 102T
B60H1/34 651Z
B60H1/34 611
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157162
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】長坂 茜
(72)【発明者】
【氏名】山田 智子
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA01
3L211BA02
3L211BA05
3L211DA14
(57)【要約】
【課題】車両用空調ダクト装置1の空調機能を更に向上させる技術を提供すること。
【解決手段】
座席の側方かつ前記座席に対して車両ドアの逆側に配置される筐体2と、
前記筐体2のうち、車室フロア上面93と前記座席の座面94との間の位置に設けられている吹出口3と、
内部に空調空気の流路40を有し、前記筐体2の内部に配置されて車両用空調装置と前記吹出口3とに接続されるダクト4と、を有し、
前記空調空気を、前記吹出口3から前記座席に対して斜め前方に吹き出す、車両用空調ダクト装置1。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席の側方かつ前記座席に対して車両ドアの逆側に配置される筐体と、
前記筐体のうち、車室フロア上面と前記座席の座面との間の位置に設けられている吹出口と、
内部に空調空気の流路を有し、少なくとも一部が前記筐体の内部に配置されて車両用空調装置と前記吹出口とに接続されるダクトと、を有し、
前記空調空気を、前記吹出口から前記座席に対して斜め前方に吹き出す、車両用空調ダクト装置。
【請求項2】
少なくとも一枚のフィンを有し前記吹出口の内部に配置される風向調整要素を有し、
前記フィンは、前記吹出口に対して、後側かつ奥側から前側かつ座席側に向けて傾斜する斜め案内位置を含む回動範囲を回動可能である、請求項1に記載の車両用空調ダクト装置。
【請求項3】
前記風向調整要素は、前記フィンと前記フィンを回動させるための操作部、および/または、開閉ダンパと前記開閉ダンパを回動させるための操作部を有し、
前記操作部のうち乗員が操作するための入力部は、
前記吹出口の上側に配置され前記筐体の外側に露出する、請求項2に記載の車両用空調ダクト装置。
【請求項4】
前記筐体は前部または側部に傾斜面を有し、
前記吹出口は前記傾斜面に設けられている、請求項1~請求項3の何れか一項に記載の車両用空調ダクト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の冷暖房を行うための車両用空調ダクト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両には、冷暖房を行うための車両用空調システムが搭載されている。当該車両用空調システムは、車両用空調装置で得られた空調空気を、車両用空調ダクト装置を介して車両室内に供給するための装置ともいい得る。
【0003】
近年、車両室内の温度環境を乗員にとってより快適にすべく、車両用空調システムによって車両室内の様々な箇所に空調空気を供給することが提案されている。
例えば冬場には、乗員は自身の下半身、特に足元付近に寒さを感じることが多い。このため多くの車両には、座席に着座した乗員の足元を暖房するためのフット用車両用空調ダクト装置が設けられている。
【0004】
上記したフット用車両用空調ダクト装置は、そのフット吹出口をインストルメントパネルの下側に配置したものである。当該吹出口は、座席の下方、すなわち座席に着座した乗員の足先に向けて空調空気特に温風を供給する。
【0005】
ここで、乗員は車両室内においても靴を履いているのが一般的である。このため、当該乗員の足先は温風を受けても温まり難い。
例えば寒冷時において、車両の起動後に車両用空調装置の暖機が完了して温風が発生し、さらに、乗員が足元の温かさを感じるまでには、おおよそ10分程度が必要とされている。
【0006】
近年、乗員の足先だけでなく、当該乗員の足元付近の比較的広範囲を空調する技術が提案されている。
【0007】
例えば特許文献1には、リヤ前方吹出口2およびリヤ後方吹出口3を有する車両用空調ダクト装置が紹介されている。リヤ前方吹出口2は、車両における前部座席の下部に設けられ、後部座席に着座している乗員の足先に向けて温風を吹き出す。また、リヤ後方吹出口3は、後部座席の下部に設けられ、当該後部座席に着座している乗員の足元から膝へ向けて温風を吹き出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
足先の温熱感向上のためには、乗員の身体のうち、太い血管がある部位および/または静脈やリンパ節のある部位を温めるのが有効である。この観点から、寒冷時においては乗員の脹脛付近を温めれば、乗員に迅速に温かさを知覚させることが可能と考えられる。
【0010】
上記した特許文献1に紹介されている類いの車両用空調ダクト装置によると、乗員の膝周辺を温めることができる。これにより、当該車両用空調ダクト装置によると、比較的迅速に乗員に温かさを知覚させ得ると考えられる。
【0011】
しかし、この種の車両用空調ダクト装置によっても、依然として寒冷時には乗員が足元の寒さや冷たさを知覚し、当該乗員が十分に快適とはいい難い状況におかれる場合がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、車両用空調ダクト装置の空調機能を更に向上させる技術を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の車両用空調ダクト装置は、
座席の側方かつ前記座席に対して車両ドアの逆側に配置される筐体と、
前記筐体のうち、車室フロア上面と前記座席の座面との間の位置に設けられている吹出口と、
内部に空調空気の流路を有し、前記筐体の内部に配置されて車両用空調装置と前記吹出口とに接続されるダクトと、を有し、
前記空調空気を、前記吹出口から前記座席に対して斜め前方に吹き出す、車両用空調ダクト装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用空調ダクト装置は空調機能の更に向上したものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】車室内における実施例1の車両用空調ダクト装置を側面視した様子を模式的に表す説明図である。
【
図2】車両室内における実施例1の車両用空調ダクト装置を前面視した様子を模式的に表す説明図である。
【
図3】実施例1の車両用空調ダクト装置における吹出口と乗員の脹脛との位置関係を模式的に表す説明図である。
【
図4】実施例1の車両用空調ダクト装置における風向調整要素を模式的に表す説明図である。
【
図5】実施例1の車両用空調ダクト装置における風向調整要素を模式的に表す説明図である。
【
図8】本発明の車両用空調ダクト装置における吹出口を配設可能な参考例の筐体を模式的に表す説明図である。
【
図9】実施例2の車両用空調ダクト装置における風向調整要素を模式的に表す説明図である。
【
図10】実施例2の車両用空調ダクト装置における風向調整要素を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の車両用空調ダクト装置は、要するに、その吹出口を設けた筐体を座席の側方かつ当該座席に対して車両ドアの逆側に配置し、当該吹出口を上記の筐体のうち車室フロア上面と座席の座面との間の位置に設けたものである。そして、ダクトを流れる空調空気を、当該吹出口から座席に対して斜め前方に吹き出すものである。
【0017】
本発明の車両用空調ダクト装置によると、車室フロア上面と座席の座面との間の位置に設けた吹出口から座席に対して斜め前方に空調空気を吹き出す。当該空調空気は、吹出口の側方に位置する座席に着座した乗員の脹脛付近に当接する。
このように、本発明の車両用空調ダクト装置によると、乗員の脹脛付近に空調空気を吹き出すことで、寒冷期において乗員に迅速に温かさを知覚させ得る。
【0018】
ここで、従来型の車両用空調ダクト装置、例えば上記した特許文献1の車両用空調ダクト装置によると、後部座席に着座した乗員の膝付近を温めることはできるが、前部座席に着座した乗員の足元付近を温めることはできない。
【0019】
例えば、特許文献1の車両用空調ダクト装置におけるリヤ後方吹出口を後部座席の下方ではなく前部座席の下方に設けることで、当該前部座席に着座した乗員の膝付近を温めることも考えられる。しかし実際には、一般的な前部座席は前後方向にスライドするものであり、車両用空調ダクト装置を当該前部座席のスライドに追従させて変形や位置変化させることは困難であるため、この案は実現性に乏しい。
【0020】
本発明の車両用空調ダクト装置は、既述したように、座席の側方に配置された筐体に空調空気の吹出口を設けたものである。このため当該筐体を前部座席の側方に配置すれば前部座席に着座する乗員を温めることができるし、当該筐体を後部座席の側方に配置すれば後部座席に着座する乗員を温めることができる。勿論、当該筐体を前部座席の側方と後部座席の側方とに各々配置すれば、前部座席に着座する乗員と後部座席に着座する乗員との両方を温めることができる。
【0021】
また、乗員を効率よく温めるためには、当該乗員の両足の脹脛を空調空気に曝すのが適である。
本発明の車両用空調ダクト装置では、吹出口から空調空気を座席に対して斜め前方に吹き出す。このため、空調空気の一部は乗員の脹脛のうち吹出口に近い側にあるもの(必要に応じて吹出口側脹脛と称する)に当接する。そして、当該空調空気の残部は、さらに斜め前方に進み、乗員の脹脛のうち吹出口から遠い側にあるもの(必要に応じて逆側脹脛と称する)に当接する。これにより、本発明の車両用空調ダクト装置によると、乗員の両足の脹脛が空調空気に曝され、寒冷期においても迅速に乗員に温かさを知覚させ得る。
【0022】
なお、上記の吹出口は筐体に設けたものであるため、本発明の車両用空調ダクト装置は座席のスライドに追従して変形等する必要はない。
【0023】
さらに、本発明の車両用空調ダクト装置において、吹出口が設けられる筐体は、座席に対して車両ドアの逆側に配置される。
【0024】
本発明の発明者は、上記した従来型の車両用空調ダクト装置によっても乗員が足元の寒さや冷たさを知覚する理由を探るにあたり、車両用空調ダクト装置以外の要因を検討した。そして、その考えを進めて、座席近傍にあり蓄熱材または熱伝導材として機能する可能性のある車両構成部材として、車両ドアに注目した。
【0025】
つまり、車両ドアは質量が大きな車両構成部材であり、車両ドアの材料として比熱の大きな材料が用いられると、当該車両ドアは寒冷時に冷熱すなわち常温よりも低い熱エネルギを蓄熱する冷熱蓄熱材として機能する可能性がある。また、当該車両ドアに熱伝導性の高い材料が用いられる場合には、当該車両ドアは車両室外の冷熱を車両室内に伝導する熱伝導材として機能する可能性がある。
【0026】
車両ドアは、一般的には金属製または樹脂製のドア基材が樹脂製のドアトリムで覆われてなる。しかし、当該ドアトリム自体が上記した蓄熱材や熱伝導材として機能する場合もあるし、また、車両ドア自体が温まらない限りドアの冷熱がドアトリムを通じて車両室内に供給される。
また、乗員の脚部がドアトリムに接触して、乗員が冷たさを知覚して不快に感じる虞もある。
【0027】
本発明者は、乗員を温めたあとの空調空気によってドアトリムおよび車両ドアを温めることを想起し、本発明を完成した。
【0028】
すなわち、本発明の車両用空調ダクト装置によると、吹出口を設けた筐体を座席の側方かつ当該座席に対して車両ドアの逆側に配置しているため、乗員の両方の脹脛を通過した空調空気は、車両ドアの近傍に供給される。これにより、本発明の車両用空調ダクト装置によると、乗員を温めたあとの空調空気によってドアトリムおよび車両ドアを温めることが可能である。また、車両ドアに到達した空調空気は、当該車両ドアに堰き止められて車両ドアと座席との間に溜まる。この当該車両ドアと座席との間の温かい空気溜まりにより、乗員が知覚する温度は、実際の車両室内の温度よりも高くなる。
これらの協働により、本発明の車両用空調ダクト装置によると、乗員を迅速に温めて快適な環境におくことが可能である。つまり本発明の車両用空調ダクト装置は従来の車両用空調ダクト装置と比較して空調機能の更に向上したものである。
【0029】
以下、本発明の車両用空調ダクト装置をその構成要素毎に説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施形態中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
以下、必要に応じて、空調空気の流路上流側を単に上流側と称し、空調空気の流路下流側を単に下流側と称する場合がある。
【0030】
本発明の車両用空調ダクト装置は、筐体、吹出口、および、ダクトを有する。
【0031】
このうち筐体は、車両における座席の側方であり、かつ、当該座席に対して車両ドアの逆側に配置される。
当該筐体は、ダクトを内部に配置し、かつ、吹出口を設けることができればよく、その形状等は特に限定しない。
例えば筐体は、本発明の車両用空調ダクト装置専用のものであっても良いし、コンソールボックスやドリンクホルダ、テーブル等に代表される各種の車両内装品と兼用であっても良い。
【0032】
筐体は、運転席と助手席との間に配置されても良いし、2つの後部座席の間に配置されても良い。また当該筐体は、運転席と助手席との間から2つの後部座席の間まで延在しても良い。
【0033】
筐体はダクトを内部に配置可能である。換言すると、筐体はダクトを配設可能な内部空間を有する。
【0034】
ダクトは、その全体が当該内部空間に収納されても良いし、その一部が内部空間の外部、すなわち筐体の外部に露出しても良い。特に、ダクトにおける上流側の端部は、車両用空調装置に連絡される部分である。このため、当該ダクトにおける上流側の端部と車両用空調装置とを接続する作業の効率を考慮すると、ダクトのうち当該上流側の端部すなわち車両用空調装置側の端部は、筐体の外部に露出するのが好ましいといえる。ダクトにおけるその他の部分は、内部空間に収納され筐体の外部には露出しないのが好ましい。
【0035】
ダクトの形状は直管状であっても良いし、一端および/または他端が複数に分岐した枝分かれ形状であっても良い。ダクトの形状は、空調空気の吹出口の位置や、車両用空調装置の位置等に応じて、適宜適切に設計すれば良い。
【0036】
筐体の内部空間には、ダクトのみが配置されても良いし、ダクトに加えてダクト以外の車両搭載機器が配置されても良い。当該車両搭載機器としては、例えば、テーブル、オーディオ機器、カーナビゲーションシステムまたはそのモニタ、各種の機器を操作するためのタッチパネル等が例示される。これらの車両搭載機器は、本発明の車両用空調ダクト装置の一部とみなしても良いし、本発明の車両用空調ダクト装置とは別の装置とみなしても良い。
【0037】
筐体は、既述したとおり吹出口を有する。本発明の車両用空調ダクト装置は吹出口を1つのみ有しても良いし、複数の吹出口を有しても良い。例えば、本発明の車両用空調ダクト装置によって運転席側にのみ空調空気を吹き出す場合には、1個のみの吹出口を設ければ良いし、本発明の車両用空調ダクト装置によって運転席側と助手席側との2方向に空調空気を吹き出す場合には、2個の吹出口を設ければ良い。吹出口の個数や位置は、空調空気を吹き出す対象に応じて適宜適切に設計すれば良い。
【0038】
吹出口は、筐体のうち、車室フロア上面と座席の座面との間の位置に設けられている。当該位置に吹出口を設けることにより、座席に着座した乗員の脹脛付近に空調空気を吹き付けることが可能である。
【0039】
吹出口の位置は、乗員の足首から脹脛の中央くらいの位置であるのが特に好適である。
具体的には、吹出口は、車室フロア上面から上方に50mm~300mmの範囲内にあるのが好ましく、車室フロア上面から上方に50mm~200mmの範囲内にあるのがより好ましく、車室フロア上面から上方に50mm~150mmの範囲内にあるのが特に好ましい。
【0040】
吹出口から吹き出される空調空気は、座席に対して斜め前方に進行する。当該空調空気の向きを調整する方法としては、種々の方法を採用することが可能であり、特に限定されない。
【0041】
例えば、吹出口自体を、座席に対して斜め前方を向くように配置することで、空調空気を座席に対して斜め前方に吹き出すことが可能である。
また、吹出口の内部に、空調空気の方向を調整するフィンを配置することで、空調空気を座席に対して斜め前方に吹き出すことも可能である。フィンについては追って詳説する。
【0042】
吹出口の形状は特に限定しないが、座席に着座した乗員の脹脛付近に空調空気を信頼性高く吹き付けるためには、吹出口はスリット状をなすのが好ましい。
【0043】
例えば前後方向において、座席に着座した乗員の脹脛付近に空調空気を信頼性高く吹き付けるためには、吹出口を筐体のうち座席側の側面に配置し、かつ、当該吹出口を前後方向に延びるスリット状とするのが好適である。当該スリット状の吹出口は、空調空気を吹き出す座席が前後方向にスライド可能である場合に特に有効である。
【0044】
この場合のスリット状の吹出口は、座席の前後方向において、その長手方向の一端部を他端部よりも前側に配置したものということもできる。
ここで、例えば、「吹出口における長手方向の一端部が座席の前後方向において他端部よりも前側に位置する」とは、「吹出口の長手方向を座席の前後方向と概略同じ方向に向ける」ことを意味する。吹出口の長手方向は座席の前後方向と一致しなくて良いが、両者のなす角は90°以下であるのが好ましく、45°以下であるのがより好ましく、30°以下であるのがさらに好ましく、15°以下であるのが特に好ましい。
【0045】
また、「座席の前後方向」は、「座席の向き」と捉えることもでき、座席に着座し乗員の臀部と膝とをむすぶ方向と一致する。当該乗員の膝側が座席の前側であり、臀部側が座席の後側である。本発明の車両用空調ダクト装置における座席の前後方向は、車両の進行方向と同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0046】
または、スリット状の吹出口を、筐体の前面に配置しても良い。この場合、吹出口は、2つの座席をむすぶ方向に延びるスリット状をなすのが好ましい。この場合、1つの吹出口で2つの座席に空調空気を供給することが可能である。
【0047】
この場合、「吹出口は、2つの座席をむすぶ方向に延びるスリット状をなす」とは、「吹出口の長手方向を2つの座席をむすぶ方向と概略同じ方向に向ける」ことを意味する。2つの座席が前方を向く場合、当該2つの座席をむすぶ方向は、車幅方向ということもできる。
【0048】
吹出口の長手方向は、2つの座席をむすぶ方向と一致しなくて良いが、両者のなす角は90°以下であるのが好ましく、45°以下であるのがより好ましく、30°以下であるのがさらに好ましく、15°以下であるのが特に好ましい。
【0049】
なお、吹出口が筐体の前部に配置されている場合、本発明の車両用空調ダクト装置は、吹出口として、2つの座席の一方側に位置するものと、2つの座席の他方側に位置するものとの2つを有しても良い。または、当該2つの吹出口が一体化された1つの吹出口を有しても良い。
【0050】
スリット状の吹出口を筐体の側部に配置する場合には、当該筐体の側部に傾斜面を設け、吹出口を当該傾斜面に設けるのが好適である。
【0051】
また、スリット状の吹出口を筐体の前部に配置する場合には、筐体の前部に傾斜面を設け、吹出口を当該傾斜面に設けるのが好適である。
【0052】
何れの場合にも、車両フロアの上面と座席の座面との間の位置において、やや車両フロア寄りの位置に吹出口を配置する場合には、筐体の前部または側部に設けられた傾斜面は、後側かつ上側と前側かつ下側との間で傾斜するのが好適である。
このような傾斜面にスリット状の吹出口を設けることにより、空調空気を下側から上側に向けて吹き出すことができる。したがってこの場合には、吹出口がやや下側にある場合にも、信頼性高く、空調空気を乗員の脹脛に吹き付けることができる。
なおこの場合には、吹出口の内部に後述するフィンを配置し、当該フィンによって空調空気をさらに斜め前方に向けて案内するのがより好適である。
【0053】
また、車両フロアの上面と座席の座面との間の位置において、やや座面寄りの位置に吹出口を配置する場合には、筐体の前部または側部に設けられた傾斜面は、後側かつ下側と前側かつ上側との間で傾斜するのが好適である。
このような傾斜面にスリット状の吹出口を設けることにより、空調空気を上側から下側に向けて吹き出すことができる。この場合にも、吹出口の内部に後述するフィンを配置し、当該フィンによって空調空気をさらに斜め前方に向けて案内するのがより好適である。
【0054】
本発明の車両用空調ダクト装置は、吹出口の内部に配置される風向調整要素を有するのが好適である。当該風向調整要素は、少なくとも一枚のフィンを有し、当該フィンによって空調空気の方向を調整するものである。
【0055】
風向調整要素は、フィンを一枚のみ有しても良いし、複数有しても良い。フィンは固定されていても良いし、吹出口に対して回動可能であっても良い。
【0056】
例えば長手方向における長さの長い吹出口であれば、複数のフィンを設けるのが好適である。そして当該複数のフィンは、吹出口の長手方向に対して交差する方向に延び、吹出口の短手方向に対して交差する方向に配列するのが好適である。空調空気の風向を吹出口の長手方向に沿って均一または略均一に整えるためである。
【0057】
フィンが回動する場合は、当該フィンは筐体に対して直接的または間接的に枢支される。そして当該フィンは、その回動範囲のなかに、対象となる座席に対して空調空気を斜め前方に吹き出すよう案内できる斜め案内位置を含む。
【0058】
吹出口が筐体の側部に配置されている場合、フィンは、斜め案内位置において、後側かつ奥側から前側かつ座席側に向けて傾斜すれば良い。場合によっては、さらに、下側から上側に向けて傾斜しても良い。
【0059】
吹出口が筐体の前部に配置されている場合にも、フィンは、斜め案内位置において、後側かつ奥側から前側かつ座席側に向けて傾斜すれば良い。当該フィンは、場合によっては、さらに、下側から上側に向けて傾斜しても良い。
この場合、上記したように本発明の車両用空調ダクト装置が、吹出口として、2つの座席の一方側に位置するものと、2つの座席の他方側に位置するものとの2つを有する場合、各吹出口に配置するフィンとして、それぞれ異なる方向を向くものを選択すれば良い。
【0060】
2つの座席の一方を運転席、他方を助手席とすると、運転席側に位置する吹出口に配置されるフィンは、当該運転席に対して、後側かつ奥側から前側かつ運転席側に向けて傾斜すれば良い。助手席側に位置する吹出口に配置されるフィンについても同様に、当該助手席に対して、後側かつ奥側から前側かつ助手席側に向けて傾斜すれば良い。
【0061】
上記の2つの吹出口を一体化して1つの吹出口とする場合にも同様に、当該吹出口における運転席側の領域に配置するフィンは、当該運転席に対して、後側かつ奥側から前側かつ運転席側に向けて傾斜すれば良い。また、当該吹出口における助手席側の領域に配置するフィンは、当該助手席に対して、後側かつ奥側から前側かつ助手席側に向けて傾斜すれば良い。
【0062】
風向調整要素は、フィンの位置を調整するための入力部を有するのが好適である。入力部は、乗員が自身の手で操作できる形状、例えば、ダイヤル状やノブ状をなすのが好適であるが、場合によっては、フィンの一つである操作フィン自体が入力部として機能しても良い。
なお、当該風向調整要素が、ダクト内における空調空気の流路を開閉するための開閉ダンパを有する場合、当該風向調整要素は開閉ダンパを開閉させるための入力部をさらに有しても良い。
【0063】
特に複数のフィンを有する風向調整要素は、各フィンに加えて、当該各フィンを同期して回動させるための操作部を有するのが好適である。
操作部は、具体的には、各フィンを連結するリンクと、当該リンクに接続された上記の入力部と、を有するのが好適である。
【0064】
入力部は、乗員が操作を行ない易いように、吹出口付近に配置されるのが好適である。
より具体的には、当該入力部は、吹出口の上側に配置され筐体の外側に露出するか、または、複数のフィンの1つである操作フィンに一体化されているのが特に好ましい。
【0065】
吹出口から吹き出した空調空気を座席に着座した乗員の脹脛に当接させるためには、吹出口は、当該座席に対してやや前寄りの位置に配置されるのが好ましい。具体的には、座席に対する吹出口の前端の位置は、前後方向における当該座席の中央よりも前側にあるのが好ましく、当該座席の前端よりもさらに前に位置するのがより好ましい。
【0066】
ところで、既述したように、吹出口から吹き出された空調空気は、座席に対して斜め前方に進む。このため吹出口が当該座席に対して過剰に前に出ているのは好ましくない。具体的には、吹出口の前端は、座席の前端から先側15cm位置よりも後側にあるのが好適であり、座席の前端から先側12cm位置よりも後側にあるのがより好適であり、座席の前端から先側10cm位置よりも後側にあるのが特に好適である。
【0067】
吹出口がスリット状をなす場合、当該吹出口の長手方向の長さと短手方向の長さとの比率は特に問わないが、省エネルギの観点からは、当該吹出口の流路断面積は過大でないのが好ましい。換言すると、吹出口における短手方向の長さは短い方が好ましい。
一方、車両用空調ダクト装置の圧力損失を考慮すると、当該吹出口の短手方向の長さはある程度長い方が好ましい。このため、スリット状をなす吹出口の長手方向の長さや短手方向の長さには、好ましい範囲が存在する。
【0068】
具体的には、スリット状をなす吹出口の長手方向の長さは短手方向の長さの2倍以上であるのが好ましく、3倍以上であるのがより好ましく、5倍以上であるのがさらに好ましく、10倍以上であるのが特に好ましい。
【0069】
また、スリット状をなす吹出口の短手方向の長さすなわち当該吹出口の厚さは、15mm以上であるのが好ましく、18mm以上であるのがより好ましく、20m以上であるのが特に好ましい。
参考までに、本発明の発明者等が実際に測定したところ、当該吹出口の短手方向の長さが15mm以上である場合には車両用空調ダクト装置の圧力損失は80pa以下になり、当該長さが18mm以上である場合には車両用空調ダクト装置の圧力損失は65pa以下になり、当該長さが20mm以上である場合には車両用空調ダクト装置の圧力損失は50pa以下になった。
【0070】
本発明の車両用空調ダクト装置は、さらに、エンジンの冷却水と熱交換する熱交換器や、HVAC(heating,ventilation,and air-conditioning)等の車両用空調装置を含み得る。更には、既述したフット用車両用空調ダクト装置におけるフット吹出口や、センターコンソールボックスの後部に設けられ後方に空調空気を吹き出す後部吹出口に代表されるその他の吹出口と、車両用空調装置と当該その他の吹出口とに接続されるダクトと、を含み得る。
【0071】
以上の記載から把握される本発明の車両用空調ダクト装置の他の態様として、下記〔1〕~〔3〕を挙げることができる。
【0072】
〔1〕
熱源である車両用空調装置と、
座席の側方かつ前記座席に対して車両ドアの逆側に配置される筐体と、
前記筐体のうち、車室フロア上面と前記座席の座面との間の位置に設けられている吹出口と、
内部に空調空気の流路を有し、前記筐体の内部に配置されて前記車両用空調装置と前記吹出口とに接続されるダクトと、を有し、
前記空調空気を、前記吹出口から前記座席に対して斜め前方に吹き出す、車両用空調ダクト装置。
【0073】
〔2〕
座席の側方かつ前記座席に対して車両ドアの逆側に配置される筐体と、
前記筐体のうち、車室フロア上面と前記座席の座面との間の位置に設けられている吹出口と、
前記吹出口と異なる位置に配置され車両室内に開口する第2の吹出口と、
内部に空調空気の流路を有し、前記筐体の内部に配置されて車両用空調装置と前記吹出口とに接続されるダクトと、前記車両用空調装置と前記第2の吹出口とに接続される第2のダクトと、を有し、
前記空調空気を、前記吹出口から前記座席に対して斜め前方に吹き出す、車両用空調ダクト装置。
【0074】
〔3〕
熱源である車両用空調装置と、
座席の側方かつ前記座席に対して車両ドアの逆側に配置される筐体と、
前記筐体のうち、車室フロア上面と前記座席の座面との間の位置に設けられている吹出口と、
前記吹出口と異なる位置に配置され車両室内に開口する第2の吹出口と、
内部に空調空気の流路を有し、前記筐体の内部に配置されて前記車両用空調装置と前記吹出口とに接続されるダクトと、前記車両用空調装置と前記第2の吹出口とに接続される第2のダクトと、を有し、
前記空調空気を、前記吹出口から前記座席に対して斜め前方に吹き出す、車両用空調ダクト装置。
【0075】
以下、具体例を挙げて本発明の車両用空調ダクト装置を説明する。
【0076】
(実施例1)
車室内における実施例1の車両用空調ダクト装置を側面視した様子を模式的に表す説明図を
図1に示す。車両室内における実施例1の車両用空調ダクト装置を前面視した様子を模式的に表す説明図を
図2に示す。実施例1の車両用空調ダクト装置における吹出口と乗員の脹脛との位置関係を模式的に表す説明図を
図3に示す。実施例1の車両用空調ダクト装置における風向調整要素を模式的に表す説明図を
図4および
図5に示す。試験例1の結果を表す説明図を
図6に示す。試験例2の結果を表す説明図を
図7に示す。
以下、上、下とは鉛直方向における上、下を指し、前、後、左、右とは車両進行方向における前、後、左、右を意味するものとする。左右方向は車幅方向であり、前後方向は車両進行方向である。
【0077】
図1、
図2に示すように、実施例1の車両用空調ダクト装置1は、筐体2、吹出口3、ダクト4および、風向調整要素5を有する。
実施例1の車両用空調ダクト装置1における筐体2は、車両内装品の一種であるセンターコンソールボックスと兼用されたものである。
【0078】
図2に示すよう、筐体2は、運転席9Dと助手席9Nとの間に配置されている。
筐体2は、運転席9Dの側方に配置され、かつ、当該運転席9Dに対して運転席側車両ドア(図略)の逆側に配置されている。また、筐体2は、助手席9Nの側方に配置され、かつ当該助手席9Nに対して助手席側車両ドア90Dの逆側に配置されている。
【0079】
当該筐体2は、内部空間20を有する箱状をなし、その左右側部にはそれぞれ一つずつ吹出口3が配置されている。一方の吹出口3を運転席側吹出口3Dと称し、他方の吹出口3を助手席側吹出口3Nと称する。
さらに、筐体2の後部には、後方に空調空気を吹き出す2つの後部吹出口3Bが配置されている。吹出口3の詳細については後述する。
【0080】
ダクト4は、内部に空調空気の流路40を有する略筒状をなす。ダクト4の一端である上流側端部4UはHVAC92に接続されている。ダクト4の他端側すなわち下流側は2つに分岐している。
【0081】
ダクト4の下流側部分の一方は、運転席9D側に位置し、その周壁には開口が設けられている。当該開口には運転席側吹出口3Dが接続されている。当該ダクト4の下流側端部4DDは一方の後部吹出口3BDに接続されている。
【0082】
ダクト4の下流側部分の他方は、助手席9N側に位置し、その周壁には開口が設けられている。当該開口には助手席側吹出口3Nが接続されている。当該ダクト4の下流側端部4DNは他方の後部吹出口3BNに接続されている。
【0083】
運転席側吹出口3Dと助手席側吹出口3Nとは左右対称であること以外は概略同じものである。以下、助手席側吹出口3Nについて説明するが、適宜、運転席側吹出口3Dと読み替えても良い。
【0084】
助手席側吹出口3Nは、車室フロア上面93と、助手席9Nの座面94と、の間の位置に設けられている。
図1に示すように、助手席側吹出口3Nは、長手方向を前後に向け、短手方向を上下に向けている。
【0085】
実施例1の車両用空調ダクト装置1における助手席側吹出口3Nの位置は、助手席9Nの前端よりもさらに前側であり、かつ、助手席側吹出口3Nの前端は、助手席9Nの前端から先側15cm位置よりも後側にある。
また、助手席側吹出口3Nの長手方向の長さは短手方向の長さの10倍以上である。さらに、助手席側吹出口3Nの短手方向の長さすなわち当該助手席側吹出口3Nの厚さは、約18mmである。
【0086】
助手席側吹出口3Nの内部には風向調整要素5が配置されている。風向調整要素5は、助手席側吹出口3Nの内部かつ奥側においてダクト4の内部に配置されている、ともいい得る。
【0087】
図4に示すように、風向調整要素5は、複数のフィン50と、開閉ダンパ55とを有する。
当該複数のフィン50は、前後方向すなわち助手席側吹出口3Nの長手方向に沿って配列し、助手席側吹出口3Nに対して固定されている。
【0088】
各々のフィン50は、上下方向および左右方向に延びている。各々のフィン50は、助手席側吹出口3Nの短手方向に延びるともいい得る。
【0089】
各々のフィン50は、後側かつ右側(すなわち吹出口3の奥側)から、前側かつ左側(すなわち助手席9N側)に向けて傾斜している。各フィン50は、ダクト4を流れる空調空気を、助手席9Nに対して斜め前方に案内する。したがって、各フィン50は斜め案内位置に配置されているといい得る。
【0090】
図4に示されるように、開閉ダンパ55は、ダクト4の内部に配置され、ダクト4のうち後部吹出口3BNに通じる部分を開閉する。開閉ダンパ55はダクト4に枢支され当該ダクト4に対して回動可能である。
図5に示すように、開閉ダンパ55の回動軸55Sは、接続部材55Cを介して、ダイヤル状をなすダンパ用入力部55Iに接続されている。実施例1の車両用空調ダクト装置1において、当該接続部材55Cは複数のギヤである。
【0091】
ダンパ用入力部55Iは、筐体2の左側部の外側において、助手席側吹出口3Nの上側に露出している。
【0092】
なお、ダンパ用入力部55Iを
図5中左矢印で示すダンパ閉方向に操作すると、
図4に示すようにダクト4のうち後部吹出口3BNに通じる部分が閉じられる。これにより、ダクト4を流通する空調空気は、助手席側吹出口3Nから助手席9Nに対して斜め前方に吹き出すものの、図略の後部吹出口3BNには供給されない。
【0093】
また、ダンパ用入力部55Iを
図5中右矢印で示すダンパ開方向に操作すると、ダクト4のうち後部吹出口3BNに通じる部分が開かれる。これにより、ダクト4を流通する空調空気は、助手席側吹出口3Nから助手席9Nに対して斜め前方に吹き出し、加えて、当該空調空気は後部吹出口3Bから図略の後部座席に対して後方に吹き出す。
【0094】
実施例1の車両用空調ダクト装置1の動作を以下に説明する。
【0095】
実施例1の車両用空調ダクト装置1におけるダクト4には、HVAC92で得られた暖かい空調空気が供給される。当該空調空気はダクト4の流路40を流通し、下流側に向けて進む。当該空調空気は、ダクト4のうち上流側端部4Uよりも下流側の部分に接続されている助手席側吹出口3Nに供給される。
【0096】
上記したように、助手席側吹出口3Nの内部には風向調整要素5が配置されている(
図4)。当該風向調整要素5は、後側かつ右側から前側かつ左側に向けて傾斜している複数のフィン50を有する。したがって、ダクト4を流通する空調空気は、各フィン50によって案内され、助手席側吹出口3Nから助手席9Nに対して斜め前方に吹き出す。
【0097】
図2および
図3に示すように、このとき空調空気は、助手席9Nに着座している乗員99の脹脛99Cに向けて吹き出す。
【0098】
より具体的には、先ず、空調空気は助手席9Nに着座している乗員99の右足の脹脛99RC(すなわち既述した吹出口側脹脛)に当接し、次いで、左足の脹脛99LC(すなわち既述した逆側脹脛)に当接する。これにより、助手席9Nに着座している乗員99の脹脛99Cが迅速かつ十分に温められ、ひいては、当該乗員99の身体全体が迅速かつ十分に温められる。
【0099】
その後、空調空気は、さらに助手席側車両ドア90Dに当接する。これにより、ドアトリムを含む助手席側車両ドア90Dが温められる。換言すると、実施例1の車両用空調ダクト装置1によると、助手席9N側に着座している乗員99を温めた廃熱により、助手席側車両ドア90Dを温めることができる。これにより、助手席9Nに着座している乗員99が例え誤って助手席側車両ドア90Dに触れたとしても、当該乗員99が冷たさを知覚することが回避される。
【0100】
また、車両ドアが温められることにより、当該助手席側車両ドア90Dからの熱伝導によって助手席9Nに着座している乗員99が温められる。さらに、助手席側車両ドア90Dに当接した空調空気は、助手席側車両ドア90Dと助手席9Nとの間に滞留し、その結果、
図2に示すように、助手席側車両ドア90Dと助手席9Nとの間に温かい空気溜まり98Aが形成される。これにより乗員99が知覚する温度は、実際の車両室内の温度よりも高くなる。
【0101】
これらの協働により、実施例1の車両用空調ダクト装置1によると、寒冷時においても乗員99が足元の寒さや冷たさを知覚し難い。つまり、実施例1の車両用空調ダクト装置1は、従来型の車両用空調ダクト装置1に比べて、空調機能の更に向上したものである。
【0102】
〔試験例1〕
実施例1の車両用空調ダクト装置1に加えて、助手席9Nに着座した乗員99の足元を暖房するためのフット用車両用空調ダクト装置(図略)を同じHVAC92に接続した。必要に応じて、当該フット用車両用空調ダクト装置をフット空調と称する。
【0103】
気温0℃、HVAC92の設定温度35℃、実施例1の車両用空調ダクト装置1の流速30m3/h、フット空調の流速50m3/hとした場合における、助手席9Nに着座した乗員99の皮膚温度をシミュレーションにより算出した。
【0104】
また、対照試験として、気温0℃、HVAC92の設定温度35℃、実施例1の車両用空調ダクト装置1を使用せず、フット空調の流速100m
3/hとした場合における、助手席9Nに着座した乗員99の皮膚温度をシミュレーションにより算出した。
当該試験例1の結果を
図6に示す。
【0105】
図6に示すように、フット空調に実施例1の車両用空調ダクト装置1を併用した場合においては、フット空調のみを用い実施例1の車両用空調ダクト装置1を用いなかった場合に比べて、乗員99の皮膚温度がおよそ0.6℃高くなった。
【0106】
この結果は、実施例1の車両用空調ダクト装置1が優れた空調機能を発揮することを裏付ける。
【0107】
〔試験例2〕
実施例1の車両用空調ダクト装置1、および、試験例1と同様のフット空調を実際の車両に搭載した。
【0108】
〔A〕気温0℃、HVAC92の設定温度35℃、実施例1の車両用空調ダクト装置1の流速30m3/h、フット空調の流速50m3/hとした場合における、助手席9Nに着座した乗員99の体感温度を評価した。
【0109】
〔B〕対照試験として、気温0℃、HVAC92の設定温度35℃、実施例1の車両用空調ダクト装置1を使用せず、フット空調の流速100m
3/hとした場合における、助手席9Nに着座した乗員99の体感温度を評価した。
体感温度は、温かい、やや温かいの2通りで評価した。
当該試験例2の結果を
図7に示す。
【0110】
図7に示すように、フット空調に実施例1の車両用空調ダクト装置1を併用した場合〔A〕においては、フット空調のみを用い実施例1の車両用空調ダクト装置1を用いなかった場合〔B〕に比べて、足先が温かいと乗員99が知覚するまでの時間が短かった。具体的には、上記〔A〕の場合には、上記〔B〕の場合に比べて、3分も早く、乗員99は足先の温かさを知覚した。
【0111】
乗員99の足元の温度については、サーモグラフィ像において白っぽく表示される比較的温度の高い領域の大きさは、上記〔A〕の場合には上記〔B〕の場合と同等以上といえる。そして、上記〔A〕の場合には、特に脹脛99C付近における温度が高くなっていた。
【0112】
この結果もまた、実施例1の車両用空調ダクト装置1が優れた空調機能を発揮することを裏付ける。
【0113】
(参考例)
上記した実施例1では、運転席側吹出口3Dおよび助手席側吹出口3Nを筐体2たるセンターコンソールボックスの側部に設けたが、本発明の車両用空調ダクト装置1における吹出口3は筐体2の前部に設けることもできる。本発明の車両用空調ダクト装置1における吹出口3を配設可能な参考例の筐体2を模式的に表す説明図を
図8に示す。
【0114】
図8に示すように、参考例の筐体2は、その前部に傾斜面21を有する。当該傾斜面21は、車室フロア上面93と座席の座面94との間の位置において、やや座面94寄りの位置にあり、後側かつ下側と前側かつ上側との間で傾斜している。
当該傾斜面21に吹出口3を設けることにより、やや座面94寄り、すなわち、やや上側にある当該吹出口3によって、空調空気を上側から下側に向けて吹き出すことができ、当該空調空気を乗員99の脹脛99Cに信頼性高く吹き付けることができる。
【0115】
(実施例2)
実施例2の車両用空調ダクト装置1は、風向調整要素5以外は実施例1の車両用空調ダクト装置1と概略同じものである。実施例2の車両用空調ダクト装置1における風向調整要素5を模式的に表す説明図を
図9および
図10に示す。
以下、実施例1の車両用空調ダクト装置1との相違点すなわち風向調整要素5を中心に、実施例2の車両用空調ダクト装置1を説明する。
【0116】
図9に示すように、実施例2の車両用空調ダクト装置1における風向調整要素5は、複数のフィン50を有し、開閉ダンパ55を有さない。当該複数のフィン50は、助手席側吹出口3Nの長手方向に沿って配列し、回動軸50Aを中心として回動する。
より具体的には、各フィン50は上下方向および左右方向に延びる短冊状をなし、図略のリンクによって連結され、
図9に示す閉位置と、
図10に示す斜め案内位置とを含む回動範囲を、互いに同期して回動する。
【0117】
図10に示すように、各フィン50の長さは前側すなわち上流側から後側すなわち下流側に向けて長くなり、各フィン50は左端を揃えて配列している。
したがって、ダクト4の内部におけるフィン50の突出長さは、上流側のフィン50から下流側のフィン50にかけて増大している。
換言すると、各々のフィン50をダクト4の軸線方向に投影した投影面積は、上流側のフィン50から下流側のフィン50にかけて増大しているといい得る。
当該投影面積は、各フィン50を前方から後方に向けて投影した面積ともいい得る。または、当該投影面積は各フィン50を後方から前方に向けて投影した面積ともいい得る。
【0118】
図9に示す閉位置において、軸線方向と直交する方向におけるフィン50の投影面積は最小となる。実施例2の車両用空調ダクト装置において、風向調整要素5は所謂フィンシャットレジスタであり、閉位置において各フィン50は重なり合い、助手席側吹出口3Nを閉じる。
【0119】
各フィン50の操作は、図略のフィン用入力部を操作することによって行われる。フィン用入力部は上記した図略のリンクに接続されている。また、当該フィン用入力部は、実施例1の車両用空調ダクト装置におけるダンパ用入力部55Iと同様に、ダイヤル状をなし、筐体2の左側部の外側において、助手席側吹出口3Nの上側に露出している。
【0120】
図10に示す斜め案内位置において、各々のフィン50は、後側かつ右側から、前側かつ左側に向けて傾斜し、斜め案内位置に配置されている。このとき各フィン50は、ダクト4を流れる空調空気を、助手席9Nに対して斜め前方に案内する。
【0121】
したがって、このとき空調空気は、助手席9Nに着座している乗員99の脹脛99Cに向けて吹き出す。当該空調空気によって助手席9Nに着座している乗員99の脹脛99Cが迅速かつ十分に温められ、ひいては、当該乗員99の身体全体が迅速かつ十分に温められる。
【0122】
また、助手席側吹出口3Nから吹き出し、助手席9Nに着座している乗員99の脹脛99Cを通過した空調空気は、さらに助手席側車両ドア90Dに当接し、助手席側車両ドア90Dを温める。さらには、助手席側車両ドア90Dに当接した空調空気は、助手席側車両ドア90Dと助手席9Nとの間に滞留し、助手席側車両ドア90Dと助手席9Nとの間に温かい空気溜まり98Aが形成される。
【0123】
以上の協働により、実施例2の車両用空調ダクト装置1によると、寒冷時においても乗員99が足元の寒さや冷たさを知覚し難い。
【0124】
さらに、
図9、10に示すように、ダクト4の流路40において風向調整要素5の下流側に到達した空調空気は、さらに下流側すなわち後部吹出口3Bに向けて流通し、当該後部吹出口3Bから図略の後部座席に対して後方に吹き出す。
【0125】
実施例2の車両用空調ダクト装置では、
図9に示すようにフィン50が閉位置にあるときには、助手席側吹出口3Nは各フィン50によって閉じられ、ダクト4を流通する空調空気のほぼ全量が後部吹出口3Bに供給される。
【0126】
各フィン50が閉位置以外の位置にあるとき、例えば、
図10に示すように各フィン50が斜め案内位置にあるときには、助手席側吹出口3Nが開かれる。このとき、ダクト4の流路40において、各フィン50の突出長さは増大する。つまりこのとき各フィン50は空調空気の流路40に干渉する。
【0127】
ここで、
図10に示すように、ダクト4の内部すなわち流路40における各フィン50の突出長さは、上流側のフィン50から下流側のフィン50にかけて徐々に増大する。換言すると、各フィン50の投影面積は上流側のフィン50から下流側のフィン50にかけて徐々に増大する。これにより、ダクト4の軸線方向と直交する方向におけるダクト4の流路断面積は、助手席側吹出口3Nの奥側において、上流側から下流側にかけて徐々に減少する。
【0128】
フィン50が上記のように配列することにより、ダクト4の流路40を流通する空調空気のうちダクト4の左側、すなわち、助手席側吹出口3N側を流通するものは、各フィン50のうち最も上流側に位置するフィン50f1に当接する。そして、当該空調空気は、フィン50f1に案内されて流路を変え、助手席側吹出口3Nに供給され、当該助手席側吹出口3Nから助手席9Nに向けて斜め前方に吹き出す。
【0129】
空調空気の残部、すなわち、フィン50f1に当接しなかった空調空気は、下流側に向けて進む。そしてフィン50f1に当接しなかった空調空気のうち、ダクト4の助手席側吹出口3N側を流通するものは、フィン50f1の後側すなわち下流側に隣接しフィン50f1よりも突出長さの長いフィン50f2に当接し、当該フィン50f2に案内されて助手席側吹出口3Nに供給され、助手席側吹出口3Nから助手席9Nに向けて斜め前方に吹き出す。
【0130】
このように、ダクト4の流路40を流通する空調空気は、軸線方向に配列する各フィン50によって、順々に助手席側吹出口3Nに案内される。一方、ダクト4の流路を流通する空調空気のうちダクト4の右側、すなわち、助手席側吹出口3Nとは逆側を流通するものは、フィン50に当接せず、そのまま下流側に向けて進み、後部吹出口3Bを経て車室後部すなわち後部座席に向けて吹き出す。これにより、ダクト4を流通する空調空気は、その内部に設けられたフィン50によって、助手席側吹出口3Nと後部吹出口3Bとに分配される。したがって実施例2の車両用空調ダクト装置1は、直管状をなすダクト4を有するにも拘らず、助手席側吹出口3Nを経る流通経路と、後部吹出口3Bを経る流通経路と、の両方に空調空気を好適に分配することができる。
【0131】
既述したように、ダクト4の流路40における各フィン50の突出長さは、上流側のフィン50から下流側のフィン50にかけて徐々に増大し、各フィン50の投影面積もまた上流側のフィン50から下流側のフィン50にかけて徐々に増大する。このため、フィン50のうち下流側にあるものは、ダクト4の流路40において助手席側吹出口3Nから離れた領域を流通する空調空気と接し得る。
【0132】
当該下流側にあるフィン50に接した空調空気は、助手席側吹出口3Nのうち、十分な量の空調空気が供給され難い下流側の領域に供給される。したがって、実施例2の車両用空調ダクト装置によると、助手席側吹出口3Nに対して、その長手方向の全域にわたって、十分な量の空調空気を供給することが可能になる。このため、助手席側吹出口3Nがダクト4の軸線方向、すなわち空調空気の流通方向に沿って延びる形状であるにも拘わらず、当該助手席側吹出口3Nに供給される空調空気の量の偏りを低減でき、ひいては、助手席側吹出口3Nから吹き出す空調空気の量の偏りを低減できる。
【0133】
実施例2の車両用空調ダクト装置1において、軸線方向と直交する方向におけるダクト4の流路断面積は、助手席側吹出口3Nの奥側において、フィン50が斜め案内位置にあるとき(
図10参照)に、フィン50が閉位置にあるとき(
図9参照)の20面積%以上である。このため、実施例2の車両用空調ダクト装置1においては、フィン50が助手席側吹出口3Nを開いている場合にも、後部吹出口3Bに十分な量の空調空気を供給できる利点がある。
【0134】
以上本発明を説明してきたが、本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、当該実施形態等に記載した要素を適宜抽出し組み合わせて実施することや、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
また、本発明の明細書は、出願当初における各請求項の引用関係で示される技術思想に止まらず、各請求項に記載された事項を適宜組み合わせた技術思想を開示するものである。
【符号の説明】
【0135】
1:車両用空調ダクト装置
2:筐体
21:傾斜面
3:吹出口
4:ダクト
40:流路
5:風向調整要素
50:フィン
9D:運転席(座席)
9N:助手席(座席)
90D:助手席側車両ドア(車両ドア)
92:HVAC(車両用空調装置)
93:車室フロア上面
94:座面